IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社竹中工務店の特許一覧

特許7546442生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム
<>
  • 特許-生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム 図1
  • 特許-生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム 図2
  • 特許-生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム 図3
  • 特許-生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム 図4
  • 特許-生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム 図5
  • 特許-生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム 図6
  • 特許-生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム 図7
  • 特許-生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム 図8
  • 特許-生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム 図9
  • 特許-生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム 図10
  • 特許-生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
A01G7/00 603
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020172019
(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2022063658
(43)【公開日】2022-04-22
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浮田 長志
(72)【発明者】
【氏名】三輪 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤原 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】本間 隆司
(72)【発明者】
【氏名】佐野 亮
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-145580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の環境条件の下での既存植樹領域における実際に植えられた樹木の生育評価を、予め定めたシミュレーションにより取得して、環境条件と生育評価との相関関係を示すデータベースを構築するデータベース構築部と、
建設計画の建設予定地及び建物形状に依存する植樹予定領域の環境条件を設定する設定部と、
前記データベース構築部で構築されたデータベースに基づいて、前記設定部で設定された環境条件での前記植樹予定領域における樹木の生育を予測し、予測された結果から樹木の生育の可否を判定する処理を行う予測処理部と、
を有する生育評価制御装置。
【請求項2】
前記既存建物の環境条件を特定するファクタとして、日照条件を含む必須ファクタと、建物形状、風向、風力、気温、湿度、及び土壌の少なくとも1つを含む予測精度向上ファクタに分類され、各ファクタは相互に比較可能な数値で表現される、請求項1記載の生育評価制御装置。
【請求項3】
前記データベース構築部は、樹木の銘柄毎、又は耐陰性が同等の樹木種毎にデータベース化される、請求項1又は請求項2記載の生育評価制御装置。
【請求項4】
前記シミュレーションが、
前記既存建物の植樹領域での生育評価として、植樹領域で生育している樹木の撮影画像を解析して生育状態を評価する、画像解析シミュレーションである、請求項1~請求項3の何れか1項記載の生育評価制御装置。
【請求項5】
前記既存建物の植樹領域が、日照条件が劣悪な環境に分類される、ピロティ空間、及び複数の既存建物で囲まれた狭小空間である、請求項1~請求項4の何れか1項記載の生育評価制御装置。
【請求項6】
