(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】計測装置、リソグラフィ装置、および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240830BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240830BHJP
G01B 11/02 20060101ALI20240830BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
G03F7/20 501
G03F7/20 521
H01L21/30 502Z
G01B11/02 Z
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2021023690
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 正
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-158376(JP,A)
【文献】特開2010-112768(JP,A)
【文献】特開2009-002706(JP,A)
【文献】特開2005-156417(JP,A)
【文献】特開2011-119594(JP,A)
【文献】特開2007-305647(JP,A)
【文献】特開2005-101201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G01B 11/00
G01B 9/00
G01B 21/00
B29C 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の形状を計測する計測装置であって、
前記物体の表面が水平面に対して傾斜を有するように前記物体を保持する保持部と、
前記保持部によって保持された前記物体に計測光を照射し、前記物体で反射された前記計測光を受光することにより、前記物体の高さ位置の検出を行う検出部と、
前記保持部と前記検出部とを、前記水平面と平行な所定の方向に相対的に移動させる駆動機構と、
前記物体の複数の計測点で前記検出が行われるように前記検出部と前記駆動機構とを制御する制御部と、
を有し、
前記検出部による検出結果は、前記検出部と前記物体との間の距離に応じて周期的に変化する誤差を含んでおり、
前記制御部は、前記傾斜と、前記誤差の周期とに基づいて、前記複数の計測点間の間隔である計測ピッチを設定する、ことを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記傾斜は、前記物体の前記所定の方向における計測範囲内に少なくともJ周期(Jは2以上の整数)にわたる前記誤差が含まれるように設定されている、ことを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記誤差の周期のK倍(KはJより小さい整数)の距離だけ離れた複数の位置で前記複数の計測点における前記検出が行われるように、前記計測ピッチが設定されている、ことを特徴とする請求項2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記誤差の周期のK倍(KはJより小さい整数)の距離だけ離れた複数の第1位置と、前記複数の第1位置のそれぞれから前記誤差の前記周期の半分の位相差を有する複数の第2位置とで前記複数の計測点における前記検出が行われるように、前記計測ピッチが設定されている、ことを特徴とする請求項2に記載の計測装置。
【請求項5】
前記物体の表面の前記傾斜を確保するために、前記保持部によって保持されるときの前記物体の回転角を調整する調整機構を更に有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項6】
前記保持部は、前記傾斜の角度を補正する補正駆動機構を含む、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の計測装置。
【請求項7】
基板にパターンを形成するリソグラフィ装置であって、
原版を保持する原版保持部と、
前記基板を保持する基板保持部と、
前記原版保持部によって保持された前記原版および前記基板保持部によって保持された前記基板のいずれかの形状を計測する請求項1から6のいずれか1項に記載の計測装置と、
を備え、
前記計測装置による計測の結果に基づいて前記原版と前記基板とが平行になるようにしてから前記パターンの形成を行う、ことを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項8】
前記リソグラフィ装置は、前記原版のパターンを投影光学系を介して前記基板に投影して前記基板にパターンを形成する露光装置であることを特徴とする請求項7に記載のリソグラフィ装置。
【請求項9】
前記リソグラフィ装置は、前記原版のパターン面を前記基板の上のインプリント材と接触させて前記基板の上にパターンを形成するインプリント装置であることを特徴とする請求項7に記載のリソグラフィ装置。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか1項に記載のリソグラフィ装置を用いて基板にパターンを形成する工程と、
前記パターンが形成された基板を加工する工程と、
を有し、
前記加工された基板から物品を製造することを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置、リソグラフィ装置、および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイス製造工程におけるインプリント技術が注目されている。インプリント技術は、基板上にインプリント材を供給し、パターンが形成された型をインプリント材に接触させ、その状態でインプリント材を硬化させることにより、基板の上にパターンを転写する。インプリント材を硬化させる方法の一つとして、光硬化法がある。光硬化法を適用したインプリント装置では、初めに、基板上のインプリント領域(ショット領域)に光硬化性のインプリント材が供給される。次に、このインプリント材と型との接触が行われる。インプリント材と型とが接触した状態で、インプリント材を硬化させるためにインプリント材に光(紫外線)が照射される。インプリント材が硬化した後、インプリント材から型が引き離される。こうして、基板上にパターンが形成される。特許文献1には、光硬化法を採用したインプリント装置が開示されている。
