(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】微生物または細胞の培養に有用な気体を含有するファインバブル・ウルトラファインバブルが適用される生物反応装置に用いられるマルチノズル
(51)【国際特許分類】
C12M 1/04 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
C12M1/04
(21)【出願番号】P 2020157841
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000176763
【氏名又は名称】三菱ケミカルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【氏名又は名称】小林 均
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【氏名又は名称】林 司
(72)【発明者】
【氏名】国友 信秀
(72)【発明者】
【氏名】新谷 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】樋口 正守
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189812(WO,A1)
【文献】特開昭53-012484(JP,A)
【文献】特開平01-291784(JP,A)
【文献】特開2011-092111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
B01F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物または細胞の培養に有用な気体を含有するファインバブル・ウルトラファインバブルが適用される生物反応装置において用いられるマルチノズルであって、
生物培養液を収容する培養槽から抜き出された生物培養液が供給される下端部、
上記培養槽に接続され、上記培養槽から抜き出された生物培養液を上記培養槽に還流する上端部、
上記下端部に接続され、上記下端部に供給された生物培養液を分流し上記上端部側に搬送する、中心軸に平行に設けられた複数の搬送管路、
上記各搬送管路に接続された、複数の吐出管路、および
上記各吐出管路の上記培養槽側の出口に設けられた、複数の吐出口を備えると共に、
上記各吐出管路または上記各搬送管路に、上記培養槽から抜き出された生物培養液にファインバブル・ウルトラファインバブルを含有させる、ファインバブル・ウルトラファインバブル発生装置を備えており、
上記複数の吐出口から、ファインバブル・ウルトラファインバブルを含有させた、上記培養槽から抜き出された生物培養液を、上記マルチノズルの中心軸の上記培養槽側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出することにより、上記培養槽に収容された生物培養液を撹拌することを特徴とするマルチノズル。
【請求項2】
接続された一対の上記搬送管路および上記吐出管路を含む各平面において、該搬送管路と該吐出管路が成す鋭角側の角度が、90°を超え180°未満であることを特徴とする、請求項1に記載のマルチノズル。
【請求項3】
上記各平面が上記マルチノズルの中心軸を含む平面であることを特徴とする、請求項2に記載のマルチノズル。
【請求項4】
上記各平面が上記マルチノズルの中心軸を含まない平面であり、上記各平面と、上記各搬送管路および上記マルチノズルの中心軸を含む平面が成す鋭角側の角度が0°を超え90°未満であることを特徴とする、請求項2に記載のマルチノズル。
【請求項5】
上記ファインバブル・ウルトラファインバブル発生装置が、
上流側に、上記培養槽から抜き出された生物培養液が流入する入口部が設けられ、下流側に、ファインバブル・ウルトラファインバブルを含有させた該生物培養液を放出する出口部が設けられた筒状体からなる本体と、
上記本体の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続して設けられたスリットと、
上記スリットに接続され、上記スリットに気体を供給する気体供給部と、
を有することを特徴とする、請求項1~
4のいずれかに記載のマルチノズル。
【請求項6】
上記ファインバブル・ウルトラファインバブル発生装置において、上記スリットの、上記本体の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜する角度θが、鋭角であることを特徴とする、請求項
5に記載のマルチノズル。
【請求項7】
上記ファインバブル・ウルトラファインバブル発生装置において、上記スリットが、上記本体に複数段設けられていることを特徴とする、請求項
5または
6に記載のマルチノズル。
【請求項8】
上記ファインバブル・ウルトラファインバブル発生装置において、上記本体が1つの筒状体で形成されており、上記スリットが、一部に接続部を残し、上記1つの筒状体の周面を切削して設けられていることを特徴とする、請求項
5~
7のいずれかに記載のマルチノズル。
【請求項9】
上記ファインバブル・ウルトラファインバブル発生装置において、上記本体が2本以上の筒状体で形成されており、上記スリットが、上記筒状体の接続部に形成されていることを特徴とする、請求項
5~
7のいずれかに記載のマルチノズル。
【請求項10】
上記ファインバブル・ウルトラファインバブル発生装置において、上記出口部付近における上記本体の内径が、下流側に向けて漸次拡張されていることを特徴とする、請求項
5~
9のいずれかに記載のマルチノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物または細胞(以下、「微生物等」ともいう。)の培養に有用な気体を含有するファインバブル・ウルトラファインバブルが適用される生物反応装置に用いられるマルチノズル、より具体的には、培養槽に収容された、培養液と微生物等を含有する生物培養液(以下、「生物培養液」ともいう。)に、微生物等の培養に有用な気体を含むファインバブル・ウルトラファインバブルを含有させる生物反応装置に適用されるマルチノズルに関し、撹拌機を使用することなく、培養槽に収容された生物培養液(以下、「培養槽の生物培養液」ともいう。)を撹拌するために用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
