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特許7546508水硬性組成物の強度発現時期の判定方法、水硬性組成物の強度発現時期の判定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】水硬性組成物の強度発現時期の判定方法、水硬性組成物の強度発現時期の判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
G01N33/38
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021055559
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152695
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井坂 幸俊
(72)【発明者】
【氏名】江里口 玲
(72)【発明者】
【氏名】中西 博
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-071575(JP,A)
【文献】特開2011-022982(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0266086(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設後の水硬性組成物の強度発現時期の判定方法であって、
温度センサを内蔵したパッシブ型RFIDモジュールを、前記水硬性組成物に埋設する工程(A)と、
リーダ又はリーダライタと前記パッシブ型RFIDモジュールとの間での通信により生じた電力を利用して前記温度センサが温度データを検知すると共に、前記パッシブ型RFIDモジュールから送信された前記温度データを前記リーダ又は前記リーダライタで受信する工程(B)と、
複数回の前記工程(B)で得られた複数の前記温度データに基づいて算出された積算温度が所定の閾値を超えていると、強度発現時期に達したと判定する工程(C)とを含むことを特徴とする水硬性組成物の強度発現時期の判定方法。
【請求項2】
前記工程(B)は、前記リーダ又は前記リーダライタから前記パッシブ型RFIDモジュールに対する電力供給が行われた後、次の電力供給が行われる前に実行されることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物の強度発現時期の判定方法。
【請求項3】
前記工程(C)における閾値は、後工程において要求される強度から、強度推定式に基づいて算出された積算温度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水硬性組成物の強度発現時期の判定方法。
【請求項4】
前記工程(C)における閾値は、予め行われた試し練りにおいて、前記水硬性組成物の強度が後工程において要求される強度が発現したと確認された時の積算温度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水硬性組成物の強度発現時期の判定方法。
【請求項5】
打設後の水硬性組成物の強度発現時期の判定システムであって、
温度センサを有し、電力供給が行われると温度測定を行い、取得した温度データを送信するように構成された、前記水硬性組成物に埋設されたパッシブ型RFIDモジュールと、
前記パッシブ型RFIDモジュールに対する電力供給と、前記パッシブ型RFIDモジュールから送信される前記温度データの受信とが可能なリーダ又はリーダライタとを備え、
前記リーダ又は前記リーダライタは、
受信した複数の前記温度データから積算温度を算出する演算部と、
前記演算部が算出した積算温度に基づいて、前記水硬性組成物の強度発現時期を判定する判定部とを備えることを特徴とする水硬性組成物の強度発現時期の判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物の強度発現時期を判定するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
施工段階において、コンクリートやモルタル中の強度発現を予測することは、耐久性の効率的な管理の観点から重要である。
【0003】
