(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】真空ポンプ、固定翼、およびスペーサ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
F04D19/04 D
(21)【出願番号】P 2020140495
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004244
【氏名又は名称】弁理士法人仲野・川井国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091225
【氏名又は名称】仲野 均
(74)【代理人】
【識別番号】100096655
【氏名又は名称】川井 隆
(72)【発明者】
【氏名】三輪田 透
(72)【発明者】
【氏名】時 永偉
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-506630(JP,A)
【文献】特開2019-060241(JP,A)
【文献】特開2018-059459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口と排気口を有するケーシングと、
前記ケーシングの内部に、回転自在に支持された回転軸と、
前記回転軸に固定され、前記回転軸と共に回転可能な複数段の回転翼と、
前記ケーシングに対して固定され、かつ、前記回転翼間に配置される複数段の固定翼とを、備え、
前記複数段の回転翼のうち少なくとも一段の回転翼の外径が、前記吸気口側より前記排気口側の方が小径に形成された、もしくは、前記複数段の回転翼のうち少なくとも一段の回転翼の内径が、前記吸気口側より前記排気口側の方が大径に形成された真空ポンプであって、
外径が小径に形成された前記回転翼の直上位置または内径が大径に形成された前記回転翼の直上位置に配置された固定翼の外周部
及び内周部に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられ
、
前記固定翼は、放射状に配置される複数枚のブレードと、これらの複数枚のブレードを保持する内リム及び外リムを有し、
前記テーパー面は、前記内リムの外周面及び前記外リムの内周面に設けられていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記固定翼は、放射状に配置される複数枚のブレードと、これらの複数枚のブレードを保持し、かつ、前記固定翼の高さ方向の位置決めを行うスペーサ部を有し、
前記スペーサ部の内周面に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられていることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記固定翼の前記複数枚のブレードの前記排気口側の面までアンダーカットされていることを特徴とする請求項
2記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記固定翼の前記複数枚のブレードの後方に垂直面またはテーパー面が設けられていることを特徴とする請求項
2記載の真空ポンプ。
【請求項5】
吸気口と排気口を有するケーシングと、
前記ケーシングの内部に、回転自在に支持された回転軸と、
前記回転軸に固定され、前記回転軸と共に回転可能な複数段の回転翼と、
前記ケーシングに対して固定され、かつ、前記回転翼間に配置される複数段の固定翼とを、備え、
前記複数段の回転翼のうち少なくとも一段の回転翼の外径が、前記吸気口側より前記排気口側の方が小径に形成された、もしくは、前記複数段の回転翼のうち少なくとも一段の回転翼の内径が、前記吸気口側より前記排気口側の方が大径に形成された真空ポンプであって、
外径が小径に形成された前記回転翼の直上位置または内径が大径に形成された前記回転翼の直上位置に配置された固定翼の外周部及び内周部に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられ、
前記固定翼の前記ケーシング側を保持し、かつ、前記固定翼の高さ方向の位置決めを行うスペーサ部から前記固定翼の高さ方向の範囲内に突出する突出部が設けられ、
前記スペーサ部の内周面および前記突出部の少なくとも一部に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられていることを特徴とす
る真空ポンプ。
【請求項6】
吸気口と排気口を有するケーシングを備えた真空ポンプに用いられる固定翼であって、
放射状に配置される複数枚のブレードと、これらの複数枚のブレードを保持する内リム
及び外リムを有し、
前記内リムの外周面
及び前記外リムの内周面に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられている固定翼。
【請求項7】
吸気口と排気口を有するケーシングを備えた真空ポンプに用いられるスペーサであって、
放射状に配置される複数枚のブレードを有する固定翼の配置時に、前記ケーシング側を保持し、かつ、前記固定翼の高さ方向の位置決めを行うスペーサ部を有し、
前記スペーサ部から前記固定翼の高さ方向の範囲内に突出する突出部が設けられ、
