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特許7546500成分濃度推定装置、成分濃度推定装置の制御方法及び成分濃度推定装置の制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】成分濃度推定装置、成分濃度推定装置の制御方法及び成分濃度推定装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/145 20060101AFI20240830BHJP
   A61B 5/01 20060101ALI20240830BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20240830BHJP
【FI】
A61B5/145
A61B5/01 100
G01N21/3577
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021029173
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022130159
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100160716
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 力
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 隆志
【審査官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-033512(JP,A)
【文献】特開2001-299727(JP,A)
【文献】特開2016-171908(JP,A)
【文献】特開2008-035918(JP,A)
【文献】特開2021-007486(JP,A)
【文献】国際公開第2012/134515(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/145 - 5/1455
G01N 21/35 - 21/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の目的成分の吸収波長を含む電磁波を照射領域に照射する照射素子と、
前記照射領域の温度を検出し、検出した温度を示す温度情報を出力する温度センサと、
前記照射素子から出射された電磁波の照射強度を検出し、検出した電磁波の照射強度を示す照射強度情報を出力する照度センサと、
第1照射強度で照射された前記照射領域の温度が平衡状態に達した第1平衡温度を示す第1平衡温度情報を前記温度センサから取得する第1平衡温度取得部と、
前記照射素子から前記照射領域に照射される電磁波の照射強度を前記第1照射強度から前記第1照射強度よりも大きい第2照射強度に変更し、照射強度が前記第2照射強度に変更された電磁波を前記照射領域に更に照射することを前記照射素子に指示する照射制御部と、
前記第2照射強度で照射された前記照射領域の温度が平衡状態に達した第2平衡温度を示す第2平衡温度情報を前記温度センサから取得する第2平衡温度取得部と、
前記第1平衡温度情報及び前記第2平衡温度情報に基づいて前記検体中の目的成分の濃度を推定する濃度推定部と、
前記濃度推定部によって推定された濃度を示す濃度信号を出力する濃度信号出力部と、
を有する、ことを特徴とする成分濃度推定装置。
【請求項2】
検体中の目的成分の吸収波長を含む電磁波を照射領域に照射する照射素子と、
前記照射領域の温度を検出し、検出した温度を示す温度情報を出力する温度センサと、
所定の昇温温度だけ上昇した設定温度において前記照射領域の温度が平衡するときの照射強度である平衡照射強度を示す平衡照射強度情報を取得する照射強度取得部と、
前記温度情報及び前記平衡照射強度情報に基づいて前記検体中の目的成分の濃度を推定する濃度推定部と、
前記濃度推定部によって推定された濃度を示す濃度信号を出力する濃度信号出力部と、
を有する、ことを特徴とする成分濃度推定装置。
【請求項3】
検体中の目的成分の吸収波長を含む電磁波を照射領域に照射する照射素子と、
前記照射領域の温度を検出し、検出した温度を示す温度情報を出力する温度センサと、
所定の昇温温度だけ前記照射領域の温度が昇温する昇温時間を示す昇温時間情報を取得する昇温時間取得部と、
前記温度情報及び前記昇温時間情報に基づいて前記検体中の目的成分の濃度を推定する濃度推定部と、
前記濃度推定部によって推定された濃度を示す濃度信号を出力する濃度信号出力部と、
を有する、ことを特徴とする成分濃度推定装置。
【請求項4】
前記昇温温度だけ前記照射領域の温度が降温する降温時間を示す降温時間情報を取得する降温時間取得部と、
前記降温時間に基づいて昇温時間を補正する昇温時間補正部と、を更に有し、
前記濃度推定部は、前記昇温時間補正部によって補正された補正昇温時間を示す補正昇温時間情報に基づいて、前記検体中の目的成分の濃度を推定する、請求項に記載の成分濃度推定装置。
【請求項5】
検体中の目的成分の吸収波長を含む電磁波を照射領域に照射する照射素子と、
前記照射領域の温度を検出し、検出した温度を示す温度情報を出力する温度センサと、
前記照射領域に電磁波が照射される前の前記照射領域の定常状態の温度である定常温度を示す定常温度情報を前記温度センサから取得する定常温度取得部と、
前記温度情報及び前記定常温度情報に基づいて前記検体中の目的成分の濃度を推定する濃度推定部と、
前記濃度推定部によって推定された濃度を示す濃度信号を出力する濃度信号出力部と、
を有する、ことを特徴とする成分濃度推定装置。
【請求項6】
検体中の目的成分の吸収波長を含む電磁波を照射領域に照射する照射素子と、
前記照射領域の温度を検出し、検出した温度を示す温度情報を出力する温度センサと、を有する成分濃度推定装置の制御方法であって、
前記温度情報を前記温度センサから取得し、
前記照射領域に電磁波が照射される前の前記照射領域の定常状態の温度である定常温度を示す定常温度情報を前記温度センサから取得し、
前記温度情報及び前記定常温度情報に基づいて前記検体中の目的成分の濃度を推定し、
推定された濃度を示す濃度信号を出力する、
ことを含む、ことを特徴とする成分濃度推定装置の制御方法。
【請求項7】
検体中の目的成分の吸収波長を含む電磁波を照射領域に照射する照射素子と、
前記照射領域の温度を検出し、検出した温度を示す温度情報を出力する温度センサと、を有する成分濃度推定装置の制御プログラムであって、
前記温度情報を前記温度センサから取得し、
前記照射領域に電磁波が照射される前の前記照射領域の定常状態の温度である定常温度を示す定常温度情報を前記温度センサから取得し、
前記温度情報及び前記定常温度情報に基づいて前記検体中の目的成分の濃度を推定し、
推定された濃度を示す濃度信号を出力する、
処理をコンピュータに実行させる、ことを特徴とする成分濃度推定装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成分濃度推定装置、成分濃度推定装置の制御方法及び成分濃度推定装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、体内のインスリンの作用が不足することにより、血液中の血糖値、すなわち血液中のグルコース濃度が上昇することで様々な合併症を引き起こす疾病である。日本国厚生労働省の平成28年の「国民健康・栄養調査」によると、日本国内の糖尿病有病者及び糖尿病予備軍は、いずれも1,000万人程度であると推定されている。血糖値は、糖尿病患者の病状の把握、及び適切な治療を行う上で重要な指標である。糖尿病の患者は、侵襲型血糖測定器を使用してグルコース濃度を測定することで、血糖値の変動を把握することができる。
【0003】
しかしながら、侵襲型血糖測定器を使用して血糖値を測定するとき、糖尿病の患者は、穿刺針を用いて血液を採取するため、血糖値の測定が患者に与える身体的負担及び精神的負担が大きいという課題がある。また、侵襲型血糖測定器を使用した血糖値の測定は、穿刺針及び侵襲型血糖測定器のグルコース濃度測定用センサが消耗品であるため、患者への金銭的負担が大きいという課題がある。さらに、侵襲型血糖測定器を使用した血糖値の測定は、穿刺針及び血糖値測定用センサを医療廃棄物として適切に処理する必要があるという課題がある。
【0004】
そこで、これらの課題がある侵襲型血糖値測定器に代わり、グルコース濃度を非侵襲且つ正確に推定できる手法が望まれている。
【0005】
