(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】液体吐出装置及びインプリント装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240830BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20240830BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20240830BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
B05C5/00 101
B05C11/10
(21)【出願番号】P 2020173538
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 沙璃
(72)【発明者】
【氏名】九里 真弘
(72)【発明者】
【氏名】飯村 晶子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敬恭
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-233656(JP,A)
【文献】特開2016-135585(JP,A)
【文献】特開2016-097636(JP,A)
【文献】特開2020-049817(JP,A)
【文献】特開2009-143126(JP,A)
【文献】特開2004-181883(JP,A)
【文献】特開2016-185502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 59/02
B05C 5/00
B05C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する容器と、
複数の基板を貼り合わせることにより形成され
たモジュール基板と、
前記複数の基板のうち、前記モジュール基板の表面に位置する基板に形成され、前記容器から供給された液体を吐出する
複数の吐出口と、
各吐出口に対応して備えられ、前記液体を前記吐出口から吐出させるエネルギーを発生する
複数の圧電素子と、
前記複数の基板の貼り合わせ面の剥離を検出する検出手段と
、
前記検出手段により複数の吐出口にわたって前記複数の基板の貼り合わせ面が連続的に剥離していることが検出された場合に、エラーメッセージを表示する一方、前記複数の基板の貼り合わせ面が剥離していても、前記検出手段により複数の吐出口にわたって剥離していることが検出されない場合は、前記エラーメッセージを表示しない表示手段と、
を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記検出手段は、
前記圧電素子に駆動電流を供給して前記吐出口から液体を吐出した際に前記圧電素子から逆起電力を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得される逆起電力に基づいて
、前記複数の基板の貼り合わせ面に剥離があるかどうかを判断する判断手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記圧電素子に駆動電流を供給して前記吐出口から正常に液体を吐出した際に前記圧電素子からの逆起電力の波形を示す情報を予め取得し格納する記憶手段をさらに有することを特徴とする請求項
2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記判断手段は、
前記取得手段により取得された逆起電力の波形を示す情報と、前記記憶手段に格納された情報とを比較する第1の比較手段と、
前記第1の比較手段の比較により得られた波形の差と予め定められた閾値を比較する第2の比較手段とを有し、
前記第2の比較手段による比較に基づいて
、前記複数の基板の貼り合わせ面に剥離があるかどうかを判断することを特徴とする請求項
3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記波形の差とは、波形の振幅差と波形の位相差の少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項
4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記取得手段により前記圧電素子から逆起電力を取得する前に前記吐出口の表面を払拭する払拭手段をさらに有することを特徴とする請求項2乃至
5のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
