(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】基板部材の切断を準備しかつ/または実施する方法および基板部分部材
(51)【国際特許分類】
C03B 33/09 20060101AFI20240830BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20240830BHJP
B23K 26/382 20140101ALI20240830BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240830BHJP
【FI】
C03B33/09
B23K26/073
B23K26/382
B23K26/53
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021035836
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】10 2020 106 158.7
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】10 2020 123 186.5
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド ゾーア
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン ヴァーグナー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス オアトナー
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-535912(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0221988(US,A1)
【文献】特表2015-536896(JP,A)
【文献】特表2019-532908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/09
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板部材(101)の、切断面に沿った少なくとも2つの基板部分部材への切断を準備しかつ/または実施する方法であって:
-少なくとも1つの基板材料を含む少なくとも1つの基板本体(103)を有する基板部材(101)を準備するステップ;
-前記切断面に沿って少なくとも部分的に、前記基板本体(103)の前記基板材料が少なくとも局所的に除去されかつ/または押し退けられるように、前記基板本体(103)内で少なくとも1つの線状焦点(107)を制御するステップ;
を含み、
前記線状焦点(107)は、少なくとも1つの光線の少なくとも1つの焦点であり;
前記光線は、少なくとも前記線状焦点の領域内で非対称に光線供給する光線の形態で形成されており、
前記非対称の光線供給では、エネルギーが非対称に供給され、かつ光線伝搬が行われる平面に対して垂直な少なくとも1つの平面内でのエネルギー分布の重心が、これまで改質されていない基板材料の領域内に位置するように構成されており、
前記非対称の光線供給では、
(iv)前記光線の部分光線(109)は、前記基板材料が既に除去されかつ/または押し退けられかつ/または前記基板材料内に圧縮された前記基板本体(103)の領域を前記光線の前記部分光線が通り伝搬しないように選択された方向からのみ入射する、
方法。
【請求項2】
前記非対称の光線供給では、
(i)エネルギーが、非対称に供給され、かつ光線伝搬が行われる平面に対して垂直な少なくとも1つの平面内でのエネルギー分布の重心が、これまで改質されていない基板材料の領域内、つまり先行の空洞とは反対の側に位置するように構成されており;
(ii)前記光線の部分光線(109)が、空間半部の1/2または空間半部の一部からのみ入射し;
(iii)前記光線は、0°<p<90°の極角pを有しておりかつ/または前記光線の前記部分光線は、180°未満、好適には85°~100°、特に90°~95°の方位角範囲内に位置しており;
(v)前記光線は、光線伝搬が行われる平面に対して平行な少なくとも1つの鏡像面を有しており;
(vi)「非対称」という用語は、「非回転対称」の意味に解されるべきものであり、つまり特にその他の対称を排除するものではなく;
かつ/または
(vii)前記光線の前記部分光線(109)は、前記基板部材の少なくとも1つの表面に対して平行な全ての平面内および/または前記光線の光軸に対して垂直な全ての平面内で、1つまたは2つの四分円からのみ入射する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記光線は、少なくとも1つのレーザビームを含み、前記光線は、少なくとも前記線状焦点の領域内にエアリービームまたはベッセルビームとして形成されておりかつ/またはレーザエネルギーは、前記線状焦点(107)の焦線に沿って集束される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記線状焦点(107)の制御は、該線状焦点(107)を前記基板材料の複数の異なる局所領域内に順次形成し、これにより、前記局所領域の前記基板材料がその都度除去されかつ/または押し退けられ、特に前記基板材料が、各前記局所領域を包囲する前記基板本体の一部の内部へ圧縮されることを含み、
好適には個々の前記局所領域は、特に少なくとも、好適には前記切断面に対して垂直に、前記光線の光軸に対して垂直にかつ/または少なくとも前記基板部材(101)の第1の表面に対して平行に延在する、前記基板部材(101)の第1の特定の横断面内で、直線的な経路に沿って延在している、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記線状焦点および/または前記局所領域は、前記第1の特定の横断面内の前記局所領域の最大延在長さが0.2μm~200μm、好適には0.2μm~100μm、さらに好適には0.2μm~50μm、さらに好適には0.3μm~20μm、さらに好適には0.3μm~10μm、最も好適には0.7μmであるように選択されている、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記第1の特定の横断面内で隣り合う各前記局所領域は、特に前記経路に沿って互いに、前記第1の特定の横断面内の前記局所領域の最大延在長さの1倍~500倍、好適には1倍~100倍、さらに好適には1倍~50倍、さらに好適には1倍~10倍、さらに好適には1.1倍~5倍に相当しかつ/または0.1μm~500μm、好適には0.2μm~400μm、さらに好適には0.2μm~200μm、さらに好適には0.2μm~100μm、さらに好適には0.2μm~50μm、さらに好適には0.4μm~20μm、さらに好適には1μm~7μm、最も好適には1μm~3μmの中心間間隔を有している、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
前記線状焦点(107)の制御は、該線状焦点(107)を前記基板部材(101)、特に前記基板本体(103)内の複数の異なる作用領域内に順次形成し、これにより、各前記作用領域内に配置された前記基板材料が除去されかつ/または押し退けられ、特に前記基板材料が、前記各作用領域を包囲する前記基板本体の一部の内部へ圧縮されることを含み、個々の前記作用領域同士の間隔は、少なくともすぐ隣り合う前記作用領域同士が少なくとも部分的に重複し、これにより前記基板材料内に、該基板材料が除去された一貫した通路が前記切断面に沿って形成されるように選択されており、
好適には個々の前記作用領域は、特に少なくとも、好適には前記切断面に対して垂直に、前記光線の光軸に対して垂直にかつ/または少なくとも前記基板部材(101)の第2の表面に対して平行に延在する、前記基板部材(101)の第2の特定の横断面内で、直線的な経路に沿って延在している、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記線状焦点(107)および/または前記作用領域は、前記第2の特定の横断面内の前記作用領域の最大延在長さが0.2μm~200μm、好適には0.2μm~100μm、さらに好適には0.2μm~50μm、さらに好適には0.3μm~20μm、さらに好適には0.3μm~10μm、最も好適には0.7μmであるように選択されている、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記第2の特定の横断面内で隣り合う各前記作用領域同士は、特に前記経路に沿って、前記第2の特定の横断面内の前記作用領域の最大延在長さの0.01倍~1.0倍、好適には0.01倍~0.5倍に相当しかつ/または0.002μm~200μm、好適には0.002μm~100μm、さらに好適には0.002μm~50μm、さらに好適には0.002μm~10μm、さらに好適には0.002μm~1μm、最も好適には0.005μm~0.3μmの中心間間隔を有している、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記基板材料における前記局所領域および/または前記作用領域は、少なくとも部分的にチューブ状、円筒状にかつ/または湾曲して、特に少なくとも1つの横断面内で鎌状に延在