IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧

特許7546425ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法
<>
  • 特許-ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法 図1
  • 特許-ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法 図2
  • 特許-ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法 図3
  • 特許-ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法 図4
  • 特許-ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法 図5
  • 特許-ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法 図6
  • 特許-ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法 図7
  • 特許-ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法 図8
  • 特許-ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法 図9
  • 特許-ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法 図10
  • 特許-ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   F27B 5/14 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
F27B5/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020156172
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022049890
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿隅 一将
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
(72)【発明者】
【氏名】初森 智紀
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-235284(JP,A)
【文献】特開昭57-060174(JP,A)
【文献】特開2009-103345(JP,A)
【文献】特開2009-222309(JP,A)
【文献】特開2008-045791(JP,A)
【文献】特開昭62-190383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 5/14
F27B 7/18
F27B 7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を収容した状態で軸心周りに回転駆動される円筒状のレトルトと、
前記レトルトの内部に配置され、前記レトルトの回転に伴って自転する均熱部材と、を備え、
前記均熱部材は、円柱状の芯材と、前記芯材周りに配置される少なくとも一つの均熱板と、前記円柱状の芯材の中心軸であって、前記レトルトの軸心と平行な自転軸と、を有し、
前記均熱板の外周縁は、前記自転軸の方向から見て円形状である、ロータリーキルン。
【請求項2】
前記自転軸の方向から見たとき、前記均熱部材は、前記芯材の周りに中空領域が形成されている、請求項1に記載のロータリーキルン。
【請求項3】
前記均熱板は、前記自転軸を中心とした螺旋状である、請求項1又2に記載のロータリーキルン。
【請求項4】
前記均熱板は、前記自転軸を中心としたリング状である、請求項1又は2に記載のロータリーキルン。
【請求項5】
前記レトルトの軸方向一端側に配置され、前記芯材が当接することで前記均熱部材が前記軸方向一端側から落下することを防止するストッパーを備える、請求項1~4の何れか1項に記載のロータリーキルン。
【請求項6】
前記均熱板の外周縁の直径は、前記レトルトの内径の25~75%である、請求項1~5の何れか1項に記載のロータリーキルン。
【請求項7】
前記均熱板は、金属又はカーボンで形成される、請求項1~6の何れか1項に記載のロータリーキルン。