液体を収容する容器と、
複数の基板を貼り合わせることにより形成され
たモジュール基板と、
前記複数の基板のうち、前記モジュール基板の表面に位置する基板に形成され、前記容器から供給された液体を吐出する吐出口と、
前記吐出口に対応して備えられ、前記液体を前記吐出口から吐出させるエネルギーを発生する圧電素子と、
前記圧電素子に駆動電流を供給して前記吐出口から液体を吐出した際に前記圧電素子から逆起電力を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得される逆起電力に基づいて、前記複数の基板の貼り合わせ面に剥離があるかどうかを判断する判断手段と、
前記取得手段により前記圧電素子から逆起電力を取得する際に、前記容器の内部に前記吐出口から液体が吐出しない程度の圧力を加える加圧手段と、
を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項8】
前記圧力は2~3kPaであることを特徴とする請求項
7に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記吐出口の表面は、撥液コートされていることを特徴とする請求項
7又は
8に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記検出手段は、
前記吐出口の表面の変化を測定する測定手段と、
前記測定手段による測定された変化に基づいて
、前記複数の基板の貼り合わせ面に剥離があるかどうかを判断する判断手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
前記測定手段は光学センサを含むことを特徴とする請求項
10に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
請求項1乃至
11のいずれか1項に記載の液体吐出装置から液体を吐出して基板にインプリント処理を行うインプリント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出装置及びインプリント装置に関し、特に、例えば、液体を吐出する吐出口を有する吐出部のチップ剥離を検出することが可能な液体吐出装置及びインプリント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する吐出装置には、液体を吐出するための圧電素子を有し、圧電素子に駆動パルスを印加し、液体を吐出するものがある。そのような液体吐出装置には、圧電素子に駆動パルスを印加して振動部を強制的に振動させた後に生じる振動部の残留振動が、同じ圧電素子によって逆起電力として検出されるものがある。
【0003】
特許文献1には、逆起電力から吐出液中の気泡や異物の存在を検知し、待機時間を設けるなどして障害を回復させる方法が記載されている。
また、特許文献2には、逆起電力から、吐出液の残量を検出する液体吐出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5486755号公報
【文献】特許第4826125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来例では、逆起電力波形から吐出性能を低下させる吐出液内の気泡を検知すること、もしくは液体の残量を検知することを想定しており、吐出部を形成するチップの剥離を検知することは想定していない。チップの貼り合わせ不良によりチップの剥離が生じた場合、チップ内部の部分的な剥離であれば、液体が漏れ出すことはないが、剥離する場所が多くなった場合、液体が吐出装置から漏れ出す。
【0006】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、液体を吐出する吐出口を形成する基板の剥離を検出する液体吐出装置及びインプリント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の液体吐出装置は、次のような構成からなる。
【0008】
即ち、液体を収容する容器と、複数の基板を貼り合わせることにより形成されたモジュール基板と、前記複数の基板のうち、前記モジュール基板の表面に位置する基板に形成され、前記容器から供給された液体を吐出する複数の吐出口と、各吐出口に対応して備えられ、前記液体を前記吐出口から吐出させるエネルギーを発生する複数の圧電素子と、前記複数の基板の貼り合わせ面の剥離を検出する検出手段と、前記検出手段により複数の吐出口にわたって前記複数の基板の貼り合わせ面が連続的に剥離していることが検出された場合に、エラーメッセージを表示する一方、前記複数の基板の貼り合わせ面が剥離していても、前記検出手段により複数の吐出口にわたって剥離していることが検出されない場合は、前記エラーメッセージを表示しない表示手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