前記スペーサ部の内周面および前記突出部の少なくとも一部に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられていることを特徴とするスペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、固定翼、およびスペーサに関し、より詳しくは、真空ポンプにおける排気効率をより高める構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸気口および排気口を有するケーシングの内部でロータ部(シャフトやロータ)および回転翼や回転円筒体も含む回転部を高速回転させて排気処理を行うターボ分子ポンプなどの真空ポンプが広く普及していた。
これらの真空ポンプでは、高速回転する複数段の回転翼と、ケーシングに対して固定されている複数段の固定翼との相互作用により、排気処理を行っていた。
図30に示すように、ここで用いられる固定翼123は、複数枚のブレード550と、この複数枚のブレード550を保持し、内側(設置時のロータ部側)を保持、固定する内リム600と、外側(設置時のケーシング側)を保持、固定する外リム700とから構成されている。
図31は、
図30に示した固定翼123の破線の円部分の部分拡大図である。
なお、
図32に示すような、外リム700が存在しないタイプ(内リム600のみで、ブレード550を保持、固定するタイプ)の固定翼123も用いられている。
図32は、半割の状態の固定翼123を、
図33は、
図32の破線の円部分の部分拡大図である。
ところで、この真空ポンプでは、設計上の要請から、複数段の回転翼の一段の回転翼の外径が、吸気口側より排気口側の方が小径に形成されている場合、もしくは、複数段の回転翼のうち一段の回転翼の内径が、吸気口側より排気口側の方が大径に形成されているものが存在する。
【0003】
図34および
図35は、従来技術を説明するための図である。
図34は、従来のターボ分子ポンプにおける内リム600と外リム700を有する固定翼123(
図30に示すタイプ)を用いた場合を説明するための断面図である。
図35は、
図34の部分拡大図である。
図35に示すように、排気されるガスの流れは、吸気口側から排気口側へ矢印で示す方向である。
この
図35に示すように、配置された固定翼123の内リム600(外側)及び外リム700(内側)は、排気方向に対して、水平に配置されており、ターボ分子ポンプの排気作業に対しては、特段の働きをしていなかった。
また、回転翼の外径の縮径位置にある固定翼スペーサの上面で、排気方向に対し垂直な面となる部分が存在し、上流側の回転翼で移送されたガス分子をそのまま吸気口側に反射する構造となっており、排気性能を低下させる要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-2692号
【文献】特開2018-35718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記、特許文献1及び特許文献2に開示されている真空ポンプでは、固定翼の外リム及び内リムが、ガスの排気方向に対して水平に配置されており、排気効率に対する貢献はしていなかった。
近年、真空ポンプにおいて、ポンプのサイズの拡大や、ロータ部の回転速度をあげることなく、より排気効率を向上させることが求められていた。
【0006】
そこで、本発明では、真空ポンプに設置される固定翼(内リム及び外リム)、およびスペーサに工夫をすることにより、より排気性能が向上した真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明では、吸気口と排気口を有するケーシングと、前記ケーシングの内部に、回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸に固定され、前記回転軸と共に回転可能な複数段の回転翼と、前記ケーシングに対して固定され、かつ、前記回転翼間に配置される複数段の固定翼とを、備え、前記複数段の回転翼のうち少なくとも一段の回転翼の外径が、前記吸気口側より前記排気口側の方が小径に形成された、もしくは、前記複数段の回転翼のうち少なくとも一段の回転翼の内径が、前記吸気口側より前記排気口側の方が大径に形成された真空ポンプであって、外径が小径に形成された前記回転翼の直上位置または内径が大径に形成された前記回転翼の直上位置に配置された固定翼の外周部及び内周部に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられ、前記固定翼は、放射状に配置される複数枚のブレードと、これらの複数枚のブレードを保持する内リム及び外リムを有し、前記テーパー面は、前記内リムの外周面及び前記外リムの内周面に設けられていることを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項2記載の発明では、前記固定翼は、放射状に配置される複数枚のブレードと、これらの複数枚のブレードを保持し、かつ、前記固定翼の高さ方向の位置決めを行うスペーサ部を有し、前記スペーサ部の内周面に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられていることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプを提供する。
