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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ガラスリボンを製造する装置および方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
C03B17/06
【請求項の数】 25
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020125409
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2021020847
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】10 2019 120 064.4
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー グラツキ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ブライトバッハ
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー フニウス
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ランゲ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ミュンヒ
(72)【発明者】
【氏名】グレゴア レーゼル
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ヴェーゲナー
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-217327(JP,A)
【文献】特表2019-514823(JP,A)
【文献】特開2011-102207(JP,A)
【文献】特開2013-035724(JP,A)
【文献】特開2011-116639(JP,A)
【文献】特開2007-091503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄いガラスリボン(3)、殊に3000μm以下の厚さを有する薄いガラスリボン(3)を延伸タンク(7)によりガラス溶融物(5)から製造する装置(1)であって、前記延伸タンク(7)が、前記ガラス溶融物(5)が下方に出ることが可能な下部の縦長のノズル開口部(9)と、直接加熱設備(2)と、間接加熱設備(4)とを有し、前記直接加熱設備(2)が、少なくとも1つの加熱回路(206,207,208,209)を含み、前記加熱回路により、少なくとも1つの第一の加熱域(34,35,36,37)の形態で前記延伸タンク(7)の少なくとも1つの領域が加熱可能であり、前記直接加熱設備(2)が、各加熱回路(206,207,208,209)について電源(201,202,203,204)を含み、各加熱回路(206,207,208,209)が、接続部(26,27)を有し、前記接続部により、各加熱回路(206,207,208,209)が、前記延伸タンク(7)の壁(700)に接続されており、そのため、前記電源(201,202,203,204)の電流が、壁(700)の少なくとも一部にそれぞれ流れて、前記壁(700)を加熱し、前記直接加熱設備の各加熱回路(206,207,208,209)が、前記延伸タンク(7)の前記壁(700)の通電部分を含み、前記間接加熱設備(4)が、少なくとも1つの第二の加熱域(61,62,63,64,65,66)のための発熱体(41,42,43,44,45,46)を有する、装置(1)。
【請求項2】
前記直接加熱設備(2)が、互いに別々に制御可能な少なくとも4つの加熱回路(206,207,208,209)を含み、前記加熱回路により、4つの第一の加熱域(34,35,36,37)の形態で前記延伸タンク(7)の4つの異なる領域が加熱可能であり、前記直接加熱設備(2)が、前記4つの加熱回路のそれぞれについて接続部(26,27)を有し、前記接続部により、前記加熱回路(206,207,208,209)が、前記延伸タンク(7)の前記壁(700)に接続されていることを特徴とする、請求項1記載の装置(1)。
【請求項3】
前記間接加熱設備(4)が、互いに別々に制御可能な空間的に互いに異なる少なくとも3つの第二の加熱域(61,62,63,64,65,66)のための発熱体(41,42,43,44,45,46)を有することを特徴とする、請求項1または2記載の装置(1)。
【請求項4】
前記間接加熱設備(4)が、互いに別々に制御可能な5つ以上の第二の加熱域(61,62,63,64,65,66)のための発熱体(41,42,43,44,45,46)を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項5】
前記直接加熱設備(2)の前記第一の加熱域(34,35,36,37)および前記間接加熱設備(4)の前記第二の加熱域(61,62,63,64,65,66)が、前記延伸タンク(7)の周りでかつ前記延伸タンク(7)の上に、垂直および/または水平に分布して配置されていることを特徴とする、請求項4記載の装置(1)。
【請求項6】
前記延伸タンク(7)の金属板(78)に印加される加熱電流が、前記直接加熱の場合、2500A未満、好ましくは1000A未満であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項7】
前記間接加熱設備(4)が、ベース負荷として総出力に50%より多く寄与するように設計されていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項8】
前記延伸タンク(7)が、フランジまたはカラー(28)を前記直接加熱のための電流用接続部(26,27)として含むことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項9】
前記延伸タンク(7)が、金属板(78)を伴って形成されており、その厚さが、前記直接加熱の場合、0.5~5mmの範囲にあることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項10】
