(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ポリマーブレンド及びその製造方法、並びに、それを用いたゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 15/00 20060101AFI20240830BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20240830BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240830BHJP
C08F 297/02 20060101ALI20240830BHJP
C08C 19/02 20060101ALI20240830BHJP
C08C 19/42 20060101ALI20240830BHJP
C08J 3/21 20060101ALI20240830BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240830BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C08L15/00
C08L9/00
C08L53/02
C08F297/02
C08C19/02
C08C19/42
C08J3/21 CEQ
B60C1/00 A
B60C11/00 B
(21)【出願番号】P 2020131535
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】菊地 章友
(72)【発明者】
【氏名】安本 敦
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178103(JP,A)
【文献】特開2019-014796(JP,A)
【文献】特開2006-016526(JP,A)
【文献】特開2013-144743(JP,A)
【文献】特開2020-045388(JP,A)
【文献】特開2004-018760(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03650472(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の重合体と第二の重合体を含むポリマーブレンドであり、
前記第一の重合体が、芳香族ビニル化合物に基づく構成単位と、共役ジエン化合物に基づく構成単位と、エチレンに基づく構成単位と、を有するランダム共重合体であり、
前記第二の重合体が、芳香族ビニル化合物に基づく構成単位と、共役ジエン化合物に基づく構成単位と、を有する非水添ランダム共重合体であり、
前記第一の重合体のSP値から前記第二の重合体のSP値を引いた値が、0以上0.6以下であ
り、
前記第一の重合体の含有量が、前記ポリマーブレンドの総量に対して、5質量%以上30質量%以下であり、
前記第二の重合体の含有量が、前記ポリマーブレンドの総量に対して、70質量%以上95質量%以下である、
ポリマーブレンド。
【請求項2】
前記第一の重合体のガラス転移温度が、-50℃以上-10℃以下であり、
前記第二の重合体のガラス転移温度が、-90℃以上-50℃以下である、
請求項1に記載のポリマーブレンド。
【請求項3】
前記第一の重合体のヨウ素価が、15以上200以下である、
請求項1又は2に記載のポリマーブレンド。
【請求項4】
前記第一の重合体のガラス転移温度から前記第二の重合体のガラス転移温度を引いた値が、20℃以上65℃未満である、
請求項1~
3のいずれか一項に記載のポリマーブレンド。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の
ポリマーブレンドの製造方法であって、
第一の重合体溶液と、第二の重合体溶液とを混合して、混合重合体溶液を得る工程と、
前記混合重合体溶液を脱溶剤する工程と、を有する、
ポリマーブレンドの製造方法。
【請求項6】
ゴム成分として、請求項1~
4のいずれか一項に記載のポリマーブレンドを含む、
ゴム組成物。
【請求項7】
請求項
6に記載のゴム組成物を含む、
空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーブレンド及びその製造方法、並びに、それを用いたゴム組成物及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転技術の将来の普及に伴い、タイヤの交換頻度の低減、すなわち、タイヤの耐久性の向上が求められる。特にブレーキ性能に関しては、乗員の安全性を担保する為、従来よりも長期の性能維持が求められる。
【0003】
タイヤの耐久性向上のためには耐摩耗性の向上が不可欠であり、特許文献1では、エチレン構造を含むポリマーのタイヤトレッドへの使用により、耐摩耗性が向上することが開示されている。
【0004】
また、エコタイヤ用トレッドゴムは、異種のゴムを併用することで相反する性能、例えば、転がり抵抗とブレーキ性能のバランスや、性能と価格のバランスを向上させることがしられている。例えば、特許文献2では水添ポリマーと非水添ポリマーをブレンドすることで高い強度を有する安価なゴム組成物を製造することができる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6004081号公報
【文献】WO2018/062473公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載のように水添ポリマーと非水添ポリマーを別々に架橋剤やフィラーなどと混練りし、それぞれの中間体組成物を製造した後に、水添ポリマーを含む中間体組成物と非水添ポリマーを含む中間体組成物とをさらに混練りする場合、異種のゴム成分と混ざりにくいために、複雑な工程が必要である。
【0007】
そのため、水添ポリマー使用による耐久性の向上、特に耐摩耗性や、ブレーキ性能とその長期特性を向上しつつ、他材料とより簡便にブレンドすることのできるポリマーブレンドが望まれる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性、及びブレーキ性能とその長期特性に優れたタイヤトレッドを製造可能であるポリマーブレンド及びその製造方法、並びに、それを用いたゴム組成物及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、所定の重合体を混合して用いることにより、上記課題を解決しうることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
第一の重合体と第二の重合体を含むポリマーブレンドであり、
前記第一の重合体が、芳香族ビニル化合物に基づく構成単位と、共役ジエン化合物に基づく構成単位と、エチレンに基づく構成単位と、を有するランダム共重合体であり、
前記第二の重合体が、芳香族ビニル化合物に基づく構成単位と、共役ジエン化合物に基づく構成単位と、を有する非水添ランダム共重合体であり、
前記第一の重合体のSP値から前記第二の重合体のSP値を引いた値が、0以上0.6以下である、
ポリマーブレンド。
〔2〕
前記第一の重合体のガラス転移温度が、-50℃以上-10℃以下であり、
前記第二の重合体のガラス転移温度が、-90℃以上-50℃以下である、
〔1〕に記載のポリマーブレンド。
〔3〕
前記第一の重合体のヨウ素価が、15以上200以下である、
〔1〕又は〔2〕に記載のポリマーブレンド。
〔4〕
前記第一の重合体の含有量が、前記ポリマーブレンドの総量に対して、5質量%以上30質量%以下であり、
前記第二の重合体の含有量が、前記ポリマーブレンドの総量に対して、70質量%以上95質量%以下である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のポリマーブレンド。
〔5〕
前記第一の重合体のガラス転移温度から前記第二の重合体のガラス転移温度を引いた値が、20℃以上65℃未満である、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のポリマーブレンド。
〔6〕
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のブレンドポリマーの製造方法であって、
第一の重合体溶液と、第二の重合体溶液とを混合して、混合重合体溶液を得る工程と、
前記混合重合体溶液を脱溶剤する工程と、を有する、
ポリマーブレンドの製造方法。
〔7〕
ゴム成分として、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のポリマーブレンドを含む、
ゴム組成物。
〔8〕
〔7〕に記載のゴム組成物を含む、
空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐摩耗性、及びブレーキ性能とその長期特性に優れたタイヤトレッドを製造可能なポリマーブレンド及びその製造方法、並びに、それを用いたゴム組成物及び空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
〔ポリマーブレンド〕
本実施形態のポリマーブレンドは、第一の重合体と第二の重合体を含み、第一の重合体が、芳香族ビニル化合物に基づく構成単位と、共役ジエン化合物に基づく構成単位と、エチレンに基づく構成単位と、を有するランダム共重合体であり、第二の重合体が、芳香族ビニル化合物に基づく構成単位と、共役ジエン化合物に基づく構成単位と、を有する非水添ランダム共重合体であり、第一の重合体のSP値から第二の重合体のSP値を引いた差が、0以上0.60以下である。
【0014】
