(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】眼圧調節のための新規な房水流出装置
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
A61F9/007 160
(21)【出願番号】P 2023539018
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 KR2021007133
(87)【国際公開番号】W WO2022139081
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0181601
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0073792
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1. 電気通信回線を通じての発表 掲載年月日:2020年6月8日 掲載アドレス:https://dx.doi.org/10.1021/acsbiomaterials.0c00649
(73)【特許権者】
【識別番号】521141040
【氏名又は名称】ティーエムディー ラブ カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】キム,チャン ユン
(72)【発明者】
【氏名】ベ,ヒョン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ウンラク
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0074673(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0038102(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0267887(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108743016(CN,A)
【文献】特開2019-141450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1チューブ及び第2チューブで構成される房水流出装置であって、
前記第1チューブは第2チューブの内部に位置し、
前記第1チューブは形状記憶高分子で製造されることを特徴とする、房水流出装置。
【請求項2】
前記形状記憶高分子は、ε-カプロラクトン(caprolactone)とグリシジルメタクリル酸(Glycidyl methacrylate)の共重合体である、請求項1に記載の房水流出装置。
【請求項3】
前記形状記憶高分子は、下記化学式1で表示される、請求項2に記載の房水流出装置:
【化1】
前記化学式1において、
m及びnは反復単位のモル%を表し、
m+nは100であり、mは80~95である。
【請求項4】
前記第1チューブは、長さ2.7~3.3mm、及び内径0.045~0.055mmで製造されることを特徴とする、請求項1に記載の房水流出装置。
【請求項5】
前記第2チューブは、長さ9~11mm、内径0.2745~0.3355mmで製造されることを特徴とする、請求項1に記載の房水流出装置。
【請求項6】
前記房水流出装置は、眼圧調節失敗を伴う眼疾患において眼圧調節用途である、請求項1に記載の房水流出装置。
【請求項7】
前記眼疾患は緑内障である、請求項6に記載の房水流出装置。
【請求項8】
前記緑内障は、先天性緑内障、外傷性緑内障、緑内障疑い、高眼圧症、原発性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、水晶体の偽落屑を伴う水晶体嚢性緑内障、慢性単純緑内障、低眼圧緑内障、色素性緑内障、原発性閉塞隅角緑内障、急性閉塞隅角緑内障、慢性閉塞隅角緑内障、間欠性閉塞隅角緑内障、眼の外傷に続発した緑内障、眼の炎症に続発した緑内障、薬物に続発した緑内障、新生血管緑内障、及びブドウ膜炎による二次緑内障からなる群から選ばれるいずれか一つ以上である、請求項7に記載の房水流出装置。
【請求項9】
前記房水流出装置は、低眼圧及び高眼圧を同時に調節可能である、請求項1に記載の房水流出装置。
【請求項10】
前記房水流出装置は、0mmHg~30mmHgの眼圧を5mmHg~10mmHgの範囲に調節することを特徴とする、請求項9に記載の房水流出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼圧調節のための新規な房水流出装置に関する。
【0002】