複数の温度測定箇所(18,19)が、形状結合により前記延伸タンク(7)と接続、殊に溶接されていることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項11】
少なくとも2つの温度測定箇所(18,19)が設けられており、前記温度測定箇所が、前記直接加熱設備(2)または前記間接加熱設備(4)の加熱出力を制御するために、加熱出力を制御する制御装置(20)のための制御測定箇所となることを特徴とする、請求項10記載の装置(1)。
【請求項12】
前記間接加熱設備(4)が、発熱体(41,42,43,44,45,46)として加熱タイルまたは蛇行ヒーターを含むことを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項13】
前記間接加熱設備(4)の前記発熱体(41,42,43,44,45,46)が、白金、ステンレス鋼、またはSiCを抵抗発熱材として含むことを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項14】
前記延伸タンク(7)が、少なくとも1つの微粒子安定化貴金属または微粒子安定化貴金属合金を有する金属板(78)を含むことを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項15】
以下の特徴:
- 前記微粒子安定化貴金属が、金属Pt、PtRh、PtAu、PtRhAu、PtIrのうちの1つであること、
- 前記微粒子安定化貴金属が、ナノ粒子を含むこと
のうちの少なくとも1つを有する微粒子安定化貴金属を特徴とする、請求項14記載の装置(1)。
【請求項16】
前記延伸タンク(7)の上流に供給部(74)があり、前記供給部(74)が、前記延伸タンク(7)の分配管(76)に開口しており、前記分配管(76)にチャンバ(75)が接続しており、前記チャンバ(75)が、前記分配管(76)よりも狭い断面を有し、その下端にノズル開口部(9)を有することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載の装置(1)。
【請求項17】
前記電源(201,202,203,204)が、前記延伸タンク(7)に接続されており、前記接続は、少なくとも3つの第一の加熱域(34,35,36)が形成され、前記第一の加熱域が、前記延伸タンク(7)の上部において、前記ガラスリボン(3)の延伸方向に対して横方向に分布するように行われており、前記第一の加熱域のうちの1つ(35)が、中央に配置されており、別の第一の加熱域の1つ(37)が、前記ノズル開口部(9)を有する前記延伸タンク(7)の下部を加熱することを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項記載の装置。
【請求項18】
前記互いに別々に制御可能な空間的に互いに異なる少なくとも3つの第二の加熱域(61,62,63,64,65,66)のための前記発熱体(41,42,43,44,45,46)が、前記第二の加熱域(61,62,63,64,65,66)が前記ガラスリボン(3)の延伸方向に対して横方向に互いに隣接して分布するように、配置されていることを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項記載の装置。
【請求項19】
前記延伸タンク(7)が、前記延伸タンク(7)の前記ノズル開口部(9)から下方に突出したガイド体(11)を有し、前記ガイド体(11)が、前記ノズル開口部(9)の縁部(90,92)に対して離間して固定されているため、前記ガイド体(11)と前記ノズル開口部(9)の前記縁部(90,92)との間に2つのノズルギャップ(94,96)が形成され、前記ガイド体(11)が加熱されており、前記ガイド体(11)が、専用の別々に制御可能な接続部を有し、前記延伸タンク(7)から独立した少なくとも1つの加熱回路が形成されることを特徴とする、請求項1から18までのいずれか1項記載の装置。
【請求項20】
直接加熱設備(2)の第1加熱域(34、35、36、37)は、延伸タンク(7)の上で、かつ、および延伸タンクの周りで水平に分布して配置され、延伸タンク(7)は、直接加熱のための電流用接続部(26,27)としてフランジまたはカラー(28)を含む、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項21】
000μm以下の厚さを有する薄いガラスリボン(3)を、請求項1から20までのいずれか1項記載の装置(1)により製造する方法であって、ガラス溶融物(5)が、供給部(74)を介して延伸タンク(7)に供給され、前記ガラス溶融物(5)が、ノズル開口部(9)から出て、前記ガラスリボン(3)を形成しながら引き抜かれ、同時に前記延伸タンク(7)が、直接加熱設備(2)と間接加熱設備(4)との双方により加熱される、方法。
【請求項22】
前記ガラス溶融物(5)が、前記延伸タンク(7)への前記供給部(74)を通して前記延伸タンク(7)の分配管(76)へと分配され、前記分配管(76)にチャンバ(75)が接続しており、前記チャンバ(75)が、前記分配管(76)よりも狭い断面を有し、前記延伸タンク(7)内の温度プロファイルにより、前記ガラス溶融物(5)の、前記ノズル開口部(9)に沿って一貫した線形処理量が調整されることを特徴とする、請求項21記載の方法。
【請求項23】
総処理量が一定になるように、前記直接加熱設備(2)および前記間接加熱設備(4)を用いて、前記線形処理量が、前記延伸タンク(7)内の前記ガラス溶融物(5)の温度調整および温度分布により制御されることを特徴とする、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記延伸タンク(7)が、チャンバ(75)を含み、前記チャンバ(75)内にガイド体(11)が配置されており、前記チャンバ(75)がその下端に前記ノズル開口部(9)を有し、前記延伸タンク(7)内の前記ガラス溶融物(5)の温度が、その温度依存性粘度ηについて、以下の関係式:
【数1】
[式中、
【数2】