本実施形態においては、第一の重合体と第二の重合体のSP値を適切な範囲に調整することで、ブレンド性を良好化することに加え、空気入りタイヤのトレッドに用いた場合、耐摩耗性がより向上する。このような効果は、第一の重合体中のエチレン鎖によって生成される結晶成分が高い補強効果を発揮するとともに、構造の異なる重合体間のSP値を適当な範囲に制御することで、第一の重合体と第二の重合体間の絡み合いが均一になり、長期間分離しないことにより、その補強効果が長期間維持され、結果として、ブレーキ性能及びその長期特性の維持に寄与すると推測される。
【0015】
なお、ポリマーブレンドは、主に第一の重合体及び第二の重合体から構成されるものであり、この点において、第一の重合体及び第二の重合体と他の成分とを多分に含む組成物とは相違する。
【0016】
第一の重合体の含有量は、ポリマーブレンドの総量に対して、好ましくは5質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上25質量%以下である。また、第二の重合体の含有量は、ポリマーブレンドの総量に対して、好ましくは70質量%以上95質量%以下であり、好ましくは70質量%以上90質量%以下であり、好ましくは75質量%以上85質量%以下である。第一の重合体及び第二の重合体の含有量が上記範囲内であることにより、第一の重合体及び第二の重合体の相溶性がより良好となり、耐摩耗性、ブレーキ性能及びその長期特性がより向上する傾向にある。
【0017】
また、ポリマーブレンドに含まれる第一の重合体及び第二の重合体以外の成分の含有量は、ポリマーブレンドの総量に対して、好ましくは0~10質量%であり、より好ましくは0~5質量%であり、さらに好ましくは0~3質量%である。
【0018】
(第一の重合体の構成)
第一の重合体は、芳香族ビニル化合物に基づく構成単位(以下、「芳香族部」ともいう。)と、共役ジエン化合物に基づく構成単位(以下、「共役ジエン部」ともいう。)と、エチレンに基づく構成単位(以下、「エチレン部」ともいう。)と、を有するランダム共重合体である。この第一の重合体は、芳香族部と共役ジエン部とを有するジエン系共重合体に対して水素添加反応を行うことで、共役ジエン部中の二重結合部分の一部をエチレン部とすることにより製造してもよいし、芳香族ビニル化合物と、共役ジエン化合物と、エチレンと、をランダム共重合して製造してもよい。
【0019】
製造コストの点から、第一の重合体は、ジエン系共重合体を水素添加反応に供して得ることが好ましい。以下において、このようにして得られる第一の重合体を、水添ジエン系共重合体ともいう。水添ジエン系共重合体では、水素添加率を高くすることにより、エチレン部の含有量を高めることができる。なお、水添ジエン系共重合体では、共役ジエン化合物単量体単位の主鎖の両端でポリマー鎖を形成するもの(例えば、1,3-ブタジエンをモノマーとした重合体の1,4結合)に対して水素が添加されたものをエチレン部とし、その他の形態(例えば、1,3-ブタジエンをモノマーとした重合体の1,2-ビニル結合)に対して水素が添加されたものはエチレン部に含めない。
【0020】
芳香族ビニル化合物としては、特に制限されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、モノマーの入手容易性等の実用面の観点でスチレンが特に好ましい。
【0021】
共役ジエン化合物としては、特に制限されないが、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、モノマーの入手容易性等の実用面の観点から1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく、1,3-ブタジエンがより好ましい。
【0022】
第一の重合体は、ランダム共重合体である。なお、本明細書中、「ランダム共重合体」とは、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の長連鎖割合が10質量%以下であることをいう。ここで、長連鎖割合とは、ある構造単位の全体に対する、その構造単位が8個以上連続した連鎖(長連鎖)の割合である。長連鎖割合が10質量%を超える、すなわち、第一の重合体がランダム共重合体ではない場合、燃費性が悪化する傾向にある。なお、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の長連鎖割合が10質量%以下である場合、相対的に、共役ジエン化合物に基づく構成単位やエチレンに基づく構成単位の長連鎖割合も低くなるため、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の長連鎖割合によってランダム共重合体かどうかを判定することができる。
【0023】
ここで、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の長連鎖割合は、第一の重合体を、重クロロホルムを溶媒として測定した1H-NMRスペクトルで、以下の(a)~(c)の各化学シフトS範囲の積分値の合計に対する、(a)の範囲の積分値の割合で計算することができる。例えば、芳香族ビニルがスチレンの場合、(a)~(c)の各範囲の積分値の合計に対する(a)の範囲の積分値の割合を求め、その値を2.5倍することでスチレンの割合を計算できる。これにより、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の長連鎖割合を把握できる。
(a)芳香族ビニル化合物連鎖8以上: 6.00≦S<6.68
(b)芳香族ビニル化合物連鎖2~7: 6.68≦S<6.89
(c)芳香族ビニル化合物短連鎖 : 6.89≦S≦8.00
【0024】
以上のとおり、商業生産と低燃費性の観点から、第一の重合体は、水添ジエン系ランダム共重合体が好ましい。また、第一の重合体は、変性されていても非変性でもよいが、ブレーキ性能と耐摩耗性の観点では変性されたランダム共重合体が好ましい。変性方法については後述するが、変性された第一の重合体とは、例えば、重合体の重合終了末端に、変性剤により官能基が導入されたものが挙げられる。
【0025】
第一の重合体のヨウ素価は、好ましくは15以上であり、より好ましくは30以上であり、更に好ましくは45以上である。また、第一の重合体のヨウ素価は、好ましくは200以下であり、より好ましくは170以下であり、更に好ましくは130以下である。第一の重合体のヨウ素価が上記範囲内であることにより、耐摩耗性及び架橋性がより向上する傾向にある。なお、ヨウ素価は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0026】
第一の重合体が水添ジエン系共重合体である場合、その水素添加率(共役ジエン部に対して水素添加された割合)は、架橋性の観点から、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上である。また、水素添加率は、架橋性の観点から、好ましくは95モル%以下であり、より好ましくは90モル%以下であり、更に好ましくは85モル%以下である。なお、水素添加率は、1H-NMRを測定して得られたスペクトルの不飽和結合部のスペクトル減少率から算出することができる。
【0027】
芳香族部の含有量は、第一の重合体の総量に対して、耐摩耗性及びウェットグリップ性能の観点から、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、更に好ましくは30質量%以上である。また、芳香族部の含有量は、第一の重合体の総量に対して、低燃費性の観点から、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下である。なお、芳香族部の含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0028】
第一の重合体の重量平均分子量(Mw)は、第一の重合体と第二の重合体の相溶性の観点から、好ましくは10×104以上であり、より好ましくは20×104以上であり、更に好ましくは30×104以上である。また、第一の重合体の重量平均分子量は、ムーニー粘度の観点から、好ましくは200×104以下であり、より好ましくは100×104以下であり、更に好ましくは70×104以下である。
【0029】
第一の重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、加工性の観点から、好ましくは1.1以上であり、より好ましくは1.2以上であり、更に好ましくは1.3以上である。また、第一の重合体の分子量分布は、低燃費性の観点から、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.0以下であり、更に好ましくは2.0以下である。なお、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0030】
第一の重合体のガラス転移温度(Tg)は、ブレーキ性能及びその長期特性の観点から、好ましくは-50℃以上であり、より好ましくは-40℃以上であり、さらに好ましくは-30℃以上である。また、第一の重合体のガラス転移温度は、低温性能の観点から、好ましくは-10℃以下であり、より好ましくは-15℃以下であり、さらに好ましくは-20℃以下である。また、第一の重合体のガラス転移温度が上記範囲内であることにより、耐摩耗性、ブレーキ性能及びその長期特性がより向上する傾向にある。
【0031】
