(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】組織壊死の治療又は心臓機能の改善の医薬
(51)【国際特許分類】
A61K 35/50 20150101AFI20240830BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240830BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240830BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240830BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240830BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20240830BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240830BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240830BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20240830BHJP
A61K 35/57 20150101ALI20240830BHJP
【FI】
A61K35/50
A61K9/19
A61K47/02
A61K47/26
A61P9/00
A61P9/04
A61P9/10
A61K9/08
A61P39/06
A61K35/57
(21)【出願番号】P 2021531168
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(86)【国際出願番号】 CN2019099947
(87)【国際公開番号】W WO2020030091
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】201810911038.2
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521061830
【氏名又は名称】ジャージアン・ハイジアンセルズ・バイオメディカル・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG HYGEIANCELLS BIOMEDICAL CO. LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ジン・チアン
(72)【発明者】
【氏名】スン・ニン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ・シアン
(72)【発明者】
【氏名】ツイ・バイピン
(72)【発明者】
【氏名】ジェン・ユーファン
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0045278(US,A1)
【文献】特表平06-504286(JP,A)
【文献】 Comparative Biochemistry and Physiology, Part A ,2005年,142,404-409
【文献】Vascular Cell,2011年,Vol. 3,No. 1,13
【文献】The Journal of surgical research ,2001年,100(2),pp.205-210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物であって、下記成分:
胚齢5~12日の鶏卵、胚齢6~15日のアヒル卵、胚齢6~15日のガチョウ卵、又は胎齢8~20日の齧歯類の胚に由来する羊水の抽出物と、
薬学的に許容される担体、
を含有し、
前記抽出物がpH5.8~8.0間でイオン交換カラムと結合せず、抽出物中の含有成分の分子量が500~1200ダルトン範囲内である、
ことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
羊水が、胚齢6~11日の鶏卵、又は胎齢8~14日の齧歯類の胚に由来する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
羊水が、胚齢7~9日の鶏卵、又は胎齢10~14日の齧歯類の胚に由来する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
羊水が、胚齢7~8日の鶏卵に由来する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物は、凍結保存された羊水の抽出物であるか、又は前記羊水の抽出物の凍結乾燥試薬であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物は、輸液であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物は、注射用生理食塩水、注射用水又はブドウ糖注射液を含有しないか又は含有することを特徴とする、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
虚血又は酸欠による
ヒト患者の組織壊死の治療用薬剤の調製又は
ヒト患者の心臓機能の改善用薬剤の調製における使用のための羊水及び/又はその抽出物であって、
ヒト患者に対する、該薬剤中の羊水及び/又はその抽出物の用量が1~200ml/回であり、
羊水が、胚齢5~12日の鶏卵、胚齢6~15日のアヒル卵、胚齢6~15日のガチョウ卵、又は胎齢8~20日の齧歯類の胚に由来し、
前記抽出物がpH5.8~8.0間でイオン交換カラムと結合せず、抽出物中の含有成分の分子量が500~1200ダルトン範囲内である、使用のための羊水及び/又はその抽出物。
【請求項9】
羊水が、胚齢6~11日の鶏卵、又は胎齢8~14日の齧歯類の胚に由来する、請求項8に記載の使用のための羊水及び/又はその抽出物。
【請求項10】
羊水が、胚齢7~9日の鶏卵、又は胎齢10~14日の齧歯類の胚に由来する、請求項8に記載の使用のための羊水及び/又はその抽出物。
【請求項11】
羊水が、胚齢7~8日の鶏卵に由来する、請求項8に記載の使用のための羊水及び/又はその抽出物。
【請求項12】
薬剤が心筋虚血壊死の治療、又は老人性心不全又は心不全の改善に使用されることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一項に記載の使用のための羊水及び/又はその抽出物。
【請求項13】
薬剤が心筋梗塞の治療に使用されるか、又は薬剤が老人性心不全又は心不全の改善に使用される、請求項8~11のいずれか一項に記載の使用のための羊水及び/又はその抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織壊死の治療又は心臓機能の改善の治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、虚血による酸欠、結果は局部組織、細胞の新陳代謝を停止し、その機能は完全に喪失し、細胞は核濃縮、核破砕及び核溶解などの変化が現れて死亡する可能性があり、結果は組織壊死を招く。
【0003】
心筋梗塞は虚血・酸欠による組織壊死の例の1つであり、冠動脈病変のもとに冠動脈への血液が遮断され、対応する心筋に重篤で持続的な急性虚血が生じ、最終的に急性・持続的な虚血・酸欠(冠動脈不全)による心筋壊死を指す。
【0004】
急性心筋梗塞を発症した患者は、臨床では持続的な胸骨後の激しい疼痛、発熱、白血球数の増加、血清心筋酵素の上昇及び心電図で心筋急性損傷、虚血と壊死を示す一連の特徴的な変化がよく現れ、そして重度冠動脈疾患に属す不整脈、ショックと心不全が現れる可能性があり、不整脈、ショックまたは心不全などの合併症を併発する可能性があり、常に生命にかかわる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、医薬組成物を提供する。この医薬組成物が下記の成分を含む。
非ヒト動物の羊水及び/又はその抽出物と、
薬学的に許容される担体。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その中で、前記の羊水の由来は、胚齢5~12日の卵、好ましくは胚齢6~11日の卵、より好ましくは胚齢7~9日の卵、さらに好ましくは胚齢7~8日の卵、又は前記卵の発育時期に対応する鶏以外の他の鳥類の卵、又は胎齢8~20日、好ましくは8~14日の齧歯類の胚、又は胎齢8~20日、好ましくは8~14日の齧歯類の発育時期に対応する齧歯類以外の他の非ヒト哺乳動物の胚である。