しておりかつ/または好適には前記基板本体(103)の前記第1もしくは前記第2の表面から、該表面とは反対側の前記基板本体(103)の表面まで、両前記表面間に封じ込められた前記基板本体(103)の厚さ領域全体を通じて延在している、請求項4から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記線状焦点(107)の制御は、前記基板部材(101)を少なくとも1つの前記光線(109)および/または前記線状焦点(107)に対して相対的に移動させることを含み、これにより、好適には前記線状焦点(107)が特に順次または連続的に、少なくともそれぞれ異なる複数の前記局所領域および/または前記作用領域に形成され得る、請求項4から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記光線(109)は、(i)300nm~1500nm、特に343nm、355nm、515nm、532nm、1030nmまたは1064nmの波長を有しており、(ii)前記基板材料の透明領域に基づく波長を有しており、かつ/または(iii)200fs~50ps、好適には500fs~10psのパルス継続時間、1~10、好適には4のバーストパルス数、1kHz~4GHz、好適には40MHzの繰返し数、および/または80μJ/mm~300μJ/mm、好適には100~230μJ/mm、特に180μJ/mmのパルスエネルギーを有する少なくとも1つのパルスレーザ、特に超短パルスレーザにより放射される、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記基板部材(101)は、前記基板材料が除去されかつ/または押し退けられる間、少なくとも部分的にかつ/または領域的に、少なくとも1つの流体により包囲されておりかつ/または少なくとも部分的にかつ/または領域的に該流体内に配置されており、これにより該流体は、除去されたもしくは押し退けられた前記基板材料の箇所に流入可能であり、
好適には、前記光線(109)は少なくとも1つの波長を有しており、前記流体は、前記光線(109)の前記波長に対して、前記基板本体(103)の屈折率とは最大30%異なる屈折率を有しており、かつ/または1.2~2.5の屈折率を有しており、
特に前記流体は、液体を含み、前記基板本体(103)の屈折率とは最大20%、10%、7%、5%、3%または1%異なる屈折率を有しておりかつ/または1.2~2.1、好適には1.3~1.6の屈折率を有している、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
(i)前記基板部材は、ガラス部材、ガラスセラミック部材、シリコン部材および/またはサファイヤ部材を含むかまたはこれらの部材でありかつ/または少なくとも部分的に、プレートおよび/またはウェハ、特にシリコンウェハの形態で形成されており;
(ii)前記基板本体は、ガラス体、ガラスセラミック体、シリコン体および/またはサファイヤ体を含むかまたは表しており;
かつ/または
(iii)前記基板材料は、ガラス、ガラスセラミック、シリコンおよび/またはサファイヤを含むかまたはこれらからなる、
請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板部材の、切断面に沿った少なくとも2つの基板部分部材への切断を準備しかつ/または実施する方法および特に本発明に基づく方法により製造されたかつ/または製造可能な基板部分部材に関する。
【0002】
背景技術
ガラス製造およびガラス加工ならびに同種の分野では定期的に、例えばガラス部材、特にガラス板等の基板部材を正確に規定された切断面に沿って切断することが必要とされている。切断面において予め規定された延在方向を遵守することは、例えば切断後に得られる基板部分部材と別のコンポーネントとの相互適合性に関して極めて重要である。
【0003】
この点において完璧な切断面の他に、仕様書はしばしば、切断面、つまり縁部の高い強度という要件も定めている。その理由は、切断面が高い強度を有する基板部分部材、特にガラス部分部材等は全体的に、外部の影響を比較的受けにくいことにある。これにより、そもそも切断面の外部損傷が発生することおよび場合により生じ得る既存の欠陥が材料の内部へ進行することを、ある程度までは完全にまたは少なくとも部分的に防ぐことができる。
【0004】
この場合、当業者に従来技術から周知の一般的な切断工程の実施方法は、例えばCO2レーザを用いた熱的なレーザビーム分離(TLS)、機械的なスクライビング、レーザスクライビングまたはレーザに基づく熱的な切断(レーザに基づく熱衝撃切断法)等である。レーザに基づく熱的な切断は、典型的にはCO2レーザにより発生する熱機械的な応力を用いた、基板部材における初期亀裂の進行を目的とするものである。しかしこれらの方法全てに共通しているのは、これらの方法により材料の内部の亀裂進路を制御することは全くできないか、または不十分であるにすぎないことである。
【0005】
当業者にやはり周知のレーザ穿孔法では、切断しようとする基板部材の個々の領域が、超短パルスレーザ(USP)工程の枠内で、レーザにより所望の切断面に沿って除去される。
【0006】
図1aには従来技術から周知の状態が平面図で示されており、
図1bには同じ状態が、
図1aの平面図に対して垂直に延在する横断面図で示されている。
図1aおよび
図1bに見られる基板部材1は、基板本体3を有しており、この場合、基板本体3は基板材料を有している。例えば、基板部材1はガラス部材であってよく、基板本体3はガラス体であってよく、基板材料はガラスであってよい。基板部材1は、基板部材1を、
図1bにおいて図平面内に位置しておりかつ円形の中空空間5の中心点を通って延在する切断面に沿って切断することができるように準備される。このためにはレーザ穿孔において、基板材料内に線状焦点7を発生させるUSPレーザシステムを使用することが多い。これにより基板材料を、所望の複数の箇所において除去することができ、このようにして基板部材1もしくは基板本体3内に、中空空間5もしくは空洞を穿孔穴として形成することができる。
【0007】
次いで準備した基板部材1を、複数の穿孔穴により形成された穿孔線に沿って例えば機械的な破断または劈開により、最終的に切断する。
【0008】
しかしながら、基板材料内での亀裂線の進路ひいては切断面の延在方向は、この方法でも制御することが難しいことが判明した。つまり、破断時に亀裂線が穿孔線から外れ、穿孔線から離れて進行する恐れがあるということが観察された。したがってこのことは、本来所望された延在方向に相応しない切断面をもたらす恐れがある。破断に必要な力も比較的大きいことが多い。必要な力が大きいほど、むしろ破断工程自体が基板材料の新たな損傷の起点となってしまう。
【0009】
切断面の延在方向は、穿孔穴の数を切断面に沿って増やすこと、つまり隣り合う中空空間の間の間隔が減少されることにより、ある程度までは比較的良好に制御可能にすることができる。これにより、必要とされる破断力も低下することができる。ただし意外な観察から、中空空間がある程度の間隔を下回ると、引き続き破断するための力は最早さらに低下するのではなく、それどころか反対に再び増大することが判明した。このことにはしばしば、線状焦点の少なくとも一時的かつ/または部分的な消失が伴うため、中空空間が一時的もしくは部分的に発生しなくなる。破断工程にわたる管理も減少する。したがって間隔が特定の値を下回って大幅に減少することに対しては限度が設定されている。この値は、中空空間の主延在方向に対して垂直な横断面における中空空間の最大延在長さのほぼ10倍に相当する。
【0010】
さらに、穿孔線に沿って切断された基板部分部材はたいてい強度が小さい切断面(縁)を備えているにすぎないことが判明した。
【0011】
穿孔工程に伴って、基板材料内に形成された空洞の周りには(微小)亀裂が形成されることが周知である。所望の切断面内に位置すると共に後の切断工程を支援する、基本的に所望される亀裂の他に、別の向きを有する亀裂も形成される。別の向きを有する亀裂は、基板部材の前損傷を成すものであり、後に切断される基板部分部材の縁部強度をより低下させるものである。材料特性に応じてレーザパラメータを適切に選択することにより、確かに基本的には前記およびその他の材料損傷の形成に影響を及ぼすことができる。例えば、亀裂の数および長さをある程度まで管理することができる。ただしこの場合、後の切断性と前損傷との間で妥協しなければならない。
【0012】
つまり換言すると、従来の状態は以下のように説明することもできる。すなわち焦線に沿った、USPレーザパルスと基板材料との非線形相互作用に基づき、基板内に微小通路(1μm未満の直径が多い)が形成され、この場合、内部の基板材料は通路の縁部領域に押し込まれ、そこが圧縮されることになる。通路の周りには半径方向に、(パルス出力に応じて)微小亀裂が生じる。バーストパルスが用いられると(つまり短時間のうちに複数のパルスが通路に当たると)、通路の周りの領域が、複数の比較的長い微小亀裂により損傷される。ピッチ、つまり隣り合う微小通路同士の間隔が、穴直径および微小亀裂の長さに比べて大きい場合には、光学的かつ機械的に影響を及ぼすことなく、隣り合う微小通路は、それぞれの前駆体により形成することができる。ピッチが減少するにつれて、まず先に形成された微小通路によりビームエネルギーの一部が陰になり、このことは目下の微小通路の形成に影響を及ぼす。さらにピッチが大幅に減少されると、目下生じている微小通路と、隣の先行通路との間に残っているウェブ材料が、隣り合う2つの微小亀裂系により弱められ、これによりウェブの破断を招くと共に、材料が、先に形成された微小通路内に押し込まれ、そこで材料は、高出力密度に基づいて再び溶融するもしくは先行通路を再び接着して塞ぐ。よって、このように短いピッチを備えて形成された穿孔線は、先入観のない観察者が実際に予想するであろう切断性よりも著しく劣った切断性を有している。