【請求項8】
前記レトルトの外周側に前記レトルトの軸方向に沿って配置される複数のヒーターブロックからなるヒーターを備え、
前記均熱部材の前記芯材は、前記ヒーターブロックの軸方向長さよりも短い、請求項1~7の何れか1項に記載のロータリーキルン。
【請求項9】
被処理物を収容した状態で軸心周りに回転駆動される円筒状のレトルトと、前記レトルトの内部に配置され、前記レトルトの回転に伴って自転する均熱部材と、を備えるロータリーキルンを用いた熱処理方法であって、
前記均熱部材は、円柱状の芯材と、前記芯材周りに配置される少なくとも一つの均熱板と、前記円柱状の芯材の中心軸であって、前記レトルトの軸心と平行な自転軸と、を有し、前記均熱板の外周縁は、前記自転軸の方向から見て円形状であり、
前記被処理物は、平均粒径が25μm以下である、ロータリーキルンを用いた熱処理方法。
【請求項10】
前記被処理物は、かさ密度が1.0g/cm以下である、請求項9に記載のロータリーキルンを用いた熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリーキルンは、連続処理が可能な大量生産に適した炉である。このうち、雰囲気調整可能なロータリーキルンは、外部よりレトルトを加熱し、キルンに気密性を持たせ、雰囲気調整ガスをキルン内に流すことにより雰囲気を調整している。雰囲気調整ガスを流す方式として、原料投入側から製品排出側(以下、キルン内の原料から製品までを総称して材料とする)に向かって材料と同じ方向に雰囲気調整ガスを流す並流式と、材料の流れと反対方向に雰囲気調整ガスを流す向流式とがある。向流式は、温まったガスが投入された材料と熱交換しながら外に排出されるため熱効率がよく、また、熱処理によって製品に不要なガスが発生する場合、製品と反対側にそのガスが流れて製品と分離できる利点がある。雰囲気調整が不要な場合も原料よりガスが発生したり、キルン内部でバーナ加熱を行う場合はもちろんガス流が発生したりする。
【0003】
ところで、ロータリーキルンでは、レトルト内壁から熱伝達される。このため炉が大きくなるとレトルトの断面積も大きくなり、内壁から遠いところにある材料に熱が伝わりにくくなる。
【0004】
充填率が20%の場合、材料の高さはレトルト内径の約1/4となる。例えば、レトルト内径が100mmのキルンでは材料の高さは25mmであるが、レトルト内径が300mmのキルンではレトルト内径に比例して高くなり76mmとなる。このとき、材料への熱伝導の時間はレトルト内壁からの距離に応じて長くなる。その結果、キルンが大きくなるほど材料の場所間の温度差が大きくなり、焼成ムラが発生する。
【0005】
そこで、リフターやビーターなどを設置して材料を攪拌する方法が採られている(下記特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-292785号公報
【文献】特開2009-127946号公報
【文献】特許第3073717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、材料が微粉末の場合、リフターやビーターを使用すると炉内に粉体が大量に舞うことになる。ロータリーキルンで熱処理する場合、舞った材料はガスによって同伴され系外に排出されてしまい、収率が大幅に低下するという問題が発生する。
【0008】
ここで、同伴を減らすために雰囲気調整ガスの流量を下げると、キルン内の外部との差圧が低下し外気が進入しやすくなる。また、向流の場合、キルン内の温度勾配による対流が雰囲気調整ガスの流速に勝り、高温部のガスがキルンの上部を通って出口側へ達し、材料から発生する不要なガスが製品に付着してしまうという問題も発生する。
【0009】
よって、本発明の目的は、材料の場所間の温度差を小さくし、かつ、収率を下げないようにすることができるロータリーキルン及びそれを用いた熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のロータリーキルンは、被処理物を収容した状態で軸心周りに回転駆動される円筒状のレトルトと、
前記レトルトの内部に配置され、前記レトルトの回転に伴って自転する均熱部材と、を備え、
前記均熱部材は、前記レトルトの軸心と平行な自転軸と、前記自転軸の回りに配置される少なくとも一つの均熱板と、を有し、
前記均熱板の外周縁は、前記自転軸の方向から見て円形状である。
【0011】
