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特許7546579変形性関節症の治療における使用のためのシルデナフィル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】変形性関節症の治療における使用のためのシルデナフィル
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20240830BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20240830BHJP
   A61K 31/7004 20060101ALI20240830BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240830BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K31/445
A61K31/7004
A61P19/02
A61P43/00 121
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021547903
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 EP2019079170
(87)【国際公開番号】W WO2020084113
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】1851333-3
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】521181460
【氏名又は名称】アルトロア アクチエボラグ
【氏名又は名称原語表記】ARTROA AB
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】スコルドブラン,エヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン ロンベック,エリザベート
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0131442(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0022681(US,A1)
【文献】British Journal of Pharmacology,2011年,164,p.828-835
【文献】Journal of Orthopaedic Science,2014年,19,737-743
【文献】British Medical Bulletin,2017年,122,91-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト、ウマ、イヌ、またはネコの変形性関節症の治療に用いるための、有効成分シルデナフィルを含有する医薬組成物であって、
前記シルデナフィルは、アミノアミド型の局所麻酔薬およびグルコースとともに投与される、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
ウマにおける治療のための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、患部の関節に注射される、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
用量が1回、2回または3回で投与される、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の医薬組成物であって、
前記用量が2回で投与される、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
前記シルデナフィルの用量が0.01mg~0.1mgであり、前記用量が少なくとも1回で投与される、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
前記局所麻酔薬がメピバカインである、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の医薬組成物であって、
前記グルコースの用量が100mg~1000mgであり、前記メピバカインの用量が10mg~200mgである、
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の医薬組成物であって、
前記グルコースの用量が150mg~400mgであり、前記メピバカインの用量が10mg~30mgである、
ことを特徴とする医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性関節症、特にヒトおよびウマの変形性関節症の新規な治療に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症(Osteoarthritis: OA)は、関節軟骨とその下にある骨の破壊に起因する低悪性度の慢性全身性炎症疾患である。この疾患はしばしば、罹患した関節におけるマトリックスタンパク質の炎症および崩壊を特徴とする初期相から、下層の骨への損傷を伴うより重篤な相へと進行する。主な症状は関節の痛みである。変形性関節症は、人口の約3.8%が罹患しており、重度の関節痛の背後にある主要な疾患であることから、臨床上の大きな問題となっている。NSAID鎮痛剤の処方の50%がOAに関連していると推定されている。なお、変形性関節症は、稀な自己免疫疾患である関節リウマチとは全く異なる疾患である。
【0003】
ウマの変形性関節症は、馬主にとって大きな問題である。ウマを持つ最大の理由は、馬を使えるようにし、そしてしばしばウマと競争できるようにすることである。OAは、ウマを使用することができない最も頻繁な理由であり、馬事産業(horse industry)における単一の経済的損失としては最大のものである。
【0004】
