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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】架橋型樹脂分散セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/417 20210101AFI20240830BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240830BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240830BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20240830BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240830BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20240830BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240830BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240830BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240830BHJP
   H01G 11/18 20130101ALN20240830BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M10/0566
H01M10/0585
H01M10/0587
H01M10/0568
H01M10/0525
H01G11/06
H01G11/52
H01M50/403 A
H01M50/403 B
H01M50/403 Z
H01G11/18
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020082509
(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公開番号】P2021036515
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2019153776
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】張 シュン
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-216964(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1955911(KR,B1)
【文献】国際公開第2011/108235(WO,A1)
【文献】特開2017-203145(JP,A)
【文献】特開2002-246000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-497
H01M 10/052-0587
H01G 11/06
H01G 11/52
H01G 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(1)シラングラフト変性ポリプロピレン(A)、超高分子量ポリエチレン(B)、及び可塑剤を押出し、冷却固化させ、前記(A)と前記(B)の質量比((A)/(B))が2/98~80/20のシートを成型加工するシート成形工程;
(2)前記シートを延伸して延伸物を得る延伸工程;
(3)前記延伸物から可塑剤を抽出して多孔体を形成する多孔体形成工程
(4)前記多孔体に対して熱処理を行い、熱処理多孔体を得る熱処理工程;
(5)前記熱処理多孔体を、水と有機物に両親媒性のある有機溶剤中に浸漬させ、親和性処理多孔体を得る親和性処理工程;
(6)前記親和性処理多孔体を、有機金属含有触媒と水の混合物に接触させるか又は塩基溶液若しくは酸溶液に浸漬させ、シラン架橋構造を有する架橋処理多孔体を形成する架橋処理工程;及び
(7)前記架橋処理多孔体を水洗して乾燥させる水洗乾燥工程;
を含む蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のポリエチレン中に、架橋型樹脂としてのシラングラフト変性ポリプロピレンを好適に分散させたセパレータ(蓄電デバイス用セパレータ)等に関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、種々の物質の分離膜又は選択透過分離膜、及び隔離材等として広く用いられており、その用途例としては、精密ろ過膜、燃料電池用又はコンデンサー用セパレータ、機能材を孔の中に充填させて新たな機能を発現させるための機能膜の母材、及び電池用セパレータ等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン製微多孔膜は、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話、及びデジタルカメラ等に広く使用されているリチウムイオン電池用セパレータ、及びその構成材料として好適に使用されている。
【0003】
電池安全性を確保するため、セパレータには、シャットダウン機能の発動と破膜温度の向上の両立が求められている。例えば、特許文献1には、リチウムイオン電池用セパレータに含まれるポリオレフィン樹脂の高次物性を調整することが記載されている。また、特許文献2には、結晶化度とゲル分率領域を調整して、電池内部の短絡による発熱をシャットダウン機能で抑制し、かつ、電池セル内で部分的に高温部位が発生しても破膜しない(170℃以上でのブレイクダウン)性能を確保することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-216964号公報
【文献】国際公開第97/44839号
【文献】特開平11-144700号公報
【文献】特開平11-172036号公報
【文献】特開2001-176484号公報
【文献】特開2000-319441号公報
【文献】特開2017-203145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、モバイルデバイス搭載用途又は車載用途のリチウムイオン電池の高出力化と高エネルギー密度化が進んでいる。そのため、使用されるセパレータとして、高品位(例えば、セパレータ中の樹脂凝集物が少ない)なものが望まれている。蓄電デバイスに対する安全性の水準についても以前より厳格となっており、特許文献1~7で想定されるよりも一層の、シャットダウン機能と高温破膜性が求められている。
【0006】
なお、特許文献3において、押出工程時にマスターバッチ触媒を用いると、押出機内でシラン変性ポリエチレンの架橋反応が進行し、セパレータ中に樹脂凝集物が発生する可能性が生じる。また、特許文献4においては、シラン架橋反応を十分に進行させることができない可能性があり、高温耐破膜性を得ることが難しい。
また、特許文献7に記載の耐熱性樹脂微多孔膜は、乾式法で多孔化された膜に対して光重合性塗工液を塗工することで得られるものにすぎない。そして、特許文献7の実施例5では、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の低分子量シランカップリング剤を多孔膜に添加している。一方、低分子量シランカップリング剤は、湿式法で多孔化のために用いられる可塑剤と反応又は結合し易いため、仮に低分子量シランカップリング剤を湿式法に用いると、低分子量シランカップリング剤と多孔膜の樹脂との結合が起き難くなると予想される。