すなわち、本発明のロータリーキルンは、均熱部材がレトルトの内部で自転することによって、均熱板が被処理物内へ侵入と離脱をレトルトの外壁より高回転で繰り返し、被処理物と広範囲で接することになるため、被処理物の場所間の温度差を小さくすることができる。さらに、周囲のレトルトの輻射により温められた雰囲気ガスから均熱板が熱をもらうことによって、効率よく熱を伝えることもできる。その結果、焼成ムラを減らすことができる。また、均熱板の外周縁は、自転軸の方向から見て円形状をしているため、均熱部材はレトルトの内部で円滑に転がることができ、被処理物の粉体を掻き上げることがない。その結果、被処理物の粉体がキルン内で大量に舞って系外に排出されるのを抑制できるため、収率を下げることがない。均熱板は、リフターとは異なり、レトルト外壁に固定されていないので脱着が可能なため、レトルト内や均熱板の清掃が容易で、また所望の場所に所望の形状の均熱板を配置することが容易にできる。
【0012】
また、本発明のロータリーキルンにおいて、前記自転軸の方向から見たとき、前記均熱部材は、前記自転軸の周りに中空領域が形成されていることが好ましい。
【0013】
均熱部材が中空領域を備えることで、均熱部材がレトルト内の被処理物の流れを阻害しない。
【0014】
また、本発明のロータリーキルンにおいて、前記均熱板は、前記自転軸を中心とした螺旋状である、という構成でもよい。
【0015】
均熱板を螺旋状とすることで、均熱板がレトルト内の被処理物の流れを阻害しない。
【0016】
また、本発明のロータリーキルンにおいて、前記均熱板は、前記自転軸を中心としたリング状である、という構成でもよい。
【0017】
この構成によれば、均熱板の外周縁が連続した円形状をしているため、均熱部材がレトルトの内部でより円滑に回転することができる。
【0018】
また、本発明のロータリーキルンにおいて、前記レトルトの軸方向一端側に配置され、前記均熱部材が前記軸方向一端側から落下することを防止するストッパーを備えることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、均熱部材がレトルトの外部へ落下するのを防止できる。
【0020】
また、本発明のロータリーキルンにおいて、前記均熱板の外周縁の直径は、前記レトルトの内径の25~75%であるのが好ましい。
【0021】
均熱板の外周縁の直径がこの範囲であれば、均熱部材がレトルトの内部で円滑に回転し、さらに、均熱板がレトルト内の被処理物の流れを阻害しない。
【0022】
また、本発明のロータリーキルンにおいて、前記均熱板は、金属又はカーボンで形成されるのが好ましい。
【0023】
この構成によれば、均熱板の熱伝導率が高くなり、均熱効果が高まる。
【0024】
また、本発明のロータリーキルンにおいて、前記レトルトの外周側に前記レトルトの軸方向に沿って配置される複数のヒーターブロックからなるヒーターを備え、
前記均熱部材の自転軸は、前記ヒーターブロックの軸方向長さよりも短い、という構成でもよい。
【0025】
この構成によれば、均熱部材は、ヒーターによって形成されるレトルト内の温度勾配に悪影響を与えない。
【0026】
また、本発明のロータリーキルンを用いた熱処理方法は、被処理物を収容した状態で軸心周りに回転駆動される円筒状のレトルトと、前記レトルトの内部に配置され、前記レトルトの回転に伴って自転する均熱部材と、を備えるロータリーキルンを用いた熱処理方法であって、
前記均熱部材は、前記レトルトの軸心と平行な自転軸と、前記自転軸の回りに配置される少なくとも一つの均熱板と、を有し、前記均熱板の外周縁は、前記自転軸の方向から見て円形状であり、
前記被処理物は、平均粒径が25μm以下の粉体である。
【0027】
また、本発明のロータリーキルンを用いた熱処理方法において、前記被処理物は、かさ密度が1.0g/cm以下の粉体であることが好ましい。
【0028】
被処理物としてこれらの熱伝導が小さく舞い上がりやすい粉体を含む場合、被処理物の場所間の温度差を小さくし、かつ、収率を下げないようにする効果が高い。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明によれば、材料の場所間の温度差を小さくし、かつ、収率を下げないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係るロータリーキルンの一実施形態を表わす全体構成図
図2図1に示すロータリーキルンのII-II断面図
図3】均熱部材の斜視図
図4図1に示すロータリーキルンの縦断面図、及びレトルトを軸心方向から見た正面図
図5】変形例1に係る均熱部材の正面図及び側面図
図6】変形例2に係る均熱部材の正面図及び側面図
図7】変形例3に係る均熱部材の正面図及び側面図
図8】変形例4に係る均熱部材の正面図及び側面図
図9】変形例5に係る均熱部材の正面図及び側面図
