(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】合成床
(51)【国際特許分類】
E04B 1/16 20060101AFI20240830BHJP
E04B 5/32 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
E04B1/16 E
E04B5/32 A
(21)【出願番号】P 2020174992
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】金田 崇興
(72)【発明者】
【氏名】花井 厚周
(72)【発明者】
【氏名】梁田 真史
(72)【発明者】
【氏名】梅野 圭介
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 弘充
(72)【発明者】
【氏名】飯島 俊樹
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-047008(JP,U)
【文献】特開平03-129034(JP,A)
【文献】実開昭63-012519(JP,U)
【文献】特開2013-083104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/16
E04B 5/32-5/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁に架け渡されて支持されたトラス筋と、
前記トラス筋の下方に配置された木質版または合成樹脂版と、
前記木質版または前記合成樹脂版と前記トラス筋とを間隔を開けて前記トラス筋に前記木質版または前記合成樹脂版を固定する固定部材と、
前記木質版または前記合成樹脂版の上部に打設され前記木質版または前記合成樹脂版と前記トラス筋と一体化したコンクリート部と、
を
有し、
前記固定部材は、底面部が螺子で前記木質版または前記合成樹脂版に固定され、前記底面部から立ち上がる側部の鍔部が前記トラス筋に溶接された形鋼であり、
前記トラス筋は、ボトム筋と、前記ボトム筋の上側に配置されるトップ筋と、前記ボトム筋と前記トップ筋とに溶接されるラチス筋とを含んで構成され、
前記形鋼の前記鍔部が前記ボトム筋に溶接され、前記ラチス筋と前記ボトム筋との溶接と、前記形鋼の前記鍔部と前記ボトム筋との溶接とが、前記ボトム筋の長手方向に離間している、
合成床。
【請求項2】
前記底面部が前記螺子で前記木質版または前記合成樹脂版に前記螺子が貫通しないように固定されている、
請求項1に記載の合成床。
【請求項3】
前記木質版には、前記コンクリート部と接触する部分に防水処理が施されている、
請求項1または請求項2に記載の合成床。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート部と、木質版または合成樹脂版とを含む合成床に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、コンクリートと、コンクリートを打設する際に用いる打ち込み型枠とを一体化させるスラブの構築方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンクリートと打ち込み型枠とが一体化した合成床を構成するのに、下階床に支持部材(支保工)を立設し、支持部材で打ち込み型枠を支持してコンクリートを打設している。
しかし、この工法では、支持部材を施工、撤去する手間、及び費用が掛かり、支持部材によって下階床の作業に支障をきたす問題がある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、コンクリート打設時に支持部材を不要とする合成床を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の合成床は、梁に架け渡されて支持されたトラス筋と、前記トラス筋の下方に配置された木質版または合成樹脂版と、前記木質版または前記合成樹脂版と前記トラス筋とを間隔を開けて前記トラス筋に前記木質版または前記合成樹脂版を固定する固定部材と、前記木質版または前記合成樹脂版の上部に打設され前記木質版または前記合成樹脂版と前記トラス筋と一体化したコンクリート部と、を有し、前記固定部材は、底面部が螺子で前記木質版または前記合成樹脂版に固定され、前記底面部から立ち上がる側部の鍔部が前記トラス筋に溶接された形鋼であり、前記トラス筋は、ボトム筋と、前記ボトム筋の上側に配置されるトップ筋と、前記ボトム筋と前記トップ筋とに溶接されるラチス筋とを含んで構成され、前記形鋼の前記鍔部が前記ボトム筋に溶接され、前記ラチス筋と前記ボトム筋との溶接と、前記形鋼の前記鍔部と前記ボトム筋との溶接とが、前記ボトム筋の長手方向に離間している。