生物反応は、化学反応と異なり、反応自体は遅いが、多大なエネルギーや多くの化学物質を使用しないので、環境にとって温和で有意義な反応である。
【0003】
しかしながら、生物反応は、一般的に反応が遅いという問題がある。すなわち、化学反応は、1時間以内の反応で十分な場合が多いのに対して、生物反応の場合は、数時間から長い場合は数日または特に長い場合数週間以上の反応時間を要する場合もある。このため、生物反応を効率的、経済的に行うことが求められている。
【0004】
本発明者等は、特許文献1~4等において、酸素含有気体のマイクロナノバブルを用いて、微生物等の生物反応を効率的かつ経済的に行うことを提案している。なお、本件の特許請求の範囲および明細書では、従来の「マイクロバブル」、「ナノバブル」を、それぞれ、「ファインバブル」、「ウルトラファインバブル」と称する。
【0005】
しかしながら、特許文献1~4の生物反応装置では、撹拌機を使用して、培養槽の生物培養液を撹拌することから、
a)ストレス・ダメージを受けて、微生物等の活性が低下したり、増殖が阻害されたりする、
b)生物反応前の培地滅菌が行いにくい箇所(撹拌機の回転軸のシール部、回転軸の軸受部、撹拌翼、バッフル・邪魔板等)が生じ、雑菌混入(コンタミネーション)を防止するのが難しい、
c)撹拌機の設置、運転、維持・管理等にコストを要する
等の問題が生じる。
【0006】
特許文献5および6では、撹拌機を使用しない微生物等の培養方法が提案されている。しかしながら、特許文献5では、菌体の流加培養(菌体の増殖に伴って培地の量を増加させる)という特殊な培養において、培養タンク本体内に設けるという特殊な構造を採用して、内筒内外の液の比重差を利用して自然循環流が行われる。また、特許文献6では、細胞の培養を、鉛直な一対の培養筒の下部を連結した反応槽という特殊な反応槽を用いて、両培養筒の下部に接続したガス吹込手段から交互にガスを吹き込んで培養液を撹拌するという特殊な方法で撹拌が行われる。このように、特許文献5および6に開示された撹拌手法は、培養槽内の構造が複雑となり、雑菌の混入防止が困難であることから、一般的な培養槽を用いる生物反応装置では採用できないものである。
【0007】
また、特許文献7には、
図21に示すように、担体201に付着させた細胞202を培養する培養槽203において、培養槽203の培養液中で攪拌流が形成されるように、培養槽203の培養液中に、拡大した吐出口204の内側に整流板205を備えた吐出ノズル206を配置し、該吐出ノズル206からマイクロバブルを含有させた培養液を吐出するようにした付着性細胞培養装置が記載されている。しかしながら、特許文献7の付着性細胞培養装置では、段落[0005]に記載されているように、付着性細胞を培養する場合の特殊事情(攪拌羽を回転させて培養液を攪拌すると、その攪拌羽の機械的なせん断力により担体201から細胞202が剥離してしまう虞がある)に鑑み、上記のような特殊な攪拌手法が採用されているものであり、培養槽203の培養液の攪拌力は小さく、一般的な生物反応装置では採用できないものである。さらに、培養槽203の培養液中に吐出ノズル206等を設けることから、雑菌の混入防止が困難となり、一般的な生物反応装置では採用できないものである。
【0008】
本発明者等は、次の事項を見いだし、本発明をなしたものである。
1)従来の生物反応装置では、撹拌機は、i)培養槽に供給される気体の気泡を細かく剪断する目的、およびii)培養槽の生物培養液を均一に混合する目的で用いられているが、特許文献1~4のような、酸素含有気体のファインバブル・ウルトラファインバブルを用いる生物反応装置では、既に上記i)の目的は十分に達成されていることから、上記ii)の目的が達成できれば、撹拌機を使用する必要性が乏しいこと。
2)上記ii)の目的は、培養槽に還流される、上記ファインバブル・ウルトラファインバブルを含有させた生物培養液を、マルチノズルの中心軸の培養槽側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するように設けられている複数の吐出口を備えたマルチノズルを用いて培養槽に向けて吐出することにより、経済的かつ効率的に達成できること。
3)上記ファインバブル・ウルトラファインバブルに含有させる気体として、特許文献1~4のような<好気性または通性嫌気性微生物等>の培養では酸素を含有する気体が用いられるが、これに限らず、<偏性嫌気性微生物等>の培養では、窒素を含有する気体を用いて、また、天然ガス由来の炭素ガス(炭酸ガス、メタンガス等)から有機物(アミノ酸、有機酸、タンパク質等)を生成する微生物<有機物合成微生物等>の培養では、炭酸ガス、メタンガス等の天然ガス由来の炭素ガスを用いて、同様に、撹拌機を使用することなく培養が行えること。
【0009】
上記1)~3)の着想に基づいて成された本発明のマルチノズルは、微生物等の培養に有用な気体を含有するファインバブル・ウルトラファインバブルが適用される生物反応装置において採用した場合、撹拌機を使用することなく、生物培養液に、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、天然ガス由来の炭素ガス、火力発電所から排出される炭酸ガス等の微生物等の培養に有用な気体(以下、「有用気体」ともいう。)を含有する気体のファインバブル・ウルトラファインバブル(以下、「微細気泡」ともいう。)を含有させた生物培養液を、マルチノズルの中心軸の培養槽側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出できることを特徴とするものであり、これにより、微生物等の活性を低下させずに、上記a)~c)の問題が解決できると共に、撹拌を経済的かつ効率的に行うことができる。