Tgは、例えば、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物の組成比と、ヨウ素価により制御することができる。Tgを制御する方法は特に限定されないが、例えば、芳香族ビニル化合物の組成比を増やすことでTgを上げることができ、共役ジエン化合物中の1,2結合の組成比を増やすことでTgを上げることができ、ヨウ素価を下げることによりTgを上げることができる。また、これと反対の操作をすることにより、Tgを下げることができる。より具体的には、後述する製造例1-4に記載の組成から、水素添加率を上げると、製造例1-1のようにヨウ素価が下がり、Tgが上がる。また、後述する製造例1-5に記載の組成から、芳香族ビニル化合物の組成比を上げると、製造例1-1のようにTgが上がる。また、別の例として、重合体中の芳香族ビニル化合物の含有量が20質量%の場合、ヨウ素価を26~56程度にすることで、Tgを-50℃以上にすることができる。他方、ヨウ素価を112に設定する場合は、芳香族ビニル化合物の含有量を24~35質量%程度にすることで、Tgを-50℃以上にすることができる。また、ビニル結合量もTgに影響するが、ビニル結合量によるTgの影響は、第二の重合体と同様であるので、第二の重合体の欄で説明する。なお、ガラス転移温度(Tg)は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0032】
第一の重合体としては、耐摩耗性の観点で、芳香族ビニル化合物の組成比が高く、ヨウ素価が低いものが好ましい。
【0033】
第一の重合体の相溶性パラメーター(SP値)は、第二の重合体との相溶性の観点から、好ましくは17.50以上であり、より好ましくは17.60以上であり、さらに好ましくは17.70以上である。また、第一の重合体のSP値は、第二の重合体との相溶性の観点から、好ましくは18.20以下であり、より好ましくは18.10以下であり、さらに好ましくは18.00以下である。
【0034】
さらに、第一の重合体が水添共重合体の場合には、商業生産性の観点から、第一の重合体の相溶性パラメーターが17.50以上であることがより好ましい。エチレンに基づく構造単位を有する共重合体である第一の重合体は、17.50以上のSP値を有する場合に芳香族ビニル化合物の組成比が比較的高く、共役ジエンが少なくなる傾向にある。そのため、第一の重合体が水添共重合体の場合には、SP値が17.50以上であることにより、水添反応時間が短く、生産効率がより高くなる傾向にある。なお、SP値の好ましい上限は、第二の重合体の好ましいSP値との相対的な関係で設定される。
【0035】
SP値は、例えば、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物の組成比と、ヨウ素価により制御することができる。SP値を制御する方法は特に限定されないが、例えば、芳香族ビニル化合物の組成比を増やすことでSP値を上げることができ、共役ジエン化合物の1,2-ビニル結合量を増やすことでSP値を下げることができる。また、ヨウ素価を上げることで、SP値を上げることができる。例えば、後述する製造例1-1に記載の組成から、水素添加率を下げると、製造例1-4のようにヨウ素価が上がり、SP値が上がる。また、後述する製造例1-5に記載の組成から、芳香族ビニル化合物の組成比を上げると、製造例1-1のようにSP値が上がる。
【0036】
第一の重合体としては、芳香族ビニル化合物の組成比が高く、ヨウ素価が低いものが耐摩耗性の観点で好ましい。SP値を17.50以上18.20以下にする場合であって、芳香族ビニル化合物の組成比を32質量%程度に高く設定するためには、1,2結合の比率が23~45mol%、ヨウ素価を53~246にすることが好ましい。他方、芳香族ビニル化合物の組成比を低く、例えば、20質量%程度に設定するためには、1,2結合の比率が11~20mol%、ヨウ素価を211~300にすることが好ましい。
【0037】
なお、相溶性パラメーター(SP値)は、後述の実施例に記載の方法により計算される。
【0038】
(第二の重合体の構成)
第二の重合体は、芳香族ビニル化合物に基づく構成単位と、共役ジエン化合物に基づく構成単位と、を有する非水添ランダム共重合体である。
【0039】
芳香族ビニル化合物としては、特に制限されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、モノマーの入手容易性等の実用面の観点からスチレンが特に好ましい。
【0040】
共役ジエン化合物としては、特に制限されないが、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、モノマーの入手容易性等の実用面の観点から1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく、1,3-ブタジエンがより好ましい。
【0041】
第二の重合体は、第一の重合体と同様にランダム共重合体である。また、第二の重合体は、変性されていても非変性でもよいが、低燃費性という観点では変性されたランダム共重合体が好ましい。変性方法については後述するが、変性された第二の重合体とは、例えば、重合体の重合終了末端に、変性剤により官能基が導入されたものが挙げられる。
【0042】
芳香族部の含有量は、第二の重合体の総量に対して、引張強度の観点から、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上である。また、芳香族部の含有量は、第二の重合体の総量に対して、低燃費性の観点から、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下である。なお、芳香族部の含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0043】
第二の重合体の重量平均分子量(Mw)は、第一の重合体と第二の重合体の相溶性の観点から、好ましくは10×104以上であり、より好ましくは20×104以上であり、更に好ましくは30×104以上である。また、第二の重合体の重量平均分子量は、ムーニー粘度の観点から、好ましくは200×104以下であり、より好ましくは100×104以下であり、更に好ましくは70×104以下である。
【0044】
第二の重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、加工性の観点から、好ましくは1.1以上であり、より好ましくは1.2以上であり、更に好ましくは1.3以上である。また、第二の重合体の分子量分布は、低燃費性の観点から、好ましくは4.0以下であり、より好ましくは3.0以下であり、更に好ましくは2.0以下である。
【0045】
第二の重合体のガラス転移温度(Tg)は、低燃費性の観点から、好ましくは-100℃以上であり、より好ましくは-90℃以上であり、さらに好ましくは-80℃以上である。また、第二の重合体のガラス転移温度は、低燃費性の観点から、好ましくは-40℃以下であり、より好ましくは-50℃以下であり、さらに好ましくは-60℃以下である。また、第二の重合体のガラス転移温度が上記範囲内であることにより、耐摩耗性、ブレーキ性能及びその長期特性がより向上する傾向にある。
【0046】
Tgは、例えば、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の組成比により制御することができる。Tgを制御する方法は特に限定されないが、例えば、芳香族ビニル化合物の組成比を減らすことでTgを下げることができ、共役ジエン化合物の1,2-ビニル結合の組成比を減らすことでTgを下げることができる。また、これと反対の操作をすることにより、Tgを上げることができる。
【0047】
第二の重合体としては、芳香族ビニル化合物の組成比が低く、共役ジエン化合物の1,2-ビニル結合の組成比が低いものが好ましい。例えば、芳香族ビニル化合物の含有量を5質量%に設定する場合、1,2-ビニル結合を1~70mol%にすることで、Tgを-100℃以上-40℃以下にすることができる。
【0048】
第二の重合体の相溶性パラメーター(SP値)は、ポリマーブレンドをタイヤトレッドに利用した場合に、タイヤの省燃費性を向上させるポリマー構造に設定する観点から、好ましくは17.30以上であり、より好ましくは17.40以上である。また、第二の重合体のSP値は、同様の観点から、好ましくは17.70以下であり、より好ましくは17.60以下である。
【0049】
SP値は、例えば、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の組成比により制御することができる。SP値を制御する方法は特に限定されないが、例えば、芳香族ビニル化合物の組成比を減らすことでSP値を下げることができ、共役ジエン化合物の1,2-ビニル結合量を減らすことでSP値を上げることができる。例えば、後述する製造例2-1に記載の組成から、芳香族ビニル化合物の組成比を上げると、製造例2-2のようにSP値が上がる。また、芳香族ビニル化合物の含有量が0質量%の場合に、1,2-ビニル結合量を20~48mol%の間で変化させることで、SP値を17.3~17.5程度に制御することができる。芳香族ビニル化合物の含有量が好ましい上限値に近い30質量%の場合には、1,2-ビニル結合の比率を82~98mol%の間で変化させることで、SP値を17.5~17.7程度に制御することができる。
【0050】
第二の重合体としては、芳香族ビニル化合物の組成比が低いものが相溶性の観点で好ましい。
【0051】
(ポリマーブレンドの構成)
第一の重合体と第二の重合体からなるポリマーブレンドは、第一の重合体のSP値から第二の重合体のSP値を引いた差が0以上0.60以下である。SP値の差は異なるポリマー間の相溶性を表す一つの尺度であり、SP値の差が小さいほど相溶性は良好と言われている。一方で、ポリエチレンに代表されるエチレンに由来する構造を含むポリマーは、結晶構造の存在により、結晶構造を持たない他のポリマーとは相溶し難く、また、長期間の保管、使用の際にポリマー同士が分離する。
【0052】