図10】変形例6に係るロータリーキルンの縦断面図、及びレトルトを軸心方向から見た正面図
図11】変形例7に係るロータリーキルンの縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、ロータリーキルンにおける一実施形態について、図1図4を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0032】
図1は、本発明に係るロータリーキルンの一実施形態を表わす全体構成図である。本実施形態のロータリーキルン1は、回転する円筒状のレトルト10に被処理物を供給し、レトルト10の外部から加熱して、連続的に焼成、炭化などの加熱処理を行うものである。
【0033】
ロータリーキルン1は、被処理物T1を収納した状態で軸心C1周りに回転駆動されるレトルト10を備える。レトルト10は、円筒状の部材である。レトルト10は、後方側に設けられた入口フード11と、前方側に設けられた出口フード12によって回転可能に支持されている。レトルト10と入口フード11の摺動部、及びレトルト10と出口フード12の摺動部は、グランドパッキンやゴム等の不図示のシールにより気密性が確保される。
【0034】
入口フード11にはフィーダー13が設けられ、フィーダー13には原料ホッパー14が設けられる。原料ホッパー14から投入された被処理物T1は、フィーダー13によってレトルト10に送り込まれる。フィーダー13はマテリアルシールされ気密性が確保されるが、原料ホッパー14を雰囲気調整ガスで満たすこともある。入口フード11の上部には調整弁11aが設けられ、レトルト10内部の圧力が外部に対してやや正圧になるように調整される。このように調整することによりシール部からの外気流入を防いでいる。また、入口フード11の上方から排ガスEGが排気される。
【0035】
レトルト10の外周側には、レトルト10の軸心方向に沿って配置される複数のヒーターブロック15aからなるヒーター15が設けられる。ヒーターブロック15aは、それぞれ温度コントロールがされており、処理する材料に合ったレトルト10内の温度勾配を作り出している。ヒーターブロック15aにはそれぞれ熱電対15bが設けられており、制御装置16は、熱電対15bで計測される温度に基づいてヒーターブロック15aの出力を制御する。
【0036】
出口フード12には不図示のダブルダンパーやロータリーバルブが設けられて気密性が確保される。出口フード12の下方から加熱処理物T2が排出される。なお、スクリューフィーダーを設けてマテリアルシールし、次工程のロータリークーラー(図示していない)に加熱処理物T2を送ることも行われる。
【0037】
出口フード12には雰囲気調整ガスAGの投入口17が設けられている。投入口17から雰囲気調整ガスAGを投入することで、入口フード11の調整弁11aと連携してレトルト10内部の圧力を正圧に保っている。
【0038】
レトルト10の内部には均熱部材20が設けられる。図2は、図1に示すロータリーキルン1のII-II断面図である。図3は、均熱部材20の斜視図である。
【0039】
均熱部材20は、レトルト10の軸心C1と平行な自転軸C2と、自転軸C2の回りに配置される少なくとも一つの均熱板21と、を有する。均熱板21は、自転軸C2を中心とした螺旋状の板である。螺旋状の均熱板21は、芯材22に対して複数の連結部材23により固定される。本実施形態において、自転軸C2は、円柱状の芯材22の中心軸である。
【0040】
図2に示すように、均熱板21の外周縁21aは、自転軸C2(軸心C1)の方向から見て円形状である。均熱部材20は、自重によって、均熱板21の外周縁21aの下端がレトルト10の内壁10aの下端に接する状態である。この状態で、図2のようにレトルト10が軸心C1を中心として反時計回りに回転するとき、均熱部材20は、均熱板21の外周縁21aとレトルト10の内壁10aとの摩擦により、同じ位置にて自転軸C2を中心として反時計回りに回転する。すなわち、均熱部材20は、レトルト10の回転に伴って自転軸C2周りに自転する。
【0041】
均熱部材20がレトルト10内を転がることによって、均熱板21が被処理物T1内へ侵入と離脱を繰り返し、被処理物T1と広範囲で接する。これにより、被処理物T1の高温部分で温められた均熱板21は被処理物T1の低温部分で熱を与えるため、被処理物T1の均熱化が図られる。その結果、被処理物T1の場所間の温度差を小さくすることができる。
【0042】
