(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】製紙用シームフェルト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D21F 7/08 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
(21)【出願番号】P 2021033530
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 茂人
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-041161(JP,A)
【文献】特開平11-100787(JP,A)
【文献】国際公開第2007/013631(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに連結されるべく丈方向の両端部に形成された複数のループを有するシーム基布、及び前記シーム基布の製紙面側に重ねられて前記複数のループを有さない上基布を含む基布と、前記基布に一体化されたバット層とを備え、前記複数のループが前記シーム基布の幅方向に沿って直線状に配置されていない製紙用シームフェルトの製造方法であって、
芯線によって前記複数のループが互いに連結された状態の前記シーム基布、及び経糸を含まずに第1上緯糸を含んで前記上基布の一部を形成するために使用される第1不織布を作成する工程と、
前記第1上緯糸の延在方向が前記幅方向に一致するように前記シーム基布の上に前記第1不織布を重ね合わせ、前記第1不織布に前記複数のループの配列方向に沿って線状の目印を付ける工程と、
前記第1不織布を前記シーム基布から取り外し、前記目印に沿って前記第1不織布を切断する工程と、
経糸を含まずに第2上緯糸を含む第2不織布から前記上基布の一部を形成するために使用されるバンド部を作成する工程であって、前記第2上緯糸が前記シーム基布の前記幅方向の長さ以上の長さを有し、かつ前記第2上緯糸の各々がその延在方向の途中で切断されていない、工程と、
前記複数のループを覆い、かつ前記第2上緯糸が前記複数のループの配列方向に沿うように、前記シーム基布に前記バンド部を取り付ける工程と、
前記基布を完成させるべく、前記目印に沿った切断端が前記バンド部に隣接するように、切断された前記第1不織布を前記シーム基布に取り付ける工程と、
前記基布に前記バット層を一体化させる工程と
を備えることを特徴とする製紙用シームフェルトの製造方法。
【請求項2】
前記バンド部は、前記丈方向において互いに隣接する2つのバンド片を含み、一方の前記バンド片は、前記芯線に対して前記丈方向の一方に固定され、他方の前記バンド片は、前記芯線に対して前記丈方向の他方に固定されることを特徴とする請求項1に記載の製紙用シームフェルトの製造方法。
【請求項3】
前記第2上緯糸は、前記バンド片の前記一方における前記バンド片の前記他方の側の端部に配置された最端部第2上緯糸を含み、前記最端部第2上緯糸は、前記バンド片の前記他方に配置された前記第2上緯糸及び前記バット層とは異なる色を有することを特徴とする請求項2に記載の製紙用シームフェルトの製造方法。
【請求項4】
前記第2不織布は、前記第2上緯糸が溶着され、ニードリングによって前記バット層の一部となるプレニードルバットシートを更に含み、
前記バンド部を作成する工程は、1本又は互いに隣接する複数本の前記第2上緯糸を前記第2不織布から取り除いた部分を切断することを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の製紙用シームフェルトの製造方法。
【請求項5】
互いに連結されるべく丈方向の両端部に形成された複数のループを有するシーム基布、及び前記シーム基布の製紙面側に重ねられて前記複数のループを有さない上基布を含む基布と、前記基布に一体化されたバット層とを備える製紙用シームフェルトであって、
前記上基布は、経糸を含まずに上緯糸を含み、前記上緯糸は、前記複数のループの近傍を避けて配置された第1上緯糸と、前記複数のループの近傍に配置された第2上緯糸とを含み、