【0013】
したがって本発明の課題は、基板部材を簡単にではあるが、それにもかかわらず安全かつ確実に切断することができる、またはこのような切断を準備することができる方法を提供することにあり、この場合、切断面の延在方向が可能な限り正確に設定可能であることが望ましく、かつ場合により破断に必要な力が最小限になることが望ましい。同時に、基板部分部材における縁部強度も改良されることが望ましい。さらに本発明の課題は、高い強度を備えた側面(縁部)を有する基板部分部材を提供することにある。
【0014】
前記課題は本発明により第1の態様に基づき、基板部材の、切断面に沿った少なくとも2つの基板部分部材への切断を準備しかつ/または実施する方法であって:
-少なくとも1つの基板材料を含む少なくとも1つの基板本体を有する基板部材を準備するステップ;
-切断面に沿って少なくとも部分的に、基板本体の基板材料が少なくとも局所的に除去されかつ/または押し退けられるように、基板本体内で少なくとも1つの線状焦点を制御するステップ;
を含み、
線状焦点は、少なくとも1つの光線の少なくとも1つの焦点であり、光線は、少なくとも線状焦点の領域内で非対称に光線供給する光線の形態で形成されている、方法が提案されることにより、解決される。
【0015】
つまり本発明の根底を成す意外な知見は、光線が、既に形成された空洞により影響を及ぼされることがないと、基板材料の内部に均一して質の高い空洞を確実に形成することができるという点にある。発明者らは、さもなければ既に形成された空洞にいわば「衝突」する、使用される光線の横方向成分を減少させるかまたは完全に除去することにより、すぐ隣の空洞による前記のような影響を特に効果的に阻止することができることに気づいた。しかし従来の線状焦点の場合には多数の開口数に基づき、部分光線が規則的に顕著な横方向線分を有することになり、ひいてはこれに相応して大きな「衝突リスク」が生じてしまう。
【0016】
本発明による教示に基づき、非対称に光線供給される光線は、横方向部分光線が減少されたもしくは除去された特性を、特に簡単かつ効果的に満たす。このためには最早、エネルギーは(例えばビームを形成する光学系を介して)円錐面に沿って回転対称にではなく、非対称に、焦線に供給される。つまり換言すると、光線は、従来用いられた光線とは異なり、既に形成された空洞に重なり得る成分を一切含まないように加工成形される。これにより、光線が既に形成された空洞の影響を受けることはほとんどないままとなり、ひいては特にハイクオリティな穿孔線の形成が保証され得る。それというのも、線状焦点が一定の高いクオリティで基板部材の厚さ領域全体にわたり形成され得るからである。
【0017】
光線供給もしくはエネルギー供給に関連して、本発明では「非対称」という用語は、「非回転対称」の意味に解される。これはつまり、その他の対称が排除されないことを意味する。例えばエアリービームは、その湾曲延在部が位置する平面に対して平行な鏡像面を有している。
【0018】
よって提案する方法は、切断工程の改良および切断結果もしくは切断準備に特に知的な形式で寄与する。それというのも、破断力の減少において大幅に改良された切断面の延在方向の制御が達成されると共に、縁部強度も改良されるからである。
【0019】
同時に本発明による方法は、慣用の手段を用いて実現することができひいては既存の設備に問題無く組み込むことができる。つまり基板プレートを切断し、複数の基板プレート切断片を遊離させる特別な方法を、特に効果的に、かつ特に良好な結果を伴って運用することができる。
【0020】
したがって本発明は好適には、0.6mm以上の大きな厚さ、特に0.6mm~10mm、好適には0.6mm~5mmまたは3mm~5mm、より好適には0.6mm~3mm、さらに好適には0.6mm~2mm、または最も好適には0.6mm~1.5mmの厚さを有する、基板部材、特に透明なかつ/または脆く破断しやすい基板部材、例えばガラス部材、特にガラス板または板ガラス、ガラスセラミック部材、特にガラスセラミックプレートまたはガラスセラミック板、および/またはシリコン部材、特にシリコンウェハでさえ、切断または切断準備され得ることを可能にした。択一的または補足的に、基板部材は1mm超、5mm超または10mm超の厚さを有している。例えば基板部材は、1mm~50mm、1mm~40mm、1mm~30mm、1mm~20mmまたは1mm~15mmの厚さを有していてよい。さらに本発明では、数回のみの通過(すなわちレーザに対する基板部材の相対的な移動)、例えば2~10回の通過、しかしまた1回だけの通過でもって基板部材を切断するもしくは基板部材を切断するために準備することが標準的に可能である。このことは、極めて効率的な工程を可能にする。
【0021】
この場合、当該方法は一般に、ガラス、ガラスセラミック、シリコンおよびサファイヤ等の透明な、脆く破断しやすい基板部材に適用することができる。よって当該方法は、特に多目的に使用可能である。
【0022】
換言すると、本発明によれば原則として、第1のステップにおいて例えば穿孔部、すなわち例えばチューブ状の通路等の複数の改質部を生ぜしめることにより、基板部材を加工することが可能になる。別のステップにおいて、材料内に機械的かつ/または熱的な応力を加えることによりガラス部材を切断することができるかまたは閉じられた内側/外側輪郭を発生させることができる。好適には、内側輪郭はエッチングプロセスにより形成することができる。ただし外側輪郭も、基本的には例えば後続のエッチングにより形成してよい。一般的に言うと、前記別のステップに適用された方法に基づき、第1のステップにおいて形成された複数の通路同士が、例えば亀裂または材料除去により接続される。
【0023】
この場合、当業者は、非対称の光線には非対称配置の複数の部分光線が存在しているが、もちろん基本的には非対称の光線供給のために複数の光路が利用されるわけではないことを理解している。
【0024】
この場合、当業者は、線状焦点は基本的に基板本体の内部に形成されていなければならないことを理解している。この場合、このことには、線状焦点が完全に基板本体の内部に形成されている、つまり基板本体の外部に線状焦点は全く形成されていない、というケースが含まれる。この場合、線状焦点は、好適には基板本体の内部で基板本体の表面まで形成されているか、または線状焦点は、基板本体の内部で各表面に対してある程度の間隔をあけて、例えば最大2μm、最大1μmまたは最大0.5μmの間隔をあけて形成されている。しかし当然、線状焦点は確かに基板本体内に形成されているが、基板本体の外側にも延在しているケースも含まれている。実際に、このことは1つの好適なケースを成してさえいる。
【0025】
切断面に沿って少なくとも部分的に、基板本体の基板材料が少なくとも局所的に除去されかつ/または押し退けられる場合、このことは好適には線状焦点に基づき行われる。換言すると、基板本体の内部で線状焦点を制御することにより、線状焦点が切断面に沿って少なくとも部分的に、基板本体の基板材料を除去するもしくは押し退ける。
【0026】
好適な実施形態では、基板部材は、板ガラスの形態のガラス部材であるかまたは板ガラスを有している。
【0027】
この場合、当業者は、切断面に「沿って」何かが、例えば基板本体の基板材料の除去が行われた場合、切断面はこの時点ではまだ必ずしも完全には存在していなくてもよいことを理解している。それというのも、切断面は基板部材の切断後に初めて、2つの基板部分部材に完全に形成された状態になるからである。この場合は代わりに、計画された切断面のことである。
【0028】
したがって好適な実施形態では、当該方法はさらに択一的または補足的に、基板部材の計画された切断面を決定するステップを含む。
【0029】
この場合、まだ切断されていない基板部材における切断面に関係することは全て、計画された切断面に関係することである。例えばこの場合、線状焦点の制御には、計画された切断面に沿って少なくとも部分的に、基板本体の基板材料が少なくとも局所的に除去されかつ/または押し退けられることが含まれる。
【0030】
提案する方法により、基板材料内の亀裂線の延在方向ひいては切断面の延在方向を特に確実に管理することができる。必要とされる破断力も低下させることができ、これにより、破断時のさらなる損傷が回避されることになる。それというのも、個々の空洞同士をより狭く並べて位置決めすることができるからである。特に当該方法によりもたらされる微小亀裂はより少なくなるかまたはそれどころか全く無くなるため、切断面の強度も向上させることができる。
【0031】