また本発明を別の側面から見れば、上記構成を液体吐出装置から液体を吐出して基板にインプリント処理を行うインプリント装置を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液体を吐出する吐出口を形成する基板の剥離を検出することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の代表的な実施形態であるインプリント装置の概略構成を示す外観斜視図である。
【
図2】液体吐出装置の要部の構成を示した図である。
【
図6】チップの基板が剥離した液体吐出部の拡大図である。
【
図7】ノズル毎の逆起電力の検出原理を適用した基板はがれの検出処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には、複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられても良い。さらに添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
なお、この明細書において、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0014】
以下に用いる吐出ヘッド用基板(ヘッド基板又はチップ)とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
【0015】
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み(built-in)」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0016】
<インプリント装置の概要(
図1~
図2)>
図1は本発明の代表的な実施形態であるインプリント装置の構成を示す概略図である。
【0017】
図1に示したインプリント装置101は、半導体デバイスなどの各種デバイスの製造に用いられる。インプリント装置101は液体吐出装置10を備える。液体吐出装置10は吐出材(レジスト)114を基板111上に吐出する。吐出材114は紫外線(UV)を受光することにより硬化する性質を有する光硬化性の樹脂である。吐出材114は、半導体デバイス製造工程などの各種条件により適宜選択される。光硬化性の他にも、例えば、熱硬化性のレジストである吐出材を用いてもよく、インプリント装置は熱でレジストを硬化させてインプリント処理を行う装置でも良い。吐出材114のことをインプリント材と呼んでも良い。
【0018】
インプリント装置101は、次の一連の処理を含むインプリント処理を行う。
【0019】
即ち、インプリント装置101は、液体吐出装置10に吐出材114を基板111上に吐出させる。そして、基板上に吐出された吐出材114に、成型用のパターンを有するモールド107を押し付け、その状態において、光(紫外線)の照射によって吐出材114を硬化させる。その後、硬化後の吐出材114からモールド107を引き離すことによって、モールド107のパターンを基板111上に転写する。
【0020】
インプリント装置101は、光照射部102と、モールド保持機構103と、基板ステージ104と、液体吐出装置10と、制御部106と、計測部122と、筺体123と、を有する。
【0021】
光照射部102は、光源109と、光源109から照射された紫外線108を補正するための光学素子110とを有する。光源109は、例えばi線またはg線を発生するハロゲンランプである。紫外線108は、モールド(型)107を介して吐出材114に照射される。紫外線108の波長は、硬化させる吐出材114に応じた波長である。尚、レジストとして熱硬化性レジストを用いるインプリント装置の場合は、光照射部102に代えて、熱硬化性レジストを硬化させるための熱源部が設置される。
【0022】
モールド保持機構103は、モールドチャック115と、モールド駆動機構116とを有する。モールド保持機構103によって保持されるモールド107は、外周形状が矩形であり、基板111に対向する面には転写すべき回路パターンなどの凹凸パターンが3次元で形成されたパターン部107aを有する。本実施形態におけるモールド107の材質は、紫外線108が透過することができる材質であり、例えば石英が用いられる。