前記第2上緯糸の各々は、前記複数のループの配列方向に沿って延在して、その延在方向の途中で切断されていないことを特徴とする製紙用シームフェルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、製紙用シームフェルト及びその製造方法に関し、特に、互いに連結されるべく丈方向の両端部に形成された複数のループを有するシーム基布、及び前記シーム基布の製紙面側に重ねられて前記複数のループを有さない上基布を含む基布と、前記基布に一体化されたバット層とを備える製紙用シームフェルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用フェルトは、抄紙機やパルプマシン等における湿紙から水分を機械的に搾るプレスパートで、湿紙の運搬及び搾水のために使用される。製紙用フェルトは、基布と短繊維からなるバット層とをニードリングによって一体化して形成される。製紙用フェルトには、湿紙運搬性、搾水性、紙の表面にマークを付けない表面性(紙面性)、抄紙機に装着されてから好ましい状態になるまでの時間に関する初期馴染み性、防汚性、及び耐久性等が要求される。
【0003】
フェルトを抄紙機に取り付ける際の作業性を向上させるため、フェルトの走行経路、いわゆるフェルトランに有端のフェルトを引き込んだ上でその両端部を互いに連結して無端とする、いわゆるシームフェルトが広く普及している。この種のシームフェルトでは、基布を構成する経糸の折り返しにより経方向の両端部に形成されたループを互いのループ孔が整合するように交互に配置し、ループ孔に芯線を通して両端部を連結する構成が一般的である。
【0004】
フェルトの空隙量が増大すると、搾水性が向上する。シームフェルトの空隙量を増大させるため、ループを含むシーム基布(下基布)と、シーム基布の製紙面側にループを有さない上基布とが設けられた基布が知られている。
【0005】
特許文献1~3には、互いに織り込まれた経糸及び緯糸を含み、ループを有するシーム基布と、互いに織り込まれた経糸及び緯糸を含み、ループを有さない上基布とを積層させた基布を備えるシームフェルトが記載されている。このようなシームフェルトでは、上基布が、無端状に形成された後、シーム基布のループに相当する位置で切断される。また、シーム基布の製造時に生じる筋曲がりのため、シーム部(ループが設けられた部分)を幅方向に直線状に製造することが難しい。このため、上基布のシーム部を切断する際に、経糸だけでなく緯糸も切断してしまう。シームフェルトの使用中に、切断された上基布の経糸及び緯糸が、伸縮及び移動することにより、シーム部から飛び出したり、シーム部から内部に引き込まれたりする。
図14中の符号Aは、シーム部から飛び出した緯糸を示す。シーム部から飛び出した糸は、シームフェルトに搬送され、プレスされる湿紙に押し当てマークを発生させる場合や、湿紙が薄い場合は湿紙に穴を開けてしまう問題があった。また、シーム部から内部に糸が引き込まれると、引き込まれた部位は糸が欠損しているためプレスにおいて圧力が弱くなり紙にマークを発生させたりした。
【0006】
そこで、特許文献1に記載のシームフェルトでは、上基布の経糸と緯糸とが交点において互いに接着されていることにより、切断部において上基布の緯糸がほつれることを防止した。特許文献2に記載のシームフェルトでは、上基布における切断される部分を緯糸のない領域とすることにより、切断部において上基布の緯糸がほつれることを防止し、また、緯糸が斜めに切断されることを防止している。特許文献3に記載のシームフェルトでは、上基布の経糸及び緯糸が、丈方向及び幅方向に対して傾斜しているため、バット層に長く保持され、緯糸のほつれが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-100787号公報
【文献】特開2004-36020号公報
【文献】特開2010-31395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のシームフェルトでは、上基布の経糸及び緯糸を互いに溶着等により接着するため、この接着に手間を要し、製造コストが嵩んだ。また、抄紙機に装着されたフェルトは、湿紙の運搬中に湿紙とともにプレスされるが、プレスによってフェルトが揉まれることにより、接着力が低下し、緯糸が解れる等の問題が生じる可能性がある。このため、近年の抄紙スピードの高速化に対応するためには、接着力の大幅な強化が必要となるが、接着力を強化するとフェルトの剛性が高くなり、搾水性が低下する等の問題が生じる可能性があった。特許文献2に記載のシームフェルトでは、上基布の経糸が切断部から出てきてしまい、紙にマークを付けてしまうことがあった。特許文献3に記載のシームフェルトでは、緯糸のほつれを十分に防止することはできなかった。また、本発明の発明者は、上基布として織布ではなく、経糸がなく緯糸条列のみからなる不織布を使用し、紙面性を向上させることを検討したが、上基布の緯糸は織られていないため、緯糸のほつれが顕著であった。