【0007】
更に、特許文献3~7に記載のセパレータを用いた電池は、サイクル特性が悪く、また長期使用時においては、電池内で予期できない副反応を誘発することで電池安全性の低下が懸念される。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みて、シャットダウン機能と高温破膜性を両立させることで、蓄電デバイスの高い安全性(釘刺し試験より評価される、内部最大発熱速度の抑制と電圧低下時間の確保)を確保可能な蓄電デバイス用セパレータを提供することを目的とする。また、本発明は、かかる蓄電デバイス用セパレータを含む、リチウムイオン二次電池、及び蓄電デバイス、並びにかかる蓄電デバイス用セパレータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ポリエチレンと、架橋型樹脂としてのシラングラフト変性ポリプロピレンとを所定の割合で用いることで上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
シラングラフト変性ポリプロピレン(A)とポリエチレン(B)の質量比{(A)/(B)}が2/98~80/20である蓄電デバイス用セパレータ。
[2]
熱機械分析(TMA)により測定される破膜温度が170~210℃である、[1]に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[3]
以下の工程:
(1)シラングラフト変性ポリプロピレン(A)、超高分子量ポリエチレン(B)、及び可塑剤を押出し、冷却固化させ、前記(A)と前記(B)の質量比((A)/(B))が1/99~80/20のシートを成型加工するシート成形工程;
(2)前記シートを延伸して延伸物を得る延伸工程;
(3)前記延伸物から可塑剤を抽出して多孔体を形成する多孔体形成工程;及び
(4)前記多孔体に対して熱処理を行い、熱処理多孔体を得る熱処理工程;
を含む蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[4]
以下の工程:
(5)前記熱処理多孔体を、水と有機物に両親媒性のある有機溶剤中に浸漬させ、親和性処理多孔体を得る親和性処理工程;
(6)前記親和性処理多孔体を、有機金属含有触媒と水の混合物に接触させるか又は塩基溶液若しくは酸溶液に浸漬させ、シラン架橋構造を有する架橋処理多孔体を形成する架橋処理工程;及び
(7)前記架橋処理多孔体を水洗して乾燥させる水洗乾燥工程;
を更に含む、[3]に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[5]
以下の工程;
(2-ア)電極と[1]又は[2]に記載の蓄電デバイス用セパレータとの積層体又は捲回体を収納している外装体、及び非水電解液を用意する準備工程と、
(2-イ)前記非水電解液を前記外装体に注ぐ注液工程と、
を含む蓄電デバイスの製造方法。
[6]
前記注液工程中又は前記注液工程後、前記蓄電デバイス用セパレータと前記非水電解液を接触させることにより、前記蓄電デバイス用セパレータに含まれるシラングラフト変性ポリオレフィンのシラン架橋反応を開始する、[5]に記載の蓄電デバイスの製造方法。
[7]
前記非水電解液が、フッ素含有リチウム塩を含む、[5]又は[6]に記載の蓄電デバイスの製造方法。
[8]
前記非水電解液が、酸溶液又は塩基溶液である、[5]~[7]のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
[9]
以下の工程:
(2-ウ)前記外装体中の前記電極又は前記外装体から露出した前記電極にリード端子を接続する端子接続工程と、
(2-エ)少なくとも1サイクルの充放電を行う充放電工程と、
を更に含む、[5]~[8]のいずれか1項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
[10]
正極と、負極と、[1]又は[2]に記載の蓄電デバイス用セパレータと、非水電解液とを含むリチウムイオン二次電池。
[11]
正極と、負極と、[1]又は[2]に記載の蓄電デバイス用セパレータと、非水電解液とを含む蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、蓄電デバイス用セパレータのシャットダウン機能と高温耐破膜性を両立させることで、蓄電デバイスの高い安全性(釘刺し試験より評価される、内部最大発熱速度の抑制と電圧低下時間の確保)を確保できる、蓄電デバイス用セパレータを提供できる。また、本発明によれば、かかる蓄電デバイス用セパレータを含む、リチウムイオン二次電池、及び蓄電デバイス、並びにかかる蓄電デバイス用セパレータの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という)を説明するが、本発明は本実施形態のみに限定されない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。本明細書において、「~」とは、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。また、本明細書において、数値範囲の上限値、及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0012】
<蓄電デバイス>
本実施形態に係る、蓄電デバイス用セパレータ(以下、単に「セパレータ」と称することがある)は、蓄電デバイスに用いられる。蓄電デバイスは、正極と、負極と、セパレータと、非水電解液とを含む。この種の蓄電デバイスとしては、例えば、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池等が挙げられる。中でも、実用性の観点から、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、リチウムイオンキャパシタが好ましく、リチウム電池、リチウムイオン二次電池がより好ましい。
【0013】
<リチウムイオン二次電池>
リチウムイオン二次電池は、例えば、正極として、コバルト酸リチウム、リチウムコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属酸化物を用い、負極として、グラファイト、黒鉛等の炭素材料を用い、そして非水電解液を用いた蓄電池である。
非水電解液を構成する非水系溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート又はそれらの混合溶媒等が挙げられる。非水電解液を構成する電解質としては、例えば、フッ素含有リチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiN(SO2CF32、LiSO3CF3等)又はLiBC48等が挙げられる。リチウム(Li)の電極間の移動を可能としつつ、電極間の接触を避けることができるよう、電極間にセパレータが配される。
【0014】
<セパレータ>
(ポリオレフィン微多孔膜)
本実施形態に係るセパレータは、本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜(以下、単に「微多孔膜」と称することがある)を含む。
【0015】
