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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】耐震補強構造及び構造物
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/02 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
E01D19/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020215394
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101042
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-09-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 泰邦
(72)【発明者】
【氏名】有薗 和樹
(72)【発明者】
【氏名】塩田 啓介
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104532738(CN,A)
【文献】特開2003-049405(JP,A)
【文献】特開2015-045212(JP,A)
【文献】特開2016-056677(JP,A)
【文献】特開2002-227127(JP,A)
【文献】特開2002-069925(JP,A)
【文献】特開2005-226312(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108729343(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111809526(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112095442(CN,A)
【文献】中国実用新案第204000593(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/02
E04H 9/02
F16F 7/104
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に構築される基礎、前記基礎の上に立設される橋脚柱及び前記橋脚柱の上端に設置される橋脚梁を備えるT型橋脚構造に固定され、前記橋脚柱及び前記橋脚梁の変位によるエネルギーを吸収するダンパーを備え、
前記T型橋脚構造は、
前記橋脚梁の上に設置される上部構造が延びる第1方向に対し交差する方向に並列して前記地盤に設置される第1橋脚構造及び第2橋脚構造を含み、
前記ダンパーは、
前記第1橋脚構造の前記基礎に一方の端部が固定され、前記第2橋脚構造の前記橋脚梁又は前記橋脚柱に他方の端部が固定され、
前記ダンパーは、
複数のダンパーを含み、
前記複数のダンパーは、
前記第1橋脚構造の前記基礎に一方の端部が固定され、前記第2橋脚構造の前記橋脚梁又は前記橋脚柱に他方の端部が固定される第1ダンパーと、
前記第2橋脚構造の前記基礎に一方の端部が固定され、前記第1橋脚構造の前記橋脚梁又は前記橋脚柱に他方の端部が固定される第2ダンパーと、を含み、
前記第1ダンパーは、
複数の第1ダンパーから構成され、
前記複数の第1ダンパーは、
前記第2ダンパーを挟んで配置され、前記第1方向に直角方向であって前記第2橋脚構造の前記橋脚柱の中心を含む断面について対称な位置に配置される、耐震補強構造。
【請求項2】
前記ダンパーは、
変位によるエネルギーを吸収するエネルギー吸収部を備え、
前記第2ダンパーは、
前記エネルギー吸収部の断面積が前記第1ダンパーの前記エネルギー吸収部の断面積よりも大きい、請求項に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
前記ダンパーは、
座屈拘束型ブレース、アンボンドブレース、せん断ダンパー、摩擦ダンパー、オイルダンパー及び回転体ダンパーのうち少なくとも1つで構成される、請求項1又は2に記載の耐震補強構造。
【請求項4】
請求項1~の何れか1項に記載の耐震補強構造と、
前記第1橋脚構造及び前記第2橋脚構造と、を備える構造物。
【請求項5】
前記第1橋脚構造と前記第2橋脚構造とは、
それぞれ独立した前記基礎を備える、請求項に記載の構造物。
【請求項6】
前記第2橋脚構造は、
