IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィアの特許一覧

<>
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図1
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図2
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図3
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図4
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図5
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図6
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図7
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図8
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図9
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図10
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図11
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図12
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図13
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図14
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図15
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図16
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図17
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図18
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図19
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図20
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図21
  • 特許-ポリマーベースの高分子プロドラッグ 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ポリマーベースの高分子プロドラッグ
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4745 20060101AFI20240830BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20240830BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240830BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
A61K31/4745
A61K47/60
A61P25/00
A61P35/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021514531
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2019051457
(87)【国際公開番号】W WO2020061007
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】62/732,199
(32)【優先日】2018-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301040958
【氏名又は名称】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】マイケル コルニー
(72)【発明者】
【氏名】イバン アルフェリブ
(72)【発明者】
【氏名】ギャレット エム.ブロデウアー
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-503602(JP,A)
【文献】特表2016-531895(JP,A)
【文献】国際公開第1999/052861(WO,A1)
【文献】特表2012-506380(JP,A)
【文献】特表2013-511539(JP,A)
【文献】特開2002-255821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 47/00-47/69
A61P 25/00
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式
【化1】
の構造を有するPEG-[SN22]である高分子プロドラッグを含む組成物であって、
式中、
nが平均して110であり、および
PEが下記化学式
【化2】
である、高分子プロドラッグを含む組成物。
【請求項2】
医薬品として使用するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
神経芽細胞腫の治療において使用するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
固形腫瘍の治療において使用するための、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照(S)
本出願は、2018年9月17日に提出された米国仮出願第62/732,199号の出願日の利益を主張しており、その内容はすべての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
カンプトテシン類似体が、生理学的条件下で不安定なエステル結合を介してポリマーに共有結合している高分子プロドラッグが提供される。高分子プロドラッグを用いて、癌、特に神経芽細胞腫を治療する方法も提供される。
【背景技術】
【0003】
神経芽細胞腫(NB)は、依然として小児の最も一般的で致命的な固形腫瘍であり、すべての小児癌の8~10%、及び小児の癌による死亡の15%を占めている。他の小児新生物の治癒率は改善されているが、NB患者の生存率の改善は遅れている。
【0004】
現在、臨床の場で使用されている集中的な多様式な治療は、患者の半数以上で失敗し(患者の50~60%が再発を経験し、治癒的救済治療の選択肢がない)、最も手ごわい治療上の課題が、「超高」リスクカテゴリーとして定義されている非応答患者サブグループによって提示された。非常に多様な病因と生物学的に好ましくない変種が蔓延している高リスクNBは、現在、一次治療としてカンプトテシンファミリー(トポテカン及びイリノテカン)のトポイソメラーゼI阻害剤を含む強力な抗癌剤が試みられている。しかし、進行性疾患の状況でのこれらの臨床使用は依然として最適ではなく、用量制限副作用及び後天性薬剤耐性のために、再発又は難治性のNB患者における結果は芳しくない。重要なことに、これらの患者の治療の失敗は、NB細胞の増殖を効果的に抑制するために必要な閾値薬物レベルの1~3桁の上昇と関連しており、臨床的に達成できない値に達していることが示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、難治性のNBと戦うために、全身曝露を上昇させることなく、腫瘍内送達を著しく増強し治療的に有効な薬物レベルで薬物の存在を拡大することができる代替的治療アプローチが必要である。本明細書に記載の実施態様は、このニーズに対応している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
第1の実施態様において、その中のカンプトテシン類似体の少なくとも2つの分子が、生理学的条件下(例えば22℃、pH=7.2)で不安定なエステル結合を介してポロキサマーポリマーに共有結合している、高分子プロドラッグが提供される。
【0007】
第2の実施態様において、その中のSN22類似体の少なくとも2つの分子が、生理学的条件下で不安定であるエステル結合を介してPEGポリマーに共有結合している、高分子プロドラッグが提供される。
【0008】
第3の実施態様において、その中のカンプトテシン類似体の少なくとも2つの分子が生理学的条件下で不安定であるエステル結合を介してポリマーに共有結合しており、少なくとも1つのカンプトテシン類似体が少なくとも1つのNEトランスポーター(NET)リガンドで官能基化されている、高分子プロドラッグが提供される。
【0009】
