(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】産業車両用ニューマチック型クッションタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 7/00 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
B60C7/00 B
(21)【出願番号】P 2018133853
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-05-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2017145368
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】三木 尚之
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】植前 充司
【審判官】淺野 美奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-138713(JP,A)
【文献】特開2002-67624(JP,A)
【文献】特開平7-232508(JP,A)
【文献】特開平6-328902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径が650~700mmで、産業車両の前輪に装着される産業車両用ニューマチック型クッションタイヤであって、
トレッドが、接地面積(cm
2)×ブロック高さ(mm)が5500~6500であると共に、周方向ブロック剛性が3100~4000N/mmであり、
前記トレッドを構成するゴム組成物は、粒子径が18~25nmのカーボンブラックを、ゴム成分100質量部に対して50~65質量部含有し、100℃における損失正接が0.16以下であることを特徴とする産業車両用ニューマチック型クッションタイヤ。
【請求項2】
前記トレッドを構成するゴム組成物のゴム成分が天然ゴムとブタジエンゴムとを含有しており、前記ブタジエンゴムの含有量がゴム成分100質量部に対して10~40質量部であることを特徴とする請求項1に記載の産業車両用ニューマチック型クッションタイヤ。
【請求項3】
前記接地面積が280cm
2以上であり、前記ブロック高さが23mm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の産業車両用ニューマチック型クッションタイヤ。
【請求項4】
外径が500~550mmで、産業車両の後輪に装着される産業車両用ニューマチック型クッションタイヤであって、
トレッドが、接地面積(cm
2)×ブロック高さ(mm)が3000~4000であると共に、幅方向ブロック剛性が2000~3000N/mmであり、
前記トレッドを構成するゴム組成物は、粒子径が25~35nmのカーボンブラックをゴム成分100質量部に対して20~55質量部含有すると共に、ブタジエンゴムをゴム成分100質量部に対して10~40質量部含有し、100℃における損失正接が0.15以下であることを特徴とする産業車両用ニューマチック型クッションタイヤ。
【請求項5】
前記トレッドを構成するゴム組成物に、前記粒子径が25~35nmのカーボンブラックと共に、粒子径が18~25nmのカーボンブラックが、1:1の比率(質量比)で添加されており、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの全体量が50~65質量部であることを特徴とする請求項4に記載の産業車両用ニューマチック型クッションタイヤ。
【請求項6】
前記接地面積が190cm
2以上であり、前記ブロック高さが20mm以下であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の産業車両用ニューマチック型クッションタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業車両用ニューマチック型クッションタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
低速かつ大荷重が加わる例えばフォークリフト等の産業車両には、外観が空気入りタイヤと同様な形状をなし、空気入りタイヤに用いるリムにそのままリム組みし得る所謂ニューマチック型クッションタイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう)が多用されている。
【0003】
図3に一般的なニューマチック型クッションタイヤの構成を示す。ニューマチック型クッションタイヤ1は、リムR側に配置されたベースゴム層2とベースゴム層2の径方向外側に配置されたトレッド(キャップ)ゴム層3の2層構造を有する。なお、3Aは接地面であり、3Bは溝部であり、4はビードコアである。また、CLはセンターラインである。
【0004】
