(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】コンクリートとその作製方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240830BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/10
(21)【出願番号】P 2020060411
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 裕介
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋
(72)【発明者】
【氏名】繁泉 恒河
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼地 春菜
(72)【発明者】
【氏名】藤沼 智洋
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/008794(WO,A1)
【文献】特開昭52-152418(JP,A)
【文献】特開2002-293537(JP,A)
【文献】特開2019-048270(JP,A)
【文献】特開2004-217436(JP,A)
【文献】特開2013-006757(JP,A)
【文献】特表2014-513632(JP,A)
【文献】セメントの常識,日本,社団法人 セメント協会,1998年11月,p.13-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レディーミクストコンクリートを硬化させて得られるコンクリートであり、
セメント水和物、ならびに
ナトリウムとカリウムから選択される金属の炭酸塩を含み、
前記炭酸塩は、
前記金属がナトリウムの場合、ナトリウムイオン濃度が0.50重量%以上3.0重量%以下、
前記金属がカリウムの場合、カリウムイオン濃度が0.50重量%以上16重量%以下
となるように含まれ、
前記レディーミクストコンクリートを20℃で28日間硬化したときの全炭素分析によって求められる、前記セメント水和物と前記炭酸塩の総和に対する全炭素量は、
前記金属がナトリウムの場合には、1.0重量%以上2.0重量%以下であり、
前記金属がカリウムの場合には、1.0重量%以上8.0重量%以下である、コンクリート。
【請求項2】
レディーミクストコンクリートを硬化させて得られるコンクリートであり、
セメント水和物、
ナトリウムとカリウムから選択される金属の炭酸塩、ならびに
骨材を含み、
前記炭酸塩は、
前記金属がナトリウムの場合、ナトリウムイオン濃度が0.10重量%以上0.60重量%以下、
前記金属がカリウムの場合、カリウムイオン濃度が0.10重量%以上3.2重量%以下
となるように含まれ、
前記レディーミクストコンクリートを20℃で28日間硬化したときの全炭素分析によって求められる、前記セメント水和物と前記炭酸塩の総和に対する全炭素量は、
前記金属がナトリウムの場合には、1.0重量%以上2.0重量%以下であり、
前記金属がカリウムの場合には、1.0重量%以上8.0重量%以下である、コンクリート。
【請求項3】
ナトリウムとカリウムから選択される金属の水酸化物と水を含む第1の混合物を調製すること、
前記第1の混合物に対して二酸化炭素を注入することで前記金属の炭酸塩と前記水を含む第2の混合物を調製すること、および
前記第2の混合物とセメントを混合してレディーミクストコンクリートを調製することを含む、コンクリートの作製方法。
【請求項4】
二酸化炭素の前記注入は、前記第2の混合物中の前記炭酸塩の濃度が、20℃の純水における前記炭酸塩の飽和濃度の10%以上前記飽和濃度以下となるように行われる、請求項3に記載の作製方法。
【請求項5】
前記第2の混合物に添加剤を混合してから、前記第2の混合物と前記セメントを混合することをさらに含む、請求項3に記載の作製方法。
【請求項6】
ナトリウムとカリウムから選択される金属の炭酸塩を、前記金属の水酸化物と二酸化炭素を反応させることによって調製すること、
前記炭酸塩と水の混合物を調製すること、および