【0009】
このような問題に鑑み、本発明は、ループを有するシーム基布と、ループを有さない上基布と、バット層とを備える製紙用シームフェルトであって、上基布の糸のほつれを防止できる製紙用シームフェルト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある実施形態は、互いに連結されるべく丈方向の両端部に形成された複数のループ(4)を有するシーム基布(6)、及び前記シーム基布(6)の製紙面側に重ねられて前記複数のループ(4)を有さない上基布(7)を含む基布(2)と、前記基布(2)に一体化されたバット層(3)とを備え、前記複数のループ(4)が幅方向に沿って直線状に配置されていない製紙用シームフェルト(1)の製造方法であって、芯線(5)によって前記複数のループ(4)が互いに連結された状態の前記シーム基布(6)、及び経糸を含まずに第1上緯糸(13)を含んで前記上基布(7)の一部を形成するために使用される第1不織布(15)を作成する工程と、前記第1上緯糸(13)の延在方向が前記シーム基布(6)の幅方向に一致するように前記シーム基布(6)の上に前記第1不織布(15)を重ね合わせ、前記第1不織布(15)に前記複数のループ(14)の配列方向に沿って線状の目印(17)を付ける工程と、前記第1不織布(15)を前記シーム基布(6)から取り外し、前記目印(17)に沿って前記第1不織布(15)を切断する工程と、経糸を含まずに第2上緯糸(14)を含む第2不織布(16)から前記上基布(7)の一部を形成するために使用されるバンド部を作成する工程であって、前記第2上緯糸(14)が前記シーム基布(6)の前記幅方向の長さ以上の長さを有し、かつ前記第2上緯糸(14)の各々がその延在方向の途中で切断されていない、工程と、前記複数のループ(4)を覆い、かつ前記第2上緯糸(14)が前記複数のループ(4)の配列方向に沿うように、前記シーム基布(6)に前記バンド部(20)を取り付ける工程と、前記基布(2)を完成させるべく、前記目印(17)に沿った切断端が前記バンド部(20)に隣接するように、切断された前記第1不織布(15)を前記シーム基布(6)に取り付ける工程と、前記基布に前記バット層を一体化させる工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、ループ近傍に配置される上緯糸が、その延在方向の途中で切断されていない第2上緯糸となる。このため、第2上緯糸は、バット層に強固に支持され、上基布の糸のほつれが防止され、湿紙にマークが付きにくくなる。また、バンド部を用いることにより第2上緯糸の切断が防止できるため、比較的手間をかけずに基布を作成することができる。
【0012】
本発明のある実施形態は、上記構成において、前記バンド部(20)は、前記丈方向において互いに隣接する2つのバンド片(18)を含み、一方の前記バンド片(18)は、前記芯線(5)に対して前記丈方向の一方に固定され、他方の前記バンド片(18)は、前記芯線(5)に対して前記丈方向の他方に固定されることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、バンド部が2つのバンド片を含むため、上方から見て芯線を挟むように2つのバンド片を配置することにより、シーム基布にバンド片を取り付ける際に、芯線を視認しやすくなり、バンド片を芯線に沿って配置することが容易になる。
【0014】
