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特許7546330マルチインバータ駆動交流モータの給電における高調波の制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】マルチインバータ駆動交流モータの給電における高調波の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/493 20070101AFI20240830BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20240830BHJP
   H02P 21/05 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H02M7/493
H02P27/08
H02P21/05
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024042864
(22)【出願日】2024-03-18
【審査請求日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】202311468829.X
(32)【優先日】2023-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】沈 建新
(72)【発明者】
【氏名】何 宇昊
(72)【発明者】
【氏名】史 丹
(72)【発明者】
【氏名】王 云冲
(72)【発明者】
【氏名】黄 暁艶
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113972867(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第114362493(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/493
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチインバータ駆動交流モータの給電における高調波の制御装置であって、前記制御装置は、
モータを駆動して動作させるパワー電流を供給するためのメインドライバであって、交流母線に並列に接続され、前記交流母線を介して前記モータに電気的に接続されたメインドライバと、
少なくとも1つのアクティブフィルタであって、前記アクティブフィルタが前記交流母線に並列に接続され、前記アクティブフィルタと前記メインドライバとの両方により、前記モータを駆動するための電機子電流が形成され、前記アクティブフィルタは、前記モータの電機子電流内の高調波含有量が調整されて前記モータの電機子電流が所望の波形に改善されるように、高調波カスタマイズ電流を出力するためのものである少なくとも1つのアクティブフィルタと、
信号プロセッサと、を含み、
前記信号プロセッサは、
前記メインドライバのパワー電流と、前記アクティブフィルタの高調波カスタマイズ電流と、前記モータを駆動する電機子電流とが少なくとも含まれる電流信号を取得するための信号収集ユニットと、
記電流信号に従って、前記アクティブフィルタを制御するためのフィードバック信号を生成するためのフィルタリングユニットと、
前記フィルタリングユニットへの入力前後の前記電流信号の波形に対しデータ処理を行って、前記電流信号の基本波電流の周波数及び位相を得て、目標高調波の調節ニーズに従って、前記目標高調波に必要な所与値を確定するための制御ユニットであって、前記所与値を前記アクティブフィルタに出力し、前記アクティブフィルタを制御して、前記所与値及び前記フィードバック信号に従って該当する電流制御を実行させる制御ユニットと、
前記電流制御の出力結果に従って、前記アクティブフィルタに出力される電圧スイッチング信号のパルス幅を変調するための変調ユニットとを含む
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記アクティブフィルタには、少なくとも1つの電流コントローラが含まれ、前記アクティブフィルタにより前記電流コントローラを介して該当する次数の高調波カスタマイズ電流が制御され、前記電流コントローラは、前記メインドライバから出力される無効又は有害な電流高調波を補償するか、又は前記メインドライバが出力できない有効な電流高調波を注入するためのものである、ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記電流コントローラは、比例共振コントローラであり、前記電流コントローラは、2次バンドパスフィルタとして最適化されることができ、前記目標高調波の周波数に従って、前記2次バンドパスフィルタの通過帯域が確定され、前記電流コントローラの開ループ伝達関数は、以下の関係式が満たされるものであり、