請求項3記載の発明では、前記固定翼の前記複数枚のブレードの前記排気口側の面までアンダーカットされていることを特徴とする請求項2記載の真空ポンプを提供する。
請求項4記載の発明では、前記固定翼の前記複数枚のブレードの後方に垂直面またはテーパー面が設けられていることを特徴とする請求項2記載の真空ポンプを提供する。
請求項5記載の発明では、吸気口と排気口を有するケーシングと、前記ケーシングの内部に、回転自在に支持された回転軸と、前記回転軸に固定され、前記回転軸と共に回転可能な複数段の回転翼と、前記ケーシングに対して固定され、かつ、前記回転翼間に配置される複数段の固定翼とを、備え、前記複数段の回転翼のうち少なくとも一段の回転翼の外径が、前記吸気口側より前記排気口側の方が小径に形成された、もしくは、前記複数段の回転翼のうち少なくとも一段の回転翼の内径が、前記吸気口側より前記排気口側の方が大径に形成された真空ポンプであって、外径が小径に形成された前記回転翼の直上位置または内径が大径に形成された前記回転翼の直上位置に配置された固定翼の外周部及び内周部に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられ、前記固定翼の前記ケーシング側を保持し、かつ、前記固定翼の高さ方向の位置決めを行うスペーサ部から前記固定翼の高さ方向の範囲内に突出する突出部が設けられ、前記スペーサ部の内周面および前記突出部の少なくとも一部に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられていることを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項6記載の発明では、吸気口と排気口を有するケーシングを備えた真空ポンプに用いられる固定翼であって、放射状に配置される複数枚のブレードと、これらの複数枚のブレードを保持する内リム及び外リムを有し、前記内リムの外周面及び前記外リムの内周面に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられている固定翼を提供する。
請求項7記載の発明では、吸気口と排気口を有するケーシングを備えた真空ポンプに用いられるスペーサであって、放射状に配置される複数枚のブレードを有する固定翼の配置時に、前記ケーシング側を保持し、かつ、前記固定翼の高さ方向の位置決めを行うスペーサ部を有し、前記スペーサ部から前記固定翼の高さ方向の範囲内に突出する突出部が設けられ、前記スペーサ部の内周面および前記突出部の少なくとも一部に、前記排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面が設けられていることを特徴とするスペーサを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、真空ポンプにおける固定翼の内リム又は外リムもしくはスペーサの形状を工夫することにより、真空ポンプの排気性能をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプの概略構成例を示した図である。
【
図2】本発明の実施形態で用いるアンプ回路の回路図を示した図である。
【
図3】本発明の実施形態における電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】本発明の実施形態における電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係るターボ分子ポンプの概略構成例を示した図である。
【
図6】
図5に示す第1の実施形態に係るターボ分子ポンプの部分拡大図である。
【
図7】第1の実施形態Aに係る内リムにテーパー面を設けた固定翼を示した図である。
【
図8】第1の実施形態Bに係る内リムにテーパー面を設け、かつ垂直面と円周面を設けた固定翼を示した図である。
【
図9】第1の実施形態Cに係る内リム及び外リムにテーパー面を設けた固定翼を示した図である。
【
図10】第1の実施形態Dに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつ垂直面と円周面を設けた固定翼を示した図である。
【
図11】第1の実施形態Eに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつ外リムのブレードより上側(下側)にもテーパー面がある固定翼を示した図である。
【
図12】第1の実施形態Fに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつブレードより上側(下側)に内周面がある固定翼を示した図である。
【
図13】第1の実施形態Gに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつ外リムのブレードより上側(下側)に内周面があり、垂直面を設けた固定翼を示した図である。
【
図14】第1の実施形態Hに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつ外リムのブレードより上側(下側)にもテーパー面があり、垂直面を設けた固定翼を示した図である。
【
図15】第1の実施形態Iに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつフランジを設けた固定翼を示した図である。
