(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】圧延用ロール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 27/00 20060101AFI20240830BHJP
B21B 27/03 20060101ALI20240830BHJP
B21B 27/02 20060101ALI20240830BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20240830BHJP
B23K 26/352 20140101ALI20240830BHJP
【FI】
B21B27/00 C
B21B27/03 520
B21B27/00 A
B21B27/02 D
B21B27/02 H
B23K26/342
B23K26/352
(21)【出願番号】P 2020132482
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183347
【氏名又は名称】住友重機械ハイマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】石川 毅
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智一
(72)【発明者】
【氏名】富田 英治
(72)【発明者】
【氏名】中野 拓海
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-031002(JP,U)
【文献】特開平02-307608(JP,A)
【文献】実開昭51-119341(JP,U)
【文献】特開昭62-275512(JP,A)
【文献】特開2003-062605(JP,A)
【文献】特開昭62-212008(JP,A)
【文献】特開2019-136799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 27/00 -27/10
B23K 26/342
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール軸部、外周面が凸形状である圧延リング、エンドリング及びフランジリングを具備し、前記圧延リング、前記エンドリング及び前記フランジリングは前記ロール軸部の外周面に脱着可能であり、前記圧延リング、前記エンドリング及び前記フランジリングによって孔型が形成される組立式圧延用ロールの製造方法であって、
レーザ粉体肉盛溶接によって前記圧延リング、前記エンドリング及び前記フランジリングの外周面に硬質金属肉盛層を形成させるレーザ粉体肉盛溶接工程を有し、
前記圧延リングの前記外周面における凸部の高さを40mm以上とし、
前記レーザ粉体肉盛溶接工程において、前記圧延リング、前記エンドリング及び前記フランジリングを中心軸で回転させて、前記レーザ粉体肉盛溶接を施し、
前記孔型の孔内全面を前記硬質金属肉盛層で被覆し、
前記孔型の底面の前記硬質金属層と前記孔型の側面の前記硬質金属層とをそれぞれ均一な厚さとすること、
を特徴とする組立式圧延用ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形鋼圧延等に用いる圧延用ロール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延用ロール表面の肌荒れは被加工材に転写されるため、圧延用ロール表面に対する品質の要求レベルが高くなっている。例えば、圧延用ロールの表面を頻繁に改削することで品質を維持することができるが、改削回数の増加は生産性を低下させ、製造コストを増加させる。
【0003】
これに対し、改削頻度を低減しても圧延用ロールの表面品質を担保するために、圧延用ロールの硬質化が進められている。ここで、圧延用ロールの硬質化を目的として、一般的には遠心鋳造法が用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2019-183276号公報)においては、圧延用ロールが初径に近いときには耐摩耗性を高く、かつ改削により廃却径に近くなると耐ヒートクラック性を向上させることを目的として、質量基準でC:2.6~3.6%、Si:0.1~3%、Mn:0.3~2%、Ni:2.3~5.5%、Cr:0.5~3.2%、Mo:0.3~1.6%、V:0.2~3.4%、Nb:0.4~3%、及びB:0.06%以下を含有し、0.07≦V/Nb≦2.7であり、V当量(Veq=V+0.55Nb)が2.50%質量以上であり、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有するFe基合金からなる外層に、鉄系合金からなる内層が溶着一体化してなり、外層のV当量がVeq1/Veq2=1.1~5(ただし、Veq1は初径から半径方向30mmの深さまでの領域のV当量であり、Veq2は廃却径でのV当量である。)の条件を満たす熱間圧延用遠心鋳造複合ロール、が提案されている。