別の実施態様において、カンプトテシン類似体は、SN22(7-エチル-カンプトテシン)、SN38(7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシン)、又はこれらの組み合わせである。
【0010】
別の実施態様において、ポリマーはポロキサマーポリマーである。
別の実施態様において、ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマーである。
別の実施態様において、ポリマーはマルチアームPEGポリマーである。
【0011】
別の実施態様において、カンプトテシン類似体の2つの分子はポリマーに共有結合している。
別の実施態様において、カンプトテシン類似体の4つの分子はポリマーに共有結合している。
別の実施態様において、カンプトテシン類似体の2~8つの分子はポリマーに共有結合している。
別の実施態様において、NEトランスポーター(NET)リガンドは、生理学的条件下で不安定であるエステル結合を介してカンプトテシン類似体に共有結合している。
別の実施態様において、カンプトテシン類似体はSN-38である。
【0012】
別の実施態様において、NEトランスポーター(NET)リガンドは、ベンジルグアニジン(BG)である。
別の実施態様において、NEトランスポーター(NET)リガンドは、フェネチルグアニジン又はチラミンである。
【0013】
別の実施態様において、NEトランスポーター(NET)リガンドとカンプトテシン類似体とのエステル結合は、オキシヘキサノイルエステルである。
別の実施態様において、NEトランスポーター(NET)リガンドとカンプトテシン類似体とのエステル結合は、オキシエトキシプロパノイル又はオキシエトキシエトキシプロパノイルエステルである。
【0014】
別の実施態様において、高分子プロドラッグは[PEG-SN38-BG]である。
別の実施態様において、高分子プロドラッグはPF108-(SN22)である。
別の実施態様において、高分子プロドラッグはPEG-[SN22]である。
別の実施態様において、エステル結合はオキシ酢酸エステル結合である。
【0015】
別の実施態様において、上記で定義された高分子プロドラッグの有効量を、それを必要とする被験体に投与することにより、神経芽細胞腫を治療する方法が提供される。
別の実施態様において、上記で定義された高分子プロドラッグの有効量を、それを必要とする被験体に投与することにより、固形腫瘍を有する被験体を治療する方法が提供される。
別の実施態様において、上記で定義された高分子プロドラッグの有効量を、それを必要とする被験体に投与することにより、脳腫瘍を有する被験体を治療する方法が提供される。
別の実施態様において、上記で定義された高分子プロドラッグの有効量を、それを必要とする被験体に投与することにより、癌を治療する方法が提供される。
【0016】
別の実施態様において、必要とする被験体はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】PF108-(SN22)プロドラッグ対、プルロニックF-108(100nMのSN22に相当する用量)有り又は無しのSN22による、化学療法抵抗性NB細胞[BE(2)C]の増殖阻害。未処理の細胞又はそのままの化学修飾されていないプルロニックF-108で処理した細胞を対照として含めた。試験した曝露時間は24時間と30分であった(それぞれAとB)。細胞増殖は経時的に生物発光によって追跡した。結果は平均±SDとして表される。
図2】その臨床的に使用されている水溶性前駆体であるイリノテカンとして投与されたSN38と比較した、ポロキサマーベースのプロドラッグとして送達されたSN22の腫瘍内レベル(4時間~3日間)。分析は、難治性NBの同所性異種移植モデルで実施した。無胸腺ヌード(nu/nu)マウス(n=5)に、20%プルロニックF-127(50μl)に懸濁したBE(2)C細胞(1匹あたり10個)を副腎脂肪組織に接種した。腫瘍は、生物発光イメージングの制御下で1.0±0.4cmのサイズまで拡大させた。PF108-(SN22)又はイリノテカン(120μl)は、尾静脈注射によってそれぞれ10mg/kgのSN22又はSN38に相当する用量で投与された。腫瘍を採取し、秤量し、4、24、及び72時間目に腫瘍内薬物レベルについてHPLCで分析した。重量で標準化した薬物濃度を、2つの群の平均±SDとして比較して示す。
図3】難治性の高リスクNBの同所性モデルにおけるPF108-(SN22)の治療効果。[44]に記載されている手順に従って、マウスにルシフェラーゼを安定して発現する10個のBE(2)C細胞を接種した。PF108-(SN22)による治療は、10mg/kgのSN22に相当する用量で週1回、4週間静脈内投与して実施した。10mg/kgのSN38で週2回投与されたイリノテカンを陽性対照として含めた。生理食塩水又は化学修飾されていないプルロニックF-108を陰性対照として使用した。腫瘍に関連するシグナルは、定量的生物発光によって追跡した(0~5週に撮影された代表的な画像を(A)に示す)。(B)にグラフで示した定量的データは平均±SDとして表される。この試験の5週間にわたる各動物群の生存曲線を(C)に示す。
図4】PF108-(SN22)プロドラッグと、ブランクのプルロニックF-108有り又は無しの遊離SN22の抗増殖効果の試験。治療に対する応答を、化学療法未経験の表現型を示すNB細胞と化学療法抵抗性の表現型を示すNB細胞(それぞれ、IMR32(A)とBE(2)C(B))間で、曝露時間(0.5、4、及び24時間)と用量(ウェルあたり20、40、80ngのSN22に相当)の関数として比較した。応答は、処理後7日目の増殖阻害%(平均±SD)として示されている。
図5】PF108-(SN22)(4時間~3日間)として送達されたSN22の臓器分布と腫瘍内レベル。分析は、生物発光イメージングの制御下で1.0±0.4cmのサイズに拡大させた同所性BE(2)C異種移植片で実施した。プロドラッグは、10mg/kgのSN22に相当する用量で尾静脈注射によって投与した。分析は、蛍光測定によって実施した。薬物量は、臓器あたりの注射用量%として示され、平均±SDとして表される。
図6】化学療法未経験のMYCN増幅NBの同所性モデルにおけるPF108-(SN22)の治療有効性。マウスに10個のルシフェラーゼ発現IMR-32細胞を接種した。イリノテカン又はPF108-(SN22)(1kgあたり10mgの薬剤、週2回及び1回でそれぞれ4週間)による治療は、接種の3週間後に開始された(A)。あるいは、PF108-(SN22)は、週1回で3週間にわたって、10倍大きいNB腫瘍を有する動物に投与された(B)。腫瘍関連シグナルは、定量的生物発光によって追跡した。定量的データは平均±SDとして表される。
図7】NLF及びトランスフェクトされたクローンのABCG2の発現と増殖。(A)NLF及び3つの単一細胞クローンについてアクチン対照と比較して、ウエスタン分析を、ABCG2抗体(Santa Cruz)を使用して実施した。クローン1、2、及び3は、それぞれ微量、低レベル、及び中レベルのABCG2発現を示した。(B)SN38又はSN22(50ng/ml)の存在下でのNLF及びABCG2発現クローンの増殖。4日目の増殖を示す。
図8】同所性NBモデルの治療。化学療法抵抗性のルシフェラーゼをトランスフェクトしたSKNBE(2)C細胞(107)を、ヌードマウスの腎周囲脂肪組織に注射した。マウスを5つの群に分けた:無治療群、又はブランクPEG治療群、CPT-11治療群、PEG-[SN38]4治療群、又はPEG-[SN22]4治療群(1群あたり動物10匹)。腫瘍が約0.2cmに達したときに治療を開始した。PEG-[SN38]4又はPEG-[SN22]4のいずれかによる治療は腫瘍の退縮を引き起こしたが、PEG-[SN22]4治療のみが完全な腫瘍消失を引き起こした。
図9】TH-MYCNトランスジェニックマウスモデルにおけるPEG-[SN22]4及びPEG-[SN38]4の有効性。マウスを生理食塩水(N=8)、CPT-11(15mg/kg/用量;N=7)、PEG-[SN38]4(10mg/kg/用量;N=6)、又はPEG-[SN22]4(10mg/kg/用量;N=6)の尾静脈IVにより、週1回で4週間治療した。治療は、マウスが約5週齢で、腫瘍サイズが約1~2cmのときに開始された。腫瘍の負荷により苦痛の兆候を示したマウスを試験から除外した。PEG-[SN22]4は急速な腫瘍退縮を示し、180~200日の剖検では腫瘍は発見されなかった。
図10】PEG[SN22]4で治療されたEWS及びRMS異種移植片の生存。マウスを生理食塩水、CPT-11(15mg/kg/用量)、又はPEG-[SN22]4(10mg/kg/用量)(すべてについてN=10)の尾静脈IVにより、週1回で4週間治療した。左:EWS細胞株TC-71(化学療法抵抗性)の脇腹異種移植片を有する動物の、4週間治療後の生存。PEG-[SN22]4動物はいずれも再発しなかった。右:肺胞(融合陽性)RMS細胞株Rh30の脇腹異種移植片を有する動物の、4週間治療後の生存。PEG-[SN22]4で治療された動物のうち2匹は再発が遅く、1匹は小さく増殖の遅い腫瘍を有したが、他の7匹は180~200日間腫瘍がなかった。