本発明のある実施形態は、上記構成において、前記第2上緯糸(14)は、前記バンド片(18)の前記一方における前記バンド片(18)の前記他方の側の端部に配置された最端部第2上緯糸(14a)を含み、前記最端部第2上緯糸(14a)は、前記バンド片(18)の前記他方に配置された前記第2上緯糸(14)及び前記バット層(3)とは異なる色を有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、バット層内の最端部第2上緯糸を視認しやすいため、バット層をループ4近傍で切断する時に誤って第2上緯糸を切断することが抑制される。仮に最端部第2上緯糸を誤って切断したとしても、製造最終検査で作業員が最端部第2上緯糸を切断したことに気づいて、切断された最端部第2上緯糸を取り除くことができる。また、フェルトの使用中に最端部第2上緯糸が飛び出しても、発見しやすく、早期に飛び出した最端部第2上緯糸を除去できる。
【0016】
本発明のある実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記第2不織布(16)は、前記第2上緯糸(14)が溶着され、ニードリングによって前記バット層(3)の一部となるプレニードルバットシート(12)を更に含み、前記バンド部(20)を作成する工程は、1本又は互いに隣接する複数本の前記第2上緯糸(14)を前記第2不織布(16)から取り除いた部分を切断することを含むことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、第2上緯糸間の隙間が大きい部分を切断するため、誤って第2上緯糸を切断することを防止できる。
【0018】
本発明のある実施形態は、互いに連結されるべく丈方向の両端部に形成された複数のループ(4)を有するシーム基布(6)、及び前記シーム基布(6)の製紙面側に重ねられて前記複数のループ(4)を有さない上基布(7)を含む基布(2)と、前記基布(2)に一体化されたバット層(3)とを備え、前記複数のループ(4)が幅方向に沿って直線状に配置されていない製紙用シームフェルト(1)であって、前記上基布(7)は、経糸を含まずに上緯糸(11)を含み、前記上緯糸(11)は、前記複数のループ(4)の近傍を避けて配置された第1上緯糸(13)と、前記複数のループ(4)の近傍に配置された第2上緯糸(14)とを含み、前記第2上緯糸(14)の各々は、前記複数のループ(4)の配列方向に沿って延在して、その延在方向の途中で切断されていないことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、糸を動かす力が加わりやすいループの近傍において、第2上緯糸がその延在方向で切断されていないため、バット層に強固に支持され、上基布の糸のほつれが防止され、湿紙にマークが付きにくくなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ループを有さない上基布の糸のほつれを防止できる製紙用シームフェルト及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係る製紙用シームフェルトを示す斜視図
【
図2】実施形態に係る製紙用シームフェルトのシーム部の幅方向に直交する断面を示す図
【
図3】実施形態に係る製紙用シームフェルトの製造方法の説明図(シーム基布のループ近傍を示す図)
【
図4】実施形態に係る製紙用シームフェルトの製造方法の説明図(シーム基布に第1不織布を重ねた状態を示す図)
【
図5】実施形態に係る製紙用シームフェルトの製造方法の説明図(第1不織布に目印を付けた状態を示す図)
【
図6】実施形態に係る製紙用シームフェルトの製造方法の説明図(第1不織布を切断した状態を示す図)
【
図7】実施形態に係る製紙用シームフェルトの製造方法の説明図(第2不織布から第2緯糸の一部を取り除いた状態を示す図)
【
図8】実施形態に係る製紙用シームフェルトの製造方法の説明図(第2不織布からバンド片を作成した状態を示す図)
【
図9】実施形態に係る製紙用シームフェルトの製造方法の説明図(シーム基布に両面接着テープを貼り付けた状態を示す図)
【
図10】実施形態に係る製紙用シームフェルトの製造方法の説明図(シーム基布にバンド片を貼り付けた状態を示す図)
【
図11】実施形態に係る製紙用シームフェルトの製造方法の説明図(シーム基布に両面接着テープを更に貼り付けた状態を示す図)
【
図12】実施形態に係る製紙用シームフェルトの製造方法の説明図(シーム基布に上基布を取り付けた状態を示す図)
【
図13】実施形態に係る製紙用シームフェルトの製造方法の説明図(上基布のシーム部を切断する状態を示す図)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0023】