択一的または補足的に、非対称の光線供給では(i)エネルギーが、非対称に供給され、かつ好適には、光線伝搬が行われる平面に対して垂直な少なくとも1つの平面内でのエネルギー分布の重心が、これまで改質されていない基板材料の領域内、つまり好適には先行の空洞とは反対の側に位置するように構成されており;(ii)光線の部分光線が、空間半部の1/2または空間半部の一部からのみ入射し;(iii)光線は、0°<p<90°の極角pを有しておりかつ/または光線の部分光線は、180°未満、好適には85°~100°、特に90°~95°の方位角範囲内に位置しており;(iv)光線の部分光線は、基板材料が既に除去されかつ/または押し退けられかつ/または基板材料内に圧縮された基板本体の領域を光線の部分光線が通り伝搬しないように選択された方向からのみ入射し;(v)光線は、光線伝搬が行われる平面に対して平行な少なくとも1つの鏡像面を有しており;(vi)「非対称」という用語は、「非回転対称」の意味に解されるべきものであり、つまり特にその他の対称を排除するものではなく、かつ/または(vii)光線の部分光線は、基板部材の少なくとも1つの表面に対して平行な全ての平面内および/または光線の光軸に対して垂直な全ての平面内で、1つまたは2つの四分円からのみ入射する、ということが想定されていてもよい。
【0032】
エネルギーが非対称に供給され、かつ好適には光線伝搬方向に対して垂直な平面内でのエネルギー分布の重心がこれまでに改質されていない材料の領域内、つまり先行の空洞とは反対の側に位置するように構成されると、線状焦点が既存の空洞により影響を及ぼされることを、特に効率的に防止することができる。
【0033】
非対称のエネルギー供給、ひいては非対称の光線供給により、レーザエネルギーは最早-光軸に対して垂直な平面内で見て-焦線に沿ったあらゆる方向から回転対称に集束されるのではないことが達成される。
【0034】
したがって、「あらゆる方向から(ではない)」という概念は、横断面、すなわち光軸に対して垂直な面における各成分に関する。これらの成分は、光軸に沿って常に、レーザビームの伝搬方向に向いている。
【0035】
エアリービームとベッセルビームとは両方共、0°<p<90°の極角pを有している。この場合、極の方向はレーザビーム重心の伝搬方向として規定されている、もしくは極軸は光軸に対して平行であるとして規定されている。
【0036】
エアリービームの場合、部分光線の方位角の間隔幅は180°未満、例えば90°~95°である。または換言すると:極座標で見て方位角は360°、つまりあらゆる方向を超えることはなく、その一部を超えるだけである。
【0037】
これは好適な実施形態では、湾曲した焦点線が存在する場合である。このような場合、当業者は「加速される光線」とも言う。
【0038】
部分光線は、空間半部の1/2または空間半部の一部に延在していてよく、これにより部分光線は常に、まだ加工されていない材料領域内に延在することが保証されている。
【0039】
好適には、非対称の光線供給に関して、複数の部分光線とそれらの入射方向とは1つの平面内に見られ、この場合、この平面は、好適には光線伝搬が行われる平面に対して垂直である。
【0040】
択一的または補足的に、光線は、少なくとも1つのレーザビームを含み、光線は、少なくとも線状焦点の領域内にエアリービームまたはベッセルビームとして形成されておりかつ/またはレーザエネルギーは、線状焦点の焦線に沿って集束されることが想定されていてもよい。
【0041】
エアリービームは、非対称/側方光線供給に特に良好に適している。ベッセルビームは、対称/半径方向光線供給に特に良好に適している。
【0042】
エアリービームまたはベッセルビームはさらに、特に簡単かつ効率的に生ぜしめられる。
【0043】
つまり例えば、ガウスビームが出発基材として用いられてよく、次いでガウスビームは例えばアキシコン等の適当な光学系により、ベッセルビームに成形される。
【0044】
エアリービーム用の出発光線として、ガウスビームが使用されてもよい。この場合、このガウスビームには例えばDOEまたはSLM等の位相マスクまたはシリンドリカルレンズを介して立方相が適用される。次いで、立方相を有するこの光線は、例えば顕微鏡対物レンズを介して結像される。すなわち換言すると、エアリービームは、位相マスク(DOEまたはSLM)により直接に形成されるかまたはシリンドリカルレンズを備えた構造により形成される立方相を備えたビームの結像として発生させてもよい。さらに換言もしくは補足すると、この場合、エアリービームは立方相のフーリエ変換として生じる。平面相によりフーリエ変換を形成するため、すなわちフーリエ面前後の可能な限り最適な伝搬のために、立方相は、好適には「前方焦点面」内、すなわち結像光学系の前側の焦点面内に形成される。この場合、フーリエ面は、結像光学系の後ろ側の焦点面(「後方焦点面」)に相応する。
【0045】
択一的または補足的に、線状焦点の制御は、線状焦点を基板材料の複数の異なる局所領域内に順次形成し、これにより、これらの局所領域の基板材料がその都度除去されかつ/または押し退けられ、特に基板材料が、各局所領域を包囲する基板本体の一部の内部へ圧縮されることを含み、この場合、好適には個々の局所領域は、特に少なくとも、好適には切断面に対して垂直に、光線の光軸に対して垂直にかつ/または少なくとも基板部材の第1の表面に対して平行に延在する、基板部材の第1の特定の横断面内で、直線的な経路に沿って延在していることが想定されていてもよい。
【0046】
線状焦点を形成するために基板材料の複数の異なる局所領域を選択することにより、穿孔穴の延在方向および構成を的確に決定することができる。特にこれにより、基板本体もしくは基板材料内の、穿孔穴がもたらされるべき離散した複数の箇所を選択することができる。
【0047】
直線的な切断面を形成するためには、個々の局所領域が直線的な経路に沿って延在するように、個々の局所領域を選択することができる。
【0048】
この場合、当業者は、基板材料の局所領域は基本的に、線状焦点が基板材料内で占める領域よりも大きくてよいことを理解している。局所領域は、局所領域内で基板材料が線状焦点により除去されかつ/または押し退けられることにより規定される。例えば、基板本体の内部では、基板材料は主に押し退けられてよく、基板本体の表面領域では、基板材料は主に除去されてよい。
【0049】
択一的または補足的に、線状焦点および/または局所領域は、第1の特定の横断面内の局所領域の最大延在長さが0.2μm~200μm、好適には0.2μm~100μm、さらに好適には0.2μm~50μm、さらに好適には0.3μm~20μm、さらに好適には0.3μm~10μm、最も好適には0.7μmであるように選択されていることが想定されていてもよい。
【0050】
局所領域の延在長さ、ひいては材料が除去されるもしくは押し退けられる領域の延在長さが適切に選択されると、例えば機械的な破断による次の切断のための特に有利な穿孔線が得られる。
【0051】
択一的または補足的に、第1の特定の横断面内で隣り合う各局所領域は、特に前記経路に沿って互いに、第1の特定の横断面内の局所領域の最大延在長さの1倍~500倍、好適には1倍~100倍、さらに好適には1倍~50倍、さらに好適には1倍~10倍、さらに好適には1.1倍~5倍に相当しかつ/または0.1μm~500μm、好適には0.2μm~400μm、さらに好適には0.2μm~200μm、さらに好適には0.2μm~100μm、さらに好適には0.2μm~50μm、さらに好適には0.4μm~20μm、さらに好適には1μm~7μm、最も好適には1μm~3μmの中心間間隔を有していることが想定されていてもよい。
【0052】
隣り合う局所領域同士の間隔が局所領域の延在長さに応じて選択されることにより、基板部材の切断は、特に小さな力で足りることになる。このことは、基板材料内の追加的な損傷が特に少ないことにつながる。このことによってもやはり、切断面の特に高い強度の達成が促進される。しかしまた同様に、間隔の絶対データに基づき特に有利な切断特性を達成することもできる。
【0053】
択一的または補足的に、線状焦点の制御は、線状焦点を基板部材、特に基板本体内の複数の異なる作用領域内に順次形成し、これにより、これらの各作用領域内に配置された基板材料が除去されかつ/または押し退けられ、特に基板材料が、各作用領域を包囲する基板本体の一部の内部へ圧縮されることを含み、この場合、個々の作用領域同士の間隔は、少なくともすぐ隣り合う作用領域同士が少なくとも部分的に重複し、これにより基板材料内に、基板材料が除去された一貫した通路が切断面に沿って形成されるように選択されており、この場合、好適には個々の作用領域は、特に少なくとも、好適には切断面に対して垂直に、光線の光軸に対して垂直にかつ/または少なくとも基板部材の第2の表面に対して平行に延在する、基板部材の第2の特定の横断面内で、直線的な経路に沿って延在していることが想定されていてもよい。
【0054】
線状焦点を形成する複数の異なる作用領域がいわば互いに内外に配置されることで、その都度作用領域内に存在する基板材料全体が除去されるもしくは押し退けられるため、切断面に沿って、基板部材をすぐに切断することさえ達成することができる。これにより、機械的な破断の追加的なステップはなくても済む。
【0055】
直線的な切断面を形成するためには、個々の作用領域が直線的な経路に沿って延在するように、個々の作用領域を選択することができる。
【0056】
有利には「通路」を、内側部分も外側部分も切り離すことができる。すなわち、1つの基板から、内側に位置する部分も除去することができる。例えば、(直方体形の)基板から円形の開口を除去することができ、これにより基板には孔が形成されることになる。この場合、内側輪郭なのかまたは外側輪郭なのかに応じて、例えば機械的な破断および/またはエッチングを使用することができる。ちょうど内側輪郭の場合には一般に、機械的な破断を使用することはできない。
【0057】