この点、第一の重合体はエチレンに由来する構造を含むポリマーであるため、同様の傾向が確認されたが、発明者らが鋭意検討した結果、上記記載の第一の重合体と第二の重合体という特定の組み合わせのポリマーブレンドにおいて、第一の重合体と第二の重合体のSP値の差が0以上0.60以下という特定の数値範囲である際に、相溶性が良好、かつ、長期間の保管、使用の際にポリマー同士が分離せずに安定に存在し、耐摩耗性、ブレーキ性能及びその長期特性が向上することを見出した。
【0053】
第一の重合体のSP値から第二の重合体のSP値を引いた差は、相溶性の観点で、0.60以下であり、好ましくは0.55以下であり、より好ましくは0.50以下であり、さらに好ましく0.45以下である。SP値の差の上限が0.60に設定される理由としては、特に制限されないが、第一の重合体と第二の重合体のポリマー鎖間の構造類似度が近いことが、耐摩耗性、ブレーキ性能及びその長期特性に寄与するものと想定される。
【0054】
また、第一の重合体のSP値から第二の重合体のSP値を引いた差は、耐摩耗性、ブレーキ性能及びその長期特性の観点から、0以上であり、0.05以上、0.10以上、0.15以上、0.20以上、0.25以上としてもよい。SP値の差の下限が0に設定される理由としては、特に制限されないが、第一の重合体中の芳香族ビニル化合物由来の構造が、第二の重合体よりも相対的に多い、すなわちSP値が高いことで、エチレン由来の構造と芳香族ビニル化合物由来の構造が協奏的に作用し、エチレン由来の構造が存在しない第二の重合体のポリマー鎖間に入り込んで結晶化し、これにより、長期間の保管、使用の際にポリマー同士が分離せずに安定に存在し、耐摩耗性、ブレーキ性能及びその長期特性に寄与すると想定される。
【0055】
ポリマーブレンドの第一の重合体のガラス転移温度から第二の重合体のガラス転移温度を引いた差は、ブレーキ性能の向上の観点から、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは25℃以上であり、さらに好ましくは30℃以上である。また、第一の重合体のガラス転移温度から第二の重合体のガラス転移温度を引いた差は、耐摩耗性及びブレーキ性能の長期特性の観点から、65℃未満が好ましく、60℃未満がより好ましく、55℃未満が更に好ましい。
【0056】
(第一の重合体及び第二の重合体の製造方法)
第一の重合体の製造方法は、特に制限されないが、例えば、芳香族ビニル化合物と、共役ジエン化合物とをランダム共重合させる重合工程と、重合工程により得られた重合体を水素添加反応に供する水素添加工程と、を有する方法;または、芳香族ビニル化合物と、共役ジエン化合物と、エチレンをランダム共重合させる重合工程を有する方法が挙げられる。ここで、水素添加工程を行う場合であっても、重合工程においてエチレンを共重合させてもよい。また、重合工程においてエチレンを共重合させる場合であっても、水素添加工程を行ってもよい。
【0057】
また、第二の重合体の製造方法は、特に制限されないが、例えば、芳香族ビニル化合物と、共役ジエン化合物とをランダム共重合させる重合工程が挙げられる。
【0058】
さらに、第一の重合体及び第二の重合体の製造方法は、各重合工程後に、得られた重合体を変性する変性工程を有していてもよい。変性工程を行う場合においては、各重合工程の最後に、共役ジエン化合物を追加することで重合末端を共役ジエン化合物に基づく構成単位とすることが好ましい。これにより、変性剤による反応がより好適に進行する。
【0059】
(重合工程)
重合工程は、上記モノマーをランダム共重合させる工程である。第一または第二の重合体の重合方法については特に制限はなく、溶液重合法、気相重合法、バルク重合法のいずれも用いることができる。このなかでも、商業生産上の観点で、特に溶液重合法が好ましい。また、重合形式は、回分式及び連続式のいずれであってもよい。
【0060】
溶液重合法を用いた場合には、溶液中のモノマー濃度は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。溶液中のモノマー濃度が5質量%以上であることにより、得られる共重合体の量が多くなり、コストが低下する傾向にある。また、溶液中のモノマー濃度は、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。溶液中のモノマー濃度が50質量%以下であることにより、溶液粘度がより低下し、撹拌効率が向上し、重合しやすくなる傾向にある。
【0061】
(重合開始剤)
アニオン重合を行う場合、重合開始剤としては特に制限はないが、有機リチウム化合物が好ましく用いられる。有機リチウム化合物としては、特に制限されないが、例えば、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、tert-オクチルリチウム、n-デシルリチウム、フェニルリチウム、2-ナフチルリチウム、2-ブチルーフェニルリチウム、4-フェニル-ブチルリチウム、シクロヘキシルリチウム、シクロペンチルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとブチルリチウムとの反応生成物等が挙げられる。このなかでも、炭素数2~20のアルキル基を有するものが好ましく、入手容易性、安全性等の観点からn-ブチルリチウムまたはsec-ブチルリチウムが好ましい。
【0062】
また、配位重合を行う場合、重合開始剤としては特開2020-45500公報に記載の重合触媒組成物を使用することが好ましい。
【0063】
重合開始剤を用いてアニオン重合、または、配位重合し、共重合体を製造する方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。具体的には、反応に不活性な有機溶剤、例えば脂肪族、脂環族、芳香族炭化水素化合物等の炭化水素系溶剤中において、例えばブチルリチウムを重合開始剤とし、必要に応じてランダマイザーの存在下でスチレン、1,3-ブタジエン、エチレン等を重合させることにより、目的の共重合体を得ることができる。
【0064】
(炭化水素系溶剤)
炭化水素系溶剤としては、炭素数3~8のものが好ましく、例えばプロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、プロペン、1-ブテン、イソブテン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、1-ペンテン、2-ペンテン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
(アニオン重合におけるランダマイザー)
ランダマイザーとは、共重合体中の共役ジエン部分のミクロ構造制御、例えばブタジエンにおける1,2-ビニル結合、イソプレンにおける3,4-結合の増加等、あるいは共重合体におけるモノマー単位の組成分布の制御、例えばスチレンブタジエン共重合体におけるスチレン単位、ブタジエン単位のランダム化等の作用を有する化合物のことである。
【0066】
このランダマイザーとしては、特に制限はなく、従来ランダマイザーとして一般に使用されている公知の化合物の中から任意のものを用いることができる。例えば、ジメトキシベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2,2ージ(2ーテトラヒドロフリル)プロパン、トリエチルアミン、ピリジン、N-メチルモルホリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、1,2-ジピペリジノエタン等のエーテル類及び第三級アミン類等を挙げることができる。また、カリウム-t-アミレート、カリウム-t-ブトキシド等のカリウム塩類、ナトリウム-t-アミレート等のナトリウム塩類も用いることができる。これらのランダマイザーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
また、ランダマイザーの使用量は、重合開始剤1モル当たり、0.01モル当量以上が好ましく、0.05モル当量以上がより好ましい。ランダマイザーの使用量が0.01モル当量以上であることにより、よりランダム化しやすい傾向にある。また、ランダマイザーの使用量は、重合開始剤1モル当たり有機リチウム化合物1モル当たり1000モル当量以下が好ましく、500モル当量以下がより好ましい。ランダマイザーの使用量が1000モル当量以下であることにより、モノマーの反応速度の変化が小さく、ランダム化しにくくなることが抑制される傾向にある。
【0068】
(反応温度)
重合の際の反応温度は、好適に反応が進行する限り特に限定はないが、通常-10℃~100℃であることが好ましく、25℃~70℃であることがより好ましい。
【0069】
(変性工程)
変性工程は、例えば、重合工程により得られた共重合体の活性末端と、シリカと相互作用する官能基を有する化合物とを反応させる工程である。変性工程により、共重合体の重合終了末端に、シリカと相互作用する官能基を導入することができ、重合終了末端が変性された共重合体が得られる。なお、本実施形態において末端とは、分子鎖の端に存在する、炭素-炭素二重結合を有するモノマーに由来する構造以外の部分を意味する。
【0070】
またシリカと相互作用する官能基を分子中に有する重合開始剤を用いて重合を行うことにより、共重合体の開始末端に官能基を導入することができる。さらに必要に応じ開始末端および終了末端の両末端に官能基を導入することもできる。
【0071】
変性反応(以下、末端変性反応ともいう。)に用いる共重合体は、活性末端を有している限り、重合開始末端が未変性のものでもよいし、変性されたものでもよい。また、化合物としては、シリカと相互作用する官能基を有し、かつ重合活性末端と反応し得る化合物であれば特に限定しないが、スズ原子または窒素原子を含有する末端変性剤を用いて導入する方法が好ましく、窒素原子を含有する末端変性剤を用いて導入する方法がより好ましい。