図1及び
図2は、実施形態に係る製紙用シームフェルト1(以下、「フェルト1」と記す)の斜視図、及び経方向の断面図(緯方向に直交する断面図)である。
図1及び
図2に示すように、フェルト1は、基布2と、基布2の製紙面側及び走行面側に短繊維を積層してニードリングによって一体化して形成されたバット層3とを備える。フェルト1は、有端であるが、その経方向の両端部においてバット層3から突出した複数のループ4を互いにかみ合わせ、かみ合わさったループ4の孔に芯線5を通すことによって結合され、無端環状の形態となる。フェルト1は、抄紙機に取り付けられると、外側が湿紙を載置する製紙面側となり、内側が走行面側となり、搾水及び加圧等の脱水工程における紙原料の運搬ベルトとして使用される。以下の説明において、フェルト1及び基布2の厚さ方向を上下方向とし、製紙面側を「上」、走行面側を「下」と記す。
【0024】
基布2は、いわゆるラミネート基布の一種であり、ループ4を有するシーム基布6と、シーム基布6の上側に重ねられてループ4を有さない上基布7とを含む。
【0025】
シーム基布6は、互いに織り込まれた下経糸8及び下緯糸9を含む。シーム基布6は、下経糸8が折り返されることによって形成された部分であるループ4と、下経糸8及び下緯糸9が互いに織り込まれた部分である下地部10とを含む。シーム基布6を構成する織布の組織は、特に限定されないが、例えば経2重織としてもよい。
【0026】
上基布7は、経糸を含まず、引き揃えられた上緯糸11を含む不織布から作成される。製造方法については後述するが、上基布7は、製造途中においては、上緯糸11が引き揃えられた状態を維持するため、プレニードルバットシート12の表面に溶着されている。上基布7は、シーム基布6に対して、上緯糸11がシーム基布6に接し、プレニードルバットシート12が製紙面側を向いた状態で載置され、ニードリングによって一体化される。プレニードルバットシート12は、製造過程でニードリングされることにより、完成品ではバット層3の一部となっている。プレニードルバットシート12として、例えば、66ナイロンの11dtex短繊維と、11dtexの低融点溶融繊維(融点140℃)とを70:30で混紡し、ニードルパンチでシート状にしたものを使用できる。上緯糸11との溶着強度を高めるために、低融点繊維の比率を高めてもよい。プレニードルバットシート12の目付は、例えば、100g/m2である。上緯糸11は、下地部10の丈方向(機械方向(MD))の中間部の上方に配置された第1上緯糸13と、下地部10の丈方向の端部及びループ4の上方に配置された第2上緯糸14とを含む。本実施形態では、第1上緯糸13と第2上緯糸14との境界は、下地部10とループ4との境界の真上よりも下地部10側に存在するが、下地部10とループ4との境界の真上、又は真上よりもループ4側に存在してもよい。第2上緯糸14の各々は、緯方向の途中で切断されていない。
【0027】
芯線5、下経糸8、下緯糸9及び上緯糸11を構成する素材は特に限定されないが、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂が好ましい。ポリアミド系樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、更には、ナイロンが好ましい。ナイロンとしては、66ナイロン、6ナイロン、12ナイロン、11ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸とグリコールとからなるポリエステルであれば特にその種類に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等であってよい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、芯線5、下経糸8、下緯糸9及び上緯糸11は、互いに同一素材から構成されても、異なる素材から構成されてもよい。また、各糸は、各々単一材質で構成されていてもよく、材質が異なる2種以上の材質で構成されていてもよい。更に、各糸には、無機フィラー及び/又は有機フィラーが含有されていてもよい。下経糸8、下緯糸9及び上緯糸11の糸の種類は、特に限定されないが、例えば、モノフィラメント単糸、モノフィラメント撚糸、マルチフィラメント撚糸、又はそれらの組み合わせであってよい。