は、前記ガラス溶融物の体積流を表し、Bは、前記ノズル開口部(9)に沿った方向での前記延伸タンク(7)の幅を表し、Dは、前記チャンバ(75)の局所的な幅を表し、Dは、前記ガイド体(11)の局所的な厚さを表し、ρは、前記ガラス溶融物の密度を表し、gは、重力加速度を表し、hは、前記チャンバ(75)の高さを表し、pは、2000Paの圧力を表す]
が満たされるように調整されることを特徴とする、請求項21から23までのいずれか1項記載の方法。
【請求項25】
前記延伸タンク(7)内の温度勾配が、前記ノズル開口部(9)に沿って、前記ノズル開口部(9)の縁部(90,92)から前記ノズル開口部(9)の中心に至るまで、T勾配=T中心-T縁部=0~50K、好ましくはT勾配=20~40Kに調整されることを特徴とする、請求項21から24までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してガラス製造に関する。殊に、本発明は、ガラスリボン、殊に3000μm(マイクロメートル)まで、好ましくは15~1100μmの厚さを有するガラスリボンを、ダウンドロー法でガラス溶融物から製造する装置および方法に関する。
【0002】
ダウンドロー法では、延伸タンクにより、熱間成形温度のガラスが出てくるノズル開口部まで、ガラス分布が均一化される。延伸タンク出口には、単純なスリットノズルが存在していてもよく、延伸タンク自体の内部または延伸タンク出口内には、例えばリーフ(Blatt)またはブレード本体によって、さらに別個の流体抵抗も存在していてもよい。成形工具はすべて、貴金属合金、好ましくは高い白金割合を有する貴金属合金から成ることが好ましい。それにより、プロセスの停止後に、貴金属工具を交換し、続いて再利用することができるため、ダウンドロー法は、柔軟性が高くなる。例えばオーバーフローフュージョン法で使用されるセラミックトラフの場合、これは、昇温時間および降温時間が相応して長くなることから、経済的ではない。例えば、起動プロセスは、オーバーフローフュージョン法の場合、1週間より多くかかるが、ダウンドロー法の場合、1日もかからない。
【0003】
さらに、例えば、腐食挙動、伝導率、密度、粘度曲線、ガラス転移温度、熱間成形温度などに関連するそれらの化学的特性および物理的特性が大きく異なる複数のガラスタイプにも、同じ貴金属工具を使用することができる。すなわち、ダウンドロー法により、熱間成形工具を交換する必要なく、ガラスタイプを柔軟に切り替えて溶融することも容易に可能である。
【0004】
独国特許発明第102004007560号明細書は、厚さの一貫性と平坦性とについて高い要件を満たすガラスリボンを製造することを可能にする、薄いガラスシートを製造する装置および適切な延伸タンクを提供することを課題としている。これは、断面積が異なる少なくとも2つの部分を幅全体にわたり有する延伸タンクにより達成され、ここで、これらの部分は、双方の部分のガラス溶融物がそれぞれ通る経路にわたる総圧力降下が、スリットノズルのあらゆる箇所で一定かつ同じ大きさになるように寸法決めされている。さらに、独国特許発明第102004007560号明細書には、延伸タンクに発熱体を備え、最適な温度分布を調整することが有利であると記載されており、ここで、延伸タンクは、間接的にしか加熱されていない。
【0005】
さらに、これまで、ノズルの領域における延伸方向に対して横方向の特別な温度プロファイルによりガラスシートの品質を改善する試みがなされた。この目的のために、例えば独国特許発明第10064977号明細書には、供給部、延伸タンク、およびノズルシステムをクローズドシステムとして構成することが提案されており、ここで、供給部は、対称的な管断面の円形管を有し、延伸タンクは、垂直方向および横方向に分割された加熱システムを有し、加熱は、電気加熱として直接的または間接的に実施可能である。
【0006】
この延伸タンクは、複雑な部品であり、その内部では、製造すべきガラスリボンの幾何学的特性を最適化し、それにより、厚さのばらつき、ガラスリボンの反り、およびガラスの欠陥、例えば殊に筋などを回避するために、ガラス分布、均質化、および温度調整を細かく調節する必要がある。
【0007】
よって、本発明は、ガラスの欠陥を回避しつつガラスリボンの形状精度とガラス品質とについて、かつ耐用年数を延長させる機械的安定性について高い要件を満たす、ガラスリボンの製造を可能にするガラスリボン製造装置を提供するという課題に基づく。さらに、より安定なプロセスとより向上した収率とを有する、相応して改善された、殊に特に柔軟な方法が記載されるべきである。
【0008】
これらの課題は、独立請求項の対象により解決される。有利なさらなる構成は、従属請求項に記載されている。
【0009】
よって、本発明は、ガラスリボン、殊に、3000μm以下、好ましくは15~1100μmの厚さを有するガラスリボンをガラス溶融物から延伸する装置であって、ガラス溶融物が下方に出ることが可能な下部の縦長のノズル開口部を有する延伸タンクと、直接加熱設備と、間接加熱設備とを含む装置を意図している。殊に、少なくとも1つの直接加熱設備および少なくとも1つの間接加熱設備が、ノズル開口部の領域に設けられている。
【0010】
ここで、直接加熱設備は、少なくとも1つの加熱回路を含み、この加熱回路により、少なくとも1つの第一の加熱域の形態で延伸タンクの少なくとも1つの領域が加熱可能であり、直接加熱設備が、各加熱回路のために電源を含み、各加熱回路が、接続部を有し、これらの接続部により、各加熱回路が、延伸タンクの壁に接続されており、そのため、電源の電流が、壁の少なくとも一部をそれぞれ流れて、壁を加熱し、直接加熱の各加熱回路が、延伸タンクの壁の通電部分を含む。好ましくは、直接加熱設備は、複数の加熱回路を含み、これらの加熱回路により、複数の第一の加熱域の形態で延伸タンクの少なくとも1つの領域が加熱可能である。間接加熱設備は、少なくとも1つの第二の加熱域のための、好ましくは複数の第二の加熱域のための発熱体を有する。
【0011】
このようにして、延伸タンクの間接加熱により基本温度が得られ、延伸タンクの直接加熱により目的温度が得られる。
【0012】