また、均熱板21の外周縁21aが自転軸C2の方向から見て円形状をしているため、均熱部材20はレトルト10の内部で円滑に転がることができ、被処理物T1の粉体を掻き上げることがない。さらに、均熱板21が被処理物T1の上面に対して略垂直に侵入と離脱をするため、被処理物T1の粉体を掻き上げることがない。同時に、被処理物T1の移動を妨げることもない。被処理物T1の平均粒径が25μm以下の場合、より好ましくは被処理物T1のかさ密度が1.0g/cm以下の場合、本実施形態の均熱部材20が特に有用である。
【0043】
図4は、(a)図1に示すロータリーキルン1の縦断面図、(b)レトルト10を軸心方向から見た正面図である。本実施形態において、均熱部材20は、レトルト10の軸心方向に沿って複数配置される。なお、図1では均熱部材20を2つのみ図示しているが、実際には図4のように3つ以上配置されてよい。
【0044】
芯材22は、半球状の一端22aと、平坦な他端22bを有する。これにより、均熱部材20を隣接して配置した際、芯材22同士の接触面積が小さいため、均熱部材20同士での熱伝達を小さくすることができる。
【0045】
また、芯材22の軸方向長さL22(図1を参照)は、ヒーターブロック15aの軸方向長さL15(図1を参照)よりも短い。芯材22の軸方向長さL22が長いと、レトルト10内の温度勾配を変えてしまうため、特にヒーター15が複数のゾーンに分かれている場合には、芯材22の軸方向長さL22は、ゾーンの軸方向長さ、すなわちヒーターブロック15aの軸方向長さL15よりも短いことが好ましい。
【0046】
均熱部材20は、自転軸C2の方向から見たとき、自転軸C2の周りに中空領域29(図2を参照)が形成されていることが好ましい。中空領域29は、連結部材23によって連結された均熱板21と芯材22の間の領域である。自転軸C2の方向から見たときに中空領域29がある場合、レトルト10内の被処理物T1の流れが中空領域29によって良好になる。
【0047】
均熱板21の外周縁21aの直径D21(図2を参照)は、レトルト10の内径D10(図2を参照)の25~75%であることが好ましい。均熱板21の外周縁21aの直径D21がレトルト10の内径D10の25%よりも小さい場合、被処理物T1の充填率にもよるが、芯材22が被処理物T1に埋まってしまい、均熱部材20が回転しにくくなる。一方、均熱板21の外周縁21aの直径D21がレトルト10の内径D10の75%よりも大きい場合、均熱板21がレトルト10内の被処理物T1の流れを阻害するおそれがある。
【0048】
均熱板21は、熱伝導率が高い材質が望ましいため、金属又はカーボンで形成されることが好ましい。また、均熱板21は、被処理物T1との付着性が低い材質が望ましいため、例えば炭化処理の場合にはカーボンで形成されることがより好ましい。芯材22についても金属又はカーボンで形成されることが好ましいが、被処理物T1の中で均熱部材20が浮かないように芯材22は金属で形成されるのが特に好ましい。ただし、均熱部材20を隣接して配置した際、均熱部材20同士での熱伝達が小さくなるように、芯材22は、均熱板21よりも熱伝導率の低い材質が好ましい。
【0049】
図4に示すように、通常、レトルト10は、出口フード12側が入口フード11側よりも低くなるように設置される。言い換えると、レトルト10は、軸心C1が水平面に対して例えば1~3°傾斜するように設置される。そのため、レトルト10の軸方向一端側10b(出口フード12側)には、均熱部材20がレトルト10の軸方向一端側10bから落下することを防止するストッパー30が設けられる。
【0050】
ストッパー30は、均熱部材20の芯材22が当たる当接部材31と、当接部材31をレトルト10に固定するための固定部材32と、を有する。当接部材31は、レトルト10の軸心C1を中心とするリング状をしている。当接部材31は、複数の固定部材32によりレトルト10の内壁10aに固定される。なお、当接部材31の芯材22が当たる部分は、芯材22の位置がずれないように、当接部材31の全周に亘って凹部を設けてもよい。
【実施例
【0051】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するために具体的な実施例等を示すが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0052】
被処理物としてチタンニオブ酸化物を用い、チタンニオブ酸化物に炭素を担持させる炭化処理に適用した。炭素が担持されてなるチタンニオブ酸化物負極活物質は、電池特性を向上させることができる。
【0053】