芯線5は、マルチフィラメントの引き揃え糸であることが好ましい。例えば、第1上緯糸13と第2上緯糸14とを互いに同じ構成とし、モノフィラメントの撚糸(直径0.20mmの6ナイロンモノフィラメント2本を撚った下撚糸2本をさらに逆方向に上撚りを施した諸撚糸)の糸を使用して、丈方向の長さ1cm当たり約10.6本(1インチ当たり27本)の本数密度で配置してもよい。また、第1上緯糸13及び第2上緯糸14は、この撚糸に弦巻状に紡績糸を撚り込んだものでもよい。紡績糸として、例えば、66ナイロンの6.7dtexの10番手を使用してもよい。また、第1上緯糸13と第2上緯糸14とを互いに異なる構成とし、第1上緯糸13を上記の構成とし、第2上緯糸14をモノフィラメントの撚糸(直径0.15mmの6ナイロンモノフィラメント2本を撚った下撚糸2本をさらに逆方向に上撚りを施した諸撚糸)を使用して、丈方向の長さ1cm当たり約12.6本(1インチ当たり32本)の本数密度で配置してもよい。
【0028】
図1~
図13を参照して、フェルト1の製造方法について説明する。複数のループ4の配列方向及びその中に挿通される芯線5の延在方向は、意図的に傾斜させる場合や、シーム基布6の作成時に生じる筋曲がり等によって傾斜及び/又は湾曲する場合がある。本実施形態に係るフェルト1の製造方法では、このような傾斜及び/又は湾曲したシーム部に配置される第2上緯糸14が、その延在方向の途中で切断されないようにしている。
【0029】
まず、シーム基布6を作成する。シーム基布6は、下経糸8を整経糸とし、下緯糸9を打ち込み糸として製織されてもよい。また、シーム基布は、下緯糸9を整経糸とし、下経糸8を打ち込み糸とし、打ち込み糸が、芯線5で折り返して一端側のループ4を形成し、周状の軌道を通って整経糸に織り込まれ、反対側から芯線5で折り返して他端側のループ4を形成し、反対方向に周状の軌道を通って整経糸に織り込まれることを繰り返す袋織で製織されてもよい。また、シーム基布6は、いわゆる簡易シーム基布(折り畳みシーム)、すなわち、有端の織布を折り畳むことで両端部に形成された折曲部での下経糸8の折り返しによりループ4を形成する方式で作成されてもよい。複数のループ4の配列方向は、意図的にフェルト1の幅方向(交差機械方向(CMD))に対して傾斜されてよく、また、製織時の筋曲がりによって傾斜及び/又は湾曲していてもよい
【0030】
また、上基布7における上緯糸11を引き揃えた状態で維持するための第1不織布15及び第2不織布16(
図7参照)を作成する。第1不織布15は、プレニードルバットシート12と、プレニードルバットシート12の一方の表面に溶着された第1上緯糸13とを含み、その緯方向の長さはシーム基布6の緯方向の長さに等しい。第2不織布16は、他のプレニードルバットシート12と、そのプレニードルバットシート12の一方の表面に溶着された第2上緯糸14とを含み、その緯方向の長さはシーム基布6の緯方向の長さ以上である。
【0031】
次に、
図3~
図6に示すように、第1不織布15の切断作業を行う。まず、
図3に示すように、シーム基布6を、両端部のループ4を芯線5によって互いに連結した状態にしておく。芯線5が見えやすいように、ループ4を構成する下経糸8は有色又は無色の透明又は半透明であり、芯線5は、下経糸8とは異なる色に着色又は染色されていることが好ましく、蛍光糸であることが更に好ましい。次に、
図4に示すように、緯方向が互いに一致して緯方向の端縁が互いに一致するように、シーム基布6のループ4を含む領域の上に第1不織布15を重ねる。第1不織布15の上から芯線5の位置がわかるように、第1不織布15は、芯線5とは異なる色の有色又は無色の透明又は半透明である。次に、
図5に示すように、芯線5(シーム部ライン)に沿って、ペン等によって線状の目印17を付ける。目印17の湾曲及び傾斜の形状は、芯線5の湾曲及び傾斜の形状に一致する。次に、
図6に示すように、第1不織布15をシーム基布6から取り外し、目印17に沿って第1不織布15を切断する。従って、目印17に交差する第1上緯糸13は切断される。上方から見ると、2つに切断された第1不織布15の切断端の形状は、芯線5の湾曲及び傾斜の形状に一致する。切断前の第1不織布15は、丈方向に無端状であることが好ましく、この場合、切断された第1不織布15は、丈方向の両端縁が目印17に沿った形状をなす1枚の布となる。また、切断前の第1不織布15として、丈方向に端縁を有するものを使用してもよく、この場合、2つに切断された第1不織布15における切断端とは反対側の端縁は、互いに隙間なく隣接できるように緯方向に平行であることが好ましい。