本特許出願は、2020年12月23日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2020-0181601号及び2021年06月07日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2021-0073792号に対して優先権を主張し、当該特許出願の開示事項は本明細書に参照によって組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
緑内障は、眼球の圧力(IOP:Intraocular pressure)が高い場合に起きる眼疾患の一種であり、眼球圧力の上昇は、視神経の外観及び機能に損傷を与え、持続すると視力を喪失することにつながる。眼圧上昇の原因には、眼の中を満たしていながら、栄養を供給し、老廃物(代謝物質)を運搬する液体である房水(眼房水)が正常に排出されないこと。又は異常に多く生成されることがある。
【0004】
このような緑内障の治療方法には、薬物として眼圧下降剤を点眼又は服用したり、又はレーザーを用いて虹彩に小さい穴をあけて眼房水の循環及び排出を助ける緑内障濾過術などがあるが、薬物は、周期的な投薬による不便さと、高血圧、呼吸障害、腎臓結石、死亡などの副作用があり、レーザー治療は、その治療効果が緑内障手術の100%を代替することはできず、また、時間が経過するにつれてレーザー線維柱形成術の効果が減少することが知られている。前記薬物やレーザー治療に失敗した場合又は薬物治療及び濾過術以後の眼圧の上昇を予防するための場合に、眼内に、眼房水の量を調節して眼圧を一定レベルに維持するための房水流出装置を挿入する手術を行う。しかし、前記従来の房水流出装置は、その大部分が一定サイズの直径を有するチューブ形態の装置であり、一度挿入されると、眼圧がどの程度の数値であるかに関係なく一定の量の眼房水が持続的に排出されてしまい、効果的な眼圧の調節が難しいという問題点があった。また、一般に、緑内障手術を行うと、手術直後には眼圧が急に低下する低眼圧症の問題が発生し、手術して一定時間の経過後には再び眼圧が上昇する高眼圧症の問題が発生するところ、従来の房水流出装置は眼圧を下げたり又は眼圧を上げる作用しか持たず、低眼圧及び高眼圧の両方において調節作用ができる房水流出装置はない現状である。
【0005】
したがって、本発明は、前記のような問題点を解決するために案出されたものであり、眼圧調節のための新規な房水流出装置に関する。本発明の房水流出装置は、形状記憶高分子で製造されたチューブを内部に含む二重の房水流出装置であり、眼圧に応じて内径の拡張を異なるように調節し、急激な圧力低下や上昇無しで低眼圧及び高眼圧を同時に調節可能であるので、眼圧が臨床的に許容可能な範囲内で維持されるように機能する効果があり、よって、医療及び保健分野において多く利用されることが期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来の技術上の問題点を解決するために案出されたものであり、眼圧調節のための新規な房水流出装置を提供することを目的とする。
【0007】
ただし、本発明が遂げようとする技術的課題は、以上で言及した課題に限定されず、言及されていない別の課題は、以下の記載から、当業界における通常の知識を有する者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本願に記載の様々な具体例を図面を参照して記載する。下記の説明において、本発明の完全な理解のために、様々な特異的詳細事項、例えば、特異的形態、組成物及び工程などが記載されている。しかし、特定の具体例は、少なくとも一つの特異的詳細事項無しに、又は他の公知された方法及び形態と共に実行されてもよい。他の例において、公知された工程及び製造技術は、本発明を余計に曖昧にさせないように、特定の詳細事項として記載されない。「一具体例」又は「具体例」に対する本明細書全体における参照は、具体例と関連付いて記載された特別な特徴、形態、組成又は特性が、本発明の一つ以上の具体例に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたる様々な位置で表現された「一具体例」又は「具体例」の状況は必ずしも本発明の同一の具体例を表さない。さらに、特別な特徴、形態、組成、又は特性は、一つ以上の具体例においていかなる適切な方法で組み合わせられてよい。
【0009】
明細書において特に定義がないと、本明細書に使われる全ての科学的及び技術的な用語は、本発明の属する技術の分野における当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0010】
緑内障とは、眼球の圧力(IOP:Intraocular pressure)が高い場合に起きる眼疾患の一種である。眼球圧力の上昇は、視神経の外観及び機能に損傷を与え、持続すると視力を喪失することにつながる。眼圧上昇の原因には、眼の中を満たしていながら、栄養を供給し、老廃物(代謝物質)を運搬する液体である房水(眼房水:眼の中で作られる水のことを指し、眼の形態を維持し、眼の内部に営養分を供給する役割を担当する。)が正常に排出されないこと、又は異常に多く生成されることがある。