前記第1橋脚構造よりも前記基礎から前記橋脚梁までの距離が大きい、請求項又はに記載の構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路や鉄道などの橋脚、水門等の土木構造物における柱部材等を補強する耐震補強構造、及びそれを用いた構造物関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土木構造物や建築構造物における柱部材の耐震補強として、対象とする柱部材と該柱部材が設置されたフーチングとの間に、履歴減衰特性を有するダンパーが配置されているものが知られている。ダンパーは、一方の端部が上部構造物である柱部材の側面に固定され、他方の端部が下部構造物であるフーチングに固定されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1によれば、ダンパーを柱部材の周囲に配置することにより、柱部材がフーチングに対し傾斜したときに、柱部材の倒れにより生ずる変位によりダンパーが伸縮し、変位によるエネルギーを吸収する。ダンパーは、柱部材の側面に沿って配置されているため、配置に必要なスペースが小さく、補強による自重の増加も少ない。また、従来のRC巻き立てによる柱部材の補強に比べて、工期が短縮でき、地震などにより振動が加わった後の点検補修も容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-56677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された発明によれば、地震時の柱部材のフーチングに対する倒れによって、ダンパーが伸縮する。構造物に用いられるダンパーとして例えば座屈拘束ブレースを用いた場合、ダンパーは、伸縮方向の変位により塑性変形し、履歴減衰特性を発揮し、エネルギーを吸収し、制震効果を得ることができる。しかし、特許文献1に開示されている発明によると、ダンパーは、柱側面に沿って配置されており、柱部材が倒れることによる変位とダンパーの伸縮方向とが一致していない。そのため、ダンパーは、柱部材の倒れによる伸縮量が小さく、ダンパーのエネルギーの吸収効果を十分に発揮できない場合がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決するものであって、ダンパーの伸縮方向を柱部材の変位方向に合わせることにより効率よく柱部材の変位によるエネルギーを吸収できる耐震補強構造及び構造物提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る耐震補強構造は、地盤に構築される基礎、前記基礎の上に立設される橋脚柱及び前記橋脚柱の上端に設置される橋脚梁を備えるT型橋脚構造に固定され、前記橋脚柱及び前記橋脚梁の変位によるエネルギーを吸収するダンパーを備え、前記T型橋脚構造は、前記橋脚梁の上に設置される上部構造が延びる第1方向に対し交差する方向に並列して前記地盤に設置される第1橋脚構造及び第2橋脚構造を含み、前記ダンパーは、前記第1橋脚構造の前記基礎に一方の端部が固定され、前記第2橋脚構造の前記橋脚梁又は前記橋脚柱に他方の端部が固定され、前記ダンパーは、複数のダンパーを含み、前記複数のダンパーは、前記第1橋脚構造の前記基礎に一方の端部が固定され、前記第2橋脚構造の前記橋脚梁又は前記橋脚柱に他方の端部が固定される第1ダンパーと、前記第2橋脚構造の前記基礎に一方の端部が固定され、前記第1橋脚構造の前記橋脚梁又は前記橋脚柱に他方の端部が固定される第2ダンパーと、を含み、前記第1ダンパーは、複数の第1ダンパーから構成され、前記複数の第1ダンパーは、前記第2ダンパーを挟んで配置され、前記第1方向に直角方向であって前記第2橋脚構造の前記橋脚柱の中心を含む断面について対称な位置に配置される
(2)本発明に係る構造物は、上記の耐震補強構造と、前記第1橋脚構造及び前記第2橋脚構造と、を備える
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1橋脚構造と第2橋脚構造との間にダンパーを配置することにより、第1橋脚構造及び第2橋脚構造のそれぞれの橋脚梁又は橋脚柱の変位する方向とダンパーの伸縮方向が近似するため、ダンパーによるエネルギー吸収量を大きくすることができ、耐震補強効果が高い耐震補強構造を得ることができる。また、耐震補強構造は、2つのT型橋脚構造の間のスペースを活用することにより、サイズの大きいダンパーを設置することができる。そのため、エネルギーを吸収する際のダンパーの伸縮量が大きくなり、耐震補強構造は、大地震等により大きな変位を生ずる構造物の耐震補強構造として高いエネルギー吸収効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る構造物100の断面構造の説明図である。
図2】実施の形態1に係る耐震補強構造10を上方から見た平面図である。