【0032】
第1不織布15の切断作業の前若しくは後に、又はこれらの作業と並行して、
図7及び8に示すように、第2不織布16の切断作業を行う。まず、
図7に示すように、所定の間隔で、1本又は互いに隣接する複数本の第2上緯糸14を第2不織布16から取り除く。次に、第2上緯糸14を取り除いた部分で第2不織布16を切断して、2つのバンド片18を作成する。バンド片18の各々は、第2不織布16における第2上緯糸14を取り除いた2つの部分間に存在した部分からなる。バンド片18の第2上緯糸14は、緯方向で切断されていない。第2不織布16における第2上緯糸14を取り除いた部分を切断するため、第2上緯糸14を切断しないように第2不織布16を切断することが容易である。バンド片18は、緯方向が経方向よりも長い矩形をなす。バンド片18の幅(経方向の長さ)は、1cm以上100cm以下であることが好ましい。湾曲の度合いが大きな筋曲がり(小さな波状の筋曲がりや、角度が大きく変化する筋曲がり等)にも対応できるようにバンド片18の剛性を抑える場合には、バンド片18の幅は、1cm以上50cm以下であることが好ましく、2cm以上5cm以下であることが更に好ましい。
【0033】
一方のバンド片18における経方向の一方の最端部に配置された最端部第2上緯糸14aは、位置を確認しやすいように、バット層3(
図2参照)とは異なる色に着色又は染色されていることが好ましく、蛍光糸であることが更に好ましい。最端部の第2上緯糸14だけでなく、これに隣接する複数本の第2上緯糸14、又はこのバンド片18におけるすべての第2上緯糸14が、最端部第2上緯糸14aと同じ色であってもよい。他方のバンド片18の第2上緯糸14は、一方のバンド片18との境界が明確になるように最端部第2上緯糸14aと異なる色を有する。したがって、他方のバンド片18の第2上緯糸14は、着色若しくは染色されてないか、又は、バット層3及び最端部第2上緯糸14aとは異なる色に着色若しくは染色されている。
【0034】
第1不織布15及び第2不織布16の切断作業の後に、
図9~
図12に示すように、シーム基布6の上に上基布7を配置する。まず、
図9に示すように、シーム基布6の上面に、芯線5に沿って、両面接着テープ19を貼る。上方から見て、両面接着テープ19の中心線が芯線5に略一致することが好ましい。次に、
図10に示すように、両面接着テープ19を介して、シーム基布6における芯線5に沿った部分であって芯線5に対してシーム基布6の丈方向の前後の一方の部分に、1つのバンド片18を貼り付け、シーム基布6における芯線5に沿った部分であって芯線5に対してシーム基布6の丈方向の前後の他方の部分に、残りの1つのバンド片18を貼り付ける。この時、バンド片18の第2上緯糸14は、上方から見た時の緯方向に対する傾斜及び湾曲の形状において、芯線5と完全に一致させる。2つのバンド片18によって、上緯糸11が第2上緯糸14からなるバンド部20が構成される。バンド片18におけるシーム基布6の側縁よりも緯方向にはみ出した部分は切断される。次に、
図11に示すように、シーム基布6の上面におけるバンド部20の経方向の外側に両面接着テープ19を貼り付ける。次に、
図12に示すように、切断端がバンド部20の緯方向に延在する側縁に当接するように、両面接着テープ19を介して、シーム基布6の上面に2つに切断された第1不織布15を貼り付ける。2つに切断された第1不織布15の切断端とは反対側の端縁間にも、両面接着テープ19を介して他の第1不織布15が貼り付けられる。このようにして、基布2が作製される。
【0035】
次に、短繊維シート(図示せず)を基布2の上下に配置し、プレニードルバットシート12及び短繊維シートに対してニードリングを行い、バット層3を形成する。
【0036】
基布2及び基布2に一体化されたバット層3に対して、洗浄、化学処理、プレス処理、ヒートセット等の仕上げ工程が実施される。その後、
図13に示すように、芯線(製造時に使用する芯線は