例えば、床コンクリートの施工段階では、フレッシュコンクリートを打設した後、凝結が進行して一定程度の強度が発現した後に仕上げ作業が行われる。また、一般的なコンクリートの施工段階では、一定程度の強度が発現した段階で型枠を外す作業(脱型)が行われる。さらに、コンクリートにPC鋼材を導入してプレストレストコンクリートを作製する際にも、所定の強度が発現したタイミングでプレストレス力を導入する作業が行われる。具体的には、ポストテンション方式の場合には、所定の強度が発現したタイミングでPC鋼材に緊張力を与え、逆に、プレテンション方式の場合には、事前に緊張力を与えたPC鋼材を導入した後に、所定の強度が発現したタイミングで緊張力を解放する。
【0004】
しかし、従来、フレッシュコンクリートに対する硬化が進行して所定の強度に達したか否か、すなわち、例えば表面の仕上げ時期の判定は、施工者の感覚によるところが大きく、施工者の習熟度によって判断の時期にバラつきが生じるという課題があった。他にも、型枠を脱型する時期に関しては、別途、フレッシュコンクリートから供試体を採取し、供試体による強度試験を実施し確認する方法等、手間のかかる課題がある。そのため、施工者の習熟度に依存せずに作業時期の判断を適切に行い、コンクリートの強度発現状態を効率的に管理できる技術が求められている。
【0005】
そこで、近年では、コンクリートの仕上げ処理や脱型が可能な時期(強度発現時期)を推定する方法として、温度センサを備えるRFIDモジュールを利用した方法が提案されている。その一例として、下記特許文献1には、打設コンクリート中に温度センサを備えるRFIDモジュールを埋め込み、読み出した温度データから算出される積算温度に基づいて打設コンクリートの強度を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-071575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示されているような打設コンクリートの強度を推定する方法に用いられるRFIDモジュールは、安定的に温度測定が行えるように、温度センサを機能させるための電池が搭載されていた。
【0008】
ところが、電池は、負荷として接続されている回路が動作していなくても時間経過に伴って徐々に電力を消費してしまう。このため、打設コンクリートに埋め込まれる電池が搭載されたRFIDモジュールは、打設後から強度発現時期まで時間がかかる場合、電池の消耗によってコンクリートの強度発現時期が到来する前に機能しなくなり、強度発現時期の推定が行えなくなることがあった。また、コンクリート構造物の解体後には電池を分別して廃棄しないといけないという課題があった。
【0009】
そして、このように電池の消耗によってRFIDモジュールが動作しなくなった場合は、コンクリート内からRFIDモジュールを取り出して、搭載されている電池、又はRFIDモジュール全体を交換して再びコンクリート内に埋め込む作業が必要となり、現実的ではない。
【0010】
ここで、電池の交換を想定し、コンクリートからRFIDモジュールを取り出す作業を回避するために、RFIDモジュールを打設後のコンクリートの表面に配設することも考えられる。しかしながら、このような構成では、脱型後のコンクリートの表面にRFIDモジュールを配設した跡が残ってしまい、信頼性や品質に影響を与えてしまうおそれがある。したがって、このような構成は積極的に採用されてはいない。
【0011】
また、有線による電力供給やデータ通信の場合は、コンクリートの外部にケーブルが出てしまうため、紫外線や雨水、気象変化等で、ケーブル自体が劣化してしまうおそれがある。また、ケーブルとコンクリートとの隙間から水や塩分、炭酸ガス等の劣化因子がコンクリート構造物に侵入するおそれがある。このような構成は、コンクリートの品質や信頼性に影響を及ぼす可能性があり、特に薄肉部材や建築部材に対しては採用することが難しいという課題があった。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑み、電池の交換作業等を要しない、メンテナンスフリーなRFIDモジュールを用いた水硬性組成物の強度発現時期の判定方法及び判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の水硬性組成物の強度発現時期の判定方法は、
打設後の水硬性組成物の強度発現時期の判定方法であって、
温度センサを内蔵したパッシブ型RFIDモジュールを、前記水硬性組成物に埋設する工程(A)と、
リーダ又はリーダライタと前記パッシブ型RFIDモジュールとの間での通信により生じた電力を利用して前記温度センサが温度データを検知すると共に、前記パッシブ型RFIDモジュールから送信された前記温度データを前記リーダ又は前記リーダライタで受信する工程(B)と、