図3】実施の形態1に係る耐震補強構造10の上面視における配置の変形例である。
図4】実施の形態1に係る耐震補強構造10の上面視における配置の変形例である。
図5】実施の形態2に係る構造物200の断面構造の説明図である。
図6】実施の形態3に係る構造物300の断面構造の説明図である。
図7】実施の形態3に係る構造物300の比較例である構造物1300の断面構造の説明図である。
図8】実施の形態3に係る構造物300に地震による振動が加わったときの各部の変位の時間ごとの変化を示したものである。
図9】比較例に係る構造物1300に地震による振動が加わったときの各部の変位の時間ごとの変化を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態1]
以下、実施の形態に係る構造物100及び耐震補強構造10について図面等を参照しながら説明する。なお、図1を含む以下の図面では、各構成部材の相対的な寸法の関係及び形状等が実際のものとは異なる場合がある。また、以下の図面において、同一の符号を付したものは、同一又はこれに相当するものであり、このことは明細書の全文において共通することとする。また、理解を容易にするために方向を表す用語(例えば、上、下、左、右、前、後、表及び裏等)を適宜用いるが、それらの表記は、説明の便宜上の記載であり、装置、器具、又は部品等の配置、方向及び向きを限定するものではない。
【0011】
(構造物100及びT型橋脚構造50)
図1は、実施の形態1に係る構造物100の断面構造の説明図である。実施の形態1において構造物100は、2つのT型橋脚構造50を備え、一方を第1橋脚構造50a、他方を第2橋脚構造50bと呼ぶ。T型橋脚構造50は、例えば上部構造55に車両が走行する道路又は鉄道が設置されるものであり、地盤90に埋設されて構築された基礎53、基礎53の上面から上方に向かって立設された橋脚柱52及び橋脚柱52の上に設置された橋脚梁51を備える。図1は、構造物100の上部構造55が延びる第1方向に対し垂直な断面構造の説明図である。T型橋脚構造50は、第1方向に並べられた複数の橋脚柱52を有し、その上に橋脚梁51が形成されている。第1橋脚構造50aと第2橋脚構造50bとは、第1方向に交差する第2方向に並列されている。橋脚梁51の上には、上部構造55が設置されている。上部構造55は、y方向に複数並べられた複数のT型橋脚構造50の上に設置されている。第1橋脚構造50a及び第2橋脚構造50bは、それぞれ上部構造55の延びる方向に沿って複数並べられている。図1においては、上部構造55が延びる第1方向は、y方向に相当し、2つのT型橋脚構造50が並べられている第2方向は、x方向に相当する。橋脚柱52は、基礎53からz方向に延びている。
【0012】
第1橋脚構造50aと第2橋脚構造50bとは、x方向に隣り合って並べられており、それぞれ独立した橋脚梁51、橋脚柱52及び基礎53を備えている。また、第1橋脚構造50aと第2橋脚構造50bとの間には耐震補強構造10が設置されている。
【0013】
(耐震補強構造10)
実施の形態1において、耐震補強構造10は、複数のダンパーから構成されており、両端が2つのT型橋脚構造50にそれぞれ固定されているダンパー10a及び10bを備える。ダンパー10aは、第1橋脚構造50aの基礎53に一方の端部12が固定されており、第2橋脚構造50bの橋脚柱52の上部に他方の端部11が固定されている。また、ダンパー10bは、第2橋脚構造50bの基礎53に一方の端部12が固定され、第1橋脚構造50aの橋脚柱52に他方の端部11が固定されている。なお、ダンパー10aを第1ダンパー、ダンパー10bを第2ダンパーと呼ぶ場合がある。
【0014】
ダンパー10a及び10bは、例えば、座屈拘束型ダンパーであり、両端に接続されている構造の変位(移動)により軸材13が伸縮して塑性変形することによりエネルギーを吸収するものである。座屈拘束型ダンパーは、軸材13の両端が相対変位する2つの構造に固定され、軸材13が長手方向に伸縮するように構成されている。軸材13は、外周が拘束部材14に覆われており、軸材13に圧縮方向の力が加わっても座屈しないように構成されている。なお、ダンパー10a及び10bは、座屈拘束型ダンパーに限定されず、長手方向(軸方向)の伸縮によりエネルギーを吸収するものであれば、その他の形態のダンパーを適用しても良い。なお、軸材13及び拘束部材14をエネルギー吸収部と称する場合がある。
【0015】
(耐震補強構造10の作用)