1つ以上の実施態様において、前記医薬組成物は、-60℃以下で凍結保存した羊水及び/又はその抽出物であり、又は羊水及び/又はその抽出物の凍結乾燥試薬である。
1つ以上の実施態様において、前記医薬組成物は輸液である。
1つ以上の実施態様において、前記薬学組成物は、等張性生理食塩水、注射用水またはブドウ糖注射液を含むか、又は含まない。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、胚齢5~20日の鳥類の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、胚齢6~15日の鳥類の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記羊水の由来は、胚齢7日の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、アヒルの卵、ガチョウの卵、またはこれらの組み合わせである。
【0007】
また本発明は、虚血及び酸欠による組織壊死の治療薬の調製における羊水及び/又はその抽出物の使用を提供する。その中で、前記の羊水の由来は、胚齢5~12日の卵、好ましくは胚齢6~11日の卵、より好ましくは胚齢7~9日の卵、さらに好ましくは胚齢7~8日の卵、又は前記卵の発育時期に対応する鶏以外の他の鳥類の卵、又は胎齢8~20日、好ましくは8~14日の齧歯類の胚、又は胎齢8~20日、好ましくは8~14日の齧歯類の発育時期に対応する齧歯類以外の他の非ヒト哺乳動物の胚である。
1つ以上の実施態様において、前記組織壊死は心筋虚血壊死である。
1つ以上の実施態様において、前記組織壊死は心筋梗塞である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、胚齢5~20日の鳥類の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、胚齢6~15日の鳥類の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記羊水の由来は、胚齢7日の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、アヒルの卵、ガチョウの卵、またはこれらの組み合わせである。
【0008】
また本発明は、心臓機能の改善薬の調製における羊水及び/又はその抽出物の使用を提供する。その中で、前記の羊水の由来は、胚齢5~12日の卵、好ましくは胚齢6~11日の卵、より好ましくは胚齢7~9日の卵、さらに好ましくは胚齢7~8日の卵、又は前記卵の発育時期に対応する鶏以外の他の鳥類の卵、又は胎齢8~20日、好ましくは8~14日の齧歯類の胚、又は胎齢8~20日、好ましくは8~14日の齧歯類の発育時期に対応する齧歯類以外の他の非ヒト哺乳動物の胚である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、胚齢5~20日の鳥類の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、胚齢6~15日の鳥類の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記羊水の由来は、胚齢7日の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、アヒルの卵、ガチョウの卵、またはこれらの組み合わせである。
【0009】
1つ以上の実施態様において、前記薬剤は、心不全、特に高齢者心機能低下または心機能不全の改善に使用される。
また本発明は、虚血及び酸欠による組織壊死の治療方法を提供する。前記方法は、治療有効量の羊水及び/又はその抽出物を必要とする被験体に投与することを含む。その中で、前記の羊水の由来は、胚齢5~12日の卵、好ましくは胚齢6~11日の卵、より好ましくは胚齢7~9日の卵、さらに好ましくは胚齢7~8日の卵、又は前記卵の発育時期に対応する鶏以外の他の鳥類の卵、又は胎齢8~20日、好ましくは8~14日の齧歯類の胚、又は胎齢8~20日、好ましくは8~14日の齧歯類の発育時期に対応する齧歯類以外の他の非ヒト哺乳動物の胚である。
【0010】
1つ以上の実施態様において、前記方法は、羊水及び/又はその抽出物を含有する医薬製剤を静脈注射するか、又は羊水及び/又はその抽出物を含有する医薬製剤を輸液する。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、胚齢5~20日の鳥類の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、胚齢6~15日の鳥類の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記羊水の由来は、胚齢7日の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、アヒルの卵、ガチョウの卵、またはこれらの組み合わせである。
また本発明は、心臓機能の改善方法を提供する。前記方法は、治療有効量の羊水及び/又はその抽出物を必要とする被験体に投与することを含む。その中で、前記の羊水の由来は、胚齢5~12日の卵、好ましくは胚齢6~11日の卵、より好ましくは胚齢7~9日の卵、さらに好ましくは胚齢7~8日の卵、又は前記卵の発育時期に対応する鶏以外の他の鳥類の卵、又は胎齢8~20日、好ましくは8~14日の齧歯類の胚、又は胎齢8~20日、好ましくは8~14日の齧歯類の発育時期に対応する齧歯類以外の他の非ヒト哺乳動物の胚である。
1つ以上の実施態様において、前記方法は、羊水及び/又はその抽出物を含有する医薬製剤を静脈注射するか、又は羊水及び/又はその抽出物を含有する医薬製剤を輸液する。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、胚齢5~20日の鳥類の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、胚齢6~15日の鳥類の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記羊水の由来は、胚齢7日の卵である。
1つ以上の実施態様において、前記他の鳥類の卵は、アヒルの卵、ガチョウの卵、またはこれらの組み合わせである。
1つ以上の実施態様において、前記心臓機能の改善方法は、心不全の改善方法であり、特に高齢者心機能低下または心機能不全の改善方法である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】心筋梗塞マウスの駆出率。心臓超音波によりマウスの駆出率と左室短軸短縮率を測定することができる。図に示すように、羊水(EE)の治療は、心筋梗塞マウスの駆出率を有意に増加し、心機能を有意に改善した。
【
図2】心筋梗塞マウスの左心室短軸短縮率。心臓超音波によりマウスの駆出率と左室短軸短縮率を測定することができる。図に示すように、羊水(EE)の治療は、左室短軸短縮率を有意に上昇させ、心機能を有意に改善した。
【
図3】心筋梗塞マウス心臓のマッソントリクローム染色。図に示すように、心筋梗塞マウスは重度の線維化があり、左心室壁が著しく薄くなっている。羊水(EE)治療後、左心室壁の薄化は認めず、線維化は有意に減少した。
【
図4】心筋梗塞マウス心臓の免疫蛍光染色(PH3、cTnT、DAPI)。
【
図5】心筋梗塞マウス心臓の免疫蛍光染色(AuroraB、cTnT、DAPI)。図に示すように、治療群のマウス心臓のPH3陽性とAuroraB陽性細胞が有意に増加した。EE治療が心筋梗塞マウスの心臓細胞再生を有意に引き起こしたことを証明した。
【
図6】心筋梗塞マウスの心臓線維化面積は、羊水(EE)治療後に未治療群(NS)より、有意に減少した。
【
図10】異なる胚齢の卵の羊水の抗フリーラジカル能力。横軸は胚齢、縦軸は除去率を表す。
【
図11】異なる培養条件下での鶏胚線維芽細胞の成長曲線、卵の羊水は細胞成長を促進することができる。
【
図12】卵からの羊水がヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の成長活力と遊走能力に与える影響。横軸は培地、縦軸はOD450値を表す。
【
図13】アヒルの卵からの羊水が鷄胚の線維芽細胞の成長活力と移動能力に与える影響。横軸は培地、縦軸はOD450値を表す。
【
図14】ゲルカラムGE HiLoad 16/600 Superdex75 pg分離クロマトグラム。
【