微多孔膜は、(A)シラングラフト変性ポリプロピレン、及び(B)ポリエチレンを含む。そして、シラングラフト変性ポリプロピレンとポリエチレンの質量比{(A)/(B)}は、2/98~80/20である。言い換えれば、シラングラフト変性ポリプロピレンとポリエチレンの合計質量100%を基準として、シラングラフト変性ポリプロピレンの質量比が2~80質量%、そしてポリエチレンの質量比が20~98質量%である。これにより、高品位(例えば、セパレータ中の樹脂凝集物が少ない)なセパレータを実現でき、そして、このようなセパレータを含むことで、蓄電デバイスの高い安全性(釘刺し試験より評価される、内部最大発熱速度の抑制と電圧低下時間の確保)を確保可能となる。
【0016】
この点、微多孔膜において、シラングラフト変性ポリプロピレンによってシラン架橋構造(ゲル化構造)を構築することで、高温耐破膜性を発現できる。これは、ポリエチレン中に分散するポリプロピレン同士がシラン架橋構造によって好適に連結する結果、膜全体のモロフォロジーが変化して、ポリエチレンの融点(例えば、130℃~140℃程度)を超え、かつポリプロピレンの融点(例えば、170℃程度)付近又はそれを超えてもなお、膜形状を維持可能になるためと推察される。従って、高温耐破膜性を確保する観点から、シラングラフト変性ポリプロピレンとポリエチレンの合計質量100%を基準として、シラングラフト変性ポリプロピレンの質量比は好ましくは2.5質量%以上、より好ましく3質量%以上である。言い換えれば、ポリエチレンの質量比は好ましくは97.5質量%以下、より好ましく97質量%以下である。
【0017】
一方、微多孔膜において、ポリエチレンを含むことで、得られる微多孔膜の孔の閉塞を抑制しながら高温で熱固定が行えるようになる。従って、緻密で均一な多孔質構造を形成する観点から、シラングラフト変性ポリプロピレンとポリエチレンの合計質量100%を基準として、ポリエチレンの質量比は好ましくは20.5質量%以上、より好ましく21質量%以上である。言い換えれば、シラングラフト変性ポリプロピレンの質量比は好ましくは98.5質量%以下、より好ましく98質量%以下である。
【0018】
微多孔膜の全体の重量平均分子量は、好ましくは100,000以上1,200,000以下、より好ましくは150,000以上800,000以下である。
【0019】
微多孔膜の合計100質量%を基準として、シラングラフト変性ポリプロピレン、及びポリエチレンの合計質量は、本発明の作用効果を確実に発揮させる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
【0020】
微多孔膜は、有機金属含有触媒(脱水縮合触媒);可塑剤;ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料;等の既知の添加剤を含んでもよい。
【0021】
((A)シラングラフト変性ポリプロピレン)
シラングラフト変性ポリプロピレンは、主鎖がポリプロピレンであり、その主鎖にアルコキシシリル基をグラフトとする構造で構成されている。アルコキシシリル基は、水による加水分解反応を経てシラノール基へ変換され、架橋反応を起こし、シロキサン結合を形成すると推定されている(下記式参照;T0構造から、T1構造、T2構造又はT3構造に変化する割合は任意)。アルコキシシリル基に置換したアルコキシドとしては、特に制限されないが、例えば、メトキシド、エトキシド、ブトキシド等が挙げられる。例えば、下記式中、Rは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等が挙げられる。
【化1】
【0022】
シラングラフト変性ポリプロピレンにおいて、主鎖とグラフト間は共有結合で繋がれている。かかる共有結合を形成する構造としては、特に制限されないが、例えば、アルキル、エーテル、グリコール、エステル等が挙げられる。シラングラフト変性ポリプロピレンは、架橋反応を行う前の段階では、炭素に対するケイ素の割合(Si/C)が、好ましくは0.2~1.8%、より好ましくは0.5~1.7%である。
【0023】
好ましいシラングラフト変性ポリプロピレンは、密度が0.82~0.96g/cm3、かつ230℃でのメルトフローレート(MFR)が0.5~25g/minである。
【0024】
シラングラフト変性ポリプロピレンを構成するポリプロピレンとしては、1種単独のプロピレンから構成されていてもよく、2種以上のプロピレンから構成されていてもよい。異なるプロピレンから構成された、2種以上のシラングラフト変性ポリプロピレンが併用されてもよい。
【0025】
また、シラングラフト変性ポリプロピレンを構成するポリプロピレンとしては、好ましくは、プロピレンのホモ重合体である。
本実施形態に係るセパレータの製造プロセスを考慮すると、シラングラフト変性ポリプロピレンは、後述される架橋処理工程の前の段階では、シラノールを含むユニットが主鎖の全エチレンユニットに対して、変性量として10%以下であり、好ましくは5%以下であり、更に好ましくは2%以下である。好ましいシラングラフト変性ポリプロピレンは、密度が0.90~0.96g/cm3であり、かつ190℃でのメルトフローレート(MFR)が、0.2~5g/分である。
【0026】
上記の架橋反応は、有機金属含有触媒を用いて促進される。本明細書では、シート成形工程の前(例えば、必要により行われる混錬工程の段階)において、シラングラフト変性ポリプロピレンを含有する樹脂に有機金属含有触媒を事前に添加したものをマスターバッチ樹脂と呼ぶ。
【0027】
((B)ポリエチレン)
ポリエチレンとしては、1種単独のポリエチレンが用いられてもよく、2種以上のポリエチレンが併用されてもよい。
ポリエチレンとしては、好ましくは、エチレンのホモ重合体である。ただし、ポリエチレンを構成するエチレンの総質量に対して50質量%以下又は45質量%以下であれば、エチレン以外の単量体(他の単量体)が含まれてもよい。ここでいう他の単量体としては、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及びノルボルネン等が挙げられる。
【0028】
(任意の層)
微多孔膜は、それ自体がセパレータとして用いられてもよく、その少なくとも片面に機能層を有するものがセパレータとして用いられてもよい。機能層としては、無機粒子、及びバインダーを含む無機多孔質層、熱可塑性ポリマーを含む接着層等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
<熱機械分析(TMA)>
セパレータの高温耐破膜性を確実に確保し、かつ蓄電デバイスの安全性を確実に確保する観点から、セパレータは、TMAにより測定される破膜温度が170~210℃であることが好ましい。上記のとおり、本実施形態では、シラン架橋したポリプロピレンがポリエチレンに好適に分散する結果、膜全体のモロフォロジーが変化して、ポリエチレンの融点付近又はそれを超えるような温度(170~210℃)に至るまで膜形状を維持できる。
【0030】
一般的に、予期しない暴走反応によって蓄電デバイスが発熱した場合、セパレータは低温(例えば150℃以下)でヒューズし、早期にLiイオンの移動、また、それに伴う蓄電デバイス内又は蓄電デバイス外の放電が停止される。その後、蓄電デバイスの外気又は冷媒による放冷で、蓄電デバイス全体が冷却され、これにより、非水電解液の引火又は電解質の分解発熱反応が阻止され、安全性が確保されることが期待されている。しかし仮に、蓄電デバイス内で発生した暴走反応がヒューズにより停止することなく、発熱が続いたとしても、本実施形態に係るセパレータであれば、その融解破膜を170~210℃という高温まで抑制でき、これにより、蓄電デバイスの安全性を確実に確保できる。
