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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】補正システム、補正装置及び補正方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/16 20160101AFI20240830BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20240830BHJP
   H02K 7/116 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H02P6/16
F16H1/32 B
H02K7/116
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020170998
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2022062842
(43)【公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】盧 佳晨
(72)【発明者】
【氏名】横井 昭佳
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-050710(JP,A)
【文献】特開2012-092933(JP,A)
【文献】特開2006-64668(JP,A)
【文献】特開2019-157998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
F16H 1/32
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波動歯車減速機を駆動するアクチュエータの回転位置を検出する回転位置検出器と、
前記波動歯車減速機の出力側に加わるトルクを検出するセンサと、
前記波動歯車減速機に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性及び前記センサにより検出されたトルクに基づいて、当該トルクの変動範囲でのヒステリシス特性を算出して当該波動歯車減速機の出力側に生じるねじれ角を算出する演算部と、
前記回転位置検出器により検出された回転位置及び前記演算部により算出されたねじれ角に基づいて、前記アクチュエータを制御する制御部と
を備えた補正システム。
【請求項2】
前記演算部は、前記センサにより検出されたトルクの変動範囲と定格トルクの範囲との比率から、前記波動歯車減速機に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性に相似する当該トルクの変動範囲でのヒステリシス特性を算出し、当該トルクの変動範囲でのヒステリシス特性及び当該センサにより検出されたトルクからねじれ角を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の補正システム。
【請求項3】
前記演算部は、前記センサにより検出されたトルクの増減方向に基づいて、ねじれ角を算出する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の補正システム。
【請求項4】
波動歯車減速機に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性、及び、前記波動歯車減速機の出力側に加わるトルクを検出するセンサにより検出されたトルクに基づいて、当該波動歯車減速機の出力側に生じるねじれ角を算出する演算部と、
前記波動歯車減速機を駆動するアクチュエータの回転位置を検出する回転位置検出器により検出された回転位置、及び、前記演算部により算出されたねじれ角に基づいて、前記アクチュエータを制御する制御部と
を備えた補正装置。
【請求項5】
演算部が、波動歯車減速機に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性、及び、前記波動歯車減速機の出力側に加わるトルクを検出するセンサにより検出されたトルクに基づいて、当該トルクの変動範囲でのヒステリシス特性を算出して当該波動歯車減速機の出力側に生じるねじれ角を算出するステップと、
制御部が、前記波動歯車減速機を駆動するアクチュエータの回転位置を検出する回転位置検出器により検出された回転位置、及び、前記演算部により算出されたねじれ角に基づいて、前記アクチュエータを制御するステップと