具体的なチタンニオブ酸化物負極活物質の製造工程は以下のとおりである。初めに、水酸化ニオブを水に懸濁させ、ニオブの4倍モル量の過酸化水素を添加し、pH9に調整して、得られる懸濁液A1中の水酸化ニオブの含有量を20質量%とした。次いで、懸濁液A1と、別途調製した硫酸チタニルを水に溶解させた液とを、チタンとニオブのモル比(Ti:Nb)が1:2となるよう混合し、懸濁液B1を得た。得られた懸濁液B1を、圧力容器に移し、200℃で1時間、圧力1.6MPaで水熱反応させた。
【0054】
その後、懸濁液B1中の固形分を固液分離し、得られた固形分を、かかる固形分の乾燥質量1質量部に対し、10質量部の水(20℃)で洗浄した後、大気雰囲気下で焼成した。
【0055】
焼成には内壁にリフターがない外熱式のロータリーキルン(外熱キルンともいう)にて均熱板を用いずに、内温850℃帯を滞留時間4時間、充填率が7%となるようにレトルトの回転数と材料投入量を調整して、合成物を得た。この工程は、大気雰囲気下で焼成するので充填層内部まで十分加熱されるよう高温(850℃)としても、異相を含まないチタンニオブ酸化物が得られた。
【0056】
得られた合成物と、該合成物100質量部に対し、炭素原子換算で10質量部のグルコースを水に投入し、濃度40質量%のスラリーを調製した。該スラリーを噴霧乾燥して粉体を得た。かさ密度は0.8g/cm、平均粒径(D50)は20μmであった。
【0057】
炭化処理に用いた雰囲気調整可能なロータリーキルン(窒素を毎分20リットル投入)は、レトルトの内径φ300mm、実効長さ4mである。実効長さ部分は5分割されたヒーターゾーンで囲われており、それぞれ制御用の熱電対が設置されている。傾斜角は1°とした。
【0058】
被処理物としてのチタンニオブ酸化物は10kg/hで投入した。実効長さ部分の滞留時間が3時間になるようにキルンの回転速度を調整した。充填率は約20%であった。
【0059】
得られたチタンニオブ化合物につき、下記の方法によって測定及び評価を行った。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0060】
圧粉体導電率:64MPaの圧力をかけて圧粉体を作製し、4探針法で導電率を測定した。
【0061】
鉱物相の同定:粉末X線構造解析装置D8-ADVANCE(BrukerAXS社製)を用いた。
【0062】
実施例1
均熱部材:芯材22としてφ20mm、長さ100mmのSUS310製の丸棒を用い、均熱板21として厚さ0.5mm、外径180mm、内径80mmのドーナツ状のカーボン板2枚を切断してスパイラル状になるように接続し、芯材22に取り付けた。並べて設置する均熱部材20との接触部が点となるよう、芯材22の一端を半球状に丸めた。均熱部材20は、レトルト10内に20個設置した。レトルト10内の温度は、入口フード11側から熱電対温度が550℃、650℃、700℃、750℃、730℃となるように制御した。
【0063】
比較例1
均熱部材:なし
レトルト10内の温度は、実施例1と同じとした。
【0064】
比較例2
均熱部材:なし
レトルト10内の温度は、入口フード11側から熱電対温度が650℃、750℃、800℃、850℃、830℃となるように制御した。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1は、比較例1に比べ、圧粉体導電率がおよそ2桁向上した。比較例1では、均熱部材なしで処理したため、十分に熱が伝わっていない部分があり、炭化処理が十分に進まなかったためと思われる。
【0067】
なお、比較例2は、圧粉体導電率は実施例1と同程度になったが、チタンニオブ酸化物でない異相が生成してしまった。また、比較例2では、比較例1に比べてレトルト内の温度を高くすることで、比較例1においては熱が十分伝わらなかった部分の温度も上がったため圧粉体導電率は向上したが、熱が十分伝わる部分では温度が上がりすぎたために異相が生成されてしまったものと思われる。
【0068】
なお、ロータリーキルン1は、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。また、ロータリーキルン1は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記した複数の実施形態の各構成や各方法等を任意に採用して組み合わせてもよく、さらに、下記する各種の変形例に係る構成や方法等を任意に一つ又は複数選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0069】
上記実施形態に係るロータリーキルン1においては、均熱部材20の均熱板21が自転軸C2を中心とした螺旋状である、という構成である。しかしながら、ロータリーキルン1は、かかる構成に限られない。
【0070】
<変形例1>