【請求項4】
ゼロ極相殺が満たされる場合、前記電流コントローラの閉ループ伝達関数は、2次バンドパスフィルタとして最適化されることができ、前記2次バンドパスフィルタの伝達関数に従って、前記2次バンドパスフィルタの通過帯域内に前記目標高調波の周波数が収まることが保証され、2次バンドパスフィルタの伝達関数は、以下の関係式が満たされるものであり、
【請求項5】
異なる前記電流コントローラを介して該当する高調波を前記アクティブフィルタが補償する場合、異なる前記電流コントローラは相互重畳され、且つ各前記電流コントローラのゼロ極相殺後の通過帯域は互いに重なる状態にならず、前記電流コントローラの相互重畳は、以下の関係式が満たされるものであり、
【請求項6】
前記アクティブフィルタの直流側の母線電圧は、前記メインドライバの直流側の母線電圧以上、前記メインドライバの直流側の母線電圧の2倍以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項7】
前記アクティブフィルタの個数は複数でありこれら複数の前記アクティブフィルタのハードウェア接続トポロジーが一致する、ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
前記メインドライバには、三相フル制御ブリッジインバータが含まれ、前記三相フル制御ブリッジインバータの直流側が直流電源に接続され、前記三相フル制御ブリッジインバータの交流側が三相母線インダクタンスを介して前記交流母線に並列に接続され、前記三相フル制御ブリッジインバータの直流側には、大容量の直流フィルタリングコンデンサが設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項9】
前記制御ユニットは、前記フィルタリングユニットへの入力前後の前記電流信号の波形の差分に従って、前記電流信号の基本波電流の波形を確定し、前記制御ユニットは、前記基本波電流の波形に従って前記基本波電流の周波数及び位相を確定し、前記目標高調波のニーズに従って所与波形を確定し、
前記制御ユニットは、具体的に、前記所与波形と前記メインドライバのパワー電流内の高調波電流とを差分して第一偏差値を得るためのものであり、前記制御ユニットは、前記所与波形と前記モータの電機子電流内の高調波電流とを差分して第二偏差値を得て、前記第一偏差値と前記第二偏差値との合計に従って前記所与値を確定するためのものでもある、ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項10】
前記変調ユニットは、前記電流制御の出力結果をSVPWM方法で変調して電圧PWMスイッチング信号を形成し、前記PWMスイッチング信号を前記アクティブフィルタに送り出す、ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーエレクトロニクス電流変換の領域に関し、特に、マルチインバータ駆動交流モータの給電における高調波の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業の電気化が継続的に進むにつれて、より高いパワーやより高い周波数等の高い性能制御要件を満たすモータがより多く必要とされている。このような状況下では、従来のインバータのパワー容量及び従来のシングルインバータ駆動方式は、ますます限界を迎えている。
【0003】
高性能の電流制御が必要なモータでは、例えば高い電流含有量、高い電流周波数、又は高性能制御による低いキャリア比を必要とする場合、インバータには、高いハードウェア要件が求められる。
【0004】
高速モータを例にすると、高速モータは、その高周波電流特性により、高周波スイッチング可能なデバイスで制御される必要があり、従来のシングルインバータ駆動制御の状況下では、これに起因して、インバータには、非常に大きな電圧変調圧力がもたらされる。一方、例えばコンプレッサやタービンシステムのような大パワー牽引伝動システムでは、インバータの最高スイッチング周波数は、パワーエレクトロニクスデバイスのスイッチング周波数からの影響を受けるだけでなく、通常は放熱条件等の要因によっても制限され、モータの回転速度ととともに増加できない。このような状況下では、モータの回転速度が増加し続けると、モータの角周波数が徐々にインバータパワーデバイスのスイッチング周波数に近づき、インバータから出力される制御電圧の波形が低いキャリア比になるように変調されるため、モータの電機子巻線電流には、大量の低次高調波が含まれることになる。
【0005】