複数回の前記工程(B)で得られた複数の前記温度データに基づいて算出された積算温度が所定の閾値を超えていると、強度発現時期に達したと判定する工程(C)とを含むことを特徴とする。
【0014】
本明細書において、「水硬性組成物」とは、少なくともセメントと水を含む組成物であり、例えば、フレッシュコンクリートやフレッシュモルタル等の混練体や、セメントペースト硬化体、モルタル、コンクリート等の硬化体を含む概念である。
【0015】
本明細書において、「リーダ」とは、RFIDモジュールに電波を送信する機能と、RFIDモジュールから送信される電波信号を読み取る機能を備え、RFIDモジュールに対して情報の書き込み機能を備えない機器を指す。そして、「リーダライタ」とは、RFIDモジュールに電波を送信する機能と、RFIDモジュールから送信される電波信号を読み取る機能と共に、RFIDモジュールに対して情報の書き込み機能を備える機器を指す。以下では、煩雑さを避けるために、リーダ又はリーダライタという記載を、「リーダライタ等」と略記することがある。
【0016】
本明細書において、「パッシブ型RFIDモジュール」とは、リーダライタ等の外部機器から送信される電磁波をアンテナで受信することによって、非接触で動作に必要な電力を得て動作するモジュールである。
【0017】
上記方法とすることで、RFIDモジュールは、電池を搭載する必要がなくなるため、電池の交換作業が不要となる。
【0018】
また、上記方法は、無線で電力供給とデータ通信が行われるため、RFIDモジュールと電気的に接続するケーブルを配線する必要がなく、紫外線や雨水、気象変化等で、ケーブル自体が劣化してしまうおそれがない。また、ケーブルとコンクリートとの隙間から水や塩分、炭酸ガス等の劣化因子が、水硬性組成物の内部に侵入するおそれがない。このため、上記方法は、薄肉部材や建築部材等にも使用することができる。
【0019】
さらに、パッシブ型RFIDモジュールは、水硬性組成物に埋め込まれてから長時間が経過しても、リーダライタ等で電力を供給すれば動作する。したがって、定期的に計測することで、脱型後に水硬性組成物に発生した温度ひび割れや損壊の解析や、寒冷地等で生じる凍結融解の影響を受けた履歴の確認等、長年にわたって水硬性組成物の維持管理に用いることもできる。
【0020】
なお、本発明の判定方法は、例えば、RFIDモジュールが埋設された水硬性組成物の打設面上でRFIDモジュールから送信される温度データ信号をリーダ等で受信することで、温度データを取得する方法を採用することができる。このため、例えば、床コンクリート等の型枠が無い態様に適用した場合であっても、適切に温度計測ができる。つまり、本発明の判定方法は、水硬性組成物を打設する型枠の有無に関わらず適用することができる。
【0021】
上記判定方法において、
前記工程(B)は、前記リーダ又は前記リーダライタから前記パッシブ型RFIDモジュールに対する電力供給が行われた後、次の電力供給が行われる前に実行される工程であっても構わない。
【0022】
一方、RFIDモジュールで温度を測定する場合、メモリとタイマを搭載し、定期的に温度測定を行い、作業者が任意のタイミングでメモリに蓄積された温度データを読み出すように構成されているものが多い。
【0023】
しかしながら、当該構成では、水硬性組成物の強度発現時期が近づき、作業者がより細かい時間間隔で温度データを確認したいとなった時に、温度測定のタイミングが到来しない限り最新の温度データを確認することができない。
【0024】
そこで、上記方法とすることで、パッシブ型RFIDモジュールが備える温度センサによって測定された温度のデータが、都度リーダライタ等で読み出される。このため、任意のタイミングでその時点での温度データを取得することができる。つまり、作業者が水硬性組成物の状態に合わせて、都度最新の温度データに基づいた水硬性組成物の強度発現時期の判定を行うことができる。
【0025】
上記判定方法において、
前記工程(C)における閾値は、後工程において要求される強度から、強度推定式に基づいて算出された積算温度の値としても構わない。
【0026】
また、上記判定方法において、
前記工程(C)における閾値は、予め行われた試し練りにおいて、前記水硬性組成物の強度が後工程において要求される強度が発現したと確認された時の積算温度の値としても構わない。
【0027】
ここでいう後工程とは、水硬性組成物において、所定の強度が発現したことを確認して行われる作業をいい、例えば、水硬性組成物の均し等の仕上げ処理や、脱型である。例えば、水硬性組成物の均しは、水硬性組成物の圧縮強度が0.3N/mm2~0.5N/mm2になったところで行うことが好ましいと考えられている。