【
図16】第1の実施形態Jに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつフランジを設け、垂直面を設けた固定翼を示した図である。
【
図17】本発明の第2の実施形態に係るターボ分子ポンプの概略構成例を示した部分拡大図である。
【
図18】第2の実施形態Aに係る外リムにテーパー面及び内周面を設けた固定翼を示した図である。
【
図19】第2の実施形態Bに係る外リムにテーパー面及び内周面を設け、かつフランジを設けた固定翼を示した図である。
【
図20】第2の実施形態Cに係る外リムにテーパー面及び内周面を設け、かつ内リム垂直面及び外リム垂直面を設けた固定翼を示した図である。
【
図21】第2の実施形態Dに係る外リムにテーパー面及び内周面を設け、かつフランジを設けた固定翼を示した図である。
【
図22】第3の実施形態に係るターボ分子ポンプの部分拡大図である。
【
図23】第4の実施形態に係るターボ分子ポンプの部分拡大図である。
【
図24】第4の実施形態Aに係る内リムに内リムテーパー面を設けた固定翼を示した図である。
【
図25】第4の実施形態Bに係る内リムに内リムテーパー面を設け、かつ内リム垂直面を設けた固定翼を示した図である。
【
図26】第5の実施形態に係るターボ分子ポンプの部分拡大図である。
【
図27】第5の実施形態Aに係る固定翼スペーサの外観を示した図である。
【
図28】第5の実施形態Bに係る固定翼スペーサの外観を示した図である。
【
図29】テーパーの角度を説明するための図である。
【
図32】従来の外リムがないタイプの固定翼を示した図である。
【
図34】従来のターボ分子ポンプの概略構成例を示した図である。
【
図35】
図34に示したターボ分子ポンプの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(i)実施形態の概要
本実施形態では、複数段の回転翼のうち少なくとも一段の回転翼の外径が、排気口側の方が小径に形成された、もしくは、複数段の回転翼のうち少なくとも一段の回転翼の内径が、排気口側の方が大径に形成された真空ポンプにおいて、外径が小径に形成された回転翼の直上位置または内径が大径に形成された回転翼の直上位置に配置された固定翼の少なくとも外周部または内周部の何れか一方に、排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面(傾斜面)が設けられている。
このテーパー面を設けることで、分子が入ると直角の角度で反射し、分子を内周側に送り、上段の回転翼でたたかれることで次の排気段に送られることとなる。
【0011】
こうして、従来技術では、排気には作用していなかった固定翼の外周部または内周部も、排気に貢献することとなり、真空ポンプの排気効率を向上させることとなる。
【0012】
(ii)実施形態の詳細
以下、本発明の好適な実施の形態について、
図1から
図29を参照して詳細に説明する。
(真空ポンプの構成)
図1は、本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプ100の概略構成例を示した図であり、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0013】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0014】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0015】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0016】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0017】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0018】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0019】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0020】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0021】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0022】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0023】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0024】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0025】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0026】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0027】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0028】