TMAにより測定される破膜温度は、実施例に記載の方法で得ることができ、そして、微多孔膜の組成の変更等により制御可能である。
【0031】
<セパレータの特性>
以下、微多孔膜の特性であるが、微多孔膜自体がセパレータとして用いられる場合、その微多孔膜の特性が、セパレータの特性として解釈される。
【0032】
微多孔膜の気孔率は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは32%以上又は35%以上である。気孔率が20%以上であることで、リチウム(Li)イオンの急速な移動に対する追従性がより向上する傾向にある。一方、気孔率は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは50%以下である。気孔率が90%以下であることで、膜強度がより向上し、自己放電がより抑制される傾向にある。この気孔率は、実施例に記載の方法で測定でき、そして、微多孔膜の延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0033】
微多孔膜の透気度は、好ましくは1sec/100cm3以上、より好ましくは50sec/100cm3以上、更に好ましくは55sec/100cm3以上、より更に好ましくは70sec/100cm3以上、90sec/100cm3以上である。透気度が1sec/100cm3以上であることで、膜厚と気孔率と平均孔径のバランスがより向上する傾向にある。また、透気度は、好ましくは400sec/100cm3以下、より好ましくは300sec/100cm3以下、更に好ましくは270sec/100cm3以下である。透気度が400sec/100cm3以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。この透気度は、実施例に記載の方法で測定することができ、そして、微多孔膜の延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0034】
微多孔膜の膜厚は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは2.0μm以上、更に好ましくは3.0μm以上、4.0μm以上又は4.5μm以上である。膜厚が1.0μm以上であることで、膜強度がより向上する傾向にある。一方、膜厚は、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下、22μm以下又は19μm以下である。膜厚が500μm以下であることで、イオン透過性がより向上する傾向にある。この膜厚は実施例に記載の方法で測定でき、そして、微多孔膜の延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0035】
リチウムイオン二次電池用のセパレータ又はその構成材料として微多孔膜が用いられる場合、微多孔膜の膜厚は、好ましくは25μm以下、より好ましくは22μm以下又は20μm以下、更に好ましくは18μm以下、特に好ましくは16μm以下である。この膜厚が25μm以下であることで、透過性がより向上する傾向にある。この場合、膜厚の下限値は、1.0μm以上、3.0μm以上、3.5μm以上又は4.0μm以上でよい。
【0036】
<セパレータの製造方法>
セパレータの製造方法は、以下の工程:
(1)シート成形工程;
(2)延伸工程;
(3)多孔体形成工程;及び
(4)熱処理工程;
を含む。セパレータの製造方法は、所望により、シート成形工程(1)前の混錬工程、及び/又は熱処理工程(4)後の捲回工程を含んでよい。
【0037】
(混練工程)
混練工程は、シラングラフト変性ポリプロピレンと超高分子量ポリエチレン(UHMWPE:Ultra High Molecular Weight PolyEthylene)とを含むポリオレフィン組成物を混練して混練物を得る工程である。ポリオレフィン組成物は、有機金属含有触媒;可塑剤;ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料;等の、既知の添加剤を含んでもよい。
【0038】
((1)シート成形工程(押出工程))
シート成形工程は、得られた混練物と可塑剤との混合物(すなわち、シラングラフト変性ポリプロピレン、UHMWPE、及び可塑剤の混合物)を押出し、冷却固化させ、シートを成型加工する工程である。混合物を押出すのには、既知の押出機が用いられる。成形の方法としては、特に限定されないが、例えば、溶融混練し押出された溶融物を、圧縮冷却により固化させる方法が挙げられる。冷却方法としては、冷風又は冷却水等の冷却媒体に直接接触させる方法、冷媒で冷却したロール又はプレス機に接触させる方法等が挙げられる。中でも、冷媒で冷却したロール又はプレス機に接触させる方法が、膜厚制御性に優れる点で好ましい。
【0039】
シートにおける、(A)シラングラフト変性ポリプロピレン、及び(B)UHMWPEの質量比{(A)/(B)}は、2/98~80/20である。これにより、高品位(例えば、セパレータ中の樹脂凝集物が少ない)なセパレータを実現でき、そして、このようなセパレータを含むことで、蓄電デバイスの高い安全性(釘刺し試験より評価される、内部最大発熱速度の抑制と電圧低下時間の確保)を確保可能となる。
ここで、UHMWPEは、その重量平均分子量が100,000以上であるポリエチレンをいう。重量平均分子量が異なる、2種以上のUHMWPEが併用されてもよい。
UHMWPEとしては、好ましくは、エチレンのホモ重合体である。ただし、UHMWPEを構成するエチレンの総質量に対して50質量%以下又は45質量%以下であれば、エチレン以外の単量体(他の単量体)が含まれてもよい。ここでいう他の単量体としては、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及びノルボルネン等が挙げられる。
【0040】
150℃以下の低温シャットダウン性を確保する観点、また、170~210℃での耐破膜性を有しながら蓄電デバイス破壊時の熱暴走を抑制して安全性を向上させる観点から、シート成形工程では、シラングラフト変性ポリプロピレンが、マスターバッチ樹脂でないことが好ましい。
【0041】
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、沸点以下の温度でポリオレフィンと均一な溶液を形成し得る有機化合物が挙げられる。より具体的には、デカリン、キシレン、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、ジフェニルエーテル、n-デカン、n-ドデカン、パラフィン油等が挙げられる。これらの中でも、パラフィン油、ジオクチルフタレートが好ましい。可塑剤は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。可塑剤の割合は特に限定されないが、シラングラフト変性ポリプロピレン、及びUHMWPEの合計100質量%に対して、得られる微多孔膜の気孔率の観点から20質量%以上が好ましく、溶融混練時の粘度の観点から90質量%以下が好ましい。
【0042】
((2)延伸工程)