侵襲型血糖値測定器を使用することなくグルコース濃度を推定する非侵襲の種々の血糖値推定技術が提案されている。例えば、特許文献1には被験体に照射した中赤外光の反射スペクトルから血液中のグルコース濃度を推定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2006-525084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載される技術では、グルコース濃度を示す拡散反射光の光量は、ノイズである背景光の光量に紛れるほど微量である。特許文献1に記載される技術は、グルコース濃度を示す拡散反射光のS/N比が低く、グルコース濃度を正確に分析することは容易ではない。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、グルコース濃度等の検体中の目的成分の濃度を正確に推定可能な非侵襲の成分濃度推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る成分濃度推定装置は、検体中の目的成分の吸収波長を含む電磁波を照射領域に照射する照射素子と、照射領域の温度を検出し、検出した温度を示す温度情報を出力する温度センサと、温度情報に基づいて、検体中の目的成分の濃度を推定する濃度推定部と、濃度推定部によって推定された濃度を示す濃度信号を出力する濃度信号出力部とを有する。
【0010】
さらに、本発明に係る成分濃度推定装置は、照射領域の温度が平衡状態に達した第1平衡温度を示す第1平衡温度情報を温度センサから取得する第1平衡温度取得部を更に有し、濃度推定部は、第1平衡温度情報に基づいて、検体中の目的成分の濃度を推定することが好ましい。
【0011】
さらに、本発明に係る成分濃度推定装置は、照射素子から出射された電磁波の照射強度を検出し、検出した電磁波の照射強度を示す照射強度情報を出力する照度センサと、照射素子から照射領域に照射される電磁波の照射強度を第1照射強度から第1照射強度よりも大きい第2照射強度に変更し、照射強度が第2照射強度に変更された電磁波を照射領域に更に照射することを照射素子に指示する照射制御部と、照射領域の温度が平衡状態に達した第2平衡温度を示す第2平衡温度情報を温度センサから取得する第2平衡温度取得部と、を更に有し、濃度推定部は、第1平衡温度情報及び第2平衡温度情報に基づいて、検体中の目的成分の濃度を推定することが好ましい。
【0012】
さらに、本発明に係る成分濃度推定装置は、所定の昇温温度だけ上昇した設定温度において照射領域の温度が平衡するときの照射強度である平衡照射強度を示す平衡照射強度情報を取得する照射強度取得部を更に有し、濃度推定部は、平衡照射強度情報に基づいて、検体中の目的成分の濃度を推定することが好ましい。
【0013】
さらに、本発明に係る成分濃度推定装置は、所定の昇温温度だけ照射領域の温度が昇温する昇温時間を示す昇温時間情報を取得する昇温時間取得部を更に有し、濃度推定部は、昇温時間情報に基づいて、検体中の目的成分の濃度を推定することが好ましい。
【0014】
さらに、本発明に係る成分濃度推定装置は、昇温温度だけ照射領域の温度が降温する降温時間を示す降温時間情報を取得する降温時間取得部と、降温時間に基づいて昇温時間を補正する昇温時間補正部と、を更に有し、濃度推定部は、昇温時間補正部によって補正された補正昇温時間を示す補正昇温時間情報に基づいて、検体中の目的成分の濃度を推定することが好ましい。
【0015】
さらに、本発明に係る成分濃度推定装置は、照射領域に電磁波が照射される前の照射領域の定常状態の温度である定常温度を示す定常温度情報を温度センサから取得する定常温度取得部を更に有し、濃度推定部は、定常温度情報に更に基づいて、検体中の目的成分の濃度を推定することが好ましい。
【0016】
さらに、本発明に係る成分濃度推定装置では、目的成分は、検体中のグルコース濃度であることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明に係る成分濃度推定装置では、照射素子が照射領域に照射する電磁波は、中赤外光であることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る成分濃度推定方法は、検体中の目的成分の吸収波長を含む電磁波を照射領域に照射する照射素子と、照射領域の温度を検出し、検出した温度を示す温度情報を出力する温度センサと、を有する成分濃度推定装置の制御方法であって、温度情報を温度センサから取得し、温度情報に基づいて、検体中の目的成分の濃度を推定し、推定された濃度を示す濃度信号を出力することを含む。
【0019】
また、本発明に係る成分濃度推定プログラムは、検体中の目的成分の吸収波長を含む電磁波を照射領域に照射する照射素子と、照射領域の温度を検出し、検出した温度を示す温度情報を出力する温度センサと、を有する成分濃度推定装置の制御プログラムであって、温度情報を温度センサから取得し、温度情報に基づいて、検体中の目的成分の濃度を推定し、推定された濃度を示す濃度信号を出力する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る成分濃度推定装置は、検体中の目的成分の濃度を非侵襲且つ正確に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(a)は被験者の手首に固定された第1実施形態に係る成分濃度推定装置の平面図であり、(b)は(a)に示す成分濃度推定装置の斜視図である。
図2図1(a)に示す成分濃度推定装置のブロック図である。
図3図1(a)に示す成分濃度推定装置によるグルコース濃度の推定方法を概略的に示す図である。
図4図2に示す変換テーブルを示す図である。
図5図1(a)に示す成分濃度推定装置による成分濃度推定処理を示すフローチャートである。
図6】血液中のグルコース濃度が相違する2つの検体の照射領域に中赤外光を照射したときの照射領域の温度変化を示す図である。
図7】第2実施形態に係る成分濃度推定装置のブロック図である。
図8図7に示す変換テーブルを示す図である。
図9図7に示す成分濃度推定装置による成分濃度推定処理を示すフローチャートである。
図10】第3実施形態に係る成分濃度推定装置のブロック図である。
図11図10に示す変換テーブルを示す図である。
図12図10に示す成分濃度推定装置による成分濃度推定処理を示すフローチャートである。
図13】熱伝導率が相違する2つの検体の照射領域に中赤外光を照射する間及び中赤外光の照射を停止した後の照射領域の温度変化を示す図である。
図14】第4実施形態に係る成分濃度推定装置のブロック図である。
図15図14に示す成分濃度推定装置による成分濃度推定処理を示すフローチャートである。
図16】(a)は照射領域に照射される中赤外光の照射強度と照射領域の温度が平衡する平衡温度との関係を示す図であり、(b)は照射領域に照射される中赤外光の照射強度と、グルコース濃度が同一であり且つ放熱特性が異なる2つの検体の照射領域の温度が平衡する平衡温度との関係を示す図である。
図17】第5実施形態に係る成分濃度推定装置による成分濃度推定処理における照射領域の温度の経時変化を示す図である。
図18】第5実施形態に係る成分濃度推定装置のブロック図である。
図19図18に示す変換テーブルを示す図である。
図20図18に示す成分濃度推定装置による成分濃度推定処理を示すフローチャートである。
図21】接触型の温度センサを有する成分濃度推定装置によるグルコース濃度方法を概略的に示す図である。
図22】グルコース濃度の推定に使用される昇圧時間及び降温時間の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の様々な実施形態について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0023】
(第1実施形態に係る成分濃度推定装置の構成及び機能)
図1(a)は被験者の手首に固定された第1実施形態に係る成分濃度推定装置の平面図であり、図1(b)は図1(a)に示す成分濃度推定装置の斜視図であり、図2図1(a)に示す成分濃度推定装置のブロック図である。
【0024】
成分濃度推定装置1は、本体ケース10と、照射素子11と、温度センサ12と、照度センサ13と、記憶部14と、入力部15と、表示部16と、演算部20とを有するスマートウォッチである。成分濃度推定装置1は、バンド等の固定具17によって検体70である被験者の手首に固定される。成分濃度推定装置1は、検体70の手首の近傍の領域である照射領域に、血液に含まれるグルコースが吸収する波長である吸収波長を含む中赤外光の帯域の波長を含む照射光を照射し、照射光をグルコースが吸収することにより上昇する照射領域の温度を検出する。成分濃度推定装置1は、検出した照射領域の温度からグルコースの濃度を推定し、推定したグルコースの濃度を示す濃度信号を出力する。