図15】ゲルカラムGE HiLoad 16/600 Superdex75 pg分離画分の細胞生存アッセイ。横軸は培地を表し、その中で、FBSは牛胎児血清、DMEMはDulbecco’s Modified Eagle Medium、EEは羊水、「EE」は凍結乾燥羊水、S-200BはBピークの画分、Q UNBOUNDは陰イオンカラム未結合画分、3-1~3-6はそれぞれ精製工程(III)からの等量画分1~6。
【
図16】陽イオン交換カラムGE HiPrep SPと陰イオン交換カラムHiPrep Qの分離からの未結合画分の細胞生存アッセイ。横軸は培地を表し、その中で、FBSは牛胎児血清、DMEMはDulbecco’s Modified Eagle Medium、EEは羊水、「EE」は凍結乾燥羊水、Hiprep SP-UNは未結合Hiprep SPカラムの画分、Hiprep Q-UNは未結合Hiprep Qカラムの画分、HiprepQ-Boundは結合Hiprep Qカラムの画分。
【
図17】卵からの羊水は初代心筋細胞の成長を促進。その中で、横軸は培地、縦軸はOD450値。
【
図18】EEは心筋梗塞豚の心機能を向上、左心室再構築を軽減。
【
図19】EEはIR豚の心筋梗塞面積を減少、活動時間を延長。
【
図20】マウスからの羊水がAC16細胞の増殖活性に与える影響。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の範囲において、本発明の上記の各技術的特徴が、下記(実施例など)に具体的に記載された各技術的特徴と互いに組み合わせて、好ましい技術的解決手段を構成することができることを理解するものとする。
【0013】
本明細書中、羊水及び/又はその抽出物とは、特に明記しない限り、EEと総称する。本明細書中、羊水は鳥卵及び非ヒト哺乳動物から得ることができる。鳥卵とは、鳥類の卵のことを指す。好ましい鳥類は鶏、アヒル、ガチョウなどの家禽である。本発明では、胚齢が5~20日、好ましくは6~15日の鳥卵を使用することが好ましい。異なる鳥卵、好適な胚齢は必ずしも同じではないことを理解するものとする。例えば、卵を使用する場合、好ましくは胚齢5~12日の卵、より好ましくは胚齢が6~11日の卵、さらに好ましくは胚齢が7~9日の卵、最も好ましくは胚齢が7~8日の卵である。他の鳥類の卵を使用する場合、上記胚齢の卵の発育時期に対応する他の鳥類の卵を使用することができる。例えば、アヒルの卵を使用する場合、胚齢が8~10日、特に8~9日のアヒルの卵が最も好ましい可能性がある。
【0014】
従来の方法により鳥卵羊水を得ることができる。例えば、好適な胚齢の卵の鈍端を叩いて殻を破り、卵殻を剥がして直径約2cmの切り口を形成する。次、羊膜を壊さないように、ピンセットにより殻膜と卵黄膜を慎重に引き裂く。胚を包んだ羊膜と連結組織を殻から培養皿に注入し、注射器で羊膜を刺して羊水を抽出し、羊膜が胚に密着するまで抽出することにより、本発明に使用する羊水を得ることができる。
【0015】
本明細書では、羊水の由来はまた、非ヒト哺乳動物、特にネズミなどの齧歯類から得られることができる。他の非ヒト哺乳動物は、牛、羊、犬、猫、豚などの一般的な家畜であってもよい。特定の実施態様において、羊水の由来は、胚齡8~20日、好ましくは胚齡8~14日若しくは11~16日、より好ましくは胚齡13~14日の齧歯類の胚であり、又は胚齡8~20日、好ましくは胚齡8~14日若しくは胚齡11~16日、より好ましくは胚齡13~14日の齧歯類の発育期間に対応する非ヒト哺乳動物の胚である。従来の方法により羊水を得ることができる。例えば、妊娠8~20日、好ましくは8~14日若しくは11~16日、より好ましくは13~14日のマウスの腹腔を外科用ハサミで切開し、子宮を慎重に切開し、注射器で羊膜を刺して羊水を抽出し、羊膜が胚に密着するまで抽出することにより、本発明に使用する羊水を得ることができる。
【0016】
必要に応じて羊水を遠心分離して卵黄等の不純物を分離し、可能な限り純粋な羊水を得ることを理解するものとする。遠心分離後に得られた上清液が本発明に使用する羊水である。羊水を得るためのすべての工程は、無菌条件下で行う必要があり、また本明細書に示す「羊水」は「純粋」な羊水、すなわち鳥卵又は非ヒト哺乳動物胚胎から分離された鳥卵内又は非ヒト哺乳動物胚の他の成分を含まず、かつ外来物質に汚染されていない羊水を指すことを理解するものとする。純粋な羊水は-60℃以下の冷蔵庫に貯蔵し、解凍して再使用することができる。
【0017】
特定の実施態様において、本発明は羊水の抽出物を使用する。該抽出物は、pH5.8~8.0の間でイオン交換カラムと結合せず、含有成分の分子量が500~1200ダルトン範囲内に制御することが好ましい。羊水から分子量500~1200ダルトンの中性画分を分離することにより、前記抽出物を得ることができる。当分野で公知のゲルカラムとイオン交換カラムにより、本明細書の方法を実施することができる。例えば、公知のゲルクロマトグラフィーカラム(下記に記載された各種ゲルクロマトグラフィーカラム)を使用して、羊水から分子量500~1200ダルトンの画分を分離した後、イオン交換法(下記に記載されたイオン交換カラム)を使用して、中性画分を分離してもよい。あるいは、羊水からイオン交換法により中性画分を分離し(下記イオン交換カラムを使用)、その後、ゲルクロマトグラフィーカラム(下記各種ゲルクロマトグラフィーカラムを使用)、中性画分中の分子量500~1200ダルトン範囲内の画分を分離してもよい。
【0018】
特定の実施態様において、羊水から分子量500~2000ダルトンの中性画分を分離し、その後、その中から分子量500~1200ダルトン範囲内の画分を分離してもよい。具体的には、当該方法は以下の工程を含んでもよい:
(I)羊水から分子量500~2000ダルトンの中性画分を分離する。
(II)分子量500~2000ダルトンの中性画分から分子量500~1200ダルトンの中性画分を分離する。
【0019】
工程(I)は、ゲルクロマトグラフィー及びイオン交換法により実施することができる。ゲルクロマトグラフィーカラムにより、羊水中の分子量500~2000ダルトンの成分を分離し、イオン交換により、電荷を持たない(中性)画分を得ることができる。
【0020】
本明細書中、種々の市販のゲルクロマトグラフィーカラムを使用して、ゲルクロマトグラフィーを実施することができる。このようなゲルクロマトグラフィーカラムは、GE社からのSephacrylS-100、SephacrylS-200、SephacrylS-300、Sephacryl S-400、Superose 12、Superose 6、Superdex 12和Superdex 6などを含むが、これらに限定されない。分離範囲500~10000ダルトンの他の任意のゲルクロマトグラフィー充填剤を使用してもよいことを理解するものとする。通常、ゲルクロマトグラフィーカラムを使用する場合、まずddH2Oでゲルクロマトグラフィーカラムを平衡化してもよい。流速は実情に応じて決定してもよい。例えば、特定の実施態様において、流速は、0.5~50ml/minであってもよい、例:1ml/min。通常、紫外吸収は200~300nmである、例:280nm。紫外吸収曲線が安定し、ベースラインに回帰した後、平衡を終了する。平衡終了後、サンプルを充填することができる。サンプル充填流速は実際の調製状況に応じて決定する。サンプル充填終了後、脱ガスddH2Oにより粗物を溶出し、分子量500-2000ダルトン範囲内の画分を採取することができる。必要に応じて、ゲルクロマトグラフィーの分離を数回繰り返し、各分離における等しいピーク検出時間の画分を混合してもよい。
【0021】
本明細書において、当分野で公知の方法により、荷電成分と非荷電成分を分離することができる。例えば、イオン交換法を使用して実施してもよい。陰イオン交換と陽イオン交換を本発明の方法に用いてもよい。特定の実施態様において、本明細書は陰イオン交換法を使用する。市販の陰イオン交換カラムを使用することができる。適切な陰イオン交換カラムの例には、GE社からのDEAE Sepharose、ANX Sepharose、Q Sepharose、Capto DEAE、Capto Q、Mono Q和Mini Qなどを含むが、これらに限定されない。他のブランドの陰イオン交換充填剤を使用してもよいことを理解するものとする。又は、市販の陽イオン交換カラムを使用することもできる。適切な陽イオン交換カラムの例には、CM Sepharose、SP Sepharose、Capto S、Mono S和Mini Sなどを含むが、これらに限定されない。
【0022】