好ましい構成において、直接加熱設備は、互いに別々に制御可能な少なくとも4つの加熱回路を含み、これらの加熱回路により、第一の加熱域の形態で延伸タンクの4つの異なる領域が加熱可能である。直接加熱設備は、加熱回路のそれぞれに電源を含み、加熱回路は、接続部を有し、これらの接続部により、加熱回路が、延伸タンクの壁に接続されており、そのため、電源の電流が、壁の少なくとも一部をそれぞれ流れて、壁を加熱し、直接加熱の加熱回路が、延伸タンクの壁の通電部分を含み、殊にここで、加熱回路は、延伸タンクの通電金属板を伴って形成されている。
【0013】
間接加熱設備は、発熱体、好ましくは、互いに別々に制御可能な空間的に互いに異なる少なくとも3つの第二の加熱域のための発熱体を有する。
【0014】
ガラスリボンの厚さは、温度偏差に対して非常に敏感に反応するため、安定した製造プロセスにとって、延伸タンク内かつ延伸タンク上におけるガラス溶融物の温度の最適化および微調整は、特に重要である。
【0015】
加熱システムが間接的にのみ実装される場合、すなわち、発熱体が延伸タンクの周りに配置されている場合、温度制御が遅延し、横方向および縦方向での延伸タンク内の温度プロファイルの微調整または最適化は、実現が困難である。溶融物の品質を向上させ、かつ厚さプロファイルを調整するために流れの均一性を補償する勾配制御、ひいてはより良好かつより迅速な制御性は、困難である。さらに、この遅延システムにおいて、起動プロセスおよび停止プロセスは、ゆっくりとしか実施することができない。
【0016】
加熱システムがもっぱら直接的に実装される場合、直接の加熱電流が多過ぎると、ガラス溶融物と延伸タンクの金属板との間で電気化学反応が促進され、これにより、ガラスにおいて、気泡が形成されたり、延伸タンクの金属板からの不所望な粒子が形成されたりすることがある。さらに、部品が直接的にのみ加熱される場合、微細に空間分解された温度調整を実施することが不可能であり、これにより、プロセスの制御性が妨げられる。
【0017】
直接加熱設備と間接加熱設備との本発明による特定の組み合わせにより、それぞれのタイプの加熱の欠点を低減または互いに補償することができる。よって、直接加熱設備により、±0.5Kのガラス温度の迅速な制御と、プロセスの迅速な起動および停止とが可能であり、同時に、間接加熱設備により、直接加熱の多過ぎる加熱電流、ひいてはガラスにおける不所望な気泡形成および粒子形成を防止または少なくとも低減することができる。別々の第一の加熱域と第二の加熱域とに分けることにより、ガラス溶融物の線形処理量、すなわち、横方向の単位長さあたりのガラス溶融物の処理量をより良好に調整することができる。
【0018】
よって、薄いガラスリボンを製造する本発明による装置により、延伸タンクにおける温度調整および処理量調整が特に柔軟な、従来技術よりも改善された加熱システムが提供され、それにより、形状精度とガラス品質とが改善されたガラスリボンの製造が確実になる。
【0019】
間接加熱設備の制御性をさらに改善するために、間接加熱設備は、互いに別々に制御可能な5つ以上の第二の加熱域のための発熱体を有することが好ましい。
【0020】
有利な構成において、直接加熱設備の第一の加熱域および間接加熱設備の第二の加熱域は、延伸タンクの周りでかつ延伸タンクの上に、垂直および/または水平に分布して配置されている。
【0021】
垂直および/または水平に異なる加熱域へと分布させることにより、ガラス溶融物の温度プロファイルおよび線形処理量を、空間分解の面で最適に制御することができ、これは、プロセスの制御性にとって、したがってその安定性にとって都合がよい。よって、例えば、変形からプロセス障害まで引き起こす可能性のある延伸タンク内の負圧も防止される。
【0022】
また、延伸タンク、成形工具、または別の部品の材料が、長い耐用年数および1200℃超の高温で老化することも問題となることがあり、それにより、例えば、貴金属製の部品であっても、粒度が大きくなることで、安定性に不利な影響が与えられることがある。これらの欠点は、異なる加熱域において垂直および/または水平に分布した、直接加熱設備と間接加熱設備との組み合わせにより回避することが可能である。
【0023】
延伸タンクの金属板に印加される加熱電流は、直接加熱の場合、2500A未満、好ましくは1000A未満であることが好ましい。
【0024】
2500A未満、好ましくは1000A未満の加熱電流により、ガラスにおいて、粒子の形成、殊に貴金属部品からの貴金属粒子の形成と、気泡の形成とが低減される。
【0025】
間接加熱設備は、これがベース負荷として総出力に50%より多く寄与するように設計されることが好ましい。
【0026】
間接加熱設備による熱供給量が、直接加熱設備の熱供給量と比較して上回っていたら、直接加熱の制御電流を、粒子および気泡の形成に決定的なその電流量未満の電流量にしてもよい。
【0027】
直接加熱設備を熱技術面で改善するために、有利な構成において、延伸タンクは、フランジまたはカラー(Manschetten)を、直接加熱のための電源用接続部として含む。
【0028】
局所的な電流密度、すなわち電流量および導体断面に応じた入熱量を最適に調整するには、延伸タンクの通電金属板の厚さが、局所的に適合させたやり方で、0.5~5mmの範囲であることが有利であると判明した。温度の理想的な分布それぞれに材料の厚さを適合させることにより、調整した電流量において、直接加熱で延伸タンクの屈曲部またはフランジに生じる可能性のある局所的な高温箇所、いわゆるホットスポットなどの重大な領域を減らすことができ、よって、気泡および異質粒子の形成も回避することができる。
【0029】
好ましくは複数の温度測定箇所が形状結合により延伸タンクと接続、殊に溶接されていることにより、特に迅速かつ直接的な調節性を得ることができる。
【0030】
さらなる有利な構成では、少なくとも2つの温度測定箇所が設けられており、これらの温度測定箇所は、直接加熱設備または間接加熱設備の加熱出力を制御するために、加熱出力を制御する制御設備のための制御測定箇所となる。
【0031】
特に均一な熱分布のために、間接加熱設備は、発熱体として加熱タイルまたは蛇行ヒーター(Maeanderheizer)を含んでいてもよい。
【0032】
白金、ステンレス鋼、またはSiCを抵抗発熱材として含む、間接加熱設備の発熱体が特に有利であると判明した。
【0033】