ウマとヒトのOAは同様の機序によって引き起こされる。ヒトおよびウマの双方において、OAは、数ヶ月から数年に亘る炎症を特徴とする初期段階から、広範囲の組織損傷を伴う後期段階へと進行する(Goldring, M.B., Otero M. Current Opinion in Rheumatology (2011) 23(5):471)。ヒトおよびウマにおけるOA疾患の機序はまた、分子レベルでも非常に類似している(Stenberg J, Ruetschi U, Skioldebrand E, Karrholm J, Lindahl A. Proteome Sci. (2013) Oct 4;11(1):43)(Svala E, Lofgren M, Sihlbom C, Ruetschi U, Lindahl A, Ekman S, Skiolde-brand E. Connect Tissue Res. (2015);56(4):315-25)。炎症性軟骨細胞においては、細胞内カルシウムシグナル伝達(シグナリング)(signaling)が増加する(Skioldebrand E, Thorfe A, Bjorklund U, Johansson P, Wickelgren R, Lindahl A, Hansson E. Heliyon.(2018) Feb 1;4(1):e00525)。
【0005】
ヒトのOAの治療は今日では、生活習慣の改善(減量や運動など)と鎮痛剤の使用、そして重症例では人工関節置換手術に限られている。糖質コルチコイド(ヒドロコルチゾンなど)を関節に注射すると、数週間から数ヶ月の間、短期的に痛みが緩和される。
【0006】
ウマのOAは、例えば、糖質コルチコイド、ヒアルロン酸、自家調整血清(ACS)などの注射で処置され得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、人でも馬でも、疾患修飾性の医薬は存在しない。このため、OAの改善された治療が必要とされている。
【0008】
本発明は、これらおよび他の課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、シルデナフィルまたはシルデナフィル類似体などのホスホジエステラーゼ5型(PDE5)の阻害剤を、特に低濃度で、OAの治療に使用できることを見出した。シルデナフィル(CAS番号139755-83-2)は、典型的には、勃起機能不全を治療するために使用され、バイアグラ(Viagra)(登録商標)の商標で販売されている。驚くべきことに、低用量のシルデナフィルおよびシルデナフィル類似体は、細胞内カルシウムシグナル伝達、特にATP誘発細胞内カルシウムシグナル伝達を阻害することが可能である。いずれの理論にも拘束されず、シルデナフィルは、ギャップ結合(junction)を介した細胞間カルシウムシグナル伝達と細胞外ATPを介した細胞外シグナル伝達とのバランスを達成することができると考えられる。ATP誘発性カルシウムシグナル伝達は、ATP放出の増加とそれに続くプリン受容体(purinergic receptors)の活性化に起因して重要となる。
【0010】
本発明の第1の態様では、変形性関節症の治療に使用するための、ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)阻害剤またはPDE5阻害剤を含む医薬組成物が提供される。 PDE5阻害剤は、シルデナフィルまたはシルデナフィル類似体であってもよい。シルデナフィルの用量(dose)は低用量でよく、例えば0.01mg~10mg、より好ましくは0.01mg~0.1mgであってよい。用量は、好ましくは少なくとも1回、より好ましくは少なくとも2回で投与されてよい。また、用量は、1回、2回、または3回のいずれかで投与されてよい。好ましい実施形態では、用量は1回、さらに好ましい実施形態では2回で投与される。一実施形態では、PDE5阻害剤は、特に1回、2回または3回で、患部の関節に注射される。
【0011】
一実施形態では、PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの化合物と一緒に投与される:局所麻酔薬およびグルコース、好ましくは局所麻酔薬およびグルコースの両方。特定の実施形態において、グルコースはメトホルミンで置換されてよい。したがって、PDE5阻害剤は、メトホルミンと一緒に投与されてもよい。
【0012】
好ましい実施形態では、PDE5阻害剤はシルデナフィルであり、局所麻酔薬はメピバカインであり、シルデナフィルの用量は0.01mg~0.1mgであり、グルコースの用量は100mg~1000mgであり、メピバカインの用量は10mg~200mgである。一実施形態では、グルコースの投与量は150mg~400mgであり、メピバカインの投与量は10mg~30mgである。
【0013】
本発明の第2の態様では、PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体、ならびにグルコースおよび局所麻酔薬のいずれか、好ましくはグルコースおよび局所麻酔薬の両方、またはPDE5阻害剤、メトホルミンおよび局所麻酔薬を含む医薬組成物が提供される。医薬組成物は、注射溶液であってもよい。
【0014】
本発明の第3の態様では、シルデナフィルまたはシルデナフィル類似体などのPDE5阻害剤、もしくはシルデナフィルまたはシルデナフィル類似体などのPDE5阻害剤を含む医薬組成物を、被験体に投与することを含む、被験体における変形性関節症の治療方法が提供される。この方法は、PDE5阻害剤、またはPDE5阻害剤を含む医薬組成物を患部の関節に注射するステップを含んでよい。PDE5阻害剤は、シルデナフィル、特に0.01mg~10mgの用量のシルデナフィルであってよい。
【0015】
また、変形性関節症の治療のための薬剤を製造するための、PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体の使用もまた、本発明の態様として提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1A図1Eは、軟骨細胞に対するブピバカインおよびシルデナフィルの治療による効果を示すグラフである。
図2図2は、OAのウマに対する低用量メピバカインおよびグルコースの治療の効果を示す。図2Aは、グルコース/メピバカインによる治療後の手根関節の臨床的な跛行グレードを示すグラフである。図2Bは、グルコース/メピバカイン(GM)で処置した後の、滑液中のCOMPネオエピトープ濃度の減少を示すグラフである。 図2Cは、グルコース/メピバカインでの処置後であってリハビリテーション中の血清中のCOMPネオエピトープ濃度の減少を示すグラフである。
図3図3は、OAのウマに対するシルデナフィル治療の効果を示す。図3Aは、グルコース/メピバカイン/シルデナフィル(GMS)による治療後の手根関節の臨床的な跛行グレードを示すグラフである。図3Bは、グルコース/メピバカイン/シルデナフィル(GMS)で処置した後の、滑液中のCOMPネオエピトープ濃度の減少を示すグラフである。図3Cは、グルコース/メピバカイン/シルデナフィル(GMS)での処置後であってリハビリテーション中の血清中のCOMPネオエピトープ濃度の減少を示すグラフである。