このようなタイヤが装着された産業車両は、一般的に公道ではなく劣悪な路面上を走行し、旋回の頻度も高いため、タイヤには大きな負担が掛かり摩耗しやすく、トレッドのブロックが変形して破断しやすい。また、走行時の低速かつ大荷重に伴って、タイヤが発熱してゴムのブローを招きやすい。
【0005】
そこで、従来より、トレッドゴムの配合を工夫して、硬度を高めたり、伸びを大きくすることにより、タイヤの耐摩耗性を向上させてタイヤライフの向上を図ることが提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-53005号公報
【文献】特開平10-315706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、タイヤライフの向上は未だ十分とは言えず、さらなる改善が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、タイヤの耐摩耗性を従来よりさらに向上させて、タイヤライフのさらなる向上を図ることができる産業車両用ニューマチック型クッションタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
請求項1に記載の発明は、
外径が650~700mmで、産業車両の前輪に装着される産業車両用ニューマチック型クッションタイヤであって、
トレッドが、接地面積(cm2)×ブロック高さ(mm)が5500~6500であると共に、周方向ブロック剛性が3100~4000N/mmであり、
前記トレッドを構成するゴム組成物は、粒子径が18~25nmのカーボンブラックを、ゴム成分100質量部に対して50~65質量部含有し、100℃における損失正接が0.16以下であることを特徴とする産業車両用ニューマチック型クッションタイヤである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、
前記トレッドを構成するゴム組成物のゴム成分が天然ゴムとブタジエンゴムとを含有しており、前記ブタジエンゴムの含有量がゴム成分100質量部に対して10~40質量部であることを特徴とする請求項1に記載の産業車両用ニューマチック型クッションタイヤである。
【0012】
請求項3に記載の発明は、
前記接地面積が280cm2以上であり、前記ブロック高さが23mm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の産業車両用ニューマチック型クッションタイヤである。
【0013】
請求項4に記載の発明は、
外径が500~550mmで、産業車両の後輪に装着される産業車両用ニューマチック型クッションタイヤであって、
トレッドが、接地面積(cm2)×ブロック高さ(mm)が3000~4000であると共に、幅方向ブロック剛性が2000~3000N/mmであり、
前記トレッドを構成するゴム組成物は、粒子径が25~35nmのカーボンブラックをゴム成分100質量部に対して20~55質量部含有すると共に、ブタジエンゴムをゴム成分100質量部に対して10~40質量部含有し、100℃における損失正接が0.15以下であることを特徴とする産業車両用ニューマチック型クッションタイヤである。
【0014】
請求項5に記載の発明は、
前記トレッドを構成するゴム組成物に、前記粒子径が25~35nmのカーボンブラックと共に、粒子径が18~25nmのカーボンブラックが、1:1の比率(質量比)で添加されており、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの全体量が50~65質量部であることを特徴とする請求項4に記載の産業車両用ニューマチック型クッションタイヤである。
【0015】
請求項6に記載の発明は、
前記接地面積が190cm2以上であり、前記ブロック高さが20mm以下であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の産業車両用ニューマチック型クッションタイヤである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、タイヤの耐摩耗性を従来よりさらに向上させて、タイヤライフのさらなる向上を図ることができる産業車両用ニューマチック型クッションタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る産業車両用ニューマチック型クッションタイヤの構成を示す断面図である。
【
図3】一般的な産業車両用ニューマチック型クッションタイヤの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1]本発明に係る産業車両用ニューマチック型クッションタイヤ
はじめに、本発明に係る産業車両用ニューマチック型クッションタイヤについて、その検討経過も含めて説明する。
【0019】
本発明者は、タイヤの耐摩耗性を従来よりさらに向上させて、タイヤライフ(ライフ性能)のさらなる向上を図ることができる産業車両用ニューマチック型クッションタイヤの提供について検討する中で、産業車両のタイヤの前輪と後輪における摩耗のメカニズムについて検討し、各々においてタイヤの耐摩耗性の向上に際して考慮すべき点を洗い出し、解決の手段を検討した。