通常、イオン交換を実施する場合、イオン交換カラムを緩衝液で平衡化する。緩衝液は、当分野における従来の緩衝液であってもよく、例えば、リン酸塩緩衝液、特にリン酸ナトリウム緩衝液を使用することができる。緩衝液のpHは、使用するイオン交換カラムに応じて決定することができる。例えば、陰イオン交換カラムを使用する場合、pH7.5~8.5、好ましくは7.5~8.0の緩衝液平衡陰イオン交換カラムであってもよい。陽イオン交換カラムを使用する場合、pH5.8~7.0、好ましくは5.8~6.5の緩衝液平衡陽イオン交換カラムであってもよい。特定の実施形態において、このリン酸ナトリウム緩衝液は、Na2HPO4及びNaH2PO4を含み、pHは約5.8又は8.0である。本発明は、陰イオン交換カラムを使用して分離することが好ましい。流速は実際状況に応じて決定してもよい。例えば、特定の実施態様において、流速は、0.5~50ml/minであってもよい、例:1ml/min。通常、280nm紫外吸収曲線が安定し、ベースラインに回帰した後、平衡を終了する。平衡終了後、サンプルを充填し、流出部分(すなわちカラムとの未結合部分)を採取することができる。サンプル充填流速は実際の調製状況に応じて決定する。
【0023】
工程(I)において、ゲルクロマトグラフィーを行い、分子量500~2000ダルトンの画分を分離した後、イオン交換を行い、中性画分を分離してよい。又は、イオン交換で羊水中の中性画分を分離した後、ゲルクロマトグラフィーで中性画分中の分子量500~2000ダルトンの有効成分を分離して、分子量500~2000ダルトンの中性画分を得てもよい。
【0024】
工程(II)の主な目的は、工程(I)で得られた中性画分をさらに分離し、分子量が500~1200ダルトン範囲内の活性成分を得ることである。本明細書において、市販のゲルクロマトグラフィーカラムで分子量500-1200ダルトン範囲内の画分を分離することができる。適切なゲルクロマトグラフィーカラムには、GE社からのHiLoad Superdex 16/600 Superdex75 pg、Superdex Peptide、Superdex 200和Superdex 30などを含むが、これらに限定されない。分離範囲500~10000ダルトン内の他のブランドのゲルクロマトグラフィー充填剤を使用してもよいことを理解するものとする。
【0025】
通常、先にddH2O平衡ゲルカラムを使用することができ、流速は実際状況に応じて決定することができる。例えば、特定の実施態様において、流速は、0.5~50ml/minであってもよい、例:1ml/min。通常、280nm紫外吸収曲線が安定し、ベースラインに回帰した後、平衡を終了する。平衡終了後、サンプルを充填することができる。サンプル充填流速は実際の調製状況に応じて決定する。サンプル充填終了後、脱気ddH2Oにより粗物を溶出し、画分を採取し、含有成分の分子量500~1200ダルトン範囲内の画分、すなわち本明細書に記載された抽出物を得ることができる。
【0026】
前記方法で得られた抽出物をpH5.8-8.0の溶液に調製した後、複数のイオン交換カラム(DEAE Sepharose、Q Sepharose、Mono Q、CM Sepharose、SP SepharoseとMono S)に通したが、その含有活性成分はいずれもこれらのイオン交換カラムと結合しない。
【0027】
本明細書において、本明細書の羊水及びその抽出物が、細胞の成長(心筋梗塞後の心筋細胞などの心臓細胞の再生を促進することを含むが、これらに限定されない)を促進し、心臓機能を改善できることを見出した。
【0028】
したがって、本明細書は、虚血及び酸欠による組織壊死を治療するために羊水及びその抽出物の使用に関する。組織は人体や動物体の種々の組織であってもよい。例:軟骨組織、半月板組織、靱帯組織、腱組織、椎間板組織、歯周組織、皮膚組織、血管組織、筋肉組織、筋膜組織、骨膜組織、眼組織、心膜組織、肺組織、滑膜組織、神経組織、腎臓組織、骨髄、泌尿生殖組織、腸管組織、肝臓組織、膵臓組織、脾臓組織及び脂肪組織のいずれか1つ又は複数の組織。特定の実施態様において、虚血及び酸欠による組織壊死は心筋虚血壊死である。特定の実施態様において、この組織壊死は急性、持続性虚血及び酸欠による心筋壊死、すなわち心筋梗塞である。本明細書の羊水及びその抽出物は、心臓機能の改善、特に心不全患者の心臓機能の改善に使用してもよい。特定の実施態様において、本明細書の羊水及びその抽出物は、高齢者心機能低下又は心機能不全の改善に使用してもよい。本明細書において、心機能低下や心不全とは、様々な原因により心筋の収縮機能が低下し、心臓の前方排血が減少し、体循環や肺循環に血液が滞ることによる症状である。
【0029】
本明細書に記載の羊水及び/又はその抽出物は、本明細書に記載の用途に直接使用され、必要な対象に投与されてもよい。投与方法は、胃腸外投与、静脈内注射投与、又は心腔内注射であってもよい。特定の実施態様において、治療有効量の羊水及び/又はその抽出物を適量の注射用生理食塩水、注射用水、若しくはブドウ糖注射液と混合する。その後、静脈内注射又は心腔内注射などの方法により投与する。
【0030】
投与の用量や頻度は、具体的な病状、患者の年齢や性別などの状況に応じて、医療スタッフが決定してもよい。通常、特定の疾患治療に対して、治療有効量とは、その疾患に関連する症状を改善または何らかの方法で軽減するのに十分な薬量である。この薬量は、単回用量として投与されてもよく、又は有効な治療プロトコルに従って投与されてもよい。投与量は、病気を治癒する可能性があるが、通常、病気の症状を改善するために投与される。通常、望ましい症状の改善を達成するために、反復投与が必要である。例えば、ヒトに投与される用量については、通常1~200ml/回、毎日又は毎週注射で投与されてもよい。特定の実施態様において、投与頻度は、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、半月毎、または毎月1回であってもよい。
【0031】
したがって、特定の実施形態において、本明細書は、虚血および酸欠による組織壊死の治療方法を提供する。この方法は記載の羊水及び/又はその抽出物、または本明細書に記載の羊水及び/又はその抽出物を含む医薬組成物を必要とする対象に治療有効量を投与する工程を含む。
【0032】
特定の実施形態において、本明細書は、また対象の心臓機能の改善方法を提供する。前記方法は記載の羊水及び/又はその抽出物、または本明細書に記載の羊水及び/又はその抽出物を含む医薬組成物を必要とする対象に治療有効量を投与する工程を含む。
【0033】
本明細書中、「対象」とは通常、哺乳動物、特に人間などの動物である。
【0034】
特に、本明細書は、心筋虚血壊死(特に心筋梗塞)の治療方法及び対象の心不全(特に高齢性心機能低下又は心機能不全)の改善方法を提供する。この方法は、本明細書に記載の治療有効量の羊水及び/又はその抽出物、または前記の羊水及び/又はその抽出物を含有する医薬組成物(特に鳥卵羊水及び/又はその抽出物、または本明細書に記載の羊水及び/又はその抽出物を含有する医薬組成物)を、必要とする対象に投与する工程を含む。前記鳥卵は、本明細書で定義されたか、又は本明細書のいずれかの実施態様に記載されたようなものが好ましい。
【0035】
特定の実施態様において、鳥卵は家禽類の卵であり、特に胚齢が5~12日、より好ましくは6~11日、さらに好ましくは6~9、最も好ましくは7~8日の家禽卵、特に鶏の卵である。
【0036】
他の実施態様において、羊水又はその抽出物の由来は、本明細書に記載の妊娠8~20日、好ましくは8~14日又は11~16日、より好ましくは13~14日の齧歯類からの羊水又はその抽出物である。
【0037】
特定の実施形態において、本明細書は、虚血および酸欠による組織壊死の治療薬の調製に、前記の羊水及び/又はその抽出物の使用を提供する。また、虚血および酸欠による組織壊死の治療に使用される前記羊水及び/又はその抽出物を提供する。
【0038】
いくつかの実施形態において、本明細書は、心臓機能を改善するための医薬を調製するために記載された羊水及び/又はその抽出物の使用を提供する。心臓機能の改善に使用される前記の羊水及び/又はその抽出物を提供する。
【0039】
本発明はまた、本明細書に記載の羊水及び/又はその抽出物、特に家禽の卵中の羊水及び/又はその抽出物、好ましくは胚齢5~12日、より好ましくは6~11日、さらに好ましくは6~9日、最も好ましくは7~8日の鶏の卵の羊水及び/又はその抽出物を含有する医薬組成物を提供する。特定の実施態様において、羊水又はその抽出物の由来は、本明細書に記載の妊娠8~20日、好ましくは8~14日又は11~16日、より好ましくは13~14日の齧歯類からの羊水又はその抽出物である。医薬組成物は、-60℃以下で凍結保存された羊水及び/又はその抽出物であってもよく、凍結乾燥羊水及び/又はその抽出物のような凍結乾燥剤であってもよい。医薬組成物は、注射用生理食塩水、注射用水、又はブドウ糖注射液などの他の薬学許容の範囲内の担体又は賦形剤を含有してもよい。
【0040】