図5は、変形例1に係る均熱部材20の正面図及び側面図である。変形例1に係る均熱部材20は、芯材22と、芯材22に直接固定された円板状の均熱板21と、を有する。変形例1では、自転軸C2の方向から見たとき、均熱部材20は、自転軸C2(芯材22)の周りに中空領域を備えない。
【0071】
<変形例2>
図6は、変形例2に係る均熱部材20の正面図及び側面図である。変形例2に係る均熱部材20は、芯材22と、芯材22の周りに配置されたリング状の均熱板21と、を有する。リング状の均熱板21は、芯材22に対して複数の連結部材23aにより固定される。この例では、連結部材23aは、均熱板21と一体で設けられているが、別部材としてもよい。
【0072】
<変形例3>
図7は、変形例3に係る均熱部材20の正面図及び側面図である。変形例3に係る均熱部材20は、変形例2に係る均熱部材20にピン24を追加したものである。ピン24を設けることで、掻き上げることなく被処理物T1を攪拌することができる。
【0073】
<変形例4>
図8は、変形例4に係る均熱部材20の正面図及び側面図である。変形例4に係る均熱部材20は、芯材22から放射状に延びる第2の均熱板25を備える。第2の均熱板25は自転軸C2に平行に延びる。
【0074】
<変形例5>
図9は、変形例5に係る均熱部材20の正面図及び側面図である。変形例5に係る均熱部材20は、芯材22と、芯材22の周りに配置された複数の羽根状の均熱板21と、を有する。また、複数の均熱板21は、芯材22の軸方向に複数組並べて取り付けられる。複数の均熱板21の取付角度を組ごとに異ならせることで、均熱板21の外周縁21aは、自転軸C2の方向から見て円形状となる。なお、図9では、説明の便宜のため、図面奥の均熱板21の一枚の羽根のみを2点鎖線で示している。
【0075】
上記実施形態に係るロータリーキルン1おいては、ストッパー30が、均熱部材20の芯材22が当たるリング状の当接部材31と、当接部材31をレトルト10の内壁10aに固定するための固定部材32と、を有する、という構成である。しかしながら、ロータリーキルン1は、かかる構成に限られない。
【0076】
<変形例6>
図10は、(a)変形例6に係るロータリーキルン1の縦断面図、(b)レトルト10を軸心方向から見た正面図である。変形例6に係るストッパー30は、均熱部材20の芯材22が当たる半球状のカップ33と、カップ33を出口フード12の内壁12aから吊り下げるための吊り下げ部材34と、を有する。なお、変形例6の場合はキルン内のヒーターブロックにより設定された熱勾配に影響しないよう、芯材22の熱伝導が低い方がよい。そのため芯材22は、細くするか熱伝導率が低い材料を用いるのが望ましい。
【0077】
<変形例7>
上記実施形態に係るロータリーキルン1おいては、複数の均熱部材20をレトルト10の軸心方向に沿って複数配置する例を示したが、かかる構成に限定されない。図11に示すように、芯材22を長くして1つの均熱部材20としてもよい。このとき、芯材22の一端22aをレトルト10の軸方向一端側10bよりも突出させて、出口フード12の側壁に当接するようにすることで、ストッパー30が不要となる。
【0078】
<変形例8>
上記実施形態に係るロータリーキルン1おいては、レトルト10を外部から加熱する外熱式のロータリーキルンの例を示したが、かかる構成に限定されない。ロータリーキルンは、レトルト10の前方に設置されたバーナで加熱する内熱式のロータリーキルン(内熱キルンともいう)でもよい。
【0079】
<変形例9>
上記実施形態に係るロータリーキルン1においては、被処理物T1の流れと反対方向に雰囲気調整ガスAGを流す向流式の例を示したが、かかる構成に限定されない。ロータリーキルン1は、被処理物T1の流れと同じ方向に雰囲気調整ガスを流す並流式でもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 :ロータリーキルン
10 :レトルト
10a :内壁
10b :軸方向一端側
11 :入口フード
12 :出口フード
13 :フィーダー
14 :原料ホッパー
15 :ヒーター
15a :ヒーターブロック
15b :熱電対
16 :制御装置
17 :投入口
20 :均熱部材
21 :均熱板
21a :均熱板の外周縁
22 :芯材
29 :中空領域
30 :ストッパー
AG :雰囲気調整ガス
C1 :レトルトの軸心
C2 :均熱部材の自転軸
D10 :レトルトの内径
D21 :均熱板の外周縁の直径
T1 :被処理物
T2 :加熱処理物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11