関連技術において、主流の改良方向は、基本的にシングルインバータをベースにした改良であり、このような改良には、モータの三相母線へのパッシブフィルタリング装置の付装、マルチレベル技術を用いたインバータ設計、又は、インバータへのより高いターンオフ速度やより良好な放熱性能となるデバイスの取り替えが含まれる。
【0006】
しかし、上記解決態様では、フィルタリング効果が十分に明らかではなく、システム内の高調波電流をある程度で抑制することしかできない。又は、より多くのパワーエレクトロニクスデバイスを使用する必要があり、信頼性要件が高く、コストが高く、運用及び保守が困難である。現在は、低いコスト及び優れたフィルタリング効果を両立させた高調波カスタマイズ態様は未だにない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行技術の欠点を解決するために、本発明の目的は、ハードウェアコストが低く、優れたフィルタリング効果を有するマルチインバータ駆動交流モータの給電における高調波の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は、マルチインバータ駆動交流モータの給電における高調波の制御装置であって、前記制御装置は、
モータを駆動して動作させるパワー電流を供給するためのメインドライバであって、交流母線に並列に接続され、交流母線を介してモータに電気的に接続されたメインドライバと、
少なくとも1つのアクティブフィルタであって、アクティブフィルタが交流母線に並列に接続され、アクティブフィルタとメインドライバとの両方により、モータを駆動するための電機子電流が形成され、アクティブフィルタは、モータの電機子電流内の高調波含有量が調整されてモータの電機子電流が所望の波形に改善されるように、高調波カスタマイズ電流を出力するためのものである少なくとも1つのアクティブフィルタと、
信号プロセッサと、を含み、
前記信号プロセッサは、
メインドライバのパワー電流と、アクティブフィルタの高調波カスタマイズ電流と、モータを駆動する電機子電流とが少なくとも含まれる電流信号を取得するための信号収集ユニットと、
電流信号内の干渉信号をフィルタアウトし、電流信号の波形を取得し、又は電流信号に従って、アクティブフィルタを制御するためのフィードバック信号を生成するためのフィルタリングユニットと、
フィルタリングユニットへの入力前後の電流信号の波形に対しデータ処理を行って、電流信号の基本波電流の周波数及び位相を得て、目標高調波の調節ニーズに従って、目標高調波に必要な所与値を確定するための制御ユニットであって、所与値をアクティブフィルタに出力し、アクティブフィルタを制御して、所与値及びフィードバック信号に従って該当する電流制御を実行させる制御ユニットと、
電流制御の出力結果に従って、アクティブフィルタに出力される電圧スイッチング信号のパルス幅を変調するための変調ユニットとを含む
ことを特徴とする制御装置を提供している。
【0009】
更に、アクティブフィルタには、少なくとも1つの電流コントローラが含まれ、アクティブフィルタにより電流コントローラを介して該当する次数の高調波カスタマイズ電流が制御され、電流コントローラは、メインドライバから出力される無効又は有害な電流高調波を補償するか、又はメインドライバが出力できない有効な電流高調波を注入するためのものである。
【0010】
更に、電流コントローラは、比例共振コントローラであり、電流コントローラは、2次バンドパスフィルタとして最適化されることができ、目標高調波の周波数に従って、2次バンドパスフィルタの通過帯域が確定され、電流コントローラの開ループ伝達関数は、以下の関係式が満たされるものであり、
ここで、Kikは、k次高調波に対する電流コントローラの共振係数を表し、Kpkは、k次高調波に対する電流コントローラの比例係数を表し、ωeは、基本波電流の角周波数を表す。
【0011】
更に、ゼロ極相殺が満たされる場合、電流コントローラの閉ループ伝達関数は、2次バンドパスフィルタとして最適化されることができ、2次バンドパスフィルタの伝達関数に従って、2次バンドパスフィルタの通過帯域内に目標高調波の周波数が収まることが保証され、2次バンドパスフィルタの伝達関数は、以下の関係式が満たされるものであり、
流コントローラに与えられるk次高調波電流の所与値であり、Lは、電流コントローラによって制御されるアクティブフィルタ内の三相インダクタンスのインダクタンス値である。
【0012】
更に、異なる電流コントローラを介して該当する高調波をアクティブフィルタが補償する場合、異なる電流コントローラは相互重畳され、且つ各電流コントローラのゼロ極相殺後の通過帯域は互いに重なる状態にならず、電流コントローラの相互重畳は、以下の関係式が満たされるものであり、
ここで、ωhnは高調波の周波数を表す。
【0013】