【0020】
即ち、産業車両では、一般的に、前輪駆動、後輪操作方式が採用されており、大きな荷重が加わる前輪には外径が大きいタイヤが、小回りが求められる後輪には外径が小さいタイヤが使用されているが、駆動車輪である前輪(フロント)のトレッドには主として進行方向の力が作用するため、ブロックが周方向に変形して摩耗する。一方、操作車輪である後輪(リヤ)のトレッドには主として旋回による幅方向の力が作用するため、ブロックが旋回時幅方向に変形して亀裂の発生を招いて摩耗すると共に発熱して軟化する。
【0021】
そして、検討の結果、これらのタイヤの耐摩耗性を向上させるには、トレッドゴムの配合上の工夫やトレッド形状の工夫などについて個々に検討するのではなく、これらを総合的に検討する必要があることが分かった。
【0022】
即ち、タイヤの摩耗は、単に路面との摩擦で擦り減るだけでなく、ブロックの変形が関与しており、変形が大きい場合にはゴムに微細な亀裂が生じるため、摩耗が促進される。
【0023】
また、旋回時などの摩擦による発熱によっても摩耗が促進される。具体的には、発熱はゴム組成物の損失正接(tanδ)を増大させ、ブローアウトに至らないまでも耐ブロー性能を低下させるため、摩耗が促進される。
【0024】
そこで、トレッドゴムの配合上の工夫として、補強性の充填剤として用いられているカーボンブラック(以下、「CB」ともいう)の粒子径を小さくすることを考えた。粒子径の小さなCBを配合することにより、CBとゴムとの接触面積の増加を図ることができるため、ゴムの補強効果が向上して耐摩耗性が向上する。
【0025】
そして、このように、より微粒子径のCB、具体的には、前輪のトレッド用ゴム組成物には粒子径が18~25nmのCBを、後輪のトレッド用ゴム組成物には粒子径が25~35nmのCBを添加して、それぞれのゴムを補強することにより、トレッドのブロックの剛性(ブロック剛性)が上昇するため、ブロックの変形を小さくすることができ、ブロックの破断の発生を抑制することができることを確認した。
【0026】
また、このようなCBの添加は、tanδを小さく、具体的には、100℃において、前輪のトレッド用ゴム組成物で0.16以下、後輪のトレッド用ゴム組成物で0.15以下と小さくすることができるため、走行時の発熱によるゴムのブローを抑制することができる。
【0027】
さらに、微粒子径のCBによってトレッドの硬度を上げるだけでなく、ゴム成分として、天然ゴム(NR)にブタジエンゴム(以下、「BR」ともいう)が添加されたゴム成分を用いた場合、さらに、耐摩耗性が向上することを見出した。特に、後輪のゴム成分の場合、顕著な効果を発揮する。
【0028】
BRを添加することにより、マトリックス層となるNR層の中に、柔軟なBR層が形成され、トレッドにおける亀裂の進展がBR層で止まり、より摩耗し難くなる。この結果、旋回時幅方向に大きな力が掛かる後輪の耐摩耗性が大きく向上する。
【0029】
しかし、上記したトレッドゴムの配合上の工夫のみでは、耐摩耗性の向上は未だ十分とは言えない。そこで、本発明者は、さらに、トレッド形状の工夫についても検討を行い、耐摩耗性の向上には、接地面積およびブロック高さを大きくすることが必要であることに気付いた。
【0030】
接地面積およびブロック高さを大きくすることにより、タイヤが完全に摩耗される(完耗)迄に摩耗されるゴムのボリュ-ムを稼ぐことができるため、長期間、タイヤの耐摩耗性を維持してタイヤのライフ性能を向上させることができる。
【0031】
そして、このとき、接地面積(cm2)とブロック高さ(mm)との積が、一定の範囲、具体的には、前輪においては5500~6500、後輪においては3000~4000となるように設定することにより、前記したトレッドゴムの配合上の工夫による効果とも相俟って相乗的に効果が発揮され、タイヤの耐摩耗性が大きく向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0032】
即ち、本発明に係る産業車両用ニューマチック型クッションタイヤは、
外径が650~700mmで、産業車両の前輪に装着される産業車両用ニューマチック型クッションタイヤであって、
トレッドが、接地面積(cm2)×ブロック高さ(mm)が5500~6500であると共に、周方向ブロック剛性が3100~4000N/mmであり、
前記トレッドを構成するゴム組成物は、粒子径が18~25nmのカーボンブラックを、ゴム成分100質量部に対して50~65質量部含有し、100℃における損失正接が0.16以下であることを特徴とする産業車両用ニューマチック型クッションタイヤである。
【0033】
また、本発明に係る産業車両用ニューマチック型クッションタイヤは、
外径が500~550mmで、産業車両の後輪に装着される産業車両用ニューマチック型クッションタイヤであって、
トレッドが、接地面積(cm2)×ブロック高さ(mm)が3000~4000であると共に、幅方向ブロック剛性が2000~3000N/mmであり、