図11】8アーム(40kDa)PEGを担体として使用し、BGを標的リガンドとして使用して設計された、NET標的化高分子プロドラッグとして送達されたSN-38の腫瘍内レベル([PEG-SN38-BG])。分析は、難治性NBの同所性異種移植モデルで実施した。無胸腺ヌード(nu/nu)マウス(n=5)の副腎脂肪組織に、20%プルロニックF-127(50μl)に懸濁したBE(2)C細胞(動物1匹あたり10個)を接種した。腫瘍は、生物発光イメージングの制御下で1.0±0.4cmのサイズに拡大させた。[PEG-SN38-BG]は、尾静脈注射によってSN-38の10mg/kgに相当する用量で投与された。腫瘍を採取し、秤量し、HPLCで分析した。体重で標準化された薬物濃度は、平均±SDとして表される。
図12】難治性の高リスクNBの同所性モデルにおける[PEG-SN38-BG]の治療有効性。無胸腺ヌード(nu/nu)マウスに、ルシフェラーゼを安定して発現するBE(2)C細胞(10個)を接種した。[PEG-SN38-BG]による治療は、10mg/kgのSN-38に相当する用量を週2回で4週間静脈内投与して実施した。15mg/kgで週2回投与したイリノテカンが陽性対照として含めた。生理食塩水(無治療)を投与したマウスの群を陰性対照として使用した。追加の群では、プロドラッグを同じ処方を使用して、腫瘍サイズを10倍(2.0cm、「大きな腫瘍」)まで拡大させた動物に投与した。腫瘍関連シグナルは、定量的生物発光によって追跡した。(A)にグラフで示されているデータは、平均±SDとして表される。190日間にわたる各動物群の生存曲線を(B)に示す。
図13】化学療法抵抗性NB細胞であるBE(2)Cにおける[PEG-SN38-BG]及びSN-38(それぞれ(A)及び(B))の抗増殖活性に対するボリノスタット(vorinostat)の増強効果の評価。6時間でピークに達すると報告されたボリノスタット誘発NET発現に従って、6時間の曝露期間を本実験のために選択した。BE(2)C細胞を、[PEG-SN38-BG]又はSN-38とともにSN-38の25~100nMに相当する濃度で、ボリノスタット(1.25~5.0μM)有り/無しでインキュベートした。細胞増殖は生物発光によって測定した。治療後6日目のBE(2)C細胞生存データを、超加法性について、モデルz=z+A・x+B・y+C・[x・y]を適用し、交互作用項Cの有意性を決定することにより分析した。
図14】NETを発現する化学療法抵抗性のNB細胞であるBE(2)Cに対する[PEG-SN38-BG]プロドラッグの抗増殖効果。細胞増殖動態への影響を、BGによる官能基化を欠く遊離SN-38又は2成分[PEG-SN38]と比較して試験した(A)。細胞は、125nMのSN-38に対応する同等濃度の化合物に4時間曝露した。追加の実験(B)では、[PEG-SN38-BG]による治療に対する応答を、HDAC1特異的阻害剤であるエンチノスタット(entinostat)(0~5μM)有り/無しで調べた。プロドラッグの用量は0~100nM SN-38に相当する範囲内で変化し、曝露時間は6時間に固定された。細胞増殖は生物発光によって追跡した。応答は、処理後6日目の細胞生存%(平均±SD)として示される。実験データは、超加法性について、モデルz=z+A・x+B・y+C・[x・y]を適用し、交互作用項Cの有意性を決定することにより分析した。
図15】化学療法未経験のMYCN増幅NBの同所性異種移植モデルにおける[PEG-SN38-BG]の治療有効性。マウスに10個のルシフェラーゼ発現IMR-32細胞を接種した。SN-38の水溶性前駆体(イリノテカン)又は[PEG-SN38-BG]を10mg/kgのSN-38に相当する用量で、週2回で4週間にわたる治療を、接種の21日後に開始した。腫瘍関連シグナルは、定量的生物発光によって追跡した。(A)中のデータは平均±SDとして表される。各群の代表的な生物発光画像は(B)に含まれている。
図16】難治性の高リスクNBの同所性モデルにおける[PEG-SN38-BG]の治療有効性。無胸腺ヌード(nu/nu)マウスに、ルシフェラーゼを安定して発現するBE(2)C細胞(10個)を接種した。[PEG-SN38-BG]による治療は、10mg/kgのSN-38に相当する用量で、週2回で4週間の静脈内により実施した。比較のために、週2回投与されるイリノテカン(15mg/kg)と同等用量の2成分[PEG-SN38]を含めた。ブランクPEG又は生理食塩水(無治療)のいずれかを投与されたマウスの群を陰性対照として使用した(A)。「レスキュー」実験では、最初にイリノテカン(15mg/kg、2回/週)で治療された動物に、同じ処方を使用してプロドラッグを投与したが、その腫瘍は2週間で2.0cmに達していた(B)。腫瘍関連シグナルは、定量的生物発光によって追跡した。データは平均±SDとして表される。
図17】化学療法未経験のMYCN増幅NBの同所性異種移植モデルにおける[PEG-SN38-BG]の治療有効性。マウスに10個のルシフェラーゼ発現IMR-32細胞を接種した。SN-38の水溶性前駆体(イリノテカン)又は10mg/kgのSN-38に相当する用量の[PEG-SN38-BG]で、週2回4週間にわたる治療を、接種の21日後に開始した。腫瘍関連シグナルは、定量的生物発光によって追跡した。(A)中のデータは平均±SDとして表される。代表的な画像は(B)に含まれている。
図18】転移性の難治性NBのモデルにおける[PEG-SN38-BG]の治療有効性。マウスに、尾静脈を介して10個のルシフェラーゼ発現BE(2)C細胞を注射した。治療は、25日目にイリノテカン(15mg/kg)又は[PEG-SN38-BG]を、10mg/kgのSN-38に相当する用量(4週間、2回/週)で開始した。腫瘍関連シグナルは、定量的生物発光によって追跡した((A)、データは平均±SDとして表される)。代表的な画像は(B)に含まれている。
図19】PF68-SN38-BGプロドラッグ対2成分(非標的化)PF68-SN38、及び対照としての遊離SN-38の抗増殖効果。15分の曝露後に獲得MDR[BE(2)C]を示すNB細胞の応答は、増殖曲線(A)として及び処理後6日目の増殖阻害%(B)として、SN-38同等用量(0~25nM)の関数として示される。細胞増殖は生物発光によって追跡した。結果は平均±SDとして表される。
図20】化学療法抵抗性NB細胞であるBE(2)Cに対するPF68-SN38-BGの抗増殖作用のNET選択性。細胞増殖は、NET阻害有り/無しで、ニソキセチン(nisoxetin)(1μM)を使用して、BGによる官能基化を欠く2成分PF68-SN38と比較して調べた(A)。細胞を同等濃度の化合物に15分間曝露した。治療後6日目の実験データを、テューキー事後検定(Tukey post-hoc test)を用いる分散分析によって分析した。
図21】難治性NBモデルにおけるNET指向送達の治療有効性。マウスの副腎脂肪組織に10個のルシフェラーゼ発現BE(2)C細胞を接種した。治療は、イリノテカン(15mg/kg)又は10mg/kgのSN-38に相当する用量の2成分及び3成分構築物(4週間、2回/週、(A))のいずれかで開始した。あるいは、治療を開始する前に、腫瘍を2cmまで拡大させた(B)。疾患の進行は、定量的な生物発光によって追跡した。腫瘍増殖データは平均±SDとして表される。
図22】化学療法抵抗性のルシフェラーゼをトランスフェクトしたSKNBE(2)C細胞(10個)を、ヌードマウスの腎周囲脂肪組織に注射し、腫瘍の発生を追跡した。マウスを5つの群に分けた:無治療群、又はブランクPEG治療群、CPT-11治療群、PEG-[SN22]4治療群、又はPEG-[SN38]4治療群(1群あたり動物10匹)。腫瘍が約0.2cmに達したときに治療を開始した。腫瘍サイズは2つの対照群で2週間にわたって急速に増加し、増殖はCPT-11によってわずかに遅れただけであった。PEG-[SN22]4又はPEG-[SN38]4のいずれかによる治療は増殖を遅らせ、腫瘍を退縮させた。PEG-[SN22]4治療のみが完全な腫瘍消失を引き起こした。((A)=イメージング;(B)=定量化)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
第1の実施態様
上記のプロドラッグの第1の実施態様において、カンプトテシン類似体の少なくとも2つの分子は、生理学的条件下(例えば22℃、pH=7.2)で不安定なエステル結合を介して、ポロキサマーポリマーに共有結合している。
【0019】
カンプトテシン類似体は、当技術分野でトポイソメラーゼ阻害剤としてよく知られている。カンプトテシン自体は、(S)-4-エチル-4-ヒドロキシ-1H-ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]-キノリン-3,14-(4H,12H)-ジオンである。「カンプトテシン類似体」という用語には、カンプトテシンを含む。好ましいカンプトテシン類似体には、SN22(7-エチル-カンプトテシン)、SN38(7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシン)、又はこれらの組み合わせが含まれる。
【0020】
