(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】電気自動車用のバッテリボックス底部部分
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20240830BHJP
C22F 1/047 20060101ALI20240830BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240830BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20240830BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
C22C21/06
C22F1/047
C23C26/00 A
B60K1/04 Z
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630B
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
(21)【出願番号】P 2021556211
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 EP2020057348
(87)【国際公開番号】W WO2020187942
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-02-21
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517422951
【氏名又は名称】コンステリウム ヌフ-ブリザック
【氏名又は名称原語表記】CONSTELLIUM NEUF-BRISACH
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ジュスネ,ペテ
(72)【発明者】
【氏名】リス,ジョスリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ミュレ,エステル
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090890(JP,A)
【文献】国際公開第2013/015110(WO,A1)
【文献】特表2001-509208(JP,A)
【文献】米国特許第06544358(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第109097645(CN,A)
【文献】特開2013-133044(JP,A)
【文献】特開2018-188124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/06
C22F 1/047
C23C 26/00
B60K 1/04
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2~6mmの厚みを有するアルミニウム合金シート製の電気またはハイブリッド自動車両用のバッテリボックスの底部部分において、前記アルミニウム合金が、2.5~4.0
質量%のMg、0.1~0.8
質量%のMn、0.4
質量%以下のSi、0.5
質量%以下のFe、0.5
質量%以下のCu、0.1
質量%以下のCr、0.1
質量%以下のZn、0.1
質量%以下のTi、各々最大0.05
質量%でかつ合計0.15
質量%の不可避的不純物、および残余のアルミニウム
からなるバッテリボックスの底部部分。
【請求項2】
Mn含有量が、0.5~0.7
質量
%である、請求項1に記載のバッテリボックスの底部部分。
【請求項3】
Si含有量が、0.1~0.3
質量
%である、請求項1または2に記載のバッテリボックスの底部部分。
【請求項4】
Fe含有量が、0.1~0.4
質量
%である、請求項1から3のいずれか一つに記載のバッテリボックスの底部部分。
【請求項5】
Mg含有量が、2.8~3.6
質量
%である、請求項1から4のいずれか一つに記載のバッテリボックスの底部部分。
【請求項6】
前記シートが質別H2Xにある、請求項1から5のいずれか一つに記載のバッテリボックスの底部部分。
【請求項7】
LT方向で、前記シートの極限引張強度R
mが、質別Oにあるシートの極限引張強度よりも少なくとも25
%高く、かつ/または前記シートの引張降伏強度R
p0.2が、質別Oにあるシートの引張降伏強度よりも少なくとも115
%高い、請求項
6に記載のバッテリボックスの底部部分。
【請求項8】
前記シートの最大力における均一伸びAgの百分率が、6%~15
%である、請求項6
または7に記載のバッテリボックスの底部部分。
【請求項9】
前記シートが、多くとも3.5mmの厚みを有し、kN単位で表わされた中心位置最大力および隅位置最大力が、少なくとも14k
Nである、請求項1から