ここで、構造物100が地震による振動を受けた場合の耐震補強構造10によるエネルギーの吸収について説明する。図1は、耐震補強構造10によるエネルギー吸収を模式的に説明するものである。地震による振動により図1の第2橋脚構造50bの橋脚柱52が第1橋脚構造50a側に倒れるように変位した場合を想定する。この時、第2橋脚構造50bの橋脚柱52は、基礎53と橋脚柱52との接合部56を中心にして角度αだけ倒れる。すると、ダンパー10aの端部11も橋脚柱52の変位と同じく接合部56を中心にして角度αだけ回転変位する。
【0016】
橋脚柱52に合わせてダンパー10aの端部11が角度αだけ回転変位すると、ダンパー10aの軸材13は、長手方向に圧縮されるように変形する。実施の形態1において、ダンパー10aの長手方向は、円弧Cの接線方向Pと近似している。そのため、第2橋脚構造50bの橋脚柱52の倒れによる変位とダンパー10aの長手方向の圧縮量とは、ほぼ一致する。これにより、ダンパー10aは、効率よく第2橋脚構造50bの橋脚柱52の振動エネルギーを吸収することができる。
【0017】
また、第2橋脚構造50bの橋脚柱52が第1橋脚構造50aから離れる側に倒れた場合は、橋脚柱52に合わせてダンパー10aの端部11が反時計回りに角度αだけ回転変位する。そのため、ダンパー10aの軸材13の伸び量は、橋脚柱52の倒れによる変位とほぼ一致する。よって、ダンパー10aは、軸材13の伸び方向においても効率よく第2橋脚構造50bの橋脚柱52の振動エネルギーを吸収することができる。
【0018】
実施の形態1においては、第1橋脚構造50aと第2橋脚構造50bとの間にもう一つのダンパー10bが取り付けられている。ダンパー10bも、ダンパー10aと同様に機能し、第1橋脚構造50aの橋脚柱52の振動エネルギーを効率よく吸収することができる。
【0019】
実施の形態1においては、ダンパー10a及び10bが橋脚柱52の上端に固定されているが、橋脚柱52に生じる変形に応じて固定位置を変更しても良い。例えば、ダンパー10a及び10bは、橋脚柱52の中間部に固定されていても良い。この場合においても、ダンパー10a及び10bは、橋脚柱52の変位の方向に合わせて中心軸の方向を設定することが望ましい。
【0020】
図2は、実施の形態1に係る耐震補強構造10を上方から見た平面図である。図1に示されている構造物100は、断面構造が同じである2つのT型橋脚構造50をx方向に並列して構成されている。そして、構造物100は、一方のT型橋脚構造50の橋脚柱52の側面と他方のT型橋脚構造50の基礎53とを接続するダンパー10a及び10bを少なくとも一つずつ備える。ダンパー10a及び10bとは、図2に示す平面図においては、中心軸が平行になるように配置され、図1に示す正面図(y方向視点)においては、中心軸が交差するように配置されている。つまり、ダンパー10a及び10bは、平面図(z方向視点)において上部構造55が延びるy方向に対し直角方向に中心軸が延びるように配置されている。T型橋脚構造50は、図2に示す平面図においては、例えば地震によりx方向に振動する。ダンパー10a及び10bは、平面図において橋脚梁51及び橋脚柱52が変位するx方向に中心軸が延びるように配置されることにより、T型橋脚構造50の振動エネルギーを効率的に吸収することができる。
【0021】
ダンパー10a及び10bは、平面図において上部構造55が延びる方向に対し直角方向に中心軸が延びるように設置されることが望ましいが、傾斜して設置されていても橋脚梁51及び橋脚柱52の振動エネルギーの吸収効果を発揮することができる。すなわち、耐震補強構造10を構成するダンパー10a及び10bは、両端を2つのT型橋脚構造50のそれぞれに固定するように配置するため、長手方向の長さを大きく取ることができる。そのため、ダンパー10a及び10bは、伸縮量が大きく、例えば軸材13の塑性変形によるエネルギー吸収量が大きくなる。また、図1に示すようにT型橋脚構造50のうち変位の大きい橋脚柱52の上部にダンパー10a及び10bを取り付けることにより、軸材13が塑性変形しエネルギー吸収能力を十分に発揮できるという利点がある。ダンパー10a及び10bを上部構造55が延びる第1方向に直角方向に対し傾斜させて設置する場合には、ダンパー10a及び10bの伸縮量が適正になるように設置すればよい。
【0022】
上記のように、ダンパー10a及び10bは、設置の自由度が高いため、既設の構造物100に対しても設置が容易である。よって、耐震補強構造10は、建設されてから年月の経過している構造物100を補強する場合などに有効である。
【0023】
(耐震補強構造10の変形例)