前記トレッドを構成するゴム組成物は、粒子径が25~35nmのカーボンブラックをゴム成分100質量部に対して20~55質量部含有すると共に、ブタジエンゴムをゴム成分100質量部に対して10~40質量部含有し、100℃における損失正接が0.15以下であることを特徴とする産業車両用ニューマチック型クッションタイヤである。
【0034】
[2]本発明の実施の形態
以下、本発明の実施の形態に基づき、図面を用いて本発明を具体的に説明する。
【0035】
1.第一の実施の形態
本実施の形態に係るタイヤは、外径が650~700mmで、産業車両の前輪に装着される産業車両用ニューマチック型クッションタイヤである。
【0036】
前記したように、駆動車輪である前輪のトレッドには主として進行方向の力が作用するため、ブロックが周方向に変形して摩耗する。
【0037】
本実施の形態に係るタイヤは、周方向のブロック剛性が大きくて、かつ耐ブロー性能に優れたタイヤとして、トレッドが、接地面積(cm2)×ブロック高さ(mm)が5500~6500であると共に、周方向ブロック剛性が3100~4000N/mmであるタイヤである。そして、このタイヤのトレッドは、粒子径が18~25nmのカーボンブラックを、ゴム成分100質量部に対して50~65質量部含有しており、100℃におけるtanδが0.16以下である。
【0038】
このような構成とすることにより、それぞれの要件が相乗的に効果を発揮して、前輪に必要なグリップ性能を維持しながら、耐摩耗性に優れた、産業車両の前輪に装着されるタイヤとして好適なタイヤを提供することができる。
【0039】
(1)トレッドの形状
図1は本実施の形態に係るタイヤの構成を示す断面図である。
図1において、3Cは踏面、31はブロック、Dはタイヤの外径、HBはブロック31の踏面3Cからの突出高さ、即ちブロック高さである。その他の符号は
図3と同じであるため、説明を省略する。
【0040】
本実施の形態においては、ゴム層をベースゴム層2とトレッドゴム層3の2層構造とする基本的な構成において
図3に示した従来の一般的なタイヤの構成と異なる点はないが、トレッド表面の形状、トレッドゴム層3を構成するゴム組成物の組成や、ブロック31の形状の設計において従来と異なっている。
【0041】
本実施の形態においては、グリップ性能に加えて、前記したブロック31の剛性を向上させ、摩耗が許容されるゴムのボリュームを大きくするという観点から、接地面積(cm2)×ブロック高さ(mm)の大きさに基づいてトレッドパターンが設定されている。具体的には、接地面積(cm2)×ブロック高さ(mm)が、5500~6500となるように設定されている。より好ましくは5650~6350であり、5800~6200であるとさらに好ましい。
【0042】
なお、本実施の形態においては、接地面積が280cm2以上であり、ブロック高さが23mm以下であることが好ましく、この条件の下、上記した接地面積(cm2)×高さ(mm)の値が、5500~6500となるように設定することにより、タイヤの耐摩耗性を十分に向上させることができる。
【0043】
そして、本実施の形態においては、さらに、トレッドを構成するゴム組成物として、周方向ブロック剛性が3100~4000N/mmで、100℃におけるtanδが0.16以下であるゴム組成物を使用する。周方向ブロック剛性を3100~4000N/mmに設定することにより、進行方向の力が作用して摩耗することを抑制することができる。より好ましくは3200~3900N/mmであり、3300~3800N/mmであるとさらに好ましい。また、100℃におけるtanδを0.16以下に設定することにより、発熱を抑制することができる。より好ましくは0.14以下であり、0.12以下であるとさらに好ましい。
【0044】
なお、上記した周方向ブロック剛性は、
図2に示すFとΔに基づいて求めることができる。
図2において、31はトレッドの踏面に隆起形成されたブロック、Mはブロック31の周方向長、HBはブロック高さである。ブロック剛性は、ブロック31のトレッド面において周方向に作用する荷重Fとブロック31が周方向に倒れて移動した距離Δとの比F/Δによって表される。また、ブロック剛性は、ゴム硬度を確定した後、ブロック31の周方向長Mおよびブロック高さHBを定めることによって設定することもできる。
【0045】
(2)トレッドゴム組成物の配合材料
次に、上記したトレッドゴム組成物に使用される配合材料について説明する。
【0046】
(a)ゴム成分
本実施の形態において、ゴム成分には主成分として天然(NR)ゴムを用いるが、ブタジエン(BR)ゴムを一部添加するとより好ましい。これにより、マトリックス層となるNR層の中に、柔軟なBR層が形成され、トレッドにおける亀裂の進展がBR層で止まり、より摩耗し難くなる。
【0047】
NRゴムとしては特に限定されず、SIR20、RSS#3、TSR20など、ゴム工業において一般的な天然ゴムだけでなく、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク天然ゴム(DPNR)などの改質天然ゴムも使用できる。なお、これらの天然ゴムは単独で使用することもできるが、2種以上を併用してもよい。
【0048】