前記混合物とセメントを混合してレディーミクストコンクリートを調製することを含む、コンクリートの作製方法。
【請求項7】
前記混合物の前記調製は、前記混合物中の前記炭酸塩の濃度が、20℃の純水における前記炭酸塩の飽和濃度の10%以上前記飽和濃度以下となるように行われる、請求項6に記載の作製方法。
【請求項8】
前記混合物に添加剤を混合してから、前記混合物と前記セメントを混合することをさらに含む、請求項6に記載の作製方法。
【請求項9】
前記レディーミクストコンクリートを硬化することをさらに含む、請求項3または6に記載の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、コンクリートとその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、主にセメント水和物、骨材、水、および添加剤によって構成され、その優れた機械的特性、耐候性、取り扱いの容易さ、経済性などに起因し、社会的生産基盤、経済基盤を創成するための重要な構造材料の一つとして様々な分野で幅広く利用されている。セメントは、その製造時において大量の二酸化炭素を排出することが知られており、これは温室効果の原因の一つとして挙げられている。そこで、例えば特許文献1から3に開示されているように、セメントと水との混練において二酸化炭素を添加し、コンクリート中に二酸化炭素を直接または間接的に固定することが知られている。この方法により、セメントの製造時に発生した二酸化炭素が間接的に回収され、セメントの製造・利用過程における二酸化炭素の総排出量が低減される。このため、セメントの水和時における二酸化炭素固定は、地球温暖化に対する有効な手段として関心が持たれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-298738号公報
【文献】特許第6220326号公報
【文献】特許第6234697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、二酸化炭素を固定可能なコンクリートとその作製方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つはコンクリートである。このコンクリートは、セメント水和物と、ナトリウム、カリウム、およびマグネシウムから選択される金属の炭酸塩とを含む。金属がナトリウムの場合にはコンクリートのナトリウムイオン濃度は0.50重量%以上3.0重量%以下であり、金属がカリウムの場合にはコンクリートのカリウムイオン濃度は0.50重量%以上16重量%以下であり、金属がマグネシウムの場合にはコンクリートのマグネシウムイオン濃度は1.0重量ppm以上5.5重量ppm以下である。
【0006】
本発明の実施形態の一つはコンクリートである。このコンクリートは、セメント水和物と、ナトリウム、カリウム、およびマグネシウムから選択される金属の炭酸塩と、骨材とを含む。金属がナトリウムの場合、ナトリウムイオン濃度は0.10重量%以上0.60重量%以下であり、金属がカリウムの場合、カリウムイオン濃度は0.10重量%以上3.2重量%以下であり、金属がマグネシウムの場合、マグネシウムイオン濃度は0.20重量ppm以上1.5重量ppm以下である。
【0007】
本発明の実施形態の一つはコンクリートの作製方法である。この作製方法は、ナトリウム、カリウム、およびマグネシウムから選択される金属の水酸化物と水を含む第1の混合物を調製すること、第1の混合物に対して二酸化炭素を注入することで金属の炭酸塩と水を含む第2の混合物を調製すること、および第2の混合物とセメントを混合してレディーミクストコンクリートを調製することを含む。
【0008】
本発明の実施形態の一つはコンクリートの作製方法である。この作製方法は、ナトリウム、カリウム、およびマグネシウムから選択される金属の炭酸塩を、金属の水酸化物と二酸化炭素を反応させることによって調製すること、炭酸塩と水の混合物を調製すること、および混合物とセメントを混合してレディーミクストコンクリートを調製することを含む。混合物の調製は、金属がナトリウムの場合には混合物中のナトリウムイオンの濃度が1.0重量%以上9.5重量%以下となるように、金属がカリウムの場合には混合物中のカリウムイオンの濃度が2.0重量%以上65重量%以下となるように、金属がマグネシウムの場合には混合物中のマグネシウムイオンの濃度が1.0重量ppm以上16.5重量ppm以下となるように行われる。