この場合、当業者は、作用領域は基本的に、線状焦点が占める領域よりも大きくてよいことを理解している。作用領域は、作用領域内で基板材料が線状焦点により除去されるもしくは押し退けられることにより規定される。これに相応して、個々の作用領域は、基板材料により完全に満たされている必要があるわけではなく、そこに含まれている基板材料のみが除去されるもしくは押し退けられる、ということが明白である。
【0058】
1つの実施形態では、基板部材の第2の特定の横断面は、基板部材の第1の特定の横断面と同じである。
【0059】
1つの実施形態では、基板部材の第2の表面は、基板部材の第1の表面と同じである。
【0060】
択一的または補足的に、線状焦点および/または作用領域は、第2の特定の横断面内の作用領域の最大延在長さが0.2μm~200μm、好適には0.2μm~100μm、さらに好適には0.2μm~50μm、さらに好適には0.3μm~20μm、さらに好適には0.3μm~10μm、最も好適には0.7μmであるように選択されていることが想定されていてもよい。
【0061】
作用領域の延在長さ、ひいては材料が除去されるもしくは押し退けられる領域の延在長さが適切に選択されると、「通路」を特に効率的に基板材料を通して進行させることができる。選択される個々の作用領域が大きくなるほど、互いに内外に配置される作用領域の所要の数は少なくなる。
【0062】
択一的または補足的に、第2の特定の横断面内で隣り合う各作用領域同士は、特に前記経路に沿って、第2の特定の横断面内の作用領域の最大延在長さの0.01倍~1.0倍、好適には0.01倍~0.5倍に相当しかつ/または0.002μm~200μm、好適には0.002μm~100μm、さらに好適には0.002μm~50μm、さらに好適には0.002μm~10μm、さらに好適には0.002μm~1μm、最も好適には0.005μm~0.3μmの中心間間隔を有している、ということが想定されていてもよい。
【0063】
隣り合う作用領域同士の間隔が作用領域の延在長さに応じて選択されることにより、通路は最適な加工時間で形成することができる。さらにこれにより、切断面の特に高い強度も達成され得る。しかしまた同様に、間隔の絶対データに基づき特に有利な切断特性を達成することもできる。
【0064】
択一的または補足的に、基板材料における局所領域および/または作用領域は、少なくとも部分的にチューブ状で、円筒状で、かつ/または湾曲して、特に少なくとも1つの横断面内で鎌状に延在しておりかつ/または好適には基板本体の第1もしくは第2の表面から、この表面とは反対側の基板本体の表面まで、両表面間に封じ込められた基板本体の厚さ領域全体を通じて延在していることが想定されていてもよい。
【0065】
好適な実施形態では、作用領域および/または局所領域は、切断面に対して平行な方向に延在しておりかつ/または切断面および/または前記経路の主延在方向に対して垂直な方向に延在している。
【0066】
好適な実施形態では、各作用領域および/または各局所領域の局所的な接線は、曲げられた線状焦点により規定される平面内に位置している。
【0067】
択一的または補足的に、線状焦点の制御は、基板部材を少なくとも1つの光線および/または線状焦点に対して相対的に移動させることを含むことが想定されていてもよく、これにより、好適には線状焦点が特に順次または連続的に、少なくともそれぞれ異なる複数の局所領域および/または作用領域に形成され得る。
【0068】
線状焦点は、基板部材が光線に対して相対的に移動させられることにより、個々の局所領域および/または作用領域内に特に簡単かつ確実に形成され得る。つまり、光線の発生に必要な装置および光学系は、このために基本的には変更可能であるが、変更する必要があるわけではない。よって、いわば基板部材が相対的に移動するたびに、基板部材の移動に基づき毎回新規の局所領域もしくは作用領域に位置する線状焦点を新規に形成することができる。択一的に、線状焦点は、基板部材が相対的に移動させられる間に連続して形成され続けてもよい。好適には、この態様は通路の形成、つまり基板部材の完全な切断に適している。
【0069】
好適な実施形態では、光線幾何学形状の後調整および/または適合が行われる。
【0070】
当業者は、パルスレーザの場合は線状焦点の連続的な形成は不可能であるが、このようなレーザにより形成された、本発明の意味での線状焦点は、極めて良好に「複数の異なる局所領域および/または作用領域に連続して」形成され得ることを知っている。つまりこの場合、このことは、線状焦点が形成される箇所は連続的に変化するということを意味することに他ならない。
【0071】
択一的または補足的に、光線は、(i)300nm~1500nm、特に343nm、355nm、515nm、532nm、1030nmまたは1064nmの波長を有しており、(ii)基板材料の透明領域に基づく波長を有しており、かつ/または(iii)200fs~50ps、好適には500fs~10psのパルス継続時間、1~10、好適には4のバーストパルス数、1kHz~4GHz、好適には40MHzの繰返し数、および/または80μJ/mm~300μJ/mm、好適には100~230μJ/mm、特に180μJ/mmのパルスエネルギーを有する少なくとも1つのパルスレーザ、特に超短パルスレーザにより放射されることが想定されていてもよい。
【0072】
線状焦点は、光線もしくはレーザビームの好適なパラメータを用いて、特に丈夫にかつ確実に形成することができる。
【0073】
USPレーザは高い出力密度を有しており、これにより、基板材料の非線形効果を利用することができる。特に焦点効果を利用することができ、これにより、より小さな空洞が可能である。
【0074】
バーストを特徴付けるのは、複数のパルスが短時間内に、つまり例えば1μs未満、好適には0.1μs未満またはそれどころか0.01μs未満の時間窓内に、2つのパルスの間に50ns未満の間隔をあけて連続するという点である。これらのパルスは一般に、それぞれ等しいエネルギー、特にパルスピーク出力を有していてよい。
【0075】
択一的または補足的に、基板部材は、基板材料が除去されかつ/または押し退けられる間、少なくとも部分的にかつ/または領域的に、少なくとも1つの流体により包囲されておりかつ/または少なくとも部分的にかつ/または領域的に流体内に配置されており、これにより流体が、除去されたもしくは押し退けられた基板材料の箇所に流入し得る、ということが想定されていてもよく、この場合、好適には、光線は少なくとも1つの波長を有しており、流体は、光線の波長に対して、基板本体の屈折率とは最大30%異なる屈折率を有しており、かつ/または1.2~2.5の屈折率を有しており、特に流体は、液体を含み、基板本体の屈折率とは最大20%、10%、7%、5%、3%または1%異なる屈折率を有しておりかつ/または1.2~2.1、好適には1.3~1.6の屈折率を有している。
【0076】
個々の中空空間同士の間隔の減少に伴い観察された、加えられるべき破断力の増大は、1つの中空空間を形成することにより、直前に形成された隣の中空空間が基板材料で埋められる恐れがあったということにも関係することが判明した。これは、溶融されかつ再凝固された基板材料または新規の空洞の形成に際して基板本体内(もしくは隣隣り合う空洞の間の壁内)に圧縮され、そこから隣の空洞内へ押し込まれる基板材料の結果である可能性がある。
【0077】
既存の空洞内に流体が存在することにより、近くに新規の空洞が形成されると既存の空洞が基板材料により再び全体的または部分的に埋められるということから、既存の空洞を守ることに成功し得た。流体は非圧縮性であるため、既存の空洞は明らかに、流体により機械的に安定化される。よって隣に新規の空洞が形成されると、基板材料が既存の空洞内に押し込まれることが効果的に防がれる。換言すると、生じる空洞と先行の空洞との間の材料に、反力が加えられる。
【0078】
先行の空洞による新規の空洞の荷重軽減を防止することによりさらに、切断面の縁部の予荷重の改良も観察され、これにより、より高い縁部安定性が達成される。この場合、発明者らはこの効果を、空洞形成中に材料が隣の空洞内へ押し込まれるのではなく、空洞を包囲する壁内へより多く押し込まれ、圧縮された壁内に半径方向の圧縮応力が印加されることにより説明する。この場合、このことは、切断された基板部分部材において、切断面に対して平行な圧縮ゾーン、つまり圧縮応力ゾーンに相当する。
【0079】
同時に発明者らは、流体により例えばレーザ加工における表面効果を妨げるまたは少なくとも減らすことができることも確認した。すなわち、基板部材の表面が流体により濡らされているかまたは基板部材全体が流体内に位置していると、基板表面におけるプラズマ点火の閾値強度が最適化される。これにより、空洞のより高い均一性が全長にわたり達成される。
【0080】
さらに空洞内の流体は、隣り合う空洞により線状焦点に及ぼされると考えられるあらゆる別の影響が、さらに大幅に減らされることにも寄与する。確かに、流体の屈折率が基板材料の屈折率に近く選択されるほど、より良い結果が得られる。その理由を発明者らは、適合した屈折率の場合には、境界面において行われるエネルギー損失が比較的少ないかまたはそれどころか全く無いからであると推測する。
【0081】
流体が存在しておりかつ例えば作用領域に充填されていると、線状焦点付近の先行の作用領域の露出表面における光線の部分光線の屈折および/または散乱が著しく減少され得る。これにより明確に、切断面がより的確に実現され得る。
【0082】