図3は、実施の形態1に係る耐震補強構造10の上面視における配置の変形例である。耐震補強構造10は、ダンパー10a及び10bの数量を適宜変更することができる。図3に示される耐震補強構造10の変形例においては、第1橋脚構造50aと第2橋脚構造50bとの間に設置されているダンパー10aが2本で構成されている。ダンパー10bは、橋脚柱52の中心軸を含む仮想平面上に配置され、ダンパー10aは、そのダンパー10bを挟み込むように配置されている。つまり、第2ダンパー10bを挟んで複数の第1ダンパー10aが配置されている。第2ダンパー10bは、中心軸が第2橋脚構造50bの橋脚柱52の中心軸を含む断面内に配置されている。言い換えると、上面視において、第2ダンパー10bの中心軸はx方向に沿って設置されている。そして、第1ダンパー10aは、第2ダンパー10bの中心軸が配置されている断面について対称な位置に配置されている。このように構成されることにより、地震などの振動により橋脚柱52が変位する際に、ダンパー10a及び10bの減衰力により橋脚柱52がねじれる変形を抑えることができる。
【0024】
例えば、図2に示される耐震補強構造10の場合、ダンパー10aの中心軸の延長線は、第2橋脚構造50bの橋脚柱52の中心軸に対しずれて配置されている。また、ダンパー10bの中心軸の延長線は、第1橋脚構造500の橋脚柱52の中心軸に対しずれて配置される。従って、橋脚柱52がx方向に振動したときに、橋脚柱52はダンパー10a又は10bから反力を受けて橋脚柱52の中心軸周りのモーメントを受ける。一方、図3に示されている耐震補強構造10はダンパー10aの中心軸が橋脚柱52の中心軸に対しずれて配置されているが、減衰力が橋脚柱52の中心軸に対し対称的な位置に掛かるように配置することにより橋脚柱52の中心軸周りのモーメントの発生を抑えることができる。なお、図3に示される耐震補強構造10の場合、第2ダンパー10bのエネルギー吸収部である軸材13及び拘束部材14の断面積は、第1ダンパー10aのエネルギー吸収部である軸材13及び拘束部材14の断面積よりも大きく形成されている。ただし、図3において2つの第1ダンパー10aのエネルギー吸収量は、1つの第2ダンパー10bと釣り合うように構成されている。
【0025】
図4は、実施の形態1に係る耐震補強構造10の上面視における配置の変形例である。構造物100を構成するT型橋脚構造50は、x方向に沿って配置されているものに限定されず、y方向にずれて配置されている場合もある。この場合においても、ダンパー10a及び10bは、それぞれ一方の端部12が一方のT型橋脚構造50の基礎53に固定され、他方の端部11が他方のT型橋脚構造50の橋脚柱52に固定されている。図4に二点鎖線で示されているようにT型橋脚構造50の上部構造55がy方向に延びている。そして、橋脚柱52が地震によりx方向に振動する場合、ダンパー10a及び10bの中心軸は、それぞれ橋脚柱52の中心軸を通り、x軸に沿って配置されている。よって、橋脚柱52は、ねじれる変形が抑えられる。また、図4におけるダンパー10a及び10bも、図2及び図3に示されている耐震補強構造10と同様に橋脚柱52の振動エネルギーを効率的に吸収することができる。
【0026】
以上において説明した実施の形態1に係る耐震補強構造10のダンパー10a及び10bは、一方の端部12が一方のT型橋脚構造50の基礎53に固定され、他方の端部11が他方のT型橋脚構造50の橋脚柱52に固定されていれば、中心軸の設置方向を適宜変更しても良い。例えば、上部構造55が直線的ではなく曲線状に延びている場合など構造物100の仕様に応じて地震により主に振動する方向がx方向以外である場合は、ダンパー10a及び10bの中心軸の設置方向を振動の振幅方向に向ける。以上のように、耐震補強構造10は、例えば高速道路又は鉄道などの高架橋の様々な配置の橋脚柱52に対し設置することができる。つまり、耐震補強構造10は、構造物100全体の構造に応じて配置の自由度が高いため、既設の構造物100に対する補強として適用しやすいという利点がある。
【0027】
[実施の形態2]
実施の形態2に係る構造物200及び耐震補強構造210について説明する。実施の形態2に係る構造物200は、実施の形態1に対し耐震補強構造210の固定する位置を変更したものである。なお、実施の形態1と同一の機能及び作用を有する構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0028】
図5は、実施の形態2に係る構造物200の断面構造の説明図である。実施の形態2に係る構造物200の耐震補強構造210を構成するダンパー10a及び10bは、一方の端部12が一方のT型橋脚構造50の基礎53に固定され、他方の端部11が他方のT型橋脚構造50の橋脚梁51に固定されている。
【0029】
図5に示すように、橋脚梁51が地震により振動し接合部56を中心に倒れるように回転変位した場合、実施の形態2に係るダンパー10a及び10bは、中心軸が円弧Cの接線方向にほぼ一致しているため、実施の形態1に係る耐震補強構造10と同様にT型橋脚構造50の振動エネルギーを効率的に吸収することができる。