【0009】
本発明の実施形態の一つは、コンクリートの作製方法である。この作製方法は、ナトリウム、カリウム、およびマグネシウムから選択される炭酸塩と水の混合物を調製すること、およびこの混合物とセメントを混合してレディーミクストコンクリートを調製することを含む。混合物の調製は、金属がナトリウムの場合には混合物中のナトリウムイオンが1.0重量%以上9.5重量%以下となるように、金属がカリウムの場合には混合物中のカリウムイオンが2.0重量%以上65重量%以下となるように、金属がマグネシウムの場合には混合物中のマグネシウムイオンが1.0重量ppm以上16.5重量ppm以下となるように行われる。
【0010】
本発明の実施形態の一つは、ナトリウム、カリウム、およびマグネシウムから選択される炭酸塩、水、ならびに添加剤を含む混合物である。混合物中の炭酸塩の濃度は、金属がナトリウムの場合には1.0重量%以上9.5重量%以下の濃度でナトリウムイオンが、金属がカリウムの場合には2.0重量%以上65重量%以下の濃度でカリウムイオンが、金属がマグネシウムの場合には1.0重量ppm以上16.5重量ppm以下でマグネシウムイオンが混合物に含まれるように調整される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態の一つであるコンクリートの作製方法を示すフローチャート。
【
図2】本発明の実施形態の一つであるコンクリートの作製方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について、図面等を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0013】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0014】
コンクリートとは、狭義には砂や砂利などの骨材とセメント水和物を含む建設資材を指す場合があるが、本明細書では、コンクリートとは、原料であるセメントが水と反応して生成する水和物が硬化し、流動性を示さないものを指す。したがって、以下の説明では、骨材を含まないセメントペーストのみならず、骨材として砂利を含むセメント水和物であるモルタルもコンクリートに含まれる。一方、セメントと水を含む混合物が完全に硬化せずに流動性を有する状態はレディーミクストコンクリート(生コンクリートとも呼ばれる)と記す。
【0015】
本発明の実施形態の一つは、コンクリートとそれを含む建設資材、およびコンクリートの作製方法である。以下、これらの項目について説明する。
【0016】
1.コンクリート
本実施形態に係るコンクリートは、基本的な成分として、セメント水和物、および周期表第1族金属と第2族元素から選択される金属の炭酸塩を含む。本明細書では、金属の炭酸塩を単に炭酸塩とも記す。上記金属としては、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウムなどが挙げられる。後述するように、炭酸塩は二酸化炭素に由来するため、このコンクリートには二酸化炭素が固定されると言える。理由は後述するが、炭酸塩として炭酸カリウムまたは炭酸ナトリウムを用いることにより、コンクリートはより多くの二酸化炭素を固定することができる。
【0017】
セメント水和物は、原料であるセメントが水と反応(水和)することによって形成される。セメントの組成に制約はなく、例えばエーライトとも呼ばれる、主にケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2)を含む鉱物、ビーライトとも呼ばれる、主にケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2)を含む鉱物、アルミネート相を形成するアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al2O3)を主に含む鉱物、およびフェライト相を形成するアルミン酸四カルシウム(4CaO・Al2O3・Fe2O3)を主に含む鉱物の少なくとも一つを含む。