【0025】
図3は、成分濃度推定装置1によるグルコース濃度の推定方法を概略的に示す図である。
【0026】
9.26μmであるグルコースの吸収波長を含む中赤外光110は、角質層71と、表皮細胞72とを有する検体70の照射領域75に照射される。表皮細胞72には、角質層71の下方に位置し、グルコースを含有する間質液73が存在する。表皮細胞72に存在する間質液73に含有されるグルコースは、照射素子11から照射される中赤外光110の吸収波長を吸収して、温度が上昇する。
【0027】
温度センサ12は、間質液73に含有されるグルコースの温度が上昇することによって上昇する照射領域75の温度を検出し、検出した照射領域75の温度を示す温度情報を演算部20に出力する。演算部20は、入力された温度情報に対応する照射領域75の温度から血液中のグルコースの濃度を推定する。間質液73中のグルコース濃度は、血液中のグルコース濃度と高い相関性があることが知られており、照射領域75の温度上昇から推定される間質液73中のグルコース濃度から血液中のグルコース濃度を推定することができる。
【0028】
本体ケース10は、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂等の合成樹脂により形成され、照射素子11、温度センサ12、照度センサ13、記憶部14、入力部15、表示部16及び演算部20を収容する収容部材である。
【0029】
照射素子11は、量子カスケードレーザ、CO2レーザ及び熱輻射メタマテリアル等の狭帯域光源であり、本体ケース10の裏面に形成される凹部18に配置される。照射素子11は、グルコースが吸収する吸収波長を含む波長を有する中赤外光110を出射する。照射素子11が出射する中赤外光110は、例えば波長範囲が2.5μm以上25μm以下である。中赤外光110の帯域は、指紋領域とも称され、グルコースを含む多くの有機物の吸収波長を包含する。
【0030】
温度センサ12は、サーモパイル、ボロメータ、MCT検出器等の赤外線受光素子であり、本体ケース10の裏面に形成される凹部18に照射素子11から離隔して配置される。温度センサ12は、照射素子11が中赤外光110を照射した照射領域75から放射される赤外線120に基づいて照射領域75の温度を検出し、検出した温度を示す温度情報を演算部20に出力する。温度センサ12は、照射素子11から出射された迷光の浸入を防止する不図示の迷光フィルタに覆われるように配置される。
【0031】
照度センサ13は、InGaAs型のPINフォトダイオード等であり、本体ケース10の凹部18に照射素子11と温度センサ12との間に配置される。照度センサ13は、照射素子11から出射された中赤外光110の照射強度を検出し、検出した中赤外光110の照射強度を示す照射強度情報を演算部20に出力する。
【0032】
記憶部14は、DRAM等の揮発性メモリ及びフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを含む半導体記憶回路であり、演算部20の処理に使用されるコンピュータプログラム及びデータ等を記憶する。例えば、記憶部14は、変換テーブル140を記憶する。
【0033】
図4は、変換テーブル140を示す図である。
【0034】
変換テーブル140は、定常温度T0及び第1平衡温度T1をマトリクス状に記憶する。定常温度T0を示す欄はT01~T0mのm個の温度が列方向に順次記憶され、第1平衡温度情報を示す欄はT11~T1nのn個の温度が行方向に順次記憶される。
【0035】
定常温度情報T01が配置される第1行はn個のグルコース濃度C11~C1nが順次配列され、定常温度情報T02が配置される第2行はn個のグルコース濃度C21~C2nが順次配列される。同様に、第m行までのそれぞれの行に、n個のグルコース濃度が順次配列される。
【0036】
第1平衡温度情報T11が配置される第1列はm個のグルコース濃度C11~Cm1が順次配列され、第1平衡温度情報T12が配置される第2列はm個のグルコース濃度C12~Cm2が順次配列される。同様に、第n列までのそれぞれの列に、m個のグルコース濃度が順次配列される。変換テーブル140は、温度及び湿度が一定の条件の下で、複数の検体70の定常温度T0、第1平衡温度T1及びグルコース濃度を実測し、実測した昇温時間ΔT及びグルコース濃度を統計学的に処理して作成される。
【0037】
入力部15は、本体ケース10の側面に配置される操作ボタン及びリューズを含み、成分濃度推定装置1を使用するユーザによって種々の設定値の修正動作、及び情報の出力動作等の種々の動作のための情報が入力される。入力部15を介して入力された情報は、記憶部14に記憶されると共に、演算部20によって演算処理される。演算部20による演算処理によって生成された情報は、表示部16に表示される。
【0038】
表示部16は、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display、LCD)、有機エレクトロルミネッセンス(Organic Electro-Luminescence、OEL)及びマイクロLEDディスプレイ等の表示装置であり、本体ケース10の正面に配置される。表示部16は、例えば検体70中のグルコース濃度を表示すると共に、グルコース濃度の推定結果の履歴を示す折れ線グラフを表示する。なお、表示部16は、タッチパネルを備えることで入力部15の一部の機能を備えてもよい。
【0039】
演算部20は、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を備える。演算部20は、成分濃度推定装置1の全体的な動作を統括的に制御するものであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。演算部20は、成分濃度推定装置1の各種の処理が記憶部14に記憶されているプログラム、及び入力部15の操作等に応じて適切な手順で実行されるように、照射素子11、表示部16等の動作を制御する。演算部20は、記憶部14に記憶されているプログラム(オペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて処理を実行する。また、演算部20は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行することができる。
【0040】
演算部20は、定常温度取得部21と、照射制御部22と、第1平衡温度取得部23と、濃度推定部24と、濃度信号出力部25とを有する。これらの各部は、演算部20が備えるプロセッサで実行されるプログラムにより実現される機能モジュールである。あるいは、これらの各部は、ファームウェアとして成分濃度推定装置1に実装されてもよい。
【0041】
(第1実施形態に係る成分濃度推定装置による成分濃度推定処理)
図5は、成分濃度推定装置1による成分濃度推定処理を示すフローチャートである。図5に示す成分濃度推定処理は、予め記憶部14に記憶されているプログラムに基づいて、主に演算部20により成分濃度推定装置1の各要素と協働して実行される。
【0042】
まず、定常温度取得部21は、照射領域75に中赤外光110が照射される前の照射領域75の定常状態の温度である定常温度T0を示す定常温度情報を温度センサ12から取得し(S101)、取得した定常温度情報を記憶部14に記憶する。
【0043】
次いで、照射制御部22は、照射素子11に照射を開始することを指示する(S102)。照射素子11は、照射制御部22が照射素子11に照射開始を指示することに応じて、照射領域75への中赤外光110の照射を開始する。照射領域75に照射される中赤外光110の照射強度は、第1照射強度E1である。照射領域75の温度は、中赤外光110が照射されることに応じて上昇する。照射制御部22は、照度センサ13から入力される照射強度情報に対応する照射強度が所定の照射強度になるように、照射素子11から照射される中赤外光110の照射強度を制御する。
【0044】
次いで、第1平衡温度取得部23は、所定の待機期間が経過した後に、照射領域75の温度を示す温度情報を温度センサ12から取得する(S103)。次いで、第1平衡温度取得部23は、照射領域75の温度が平衡状態に達したか否かを判定する(S104)。
【0045】