図4図4は、OAのウマに対するシルデナフィル治療の効果を示す。図4Aは、グルコース/メピバカイン/シルデナフィル(GMS)による治療前後の手根関節の臨床的な跛行グレードを示すグラフである。図4Bは、グルコース/メピバカイン/シルデナフィル(GMS)で処置した後の、滑液中のCOMPネオエピトープ濃度の減少を示すグラフである。図4Cは、グルコース/メピバカイン/シルデナフィル(GMS)での処置後であってリハビリテーション中の血清中のCOMPネオエピトープ濃度の減少を示すグラフである。
図5図5は、OAのウマに対するシルデナフィル治療の効果を示す。図5Aは、コルチコステロイド(副腎皮質ステロイド)またはグルコース/メピバカイン/シルデナフィル(GMS)による治療の前後の臨床的な跛行グレードを示すグラフである。図5Bは、グルコース/メピバカイン/シルデナフィル(GMS)で処置した後の、滑液中のCOMPネオエピトープ濃度の減少を示すグラフである。図5Cは、グルコース/メピバカイン/シルデナフィル(GMS)による処置の前後であってリハビリ中の血清中のCOMPネオエピトープの濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
変形性関節症の治療法、特に、関節内の炎症を減少させることによる治療、特に、関節内の軟骨細胞内および軟骨細胞間でのカルシウムシグナリングなどの炎症シグナリング減少させることによる治療が提供される。この治療は、好ましくは、疼痛の低減、関節の治癒の誘導、マトリックスの再成長、および炎症の減少の少なくとも1つの効果を有する。
【0018】
OAの診断は、当該技術分野で公知の方法、例えば、臨床検査、当該技術分野で公知のX線撮影、または、例えば、参照により本明細書に組み込まれているWO2017216289に開示されているCOMPタンパク質フラグメントなどのバイオマーカーの使用により行うことができる。体液、例えば血清または滑液中のCOMPフラグメントの存在は、OA、特にOA中の軟骨の劣化を示す。COMPフラグメントは、N末端SGPTH(N-terminal-SGPTH)のアミノ酸配列からなるペプチドに特異的に結合する抗体を用いて検出することができる。詳細についてはWO2017216289を参照されたい。このように、一実施形態では、本明細書に記載されたように患者を治療し、COMPフラグメントの存在を検出する。COMPフラグメントの検出は、患者が治療にどのように反応するかを追跡するために使用されてもよい。
【0019】
患者はヒトでも動物でもよい。患者が動物である場合、好ましくはウマであるが、イヌ、ネコ、ウシなど多くの異なる種類の動物が治療の恩恵を受ける可能性がある。
【0020】
変形性関節症の治療のためのPDE5阻害剤、特にシルデナフィル、またはシルデナフィル類似体の使用が提供される。PDE5阻害剤は、承認された医薬品であるシルデナフィル、アバナフィル、ロデナフィル、ミロデナフィル、タダラフィル、バルデナフィルおよびウデナフィルからなる群から選択することができ、シルデナフィルが好ましい。また、これらの物質の修飾された変異体や類似体も使用され得る(以下参照)。現在は医薬品として承認されていないが、PDE5阻害活性を示す化合物の例としては、ホンデナフィル、アイルデナフィル、ベンザミデナフィル、ホモシルデナフィル、イカリイン、ニトロソプロデナフィル、スルホアイルデナフィル、ザプリナストなどがある。
【0021】
PDE5は、細胞内の重要なセカンドメッセンジャーであるcGMPの分解を触媒する酵素である。PDE5阻害剤は、PDE5の活性部位に結合するためにcGMPと競合する可能性がある。好ましくは、PDE5阻害剤は、PDE5タンパク質と直接相互作用する分子であり、好ましくはPDE5のcGMP結合ポケットに結合することによって、PDE5タンパク質と相互作用する。PDE5阻害剤は、PDE5に対してcGMPよりも高い親和性を有する物質であってもよい。PDE5阻害剤は、好ましくは、選択的PDE5阻害剤である。
【0022】
PDE5阻害剤は、in vitroでPDE5を阻害する能力によって同定することができる。例えば、細胞ベースのアッセイにおいて、PDE5を発現する細胞を用いて、または当該技術分野で公知の精製PDE5を使用する。化合物のライブラリは、PDE5を阻害する能力についてスクリーニングされてもよい。スクリーニングしてもよい化合物の例には、WO9428902に開示されている化合物が含まれる。PDE5ホスホジエステラーゼ阻害活性を有するさらなる化合物は、例えば、j. Med. Chem. 1993, 36:3765 ff.およびj. Med. Chem. 1994, 37:2106 ff.に記載されている。cGMPの構造もまた、PDE5阻害剤の設計に適した出発点である。
【0023】
一実施形態では、PDE5阻害剤、特にシルデナフィルを、単剤として使用する。すなわち、医薬組成物中の単一の活性化合物として使用する。賦形剤は、活性化合物とはみなされない。
【0024】
シルデナフィル類似体とは、シルデナフィルに類似した構造を有し、in vitroで、細胞、特に軟骨細胞における細胞内カルシウムシグナリング、特にATP誘発カルシウムシグナリングを低減することができる化合物である。本明細書では、「細胞内カルシウムシグナリング」とは、小胞体から細胞質ゾル中のカルシウムイオンが放出されることを指す。細胞内カルシウムシグナリングは、ATP誘発性であってもよく、これは、ギャップ結合(junction)によって連結されている適当な細胞の細胞増殖培地へのATPの添加によって引き起こされることを意味する。このようなATPの添加は、細胞内の小胞体からの細胞内カルシウム放出の波動(wave)を引き起こす。したがって、シルデナフィル類似体は、このようなカルシウムシグナリング(シグナル伝達)を阻害することができる。好ましくは、その阻害効果は、細胞培養などのインビトロで測定することができる。
【0025】
シルデナフィル類縁体は、PDE5阻害剤であってもなくてもよく、したがって、PDE5シグナリングを阻害する能力を有していてもいなくてもよい。シルデナフィル類似体は、インビトロでのカルシウムシグナリング、特にインビトロで培養された細胞、例えば軟骨細胞におけるATP誘発カルシウムシグナリングを減少させる能力によって同定され得る。カルシウムシグナリングは、任意の適切な方法で評価することができる。この方法には、細胞内カルシウムシグナリングのためのハイスループットスクリーニングシステム、例えばFlexstation 3 Microplate Reader(細胞をカルシウム感受性プローブでインキュベートする);カルシウムイメージングシステム(例えばSimple PCIソフトウェアと倒立型落射蛍光顕微鏡を用い、細胞をカルシウム感受性プローブでインキュベートする);SPEX Fluoromaxイメージングシステム(ソフトウェア、倒立型落射蛍光顕微鏡、およびカルシウム感応プローブを備える);PTIイメージングシステム(ソフトウェア、倒立型落射蛍光顕微鏡、およびカルシウム感応プローブを備える)、を含む。有用なカルシウム感受性プローブの例としては、Fluo-3/AMまたはFura-2/AM (Molecular Probes, Eugene, Oregon, USA)がある。