【0030】
また、図1及び図5においては、T型橋脚構造50の橋脚柱52の地震による変位は、接合部56を中心に回転変位として説明しているが、T型橋脚構造50の地震による変位はこれだけに限定されるものではない。例えば、基礎53から下方に延びる杭54が固定され、基礎53、橋脚柱52及び橋脚梁51の全体が変位する場合など、回転変位の中心は、構造物100及び200の仕様に応じて変化し得る。しかし、実施の形態2に係る耐震補強構造210のようにダンパー10a及び10bは、橋脚柱52だけではなく橋脚梁51にも固定されることにより、橋脚柱52の高さ及び橋脚梁51の大きさに応じ、最も振動エネルギーの吸収効率が高い位置に設置することができる。
【0031】
実施の形態2の耐震補強構造210は、橋脚柱52の上に設置されている橋脚梁51の変位を直接減衰させることができるため、橋脚柱52の全体及び橋脚梁51に生ずるせん断力及び曲げモーメントを減衰させることができ、補強効果が高い。つまり、実施の形態1に係る耐震補強構造10と比較して、実施の形態2に係る耐震補強構造210は、T型橋脚構造50のうち耐震補強できる範囲が広い。
【0032】
実施の形態2に係る耐震補強構造210は、ダンパー10a及び10bのそれぞれの端部11が橋脚梁51に固定されているため、実施の形態1に係る耐震補強構造10と比較して高い位置に固定されており、ダンパー10a及び10bの下方のスペースが大きい。よって、そのスペースを通路として利用することができる。
【0033】
[実施の形態3]
実施の形態3に係る構造物300及び耐震補強構造310について説明する。実施の形態3に係る構造物300は、実施の形態1に対しT型橋脚構造50の構成及び耐震補強構造10の構成を変更したものである。なお、実施の形態1と同一の機能及び作用を有する構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0034】
図6は、実施の形態3に係る構造物300の断面構造の説明図である。構造物300は、第2橋脚構造350bよりも橋脚柱352が短く構成されている第1橋脚構造350aを備える。耐震補強構造310は、ダンパー10aから構成されており、一方の端部12が第1橋脚構造350aの基礎53に、他方の端部11が第2橋脚構造350bの橋脚柱52に固定されている。
【0035】
第1橋脚構造350aの橋脚柱352は、第2橋脚構造350bの橋脚柱52に対し短い。そのため、構造物300が地震による振動を受けた場合、第1橋脚構造350aの橋脚柱352及び第2橋脚構造350bの橋脚柱52は、固有周期が異なり、第1橋脚構造350aの橋脚柱352の固有周期は、第2橋脚構造350bの橋脚柱52の固有周期よりも短い。そのため、第1橋脚構造350aの橋脚柱352と第2橋脚構造350bの橋脚柱52とは、振動に位相差が生じる。
【0036】
図7は、実施の形態3に係る構造物300の比較例である構造物1300の断面構造の説明図である。比較例に係る構造物1300は、第1橋脚構造1350a及び第2橋脚構造1350bの基礎1353が一体になっている。なお、第1橋脚構造1350aの橋脚柱352及び第2橋脚構造1350bの橋脚柱52は、構造物300と同様に構成されている。そのため、地震により第1橋脚構造1350aの橋脚柱352と第2橋脚構造1350bの橋脚柱52とは、構造物300と同様に振動に位相差が生じる。
【0037】
構造物300及び構造物1300に地震による振動が加わった場合、橋脚柱52の振動と橋脚柱352の振動とは固有周期が異なるため、図6及び図7に示すように、橋脚柱52が第1橋脚構造350aに近づくように変位したときに、橋脚柱352が第2橋脚構造350bに近づくように変位する場合がある。
【0038】
図7に示されるように、比較例に係る構造物1300は、基礎1353が一体に形成されているため、第1橋脚構造1350aの下部の基礎1353と第2橋脚構造1350bの下部の基礎1353とは、同じ方向に動く。一方、図6に示されるように、実施の形態3に係る構造物300は、第1橋脚構造350aの基礎53と第2橋脚構造350bの基礎53とが独立しており、上部構造である橋脚柱52及び352と同方向に変位する。ただし、基礎53の変位は、橋脚柱352及び52と比較すると小さい。以上から、実施の形態3に係る構造物300のダンパー10aは、比較例に係る構造物1300のダンパー10aよりも伸縮量が大きくなり、振動エネルギーを吸収する効果が高くなる。
【0039】