更に、アクティブフィルタの直流側の母線電圧は、メインドライバの直流側の母線電圧以上、メインドライバの直流側の母線電圧の2倍以下である。
【0014】
更に、異なるアクティブフィルタは、ハードウェア接続トポロジーが一致する。
【0015】
更に、メインドライバには、三相フル制御ブリッジインバータが含まれ、三相フル制御ブリッジインバータの直流側が直流電源に接続され、三相フル制御ブリッジインバータの交流側が三相母線インダクタンスを介して交流母線に並列に接続され、三相フル制御ブリッジインバータの直流側には、大容量の直流フィルタリングコンデンサが設けられている。
【0016】
更に、制御ユニットは、フィルタリングユニットへの入力前後の電流信号の波形の差分に従って、電流信号の基本波電流の波形を確定し、制御ユニットは、基本波電流の波形に従って基本波電流の周波数及び位相を確定し、目標高調波のニーズに従って所与波形を確定し、
制御ユニットは、具体的に、所与波形とメインドライバのパワー電流内の高調波電流とを差分して第一偏差値を得るためのものであり、制御ユニットは、所与波形とモータの電機子電流内の高調波電流とを差分して第二偏差値を得て、第一偏差値と第二偏差値との合計に従って所与値を確定するためのものでもある。
【0017】
更に、変調ユニットは、電流制御の出力結果をSVPWM方法で変調して電圧PWMスイッチング信号を形成し、PWMスイッチング信号をアクティブフィルタに送り出す。
【発明の効果】
【0018】
前記制御装置のメインドライバが少なくとも1つのアクティブフィルタに並列に接続され、メインドライバから出力されるパワー電流と、アクティブフィルタから出力される高調波カスタマイズ電流との両方により、モータを駆動するための電機子電流が形成され、信号プロセッサによって確定された所与値に従って、アクティブフィルタから出力される目標高調波が調節されることで、目標高調波のカスタマイズが実現され、電流信号内の高調波含有量が低減されるか、又は特定の次数の電流高調波が意図的に強化され、優れたフィルタリング効果を有するとともにコストが低い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本願の実施形態におけるマルチインバータ駆動交流モータの給電における高調波の制御装置のハードウェア接続模式図である。
図2図2は、本願の実施形態における信号プロセッサの構造模式図である。
図3図3は、本願の実施形態におけるマルチインバータ駆動交流モータの給電における高調波の制御装置の動作フローチャートである。
図4図4は、本願の実施形態におけるアクティブフィルタの複数の電流コントローラの設計模式図。
図5図5は、本願の実施形態におけるマルチインバータ駆動交流モータの給電における高調波の制御装置のシミュレーション実験効果図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
当業者が本発明の態様をより良く理解できるようにするために、以下、本発明の実施形態における図面を参照して、本発明の具体的な実施形態における技術態様を明確かつ完全に記述する。
【0021】
本願の記述において、理解すべきなのは、「第一」、「第二」といった用語は、記述の目的のみで使用され、相対的な重要性を指示又は暗示するものや、指し示される技術的特徴の数を暗黙的に示すものとして理解されてはならない。よって、「第一」や「第二」が限定されている特徴は、少なくとも1つの当該特徴を明示又は暗黙的に含み得る。
【0022】
本願は、図1に示すようなマルチインバータ駆動交流モータの給電における高調波の制御装置100を提供しており、当該制御装置100は、メインドライバ11及び少なくとも1つのアクティブフィルタ12を含む。メインドライバ11は、交流母線13に並列に接続され、メインドライバ11は、交流母線13を介してモータ14に接続される。メインドライバ11は、具体的に、モータ14を駆動して動作させる駆動電流を供給するためのものである。
【0023】
そのうち、前述したモータ14は、以下のような応用シーンに適用される。
一例として、高い電機子電流を持つモータ14の場合、モータ14を制御する半導体デバイス(例えばMOSスイッチ)のスイッチング周波数が低くされることで、モータ14が駆動時に低キャリア比の変調環境になり易くされる応用シーンである。
【0024】
別の一例として、高い電流周波数を持つモータ14の場合、電流周波数が半導体デバイスのスイッチング周波数に近づけられることで、モータ14が駆動時に低キャリア比の変調環境になり易くされる応用シーンである。
【0025】
更なる別の一例として、高性能制御が満たされるモータ14の場合、モータ14の精確な制御が実現されることで、変調環境におけるキャリア比が不十分になることが回避されるように、高キャリア比の変調環境が必要とされる応用シーンである。