【0003】
インプリント装置においては、型と基板とを平行にした状態でインプリントを行うことが非常に重要である。
図2(A)において、インプリントヘッド4によって保持された型3と基板5とが平行になっていない。この状態で基板5の上のインプリント材14と型3とを接触させると、
図2(B)に示されるように、ショット領域20内の部分においてインプリント材の未充填21が発生しうる。さらには、その部分とは反対側の端部において、インプリント材14のはみ出し22も生じうる。このような未充填21やはみ出し22は、パターンの欠陥となりうる。また、型と基板とを平行にした状態でインプリントが行われないと、ショット領域内でインプリント材の厚み(残膜厚)が不均一となり、パターンの線幅均一性が低下しうる。
【0004】
特許文献2には、型の表面および基板の表面をセンサで計測することにより、それぞれの傾きを基板ステージの駆動方向の面を基準として求め、型と基板とを平行にする技術が開示されている。
【0005】
通常、型または基板の高さを検出する高さセンサには、レーザー干渉計などの光学センサが用いられる。この光学センサによる計測の結果には、光学部品の加工精度などに起因する、計測軸に対して周期的な非線形誤差(サイクリックエラー)が含まれうることが知られている。特許文献3には、サイクリックエラーの周期だけ計測対象物が移動した位置を計測対象とすることで、サイクリックエラーの影響を受けない計測手法が開示されている。特許文献4には、サイクリックエラーの周期の1/n(n≧2)だけ光学系または被検物を駆動させて計測し、それらの計測結果を平均化することで、サイクリックエラーの影響を低減する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4185941号公報
【文献】特開2005-101201号公報
【文献】特開2010-101701号公報
【文献】特許第6655888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3のように、サイクリックエラーの周期だけ計測対象が移動した位置を計測対象とする手法は、計測軸方向に計測対象を移動させるための駆動機構を持っていることが前提である。計測軸方向に計測対象を移動させる駆動機構を持っていない場合には、その手法を使うことはできない。また、特許文献4のように、サイクリックエラーの周期の1/nだけ駆動させてn回分の計測結果の平均をとる手法は、計測をn回繰り返すことに時間が割かれ、スループットが低下する。
【0008】
本発明は、例えば、簡便な構成でサイクリックエラーの影響を低減するのに有利な計測装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によれば、物体の形状を計測する計測装置であって、前記物体の表面が水平面に対して傾斜を有するように前記物体を保持する保持部と、前記保持部によって保持された前記物体に計測光を照射し、前記物体で反射された前記計測光を受光することにより、前記物体の高さ位置の検出を行う検出部と、前記保持部と前記検出部とを、前記水平面と平行な所定の方向に相対的に移動させる駆動機構と、前記物体の複数の計測点で前記検出が行われるように前記検出部と前記駆動機構とを制御する制御部と、を有し、前記検出部による検出結果は、前記検出部と前記物体との間の距離に応じて周期的に変化する誤差を含んでおり、前記制御部は、前記傾斜と、前記誤差の周期とに基づいて、前記複数の計測点間の間隔である計測ピッチを設定する、ことを特徴とする計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、簡便な構成でサイクリックエラーの影響を低減するのに有利な計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】インプリント処理におけるインプリント装置の動作を説明する図。
【
図5】光学センサの計測値のサイクリックエラーを説明する模式図。
【
図6】計測対象である基板の表面の傾きを求める処理を説明する図。
【
図8】計測ピッチおよび計測ずらし量の調整を説明する図。
【
図9】計測対象である型の表面の傾きを求める処理を説明する図。
【
図10】実施形態における物品製造方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
<第1実施形態>
本発明の一側面は、物体の形状を計測する計測装置に関する。本発明に係る計測装置は、露光装置やインプリント装置等のリソグラフィ装置における原版または基板の傾きを含む形状の計測に適用されうるが、加工装置、検査装置、顕微鏡などの他の装置にも適用可能である。なお、露光装置は、原版のパターンを投影光学系を介して基板に投影して基板にパターンを形成する装置である。インプリント装置は、原版のパターン面を基板の上のインプリント材と接触させて基板の上にパターンを形成する。以下では、本発明に係る計測装置がリソグラフィ装置の一つであるインプリント装置に適用された例を説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係るインプリント装置1の構成を示す図である。本明細書および図面においては、水平面をXY平面とするXYZ座標系において方向が示される。被処理基板である基板5の表面が水平面(XY平面)と平行になるように基板ステージ6の上に置かれた場合における、基板5の表面に沿う平面内で互いに直交する方向をX軸およびY軸とし、X軸およびY軸に垂直な方向をZ軸とする。また、以下では、XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向といい、X軸周りの回転方向、Y軸周りの回転方向、Z軸周りの回転方向をそれぞれθx方向、θy方向、θz方向という。