ポロキサマーは、ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖が隣接するポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中央の疎水性鎖で構成される非イオン性トリブロックコポリマーである。ポリオキシエチレン鎖の総数は2~130の範囲であり得る。オキシプロピレン単位の数は15~67の範囲であり得る。好ましくはポロキサマーの分子量は、糸球体濾過の閾値(30~50kDa)未満である。これらのポリマーは、ヒトで安全に使用されてきた歴史があり、医薬品グレードの材料(Kolliphor(登録商標)P)として入手可能である。多くのポロキサマーは、賦形剤としてFDAによって承認されており、現在種々の用途で臨床使用されている。これらのポロキサマーはすべて、本明細書に記載されている実施態様に適している。
【0021】
分子サイズや親水性/親油性バランスなどのポロキサマーの生物学的に関連する特性は、親水性(A)ブロックと疎水性(B)ブロックの長さ[A=ポリ(エチレンオキシド)(PEO)及びB=ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)]、及びこれらの分子比を調整することによって制御される。化学的に均質なポリ(エチレンオキシド)とは異なり、中間のPPOブロックの中間の長さと比較的高い親水性/親油性のバランス値を組み合わせたABAトリブロックポロキサマーは、細胞膜と安定して結合することができ、これは腫瘍の浸透と腫瘍内の存在を拡張する有効なメカニズムを提供する。ポロキサマーの例には、Kolliphor(登録商標)P188、P338、及びP407が含まれる。
【0022】
カンプトテシン類似体は、生理学的条件下(例えば22℃、pH=7.2)で不安定なエステル結合を介してポロキサマーポリマーに共有結合している。1つの実施態様において、エステル結合はオキシ酢酸エステル結合である。カンプトテシン類似体は、好ましくはカンプトテシンの20位に対応する位置のヒドロキシル基を介してポロキサマーポリマーに結合している。
【0023】
別の実施態様において、カンプトテシン類似体の2つの分子はポロキサマーポリマーに共有結合している。好適な実施態様において、高分子プロドラッグはPF108-(SN22)であり、これは以下の構造によって表される:
【化1】
【0024】
第2の実施態様
上記プロドラッグの第2の実施態様において、SN22類似体の少なくとも2つの分子は、生理学的条件下で不安定であるエステル結合を介してPEGポリマーに共有結合している。
【0025】
ポリエチレングリコール(PEG)ポリマーは当技術分野でよく知られている。PEGポリマーは線状であり、式H-(O-CH-CH-OHで表される。別の実施態様において、PEGポリマーはマルチアームポリマーである。マルチアームPEGポリマーは、中央のコア基から出ている3~10個のPEG鎖を有する。4つのPEG鎖が特に好ましい。好ましい中央のコア基には、ペンタエリスリトール基及びトリペンタエリスリトール基が含まれる。PEGポリマーの分子量は1,000~100,000ダルトンであり、2,000、5,000、10,000、25,000、35,000、50,000、75,000、及び85,000ダルトンを含むすべての値とそのサブ範囲が含まれる。
【0026】
別の実施態様において、SN22の2つの分子は線状PEGポリマーに共有結合している。別の実施態様において、SN22の4つの分子は、4つのPEG鎖を有するマルチアームPEGポリマーに共有結合している。別の実施態様において、4つより多い最大8つのSN22の分子は、マルチアームPEGポリマーに共有結合している。好ましくはSN22の分子は、これらの実施態様のPEG鎖のそれぞれに共有結合している。
【0027】
SN22部分は、生理学的条件下(22°C、pH=7.2など)で不安定なエステル結合を介してPEGポリマーに共有結合している。1つの実施態様において、エステル結合はオキシ酢酸エステル結合である。カンプトテシン類似体は、好ましくはカンプトテシンの20位に対応する位置のヒドロキシル基を介してPEGポリマーに結合している。
【0028】
好適な実施態様において、高分子プロドラッグは、以下の構造によって表されるPEG-[SN22]である:
【化2】
【0029】
別の実施態様において、患者は、経口化学療法薬であるテモゾロミド(Temozolomide、TMZ)で予備治療することができる。このような予備治療は相加効果を提供し得るが、プロドラッグの腫瘍浸透を高める可能性がある。テモゾロミドは、20~250mg/kg/日のPOの経口で数日間、たとえば5日間投与でき、その後、たとえば7日目から開始されるプロドラッグ治療を実施することができる。100mg/kg/日の経口投与が好ましい。
【0030】
第3の実施態様
上記のプロドラッグの第3の実施態様において、カンプトテシン類似体の少なくとも2つの分子は、生理学的条件下で不安定であるエステル結合を介してポリマーに共有結合しており、ここで、少なくとも1つのカンプトテシン類似体は、少なくとも1つのNEトランスポーター(NET)リガンドで官能基化される。
【0031】
カンプトテシン類似体は、SN22(7-エチル-カンプトテシン)、SN38(7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトテシン)、又はこれらの組み合わせでもよい。SN38が特に好ましい。
【0032】
別の実施態様において、カンプトテシン類似体の2~8分子はポリマーに共有結合している。この範囲には、カンプトテシン類似体の2、3、4、5、6、7分子など、すべての特定の値とその間のサブ範囲が含まれる。ポリマーに共有結合したカンプトテシン類似体の8分子が特に好ましい。
【0033】
ポリマーは、上記のようなポロキサマーポリマー又はPEGポリマーであり得る。マルチアームPEGポリマーが好ましい。この実施態様において、マルチアームPEGポリマーは、中央のコア基から出ている3~10個のPEG鎖を有する。4~8つのPEG鎖が特に好ましく、8つのPEG鎖が特に好ましい。好ましい中央のコア基は、ペンタエリスリトール基及びトリペンタエリスリトール基を含む。トリペンタエリスリトール基は、中央のコア基として特に好ましい。
【0034】
カンプトテシン類似体は、生理学的条件下(例えば22℃、pH=7.2)で不安定なエステル結合を介してポロキサマーポリマーに共有結合している。1つの実施態様において、エステル結合はオキシ酢酸エステル結合である。カンプトテシン類似体は、好ましくはカンプトテシンの20位に対応する位置のヒドロキシル基を介してポロキサマーポリマーに結合している。
【0035】
この実施態様において、少なくとも1つのカンプトテシン類似体は、ノルエピネフリン(NE)トランスポーターの少なくとも1つのリガンド、すなわちNEトランスポーター(NET)リガンドで官能基化されている。1つの実施態様において、NEトランスポーター(NET)リガンドは、フェネチルグアニジン、ベンジルグアニジン(BG)、又はチラミンである。ベンジルグアニジンが特に好ましい。
【0036】
別の実施態様において、NEトランスポーター(NET)リガンドは、生理学的条件下で不安定であるエステル結合を介してカンプトテシン類似体に共有結合している。好適な実施態様において、NEトランスポーター(NET)リガンドとカンプトテシン類似体とのエステル結合は、オキシヘキサノイルエステルである。別の実施態様において、NEトランスポーター(NET)リガンドとカンプトテシン類似体とのエステル結合は、オキシエトキシプロパノイル又はオキシエトキシエトキシプロパノイルエステルである。
【0037】
好適な実施態様において、高分子プロドラッグは[PEG-SN38-BG]であり、これは以下の構造によって表される:
【化3】
【0038】
治療法
上記のように、高分子プロドラッグは、有効量の高分子プロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することにより、神経芽細胞腫を治療する方法において使用することができる。
【0039】
上記の高分子プロドラッグは、有効量の高分子プロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することにより、固形腫瘍を有する被験体を治療する方法においても使用することができる。
【0040】
上記の高分子プロドラッグは、有効量の高分子プロドラッグを、それを必要とする被験体に投与することにより、脳腫瘍を有する被験体を治療する方法においても使用することができる。
【0041】
上記の高分子プロドラッグはまた、上記で定義された高分子プロドラッグの有効量を、それを必要とする被験体に投与することにより、癌を治療する方法においても使用することができる。
【0042】
これらの実施態様において、それを必要とする被験体は好ましくは哺乳動物であり、特に好ましくはヒトである。
【0043】
高分子プロドラッグは、当技術分野で一般的に使用される任意の方法によって投与することができる。投与方法には、非経口(静脈内、筋肉内、及び皮下)、経口、鼻内、眼内、経粘膜(頬、膣、及び直腸)、及び経皮投与経路が含まれる。
【0044】