8のいずれか一つに記載のバッテリボックスの底部部分。
【請求項10】
ASTM G67規格に準じて硝酸質量損失試験NAMLTによって測定されたシートの耐粒界腐食性が、3mg/cm
2未満、そして130℃で17時間の時効後に5mg/cm
2未満である、請求項1から
9のいずれか一つに記載のバッテリボックスの底部部分。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれか一つに記載のバッテリボックスの底部部分の製造方法において、
- 2.5~4.0
質量%のMg、0.1~0.8
質量%のMn、0.4
質量%以下のSi、0.5
質量%以下のFe、0.5
質量%以下のCu、0.1
質量%以下のCr、0.1
質量%以下のZn、0.1
質量%以下のTi、各々最大0.05
質量%でかつ合計0.15
質量%の不可避的不純物、および残余のアルミニウム
からなるアルミニウム合金を調製するステップと、
- 前記アルミニウム合金を圧延インゴットへと鋳造するステップと、
- 前記圧延インゴットを均質化および/または再加熱するステップと、
- 2mm~6mmの厚みを有するシートを得るために、前記圧延インゴットを熱間圧延し任意には冷間圧延するステップと、
を連続的に含む方法。
【請求項12】
-
前記シートを質別H2Xまで不完全焼鈍するステップと
、
- サイズに合わせて切
断するステップと、
をさらに含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
-
連続焼鈍炉内で、質別H2Xまで前記シートを不完全焼鈍するステップと
、
- サイズに合わせて切
断するステップと、
をさらに含む、請求項
11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気またはハイブリッド自動車両の分野に関する。
【0002】
本発明は、より詳細には、平面図で全体に凸状の多角形形状を有する周囲フレーム、アルミニウム合金製の周囲フレームの下部表面に接合されている底部部分および閉鎖用トップカバーで構成される、このような電気またはハイブリッド自動車両のバッテリボックスに関する。
【背景技術】
【0003】
バッテリボックスは、電気またはハイブリッド車両を駆動するための電気エネルギーの生成を可能にする電気エネルギー貯蔵セル要素ユニットを収容するチャンバを含み得る。電気エネルギー貯蔵セル要素のユニットはバッテリボックス内に設置され、その後、バッテリボックスは電気またはハイブリッド自動車両に取り付けられる。
【0004】
電気自動車両またはハイブリッド車両(内燃機関も同様に備えている電気自動車両)には、モータを駆動するために多数のバッテリが必要である。電気車両用の従来のバッテリのバッテリボックスのいくつかの例は、欧州特許第1939026号明細書、米国特許出願公開第2007/0141451号明細書、米国特許出願公開第2008/0173488号明細書、米国特許出願公開第2009/0236162号明細書、欧州特許第2623353号明細書、欧州特許第1939026号明細書、欧州特許第1939027号明細書中で参照することができる。
【0005】
このようなバッテリボックスは、車両が事故に遭遇した場合でもコンテナが容易に変形するのを防ぐための優れた剛性と、変形がコンテナに達した場合でもバッテリの破損を最小限に抑える保護機能とを有することが必要とされる。したがって、バッテリボックスには、衝突による衝撃の間モジュールを保護するのに十分な機械的特性を有することが求められる。中国特許第106207044号明細書は、剛性および側面衝撃性能を強化させることのできるPVC発泡材がラミネート加工された炭素繊維中間層からなる炭素繊維複合材料製バッテリボックスを開示している。中国実用新案第205930892号明細書は、衝突安全性能を改善するために底部部分の代わりにハニカムバッフル構造を使用する実用新案を開示している。欧州特許第2766247号明細書は、バッテリサブコンパートメントの側壁と車体長手方向ビームとの間の自由変形空間とシェルの使用を提案している。
【0006】
バッテリボックスは同様に、バッテリボックスチャンバ内へのあらゆる流体の浸入、または電気エネルギー貯蔵セル要素内に格納されたあらゆる電解液のバッテリボックスチャンバからの漏出を回避するために、完全に封止されていることも必要である。水または泥の浸入を防ぐため、車両のフロア下にバッテリボックスが固定されている場合には、密な封止が特に必須である。さらに、内向きまたは外向きの流体に対する耐腐食性が必要である。
【0007】
車両の運転性能を改善する目的で、バッテリボックスは、最大の耐衝突性、密な封止、耐腐食性、温度制御に対応する能力、および電気エネルギー貯蔵セル要素を最大数格納する能力を同時に提供しながら、重量が最小限に抑えられていなければならない。
【0008】