第1平衡温度取得部23は、S101の処理で取得した定常温度情報に対応する定常温度T0とS103の処理で取得した温度情報に対応する温度との差に基づいて、照射領域75の温度が平衡状態に達したか否かを判定する。第1平衡温度取得部23は、S101の処理で取得した定常温度情報に対応する定常温度T0とS103の処理で取得した温度情報に対応する温度との差が判定しきい値以下であるとき、照射領域75の温度が平衡状態に達したと判定する(S104-YES)。また、第1平衡温度取得部23は、定常温度情報に対応する定常温度T0とS103の処理で取得した温度情報に対応する温度との差が所定の判定しきい値より大きいとき、照射領域75の温度が平衡状態に達していないと判定する(S104-NO)。
【0046】
第1平衡温度取得部23は、照射領域75の温度が平衡状態に達していないと判定する(S104-NO)と、所定の待機期間が経過した後に、照射領域75の温度を示す温度情報を温度センサ12から取得する(S103)。次いで、第1平衡温度取得部23は、照射領域75の温度が平衡状態に達したか否かを判定する(S104)。
【0047】
第1平衡温度取得部23は、前回のS103の処理で取得した温度情報に対応する温度と今回のS103の処理で取得した温度情報に対応する温度との差に基づいて、照射領域75の温度が平衡状態に達したか否かを判定する。第1平衡温度取得部23は、前回のS103の処理で取得した温度情報に対応する温度と今回のS103の処理で取得した温度情報に対応する温度との差が判定しきい値以下であるとき、照射領域75の温度が平衡状態に達したと判定する(S104-YES)。また、第1平衡温度取得部23は、前回と今回のS103の処理で取得した温度情報に対応する温度との差が判定しきい値より大きいとき、照射領域75の温度が平衡状態に達していないと判定する(S104-NO)。第1平衡温度取得部23は、照射領域75の温度が平衡状態に達したと判定する(S104-YES)まで、S103及びS104の処理を繰り返す。
【0048】
第1平衡温度取得部23は、照射領域75の温度が平衡状態に達したと判定する(S104-YES)と、照射領域75の温度が平衡状態に達した第1平衡温度を示す第1平衡温度情報T1を取得する(S105)。第1平衡温度取得部23は、取得した第1平衡温度情報T1を記憶部14に記憶する。
【0049】
次いで、照射制御部22は、照射素子11の照射の停止を指示する(S106)。照射素子11は、照射制御部22が照射素子11に照射停止を指示することに応じて、照射領域75に中赤外光110の照射を停止する。照射領域75の温度は、中赤外光110の照射が停止されることに応じて上昇が停止し、下降し始める。
【0050】
次いで、濃度推定部24は、S101の処理で取得した定常温度情報T0と第1平衡温度情報T1とに基づいて、血液中のグルコース濃度を推定する(S107)。濃度推定部24は、変換テーブル140を参照して、S101の処理で取得した定常温度情報T0に対応する温度に行が一致し、且つ、S105の処理で取得した第1平衡温度情報T1に対応する温度に列が一致する位置に示されるグルコース濃度を取得する。濃度推定部24は、変換テーブル140から取得したグルコース濃度を、血液中のグルコース濃度として推定する。
【0051】
そして、濃度信号出力部25は、濃度推定部24が推定したグルコース濃度を示す濃度信号を出力して(S108)、成分濃度推定装置1による成分濃度推定処理は終了する。
【0052】
(第1実施形態に係る成分濃度推定装置の作用効果)
成分濃度推定装置1は、グルコースの吸収波長を含む中赤外光110を検体70の照射領域75に出射する前の照射領域75の温度である定常温度と、照射領域75の温度が平衡する第1平衡温度とから血液中のグルコース濃度を推定する。
【0053】
図6は、血液中のグルコース濃度が相違する2つの検体70の照射領域75に中赤外光110を照射したときの照射領域75の温度変化を示す図である。図6において、横軸は照射時間を示し、縦軸は照射領域75の温度を示す。また、波形601は血液中のグルコース濃度が比較的高い検体70の照射領域75の温度変化を示す波形であり、波形602は血液中のグルコース濃度が比較的低い検体70の照射領域75の温度変化を示す波形である。
【0054】
波形601に示すように、血液中のグルコース濃度が比較的高い検体70の照射領域75に中赤外光110を照射したとき、照射領域75の温度が平衡する第1平衡温度T1Aは、比較的高くなる。一方、波形602に示すように、血液中のグルコース濃度が比較的低い検体70の照射領域75に中赤外光110を照射したとき、照射領域75の温度が平衡する第1平衡温度T1Bは、比較的低くなる。
【0055】
成分濃度推定装置1は、グルコース濃度に応じて変化する第1平衡温度T1に基づいてグルコース濃度を推定するので、グルコース濃度を高精度に推定できる。また、成分濃度推定装置1は、検体70の基礎体温及び周囲温度に応じて変化する定常温度T0に基づいてグルコース濃度を推定するので、検体70の基礎体温及び周囲温度に関わりなく、グルコース濃度を高精度に推定できる。
【0056】
(第2実施形態に係る成分濃度推定装置の概要)
第1実施形態に係る成分濃度推定装置1は、定常温度T0及び第1平衡温度T1から検体70の血液中のグルコース濃度を推定したが、第2実施形態に係る成分濃度推定装置は、所定の平衡温度で平衡するときの照射強度からグルコース濃度を推定する。
【0057】
(第2実施形態に係る成分濃度推定装置の構成及び機能)
図7は、第2実施形態に係る成分濃度推定装置のブロック図である。
【0058】
成分濃度推定装置2は、記憶部14a及び演算部30を記憶部14及び演算部20の代わりに有することが成分濃度推定装置1と相違する。記憶部14aは、変換テーブル141を変換テーブル140の代わりに有することが記憶部14と相違する。また、記憶部14aは、昇温温度ΔTを記憶することが記憶部14と相違する。変換テーブル141、昇温温度ΔT及び演算部30以外の成分濃度推定装置2の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された成分濃度推定装置1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0059】
図8は、変換テーブル141を示す図である。
【0060】
変換テーブル141は、グルコース濃度(mg/dl)を照射素子11が照射する中赤外光の照射強度(W/m2)に関連付けて記憶する。昇温時間Eを示す欄はE1~Emのn個の照射強度が行方向に順次記憶され、グルコース濃度(mg/dl)を示す欄はC~Cnのn個の温度が行方向に順次記憶される。変換テーブル141は、複数の検体70の照射領域75に中赤外光を照射したときに照射領域75の温度が所定の昇温温度ΔT上昇するときの照射強度及びグルコース濃度を実測し、実測した照射強度及びグルコース濃度を統計学的に処理して作成される。照射強度及びグルコース濃度は、温度及び湿度が一定の条件の下で実測される。昇温温度ΔTは、基準となる昇温温度である。
【0061】
演算部30は、定常温度取得部31、設定温度演算部32、照射制御部33、照射強度取得部34、濃度推定部35及び濃度信号出力部36を定常温度取得部21~濃度信号出力部25の代わりに有することが演算部20と相違する。定常温度取得部31~濃度信号出力部36を有すること以外の演算部30の構成及び機能は、演算部30の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0062】
(第2実施形態に係る成分濃度推定装置による成分濃度推定処理)
図9は、成分濃度推定装置2による成分濃度推定処理を示すフローチャートである。図9に示す成分濃度推定処理は、予め記憶部14aに記憶されているプログラムに基づいて、主に演算部30により成分濃度推定装置2の各要素と協働して実行される。
【0063】
まず、定常温度取得部31は、S101の処理と同様に、検体70の定常状態の定常温度T0を示す定常温度情報を温度センサ12から取得し(S201)、取得した定常温度情報を記憶部14に記憶する。
【0064】
次いで、設定温度演算部32は、照射素子11による照射領域75への照射を停止する設定温度TSを演算し(S202)、演算した設定温度TSを示す設定温度情報を記憶部14に記憶する。設定温度演算部32は、S201の処理で取得した定常温度T0に昇温温度ΔTを加算した温度を設定温度TSとして演算する。
【0065】
次いで、照射制御部33は、S102の処理と同様に、照射素子11に照射を開始することを指示する(S203)。次いで、照射強度取得部34は、所定の待機期間が経過した後に、照射領域75の温度を示す温度情報を温度センサ12から取得する(S204)。