【0023】
モールドチャック115は、真空吸着または静電力によりモールド107を保持する。モールド駆動機構116は、モールドチャック115を保持して移動することによりモールド107を移動させる。モールド駆動機構116は、モールド107を-Z方向に移動させてモールド107を吐出材114に押し付けることができる。また、モールド駆動機構116は、モールド107を+Z方向に移動させてモールド107を吐出材114から引き離すことができる。モールド駆動機構116に採用可能なアクチュエータとしては、例えばリニアモータまたはエアシリンダがある。
【0024】
モールドチャック115およびモールド駆動機構116は、中心部に開口領域117を有する。また、モールド107は、紫外線108が照射される面に、凹型の形状をしているキャビティ107bを有する。モールド駆動機構116の開口領域117には、光透過部材113が設置されており、光透過部材113とキャビティ107bと開口領域117とで囲まれる密閉の空間112が形成されている。空間112内の圧力は圧力補正装置(不図示)によって制御される。圧力補正装置が空間112内の圧力を外部よりも高く設定することにより、パターン部107aは基板111に向けて凸形に撓む。これにより、パターン部107aの中心部が吐出材114に接触するようになる。よって、モールド107が吐出材114に押し付ける際に、パターン部107aと吐出材114との間に気体(空気)が閉じ込められることが抑制され、パターン部107aの凹凸部の隅々まで吐出材114を充填させることができる。空間112の大きさを決めるキャビティ107bの深さは、モールド107の大きさまたは材質に応じて適宜変更される。
【0025】
基板ステージ104は、基板チャック119と、基板ステージ筐体120と、ステージ基準マーク121とを有する。基板ステージに保持される基板111は、単結晶シリコン基板またはSOI(Silicon on Insulator)基板であり、基板111の被処理面には、吐出材114が吐出されパターンが成形される。
【0026】
基板チャック119は、基板111を真空吸着により保持する。基板ステージ筐体120は、基板チャック119を機械的手段により保持しながらX方向およびY方向に移動することで基板111を移動させる。ステージ基準マーク121は、基板111とモールド107とのアライメントにおいて、基板111の基準位置を設定するために使用される。 基板ステージ筐体120のアクチュエータには、例えばリニアモータが用いられる。他にも、基板ステージ筐体120のアクチュエータは、粗動駆動系または微動駆動系などの複数の駆動系を含む構成でもよい。
【0027】
液体吐出装置10は、未硬化の吐出材114を液体の状態でノズルから吐出して基板111上に塗布する。この実施形態では、ピエゾ素子の圧電効果を利用して吐出材114を吐出口から押し出す方式を採用する。後述する制御部106が、ピエゾ素子を駆動させる駆動波形を生成してピエゾ素子に印加し、ピエゾ素子が吐出に適した形状に変形するように駆動させる。ノズルは複数設けられており、それぞれが独立に制御出来るようになっている。液体吐出装置10のノズルから吐出される吐出材114の量は、基板111上に形成される吐出材114の所望の厚さ、または、形成されるパターンの密度などにより適宜決定される。
【0028】
計測部122は、アライメント計測器127と、観察用計測器128と、を有する。アライメント計測器127は、基板111上に形成されたアライメントマークと、モールド107に形成されたアライメントマークとのX方向およびY方向の位置ずれを計測する。観察用計測器128は、例えばCCDカメラなどの撮像装置であり、基板111に吐出された吐出材114のパターンを撮像して、画像情報として制御部106に出力する。
【0029】
制御部106は、インプリント装置101の各構成要素の動作などを制御する。制御部106は、例えば、CPU、ROM、およびRAMを有するコンピュータで構成される。制御部106は、インプリント装置101の各構成要素に回線を介して接続され、CPUは、ROMに記憶された制御プログラムに従って各構成要素の制御をする。また、制御部106は、表示部を有し、各種の表示を行うことができる。
【0030】