中国特許出願公開第108342627号明細書は、以下の質量部の原料から調製される電気車両バッテリボックスを開示している:0.4~0.9質量部の鉄、0.5~0.8質量部のチタン、0.7~1.3質量部の亜鉛、0.2~0.6質量部のケイ素、3~6質量部のニッケル、4~8質量部の銅、1~3質量部のマンガン、80~90質量部のアルミニウム、0.2~0.6質量部の炭化ホウ素、0.8~1質量部の酸化クロム、0.2~0.25質量部の酸化マグネシウム、0.2~0.5質量部の酸化ケイ素、0.2~0.5質量部の酸化チタン、0.2~0.5質量部の酸化イットリウム、0.02~0.05質量部の炭化ベリリウム、0.02~0.05質量部の炭化ジルコニウムおよび0.02~0.05質量部の炭化タングステン。
【0009】
中国特許出願公開第107201464号明細書は、0.4~0.9重量部の鉄、0.5~0.8重量部のチタン、0.7~1.3重量部の亜鉛、0.2~0.6重量部のケイ素、0.1~0.15重量部のチタン、3~6重量部のニッケル、4~8重量部の銅、1~3重量部のマンガンおよび80~90重量部のアルミニウムから調製された電気自動車バッテリボックスを開示している。
【0010】
中国特許出願公開第107760162号明細書は、ボックス本体を含む高強度耐腐食性乗用車バッテリボックスにおいて、ボックス本体が高強度合金材料製であり;ボックス本体の表面が耐腐食性コーティング層で被覆され;アルミニウム合金材料が、質量百分率で、0.21~0.47%のMn、1.83~3.75%のCu、0.23~0、47%のTi、2.35~7.48のSiC、0.13~0.54%のErおよび残余の純粋アルミニウムおよび微量の不純物という成分から調製されているバッテリボックスを開示している。
【0011】
欧州特許出願公開第1698710号明細書は、質量百分率で2~5%のマグネシウム、0.05%超で1.5%以下の鉄、0.05~1.5%のマンガン、および結晶粒微細化剤を含有し、残余にはアルミニウムと不可避的な不純物が含まれ、不可避的な不純物中には、0.20%未満のケイ素が含有され、鉄とマンガンの総量が0.3%より大きく、固溶体中に溶解した鉄の量が50ppm以上であり、1~6μmの円相当径をもつ金属間化合物が1平方ミリメートルあたりに5000以上存在し、再結晶化粒の平均直径が20μm以下である、焼成処理前の高い強度と高い焼成軟化耐性を有するアルミニウム―マグネシウム合金シートを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許第1939026号明細書
【文献】米国特許出願公開第2007/0141451号明細書
【文献】米国特許出願公開第2008/0173488号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/0236162号明細書
【文献】欧州特許第2623353号明細書
【文献】欧州特許第1939026号明細書
【文献】欧州特許第1939027号明細書
【文献】中国特許第106207044号明細書
【文献】中国実用新案第205930892号明細書
【文献】欧州特許第2766247号明細書
【文献】中国特許出願公開第108342627号明細書
【文献】中国特許出願公開第107201464号明細書
【文献】中国特許出願公開第107760162号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1698710号明細書
【発明の概要】
【0013】
本発明は、電気またはハイブリッド自動車両用のバッテリボックスの底部部分を改良するために開発されたものである。バッテリボックスの底部部分は、シートまたは押出し型材で作製され得る。シートは、深絞りを用いて得られる複雑な底部形状と高い保護性のある空間とを提供するが、押出し型材は、高い剛性とバッテリエンクロージャの底部における冷却を完全にする実現性とを可能にする。本発明は、軽量性、耐侵入性、耐漏洩性のボックスを提供するのに十分な成形性および封止性、耐腐食性、温度変動に対応する能力、十分な剛性および強度という、その多くが対立するものである特性を同時に有する底部部分用のシート製品に関する。
【0014】
本発明の目的は、2~6mmの厚みを有するアルミニウム合金シート製の電気またはハイブリッド自動車両用のバッテリボックスの底部部分において、前記アルミニウム合金が、2.5~4.0重量%のMg、0.1~0.8重量%のMn、0.4重量%以下のSi、0.5重量%以下のFe、0.5重量%以下のCu、0.1重量%以下のCr、0.1重量%以下のZn、0.1重量%以下のTi、各々最大0.05重量%でかつ合計0.15重量%の不可避的不純物、および残余のアルミニウムを含んでいるバッテリボックスの底部部分にある。
【0015】
本発明の別の目的は、本発明に係るバッテリボックスの底部部分の製造方法において、