【0005】
上記特許文献1に記載の熱間圧延用遠心鋳造複合ロールの外層では、初径から半径方向30mmの深さまでの領域(表層部)のVeq1と廃却径でのVeq2とがVeq1/Veq2=1.1~5の条件を満たすので、大きな有効径を有する表層部は耐摩耗性に優れ、廃却径に近い小さな有効径を有する深部は耐ヒートクラック性が向上している。そのため、 (a)有効径が大きいときには、ホットストリップミルの仕上げ圧延機の下流側のスタンドに用いることにより高い耐摩耗性を利用でき、(b)表面改削により有効径が小さくなったときには、上流側のスタンドに用いることにより高い耐ヒートクラック性を利用できるという利点を有する、とされている。
【0006】
また、特許文献2(特開2018-202446号公報)においては、耐摩耗性および耐熱疲労特性に著しく優れ、然も、経済的に優れた遠心鋳造法で製造しても炭化物が偏析しない熱間圧延用複合ロールを提供することを目的として、質量%で、C:2.40~2.90%、Si:0.10~0.50%、Mn:0.10~0.80%、Cr:12.0~15.0%、Mo:4.00~8.00%、V:3.00~8.00%、Nb:0.50~3.00%、W:1.00%未満(0%を含む)を含有し、かつ、下記(1)式および(2)式を満足し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、さらに、MC型炭化物とM7C3型炭化物の合計の面積率が15~27%であり、かつ前記MC型炭化物と前記M7C3型炭化物の合計の面積率のうち、前記M7C3型炭化物の割合が2割以上である外層と、質量%で、C:2.50~4.00%、Si:1.50~3.50%、Mn:1.50%以下、Cr:2.00%以下、Mo:1.00%以下、V:3.00%以下、Nb:2.00%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋳鉄の内層が、溶着一体化してなることを特徴とする熱間圧延用複合ロール、が提案されている。
0.40≦Mo/Cr≦0.65…(1)
C+0.2Cr≦5.90…(2)
ここで、Mo、Cr、Cは、各元素の含有量(質量%)である。
【0007】
上記特許文献2に記載の熱間圧延用複合ロールにおいては、VとNbを含有した高Cr-Mo系組成の外層を有することで、(a)炭化物の偏析防止、(b)耐摩耗性の著しい向上、(c)耐熱疲労特性の著しい向上、(d)ロールの割損防止、を同時に達成することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-183276号公報
【文献】特開2018-202446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1及び上記特許文献2に記載の圧延用ロールでは表面近傍の耐摩耗性が改善されているが、遠心鋳造法の効果が得られるのは一般的に圧延用ロールの最表面から60mm程度であり、深さ方向への改質領域の拡張には限界がある。改削代(再研磨代)を考慮すると、深さが40mm以上となる孔型を遠心鋳造法で得られたロールで製造することは極めて困難である。これに対し、例えば、形鋼圧延用ロールは孔型が深く、40mm以上の孔型を有する場合も多い。
【0010】
即ち、遠心鋳造法で得られる従来の圧延用ロールでは、深い孔型と硬質化(耐摩耗性の向上)を両立することができない。また、摩耗が進行した場合、ロール全体に対して改削を施す必要がある。また、加工段階毎に適当な孔型サイズを有する圧延用ロールを使用する必要があり、ロール交換による圧延の停止が作業効率を低下させるだけでなく、大きな予備ロールを保管するためのスペースを確保する必要がある。
【0011】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、深い孔型と硬質化の両立が可能な圧延用ロール及びその効率的な製造方法を提供することにある。また、本発明は、ロールの交換停止を大幅に減少させることができ、改削効率がよく、大きな予備ロールの保管が不要となる圧延用ロール及びその効率的な製造方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、圧延用ロールの構造、材質及び製造方法について鋭意研究を重ねた結果、圧延用ロールを組立式とし、硬質化が必要な領域に金属硬質層を形成させること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
孔型を有する圧延用ロールであって、
ロール軸部、圧延リング、エンドリング及びフランジリングを具備し、