【0026】
シルデナフィル類似体によるカルシウムシグナリングの減少は、50%以上、70%以上、またはそれ以上、例えば80%以上であってもよい。
【0027】
ATPによって誘発されるカルシウムシグナリングを阻害する化合物の能力を試験するための適切なプロトコルは以下の通りである:星状細胞または軟骨細胞をDMEMで密集状態(confluence)になるまで増殖させ、その結果、それらは単層中で連結するギャップ結合となる。その後、細胞を、Ca2+/-感受性蛍光体Fura-2/AM (Molecular Probes, Eugene, OR, USA)とともに室温で30分間(8μl)、990μlのHank’s HEPES緩衝生理食塩水溶液(HHBSS)中で培養する。このHHBBSは、137mM NaCl,5.4 mM KCl,0.4 mM MgSO,0.4 mM MgCl,1.26 mM CaCl,0.64 mM KHPO,3.0 mM NaHCO,5.5 mM グルコース、および蒸留水に溶解した20 mM HEPESからなる(pH7.4)。実験中に使用したすべての物質は同じ溶液で希釈する。蛍光色素分子は、40μlのジメチルスルホキシド(DMSO)と10μlのプルロン酸 (Molecular Probes, Leiden, The Netherlands) に溶解した。インキュベーション後、細胞をHHBSSで3回リンスする。実験開始から1分後に、刺激剤としてATP(10-4M)を使用する。実験は、Ca2+イメージングシステムと簡単なソフトウェアPCI(Compix Inc., Imaging Systems, Hamamatsu Photonics Management Corporation, Cranberry Twp, PA, USA)と倒立型落射蛍光顕微鏡 (Nikon ECLIPSE TE2000-E)を用いて、室温で行う。ATPは蠕動ポンプ(Instech Laboratories, Plymouth Meeting, PA, USA)を用いて600μl/分の流量で供給される。画像はORCA-12AGカメラ(C4742-80-12AG)、High Res Digital cooled CCD(浜松ホトニクス株式会社、浜松、日本)で撮影する。次に、放出されたCa2+の量を分析して反映した曲線下の総面積(AUC)を決定し、Ca2+応答性の測定値を提供する。AUCおよび振幅(ピーク)は、Originプログラム(Microcal Soft-ware Inc., Northampton, MA, USA)を用いて計算する。候補物質を適切な濃度で添加し、ATP誘導細胞内カルシウムシグナリングを減少させる能力について試験する。
【0028】
代替として、以下の装置を使用することができる:細胞内Ca2+シグナリングのためのハイスループットスクリーニングシステムFlexstation 3 Microplate Reader (Molecular Devices, San Jose, USA)を用いて、細胞をCa2+感受性プローブFLIPR Calcium 6 (Molecular Devices)とともにインキュベートし、実験開始直前にATP(10-4M)(Sigma Aldrich Saint Louis, USA)で刺激する。細胞内のCa2+放出量は、放出されたCa2+の量を反映した曲線下の総面積(AUC)として決定される。振幅(ピーク)は、最大増加量として表した(Hansson E, Bjorklund U, Skioldebrand E, Ronnback L. J Neuroinflammation (2018); 15:321)。(https://doi.org/10.1186/s12974-018-1361-8)。
【0029】
シルデナフィル類似体は、シルデナフィルと構造的に類似している。構造的に類似した化合物とは、シルデナフィルの分子構造に対して、4つ、3つ、2つ、または好ましくは1つの置換基を有する化合物である。可能な置換としては、シルデナフィルの構造に関連して、基の他の基への置換または基の付加が挙げられる。「基」は、例えば、メチル基または他のアルカン、ハロゲン原子、アミドまたはアミン、または薬理化学の技術で使用される任意の他のタイプの有用な基を指すことができる。シルデナフィルに構造的に類似した多くの可能性のある化合物があるが、本明細書に記載された方法を用いて、それらがin vitroで細胞内カルシウムシグナリングを減少させることができることを検証することは簡単である。例えば、バルデナフィルのような多くのPDE5阻害剤は、シルデナフィルと構造的に類似している。以下にシルデナフィルとバルデナフィルの分子構造を示し、それらがバルデナフィルにおいて窒素原子が炭素原子に置換されている点でのみどのように異なるかを示す。
【0030】
【化1】
【0031】
適切なシルデナフィル類似体としては、アバナフィル、ロデナフィル、ミロデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、ウデナフィル、ホンデナフィル、アイルデナフィル、ホモシルデナフィル、ニトロソプロデナフィル、スルホアイルデナフィル、ザプリナストなどが挙げられる。
【0032】
投与経路
PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体は、経口、局所、静脈内、皮内、関節内、筋肉内、鼻腔内、または脳脊髄液中など、任意の適切な方法で投与することができる。
【0033】
好ましい実施形態では、PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体は、患部の関節に局所的に供給される。さらに好ましい実施形態では、製剤は関節内に、特に1回以上の関節内注射、すなわち患部の関節内への注射で供給される。
【0034】
PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体は、例えば、経皮投与による局所投与によって投与され得る。経皮投与の製剤は、簡便性の点で、また患者の快適性の点で特に有利である。例えば、経皮吸収型パッチの形態であってもよい。