【0028】
積算温度は、時間刻みをΔti(Hr、又は日)、RFIDモジュールによって測定された水硬性組成物の温度をθi(℃)、積算温度をM(℃・Hr、又は℃・日(°D・D))として、下記(1)式に基づいて算出される。なお、下記(1)式におけるAは定数である。
【0029】
【数1】
【0030】
水硬性組成物における積算温度と、強度との関係を示す強度推定式は、例えば、下記(2)式に示す強度推定式が知られている。
【0031】
【数2】
【0032】
上記(2)式において、Fは推定強度、Fpは配合強度、Mは積算温度であって、a、bは、それぞれ判定対象とする水硬性組成物によって定まる定数である。なお、上記(2)式は、いくつか提案されている強度推定式のうちの、ゴンペルツ曲線に基づく関係式である。
【0033】
強度推定式としては、上記(2)式以外にも、例えば、指数関数式線や、ロジスティック曲線等に基づく関係式が提案されており、積算温度の閾値は、上記(2)式以外の強度推定式を用いて算出されても構わない。
【0034】
上記方法とすることで、水硬性組成物の材料比率等に応じて、より適した閾値によって水硬性組成物の強度発現時期を判定することができる。
【0035】
本発明の水硬性組成物の強度発現時期の判定システムは、
打設後の水硬性組成物の強度発現時期の判定システムであって、
温度センサを有し、電力供給が行われると温度測定を行い、取得した温度データを送信するように構成された、前記水硬性組成物に埋設されたパッシブ型RFIDモジュールと、
前記パッシブ型RFIDモジュールに対する電力供給と、前記パッシブ型RFIDモジュールから送信される前記温度データの受信とが可能なリーダ又はリーダライタとを備え、
前記リーダ又は前記リーダライタは、
受信した複数の前記温度データから積算温度を算出する演算部と、
前記演算部が算出した積算温度に基づいて、前記水硬性組成物の強度発現時期を判定する判定部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、電池の交換作業等を要しない、メンテナンスフリーなRFIDモジュールを用いた水硬性組成物の強度発現時期の判定方法及び判定システムが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】判定システムの一実施態様を模式的に示す図面である。
図2図1の作業者の手元周辺を拡大した図面である。
図3】一実施形態におけるRFIDモジュールの構成を模式的に示すブロック図である。
図4】リーダの構成を模式的に示すブロック図である。
図5】強度発現時期の判定方法の一例を示すフローチャートである。
図6】判定システムの動作検証用の実験装置の構成を示す図面である。
図7】判定システムの動作検証用の実験装置の構成を示す図面である。
図8】水硬性組成物の温度推移を示すグラフである。
図9】水硬性組成物の温度推移を示すグラフである。
図10】別実施形態におけるRFIDモジュールの構成を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の判定方法及び判定システムについて、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の個数は、実際の個数と必ずしも一致していない。
【0039】
[実施態様]
最初に、判定システム1の実施態様の一例について説明する。図1は、判定システム1の一実施態様を模式的に示す図面であり、図2は、図1の作業者2の手元周辺を拡大した図面である。図1は、水硬性組成物L1がアジテータ車一台から打設される範囲が一点鎖線によって区画されており、以下では、一つの区画A1について説明する。
【0040】
例えば、アジテータ車の4m3車の場合であれば、凡そ4m×4m×0.25mで水硬性組成物L1が打設され、隅角部、中心部に後述するRFIDモジュール10が一個程度埋め込まれることが好ましい。
【0041】
図1に示すように、アジテータ車一台から打設された区画A1内においては、水硬性組成物L1の強度発現時期を確認する間隔や、リーダ11との通信における干渉等を考慮して、RFIDモジュール10同士の離間距離が1m~6mの範囲内であることが好ましく、2m~5mの範囲内であることがより好ましい。
【0042】