制御部106は、計測部122の計測情報を基に、モールド保持機構103、基板ステージ104、および液体吐出装置10の動作を制御する。尚、制御部106は、インプリント装置101の他の部分と一体で構成してもよいし、インプリント装置とは別の他の装置として実現されてもよい。また、制御部106は、1台のコンピュータではなく複数台のコンピュータで構成されていてもよい。さらに制御部106にはSSD(半導体ディスク)やEEPROMなどの不揮発性メモリを備える。そして、以下に説明する正常に吐出口から吐出材(液体)を吐出した時における圧電素子からの逆起電力の波形の情報をその不揮発性メモリに記憶しておく。
【0031】
筺体123は、基板ステージ104を載置するベース定盤124と、モールド保持機構103を固定するブリッジ定盤125と、ベース定盤124から延設されブリッジ定盤125を支持する支柱126と、を備える。
【0032】
インプリント装置101は、モールド107を装置外部からモールド保持機構103へ搬送するモールド搬送機構(不図示)と、基板111を装置外部から基板ステージ104へ搬送する基板搬送機構(不図示)と、を備える。
【0033】
図2は
図1に示した液体吐出装置10の要部の構成を示した図である。
【0034】
図2に示すように、液体吐出装置10は、主に吐出部11、液体を収容する液体収容容器12、圧力を制御するための圧力制御部13、吐出部11の内部の吐出物(液体)を循環させる循環部40を備えている。液体を収容可能な液体収容容器12の内部には、収容部内部の空間を分離する可撓性材料で形成された分離膜14が設けられている。分離膜14の厚みは10μm以上200μm以下であることが好ましく、液体及び気体の透過性が低い材料で形成することが好ましい。
【0035】
分離膜14は、例えば、PFA等のフッ素樹脂材のフィルムやフッ素樹脂材とプラスチック材料を組み合わせた複合多層フィルムで形成することができる。収容容器12の分離膜14で仕切られた一方の第1の液室15は吐出物が収容されており、他方の第2の液室16(第3空間)には充填液が収容されている。第1の液室15と第2の液室16とは、分離膜14によって分けられている。第2の液室16は、接続配管17によって圧力制御部13と接続されており、第1の液室15は、吐出部11と接続されている。
【0036】
圧力制御部13は、充填液タンク、配管、圧力センサ、ポンプ、バルブ等を備え、第2の液室16内の圧力を制御可能である。圧力制御部13で第2の液室16内の充填液の圧力を制御することで、分離膜14を介して第1の液室15内の吐出物の圧力を制御することができる。これにより、吐出部11における気液界面の形状を安定化させ、基板111に対して液滴8として再現性のよい吐出物の吐出を行うことができる。
【0037】
循環部40は、収容容器12の外側に、両端で収容容器12に接続する通路45を設け、通路45の中にフィルタ41とポンプ44とを配置した構成となっている。循環部40は、収容容器12の第1の液室15と接続されており、通路45は第1の液室15に開口する第1の開口42と第2の開口43とで第1の液室15と連通している。
【0038】
第1の開口42は第1の液室15の内部の吐出物を通路の内部に供給する開口であり、第2の開口43は第1の開口42から供給した吐出物を第1の液室15に供給する開口である。第1の開口42と第2の開口43とを結ぶ通路45には、ポンプ44と、吐出物をろ過するフィルタ41とが配置されている。ポンプ44からの発塵による吐出物への異物発生の可能性を考慮すると、ポンプ44に対して、第1の開口42から第2の開口43へと吐出物を流す際に下流側となる位置にフィルタ41を配置することが好ましい。
【0039】
ポンプ44は通路45の通路内に設けることが好ましいが、通路45の外部に設けてもよい。ポンプ44を駆動させると、第1の液室15内に収容された吐出物が第1の開口42から通路45に供給される。第1の開口42から供給された吐出物は、通路45の内部のフィルタ41を通過してろ過された後に、第2の開口43を経由して第1の液室15内に戻る。そして、再び第1の開口42から供給される。即ち、第1の液室15内の吐出物は循環しながらフィルタ41でろ過される。
【0040】
なお、液体吐出装置10は、液体収容容器12の内部に分離膜を有せず、液体を収容する第1の液室15を備える構成でもよい。
【0041】
【0042】
図3に示すように、吐出部11は共通液室56とモジュール基板57とを備えている。モジュール基板57は複数の基板(チップ)が貼り合わせ面61により互いに貼り合わされて構成されている。モジュール基板57には、吐出物をモジュール基板57に供給する供給口21と吐出物を吐出可能な吐出口19とを備えた複数のノズル54と、ノズル54の内部に設けられ、吐出物を吐出するためのエネルギー発生素子として圧電素子18が設けられている。