例えば高温により部品に負荷がかかった際のクリープ変形を防止するために、またプロセスの安定性および装置の耐用年数を向上させるために、好ましい実施形態では、延伸タンクが、少なくとも1つの微粒子安定化貴金属または微粒子安定化貴金属合金を有する金属板を含むことが意図されている。金属としては、特に、白金および白金合金、殊に、Pt、PtRh、PtAu、PtRhAu、PtIrが適しており、特に好ましくは、ナノ粒子、例えばZrO粒子が含有されている。
【0034】
微粒子安定化貴金属合金の使用は、高い温度負荷および長時間使用における延伸タンクの安定性を向上させるのに好ましい。微粒子安定化合金、すなわち、場合によってナノ粒子を添加して溶融冶金学的または粉末冶金学的に製造されたPtRhAu(0%≦x≦100%、0%≦y≦20%、0%≦z≦20%)またはPtIr合金(0%≦u≦100%、0%≦v≦20%)からの貴金属合金が、高温による部品の負荷におけるクリープ効果を低減するのに特に有利である。
【0035】
これらの安定化された材料のサプライヤーは、例えば、Umicore、Furuya、Heraeus、Tanakaであり、それぞれ、これらの材料の独自のバージョンがある(Umicore、例えば、PtRh10 FKS Rigilit、PtRh10 FKS Saeculit-Heraeus、例えば、PtRh10 DPHまたはDPH-A)。
【0036】
耐クリープ性の高い貴金属、例えば純粋なイリジウムは、耐酸化性でないため、あまり適していない。
【0037】
前述の特定の合金に限定されるものではないが、ここに記載の構成により、一般的に、1100℃超の成形温度でガラスからガラスリボンを延伸することが可能である。ここで、本開示によると、成形温度とは、ガラスが10dPa・sの粘度を有する温度を指す。
【0038】
当然のことながら、延伸タンクの金属板のみならず、装置の別の部品または工具も、少なくとも1つの微粒子安定化貴金属または微粒子安定化貴金属合金を含み得る。
【0039】
延伸タンクの機械的変形を引き起こし、ガラスリボンの厚さを不均一にし、ガラスの欠陥をもたらし得る延伸タンク内の負圧を回避するために、延伸タンクの上流の供給部は、好ましくは延伸タンクの分配管に開口しており、この分配管にチャンバが接続しており、チャンバは、分配管よりも狭い断面を有し、かつその下端にノズル開口部を有する。
【0040】
よって、ガラス溶融物がそれぞれ通る経路にわたる総圧力降下は、ノズル開口部のあらゆる箇所でも一定かつ同じ大きさである。
【0041】
好ましい実施形態において、直接加熱設備の電源は、延伸タンクの上部において、ガラスリボンの延伸方向に対して横方向に、すなわち殊にノズル開口部の長手方向に沿って分布した少なくとも3つの第一の加熱域が形成されるように、延伸タンクに接続されており、先の第一の加熱域のうちの1つは、好ましくは中央に配置されており、かつ少なくとも1つの別の第一の加熱域は、ノズル開口部を有する延伸タンクの下側を加熱する。
【0042】
この配置により、延伸タンク内の温度を、ノズル開口部に至るまで、局所的に変化するように、すなわち水平方向および垂直方向に様々であるように制御することができ、よって、ガラス溶融物の粘度も、望ましいように調整することができる。
【0043】
さらなる好ましい実施形態によると、温度制御をさらに改善するために、間接加熱設備の発熱体は、互いに別々に制御可能な空間的に互いに異なる少なくとも3つの第二の加熱域について、第二の加熱域が、ガラスリボンの延伸方向に対して横方向に、すなわち殊にノズル開口部の長手方向に沿って互いに隣接して分布するように配置されている。
【0044】
その結果、厚さの一貫性と平坦性とについて高い要件を満たすガラスリボンを製造することができる。
【0045】
ガラス溶融物の滞留時間を延ばすために、またガラス溶融物の厚さ分布(縦方向および横方向の分布)に影響を与える温度の制御性を改善するために、本装置の延伸タンクは、延伸タンクのノズル開口部から下方に突出したガイド体を有し、このガイド体は、ノズル開口部の縁部に対して離間して固定されているため、ガイド体とノズル開口部の縁部との間に2つのノズルギャップが形成される。ここで、ガイド体は、加熱されていることが好ましく、このガイド体は、専用の別々に制御可能な接続部を有し、また延伸タンクから独立した少なくとも1つの加熱回路が形成され、例えば、1つの接続部を介して接地が行われる。
【0046】
本装置の前述の構造的な構成により、厚さが均一かつ表面品質が改善されたより高収率のガラスリボンを達成することができ、またこれらの構成により、機械的安定性、よって耐用年数も改善される。
【0047】
先に記載した装置のうちの1つを用いて、好ましくは、薄いガラスリボン、殊に3000μm以下の厚さを有する薄いガラスリボンを製造する方法であって、ガラス溶融物が、供給部を介して延伸タンクに供給され、ガラス溶融物が、ノズル開口部から出て、ガラスリボンを形成しながら引き抜かれ、同時に延伸タンクが、直接加熱設備と間接加熱設備との双方により加熱される、方法を実施することができる。
【0048】
好ましい方法では、ガラス溶融物が、延伸タンクへの供給部を通して延伸タンクの分配管へと分配され、この分配管にチャンバが接続しており、このチャンバは分配管よりも狭い断面を有し、延伸タンク内の温度プロファイルにより、ノズル開口部に沿って一貫した、ガラス溶融物の線形処理量、すなわち、ガラス溶融物の横方向の単位長さあたりの一貫した処理量が調整される。
【0049】
好ましい方法では、総処理量が一定になるように、直接加熱設備および間接加熱設備を用いて、ガラス溶融物の線形処理量、すなわち、ガラス溶融物の横方向の単位長さあたりの処理量が、延伸タンク内のガラス溶融物の温度調整および温度分布により制御される。
【0050】
円形の延伸タンク入口では、処理量が、管径および温度に応じて調整される。延伸タンクの温度調整は、出口に沿った線形処理量の縦方向の分布にしか影響を与えてはならず、総処理量を変化させてはならないことが好ましい。
【0051】
延伸タンクがチャンバを含み、このチャンバ内にガイド体が配置されており、このチャンバがその下端にノズル開口部を有する装置を用いたさらに好ましい方法では、延伸タンク内のガラス溶融物の温度は、その温度依存性粘度ηについて、以下の関係式:
【数1】
[式中、
【数2】
は、ガラス溶融物の体積流を表し、Bは、ノズル開口部に沿った方向での延伸タンクの幅を表し、Dは、チャンバの局所的な幅を表し、Dは、ガイド体の局所的な厚さを表し、ρは、ガラス溶融物の密度を表し、gは、重力加速度を表し、hは、チャンバの高さを表し、pは、2000Paの圧力を表す]
が満たされるように調整されることが好ましい。
【0052】
厚さが均一なできるだけ幅広いガラスリボンを製造するために、延伸タンク内の温度勾配は、ノズル開口部に沿って、それらの縁部からノズル開口部の中心に至るまで、有利にはT勾配=T中心-T縁部=0~50K、好ましくはT勾配=20~40Kに調整される。
【0053】
直接加熱と間接加熱との双方による本方法の前述の構成により、特に安定したプロセス、よって厚さが均一かつ表面品質が改善されたより高収率のガラスリボンを柔軟に達成することができる。これにより、本方法の経済性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
以下で、添付の図面を用いて、本発明をより正確に説明する。
図1】直接加熱設備と、間接加熱設備と、ガイド体とを有する延伸タンクの断面図である。
図2】直接加熱設備を有する延伸タンクの概略的な部分図を断面図で示す。
図3】間接加熱設備を有する延伸タンクの概略的な部分図を断面図で示す。
図4】ガラスリボンの厚さプロファイルおよび幅に対する、延伸タンク出口の温度プロファイルの影響をグラフとして示す。
図5】直接加熱のための電流用接続部として一対のカラーを有する延伸タンクの斜視図である。
図6】延伸タンク内の圧力降下を計算するための値を表す延伸タンクの断面図を示す。
【0055】
発明の詳細な説明
図1は、ガラスリボン3、殊に3000μm以下、好ましくは15~1100μmの厚さを有するガラスリボン3をガラス溶融物5から製造、殊に延伸する装置1の部品を示す。装置1は、ガラス溶融物5を収容する延伸タンク7を有し、この延伸タンク7は、その下端に縦長のノズル開口部9を有し、このノズル開口部9を通して、ガラス溶融物5が下方に出ることが可能であり、また本発明により、直接加熱設備2と間接加熱設備4とを組み合わせている。
【0056】
延伸タンク7内には、好ましくはガイド体11が配置されていてもよく、このガイド体11は、延伸タンク7のノズル開口部9から下方に突出していてもよい。ガイド体11は、ガイド体11とノズル開口部9の縁部90,92との間に2つのノズルギャップ94,96が形成されるように、ノズル開口部9の縁部90,92から離間して固定されていることが好ましい。それにより、ガラス溶融物5は、好ましくは2つの部分流50,52になって、ノズルギャップ94,96を通り出てくる。これらの部分流50,52は、ガイド体11に沿って下方に流れ、ガイド体11の好ましくはノズル開口部9から突出した部分100の下端で合わさる。2つの部分流50,52が合わさり、その後ガラスリボン3が引き抜きにより成形されるこの範囲は、延伸球状物(Ziehzwiebel)15と称される。この引き抜きにおいて、ガラスを抜き取ることにより、ガラスリボン3の厚さが小さくなる。同時に、ガラスは、ノズル開口部9からの距離が長くなるにつれて冷たくなり、これが凝固するまで相応して粘度が高くなる。
【0057】
一般的に、ガイド体11が、少なくとも30mm、好ましくは少なくとも80mm、ノズル開口部9から突出していると好ましい。このようにして、ガイド体11上でのガラス溶融物5の良好な分布が可能になり、ガラスリボン3の厚さの変動が抑えられる。
【0058】
特定の実施例に限定されるものではないが、さらなる構成では、ガイド体11が、延伸タンク7内において、ノズル開口部9におけるよりも大きな厚さを有することが意図されている。増厚は、機械的な理由から有利であるが、必須ではない。
【0059】
ガイド体11は、抵抗体101と、抵抗体101の下に配置されたブレードまたはリーフ103とを含んでいてもよく、抵抗体101は、リーフ103よりも大きな幅を有し、延伸タンク7内の流れ断面を狭くすることが好ましい。
【0060】
ノズル開口部9から流体抵抗または抵抗体101の下端までの距離は、一般的に、少なくとも3mm、好ましくは少なくとも8mmであることが好ましい。
【0061】
図1に図示されてはいないが、ガイド体11を、殊に専用の別々に制御可能な接続部を介して加熱することも技術的には考えられ、その際、延伸タンク7から独立した少なくとも1つの個別の加熱回路が形成され、例えば、接続部を介して接地が行われる。
【0062】
ガラスリボン3を引き抜くために、延伸装置17が設けられていてもよい。この延伸装置17は、例えば、一対以上の駆動ローラを含み得る。
【0063】
図1は、直接加熱設備2の加熱回路206を示し、この加熱回路206は、2つの接続部26,27を有し、これらの接続部26,27により、加熱回路206が、延伸タンク7の壁700に接続されており、そのため、電源201の電流が、壁700の少なくとも一部を流れ、壁700を加熱し、それにより、第一の加熱域34の形態で延伸タンク7の少なくとも1つの領域が加熱可能である。
【0064】
直接加熱設備2は、互いに別々に制御可能な少なくとも4つの加熱回路206,207,208,209を有することが好ましく、これらの加熱回路206,207,208,209により、例えば図2に図示されているように、第一の加熱域34,35,36,37の形態で延伸タンク7の4つの異なる領域が加熱可能である。
【0065】
さらに、直接加熱設備2は、好ましくは少なくとも4つの加熱回路206,207,208,209のそれぞれについて、電源201,202,203,204を含み、加熱回路206,207,208,209はそれぞれ、接続部26,27を有し、これらの接続部26,27により、加熱回路206,207,208,209が、延伸タンク7の壁700に接続されており、そのため、電源201,202,203,204の電流が、壁700の少なくとも一部をそれぞれ流れて、壁700を加熱する。
【0066】
加熱回路の加熱電流は、好ましくは2500A未満、殊に1000A未満である。ただし、温度の事後制御に直接加熱を利用する場合に十分な加熱出力をもたらすことを可能にするには、200Aの最低出力を有する電源が好ましい。殊に、直接加熱の加熱回路206,207,208,209は、延伸タンク7の通電金属板78を伴って形成される。直接加熱にとって都合の良い金属板78の厚さは、0.5~5ミリメートルの範囲にある。