あるいはこれらの鉱物の複数種を含むセメントを用いてもよい。例えばポルトランドセメントを用いることができ、この場合、約55重量%の3CaO・SiO2と約20重量%の2CaO・SiO2が主成分となる。これらの鉱物は水と水和し、セメント水和物として、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、CaO・SiO2・2.5H2O、CaO・Al2O3・Ca(OH)2・18H2O、CaO・Fe2O3・Ca(OH)2・18H2Oなどの混合物を与える。
【0018】
含まれる炭酸塩に起因し、本発明の実施形態の一つに係るコンクリートは金属イオンを含む。金属イオンの濃度は、金属がナトリウムの場合にはコンクリートに対して0.50重量%以上3.0重量%以下であり、金属がカリウムの場合にはコンクリートに対して0.50重量%以上16重量%以下であり、金属がマグネシウムの場合にはコンクリートに対して1.0重量ppm以上5.5重量ppm以下である。換言すると、コンクリートは、上記濃度範囲で金属イオンが存在するように炭酸塩を含む。
【0019】
コンクリート中の金属イオンの測定は、コンクリートを粉砕し、金属イオンを蛍光X線分析法を利用して定量すればよい。
【0020】
本実施形態に係るコンクリートは、含まれる炭酸塩に起因して炭素を含む。コンクリート中の全炭素量も炭酸塩の量によって任意に調整することができる。例えば炭酸塩が炭酸ナトリウムである場合、セメント水和物と炭酸塩の総和に対する全炭素量は、1.0重量%以上2.0重量%以下、1.1重量%以上1.8重量%以下、あるいは1.1重量%以上1.6重量%以下の範囲から適宜選択される。金属がカリウムの場合には、1.0重量%以上8.0重量%以下、1.5重量%以上7.0重量%以下、または2.0重量%以上6.0重量%以下から適宜選択される。金属がマグネシウムの場合には、0.1重量%以上3.0重量%以下、0.30量%以上2.7重量%以下、または0.50重量%以上2.5重量%以下から適宜選択される。
【0021】
全炭素量は、例えば全炭素分析(TC分析)によって求めることができる。具体的には、粉砕されたコンクリートを白金などの酸化触媒の存在下、高温(例えば680℃)に加熱し、生成する二酸化炭素を非分散型赤外線ガス分析などの赤外分析法を用いて定量することで全炭素量を求めることができる。
【0022】
本実施形態に係るコンクリートはさらに、骨材を含んでもよい。骨材により、コンクリートに機械的・物理的強度を付与することができ、さらにコンクリートの体積を増大させることができる。骨材としては砂や砂利、玉石(たまいし)、岩、砕石、砕砂などが例示される。コンクリート中における骨材の重量に制約はなく、コンクリートの重量の10%以上90%以下、20%以上70%以下、あるいは25%以上60%以下の範囲から選択される。骨材は大きさによって粗骨材と細骨材に分類することができるが、本発明の実施形態の一つに係るセメントでは骨材の大きさに制約はなく、粗骨材と細骨材のいずれを用いてもよい。また、粗骨材と細骨材の重量比や体積比も任意に決定すればよい。
【0023】
骨材が含まれる場合には、コンクリート中に含まれる金属イオン濃度は相対的に低下する。例えば金属がナトリウムの場合、コンクリートに対してナトリウムイオンが0.10重量%以上0.60重量%以下となるように炭酸塩がコンクリートに含まれてもよい。金属がカリウムの場合、コンクリートに対してカリウムイオンが0.10重量%以上3.2重量%以下となるように炭酸塩がコンクリートに含まれてもよい。金属がマグネシウムの場合、コンクリートに対してマグネシウムイオンが0.20重量ppm以上1.5重量ppm以下となるように炭酸塩がコンクリートに含まれてもよい。
【0024】
本実施形態に係るコンクリートはさらに、添加剤を含んでもよい。添加剤の種類や濃度にも制約はない。例えば、コンクリートを与えるレディーミクストコンクリートの凍結を防止したり空気連行性を高めるためのAE剤(気泡分散剤)や、レディーミクストコンクリートの流動性を増大する流動化剤、レディーミクストコンクリートの粘性を増大させるまたは水中での施工を可能にするための増粘剤(分離低減剤、不分離性混和剤とも呼ばれる)、レディーミクストコンクリートの硬化を促進するための急結剤、セメントに対する分散作用により流動性を改善するための減水剤(AE減水剤、高性能AE減水剤とも呼ばれる)などを使用することができる。