延伸工程は、上記のシート成形工程で得られたシートを延伸して延伸物を得る工程である。シートの延伸方法としては、ロール延伸機によるMD一軸延伸、テンターによるTD一軸延伸、ロール延伸機とテンター、或いはテンターとテンターとの組み合わせによる逐次二軸延伸、同時二軸テンター又はインフレーション成形による同時二軸延伸等が挙げられる。より均一な膜を得る観点から、同時二軸延伸が好ましい。なお、MDは、膜の機械方向をいい、TDは、幅方向、すなわち、MDを垂直に横切る方向をいう。
トータルの面倍率は、膜厚の均一性、引張伸度と気孔率と平均孔径のバランスの観点から、好ましくは8倍以上、より好ましくは15倍以上、更に好ましくは20倍以上又は30倍以上である。トータルの面倍率が8倍以上であることにより、高強度で厚み分布が良好のものが得られ易くなる傾向にある。また、この面倍率は、破断防止等の観点から、250倍以下でよい。
【0043】
((3)多孔体形成工程(抽出工程))
多孔体形成工程は、上記の延伸工程で得られた延伸物から可塑剤を抽出して多孔体を形成する工程である。可塑剤の抽出方法としては、特に限定されないが、例えば、延伸物を抽出溶媒に浸漬する方法、延伸物に抽出溶媒をシャワーする方法等が挙げられる。抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンに対して貧溶媒であり、かつ、可塑剤に対しては良溶媒であり、沸点がポリオレフィンの融点よりも低いものが好ましい。このような抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタン、フルオロカーボン系等ハロゲン化炭化水素類;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;アルカリ水等が挙げられる。抽出溶媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
((4)熱処理工程)
熱処理工程は、上記の多孔体形成工程で得られた多孔体に対して熱処理を行い、熱処理多孔体を得る工程である。熱処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、テンター又はロール延伸機を利用して、延伸、及び緩和操作等を行う熱固定方法が挙げられる。緩和操作とは、MD、及び/又はTDへ、所定の温度、及び緩和率で行う縮小操作のことをいう。緩和率とは、緩和操作後の膜のMD寸法を操作前の膜のMD寸法で除した値;又は緩和操作後のTD寸法を操作前の膜のTD寸法で除した値;又はMDとTD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。
なお、第1の製造方法では、その後の、親和性処理工程、及び架橋処理工程に適した熱処理多孔体を得る観点から、多孔体のTDに延伸、及び緩和を行うことが好ましい。
【0045】
<第1の製造方法>
以下、蓄電デバイスを製造するための、第1の製造方法について説明する。
【0046】
まず、蓄電デバイスに用いられるセパレータの製造方法は、上記の工程(1)~(4)に加え、更に以下の工程:
(5)親和性処理工程;
(6)架橋処理工程;及び
(7)水洗乾燥工程
を含むことが好ましく、所望により、(7)工程の後に捲回工程を含んでよい。
【0047】
((5)親和性処理工程)
親和性処理工程は、上記の熱処理工程で得られる熱処理多孔体を、水と有機物に両親媒性のある有機溶剤中に浸漬させ、親和性処理多孔体を得る工程である。具体的には、水とポリオレフィンとの間の濡れ性を向上させるため、熱処理多孔体を、水と有機物に両親媒性のある有機溶媒に浸漬し、親和性処理多孔体を得る工程である。本実施形態では、親和性処理された多孔体(親和性処理多孔体)の内部には、両親媒性を有する有機溶媒が配されるため、液体との親和性を増大させることができる。これにより、例えば、架橋処理工程のときに、架橋反応を促進する材料又は触媒との親和性も増大させることができる場合がある。使用される有機溶媒は、特に限定されないが、例えば、アルコール類、アセトン、炭酸エチレン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、浸漬する方法は、特に制限されないが、例えば、熱処理多孔体を有機溶媒に浸漬させる方法、熱処理多孔体に有機溶媒をシャワーする方法等が挙げられる。
【0048】
((6)架橋処理工程)
架橋処理工程は、上記の親和性処理工程で得られる親和性処理多孔体を、有機金属含有触媒と水の混合物に接触させるか又は塩基溶液若しくは酸溶液に浸漬させ、これにより、シラン架橋構造を有する架橋処理多孔体を形成する工程である。つまり、架橋処理工程は、得られた親和性処理多孔体の内部に含まれているアルコキシシリル基をシロキサン結合へシラン脱水縮合反応(架橋反応)させる工程である。
【0049】
熱水用パイプ等の一般的な成形品では、Sn系触媒を押出工程時に押出機に投入する場合が多い。一方、蓄電デバイス用セパレータの製造プロセスでは、シート成形工程中の押出機内でシラン架橋が促進されると、ゲル化部分が生産不良を招き、かつその後の延伸工程においてシラン架橋ポリオレフィンの延伸が困難になる。そこで、第1の製造方法では、延伸工程、熱処理工程、及び親和性処理工程の後にシラン架橋処理を行う。これにより得られるシラン架橋構造によって、セパレータの耐熱性、形状維持性、及び耐破膜性が確保される。
【0050】
有機金属含有触媒の金属は、例えば、スカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル、及び鉛から成る群から選択される少なくとも1つでよく、中でもスズ、亜鉛又はパラジウムが好ましく、スズ又は亜鉛がより好ましい。触媒として使用可能な有機スズ錯体は、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、酢酸第一スズ、カプリル酸第一スズ等でよい。
【0051】
塩基溶液は、pHが7を超え、例えば、水酸化アルカリ金属類、水酸化アルカリ土類金属類、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、アンモニア、アミン化合物等を含んでよい。これらの中でも、蓄電デバイスの安全性とシラン架橋性の観点から、水酸化アルカリ金属類又は水酸化アルカリ土類金属類が好ましく、水酸化アルカリ金属類がより好ましく、水酸化ナトリウムが更に好ましい。
【0052】
酸溶液は、pHが7未満であり、例えば、無機酸、有機酸等を含んでよい。好ましい酸は、塩酸、硫酸、カルボン酸類又はリン酸類である。
【0053】
架橋処理工程は、蓄電デバイス破壊時の熱暴走反応を抑制して安全性を向上させる観点から、親和性処理多孔体を塩基溶液又は酸溶液に浸漬させることにより行われることが好ましい。
【0054】
親和性処理多孔体を塩基溶液に浸漬させる場合には、安全性を更に向上させる観点から、塩基溶液の温度が20℃~100℃であることが好ましく、及び/又は塩基溶液のpHが8~14であることが好ましい。pH調整に使用する試薬は、特に制限されないが、例えば、水酸化アルカリ金属類、水酸化アルカリ土類金属類等が挙げられる。同様の観点から、アルカリ水溶液は、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン等のアミン化合物を含まないことが好ましい。
【0055】
親和性処理多孔体を酸溶液に浸漬させる場合には、理論に拘束されることを望まないが、酸は、シラン架橋ポリオレフィンのSi-O結合を切断するというよりも、シラン架橋ポリオレフィンのSi-O結合の形成を触媒的に促進するように働くことが推察される。
【0056】