また、本実施態様においては、RFIDモジュール10が、水硬性組成物L1の打設面Lpからの深さが25mmの位置に埋設されているが、RFIDモジュール10とリーダ11との通信距離等を考慮して、深さが10mm~50mmの位置に埋設されることが好ましく、深さが20mm~40mmの位置に埋設されることがより好ましい。
【0043】
なお、一般的にアジテータ車一台から打設された区画A1内であれば、ほぼ同時期に仕上げ処理や脱型が行えることが多いため、当該範囲内にRFIDモジュール10が一個だけ埋設されるような態様であっても構わない。
【0044】
図1に示すように、判定システム1は、水硬性組成物L1に埋め込まれるRFIDモジュール10と、リーダ11とで構成される。なお、RFIDモジュール10は、水硬性組成物L1に埋め込まれており、実際には視認できないため、図1及び図2においては破線で図示されている。
【0045】
作業者2は、水硬性組成物L1の、各RFIDモジュールが埋設された位置の打設面Lp近傍でリーダ11を操作し、各位置における水硬性組成物L1の強度発現時期を順次判定していく。
【0046】
[システム構成]
次に、システム構成の詳細について説明する。図1及び図2に示すように、判定システム1は、水硬性組成物L1に埋め込まれるRFIDモジュール10と、リーダ11とで構成される。
【0047】
図3は、本実施形態におけるRFIDモジュール10の構成を模式的に示すブロック図である。図3に示すように、RFIDモジュール10は、温度を測定する温度センサ10aと、RFIDタグ10bとを備える。
【0048】
RFIDタグ10bは、アンテナ10cを備えており、リーダ11から送信される電力供給用の電磁波pwを受信すると、温度センサ10aに供給する駆動用の電力p1を生成する。また、RFIDタグ10bは、温度センサ10aから測定温度に応じた電気信号d1を受信すると、残っている電力によって、電気信号d1に基づいて生成した温度データ信号s1を、リーダ11に対してアンテナ10cから送信する。つまり、RFIDモジュール10は、電池を搭載しておらず、電磁波pwによって供給される電力で、温度測定から温度データ信号s1の送信までが完結するパッシブ型RFIDモジュールである。
【0049】
温度センサ10aは、例えば、半導体式の温度センサを採用し得るが、温度測定のために必要な消費電力が許容できる範囲内であって、水硬性組成物L1に埋め込んで使用できる温度センサであれば、他の温度センサを採用しても構わない。
【0050】
本実施形態におけるリーダ11は、RFIDタグ10bに対して電力供給用の電磁波pwを送信する機能と、RFIDタグ10bから送信される温度データ信号s1を受信する機能を備えたスマートフォンとした。
【0051】
図4は、リーダ11の構成を模式的に示すブロック図である。図4に示すように、リーダ11は、操作部11aと、アンテナ11bと、記憶部11cと、演算部11dと、判定部11eと、表示部11fとを備える。
【0052】
図4では、操作部11aがリーダ11を構成するブロックの一つとして図示されているが、本実施形態におけるリーダ11の操作部11aは、スマートフォンのタッチパネルやボタンに相当する。
【0053】
アンテナ11bは、RFIDモジュール10に対して電力供給用の電磁波pwを送信し、RFIDモジュール10から送信される温度データ信号s1を受信する。
【0054】
記憶部11cは、具体的には、リーダ11内に搭載された半導体メモリ(例えば、フラッシュメモリ)であって、アンテナ11bで受信した温度データ信号s1から読み出された温度データd2が格納される。なお、記憶部11cは、半導体メモリ以外に、外部接続されるリーダ11とは別体であって、リーダ11に直接接続される、又はケーブルでリーダ11と接続されるメモリ機器等を採用しても構わない。
【0055】
演算部11dは、例えば、CPUやMPUであって、記憶部11cに格納されている複数の温度データd2を読出して、上記(1)式に基づいて積算温度を算出する。
【0056】
判定部11eは、演算部11dが記憶部11cに格納された複数の温度データd2から算出した積算温度と、後工程において要求される強度から、強度推定式である上記(2)式に基づいて算出された所定の閾値とを比較する。そして、演算部11dが算出した積算温度が所定の閾値を超えている場合は、水硬性組成物L1が強度発現時期に達したと判定する。
【0057】
なお、判定部11eが判定に用いる閾値は、予め行われた試し練りにおいて、水硬性組成物L1の強度が後工程において要求される強度が発現したと確認された積算温度の値を用いても構わない。また、当該閾値は、経験的に得られている値をそのまま適用しても構わない。
【0058】