高分子プロドラッグは、本明細書に記載されている状態を治療するのに有効な任意の用量で投与することができる。高分子プロドラッグの投与量は、1回の用量あたり0.5~200mg/kgであり得る。
【実施例
【0045】
実施例1
PF108-(SN22)
1. 2工程のプロドラッグ合成
22~25°CのTHF中のジョーンズ試薬(CrO/HSO)によるポロキサマーの酸化は、ポリマーの末端CHOHを末端アルコキシアセテートカルボン酸基に変換し、これは次に、加水分解性エステル結合を介して種々のヒドロキシル含有薬物の可逆的共有結合に使用することができる。上記の条件下のプルロニックF-108(Kolliphor P338)の酸化は、OCHCOプロトンのシグナルによりH NMRを使用して測定すると、0.18mmol/gのカルボキシル基を含むポリマーの結果を得た。同様に、プルロニックF-68の酸化は、0.23mmol/gの末端カルボン酸基を含むポリマーを与えた。カルボキシル基の活性化剤として1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、触媒として4-ジメチルアミノピリジントシレート(DPTS)、そして溶媒としてCHClを使用して、カルボキシル化プルロニックF-108をSN22とさらに結合させると、0.13mmol/g又は4.8重量%の薬物を含むポリマー結合体が形成された。H NMRは、SN-22が、カルボキシル化プルロニックのカルボキシル基とSN22分子の20-OHとのエステル結合を介して、ポリマーに共有結合していることを示した。Kolliphorグレードのプルロニック(表1)及びSN22(純度:≧97%、HPLC)を、それぞれSigma-Aldrich (St. Louis, MO) 及び AK Scientific (Union City, CA)から購入した。
【0046】
カルボキシル化プルロニックを用いてSN38のプロドラッグを調製するために、まずSN38(純度:≧97%、AstaTech , Bristol, PA)のフェノール性10-OHが、N-メチルピロリドン中のイミダゾールの存在下でtert-ブチル(クロロ)ジフェニルシラン(TBDPS-Cl)の作用により、10-tert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)基を用いて保護される。実行可能性実験では、得られた10-TBDPS保護SN38(収率97%で得られた)を上記のようにカルボキシル化プルロニックF-68と反応させて、次の脱保護(CHCl中のフッ化ピリジニウムを用いる)後に目的の結合体が得られ、これは、H NMRによると、エステル結合を介して20-OHにより共有結合された0.17mmol/g又は6.6重量%のSN38を含有した。
【表1】
【0047】
2. ポロキサマー-SN22プロドラッグは化学療法抵抗性NB細胞の増殖を阻害する
難治性NBは、NB細胞の増殖を阻害するために必要な薬物閾値レベルのシフトを特徴としている。導入治療中と治療前の診断時の進行性疾患の同じ患者に由来する、試験されたすべての細胞株の対で示されるこのシフトは、異なる化学的及び薬理学的ファミリーからの化学療法剤への応答に、同時に影響を与える。医薬品グレードのプルロニックF-108(kolliphor P338)とSN22から構築されたプロドラッグであるPF108-(SN22)を、コドン135上のTP53変異の獲得とp53機能の喪失に関連する薬剤耐性表現型を示すBE(2)C細胞株に対して試験した。
【0048】
24時間の曝露後、PF108-(SN22)は7日間にわたってBE(2)C細胞の増殖を効果的に阻害し、SN22単独と又は化学修飾されていないプルロニックF-108との組み合わせ(PF108+SN22)と同様の効力を示し、一方、薬剤なしで適用されたプルロニックF-108では細胞増殖の阻害は観察されなかった(図1A)。曝露が30分に制限された場合(図1B)、PF108-(SN22)の効果は顕著に低下し、プロドラッグがこの時間スケールでほとんど無傷のままであることを示唆している。
【0049】
比較すると、化学療法未経験のNB細胞(IMR-32)に対して試験した場合、プロドラッグは、SN22の20~80nMに対応する用量範囲と30分~24時間の曝露時間内で均一に有効であり、顕著なIMR-32細胞増殖の阻害を引き起こした(図4Aを参照)。これは、以前に治療を受けていない患者に由来するこの細胞株における固有の耐性の欠如と一致しており、実質的に低いレベルで存在する活性SN22の抗増殖効果に対して応答するようにしている。重要なことに、遊離SN22は細胞培養実験の陽性対照として含まれていたが、これは医薬的に許容し得るビヒクルとは適合しない。
【0050】
3. ポロキサマープロドラッグとしてのSN22送達は、同所性BE(2)C腫瘍中の長期曝露を達成する
化学放射線療法後の再発時に由来するBE(2)C細胞と、診断時の同じ患者に由来するBE(1)細胞との比較により、細胞増殖阻害を達成するために必要なカンプトテシン類似体SN38の濃度が、桁違いに90%(それぞれ25対2ng/ml)上昇することが証明された。重要なことに、SN38の対応する腫瘍内レベルは、その前駆体であるイリノテカン(CPT-11)による従来の治療を使用しては維持できないことが示された。最大許容量を超えずに有効な局所薬物レベルを維持できないことが、再発性及び難治性の高リスクNBの状況で、臨床的に使用されるカンプトテシン及び他の化学療法剤の効かない主な原因である。これらの報告と一致して、これらの結果は、イリノテカン(10mg/kg)の投与後それぞれ24時間及び72時間に、大きな(≧1cm)BE(2)C同所性異種移植片で25ng/g及び2ng/g未満のSN38を示している。比較すると、PF108-(SN22)と同等の用量で送達されたSN22は、腫瘍内に数倍高いレベルで安定して存在し、4、24、72時間目にそれぞれ2180±850ng/g、2140±520ng/g、及び1570±580ng/g(図2)であり、ポロキサマープロドラッグベースの送達が、SN22の安定した治療上有効なレベルを維持できることを示唆し、従って持続的なNB腫瘍増殖抑制の必要性に対処している。
【0051】
4. ポロキサマー-SN22プロドラッグは腫瘍増殖を強力に抑制し、薬剤耐性NB中の生存期間を延長する
1.5μg/gを超える腫瘍内レベルでの持続的な存在に一致して、ポロキサマーベースのプロドラッグとして週に1回処方及び投与されたSN22は、腫瘍の退縮を引き起こし、同所性BE(2)C異種移植片の再増殖を強力に抑制した(図3A及びB)。これは、著しく延長された動物の生存期間を意味し(図3C)、この試験で2倍頻繁に投与されたイリノテカンではわずかな抗腫瘍効果しかなかったこととは対照的である。このNBモデルにおけるイリノテカンのわずかな効果(図3)は、攻撃的で難治性のヒトNBの状況で持続的な治療応答を達成する上で重要な課題を再現する前臨床評価アプローチの妥当性を示している。特に、イリノテカンとは異なり、PF108-(SN22)は腫瘍の縮小と疾患の安定化の両方を引き起こすことができ、週1回の投与を4週間(PF108-(SN22)の最終投与は21日目;図3Bに示される)のみからなる治療期間中及びそれ以降の進行は観察されなかった。ポロキサマー-SN22プロドラッグの顕著な抗癌作用は、下痢、皮膚テンティング(脱水症による)、皮膚潰瘍、食欲不振、悪液質、又は体重増加遅延などの全身毒性の兆候を伴っていなかった。
【0052】
5. ポロキサマー-SN22プロドラッグ:MYCN増幅NB細胞に対する抗増殖効果の定量的試験
独特の(化学療法未経験対化学療法抵抗性)表現型を有するNB細胞に対する高分子プロドラッグの抗増殖効果を比較研究する実行性を証明するために、治療開始前と集中的な化学放射線療法後の再発時の、攻撃的なMYCN増幅疾患を表す2つの細胞株(それぞれIMR-32及びBE(2)C)に対するPF108-(SN22)の効果を比較した。
【0053】
化学療法未経験細胞と化学療法抵抗性細胞との間で応答パターンに大きな違いが観察された:IMR-32の増殖は、試験した全用量及び曝露の持続範囲内で高い効力で均一に阻害されたが(図4A)、BE(2)C細胞は、ウェルあたり40ng以下の用量で又は4時間以下の曝露時間で、PF108-(SN22)による限られた増殖阻害のみを示した。特に、化学修飾されていないプルロニックF-108の有無にかかわらず、遊離SN22に対するこれらの細胞の応答も、IMR-32と比較して、より高用量でより長い曝露時間に強くシフトし、以前の試験で示されているように、p53機能の喪失と異なるファミリーの化学療法剤に対する感受性の低下を示すBE(2)Cの化学療法抵抗性表現型と一致していた。
【0054】
6. ポロキサマープロドラッグとして処方されたSN22の腫瘍取り込みと保持の比較
ポロキサマーベースのプロドラッグを使用する送達アプローチの有効性は、PF108-(SN22)結合体として投与されたSN22の急速な腫瘍取り込みと持続的な腫瘍内保持を示すデータによって証明される(図2及び5)。PF108-(SN22)は、化学療法抵抗性NB細胞の増殖を抑制するのに必要な報告された有効局所濃度よりも約2桁高いレベルで、同所性NB腫瘍における薬物存在時間の延長を達成する。