前記予測処理部は、判定結果において、樹木の生育が困難と判定された場合、建設計画の建設地及び建物形状に依存する環境条件を修正し、前記樹木の生育の予測を繰り返す、請求項1~請求項5の何れか1項記載の生育評価制御装置。
【請求項7】
前記データベース構築部は、
各ファクタの数値を可変して組み合わせた環境条件を設定し、それぞれの環境条件の下で、予め定めた計算式に基づいて、樹木の生育評価を取得した環境条件と生育評価との相関関係情報を取り込む、請求項1~請求項6の何れか1項記載の生育評価制御装置。
【請求項8】
既存建物の環境条件の下での既存植樹領域における実際に植えられた樹木の生育評価を、予め定めたシミュレーションにより取得して、環境条件と生育評価との相関関係を示すデータベースを構築し、
建設計画の建設予定地及び建物形状に依存する植樹予定領域の環境条件を設定し、
構築されたデータベースに基づいて、設定された環境条件での樹木の生育を予測し、予測された結果から樹木の生育の可否を判定する処理を行い
判定結果が生育困難の場合は、建設計画の建設地及び建物形状に依存する環境条件を修正して再度予測及び判定を行い、
判定結果が生育可能の場合は、設定した環境条件での前記植樹予定領域における植樹計画を実行する、
生育評価方法。
【請求項9】
コンピュータを、
請求項1~請求項7の何れか1項記載の生育評価制御装置として動作させる、
生育評価制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計画建物周辺の日照量制限領域に植樹するときの、樹木の生育評価を判定する生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、高層建物群間の狭小空間や、建物の下層に設けたピロティ空間等に植樹する場合、日照量を含む環境条件が、生育に多大な影響を及ぼすことは知られている。
【0003】
このため、特に、狭小空間やピロティ空間では、植栽が予定されている樹木について植栽後の成長予測を行うことは重要である。
【0004】
特許文献1には、支援対象栽培データとして、栽培支援対象の植物の生育環境に関する環境測定値データと、生育状況に関する生育調査を用いている栽培の支援装置について記載されている。
【0005】
特許文献2には、樹木成長簡易予測方法として、計画地の近傍の樹木の生長に関するデータを取得することが記載されている。なお、データ取得時のファクタは、土壌に言及されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-030253号公報
【文献】WO2016/043007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、環境測定値データを取得するための土壌以外の複数のファクタとして、建物形状、樹木種、日照条件、風向、風力、気温、及び湿度等が考えられるが、ファクタが増えれば増えるほど計算式による結果解析が困難である。
【0008】
本発明は、少なくとも建物形状及び樹木種が類似する既存建物の下での実際の樹木生育評価をデータベース化することで、複数のファクタを設定しても容易に生育データを取得することができる生育評価制御装置、生育評価方法、生育評価制御プログラムを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る生育評価制御装置は、既存建物の環境条件の下での既存植樹領域における実際に植えられた樹木の生育評価を、予め定めたシミュレーションにより取得して、環境条件と生育評価との相関関係を示すデータベースを構築するデータベース構築部と、建設計画の建設予定地及び建物形状に依存する植樹予定領域の環境条件を設定する設定部と、前記データベース構築部で構築されたデータベースに基づいて、前記設定部で設定された環境条件での前記植樹予定領域における樹木の生育を予測し、予測された結果から樹木の生育の可否を判定する処理を行う予測処理部と、を有している。
【0010】
データベース構築部では、既存建物の環境条件の下での既存植樹領域における実際に植えられた樹木の生育評価を、予め定めたシミュレーションにより取得して、環境条件と生育評価との相関関係を示すデータベースを構築する。
【0011】
設定部では、建設計画の建設予定地及び建物形状に依存する植樹予定領域の環境条件を設定し、予測処理部では、データベース構築部で構築されたデータベースに基づいて、環境条件での前記植樹予定領域における樹木の生育を予測し、予測結果により、樹木の生育の可否を判定する処理を行う
【0012】