BRとしては特に限定されず、例えば、JSR(株)製のBR730、BR51、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、BR710等の高シス含量BR、日本ゼオン(株)製のBR1250H等の低シス含量BR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等の1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含有するBR(SPB含有BR)等を使用できる。これらは、単独で使用することもできるが、2種以上を併用してもよい。
【0049】
そして、本実施の形態において、ゴム成分にBRを添加する場合には、ゴム成分100質量部におけるBRゴムの含有量は10~40質量部であることが好ましく、12~30質量部であるとより好ましく、14~25質量部であるとさらに好ましい。
【0050】
(b)カーボンブラック
本実施の形態において、カーボンブラック(CB)としては、粒子径が18~25nmのカーボンブラックが使用される。19~24nmであるとより好ましく、20~23nmであるとさらに好ましい。
【0051】
なお、CBの粒子径は、トレッドの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより求めることができる。
【0052】
このようなCBとして、具体的には、N220(ASTMコード)が挙げられ、このように微粒子径のCBを配合することにより、ゴム成分との接触面積を大きく確保してゴムを補強することができる。
【0053】
そして、ゴム成分100質量部に対してこのようなCBを50~65質量部、配合することにより、100℃におけるtanδを0.16以下とすることができ、走行時における発熱を抑制することができる。ゴム成分100質量部に対する配合量は、52~63質量部であるとより好ましく、54~61質量部であるとさらに好ましい。
【0054】
なお、本実施の形態において、上記のCBに加えて、他の粒子径のCBを5質量部程度添加してもよい。
【0055】
このとき、CBのBET比表面積は、40~300m2/gであることが好ましく、これにより、ゴムの強度を確保すると共に、十分な分散性を確保することができる。50~280m2/gであるとより好ましく、60~260m2/gであるとさらに好ましい。
【0056】
なお、CBのBET比表面積は、たとえばJIS K6217に準拠した方法により測定することができる。
【0057】
また、CBのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、充分な補強性が得られ耐亀裂成長性に優れるという点、および、ゴムの硬度を抑え低発熱性に優れるという点から、20~70m2/gであることが好ましく、25~60m2/gであるとより好ましく、25~40m2/gであるとさらに好ましい。
【0058】
なお、CBのチッ素吸着比表面積は、たとえばJIS K6217に準拠した方法により測定することができる。
【0059】
(c)その他の配合材料
本実施の形態においては、上記材料に加えて、以下に示すような、タイヤの製造に一般的に使用される配合剤を添加することができる。
【0060】
老化防止剤としては、ジフェニルアミン系(p-(p-トルエンスルホニルアミド)-ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミンなど)、p-フェニレンジアミン系(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン(IPPD)、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミンなど)などを使用することができ、具体的な一例として、大内新興化学社製「ノクラック6C」(N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン)などを挙げることができる。
【0061】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、およびそれらの混合物などを用いることができる。プロセスオイルとしては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどを挙げることができる。また、植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、サフラワー油、桐油などを挙げることができる。具体的な芳香族系プロセスオイルの一例として、H&R社製「VIVATEC500」を挙げることができる。
【0062】
加硫薬品としては、加硫剤である硫黄及び加硫促進剤を適宜使用することができる。
【0063】
硫黄としては、粉末硫黄を使用してもよいが、ゴムへの分散性を考慮すると、オイル処理粉末硫黄を使用することが好ましい。
【0064】