【0055】
臓器分布の分析により、プロドラッグとして送達されたSN22の急速な蓄積と延長された保持が確認され、細網内皮系の臓器である肝臓や脾臓によって取り込まれる薬物量は比較的少なかった。PF108-(SN22)として投与されたSN22のかなりの量が、投与後4時間及び24時間目の血中で測定され、この時間内の腫瘍における薬物蓄積の進行と一致した(図5)。これは、末梢器官、脾臓、肺、及び腎臓で観察された急速な薬物排出とは対照的である。重要なことに、トポイソメラーゼI阻害剤は、サイクリング細胞に非常に特異的(S期依存性)であり、活発な複製がなくても細胞毒性が高い他の化学療法剤とは異なっている。
【0056】
ポロキサマープロドラッグベースの送達で観察される限定された分布及び末梢器官からの迅速な薬物クリアランスとともに、薬理学的に選択的な作用様式は、急性の全身毒性症状(下痢、潰瘍形成、食欲不振、悪液質、又は体重減少)の欠如に一致して、顕著な全身毒性のリスクをさらに低下させる可能性がある。
【0057】
7. ポロキサマー-SN22プロドラッグは、イリノテカンに対する一過性の応答を示す大小のNB腫瘍の収縮を引き起こし、再増殖を抑制する
大小のNB腫瘍に対して持続的な抗癌効果を提供するポロキサマーベースのプロドラッグ戦略の有効性は、PF108-(SN22)の週1回の投与処方で実験的に証明された(同所性IMR-32異種移植モデル、図6)。特に、化学療法を受けていない表現型にもかかわらず、MYCN増幅IMR-32細胞で確立された同所性NB腫瘍は、イリノテカンに対して一過性の応答しか示さなかった(週に2回投与)。難治性疾患のBE(2)C異種移植モデルにおけるプロドラッグアプローチの有効性を示す結果(図3)とともに、これは、従来の化学療法に対して限定的な応答を示すか又は応答しない高リスクNBの状況におけるポロキサマープロドラッグベースの送達を支持する強力な証拠を提供する。
【0058】
実施例2
PEG-[SN22]
1. PEGの合成-[SN22]
カルボキシル基の活性化剤として1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、触媒として4-ジメチルアミノピリジントシレート(DPTS)、そして溶媒としてCHClを使用して、カルボキシル化4-アーム-PEG(JenKem Technology、Mn=20,553Da)をSN22と結合させると、0.17mmol/g又は6.4重量%の薬物を含むポリマー結合体が形成された。H NMRは、SN-22がカルボキシル化ポリマーのカルボキシル基とSN22の20-OHとのエステル結合によってポリマーに共有結合していることを示した。
【0059】
2. 実験結果
ABCG2流出に対するSN38及びSN22の感受性を評価するために、ABCG2ヌルNB細胞株であるNLFが同定された。NLFにABCG2発現ベクターをトランスフェクトした後、痕跡レベル、低レベル、及び中レベルのABCG2発現を有する単一細胞クローンを選択した(図7A)。次に、異なる濃度のSN38又はSN22に対するNLF及びABCG2発現クローンの感受性と、IncuCyte(登録商標)S3生細胞分析システムを使用して継続的に追跡した増殖を評価した。高レベルのABCG2を有するクローンは、SN38に対する耐性が上昇したが、SN22に対しては完全に感受性のままであった(図7B)。これは、攻撃的なNB及びNB幹細胞を特徴付ける内因性ABCG2発現が、イリノテカン/SN38、及びおそらくABCG2流出に感受性の他の化学療法剤に対する薬剤耐性に寄与することを示唆している。
【0060】
インビボでのNBにおけるSN22の異なるスケジュールを調べるために、免疫不全nu/nuマウスにおける化学療法未経験のSH-SY5YNB株のサブクローンであるNB脇腹異種移植マウスモデルを使用して試験した。予備実験において、週2回で4週間IV投与したCPT-11(25mg/kg/用量)と比較したPEG-[SN22]4(10mg/kg/用量)の2つの異なる治療スケジュールを評価した。PEG-[SN22]4は、週2回で2週間、又は週1回で4週間投与された(各4回投与)。2.5倍高い用量のCPT-11が、2倍の回数投与されたが、寛解を誘導し生存期間を延長するのにPEG-[SN22]4は、はるかに効果的であった。
【0061】
次に、化学療法抵抗性のNB株SKNBE(2)Cを有するNB同所性異種移植マウスモデルにおけるPEG-[SN22]4、PEG-[SN38]4、及びCPT-11。BE(2)C細胞にルシフェラーゼ発現ベクターをトランスフェクトして、生物発光イメージングを可能にした。マウスを、週1回で4週間にわたって、PEG-[SN22]4(10mg/kg/用量)、PEG-[SN38]4(10mg/kg/用量)、又はCPT-11(15mg/kg/用量)のいずれかで治療した。この化学療法抵抗性モデルでは、CPT-11は効果がなかったが、PEG-[SN22]4とPEG-[SN38]4の両方は腫瘍を縮小するのに極めて効果的であった(図8)。PEG-[SN38]4で治療したマウスでは、治療を中止すると腫瘍が急速に再増殖したが、PEG-[SN22]4の治療では、腫瘍が完全に消失し、治療期間を超えて腫瘍の増殖が持続的に阻害され、[SN22]4が難治性疾患に対して優れた有効性を有することが示唆され、これは、おそらく後天的な薬剤耐性を克服する能力のためと考えられる。
【0062】
PEG-[SN22]4はまた、TH-MYCNトランスジェニックマウスモデルにおける新規(de novo)NBを治療するのに使用された。4~5週までに導入遺伝子の2つのコピーを有するほとんどすべてのマウスで、自然発生腫瘍が傍脊柱神経節又は副腎に発生する。腫瘍が触知可能になったとき(4~5週間)マウスを4つの群に分けた:対照の未治療群、CPT-11治療群(15mg/kg/用量)、PEG-[SN38]4群(10mg/kg/用量)、又はPEG-[SN22]4群(10mg/kg/用量)。マウスは週1回で4週間治療された。未治療マウスで腫瘍が急速に進行し、CPT-11治療では腫瘍の増殖はわずかに遅れた。腫瘍の負担により症状が現れたときにマウスを殺処分した。しかし、PEG-[SN22]4治療ではすべての腫瘍が退縮し、治療の1~2週間以内に触知できなくなった(図9)。これらは、SN22治療の開始後180日以上にわたって、すべてのマウスで触知できないままであった。これらのマウスのうち数匹を殺処分し、腫瘍の部位を肉眼と顕微鏡で調べたが、どのマウスにも腫瘍の証拠は見られなかった。これらのデータは、PEG-[SN22]4が、免疫無防備状態マウスで発生する自然発生腫瘍に対して極めて効果的であり、週1回で4週間の投与でさえ、すべてのマウスで長期寛解と治癒をもたらすのに十分であることを示唆している。
【0063】
同様の方法で、異種移植片として増殖している2つの代表的な肉腫を治療するのに、PEG-[SN22]4を使用した。化学療法抵抗性のユーイング肉腫(EWS)株TC-71及び肺胞(融合陽性)横紋筋肉腫(RMS)株Rh30を治療した。180日後、すべてのEWSマウスには触知可能な腫瘍がなかったが、RMS異種移植片を有する2匹のマウスは約150日後に腫瘍が再増殖し、殺処分しなければならなかった(図10)。これらのマウスは単剤の週1回で4週間の投与のみで治療されたため、より長い治療期間又は別の薬剤との併用により、これらの再発を回避できた可能性がある。それにもかかわらず、EWS及びRMSによるこれらの結果は、PEG-[SN22]4の有効性がNBに限定されないか又はNBに固有ではなく、他の固形腫瘍に適用されることを証明している。
【0064】
上に示した結果は、NB異種移植片から及び免疫無防備状態トランスジェニック動物で生じる自発的NBからの腫瘍の根絶における、PEG-[SN22]4のかなりの有効性を示している。ほとんどの動物は、治療開始から180~200日間の無再発生存期間(EFS)で規定されているように「治癒」された。単一の化学療法抵抗性EWS株と単一の融合陽性RMS株を脇腹異種移植片として治療する場合にも、同様の結果が得られた。従ってPEG-[SN22]4は、攻撃的な小児固形腫瘍の及び本明細書に記載されている他の状態のこれらの動物モデルで、長期EFSを得る際の単一の薬剤として有効である。
【0065】
細胞株。高リスクNBの主要な遺伝子型(MYCN増幅、1p36欠失、ALK変異)、及び化学療法未治療腫瘍と化学療法抵抗性腫瘍(SY5Y、IMR5、NLF、SKNBE2C)の両方を表す4つのNB細胞株のパネルを、すべてのインビトロ及びインビボ試験に使用することができる。細胞を10%ウシ胎児血清(Cellgro)を含むRPMI-1640(Gibco)で増殖させ、95%空気と5%COの加湿雰囲気で維持する。リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の0.02%NaEDTAを用いて細胞を採取する。使用するRMS株はRH18とRH30(胚、肺胞)であり、EWS株はTC32及びTC71(診断、再発)であり、OS株はU2OSとSAOS2である。
【0066】