前記圧延リング、前記エンドリング及び前記フランジリングは前記ロール軸部の外周面に脱着可能であり、
前記圧延リング、前記エンドリング及び前記フランジリングによって前記孔型が形成され、
前記圧延リングの外周面は凸形状を有し、
前記圧延リング、前記エンドリング及び前記フランジリングの外周面の少なくとも一部に硬質金属層が形成されていること、
を特徴とする組立式圧延用ロール、を提供する。
【0014】
本発明の組立式圧延用ロールにおいては、圧延リング、エンドリング及びフランジリングの組合せによって孔型が形成されることから、硬質化が必要な領域はこれらの各リングの表面となる。ここで、一体型の圧延用ロールの孔型に対して均質な硬質金属層を形成させることは極めて困難であり、特に、孔型が深い場合は実用に耐える硬質金属層を形成させることができない。これに対し、本発明の組立式圧延用ロールにおいては圧延リング、エンドリング及びフランジリングを個々独立に取り扱うことができるため、これらのリングの表面に容易に金属硬質層を形成させることができる。
【0015】
また、種々の形状及びサイズの圧延リング、エンドリング及びフランジリングをロール軸部に取り付けることができる。例えば、製造工程における数ロット先までの孔型サイズを予め組み付けることもでき、ロール交換のための作業停止を大幅に減少することができる。
【0016】
また、これらの各リングが摩耗した場合、摩耗した特定のリングのみを交換することができる。即ち、未使用孔型の無駄な改削が不要となる。加えて、交換部品は各リングとなるため、必要に応じて当該リングを予備しておけばよく、大きな予備ロールが不要となり保管スペースを大幅に削減することができる。
【0017】
また、本発明の組立式圧延用ロールにおいては、前記硬質金属層が硬質金属肉盛層であること、が好ましい。硬質金属層の形成に肉盛溶接を用いることで、十分な厚さを有する硬質金属層を容易かつ効率的に形成させることができる。硬質金属層の形成に用いる肉盛溶接の方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の肉盛溶接法を用いることができるが、レーザ粉体肉盛溶接を用いることが好ましい。レーザ粉体肉盛溶接を用いることで、均質かつ緻密な硬質金属層を任意の領域に効率的に形成することができる。
【0018】
また、本発明の組立式圧延用ロールにおいては、前記凸形状が異なる複数の前記圧延リングを具備すること、が好ましい。圧延用ロールの孔型は主に圧延リングの凸形状によって決まるため、当該形状が異なる圧延リングを組み込むことで、一本の圧延用ロールで複数種類の対象物や異なる加工段階に対応することができる。
【0019】
また、本発明の組立式圧延用ロールにおいては、前記孔型の深さが40mm以上であること、が好ましい。遠心鋳造法を用いることで、外周部を硬質化したロールを得ることができるが、硬質化領域は最大でもロールの最表面から60mm程度であり、改削代(再研磨代)を考慮すると、深さが40mm以上となる孔型に遠心鋳造法で得られたロールを適用することは極めて困難である。これに対し、本発明の組立式圧延用ロールにおいては孔型が分割されたリングによって形成されるため、個々のリングに対して容易に硬質領域を形成させることができる。この場合、リングの側面が孔型の深さ方向に相当するため、適用可能な孔型の深さに限界は生じない。孔型の深さは50mm以上であることがより好ましく、60mm以上であることが最も好ましい。
【0020】
また、本発明の組立式圧延用ロールにおいては、前記硬質金属層が高速度工具鋼肉盛層であること、が好ましい。高速度工具鋼肉盛層は高い硬度と優れた耐摩耗性を有しており、圧延用ロールの孔型表面として好適に用いることができる。
【0021】
また、本発明の組立式圧延用ロールにおいては、異なる材質からなる前記硬質金属層を有すること、が好ましい。圧延用ロールの孔型表面に求められる特性は被加工材の材質、サイズ及び最終形状等によって異なるところ、本発明の組立式圧延用ロールの孔型は各種分割リングの組合せによって形成されることから、当該リングの表面に形成させる硬質金属層の材質は要求に応じて容易に変更することができる。
【0022】
更に、本発明の組立式圧延用ロールにおいては、前記圧延リング、前記エンドリング及び前記フランジリングのうちの少なくとも一つの材質が他と異なること、が好ましい。従来の圧延用ロールは一体ロールであり、必然的に単一材質となるが、本発明の圧延用ロールは一本のロール軸部に複数の分割リングを組み込むことができ、必要に応じて異なる材質のリングを用いることができる。即ち、価格を重視して比較的安価な材料を選択することや、強度及び剛性等を重視した材料を用いること等ができ、圧延用ロールの設計の自由度を飛躍的に向上させることができる。
【0023】
また、本発明は、