【0026】
例示的に、メインドライバ11には、三相フル制御ブリッジインバータ(以下、インバータと略す)が含まれ、メインドライバ11のインバータの直流側が直流電源に接続され、メインドライバ11のインバータの交流側が三相母線インダクタンス(以下、インダクタンスを略す)を介して交流母線13に並列に接続される。図1を参照して、メインドライバ11のインダクタンスは、L0と記され、抵抗値がR0とされる。
【0027】
選択的に、実際のニーズに応じて、メインドライバ11のインバータの直流側に大容量の直流フィルタリングコンデンサを付装することもできる。
【0028】
更に、アクティブフィルタ12が交流母線13に並列に接続され、アクティブフィルタ12とメインドライバ11との両方により、モータ14を駆動するための電機子電流が形成される。アクティブフィルタ12は、具体的に、電機子電流内の高調波含有量が調整されることで電機子電流が所望の波形に改善されるように、目標次数の高調波カスタマイズ電流を出力するためのものである。
【0029】
説明すべきことは、アクティブフィルタ12は、モータ14の電機子電流内の高調波含有量を改善することだけを担うので、アクティブフィルタ12から出力される電流の周波数が高く、且つメインドライバ11に対しては、アクティブフィルタ12のパワーが低いことである。具体的に、アクティブフィルタ12の構造は、メインドライバ11の構造とほぼ一致し、アクティブフィルタ12には、メインドライバ11におけるものと同じ構造のインバータ及びインダクタンス含まれる。図1を参照して、アクティブフィルタ12のインダクタンスは、Lnと記され、抵抗値がRn(n=1、2、3…)とされる。
【0030】
アクティブフィルタ12ハードウェア設計は、アルゴリズムのパラメータ設計に関連しているため、調節する必要のある目標次数の高調波が複数存在する場合、交流母線13には、異なる周波数をそれぞれ取り扱う複数のアクティブフィルタ12が並列されるとともに、いくつかのアクティブフィルタ12が完全に同じハードウェア接続トポロジーとなるようにされてもよい。
【0031】
例示的に、図1を参照して、制御装置100には、アクティブフィルタ1、アクティブフィルタ2…、アクティブフィルタnが含まれる。アクティブフィルタ1は、目標次数の高調波に必要な所与値に従って、メインドライバ11から出力される無効又は有害な電流高調波をカスタマイズし、アクティブフィルタ2は、目標次数の高調波に必要な所与値に従って、メインドライバ11が出力できない有効な電流高調波を注入する。これにより、電流をカスタマイズする効果が実現され、その結果、電機子電流内の高調波含有量が調整されることで、電機子電流が所望の波形に改善される。上記構成は、パワーエレクトロニクスデバイスに求められるハードウェア要件が低いとともに、保守が容易である。
【0032】
メインドライバ11及びアクティブフィルタ12における直流側電圧の問題を解決するために、メインドライバ11の直流母線の電圧は、モータ14の設計電圧レベルに従って選択されるのに対して、アクティブフィルタ12について、何時でもモータ14の電機子に電流を注入できることを保証するために、アクティブフィルタ12の直流母線の電圧は、メインドライバ11の直流母線の電圧以上、メインドライバ11の直流母線の電圧の2倍以下であることが求められる。
【0033】
図1に示すように、更に、制御装置100には、信号プロセッサ15も含まれ、信号プロセッサ15がモータ14を介して交流母線13に接続されるとともに、信号プロセッサ15がメインドライバ11及びアクティブフィルタ12にそれぞれ並列に接続される。信号プロセッサ15は、モータ14の電機子電流、メインドライバ11のパワー電流に従って目標高調波に必要な所与値を確定し、アクティブフィルタにより所与値に従って、目標高調波を調節するための高調波カスタマイズ電流が生成されるように、所与値をアクティブフィルタ12に出力することができる。
【0034】
上記構成によれば、効果的に電機子電流内の高調波電流をカスタマイズし、及び/又は、メインドライバ11が出力できな有効な電流高調波を注入することができ、メインドライバ11の半導体デバイスのスイッチング周波数が低い場合、アクティブフィルタ12の投入により、電機子電流内の高調波含有量を大幅に低減できるとともに、当該制御装置100は、コストが低くて信頼性が高いものとされる。
【0035】
図2に示すように、1つの実現形態として、信号プロセッサ15は、信号収集ユニット151と、フィルタリングユニット152と、制御ユニット153と、変調ユニット154とを含む。
【0036】