表示部11fは、判定部11eが水硬性組成物L1の強度が発現していると判定した場合、その旨を表示する。なお、本実施形態における表示部11fは、スマートフォンのディスプレイであるが、例えば、水硬性組成物L1の強度が発現していると判定された場合に点灯するLED等であっても構わない。
【0059】
[判定方法]
図5は、強度発現時期の判定方法の一例を示すフローチャートである。次に、上述した判定システム1によって、水硬性組成物L1の強度発現時期を判定する方法について、図5を参照しながら説明する。
【0060】
最初は、水硬性組成物L1を流し込まれる型枠内の所定の位置に、RFIDモジュール10が配設される(ステップS1)。
【0061】
ステップS1の後、型枠に水硬性組成物L1が流し込まれ、RFIDモジュール10が、水硬性組成物L1内に埋め込まれる(ステップS2)。このステップS1とステップS2が、工程(A)に対応する。
【0062】
ステップS2の後、作業者が任意の温度測定タイミングにおいて、リーダ11を水硬性組成物L1内に埋め込まれたRFIDモジュール10と通信可能な位置に配置し、操作部11aを操作して測定動作を開始する操作を行う(ステップS3)。
【0063】
作業者がリーダ11の操作部11aにて所定の操作を行うと、リーダ11は、アンテナ11bからRFIDモジュール10に対して電力供給用の電磁波pwを送信する(ステップS4)。
【0064】
RFIDモジュール10のアンテナ10cは、リーダ11のアンテナ11bから送信された電磁波pwを受信すると、RFIDタグ10bが温度センサ10aを駆動するための電力p1を生成する(ステップS5)。
【0065】
ステップS5の後、RFIDタグ10bは、生成した電力p1を温度センサ10aに対して供給し、温度センサ10aが測定した水硬性組成物L1内の温度に応じた電気信号d1を受信する(ステップS6)。
【0066】
RFIDタグ10bは、温度センサ10aから電気信号d1を受信すると、リーダ11に対して温度データを送信するための温度データ信号s1を生成し、温度データ信号s1をアンテナ10cからリーダ11に対して送信する(ステップS7)。
【0067】
リーダ11は、ステップS7において、RFIDモジュール10のアンテナ10cから送信された温度データ信号s1をアンテナ11bで受信する(ステップS8)。ステップS6からステップS8までが、工程(B)に対応する。
【0068】
ステップS8の後、リーダ11は、アンテナ11bによって温度データ信号s1を受信すると、温度データ信号s1に含まれる温度データd2を記憶部11cに格納する(ステップS9)。
【0069】
その後、所定の時間間隔でステップS3からステップS9が複数回繰り返され、リーダ11の記憶部11cに、測定時間ごとの温度データが蓄積される。
【0070】
リーダ11の記憶部11cに所定の量の温度データd2が蓄積されると、演算部11dが記憶部11cに格納されている温度データd2を読み出して、上記(1)式に基づいて積算温度を算出する(ステップS10)。以下に(1)式を再掲する。
【0071】
【数3】
【0072】
演算部11dによって積算温度が算出されると、判定部11eが、当該積算温度と、所定の閾値とを比較することで、水硬性組成物L1が強度発現時期に達しているか否かを判定する(ステップS11)。ここで、所定の閾値は、後工程において要求される強度から、強度推定式である上記(2)式に基づいて算出される。以下に(2)式を再掲する。
【0073】
【数4】
【0074】
すなわち、判定部11eは、演算部11dが算出した積算温度が所定の閾値を超えている場合は、水硬性組成物L1が強度発現時期に達したと判定する。
【0075】
なお、判定部11eが判定に用いる閾値は、予め行われた試し練りにおいて、水硬性組成物L1の強度が後工程において要求される強度が発現したと確認された積算温度の値を用いても構わない。また、当該閾値は、経験的に得られている値をそのまま適用しても構わない。
【0076】
このステップS10とステップS11とが、工程(C)に対応する。
【0077】
ステップS11において、水硬性組成物L1が強度発現時期に達していると判定された場合は、表示部11fは、水硬性組成物L1が強度発現時期に達していることを示す表示がされる。ステップS11において、水硬性組成物L1が強度発現時期に達していないと判定された場合は、表示部11fは、水硬性組成物L1が強度発現時期に達していないことを示す表示がされる(ステップS12)。
【0078】