ロール軸部、外周面が凸形状である圧延リング、エンドリング及びフランジリングを具備し、前記圧延リング、前記エンドリング及び前記フランジリングは前記ロール軸部の外周面に脱着可能であり、前記圧延リング、前記エンドリング及び前記フランジリングによって孔型が形成される組立式圧延用ロールの製造方法であって、
レーザ粉体肉盛溶接によって前記圧延リング、前記エンドリング及び前記フランジリングの外周面の少なくとも一部に硬質金属肉盛層を形成させるレーザ粉体肉盛溶接工程を有すること、
を特徴とする組立式圧延用ロールの製造方法、も提供する。
【0024】
本発明の組立式圧延用ロールの製造方法においては、圧延用ロールをロール軸部、圧延リング、エンドリング及びフランジリングからなる組立式とし、これらを個別に製造することができることから、加工方法の自由度が飛躍的に向上している。
【0025】
特に、孔型を構成する圧延リング、エンドリング及びフランジリングの表面にレーザ粉体肉盛溶接を用いて硬質金属肉盛層を形成させることで、均質かつ緻密な硬質金属肉盛層を効率的に形成させることができる。加えて、孔型が深い場合であっても、硬質金属肉盛層の形成プロセスには全く影響しない。ここで、本発明の組立式圧延用ロールの製造方法で用いるレーザ粉体肉盛溶接の方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のレーザ粉体肉盛溶接方法を用いることができる。レーザ粉体肉盛溶接のプロセス条件は、用いる粉体の種類や形成させる硬質金属層の機械的性質、厚さ及び面積等に応じて適宜調整すればよい。
【0026】
また、本発明の組立式圧延用ロールの製造方法においては、前記圧延リングの前記外周面における凸部の高さを40mm以上とすること、が好ましい。本発明の組立式圧延用ロールの製造方法においては、個々のリングに対して容易に硬質領域を形成させることができる。凸部の高さは50mm以上であることがより好ましく、60mm以上であることが最も好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、深い孔型と硬質化の両立が可能な圧延用ロール及びその効率的な製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、ロールの交換停止を大幅に減少させることができ、改削効率がよく、大きな予備ロールの保管が不要となる圧延用ロール及びその効率的な製造方法も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の圧延用ロールの一態様に関する概略断面図である。
【
図3】圧延リング6の外周面に硬質金属肉盛層を形成させる方法の一態様を示す模式図である。
【
図4】圧延リング6の外周面に硬質金属肉盛層を形成させる方法の別の態様を示す模式図である。
【0029】
以下、図を参照しながら、本発明の圧延用ロール及びその製造方法における代表的な実施形態を詳細に説明する。但し、本発明は図示されるものに限られるものではなく、各図面は本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて比や数を誇張又は簡略化して表している場合もある。更に、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略することもある。
【0030】
1.組立式圧延用ロール
図1に本発明の圧延用ロール(組立式圧延用ロール)の一態様に関する概略断面図を示す。組立式圧延用ロール2は、ロール軸部4、圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10を具備している。また、圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10の外周面の少なくとも一部に硬質金属層(図示せず)が形成されている。
【0031】
圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10はロール軸部4に脱着可能である。ロール軸部4は各分割リング(圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10)を組み込むためのリング固定部12を有しており、リング固定部12の端部から、エンドリング8→圧延リング6→フランジリング10→圧延リング6→フランジリング10→圧延リング6→エンドリング8の順番で組み込まれている。ここで、孔型の数を増加させる場合は、圧延リング6及びフランジリング10を追加すればよい。
【0032】
圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10はロール軸部4に強固に固定する必要があるが、例えば、リング固定部12の一方の端部に締め付けリング14を設け、締め付けリング14によってエンドリング8の側面から拘束力を印加することで、これを達成することができる。