具体的に、信号収集ユニット151は、メインドライバ11から出力されるパワー電流と、アクティブフィルタ12から出力される高調波カスタマイズ電流と、駆動モータ14の電機子電流とが少なくとも含まれる電流信号を取得するためのものである。信号収集ユニット151は、メインドライバ11のパワー電流isabc及び電機子電流imabcを同期座標系に変換することで、変換後のメインドライバ11のパワー電流isdq及び変換後の電機子電流imdqを得て、変換後のメインドライバ11のパワー電流isdq及び電機子電流imdqをフィルタリングユニット152に伝送する。
【0037】
更に、フィルタリングユニット152は、電流信号内の干渉信号をフィルタアウトし、電流信号の波形を取得するためのものであり、
選択的に、フィルタリングユニット152は、電流信号に従って、アクティブフィルタ12を制御するためのフィードバック信号を生成し、ここで、フィルタリングユニット152は、2次フィルタである。
【0038】
本実施形態において、制御ユニット153は、フィルタリングユニット152への入力前後の電流信号の波形に対しデータ処理を行って、電流信号の基本波電流の周波数及び位相を得て、目標高調波の調節ニーズに従って、目標高調波に必要な所与値を確定するためのものである。
【0039】
例示的に、制御ユニット153は、フィルタリングユニット152への入力前後の電流信号の波形の差分に従って電流信号の基本波電流の波形を確定し、制御ユニット153は、基本波電流の波形に従って基本波電流の周波数及び位相を確定し、目標高調波のニーズに従って所与波形を確定する。
【0040】
更に、制御ユニット153は、所与波形と変換後のメインドライバ11のパワー電流isabc内の高調波電流を差分して第一偏差値Δisを得て、また、制御ユニット153は、所与波形と変換後の電機子電流imdq内の高調波電流を差分して第二偏差値Δimを得て、第一偏差値Δisと第二偏差値Δimとを合計して、目標高調波の調節に必要な所与値Δiを得る。
【0041】
より具体的に、制御ユニット153は、信号収集ユニット151を介してアクティブフィルタ12の出力電流を取得し、事前設定された同調周波数に従って、アクティブフィルタ12の出力電流及び所与値Δiに対してデータ処理を行い、データ処理結果をリミットして、アクティブフィルタ12から該当する高調波カスタマイズ電流が出力されるようにする。
【0042】
例示的に、制御ユニット153は、アクティブフィルタ12の出力電流ifabcを取得し、座標変換によりアクティブフィルタ12の出力電流ifabcを同期座標系内に変換して、同期座標系における高調波カスタマイズ電流ifdqを得て、更に所与値Δiと同期座標系における高調波カスタマイズ電流ifdqとの偏差値を得る。アクティブフィルタ12に組み込まれた電流コントローラにより、事前設定された同調周波数に従って、偏差値に対してデータ処理が行われ、データ処理結果がリミットされた後に変調ユニット154に入力される。ここで、同調周波数は、目標高調波の周波数であり、目標高調波の周波数は、モータ14の電気周波数又はモータ14の回転周波数を検出して該当する倍数を乗じることで得ることができる。
【0043】
更に、変調ユニット154は、電流制御の出力結果をSVPWM方法で変調して電圧PWMスイッチング信号を形成し、PWMスイッチング信号をアクティブフィルタに送り出す。これにより、高調波カスタマイズ電流の出力が実現される。
【0044】
関連技術において、モータ14の運転パフォーマンスを悪化させる直接の理由は、メインドライバ11のハードウェア制限及びモータ14の電機子電流内の過剰な高調波含有量にあり、根本的な理由は、メインドライバ11のパワーエレクトロニクスデバイスがモータ14の大きなトルク(大きな電機子電流)、高い周波数(高い電気周波数)に適応できないことにある。
【0045】
本願は、図5に示すようなシミュレーション実験結果を提供しており、モータ14の電機子電流の高調波が低減されると、モータ14のトルク脈動がそれに伴って小さくなり、発熱が減少され、騒音が低減され、モータ14の長期間に亘る効率的な運転により有利となる。
【0046】
実験では、モータ14の高負荷運転シーンをシミュレートし、三相六状態BLDC駆動方式を用いており、この際、1電気周期内では、パワーエレクトロニクスデバイスのスイッチング周波数が最も低く、キャリア比が最も低くなる。メインインバータは、キャリア比が1となる最悪の条件下では、アクティブフィルタ12を用いて5次、7次の高調波のみを補償することで、目標高調波の補償率として75%超を達成することができ、5次高調波が20.3%から4.43%に減少され、7次高調波が15.8%から4.39%に減少された。
【0047】