マウス。Jackson Laboratoriesの6週齢のFoxn1nu/Foxn1nu(JAXストック#007850)マウスを使用する。マウスは、湿度と温度が制御された条件下で、12時間間隔で設定された明暗サイクルで維持される。これらのマウスは129-SvJバックグラウンドにある。トランス遺伝子についてホモ接合性のマウスは、一般に4~5週間以内に腫瘍を発症する。
【0067】
脇腹異種移植片。マウスの右脇腹に、0.1mlのマトリゲル(Corning, Tewksbury, MA)に懸濁した1×10個のNB細胞を皮下注射する。腫瘍は、キャリパーを使用して2次元(mm)で用手法で週2回測定する。体積(cm)は次のように計算される:[(0.523×L×W)/1000)]、ここで、L>W。体重は週2回取得され、体重の変化が10%を超える場合は治療用量が調整される。マウス(1群あたりn=10)は、腫瘍体積が0.2cmに達したら、PEG-[SN22]4を週1回で4週間尾静脈注射して治療される(2)。PEG-[SN22]4は10mg/kg/用量で投与される。CPT-11(CPT-11;15mg/kg)又はビヒクルのみは、陽性対照及び陰性対照として使用される。
【0068】
同所性異種移植片。ルシフェラーゼを安定して発現するNB細胞を、1匹あたり10個の細胞で、無胸腺ヌード(nu/nu)マウスの副腎脂肪組織に移植する。腫瘍を確認し、その後、Xenogen IVIS イメージングシステム(Perkin Elmer, Santa Clara, CA)にLiving Image ソフトウェア(Caliper Life Sciences, Hopkinton, MA, USA)を組み合わせた生物発光イメージングにより、腫瘍量を週2回追跡する。腫瘍サイズが1cmに達した後(接種後約28日目)、担癌マウスをランダムに10匹ずつの動物の群に分け、上記のように120μl用量のPEG-(SN22)4、CPT-11、又はビヒクルを単回IV投与する。
【0069】
PEG-[SN22]4及びCPT-11の薬物動態分析。脇腹異種移植片を有するマウス(1群あたり、1時点あたりn=3)に、10mg/kgのPEG-[SN22]4又は15mg/kgのCPT-11を尾静脈から単回IV投与する。CPT-11は肝臓による活性SN38への変換を必要とするプロドラッグであるため、用量はより少ない。眼窩後部及び末端出血によって血液を得て、ヘパリンナトリウム(BD)を含む2mlの採血管に採取する。冷食塩水で心臓を灌流してから4.12、24、48、及び72時間後に、殺処分後、組織(腫瘍、肺、肝臓、脾臓、腎臓)を採取し、CHOP Pharmacology Coreによって分析される。マウス血液(水で1:1に希釈)中及び組織ホモジネート中のSN38、SN22、及びCPT-11の合計レベルは、UPLC-MS/MSによって分析される。
【0070】
実施例3
[PEG-SN38-BG]
1. 3成分ポリマーベースのプロドラッグ合成
本明細書に記載のプロドラッグは、インサイチュで切断可能なエステル結合を介して、それぞれマルチアーム又は線形PEG担体に結合した8つ又は2つの薬物-リガンドハイブリッド分子を有する。これらの加水分解不安定性及び活性化率は、アルコキシアセチル基の強い電子置換効果のために、通常の(アシル)エステルのものと比較して上昇している。
【0071】
まず、N-Boc保護されたアミノメチルフェノキシヘキサン酸を、触媒として4-N,N-ジメチルアミノピリジントシレート(DPTS)を、カルボキシル基の活性化剤として1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を、及び溶媒としてジクロロメタン使用して、SN-38(AstaTech , Bristol, PA)に収率85%で結合させた。保護基を、トリフルオロ酢酸を用いて除去し、結合体をテトラヒドロフランとジクロロメタンの1:1混合物中で、グアニジニル化剤として1,3-ジ-Boc-2-(トリフルオロメチルスルホニル)グアニジンと反応させた(収率:75%)。次に、加水分解により切断可能な6-ヘキサノイルスペーサーを介して結合されたBoc保護BGとSN-38の小分子結合体を、同じくDPTS、DCC、及びジクロロメタンをそれぞれ触媒、活性剤、及び溶媒として使用して、カルボキシル化8アームPEG(JenKem Technology、M=37390Da、PDI=1.06)に結合させた。
【0072】
精製のために、ポリマーをベンゼン中の溶液からジエチルエーテルで沈殿させ、残留DPTSを硫酸ナトリウム水溶液(21%w/w)で洗浄することにより除去した。移動性化合物が存在しないことを、この工程でTLC分析(シリカゲル、クロロホルム-アセトニトリル、7:3)により確認した。最後に、グアニジン成分から、トリフルオロ酢酸で処理することにより保護基を除去した。得られた[PEG-SN38-BG]ポリマーをジエチルエーテルで洗浄し、真空乾燥した。生成物の構造及び官能基化効率をH NMRによって分析したところ、0.18mmol/g(7.1重量%)のSN-38及びポリマーに結合した等量のBGが示された。純度は、TLC及びH NMR分析の両方によって確認された。
【0073】
2. 標的化腫瘍治療への取り込み
1kgあたり10mgのSN-38に相当する同等用量で、8アームのPEGベースの及びBG官能基化プロドラッグ[PEG-SN38-BG]として送達されたSN-38は、腫瘍内に何倍も高濃度(1時間、4時間、24時間目にそれぞれ2.82±0.53μg/g、4.46±1.59μg/g、2.63±0.85μg/g(図11))で安定して存在しており、標準的な治療に応答しない難治性腫瘍の増殖を抑制するために必要な安定な治療上有効な薬物レベルを提供できることを示唆した。
【0074】
薬剤耐性NB細胞株BE(2)Cについて報告されている治療閾値25ng/mlよりも2桁大きいレベルでのSN-38の持続的な腫瘍内存在に一致して、[PEG-SN38-BG]として配合され投与された薬物は、急速な腫瘍退縮を引き起こし、大小の同所性BE(2)C異種移植片の再増殖を強力に抑制した(図12A)。プロドラッグの持続的な抗癌効果は、動物の無再発生存期間を著しく延長(t50%生存率は、未処理の動物の12日に対して、それぞれ130日と88日(図12B))し、これは、この試験で同等の用量で投与されたイリノテカンによるわずかな治療効果と生存期間の延長(t50%生存率は20日)とは対照的であった。
【0075】
重要なことに、このモデルにおけるイリノテカンのわずかな効果は、攻撃的で難治性のヒトNBの設定において、持続的で臨床的に意味のある応答を達成する上で治療上の課題を再現している前臨床評価アプローチの妥当性を示している。同時に[PEG-SN38-BG]は、急速な腫瘍縮小を引き起こし、疾患を安定させることができ、8回の投与(最後の投与は24日目に投与された)からなる治療期間中及びそれ以降に進行は観察されなかった。注目すべきことに[PEG-SN38-BG]プロドラッグによる治療中に、下痢、皮膚テンティング(脱水症による)、皮膚潰瘍、食欲不振、悪液質、又は体重増加遅延などの全身毒性の兆候は観察されなかった。
【0076】
3. NET発現増強剤は、取り込み-1標的化プロドラッグの性能をさらに改善することができる
トポイソメラーゼI阻害剤とほとんど重複しない毒性プロフィールを有する強力な汎HDAC阻害剤であるボリノスタットは、DNA切断修復酵素の発現を阻害し、DNA損傷により誘発されるアポトーシスを促進することにより、NB腫瘍におけるNET発現を実質的に増加させ、腫瘍細胞をカンプトテシン薬に感作させることが示され[44]、どちらの効果も、SN-38のBG官能基化プロドラッグによる神経内分泌腫瘍の標的化療法の強化に関連している。[PEG-SN38-BG]対SN-38によるBE(2)C細胞増殖阻害に対するボリノスタットの増強効果を調べた。
【0077】
ボリノスタットは、[PEG-SN38-BG]の抗増殖効果を著しく増強した(z=z+A・x+B・y+C・[x・y]の交互作用項Cについてp<0.0001、図13A)が、化学修飾されていないSN-38とも適度に相乗作用を示した(CについてP=0.087、図13B)。これは、ボリノスタットによって示される、NET発現関連及び非関連の薬物増強のメカニズムの組合せと一致しており、BG官能基化プロドラッグによるNB細胞増殖阻害のより大きな増強を追加している。特に、ボリノスタットがプロドラッグの作用を強力に増強した低マイクロモル濃度範囲(1~5μM)では、それ自体のBE(2)C細胞増殖の阻害効果は中程度であり(図13A)、NBの前臨床モデルにおけるボリノスタットの適度な単一薬剤活性と一致していた。
【0078】
4. 化学療法抵抗性NB細胞のプロドラッグを介する増殖阻害とその薬理学的増強
プロドラッグ構造に組み込まれた標的リガンドの特異的寄与を評価するために、NETを発現する化学療法抵抗性NB細胞に対する[PEG-SN38-BG]の細胞増殖阻害活性を、同様に構築されたがBG部分を含まない対照分子[PEG-SN38]と比較した。さらにNB細胞及び腫瘍異種移植片において、NET発現をアップレギュレートし取り込み-1を増強することが示された汎HDAC阻害剤が、NET発現NB細胞に対する[PEG-SN38-BG]の抗増殖効果を強力に増強する(図13)ことが確立されたため、HDタイプ1サブファミリーに特異的な選択的HDAC阻害剤(エンチノスタット)も[PEG-SN38-BG]と相乗作用するという仮説が取り上げられた。