【0010】
本発明のマルチノズルは、特許請求の範囲の請求項1~13で規定した構造を有するものであり、a)培養槽から抜き出されて循環される生物培養液の水流を利用して、有用気体の微細気泡を発生させると共に、b)有用気体の微細気泡を含有させた生物培養液(以下、「微細気泡含有生物培養液」ともいう。)を、複数の吐出口から、マルチノズルの中心軸の培養槽側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出することにより、培養槽の生物培養液を撹拌し、培養槽中の有用気体の微細気泡を始め生物培養液を均一に混合するものである。本発明のノズルは、搬送管路/吐出管路/吐出口を備えたノズルを複数本束ねた構造をしていることから、マルチノズルと称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5985114号公報
【文献】特許第6087476号公報
【文献】特許第6138390号公報
【文献】特許第6499203号公報
【文献】特開平6-327460号公報
【文献】特開2012-115232号公報
【文献】特開2011-120535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明のマルチノズルの課題は、有用気体を含有する気体の微細気泡が適用される生物反応装置に適用した場合、撹拌機を使用せずに培養槽の生物培養液を十分に撹拌でき、微生物等の活性を維持できると共に、撹拌機を使用しないことにより、生物反応装置の培養槽の内部構造を簡素化でき、洗浄性の向上および雑菌汚染の防止を図ることができる、ひいては、撹拌を経済的かつ効率的に行うことのできるマルチノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明のマルチノズルは、生物培養液に、有用気体を含有する気体の微細気泡を含有させる微細気泡発生装置、および培養槽側の出口に設けられた複数の吐出口を備え、複数の吐出口から、微細気泡含有生物培養液を、マルチノズルの中心軸の培養槽側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出することにより、培養槽の生物培養液を撹拌することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のマルチノズルは、上記のように、有用気体を含有する気体の微細気泡を含有する生物培養液を、マルチノズルの中心軸の培養槽側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出することにより、撹拌機を使用せずに、培養槽の生物培養液を十分に撹拌でき、微生物等の活性を維持することができる。
【0015】
さらに、本発明のマルチノズルを微生物等の培養に有用な気体を含有する微細気泡が適用される生物反応装置において採用した場合、上記のように撹拌機を使用する必要がなくなり、生物反応装置の培養槽の内部構造を簡素化でき、洗浄性の向上および雑菌汚染の防止を図ることができる。
【0016】
そして、撹拌機を使用しないことにより、a)微生物等がストレス・ダメージを受け微生物等の活性が低下したり、増殖が阻害されたりする、b)生物反応前の滅菌が行いにくい箇所(撹拌機の回転軸のシール部、回転軸の軸受部、撹拌翼、バッフル・邪魔板等)が生じ雑菌混入(コンタミネーション)を防止するのが難しい、c)撹拌機の設置、運転、維持・管理等にコストを要する等の従来の問題を解決することができる。
【0017】
このように、撹拌機を使用せず本発明のマルチノズルを用いることにより、培養槽の生物培養液の撹拌を、経済的かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のマルチノズルの概要を示す断面模式図である。
【
図2】
図1のX-X’断面を示す断面模式図である。
【
図4】本発明のマルチノズルにおける搬送管路と吐出管路が成す鋭角側の角度を説明するための模式図である。
【
図5】本発明のマルチノズルにおける搬送管路と吐出管路が成す鋭角側の角度を説明するための模式図である。
【
図6】本発明のマルチノズルが適用された生物反応装置の第1実施形態の概要を示す模式図である。
【
図7】本発明のマルチノズルが適用された生物反応装置の第2実施形態の概要を示す模式図である。
【
図8】本発明のマルチノズルが適用された生物反応装置の第3実施形態の概要を示す模式図である。
【
図9】本発明のマルチノズルで用いられる微細気泡発生装置の概要を示す断面模式図である。
【
図10】本発明のマルチノズルで好適に用いられる微細気泡発生装置の第1例を示す外観模式図である。
【
図11】
図10の微細気泡発生装置の作動状態を示す断面模式図である。
【
図13】気体供給部を設けた、
図10の微細気泡発生装置の外見を示す模式図である。
【
図14】本発明のマルチノズルで好適に用いられる微細気泡発生装置の第2例を示す断面模式図である。
【
図15】本発明のマルチノズルで好適に用いられる微細気泡発生装置の第3例を示す断面模式図である。
【
図16】本発明のマルチノズルで好適に用いられる微細気泡発生装置の第4例を示す断面模式図である。
【
図17】従来の微細気泡発生装置の外観を示す模式図である。
【
図18】従来の微細気泡発生装置の断面を示す模式図である。
【
図19】
図18における、II-II断面を示す模式図である。
【
図20】従来の撹拌機を用いた生物反応装置を示す模式図である。
【
図21】特許文献7の付着性細胞培養装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面も参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
<本発明のマルチノズルの一般的事項>
まず、本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置の一般的事項について説明する。
【0021】