【0025】
AE剤や流動化剤としては、オキシカルボン酸(ヒドロキシカルボン酸)塩、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩、スチレンスルホン酸共重合体塩などの、コンクリート中に空気泡を発生させる界面活性剤が例示される。増粘剤としては、メチル化セルロースなどのセルロース誘導体やポリアクリルアミド、グリコール系高分子などが例示される。急結剤としては、ナトリウムやカルシウム、マグネシウムの塩化物や硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩などが挙げられ、例えば塩化カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウムなどが例示される。あるいは、アクリル酸のナトリウム塩やカルシウム塩、アミン化合物などの有機化合物を急結剤として用いてもよい。減水剤としては、例えばポリカルボン酸、ポリオール、リグニンスルホン酸塩、オキシカルボン酸塩、アミノスルホン酸塩などの界面活性剤が例示される。添加剤の量も任意であり、例えばセメントの重量に対して0.01%以上5%以下、あるいは1%以上3%以下の添加剤を用いればよい。
【0026】
本実施形態に係るコンクリートはさらに、未水和のセメントを含んでもよい。この場合、未水和のセメントの量は、コンクリートの重量に対して0%よりも大きく10%以下、0%よりも大きく5%以下、あるいは0%よりも大きく3%以下となるように調整される。水和はセメントと水との化学反応であるため、未水和セメントの量は、水和時の水の量によって調整される。
【0027】
実施例でも示されるように、本発明の実施形態の一つに係るコンクリートは、高い組成比で炭酸塩を含む。以下に述べるように、これらの炭酸塩は二酸化炭素に由来するため、本発明の実施形態の一つに係るコンクリートは、大量の二酸化炭素を炭酸塩の形で固定することになる。したがって、このコンクリートの利用は、温室効果ガスの削減による環境保全に大きく寄与する。
【0028】
2.コンクリートの作製方法
図1に、本発明の実施形態の一つに係るコンクリートの作製方法の一例のフローチャートを示す。
図1に示すように、まず、金属の水酸化物と水を含む第1の混合物を調製する。金属としては、上述した第1族金属または第2族元素が挙げられ、具体的にはナトリウム、カリウム、およびマグネシウムから選択される一つまたは複数の金属が挙げられる。第1の混合物は溶液でもよく、懸濁液でもよい。その後、第1の混合物に二酸化炭素を注入する。水酸化物と二酸化炭素との反応によって金属の炭酸塩が生成し、その結果、炭酸塩と水を含む第2の混合物が生成する。第2の混合物も溶液でもよく、懸濁液でもよい。
【0029】
第1の混合物中の水酸化物の量は、二酸化炭素の注入によって生成する第2の混合物中の炭酸塩の濃度、または第2の混合物に含まれる水に溶解している炭酸塩の濃度が、20℃の純水における炭酸塩の飽和溶解度の10%以上飽和溶解度以下、飽和溶解度の30%以上飽和溶解度以下、あるいは飽和溶解度の50%以上飽和溶解度以下となるように調整することが好ましい。具体的には、炭酸塩が炭酸ナトリウムの場合にはナトリウムイオンが1.0重量%以上9.5重量%以下で、炭酸塩が炭酸カリウムの場合にはカリウムイオンが2.0重量%以上65重量%以下で、炭酸塩が炭酸マグネシウムの場合にはマグネシウムイオンが1.0重量ppm以上16.5重量ppm以下で第2の混合物に含まれるように第1の混合物を調製すればよい。したがって、高い溶解度を示す炭酸カリウムや炭酸ナトリウムを用いることにより大量の炭酸塩をコンクリート内に固定することが可能であり、その結果、より多くの二酸化炭素の固定が可能となる。なお、上記濃度を超える濃度で水酸化物を用いてもよい。この場合、二酸化炭素の注入によって炭酸塩が析出するため、第2の混合物は懸濁液として得られる。引き続く工程では、この懸濁液を直接使用してもよく、あるいは懸濁液の上澄みを使用してもよい。あるいは濾過などによって析出した炭酸塩を除去し、得られる溶液を使用してもよい。