以下、具体的な実施例により本発明を説明する。これらの実施例は単なる説明であり、本発明の範囲を限定することを意図していないことを理解するものとする。実施例に使用された方法、試薬及び装置は、別段の説明がない限り、当該分野の従来の方法、試薬及び装置である。
【実施例1】
【0041】
1、材料
a)装置及び工具
マイコン全自動インキュベーター(正大(商標)ZF880)、クリーン培養皿、1.0ml注射器(江西洪達(商標))、70%エタノール消毒済みピンセット、ステンレス製ふるい、無菌遠心チューブ(Axygen(登録商標)#SCT-50ML-25-S)、低速冷凍遠心分離機(中佳KDC-2046)。
b)試薬及び生物材料
胚齢7日の卵。
【0042】
2、実験手順
卵を取り、上向きに置いた平らな鈍い端を叩いて殻を破り、殻を剥いて直径約2センチの切り口を形成し、縁はできるだけ平らにするものとする。羊膜を壊さないように、ピンセットにより殻膜と卵黄膜を慎重に引き裂く。胚の発育状況を観察し、発育が良好で、対応する段階の基準に適合する胚のみが羊水の抽出に使用することができる。
【0043】
胚を包んだ羊膜と連結組織を殻から培養皿に注入し、注射器で羊膜を刺して羊水を抽出し、針口斜面は胚に背を向け、羊膜が胚に密着するまで、それから清澄、無色、異物のない羊水を氷箱内の遠心チューブに注入する。
羊膜中の胚をピンセットで取り出し、氷の上に置いたステンレス製のふるいに集め、1時間ごとに集めた胚をミキサーで均質化し、無菌プラスチック製の貯蔵タンクに封入し、-80℃の冷蔵庫に斜めに置いた。冷凍後、垂直に置いてもよい。
マパダ(商標)1800紫外分光光度計で採取した羊水抽出液をテストし(光度計の標準的な操作手順は取扱説明書を参照)、合格した抽出液を混合、平衡に使用できる。
【0044】
羊水抽出液を採取した遠心管を平衡した後、中佳(商標)KDC-2046低速冷凍遠心分離機を使用して、5℃、3500rpmで21分間遠心分離した(遠心分離機の標準的な操作手順は取扱説明書を参照)。上清液を傾瀉して、清浄なプラスチック貯蔵タンクに移送し、-80℃の冷蔵庫に貯蔵する。後続のテストのために、各ロットに5mlのサブサンプルを事前保存する。
全手順は無菌条件下で行われる。
【実施例2】
【0045】
1、材料
常用の普通試薬の例には、中国国薬グループ化学試薬有限公司からの水酸化ナトリウム・塩化ナトリウム・塩化カリウム・水和リン酸水素ナトリウム・リン酸二水素カリウム・炭酸水素ナトリウム・炭酸ナトリウム・塩化マグネシウム・アセトン・濃硫酸・濃塩酸・キシレン・無水エタノール・パラフィンとショ糖など、米国Sigma社からのドデシル硫酸ナトリウムとエチレンジアミン四酸など、北京鼎国公司からのTriton X-100とヘパリン、米国Thermo Fisher社からのTween-20、北京索莱宝科技有限公司からのクロラール水和物、グーグル生物科技有限公司からのパラホルムアルデヒドとMassonマッソントリクローム染色キット、サクラファインテックジャパンからのOCT包埋剤、米国Vector社からの蛍光退色防止封入剤。
【0046】
米国Sigma Aldrich会社からのウサギ抗ヒト/マウスAurora B抗体、ドイツMerck Millipore社からのウサギ抗ヒト/マウスリン酸化ヒストンH3多クローン抗体、イギリスAbcam会社からのウサギ抗ヒト/マウスcTnT多クローン抗体、米国Life Technologies会社からのヤギ由来抗ウサギ二次抗体(Alexa Fluor 594標識)・ヤギ由来抗ウサギ二次抗体(Alexa Fluor 488標識)・ヤギ由来抗マウス二次抗体(Alexa Fluor 594標識)とヤギ由来抗マウス二次抗体(Alexa Fluor 488標識)、米国Sigma Aldrich社からDAPI、武漢博士徳生物工程有限公司からのヤギ血清作動液。
【0047】
米国Invitrogen社からのTrizol、上海生工生物工程株式有限公司からの塩酸ドキソルビシン。
【0048】
実験動物は上海斯莱克実験動物有限公司から購入した雄性C57BL/6Jマウスである。
ドイツLeica社からのLeica Dmi8蛍光顕微鏡とLeica IM50画像収集システム、カナダVisualSonics社からの小動物用超音波診断装置。
0.1mol/Lリン酸塩緩衝液(1×PBS)の調製:NaCl 8.0g、KCl 0.2g、Na2PO4・H2O 3.58g、KH2PO4 0.24、pHを7.4に調整し、脱イオン水を1000mlに定容し、高圧滅菌し、4℃で貯蔵する。
0.5%Triton X -100の調製:Triton X-100原液5ml、1×PBS 995ml。
【0049】
2、試験方法
(1)免疫蛍光
(a)実験要件に従ってカバーグラス細胞培養又は冷凍切片を処理し、PBS洗浄、5min×3回。
(b)0.5%Triton X -100室温15min透過、PBSで洗浄、5min×3回。
(c)ヤギ血清を37℃で30min密封。
(d)血清を捨て、一次抗体を適当な割合で希釈し、被覆組織を滴加し、4℃湿箱に一晩保存。
(e)湿箱を取り出し、37℃で30min再加温、PBSでグラス又は組織切片を洗浄、5min×3回。
(f)二次抗体を適当な割合で希釈し、被覆組織を滴加し、37℃で30-60minインキュベート。
(g)PBSで洗浄、5min×3回、DAPIで核を10 min染色。
(h)PBSで洗浄、5min×3回、退色防止封入で封入後、蛍光顕微鏡で観察分析。
【0050】
(2)H&E染色
(a)厚さ4μmの切片、42℃で掬い上げ、60℃で一夜乾燥、常温保存。
(b)パラフィン切片、脱パラフィン、浸水:キシレン三回、毎回20min。降順濃度のエタノール(100%、95%、95%、90%、80%)をそれぞれ2min、2min、2min、1min、1min水化、水道水で5min洗浄。
(c)PBSで洗浄、5min×3回。
(d)ヘマトキシリン染色、5min。
(e)水道水で洗浄、10min。
(f)1%塩酸エタノール分化、2回、水道水で洗浄、5min。
(g)1%アンモニア水で青色に戻し、2min、水道水で洗浄、5min。
(h)エオジン染色、1-5min。
(i)80%、90%、95%、95%、100%のエタノールをそれぞれ1min、2min、2min、2min、2min脱水。
(j)キシレンで透徹、2min×3回。
(k)中性ゴムで封入、検鏡観察。
【0051】
(3)マッソントリクローム染色
(a)パラフィン切片、脱パラフィン、浸水。
(b)クロメート処理(重クロム酸カリウム一夜処理)
(c)水道水及び蒸留水で順次洗浄。
(d)ヘマトキシリン(Harris)染色液又はヘマトキシリン(Weigert)染色液で核を染色、1-2min。
(e)十分水洗、過染した場合,塩酸エタノールで分化、2-3s。
(f)アンモニア水で青色に戻し、2min。
(g)Masson麗春紅酸性複紅液を使用、5-10min。
(h)1%リンモリブデン酸水溶液で分化、3-5min。
(i)1%アニリンブルー又はライトグリーン液で染色、5min。
(j)1%氷酢酸水溶液で分化、数秒。
(k)95%エタノール、無水エタノール、キシレン透徹、中性ゴム封入。
結果:コラーゲン繊維、粘液、軟骨は青色を呈し(例:ライトグリーン液は緑色に染色)、細胞質、筋肉、繊維素、神経膠質は赤色を呈し、細胞核は黒青色を呈した。
【0052】
(4)マウス心筋梗塞モデルの作製
8週間C57BL/6J雄性マウスは誘導箱を経ってイソフルランで気麻され、呼吸器頻度は115回/min、呼吸比は1:1、湿気量は1.5mlである。留置針プラスチックチューブ20gを経口気管挿管し、小動物呼吸器に接続し、2.5%イソフルランを含む純酸素で持続麻酔する。皮膚準備、3-4肋間開胸、心臓露出、7-0 prolene線左前下行枝結紮、心尖白化、肋間縫合、皮膚縫合、消毒。麻薬を止め、マウスが覚醒するまで換気を続ける。
【0053】
(5)マウス心不全モデルの作製
8週間C57BL/6J雄マウスは7日に1回ドキソルビシン(5mg/kg)を注射し、全4回注射後マウス心不全を引き起こし、心臓超音波で検証する。
【0054】
(6)取材、固定と切片
(a)手術後1週間と8週間の治療を行い、マウスに10%水和クロラール(200mg/kg)を腹腔内注射して殺し、心臓を取り出し、1週間の採取には肝腎、OCT包埋またはパラフィン包埋も含む。
(b)凍結切片は免疫蛍光に使用する=パラフィン切片はH&Eとマッソントリクローム染色に使用する。
(c)標本はマッソントリクローム染色後、Image J画像解析ソフトで心筋梗塞サイズを測定する。心筋梗塞面積の計算公式は以下に示す。
【数1】
標本ごとに5つの断面を取り、平均値を算出する。
【0055】
3、統計分析