を有する補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、波動歯車減速機の位置誤差を補正する補正システム、補正装置及び補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車減速機に対し、入力側(ウェーブジェネレータ)を固定し、出力側(フレクスプライン)にトルクを加えると、出力側に、トルクに比例したねじれが生じる。そして、図5に示すように、このトルクを定格まで加えた後にゼロに戻すと、内部摩擦の影響等により、ねじれは完全にはゼロにならずに僅かに残る。これをヒステリシスロスと呼ぶ。ねじれ角は、波動歯車減速機における位置誤差の原因となる。また、ねじれ角とトルクとの関係を表したものがねじれ剛性(ばね係数)であり、トルク領域によって3つに区分されて表されている。なお図5では、0,+T,0,-T,0,+Tの順で値を変化させながらトルクを加えた場合を示しており、0,A,B,A’,B’,Aの順にねじれ角が変化することが示されている。また図5においてHLはヒステリシスロスを示している。
【0003】
そして、従来、上記のねじれ角による位置誤差に対し、以下のような対策が実施されている(例えば特許文献1,2参照)。例えば、トルクにより生じるねじれ角を事前に測定し、又は、当該ねじれ角を示す特性(ヒステリシス特性)を波動歯車減速機の製造メーカから取得し、位置誤差の補正を行う(第1の対策)。また例えば、波動歯車減速機の出力側に角度回転位置検出器を取付け、この角度回転位置検出器によって位置を直接検出し、位置誤差の補正を行う(第2の対策)。また例えば、波動歯車減速機を駆動するアクチュエータのモータ電流値から出力トルクを推定し、位置誤差の補正を行う(第3の対策)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-164879号公報
【文献】特開2018-36097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第1の対策では、例えば図6に示すようなヒステリシス特性が取得可能である。図6に示されるヒステリシス特性は、図5に示される内容と同様の内容を示している。図6において、符号601はヒステリシス特性を示している。また、符号602はばね係数(理論線)を示している。また、Tは定格トルクを示している。このヒステリシス特性から、波動歯車減速機の出力側に加わるトルク(停止時トルク)がわかれば、当該出力側に生じるねじれ角も把握可能である。しかしながら、このヒステリシス特性は、波動歯車減速機の出力側に対してトルクが定格まで加えられた場合での特性を示している。そして、波動歯車減速機の出力側に対してトルクが定格まで加えられていない場合、ヒステリシス特性は変わる。そのため、第1の対策では、正確にねじれ角による位置誤差の量を推定できない場合がある。
【0006】
また、第2の対策では、高価な高分解能の角度回転位置検出器が必要であり、また、設置場所及び校正等の理由により角度回転位置検出器を設けることが困難な場合がある。
また、第3の対策では、モータ電流値が、電気ノイズ、ジュール熱、及び、モータトルク定数の温度特性等の影響を受け易く、推定精度が低い。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、波動歯車減速機の出力側に対してトルクが定格まで加えられていない場合でも、従来構成に対して簡易且つ高精度に、波動歯車減速機の位置誤差を補正可能な補正システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る補正システムは、波動歯車減速機を駆動するアクチュエータの回転位置を検出する回転位置検出器と、波動歯車減速機の出力側に加わるトルクを検出するセンサと、波動歯車減速機に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性及びセンサにより検出されたトルクに基づいて、当該トルクの変動範囲でのヒステリシス特性を算出して当該波動歯車減速機の出力側に生じるねじれ角を算出する演算部と、回転位置検出器により検出された回転位置及び演算部により算出されたねじれ角に基づいて、アクチュエータを制御する制御部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、上記のように構成したので、波動歯車減速機の出力側に対してトルクが定格まで加えられていない場合でも、従来構成に対して簡易且つ高精度に、波動歯車減速機の位置誤差を補正可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る補正システムの構成例を示す図である。
図2】波動歯車減速機の構成例を示す図である。
図3】実施の形態1に係る補正装置の動作例を示すフローチャートである。