【0067】
本発明によると、装置1は、加熱設備2に加えて、間接加熱設備4も含み、この間接加熱設備4は、図1に図示されているように、少なくとも1つの第二の加熱域のための発熱体を有する。特に好ましい構成において、間接加熱設備4は、互いに別々に制御可能な空間的に互いに異なる少なくとも3つまたは5つまたはそれより多く(図3)の第二の加熱域のための発熱体を有する。図1に記載の装置1の実施例において、間接加熱設備4には、外部環境に対する断熱材14も配置されている。
【0068】
図1に概略的に図示されているように、有利なさらなる構成では、少なくとも2つの温度測定箇所18,19が設けられており、これらの温度測定箇所18,19は、直接加熱設備2および/または間接加熱設備4の加熱出力を制御するために、加熱出力を制御する制御装置20のための制御測定箇所となり得る。したがって、記されている矢印から明らかであるように、制御装置20は、温度測定箇所18,19のセンサの値を読み取り、加熱設備2,4の加熱出力を制御する。直接加熱の場合、この目的のために、電流が調整される。間接加熱設備4も、伝導加熱を含むことが好ましいが、例えばバーナーを含んでいてもよい。温度測定箇所18,19は、温度変化を迅速にフィードバックするために、形状結合により延伸タンク7と接続、殊に溶接されていてもよい。
【0069】
図2には、より見やすくするために、好ましくは互いに別々に制御可能な少なくとも4つの加熱回路206,207,208,209を有し、これらの加熱回路206,207,208,209により、第一の加熱域34,35,36,37の形態で延伸タンク7の4つの異なる領域が加熱可能である直接加熱設備2を有する延伸タンク7の切取図が示されている。図2に記載の直接加熱設備2は、加熱回路206,207,208,209のそれぞれについて、割り当てられた電源201,202,203,204を含み、それぞれ接続部26,27を有し、これらの接続部26,27により、加熱回路206,207,208,209が、延伸タンク7の壁700に接続されている。
【0070】
有利な構成において、直接加熱設備2の第一の加熱域34,35,36,37は、延伸タンク7に、垂直および水平に分布して配置されている。この配置により、延伸タンク内の温度を、ノズル開口部9に至るまで、局所的に変化するように、様々に制御することができ、よって、ガラス溶融物5の粘度も、望ましいように調整することができる。
【0071】
図2に図示されている直接加熱設備2の特に好ましい実施形態において、電源201,202,203,204は、少なくとも3つの第一の加熱域34,35,36が、好ましくは延伸タンク7の上部において、ガラスリボン3の延伸方向に対して横方向に、すなわち殊にノズル開口部9の長手方向に沿って分布するように、延伸タンク7に接続されている。延伸タンク7の上部におけるこれらの3つの第一の加熱域34,35,36のうち、加熱域35は、延伸タンク7内のガラス溶融物5の供給部74の領域において中心に配置されていることが好ましく、その他の2つの加熱域34,36は、供給部74の下流に配置された、ガラス溶融物5用の分配管76の領域にそれぞれあることが好ましい。図2に図示されているように、少なくとも1つのさらなる第一の加熱域37によりノズル開口部9を有する延伸タンク7の下部が加熱されることが有利である。
【0072】
図3は、より見やすくするために、間接加熱設備4を有する延伸タンク7の部分図を示す。
【0073】
実施例に限定されるものではないが、本発明の一実施形態では、図3に図示されているように、間接加熱設備4が、別々に制御可能な6つの第二の加熱域61,62,63,64,65,66のための6つの発熱体41,42,43,44,45,46を有することが好ましいと意図されており、間接加熱設備4の第二の加熱域61,62,63,64,65,66は、互いに隣接して水平に、垂直の長手方向の加熱域61,62,63,64,65,66として、延伸タンク7に分布して配置されていてもよく、さらに好ましくは、ガラスリボン5の延伸方向に対して横方向に、すなわち殊にノズル開口部9の長手方向に沿って配置されていてもよい。
【0074】
ガラスリボン3を製造、殊に延伸する装置1が、本発明により直接加熱設備2および間接加熱設備4を同時に有すると、ガラス溶融物5の温度プロファイルおよび線形処理量を、殊に異なる第一の加熱域と第二の加熱域とに分けることにより、空間分解の面で最適に調整することができ、これにより、この装置を用いて実施されるプロセスの制御性、したがってその安定性も特に促進される。殊に、この制御により、ノズル開口部9に沿ってできるだけ一貫した線形処理量を目指すことができる。
【0075】
ガラスリボンの厚さは、温度偏差に対して非常に敏感に反応するため、安定した製造プロセスにとって、ガラス溶融物5の温度の最適化および微調整は、特に重要である。
【0076】
図4は、ガラスリボン3の厚さプロファイルおよび幅に対する、延伸タンク出口の温度プロファイルの影響をグラフとして示す。
【0077】
ガラスリボン3は、ガラスリボン3の厚さがまったくまたは少ししか変化しない中央領域30と、縁側の端部(Borten)31,33とを有する。中央領域30は、いわゆる品質領域であり、この品質領域から、作製すべきガラス製品が製造される。一般的に、端部31,33は切断され、端部31,33のガラスは、改めて溶融されて、延伸タンク7に供給されてもよい。
【0078】
特に幅広く、同時に利用可能な品質領域または中央領域30内の均一な厚さを有するガラスリボン3を得るためには、図4において3本の線のうちの細い「真ん中」の実線により示されるように、ノズル開口部9の縁部90,92と、ノズル開口部9の中心との間の温度勾配を、理想的には40Kに調整すべきである。
【0079】
ノズル開口部9の中心がより高温である場合、すなわち、温度勾配が例えば50Kである場合、ガラス溶融物5の線形処理量は、中心において増加し、それを理由として、ガラスリボン3の厚さプロファイルは、例えば図4において破線で描かれているように、W型になる。