加硫促進剤としては、ゴム工業において一般的に粉末硫黄と組み合わせて使用される加硫促進剤が使用でき、具体的な加硫促進剤として、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系またはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、もしくは、キサンテート系加硫促進剤を挙げることができ、単独で使用することもできるが、2種以上を併用してもよい。具体的なスルフェンアミド系加硫促進剤の一例として、大内新興化学社製「ノクセラーNS」(N-tert-ブチル-2-ベンゾ チアゾリルスルフェンアミド)を挙げることができる。
【0065】
また、加硫促進助剤として、酸化亜鉛、ステアリン酸などを使用することもできる。
【0066】
上記した各配合材料が配合されたゴム組成物を用いた場合、ゴム成分との接触面積を大きく確保してゴムを補強すると共に、100℃におけるtanδが0.16以下のトレッドゴム組成物とすることができる。
【0067】
なお、上記において、100℃におけるtanδは、粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度100℃、周波数10Hz、初期歪み10%、および動歪み2%の条件下で測定することができる。
【0068】
そして、このようなトレッドゴム組成物を用いて、上記トレッドの形状とすることにより、相乗的な効果が発揮されて、前輪に必要なグリップ性能を維持しながら、耐摩耗性に優れた、産業車両の前輪に装着されるタイヤとして好適なタイヤを提供することができる。
【0069】
2.第二の実施の形態
本実施の形態に係るタイヤは、外径が500~550mmで、産業車両の後輪に装着される産業車両用ニューマチック型クッションタイヤである。
【0070】
前記したように、操作車輪である後輪のトレッドには主として旋回による幅方向の力が作用するため、ブロックが旋回時幅方向に変形して亀裂の発生を招いて摩耗すると共に発熱して軟化する。
【0071】
本実施の形態に係るタイヤは、幅方向のブロック剛性が大きくて、かつ耐ブロー性能に優れたタイヤとして、トレッドが、接地面積(cm2)×ブロック高さ(mm)が3000~4000であると共に、幅方向ブロック剛性が2000~3000N/mmであるタイヤである。そして、このタイヤのトレッドは、粒子径が25~35nmのカーボンブラックをゴム成分100質量部に対して20~55質量部含有すると共に、ブタジエンゴムをゴム成分100質量部に対して10~40質量部含有し、100℃におけるtanδが0.15以下である。
【0072】
このような構成とすることにより、それぞれの要件が相乗的に効果を発揮して、旋回時にタイヤが幅方向に大きく変形しても、亀裂の発生を抑制して摩耗を抑制すると共に、発熱を抑制することができ、産業車両の後輪に装着されるタイヤとして好適なタイヤを提供することができる。
【0073】
(1)トレッドの形状
本実施の形態においても、接地面積(cm2)×ブロック高さ(mm)の大きさに基づいてトレッドパターンが設定されている。具体的には、接地面積(cm2)×ブロック高さ(mm)が、3000~4000となるように設定されている。より好ましくは3200~3800であり、3400~3600であるとさらに好ましい。
【0074】
なお、接地面積が190cm2以上であり、ブロック高さが20mm以下であることが好ましく、この条件の下、上記した接地面積(cm2)×高さ(mm)の値が、3000~4000となるように設定することにより、タイヤの耐摩耗性を十分に向上させることができる。
【0075】
そして、本実施の形態においては、トレッドゴムとして、幅方向ブロック剛性が2000~3000N/mmで、100℃におけるtanδが0.15以下であるトレッドゴムを使用する。幅方向ブロック剛性を2000~3000N/mmに設定することにより、旋回時にタイヤが幅方向に大きく変形しても、亀裂の発生を抑制して摩耗を抑制することができる。より好ましくは2100~2900N/mmであり、2200~2800N/mmであるとさらに好ましい。また、100℃におけるtanδを0.15以下に設定することにより、発熱によるゴムのブローを抑制することができる。より好ましくは0.14以下であり、0.13以下であるとさらに好ましい。
【0076】
なお、上記した幅方向ブロック剛性は、
図2に示した周方向ブロック剛性の測定と同様にして測定することができる。具体的には、
図2におけるMはブロック31の幅とし、荷重Fを幅方向に作用する荷重として、幅方向に倒れて移動した距離Δとの比F/Δによって求めることができる。
【0077】
(2)トレッドゴム組成物の配合材料
本実施の形態においても、基本的には、上記した前輪用タイヤと同様の配合材料を使用することができる。
【0078】
但し、本実施の形態において、ゴム成分に添加されるBRゴムの量は、10~40質量部に設定する。12~30質量部であるとより好ましく、14~25質量部であるとさらに好ましい。
【0079】
そして、本実施の形態において、カーボンブラックとしては、粒子径が25~35nmのカーボンブラックが使用される。26~34nmであるとより好ましく、27~33nmであるとさらに好ましい。
【0080】