図4図4A図4Bは、実施の形態1における演算部の動作例を説明する図であり、図4Aは従来方式を説明する図であり、図4Bは実施の形態1の方式を説明する図である。
図5】波動歯車減速機の出力側に加えられるトルクにより生じるねじれ角の一例を示す図である。
図6】波動歯車減速機に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係る補正システム1の構成例を示す図である。
補正システム1は、波動歯車減速機2の位置誤差を補正する。補正システム1は、図1に示すように、回転位置検出器11、センサ12、記憶部13、演算部14及び制御部15を備えている。なお、演算部14及び制御部15は、補正装置を構成する。この補正装置は、システムLSI(Large Scale Integration)等の処理回路、又はメモリ等に記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等により実現される。図1では、補正システム1に加え、波動歯車減速機2及びアクチュエータ3を示している。
【0012】
波動歯車減速機2は、楕円と真円の差動を利用した減速機である。波動歯車減速機2は、図2に示すように、サーキュラスプライン21、ウェーブジェネレータ22及びフレクスプライン23を有している。
【0013】
サーキュラスプライン21は、リング状の剛体部品である。サーキュラスプライン21は、内周に歯が刻まれており、フレクスプライン23より歯数が2枚多い。サーキュラスプライン21は、通常、ケーシングに固定される。
【0014】
ウェーブジェネレータ22は、楕円状のカムの外周に薄肉のボールベアリングを組合わせた部品である。ボールベアリングでは、内輪はカムに固定されているが、外輪はボールを介して弾性変形する。ウェーブジェネレータ22は、通常、入力軸(アクチュエータ3)に取付けられる。
【0015】
フレクスプライン23は、薄肉カップ状の金属弾性体部品である。フレクスプライン23は、開口部外周に歯が刻まれている。フレクスプライン23の底をダイヤフラムと呼び、通常、出力軸(例えばロボットアーム)に取付けられる。
【0016】
フレクスプライン23は、ウェーブジェネレータ22により楕円状に撓められ、長軸の部分でサーキュラスプライン21と歯が噛合い、短軸の部分では歯が完全に離れた状態となる。
【0017】
サーキュラスプライン21を固定してウェーブジェネレータ22を時計方向に回すと、フレクスプライン23は弾性変形し、サーキュラスプライン21との歯の噛合い位置が順次移動していく。ウェーブジェネレータ22が時計方向に1回転すると、歯数差2枚分だけフレクスプライン23は反時計方向へ移動する。
サーキュラスプライン21を固定してウェーブジェネレータ22を反時計方向に回した場合についても上記と同様であり、フレクスプライン23は弾性変形し、サーキュラスプライン21との歯の噛合い位置が順次移動していく。ウェーブジェネレータ22が反時計方向に1回転すると、歯数差2枚分だけフレクスプライン23は時計方向へ移動する。
【0018】
アクチュエータ3は、波動歯車減速機2(ウェーブジェネレータ22)を駆動する。このアクチュエータ3は、不図示のコントローラからの指令に応じて駆動する。
【0019】
回転位置検出器11は、アクチュエータ3の回転位置を検出する。回転位置検出器11としては、例えばエンコーダを用いることができる。
【0020】
センサ12は、波動歯車減速機2の出力側(フレクスプライン23)に加わるトルクを検出する。センサ12としては、例えば、トルクセンサを用いることができる。
【0021】
記憶部13は、補正システム1で扱われる各種情報を記憶する。この記憶部13は、波動歯車減速機2に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性を示す情報を記憶している。記憶部13は、HDD(Hard Disk Drive)、DVD(Digital Versatile Disc)又はメモリ等によって構成される。
【0022】
なお、ヒステリシス特性を示す情報は、例えば、波動歯車減速機2の製造メーカから取得可能である。また、ヒステリシス特性を示す情報は、例えば、事前に、波動歯車減速機2の出力側に対して値を変えながらトルクを加え、その際のねじれ角を測定することでも取得可能である。なお、同じ値のトルクであっても、トルクの増減方向によってねじれ角は変わる(図5,6等参照)。そのため、事前測定では、トルクの増減方向も考慮して測定が実施される。また、ヒステリシス特性を示す情報は、波動歯車減速機2がロボットアームに取付けられている場合、当該ロボットアームにおける先端の位置から当該ロボットアームが有する各軸のずれを測定してトルクとの比較学習を行うことでも取得可能である。
【0023】