【0011】
房水は、毛様体で1分につき約2~3μlの量で生成されて線維柱、シュレム管、集結管、そして上強膜静脈と結膜静脈で構成される系統を通じて、前方角で眼から排出される。特に、2個程度の流出通路を通じて眼球外に排出されるが、これについて説明すると、第一は、ブドウ膜-強膜を通した排出通路(uveoscleral outflow)で、房水が毛様体と強膜を通って血管に吸収され、第二は、線維柱(trabecular outflow)を通した排出で、これは、隅角線維柱を経てシュレム管を通って静脈層に吸収され、第二の線維柱を通した排出が、房水流出の主な通路となる。一般に、房水の生成速度が房水の排出速度と同一であるため、眼球の内圧が15~21mmHgの範囲でほぼ一定に維持されるが、緑内障では、線維柱を通した排出の抵抗が異常に大きい。
【0012】
全体緑内障の60~90%を占める最も一般的な原発開放緑内障(Primary open angle glaucoma)は、抵抗が繊維柱の外面とシュレム管内壁に沿って存在するもので、異物による線維柱閉塞、線維株内皮細胞の消失、線維柱流出率の減少、正常な繊維柱の機能である貪食力消失などによって房水流出率が減少することが知られている。このため、眼圧(IOP)が増加し、増加した眼圧が視神経の軸索突起を圧迫したり視神経血流異常を招くことにより、視野損傷の進行又は失明が発生することがある。
【0013】
眼圧は、緑内障発病と関連がある様々な危険要因のうち、最も確実に突き止められた危険因子であり、緑内障の治療は、今のところ、眼圧を調節することが最も確実な方法である。現在までの緑内障の治療は眼圧を減少させることであったし、通常、薬物治療又はレーザー治療を優先して行い、それに失敗する場合に外科手術が行われる。しかし、薬物は、点眼薬と服用薬とに区別され、房水の生産を抑制したり排出を増加させる役割を持つが、周期的な投薬による不便さと、高血圧、呼吸障害、腎臓結石、死亡などの副作用があり、レーザー治療は、その治療効果が緑内障手術の100%を代替することができず、また、時間が経過するにつれてレーザー線維柱形成術の効果が減少することが知られている。一研究によれば、10年目にアルゴンレーザー線維柱形成術患者の95%が眼圧調節に失敗した。外科的手術は、繊維主切除述(trabeculectomy)を行うが、繊維主切除述は、結膜の裏側を切開して強膜境界を露出させて強膜皮膚板を作り、これが緩く縫合されて開放された部分を通して房水が強膜皮膚板の下に流れて結膜下の高い空間に集まるようにする。すなわち、前方から強膜片の周縁から房水が出て結膜下側空間に流入して結膜を貫通する濾過(transconjunctival filtration)、リンパ系内への吸収、そして結膜下側組織の血管による吸収によって眼圧を調節する原理である。緑内障濾過手術は、原発開放角緑内障、色素緑内障、偽落屑緑内障ではその成功率が70~90%に達するが、新生血管緑内障、ブドウ膜炎による二次緑内障、無水晶体眼又は人工水晶体眼緑内障、そして以前に姑息的な濾過手術に失敗した患者において再手術を行う場合には、成功率が顕著に低い。
【0014】
本発明は、眼圧調節失敗を伴う眼疾患において眼圧調節のための新規な房水流出装置を提供する。
【0015】
前記の眼疾患は、眼圧上昇によって発生する緑内障などが含まれてよく、このような緑内障には、先天性緑内障、外傷性緑内障、緑内障疑い、高眼圧症、原発性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、水晶体の偽落屑を伴う水晶体嚢性緑内障、慢性単純緑内障、低眼圧緑内障、色素性緑内障、原発性閉塞隅角緑内障、急性閉塞隅角緑内障、慢性閉塞隅角緑内障、間欠性閉塞隅角緑内障、眼の外傷に続発した緑内障、眼の炎症に続発した緑内障、薬物に続発した緑内障、新生血管緑内障又はブドウ膜炎による二次緑内障などが含まれてよい。
【0016】
本発明の房水流出装置は、形状記憶高分子で第1チューブ(SMP tube)を製造し、これをシリコン素材の第2チューブ(silicone tube)に挿入することで、二重チューブ構造で製造されることを特徴とする。
【0017】
前記形状記憶高分子はPCL-co-PGMA共重合体であり、78~90モル%のε-カプロラクトン(CL;caprolactone)、10~22モル%のグリシジルメタクリル酸(GMA;Glycidyl methacrylate)、1~2.2モル%の1,6-ヘキサンジオール(HD;1,6-Hexanediol)、1モル%の1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]-5-デセン(TBD;1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)、及び0.5モル%のヒドロキノン(HQ;hydroquinone)を混合して製造されることが好ましく、下記化学式1で表示される。