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0029】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0030】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0031】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0032】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、あるいは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0033】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0034】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0035】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図2に示す。
【0036】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0037】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0038】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0039】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0040】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0041】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0042】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0043】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0044】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0045】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0046】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0047】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0048】
(第1の実施形態)
次に、
図5から
図16を参照して、第1の実施形態を説明する。
図5は、第1の実施形態に係るターボ分子ポンプの概略構成例を示した図であり、
図6は、
図5に示す第1の実施形態に係るターボ分子ポンプの部分拡大図である。
この第1の実施形態では、固定翼123の内リム600又は外リム700もしくは双方に、排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面(内リムテーパー面610、外リムテーパー面710)が設けられている。
このテーパー面が設けられているのは、複数段の回転翼のうち一段の回転翼の外径が、排気口側の方が小径に形成されている箇所、もしくは、複数段の回転翼のうち一段の回転翼の内径が、排気口側の方が大径に形成されている箇所である。これらの回転翼の間に、テーパー面が設けられた固定翼123が、配置されている。
【0049】
図7は、第1の実施形態Aに係る内リムにテーパー面を設けた固定翼123を示した図である。
この図に示すように、内リム600に排気口側に向かって下り勾配を有する内リムテーパー面610が設けられている。この内リムテーパー面610に送られてきた分子が当たると、直角に反射し、上段の回転翼にたたかれ、次段へ送られる。この観点から、内リム600も内リムテーパー面610を設けたことにより、排気作用に貢献することとなる。
この図から明らかなように、固定翼123のブレード550は、内リム600と外リム700により、保持、固定されている。
【0050】
図8は、第1の実施形態Bに係る内リムにテーパー面を設けた固定翼123を示した図である。この第1の実施形態Bに係る固定翼123は、内リム垂直面620と、内リム円周面630が形成されている。
固定翼123は、例えばアルミニウムを材料としており、金型で鋳物として製造されるか、切削で製造される。
金型で鋳物として製造される場合、製品を金型から抜く必要があるため、内リム垂直面620を設けている。ブレード550の下側には、内リム垂直面620が形成される箇所に、外リム700と平行な内リム円周面630が形成されている。
【0051】
図9は、第1の実施形態Cに係る内リム及び外リムにテーパー面を設けた固定翼123を示した図である。この図に示すように、内リム600だけでなく、外リム700にも排気口側に向かって下り勾配を有する外リムテーパー面710が設けられている。
この第1の実施形態Cでは、内リム600だけでなく外リム700も排気作用に貢献することとなる。
なお、この第1の実施形態Cでは、内リム600及び外リム700の両方にテーパー面(610、710)を設けているが、外リム700のみに外リムテーパー面710を設けるようにしてもよい。