すべての実験結果はMean +SEMで示す。両群間の比較はTwo-tailed tailed t検定を使用して、複数群間の比較は一元配置分散分析(one way ANOVA)を使用する。P<0.05は統計的に有意差がある基準である。すべての実験結果はGraphPad Prism 5 (Software, Inc.)とImage Jソフトウェアで作図、分析する。
【0056】
4、実験結果
(I)前記(4)の方法を参照して、マウス心筋梗塞モデルを作製する。作製したマウス心筋梗塞モデルを対照群(NS)と鶏胚羊水(EE)治療群(各群6匹)に分ける。EE治療群は、実施例1で調製したEEを2日ごとに100マイクロリットル尾静脈注射し、第3週の21日までに計10回注射する。対照群は同じ方式で生理食塩水100マイクロリットルを10回注射する。
【0057】
左室駆出率(LVEF)は左心室機能の従来の重要な指標であり、左室駆出率の向上はマウス心筋梗塞後の心臓機能が向上したことを示す。心臓超音波でマウスの駆出率を測定した結果を
図1に示す。
図1に示すように、第3週までに、EEの治療は心筋梗塞マウスの左室駆出率を有意に向上させ、EEの治療はマウスの心筋梗塞後の心臓機能を有意に改善した。
【0058】
心臓超音波で各群のマウスの左室短軸短縮率(LVFS)を測定した結果を
図2に示す。
図2に示すように、3週目までにEEの治療が心筋梗塞マウスのLVFS、すなわち心筋梗塞後の心臓機能を有意に改善した。
【0059】
マソン染色は心筋梗塞組織と繊維組織を判断する従来の方法である。21日間処理した各群のマウスを殺し、心筋組織のパラフィン切片を作製し、前記の第(3)点で染色した結果を
図3に示す。
図3で、青色は梗塞繊維化組織であり、赤色は筋肉組織であり、図から心筋梗塞マウスは厳重な繊維化があり、EE治療後繊維化が有意に減少することを見ることができる。EEの治療がマウスの心筋梗塞後の線維化を防いだことを呈する。また、左心室腔のサイズは心筋梗塞後の心室拡張の有無を判断する根拠であり、心室拡張は心機能低下の重要なマーカーである。また、
図3に示すように、対照群心筋梗塞マウスは心室腔が重度拡張であったが、EE 3週間治療後、治療群マウスの左心室腔が有意な拡張なし。
【0060】
PH3染色は心臓内細胞の再生状況を判断する指標である。21日間処理した各群のマウスを殺し、心筋組織の凍結切片を作製し、上記第(1)点の方法により、PH3染色を行った結果を
図4に示す。
図4に示すように、EE治療群マウスの心臓組織中のPH3染色陽性(緑色蛍光点、矢印で示す)細胞が有意に増加し、EE治療が心臓組織内細胞の再生を促進したのは顕著である。AuroraB染色は心臓内細胞の再生状況を判断する指標である。前記(1)に記載られた方法により、AuroraB染色を行った結果を
図5に示すように、EE治療群マウスの心臓組織でAuroraB染色陽性(緑色蛍光点、矢印で示す)細胞が有意に増加し、EEの治療が心臓組織内細胞の再生を促進したのは顕著である。
【0061】
(II)前記(5)の方法を参照して、マウス心不全モデルを作製する。作製したマウス心不全モデルを対照群と鶏胚成分抽出物(EE)治療群(各群6匹)に分ける。EE治療群は、実施例1で調製したEEを2日ごとに100マイクロリットル尾静脈注射し、第3週の21日までに計10回注射する。対照群は同じ方式で生理食塩水100マイクロリットルを10回注射する。
【0062】
左室駆出率(LVEF)は左心室機能の従来の重要な指標であり、左室駆出率の向上は心不全のマウスの心臓機能が向上したことを示す。心臓超音波でマウスの駆出率を測定した結果を
図6に示す。
図6に示すように、第3週までにEEの治療は心不全マウスの左室駆出率を有意に上昇させ、EEの治療は心不全マウスの心臓機能を有意に向上させた。左室線維化面積は明らかに低下した。
【実施例3】
【0063】
本実施例は、日立Primaide型高速液体クロマトグラフを使用して、異なる胚齢の卵の羊水成分を検出する。このクロマトグラフの取扱説明書に従って検出を行う。この中、検出開始前に100%アセトニトリルで30分洗浄し、流速時間は0.8mL/minとし、その後水で30分平衡し、流速時間は0.8mL/minである。25μLのサンプルを抽出して気泡を排除し、クロマトグラフに付属のソフトウェアの「データ収集」ボタンをクリックして「方法2」を選択し、画面下の「単一分析開始」をクリックし、システムに「サンプル注入待ち」が表示された時点でサンプル注入を開始し、注入は迅速に行い、注入終了後にバルブを切り替える。この方法2は以下のとおりである。
【表1】
本実施例は、胎齢7日、11日、13日の羊水を検出した結果を
図7-9に示す。
【実施例4】
【0064】
DPPH、すなわち1、1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジルラジカルであり、その構造は以下に示す。
【化1】
DPPHの分子中、電子吸引性の-NO
2とベンゼン環の非局在化π結合が複数存在するため、窒素ラジカルは安定に存在する。
【0065】
DPPHラジカルが消去されるとともに、その最大吸収波長519nmにおける吸光度Aの値が減少する。DPPHという安定フリーラジカルは、フリーラジカル消去能測定に理想的かつ単純な薬理モデルを提供する。本実施例は、DPPHを使用して、鶏胚羊水由来のフリーラジカル消去能を検討する。
【0066】
0.8mgのDPPHを取り、20mL溶媒メタノールに溶解し、超音波5min、十分に振動させ、上下各部を均一にする。このDPPH溶液を1mL取り、519nmにおいてA0値を測定した。A=0.5-0.7。このDPPH溶液は光を避けて保存し、3.5時間以内に使い切る。
【0067】
実施例1に記載された方法により、胚齢が6日、7日、8日、9日、10日、11日の鶏胚の羊水をそれぞれ獲得し、遠心分離後、4℃の冷蔵庫に保存して使用の準備をしておく。
【0068】
ビタミンCを正対照として検量線を測定した。異なる体積の0.04mg/mlのVcサンプルに0.6mlのDPPHを加え、無水エタノールを加えて1mlまで補充し、均一混合し、メタノールを対照としてゼロ調整し、519nm波長下の吸光値を測定した。3回繰り返して測定したデータによって作図する。
【0069】
胚齢の異なる羊水400μlを試験管に注入し,調製したDPPHのメタノール溶液を600μl加えて混合し、気泡が発生しないまで10min反応させる(測定前に均一混合)。メタノールを対照としてゼロ調整し、519nmの吸光度を測定する。
各群のサンプル充填情報は、次表に示す:
【表2】
次式により、クレアチンクリアランス率(抑制率)を計算する。
クレアチンクリアランス率(%)=(A
0-A)/A
0×100%。
結果を
図10に示す。
【実施例5】
【0070】
本実施例は、実施例1の鶏卵羊水(EE)が、異なる培養条件下の鶏胚線維芽細胞の成長に及ぼす影響を試験する。本実施例において、使用したDMEM培地の組成は下記に示す:Gibco(登録商標)#Cat.11960077、1%L-グルタミン(Solarbio(登録商標)#G0200)と5%FBS(Gibco(登録商標)#Cat.10099141)を添加、0.25%パンクレアチン(杭州科易生物(商標)#CY003)、PBS(BI(商標)#02-024-1ACS)、0.4%トリパンブルー染色剤(BBI(商標)#72-57-1)。
【0071】
1.鶏胚線維芽細胞の獲得と培養
胚齢7日の卵の胚を取り、PBSで胚表面を洗浄し、清潔にするまで液体をピペットガンで吸引する。胚胎内臓を取り、残りの組織を肉眼で見えないサイズの顆粒、団塊に切り分ける。1mlの0.25%パンクレアチンを加え、ガンヘッドで組織と均一混合させ、懸濁液を15ml遠心管に注入する。1mlの0.25%パンクレアチンで培養皿を洗浄し、懸濁液を同じ15ml遠心管に注入する。遠心管を37℃の水浴に入れ、5-7分間消化した後、DMEM培地(PBSを含む)を8ml加えてパンクレアチンを中和する。遠心管を遠心分離機に入れ、5-10秒遠心分離する。遠心管を取り出し、上清液を採取する。この上清液を2000rpmで2min遠心する。上清を捨て、DMEM培地を4ml加え、ガンヘッドで細胞を再懸濁させる。それぞれ1mlの細胞懸濁液を10cm細胞培養皿に注入し、更に10mlのDMEM培地を加える。培養皿を十字方向に少なくとも20回ずつ揺らし、細胞を均一に分布させる。37℃、5%CO2条件下で培養する。細胞は、培養皿の下皿の70~90%を覆ったとき、継代する。
【0072】