図2に示す完成時の芯線5と同じものでよく、異なるものでもよい。製造時の芯線として、完成時の芯線5と異なるものを使用する場合には、例えば、太いモノフィラメント単糸を使用してもよい)を抜き取り、製紙面側が谷になるようにシーム部でバット層3を折り曲げ、バット層3と異なる色を有する最端部第2上緯糸14aを目印に、最端部第2上緯糸14aの隣接部分を幅方向に沿ってバット層3を切断することにより、
図1及び
図2に示すフェルト1となる。
【0037】
フェルト1の作用効果について説明する。上緯糸11は、バット層3によって固定されている。バット層3における丈方向の両端部は、フェルト1の使用中にバット層3の切れ目となるため、この部分に配置された第2上緯糸14は、中間部に配置された第1上緯糸13に比べて、バット層3による拘束力が小さく、使用中に受ける外力や、プレスされたり、吸引されたり、屈曲することによる動きにより、バット層3の切れ目から突出しやすいといえる。しかし、第2上緯糸14は、緯方向において切断されていないため、バット層3による拘束力の低下が抑制され、ほつれてバット層3から飛び出したり引き込まれたりすることが防止される。第1不織布15の切断端に配置された第1上緯糸13は、緯方向の途中で切断されているが、その周囲にバット層3の切れ目がないためバット層3による拘束力が大きく、ほつれ難い。従って、上緯糸11のほつれによって、紙にマークが形成されることが抑制できる。
【0038】
バンド片18は、幅(経方向の長さ)が比較的狭いため、芯線5が湾曲していても芯線5に沿った形状でシーム基布6に貼り付けることができる。なお、バンド片18の幅は、芯線5の湾曲の度合いが大きいほど、狭くするように設定してもよい。2つに切断された第1不織布15の切断端と、バンド片18の緯方向に延在する側縁とは、上方から見ると、芯線5の傾斜及び湾曲と同じように傾斜及び湾曲しているため、互いに形状において一致している。このため、第1不織布15とバンド片18とを隙間なく隣接させてシーム基布6の上面に貼り付けることができる。バンド部20の作成及び貼り付けは比較的低コストで行えるため、フェルト1の製造コストを抑えることができる。
【0039】
上基布7が、経糸を含まないため、基布2の製紙面側が平坦となり、表面性が良好となる。
【0040】
バンド部20は、2つのバンド片18によって構成される。上方から見て芯線5を挟むように2つのバンド片18を配置することにより、芯線5を見ながらバンド片18をシーム基布6に貼り付けることができる。このため、バンド片18の形状を芯線5の形状に一致させることが容易となる。
【0041】
第2上緯糸14として、第1上緯糸13よりも細い糸を使用している場合は、バット層3をループ4の近傍で切断する時に誤って第2上緯糸14を切断しても、湿紙への押し当てマークが目立たない。また、一方のバンド片18の最端部第2上緯糸14aとして、バット層3及び他方のバンド片18の第2上緯糸14とは異なる色に着色又は染色された糸や、蛍光糸を用いた場合、バット層3内の最端部第2上緯糸14aを視認しやすいため、バット層3をループ4の近傍で切断する時に誤って第2上緯糸14を切断することが抑制される。また、仮に、バット層3とは異なる色を有する第2上緯糸14を誤って切断したとしても、製造最終検査で作業員が第2上緯糸14を切断したことに気づいて、切断された第2上緯糸14を取り除くことができる。また、フェルト1の使用中にバット層3とは異なる色を有する第2上緯糸14が飛び出しても、発見しやすく、早期に飛び出した第2上緯糸14を除去できる。
【0042】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、フェルト1は、抄紙機ではなく、パルプマシン等の他の製紙用機械で使用されてもよい。バンド部20は、1つのバンド片18によって構成されてもよい。第1不織布15及びバンド片18のシーム基布6への取り付けは、両面接着テープ19に代えて、ミシンによる縫い付けで行ってもよい。この場合、ミシン糸として、直径0.15mm程度のフィラメントを使用することが好ましく、千鳥縫いとすることが好ましい。
【符号の説明】
【0043】
1:製紙用シームフェルト
2:基布
3:バット層
4:ループ
5:芯線
6:シーム基布
7:上基布
8:下経糸
9:下緯糸
10:下地部
11:上緯糸
12:プレニードルバットシート
13:第1上緯糸
14:第2上緯糸
15:第1不織布
16:第2不織布
17:目印
18:バンド片
19:両面接着テープ
20:バンド部