本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置は、[好気性または通性嫌気性微生物等]の培養に好適に用いることができる。具体的には、醸造、発酵等による食品、薬品、化学品等の製造、バイオマスを利用したバイオエタノールの製造等の微生物等による反応生成物の製造のみならず、微生物等の増殖にも適用できる。[好気性または通性嫌気性微生物等]を培養する場合には、有用気体として酸素を含有する気体が用いられる。
【0022】
[好気性または通性嫌気性微生物等]を用いた生物反応は、培養槽に収容した微生物等を含有する培養液中において、培養液を栄養源として、微生物等に反応生成物を生成させたり、微生物等を増殖させるものである。
【0023】
[好気性または通性嫌気性微生物等]の培養液としては、糖類、窒素源が含有されたものを用いる。糖類としては、通常、マルトース、スクロース、グルコース、フルクトース、これらの混合物等の糖類、エタノール等が用いられ、培養液における糖類の濃度は、特に限定されないものの、0.1~10w/v%とするのが好ましい。また、窒素源としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムまたはコーンスティープリカー、酵母エキス、肉エキス、ペプトン等が用いられ、0.1~10w/v%とするのが好ましい。さらに、培養液には糖類、窒素源以外にも、必要に応じて、ビタミン、無機塩類等を添加することが好ましい。
【0024】
[好気性または通性嫌気性微生物等]としては、醸造、発酵等の技術分野で従来用いられている、アスペルギルス菌等の麹菌、納豆菌、酢酸菌、酵母菌、乳酸菌等の好気性および通性嫌気性の微生物のほか、遺伝子組み換え技術で創り出される各種好気性および通性嫌気性の微生物を用いることができる。また、細胞としては、例えば、抗体医薬として使用される生理活性ペプチドまたは蛋白質を製造するための動物細胞、とりわけ遺伝子組換え動物細胞等が挙げられる。
【0025】
さらに、本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置は、ビフィズス菌等の大気レベルの濃度の酸素に暴露することにより生育が阻害される[偏性嫌気性微生物等]の培養にも用いることができる。[偏性嫌気性微生物等]を培養する場合には、有用気体として窒素が用いられる。
【0026】
さらに、本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置は、天然ガス由来の炭素ガス(炭酸ガス、メタンガス)、火力発電所から排出される炭酸ガス等から、アミノ酸、有機酸、タンパク質等の有機物を生成する[有機物合成微生物等]の培養にも用いることができる。[有機物合成微生物等]を培養する場合には、有用気体として、天然ガス由来の炭素ガス、火力発電所から排出される炭酸ガス等が用いられる。
【0027】
<本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置において用いられる微細気泡>
次に、本発明のマルチノズル、および、本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置において用いられる微細気泡について説明する。
【0028】
本発明のマルチノズル、および、本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置において用いられる「ファインバブル・ウルトラファインバブル」(微細気泡)とは、「ファインバブル」および/または「ウルトラファインバブル」を意味する。「通常の気泡」は水中を急速に上昇して表面で破裂して消えるのに対し、「ファインバブル」といわれる直径100μm以下の微小気泡は、水中で縮小していって消滅し、この際に、フリーラジカルと共に、直径1μm以下の極微小気泡である「ウルトラファインバブル」を発生し、この「ウルトラファインバブル」は比較的長時間水中に残存する。
【0029】
本発明のマルチノズル、および、本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置においては、個数平均直径が100μm以下の気泡を「ファインバブル」といい、個数平均直径が1μm以下の気泡を「ウルトラファインバブル」という。「ファインバブル・ウルトラファインバブル」(微細気泡)の気泡径を測定する方法としては、画像解析法、レーザー回折散乱法、電気的検知帯法、共振式質量測定法、光ファイバープローブ法等が一般に用いられ、ナノバブルの気泡径を測定する方法としては、動的光散乱法、ブラウン運動トラッキング法、電気的検知帯法、共振式質量測定法等が一般に用いられている。
【0030】
<本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置の特徴>
まず、従来用いられている、酸素含有気体の微細気泡を含有させて微生物等を培養する生物反応装置について説明する。
【0031】
図20に示すように、従来の生物反応装置では、培養槽ポンプ101により培養槽102から生物培養液103を抜き出し、酸素含有気体aが供給される微細気泡発生装置104により酸素含有気体aの微細気泡を含有させて、培養槽102に還流すると共に、撹拌機105により培養槽102中の生物培養液103を撹拌している。また、培養槽ポンプ101と微細気泡発生装置104との間にろ過器(図示せず)を配置して、培養槽102から抜き出した生物培養液103から分離したろ過液を、微細気泡発生装置104に供給することも行われている。
【0032】
本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置は、