【0018】
【0019】
前記化学式1において、
【0020】
m及びnは反復単位のモル%を表し、m+nは100であり、mは80~95又は88~94であってよい。ここで、モル%とは、m及びnの反復単位の比率を意味するもので、具体的には、モル分率(ratio)を意味できる。一例として、PCL-co-PGMAにおいてポリカプロラクトン(PCL;poly(ε-caprolactone))とポリグリシジルメタクリル酸(PGMA;poly(glycidyl methacrylate))の反復単位のモル分率を意味できる。
【0021】
また、前記形状記憶高分子は放射線で架橋されることが好ましく、35℃~40℃の範囲で溶融温度(Tm)を有するように調節されることが好ましい。
【0022】
前記第1チューブは、長さ3mm、及び内径0.05mmであるものが好ましく、第2チューブは、長さ10mm、及び内径0.305mmであるものが好ましい。前記第1チューブと第2チューブの長さ、及び内径は、±10%の範囲で調節可能であり、本発明の房水流出装置は、第1チューブ及び第2チューブの素材、長さ、及び内径が前記の条件で設計された時に、0mmHg~30mmHgの眼圧を5mmHg~10mmHgの範囲に調節することを特徴とする。
【0023】
本発明の一具体例において、第1チューブ及び第2チューブで構成される房水流出装置であって、前記第1チューブは第2チューブの内部に位置し、前記第1チューブは形状記憶高分子で製造されることを特徴とする房水流出装置を提供し、前記形状記憶高分子は、ε-カプロラクトンとグリシジルメタクリル酸の共重合体である房水流出装置を提供し、前記形状記憶高分子が下記化学式1で表示される房水流出装置を提供し、前記第1チューブは、長さ2.7~3.3mm、及び内径0.045~0.055mmで製造されることを特徴とする房水流出装置を提供し、前記第2チューブは、長さ9~11mm、内径0.2745~0.3355mmで製造されることを特徴とする房水流出装置を提供し、前記房水流出装置は、眼圧調節失敗を伴う眼疾患において眼圧調節用途である房水流出装置を提供し、前記眼疾患が緑内障である房水流出装置を提供し、前記緑内障が先天性緑内障、外傷性緑内障、緑内障疑い、高眼圧症、原発性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、水晶体の偽落屑を伴う水晶体嚢性緑内障、慢性単純緑内障、低眼圧緑内障、色素性緑内障、原発性閉塞隅角緑内障、急性閉塞隅角緑内障、慢性閉塞隅角緑内障、間欠性閉塞隅角緑内障、眼の外傷に続発した緑内障、眼の炎症に続発した緑内障、薬物に続発した緑内障、新生血管緑内障、及びブドウ膜炎による二次緑内障からなる群から選ばれるいずれか一つ以上である房水流出装置を提供し、前記房水流出装置は、低眼圧及び高眼圧を同時に調節可能である房水流出装置を提供し、前記房水流出装置は、0mmHg~30mmHgの眼圧を5mmHg~10mmHgの範囲に調節することを特徴とする房水流出装置を提供する。
【0024】
【0025】
前記化学式1において、m及びnは反復単位のモル%を表し、m+nは100であり、mは80~95又は88~94であってよい。ここで、モル%とは、m及びnの反復単位の比率を意味するもので、具体的には、モル分率(ratio)を意味できる。一例として、PCL-co-PGMAにおいてポリカプロラクトン(PCL)とポリグリシジルメタクリル酸(PGMA)の反復単位のモル分率を意味できる。
【0026】
以下、上記の本発明を段階別に詳細に説明する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の眼圧調節のための新規な房水流出装置は、形状記憶高分子で製造されたチューブを内部に含む二重の房水流出装置であり、眼圧に応じて内径の拡張を異なるように調節し、急激な圧力低下や上昇無しで低眼圧と高眼圧を同時に調節可能であるので、眼圧が臨床的に許容可能な範囲内で維持されるように機能する効果があり、よって、医療及び保健分野において多く利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一具体例に係る、本発明の房水流出装置(w/SMPチューブ)を示す模式図である。
【0029】
【
図2】本発明の一具体例に係る、電算流体力学モデリングによってw/SMPチューブの長さ、流速及び内径を設計した結果である。
【0030】
【
図3】本発明の一具体例に係る、PCL-PGMA共重合体の融点(Tm)及びDCA(dynamic contract angle)を測定した結果である。
【0031】
【
図4】本発明の一具体例に係る、温度による変形を考慮して第1チューブ(SMP)の内径及び外径を設計し、チューブ延長時にそれによる内径及び外径の変化を測定した結果である。