- 2.5~4.0重量%のMg、0.1~0.8重量%のMn、0.4重量%以下のSi、0.5重量%以下のFe、0.5重量%以下のCu、0.1重量%以下のCr、0.1重量%以下のZn、0.1重量%以下のTi、各々最大0.05重量%でかつ合計0.15重量%の不可避的不純物、および残余のアルミニウムを含むアルミニウム合金を調製するステップと、
- 前記アルミニウム合金を圧延インゴットへと鋳造するステップと、
- 前記圧延インゴットを均質化および/または再加熱するステップと、
- 2mm~6mmの厚みを有するシートを得るために、前記圧延インゴットを熱間圧延し任意には冷間圧延するステップと、
を連続的に含む方法にある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】電気またはハイブリッド自動車両用のバッテリボックスの分解組立図である。
【
図3】合金Aと合金Bについての中心位置における力と変位に関する曲線の一例を示す。
【
図4】合金Aおよび合金Bについての隅位置における力と変位に関する曲線の一例を示す。
【
図5】中心位置最大力と隅位置最大力に関するグラフにおける、合金Aおよび合金Bの位置付けを示す。
【
図6】質別H2X(200℃)についての中心位置最大力と隅位置最大力に関するグラフにおける、合金Aおよび合金Bの位置付けを示し、mm単位の厚みはデータ点の上方に表示されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下で言及されている全てのアルミニウム合金は、別段の記載の無いかぎり、アルミニウム協会が定期的に発行している登録記録シリーズ内で当協会が定義している規則および名称を用いて呼称されている。
【0018】
言及されている冶金学的質別は、欧州規格EN-515(1993)を用いて呼称される。
【0019】
全ての合金組成は、重量%(wt.%)で提供される。
【0020】
別段の記載の無いかぎり、静力学的特性、すなわち極限引張強度Rm、引張降伏応力Rp0.2、最大力における均一伸びAgおよび破断伸びAは、NF EN ISO 6892-1(2016)規格に準じた引張試験によって決定され、部片の採取場所およびそれらの方向は、EN 485(2016)規格に定義されている。
【0021】
別段の規定の無いかぎり、EN 12258(2012)規格の定義が適用される。詳細には、シートは矩形断面および6.35mm未満0.15mm以上の公称厚みを有し、切込みの入った、せん断されたまたは鋸引きされた縁部を有する圧延品である。
【0022】
図1に例示されているように、電気またはハイブリッド自動車両用バッテリボックスは、底部部分21、底部部分の外周縁部部分上に位置付けされるように形成された外周フレーム22、および上方から周囲フレーム上に設置されるトッププレートまたはカバー23を含む。外周フレームは、一般に、アセンブリの耐性、および底部部分と周囲フレームの間の縁部の封止を保証するため、溶接またはボンディングなどの組立て手段によって底部部分に接合される。外周フレームは、平面図で全体に凸状の多角形形状を有する。トップカバーは、リベットまたはねじなどの組立て手段によって周囲フレームに組立てられ、同様に封止され得る。
【0023】
底部部分の耐侵入性を評価するために、特定の侵入試験が設計された。シート材料の耐侵入性を評価する目的で、底部プレートの2つの重大な構成が考えられ、それらは外周フレームに近い浸入、そして外周フレームから遠い侵入である。フレームの近くでは、機械的システムは剛性を有し、侵入中シートのわずかな変形しか許さない。したがって、材料の破損が最も有力な損傷メカニズムである。フレームから遠い中心位置において、システムは弾性的に挙動し、柔軟で可塑性の変形が可能であり、これはバッテリモジュールとシートの高い接触リスクを導く。試験は、静的載荷装置Zwick400上で実施される。
図2に例示されているように、シート13は、30mmの幅を有する上部および下部鋼製フレーム11の間に挟持され、数個のねじ12で固定される。シート内への侵入を行うため、機械上には丸味のある縁部(r=1.5mm)と19.6mmの直径を有する円筒形ポンチが固定される。ポンチに加えられる力およびその変位が測定される。フレームは、例えば同じシート上の2つの位置、中心基準位置1および隅基準4位置を試験するために移動され得る。
図2を参照されたい。試験中のポンチの全変位は、底部プレートとバッテリの間の典型的空間を表わすように選択された15mmの距離に設定される。試験は、準静的条件下で行われる。シート素材の最大強度は、1.5tの荷重を考慮して底部プレート内への物体の侵入について評価される。
【0024】
図3~5中には、4mmの厚みでの2つの5XXX合金についての侵入試験結果の一例が提示されている。2つの材料の侵入挙動をランク付けするため、試験から以下の値を得る。
- 中心位置について:ポンチの15mmの変位における力、この位置では、
図3が例示する通り、いかなる破断も観察されず、この値は中心位置最大力と呼ばれ、kN単位で表現される。
- 隅位置について:破断の瞬間において、または