なお図1では、記憶部13が補正システム1の内部に設けられた場合を示している。しかしながら、これに限らず、記憶部13は補正システム1の外部に設けられていてもよい。
【0024】
演算部14は、波動歯車減速機2に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性及びセンサ12により検出されたトルクに基づいて、当該トルクの変動範囲でのヒステリシス特性を算出して波動歯車減速機2の出力側に生じるねじれ角を算出する。なお、演算部14は、波動歯車減速機2に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性については、記憶部13から読出す。
【0025】
この際、まず、演算部14は、センサ12により検出されたトルクの変動範囲と定格トルクの範囲との比率から、波動歯車減速機2に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性に相似するヒステリシス特性(当該トルクの変動範囲でのヒステリシス特性)を算出する。より具体的には、演算部14は、上記トルクの変動範囲と定格トルクの範囲とを比較し、波動歯車減速機2のばね係数(曲線の傾き)を変えずに、上記トルクの変動範囲でのヒステリシス特性を算出する。そして、演算部14は、上記トルクの変動範囲でのヒステリシス特性及びセンサ12により検出されたトルク(停止時トルク)から、波動歯車減速機2の出力側に生じるねじれ角を算出する。またこの際に得られるねじれ角は、トルクの増減方向が増方向である場合のねじれ角と、トルクの増減方向が減方向である場合のねじれ角の2つのねじれ角である。そのため、演算部14は、センサ12により検出されたトルクの増減方向に基づいて、上記2つのねじれ角のうちの一方を、ねじれ角として算出する。この演算部14により算出されたねじれ角が波動歯車減速機2の位置誤差に相当する。
【0026】
制御部15は、回転位置検出器11により検出された回転位置及び演算部14により算出されたねじれ角に基づいて、アクチュエータ3を制御する。この際、制御部15は、上記回転位置に対して上記ねじれ角による位置誤差を加味したうえで、アクチュエータ3の制御を行う。この制御部15は、波動歯車減速機2の位置誤差を補正する。
【0027】
次に、図1に示す実施の形態1に係る補正装置の動作例について、図3を参照しながら説明する。なお、記憶部13は、図6に示すような波動歯車減速機2に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性を示す情報を記憶している。
【0028】
また、回転位置検出器11は、アクチュエータ3の回転位置を検出している。また、センサ12は、波動歯車減速機2の出力側(フレクスプライン23)に加わるトルクを検出している。この回転位置検出器11による回転位置の検出及びセンサ12によるトルクの検出は常時実施されている。
【0029】
図1に示す実施の形態1に係る補正装置の動作例では、図3に示すように、まず、演算部14は、センサ12により検出されたトルクの変動範囲と定格トルクの範囲との比率から、波動歯車減速機2に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性に相似するヒステリシス特性(当該トルクの変動範囲でのヒステリシス特性)を算出する(ステップST301)。より具体的には、演算部14は、上記トルクの変動範囲と定格トルクの範囲とを比較し、波動歯車減速機2のばね係数(曲線の傾き)を変えずに、上記トルクの変動範囲でのヒステリシス特性を算出する。なお、演算部14は、波動歯車減速機2に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性については、記憶部13から読出す。
【0030】
次いで、演算部14は、上記トルクの変動範囲でのヒステリシス特性及びセンサ12により検出されたトルク(停止時トルク)から、波動歯車減速機2の出力側に生じるねじれ角を算出する(ステップST302)。この際に得られるねじれ角は、トルクの増減方向が増方向である場合のねじれ角と、トルクの増減方向が減方向である場合のねじれ角の2つのねじれ角である。そのため、演算部14は、センサ12により検出されたトルクの増減方向に基づいて、上記2つのねじれ角のうちの一方を、ねじれ角として算出する。この演算部14により算出されたねじれ角が波動歯車減速機2の位置誤差に相当する。
【0031】