【0032】
【
図5】本発明の一具体例に係る、w/o SMPチューブと比較してw/SMPチューブの圧力調節効果を測定した結果である。
【0033】
【
図6】本発明の一具体例に係る、第1チューブの延長後形状回復時の圧力を測定した結果である。
【0034】
【
図7】本発明の一具体例に係る、生体内房水流出装置の細胞適合性及び圧力調節効果を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0036】
明細書全体を通じて、ある部分がある構成要素を「含む」としたとき、これは、特に断らない限り、他の構成要素を除外することではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0037】
〔実施例1.房水流出装置製造〕
<実施例1-1.形状記憶高分子(SMP)の製造>
単量体としてε-カプロラクトン(CL)とグリシジルメタクリル酸(GMA)を共重合反応させ、触媒は1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]-5-デセン(TBD;1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)、スズ(II)(2-エチルヘキサノエート)(tin(II)(2-ethylhexanoate))、トリメチロプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)(trimethylopropane tris(3-mercaptopropionate))、又はコハク酸亜鉛(Zinc succinate)、好ましくは1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]-5-デセン(TBD)を用いて下記化学式1のPCL-co-PGMA形状記憶高分子を製造した。1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]-5-デセン(TBD;1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)は、2つのモノマー(CL,GMA)の同時開環重合を誘導するための物質であり、形状記憶高分子の合成時間を短縮させ得る効果がある。前記触媒は、使用量が限定されないが、出発物質に対して0.5~1モル(mol)の濃度で使用することが好ましい。
【0038】
重合転換率がほとんどない時点、すなわち、初期反応時に、1,6-ヘキサンジオール(HD;1,6-Hexanediol)開始剤と共に同時に重合抑制剤を、GMAモノマーを入れる前に投入し、温度に敏感なGMAアクリルグループ間の反応を抑制させることができる。重合抑制剤は、重合後半に局部的に発生する発熱反応を抑制し、未反応残留ラジカルを除去して反応を終結させる役割を担うものであり、特に限定されるものではないが、ヒドロキノン(HQ;hydroquinone)、ヒドロキノンモノメチルエーテル(hydroquinone monomethyl ether)、パラ-ベンゾキノン(p-benzoquinone)及びフェノチアジン(phenothiazine)からなる群から選ばれる1種以上を使用することができる。
【0039】
前記形状記憶高分子を製造する段階は、平均して80~140℃、又は100~130℃で行われてよいが、100℃未満で高分子合成が行われる場合には触媒反応が起こらないことがあり、130℃を超える温度で高分子合成が行われると触媒反応速度が低下する問題が発生し得る。
【0040】
前記形状記憶高分子は、光架橋反応を誘導する段階をさらに含んでよい。形状記憶高分子に光架橋反応を誘導することによって、融点をさらに下げることができ、本発明では放射線(irradiation)を照射して架橋した。
【0041】
【0042】
前記化学式1において、m及びnは反復単位のモル%を表し、m+nは100であり、mは80~95又は88~94であってよい。ここで、モル%とは、m及びnの反復単位の比率を意味するもので、具体的には、モル分率(ratio)を意味できる。一例として、PCL-co-PGMAにおいてポリカプロラクトン(PCL)とポリグリシジルメタクリル酸(PGMA)の反復単位のモル分率を意味できる。
【0043】