図4に例示されているような最大変位中にシートが破断に耐える場合には15mmにおいて達成される最大力値、この値は隅位置最大力と呼ばれ、kN単位で表現される。
【0025】
最後に、
図5に例示されているように、x軸に中心位置最大力、およびy軸に隅位置最大力を有するプロットの形で結果が提示される。
【0026】
本発明によると、2~6mmの厚みを有するアルミニウム合金シート製の電気またはハイブリッド自動車両用のバッテリボックスの底部部分において、前記アルミニウム合金が、2.5~4.0重量%のMg、0.1~0.8重量%のMn、0.4重量%以下のSi、0.5重量%以下のFe、0.5重量%以下のCu、0.1重量%以下のCr、0.1重量%以下のZn、0.1重量%以下のTi、各々最大0.05重量%でかつ合計0.15重量%の不可避的不純物、および残余のアルミニウムを含んでいるバッテリボックスの底部部分が提供されている。
【0027】
詳細には、本発明者らは、本発明に係るシートが、中心および隅位置最大力で表される侵入特性と、硝酸質量損失試験(NAMLT)により測定されたシートの耐粒界腐食性で表される腐食特性との改善された組合せを提供することを発見した。
【0028】
本発明に係るシートは、2.5~4.0重量%のMg含有量を有する5XXXシリーズの合金で製造される。Mg含有量が2.5重量%よりも低い場合、侵入特性は不十分であり、一方Mg含有量が4.0重量%超である場合、耐腐食性は不十分である。好ましくは、Mg含有量は2.8~3.6重量%、好適には3.0~3.4重量%であり、さらに一層好ましくは3.1~3.3重量%である。詳細には侵入および腐食特性の間のバランスは、選択された質別によって左右されるが、Mg含有量が本発明に係る範囲内にない場合、選択されたいずれの質別についても、バランスは満足のいくものではない。
【0029】
Mn含有量は0.1~0.8重量%である。Mn含有量が0.1重量%より低い場合、侵入特性は不十分である。好ましくは、Mn含有量は、詳細には侵入特性を再び改善するために、0.5~0.7重量%、好適には0.51~0.61重量%である。
【0030】
Si含有量は、有利には0.1~0.3重量%、好ましくは0.10~0.25重量%である。
【0031】
Fe含有量は、有利には0.1~0.4重量%、好ましくは0.15~0.35重量%である。
【0032】
Cu含有量は、有利には0.05~0.2重量%、好ましくは0.06~0.15重量%である。
【0033】
Crおよび/またはZn含有量は、有利には多くとも0.05重量%、好ましくは多くとも0.03重量%である。Ti含有量は、有利には0.01~0.08重量%である。
【0034】
Si、Fe、Cu、Cr、Znおよび/またはTiについての好ましい含有量は特に、詳細には侵入および腐食特性間のバランス、ならびに成形性、剛性および強度を改善するように選択される。
【0035】
合金の調製後、典型的には垂直型半連続鋳造によって、圧延インゴットが得られる。インゴットは、その後任意には均質化される。
【0036】
均質化が実施される場合、好ましくは選択される温度は、少なくとも12時間の持続時間にわたり、535℃~550℃である。しかしながら、本発明者らは、意外にも均質化が無くても優れた結果が得られる、ということを発見した。一実施形態においては、均質化ステップは実施されないが、熱間圧延の前に500℃~550℃の温度での単純な再加熱が実施される。
【0037】
均質化および/または再加熱の後、前記インゴットは熱間圧延され、任意には冷間圧延されて、2mm~6mmの厚みのシートを提供する。好ましくは、最終焼鈍の後の所望の微細構造を得る目的で、冷間圧延ステップが行なわれる。
【0038】
シートは、冷間圧延時に質別H19、最低強度まで焼鈍されて質別O、またはひずみ硬化され不完全焼鈍されて質別H2Xにあって良い。好ましくは、シートは質別H2Xで使用される。好ましくは、300℃超の温度で質別Oを得るための焼鈍が実施される。同じ厚みで、シートの対応する質別Oを基準として、機械的特性を調整することによって、好ましい質別H2Xをさらに定義することができる。有利には、LT方向で、シートの極限引張強度Rmは、質別Oにあるシートの極限引張強度よりも少なくとも25%、好適には少なくとも35%、そして好ましくは少なくとも40%高く、かつ/またはシートの引張降伏強度Rp0.2は、質別Oにあるシートの引張降伏強度よりも少なくとも115%、好適には少なくとも125%、そして好ましくは少なくとも135%高い。有利には、質別H2Xで、シートの最大力における均一伸びAgの百分率は、6%~15%、好ましくは7.5~10%である。
【0039】
第1の実施形態において、好ましい質別H2Xを得るための焼鈍は、180℃~270℃の温度、そして好適には180℃~240℃の温度で実施される。好ましくは、焼鈍時間は、2時間未満、好適には1時間未満である。一実施形態において、質別H2Xは、浸漬時間無しで所望の温度まで加熱することにより得られる。この第1の実施形態は典型的には、バッチ焼鈍によって、好ましくは制御された不活性雰囲気下で達成される。