【0072】
窒素原子を含有する末端変性剤として、重合生産性や高い変性率の点で、イソシアナート化合物、イソチオシアナート化合物、イソシアヌル酸誘導体、窒素基含有カルボニル化合物、窒素基含有ビニル化合物、窒素基含有エポキシ化合物、窒素基含有アルコキシシラン化合物等が好ましい。このなかでも、重合生産性や高い変性率やタイヤにした時の引張強度の点で、窒素基含有アルコキシシラン化合物がより好ましい。
【0073】
窒素基含有アルコキシシラン化合物としては、特に制限されないが、例えば、2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(3-トリエトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(4-トリメトキシシリルブチル)-1-アザ-2-シラシクロヘキサン、2,2-ジメトキシ-1-(5-トリメトキシシリルペンチル)-1-アザ-2-シラシクロヘプタン、2,2-ジメトキシ-1-(3-ジメトキシメチルシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(3-ジエトキシエチルシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ,2-メチル-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ,2-エチル-1-(3-トリエトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ,2-メチル-1-(3-ジメトキシメチルシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ,2-エチル-1-(3-ジエトキシエチルシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-メチルジメトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-メチルジエトキシシリルプロピル)アミン、トリス(トリメトキシシリルメチル)アミン、トリス(2-トリメトキシシリルエチル)アミン、トリス(4-トリメトキシシリルブチル)アミン、テトラキス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、及びN1-(3-(ビス(3-(トリメトキシシリル)プロピル)アミノ)プロピル)-N1-メチル-N3-(3-(メチル(3-(トリメトキシシリル)プロピル)アミノ)プロピル)-N3-(3-(トリメトキシシリル)プロピル)-1,3-プロパンジアミンが挙げられる。
【0074】
末端変性反応は、例えば溶液反応として行うことができる。この溶液反応は、重合工程における重合反応の終了後の未反応モノマーを含む溶液を用いて行ってもよく、当該溶液に含まれる共重合体を単離し、シクロヘキサン等の適当な溶媒に溶解した上で行ってもよい。また、末端変性反応は、回分式及び連続式のいずれを用いて行ってもよい。このとき、末端変性剤の添加方法は特に制限されず、一括して添加する方法、分割して添加する方法、連続的に添加する方法等が挙げられる。
【0075】
末端変性反応に使用する末端変性剤の量は、反応に使用する末端変性剤の種類に応じて適宜設定すればよいが、重合開始剤が有する重合反応に関与する金属原子に対し、好ましくは0.1モル当量以上、より好ましくは0.3モル当量以上である。0.1モル当量以上とすることにより、変性反応を充分に進行させることができ、シリカの分散性を好適に改良することができる。
【0076】
末端変性反応の温度は、通常、上記重合反応の温度と同じであり、-20~150℃であることが好ましく、0~120℃であることがより好ましく、20~100℃であることが特に好ましい。変性反応の温度が高いほど、変性共重合体の粘度が低下する傾向にある。一方、変性反応の温度が低いほど、重合活性末端が失活し難い傾向にある。変性反応の反応時間は、好ましくは1分~5時間であり、より好ましくは2分~1時間である。
【0077】
(反応停止)
アニオン重合は、この分野で通常使用する反応停止剤の添加により、停止させることができる。そのような反応停止剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールまたは酢酸等の活性プロトンを有する極性溶媒およびこれらの混液、またはそれらの極性溶媒とヘキサン、シクロヘキサン等の無極性溶媒との混液が挙げられる。反応停止剤の添加量は、通常、アニオン重合開始剤に対し、同モル量もしくは2倍モル量程度で充分である。
【0078】
(水素添加工程)
第一の重合体を水素添加により製造する場合、水素添加の方法、反応条件については特に限定はなく、公知の方法、公知の条件で水素添加すればよい。通常は、20~150℃、0.1~10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で水素添加反応を実施することができる。なお、水素添加率は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、反応時間等を変えることにより、任意に選定することができる。
【0079】
水添触媒として、通常は、元素周期表4~11族金属のいずれかを含む化合物を用いることができる。例えば、Ti、V、Co、Ni、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、Pt原子を含む化合物を水添触媒として用いることができる。より具体的な水添触媒としては、Ti、Zr、Hf、Co、Ni、Pd、Pt、Ru、Rh、Re等のメタロセン化合物;Pd、Ni、Pt、Rh、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等の担体に担持させた担持型不均一系触媒;Ni、Co等の金属元素の有機塩又はアセチルアセトン塩と有機アルミニウム等の還元剤とを組み合わせた均一系チーグラー型触媒;Ru、Rh等の有機金属化合物又は錯体;水素を吸蔵させたフラーレンやカーボンナノチューブ等を挙げることができる。
【0080】
これらのうち、Ti、Zr、Hf、Co、Niのいずれかを含むメタロセン化合物は、不活性有機溶媒中、均一系で水添反応できる点で好ましい。更に、Ti、Zr、Hfのいずれかを含むメタロセン化合物が好ましい。水添触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0081】
第一の重合体を得る好ましい方法は、溶液重合し、得られた重合体溶液をそのまま用いて変性処理を行い、次いで必要に応じて水添工程に供することである。
【0082】
第一または第二の重合体は、上記で得られた重合体溶液から溶媒を除去し、重合体を単離して得られる。重合体を単離するには、例えばスチームストリッピング等の公知の脱溶媒方法及び脱水押出機、乾燥押出機、コンベアを使用した熱処理等の乾燥操作によって行うことができる。
【0083】
(ポリマーブレンドの製造方法)
ポリマーブレンドの製造方法は、特に限定されず、第一の重合体と第二の重合体のみを混練してもよいし、第一の重合体と第二の重合体のほかに必要に応じて配合される成分と併せて、開放式混練機(例えば、ロール)、密閉式混練機(例えば、バンバリーミキサー)等の混練機を用いて混練することによって得てもよい。
【0084】
また、ポリマーブレンドは、第一の重合体溶液と第二の重合体溶液とを混合して混合重合体溶液を得る工程と、得られた混合重合体溶液を脱溶剤する工程と、を含む方法によって得ることもできる。この方法では、第一の重合体溶液及び第二の重合体溶液からそれぞれ第一の重合体と第二の重合体を単離する代わりに、第一の重合体溶液及び第二の重合体溶液を混合してから、第一の重合体及び第二の重合体を一緒に、ポリマーブレンドの形で単離する。
【0085】
ここで、第一の重合体溶液と第二の重合体溶液は、重合工程後の溶液であって、重合体を単離する前の溶液である。変性工程又は水素添加工程を行う場合には、その工程後の溶液であって重合体を単離する前の溶液である。
【0086】
第一の重合体溶液及び第二の重合体溶液の混合方法としては、特に制限されず、公知の方法により混合することができる。
【0087】
この方法で、ポリマーブレンドを得る場合には、混合重合体溶液中で、第一の重合体が第二の重合体に適度に相容される。そして、この混合重合体溶液から、脱溶媒することにより、乾燥押出機を出る際に重合体が適度に発泡することで比表面積が増加する為、第二の重合体を単独で脱溶媒するよりも乾燥速度が向上する傾向にあり、生産性の面で好ましい。なお、脱溶媒方法は、特に制限されず、公知の脱溶媒方法及び乾燥操作を用いることができる。
【0088】
(ゴム組成物)
本実施形態のゴム組成物は、ゴム成分として上記ポリマーブレンドを含み、さらに必要に応じて充填剤成分、可塑剤成分、架橋剤成分等を含む。
【0089】
ゴム組成物は、上記第一の重合体と第二の重合体のほか必要に応じて、一般的なタイヤ用ゴム組成物に汎用されている重合体を含んでいてもよい。このような重合体としては、特に制限されないが、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
充填剤成分の含有量は、ゴム組成物全体を100質量%として、20~50質量%が好ましい。また、可塑剤成分の含有量は、ゴム組成物全体を100質量%として、10~40質量%が好ましい。
【0091】
充填剤成分は、ゴムの補強を目的にゴム組成物に配合されるものであり、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、雲母、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、クレー、タルク、アルミナ、酸化チタン、マイカ等の白色充填剤(無機充填剤)や、カーボンブラック等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、シリカ、カーボンブラックが好ましく、これらの併用がより好ましい。