【0066】
次いで、照射強度取得部34は、S204の処理で取得した温度情報に対応する温度がS202の処理で演算された設定温度TSに一致したか否かを判定する(S205)。照射強度取得部34は、S204の処理で取得した温度情報に対応する温度が設定温度TSに一致していないと判定する(S205-NO)と、S204の処理で取得した温度情報に対応する温度が設定温度TSより小さいか否かを判定する(S206)。
【0067】
照射強度取得部34によってS204の処理で取得した温度情報に対応する温度が設定温度TSより小さいと判定される(S206-YES)と、照射制御部33は、照射素子11が照射する中赤外光の照射強度を増加する(S207)。照射制御部33は、増加した照射強度を示す照射強度情報を記憶部14に記憶する。次いで、処理は、S204に戻る。
【0068】
照射強度取得部34によってS204の処理で取得した温度情報に対応する温度が設定温度TSより大きいと判定される(S206-NO)と、照射制御部33は、照射素子11が照射する中赤外光の照射強度を減少する(S208)。照射制御部33は、減少した照射強度を示す照射強度情報を記憶部14に記憶する。次いで、処理は、S204に戻る。以降、S204の処理で取得された温度情報に対応する温度が設定温度TSに一致すると判定される(S206-YES)まで、S204~S208の処理が繰り返される。
【0069】
S204の処理で取得された温度情報に対応する温度が設定温度TSに一致すると判定される(S206-YES)と、照射強度取得部34は、照射領域75の温度が平衡状態に達したか否かを判定する(S209)。S209の処理は、S104の処理と同様なのでここでは詳細な説明は省略する。
【0070】
照射強度取得部34によって照射領域75の温度が平衡状態に達していないと判定される(S209-NO)と、処理は、S204に戻る。以降、照射強度取得部34によって照射領域75の温度が平衡状態に達したと判定される(S209-YES)まで、S204~S209の処理が繰り返される。
【0071】
照射強度取得部34は、照射領域75の温度が平衡状態に達したと判定する(S209-YES)と、照射領域75の温度が平衡状態に達したときの照射強度である平衡照射強度を示す平衡照射強度情報を取得する(S210)。照射強度取得部34は、記憶部14aに記憶される最新の照射強度情報を、照射領域75の温度が平衡状態に達したときの照射強度である平衡照射強度を示す平衡照射強度情報として取得する。
【0072】
次いで、照射制御部33は、S106の処理と同様に、照射素子11の照射の停止を指示する(S210)。
【0073】
次いで、濃度推定部35は、S210の処理で取得した照射強度情報に対応する照射強度に基づいて、血液中のグルコース濃度を推定する(S211)。濃度推定部35は、変換テーブル141を参照して、S210の処理で取得した照射強度情報に対応する照射強度に対応するグルコース濃度を取得する。濃度推定部35は、変換テーブル141から取得したグルコース濃度を、血液中のグルコース濃度として推定する。
【0074】
そして、濃度信号出力部36は、濃度推定部24が推定したグルコース濃度を示す濃度信号を出力して(S212)、成分濃度推定装置2による成分濃度推定処理は終了する。
【0075】
(第3実施形態に係る成分濃度推定装置の概要)
第1実施形態に係る成分濃度推定装置1は、定常温度T0及び第1平衡温度T1から検体70の血液中のグルコース濃度を推定したが、第3実施形態に係る成分濃度推定装置は、所定の設定温度まで昇温するまでの昇温時間からグルコース濃度を推定する。
【0076】
(第3実施形態に係る成分濃度推定装置の構成及び機能)
図10は、第3実施形態に係る成分濃度推定装置のブロック図である。
【0077】
成分濃度推定装置3は、記憶部14b及び演算部40を記憶部14及び演算部20の代わりに有することが成分濃度推定装置1と相違する。記憶部14bは、変換テーブル142を変換テーブル140の代わりに有することが記憶部14と相違する。また、記憶部14bは、昇温温度ΔTを記憶することが記憶部14と相違する。変換テーブル142、昇温温度ΔT及び演算部40以外の成分濃度推定装置3の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された成分濃度推定装置1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0078】
図11は、変換テーブル142を示す図である。
【0079】
変換テーブル142は、グルコース濃度(mg/dl)を、基準とする昇温時間(s)に関連づいて記憶する。昇温時間tuを示す欄はtu1~tunのn個の昇温時間が行方向に順次記憶され、グルコース濃度(mg/dl)を示す欄はC~Cnのn個の温度が行方向に順次記憶される。変換テーブル142は、温度及び湿度が一定の条件の下で、複数の検体70の昇温時間ΔT及びグルコース濃度を実測し、実測した昇温時間ΔT及びグルコース濃度を統計学的に処理して作成される。
【0080】
演算部40は、定常温度取得部41、設定温度演算部42、照射制御部43、昇温時間取得部44、濃度推定部45及び濃度信号出力部46を定常温度取得部21~濃度信号出力部25の代わりに有することが演算部20と相違する。定常温度取得部41~濃度信号出力部46を有すること以外の演算部40の構成及び機能は、演算部40の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0081】
(第3実施形態に係る成分濃度推定装置による成分濃度推定処理)
図12は、成分濃度推定装置3による成分濃度推定処理を示すフローチャートである。図12に示す成分濃度推定処理は、予め記憶部14bに記憶されているプログラムに基づいて、主に演算部40により成分濃度推定装置3の各要素と協働して実行される。
【0082】
まず、定常温度取得部41は、S101の処理と同様に、検体70の定常状態の定常温度T0を示す定常温度情報を温度センサ12から取得し(S301)、取得した定常温度情報を記憶部14に記憶する。
【0083】
次いで、設定温度演算部42は、照射素子11による照射領域75への照射を停止する設定温度TSを演算し(S302)、演算した設定温度TSを記憶部14に記憶する。設定温度演算部32は、S201の処理で取得した定常温度T0に昇温温度ΔTを加算した温度を設定温度TSとして演算する。
【0084】
次いで、照射制御部43は、照射素子11に照射を開始することを指示する(S303)。昇温時間取得部44は、照射制御部43が照射素子11に照射開始を指示すると同時に、昇温時間tuの計時を開始する。
【0085】
次いで、照射制御部43は、S302の処理で演算された設定温度TSに照射領域75の温度が到達すると、S106の処理と同様に、照射素子11の照射の停止を指示する(S304)。昇温時間取得部44は、照射制御部43が照射素子11に照射停止を指示すると同時に、昇温時間tuの計時を終了する。
【0086】
次いで、昇温時間取得部44は、照射制御部33が照射素子11に照射開始を指示してから照射制御部33が照射素子11に照射停止を指示までの時間を昇温時間tuとして取得する(S305)。
【0087】
次いで、濃度推定部45は、S305の処理で取得した昇温時間tuに基づいて、血液中のグルコース濃度を推定する(S306)。濃度推定部45は、変換テーブル142を参照して、S305の処理で取得した昇温時間tuに対応するグルコース濃度を取得する。濃度推定部45は、変換テーブル142から取得したグルコース濃度を、血液中のグルコース濃度として推定する。
【0088】
そして、濃度信号出力部46は、濃度推定部24が推定したグルコース濃度を示す濃度信号を出力して(S307)、成分濃度推定装置3による成分濃度推定処理は終了する。
【0089】
(第4実施形態に係る成分濃度推定装置の概要)
検体70の熱伝導率が個体差により相違するとき、中赤外光110が照射された照射領域75の温度上昇は、グルコース濃度に加えて検体70の熱伝導率に依存することになり、推定されたグルコース濃度の信頼性が低下するおそれがある。第4実施形態に係る成分濃度推定装置は、検体70の熱伝導率の個体差を補正して、推定するグルコース濃度の信頼性を高くすることができる。
【0090】