【0030】
二酸化炭素の注入方法にも制約はなく、例えば第1の混合物を攪拌しながらその液面に対して供給してもよく、ディフューザーなどの複数の微細な開口を有するノズルを第1の混合物中に設置し、この開口を介して二酸化炭素をバブリングしてもよい。あるいは、ドライアイスとして第1の混合物に加えてもよい。
【0031】
二酸化炭素の注入量は、第1の混合物の重量をモニターし、第1の混合物中の水酸化物がすべて炭酸塩に変化したと仮定したときの重量に達した時に二酸化炭素の注入が完了したと判断すればよい。あるいは、第1の混合物のpHが5以上13以下となるように二酸化炭素の注入を行ってもよい。
【0032】
二酸化炭素の供給源に制約はなく、例えばボンベに注入された二酸化炭素でもよい。あるいは、二酸化炭素を大量に排出する施設(化学プラント、ゴミ焼却施設、火力発電所、あるいは各種工場など)で発生する排気ガスに対して脱塵、脱硫、脱硝などを行うことで精製して得られる二酸化炭素を利用してもよい。この場合、コンクリートを作製するための装置や施設は、二酸化炭素を排出する施設内、または当該施設付近に配置することが好ましい。これにより、二酸化炭素を運搬するためのコストが削減され、これに伴う二酸化炭素の更なる排出が防止される。
【0033】
一方、原料となるセメントは、水の非存在下においてミキサーなどの撹拌機を用いて攪拌(空練)する(
図1)。攪拌時間は30秒以上1時間以下、30秒以上15分以下、あるいは30秒以上5分以下とすればよい。この際、骨材をセメントに加えてもよい。セメントと骨材の量は、コンクリートに要求される強度や大きさに応じて適宜決定される。
【0034】
次に、空練されたセメントまたはセメントと骨材の混合物に対し、第2の混合物加えて攪拌(本練)する。セメントと第2の混合物の比も任意に設定することができる。例えばセメントに対する第2の混合物の重量比(水セメント比)は、30%以上70%以下、または40%以上60%以下の範囲から選択でき、典型的には50%である。攪拌時間も任意であり、例えば90秒以上3時間以下または5分以上2時間以下の範囲から選択してもよい。必要に応じ、添加剤を加えて攪拌してもよい。添加剤は、本練の前に第2の混合物に添加してもよく、あるいは本練の際に第2の混合物とセメントの混合物に添加してもよい。この操作によってセメントの水和が開始され、本練によってレディーミクストコンクリートが形成される。
【0035】
この後、コンクリートを使用する場所へ適宜レディーミクストコンクリートを運搬し、打設する。レディーミクストコンクリートが硬化することで本発明の実施形態の一つに係るコンクリートが作製される。コンクリートの形状も任意に決定すればよく、例えばセメント煉瓦として利用可能な大きさと形状でコンクリートを形成してもよく、橋や高架橋の橋脚、高層ビルの柱、高層ビル、ダムなどの大型建造物のフーチングなどに利用可能な大きさと形状でコンクリートを形成してもよい。このように、本発明の実施形態の一つに係るコンクリートは各種建設資材として活用することができる。
【0036】
本発明の実施形態の一つに係るコンクリートの作製方法は上述した方法に限られず、例えば変形例として
図2に示すフローによって作製してもよい。具体的には、金属の炭酸塩を出発原料として用い、これを水に加え、炭酸塩と水を含む混合物を調製してもよい。この混合物も溶液でもよく、懸濁液でもよい。この混合物を本練に用いることで、本発明の実施形態の一つに係るコンクリートが作製される。金属の炭酸塩は、対応する金属の水酸化物と二酸化炭素を反応させることで調製すればよい。
【0037】