【0035】
一実施形態では、PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体は、PDE5阻害剤の少なくともある程度の全身分布が達成されるように供給される。これは、薬物が体内に広がる局所的な投与でも、または、経口投与や静脈内投与などの全身的な投与でも達成され得る。
【0036】
前述の投与方法に加えて、非経口、経鼻、直腸投与や吸入による投与も有用であり得る。
【0037】
本発明によるPDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体の投与のタイミングは、使用する製剤および/または投与経路に依存する。
【0038】
PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体を局所注射で投与する場合、1回または複数回の注射を行ってもよい。好適な注射の回数は、1回、2回、3回、またはそれ以上であってもよい。複数回の注射は、2~60日、より好ましくは5~30日、さらに好ましくは8~25日、最も好ましくは10~18日の間隔で実施してもよい。関節の回復は、WO2017216289に記載されているようなCOMPフラグメントの測定を用いて、例えば、血清中または滑液中のCOMPフラグメントの存在をモニタリングしてもよい。当該技術分野で知られている他の方法、例えば、放射線学を使用してもよい。
【0039】
一般に、PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体の薬理学的に有効な量が、それを必要とする患者に提供される。化合物の適切な用量範囲は、日常的な実験で確立することができる。投与量は、勃起不全の治療に用いられるシルデナフィルの用量(約100mgであることが多い)よりも低くてもよい。ウマに投与されるシルデナフィルの1回の用量は、0.001mg~1000mg、特に0.01mg~10mg、特に0.01mg~1mg、特に0.01mg~0.1mg、最も好ましくは0.01mg~0.05mgまたは0.01mg~0.03mgであってもよい。したがって、用量は、0.001mg以上、0.01mg以上、0.1mg以上、1mg以上、10mg以上であってよい。ヒトへ投与される用量は、特に局所投与の場合、例えば関節内注射の場合には、ほぼ同じである。あるいは、ウマへ投与される用量の約5分の1という低用量をヒトに投与する。
【0040】
投与は1回でもよいが、1回、2回、3回、またはそれ以上など、適切な回数を投与してもよい。また、少なくとも1回、より好ましくは少なくとも2回投与してもよい。好ましい実施形態では、投与は1回であり、さらに好ましい実施形態では2回である。
【0041】
PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体は、変形性関節症の治療のために1つまたは複数の他の薬剤と組み合わせてもよい。好ましくは、PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体は、局所麻酔薬またはグルコースまたはその両方と併用される。局所麻酔薬は、電位依存性ナトリウムチャネルの細胞内部分に結合し、神経細胞へのナトリウム流入を遮断する化合物であってもよい。例えば、ブピバカイン、メピバカイン、リドカイン、プリロカイン、ロピバカイン、クロロプロカイン、アルチカインなどが挙げられる。局所麻酔薬は、アミノアミド型またはアミノエステル型の局所麻酔薬であってもよい。好ましい実施形態では、局所麻酔薬とグルコースの両方が製剤に含まれる。
【0042】
局所麻酔薬の用量は、低用量であってもよい。局所麻酔薬に関連する電位依存性チャネルの通常の阻害が達成されないほど低用量であってもよい。メピバカインを使用する場合、一度に投与する用量は、1mg~1000mg、特に5mg~200mg、さらに好ましくは8mg~100mg、最も好ましくは10mg~30mgであってもよい。また、一度に投与するグルコースの用量は、10mg~10,000mg、特に100mg~1000mgであってもよく、150mg~400mgがさらに好ましい範囲である。
【0043】
一実施形態では、低用量の局所麻酔薬、例えばメピバカインを、グルコース(またはメトホルミン)とともに投与するが、PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体は投与しない。投与は、好ましくは注射によって行われ、さらに好ましくは本明細書に記載の関節内注射によって行われる。局所麻酔薬の投与量は、1mg~1000mg、特に5mg~200mg、さらに好ましくは8mg~100mg、最も好ましくは10mg~30mgであってよい。このように、医薬組成物は、局所麻酔薬とグルコースのみを含んでよい。注射は、1回、2回、3回、またはそれ以上の回数を、各注射の間に5日から30日、より好ましくは10日から18日の期間をおいて実施することができる。この治療法は、初期段階の変形性関節症の患者、特にウマに好ましい。
【0044】
一実施形態では、PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体、好ましくはシルデナフィルを、好ましくは0.01mg~01.mgの用量で、好ましくは10mgから200mgの用量の局所麻酔薬、好ましくはメピバカインとともに、好ましくは100mg~1000mgの用量のグルコースとともに、関節内注射により投与する。投与は1回であってもよいが、複数回、例えば2回、3回、4回または5回以上投与してもよく、2回または3回が好ましく、2回が最も好ましいとされる。好ましい実施形態では、注射は1、2または3回実施される。用量はまた、少なくとも1回、より好ましくは少なくとも2回投与してもよい。
【0045】
複数回投与する場合の適切な投与間隔は、2~60日、より好ましくは5~30日、さらに好ましくは8~25日、最も好ましくは10~18日である。
【0046】
治療後および治療中のOAからの回復は、上述のように、COMPフラグメントの存在を測定することによって、または他の手段によって、モニタリングすることができる。
【0047】
関節内注射は、当該技術分野で公知であるように行われる。使い捨ての注射器と針、自動注射器、注射ペン、注入ポンプなど、任意の適切な技術を用いて注入することができる。ウマの関節内注射に有用な針の例としては、0.90x40mmまたは70mm(20Gx1.5インチ)、0.80x40mm、(21Gx1.5インチ)、および非常に大きな関節に注射するための脊髄針1.20mm x 152/200mm(18Gx6.00インチ)がある。