図13は、熱伝導率が相違する2つの検体70の照射領域75に中赤外光110を照射する間及び中赤外光110の照射を停止した後の照射領域75の温度変化を示す図である。図13において、横軸は照射時間を示し、縦軸は照射領域75の温度を示す。また、波形701は熱伝導率が比較的高い検体70の照射領域75の温度変化を示す波形であり、波形702は熱伝導率が比較的低い検体70の照射領域75の温度変化を示す波形である。また、昇温時間は実線の双方向矢印で示され、降温時間は一転鎖線の双方向矢印で示される。
【0091】
第4実施形態に係る成分濃度推定装置は、照射領域75の温度を所定の昇温温度ΔT上昇させたときの波形701の降温時間td1及び波形702の降温時間td2を演算する。第2実施形態に係る成分濃度推定装置は、演算した降温時間td1及び降温時間td2を基準とする降温時間tdsに一致するように補正したときの波形701の昇温時間tu1m及び波形702の昇温時間tu2mを演算する。第2実施形態に係る成分濃度推定装置は、補正した昇温時間tu1m及び昇温時間tu2mからグルコース濃度を推定する。第2実施形態に係る成分濃度推定装置は、補正した昇温時間tu1m及び昇温時間tu2mからグルコース濃度を推定することで、検体70の熱伝導率の個体差を補償して、推定するグルコース濃度の信頼性を高くすることができる。
【0092】
(第4実施形態に係る成分濃度推定装置の構成及び機能)
図14は、第4実施形態に係る成分濃度推定装置のブロック図である。
【0093】
成分濃度推定装置4は、記憶部14c及び演算部50を記憶部14及び演算部20の代わりに有することが成分濃度推定装置1と相違する。記憶部14cは、変換テーブル143を変換テーブル140の代わりに有することが記憶部14と相違する。また、記憶部14cは、基準降温時間tdsを記憶することが記憶部14と相違する。変換テーブル143、基準降温時間tds及び演算部50以外の成分濃度推定装置4の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された成分濃度推定装置1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。変換テーブル143は、図11を参照して既に説明しているので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0094】
基準降温時間tdsは、基準となる降温時間であり、変換テーブル143が作成されるときに、同時に作成される。基準降温時間tdsは、温度及び湿度が変換テーブル143の作成と同一の条件の下で、複数の検体70の降温時間tdを実測し、実測した降温時間tdを統計学的に処理して作成される。
【0095】
演算部50は、定常温度取得部51、昇温時間演算部52、照射制御部53、降温時間演算部54、昇温時間補正部55、濃度推定部56及び濃度信号出力部57を定常温度取得部21~濃度信号出力部25の代わりに有することが演算部20と相違する。定常温度取得部51~濃度信号出力部57を有すること以外の演算部50の構成及び機能は、演算部20の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0096】
(第4実施形態に係る成分濃度推定装置による成分濃度推定処理)
図15は、成分濃度推定装置4による成分濃度推定処理を示すフローチャートである。図15に示す成分濃度推定処理は、予め記憶部14cに記憶されているプログラムに基づいて、主に演算部50により成分濃度推定装置4の各要素と協働して実行される。
【0097】
まず、定常温度取得部51は、S101の処理と同様に、検体70の定常状態の定常温度T0を示す定常温度情報を温度センサ12から取得し(S401)、取得した定常温度情報を記憶部14cに記憶する。
【0098】
次いで、昇温時間演算部52は、照射素子11による照射領域75への照射を停止する設定温度TSを演算し(S402)、演算した到達温度T2を記憶部14cに記憶する。昇温時間演算部52は、S401の処理で取得した定常温度T0に昇温温度ΔTを加算した温度を設定温度TSとして演算する。
【0099】
次いで、照射制御部53は、S102の処理と同様に、照射素子11に照射を開始することを指示する(S403)。昇温時間演算部52は、照射制御部53が照射素子11に照射開始を指示すると同時に、昇温時間tuの計時を開始する。
【0100】
次いで、照射制御部53は、S402の処理で演算された設定温度TSに照射領域75の温度が到達すると、S106の処理と同様に、照射素子11の照射の停止を指示する(S404)。昇温時間演算部52は、照射制御部53が照射素子11に照射停止を指示すると同時に、昇温時間tuの計時を終了する。また、降温時間演算部54は、照射制御部33が照射素子11に照射停止を指示すると同時に、降温時間tdの計時を開始する。
【0101】
次いで、昇温時間演算部52は、照射制御部53が照射素子11に照射開始を指示してから照射制御部53が照射素子11に照射停止を指示までの時間を昇温時間tuとして取得する(S405)。
【0102】
次いで、降温時間演算部54は、設定温度TSから定常温度T0まで昇温温度ΔTだけ照射領域75の温度が降下する降温時間tdを取得する(S406)。降温時間演算部54は、温度センサ12から入力される温度情報に対応する温度が定常温度T0になったときに、降温時間tdの計時を停止する。降温時間演算部54は、照射素子11に照射停止を指示から温度センサ12から入力される温度情報に対応する温度が定常温度T0になるまでの時間を降温時間tdとして取得する。
【0103】
次いで、昇温時間補正部55は、S405の処理で取得された降温時間td及び基準降温時間tdsに基づいて昇温時間tuを補正して補正昇温時間tumを演算する(S407)。昇温時間補正部55は、以下の式(1)に示すように、降温時間tdを基準降温時間tdsで除したパラメータに昇温時間tdを乗算することにより、補正昇温時間tumを演算する。
tum = (td/tds)×tu (1)
【0104】
次いで、濃度推定部56は、S407の処理で演算した補正昇温時間tumに基づいて、血液中のグルコース濃度を推定する(S408)。濃度推定部56は、変換テーブル142を参照して、S407の処理で演算した補正昇温時間tumに対応するグルコース濃度を、血液中のグルコース濃度として推定する。
【0105】
そして、濃度信号出力部57は、濃度推定部24が推定したグルコース濃度を示す濃度信号を出力して(S409)、成分濃度推定装置4による成分濃度推定処理は終了する。
【0106】
成分濃度推定装置4は、検体70の熱伝導率の個体差の影響が小さい降温時間tdに基づいて補正した補正昇温時間tumからグルコース濃度を推定することで、検体70の熱伝導率の個体差を補償して、推定するグルコース濃度の信頼性を高くすることができる。
【0107】
(第5実施形態に係る成分濃度推定装置の概要)
第5実施形態に係る成分濃度推定装置は、照射強度から異なる中赤外光110を検体70の照射領域75に照射して、平衡する温度の温度差に基づいて検体70の血液中のグルコース濃度を推定する。第3実施形態に係る成分濃度推定装置は、照射強度から異なる中赤外光110を照射領域に照射したときの平衡温度に基づいて検体70の血液中のグルコース濃度を推定することで、検体70の熱伝導率の個体差が補償される。
【0108】
図16(a)は、照射領域75に照射される中赤外光110の照射強度と照射領域75の温度が平衡する平衡温度との関係を示す図である。図16(b)は、照射領域75に照射される中赤外光110の照射強度と、グルコース濃度が同一であり且つ放熱特性が異なる2つの検体70の照射領域75の温度が平衡する平衡温度との関係を示す図である。図16(a)及び16(b)において、横軸は照射領域75に照射される中赤外光110の照射強度を示し、縦軸は照射領域75の温度を示す。図16(b)において、波形801は放熱特性が大きい検体の照射強度と平衡温度との関係を示し、波形802は放熱特性が小さい検体の照射強度と平衡温度との関係を示す。
【0109】
照射強度が小さいときは、放熱の影響を無視できないため、照射領域75の平衡温度は、照射される中赤外光110の照射強度に比例しない。一方、照射強度が大きいときは、放熱の影響を無視できるため、照射領域75の平衡温度は、照射される中赤外光110の照射強度に比例する。
【0110】
波形801の第1照射強度E1における平衡温度T1aは、波形801に対応する検体70の放熱特性が大きいため、波形802の第1照射強度E1における平衡温度T1bよりも小さくなる。波形801の第2照射強度E2における平衡温度T2aは、検体70の放熱特性の差が無視できるため、波形802の第2照射強度E2における平衡温度T2bと等しくなる。
【0111】