上述したコンクリートの作製方法では、二酸化炭素が炭酸塩の生成に用いられ、二酸化炭素は炭酸塩としてコンクリート内に固定される。例えば、炭酸ナトリウムが飽和濃度(22g/100mL)で第2の混合物に含まれる場合を想定する。この場合、1000gの水に166gの水酸化ナトリウムを溶解して第1の混合物を調製し、水酸化ナトリウムを定量的に二酸化炭素を反応させて第2の混合物を調製する。この第2の混合物を水セメント比が50%でセメントと混合すると、セメントの密度が3.16であれば3220gのコンクリートが得られ、この中に220gの炭酸ナトリウムが含まれる。したがって、このコンクリートには91g(すなわち、2.83重量%)の二酸化炭素が固定されたことになる。同様に、飽和濃度の1/2と1/4の濃度で炭酸ナトリウムが含まれるように第2の混合物を調製した場合には、それぞれ1.46重量%、0.74重量%の二酸化炭素を固定することができる。金属水酸化物として水酸化カリウムを用い、第2の混合物中の炭酸カリウムの濃度が飽和濃度(20℃の水において120g/100mL)となるように第1の混合物を調製した場合には、8.65重量%もの二酸化炭素を固定することができる。金属水酸化物として水酸化マグネシウムを用い、第2の混合物中の炭酸マグネシウムの濃度が飽和濃度(25℃の水において0.101g/100mL)となるように第1の混合物を調製した場合には、3.10ppmの二酸化炭素を固定することができる。一方、飽和炭酸水を用いて水セメント比50%で本練を行って作製されるコンクリート中には、最大でも0.1重量%の二酸化炭素しか固定できない。したがって、本発明の実施形態の一つに係るコンクリートを利用することで、温室効果ガスである二酸化炭素の削減を通して環境保全に大きく寄与することができる。
【実施例】
【0038】
本実施例では、金属の水酸化物として水酸化ナトリウムを用いてコンクリートを作製した例について述べる。
【0039】
1.試料の調製
まず、濃度が異なる水酸化ナトリウム水溶液を三つ調製した。具体的には、1000gの水に対して水酸化ナトリウムを加え、3.99重量%、7.12重量%、および14.2重量%の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を調製した。これらの水酸化ナトリウムの濃度は、水酸化ナトリウムと二酸化炭素が定量的に反応した場合、それぞれ20℃の水に対する炭酸ナトリウムの飽和濃度(22g/100mL)の1/4、飽和濃度の1/2、および飽和濃度を与える。以下、これらの水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ試料A1、試料B1、試料C1と記す。
【0040】
試料A1、試料B1、試料C1のそれぞれにポリテトラフルオロエチレン製チューブを挿入し、このチューブを介して気体の二酸化炭素を20℃でバブリングさせた。バブリング中、各試料の重量をモニターし、試料A1、試料B1、試料C1のそれぞれの重量が1055g、1110g、1220gとなった時点で水酸化ナトリウムから炭酸ナトリウムへの反応が終了したと判断し、二酸化炭素のバブリングを停止した。試料A1、試料B1、試料C1から調製されたこれらの炭酸ナトリウム水溶液を、それぞれ試料A2、試料B2、試料C2と呼ぶ。なお、比較例の試料として1000gの純水を用いた。比較例では二酸化炭素のバブリングは行わなかった。
【0041】
次に、試料A2、試料B2、試料C2、および比較例の試料に対してそれぞれ日本産業規格(JIS)R5210:2019で定められる普通ポルトランドセメントを加え、20℃で90秒攪拌した。このときの水セメント比は50%であった。得られたレディーミクストコンクリートを20℃で28日間硬化させ、コンクリートを得た。以下、試料A2、試料B2、試料C2、および比較例の試料を用いて得られたコンクリートを、それぞれ実施例1、実施例2、実施例3、比較例1と記す。
【0042】
2.評価
実施例1から3と比較例1に対してTG/DTA測定とTC測定を行った。TG/DTA測定とTC測定では、それぞれリガク社製熱重量示差熱分析計(型番:Thermo Plus EVO2)と株式会社島津製作所社製全有機体炭素測定装置・固体試料燃焼装置(型番:TOC-V・SSM-5000A)を用いた。TG/DTA測定では、窒素雰囲気(流量300mL/分)で粉砕した試料を昇温速度10℃/分で1000℃まで加熱し、450℃付近および700℃から800℃における重量変化から試料中含まれる水酸化カルシウムと炭酸カルシウムの重量をそれぞれ求めた。なお、参照試料としては、酸化アルミニウムを用いた。TC測定では、粉砕した試料を燃焼管内で900℃に加熱し、生成する二酸化炭素を上記全有機体炭素測定装置・固体試料燃焼装置に含まれる非分散型赤外線ガス分析計を用いて全炭素量を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