【0052】
図10は、第1の実施形態Dに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつ垂直面と円周面を設けた固定翼123を示した図である。
第1の実施形態Bと同様に、金型で鋳物として製造される場合、製品を金型から抜く必要があるため、外リム垂直面720を設けている。ブレード550の下側には、外リム垂直面720が形成される箇所に、内リム600と平行な外リム円周面730が形成されている。
【0053】
図11(a)(b)は、第1の実施形態Eに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつ外リムのブレードより上側(下側)にもテーパー面がある固定翼123を示した図である。
この第1の実施形態Eは、内リム600側は、第1の実施形態Aや実施形態Cと同一形状であるが、外リム700の構成が第1の実施形態Cと相違している。すなわち、
図11(a)に示す実施形態では、ブレード550の表面より上側まで外リムテーパー面710が形成されて、余剰部740が存在している。
一方、
図11(b)に示す実施形態では、ブレード550の裏面より下側まで外リムテーパー面710が形成されて、余剰部740が存在している。
この余剰部740が、存在していることで、固定翼123の軸方向の寸法を規定するのが容易になる。すなわち、ブレード550が影響しない範囲で高さ方向の調整を行うことができる。
この第1の実施形態Eでは、内リム600及び外リム700の両方にテーパー面(610、710)を設けているが、外リム700のみに外リムテーパー面710を設けるようにしてもよい。
なお、この第1の実施形態Eは、垂直面が存在しないので、切削で製造されている。
【0054】
図12は、第1の実施形態Fに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつブレードより上側(下側)に内周面がある固定翼123を示した図である。
この第1の実施形態Fは、内リム600側は、第1の実施形態Aや実施形態Cと同一形状であるが、外リム700の構成が第1の実施形態Cと相違している。すなわち、ブレード550の表面より上側(下側)に、外リム内周面760が形成されている。外リム内周面760は、外リムテーパー面710と異なり、ターボ分子ポンプ100の軸線方向と平行な面である。
この外リム内周面760を設け、軸方向の寸法を調整することで、固定翼123をターボ分子ポンプ100内に設置する際、軸方向位置決めを行うことができる。
この第1の実施形態Fでは、内リム600及び外リム700の両方にテーパー面(610、710)を設けているが、外リム700のみにテーパー面710を設けるようにしてもよい。
なお、この第1の実施形態Fは、垂直面が存在しないので、切削で製造されている。
【0055】
図13は、第1の実施形態Gに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつ外リムのブレードより上側(下側)に内周面があり、垂直面を設けた固定翼123を示した図である。この実施形態Gと第1の実施形態Fとの相違点は、内リム垂直面620と外リム垂直面720が設けられている点である。
この外リム内周面760を設け、軸方向の寸法を調整することで、固定翼123をターボ分子ポンプ100内に設置する際、軸方向位置決めを行うことができる。
この第1の実施形態Gでは、内リム600及び外リム700の両方にテーパー面(610、710)を設けているが、外リム700のみに外リムテーパー面710を設けるようにしてもよい。
【0056】
図14(a)、(b)は、第1の実施形態Hに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつ外リムのブレードより上側(下側)にもテーパー面があり、垂直面を設けた固定翼123を示した図である。(a)は、上側から見た外観図であり、(b)は、下側から見た外観図である。
この実施形態と第1の実施形態Eとの相違点は、内リム垂直面620と外リム垂直面720が設けられている点である。
余剰部740が存在していることで、固定翼123の軸方向の寸法を規定するのが容易になる。
この第1の実施形態Hでは、内リム600及び外リム700の両方にテーパー面(610、710)を設けているが、外リム700のみにテーパー面710を設けるようにしてもよい。
【0057】
図15は、第1の実施形態Iに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつフランジを設けた固定翼123を示した図である。
この実施形態Iでは、外リム700から外側(設置時に外筒127側)に突出したフランジ750が設けられている。
このフランジ750により、固定翼123の軸方向の位置決めや保持を行うことができる。すなわち、フランジ750の厚み(軸方向の高さ)の調整をすることで、固定翼123の軸方向の位置決めを行うことができ、かつ、このフランジ750を挟持することで、外筒127に固定することができる。
この第1の実施形態Iでは、内リム600及び外リム700の両方にテーパー面(610、710)を設けているが、外リム700のみに外リムテーパー面710を設けるようにしてもよい。