粒子径が25~35nmのCBとしては、N330(ASTMコード)を挙げることができる。
【0081】
そして、このようなCBを、ゴム成分100質量部に対して、20~55質量部、適切に配合することにより、100℃におけるtanδを0.15以下とすることができ、走行時における発熱を抑制することができる。ゴム成分100質量部に対する配合量は、25~50質量部であるとより好ましく、30~45質量部であるとさらに好ましい。
【0082】
なお、このとき、粒子径が25~35nmのカーボンブラックと共に、粒子径が18~25nm(N220)のカーボンブラックを、1:1の比率(質量比)で添加し、ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの全体量が50~70質量部となるようにしてもよい。
【0083】
上記した各配合材料を、適切に配合することにより、ゴム成分との接触面積を大きく確保してゴムを補強すると共に、100℃におけるtanδが0.15以下のトレッドゴム組成物を提供することができる。
【0084】
そして、このようなトレッドゴム組成物を用いて、上記トレッドの形状とすることにより、相乗的な効果が発揮されて、旋回時にタイヤが幅方向に大きく変形しても、亀裂の発生を抑制して摩耗を抑制すると共に、発熱を抑制することができ、産業車両の後輪に装着されるタイヤとして好適なタイヤを提供することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。
【0086】
1.試験体の作製
まず、表1の配合No.1~配合No.10に示す各配合内容に基づいて、トレッド用のゴム組成物を作製した。なお、表1には、各ゴム組成物において測定した100℃、10Hz条件でのtanδを併せて記載している。
【0087】
表1に記載の各配合材料は、具体的には以下の通りである。
NR:TSR20
SBR:JSR社製SBR1502
BR:宇部興産社製BR150B
ゴム粉:アサヒ再生ゴム社製粉末ゴム粉W2-A(30meshの加硫ゴム紛)
カーボンブラック1:昭和キャボット社製ショウブラックN220
カーボンブラック2:昭和キャボット社製ショウブラックN330
老化防止剤:大内新興化学工業社製ノクラック6C
ステアリン酸:日本油脂社製ビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業社製酸化亜鉛
オイル:H&R社製VIVATEC500
硫黄:日本乾溜工業社製セイミサルファー
加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーNS
【0088】
【0089】
次に、作製されたゴム組成物を用いて、表2、表3に示すように、トレッドパターン(接地面積×ブロック高さ)を変えて、フォークリフト用の前輪タイヤ(サイズ7.00-12:外径669mm)および後輪タイヤ(サイズ6.00-9:外径538mm)を製造した(N=6本)。
【0090】
なお、トレッドパターンは、前輪タイヤにおいては、接地面積(cm2)×高さ(mm)が、260×18(パターンA)および285×21(パターンB)の2種類とし、後輪タイヤにおいては、接地面積(cm2)×高さ(mm)が、187×16(パターンC)および205×17(パターンD)の2種類とした。
【0091】
2.評価
(1)評価方法
その後、各タイヤについて、ブロック剛性(周方向および幅方向)を測定すると共に、フォークリフトに装着して、ライフ性能(前輪タイヤにおいては直進時、後輪タイヤにおいては旋回時)を評価した。
【0092】
ライフ性能の評価は、各タイヤをフォークリフト(トヨタL&F社製、8FG25(2.5t車))に装着してコンクリート床面を走行させ、1日平均20時間で3か月間走行させた時点での摩耗量から残溝が0になるまでの時間を見積もり、これをライフとした。なお、評価は、従来例である実験例1、実験例11のライフを100とする相対指数で示し、数値が大きいほど、優れた性能であることを示している。
【0093】
(2)評価結果
(a)前輪の評価結果
前輪タイヤにおける評価結果を、表2に示す。なお、表2において、実験例5~9が実施例であり、実験例1~4、および実験例10が比較例である。
【0094】
【0095】
(b)後輪の評価結果
後輪タイヤにおける評価結果を、表3に示す。なお、表3において、実験例16~19が実施例であり、実験例11~15が比較例である。
【0096】
【0097】
表2、表3より、トレッドゴムの配合や、トレッド形状について工夫することにより、相乗的に効果が発揮され、タイヤの耐摩耗性が大きく向上して、タイヤライフが向上することが分かる。
【0098】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 ニューマチック型クッションタイヤ
2 ベースゴム層
3 トレッド(キャップ)ゴム層
3A 接地面
3B 溝部
3C 踏面
31 ブロック
4 ビードコア
CL センターライン
D タイヤの外径
F 周方向に作用する荷重
HB ブロック高さ
M ブロックの周方向長
R リム
Δ ブロックが周方向に倒れて移動した距離