【0048】
適切な容量(volume)の注射液が注射され、ここで、容量は、ヒトよりもウマの方が一般的により大きい。
【0049】
医薬組成物
PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体は、適切な医薬組成物に含まれてもよい。一般的に、この組成物は投与方法に適合するべきであり、PDE5阻害剤またはシルデナフィル類似体を含む様々な組成物が当該当技術分野で公知である。組成物は、患者への投与に適した形態を提供するために、治療上有効な量のPDE5阻害剤を、適切な量の担体(carrier)または媒剤(vehicle)とともに含むのが好適である。組成物は、固体、半固体、ゼラチン状またはヒドロゲル状、液体を有していてもよく、錠剤、液体、注射溶液、懸濁液、粉末、カプセル、徐放性製剤、皮膚パッチ、ゲル、クリーム、軟膏、スプレー、またはエアゾールの形態であってもよい。
【0050】
組成物は、例えば、当該技術分野で公知のように、担体、希釈剤、安定剤、充填剤、崩壊剤、防腐剤、ゲル化剤または増粘剤、剥離制御剤を含む1つまたは複数の薬理学的に許容される賦形剤を含んでいてもよい。組成物に使用できる化合物の例としては、デンプン、セルロースおよびセルロース誘導体、ゼラチン、シリカゲル、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、グリセロール、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。
【0051】
シルデナフィルの口腔内投与用製剤は、例えばバイアグラ(Viagra)(登録商標)のような製剤が公知である。口腔内投与のためのさらなる製剤の調製については、”Pharmaceutical Dosage Forms”を参照されたい。Tablets.1-3巻、H A Liebermanら、Eds. Marcel Dekker, New York and Basel, 1989-1990. 特に、第7章(Special Tablets、J W ConineおよびM J Pikal著)、第8章(Chewable Tablets、R W Mendes、OA AnaebonamおよびJ B Daruwala著)、および第9章(Medicated Lozenges、D Peters著)を参照されたい。PDE5阻害剤は、薬学的に許容される塩として提供されてもよい。シルデナフィルは、例えば、シルデナフィルクエン酸塩として提供されてもよい。
【0052】
シルデナフィルを含む注射溶液もまた、当該技術分野で公知である。シルデナフィルを含む注射溶液の一例はRevatio(登録商標)である。注射溶液は、水溶液であることが好ましい。注射溶液は、PH調整剤、生理食塩水、浸透圧調整剤、安定剤、防腐剤、キレート剤、可溶化剤、抗菌剤、乳化剤などの薬理学的に許容される薬剤を1種類以上含んでいてもよい。注射溶液は、例えば、PDE5阻害剤、例えばシルデナフィル、および薬理学的なグレードの水のみを含み、任意に防腐剤を含んでいてもよい。また、注射溶液は、局所麻酔薬とグルコースの一方または両方を含んでいてもよい。
【0053】
注射溶液は、好ましくは無菌かつ等張である。注射溶液は、注射用バイアル、サシェまたはカートリッジなどのバイアル(vial)などの容器内に提供されてもよい。注射用溶液は、自動注射装置または注射ペンなどの単回使用の注射装置で提供されてもよい。注射溶液は、あらかじめ混合されていてもよいし、薬理学的に許容される水を加えるなどして再構成される形態であってもよい。
【0054】
製剤が例えば、注射等による局所投与用の製剤である場合、グルコースおよび局所麻酔薬のいずれかを含んでいることが好ましい。
【0055】
上述の一実施形態では、製剤はグルコースと局所麻酔薬のみからなる。活性剤として局所麻酔薬とグルコースのみからなる製剤の場合、その製剤は好ましくは注射液である。
【0056】
注射溶液中のシルデナフィルまたはシルデナフィル類似体の好ましい濃度は、特に低用量のシルデナフィルが投与される場合、0.001mg/ml~0.1mg/ml、より好ましくは0.001~0.01mg/mlである。局所麻酔薬、例えばメピバカインの好ましい濃度は、0.1mg/ml~50mg/ml、より好ましくは1mg/ml~5mg/mlである。グルコースの好ましい濃度は、1mg/ml~200mg/ml、より好ましくは10mg/ml~100mg/mlである。より高用量を投与する場合、これらの物質の濃度はより高くてもよい。製剤中のシルデナフィルとメピバカインとグルコースの濃度比は、好ましくは0.001:1:10である。
【0057】
シルデナフィルを含む製剤は、WO02/060449およびWO02/062343に記載されている。
【0058】
シルデナフィルの合成については、EP463756およびUS5250534に記載されている。アバナフィルの合成については、米国特許7,501,409号に記載されている。
【0059】
(実施例1-分離した軟骨細胞における炎症の減少)
In vitroの実験では、ウマの軟骨細胞を低濃度の局所麻酔薬ブピバカイン(bupivacaine)で処置すると、細胞内カルシウムシグナリングが減少し、軟骨の生成に重要な成長因子が上昇する(upregulated)ことが示唆された。また、低濃度のシルデナフィルを添加すると、その効果が増大した。
【0060】
OAウマ由来のウマ軟骨細胞を、ATP(10-4M)で刺激し、細胞内のCa2+の経時変化を蛍光法で検出した。全培養期間中、細胞は5.5mMのグルコースで培養した。細胞をメトホルミン(1mM)およびブピバカイン(10-12M)と24時間インキュベートした後、Ca2+反応を測定した。対照群は未処理の軟骨細胞である。各Ca2+トランジェント(transient)について、Ca2+ピーク以下の面積(AUC)(図1A)を算出するとともに、振幅(ピーク)(図1B)を最大増加量で表した。細胞は、それぞれ4つのウェルを用いた4回の実験から得られたものである。有意性のレベルは、一元配置の分散分析(ANOVA)に続いてDunnettの多重比較検定を用いて分析した。 ** p< 0.01, ** p< 0.001.ヒトの軟骨細胞についても同様のデータが得られた。
【0061】
材料および方法
細胞モデル系-軟骨細胞の単離と培養
6頭のウマ(1~8歳)の中手骨関節から、安楽死後24時間以内に関節軟骨サンプルを採取した。3頭のウマは肉眼的に関節面が正常で、3頭のウマは中手骨の橈骨関節面(radial facet)に軽度の構造的OAが見られた。ウマは本研究とは無関係の理由で安楽死させられ、スウェーデンのストックホルムにある動物実験倫理委員会が試験プロトコルを承認した(Dnr:N378/12)。