1つの実現形態として、アクティブフィルタ12には、少なくとも1つの電流コントローラが含まれ、アクティブフィルタ12により電流コントローラを介して該当する次数の高調波電流が制御され、電流コントローラは、メインドライバ11から出力される無効又は有害な電流高調波を補償するか、又はメインドライバ11が出力できない有効な電流高調波を注入するためのものである。
【0048】
例示的に、少なくとも2つのアクティブフィルタ12の何れも、同じ高調波ペアを制御できる場合、調整する必要のある高調波電流含有量が大き過ぎるか又は他の特殊な状況が発生する可能性があるため、少なくとも2つのアクティブフィルタ12が必要とされるとともに、何れのアクティブフィルタ12にも、当該高調波ペアに対する電流コントローラが含まれることで、どのアクティブフィルタ12によっても、同じ高調波ペアに対する制御を実現できる。
【0049】
具体的に、目標高調波の次数と、使用する必要のあるアクティブフィルタ12の数を確定し、各アクティブフィルタ12に電流コントローラを割り当て、アクティブフィルタ12のインバータに用いられるチョッピング周波数を確かめる。
【0050】
ハードウェアの構築が完了した後、電流コントローラのパラメータ設計を完成させる。電流コントローラが2次バンドパスフィルタとして最適化できることを前提として、目標高調波の周波数に従って、電流コントローラの通過帯域を確かめておき、電流コントローラ開ループ伝達関数は、以下の関係式が満たされるものであり、
ここで、Kik/Kpk=R/Lであることを満たす必要があり、R及びLは、それぞれアクティブフィルタ12の電気抵抗値及びインダクタンス値を表し、Kik、Kpkは、それぞれk次高調波に対する電流コントローラの共振係数及び比例係数であり、ωeは、基本波電流の角周波数を表す。
【0051】
ゼロ極相殺の条件が満たされると、電流コントローラの閉ループ伝達関数は、2次バンドパスフィルタとして最適化されることができるようになり、2次バンドパスフィルタの伝達関数に従って、2次バンドパスフィルタの通過帯域内に目標高調波の周波数が収まることを保証され、2次バンドパスフィルタの伝達関数は、以下の関係式が満たされるものであり、
は、電流コントローラに与えられるk次高調波電流の所与値であり、Lは、電流コントローラによって制御されるアクティブフィルタ内の三相インダクタンスのインダクタンス値である。
【0052】
図4に示すように、k次高調波に対する高調波電流コントローラが上記式に従って設計された後、もし同じアクティブフィルタ12による異なる高調波の電流カスタマイズが必要となる場合、下記式に従って各電流コントローラを重畳させるとともに、各電流コントローラのゼロ極相殺後の通過帯域が互いに重ならないようにすればよく、
ここで、ωhnは、高調波の周波数を表す。
【0053】
例示的に、上記技術態様により、電機子電流内の目標高調波電流の含有量の増加(注入)又は減少(補償)を含む、電機子電流の高調波カスタマイズを実現できる。一方、もしアクティブフィルタ12が上述した2つの異なる動作状態の間で切り替える必要がある場合、目標高調波の調節に必要な所与値を調整するだけでよく、ハードウェア的な調整が必要とされない。
【0054】
以上から分かるように、アクティブフィルタ12による目標高調波の制御効果は、所与値によってのみ決定され、注入及び補償には、同じアクティブフィルタ12、ひいては同じ電流コントローラを使用して実現することが可能であり、そのためには、目標高調波の所与値を合理的に設定して、作業員による当該制御装置100の保守及び調整が容易となるようにすればよい。
【0055】
図3に示すように、例えば、電機子電流内の高調波を除去するために高調波電流を補償したい場合、所与の設定部分を0とした上で、所与の0と高調波検出部分の実際の高調波含有量とを差分すると、実際に、同等の大きさとなる逆位相補償電流が注入されることに相当する。電機子電流の高調波は、三相Y型結線の場合、通常、5、7、11、13、…等の6n±1次高調波であるが、同期座標系では±6n次数高調波となり、それに、上記比例共振コントローラが正相及び負相の高調波ペアを同時に制御できるため、補償動作状態では、制御部分の伝達関数が6nωeに同調すべきであり、即ち、伝達関数は、以下のようになり、
電機子電流内の特定の次数の高調波を意図的に増加させるために高調波電流を注入したい場合、目標高調波の同期座標系での位相及び振幅と、その同期座標系での同じ周波数である一方で逆相となる高調波の位相及び振幅とを確かめておき、同期座標系で合成した後に所与波形として生成する必要があり、制御ユニット153は、当該目標次数の高調波ペアの周波数に同調され、残りのフローが同じであるため、ここで繰り返して述べない。
【0056】
上記構成によれば、モータ14の電機子電流内の高調波電流を効果的にカスタマイズすることができ、電機子電流の高調波が低減されると、モータ14のトルク脈動がそれに伴って小さくなり、発熱が減少され、騒音が低減され、モータ14の長期間に亘る効率的な運転により有利となる。それに、上記構成におけるパワーエレクトロニクスデバイスは、コストがより低くなり、保守がより容易になる。