図3には4つのノズル541、542、543、544が例示されているが、実際にはこれ以上の数のノズルが備えられることは言うまでもない。なお、吐出物として樹脂を多く含むものがよく用いられることから、エネルギー発生素子として圧電素子を用いることが好ましい。
【0043】
また、モジュール基板57の吐出口19が設けられた表面を吐出口側表面58とする。吐出口19の開口面積は、供給口21の開口面積よりも小さく、ノズル54における流路で断面積が最小となっている。供給口21は、モジュール基板57の内部で吐出口19と連通している。圧電素子(ピエゾ素子)18を制御部106で駆動制御することで、供給口21から供給された、圧電素子18と吐出口19との間のノズル内部(圧力室)20の吐出物が、吐出口19から基板111上に吐出される。吐出部11は、インクジェットヘッド等で用いられるような吐出ヘッドであることが好ましい。
【0044】
さて、圧電素子18に駆動パルスを印加して、圧電素子を強制的に振動させた後に生じる残留振動が、同じ圧電素子18によって逆起電力として検出される。この逆起電力は、ノズルごとに検出される。
【0045】
次に吐出部11のモジュール基板57のチップの剥離を検知するために得る逆起電力波形について説明する。
【0046】
図4はノズル54の拡大断面図であり、
図5は逆起電力波形80の時間変化を示す図である。
【0047】
図4(a)は基板(チップ)の貼り合わせ面61から基板が剥がれておらず、ノズル内部20から吐出液、即ち、液体が漏れていないノズル54の状態を示している。このようなノズル54に対して、圧電素子18に逆起電力波形を得るための駆動パルスを印加して逆起電力を得ると、
図5(a)に示すような逆起電力波形80の時間変化が得られる。
【0048】
図4(b)は基板(チップ)の貼り合わせ面61から基板(チップ)が部分的に剥がれてノズル内部20から液体が他のノズル側に漏出しているノズル54の状態を示す。このようなノズル54に対して、圧電素子18に逆起電力波形を取得するための駆動パルスを印加して逆起電力を取得すると、
図5(b)の実線に示すような異常時の逆起電力波形80が得られる。この波形は破線で示した正常時の波形に比べ、振幅が大きく位相が遅れた波形が得られる。このことから、吐出部11の基板(チップ)の貼り合わせ面61が剥離していると判断することができる。なお、構成によっては、正常時の波形に比べ、振幅が大きい波形、もしくは、位相が遅れた波形となることもある。
【0049】
特に複数のノズルにおいて、基板(チップ)の剥離が生じている場合、ノズル内部の空間が大きくなるため、流路の体積が増加し、基板の剥離が生じたノズルの逆起電力波形80が正常なノズルの逆起電力波形と差が大きくなり、検知しやすくなる。
【0050】
この性質を利用して、この実施形態ではノズル54毎に逆起電力を検出し、各ノズル内部20に対応する基板剥離(チップ剥離)の有無を判断する。
【0051】
ここでノズル内部20での基板剥離について説明する。
【0052】
図6は基板剥離(チップ剥離)の様子を模式的に示す図である。
図6には、ノズル内部20から液体が漏れていないノズル541と、ノズル内部20から液体が漏れている連続した複数のノズル、即ち、ノズル542、543、544が示されている。
【0053】
このような条件で、ノズル毎に逆起電力を検出すると、ノズル541では
図5(a)に示すような逆起電力波形80が得られ、ノズル542、543、544では、
図5(b)に太線で示すような逆起電力波形80が得られる。これらノズル毎の逆起電力波形は、チップ剥がれの程度が大きいノズルほど、つまり流路の体積が大きいノズルほど、正常時の逆起電力波形からの変化が大きくなる。このことから、連続した3つのノズルのノズル内部から液体が漏れていると判断できる。このように連続した少なくとも2つ以上のノズルが液体で濡れていると判断された場合、基板剥離(チップ剥離)が生じていると判断し、エラーとして表示することが好ましい。
【0054】
図7は以上説明したノズル毎の逆起電力の検出原理を適用した基板剥離(チップ剥離)の検出処理を示すフローチャートである。
【0055】
なお、前述した制御部106の不揮発性メモリには、各ノズルの圧電素子に駆動電流を供給すると正常に液体を吐出した場合、そのノズルに対応する圧電素子から得られる逆起電力の波形の情報を前もって記憶しておくものとする。
【0056】
図7によれば、まずステップS10では検出対象ノズルを特定するパラメータ(i)を“0”に初期化する。次に、ステップS20ではパラメータ(i)に検出対象ノズルを特定する数値を設定する。
【0057】