このため、少なくとも建物形状及び樹木種が類似する既存建物の下での実際の樹木生育評価をデータベース化することで、複数のファクタを設定しても容易に生育データを取得することができることを特徴としている。
【0013】
本発明において、前記既存建物の環境条件を特定するファクタとして、日照条件を含む必須ファクタと、建物形状、風向、風力、気温、湿度、及び土壌の少なくとも1つを含む予測精度向上ファクタに分類され、各ファクタは相互に比較可能な数値で表現されることを特徴としている。
【0014】
日照量は生育評価の良否判定に対して、予測精度向上ファクタに比べて、影響力が大きい。そこで、日照条件を必須ファクタとすることで、生育評価の判定精度を向上することができる。
【0015】
本発明において、前記データベース構築部は、樹木の銘柄毎、又は耐陰性が同等の樹木種毎にデータベース化されることを特徴としている。
【0016】
樹木の銘柄、耐陰性(樹木種)毎に生育評価をデータベース化することで、樹木種の選択枝を拡げることができる。
【0017】
本発明において、前記シミュレーションが、前記既存建物の植樹領域での生育評価として、植樹領域で生育している樹木の撮影画像を解析して生育状態を評価する、画像解析シミュレーションであることを特徴としている。
【0018】
既存建物の植樹領域で生育している樹木の撮影画像(映像)を解析して生育状態を評価するシミュレーションは、数理モデルによる評価よりも信頼度が高く、かつ、有識者による感応評価よりも迅速に取得することができる。
【0019】
本発明において、前記既存建物の植樹領域が、日照条件が劣悪な環境に分類される、ピロティ空間、及び複数の既存建物で囲まれた狭小空間であることを特徴としている。
【0020】
計画している建物の狭小空間やピロティ空間へ植樹する場合、全天照度環境に比べて日照条件(日照量)が劣悪であり、狭小空間やピロティ空間での生育評価判定は有用である。
【0021】
本発明において、前記予測処理部は、判定結果において、樹木の生育が困難と判定された場合、建設計画の建設地及び建物形状に依存する環境条件を修正し、前記樹木の生育の予測を繰り返すことを特徴としている。
【0022】
樹木の生育評価予測判定結果を、迅速に反映して、建設計画の建設地及び建物形状に依存する環境条件を修正することができる。
【0023】
本発明において、前記データベース構築部は、各ファクタの数値を可変して組み合わせた環境条件を設定し、それぞれの環境条件の下で、予め定めた計算式に基づいて、樹木の生育評価を取得した環境条件と生育評価との相関関係情報を取り込むことを特徴としている。
【0024】
例えば、画像解析シミュレーションによる生育評価の絶対数が不足している過渡期であっても、生育評価の信頼度を、ある程度維持することができる。
【0025】
本発明に係る生育評価方法は、既存建物の環境条件の下での既存植樹領域における実際に植えられた樹木の生育評価を、予め定めたシミュレーションにより取得して、環境条件と生育評価との相関関係を示すデータベースを構築し、建設計画の建設予定地及び建物形状に依存する植樹予定領域の環境条件を設定し、構築されたデータベースに基づいて、設定された環境条件での樹木の生育を予測し、予測された結果から樹木の生育の可否を判定する処理を行い、判定結果が生育困難の場合は、建設計画の建設地及び建物形状に依存する環境条件を修正して再度予測及び判定を行い、判定結果が生育可能の場合は、設定した環境条件での前記植樹予定領域における植樹計画を実行することを特徴としている。
【0026】
本発明に係る生育評価制御プログラムは、コンピュータを、上記の何れかの生育評価制御装置として動作させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
以上説明した如く本発明では、少なくとも建物形状及び樹木種が類似する既存建物の下での実際の樹木生育評価をデータベース化することで、複数のファクタを設定しても容易に生育データを取得することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施の形態に係る生育評価制御装置の概略構成図である。
図2】本実施の形態に係る生育評価制御装置の機能を示す制御ブロック図である。
図3】本実施の形態に係る生育評価制御装置で実行される生育評価制御のメインルーチンを示す制御フローチャートである。
図4図3に示す、数理モデルに基づく生育評価データベース更新処理ステップの詳細を示す制御フローチャートである。
図5図3に示す、画像解析に基づく生育評価データベース更新処理ステップの詳細示す制御フローチャートである。
図6図3に示す、計画建物生育評価処理ステップの詳細を示す制御フローチャートである。