なお、図5に示すように、ステップS12において、強度発現時期の到達していないことが表示部11fに表示されたことを確認した作業者は、その後任意のタイミングで、再びステップS3からの手順を実施する。そして、作業者は、水硬性組成物L1が強度発現時期に達したと判定されるまで、すなわち、ステップS12において、表示部11fに強度発現時期に達したと表示されるまで、ステップS3~ステップS12の作業を繰り返す。
【0079】
ステップS12において、強度発現時期の到達したことが表示部11fに表示されると、作業者は、上記方法を終了して、鏝均しや脱型等の作業を開始する。
【0080】
以上の工程を経て、作業者は、水硬性組成物L1が強度発現時期に達しているか否かを判定することができる。
【0081】
[検証]
パッシブ型のRFIDモジュール10を用いて、問題なく水硬性組成物L1の温度測定が可能かどうかを確認する検証を行った。以下、検証内容と検証結果について説明する。
【0082】
図6及び図7は、検証用の判定システム1の構成を示す全体斜視図であって、図6は、水硬性組成物L1を流し込む前の状態、図7は、水硬性組成物L1を流し込んだ後、リーダ11で温度データを取得している状態を示している。RFIDモジュール10から送信される温度データ信号s1を受信は、図7に示すように、打設面Lp上に配置されたリーダ11によって行われる。
【0083】
(実施例1)
水硬性組成物L1として、下記表1に記載の配合で作成されたコンクリートを実施例1とした。
【0084】
【表1】
【0085】
ここで、W/Cは水セメント比、s/aは全骨材のうちの細骨材の比率(細骨材率)である。なお、セメント(C)は、普通ポルトランドセメント(OPC)を使用した。
【0086】
(実施例2)
水硬性組成物L1として、下記表2に記載の配合で作成されたモルタルを実施例2とした。
【0087】
【表2】
【0088】
RFIDモジュール10は、Axzon社製の「RFM-3200-AFR」を使用した。
【0089】
リーダ11は、AsReader社製の「ASR-030D」を装着したスマートフォンを使用した。
【0090】
積算温度は、打設直後から1時間ごとの平均温度を足し合わせて算出した。
【0091】
(結果)
図8及び図9は、水硬性組成物L1の温度推移を示すグラフであって、図8が実施例1による検証結果、図9が実施例2による検証結果である。なお、実施例2は、温度測定が正しく行われているかを確認するために、RFIDモジュール10と共に、水硬性組成物L1に埋設された熱電対による温度データも併せて示されている。
【0092】
図8に示すように、実施例1の水硬性組成物L1は、打設開始時から温度は上昇し続け、鏝均し開始時期t1までには、15℃付近まで上昇している。そして、鏝均し開始時期t1から、鏝均し終了時期t2までは、コンクリートの水和反応が進行することによって、さらに温度が上昇している。つまり、RFIDモジュール10によって意図する温度変化のデータが取得できている。
【0093】
実施例2の水硬性組成物L1は、図9に示すように、打設直後から実施例1のコンクリート程の上昇はなく、僅かに昇降している。図9からわかるように、RFIDモジュール10によって取得された温度データは、熱電対によって測定された温度データとはほぼ一致しており、同じ温度変化の傾向が捉えられている。
【0094】
以上より、RFIDモジュール10は、水硬性組成物L1の温度を問題なく測定できていることが確認された。なお、これら結果から算出した鏝均し開始時期t1までの積算温度は、実施例1が5.8°D・D、実施例2が5.6°D・Dであった。なお、鏝均し時期は、見た目と触った感触から感覚的に判断した。
【0095】
上記判定システムが備えるRFIDモジュール10は、パッシブ型RFIDモジュールであって、電池が搭載されない構成であるため、電池の交換作業が発生することはない。
【0096】
また、上記判定システム及び上記判定方法は、作業者がリーダ11を操作することで、その都度温度センサ10aによる温度測定が行われ、随時最新の温度データを取得することができる。したがって、打設後の水硬性組成物L1の状態に応じて、作業者の任意のタイミングで、水硬性組成物L1の強度が発現したかどうかの判定を行うことができる。
【0097】
さらに、上記判定システム1の構成によれば、RFIDモジュール10の回路や外装の劣化や破損が無い限り、脱型後から長時間が経過した後も、リーダ11から電磁波pwが送信されることで、温度データを取得することができる。したがって、本実施形態の判定システム1は、定期的に温度計測することで、脱型後に発生した温度ひび割れや損壊の解析や、寒冷地等で生じる凍結融解の影響を受けた履歴の確認等に用いることができ、長年にわたって水硬性組成物L1の維持管理に利用することができる。