【0015】
まず、実施形態に係るインプリント装置の概要について説明する。インプリント装置は、基板上に供給されたインプリント材を型と接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギーを与えることにより、型の凹凸パターンが転写された硬化物のパターンを形成する装置である。
【0016】
インプリント材としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する硬化性組成物(未硬化状態の樹脂と呼ぶこともある)が用いられる。硬化用のエネルギーとしては、電磁波、熱等が用いられうる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、例えば、赤外線、可視光線、紫外線などでありうる。硬化性組成物は、光の照射により、あるいは、加熱により硬化する組成物でありうる。これらのうち、光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて非重合性化合物または溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。インプリント材は、インプリント材供給装置(不図示)により、液滴状、或いは複数の液滴が繋がってできた島状又は膜状となって基板上に配置されうる。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下でありうる。基板の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂等が用いられうる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板は、例えば、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスである。
【0017】
図1のインプリント装置1は、半導体デバイス製造工程に使用される、基板5の上に原版である型3の凹凸パターンを転写する加工装置である。一例において、インプリント装置1は、インプリント材の硬化法として光硬化法を採用するものとする。
【0018】
照射部2は、インプリント処理の際に、型3に対して紫外線17を照射する。照射部2は、紫外線は発する光源と、該光源から射出された紫外線をインプリントに適切な光に調整するための複数の光学素子とを含みうる。
【0019】
型3の表面(基板5と対向する面)には、所定の凹凸パターン(例えば回路パターン)が形成されている。インプリントヘッド4は、原版である型3を保持する原版保持部であり、型3を基板5の上のインプリント材と接触させるためのZ駆動機構を含みうる。インプリントヘッド4は、型3を傾ける傾き補正駆動機構を含んでいてもよい。
【0020】
インプリントヘッド4内の型3の上部には、TTM(Through The Mold)によるスコープ13が配置されている。スコープ13は、基板5に設けられたアライメントマークと、型3に設けられたアライメントマークを観察するための光学系および撮像系を含むアライメントスコープである。スコープ13により、基板5上のショット領域と型3との、X方向及びY方向のずれ量を計測することができる。
【0021】
基板ステージ6は、基板5を例えば真空吸着により保持する基板保持部であり、XY平面内を自由に移動可能である。基板ステージ6は、基板5をXY方向に移動させる駆動機構Mの他に、基板5をθz方向に移動(回転)させる回転駆動機構を有しうる。基板ステージ6は、更に、基板5をZ方向に移動させる駆動機構や、基板5をθxおよびθy方向に移動(回転)させる駆動機構を有し、これらをインプリントヘッド4のZ駆動機構や傾き補正駆動機構の代用としてもよい。
【0022】
基板ステージ6は、定盤15に沿って移動しうる。そのため、基板ステージ6がXY方向に移動するときのZ方向位置や傾きの基準は、定盤15の天面となる。定盤15は、マウント16によって支持されている。マウント16は、床からの振動を低減する構造になっている。
図1の例では、装置全体が、このマウント16の上に構成されることで、インプリント装置1は床からの振動の影響を受けないような構造になっている。
【0023】
基板高さセンサ8は、物体(計測対象物)である基板5の表面の高さ位置の検出を行う検出部である。基板ステージ6をXY平面に沿って移動させながら複数の位置で基板高さセンサ8を用いて計測を行うことにより、基板5の表面の各XY位置の高さデータを得ることが可能である。基板ステージ6には、型3の表面の高さを計測する型高さセンサ9が配置されている。型高さセンサ9は、物体で型3の表面の高さ位置の検出を行う検出部である。基板ステージ6をXY平面に沿って移動させながら複数の位置で型高さセンサ9を用いて計測を行うことにより、型3の表面の各XY位置の高さデータを得ることが可能である。この構成例において、駆動機構Mは、基板ステージ6と基板高さセンサ8(または型高さセンサ9)とを、水平面と平行な所定の方向(例えばX方向)に相対的に移動させるための駆動機構として機能する。
【0024】
供給部7は、基板5の上に未硬化状態のインプリント材14を供給する。インプリント材14は、照射部2からの紫外線17を受光することにより硬化する光硬化性材料である。
【0025】
型搬送装置11は、型3を搬送し、インプリントヘッド4に対して、型3を設置する。基板搬送装置12は、基板5を搬送し、基板ステージ6に対して、基板5を設置する。
【0026】
制御部10は、インプリント装置1の各部を統括的に制御する。また、制御部10は、各種センサから得られたデータ等に基づいて信号処理を行う処理部としても機能しうる。制御部10は、プロセッサおよびメモリを含むコンピュータ装置により実現されうる。また、本実施形態において、制御部10は、基板高さセンサ8(または型高さセンサ9)によって複数の計測点で検出が行われるように基板ステージ6と基板高さセンサ8(または型高さセンサ9)とを制御する。
【0027】