【0007】
請求項1に記載の合成床では、コンクリートを打設してコンクリート部を形成する際に、トラス筋に木質版または合成樹脂版がコンクリートの型枠として機能し、コンクリートの硬化後は木質版または合成樹脂版とコンクリート部とが一体化する。
また、木質版または合成樹脂版は、梁に架け渡されて支持されるトラス筋に固定部材を用いて固定されているので、コンクリート打設時に木質版または合成樹脂版を下階床から支持する支持部材が不要となる。このため、工期を短縮できる。
【0009】
請求項1に記載の合成床では、木質版または合成樹脂版が、トラス筋のボトム筋に溶接された形鋼によってトラス筋に固定されている。固定部材として形鋼を用いているので、固定部材の構成が簡単になり、また、トラス筋との溶接が容易になる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の合成床において、前記底面部が前記螺子で前記木質版または前記合成樹脂版に前記螺子が貫通しないように固定されている。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の合成床において、前記木質版には、前記コンクリート部と接触する部分に防水処理が施されている。
【0011】
請求項3に記載の合成床の木質版には、コンクリート部と接触する部分に防水処理が施されているため、コンクリートの水分が木質版に吸収されることが抑制される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の合成床は上記構成としたので、合成床の一部を構成しコンクリート打設時に型枠として機能する木質版または合成樹脂版を下から支持する支持部材が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る合成床を示す断面図である。
【
図2】トラス筋と木質床版との接合部分を示す側面図である。
【
図3】トラス筋と木質床版との接合部分を示すトラス筋に対して直角な断面図である。
【
図4】木質の梁に支持されるトラス筋の支持構造を示すトラス筋付近の断面図である。
【
図5】トラス筋とH形鋼の梁との接合部分を示すトラス筋付近の断面図である。
【
図6】コンクリート打設前の状態を示す
図1に対応する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る合成床について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
<合成床>
図1に示すように、本発明の実施形態に係る合成床20は、コンクリート部としてのコンクリートスラブ30と木質床版40とが一体的に形成されたスラブである。合成床20は、建物の内部において、図示しない柱に支持された梁(例えば梁12、梁14)に架け渡されている。
【0016】
合成床20を架け渡す梁としては、
図1の紙面左側に示すH形鋼からなる梁12、紙面右側に示す木質の梁14又は図示しない鉄筋コンクリート製の梁等を用いることができ、構造種別は特に限定されない。本実施形態においては、合成床20が梁12及び梁14に架け渡されている場合について説明する。
【0017】
なお、本実施形態のH形鋼からなる梁12の外面には、上面以外の部分にロックウール等の耐火被覆44が施されている。また、木質の梁14は、例えば、耐火集成材などを用いることができる。
【0018】
本明細書においては、
図1の紙面左右方向をX方向と称し、紙面前後方向をY方向と称す。X方向とY方向とは互いに略直交する方向である。後述する
図2においては、紙面左右方向がY方向と一致する方向とされ、紙面前後方向がX方向と一致する方向とされている。
【0019】
(コンクリートスラブ)
合成床20を形成するコンクリートスラブ30は、コンクリート34にトラス筋32、及びトラス筋32と直交する連結筋32Dが埋設されて形成されている。
図2,3に示すように、本実施形態で用いるトラス筋32は、1本のトップ筋32A、2本のボトム筋32B、及びラチス筋32Cを備えて形成されている。ラチス筋32Cは、上下方向に振幅を持つ波型形状とされ、トップ筋32Aとボトム筋32Bとを連結している。トラス筋32は、例えば、工場等においてトップ筋32A及びボトム筋32Bの側部にラチス筋32Cを溶接して製造されている。