【0044】
3.考察
3-1.TG/DTA測定
TG/DTA測定より、比較例1の水酸化カルシウムの含有量は実施例1から3のそれと比較して高い。これは、比較例1を作製する際の水に炭酸ナトリウムが含まれておらず、その結果相対的に水酸化カルシウムの含有量が高いためである。
【0045】
実施例1から3の試料の作製時に導入された二酸化炭素は、主に炭酸ナトリウムとして存在するが、一部は導入された二酸化炭素とセメント中に含まれるカルシウムイオンとの反応によって生じる炭酸カルシウム、あるいはセメントに元来含まれる炭酸カルシウムとしても存在する。一方、比較例1の試料の作製時には、炭酸ナトリウムを与える水酸化ナトリウムは使用されず、二酸化炭素も導入されていないが、セメントに元来含まれる炭酸カルシウムが微量に存在する。したがって、TG/DTA測定で得られる炭酸カルシウムの含有量から、実施例1から3の試料内に固定された二酸化炭素の相対的な量を比較することができる。具体的には、例えば実施例2の場合、その炭酸カルシウムの含有量(5.87重量%)から比較例1の炭酸カルシウムの含有量(1.50重量%)を減じた値(4.37重量%)が二酸化炭素の導入によって増大した炭酸カルシウムの含有量である。この炭酸カルシウム中の二酸化炭素の量は、この値と(二酸化炭素の分子量/炭酸カルシウムの分子量)の積であり、表1に示すように1.92重量%という二酸化炭素固定量が算出される。この値はあくまで炭酸カルシウムの含有量から見積もられた値であるため、炭酸ナトリウムの形で固定された二酸化炭素は含まれない。しかしながら表1の結果から、本発明の実施形態に係るコンクリートに二酸化炭素が確実に固定され、コンクリート全体の重量に対して少なくとも約2重量%の二酸化炭素が固定できることが理解される。
【0046】
3-2.TC測定
TC測定より、比較例1の全炭素量は実施例1から3のそれと比較して低い。これは、比較例1を作製する際には二酸化炭素は導入されておらず、その結果、炭素源としては元来セメントに含まれていた炭酸カルシウムや空気中の二酸化炭素によって生成した炭酸塩などに限られるからである。これに対し、実施例1から3では、二酸化炭素の導入によって炭酸ナトリウムが生成するため、相対的に全炭素量が高い。
【0047】
TC測定から得られる全炭素量から固定された二酸化炭素の量を算出することができる。具体的には、例えば実施例2の場合、その全炭素量(1.40重量%)から比較例1の全炭素量(0.73重量%)を減じた値(0.67重量%)が二酸化炭素の導入によって増大した全炭素量である。この全炭素量と(二酸化炭素の分子量/炭素の分子量)の積が試料中に固定された二酸化炭素の量であり、表1に示すように1.40重量%という二酸化炭素の固定量が算出される。表1の結果から、本実施形態のコンクリートでは非常に多くの二酸化炭素が固定され、実施例3ではコンクリート全体の重量に対して3.15重量%もの二酸化炭素が固定できることが理解される。なお、TC測定から見積もられる二酸化炭素の固定量は、上述した計算値よりも高いが、これは測定誤差に起因しているものと考えられる。
【0048】
上述したように、本発明の実施形態の一つに係るコンクリートには、金属の炭酸塩が含まれ、このため、炭酸塩に由来する金属イオンが存在する。コンクリートに含まれる金属イオンの含有量は仕込み比から算出することができ、金属がナトリウムの場合には、表1に示すように、2重量%を超える炭酸塩が含まれることが理解される。
【0049】
本実施例から理解されるように、本発明の実施形態の一つに係るコンクリートを用いることで、大量の二酸化炭素を金属の炭酸塩として固定することが可能である。このため、このコンクリートを利用することで、温室効果ガスの削減を通じた環境保全に寄与することができる。
【0050】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0051】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。