基板ステージ6の走り面を基準として型と基板の傾きを計測し、それらを平行にした状態で型と基板上のインプリント材とを接触させるインプリント方法は、特開2005-101201号公報(特許文献2)に詳しく記されている。概略すると、基板ステージ6をXY方向に駆動しながら型高さセンサ9を用いて、型3の表面の複数個所の高さを計測し、それらの計測値を1次または高次平面近似することで、型3の表面の傾きが算出される。同様に、基板ステージ6をXY方向に駆動しながら基板高さセンサ8を用いて、基板5の表面の複数個所の高さを計測し、それらの計測値を1次または高次平面近似することで、基板5の表面の傾きが算出される。これらの結果に基づいて、インプリントヘッド4または基板ステージ6の傾き補正機構を駆動することで、型3と基板5を平行にした状態で型3と基板5上のインプリント材とを接触させることができる。
【0028】
図3および
図4を参照して、実施形態におけるインプリント処理を説明する。型搬送装置11により型3が搬送されインプリントヘッド4に搭載された後、工程S1で、制御部10は、型3の表面の傾きを計測する。型高さセンサ9を用いて型3のパターン面のある位置の高さが検出される。この検出を、XY方向それぞれ最低2点で行うことにより、型3のXY方向の傾きを計測することができる。通常、平均化効果や、2次曲面以上の高次成分も同時に算出するため、XY方向それぞれ3~5点程度の格子の各点において検出が行われる。なお、計測点を何点にするかは、スループットと計測精度との間のトレードオフ関係の観点から、適宜決定されうる。
【0029】
基板搬送装置12により基板5が搬送され基板ステージ6に搭載された後、工程S2で、制御部10は、基板5の表面形状を計測する。基板ステージ6が基板高さ計測位置まで駆動された後、基板高さセンサ8を用いて基板5のある位置の高さが検出される。この検出を、XY方向の複数の位置で行うことにより、基板5の表面形状を計測することができる。
【0030】
なお、型3のインプリントヘッド4への搭載および基板5の基板ステージ6への搭載は、それぞれの計測が開始されるまでに完了していればよい。したがって、型3のインプリントヘッド4への搭載および基板5の基板ステージ6への搭載のタイミングは、上記のように工程S1および工程S2の直前であることに限定されない。
【0031】
工程S3で、制御部10は、インプリント処理の対象領域であるショット領域における基板表面の傾きを算出する。例えば、制御部10は、工程S2によって得られた基板表面形状に基づいて、ショット領域を一次平面近似することにより、ショット領域の傾きを算出する。
【0032】
工程S4で、制御部10は、ショット領域と型3の表面とを平行にする。例えば、制御部10は、工程S3で得られたショット領域の傾きと工程S1で求めた型3の表面の傾きとに基づいて、ショット領域と型3の表面とが平行になるように、インプリントヘッド4を補正駆動する。ここでは、基板ステージ6は傾きの補正駆動ができない前提で、インプリントヘッド4の補正駆動を行うことが想定されている。この場合、基板ステージ6は、X、Y、θz成分のみの駆動軸を有すればよいため、コスト的に有利である。もちろん、基板ステージ6に、傾き補正駆動機構が設けられていてもよい。その場合、工程S3で求めたショット領域の傾きに基づいて基板ステージ6で傾き補正駆動を実施し、工程S1で求めた型3の表面の傾きに基づいてインプリントヘッド4の傾き補正駆動を実施する構成としてもよい。
【0033】
工程S5では、制御部10は、ショット領域が供給部7の下に位置するように基板ステージ6を制御し、その後、ショット領域の上にインプリント材14が供給されるように供給部7を制御する。インプリント材の供給完了後、制御部10は、ショット領域が型3の下に位置するように基板ステージ6を制御する。
【0034】
工程S6で、制御部10は、インプリントヘッド4をZ方向下方に駆動することで、型3の表面と基板5上に供給されたインプリント材14とを接触させる(接触工程)。制御部10は、インプリント材14が型3のパターンに充填する時間を待って、照射部2に紫外線17を照射させ、これによりインプリント材14を硬化させる(硬化工程)。なお、この間に、スコープ13を用いて、型3とショット領域との位置合わせ(ダイバイダイアライメント)が行われうる。また、インプリントヘッド4を下方に駆動する代わりに、基板ステージ6を上方に駆動することにより接触工程が行われてもよい。あるいは、インプリントヘッド4と基板ステージ6の双方を駆動して接触工程が行われてもよい。
【0035】
工程S7では、制御部10は、インプリントヘッド4および基板ステージ6の少なくとも一方を駆動して、硬化したインプリント材14と型3とを引き離す(離型工程)。この結果、ショット領域には、型3のバターンが転写されたインプリント材が残されることになる。
【0036】
工程S8では、制御部10は、基板5の全てのショット領域について処理が終了したかを判定する。全てのショット領域について処理が終了していない場合には、工程S2に戻り、次のショット領域の処理が行われる。こうして、上記したS3~S7の一連の工程が、基板5上の全てのショット領域について繰り返される。
【0037】
工程S9では、制御部10は、予定されている全ての基板について処理が終了したかを判定する。全ての基板について処理が終了していない場合には、基板を交換した後、工程S2に戻る。
【0038】
なお、各工程の順序は、
図3のフローにおける順序に固定されるものでなく、矛盾が生じない限り、順序を入れ替えてもよい。各工程の名称も、順序を固定するために使用されたものではないことに注意されたい。
【0039】
通常、型高さセンサ9および基板高さセンサ8には、干渉計などの光学センサが使用される。このような光学センサは、物体(基板5/型3)に計測光を照射し、該物体で反射された計測光を受光することにより、該物体の高さの検出を行う。これら光学センサによる検出結果(計測値)には、センサと対象物との間の距離に応じた非線形誤差が含まれうる。その非線形誤差は、センサと対象物との間の距離と誤差との関係が周期的な特性をもつことから、サイクリックエラーとよばれている。干渉計のサイクリックエラーの詳細は、例えば特許第6655888号公報(特許文献4)に記載されている。
【0040】
図5(A)および
図5(B)を参照して、サイクリックエラーについて説明する。