前記化学式1の製造方法を具体的に説明すれば、88~94モル%のポリカプロラクトン(PCL)と6~12モル%のポリグリシジルメタクリル酸(PGMA)が重合されたPCL-co-PGMA形状記憶高分子の製造のために、78~90モル%のε-カプロラクトン(CL)、10~22モル%のグリシジルメタクリル酸(GMA)、1~2.2モル%の1,6-ヘキサンジオール(HD)、1モル%の1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]-5-デセン(TBD)、及び0.5モル%のヒドロキノン(HQ)をガラス反応器で混合し、両モノマーを混合したガラス反応器の内部の温度が熱的に安定したと判断された時に、ε-カプロラクトン(CL)とグリシジルメタクリル酸(GMA)の同時開環重合を誘導するための触媒として1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]-5-デセン(TBD)(1mmol,140mg)をアセトニトリル1mlに溶解した後にガラス反応器内に注入し、110℃で2時間撹拌させた。全ての過程は高純度窒素下で実施した。反応後に、反応物をクロロホルム10mlに溶解させ、ジエチルエーテル(400ml)に反応物を徐々に落としながら沈殿させた。次に、沈殿物を濾紙で濾別後に回転蒸発器で溶媒を除去し減圧下で乾燥させ、PCL-co-PGMA高分子を合成した。
【0044】
<実施例1-2.房水流出装置の製造>
前記実施例1-1の形状記憶高分子で第1チューブ(SMP tube)を製造し、これをシリコン素材の第2チューブ(silicone tube)に挿入することで、二重チューブ構造の房水流出装置を製造した。前記本発明の房水流出装置の模式図を
図1に示す。以下、第2チューブの内部に第1チューブが挿入された本発明の房水流出装置をw/SMPチューブと呼び、第2チューブの内部に第1チューブが挿入されていない比較群の房水流出装置をw/o SMPチューブと呼ぶ。w/SMPチューブにおいて、第2チューブの内部に第1チューブを挿入する過程を容易にするために、第1チューブの外径は減少してよく、内径は、手術初期段階で微細な眼圧を調節するために減少してよい(
図1A)。眼圧調節において、w/SMPチューブを臨時的に長さが長い形態となるようにプログラミングすることは、内径を減少させて眼圧の排水量を減らして小さい眼圧降下を招き(
図1B及び
図1C)、これを約37℃の温水で処理すると、溶融温度(Tm)まで温度変化に反応して臨時型(一時的形態)から原形(本来の形態)への形態回復過程によって眼圧がより大きく降下する。このようなプロセスによって、治療段階、疾病進行率、及び患者状態に応じて眼圧低下を使用者別に制御して適用することができる。一般に、体液の温度は約34.72℃で、体温(37℃)よりも低い。したがって、本発明のw/SMPチューブは32~44℃で調節可能に設計された。
【0045】
w/SMPチューブの長さ、流速及び原形の内径は、電算流体力学モデリングによって計算された。これを
図2に示す。緑内障患者の眼圧維持初期段階で最上の治療効果を発揮するには、移植された房水流出装置の入口(眼球)と出口(排液)間の圧力差(△P)が同一でなければならない。したがって、流体力学モデルは、長さ3mmの第1チューブを、長さ10mm及び内径0.305mmである第2チューブに挿入する状況を仮定した(
図2A、上段)。その結果、第1チューブが内部に挿入されていないw/o SMPチューブは、内径が0.305mm、眼圧が0.01mmHg以下と維持されたが、第1チューブが内部に挿入されたw/SMPチューブは、内径が0.305mmから0.100mmに、さらには0.050mmまで減少したし、眼圧は0.01mmHg以下から0.25mmHg(内径が0.100mmのとき)、さらには4mmHg(内径が0.05mmのとき)まで増加した。したがって、第1チューブは、媒介変数4mmHg(△P)まで圧力が到達するように長さ3mm及び内径0.05mmで作製された(
図2B)。
【0046】
第1チューブを安定的に利用するための2つの必須機能は、体温温度での形態回復と、表面媒介水分吸着を活性化して排水効率を上げること、である。そのような意味で、ポリカプロラクトン(PCL)ベースの架橋された第1チューブは、体温に近い約50℃でTm(形状回復温度)を減少させた。一般に、架橋結合はポリマーネットワークを形成してTmを増加させるものと知られているが、さらにはチェーン構造の変更によって結晶性を妨害することもある。ポリカプロラクトン(PCL)ベースの第1チューブは、架橋時に結晶性抑制に優れており、Tmが減少した。PCL-PGMA共重合体の結晶質特性によってポリカプロラクトン(PCL)とポリグリシジルメタクリル酸(PGMA)の各融点(Tm)は2個のピークを形成した(
図3A)。DCA(dynamic contract angle)の接触角は、前進(advancing)及び後退(receding)において第2チューブ(silicone)に比べて第1チューブ(SMP)でより低く現れた(
図3B)。
【0047】
また、第1チューブは、温度による変形を考慮して、外径が第2チューブと密着するように最大で0.305mmで、4mmHg(△P)までの圧力を維持できるように内径は最大0.05mmで作製された。延長された長さが50%、又は100%である時の第1チューブの内径及び外径を電子顕微鏡で測定した結果を