図6の第1実施形態のように、生物培養液1を収容する培養槽2、培養槽ポンプ3等により生物培養液1を培養槽2から抜き出す抜出管路4を備えており、マルチノズル5は、抜出管路4と培養槽2との間に配され、生物培養液1を培養槽2に還流する。マルチノズル5は、生物培養液1に、有用気体を含有する気体Aの微細気泡を含有させる微細気泡発生装置5-1、および培養槽2側の出口に設けられた複数の吐出口5-2を備えており、複数の吐出口5-2が、微細気泡含有生物培養液を、マルチノズル5の中心軸Bの培養槽2側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するように設けられていることを特徴とするものである。
【0033】
<本発明のマルチノズルの設置>
本発明のマルチノズルは培養槽2の外側に設置されるが、培養槽2に収容された生物培養液1が適切に撹拌できるように、実験、シュミュレーション等により、マルチノズルの個数、マルチノズルの設置位置等の設定できる。例えば、
図6の第1実施形態のように縦型培養槽2の底部にマルチノズル5を1個設置することもできるし、
図7の第2実施形態のように縦型培養槽2の側面部にマルチノズル5を1個設置することもできるし、また、
図8の第3実施形態のように横型培養槽2の底部にマルチノズル5を複数個設置することもできる。
【0034】
本発明のマルチノズルが設置される培養槽の形状としては、一般に用いられている円筒形、立方体形、直方体形のものを用いることができるが、撹拌を均一・均質に行う観点からは、円筒形のものが好ましい。
【0035】
また、本発明のマルチノズルが設置される培養槽としては、
図6の第1実施形態および
図7の第2実施形態のような縦型培養槽、または、
図8の第3実施形態のような横型培養槽が挙げられるが、横型培養槽が好ましい。
図8の第3実施形態のような横型培養槽に設置することにより、培養槽2に収容された生物培養液1が適切に撹拌できるように、実験、シュミュレーション等により、マルチノズル5の個数、マルチノズル5の設置位置等の設計を行う際の選択肢を増やすことができ、望ましい撹拌状態を実現しやすくなる。また、生物培養液1の単位体積当たりに供給される微細気泡の量を一定とすると、横型培養槽を用いた場合には、生物培養液1の表面当たりの微細気泡の量を小さくできるため、生物培養液1の表面に形成される泡の厚みを小さくすることができる。
【0036】
<マルチノズルの設置数>
本発明のマルチノズル5は、培養槽2に複数個設けることが好ましい。マルチノズル5を複数個設けることにより、培養槽2に収容された生物培養液1が適切に撹拌できるように、実験、シュミュレーション等により、マルチノズルの個数、マルチノズルの設置位置等の設計を行う際の選択肢を増やすことができ、望ましい撹拌状態を実現しやすくなる。さらに、複数個のマルチノズルから吐出される、微細気泡含有生物培養液の吐出量を、複数個のマルチノズルにおいてそれぞれ独立して調整することにより、望ましい撹拌状態を実現するために設計を行う際の選択肢を更に増やすことができる。
【0037】
このように、本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置では、有用気体を含有する気体Aの微細気泡含有生物培養液を、培養槽2に還流する際に、マルチノズル5の中心軸Bの培養槽2側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出することにより、撹拌機を使用することなく、微生物等の活性が維持できる生物反応装置および生物反応方法を提供することができる。そして、撹拌機を使用しないことにより、a)微生物等がストレス・ダメージを受け微生物等の活性が低下したり、増殖が阻害されたりする、b)生物反応前の滅菌が行いにくい箇所(撹拌機の回転軸のシール部、回転軸の軸受部、撹拌翼、バッフル・邪魔板等)が生じ雑菌混入(コンタミネーション)を防止するのが難しい、c)撹拌機の設置、運転、維持・管理等にコストを要する等の従来の問題を解決することができる。さらに、培養槽内面にバッフル・邪魔板等の部材を設ける必要がないことから、培養槽内面にテフロン加工(テフロン:登録商標)を施し、汚れの付着防止、雑菌混入(コンタミネーション)のリスク低減を図ることができる。このように、撹拌機を使用せずマルチノズルを用いることにより、培養槽の生物培養液の撹拌を、経済的かつ効率的に行うことができる。
【0038】
本発明のマルチノズルが適用される生物反応装置では、抜出管路4とマルチノズル5との間に、培養槽2から抜き出した生物培養液1を、ろ過液とろ過液を除いた生物培養液とに分離するろ過器を配置し、このろ過液を、マルチノズル5に供給することができる。このように、微生物等を除いたろ過液に有用気体を含有する気体Aの微細気泡を含有させ、マルチノズル5の吐出口5-2から吐出することにより、微生物等が受けるストレス・ダメージを低減することができる。ろ過液を除いた生物培養液は、回収されるか、または、別の管路を通じて培養槽2に還流される。
【0039】
<本発明のマルチノズルの好適な態様>
次に、本発明のマルチノズルの好適な態様について、
図1~
図5を用いて説明する。
【0040】
好適なマルチノズル5としては、
図1に示すように、
1)抜出管路4に接続された下端部5-3、
2)培養槽2に接続された上端部5-4、
3)下端部5-3に供給された生物培養液1を分流し、上端部5-4側に搬送する、ノズルの中心軸Bに沿って設けられた複数の搬送管路5-5、
4)各搬送管路5-5に接続された、複数の吐出管路5-6、および
5)各吐出管路5-6の培養槽2側の出口に設けられた、複数の吐出口5-2
を備えており、複数の吐出口5-2が、微細気泡含有生物培養液を、マルチノズル5の中心軸Bの培養槽2側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するように設けられていることを特徴とする。
【0041】
マルチノズル5の複数の吐出口5-2は、上記のように、通常は、微細気泡含有生物培養液を、マルチノズル5の中心軸Bの培養槽2側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するように設けられるが、複数の吐出口5-2が培養槽2の壁面より内側に突出して設置される場合には、微細気泡含有生物培養液を、中心軸Bの培養槽2側方向に対して90°を超え180°未満となる方向に吐出することもできる。このように、微細気泡含有生物培養液を中心軸Bの培養槽2側方向に対して90°を超え180°未満となる方向に吐出すると、培養槽2の内壁面に微細気泡含有生物培養液が衝突する、微細気泡の浮上を抑制する等の作用が生じることから、培養槽2に収容された生物培養液1を適切に撹拌するための設計を行う際の選択肢を増やすことができる。