図7】(A)は検索条件におけるファクタとその条件との関係を示す一覧図表、(B)は計画建物の外観寸法を示す正面図、(C)は既存建物タイプAに属するピロティ空間の正面図、(D)は既存建物タイプBに属する狭小空間の正面図である。
図8図7(B)に示す狭小空間の実施例であり、狭小空間の位置を特定するためのビル群の俯瞰図である。
図9図8に示す狭小空間での日照量分布状態を示す平面図である。
図10】既存建物において、日照量の計測対象となり得るピロティ空間に植栽された樹木の斜視図である。
図11】既存建物において、日照量の計測対象となり得る狭小空間に植栽された樹木の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本実施の形態に係る生育評価制御装置10の概略図である。生育評価制御装置10は、マイクロコンピュータ12を備えている。
【0030】
マイクロコンピュータ12は、CPU12A、RAM12B、ROM12C、入出力装置(I/O)12D、及びこれらを接続するデータバスやコントロールバス等のバス12Eを有している。
【0031】
I/O12Dには、大規模記憶装置14が接続されており、生育評価データベースとして機能する。大規模記憶装置14に適用可能なデバイスとしては、ハードディスク、光ディスク、フラッシュメモリ等が挙げられる。
【0032】
また、I/O12Dには、ネットワークI/F16、入力デバイス18及び出力デバイス20が接続されている。
【0033】
ネットワークI/F16では、例えば、インターネット等のネットワークと接続され、情報の送受信が可能となっている。
【0034】
入力デバイス18は、例えば、キーボード、マウス等で構成され、オペレータの操作で情報が入力可能となっている。
【0035】
出力デバイス20は、例えば、モニタ、プリンタ等で構成され、オペレータが認識可能な状態で情報を出力可能となっている。
【0036】
なお、入力デバイス18及び出力デバイス20の両方の機能を兼ね備えたタッチパネル等を用いてもよい。また、入力デバイス18及び出力デバイス20の両方の機能を兼ね備え、かつネットワークI/F16を介した通信が可能なスマートスピーカ等を用いてもよい。
【0037】
図2には、本実施の形態に係る生育評価制御装置10のCPU12Aで実行される生育評価制御を、機能別に分類したブロック図が示されている。なお、図2に示す各ブロックは、機能別に分類したものであり、生育評価制御装置10のハード構成を限定するものではない。
【0038】
生育評価制御装置10は、数理モデルベース生育評価機能部10Aと、画像解析ベース生育評価機能部10B、感応情報ベース生育評価機能部10C、及び、各機能部10A、10B、10Cの何れかで評価された結果に基づき、計画建物における樹木の生育評価を予測する生育評価予測処理部10Dに分類される。
【0039】
(数理モデルベース生育評価機能部10A)
図2に示される如く、数理モデルベース生育評価機能部10Aは、環境条件設定部22を備え、各ファクタの設定可能な数値範囲情報を受け付ける。
【0040】
ファクタには、日照、樹木種、風向・風力、気温、物形状、湿度、及び土壌が含まれる。
【0041】
なお、ファクタは、ここに列挙した項目に限定されるものではなく、必要に応じて、取捨選択する、或いは、新たなファクタを追加することが可能である。
【0042】
環境条件設定部22では、入力された各ファクタの数値範囲に基づいて、各ファクタの数値情報を組み合わせた評価パターンを設定する。数値を刻む単位(分解能)は、要求される生育評価精度、計算能力、大規模記憶装置14の仕様等によって決めればよい。
【0043】
環境条件設定部22は、生育評価計算部24に接続されている。
【0044】
生育評価計算部24は、計算式記憶部26に接続されており、環境条件設定部22で組み合わせた評価パターンを受け付けると、計算式記憶部26から、予め定めた数理モデル(計算式)を読み出し、当該数理モデルに各評価パターンの数値を当てはめることで、各評価パターンの生育評価を特定する。
【0045】
生育評価計算部24で特定された生育評価情報は、格納処理部28に送出され、格納処理部28では、数理モデルに基づく生育評価情報を生育評価データベース14A(大規模記憶装置14)の数理モデルデータ格納領域30に格納されるようになっている。
【0046】
この数理モデルベース生育評価機能部10Aで得た評価情報は、あくまでも、仮想の環境条件によるものである。言い換えれば、数理モデルに基づく評価情報は、実際の環境条件による生育評価との間に誤差が発生する可能性があることになるが、基礎データとして、生育評価データベース14Aに格納することは有用である。