屈折率が基板材料の屈折率に相応しているかまたは近似している場合、流体の使用は特に有効である。
【0083】
択一的または補足的に、(i)基板部材は、ガラス部材、ガラスセラミック部材、シリコン部材および/またはサファイヤ部材を含むかまたはこれらの部材でありかつ/または少なくとも部分的に、プレートおよび/またはウェハ、特にシリコンウェハの形態で形成されており;(ii)基板本体は、ガラス体、ガラスセラミック体、シリコン体および/またはサファイヤ体を含むかまたは表しており;かつ/または(iii)基板材料は、ガラス、ガラスセラミック、シリコンおよび/またはサファイヤを含むかまたはこれらから成ることが想定されていてもよい。
【0084】
前記課題は、本発明により第2の態様に基づき、特に本発明の第1の態様に基づく方法により製造されたかつ/または製造可能な基板部分部材であって、少なくとも1つのガラス材料、ガラスセラミック材料および/またはシリコンを含む少なくとも1つの本体を有しており、本体は少なくとも1つの側面を有しており、側面は、少なくとも部分的に高さ調節された表面を有している基板部分部材が提案されることにより解決される。
【0085】
つまり本発明の根底を成す意外な知見は、人為的に、いわば小さな凹凸がもたらされることにより、側面に関して高い強度が達成され得るという点にある。発明者らは、高さ調節が明らかに、側面の安定化ひいてはより高い縁部強度にもつながることに気がついた。
【0086】
発明者らはこのポジティブな特性を、高さ調節により本体内に、全体的により高い強度に寄与するポジティブな応力特性が生じるということにより説明する。
【0087】
当業者は、好適な実施形態では、表面の高さもしくは調節部は、表面の主延在方向に対して垂直な方向に沿って延在し得るということを理解している。
【0088】
択一的または補足的に、表面の高さ調節部は、波形の表面を成しておりかつ/または高さ調節に基づく表面変化は、設定可能な値の範囲内、特に0.5μm~100μmの値の範囲内、好適には0.5μm~50μmの値の範囲内に位置するということが想定されていてもよい。
【0089】
表面の高さ調節が表面の波打ちをもたらすと、そこでは特に高い強度値が達成され得る。
【0090】
好適な値の範囲は、好適な高い強度をもたらす。この場合、変化が高さの最大値と最小値との間の差を表すことは自明である。
【0091】
択一的または補足的に、(i)側面は少なくとも部分的に、0.01μm~30μm、好適には0.05μm~10μm、最も好適には0.05μm~5μmの最大高さRZ、好適には平均最大高さRZを有しており、(ii)側面は少なくとも部分的に、表面粗さ、好適には平均表面粗さを有しており、かつ/または(iii)最大高さおよび/または表面粗さに基づく表面変化は、高さ調節に基づく表面変化よりも1~5オーダー、好適には2または3オーダー小さくなっている、ということが想定されていてもよい。
【0092】
高さ調節と並行して、最小限の表面粗さもしくは最大高さは、高い強度に関して特に有利であることが判明し、これにより、特に安定したひいては良好に使用可能な基板部分部材がもたらされる。
【0093】
表面粗さおよび高さ調節のスケールが、特に1~5オーダーの差でもってそれぞれ異なっていることは明白である。
【0094】
択一的または補足的に、側面には、少なくとも部分的に予荷重が加えられておりかつ/または側面に沿った基板部分部材の、特に本体の縁部強度は、100MPa超、好適には150MPa超であり、かつ/または可変でありかつ/または側面全体にわたり一定である、ということが想定されていてもよい。
【0095】
択一的または補足的に、側面は、特に巨視的なスケールでは平らでありかつ/または湾曲しており、特に好適には側面に対して垂直な少なくとも1つの横断面内に少なくとも部分的に、放物線形および/または円形の延在部および/または四次方程式に基づく延在部を有している、ということが想定されていてもよい。
【0096】
湾曲した側面の場合、この側面に作用する力を特に有利に導出することができ、これにより側面の安定性が高められてよい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
本発明の別の特徴および利点は、本発明の好適な実施形態を概略図に基づき説明する以下の説明から明らかである。
【
図1a】従来技術に基づいて加工された基板本体を示す平面図である。
【
図1b】従来技術に基づいて加工された基板本体を示す横断面図である。
【
図3a】第2の基板部材を、従来技術に基づく第1の構成の光線と共に示す平面図である。
【
図3b】第2の基板部材を、第2の構成の光線と共に示す平面図である。
【
図4a】第3の基板部材を、従来技術に基づく第3の構成の光線と共に示す平面図である。
【
図4b】第3の基板部材を、第4の構成の光線と共に示す平面図である。
【
図5a】第1の横断面におけるエアリービームの光線追跡モデルを示す第1の横断面図である。
【
図5b】第2の横断面におけるエアリービームの光線追跡モデルを示す第2の横断面図である。
【0098】
例
図2aには、矩形の板状の第1の基板部材101、例えばガラス部材が平面図で示されている。第1の基板部材101は、基板材料、例えばガラスを含む基板本体103、例えばガラス体を有している。
【0099】
図2bには第1の基板部材101が、
図2aの平面図に対して垂直に延在する横断面図で示されている。
【0100】
第1の基板部材101を、
図2bにおいて図平面内に位置しておりかつ円形の中空空間105の中心点を通って延在する切断面に沿って切断することができるように準備するために、本発明による方法は、線状焦点107を基板本体103内で制御し、これにより、基板本体103の基板材料を局所的に、規定された切断面に沿って部分的に除去しかつ/または押し退けることを想定している。このためには線状焦点107を、基板材料の複数の異なる局所領域内に順次形成し、これにより、これらの各局所領域の基板材料を除去するもしくは押し退ける。局所領域は、前の基板材料内の中空空間105の領域に相当する。しかし材料が除去されるもしくは押し退けられること無しに、中空空間105の周りに基板本体103の改質、特に損傷を生ぜしめることもできる。例えばこれは、屈折率の変化であってよい。
【0101】
隣り合う局所領域は互いに
図2aの図平面内に、図平面内の局所領域の最大延在長さよりも大きな中心間間隔を有している。
【0102】
この場合、線状焦点107はレーザビームにより形成され、レーザビームは、やはり線状焦点の領域内で非対称に光線供給する光線の形態で形成されている。この非対称の光線供給の場合、光線の部分光線109は、基板材料が既に除去されかつ/または押し退けられかつ/または基板材料内へ圧縮された基板本体103の領域を通って部分光線109が伝搬しないように選択された方向からのみ入射する。換言すると、
図2aおよび
図2bにおいて、部分光線109は右側からのみ入射する。それというのも、穿孔穴が左側から右側に向かって形成されるからである。
【0103】
レーザビームは、基板本体103の透過領域内に位置する1030nmの波長を有しており、超短パルスレーザにより生ぜしめられる。超短パルスレーザは、1psのパルス長を有している。
【0104】
1つの実施形態では、第1の基板部材101は、基板材料が除去されるもしくは押し退けられる間、流体(
図2aおよび
図2bには図示せず)により包囲されていてよく、流体は、除去されたもしくは押し退けられた基板材料の位置へ流入してよい。すなわち、基板材料が除去されるもしくは押し退けられると直ちに、流体は基板材料の位置へ、既に流入することができる。これにより、この場合は
図2aおよび
図2bに示した中空空間105も、流体により全て満たされると考えられる。
【0105】
よって本発明では、非対称の光線供給が特に有利である。このことは、特に大面積の横方向の干渉部および/または屈折率の差が存在する場合に明白である。それというのも、非対称の光線供給は、焦点を形成する光線の部分光線に、前記のような干渉部もしくは屈折率の差が影響を及ぼすことが可能な限りないかまたは僅かにしかない、ということを可能にするからである。
【0106】
本発明は、例えば有利には、2つの屈折率の間の移行部付近の基板部材の材料を除去しかつ/または押し退けるために使用され得る。
【0107】
図3a、
図3b、
図4aおよび
図4bを用いて、従来の実現化に対して提案する方法の利点を、様々な設定における光線のそれぞれ異なる構成を考慮することにより説明する。
【0108】
このために
図3aおよび
図3bには、それぞれ同じ第2の基板部材201が平面図で示されている。第2の基板部材201は、基板材料、例えばガラスを含む基板本体203、例えばガラス体を有している。
【0109】
例えば基板部材201の切断を準備するために、基板本体203の基板材料は局所的に除去されかつ/または押し退けられることが望ましい。このためには光線によりガラス材料内に線状焦点205が形成され、これにより基板材料内に中空空間を形成することができる。線状焦点205は、
図3aおよび
図3bの図平面に対して垂直に延在しており、基板部材201の縁部207付近に位置している。
【0110】
縁部207は、2つの屈折率の間の(
図3aおよび
図3bでは例えば基板材料の屈折率から、基板部材201を包囲する媒体の屈折率への)移行部を成している。
【0111】
図3aに示す光線は、従来技術に基づき線状焦点205に従来通りに光線供給する第1の構成である。この場合、線状焦点205は、(