【0042】
図2は、
図1のX-X’断面を示す断面模式図であるが、このように、複数の搬送管路5-5は、マルチノズル5の中心軸Bに沿って設けられる。また、
図3は、
図1の左端面を示す外観模式図であるが、このように、複数の吐出口5-2は、マルチノズル5の中心軸Bに対して対称的に、上端部5-4の周囲に沿って配置されるのが好ましい。
【0043】
図1には、微細気泡発生装置5-1を図示していないが、微細気泡発生装置5-1の設置の態様としては、
a)下端部5-3と搬送管路5-5の間に、1つの微細気泡発生装置5-1を設ける態様、
b)各吐出管路5-6に、それぞれ微細気泡発生装置5-1を設ける態様、または
c)各搬送管路5-5に、それぞれ微細気泡発生装置5-1を設ける態様
を採用することができる。
【0044】
上記a)の態様は、設置、維持等のコストの観点から好ましく、上記b)およびc)の態様は、各吐出口5-2から吐出される生物培養液1の微細気泡量を個別に調整できる観点から好ましい。
【0045】
<微細気泡含有生物培養液の吐出>
本発明のマルチノズルでは、複数の吐出口は、微細気泡含有生物培養液を、マルチノズルの中心軸の培養槽側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するように設けられている。これにより、複数の吐出口から吐出される微細気泡含有生物培養液により、撹拌機を使用することなく、培養槽の生物培養液を十分に撹拌でき、微生物等の活性を維持することができる。
【0046】
微細気泡含有生物培養液を、マルチノズル5の中心軸Bの培養槽2側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出するために、接続された一対の搬送管路5-5および吐出管路5-6の位置関係を次のように設定することができる。
【0047】
[位置関係A]
図4および
図5に示すように、接続された一対の搬送管路5-5および吐出管路5-6を含む各平面Cにおいて、搬送管路5-5と吐出管路5-6が成す鋭角側の角度αを90°を超え180°未満に設定する。
【0048】
この位置関係Aにより、各吐出口5-2から吐出される、微細気泡含有生物培養液の方向を、マルチノズル5の中心軸Bから遠ざかる多方向として、培養槽2に収容された生物培養液1を撹拌することができる。
【0049】
吐出口5-2の数をn個とすると、接続された搬送管路5-5および吐出管路5-6の各対1~nにおける角度α1~αnは、90°を超え180°未満の範囲において個別に適宜設定することができる。
【0050】
[位置関係B]
図5に示すように、接続された一対の搬送管路5-5および吐出管路5-6を含む各平面Cと、各平面Cに含まれる搬送管路およびマルチノズルの中心軸Bを含む平面Dが成す鋭角側の角度βを0°を超え90°未満に設定する。
【0051】
この位置関係Bにより、各吐出口5-2から吐出される、微細気泡含有生物培養液の方向を、中心軸Bを中心とする多方向として、培養槽2に収容された生物培養液1を撹拌することができる。
【0052】
吐出口5-2の数をn個とすると、平面Cとこれに対応する平面Dはn対存在するが、各対における角度β1~βnは、0°を超え90°未満の範囲において個別に適宜設定することができる。
【0053】
上記角度α1~αnおよび角度β1~βnは、培養槽2の形状、吐出口5-2の個数・設置位置等に応じて、培養槽2に収容された生物培養液1が適切に撹拌できるように、実験、シュミュレーション等により適宜設定することができる。
【0054】
<マルチノズルに設けられる微細気泡発生装置>
本発明のマルチノズルで用いる微細気泡発生装置としては、公知または市販されている、水流方式の微細気泡発生装置を用いることができる。
【0055】
水流方式の微細気泡発生装置としては、
図9に示すようなものが挙げられる。この微細気泡発生装置6では、圧をかけた状態で微細気泡発生装置6の入口部6-1から生物培養液を供給し、管路の径を絞って流速を上げながら、のど部6-2で乱流を発生させる。この状態で、有用気体を含有する気体Aを気体入口6-3から供給し、吸引部6-4において生物培養液と混合し、水流により微細気泡となり、出口部6-5から、有用気体を含有する気体Aの微細気泡を含有する生物培養液が排出される。
【0056】
<本発明のマルチノズルで好適に用いられる微細気泡発生装置>
本発明のマルチノズルでは、
図10~
図13に示す第1例、
図14に示す第2例、
図15に示す第3例、および
図16に示す第4例のような微細気泡発生装置6を好適に用いることができる。
【0057】
図17~
図18に示すような従来の微細気泡発生装置6では、筒状体からなる本体6-6内を流れる液体に対して、本体6-6の中心軸に垂直な面に沿って、側面に設けられた複数の空気噴出口9から吹き込まれた気体は、気体の複数の帯G’を形成して本体6-6の内面に沿って流れ出口部6-5付近で微細気泡H’となるため、微細気泡の生成効率が悪く、液体の微細気泡含有率を効率良く十分に高めることは難しい。
【0058】
一方、
図10~
図13に示す第1例、
図14に示す第2例、
図15に示す第3例、および
図16に示す第4例のような微細気泡発生装置6では、
図11および
図12に示すように、本体6-6内を流れる液体に対して、本体6-6の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続して設けられたスリット7から吹き込まれた気体は、本体6-6の内面に沿って気体の連続する幅広の薄層G(以下、「薄層G」ともいう。)を形成して本体6-6の内面に沿って流れ、微細気泡Hが徐々に形成されると共に、出口部6-5付近で多量の微細気泡Hが形成されるため、微細気泡の生成効率を向上させ、液体の微細気泡含有率を効率良く十分に高めることができる。さらに、薄層Gが、微生物等が微細気泡発生装置6の内面に衝突するのを防止するクッションの役割を果たすため、微生物等がストレス・ダメージを受けたりするのを低減することができる。