【0057】
例示的に、基本波周波数がωeであり、目標高調波が同期座標系に変換された後の周波数がωhであり、電流コントローラは、同期座標系で動作し、同期座標系における周波数が±ωhとなる高調波ペアを同時に制御できるものとする。その伝達関数は、以下のようになり、
Kik/Kpk=R/Lという制約が満たされると、ゼロ極相殺の原理を満たすことができ、開ループ伝達関数として、以下のように最適化され、
これにより、システムの閉ループ伝達関数は、1つの2次バンドパスフィルタとなるように縮退される。ここで、R及びLは、それぞれアクティブフィルタの三相インダクタンスの抵抗値及びインダクタンス値である。
【0058】
上記制約の要件が満たされるように設計を最適化する場合、目標高調波の同期座標系での周波数をバンドパスフィルタの中心周波数にできるだけ収めることで、コントローラの目標高調波の制御応答性を良くする必要があるとともに、2次バンドパスフィルタの通過帯域内に他の高調波ペアの所在する周波数範囲が含まれることを回避する必要もある。
【0059】
また、最適化後の電流コントローラの帯域通過特性を考慮して、もし複数の目標高調波の調節が必要であるとともに周波数が近い場合、1つのアクティブフィルタ12内に複数の電流コントローラを組み込み、Kik/Kpk=R/Lという最適化条件が満たされることを前提として、各高調波電流コントローラの設計通過帯域が互いに独立する場合に、異なる高調波ペアの電流コントローラを互いに重畳させ、それらによる制御を同時に行わせることを試してもよい。図4を参照して、同図には、アクティブフィルタにおいて複数の高調波ペアに対して電流高調波のカスタマイズを同時に行うとともに、特定の周波数の高調波を注入する電流コントローラ構造が示されている。合計で周波数がωh1、ωh2、ωh3・・・・・・となる高調波を制御する必要があると仮定すると、重畳後の電流コントローラ全体の伝達関数は、以下のようになり、
また、高調波含有量の抽出には、2次フィルタの使用が必要となり、且つ2次フィルタの伝達関数は、以下の関係式が満たされるものであり、
ここで、ωは2次フィルタの固有周波数であり、ξは減衰係数である。もし上記2次フィルタを用いた際に減衰効果が良くないと判明した場合、減衰係数を増大させるか、又はフィルタリングユニット152の出力側にさらなる2次フィルタを重畳して使用することが考えられる。電流コントローラが良好な周波数特性を持つため、図4に示すような高調波検出器の要件は、厳しいものではない。
【0060】
上記技術態様により、電機子電流内の目標高調波電流の含有量の増加(注入)又は減少(補償)を含む、電機子電流の高調波カスタマイズを実現できる。一方、もしアクティブフィルタ12が上述した2つの異なる動作状態の間で切り替える必要がある場合、図3に示すフローにおける所与の設定部分を調整するだけでよく、ハードウェア的な調整が必要とされない。しかも、留意されたいのは、アクティブフィルタ12による目標高調波の制御効果は、所与値によってのみ決定され、注入及び補償には、同じアクティブフィルタ12、ひいては、同じ電流コントローラを使用して実現することが可能であり、そのためには、目標高調波の所与値を合理的に設定すればよい。
【0061】
理解すべきなのは、当業者にとって、上記の説明に基づいて改良や変更を加えることが可能であり、これらの改良や変更は、何れも本発明の添付の特許請求の範囲による保護範囲内に含まれるべきである。
【要約】      (修正有)
【課題】マルチインバータ駆動交流モータの給電における高調波の制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、メインドライバと、信号プロセッサと、少なくとも1つのアクティブフィルタとを含み、信号プロセッサは、信号収集ユニットと、フィルタリングユニットと、制御ユニットと、変調ユニットとを含み、信号収集ユニットは、電流信号を取得するためのものであり、フィルタリングユニットは、電流信号内の干渉信号をフィルタアウトし、電流信号の波形を取得するか、又は電流信号に従ってフィードバック信号を生成するためのものであり、制御ユニットは、フィルタリングユニットへの入力前後の電流信号の波形に対しデータ処理を行って、電流信号の基本波電流の周波数及び位相を得て、目標高調波の調節ニーズに従って、目標高調波に必要な所与値を確定するものであり、変調ユニットは、電圧スイッチング信号をアクティブフィルタに出力するためのものである。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5