図5(A)において、横軸は、センサと対象物との間の距離を表し、縦軸は、センサの計測値を表す。理想的には、センサ-対象物間の距離と、センサの計測値は、破線で示されるような、傾き1をもつ線形な関係となる。しかし、センサ-対象物間の距離に対するセンサの実際の計測値は、実線で示されるような、周期的な非線形成分(サイクリックエラー)を含む値となる。
図5(B)は、破線で示された基線成分を除去してサイクリックエラーのみを抽出した図である。対象物との距離に対して、サイクリックエラーは、正弦波またはそれに近い波形をしている。このサイクリックエラーの波形の振幅は、センサの構成に依存するが、例えば数10nm以上、場合によっては100nmを超える。サイクリックエラーの周期は、光学センサに使用される光源の波長に依存することが分かっており、例えば600nmの赤色レーザーを光源に使用する場合、波形の周期は300nmであったり、150nmであったり、それらの合成であったりする。
【0041】
このように、型高さセンサ9および基板高さセンサ8の計測値にはサイクリックエラーが含まれているため、サイクリックエラーを無視したままでは、型3および基板5の表面の傾きを正確に計測することはできない。
【0042】
そこで、サイクリックエラーの影響を受けずに、かつ、スループットの低下を抑えつつ、型3および基板5の傾きを精度よく求める方法を、以下に記す。
【0043】
なお、以下に示す実施例においては、基板ステージ6は傾き補正駆動機構を持っておらず、インプリントヘッド4が傾き補正駆動機構を持っている、という構成を前提にして、計測対象を基板5とする例を説明する。ただし、本発明は、この構成に限定しているわけではない。例えば、基板ステージ6が傾き補正駆動機構を有していてもよく、その場合、計測対象を、基板5ではなく型3と読み替えてもよい。また、以下に示す実施例は、理解しやすい傾き(1次平面)計測を主にして記載しているが、それに限定しているわけでなく、傾き(1次平面)を、高さ(0次)あるいは2次曲面以上の高次成分と読み替えてもよい。
【0044】
(実施例1)
図6(A)および(B)を参照して、計測対象を基板側とする、つまり基板5の表面傾きを計測する場合を説明する。
図6(A)において、基板ステージ6は、基板5を水平面に対して傾斜させた状態で保持している。基板ステージ6は、基板5を真空吸引または静電吸着により基板を固定するチャック18を有する。一例において、チャック18の基板の保持面を水平面に対して傾斜を有する構成とすることにより、基板5は傾いた状態で保持される。基板5をどの程度傾ければよいかについては、以下の説明において順を追って記す。
【0045】
図6(B)は、基板5の表面の各計測点における、基板高さセンサ8による計測のようすを示す図である。Z方向、つまり紙面上下方向が、計測軸の方向である。基板5が傾斜しているため、計測点が異なれば基板高さセンサ8と基板5との間の計測軸方向の距離も異なる。
図6(B)には、基板5の表面の理想的な計測値が破線Bで示されている。ここで、基板5の表面の傾きをTxとする。傾きの基準は、水平面(すなわちXY平面)である。
【0046】
計測点がX方向に移動すると、傾きTxとX方向の移動距離xとに依存して、基板高さセンサ8と基板5(対象物)との間の距離zが変化する。距離zは次式により表される。
【0047】
z = x・sin(Tx) ・・・・・(1)
【0048】
Txは非常に小さいため、以下の近似式が成り立つ。
【0049】
z = x・Tx ・・・・・(2)
【0050】
図6(B)の右側には、基板高さセンサ8と対象物との間の距離とサイクリックエラーとの関係が示されている。以上より、計測点がX方向に移動すると、基板高さセンサ8と対象物との間の距離は、式(2)に従い変化する。その結果、基板高さセンサ8の実際の計測値は、実線Mで示されるような、サイクリックエラーを含んだ値となる。
【0051】
このようなサイクリックエラーの影響を受けないように、X方向の計測点間のピッチ(計測ピッチ)を決定する必要がある。そのためには、サイクリックエラーが常に同じ値になるように計測をすればよい。サイクリックエラーの周期をdZとすると、サイクリックエラーの影響を受けないような計測ピッチdXは、以下のように求めることができる。
【0052】
dZ = dX・Tx ・・・・・(3)
dX = dZ/Tx ・・・・・(4)
【0053】
式(4)のように、基板の傾斜とサイクリックエラーの周期とに基づいて計測ピッチdXを決定することにより、各計測位置におけるサイクリックエラーの値が同じになる。
図6(B)は、理解しやすいよう、常に誤差の周期のピーク位置で計測する態様を示している。実際には、ピーク位置で計測する必要はなく、各計測点において、誤差が同じ値であればよい。この計測結果から基板表面の傾きを算出すれば、サイクリックエラーの影響を受けずに、正しく基板表面の傾きを算出することができる。ここでの目的は基板表面の傾きを算出することであるから、傾きTxは、基板5の所定の方向(X方向)における計測範囲内に少なくとも2周期のサイクリックエラーが含まれるように設定される。
【0054】
一例において、サイクリックエラーの周期dZが300nmであるとする。また、傾きTxが50μradに設定されているとする。この場合、式(4)から、計測ピッチdXを6mmにすれば、各計測点における計測が誤差の周期の同位相の位置で行われるようにすることができる。
【0055】
図6(B)は、サイクリックエラーの1周期分と計測ピッチとが一致する例を示している。各計測点でサイクリックエラーが同じになればよいので、計測ピッチに関しては次式も成立する。
【0056】
dX = n・dZ/Tx ・・・・・(5)
ただし、nは1以上の整数である。
【0057】
図6(B)は、n=1の場合の例である。もちろん、nを大きくするためには、それだけ、多くのサイクリックエラーの周期が含まれる必要がある。つまり、傾きTxを大きくする必要がある。逆に言えば、傾きTxが大きすぎても、nを調整することで、必要な計測ピッチ、つまり計測点数に調整することができる。先の例において、計測ピッチdxを6mm、基板の計測範囲を200mmとして、計測点数を求めると、約34点(200/6の整数部である33個まで計測ピッチを確保可能。計測点としては33+1点)もの計測点が存在することになる。これをすべて計測するとスループットに影響があるため、例えばn=10とすることで、計測ピッチは60mmとなり、計測点を4点(200/60の整数部である3個まで計測ピッチを確保可能。計測点としては3+1点)まで減らすことができる。