【0047】
(画像解析ベース生育評価機能部10B)
図2に示される如く、画像解析ベース生育評価機能部10Bは、画像取込部32を備え、既存建物の植樹領域を撮影した映像(静止画、動画)を含む画像情報が取り込まれるようになっている。なお、画像情報は、植樹領域を撮影したときのファクタ(日照、樹木種、風向・風力、気温、建物形状、湿度、及び土壌)の一部又は全部の情報が含まれている。
【0048】
画像取込部32で取り込んだ画像情報は、画像解析部34へ送出され、当該画像解析部34によって画像解析が実行される。画像解析部34では、撮影された映像から、既存建物の形状、樹木の枝葉の色、形状、向き等を解析し、ファクタと関連付けて、生育評価シミュレーション実行部36へ送出する。
【0049】
生育評価シミュレーション実行部36では、解析結果に基づいて今後の生育状態をシミュレーションし、将来に向けた生育評価を特定し、格納処理部28へ送出する。
【0050】
格納処理部28では、画像解析に基づく生育評価情報を生育評価データベース14A(大規模記憶装置14)の画像解析データ格納領域38に格納されるようになっている。
【0051】
(感応情報ベース生育評価機能部10C)
図2に示される如く、感応情報ベース生育評価機能部10Cは、生育評価感応情報受付部40を備えている。
【0052】
生育評価感応情報受付部40では、例えば、有識者が計画建物のファクタ(立地条件)と、既存建物の各ファクタと当該ファクタの下での樹木の生育状態の観察結果と、既存資料の分析と、から定性的検証を行い、感応的に判定した生育評価を受け付ける。
【0053】
なお、生育評価感応情報受付部40は、オペレータが、前述した数理モデルベース生育評価機能部10A及び/又は画像解析ベース生育評価機能部10Bでの生育評価では不十分と判断した場合に、後述する既存環境条件検索部44からの指示に基づき、生育評価の感応情報を受け付けるようになっている。
【0054】
当該感応情報は、後述する予測判定部46に送出されることで、計画建物における樹木の生育評価(生育可能又は生育困難)が判定されるようになっている。
【0055】
感応情報ベース生育評価機能部10Cは、例えば、生育評価データベース14Aの画像解析データ格納領域38に格納されている情報が少ない(例えば、十分な情報量の10%程度)場合に、有用な機能となる。
【0056】
以上、数理モデルベース生育評価機能部10A、画像解析ベース生育評価機能部10B及び、感応情報ベース生育評価機能部10Cの詳細について説明したが、本実施の形態では、主たる生育評価機能は、画像解析ベース生育評価機能部10Bであり、数理モデルベース生育評価機能部10A及び感応情報ベース生育評価機能部10Cは補助的な機能という位置付けとしている。言い換えれば、将来的には、生育評価制御装置10の生育評価機能は、画像解析ベース生育評価機能部10Bのみで成立可能である。
【0057】
(生育評価予測処理部10D)
生育評価予測処理部10Dは、数理モデルベース生育評価機能部10Aと、画像解析ベース生育評価機能部10B、及び感応情報ベース生育評価機能部10Cの少なくとも何れか1つの機能から得た情報に基づいて、計画建物の周辺の植樹領域での樹木の生育評価を予測する。
【0058】
生育評価予測処理部10Dは、ファクタ受付部42を備えており、計画建物に関するファクタ(日照、樹木種、風向・風力、気温。建物形状、湿度、及び土壌)を受け付ける。
【0059】
ファクタ受付部42は、既存環境条件検索部44に接続されており、受け付けたファクタデータを既存環境条件検索部44へ送出する。
【0060】
既存環境条件検索部44は、生育評価データベース14Aに接続されており、ファクタ受付部42からファクタを取得すると、生育評価データベース14Aにアクセスして、格納されている生育評価から類似又は一致する情報を、既存環境条件として検索する。
【0061】
既存環境条件検索部44は、予測判定部46に接続されており、計画建物のファクタと、検索結果(例えば、ファクタが類似又は一致する既存建物の生育評価情報)と、を予測判定部46へ送出する。
【0062】
予測判定部46では、検索結果に基づいて計画建物での生育評価を予測し、生育可能又は生育困難の判定を行う。
【0063】
この予測判定部46において、生育困難と判定された場合は、計画建物の環境下では、樹木の生育が困難(不可を含む)であることが予測されることになり、ファクタ修正部48において、予め定めた条件に基づいて、ファクタの修正が実行される。
【0064】