【0092】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0093】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐摩耗性の観点から、好ましくは60m2/g以上、より好ましくは120m2/g以上であり、低燃費性の観点から、好ましくは300m2/g以下、より好ましくは200m2/g以下である。なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0094】
シリカの含有量は、低燃費性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。また、シリカの含有量は、ムーニー粘度の観点から、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。
【0095】
カーボンブラックとしては、特に制限されないが、例えば、SAF、ISAF、HAF、MAF、FEF、SRF、GPF、APF、FF、CF、SCF及びECFのようなファーネスブラック(ファーネスカーボンブラック);アセチレンブラック(アセチレンカーボンブラック);FT及びMTのようなサーマルブラック(サーマルカーボンブラック);EPC、MPC及びCCのようなチャンネルブラック(チャンネルカーボンブラック);グラファイト等をあげることができる。これらは1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0096】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、通常5~200m2/gであり、耐摩耗性の観点から、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは80m2/g以上であり、また、低燃費性の観点から、好ましくは150m2/g以下、より好ましくは120m2/g以下である。該窒素吸着比表面積は、ASTM D4820-93に従って測定される。
【0097】
また、カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量は、通常5~300ml/100gであり、下限は80ml/100g、上限は180ml/100gであることが好ましい。該DBP吸収量は、ASTM D2414-93に従って測定される。
【0098】
カーボンブラックの含有量は、耐摩耗性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上であり、より好ましくは3質量部以上である。また、カーボンブラックの含有量は、低燃費性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以下であり、より好ましくは15質量部以下である。
【0099】
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト系化合物;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、2-クロロエチルトリメトキシシラン、2-クロロエチルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤が挙げられる。なお、シランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、シランカップリング剤によるカップリング効果、加工性、コストの観点から、スルフィド系シランカップリング剤が好ましく、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドがより好ましい。
【0100】
シランカップリング剤の含有量は、低燃費性、耐摩耗性の観点から、シリカ100質量部に対して、好ましくは3質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上である。また、シランカップリング剤の含有量は、ムーニー粘度の観点から、シリカ100質量部に対して、好ましくは15質量部以下であり、より好ましくは10質量部以下である。
【0101】
可塑剤成分としては、特に制限されないが、例えば、伸展油、上記重合体以外の樹脂、老化防止剤、ワックス、ステアリン酸、加硫促進剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0102】
伸展油としては、特に制限されないが、例えば、アロマチック系鉱物油(粘度比重恒数(V.G.C.値)0.900~1.049)、ナフテン系鉱物油(V.G.C.値0.850~0.899)、パラフィン系鉱物油(V.G.C.値0.790~0.849)等を挙げることができる。
【0103】
伸展油の多環芳香族含有量は、好ましくは3質量%未満であり、より好ましくは1質量%未満である。該多環芳香族含有量は、英国石油学会346/92法に従って測定される。また、伸展油の芳香族化合物含有量(CA)は、好ましくは20質量%以上である。これらの伸展油は、2種以上組み合わされて用いられてもよい。
【0104】
伸展油の含有量は、ムーニー粘度の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上である。また、伸展油の含有量は、低燃費性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。
【0105】
樹脂としては、特に制限されないが、例えば、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、クマロンインデン樹脂、インデン樹脂、フェノール系樹脂、α-メチルスチレン及び/又はスチレンの共重合体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、クマロンインデン樹脂、フェノール系樹脂(特に、テルペンフェノール樹脂)、α-メチルスチレン及び/又はスチレンの共重合体が好ましく、α-メチルスチレン及びスチレンの共重合体がより好ましい。
【0106】
樹脂の含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上であり、より好ましくは3質量部以上である。また、樹脂の含有量は、低燃費性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0107】
老化防止剤としては、特に制限されないが、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、p-フェニレンジアミン系老化防止剤が好ましく、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミンがより好ましい。
【0108】
老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~4質量部である。
【0109】
ワックスとしては、特に制限されないが、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックス等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、石油系ワックスが好ましく、パラフィンワックスがより好ましい。
【0110】
ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~4質量部である。
【0111】
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、NOF社、花王(株)、和光純薬工業(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0112】
ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~4質量部である。
【0113】
加硫促進剤としては、特に制限されないが、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジサルファイド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本実施形態の効果がより好適に得られるという理由から、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましく、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドがより好ましい。また、更にグアニジン系加硫促進剤を併用することも好ましい。
【0114】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~4質量部である。
【0115】
ゴム組成物には、成分以外にも、硫黄等の加硫剤;酸化亜鉛等の加硫活性化剤;有機過酸化物;滑剤等の加工助剤;老化防止剤等の従来ゴム工業で使用される配合剤を用いることができる。
【0116】
加硫剤としては、特に限定されないが、硫黄を好適に使用できる。硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5~5質量部、より好ましくは1~3質量部である。これにより、本実施形態の効果がより好適に得られる。
【0117】
ゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロール等で各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。
【0118】
(空気入りタイヤ)
本実施形態の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を含む。上記ゴム組成物は、タイヤの各部材(トレッド、サイドウォール、カーカス、ベルト、ビード、クリンチ、チェーファー等)に使用でき、なかでも、トレッドとして好適に用いられる。2層構造のトレッドの場合には、表面層(キャップトレッド)及び内面層(ベーストレッド)から構成される。
【0119】
多層構造のトレッドは、シート状にしたものを、所定の形状に貼り合わせる方法や、2本以上の押出し機に装入して押出し機のヘッド出口で2層以上に形成する方法により作製することができる。
【0120】
本実施形態の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法により製造される。すなわち、ゴム成分及び必要に応じて各種配合剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッド等の各タイヤ部材の形状に合わせて押し出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することで、本実施形態の空気入りタイヤが得られる。
【0121】
本実施形態の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられ、特に乗用車用タイヤとして好適に用いられる。
【実施例】
【0122】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて、本実施形態を更に詳しく説明するが、本実施形態は以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
【0123】
実施例及び比較例における各種の物性は下記に示す方法により測定した。
【0124】
(重合体の重量平均分子量(Mw)および分子量分布)
ポリスチレン系ゲルを充填剤としたカラムを3本連結したGPC測定装置を使用して、クロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンを使用した検量線に基づいて重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を求めた。具体的な測定条件を以下に示す。下記測定用液20μLをGPC測定装置に注入して測定を行った。
(測定条件)
溶離液 :5mmol/Lのトリエチルアミン入りテトラヒドロフラン(THF)
ガードカラム:東ソー社製の商品名「TSKguardcolumn SuperH-H」
分離カラム :東ソー社製の商品名「TSKgel SuperH5000」、「TSKgel SuperH6000」、「TSKgel SuperH7000」をこの順に連結したもの。
オーブン温度:40℃
流量 :0.6mL/分
検出器 :RI検出器(東ソー社製の商品名「HLC8020」)
測定溶液 :測定用の試料10mgを20mLのTHFに溶解した測定溶液
【0125】
(重合体の結合スチレン量)
試料100mgを、クロロホルムで100mLに溶解して測定サンプルとした。スチレンのフェニル基による紫外線吸収波長(254nm付近)の吸収量により、試料である重合体100質量%に対しての結合スチレン量(質量%)を測定した。測定装置としては島津製作所社製の分光光度計「UV-2450」を用いた。
【0126】
(重合体のブタジエン部分の1,2-ビニル結合量)
試料50mgを、二硫化炭素10mLに溶解して測定サンプルとした。溶液セルを用いて、赤外線スペクトルを600~1000cm-1の範囲で測定して、所定の波数における吸光度によりハンプトンの方法(R.R.Hampton,Analytical Chemistry 21,923(1949)に記載の方法)の計算式に従い、ブタジエン部分のミクロ構造、すなわち、1,2-ビニル結合量(mol%)を求めた。測定装置としては、日本分光社製のフーリエ変換赤外分光光度計「FT-IR230」を用いた。
【0127】
(重合体の水素添加率)
1H-NMR測定により水素添加前の重合体の不飽和結合部の積算値を得た。次いで、水添反応後の反応液に、大量のメタノールを添加することで、水添共役ジエン系重合体を沈殿させて回収した。次いで、水添共役ジエン系重合体をアセトンで抽出し、水添共役ジエン系重合体を真空乾燥した。これを、1H-NMR測定のサンプルとして用いて、水素添加率を測定した。条件を以下に記す。
(測定条件)
測定機器 :JNM-LA400(JEOL製)
溶媒 :重水素化クロロホルム
測定サンプル :ポリマーを水素添加する前後の抜き取り品
サンプル濃度 :50mg/mL
観測周波数 :400MHz
化学シフト基準:TMS(テトラメチルシラン)
パルスディレイ:2.904秒
スキャン回数 :64回
パルス幅 :45°
測定温度 :26℃
【0128】
(重合体のヨウ素価)
「JIS K 0070:1992」に記載の方法に準じて、重合体のヨウ素価を算出した。
【0129】
(重合体のSP値)
SP値(MPa1/2)は((モル凝集エネルギー)/(モル容積))1/2の式から算出した。ここで、重合体が異なる2種類以上の単量体から構成される場合、モル凝集エネルギーは加成性が成立し、各単量体の含有率(モル%)及びその単量体の単独重合体のモル凝集エネルギーから、重合体のモル凝集エネルギーは各単量体のモル凝集エネルギーの平均値(含有率に応じて按分した平均値)として算出される。モル容積もモル凝集エネルギーと同様に、加成性が成立し、各単量体の含有率(モル%)及びその単量体の単独重合体のモル容積から、重合体のモル容積は各単量体のモル容積の平均値(含有率に応じて按分した平均値)として算出される。なお、各単量体により構成される単独重合体のモル凝集エネルギーとモル容積は表1に記載する。
【0130】
【0131】
(重合体のガラス転移温度:Tg)
重合体を試料として、ISO 22768:2006に準拠して、マックサイエンス社製の示差走査熱量計「DSC3200S」を用い、ヘリウム50mL/分の流通下、-100℃から20℃/分で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflection point)をガラス転移温度とした。
【0132】
(乾燥性の評価)
後述する製造例2-1に記載の方法で得られた脱水重合体B1をアルミ製のバットに敷き均し、重量を測定した。その後、温度23℃湿度50%の恒温恒湿槽内に30分静置して乾燥し、含水率を以下の様に求めた。また、同様に、後述する製造例3-1等に記載の方法で得られた各ポリマーブレンドC-1~C-6の含水率も算出した。
第二の重合体B1の含水率(%)=(1-(乾燥前の重量)/(乾燥後の重量))×100
【0133】
更に、ポリマーブレンドの乾燥性を相対値で算出し、以下の基準で評価した。なお、下記乾燥性(Index)の値が高いほど、第二の重合体単体よりも、ポリマーブレンドの方が乾燥しやすいことが高いことを示し、第一の重合体溶液と第二の重合体溶液とを混合して混合重合体溶液を得る工程を経る方法が、生産面で有利となることを意味する。
乾燥性(Index)=(第二の重合体B1の含水率)/(ポリマーブレンドの含水率)×100
◎:乾燥性(Index)が110以上
○:乾燥性(Index)が105以上110未満
△:乾燥性(Index)が105未満
【0134】
(水添触媒の調製)
後述する実施例及び比較例において、重合体を調製する際に用いる水添触媒を、下記の方法により調製した。
窒素置換した反応容器に乾燥及び精製したシクロヘキサン1Lを仕込み、ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド100mmolを添加し、十分に攪拌しながらトリメチルアルミニウム200mmolを含むn-ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させ水添触媒を得た。
【0135】
〔製造例1ー1:第一の重合体A1の製造〕
窒素置換された内容積40Lのオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン25800g、2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン5.50g、スチレン1806g、1,3-ブタジエン1920gを仕込んだ。反応器内容物の温度を10℃に調整した後、n-ブチルリチウム3.2gを含むシクロヘキサン溶液を添加して重合を開始し、断熱条件で重合を実施した。
【0136】
重合転化率が99%に達した時点で、追添ブタジエン574gを反応系中に追加し、さらに5分重合させ、重合体を含む反応液を得た。そして、変性剤として2,2-ジメトキシー1-(3-(トリメトキシシリル)プロピル)-1,2-アザシロリジン3.23gを加え、重合体の活性点に30分間反応させた。
【0137】
次いで、反応液を80℃にして系内に水素を導入した。そして、上記のようにして調製した水添触媒を、仕込みモノマー量に対してチタン基準で60ppm添加し、水素圧0.8MPa、平均温度85℃で水添反応させた。所定の水素積算流量に到達後、反応液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、重合体溶液を得た。
【0138】
次いで、pH調整剤であるアンモニアによりpH8.5(ガラス電極法による、80℃におけるpH、以下同じ。)に調整した水溶液(温度:80℃)を脱溶媒槽に入れ、さらに上記重合体溶液を加え(重合体溶液100質量部に対して、水溶液200質量部の割合)、脱溶媒槽の液相(温度:95℃)で、2時間スチームストリッピング(スチーム温度:190℃)により脱溶媒を行い、含水重合体を得た。