ここで、従来では、例えば図4Aに示すように、波動歯車減速機2に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性から、波動歯車減速機2の出力側に加わるトルク(停止時トルク)がわかれば、当該出力側に生じる理論的なねじれ角(理論ねじれ角)は算出可能であり、これを位置誤差と見做すことは可能である。理論ねじれ角は、停止時トルク/ばね係数で求めることが可能である。ばね係数は、定格トルクの範囲でのヒステリシス特性から得られる。しかしながら、この理論ねじれ角は、定格トルクの範囲でのヒステリシス特性から求めたものであり、波動歯車減速機2の出力側に対してトルクが定格まで加えられていない場合、実際のねじれ角に対して誤差が生じる。
図4A図4Bにおいて、符号401は定格トルクの範囲でのヒステリシス特性を示している。また、符号402はばね係数(理論線)を示している。また、Tは定格トルクを示し、Tは停止時トルクを示し、φは理論ねじれ角を示している。また、HLはヒステリシスロスを示している。
【0032】
これに対し、実施の形態1における演算部14では、図4Bに示すように、波動歯車減速機2の出力側に加わるトルクの変動範囲と定格トルクの範囲との比率に基づいて、定格トルクの範囲でのヒステリシス特性に相似するヒステリシス特性を求め、このヒステリシス特性からねじれ角を算出している。
【0033】
この際、演算部14は、波動歯車減速機2のばね係数(曲線の傾き)を変えずに、上記相似するヒステリシス特性を算出する。すなわち、任意のトルクの変動範囲でのヒステリシス特性は、定格トルクの範囲でのヒステリシス特性に対して波動歯車減速機2のばね特性が一定であり、任意のトルクの変動範囲と定格トルクの範囲との関係により、定格トルクの範囲でのヒステリシス特性と相似する。
また、図4Bに示すように、同じ値のトルクであっても、トルクの増減方向によってねじれ角は変わり、2つのねじれ角(第1のねじれ角及び第2のねじれ角)が存在する。そのため、演算部14は、センサ12により検出されたトルクの増減方向に基づいて、上記2つのねじれ角のうちの一方を、ねじれ角として算出する。
図4Bにおいて、符号403は上記相似するヒステリシス特性(上記トルクの変動範囲でのヒステリシス特性)を示している。図4Bにおいて、φ’は第1のねじれ角を示し、φ’’は第2のねじれ角を示している。
【0034】
これにより、実施の形態1における演算部14では、波動歯車減速機2の出力側に対してトルクが定格まで加えられていない場合でも、実際のねじれ角に相当するねじれ角を推定可能となる。
なお、上記2つのねじれ角の差(第1のねじれ角-第2のねじれ角)がヒステリシスロスの量となる。
【0035】
次いで、制御部15は、回転位置検出器11により検出された回転位置及び演算部14により算出されたねじれ角に基づいて、アクチュエータ3を制御する(ステップST303)。この際、制御部15は、上記回転位置に対して上記ねじれ角による位置誤差を加味したうえで、アクチュエータ3の制御を行う。この制御部15は、波動歯車減速機2の位置誤差を補正する。
以上の動作により、実施の形態1に係る補正システム1では、波動歯車減速機2の位置誤差を補正可能となる。
【0036】
以上のように、この実施の形態1によれば、補正システム1は、波動歯車減速機2を駆動するアクチュエータ3の回転位置を検出する回転位置検出器11と、波動歯車減速機2の出力側に加わるトルクを検出するセンサ12と、波動歯車減速機2に対する定格トルクの範囲でのヒステリシス特性及びセンサ12により検出されたトルクに基づいて、当該トルクの変動範囲でのヒステリシス特性を算出して当該波動歯車減速機2の出力側に生じるねじれ角を算出する演算部14と、回転位置検出器11により検出された回転位置及び演算部14により算出されたねじれ角に基づいて、アクチュエータ3を制御する制御部15とを備えた。これにより、実施の形態1に係る補正システム1は、波動歯車減速機2の出力側に対してトルクが定格まで加えられていない場合でも、波動歯車減速機2の位置誤差を補正可能となる。また、実施の形態1に係る補正システム1は、従来構成に対し、簡易な構成で、波動歯車減速機2の位置誤差を高精度に補正可能となる。すなわち、実施の形態1に係る補正システム1では、従来の第2の対策のような高価な角度回転位置検出器は不要であるし、従来の第3の対策のような電気ノイズ、ジュール熱、及び、モータトルク定数の温度特性等の影響を受けることはなく、推定精度が向上する。
【0037】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、若しくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 補正システム
2 波動歯車減速機
3 アクチュエータ
11 回転位置検出器
12 センサ
13 記憶部
14 演算部
15 制御部
21 サーキュラスプライン
22 ウェーブジェネレータ
23 フレクスプライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6