ファクタ修正部48で修正したファクタは、再度既存環境条件検索部44へ送出される。すなわち、予測判定部46において、生育可能と判定されるまで、ファクタの修正が繰り返されることになる。
【0065】
予測判定部46は、計画環境条件指示部49に接続されており、生育可能の判定情報が送出され、計画環境条件指示部49では、確定した生育可能な計画環境条件(ファクタ)を、出力デバイス20を介して出力する。
【0066】
以下に、図3図6のフローチャートに従い説明する。
【0067】
図3は、本実施の形態に係る生育評価制御装置で実行される生育評価制御のメインルーチンを示す制御フローチャートである。なお、このメインルーチンは、一定間隔期間、例えば、マイクロコンピュータ12の処理速度に依存する間隔期間で実行される。
【0068】
ステップ100では、数理モデルによる生育評価データベースを更新するか否かを判断する。
【0069】
このステップ100で肯定判定された場合は、ステップ102へ移行して、数理モデルに基づく生育評価データベース更新処理(図4参照)を実行し、ステップ104へ移行する。また、ステップ100で否定判定された場合は、ステップ104へ移行する。
【0070】
ステップ104では、画像解析による生育評価データベースを更新するか否かを判断する。
【0071】
このステップ104で肯定判定された場合は、ステップ106へ移行して、画像解析に基づく生育評価データベース更新処理(図5参照)を実行し、ステップ108へ移行する。また、ステップ104で否定判定された場合は、ステップ108へ移行する。
【0072】
ステップ108では、計画建物の生育評価を実行するか否かを判断する。
【0073】
このステップ108で肯定判定された場合は、ステップ110へ移行して、計画建物生育評価処理(図6参照)を実行し、このルーチンは終了する。また、ステップ108で否定判定された場合は、このルーチンは終了する。
【0074】
図4は、図3のステップ102に示す、数理モデルに基づく生育評価データベース更新処理ステップの詳細を示す制御フローチャートである。
【0075】
ステップ120では、各ファクタの数値情報を受け付け、次いで、ステップ122へ移行して、ファクタの数値情報を組み合わせて、環境条件を設定し、ステップ124へ移行する。
【0076】
ステップ124では、数理モデル計算式を読み出し、次いで、ステップ126へ移行して生育評価を計算する。
【0077】
次のステップ128では、環境条件を生育評価と関連付けて生育評価データベース14Aに格納し、ステップ130へ移行する。
【0078】
ステップ130では、次の組み合わせパターンがあるか否かを判断し、否定判定された場合は、このルーチンは終了する。
【0079】
また、ステップ130で肯定判定された場合は、ステップ132へ移行して、更新を継続するか否かを判断する。
【0080】
このステップ132で肯定判定された場合は、ステップ122へ戻り、上記工程を繰り返す。また、ステップ132で否定判定された場合は、このルーチンは終了する。
【0081】
図5は、図3のステップ106に示す、画像解析に基づく生育評価データベース更新処理ステップの詳細示す制御フローチャートである。
【0082】
ステップ140では、既存建物周辺の植樹領域を撮影した画像情報を取り込み、次いで、ステップ142へ移行して、取り込んだ画像情報を解析する。
【0083】
画像解析では、撮影された映像から、既存建物の形状、樹木の枝葉の色、形状、向き等を解析し、ファクタと関連付ける。
【0084】
次のステップ144では、画像解析データに基づいて、生育評価シミュレーションを実行し、ステップ146へ移行する。生育評価シミュレーションでは、解析結果に基づいて今後の生育状態をシミュレーションし、将来に向けた生育評価を特定する。
【0085】
ステップ146では、既存建物特定情報と生育評価とを関連付けて生育評価データベース14Aに格納し、ステップ148へ移行する。
【0086】
ステップ148では、次の画像(撮影した映像)があるか否かを判断し、否定判定された場合は、このルーチンは終了する。
【0087】
また、ステップ148で肯定判定された場合は、ステップ150へ移行して、更新を継続するか否かを判断する。
【0088】
このステップ150で肯定判定された場合は、ステップ142へ戻り、上記工程を繰り返す。また、ステップ150で否定判定された場合は、このルーチンは終了する。
【0089】
図6は、図3のステップ110に示す、計画建物生育評価処理ステップの詳細を示す制御フローチャートである。
【0090】