図3aの図平面において)あらゆる方向から入射する部分光線209により形成される。よっていくつかの、つまり
図3aに破線で示す部分光線は、少なくとも部分的に基板部材201の外側に延在している。このことは、縁部207における屈折率の変化に基づき、焦点205の形成を困難にするかまたはそれどころか著しく妨げる恐れがある。
【0112】
この場合、「あらゆる方向から」という概念は、横断面、すなわち光軸に対して垂直な面における各成分に関する。これらの成分は、光軸に沿って常に、レーザビームの伝搬方向に向いている。または換言すると:極座標で見ると、方位角は360°、つまりあらゆる方向にわたっており、極角は、アキシコンにより規定された、最大延在部としての集束円錐内で移動する。
【0113】
図3bに示す光線は、本発明に基づき非対称に光線供給する第2の構成である。この場合、線状焦点205は、(
図3bの図平面において)特定の方向からのみ入射する部分光線209により形成される。この場合、
図3bに示す状態に関して、部分光線209は完全に、基板部材201の内側に延在している。これにより、焦点205の形成が特に効果的に支援される。つまり非対称の光線供給は、縁部207付近での安定した焦点形成を可能にする。
【0114】
本発明は、例えば有利には、大面積の横方向の干渉部付近の基板部材の材料を除去しかつ/または押し退けるためにも使用され得る。
【0115】
このために
図4aおよび
図4bには、それぞれ同じ第3の基板部材301が平面図で示されている。第3の基板部材301は、基板材料、例えばガラスを含む基板本体303、例えばガラス体を有している。
【0116】
基板本体303の基板材料は、局所的に除去されかつ/または押し退けられることが望ましい。このためには光線によりガラス材料内に線状焦点305が形成され、これにより基板材料内に中空空間を形成することができる。線状焦点305は、
図4aおよび
図4bの図平面に対して垂直に延在しており、基板部材301の干渉部307付近に位置している。この場合、干渉部307は、例えば屈折率の変化および/または除去されたガラス材料の形態で基板本体303内にもたらされた、複数の改質部を表す。
【0117】
図4aに示す光線は、従来技術に基づき線状焦点305に従来通りに光線供給する第3の構成である。この場合、線状焦点305は、(
図4aの図平面において)あらゆる方向から入射する部分光線309により形成される。よっていくつかの、つまり
図4aに破線で示す部分光線は、少なくとも部分的に干渉部307を通って延在している。このことは、焦点305の形成を困難にするかまたはそれどころか著しく妨げる恐れがある。
【0118】
図4bに示す光線は、本発明に基づき非対称に光線供給する第4の構成である。この場合、線状焦点305は、(
図4bの図平面において)特定の方向からのみ入射する部分光線309により形成される。よって
図4bの図平面内で部分光線は、右上の四分円内にのみ延在している。この場合、部分光線309は、干渉部307を通らないように延在している。これにより、焦点305の形成が特に効果的に支援される。つまり非対称の光線供給は、干渉部307付近での安定した焦点形成を可能にする。
【0119】
特に前記改質部等の複数の干渉部307が密に設置されている場合に、特に陰の形態で部分光線309に及ぼす影響は、極めて重大である。これに相応して、この場合は非対称の光線供給が特に有利である。この適用の特別なケースは、2本の線の交差、特にT字交差である。または換言すると、2本の線に沿って延在する改質部の交差である。このためにも、本発明は光線供給を適切に選択することにより、好適に使用することができる。
【0120】
したがって第1および第3の構成はそれぞれ、従来技術において使用される光線を、これに結び付いた欠点と共に表している。これらの欠点は、光線用に、本発明による構成、つまり第2および第4の構成等が選択されることにより、この光線によって克服することができる。
【0121】
図5aには、第1の横断面におけるエアリービームの光線追跡モデルを示す第1の横断面図が示されている。この場合、第1の横断面は仮想の(例えば直方体形の)基板部材の切断面に対して平行に延在している。すなわち、切断面は(y=0の場合)x-z平面内に位置しており、湾曲した線状焦点全体と交差している。線状焦点は、
図5aではその最大強度をその中心、つまり(x=0;z=0)を中心とした領域に有している。湾曲した線状焦点に相応して、局所領域もしくは作用領域も同様に湾曲して延在している。本発明による方法では、隣り合う局所領域もしくは作用領域が正のx方向に連続している。
【0122】
図5bには、第2の横断面におけるエアリービームの光線追跡モデルを示す第2の横断面図が示されている。第2の横断面は、第1の横断面に対して垂直に位置している。例えばこれは、仮想の(直方体形の)基板部材の表面であってよいか、またはこの表面に対して平行に延在する、基板部材内の平面であってよい。本発明による方法では、隣り合う局所/作用領域が正のx方向に連続している。
図5bに示す第2の横断面は、例えば本発明に基づく第1および/または第2の特定の横断面であり得る。第1および第2の特定の横断面は両方共、
図5bに示す第2の横断面に相応することが考えられる。例えば、第1もしくは第2の特定の横断面内、つまり
図5bに示した第2の横断面内で隣り合う局所領域もしくは作用領域は、互いに特定の中心間間隔を有していることが必要とされ得る。
【0123】
図5bの横断面は、点(x=0;y=0)を中心とした領域においてレーザビームの線状焦点と交差している。正のx値の領域にはさらに、レーザビームの横方向の部分ビームが見られる。
図5bからさらに判るように、エアリービームはそこに負のx値に向かう横方向成分を一切有していない。その代わり本発明による方法に相応して、光線供給は非対称に、つまり
図5bの状態では正のx値を有する1/2の空間部分からのみ行われる。これにより、正のx軸の方向に線状焦点を相対的に移動させた場合、前の空洞の領域に部分ビームが生じることは一切ない。
【0124】
既に述べたように、光線供給もしくはエネルギー供給に関連して、本発明における「非対称」という用語は、「非回転対称」の意味に解される。これはつまり、その他の対称が排除されないことを意味する。例えば説明したエアリービームは、
図5bから判るようにx-z平面に対して平行な鏡像面を有している。
【0125】
先行の説明、請求項および図面に開示された特徴は、個別でも、任意の組合せにおいても、本発明の様々な実施形態にとって重要なものであり得る。
本発明は、以下の実施形態を有する。
[実施形態1]
基板部材(101)の、切断面に沿った少なくとも2つの基板部分部材への切断を準備しかつ/または実施する方法であって:
-少なくとも1つの基板材料を含む少なくとも1つの基板本体(103)を有する基板部材(101)を準備するステップ;
-前記切断面に沿って少なくとも部分的に、前記基板本体(103)の前記基板材料が少なくとも局所的に除去されかつ/または押し退けられるように、前記基板本体(103)内で少なくとも1つの線状焦点(107)を制御するステップ;
を含み、
前記線状焦点(107)は、少なくとも1つの光線の少なくとも1つの焦点であり;
前記光線は、少なくとも前記線状焦点の領域内で非対称に光線供給する光線の形態で形成されている、方法である。
[実施形態2]
前記非対称の光線供給では、
(i)エネルギーが、非対称に供給され、かつ好適には、光線伝搬が行われる平面に対して垂直な少なくとも1つの平面内でのエネルギー分布の重心が、これまで改質されていない基板材料の領域内、つまり好適には先行の空洞とは反対の側に位置するように構成されており;
(ii)前記光線の部分光線(109)が、空間半部の1/2または空間半部の一部からのみ入射し;
(iii)前記光線は、0°<p<90°の極角pを有しておりかつ/または前記光線の前記部分光線は、180°未満、好適には85°~100°、特に90°~95°の方位角範囲内に位置しており;
(iv)前記光線の前記部分光線(109)は、前記基板材料が既に除去されかつ/または押し退けられかつ/または前記基板材料内に圧縮された前記基板本体(103)の領域を前記光線の前記部分光線が通り伝搬しないように選択された方向からのみ入射し;
(v)前記光線は、光線伝搬が行われる平面に対して平行な少なくとも1つの鏡像面を有しており;
(vi)「非対称」という用語は、「非回転対称」の意味に解されるべきものであり、つまり特にその他の対称を排除するものではなく;
かつ/または
(vii)前記光線の前記部分光線(109)は、前記基板部材の少なくとも1つの表面に対して平行な全ての平面内および/または前記光線の光軸に対して垂直な全ての平面内で、1つまたは2つの四分円からのみ入射する、
実施形態1記載の方法である。
[実施形態3]
前記光線は、少なくとも1つのレーザビームを含み、前記光線は、少なくとも前記線状焦点の領域内にエアリービームまたはベッセルビームとして形成されておりかつ/またはレーザエネルギーは、前記線状焦点(107)の焦線に沿って集束される、実施形態1または2記載の方法である。
[実施形態4]
前記線状焦点(107)の制御は、該線状焦点(107)を前記基板材料の複数の異なる局所領域内に順次形成し、これにより、前記局所領域の前記基板材料がその都度除去されかつ/または押し退けられ、特に前記基板材料が、各前記局所領域を包囲する前記基板本体の一部の内部へ圧縮されることを含み、