【0033】
圧延リング6の端部(外周面)は凸形状を有しており、ロール軸部4に組み込む圧延リング6の凸形状は同一としてもよいが、異なる凸形状を有する圧延リング6を用いることで、様々な形状の孔型を形成させることができる。
【0034】
組立式圧延用ロール2に形成される孔型の一例として、エンドリング8、圧延リング6及びフランジリング10からなる孔型20の概略断面図を
図2に示す。孔型20の表面となるエンドリング8、圧延リング6及びフランジリング10の表面の少なくとも一部には、硬質金属層22が形成されている。硬質金属層22は孔型20の表面において摩耗等が顕著な領域に形成させればよいが、孔型20の表面の全域に形成することが好ましい。
【0035】
孔型20の深さLは40mm以上であることが好ましい。深さLが40mm以上となる孔型20を遠心鋳造法で得られたロールで製造することは極めて困難であるが、組立式圧延用ロール2においては孔型20が分割されたリングによって形成されるため、個々のリングに対して容易に硬質金属層22を形成させることができる。孔型20の深さLは50mm以上であることがより好ましく、60mm以上であることが最も好ましい。
【0036】
また、硬質金属層22は全て同じ材質である必要はなく、圧延による孔型20の摩耗状況、材料コスト及び成膜性等を考慮して、領域に応じて適当な材質を適用することが好ましい。
【0037】
硬質金属層22の材質としては、鉄基合金、ニッケル基合金又はコバルト基合金等を挙げることができ、より具体的には、各種ステンレス鋼、高速度工具鋼、インコネル、ハステロイ、コルモノイ及びステライト等を挙げることができる。ここで、硬質金属層22は、高速度工具鋼とすることが好ましい。硬質金属層22を高速度工具鋼とすることで、比較的安価かつ効率的に孔型20の表面に高い硬度と優れた耐摩耗性を付与することができる。
【0038】
また、硬質金属層22は、硬質金属肉盛層とすることが好ましい。硬質金属層22の形成に肉盛溶接を用いることで、十分な厚さを有する硬質金属層22を容易かつ効率的に形成させることができる。硬質金属層22の形成に用いる肉盛溶接の方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の肉盛溶接法を用いることができるが、レーザ粉体肉盛溶接を用いることが好ましい。レーザ粉体肉盛溶接を用いることで、均質かつ緻密な硬質金属層22を任意の領域に効率的に形成することができる。
【0039】
硬質金属層22が硬質金属肉盛層の場合、硬質金属肉盛層は金属基材と冶金的に接合されている。一方で、硬質金属肉盛層と金属基材の混合や希釈は最小限に留められており、接合界面近傍での強度低下や耐食性低下等が効果的に抑制されている。また、硬質金属肉盛層と金属基材が冶金的に確実に接合されていることで、硬質金属肉盛層に大きな応力や繰り返しの応力が印加される圧延用ロールにおいても十分に適用することができる。
【0040】
また、ロール軸部4、エンドリング8、圧延リング6及びフランジリング10の材質は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、圧延用ロールの材質として従来公知の種々の材料を用いることができる。ここで、従来の圧延用ロールは一体ロールであり、必然的に単一材質となるが、組立式圧延用ロール2は一本のロール軸部4に複数の分割リングを組み込むことができ、必要に応じて異なる材質のリングを用いることができる。
【0041】
ロール軸部4、エンドリング8、圧延リング6及びフランジリング10の材質としては、表面に形成させる硬質金属層22との密着性、機械的性質及び価格等の観点から、鋼材を用いることが好ましく、例えば、工具鋼や軸受鋼等を好適に用いることができる。より具体的には、例えば、中炭素鋼材(S45C等)、クロムモリブデン鋼鋼材、合金工具鋼鋼材、高炭素クロム軸受鋼鋼材、ステンレス鋼材等を用いることができる。
【0042】
組立式圧延用ロール2は、ロール軸部4に圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10が取り付けられた構造を有しており、圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10を容易に取り換えることができる。その結果、異なる形状及びサイズを有する複数の圧延リング6を予め組み付けることで、数ロット先までの孔型サイズを備えることができ、ロール交換による作業停止の頻度を大幅に減少することができる。
【0043】
また、圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10が摩耗や損傷した場合、特定のリングのみを交換することができる。即ち、未使用孔型の無駄な改削が不要となるだけでなく、交換部品は各リングとなるため、必要に応じて当該リングを予備しておけばよく、大きな予備ロールが不要となり保管スペースを大幅に削減することができる。