親和性処理多孔体を有機金属含有触媒と水との混合物に接触させる場合には、その親和性処理多孔体の非晶質部分を制御して安全性を確保する観点から、最終的に得られる微多孔膜のスカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル又は鉛の含有量が、原子換算の合計量で0.10ppm以上200ppm以下の範囲内になるように調整することが好ましい。特に、微多孔膜の亜鉛又はスズの含有量が、原子換算の合計量で0.10ppm以上200ppm以下の範囲内に調整することがより好ましい。微多孔膜のスカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル又は鉛の含有量は、例えば、後述の水洗乾燥工程等により調整されることができる。このような限定した範囲の含金属量により、膜中の架橋構造の分解を抑制でき、これにより、安全性を確保し易くなると同時に、電池サイクル特性が良い性能を示す傾向にある。セパレータに金属が過剰に含まれる場合、溶出イオンが正極内へ侵入し、Liを貯蔵する金属クラスタの構造を変化させ、正極全体に電気的な欠陥点を生み、サイクル性能を悪化させる可能性が生じる。
【0057】
((7)水洗乾燥工程)
水洗乾燥工程は、上記の架橋処理工程で得られた架橋処理多孔体を水洗し、乾燥させる工程である。水洗乾燥工程の好ましい条件は、水温が20~100℃、及び/又は洗浄水のpHが6~8である。例えば、20~100℃の温度で、架橋処理多孔体の内部をpH6~8の水へ置換した後に、乾燥することができる。乾燥方法は、特に限定されないが、加熱ロールでの搬送、熱風の吹きつけ又は赤外線ヒータを用いた加熱乾燥等が挙げられる。水洗乾燥工程を経ることで、微多孔膜が得られる。
【0058】
(捲回工程)
捲回工程は、上記の水洗乾燥工程で得られた微多孔膜を、必要に応じてスリットして、所定のコアへ捲回する工程である。上記のとおり、微多孔膜は、それ自体がセパレータとして用いられてもよく、その少なくとも片面に機能層を有するものがセパレータとして用いられてもよい。
なお、熱処理工程後に捲回工程が行われる場合、捲回工程は、上記の熱処理工程で得られた熱処理多孔体を、必要に応じてスリットして、所定のコアへ捲回する工程として扱われる。
【0059】
上記のセパレータを用いた、蓄電デバイスの製造方法は、例えば、以下の工程;
(1-ア)正極と、第1の製造方法で得られるセパレータと、負極とを積層し、及び/又は捲回して、積層体又は捲回体を得る工程;
(1-イ)積層体又は捲回体を外装体に入れる工程;
(1-ウ)外装体に非水電解液を注ぐ工程;及び
(1-エ)正極と負極にリード端子を接続する工程;
を含むことができる。(1-ア)工程~(1-エ)工程では、上記のセパレータを用いることを除いて、本技術分野において既知の方法により行われることができる。また、(1-ア)工程~(1-エ)工程では、上記で説明された電極及び非水電解液を使用することができ、また本技術分野において既知の正極、負極、非水電解液、外装体及び充放電装置を使用することもできる。
【0060】
<第2の製造方法>
以下、蓄電デバイスを製造するための、第2の製造方法について説明する。
【0061】
まず、第2の製造方法においては、上記の(1)工程~(4)工程を経て得られる熱処理多孔体を準備し、これをセパレータとして用いることができる。
【0062】
かかるセパレータを用いた、蓄電デバイスの製造方法は、以下の工程;
(2-ア)電極とセパレータとの積層体又は捲回体を収納している外装体、及び非水電解液を用意する準備工程と、
(2-イ)非水電解液を外装体に注ぐ注液工程と、
(2-ウ)所望により、外装体中の電極又は外装体から露出した電極にリード端子を接続する端子接続工程と、
(2-エ)所望により、少なくとも1サイクルの充放電を行う充放電工程と、
を含む。(2-ア)工程~(2-エ)工程では、セパレータ(上記の(1)工程~(4)工程を経て得られる熱処理多孔体)を使用することを除いて、本技術分野において既知の方法により行われることができる。また(2-ア)工程~(2-エ)工程では、上記で説明された電極及び非水電解液を使用することができ、また本技術分野において既知の正極、負極、非水電解液、外装体及び充放電装置を使用することもできる。
【0063】
第2の製造方法では、(2-イ)工程中又は(2-イ)工程後に、セパレータと非水電解液を接触させて、シラングラフト変性ポリプロピレンのシラン架橋反応を開始することが好ましい。また、セパレータのシラン架橋反応を確実に実行するという観点からは、(2-ウ)工程、及び(2-エ)工程を行うことが好ましい。充放電サイクルによって、シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質が、非水電解液中又は電極表面に生成し、それによりシラン架橋反応が達成されることが考えられる。
【0064】
理論に拘束されることを望まないが、シラングラフト部は、蓄電デバイス内に含まれるわずかな水分(電極、セパレータ、非水電解液等に含まれる水分)で、シラノールへ変換され、架橋反応し、シロキサン結合へ変化すると推定されている。また、非水電解液(又は非水電解液中の電解質)が電極と接触すると、シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質が、非水電解液中又は電極表面に生成し、それらが非水電解液に溶け込み、シラングラフト部が存在するポリオレフィン中の非晶部へ均一に膨潤、拡散されることで、セパレータ含有積層体又は捲回体の架橋反応を均一に促進することが考えられる。シラン架橋反応に触媒作用を及ぼす物質は、酸溶液(例えば、pH<7の無機酸又は有機酸等)、塩基溶液(例えば、pH>7のアルカリ系溶液等)又は膜の形態でよく、電解質がLiPF6を含む場合には、LiPF6と水分が反応することで発生するフッ化水素(HF)又はHFに由来するフッ素含有有機物であることができる。ここで、HF又はフッ素含有有機物は、本実施形態に係る電池内発生化学種に相当する。
【0065】
非水電解液は、リチウムイオン二次電池に利用可能な非水電解液として上記したものを用いることができ、例えば、セパレータの架橋反応を促進する観点から、LiPF6、LiN(SO2CF32又はLiSO3CF3が好ましい。
【0066】
セパレータ(上記の(1)工程~(4)工程を経て得られる熱処理多孔体)を用いることで、蓄電デバイス組み立てキットを提供することができる。蓄電デバイス組み立てキットは、例えば、以下の2つの要素:
(2-a)正極と、第2の製造方法で得られるセパレータと、負極との積層体又は捲回体を収納する外装体;及び
(2-b)非水電解液を収納する容器;
を含む。蓄電デバイス組み立てキットの使用時、外装体内で、要素(2-a)の積層体又は捲回体と要素(2-b)の非水電解液とを接触させることで、その場でシラン架橋反応を行い、安全性と出力を両立する蓄電デバイスを形成することができる。
【0067】
蓄電デバイス組み立てキットは、セパレータの架橋反応を促進する観点から、付属品(又は要素(2-c))として、アルコキシシリル基をシロキサン結合へ架橋反応させるための触媒、例えば、上記の有機金属含有触媒と水の混合物、酸溶液又は塩基溶液等を収納する別の容器を備えてもよい。
【0068】
上記の蓄電デバイス組み立てキットを用いて蓄電デバイスを製造してよい。蓄電デバイス組み立てキットを用いた、蓄電デバイスの製造方法としては、例えば、以下の工程:
(2-A)上記の蓄電デバイス組み立てキットを用意する工程;
(2-B)蓄電デバイス組み立てキットにおけるセパレータ(すなわち、上記の(1)工程~(4)工程を経て得られる熱処理多孔体)と非水電解液を接触させることでシラングラフト変性ポリオレフィンのシラン架橋反応を開始する工程;