【0059】
微細気泡発生装置6の本体6-6の筒状体6-6aの断面形状は、円形または矩形とすることができるが、円形とするのが好ましい。断面形状を円形とすることにより、薄層Gの厚さを均等なものとでき、液体の微細気泡含有率を効率良く高められる傾向にある。本体6-6の筒状体6-6aの断面形状は、
図12に示すように真円形であってもよいし、略真円形または楕円形であってもよい。
【0060】
なお、微細気泡発生装置6において、スリット7は、「本体6-6の中心軸に垂直な面(以下、「垂直面」ともいう。)に沿って設けられる」が、これは、垂直面に大凡沿って設けられることを意味する。また、微細気泡発生装置6において、スリット7は、「本体6-6の側面に連続して設けられる」が、後で述べるように、本体6-6を1本の筒状体6-6aで形成するような場合、スリット7を設けることにより本体6-6が分離しないように、一部に接続部を残すこともできる。
【0061】
また、筒状体6-6aからなる本体6-6には、その中心軸に沿って棒状体、好ましくは断面形状が円形の棒状体を配することが好ましい。これにより、本体6-6への液体の供給量が同じであっても、本体6-6内を流れる液体の流速(以下、「液体の流速」ともいう。)を高くできるので、薄層Gを安定的に形成することができ、また、ファインバブル乃至ウルトラファインバブルの微細気泡を含有する液体を効率良く生成することができる。
【0062】
微細気泡発生装置6において、薄層Gを円滑に形成するためには、
1)液体の流速、および
2)本体6-6内の液体の流れに直交する方向への、スリット7から吹き込まれる気体の流速(以下、「気体の流速」ともいう。)
のバランスを適切なものとすることが必要である。液体の流速に比べ気体の流速が大きすぎる場合には、本体6-6の中心軸近くまで気体が吹き込まれ、薄層Gを形成するのが困難となる。一方、液体の流速に比べ気体の流速が小さすぎる場合には、液体がスリット7から本体6-6の外部に漏れ出すこととなる。
【0063】
<気体供給部>
図13に示すように、本発明において用いられる微細気泡発生装置6においては、スリット7に加圧された気体(例えば、加圧された空気および/または酸素)を供給する気体供給部8が接続される。好適には、気体供給部8は、スリット7を囲むように、本体6-6の外部に気密に設けられる。
【0064】
気体供給部8に供給される気体の圧力(以下、「気体の圧力」ともいう。)は、基本的には、液体がスリット7から本体6-6の外部に漏れ出さないようにするために、本体6-6内を流れる液体の圧力よりも高くすることが好ましい。
【0065】
一方、気体の圧力を高くするとこれに伴い気体の流速が大きくなるため、気体の圧力を高くしすぎると、液体の流速に比べ気体の流速が大きくなりすぎ、薄層Gを形成するのが困難となる傾向にある。
【0066】
気体の圧力は、これらの要素を考慮して適切な値を設定することができるが、通常は、液体がスリット7から本体6-6の外部に漏れ出さない圧力(例えば、1.5atm)を下限値とし、3.0atmを上限値とするのが好ましい。
【0067】
<スリット>
微細気泡発生装置6のスリット7は、
図10~11および
図14~16に示すように、本体6-6の中心軸に垂直な面に沿って、側面に連続して設けられた細孔である。
【0068】
スリット7の間隙は、液体の流速、気体の流速、気体の圧力も考慮して、薄層Gを形成できる適切な値を設定することができる。
【0069】
また、スリット7の間隙は、狭すぎると微細気泡Hの生成効率が低下し、広すぎると出口部6-5付近で薄層Gから微細気泡Hが形成されにくくなるので、これらの要素も考慮して適切な値を設定することができる。
【0070】
スリット7の間隙は、これらの要素を考慮して適切な値を設定することができるが、通常は0.5mm~2.0mm、好ましくは0.5mm~1.5mm、より好ましくは0.5mm~0.8mmの範囲に設定することができる。
【0071】
液体の微細気泡含有率を効率良く高めるためには、気体の流速を大きくして気体の吹き込み量を増加することが好ましいが、一方で、上記<マルチノズルに設けられる微細気泡発生装置>で説明したように、気体の流速を液体の流速に比べて大きくするに伴い、薄層Gを形成するのが困難となる。
【0072】
上記の「液体の微細気泡含有率の向上」と「薄層Gの安定的な形成」とを両立させるためには、
図14に示す第2例、
図15に示す第3例、および
図16に示す第4例の微細気泡発生装置のように、スリット7を本体6-6の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜させることが好ましい。これにより、気体の流速自体を大きくしても、薄層Gの形成を妨げる、本体6-6内の液体の流れに直交する方向への気体の流速を低減できる作用が生じる。本体6-6の中心軸に垂直な面に対して上流側に傾斜する角度θ(以下、「傾斜角度θ」ともいう。)は、液体の流速、気体の流速等に応じて薄層Gを安定的に形成できるように鋭角とすることができる。傾斜角度θは、上記作用を考慮して、0°以上80°以下とするのが好ましく、60°以上80°以下とするのがより好ましく、70°以上80°以下とするのがさらに好ましい。
【0073】
また、上記の「液体の微細気泡含有率の向上」と「薄層Gの安定的な形成」とを両立させるためには、スリット7を本体6-6に複数段設けることも好ましい。これにより、気体の流速自体を大きくしなくても、気体の吹き込み量を増加することができる。スリット7の段数は、気体の吹き込み量を増加する観点からは多い方が好ましいが、多すぎるとノズルの構造が複雑になり製造コスト・メンテナンスコストが高くなることから、これらの要素を考慮して適宜設定することができる。スリット7の段数は、通常、1~3段とするのが好ましい。