【0058】
図6(B)の例では、基板5の面内に、3点の計測点が確保できた場合が示されている。傾きTxが小さいと、計測点が少なくなってしまうことがわかる。傾きを求めるためには、最低2点の計測点が必要であるため、傾きTxは、計測点が2点以上得られるだけの傾きが必要である。ここで、必要な傾きTxは、次式で表される。
【0059】
Tx ≧ dZ/dX ・・・・・(6)
【0060】
サイクリックエラーの周期を300nm、基板5の計測範囲を200mmとすると、傾きTxは、最低1.5μradの傾きが必要である。つまり、計測範囲の両端に計測点があり、この2点から、傾きを求めることが可能である。もちろん、これは、最低の傾きであり、通常は、計測点数を多くとるので、それに応じて、傾きを決めればよい。例えば、計測点を5点必要とする場合、4個の計測ピッチdXが必要であるため、上記の4倍である6μradが必要となる。
【0061】
以上をまとめると、傾きTxは、基板5の所定の方向(X方向)における計測範囲内に少なくともJ周期(Jは2以上の整数)にわたる誤差(サイクリックエラー)が含まれるように設定される。この前提の下、誤差の周期のK倍(KはJより小さい整数)の距離だけ離れた複数の位置で複数の計測点における計測(検出)が行われるように、計測ピッチが設定される。
【0062】
Y方向についても、上記と同様に説明できる。XY同時にサイクリックエラーの影響を受けないためには、チャック18を、X方向およびY方向のどちらにも傾ける必要がある。
【0063】
チャック18に傾きを持たせる以外に、
図7(A)に示すように、基板5自体に傾きを持たせる態様も考えられる。チャック18の基板保持面には傾きがない前提で、基板5の厚みに、差がつけられている。これを便宜上、くさび成分と称する。このように、基板5にくさび成分を持たせることで、
図6(A)と同じ効果を得ることができる。
【0064】
ただし、通常、基板のくさび成分も、チャックの基板保持面の角度も、設計値からのずれ、つまり公差が生じてしまう。基板の設計値からのずれは、各種処理する過程を経て変動しうる。また、チャックの設計値のずれは、その加工精度等の影響を受ける。そのため、基板5の表面が傾きを持つように設計しても、両者の公差の影響で、
図7(B)のように、基板5とチャック18の傾きが相殺しあうことも考えられる。この場合には、基板5の表面に意図した傾きを設けることができない。
【0065】
通常、基板のくさび成分は、数10μrad、場合によっては100μrad程度存在する。つまり、上記した最低1.5μradという値は、簡単に相殺されてしまう可能性が高い。そこで、チャック18の傾きを、基板5のくさび成分の最大値よりも十分に大きくする必要がある。傾きが十分に大きい場合、サイクリックエラーの周期も多く含まれることになる。この場合、計測ピッチdXを求める式(5)におけるnが1だと、計測点数が多すぎてスループットが低下しうる。そのような場合は、nを2以上に調整することで、スループットが許容範囲に収まるように計測点数を決めるとよい。
【0066】
チャック18の傾きを十分に大きくしても、それと同等なくさび成分を持った基板を処理する必要が生じるケースもありうる。その場合にはやはり、
図7(B)のように傾きが相殺されてしまうこともありうる。そこで、インプリント装置1は、チャック18によって保持されるときの基板5の回転角を調整する調整機構を有しうる。例えば、そのような調整機構は、チャック18の基板の保持面を回転させる回転機構18aによって実現されうる。あるいは、そのような調整機構は、基板搬送装置12によって実現されてもよい。調整機構により、
図7(B)の状態から、
図7(C)のように、基板5を例えば180度回転させることで、基板5の表面に所望の傾斜を確保することができる。なお、この場合、インプリント処理の際には、型3も、基板5と同じ角度回転させる必要がある。
図7(A)~(C)ではX方向に対する傾きのみを議論したが、XY方向を考えると、回転角を90度、180度、270度のうちからいずれか1つを選択し、型3もそれと同じ角度回転させるようにしてもよい。
【0067】
先述したとおり、基板5のくさび成分、および、チャック18の傾きには、設計値に対する公差が存在している。つまり、これらを合算した、基板5の表面傾きTxにも、公差が含まれている。そのため、計測ピッチdXの算出に、基板5の表面傾きTxの設計値を使うと、正確にサイクリックエラーの同じ高さ部分を計測することができない。
【0068】
そこで、ある程度の基板5の表面傾きを、あらかじめ計測しておくのが望ましい。もちろん、この傾き計測には、サイクリックエラーの分だけ、誤差が含まれている。あくまで、計測ピッチdXを求めるための、粗計測という扱いである。おおよその傾きTx1を求めて、このTx1に基づき計測ピッチdX1を求め、この計測ピッチに基づき高精度な傾きTx2を求める。傾きTx1には計測誤差が含まれているため、計測ピッチdX1にも誤差が含まれ、その結果、傾きTx2も、傾きTx1よりは精度は向上するものの、依然誤差が含まれている。そのため、傾きTx2から計測ピッチdX2を求めて、傾きTx3を求める、というように処理を繰り返すことで、精度よく傾きTxを求めることができる。通常、2回目でも十分な精度が得られるが、スループットが許す限りにおいては、3回以上繰り返してもよい。処理を繰り返す回数は、スループットと精度とのトレードオフ関係に基づいて決定すればよい。
【0069】
(実施例2)
実施例1において、基板5の表面傾きをサイクリックエラーの影響を受けずに計測する手法を説明した。このとき、各計測点におけるサイクリックエラーは同じ値であるため、傾き算出に影響しない。あるいは、2次以上の高次の曲面を求める場合も、同様に、サイクリックエラーの影響を受けない。ただし、計測点は、例えば原点を中心にプラス側とマイナス側で対称の位置を計測する必要がある。つまり、計測点の配置を考慮するだけで、1次(傾き)以上の成分を、精度良く求めることができる。