(2-C)所望により、上記の蓄電デバイス組み立てキットにおける正極と負極にリード端子を接続する工程;
(2-D)所望により、少なくとも1サイクルの充放電を行う工程;
を含むことができる。(2-A)工程~(2-D)工程において、正極、負極、非水電解液、及び外装体については、上記のもの又は本技術分野において既知のものを用いることができる。セパレータのシラン架橋反応を確実に実行するという観点からは、(2-C)工程、及び(2-D)工程を行うことが好ましい。
【0069】
第2の製造方法では、非水電解液と接触するとシラングラフト変性ポリオレフィンが架橋する。このため、従来の蓄電デバイスの製造プロセスに適合しながら、蓄電デバイス製造後にシラン架橋反応を起こして蓄電デバイスの安全性を向上させることができる。
【実施例
【0070】
以下、実施例、及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、及び比較例に限定されない。実施例中の物性は以下の方法で測定した。
【0071】
(1)重量平均分子量
Waters社製 ALC/GPC 150C型(商標)を用い、標準ポリスチレンを以下の条件で測定して較正曲線を作成した。また、下記各ポリマーについても同様の条件でクロマトグラムを測定し、較正曲線に基づいて、下記方法で各ポリマーの重量平均分子量を算出した。
カラム :東ソー製 GMH6-HT(商標)2本+GMH6-HTL(商標)2本
移動相 :o-ジクロロベンゼン
検出器 :示差屈折計
流速 :1.0ml/min
カラム温度:140℃
試料濃度 :0.1wt%
(重量平均分子量)
得られた較正曲線における各分子量成分に0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることによりポリエチレン換算の分子量分布曲線を得て、重量平均分子量を算出した。
(樹脂組成物の重量平均分子量)
最も質量分率の大きいポリオレフィンのQファクター値を用い、その他はポリエチレンの場合と同様にして重量平均分子量を算出した。
【0072】
(2)メルトフローレート(MFR)(g/10min)
東洋精機製メルトフローレート測定機(メルトインデックサF-F01)を用いて、230℃、及び加重2.16kgの条件下、10分間で押出された樹脂物の重量をMFR値として定めた。
【0073】
(3)膜厚(μm)
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)用いて、室温23±2℃、及び相対湿度60%で微多孔膜の膜厚を測定した。具体的には、TDの全幅に亘って、ほぼ等間隔に5点の膜厚を測定し、それらの平均値を得た。
【0074】
(4)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)より、次式を用いて気孔率を計算した。混合組成物の密度は、用いた原料の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
気孔率(%)=(体積-質量/混合組成物の密度)/体積×100
【0075】
(5)透気度、及び透気度上昇量(sec/100cm3
JIS P-8117(2009年)に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度
計、G-B2(商標)により、微多孔膜の透気度を測定した。
【0076】
(6)セパレータ中の樹脂凝集物の定量化
セパレータ中樹脂凝集物は、後述される実施例と比較例で得られたセパレータを透過型光学顕微鏡で観察したときに、縦100μm×横100μm以上の面積を有し、かつ光が透過しない領域として定義される。透過型光学顕微鏡による観察において、セパレータ面積1000m2当たりの樹脂凝集物の個数を測定した。
【0077】
(7)TMAにより測定される破膜温度(℃)
島津製作所製TMA50(商標)の定長モードを用いて、環境温度を25~250℃に亘って変化させ、荷重が完全開放される瞬間の温度をTMA破膜温度(TMAにより測定される破膜温度)と定める。
具体的には、MDを測定する際に、TD3mm、MD13mmの微多孔膜を採取し、専用プローブにMDの両端をチャックし、チャック間距離を10mmに初期1.0g荷重させ、試験片が搭載した炉を昇温し、荷重が0gに示した温度をTMA破膜温度とした。TDを測定する際には、TD13mm、MD3mmの微多孔膜を採収し、上記と同様な操作を行う。
【0078】
(8)電池破壊安全性試験(釘刺し試験)
電池破壊安全性試験は、4.5Vまで充電した電池に鉄釘を20mm/secの速度で打ち込み、貫通させて、内部短絡を起こす試験である。本試験は、内部短絡による電池の電圧低下の時間変化挙動、及び内部短絡による電池表面温度上昇挙動を測定することで、内部短絡時の現象を明らかにできる。また、内部短絡時にセパレータの不十分なシャットダウン機能や低温での破膜により、電池の急激な発熱が生じる場合があり、それに伴い、非水電解液が発火し、電池が発煙、及び/又は爆発することがある。
【0079】
(電池破壊安全性試験に用いられる電池の作製)
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2を92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、及びバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%をN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗布量は250g/m2、活物質嵩密度は3.00g/cm3になるように調整した。
【0080】
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、及びバインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗布量は106g/m2、活物質嵩密度は1.35g/cm3になるように調整した。
【0081】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製した。
【0082】
d.電池組立
セパレータをTD60mm、MD1000mmに切出し、セパレータに対して、九十九折し、正極と負極を交互にセパレータ間(正極12枚、負極13枚)に重ねる。なお、正極は30mm×50mm、負極は32mm×52mmの面積の物を使用した。この九十九折した積層体をラミ袋へ入れた後、上記c.で得られた非水電解液を注入して密閉した。室温にて1日放置した後、25℃雰囲気下、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計6時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0083】
(最大発熱速度)
得られた電池へ鉄釘を貫通させた後、電池表面温度は熱電対を用いて、300秒間に亘って測定した温度変化グラフから、1sec当たりに昇温変化が最も大きかった時の速度を最大発熱速度と定めた。
【0084】
(電圧低下時間)
得られた電池へ鉄釘を貫通させた後、4.5Vから3Vまでの電圧低下に要した時間を電圧低下時間(3V低下時間)として定めた。
【0085】
(9)サイクル特性評価、及びその電池の作製方法
上記項目「(8)電池破壊安全性試験」に用いられる電池の作製方法のa.~c.と同じ方法に従って、ただし組立は下記d.によりサイクル特性評価用電池を作製した。