【0074】
<スリットの形成>
スリット7は、
図10~
図13に示す第1例のように、本体6-6を1本の筒状体6-6aで形成し、一部に接続部を残して筒状体の周面を切削して形成することもできるし、また、
図14に示す第2例、
図15に示す第3例、および
図16に示す第4例のように、本体6-6を2本以上の筒状体6-6b、6-6c等で形成し、これらの筒状体6-6b、6-6c等の接続部に形成することもできる。
【0075】
図14に示す第2例では、本体6-6を2本の断面形状が円形の筒状体6-6b、6-6cで形成し、これらの筒状体6-6b、6-6c等の接続部に傾斜角度θのスリット7を形成しているが、この第2例では、断面積の小さいスリット7が長くなることに伴い、スリット7の洗浄がやりにくくなる、本体6-6内に供給される気体の圧力が圧力損失により低下する等の懸念がある。
【0076】
図15に示す第3例は、上記懸念を解消するものであり、断面形状が円形の筒状体6-6cにおいて、断面形状が円形の筒状体6-6bとの接続部の先端部を切除することにより、スリット7の長さを短くしたものである。これにより、スリット7の洗浄を容易にし、本体6-6内に供給される気体の圧力損失を低減することができる。
【0077】
<出口部>
図11に示すように、出口部6-5付近で、薄層Gが本体6-6の内面から離れて微細気泡Hが形成されるが、薄層Gが本体6-6の内面から離れやすくするために、出口部6-5付近における本体6-6の内径を、下流側に向けて漸次拡張することができる。
【0078】
また、
図16に示す第4例のように、出口部6-5付近の本体6-6の内面に凹凸を形成し、液体の流れに乱流を生じさせることにより、微細気泡Hの形成を促進することができる。本体6-6の内面に凹凸を形成する手段としては、本体6-6の内面を切削して凹部を形成する手段、本体6-6の内面にコイル状の部材を接合して凸部を形成する手段等が挙げられる。
【0079】
<その他>
微生物等の培養に有用な気体として酸素を用いる場合、微細気泡の酸素含有率の上限値は60%未満であり、55%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、45%以下が最も好ましい。微細気泡の酸素含有率を60%以上と過度に大きくすると、酸素の酸化作用により微生物等が受けるストレス・ダメージが大きくなってしまう。また、微細気泡の酸素含有率の下限値は23%以上であり、25%以上が好ましく、27%以上がより好ましく、30%以上が最も好ましい。微細気泡の酸素含有率を23%未満と過度に小さくすると、溶存酸素濃度が低下し、微生物等微生物等の活性を高めることが困難となる。酸素含有率を高めた微細気泡を形成する気体を得るためには、通常、吸着剤を用いたPSA法、VSA法等、水の電気分解法、深冷分離法、膜分離法、化学吸着法等の公知の酸素富化手段を用いて気体の酸素含有率を高めることが好ましく、経済的観点からは、酸素富化膜を用いるのが好ましい。
【0080】
また、生物培養液を培養槽から抜き出すための培養槽ポンプとして、微生物等に与えるストレス・ダメージが比較的少ないチューブポンプ、ダイアフラムポンプ、スクリューポンプ、ロータリーポンプ等の容積式ポンプを好適に用いることができる。
【0081】
また、本発明のマルチノズルの素材としては、耐食性に優れるステンレス、チタン等の金属、耐熱性・耐薬品性に優れるテフロン(登録商標)等の合成樹脂を用いることが好ましい。
【0082】
<まとめ>
以上に説明したように、本発明のマルチノズルでは、有用気体を含有する気体の微細気泡を含有する生物培養液を、マルチノズルの中心軸の培養槽側方向に対して0°~90°となる多方向に吐出することにより、撹拌機を使用せずに、培養槽の生物培養液を十分に撹拌でき、微生物等の活性を維持することができる。
【0083】
さらに、本発明のマルチノズルを適用した生物反応装置では、撹拌機を使用しないことにより、生物反応装置の培養槽の内部構造を簡素化でき、洗浄性の向上および雑菌汚染の防止を図ることができる。そして、撹拌機を使用しないことにより、a)微生物等がストレス・ダメージを受け微生物等の活性が低下したり、増殖が阻害されたりする、b)生物反応前の滅菌が行いにくい箇所(撹拌機の回転軸のシール部、回転軸の軸受部、撹拌翼、バッフル・邪魔板等)が生じ雑菌混入(コンタミネーション)を防止するのが難しい、c)撹拌機の設置、運転、維持・管理等にコストを要する等の問題を解決することができる。
【0084】
このように、撹拌機を使用せずマルチノズルを用いることにより、培養槽の生物培養液の撹拌を、経済的かつ効率的に行うことができる。
【符号の説明】
【0085】
1 (培養液、微生物等を含有する)生物培養液
2 培養槽
3 培養槽ポンプ
4 抜出管路
5 マルチノズル
5-1 ファインバブル・ウルトラファインバブル(微細気泡)発生装置
5-2 (複数の)吐出口
5-3 下端部
5-4 上端部
5-5 (複数の)搬送管路
5-6 (複数の)吐出管路
6 微細気泡発生装置
6-1 入口部
6-2 のど部
6-3 気体入口
6-4 吸引部
6-5 出口部
6-6 本体
6-6a 筒状体
6-6b 筒状体
6-6c 筒状体
7 スリット
8 気体供給部
9 空気噴出口
A 有用気体を含有する気体
B (マルチノズルの)中心軸
C 接続された一対の搬送管路および吐出管路を含む各平面
D 各平面Cに含まれる搬送管路およびマルチノズルの中心軸Bを含む平面
E 幅広の薄層
F 微細気泡
G (本体の内面に沿って形成される)気体の連続する幅広の薄層
G’ (本体の内面に沿って形成される)気体の複数の帯
H 微細気泡
H’ 微細気泡
α 各平面Cにおいて、搬送管路と吐出管路が成す鋭角側の角度
β 各平面Cと、各平面Cに含まれる搬送管路およびマルチノズルの中心軸Bを含む平面Dが成す鋭角側の角度
101 培養槽ポンプ
102 培養槽
103 生物培養液
104 微細気泡発生装置
105 撹拌機
a 酸素含有気体
201 担体
202 細胞
203 培養槽
204 吐出口
205 整流板
206 吐出ノズル
θ 傾斜角度