図8は、実施の形態3に係る構造物300に地震による振動が加わったときの各部の変位の時間ごとの変化を示したものである。図9は、比較例に係る構造物1300に地震による振動が加わったときの各部の変位の時間ごとの変化を示したものである。それぞれのグラフにおいて、Kは、ダンパー10aの両端の端部11及び12の相対変位の時間による変化を示している。すなわち、Kは、ダンパー10aの伸縮量の時間による変化を意味している。Lは、ダンパー10aの上部の端部11のみの変位量の時間による変化を示している。すなわち、Lは、橋脚柱52の倒れによる変位の時間による変化を示している。Mは、ダンパー10aの下部の端部12のみの変位量の時間による変化を示している。すなわち、Mは、第1橋脚構造350aの基礎53の時間による変位の変化を示している。ダンパー10aの伸縮量を示すKは、LとMとの差で求められる。
【0040】
図9に示されている比較例の構造物1300は、第2橋脚構造1350bの橋脚柱52に固定された端部11の変位を示すLの振幅と基礎353の変位を示すMの振幅とが同位相で変化している。従って、ダンパー10aの伸縮量を示すKの最大値は、Lの最大値よりも小さくなる。
【0041】
一方、図8に示されている実施の形態3に係る構造物300は、第2橋脚構造350bの橋脚柱52に固定された端部11の変位を示すLの振幅と第1橋脚構造350aの基礎53の変位を示すMの振幅とが互いに逆位相で変化している。従って、Kの最大値は、橋脚柱52の変位量及び基礎53の変位量よりも大きい値となる。従って、ダンパー10aは、伸縮量が大きく、効率的に振動エネルギーを吸収することができる。
【0042】
なお、実施の形態1に係る構造物100及び実施の形態2に係る構造物200においても、第1橋脚構造50aと第2橋脚構造50bとは、基礎53が独立している。構造物100と構造物200とは、橋脚柱52の長さが同じである2つのT型橋脚構造50を備え、その2つのT型橋脚構造50は、基本的には同位相で変位する。しかし、構造物100及び200が有する他のT型橋脚構造50の配置、数量、上部構造55の仕様の相違又は基礎53が設置されている地盤90の強度の相違などにより、第1橋脚構造50a及び第2橋脚構造50bの振動の位相が互いに異なる場合がありうる。その場合、一方のT型橋脚構造50の橋脚柱52の側面と他方のT型橋脚構造50の基礎53とを接続するダンパー10a及び10bは、上記の実施の形態3に係る構造物300のダンパー10aと同様に、伸縮量を大きくできるため、より効率的に地震による振動エネルギーの吸収を行うことができる。
【0043】
実施の形態1~3においては、ダンパー10a及び10bは、塑性変形によりT型橋脚構造50の振動エネルギーを吸収する座屈拘束型ブレースとして説明したが、アンボンドブレース、せん断ダンパー、摩擦ダンパー、オイルダンパー又は回転慣性体ダンパーを適用することもできる。上記のダンパーをダンパー10a及び10bとして設置した場合、ダンパー10a及び10bの軸方向の伸縮によって発生するエネルギー吸収効果により橋脚構造の耐震補強を行うことに限らず、ダンパー自体の弾性変形領域における伸縮量の増大に伴う軸方向反力の増加により、T型橋脚構造50に発生するせん断力及び曲げモーメントを低減することができる。即ち、ダンパー10a及び10bは、T型橋脚構造50の振動に対し伸縮量をできる限り大きくなる様に設置されているため、座屈拘束型ブレース以外のダンパーであってもエネルギー吸収効果が高く、また、軸方向反力によるT型橋脚構造50の耐荷力補強効果が高い。なお、ダンパー10a及び10bは、複数の種類のダンパーにより構成されても良い。
【0044】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、各実施の形態及び各変形例同士を組み合わせることもでき、また別の公知の技術と組み合わせることも可能である。さらに、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 耐震補強構造、10a (第1)ダンパー、10b (第2)ダンパー、11 端部、12 端部、13 軸材、14 拘束部材、50 T型橋脚構造、50a 第1橋脚構造、50b 第2橋脚構造、51 橋脚梁、52 橋脚柱、53 基礎、54 杭、55 上部構造、56 接合部、90 地盤、100 構造物、200 構造物、210 耐震補強構造、300 構造物、310 耐震補強構造、350a 第1橋脚構造、350b 第2橋脚構造、352 橋脚柱、500 第1橋脚構造、1300 構造物、1350a 第1橋脚構造、1350b 第2橋脚構造、1353 基礎、C 円弧、P 接線方向、α 角度。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9