【0139】
東洋精機製作所製の「ラボプラストミル」の本体(型式:4M150)に、単軸押出機(型式:D2020(口径:20mm、L/D:20 備え付けの標準スクリュー(1条フルフライト))を取り付け、単軸押出機の温度を120℃に設定するとともに吐出量が1.5kg/hとなるようにスクリューの回転数を固定した。押出機に含水重合体をフィードし先端から脱水重合体を得た。脱水重合体をアルミ製のバットに受け、2時間静置することで乾燥された第一の重合体A1を得た。第一の重合体A1の重合処方と性質を表2に示す。
【0140】
〔製造例1-2から1-10:第一の重合体A2からA10の製造〕
表2に記載の重合処方に変えた以外は製造例1-1と同様の方法で各重合体A2からA10を得た。得られた重合体の性質を表2に示す。
【0141】
〔製造例2-1:第二の重合体B1の製造〕
窒素置換された内容積40Lのオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン25800g、2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン5.09g、1,3-ブタジエン4300gを仕込んだ。反応器内容物の温度を10℃に調整した後、n-ブチルリチウム3.0gを含むシクロヘキサン溶液を添加して重合を開始し、断熱条件で重合を実施した。
【0142】
重合転化率が99%に達した時点からさらに5分重合させ、重合体を含む反応液を得た。そして、変性剤として2,2-ジメトキシー1-(3-(トリメトキシシリル)プロピル)-1,2-アザシロリジン3.00gを加え、重合体の活性点に30分間反応させた。
【0143】
次いで、水添反応を行わないこと以外は、製造例1-1と同様に脱溶媒、脱水押出、乾燥を行い、第二の重合体B1を得た。第二の重合体B1の重合処方と性質を表2に示す。
【0144】
〔製造例2ー2から2-4:第二の重合体B2からB4の製造〕
表2に記載の重合処方に変えた以外は製造例2-1と同様の方法で各重合体B2からB4を得た。得られた重合体の性質を表2に示す。
【0145】
【0146】
〔製造例3-1:第一の重合体A4と第二の重合体B1の重合体溶液ブレンドによるポリマーブレンドC1の製造〕
第一の重合体A4と第二の重合体B1の重量比が9:91になるように、各重合体溶液をブレンドした。ここで、各重合体溶液は脱溶媒等を行う前のものであり、第一の重合体A4の重合体溶液は、水添反応後に反応容器から得られた重合体溶液であり、第二の重合体B1の重合体溶液は、変性剤による反応後に得られた重合体溶液である。次いで、製造例1-1と同様に脱溶媒、脱水押出、乾燥を行い、ポリマーブレンドC1を得た。ポリマーブレンドC1の乾燥性の評価を表3に示す。
【0147】
〔製造例3-2から3-6:ポリマーブレンドC2からC6の製造〕
第一の重合体A4と第二の重合体B1の比率が表3に記載の比率になるように、重合体溶液をブレンドし、製造例1-1と同様に脱溶媒、脱水押出、乾燥を行い、各ポリマーブレンドを得た。各ポリマーブレンドの乾燥性の評価を表3に示す。
【0148】
【0149】
〔実施例1~6:ポリマーブレンドC1~C6の評価〕
表4に示す配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練物を得た。次に、得られた混練物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
【0150】
そして、得られた未加硫ゴム組成物を170℃で20分間、0.5mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0151】
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材と貼り合わせ、170℃で20分間加硫することにより、試験用タイヤを得た。
【0152】
<評価項目及び試験方法>
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物及び試験用タイヤについて、下記の評価を行った。その結果を下記表5に示す。
【0153】
(1)耐摩耗性
LAT試験機(Laboratory Abration and Skid Tester)を用い、荷重50N、速度20km/h、スリップアングル5°の条件にて、各加硫ゴム組成物(架橋ゴム)の容積損失量を測定した。測定結果は、後述する参考例1の加硫ゴム組成物の容積損失量を100として指数化し、以下の指標で判断した。
◎:加硫ゴム組成物の容積損失量の指数が110以上
○:加硫ゴム組成物の容積損失量の指数が105以上110未満
△:加硫ゴム組成物の容積損失量の指数が95以上105未満
×:加硫ゴム組成物の容積損失量の指数が95未満
【0154】
(2)ブレーキ性能
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を求め、制動距離の逆数について後述する参考例1の制動距離の逆数を100として指数化し、以下の指標で判断した。
◎:試験用タイヤの制動距離の指数が110以上
○:試験用タイヤの制動距離の指数が105以上110未満
△:試験用タイヤの制動距離の指数が95以上105未満
×:試験用タイヤの制動距離の指数が95未満
【0155】
(3)ブレーキ性能の長期特性
各試験用タイヤを温度80℃湿度50%の恒温恒湿室に2000時間静置した後に、(2)と同様に制動距離を指数で評価した。
◎:試験用タイヤの制動距離の指数が110以上
○:試験用タイヤの制動距離の指数が105以上110未満
△:試験用タイヤの制動距離の指数が95以上105未満
×:試験用タイヤの制動距離の指数が95未満
【0156】
【表4】
表4中、各成分について、使用した商品名は以下の通りである。
*1:ローディア社製 ZEOSIL 1165MP
*2:三菱化学社製 ダイアブラックN339
*3:エボニック社製 Si75
*4:ジャパンエナジー社製 JOMOプロセスNC-140
*5:精工化学社製 オゾノン6C
*6:大内新興化学工業社製 ノクセラーCZ
*7:大内新興化学工業社製 ノクセラーD
【0157】
【0158】
〔実施例7~20、比較例1~5:第一の重合体A1~A10と第二の重合体B1~B4のポリマーブレンドの評価〕
表6から9に記載の第一の重合体と第二の重合体の組み合わせについて、表4の配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、ポリマーブレンドを形成しながら混練物を得た。
【0159】
次に、得られた混練物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
【0160】
そして、得られた未加硫ゴム組成物を170℃で20分間、0.5mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0161】
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材と貼り合わせ、170℃で20分間加硫することにより、試験用タイヤを得た。
【0162】
〔参考例1~4:第二の重合体〕
表4の配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、第二の重合体B1~B4それぞれと、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、ポリマーブレンドを含まない混練物を得た。
【0163】
次に、得られた混練物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
【0164】
得られた未加硫ゴム組成物を170℃で20分間、0.5mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0165】
また、未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材と貼り合わせ、170℃で20分間加硫することにより、試験用タイヤを得た。
【0166】
上記の(1)耐摩耗性、(2)ブレーキ性能、及び(3)ブレーキ性能の長期特性の各評価について、それぞれの測定結果を100として指数化した。そして、実施例7~10、比較例1~3は参考例1を100として、実施例11~16、比較例4は参考例2を100として、実施例17~21、比較例5は参考例3を100として、実施例22は参考例4を100として、それぞれ指数化し、実施例1と同様に上記の(1)~(3)について評価した。
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
表6より、実施例7~10は、比較例1~3、参考例1と比較して、耐摩耗性、ブレーキ性能、ブレーキ性能の長期特性が改善された。また、表7より実施例11~16は、比較例4、参考例2と比較して、耐摩耗性、ブレーキ性能、ブレーキ性能の長期特性が改善された。さらに、表8より実施例17~21は、比較例5、参考例3と比較して、耐摩耗性、ブレーキ性能の長期特性が改善された。また、表9より実施例22は、参考例4と比較して、耐摩耗性、ブレーキ性能の長期特性が改善された。
【0172】
以上のとおり、第一の重合体と第二の重合体のSP値の差が特定の範囲内であるポリマーブレンドを用いることで、加硫ゴム組成物の耐摩耗性、ブレーキ性能、ブレーキ性能の長期特性をバランス良く改善できること、すなわち、耐久性の向上されたタイヤトレッドを製造可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明は、タイヤトレッドなどの原料として用い得るポリマーブレンドとして、産業上の利用可能性を有する。