図4Aに示す。分析の結果、第1チューブの長さが50%延長された時に、内径及び外径は大きく減少したし、100%延長された時には外径が300μmまで大幅に減少した。50%から100%へと長さ延長時にチューブの内径に有意な差がなかった(
図4B、
図4C)。したがって、以降は、100%の延伸率を後続実験に適用した。
【0048】
第1チューブの外径と第2チューブの内径間は密着して円周拡張を制限するので、形状回復による第1チューブ自体直径拡張を制御可能である必要がある。したがって、w/SMPチューブにおいて臨時的に延長された形態(一時的形態)であるか又は原形に回復した形態(本来の形態)である時、及びw/o SMPチューブである時に、温度による圧力がカスタマイズ設計された。実験のために、チューブの一端には25G針が連結され、他端はポンプに連結された。これは、ポンピングによって蒸留水が涙のようにチューブに灌流して排出される原理である。圧力センサーを流量チューブラインに配置し、圧力ゲージで800秒間圧力変化を記録し、その結果を
図5に示した。実験の結果、w/SMPチューブは、w/o SMPチューブに比べてより高い圧力レベルを維持した(
図5A)。w/o SMPチューブはジグザグ方式で圧力が変動したし、600秒後に圧力測定が不可であった。延長された形態(一時的形態)のw/SMPチューブは、ごわばっている増分状態で最高レベルの圧力を維持したし、600秒後には圧力ゲージの感知範囲を超えた範囲まで上昇した。しかし、室温で第1チューブの延長後形状回復時の圧力を試験した結果、急速な増加のログ段階後に結局として安定期の遅延段階に到達することを確認した(
図6)。
【0049】
緑内障疾患状態での高眼圧と緑内障手術直後の急激な低眼圧の両方を単一の房水流出装置で調節しなければならず、よって、圧力は、低い(0mmHg)、正常(10~20mmHg)又は高血圧(30mmHg)の範囲で時間による安定化を測定した。その結果、開始圧力に関係なく第1チューブは形態復旧後に約300秒から7mmHg以下の圧力を維持することが見られた(
図5B)。これは、本発明の房水流出装置が高眼圧と低眼圧の両方で圧力調節効果に優れていることを示す。
【0050】
〔実施例2.生体内房水流出装置効果確認〕
実施例1で製造した本発明の房水流出装置の生体適合性、及びin vivoでの眼圧調節効果を試験した。
【0051】
まず、生体適合性は、ネズミ線維芽細胞(L929)を房水流出装置の溶出液希釈液と共に24時間培養して試験した。その結果、対照群(溶出液不含)と比較して、100%溶出液含有グループでも80%以上の細胞が生存し、本発明の房水流出装置は細胞毒性がないことを確認した(
図7A)。
【0052】
次に、ウサギを用いて本発明の房水流出装置(w/SMPチューブ)を移植し(
図7B)、手術後に1日、3日、7日及び14日の眼圧を各3回ずつ測定した(
図7C)。各測定値は、同ウサギで正常眼の圧力値(対照群)を100%基準にして換算された。実験の結果、w/o SMPチューブが移植されたグループは、3日まで持続的に最大で40%の急激な圧力降下を示した後、回復が遅くて不十分だったが、w/SMPチューブが移植されたグループは7日目に完全な回復を示した。その後、形状記憶高分子の追加操作によってチューブの内径を調節した場合に、眼圧がさらに減少して8日まで約30%の圧力低下が発生したし、最初の眼圧に比べて低い眼圧を14日目まで維持した。これにより、本発明の房水流出装置が急激な圧力低下や上昇無しで低眼圧と高眼圧を同時に調節可能であり、眼圧が臨床的に許容可能な範囲内で維持され得るように機能することを確認した。
【0053】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとっては、このような具体的な記述は、単に好ましい具現例であるだけで、これに本発明の範囲が限定されない点は明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項とその等価物によって定義されるといえよう。
【産業上の利用可能性】
【0054】
緑内障は、眼球の圧力(IOP:Intraocular pressure)が高い場合に起きる眼疾患の一種であり、眼球圧力の上昇は、視神経の外観及び機能に損傷を与え、持続すると視力を喪失することにつながる。しかし、圧力調節のために移植される従来の房水流出装置は、一度挿入されると、眼圧がどの程度の数値であるかに関係にく一定の量の眼房水が持続的に排出され、効果的な眼圧の調節が難しいという問題点があった。
【0055】
本発明は、上記のような問題点を解決するために案出されたもので、眼圧調節のための新規な房水流出装置に関する。
【0056】
本発明の房水流出装置は、形状記憶高分子で製造されたチューブを内部に含む二重の房水流出装置であり、低眼圧と高眼圧を同時に調節可能であるので、眼圧が臨床的に許容可能な範囲内で維持されるように機能する効果に優れる。