ステップ160では、計画建物の環境条件情報を受け付け、次いで、ステップ162へ移行してファクタ(日照、樹木種、風向・風力、気温。建物形状、湿度、及び土壌)を設定し、ステップ164へ移行する。
【0091】
ステップ164では、生育評価データベース14Aから、関連するファクタを検索する。
【0092】
次のステップ166では、生育評価データベース14Aから関連するファクタを検索できたか否かを判断する。このステップ166で否定判定された場合は、ステップ168へ移行して有識者の定性的解析、既存資料の分析等を指示する。
【0093】
ステップ168による指示に基づき、ステップ170では生育評価感応情報を受け付けて、ステップ172へ移行する。また、ステップ166で肯定判定された場合は、ステップ172へ移行する。
【0094】
ステップ172では、検索情報(ステップ166で肯定判定による取得)、又は感応情報(ステップ166で否定判定による取得)に基づき、計画建物における生育評価を予測し、ステップ174へ移行する。
【0095】
ステップ174において、評価結果が生育可能か生育困難かを判定する。このステップ174で生育困難と判定された場合は、ステップ176へ移行して、計画建物のファクタの修正指示を行い、ステップ162へ戻り、上記工程を繰り返す。
【0096】
また、ステップ174で生育可能と判定された場合は、ステップ178へ移行して現在のファクタで生育可能であることを報知(出力デバイス20を用いて結果を出力)し、このルーチンは終了する。
【実施例
【0097】
図7図11は、本実施の形態の生育評価制御装置10を用いた生育評価において実行される既存建物周辺の植樹領域における生育状態を認識し、計画建物周辺の植樹予定領域との比較手順等を説明する実施例である。
【0098】
図7(A)は各ファクタ(日照、樹木種、風向・風力、気温。建物形状、湿度、及び土壌)と、各ファクタの検索条件である。この図7(A)のように、ファクタ毎に検索条件が設定されることで、生育評価データベース14Aから計画建物に類似又は一致する既存建物が検索される。
【0099】
図7(B)に示す計画建物において、各ファクタを設定する。この計画建物において、植樹領域は、建物50、52の間の狭小空間54、及び建物50の下層のピロティ空間56に存在しており、それぞれ、樹木58を植える予定としている。
【0100】
建物50、52に関する寸法として、建物50の高さ寸法f、建物52の高さ寸法g、狭小空間54の最大間隔寸法h、狭小空間54の中間間隔寸法i、及び、狭小空間54の最小間隔寸法jを計測する。
【0101】
また、この計画建物での日照量Aを計測する。その他のファクタ(樹木種、風向・風力、気温、湿度、及び土壌)についても、同様に特定又は計測する。
【0102】
図7(C)は、既存建物の内、ピロティ空間56のある既存建物タイプAであり、日照量xを計測すると共に、ピロティ空間特有の寸法として,建物60の開口端から樹木58までの距離a、bを計測する。
【0103】
図7(D)は、既存建物の内、狭小空間54のある既存建物タイプBであり、建物62、64が存在しており、この間に差し込む日照量yを計測すると共に、建物62、64のそれぞれの高さ寸法c、dと、狭小空間54の寸法eを計測する。
【0104】
図7(B)の計画建物と、図7(C)及び図7(D)の既存建物との照合により、類似又は一致する環境を検索することになる。
【0105】
例えば、日照量を例にとると、A<xでは生育困難、x≦A≦yでは生育可能ではあるが良好ではない、y≦Aでは良好に生育可能である、と判定する。その他のファクタについても、図7(A)に示す条件に基づき照合する。
【0106】
図8は、図7(B)の計画建物に類似する既存建物が存在する地域の俯瞰図である。
【0107】
この既存建物(建物66、68)の間に、狭小空間とピロティ空間が存在しており、樹木種に応じた高さTでの、日照量分布を作成する。
【0108】
図9は、図8の地域の平面図であり、併せて、建物66、68の間の日照量分布図が記載されている。
【0109】
図9に示される如く、建物66、68の間は、端部(建物66、68の間の狭小空間54に入る出入口)では日照量が多く、中央の日照量が少なくなっているのがわかる。
【0110】
具体的な計測結果としては、端部の日照量が200KWm-2程度であるのに対し、中央部は、65~70KWm-2程度となっている。
【0111】
ここで、樹木種によって、日照量の計測点(地面からの高さT)を異ならせることにより、樹木毎の目標値を正確に設定することができる。
【0112】