【0079】
化学療法抵抗性NB細胞の増殖を抑制する能力の大きな違いが、3成分プロドラッグとBGリガンドなしで組み立てられた2成分対照構築物との間で観察された。NETを発現するBE(2)C細胞の増殖は、薬物-細胞の直接接触のインビトロ条件下で、遊離SN-38に匹敵する高い効力で[PEG-SN38-BG]により阻害されたが、2成分構築物[PEG-SN38]は著しく効果が低く(図14A)、抗増殖応答の増強における3成分設計の重要性とBGの役割を示している。別の試験では、プロドラッグを介するNB細胞増殖抑制に対する強力な増強効果が、HDAC1特異的遮断薬であるエンチノスタットで証明された(図14B、交互作用項Cについてp<0.001)。興味深いことに、この知見は、エピジェネティックな作用機序を有する高度に選択的な非化学療法剤であるエンチノスタットが、化学的に異なる汎HDAC阻害剤であるボリノスタットと同様に、おそらくはこれらの取り込みを増強することにより、BG官能基化治療薬と相乗作用できることを示唆している。
【0080】
5. NET標的化プロドラッグとして配合されたSN-38の腫瘍取り込みと保持の比較
プロドラッグベースの治療戦略の有効性は、[PEG-SN38-BG]3成分プロドラッグとして送達されたSN-38の急速な腫瘍取り込みと持続的な腫瘍内保持を示す試験で証明された(図11及び表2)。その臨床的に使用される薬理学的に不活性な前駆体(イリノテカン)の形で投与されたSN-38とは対照的に、プロドラッグベースの送達は、化学療法抵抗性NB細胞であるBE(2)Cの増殖を抑制するために必要な報告されたSN-38の濃度よりも約2桁高いレベルで、SN-38の局在化と持続的な腫瘍内存在を達成する。この分析は、HPLCアッセイを使用して、大きな同所性BE(2)C異種移植片(1.0±0.4cm、n=5)で行われた。
【表2】
【0081】
6. [PEG-SN38-BG]プロドラッグは腫瘍の退縮を引き起こし、従来の治療に対して一過性の応答のみを示す攻撃的なNBモデルにおいて「治癒」を達成する
攻撃的なNB腫瘍に対して持続的な抗癌効果を提供することにおける3成分プロドラッグ戦略の有効性は、同所性IMR-32異種移植モデルで実験的に証明された(図15)。週2回で4週間にわたって投与された[PEG-SN38-BG]は、化学療法を受けていないMYCN増幅疾患のモデルでは、その後の再増殖を伴わずに急速な腫瘍縮小を引き起した。これは、SN-38前駆体であるイリノテカンで治療された動物群で治療中止直後に腫瘍が再増殖し始めるのとは対照的である(図15A、B)。難治性疾患のBE(2)C異種移植モデルにおけるプロドラッグアプローチの有効性を示す結果(図12)とともに、これは、従来の化学療法に対して限定された応答を示すか又は応答を示さない高リスクNBの状況で、3成分プロドラッグベースの送達を支持する強力な証拠を提供する。
【0082】
7. 3成分構築物は、多剤耐性で高リスクの神経芽細胞腫の治療法としての可能性を示す
ノルエピネフリントランスポーター(NET)を標的としたポリマー結合プロドラッグとして配合され4週間(週2回)にわたって投与されたSN-38は、急速な腫瘍退縮を引き起こし、化学療法抵抗性の同所性BE(2)C異種移植片の再増殖を完全に抑制し、無再発生存期間を著しく延長した(>14週間、図16A)。これは、このモデルにおいて抗腫瘍効果を持たないイリノテカンとは対照的であり、治療期間中のみ腫瘍増殖のみを阻害した2成分対照[PEG-SN38]に対して劇的な改善でもある(図16A)。さらに、イリノテカンで治療中に急速に大きな腫瘍(2cm)を発症した動物を[PEG-SN38-BG]に切り替えると、腫瘍が縮小し、12週間以上検出されないままであった(「レスキュー試験」、図16B)。
【0083】
重要なことに、超高リスクNB患者に見られる応答の欠如と同様に、イリノテカンによって示される抗腫瘍効果の欠如は、前臨床モデルが難治性NBの臨床挙動を忠実に再現していることを示している。注目すべきことに、[PEG-SN38-BG]で見られた持続的で大きな治療効果は、全身毒性の兆候(下痢、皮膚のテンティング又は潰瘍、食欲不振、悪液質、又は体重増加の遅延)を伴わなかった。
【0084】
それほど治療が困難ではない化学療法未経験の疾患をモデル化した実験環境で試験した場合、イリノテカンは治療期間中(4週間)腫瘍の増殖を阻害できたが、同じ期間に投与された[PEG-SN38-BG]は、NB腫瘍を完全に排除した(30週間後に再増殖は検出されなかった、図17)。これらの結果は、高分子担体結合プロドラッグによるNET標的化送達を最適化して、攻撃的なMYCN増幅NBの様々な段階(新たに診断又は再発)をうまく治療できるという証拠を提供する。
【0085】
8. [PEG-SN38-BG]プロドラッグは、転移性の薬剤耐性NBモデルにおいて、播種性腫瘍沈着物の退縮を引き起こし、再増殖を抑制する
播種性化学療法抵抗性NBに対する持続的な治療効果を達成することにおける3成分プロドラッグベースのNET標的化薬剤送達の有効性を、転移性で難治性疾患のマウスモデルで評価した(図18)。4週間にわたって投与された[PEG-SN38-BG]は、確立された多発性腫瘍沈着物を急速に排除し、15週間を超えて検出可能な再増殖は見られなかった。対照的に、15mg/kgの用量で週2回投与されたイリノテカンは、疾患の進行に有意な影響を及ぼさなかった(図18A、B)。同所性の難治性腫瘍に対するNET標的化3成分プロドラッグの実験的に証明された有効性(図16)と合わせると、これらの結果は、プロドラッグ設計戦略の理論的根拠と、従来の治療法に応答しない局所的及び播種性の両方の高リスク疾患に対するその治療可能性を強く支持する。
【0086】
9. MYCNで増幅された多剤耐性NB細胞のプロドラッグを介する増殖阻害
化学療法抵抗性のNB細胞[BE(2)C]を、NET標的化3成分プロドラッグ(PF68-SN38-BG)で治療したときと、非標的化2成分対照(PF68-SN38)及び遊離SN-38で治療したときに、応答パターンに大きな違いが観察された。p53機能の喪失を示すBE(2)Cの化学療法抵抗性の表現型に一致して、BE(2)C細胞の増殖は遊離SN-38によってわずかに阻害された。これはまた、PF68-SN38に対しては限定的かつ一時的な応答を示した。ブランクのプルロニックF-68は細胞増殖に影響を与えなかった。しかし、5nM以上の用量のSN-38でPF68-SN38-BGに15分間曝露すると、強力で持続的な抗増殖効果が得られた(図19)。
【0087】
プロドラッグ設計に組み込まれたNET親和性の特異的寄与を評価するために、PF68-SN38-BGのBE(2)C増殖阻害活性を、特異的NETブロッカー(ニソキセチン、1μM)有り/無しで試験した。対照として含まれた2成分PF68-SN38は、20nM以下の用量のSN-38で最も低い増殖阻害活性を示した。3成分PF68-SN38-BGの効果は著しく強かった(P=0.020)が、NET遮断によって部分的に可逆的であり(図20)、NET標的化の役割が確認された。
【0088】
これらの結果と一致して、プルロニックF-108を使用して同様に合成され、4週間(週2回)にわたって投与された3成分NET標的化プロドラッグは、同所性BE(2)C異種移植腫瘍の急速な退縮を引き起こし、これは、難治性NBのこのモデルにおけるイリノテカンのわずかな効果とは対照的であった(図21A、20A)。また、2成分PF108-SN38とは異なり、3成分プロドラッグは疾患を安定させ、治療期間全体にわたって進行することはなかった。さらに、エンドポイントに急速に近づいている動物は、プロドラッグで治療されたときに顕著な腫瘍縮小を示した(「レスキュー」試験、図21B)。
【0089】
10. 同所性NB異種移植片におけるPEG-[SN22]4とPEG-[SN38]4の比較
同所性NB異種移植片において、化学療法抵抗性NB株SKNBE(2)Cを用いて、PEG-[SN22]4をPEG-[SN38]4と比較した。BE(2)C細胞にルシフェラーゼ発現ベクターをトランスフェクトして、生物発光イメージングを可能にした。マウスを週1回で4週間、PEG-[SN22]4(10mg/kg/用量)、PEG-[SN38]4(10mg/kg/用量)、又はCPT-11(15mg/kg/用量)のいずれかで治療した。この化学療法抵抗性モデルでは、CPT-11はほとんど効果がなかったが、PEG-[SN22]4とPEG-[SN38]4はどちらも腫瘍の縮小に極めて効果的であった(図22)。PEG-[SN22]4治療では、2~3週間で腫瘍が完全に消失したが、PEG-[SN38]4治療マウスでは小さな腫瘍が見られたままであった。これは、PEG-[SN22]4が、このヒトNB異種移植マウスモデルにおいて優れた有効性を有することを示唆している。
【0090】
本発明は、特定の実施態様を参照して例示及び説明されているが、本発明は、上記の詳細に限定されることを意図するものではない。むしろ、特許請求の範囲及びその同等物の範囲内で、本発明から逸脱することなく、詳細な様々な修正を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22