【0020】
トラス筋32は、梁12、及び梁14の長手方向(Y方向)に沿って間隔を開けて複数配置されており、これら複数のトラス筋32の上部には、トラス筋32の長手方向(X方向)に対して直交する連結筋32Dが掛け渡されている。なお、連結筋32Dは、トラス筋32のトップ筋32Aに針金などで緊結されている。
【0021】
コンクリート34は、後述する木質床版40を型枠(捨て型枠)として打設される。
【0022】
図1~3に示すように、トラス筋32には、一方のボトム筋32Bの下端と他方のボトム筋32Bの下端とがハット形鋼46によって連結されている。
ハット形鋼46は、底面部としてのウエブ46Aの両端に一対の側部としてのフランジ部46Bが連接され、フランジ部46Bのウエブ側とは反対側に鍔部としてのアーム部46Cが連接されている一般的な構造のものある。本実施形態では、ハット形鋼46は、ウエブ46Aを下側に向け、ボトム筋32Bと直交する方向に配置されている。また、アーム部46Cの上面とボトム筋32Bの下端とは溶接W1にて接合されている。
【0023】
なお、ラチス筋32Cとボトム筋32Bとの溶接W2と、ハット形鋼46のアーム部46Cとボトム筋32Bとの溶接W1とは、ボトム筋32Bの長手方向に離間している(離間寸法S)。このように、溶接W1と溶接W2とを離間させることで、ハット形鋼46のアーム部46Cとボトム筋32Bの溶接W1と、ラチス筋32Cとボトム筋32Bの溶接W2とが、互いに悪影響を与えることが抑制される。
【0024】
トラス筋32は、一方側がH形鋼の梁12の上にハット形鋼46を介して支持されており、他方側が木質の梁14に取り付けられたラグスクリュ-ボルト48に支持されている。
H形鋼の梁12の上に搭載されたハット形鋼46は、溶接により梁12に接合されている。
図5に示すように、本実施形態では、ハット形鋼46と梁12とは、焼抜き栓溶接W3により接合されているが、他の種類の溶接により接合してもよい。これにより、トラス筋32の一方側がハット形鋼46を介してH形鋼の梁12に支持されている。
【0025】
なお、本実施形態では、ハット形鋼46を用いてトラス筋32をH形鋼の梁12に支持したが、トラス筋32を支持する部材は、ハット形鋼46に限らず、Z形鋼などの他の種類の形鋼を用いてもよく、鋼板を必要とする形状に折り曲げたものであってもよく、その形状は問わない。
【0026】
ハット形鋼46の高さ寸法hは、鉄筋(トラス筋32)のかぶり厚さと同じ寸法としており、ハット形鋼46は鉄筋のスペーサーとしても活用されている。これにより、かぶり厚さを確保するためのスペーサーを別部品として用意する必要がない。
【0027】
本実施形態では、木質の梁14に2本のラグスクリュ-ボルト48が固定されている。トラス筋32のボトム筋32Bは、ラグスクリュ-ボルト48に取り付けられた一対の平座金50、及び一対のナット52で挟持されており、これにより、トラス筋32の他方側がラグスクリュ-ボルト48を介して木質の梁14に支持されている。
【0028】
(木質床版)
図2に示すように、本実施形態の木質床版40は、CLT(Cross Laminated Timber)を用いて形成されている。木質床版40としては、CLTの他、LVL(Laminated Veneer Lumber)、集成材、合板、無垢板等を用いてもよい。木質床版40はY方向に複数配置されている。
【0029】
木質床版40は、少なくとも、コンクリート34と接触する部分に防水処理が施されていることが好ましい。
図2、及び
図3に示すように、木質床版40の上面全体には、木質床版40がコンクリート34の水分を吸収しないように、防水層としての防水シート54が貼り付けられて防水処理が施されている。なお、防水シート54に代えて、木質床版40のコンクリート34と接する部分(例えば上面全体)に防水塗料を塗布するなどの防水処理を施してもよい。このように、木質床版40に防水処理を施して、木質床版40がコンクリート34の水分を吸収しないようにすることで、木質床版40の美観、及び構造性能を保持することができる。
また、その他の方法として、木質床版40に樹脂を含侵させ、木質床版40自身がコンクリート34の水分を吸水しないようにしてもよい。
【0030】