【0044】
2.圧延用ロールの製造方法
本発明の圧延用ロールの製造方法は、圧延用ロールをロール軸部4、外周面が凸形状である圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10を具備する組立式とし、レーザ粉体肉盛溶接によって圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10の外周面の少なくとも一部に硬質金属肉盛層を形成させるレーザ粉体肉盛溶接工程を有すること、を特徴とするものである。
【0045】
ロール軸部4は従来公知の種々の方法を用いて製造すればよい。また、圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10については、硬質金属肉盛層を形成させる工程以外は従来公知の種々の方法を用いて製造すればよい。以下、硬質金属肉盛層を形成させるためのレーザ粉体肉盛溶接工程について詳述する。なお、代表として、圧延リング6の外周に硬質金属肉盛層を形成させる場合を示すが、エンドリング8及びフランジリング10に対して硬質金属肉盛層を形成させる場合も同様である。ここで、エンドリング8及びフランジリング10について硬質金属肉盛層を形成させる領域は、外周に限られず、孔型20の内面を構成する領域が含まれる。
【0046】
図3及び
図4は、圧延リング6の外周面に硬質金属肉盛層を形成させる方法の模式図である。圧延リング6を中心軸で回転させてレーザ粉体肉盛溶接を施すことで、均質かつ均一な厚さを有する硬質金属肉盛層30を効率的に形成させることができる。また、孔型20の深さLが増加することは圧延リング6の凸部が長くなることに対応する。当該凸部が長くなった場合であってもレーザ粉体肉盛溶接の作業性には影響しないため、種々の孔型20に容易に対応することができる。
【0047】
レーザ粉体肉盛溶接はレーザメタルデポジション法とも呼ばれ、例えばレーザクラッディング法やダイレクトエナジーデポジション法等と略同様で、レーザビーム32を用いて原料粉末を溶融することで、圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10の任意の表面に硬質金属肉盛層30を形成することができる。
【0048】
レーザ粉体肉盛溶接では、レーザ光源から射出されたレーザビーム32を集光させて局所的な入熱を行うことで金属粉末を溶融するため、硬質金属肉盛層30は急速溶融及び急冷凝固により形成される。また、金属基材に対する熱ひずみや熱影響部を少なくし、金属基材と形成した硬質金属肉盛層30とにおける希釈率を低減することが可能である。更に、レーザビーム32及び原料粉末を射出するトーチ部はプログラムによるロボット制御が可能であり、硬質金属肉盛層30の形成領域及び形状を比較的正確にコントロールすることができる。
【0049】
硬質金属肉盛層30の形成に用いるレーザ粉体肉盛溶接の条件としては、レーザ出力、レーザ焦点距離、レーザ走査速度、原料粉末の供給量、キャリアガス(シールドガス)の供給量、及び圧延リング6の回転速度等であるが、圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10の材質や原料粉末の組成、形状及びサイズ等に応じて、適宜最適な条件を選択することが好ましい。
【0050】
圧延リング6、エンドリング8及びフランジリング10の材質は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の金属材を用いることができる。当該金属材としては、例えば、各種ステンレス鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼等の鉄基合金、ニッケル基合金及びコバルト基合金を用いることができる。
【0051】
また、硬質金属肉盛層30の材質は、鉄基合金、ニッケル基合金又はコバルト基合金等を挙げることができ、より具体的には、各種ステンレス鋼、高速度工具鋼、インコネル、ハステロイ、コルモノイ及びステライト等を挙げることができる。ここで、硬質金属肉盛層30は、高速度工具鋼とすることが好ましい。硬質金属肉盛層30を高速度工具鋼とすることで、比較的安価かつ効率的に孔型20の表面に高い硬度と優れた耐摩耗性を付与することができる。
【符号の説明】
【0052】
2・・・組立式圧延ロール、
4・・・ロール軸部、
6・・・圧延リング、
8・・・エンドリング、
10・・・フランジリング、
12・・・リング固定部、
14・・・締め付けリング、
20・・・孔型、
22・・・硬質金属層、
30・・・硬質金属肉盛層、
32・・・レーザビーム。