【0040】
第2の実施形態において、好ましい質別H2Xを得るための焼鈍は、連続焼鈍炉を用いて達成され、ライン速度および焼鈍温度は、目標の機械的特性を得るよう適応される。連続焼鈍炉で好ましい質別H2Xを得るための典型的なピーク金属温度(PMT)範囲は、250℃~400℃、好ましくは300℃~350℃である。
【0041】
焼鈍の後、組立て作業および/または仕上げ、そして特に接着剤ボンディングおよび/または溶接および/または腐食保護、例えば塗装、に適応されたシートの表面処理が、有利であり得る。詳細には、初期不動態膜を、他の保護金属元素を含むパッシベーション膜によって置換する化成処理皮膜の形成は、有利な表面処理である。したがって、詳細には、クロメートを含有する処理剤または好ましくは、ジルコニウム、チタン、酸化状態IIIのクロム、セリウム、バナジウム、モリブデン、マンガンからなる群の中の少なくとも1つの元素を含有するアニオンを含む処理剤を用いて実施される化成処理被膜が、適用可能である。好ましい処理剤は、環境上の理由からクロムを含まず、有機リン、シランおよび誘導体、チタンおよび/またはジルコニウムなどの元素を使用する。好ましい実施形態において、これらの各元素が各面上に2~8mg/m2ある状態で、TiとZrを含有する化成処理皮膜が提供される。
【0042】
連続焼鈍炉の使用により、焼鈍の直後にライン内でコイリングの前に表面調整を適用できるという利点が得られる。表面調整は同様に、専用の表面処理ラインを用いて、バッチ焼鈍の後に別個に適用することもできる。
【0043】
最後に、シートはサイズに合わせて切断され、任意には、バッテリボックスの底部部分を得るように成形される。
【0044】
本発明のバッテリボックスの底部部分は、その侵入特性および耐腐食性特性のため、特に有利である。詳細には、ASTM G67規格に準じて硝酸質量損失試験NAMLTによって測定された本発明に係るシートの耐粒界腐食性は、3mg/cm2未満、そして130℃で17時間の時効後に5mg/cm2未満である。
【0045】
本発明に係る製品では、厚みが削減されたシートを使用することが可能である。詳細には、本発明によると、シートが多くとも3.5mmの厚みを有し、kN単位で表わされた中心位置最大力および隅位置最大力が少なくとも14kN、好ましくは少なくとも14.5kN、そしてより好ましくは少なくとも15kNであるバッテリボックスの底部部分が提供される。
【0046】
本発明はここでは、実際の実践においてこのような発明を実施する最良の形態として現在企図されているその実施形態を基準にして、例示され説明されているものの、本明細書中で開示され以下のクレームに包合されているより広い発明力ある概念から逸脱することなく、本発明を異なる実施形態に適応する上でさまざまな変更がなされることが可能である、ということを理解すべきである。
【実施例】
【0047】
この実施例においては、表1に開示されている組成を有する圧延インゴットからできたいくつかのシートを調製した。合金AおよびBは、本発明に係るものである。圧延インゴットを少なくとも1時間、510℃~545℃の温度で再加熱し、2~5mmの最終厚みを有するシートへと熱間圧延し冷間圧延した。
【0048】
その後シートを、合金A、BおよびDについては350℃で1時間、合金Cについては320℃で1時間、質別Oまで焼鈍するか、または、255℃で0.5時間の焼鈍もしくは200℃での焼鈍(浸漬時間無しで温度まで加熱)によって質別H2Xまで焼鈍するか、または質別H19に保った(冷間圧延状態)。
【0049】
【0050】
当事者にとっては公知の方法を用いて、横断方向で、引張降伏強度Rp0.2、極限引張強度Rm、最大力における均一伸びAgの百分率および破断伸びAの百分率を決定した。引張試験は、ISO/DIS 6892-1に準じて行った。結果を表2に提供する。
【0051】
【0052】
ASTM G67規格に準じて硝酸質量損失試験(NAMLT)により、シートの耐粒界腐食性を測定した。質量損失試験の結果は、本発明に係るシートについて、3mg/cm2未満であり、130℃で17時間の時効後5mg/cm2未満である。結果を表3に開示する。
【0053】
【0054】
中心位置最大力および隅位置最大力を、先に説明したとおりに特徴付けした。結果を表4に提供する。
図6は、合金AおよびBについて質別H2X(200℃)で得た結果を例示している。シート厚みは、記号の上方に提供されている。この好ましい質別においては、合金Bに比べ合金Aを使用することが有利であり、なおも有意な耐侵入性を維持しながら、シートの厚みを削減することが可能である。
【0055】
【符号の説明】
【0056】
11 鋼製フレーム
12 ねじ
13 シート
21 底部部分
22 外周フレーム
23 トッププレートまたはカバー