培養器から培養皿を取り出し、遠心管に初代培地を採取する。5mlのPBSを慎重に加えて、細胞を洗浄する。その後、500μlの0.25%パンクレアチンを加え、培養皿を培養器に入れ、1分消化する。培養皿の側縁を軽く叩いて消化過程を速め、細胞塊が急速分解し、大部分の細胞は浮遊状態を呈し、迅速に回収した9.5mlの初代培地を加え、パンクレアチンを中和する。ピペットで培養皿の下皿を吹き、できるだけ多くの細胞懸濁液を15ml遠心管に集め、2000rpmで3min遠心する。上清を捨て、DMEM培地を4ml加え、ガンヘッドで細胞を再懸濁させる。それぞれ1mlの細胞懸濁液を10mlの異なる体積比の羊水を含む新鮮培地を含む10cm細胞培養皿に注入する。培養皿を十字方向に少なくとも20回ずつ揺らし、細胞分布を均一にし、37℃、5%CO2の条件で培養する。
【0073】
良好に成長した鶏胚線維芽細胞を取り、初代培地を遠心管に注入する。慎重に5mlのPBSを加えて細胞を洗浄し、細胞層が破損しないように、軽く振ってからPBSを除去する。100μlの0.25%パンクレアチンを加えて、2-5分(24オリフィスプレート)消化し、100μl培地で中和する。ガンヘッドを使用して、単細胞懸濁液に形成する。この単細胞懸濁液を一定の倍数で希釈し、0.4%トリパンブルー染色液を等量添加して染色し、希釈後の細胞数は20~200範囲内が好ましい。適量(15μl)の細胞懸濁液を吸引し、カバーガラスの上下縁から血球計数板にサンプルを加え、顕微鏡下で生細胞数を算出する。生細胞総数を算出し、細胞濃度を1×105細胞/mlに調整する。24時間ごとに1回サンプリングし、毎回3個の孔細胞を取り、通常のパンクレアチン消化を行い、単細胞懸濁液を調製し、顕微鏡計数を行う。時間(日)を横軸とし、細胞濃度を縦軸として成長曲線をプロットする。細胞個数=細胞合計数/4×104×希釈倍数、細胞濃度=当該細胞個数/ml。
【0074】
結果を
図11に示す。
図11は、計96時間培養後、EEを添加した実験群の鶏胚性線維芽細胞の数が、EEを添加しない対照群の細胞数より有意に多かったことを示す。
【実施例6】
【0075】
実施例1と同様の方法で胚齢8日のアヒル卵の羊水を得る。スクラッチアッセイにより、鶏胚胎繊維芽細胞とアヒル卵羊水のヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の増殖能と遊走能に対する影響を試験する。実施例1の方法により胚齢8日のアヒル卵から、アヒル羊水を得る。実施例5に記載の方法により、鶏胚線維芽細胞を得、ヒト臍帯静脈内皮細胞を市販で得る。
【0076】
本実施例において、使用したDMEM培地の組成は下記に示す:Gibco(登録商標)#Cat.11960077、1%L-グルタミン(Solarbio(登録商標)#G0200)と5%FBS(Gibco(登録商標)#Cat.10099141)を添加、0.25%パンクレアチン(杭州科易生物(商標)#CY003)、PBS(BI(商標)#02-024-1ACS)、0.4%トリパンブルー染色剤(BBI(商標)#72-57-1)。
【0077】
実験の前日に、6ウェルマイクロプレートを用意して、6ウェルマイクロプレートの背面にマーカーと定規で5-6本の均一分布の横線を引いて、ウェルを横切る。また、中央線の位置に垂直な縦線を引いて、スクラッチの位置を指示する。各ウェルに対数成長期の細胞を約5×105個加え、通常接種一晩後の融合率は90%に達する。
【0078】
実験当日、ガンヘッドを定規に合わせて、マーカーの縦線に沿って、6ウェルマイクロプレートの底面に垂直に線を引く。できるだけ傾斜、曲げないように、異なるウェルの間には同一のガンヘッドを使用し、幅は1000-2000μmが好ましい。ウェルごとに2mlのPBSで3回洗浄し、スクラッチ部の細胞を洗い流す。各ウェルにそれぞれ異なる含有量のEEを含む培地を2ml加え、常規培養し、48時間ごとに液を交換する。スクラッチから0hに調整し、24時間ごとに定時撮影し、スクラッチの両側の細胞間隔を測定する。各ウェル内の細胞成長状況を観察する。時間(日)を横軸とし、各ウェル内のスクラッチの距離を縦軸としグラフをプロットする。各ウェル内のスクラッチの癒合速度を計算する。
【0079】
結果を
図12と
図13に示す。
図12は、卵からの羊水がヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の増殖能と遊走能に与える影響を示しており、5%(体積比)の羊水の添加はHUVECの癒合に対して有意な促進効果がある。
図13は、アヒル卵からの羊水が鶏胚線維芽細胞の増殖能と遊走能に与える影響を示しており、羊水の添加は鶏胚線維芽細胞の癒合にも有意な促進効果がある。
【実施例7】
【0080】
本実施例の目的は、鶏胚羊水中の生物活性を有する化合物を、分析カラムゲルカラムSephacrylS-200、陰イオン交換カラムHiPrep Q、脱塩カラムHiPrep 26/10 Desalting、HiLoad 16/600 Superdex75 pgにより段階的に精製することである。
【0081】
1、材料
1.1精製サンプル:新鮮な胚齢7日の卵羊水、50ml。
1.2主な実験装置と消耗品
1)GE AKTA purifier
2)ゲルカラムGE Sephacryl S-200
3)陰イオン交換カラムGEHiPrep Q
4)脱塩カラムGEHiPrep 26/10 Desalting
5)ゲルカラムGEHiLoad 16/600 Superdex75pg
6)Superloop 10ml
【0082】
2、方法
2.1溶液の調製
リン酸ナトリウム緩衝液A(50mM Na2HPO4+NaH2PO4、pH 8.0)の調製:46.6ml 1mol/l Na2HPO4と3.4 ml 1mol/l NaH2PO4を混合し、ddH2Oを加えて1Lに定容する。
【0083】
2.2実験方法
2.2.2サンプル処理:新鮮羊水50ml、適量ヘキサンを加え、2500rpm、4℃で20min遠心分離し水相を得て、0.22μm濾過膜で濾過する。
2.2.3サンプルの精製
ステップ1:ゲルカラムGE Sephacryl S-200
ddH2O平衡ゲルカラム:流速2ml/min、280nmまで紫外吸収曲線が穏やかで、ベースラインに回帰する。
サンプル充填:流速1ml/min、サンプル充填量10ml。
溶出:脱ガスddH2Oで粗生成物を溶出、流速2ml/min、画分を等量採取、3ml/管。体積(240ml)のカラム2管溶出。
分離精製を5回繰り返し、各回の同じピーク検出時間の画分を十分に混合する。
ステップ2:陰イオン交換カラムGE HiPrep Q
リン酸ナトリウム緩衝液A(50 mM Na2HPO4+NaH2PO4、pH 8.0)平衡陰イオン交換カラム:流速2 ml/min、280nmまで紫外吸収曲線が穏やかで、ベースラインに回帰する。
サンプル充填:ステップ1精製後の生物活性を有する画分を取り、ポンプでサンプルを充填、流速1.5ml/min、サンプル充填量250ml、同時に等体積収集陰イオンカラム未結合画分、2ml/管。
脱塩:イオンカラム中の結合と非結合の画分をそれぞれGE HiPrep 26/10 Desaltingで脱気ddH2Oに置換し、脱塩後画分を収集する。
ステップ3:ゲルカラムGE HiLoad 16/600 Superdex75pg
ddH2O平衡ゲルカラム:流速1 ml/min、280nmまで紫外吸収曲線が穏やかで、ベースラインに回帰する。
サンプル充填:流速1ml/min、サンプル充填量10ml。
溶出:脱ガスddH2Oでサンプルを溶出、流速1ml/min、画分を等量採取、2ml/管。体積(240ml)のカラム1.5管溶出。
細胞活性の測定:成長良好なAC16消化後、96ウェルプレート、8000個/ウェル、5個重複ウェル/群。5%CO2飽和湿度37℃培養器で2時間培養、細胞接着。培地DMEMで24時間飢餓培養後、10%FBSのDMEM、DMEMと20%(体積比)画分を添加した培地に交換する。24時間培養後、各ウェルに10μlのCCK-8試薬を添加した。2時間孵化後、酵素標識器により450nmにおける吸収値を測定する。
【0084】
3、実験結果
ゲルカラムGE HiLoad 16/600 Superdex75 pgで分離した未結合画分のクロマトグラムを
図14に示す。細胞生存アッセイは生物活性を有する成長因子群を検出した結果を
図15に示す。
【実施例8】
【0085】
実施例7と同様の方法により、以下の分離精製を行う。
【0086】
1、有効成分の分離精製
ステップ1:ゲルカラムGE Sephacryl S-200
ddH2O平衡ゲルカラム:流速2ml/min、280nmまで紫外吸収曲線が穏やかで、ベースラインに回帰する。
サンプル充填:流速1ml/min、サンプル充填量10ml。
溶出:脱ガスddH2Oで粗生成物を溶出し、流速2ml/min、分子量500-2000ダルトン範囲内の画分を採取する。
分離精製を5回繰り返し、各回の同じピーク検出時間の画分を十分に混合する。
ステップ2:陽イオン交換カラムGE HiPrep SP