好適には個々の前記局所領域は、特に少なくとも、好適には前記切断面に対して垂直に、前記光線の前記光軸に対して垂直にかつ/または少なくとも前記基板部材(101)の第1の表面に対して平行に延在する、前記基板部材(101)の第1の特定の横断面内で、直線的な経路に沿って延在している、実施形態1から3までのいずれか1つに記載の方法である。
[実施形態5]
前記線状焦点および/または前記局所領域は、前記第1の特定の横断面内の前記局所領域の最大延在長さが0.2μm~200μm、好適には0.2μm~100μm、さらに好適には0.2μm~50μm、さらに好適には0.3μm~20μm、さらに好適には0.3μm~10μm、最も好適には0.7μmであるように選択されている、実施形態4記載の方法である。
[実施形態6]
前記第1の特定の横断面内で隣り合う各前記局所領域は、特に前記経路に沿って互いに、前記第1の特定の横断面内の前記局所領域の最大延在長さの1倍~500倍、好適には1倍~100倍、さらに好適には1倍~50倍、さらに好適には1倍~10倍、さらに好適には1.1倍~5倍に相当しかつ/または0.1μm~500μm、好適には0.2μm~400μm、さらに好適には0.2μm~200μm、さらに好適には0.2μm~100μm、さらに好適には0.2μm~50μm、さらに好適には0.4μm~20μm、さらに好適には1μm~7μm、最も好適には1μm~3μmの中心間間隔を有している、実施形態4または5記載の方法である。
[実施形態7]
前記線状焦点(107)の制御は、該線状焦点(107)を前記基板部材(101)、特に前記基板本体(103)内の複数の異なる作用領域内に順次形成し、これにより、各前記作用領域内に配置された前記基板材料が除去されかつ/または押し退けられ、特に前記基板材料が、前記各作用領域を包囲する前記基板本体の一部の内部へ圧縮されることを含み、個々の前記作用領域同士の間隔は、少なくともすぐ隣り合う前記作用領域同士が少なくとも部分的に重複し、これにより前記基板材料内に、該基板材料が除去された一貫した通路が前記切断面に沿って形成されるように選択されており、
好適には個々の前記作用領域は、特に少なくとも、好適には前記切断面に対して垂直に、前記光線の前記光軸に対して垂直にかつ/または少なくとも前記基板部材(101)の第2の表面に対して平行に延在する、前記基板部材(101)の第2の特定の横断面内で、直線的な経路に沿って延在している、実施形態1から3までのいずれか1つに記載の方法である。
[実施形態8]
前記線状焦点(107)および/または前記作用領域は、前記第2の特定の横断面内の前記作用領域の最大延在長さが0.2μm~200μm、好適には0.2μm~100μm、さらに好適には0.2μm~50μm、さらに好適には0.3μm~20μm、さらに好適には0.3μm~10μm、最も好適には0.7μmであるように選択されている、実施形態7記載の方法である。
[実施形態9]
前記第2の特定の横断面内で隣り合う各前記作用領域同士は、特に前記経路に沿って、前記第2の特定の横断面内の前記作用領域の最大延在長さの0.01倍~1.0倍、好適には0.01倍~0.5倍に相当しかつ/または0.002μm~200μm、好適には0.002μm~100μm、さらに好適には0.002μm~50μm、さらに好適には0.002μm~10μm、さらに好適には0.002μm~1μm、最も好適には0.005μm~0.3μmの中心間間隔を有している、実施形態7または8記載の方法である。
[実施形態10]
前記基板材料における前記局所領域および/または前記作用領域は、少なくとも部分的にチューブ状、円筒状にかつ/または湾曲して、特に少なくとも1つの横断面内で鎌状に延在しておりかつ/または好適には前記基板本体(103)の前記第1もしくは前記第2の表面から、該表面とは反対側の前記基板本体(103)の表面まで、両前記表面間に封じ込められた前記基板本体(103)の厚さ領域全体を通じて延在している、実施形態4から9までのいずれか1つに記載の方法である。
[実施形態11]
前記線状焦点(107)の制御は、前記基板部材(101)を少なくとも1つの前記光線(109)および/または前記線状焦点(107)に対して相対的に移動させることを含み、これにより、好適には前記線状焦点(107)が特に順次または連続的に、少なくともそれぞれ異なる複数の前記局所領域および/または前記作用領域に形成され得る、実施形態1から10までのいずれか1つに記載の方法である。
[実施形態12]
前記光線(109)は、(i)300nm~1500nm、特に343nm、355nm、515nm、532nm、1030nmまたは1064nmの波長を有しており、(ii)前記基板材料の透明領域に基づく波長を有しており、かつ/または(iii)200fs~50ps、好適には500fs~10psのパルス継続時間、1~10、好適には4のバーストパルス数、1kHz~4GHz、好適には40MHzの繰返し数、および/または80μJ/mm~300μJ/mm、好適には100~230μJ/mm、特に180μJ/mmのパルスエネルギーを有する少なくとも1つのパルスレーザ、特に超短パルスレーザにより放射される、実施形態1から11までのいずれか1つに記載の方法である。
[実施形態13]
前記基板部材(101)は、前記基板材料が除去されかつ/または押し退けられる間、少なくとも部分的にかつ/または領域的に、少なくとも1つの流体により包囲されておりかつ/または少なくとも部分的にかつ/または領域的に該流体内に配置されており、これにより該流体は、除去されたもしくは押し退けられた前記基板材料の箇所に流入可能であり、
好適には、前記光線(109)は少なくとも1つの波長を有しており、前記流体は、前記光線(109)の前記波長に対して、前記基板本体(103)の屈折率とは最大30%異なる屈折率を有しており、かつ/または1.2~2.5の屈折率を有しており、
特に前記流体は、液体を含み、前記基板本体(103)の屈折率とは最大20%、10%、7%、5%、3%または1%異なる屈折率を有しておりかつ/または1.2~2.1、好適には1.3~1.6の屈折率を有している、実施形態1から12までのいずれか1つに記載の方法である。
[実施形態14]
(i)前記基板部材は、ガラス部材、ガラスセラミック部材、シリコン部材および/またはサファイヤ部材を含むかまたはこれらの部材でありかつ/または少なくとも部分的に、プレートおよび/またはウェハ、特にシリコンウェハの形態で形成されており;
(ii)前記基板本体は、ガラス体、ガラスセラミック体、シリコン体および/またはサファイヤ体を含むかまたは表しており;
かつ/または
(iii)前記基板材料は、ガラス、ガラスセラミック、シリコンおよび/またはサファイヤを含むかまたはこれらからなる、
実施形態1から13までのいずれか1つに記載の方法である。
[実施形態15]
特に実施形態1から14までのいずれか1つに記載の方法により製造されたかつ/または製造可能な基板部分部材であって、
少なくとも1つのガラス材料、ガラスセラミック材料および/またはシリコンを含む少なくとも1つの本体(103)を有しており、該本体(103)は少なくとも1つの側面を有しており、
該側面は、少なくとも部分的に高さ調節された表面を有しており、
前記側面は少なくとも部分的に、表面粗さを有しており、該表面粗さに基づく表面変化は、前記高さ調節に基づく表面変化よりも1~5オーダー小さくなっている、基板部分部材である。
[実施形態16]
前記表面の前記高さ調節は、波形の表面を成しておりかつ/または前記高さ調節に基づく前記表面変化は、設定可能な値の範囲内、特に0.5μm~100μmの値の範囲内、好適には0.5μm~50μmの値の範囲内に位置する、実施形態15記載の基板部分部材である。
[実施形態17]
(i)前記側面は少なくとも部分的に、0.01μm~30μm、好適には0.05μm~10μm、最も好適には0.05μm~5μmの最大高さRZ、好適には平均最大高さRZを有しており、(ii)前記表面粗さは平均表面粗さであり、(iii)前記最大高さに基づく前記表面変化は、前記高さ調節に基づく前記表面変化よりも1~5オーダー、好適には2または3オーダー小さくなっており、かつ/または(iv)前記表面粗さに基づく前記表面変化は、前記高さ調節に基づく前記表面変化よりも2または3オーダー小さくなっている、実施形態15または16記載の基板部分部材である。
[実施形態18]
前記側面には、少なくとも部分的に予荷重が加えられておりかつ/または前記側面に沿った当該基板部分部材の、特に前記本体(103)の縁部強度は、100MPa超、好適には150MPa超であり、かつ/または可変であるかまたは前記側面全体にわたり一定である、実施形態15から17までのいずれか1つに記載の基板部分部材である。
[実施形態19]
前記側面は、特に巨視的なスケールでは平らでありかつ/または湾曲しており、特に好適には前記側面に対して垂直な少なくとも1つの横断面内に少なくとも部分的に、放物線形および/または円形の延在部および/または四次方程式に基づく延在部を有している、実施形態15から18までのいずれか1つに記載の基板部分部材である。
【符号の説明】
【0126】
1 基板部材
3 基板本体
5 中空空間
7 焦点
9 部分光線
101 基板部材
103 基板本体
105 中空空間
107 焦点
109 部分光線
201 基板部材
203 基板本体
205 焦点
207 縁部
209 部分光線
301 基板部材
303 基板本体
305 焦点
307 干渉部
309 部分光線