得られた電池の充放電は、60℃雰囲気下で100サイクル実施した。充電は6.0mA(1.0C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を6.0mAから絞り始めるという方法で、合計3時間充電した。放電は6.0mA(1.0C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。100サイクル目の放電容量と1サイクル目の放電容量から、容量維持率を算出した。容量維持率が高い場合、良好なサイクル特性を有するものと評価した。
d.電池組立
セパレータを直径18mm、正極、及び負極を直径16mmの円形に切り出し、正極と負極の活物質面が対向するよう、正極、セパレータ、負極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収納した。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミニウム箔と接していた。この容器内に、上記項目「(8)電池破壊安全性試験」のc.において得られた非水電解液を注入して密閉した。室温にて1日放置した後、25℃雰囲気下、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計6時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0086】
(10)押出安定性
押出工程時に被押出ポリオレフィン組成物の状態を観察し、以下の基準に従って評価した。
〇(良好):押出機の電流値変動が、300秒の平均値で±0.5A以内。
×(不良):押出機の電流値変動が、300秒の平均値で±0.5Aを超える。
【0087】
[実施例1]
<シラングラフト変性ポリプロピレンの製法>
シラングラフト変性ポリプロピレンに用いる原料ポリオレフィンは、粘度平均分子量(Mv)が10万以上かつ100万以下であり、重量平均分子量(Mw)が3万以上かつ92万以下、数平均分子量は1万以上かつ15万以下でよく、プロピレン又はブテン共重合αオレフィンでもよい。原料ポリオレフィンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させる。
また、同時に系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制する。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日間に亘って加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除く。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、約1500ppm以下である。
上記の製法により得られたシラングラフト変性ポリオレフィンを、以降又は表1において、「シラングラフト変性ポリプロピレン」として示す。
【0088】
<微多孔膜の作製(単層)>
重量平均分子量が1,000,000のホモポリマーのポリエチレン(UHMWPE)と上記のシラングラフト変性ポリプロピレンを、ポリエチレン:シラングラフト変性ポリプロピレン=95:5(質量%)に加え、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-52/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(すなわち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー、及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度230℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1300μmのゲルシート(シート)を得た。
【0089】
(延伸工程)
次に、ゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行い、延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、二軸延伸温度124℃とした。
【0090】
(多孔体形成工程)
次に、延伸後のゲルシートをジクロロメタン槽に導き、ジクロロメタン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後ジクロロメタンを乾燥除去し、多孔体を得た。
【0091】
(熱処理工程)
次に、熱固定を行なうべく、多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度131℃、延伸倍率1.8倍で熱固定を行い、その後、TD1.7倍まで緩和操作を行った。これにより、熱処理多孔体を得た。
【0092】
(親和性処理工程)
次に、熱処理多孔体をエタノール浴中(親和性処理槽)に導き60秒間浸漬しつつ滞留し、熱処理多孔体の親和性処理を行い、親和性処理多孔体を得た。
【0093】
(架橋処理工程)
次に、親和性処理多孔体を25%苛性ソーダ水溶液中(架橋処理槽)に導き60秒間浸漬しつつ滞留し、親和性処理多孔体の架橋処理を行い、架橋処理多孔体を得た。
【0094】
(水洗乾燥工程)
次に、架橋処理多孔体を水中(水洗処理槽)に導き60秒間浸漬しつつ滞留し、架橋処理多孔体を水洗した。これを搬送式乾燥機へ導き、120℃で60秒間の条件で乾燥し、微多孔膜を得た。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
【0095】
[実施例2~5、及び比較例1~3]
表1に記載されるように条件を変更した以外は、実施例1と同様の手法により、微多孔膜を作製した。
【0096】
上記の実施例、及び比較例で得られた微多孔膜を用いて上記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【表1】
【0097】
なお、実施例1におけるシラングラフト変性ポリプロピレン(A)は、粘度平均分子量20,000のポリプロピレンを原料として用いて、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによる変性反応で得られる、密度が0.91g/cm3であり、かつ230℃でのメルトフローレート(MFR)が18.0g/minであるシラングラフト変性ポリプロピレンである。
【0098】
表1中、「樹脂組成」は、シラングラフト変性ポリプロピレン(A)とポリエチレン(UHMWPE)(B)の合計100質量%に対する質量比を示す。
また、「方式」は、シラン架橋反応の方法を示し、それによって、表中、アルカリ処理又は酸処理による方式に分類される。
また、「架橋反応のタイミング」は、シラン架橋反応が、上記の(6)架橋処理工程で行われたことか、上記の第2の製造方法における(2-エ)工程で行われたことか(特に、蓄電デバイスの初回の1サイクルの充放電時に行われたことか)を示す。
また、「試薬」は、実施例5、及び比較例3を除き、上記の(6)架橋処理工程において用いた試薬を示す。なお、実施例4においては、実施例1における25%苛性ソーダ水溶液に代えて10%塩酸溶液を試薬として用いた。
また、「温度」は、架橋反応のタイミングに表記された行程中の温度を示す。
また、「架橋処理槽のpH」、「水洗処理槽のpH」とは、各槽中のpHを示し、例えば「7~12」とは、槽入り口付近から出口付近においてpHが幅を持って分布していることを示す。