リン酸ナトリウム緩衝液A(50 mM Na2HPO4+NaH2PO4、pH 5.8)平衡陽イオン交換カラム:流速2 ml/min、280nmまで紫外吸収曲線が穏やかで、ベースラインに回帰する。
サンプル充填:第1ステップからの分子量500-2000ダルトン範囲内の画分を取り、ポンプでサンプル充填、流速1.5ml/min、サンプル充填量250mlを用いて、陽イオン交換カラムの未結合画分を採取する。
ステップ3:ゲルカラムGE HiLoad 16/600 Superdex75pg
ddH2O平衡ゲルカラム:流速1 ml/min、280nmまで紫外吸収曲線が穏やかで、ベースラインに回帰する。
サンプル充填:第2ステップからの未結合画分を取ってサンプル充填、流速1ml/min、サンプル充填量10ml。
溶出:脱ガスddH2Oでサンプルを溶出し、流速1ml/min、分子量500-1200ダルトン範囲内の画分を採取する。
【0087】
2、有効成分検出
成長良好なAC16消化後、96ウェルプレート、8000個/ウェル、5個重複ウェル/群。5%CO2飽和湿度37℃培養器で2時間培養、細胞接着。培地DMEMで24時間飢餓培養後、10%FBSのDMEM、DMEMと20%(体積比)画分を添加した培地に交換する。24時間培養後、各ウェルに10μlのCCK-8試薬を添加した。2時間孵化後、酵素標識器により450nmにおける吸収値を測定する。陽イオン交換カラムGE HiPrep SP処理後の非結合領域の細胞活力を
図16に示す。
【実施例9】
【0088】
実施例7と同様の方法により、以下の分離精製を行う。
1、有効成分の分離精製
ステップ1:イオン交換カラム、陰イオン交換カラムHiPrep Qを使用して、各溶液のpHはそれぞれ5.8と8.0に調整し、サンプルとイオン交換カラムを充填、流速は2ml/min、280nm紫外吸収曲線が穏やかで、ベースラインに回帰する。
サンプル充填:羊水を取り、ポンプでサンプルを充填、流速1.5ml/min、サンプル充填量50ml、イオンカラム未結合画分を採取する。
ステップ2:ゲルカラムGE Sephacryl S-200
ddH2O平衡ゲルカラム:流速2ml/min、280nmまで紫外吸収曲線が穏やかで、ベースラインに回帰する。
サンプル充填:サンプルはステップ1からの未結合画分、流速1ml/min、サンプル充填量10ml。
溶出:脱ガスddH2Oで粗生成物を溶出し、流速2ml/min、分子量500-2000ダルトン範囲内の画分を採取する。
ステップ3:ゲルカラムGEHiLoad 16/600 Superdex75pg
ddH2O平衡ゲルカラム:流速1 ml/min、280nmまで紫外吸収曲線が穏やかで、ベースラインに回帰する。
サンプル充填:ステップ2からの500-2000ダルトンの范囲内の画分でサンプル充填、流速1ml/min、サンプル充填量10ml。
溶出:脱ガスddH2Oでサンプルを溶出し、流速1ml/min、分子量500-1200ダルトン範囲内の画分を採取する。
【0089】
2、有効成分検出
成長良好なAC16消化後、96ウェルプレート、8000個/ウェル、5個重複ウェル/群。5%CO2飽和湿度37℃培養器で2時間培養、細胞接着。培地DMEMで24時間飢餓培養後、10%FBSのDMEM、DMEMと20%(体積比)画分を添加した培地に交換する。24時間培養後、各ウェルに10μlのCCK-8試薬を添加した。2時間孵化後、酵素標識器により450nmにおける吸収値を測定する。陰イオン交換カラムGE HiPrep Q処理後の非結合領域の細胞活力を
図16に示す。
【実施例10】
【0090】
1、初代心筋細胞(VM)の分離
新生児ラット心室を予冷PBSで洗浄し、その後DMEM/F12で心臓組織を切り分ける。37℃水浴震動、0.04%コラゲナーゼII+0.08%パンクレアチンで消化する。消化した細胞を篩で濾過して遠心分離、1000r/min X 10min。15%FBS細胞培養液を加えてプレートに注入、5%CO2飽和湿度37℃培養器で培養。
【0091】
2、細胞生存アッセイ
初代心筋細胞消化後、96ウェルプレートに注入、6000個/穴、5個重複ウェル/群。5%CO2飽和湿度37℃培養器で24時間培養後、初代培地15%FBSのDMEM/F12を、培地DMEM/F12、10%FBSを含むDMEM/F12、10%FBSと5%EE(実施例1からの羊水、体積比)を含むDMEM/F12にそれぞれ置き換える。48時間培養後、各ウェルに10μlのCCK-8試薬を添加した。2時間孵化後、酵素標識器により450nmにおける吸収値を測定する。
結果を
図17に示す。
【実施例11】
【0092】
実験用大白豚で、経皮動脈カテーテル(PCI)により心臓冠動脈前下行枝まで膨張バルーン閉塞50分後に抜き、大白豚の心臓虚血再灌流モデルを作製し、術後直ちに実施例1に記載の方法で採取した鶏EE(1ml/kg)を静脈注射により治療を行う。術前に基礎心機能を測定する。結果を
図18と
図19に示す。
【0093】
図18は、鶏EEによる心筋梗塞大白豚の治療は心筋梗塞大白豚の左室駆出率と短軸短縮率を向上させることができ、術後対照群の大白豚の心機能は徐々に低下を呈し、EE治療群の左室機能は一定の回復があり、術後2週間、4週間と8週間のEFとFSは対照群より著しく高い(
図18、AとC)。術前基礎値との差でΔEFとΔFSを統計したところ、EE治療後1週間でEFとFSの低下値は術前より有意に低下し、治療群2週間、4週間、8週間の低下値は対照群より有意に低下したことを示す(
図18、BとD)。治療群の1回拍出量は術後1-8週間で対照群より有意に高い(
図18、E)。対照の左室収縮末期の容積と直径は上昇傾向があり、治療群は対照群より低く(
図18、FとI)、EEが左室収縮力を向上させることを示す。対照の左室拡張末期の容積と直径は上昇傾向があり、投与群では上昇後下降の傾向を呈し(
図18、GとH)、EEが部分の心筋梗塞(myocardialinfarction、MI)による心室リモデリングを逆転したことを示す。
【0094】
大白豚虚血再灌流(IR)モデル作製後、投与群は直ちに鶏EE治療を行い、対照群は5%ブドウ糖を投与する。飼育時の観察と監視映像により、対照群の大白豚は活動時間が少なく、表情が倦怠であることを見出した。術後1週間、統計により、治療群の大白豚の日常活動時間は対照群より著しく長いことを見出した(
図19、D)。EE治療後8週間に取材、心臓スライス後塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)染色により、対照群の心尖から前壁までの心筋は薄くなり、染色後に白色を呈し、左心室軽度拡張。治療群は心尖から左心室前壁まで軽度梗塞があり、心室壁の有意な薄化を認めず、同時に対照群の心臓組織中の脂肪組織の増加を認め(
図19、A)、統計により治療群のTTC染色後の梗塞が白色を呈する面積は対照群より著しく低いことを見出した(
図19、B)。
【0095】
梗塞区の左心室前壁組織を採取してマッソントリクローム染色を行い、対照群は貫壁性梗塞を呈し、心室壁が薄くなったことを見出した。EE治療群の心臓繊維化は心筋間隙に入り込み、心室壁の有意な薄化は認めず(
図19、C)。
【0096】
前記の結果は、EEが虚血再灌流大白豚の左心駆出率と1回拍出量を有意に向上させ、心筋梗塞による左心室再構築を軽減し、虚血再灌流大豚の肺うっ血を軽減し、毎日活動量を向上させることができることを示す。また、TTC染色結果、EE治療群の心筋梗塞面積は対照群より有意に低下したことを示す。組織マッソントリクローム染色の結果、対照群の大白豚の左心前壁に貫壁性梗塞が現れ、繊維化面積はEE治療群より著しく高いことを示す。蛍光染色の結果、EEは大白豚梗塞区の血管新生を増加させることができることを示す。
【実施例12】
【0097】
実施例1に記載の方法を参照して、胎齢13~14日のマウス羊水を得、羊水抽出液を採取した遠心管を平衡した後、中佳(商標)KDC-2046低速冷凍遠心分離機を使用して5℃、3500rpmで21分遠心分離する(遠心分離機の標準的な操作手順は取扱説明書を参照)。上清液を傾瀉して、清浄なプラスチック貯蔵タンクに移送し、-80℃の冷蔵庫に貯蔵する。後続のテストのために、各ロットに5mlのサブサンプルを事前保存する。全手順は無菌条件下で行われる。
【0098】
細胞活性の測定:成長良好なAC16消化後、96ウェルプレート、8000個/ウェル、5個重複ウェル/群。5%CO2飽和湿度37℃培養器で2時間培養、細胞接着。培地DMEMで24時間飢餓培養後、10%FBSのDMEM、DMEMとそれぞれ2.5%、5%、10%と20%(体積比)のマウスEEを添加した培地に交換する。24時間培養後、各ウェルに10μlのCCK-8試薬を添加した。2時間孵化後、酵素標識器により450nmにおける吸収値を測定する。
結果を
図20に示す。