なお、この第1の実施形態Iは、垂直面が存在しないので、切削で製造されている。
【0058】
図16は、第1の実施形態Jに係る内リム及び外リムにテーパー面を設け、かつ内リム垂直面と外リム垂直面を設け、フランジを設けた固定翼123を示した図である。
この実施形態Jでは、実施形態Iと同様に、外リム700から外側(設置時に外筒127側)に突出したフランジ750が設けられている。
このフランジ750により、固定翼123の軸方向の位置決めや保持を行うことができる。すなわち、フランジ750の厚み(軸方向の高さ)の調整を行うことで、固定翼123の軸方向の位置決めを行うことができ、かつ、このフランジ750を挟持することで、外筒127に固定することができる。
この実施形態Jと第1の実施形態Iとの相違点は、内リム垂直面620と外リム垂直面720が設けられている点である。
この第1の実施形態Jでは、内リム600及び外リム700の両方にテーパー面(610、710)を設けているが、外リム700のみに外リムテーパー面710を設けるようにしてもよい。
【0059】
(第2の実施形態)
次に、
図17から
図21を参照して、第2の実施形態を説明する。
図17は、第2の実施形態に係るターボ分子ポンプの部分拡大図である。
この第2の実施形態では、固定翼123の外リム700に、排気口側に向かって下り勾配を有する外リムテーパー面710と外リム内周面760が設けられている。すなわち、外リム700に、外リムテーパー面710と外リム内周面760が共存していることを特徴とする。なお、内リム600に関しては、第1の実施形態と同様である。
【0060】
図18は、第2の実施形態Aに係る外リムにテーパー面及び内周面を設けた固定翼123を示した図である。
外リムテーパー面710は、ブレード550に対応した位置に配置されている。その下部に外リム内周面760が設けられている。この外リム内周面760は、傾斜がなく、ターボ分子ポンプ100の軸線方向と平行である。
この外リム内周面760の高さ方向を調整することで、固定翼123の位置決めを行うことができる。この外リム内周面760に対応する位置には、ブレード550が存在しないので、調整を容易に行うことができる。
この第2の実施形態Aでは、内リム600及び外リム700の両方にテーパー面(610、710)を設けているが、外リム700のみに外リムテーパー面710を設けるようにしてもよい。
なお、この第2の実施形態Aは、垂直面が存在しないので、切削で製造されている。
【0061】
図19は、第2の実施形態Bに係る外リムにテーパー面及び内周面を設け、かつフランジを設けた固定翼123を示した図である。
外リムテーパー面710は、ブレード550に対応した位置に配置されている。その下部に外リム内周面760が設けられている。
この第2の実施形態Bと第2の実施形態Aとの相違点は、外リム700の外側(設置時に外筒127側)に突出したフランジ750が設けられていることである。
このフランジ750により、固定翼123の軸方向の位置決めや保持を行うことができる。すなわち、フランジ750の厚み(軸方向の高さ)の調整を行うことで、固定翼123の軸方向の位置決めを行うことができ、かつ、このフランジ750を挟持することで、外筒127に固定することができる。
この第2の実施形態Bでは、内リム600及び外リム700の両方にテーパー面(610、710)を設けているが、外リム700のみに外リムテーパー面710を設けるようにしてもよい。
なお、この第2の実施形態Bは、垂直面が存在しないので、切削で製造されている。
【0062】
図20は、第2の実施形態Cに係る外リムにテーパー面及び内周面を設け、かつ内リム垂直面及び外リム垂直面を設けた固定翼123を示した図である。
外リムテーパー面710は、ブレード550に対応した位置に配置されている。その下部に外リム内周面760が設けられている。
この実施形態Cと第2の実施形態Aと相違する点は、金型で鋳物として製造される場合、製品を金型から抜く必要があるため、内リム垂直面630及び外リム垂直面720を設けていることである。
この第2の実施形態Cでは、内リム600及び外リム700の両方にテーパー面(610、710)を設けているが、外リム700のみに外リムテーパー面710を設けるようにしてもよい。
【0063】
図21は、第2の実施形態Dに係る外リムにテーパー面及び内周面を設け、かつ、フランジを設けた固定翼123を示した図である。
外リムテーパー面710は、ブレード550に対応した位置に配置されている。その下部に外リム内周面760が設けられている。
この第2の実施形態Dと第2の実施形態Cとの相違点は、外リム700の外側(設置時に外筒127側)に突出したフランジ750が設けられていることである。
このフランジ750により、固定翼123の軸方向の位置決めや保持を行うことができる。すなわち、フランジ750の厚み(軸方向の高さ)の調整を行うことで、固定翼123の軸方向の位置決めを行うことができ、かつこのフランジ750を挟持することで、外筒127に固定することができる。
この第2の実施形態Dでは、内リム600及び外リム700の両方にテーパー面(610、710)を設けているが、外リム700のみに外リムテーパー面710を設けるようにしてもよい。
【0064】
(第3の実施形態)
次に、
図22を参照して、第3の実施形態を説明する。
図22は、第3の実施形態に係るターボ分子ポンプの部分拡大図である。