【0098】
例えば、冬季のコンクリート温度を定期的に測定することで得られる温度データは、解析することで、測定対象となるコンクリートにおいて凍結融解作用がどの程度生じているか、劣化が進行しやすいか否か等の評価に利用することができる。このように、定期的に温度を計測することで得られるコンクリートの温度データは、コンクリート構造物の維持管理にも有用なデータとなりえる。
【0099】
さらに、自然電位等を利用したコンクリートの非(微)破壊検査においては、コンクリート温度が測定できれば、より正確な温度補正が可能となり、構造物の状態をより把握しやすくなると考えられる。判定システム1は、このようなコンクリートの検査における温度補正用のデータの取得にも利用することができる。
【0100】
なお、本実施形態において、RFIDモジュール10は、電磁誘導方式のRFIDタグ10bを備える構成として説明したが、電波方式等の別の方式のRFIDタグ10bを備えるRFIDモジュール10を採用しても構わない。
【0101】
また、本実施形態において、リーダ11は、スマートフォンとして説明したが、例えば、PCや、RFIDタグ10b専用の通信端末等であっても構わない。また、判定システム1は、リーダ11とは別の情報機器(例えば、PC)を備え、リーダ11が当該情報機器に対して温度データを送信し、当該情報機器が積算温度の演算や、水硬性組成物L1の強度発現時期の判定を行うように構成されていても構わない。
【0102】
さらに、RFIDタグ10bとのデータ通信には、リーダ11の代わりに温度センサ10aの設定データ等をRFIDタグ10bに対して設定データ信号を送信できるリーダライタが用いられても構わない。
【0103】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0104】
〈1〉 図10は、別実施形態におけるRFIDモジュール10の構成を模式的に示すブロック図である。図10に示すように、RFIDモジュール10は、不揮発メモリ10dを備え、上述の説明におけるステップS7を実行すると共に、温度データを不揮発メモリ10dに格納するように構成されていても構わない。不揮発メモリ10dは、例えば、フラッシュメモリ等であって、格納されているデータの維持に電力を要しないため、RFIDモジュール10に電池を搭載する必要がない。
【0105】
また、RFIDモジュール10は、ステップS8を実行する代わりに、温度データを不揮発メモリ10dに格納するように構成されていても構わない。この場合、RFIDモジュール10は、例えば、電磁波pwが送信された後、再びリーダ11から電磁波pwが送信されると、不揮発メモリ10dに格納された温度データから温度データ信号s1を生成して、アンテナ10cから送信するように構成される。
【0106】
上記構成とすることで、例えば、リーダ11に読み出したデータが誤って消去されてしまった場合等において、不揮発メモリ10dに格納されているデータをバックアップデータとして利用することができる。また、リーダ11で読出したデータと、不揮発メモリ10dに格納された温度データとを照合することで、温度データ信号s1の送受信やリーダ11におけるデコード処理等で値が変化してしまっていないか等を確認することができる。
【0107】
なお、本実施形態における不揮発メモリ10dには、温度データ以外の情報が格納されていてもよく、例えば、RFIDモジュール10を配設した位置情報や、それぞれのRFIDモジュール10を区別するための識別情報等が格納されていても構わない。
【0108】
〈2〉 上述した判定システム1が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0109】
1 : 判定システム
2 : 作業者
10 : RFIDモジュール
10a : 温度センサ
10b : RFIDタグ
10c : アンテナ
10d : 不揮発メモリ
11 : リーダ
11a : 操作部
11b : アンテナ
11c : 記憶部
11d : 演算部
11e : 判定部
11f : 表示部
A1 : 区画
L1 : 水硬性組成物
Lp : 打設面
d1 : 電気信号
d2 : 温度データ
p1 : 電力
pw : 電磁波
s1 : 温度データ信号
t1 : 鏝均し開始時期
t2 : 鏝均し終了時期
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10