木質床版40は、ハット形鋼46のウエブ46Aに木ねじ56によって固定されている。なお、木ねじ56の頭部、及び頭部周辺を、防水用のコーキング剤で覆うようにしてもよい。
【0031】
図1に示すように、H形鋼の梁12の上面と木質床版40の上面とは同じ高さにあり(いわゆる面一の関係)、H形鋼の上側のフランジ12Aと木質床版40との間の隙間S1は、フランジ12Aと木質床版40の上に配置した鋼板58で塞がれている。本実施形態では、鋼板58は、H形鋼のフランジ12Aに溶接にて固定されており、木質床版40の端部を上から抑え込むことが出来る。このため、例えば、トラス筋32のハット形鋼46をH形鋼のフランジ12Aに接合する前、かつコンクリート打設前において、風が吹き上げて木質床版40が風を受けた際に、木質床版40が動くことを抑制できる。
【0032】
鋼板58は、木質床版40を取り付けたトラス筋32を梁12と梁14とに架け渡す前に予めH形鋼のフランジ12Aに溶接されていてもよく、木質床版40に木ネジ(図示せず)などで固定しておき、木質床版40を取り付けたトラス筋32を梁12と梁14とに架け渡した後にH形鋼のフランジ12Aに溶接してもよい。
【0033】
また、木質の梁14と木質床版40との間の隙間S2は、山形鋼(アングル)60等で塞がれている。山形鋼60は、木ネジ(図示せず)などで梁14に固定されている。
【0034】
<作用及び効果>
先ず最初に、合成床20の施工工程の一例を簡単に説明する。
(1) トラス筋32に木質床版40を地組(トラス筋32にハット形鋼46を溶接し、ハット形鋼46に木質床版40を木ネジ56で固定する。)する。なお、トラス筋32に木質床版40を組み付ける作業は、工場等、施工現場以外で行うこともできる。
(2) 木質床版40が固定されたトラス筋32をクレーンで吊り上げ、梁12と梁14とに架け渡し、トラス筋32を梁12と梁14に固定する。
(3) H形鋼の上側のフランジ12Aと木質床版40との間の隙間S1を、鋼板58で塞ぎ、木質の梁14と木質床版40との間の隙間S2を、山形鋼60で塞ぐ(以上、
図6参照)。
(4)その後、
図1に示すように、コンクリート34を木質床版40の上に打設し、コンクリート34を硬化させることでコンクリート34と木質床版40とが一体化させる。
なお、H形鋼の梁12と木質床版40との隙間S1、及び木質の梁14と木質床版40との隙間S2は、コンクリート34を打設する前に鋼板58、及び山形鋼60で塞がれるので、コンクリート34を打設した際に、コンクリート34が隙間S1、及び隙間S2を介して漏れ出ることが抑制される。
【0035】
木質床版40は、トラス筋32に固定されているので、木質床版40の下方の下層において、コンクリート打設時に木質床版40を下から支持する支保工などの仮設補強(支持部材とも呼ばれる)は不要となる。したがって、仮設補強を施工、撤去する作業が不要となり、仮設補強によって下層の作業に支障をきたすことも無くなる。
【0036】
<その他の実施形態>
以上、本発明の合成床の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0037】
上記実施形態では、木質床版40を取り付けたトラス筋32をH形鋼の梁12と木質の梁14とに架け渡して固定したが、木質床版40を取り付けたトラス筋32は、一対のH形鋼の梁12に架け渡してもよく、一対の木質の梁14に架け渡してもよく、トラス筋32を架け渡す梁の材質、種類は問わない。
【0038】
上記実施形態で用いたトラス筋32は、1本のトップ筋32Aと、2本のボトム筋32Bとをラチス筋32Cで連結した構造のものであったが、本発明はこれに限らず、必要に応じて、トラス筋32の代わりに、1本のトップ筋と1本のボトム筋とをラチス筋で連結した構成のトラス筋に代えてもよい。
【0039】
上記実施形態では、合成床20に木質床版40を用いたが、本発明はこれに限らず、木質床版40の代わりに、合成樹脂床板を用いてもよい。なお、合成樹脂床板は、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)等の、補強材で補強された合成樹脂版であってもよい。
【符号の説明】
【0040】
12 梁
14 梁
20 合成床
30 コンクリートスラブ
32 トラス筋
32A トップ筋
32B ボトム筋
32C ラチス筋
40 木質床材
46 ハット形鋼(固定部材、形鋼)
46A ウエブ(底面部)
46C アーム部(鍔部)
54 防水シート(防水層)
56 木ねじ(螺子)