図17は、第5実施形態に係る成分濃度推定装置による成分濃度推定処理における照射領域75の温度の経時変化を示す図である。図17において、横軸は照射時間を示し、縦軸は照射領域75の温度を示す。
【0112】
まず、第5実施形態に係る成分濃度推定装置は、検体70の定常状態において、照射強度が第1照射強度E1である中赤外光110を照射領域75に照射して、照射領域75の温度が平衡する第1平衡温度T1を取得する。次いで、第5実施形態に係る成分濃度推定装置は、照射領域75の温度が第1平衡温度T1で平衡した状態において、照射強度が第1照射強度E1よりも大きい第2照射強度E2である中赤外光110を照射領域75に照射する。第5実施形態に係る成分濃度推定装置は、照射強度が第2照射強度E2である中赤外光110を照射領域75に照射したときに、照射領域75の温度が平衡する第2平衡温度T2を取得する。
【0113】
第5実施形態に係る成分濃度推定装置は、検体70の定常状態の温度T0、第1平衡温度T1及び第2平衡温度T2に基づいて、グルコース濃度を推定することで、検体70の個体差による放熱の影響を補償することができる。
【0114】
(第5実施形態に係る成分濃度推定装置の構成及び機能)
図18は、第5実施形態に係る成分濃度推定装置のブロック図である。
【0115】
成分濃度推定装置5は、記憶部14d及び演算部60を記憶部14及び演算部20の代わりに有することが成分濃度推定装置1と相違する。記憶部14dは、変換テーブル144を変換テーブル140の代わりに有することが記憶部14と相違する。また、記憶部14dは、第1照射強度E1及び第2照射強度E2を記憶することが記憶部14と相違する。変換テーブル141、第1照射強度E1及び第2照射強度E2並びに演算部60以外の成分濃度推定装置5の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された成分濃度推定装置1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0116】
図19は、変換テーブル144を示す図である。
【0117】
変換テーブル144は、第1照射強度E1で照射された照射領域75の平衡温度T1と定常状態の温度T0の第1温度差ΔT1及び第2照射強度E2で照射された照射領域75の平衡温度T2と定常状態の温度T0の第2温度差ΔT2をマトリクス状に記憶する。第1温度差ΔT1を示す欄はΔT11~ΔT1mのm個の温度が列方向に順次記憶され、第2温度差ΔT2を示す欄はΔT21~ΔT2nのn個の温度が行方向に順次記憶される。
【0118】
第1温度差ΔT11が配置される第1行はn個のグルコース濃度C11~C1nが順次配列され、第1温度差ΔT12が配置される第2行はn個のグルコース濃度C21~C2nが順次配列される。同様に、第m行までのそれぞれの行に、n個のグルコース濃度が順次配列される。
【0119】
第2温度差ΔT21が配置される第1列はm個のグルコース濃度C11~Cm1が順次配列され、第2温度差ΔT22が配置される第2列はm個のグルコース濃度C12~Cm2が順次配列される。同様に、第n列までのそれぞれの列に、m個のグルコース濃度が順次配列される。変換テーブル144は、温度及び湿度が一定の条件の下で、複数の検体70の定常温度T0、第1平衡温度T1、第2平衡温度T2及びグルコース濃度を実測し、実測値を統計学的に処理して作成される。
【0120】
第1照射強度E1は、検体70が定常状態であるときに照射領域75に照射される中赤外光110の照射強度である。第2照射強度E2は、照射強度が第1照射強度E1である中赤外光110が照射することによって照射領域75の温度が平衡した状態において、照射領域75に照射される中赤外光110の照射強度である。
【0121】
演算部60は、定常温度取得部61、照射制御部62、第1平衡温度取得部63、第2平衡温度取得部64、濃度推定部65及び濃度信号出力部66を定常温度取得部21~濃度信号出力部25の代わりに有することが演算部20と相違する。定常温度取得部61~濃度信号出力部66を有すること以外の演算部60の構成及び機能は、演算部20の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0122】
(第5実施形態に係る成分濃度推定装置による成分濃度推定処理)
図20は、成分濃度推定装置5による成分濃度推定処理を示すフローチャートである。図20に示す成分濃度推定処理は、予め記憶部14dに記憶されているプログラムに基づいて、主に演算部60により成分濃度推定装置5の各要素と協働して実行される。
【0123】
まず、定常温度取得部61は、S101の処理と同様に、検体70の定常状態の定常温度T0を示す定常温度情報を温度センサ12から取得し(S501)、取得した定常温度情報を記憶部14dに記憶する。
【0124】
次いで、照射制御部62は、S102の処理と同様に、照射素子11に照射を開始することを指示する(S502)照射制御部62は、照射領域75に照射される中赤外光110の照射強度が第1照射強度E1になるように照射素子11を制御して、照射を開始する。次いで、第1平衡温度取得部63は、所定の待機期間が経過した後に、照射領域75の温度を示す温度情報を温度センサ12から取得する(S503)。
【0125】
次いで、第1平衡温度取得部63は、S104の処理と同様に、照射領域75の温度が平衡状態に達したか否かを判定する(S504)。第1平衡温度取得部63は、照射領域75の温度が平衡状態に達したと判定する(S504-YES)まで、S503及びS504の処理を繰り返す。
【0126】
第1平衡温度取得部63は、照射領域75の温度が平衡状態に達したと判定する(S504-YES)と、照射領域75の温度が平衡状態に達した第1平衡温度T1を示す第1平衡温度情報を取得し(S505)、取得した第1平衡温度情報を記憶部14に記憶する。
【0127】
次いで、照射制御部62は、照射素子11から照射される中赤外光110の照射強度を第1照射強度E1から第2照射強度E2に変更することを照射素子11に指示する(S506)。照射素子11は、S506の処理に応じて、照射する中赤外光110の照射強度を第1照射強度E1から第2照射強度E2に変更する。
【0128】
次いで、第2平衡温度取得部64は、所定の待機期間が経過した後に、照射領域75の温度を示す温度情報を温度センサ12から取得する(S507)。次いで、第2平衡温度取得部64は、照射領域75の温度が平衡状態に達したか否かを判定する(S508)。第2平衡温度取得部64は、照射領域75の温度が平衡状態に達したと判定する(S508-YES)まで、S507及びS508の処理を繰り返す。
【0129】
第2平衡温度取得部64は、照射領域75の温度が平衡状態に達したと判定する(S508-YES)と、照射領域75の温度が平衡状態に達した第2平衡温度T2を示す第2平衡温度情報を取得し(S509)、取得した第2平衡温度情報を記憶部14に記憶する。
【0130】
次いで、照射制御部62は、S106の処理と同様に、照射素子11の照射の停止を指示する(S510)。
【0131】
次いで、濃度推定部65は、S501の処理で取得された定常温度情報、S505の処理で取得された第1平衡温度情報、S509の処理で取得された第2平衡温度情報に基づいて、血液中のグルコース濃度を推定する(S511)。濃度推定部65は、第1平衡温度情報に対応する第1平衡温度T1から定常温度に対応する温度T0を減算して定常温度差ΔT0を演算する。濃度推定部65は、第2平衡温度情報に対応する第2平衡温度T2から定常温度に対応する温度T0を減算して第1平衡温度差ΔT1を演算する。濃度推定部65は、変換テーブル144を参照して、演算した定常温度差ΔT0及び第1平衡温度差ΔT1に対応するグルコース濃度を取得する。濃度推定部65は、変換テーブル144から取得したグルコース濃度を、血液中のグルコース濃度として推定する。
【0132】
そして、濃度信号出力部66は、濃度推定部65が推定したグルコース濃度を示す濃度信号を出力して(S512)、成分濃度推定装置5による成分濃度推定処理は終了する。
【0133】
(実施形態に係る成分濃度推定装置の変形例)
成分濃度推定装置1~5は、検体70の血液中のグルコース濃度を推定するが、実施形態に係る成分濃度推定装置は、グルコース濃度以外の検体70に含まれる所望の有機物の成分である所定の目的成分を推定してもよい。成分濃度推定装置1~5が、所定の目的成分を推定するとき、照射素子は、検体中の目的成分の吸収波長を含む電磁波を照射領域75に照射する。
【0134】
また、成分濃度推定装置1~5では、照射素子11は、中赤外光110を照射領域75に照射するが、実施形態に係る成分濃度推定装置は、可視光、近赤外光及び遠赤外光等の中赤外光以外の電磁波を照射領域75に照射する照射素子を有してもよい。