例えば、樹木58A(一例として、イロハモミジ等の落葉広葉樹)は比較的背の低い樹木であり、地面からの高さTが3mの位置で日照量を計測し、その目標値を65KWm-2程度に設定する。図9では、建物66、68間の中央部が当該目標値に達しており、樹木58Aは、全体的に、ファクタが日照量の場合の狭小空間での生育評価は高い。
【0113】
また、樹木58B(一例として、シラカシ等の常緑広葉樹)は比較的背の高い樹木であり、地面からの高さTが6mの位置で日照量を計測し、その目標値を67KWm-2程度に設定する。図9では、建物66、68間の中央部が当該目標値に達しており、樹木58Bは、全体的に、ファクタが日照量の場合の狭小空間54での生育評価は高い。
【0114】
なお、上記目標数値等は、季節(気温、湿度、風向・風力等のファクタ)によって変化するものであり、ここでの数値は一例にすぎず、適宜変更することが好ましい。
【0115】
また、例えば、樹木58A、58B以外に分類されるものとして、クスノキ(常緑広葉樹)があり、クスノキは、目標値が22.5KWm-2程度であり、樹木種によって、目標値は大きく変動する。このため、植樹として選択される可能性のある樹木種の内、最も目標値が高い樹木種に対する日照量の良否を判定することが好ましい。
【0116】
なお、照度には、相対照度という考え方がある。相対照度とは、周囲に遮蔽物がない全天照度に対する比率である。
【0117】
本実施の形態(実施例を含む)の前提として、樹木の相対照度の限界値があり、ピロティ空間56や狭小空間54とを制限とは別に、以下の限界値を基準として、樹木の分類毎に樹木を選択する必要がある。
【0118】
(陽樹) 相対照度6.5%(50.3KWm-2程度)
(陰樹) 相対照度5.0%(38.7KWm-2程度)
(耐陰性の強い陰樹) 相対照度2.5%(19.3KWm-2程度)
【0119】
なお、上記の数値は全て、5月から10月の時期を想定したものである。
【0120】
(既存建物と樹木との位置関係)
図10は、図7(C)に相当する建物タイプA(ピロティ空間56)に植えられた樹木58の生育状態を示している。この位置関係は、図9に示す計画建物において、建物66及び建物68の庇部66A、68Aの下に植えられる予定の樹木を想定したものである。
【0121】
図10に示される如く、ピロティ空間56に植えられた樹木58は、建物60の入口開口に向けて枝葉が伸びているのがわかる。例えば、画像解析では、このような枝葉の伸び具合、及びその周辺の環境(ピロティ空間の形状等)の映像(静止画、動画)を解析することで、生育評価が可能である。
【0122】
また、図11は、図7(D)に想到する建物タイプ(狭小空間)に植えられた樹木A、樹木Bの生育状態を示している。この位置関係は、図9に示す計画建物において、建物66及び建物68の間の狭小空間54に植えられる予定の樹木を想定したものである。
【0123】
図11に示される如く、狭小空間54に植えられた樹木58A及び樹木58Bの生育状態を示している。樹木58A及び樹木58Bが、建物62、64の間に植えられているにも関わらず、生育状態が良好であることがわかる。例えば、日照量をファクタとして、樹木58A及び樹木58Bの生育評価を行う場合、最適な計測位置(地面からの高さT)をそれぞれ設定し(例えば、図9では、樹木58Aが3m、樹木58Bが6m)、日照量y(図7(D)参照)を計測することで、計画建物に必要な日照量A(図7(A)参照)との比較を精度よく行うことができる。
【符号の説明】
【0124】
10 生育評価制御装置
10A 数理モデルベース生育評価機能部
10B 画像解析ベース生育評価機能部
10C 感応情報ベース生育評価機能部
10D 生育評価予測処理部
12 マイクロコンピュータ
12A CPU
12B RAM
12C ROM
12D 入出力装置(I/O)
12E バス
14 大規模記憶装置
14A 生育評価データベース
16 ネットワークI/F
18 入力デバイス
20 出力デバイス
22 環境条件設定部
24 生育評価計算部
26 計算式記憶部
28 格納処理部
30 数理モデルデータ格納領域
32 画像取込部
34 画像解析部
36 生育評価シミュレーション実行部
38 画像解析データ格納領域
40 生育評価感応情報受付部
42 ファクタ受付部
44 既存環境条件検索部
46 予測判定部
48 ファクタ修正部
49 計画環境条件指示部
50、52 建物(計画建物)
54 狭小空間
56 ピロティ空間
58 樹木(全般)
60 建物(既存建物)
62、64 建物(既存建物)
66、68 建物(計画建物)
58A 樹木(落葉広葉樹)
58B 樹木(陰樹)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11