【0070】
しかし、実際には、計測値にどの程度サイクリックエラーが含まれているかは不明である。そのため、0次成分、すなわち、高さの算出値は、サイクリックエラーの影響を受けたままである。
図6(B)の例では、波形のピーク位置を計測しているため、サイクリックエラーの波形の振幅分、つまり数10nmから100nm程度の誤差が含まれてしまう。実際には、どの高さの部分を計測しているか不明であるため、+100nmから-100nmの範囲で誤差が含まれうることになる。
【0071】
そこで、サイクリックエラーの影響を受けずにZ方向の算出を行うために、例えば、
図6(C)のように、計測ずらし量をサイクリックエラーの半周期にする。言い換えると、
図6(B)の態様に対して、マイナス側のピークの位置にも計測点が設けられるように計測点の数を増やす。そうすると、隣り合う計測点同士で誤差を打ち消しあい、Z方向の誤差が小さくなる(理論上は0になる)。
図6(C)は、
図6(B)の計測ピッチdXを2分割した例である。すなわち、
図6(C)の計測位置ずらし量dXmは、計測ピッチdXの1/2である。実際には、
図6(B)の計測ピッチdXをm分割(mは2以上の整数)して、m回の計測をすればよい。計測ずらし量dXmは、次式により表される。
【0072】
dXm = (dZ/Tx)/m ・・・・・(7)
【0073】
基板の傾きを大きくすると、計測点数も多くなる。ここで、式(5)のように、ある程度間引いた計測点において、計測位置ずらし量dXmだけずらし計測を行うのが望ましい。また、mを大きくすると、計測点数が増えてスループットが低下してしまうため、通常、m=2で十分であろう。この例を示したのが、
図8(A)および(B)である。
図8(A)では、n=2として、計測点を間引きしている。
図8(B)では、
図8(A)のように間引きされた後の計測点に対して、m=2として、サイクリックエラーの半周期に相当する計測ずらし量dXmだけずらした位置に計測点を追加する。
【0074】
以上の構成により、0次(高さ)の計測値に関しても、サイクリックエラーの影響を受けずに、精度よく求めることが可能となる。また、nやmを適切に設定することで、スループットの低下を最小限にしつつ、計測精度を向上させることができる。
【0075】
以上の
図6(C)、
図8(B)の態様をまとめると、傾きTxは、基板5の所定の方向(X方向)における計測範囲内に少なくともJ周期(Jは2以上の整数)にわたる誤差(サイクリックエラー)が含まれるように設定される。この前提の下、誤差の周期のK倍(ただし、KはJより小さい整数である。)の距離だけ離れた複数の第1位置と、複数の第1位置のそれぞれから誤差の周期の半分の位相差を有する複数の第2位置とで複数の計測点における計測(検出)が行われるように、計測ピッチが設定される。
【0076】
ここで注意が必要なのが、例えば、
図8(A)や
図8(B)のような計測点による計測では、0字(高さ)の精度は高いが、1次(傾き)またはそれ以上の高次成分は、計測誤差が含まれてしまうことである。例えば、
図8(B)では、紙面で最も右側の計測点においては、計測値は下方向(マイナス方向)に、サイクリックエラーに由来する計測誤差が含まれる。他方、紙面で最も左の計測点においては、計測値は上方向(プラス方向)に、サイクリックエラーに由来する計測誤差が含まれる。これらの誤差を含んだ複数の計測値を一次近似すると、
図8(C)における実線で示された直線APのようになり、破線で示された理想線Bからずれてしまう。
【0077】
そこで、0次(高さ)は、実施例2の計測点による計測値から算出し、1次(傾き)またはそれ以上の高次曲面成分は、実施例1の計測点による計測値から算出する、などのように計測方法を切り替えてもよい。
【0078】
また、傾きTxを大きくすると、計測ずらし量dXmが小さくなる。その結果、実施例2の計測点による計測値からの算出結果における、1次(傾き)またはそれ以上の高次曲面成分の誤差成分も小さくすることができる。つまり、十分に大きな傾きTxとすることで、1次または高次の計算についても、実施例2を用いることが可能となる。
【0079】
(実施例3)
実施例3では、型3を傾き計測の対象として説明する。
図9(A)には、インプリントヘッド4に設けられた、型3を保持し、型3を傾ける傾き補正駆動機構4aが示されている。実施例1と同様に、計測ピッチdXを決定することで、サイクリックエラーの同じ高さで、型高さセンサ9を用いた型3の傾き計測を実施することができる。その結果、型3の表面の傾きを正確に求めることが可能となる。
図9(B)を参照して、型3の表面の傾きを求める処理を説明する。実施例1との違いは、型3の保持面に予め傾きを持たせる必要がない点である。また、傾きTxは傾き補正駆動機構4aによって自由に設定できるため、計測範囲内で必要な計測点数となるように、計測ピッチdXをあらかじめ想定しておき、それに合わせて、傾きTx分だけ、傾き補正駆動機構4aを駆動すればよい。
【0080】
その他は、実施例1または実施例2に記載の方法をそのまま
図9(B)の例に適用することが可能である。
【0081】
なお、インプリントヘッド4は、計測軸方向、つまりZ方向に駆動することが可能である。そのため、傾き補正駆動機構4aによる型3の傾きを設けずに計測を行うことも可能である。例えば、インプリントヘッド4を計測軸方向にサイクリックエラーの1/m(mは2以上の整数)だけ微小駆動させてm回計測を実施し、それらの計測結果をm回分平均化する。それにより、サイクリックエラーの影響を打ち消すことが可能である。しかしこの場合、平均化のために1つの計測点につき複数回の計測が必要となるため、スループットの点で不利になりうる。したがって、実施例1,2に従い、型3を予め傾けた状態で各計測点を計測すれば、上記したm回の平均化は不要となり、スループットにおいて有利である。
【0082】
以上説明したように、本実施形態では、計測対象の計測面に、(例えばX方向に対して)傾きを持たせておく。そうすると、非計測軸方向(X方向)に計測点を変更した場合、センサと計測対象との間の計測軸方向の距離が変化し、計測値が変化する。これを利用し、計測値の変化がセンサのサイクリックエラーの影響を受けないように、非計測方向の計測点の間隔を決定する。例えば、計測値の変化が、サイクリックエラーの周期のn倍(nは1以上の整数)となるように、非計測方向の計測ピッチを決定すればよい。