【0080】
温度差が、図4において太い実線で描かれているように、20K以下である場合、ガラスリボン3のリボン幅は減少し、厚さプロファイルは「バスタブ型」になる。ここで、利用可能な品質領域または中央領域30は、著しく減る。
【0081】
よって、できるだけ幅広い、厚さの一貫性を有するガラスリボン3を製造するために、延伸タンク7内の温度勾配は、ノズル開口部9に沿って、その縁部90,92からノズル開口部9の中心に至るまで、有利には、T勾配=T中心-T縁部=0~50K、好ましくはT勾配=20~40Kに調整される。
【0082】
装置1の有利な構成において、温度の調整によりガラスリボン3の厚さを調整または制御するさらなる可能性は、フランジまたはカラー28を直接伝導加熱のための電流用の接続部26,27として含む延伸タンク7を用いて行われる。
【0083】
図5には、延伸タンク7の上流にガラス溶融物用の供給部74があり、延伸タンク7の上部が、ガラス溶融物5用の管型部分または分配管76により形成されており、この管型部分または分配管76にチャンバ75が接続している、好ましい実施形態の部分図が示されている。ここで、例えば、一対のカラー28は、電流用の個別の接続部26,27として分配管76に固定されている。ここで、カラー28は、それぞれ電流接続タブ29を有することが好ましい。
【0084】
本発明のさらなる実施形態によると、ガラスリボン3の形状精度を改善するために、延伸タンク7内の圧力降下が、特定の手法で調整される。この調整により、延伸タンク7内に負圧が形成されることが回避される。そのような負圧は、延伸タンク7を機械的に変形させる可能性があり、これは、ガラス厚にも影響を与える可能性がある。さらに、局所的な負圧により、延伸タンク7内において、ガラス溶融物5の流れが不安定になる可能性があり、これにより同様に、不均質なガラス厚またはガラス欠陥が生じる可能性がある。
【0085】
これより、図6の延伸タンク7の概略的な断面図を用いて、この実施形態による調整をより詳細に説明する。図6は、延伸タンク7内の圧力降下の計算に用いられる寸法が図示された、延伸タンク7の断面図を示す。
【0086】
ここで、延伸タンク7の上部は、管型部分または分配管76により形成されており、この管型部分または分配管76にチャンバ75が接続されており、このチャンバ75は、延伸タンク7の底部70に開口している。チャンバ75は、分配管76よりも狭い断面を有することが好ましい。よって、チャンバ75の幅Dは、分配管76の直径よりも小さい。圧力の変化は、特にチャンバ75に沿った断面が小さいことに基づいて生じる。特に、好ましくは少なくとも1つのガイド体11によりチャンバ75がさらに狭くなった部分が寄与している。
【0087】
好ましい実施形態によると、延伸タンク7内の温度は、先にすでに挙げられた関係式:
【数3】
【0088】
が成り立つように調整される。
【0089】
先の関係式において、
【数4】
は、ガラス溶融物5の体積流を表し、Bは、延伸方向に対して垂直にノズル開口部9に沿ったまたはガラスリボン3に沿った方向での延伸タンク7の幅を表し、ηは、ガラス溶融物5の粘度を表し、Dは、チャンバ75の局所的な幅を表し、Dは、ガイド体11の局所的な厚さを表し、ρは、ガラス溶融物5の密度を表し、gは、重力加速度を表し、hは、チャンバ75の高さを表す。垂直方向zの区間HおよびHについて積分が行われる。ここで、積分は、2つ以上の部分区間についても行われ、この場合、部分積分を加算する必要がある。これは、ガイド体11に加えて、例えば垂直方向に互いに間隔を空けて分離されたさらなるガイド体がさらに存在する場合に該当する。
【0090】
記号pは、2000Paの高さの圧力を表す。この値は、なおも許容可能な負圧を考慮している。したがって、関係式の右辺には、なおも許容可能な負圧pの分だけ減じられたガラス溶融物5の静水圧が記載されている。この項は定数である。前因子
【数5】
により、ガラスリボン3の厚さが決定される。この前因子も、同様に定数を表すように事前に定められている。それに対して、ガラスリボン3の厚さが事前に定められている場合に温度によって制御可能なのは、温度依存性の強い粘度ηである。
【0091】
先に直接加熱設備2および間接加熱設備4の構成で示されたように、温度制御は、局所的に異なるように行われてもよい。同様に、延伸タンク7内の温度は、垂直方向にも沿って変化してもよい。すなわち、粘度は、場所に依存していてもよい:η=η(z)。よって、この依存性は、積分においても同様に考慮され得る。
【0092】
すなわち、一実施形態によると、延伸タンク7がチャンバ75を含み、このチャンバ内にガイド体11が配置されており、このチャンバ75がその下端にノズル開口部9を有することが意図されており、延伸タンク7内のガラス溶融物5の温度は、その温度依存性粘度について、上記の関係式が満たされるように調整される。
【0093】
本発明が、図に記載の特定の実施例に限定されるのではなく、様々な手法で変形可能であることは、当業者にとって明らかである。殊に、様々な実施形態を互いに組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 ガラスリボンを製造する装置
2 直接加熱設備
3 ガラスリボン
4 間接加熱設備
5 ガラス溶融物
7 延伸タンク
9 ノズル開口部
11 ガイド体
14 断熱材
15 延伸球状物
17 延伸装置
18,19 温度測定箇所
20 加熱出力を制御する制御装置
26,27 加熱回路の接続部
28 カラー
29 電流接続タブ
30 3の中央領域
31,32 3の端部
34,35,36,37 第一の加熱域
50,52 5の部分流
41,42,43,44,45,46 間接加熱設備4の発熱体
61,62,63,64,65,66 第二の加熱域
70 7の底部
74 7の供給部
75 チャンバ
76 分配管
78 金属板
90,92 94,96の縁部
94,96 ノズルギャップ
100 11の9から突出した部分
101 抵抗体
103 ブレードまたはリーフ
201,202,203,204 電源
206,207,208,209 加熱回路
700 7の壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6