【0062】
無菌調整後、第3手根骨の橈骨関節面の背側面の軟骨をメスで切開し、鉗子で全層の軟骨サンプルを採取した。この組織を、ゲンタマイシン硫酸塩(50mg/l)およびアムホテリシンB(250μg/ml)を含む滅菌生理食塩水(0.9%NaCl)に入れた。軟骨サンプルは冷却状態(約5℃)で実験室に搬送した。軟骨細胞の単離および増殖(expansion)は、上記のように行った(Ley C, Svala E, Nilton A, Lindahl A, Eloranta M, Ekman S, Skioldebrand E. Connect Tissue Res.(2011);52(4): 290-300)。細胞を継代1(passage 1)で増殖した。表現型を維持するため、細胞を、20,000細胞/cmで軟骨形成培地に播種し、DMEM-高グルコース(DMEM-HG)(Thermo Fisher Scientific; Waltham, MA, USA)を、14μg/mlのアスコルビン酸(Sigma-Aldrich, St.Louis, MO, USA)、10-7Mデキサメタゾン(Sigma-Aldrich)、1mg/mlのヒト血清アルブミン(Equitech Bio, Kerville, TX, USA)、1×インスリン-トランスフェリン-セレン(Gibco, Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)、5μg/mlのリノール酸(Sigma-Aldrich)、1×ペニシリン-ストレプトマイシン(PEST)(Sigma-Aldrich)、および10ng/mlのヒト形質転換増殖因子(TGF)β-1(R&D Systems, Abingdon, UK)を補充して、密集(confluent)になるまで5日間、Ca2+のための96ウェル培養プレートまたはウェスタンブロット(Western blot)解析のための6ウェル培養プレートで増殖した。
【0063】
回復(restoration)のために、細胞を、培養4日目にメトホルミンとブピバカインとともに24時間インキュベートした。5日目にCa2+測定を行い、ウェスタンブロット解析のために培地を採取し、細胞を回収し、-80℃で直ちに凍結した後、解析した。
【0064】
抗炎症作用の回復のために、細胞を、異なる薬理学的物質の組み合わせで24時間インキュベートした。
【0065】
薬物回復
回復は、細胞を薬物物質1mMのメトホルミン(Sigma Aldrich, St.Louis, MO, USA)と24時間インキュベートするよう進行させる。薬物物質は、ブピバカイン(Marcain)(Astra Zeneca, Sodertalje, Sweden)(10-12M)(Block L, Jorneberg P, Bjorklund U, Westerlund A, Bber B, Hansson E. Eur. J. Neurosci (2013);38:3669-3678)、シルデナフィルクエン酸塩(Sigma Aldrich)(1μM)(Nunes AKS, Raposo C, Bjorklund U, Cruz-Hofling MA, Peixoto CA, Hansson E, Neurosci.Lett.(2016);630:59-65)および1α,25-ジヒドロキシビタミンD3(カルシトリオール)(Sigma-Aldrich)(100nM)(Li F,Zhang A,Shi Y,Ma Y,Du Y.Int.J.Mol.Med.(2015);36:967-974)である。細胞培養物は、上記の物質と24時間インキュベートした後、それぞれの実験を開始した。
【0066】
カルシウムイメージング
細胞内および細胞外Ca2+シグナリングのためのハイスループットスクリーニングシステムであるFlexstation 3 Microplate Reader(Molecular Devices, San Jose, USA)を用いて、細胞を、Ca2+感受性プローブFLIPRカルシウム6(Molecular Devices)とともにインキュベートし、Sigma Aldrich(Saint Louis, USA)から入手した5-HT(10-5M)またはATP(10-4M)という異なる神経伝達物質に暴露した。
【0067】
RNA解析のための単層軟骨細胞の採取
RNAの単離を目的とした細胞(ヒト軟骨細胞)は、滅菌したPBSで2回洗浄した後、溶解緩衝液(Qiagen)に1M DL-ジチオトレイトール溶液(Sigma Aldrich)を添加した。細胞が確実に溶解しているかどうかを目視で確認した後、RNAseを含まず、エンドトキシンを含まないサンプルチューブに移し、液体窒素中で急速凍結し、RNA単離のために-80℃で保存した。全RNAは、市販のキット(RNeasy mini kit, Qiagen)を用いて、製造業者のプロトコルに従って抽出し、精製した。簡単に述べると、溶解緩衝液中の細胞を解凍し、1分間ボルテックス(vortexed)した後、70%エタノールを加えた(1:1)。試料を混合してからスピンカラムに加え、遠心分離した。次に、カラムを洗浄した後、DNase(Qiagen)でゲノムDNAを除去した。この洗浄工程は、膜に結合したRNAを洗浄するために、ストリンジェントな洗浄緩衝液と、その後のマイルドな緩衝液とで繰り返された。全RNAを50μlのリボヌクレアーゼ(RNase)を含まない水で溶出した。RNA濃度は、マイクロボリューム分光光度計(ND-1000分光光度計,NanoDrop Technologies, Wilmington, DE)を用いて測定し、RNA品質は、Agilent 2100 Bioanalyzerシステム(Agilent Technologies Inc, Palo Alto, CA)を用いて評価した。
【0068】
定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応解析
cDNAは、高容量cDNA逆転写キット(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いて全RNAから調製した。Applied Biosystems製の市販のTaqMan遺伝子発現アッセイ(線維芽細胞成長因子18(FGF-18)および成長分化因子5(GDF-5))を使用した。試料は二重に(in duplicate)分析した。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)データの解析には、相対比較CT法を用いた。
【0069】