【0083】
本実施形態によれば、計測対象を計測軸方向に移動させる駆動機構を持たない場合においても、サイクリックエラーの影響を受けずに、型または基板の傾き計測を実施することが可能となる。また、計測軸方向に移動させる駆動機構を持っている場合においても、従来技術のように、サイクリックエラーの1/n(nは2以上の整数)の微小ピッチ駆動させながらn回計測を繰り返して平均をとる必要がない。そのため、スループットを落すことなく、計測対象の傾きを精度よく求めることができる。その結果、インプリント後の残膜厚の均一性の向上、ショット領域周辺のインプリント材の充填性、および、ショット領域外へのインプリント材のはみ出しを高度に制御できるようになり、歩留まり向上、生産性向上が図られる。
【0084】
上述の実施例1および実施例2では、基板5の表面の傾きを計測する方法を説明し、実施例3では、型3の表面の傾きを計測する方法を説明した。もっとも、それぞれの実施例は、計測対象物を基板または型に限定しているわけではないことに注意が必要である。それぞれの実施例は、同様な方法によって基板側および型側のどちらにも適用可能である。
【0085】
<第2実施形態>
上述の第1実施形態は、半導体等の物品の製造工程におけるインプリント装置の例を示したものである。しかし、インプリント装置は、他の工程にも適用されうる。例えば、インプリント技術により型を複製して型のレプリカを安価に量産するレプリカ製造装置は、インプリント装置の応用例の一つである。レプリカ製造装置において、型はマスターマスクであり、基板は、パターンが未だ形成されていないブランクマスクである。レプリカ製造装置は、第1実施形態と同様な手法で、マスターマスクのパターンをブランクマスクに転写することができる。パターンが転写されたブランクマスクに対するエッチング等の後工程の処理を経て、レプリカマスクが作成される。このように作成されたレプリカマスクは、第1実施形態における型3として使用されうる。
【0086】
レプリカ製造装置の基本的な構成は、第1実施形態で示した
図1と同様である。この場合、基板5は、ウエハではなくブランクマスクとなるだけであると考えてよい。したがって、このようなレプリカ製造装置に対しても、上述の実施例1~3で示した技術を適用することが可能である。
【0087】
なお、ウエハは一般には直径300mmの円形であるため、計測範囲を十分広く取ることが可能であるが、ブランクマスクの計測範囲は20~30mm程度であることが想定される。そのため、ウエハを用いた第1実施形態と比較して、ブランクマスクには十分大きな傾きTxを与える必要があることに注意が必要である。
【0088】
例えば、サイクリックエラーの周期が先述の例と同様に300nmである場合において、ブランクマスクに対する20mmの計測範囲内で5点の計測点を確保することを考える。この場合、計測ピッチdXは20mm/5=5mmであるから、傾きTxは、最低60μrad必要である。さらに、ブランクマスクのくさび成分、チャック18のブランクマスクの保持面の最大公差等を考慮した分だけ、傾きを与えればよい。
【0089】
<物品製造方法の実施形態>
インプリント装置を用いて形成した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、型等である。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性或いは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。型としては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0090】
硬化物のパターンは、上記物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入等が行われた後、レジストマスクは除去される。
【0091】
次に、物品製造方法について説明する。
図10の工程SAでは、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコン基板等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0092】
図10の工程SBでは、インプリント用の型4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。
図10の工程SCでは、インプリント材3zが付与された基板1zと型4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zは型4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型4zを介して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0093】
図10の工程SDでは、インプリント材3zを硬化させた後、型4zと基板1zを引き離すと、基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zに型4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0094】
図10の工程SEでは、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。
図10の工程SFでは、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0095】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0096】
1:インプリント装置、2:照射部、3:型、4:インプリントヘッド、5:基板、6:基板ステージ、7:供給部、8:基板高さセンサ、9:型高さセンサ、10:制御部、11:型搬送装置、12:基板搬送装置、13:スコープ、14:インプリント材