【0135】
また、成分濃度推定装置1~5は、スマートウォッチであるが、実施形態に係る成分濃度推定装置は、据置型装置であってもよい。実施形態に係る成分濃度推定装置が据置型装置であるとき、照射素子は、赤外フィラメント電球、ハロゲンランプ及びキセノンランプ等の大型の赤外線照射素子であってもよい。
【0136】
また、成分濃度推定装置1~5は、検体70の手首を照射領域75とするが、実施形態に係る成分濃度推定装置は、検体70の眼球等の検体70の手首以外の部分を照射領域としてもよい。実施形態に係る成分濃度推定装置が検体70の眼球を照射領域とするとき、涙液、角膜及び眼房水中のグルコース濃度が推定される。また、実施形態に係る成分濃度推定装置は、検体70の鼻腔又は口腔の内部を照射領域としてもよい。実施形態に係る成分濃度推定装置が検体70の鼻腔又は口腔の内部を照射領域とするとき、鼻腔又は口腔の内部の粘膜中のグルコース濃度が推定される。実施形態に係る成分濃度推定装置は、検体70の眼球等の表面に角質層71のない部位でグルコース濃度を推定することにより、グルコース濃度を精度高く推定することが可能になる。
【0137】
また、成分濃度推定装置1~5では、温度センサ12は、非接触型の温度センサであるが、実施形態に係る成分濃度推定装置では、温度センサは、熱電対、サーミスタ、RTD及び水晶温度計等の接触型の温度センサであってもよい。
【0138】
図21は、接触型の温度センサを有する成分濃度推定装置によるグルコース濃度方法を概略的に示す図である。
【0139】
成分濃度推定装置6は、温度センサ12の代わりに温度センサ12aを有することが成分濃度推定装置1と相違する。温度センサ12a以外の成分濃度推定装置6の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された成分濃度推定装置1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0140】
温度センサ12aは、先端が照射領域75に接する熱電対である。温度センサ12aは、照射領域75に接する先端から照射領域75の温度を直接検出するので、外乱等のノイズの影響を受け難くなり、照射領域75の温度を高精度で検出することができる。
【0141】
また、実施形態に係る成分濃度推定装置は、照射領域75を冷却するヒートシンク、ファン及びペルチェ素子等の冷却素子を有してもよい。実施形態に係る成分濃度推定装置は、照射領域75を冷却素子によって冷却することで、グルコース濃度の推定に使用可能な温度幅が広がるため、グルコース濃度の推定精度を更に向上させることができる。
【0142】
また、実施形態に係る成分濃度推定装置は、照射領域75の正常な定常温度T0の範囲である正常範囲を記憶部に記憶してもよい。実施形態に係る成分濃度推定装置は、温度センサ12によって検出される照射領域75の温度が、記憶部に記憶される正常範囲に含まれているか否かについて判定する。
【0143】
温度センサ12によって検出される照射領域75の温度が、記憶部に記憶される正常範囲に含まれないとき、照射領域75の温度が異常であることを示す画像を表示部16に表示し、処理を終了してもよい。また、実施形態に係る成分濃度推定装置は、濃度推定装置の装着状態を確認し、グルコース濃度を再度推定することを示す画像を表示部16に表示してもよい。
【0144】
実施形態に係る成分濃度推定装置は、検出される照射領域75の温度が正常範囲に含まれているか否かについて判定することで、検体70に成分濃度推定装置が適切に配置されているかを判定し、推定精度が低下することを防止することができる。
【0145】
また、実施形態に係る成分濃度推定装置は、温度センサ12によって検出される照射領域75の温度が、記憶部に記憶される正常範囲を超えているか否かについて判定してもよい。実施形態に係る成分濃度推定装置は、検出される照射領域75の温度が正常範囲を超えていると判定したとき、異常があることを示す画像を表示部16を表示し、処理を終了してもよい。実施形態に係る成分濃度推定装置は、検出される照射領域75の温度が正常範囲を超えているか否かを判定することで、照射領域75が異常な温度まで上昇することを防止し、検体70の破損及び熱傷を防止することができる。
【0146】
なお、実施形態に係る成分濃度推定装置は、検出される照射領域75の温度が正常範囲を超えているか否かを判定せずに、検出される照射領域75の温度が正常範囲を超えるおそれがあるか否かを推定してもよい。実施形態に係る成分濃度推定装置は、検出される照射領域75の温度が正常範囲を超えるおそれがあると推定したときに、異常があることを示す画像を表示部16を表示してもよい。
【0147】
また、成分濃度推定装置1~5では、濃度推定部は、変換テーブル140~144を参照してグルコース濃度を推定するが、実施形態に係る成分濃度推定装置では、照射領域75の温度をパラメータとする数式によってグルコース濃度を推定してもよい。
【0148】
また、成分濃度推定装置1~5は、定常温度情報を温度センサから取得する定常温度取得部を有するが、実施形態に係る成分濃度推定装置は、定常温度取得部を有していなくてもよい。
【0149】
また、成分濃度推定装置1~5は、照射素子11から出射された中赤外光110の照射強度を検出する照度センサ13を有するが、実施形態に係る成分濃度推定装置は、照度センサ13を有していなくてもよい。
【0150】
また、成分濃度推定装置4は、降温時間tdによって補正された補正昇温時間tumを使用してグルコース濃度を推定するが、実施形態に係る成分濃度推定装置は、昇温時間tuを補正することなく、昇温時間tuを使用してグルコース濃度を推定してもよい。
【0151】
また、成分濃度推定装置4は、定常温度T0から照射領域75への中赤外光110の照射が停止されるまでの間の昇降温時間である昇温時間tu及び降温時間tdを使用してグルコース濃度を推定する。しかしながら、実施形態に係る成分濃度推定装置は、昇温時間tu及び降温時間tdのそれぞれに含まれる時間の一部の時間を使用して、グルコース濃度を推定してもよい。
【0152】
図22は、グルコース濃度の推定に使用される昇圧時間及び降温時間の変形例を示す図である。図22において、横軸は照射時間を示し、縦軸は照射領域の温度を示す。
【0153】
図22に示す例では、グルコース濃度の推定に使用される昇圧時間tupは、第1設定温度TS1から第2設定温度TS2まで昇温するまでの時間である。また、グルコース濃度の推定に使用される降圧時間tdpは、第3設定温度TS3から第4設定温度TS4まで降温するまでの時間である。
【0154】
第1設定温度TS1~第4設定温度TS4は、定常温度T0と設定温度TSとの間の時間である。また、第1設定温度TS1と第2設定温度TS2との間の温度差ΔTUは、第3設定温度TS3と第4設定温度TS4との間の温度差ΔTDと同一である。
【0155】
実施形態に係る成分濃度推定装置は、昇降温時間tdのそれぞれに含まれる時間の一部の時間を使用することで、温度変化率が他の温度変化率と相違する照射開始及び照射停止前後の温度を除いて、グルコース濃度を推定することができる。
【0156】
また、成分濃度推定装置1~3及び5は、成分濃度推定装置4と同様に、昇温温度だけ照射領域の温度が降温する降温時間を示す降温時間情報を取得する降温時間取得部と、降温時間に基づいて第1及び第2平衡温度、平衡照射強度を補正する補正部を有してもよい。成分濃度推定装置1~3及び5では、補正部は、降温時間に基づいて第1及び第2平衡温度、平衡照射強度を補正する処理を実行し、成分濃度推定部は、補正された第1及び第2平衡温度、平衡照射強度に基づいてグルコース濃度を推定する。
【0157】
また、成分濃度推定装置5は、第1平衡温度T1及び第2平衡温度T2の2つの平衡温度を使用してグルコース濃度を推定するが、実施形態に係る成分濃度推定装置は、3つ以上の平衡温度を使用してグルコース濃度を推定してもよい。
【符号の説明】
【0158】
1~6 成分濃度推定装置
11 照射素子
12 温度センサ
13 照度センサ
14、14a、14b、14c、14d 記憶部
15 入力部
16 表示部
20、30、40、50、60 演算部
21、31、41、51、61 定常温度取得部
22、33、43、53、62 照射制御部
23、63 第1平衡温度取得部
24、35、45、56、65 濃度推定部
25、36、46、57、66 濃度信号出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22