この第3の実施形態では、第1の実施形態で用いた固定翼123を逆向き又は同一向きに配置する。そして、少なくとも最終段の固定翼123は、逆向きに配置する。
このように固定翼123を配置することにより、同一サイズの製品(固定翼123)を兼用して用いることができ、製造コストを削減することができる。
また、外リムテーパー面710が、連続して繋がるため、スペーサに対しての隙間を設けなくすることができる。
【0065】
(第4の実施形態)
次に、
図23から
図25を参照して、第4の実施形態を説明する。
図23は、第4の実施形態に係るターボ分子ポンプの部分拡大図である。
この第4の実施形態では、固定翼123の内リム600に、排気口側に向かって下り勾配を有する内リムテーパー面610が設けられている。すなわち、上流に位置する固定翼123のブレード550の根元径が下流に位置する固定翼123のブレード550の根元径より小さい箇所に位置している内リム600に内リムテーパー面610が設けられている。
【0066】
図24は、第4の実施形態Aに係る内リム600に内リムテーパー面610を設けた固定翼123を示している。この
図24に示した内リム600は、内リム垂直面620が存在しないので、切削で製造されたものである。
図25は、第4の実施形態Bに係る内リム600に内リムテーパー面610を設け、かつ内リム垂直面を設けた固定翼123を示している。この
図25に示した内リム600は、内リム垂直面620が存在するので、金型により鋳物で製造されたものである。
図24及び
図25には、共に外リム700が存在しないタイプの固定翼123を示しているが、この実施形態4は、外リム700が存在するタイプの固定翼123にも適用することができる。
【0067】
(第5の実施形態)
次に、
図26から
図28を参照して、第5の実施形態を説明する。
図26は、第5の実施形態に係るターボ分子ポンプの部分拡大図である。
この第5の実施形態では、外枠127側を保持し、固定翼123の高さ方向の位置決めを行う固定翼スペーサ部870を有する固定翼スペーサ800に関する。
図27(第5の実施形態A)及び
図28(第5の実施形態B)は、この固定翼スペーサ800の外観を示した図である。これらの図に示すように、この固定翼スペーサ800は、スペーサ部870から固定翼123の高さ方向の範囲内に突出する高さ方向に突出する突出部860が設けられ、固定翼スペーサ部870の内周面830及び突出部860の少なくとも一部に、排気口側に向かって下り勾配を有する固定翼スペーサテーパー面810が形成されている。固定翼スペーサ部870の内周面830及び突出部860が固定翼123の高さ方向の範囲内に突出した範囲も「固定翼の外周部」として定義する。
【0068】
各突出部860の間には、設置時に固定翼123のブレード550を嵌合させて保持するブレードの嵌合溝820が設けられている。
図28に示した固定翼スペーサ800は、さらに、固定翼スペーサフランジ850が設けられている。この固定翼スペーサフランジ850により、固定翼スペーサ800の高さ方向の位置決めを行ったり、これを挟持されることにより、固定翼スペーサ800を保持、固定することができる。
【0069】
(テーパー面の角度について)
上記各実施形態1から5におけるテーパー面の角度について説明する。
テーパー面の角度については、排気口側に向かって下り勾配を有するテーパー面(傾斜面)であれば、特に制限はない。
図29(a)は、第1の実施形態Hに対応した固定翼123の断面図である。この図に示す例では、固定翼スペーサ125の内径下端Aと固定翼スペーサ125の内径上端Bを結ぶ線(仮想線)の角度で固定翼123にテーパー面を設けている。
また、
図29(b)は、第2の実施形態Dに対応した固定翼123の断面図である。この図に示す例では、上段の回転翼102の先端Xから下段の固定翼123へ下ろした垂線の交点Hから(1)(固定翼123のブレード550の付け根)、又は(2)(固定翼123の内周下面)の各点を結ぶ線(仮想線)の何れかの角度で固定翼123にテーパー面を設けている。
このように、テーパー面の角度は種々の角度が可能であり、各種状況に応じて適宜決定できる事項である。
【0070】
また、各実施形態において、テーパー面だけでなく、緩やかな曲線形状の面を用いるようにしてもよい。
【0071】
なお、本発明の実施形態および各変形例は、必要に応じて組み合わせる構成にしてもよい。
【0072】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が当該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0073】
100 ターボ分子ポンプ
101 吸気口
102 回転翼
103 回転体
113 ロータ軸
123 固定翼
125 固定翼スペーサ
127 外筒
129 ベース部
133 排気口
200 制御装置
550 ブレード
600 内リム
610 内リムテーパー面
620 内リム垂直面
630 内リム円周面
700 外リム
710 外リムテーパー面
720 外リム垂直面
730 外リム円周面
740 余剰部
750 フランジ
760 外リム内周面
800 固定翼スペーサ
810 固定翼スペーサテーパー面
820 ブレードの嵌合溝
830 固定翼スペーサ内周面
850 固定翼スペーサフランジ
860 突出部
870 固定翼スペーサ部