放出されたCa2+の量を反映する曲線下の総面積(AUC)(Berridge MJ. Biochem. Soc. Symp. (2007);74:1-7)を分析して、Ca2+応答性を測定した。振幅(ピーク)は最大増加量で表した。
【0070】
結論として、図1Aおよび図1Bに示したデータは、低濃度のブピバカインとメトホルミンを併用することで、炎症性変形性骨関節症軟骨細胞における細胞内Ca2+放出を生理的なレベルまで低下させたことを示す。シルデナフィルはその効果を高めた。D3単独では効果が見られなかった(図1E)。
【0071】
図1Cおよび図1Dは、ブピバカインとシルデナフィルの処置により、ヒト軟骨細胞の生成に重要な成長因子GDF5とFGF18が上昇したことを示す。
【0072】
(実施例2)
次のようにして注射溶液を調製した:
メピバカイン1ml、20mg/ml=20mg
4mlグルコース 50mg/ml=200mg
5ml 滅菌済みH
【0073】
メピバカインの最終濃度は、2mg/mlであった。グルコースの最終濃度は、20mg/mlであった。
【0074】
10mlを、以下の実施例4~6において、ウマ1~3に関節内注射で投与する用量として使用した(図2~4にGMで示す)。
【0075】
(実施例3)
次のようにして注射溶液を調製した:
Revatio(登録商標)(シルデナフィル0.8mg/ml)を滅菌水で200倍に希釈し、0.004mg/mlを得た。この溶液5ml(シルデナフィル0.02mg)を以下と混合して、10mlを得た:
メピバカイン1ml、20mg/ml=20mgグルコース
4mlグルコース50mg/ml=200mgグルコース
【0076】
最終濃度は、シルデナフィル:0.002mg/ml、メピバカイン:2mg/ml、グルコース:20mg/mlであった。
【0077】
10ml(シルデナフィル:0.02mg、メピバカイン:20mg、グルコース:200mg)を、実施例4~6のウマ2~4に関節内注射で投与する用量として使用した(図2~5ではGMSで示す)。
【0078】
(実施例4-ウマ番号1)
ウマ番号1は、2006年生まれのスウェーデン産の温血馬、牝馬である。2018年1月4日に両蹴爪(球節)関節の両側性跛行と診断された乗馬学校のウマである。このウマを、ヒアルロン酸(HA)で関節内処置し、経口で副腎皮質ステロイドを投与した。2回目の診察後に跛行が増加したため、その後、このウマに、実施例1のグルコース/メピバカイン(GM)を10ml関節内注射で処置した。再診時、このウマは跛行していなかったが、それにもかかわらず、同じ種類の注射でもう一度処置した。GMによる最初の治療以降、このウマは非跛行となり、すべての再検査で完全に非跛行となった。このウマは、乗馬学校に復帰し、万全の状態である。
【0079】
獣医師による屈曲試験を伴う跛行検査と処置が行われ、その結果を図2Aに示す。
【0080】
図2Bおよび図2Cに示した時点でウマから滑液および血清のサンプルを採取し、滑液および血清中のCOMPエピトープ濃度の分析をWO2017216289と同様に実施し、それぞれ図2Bおよび図2Cに示す。COMPエピトープの存在は、関節内で進行中の炎症および組織損傷を示す。
【0081】
図2Aに見られるように、低濃度の局所麻酔薬とグルコースを併用することで、臨床的に回復し、図2Bおよび図2Cに見られるように、COMPレベルが通常の生理学的レベルまで低下した。
【0082】
(実施例5-ウマ番号2)
ウマ番号2は、2012年生まれのスタンダードブレッドトロッター、牡馬である。このウマは、手根関節の変形性関節症に関連して、2016年8月から重度の跛行を呈していた。このウマは、2016年8月以降、手根関節に10mlのグルコース/メピバカイン(実施例1による)関節内注射を数回処置され、この処置は失敗したと考えられていた。
【0083】
このウマに、2018年6月12日と25日に同じ関節にグルコース/メピバカイン/シルデナフィル(実施例3と同様)を用いた10mlの関節内注射を2回処置し、2018年10月には臨床検査で跛行が記録されずに完治した。この種牡馬は、2018年8月と9月にトロッティングレースに出場し、これらのレースで2着、5着、2着となり、完全に回復したことを示した。
【0084】
獣医師による屈曲試験を伴う跛行検査と処置が行われ、その結果を図3Aに示す。
【0085】
滑液および血清中のCOMPエピトープ濃度の分析を、実施例4と同様に実施し、それぞれ図3Aおよび図3Bに示す。
【0086】
図3Aに見られるように、シルデナフィルを処置に加えると、臨床的に回復し、図3Bおよび図3Cに見られるように、COMPレベルが正常な生理学的レベルまで低下した。
【0087】
(実施例6-ウマ番号3)
ウマ番号3は、2012年生まれのスタンダードブレッドの牝馬である。このウマは、3歳の時に両手根関節に初めて跛行を起こした。それ以来、両手根関節にグルコース/メピバカインの関節内投与を17回処置したが、この処置は失敗したと考えられていた。
【0088】
このウマに、2018年5月に、両手根関節に実施例5と同様のグルコース/メピバカイン/シルデナフィルによる関節内注射を処置した。2018年5月と9月の跛行検査で非跛行となり、その後もこのウマは定期的に競技を行っている。
【0089】
滑液および血清中のCOMPエピトープ濃度の分析は、実施例4と同様に行った。臨床的な跛行の検査とCOMPレベルのデータを図4A図4Cに示す。図4Aに見られるように、シルデナフィルを治療に加えると、図4Bおよび4Cに見られるように、COMPのレベルの低下と関連して臨床的な回復が見られた。
【0090】
(実施例7-ウマ番号4)
ウマ番号4はポニー、去勢馬であり、MRI(磁気共鳴画像法)で診断された変形性関節症に伴う右蹄関節の重度の跛行があった。このウマは、2018年4月から3回、副腎皮質ホルモンの関節内注射を処置したが、跛行グレードの低下は見られなかった。2018年6月と7月に、このウマは、グルコース/メピバカイン/シルデナフィル(GMS)で処置され、その後は非跛行となっている(図5A)。滑液および血清中のCOMPネオエピトープ濃度は、GMSによる最初の治療後に明らかに減少した(図5Bおよび図5C)。滑液および血清中のCOMPエピトープ濃度の分析は、実施例4と同様に行った。
【0091】
本発明を特定の例示的な実施形態を参照して説明してきたが、この説明は一般的には発明の概念を例示することのみを目的としており、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本発明は、概して特許請求の範囲によって画定される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C