ステップS30では、圧力制御部13に30kPa程度の圧力を加えて液体を吐出口19から吐出させる。その後、ステップS40では、吐出口側表面58から液体を払拭し、吐出口側表面58が濡れていないことを確認する。この確認は目視確認でも良いが、処理の効率化や迅速化のためには吐出口付近を撮像することで得られた画像に基づいて画像認識して確認することが望ましい。どのような確認方法にせよ、この確認により、このようなノズル毎の逆起電力の検出を、吐出口側表面58が液体で濡れておらず、かつ吐出口19から気泡が混入していない状態で行うことができる。
【0058】
さて、ステップS50では、圧電素子18を駆動してノズルから液体を吐出させ、圧電素子の振動後に生じる残留振動を同じ圧電素子18によって逆起電力として検出し、取得する。なお、液体吐出装置10は通常、液体を負圧に制御しており、基板剥離(チップ剥離)の判定が難しい。そのため、吐出口側表面58が液体で濡れない程度に圧力制御部13から圧力を加えながら逆起電力の検出を実行すると良い。具体的には、圧力制御部13から液体収容容器12の内部をノズルから液体が吐出しない程度に加圧しながら逆起電力の検出を実行する。このように制御することで、ノズル内部20から漏出した液体の体積が増え、
図5(b)に示すような逆起電力波形80がより顕著に表れる。ノズル面(吐出口側表面58)を撥液コートしている場合、上記液が吐出しない圧力は2~3kPa程度と設定する。
【0059】
そして、ステップS60では、その取得した逆起電力の波形を、液体が漏れていない正常状態にあるノズルを用いて予め取得した逆起電力の波形と比較し、その振幅差と位相差の少なくとも一方に対応する予め定められた閾値と比較する。なお、この閾値も不揮発性メモリに格納されているものとする。
【0060】
ここで、その差が閾値より大きい場合、処理はステップS70に進み、基板剥離が発生していると判断する。さらにステップS80では、基板剥離が連続したノズルに対して発生しているかどうかを調べる。ここで、連続したノズル(例えば、2つ以上のノズル)に基板剥離が発生していると判断されれば、処理はステップS90に進み、インプリント装置101もしくは液体吐出装置10の表示部(例えば、LCD)にエラーメッセージを表示する。このメッセージには、連続的に基板剥離が発生している位置を特定するために検出対象ノズルを特定するパラメータの値を含めると良い。その後、処理はステップS110に進む。
【0061】
これに対して、ステップS60において、その振幅差(位相差)が予め定められた閾値以下であると判断されると、処理はステップS100に進み、基板剥離は発生しておらず基板は正常な状態にあると判断する。その後、処理はステップS110に進む。
【0062】
ステップS110では、検出対象となるノズルがなくなると、検出処理を終了するが、まだ検出対象のノズルがある場合、処理はステップS20に戻り、別のノズルを指定して検出処理を続行する。
【0063】
従って以上説明した実施形態に従えば、ノズル毎に吐出液の漏れを検出することができる。
【0064】
なお、このようなノズル毎の逆起電力の検出処理は、吐出液の吐出を行っていないときに行う。具体的には、吐出前、または吐出後、もしくはその両方で行ってもよい。
【0065】
更に具体的には、例えば、インプリント装置に本発明の液体吐出装置を搭載し、ショット毎に吐出とインプリント動作を繰り返して行う場合は、ショット間の待機時間に逆起電力の検出処理を行ってもよい。また、ウェハ交換やインプリント装置のメンテナンスなど、インプリント動作を行っていない間の待機時間に逆起電力の検出処理を行ってもよい。また、液体吐出装置の交換時に、液体吐出装置を取り外す前に逆起電力の検出処理を行ってもよい。また、液体吐出装置の交換後、吐出前に逆起電力の検出処理を行ってもよい。そうすることで、吐出液の漏れを検知し、吐出液の漏れを最小限に抑えることができる。
【0066】
なお、以上説明した実施形態では基板の貼り合わせ面の剥離検知を、ノズル毎の逆起電力の検出により行ったが本発明はこれによって限定されるものではなく、例えば、基板表面の高さ変化をギャップセンサで測定することで基板の剥離の有無を判定しても良い。また、透明な平行平板をノズル面近傍に平行に設置し、平行平板の下側から液体に感度のない波長帯の光を照射し、基板表面の高さ変化によって干渉縞を画像センサ(光学センサ)で計測することで、基板の剥離の有無を判定しても良い。
【0067】
本発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0068】
11 吐出部、15 第1の液室、18 圧電素子(ピエゾ素子)、19 吐出口、
54 ノズル、56 共通液室、58 吐出口側表面、61 貼り合わせ面、
80 逆起電力波形