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特許7546594チタン基材及びチタン合金基材の表面改質方法
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  • 特許-チタン基材及びチタン合金基材の表面改質方法 図1
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  • 特許-チタン基材及びチタン合金基材の表面改質方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】チタン基材及びチタン合金基材の表面改質方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20240830BHJP
   C23C 4/06 20160101ALI20240830BHJP
   C23C 8/24 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C23C26/00 E
C23C4/06
C23C8/24
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021562076
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-22
(86)【国際出願番号】 IB2020053580
(87)【国際公開番号】W WO2020212883
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】2019901347
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】521455062
【氏名又は名称】カリダス ウェルディング ソリューションズ ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ファビアニッチ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ランツケ,ゲーリー
(72)【発明者】
【氏名】エリス,ジョセフ
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-270277(JP,A)
【文献】特開昭62-056561(JP,A)
【文献】特開平03-068786(JP,A)
【文献】Vahedi Nemani Alireza, Sohi M. Heydarzadeh, Amadeh A. A. , Ghaffari Mahya,Liquid phase surface nitriding of Ti-6Al-4V pre-placed with chromium,Materials Chemistry and Physics,NL,2016年08月01日,Vol. 178,p.98-103
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
C23C 4/06
C23C 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金の基材の表面改質方法であって、
溶射により前記基材の表面にベータ安定剤を堆積し、前記基材の前記表面に被覆を生成することと、
窒素の存在下で前記基材及び前記被覆を表面溶融し、前記基材と識別可能な表面層を生成することと、
を含み、
前記方法は、高圧酸浸出(HPAL)又は圧力酸化(POX)湿式冶金プロセスの腐食環境における使用のために改善された耐摩耗性及び耐食性を有するチタン又はチタン合金の前記基材を提供する、方法。
【請求項2】
前記ベータ安定剤が、ベータ同形元素又はベータ共析元素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶射が、大気プラズマ溶射により実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記表面溶融が、ガスタングステンアーク溶接又はレーザー加工により実施される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
[0001] 本発明は、チタン基材及びチタン合金基材の表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
[0002] チタン及びチタン合金は、さまざまな苛酷な環境でそれらの比強度が良好で且つ耐食性が優れていることから、多くの工学用途に広く使用されている。しかしながら、耐摩耗性が乏しいため、多くの工学用途でそれらの使用が制限されてきた。表面改質は、性能を改善するために又は新しい用途への道を開くためにチタン及びチタン合金の表面硬度及び耐摩耗性を増加させる方法である。
【0003】
[0003] 表面窒化は、耐食性に有意な影響を及ぼすことなくチタン及びチタン合金の硬度及び耐摩耗性を増加させる確立された表面改質方法である。典型的には、窒化は、ガス状窒素源に由来する窒素中でのチタン又はチタン合金の表面富化(enrichment of the surface)に関与する。チタン表面への窒素富化(enrichment of nitrogen)は、表面でのイオン注入や窒素リッチガス(たとえばアンモニア)の熱不均一分解など、拡散ベースでありうる。他の窒化プロセスは、溶融チタンと窒素との反応により固化後に窒素リッチ表面をもたらす、窒素リッチ雰囲気中でのチタンの制御表面溶融に基づく。表面溶融のエネルギー源は、レーザーベース又はアーク放電/プラズマアークベースでありうる。一般的には、拡散ベースプロセスは、薄い窒化物層(<1mm)を生成するが、表面溶融ベースプロセスは、かなり厚い窒化物の表面改質、たとえば10mmまでの厚さを生成可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
[0004] 以上の背景を考慮すると、改善された性質たとえば改善された耐摩耗性や耐食性などを有するチタン基材及びチタン合金基材をもたらす代替表面改質方法の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
要約
[0005] 第1の態様では、本発明は、
(a)チタン基材又はチタン合金基材の表面に少なくとも1種のベータ相安定剤を適用(applied)することと、
(b)チタンと少なくとも1種のベータ相安定剤とを合金化するために表面を加熱することと、
を含む、チタン基材又はチタン合金基材の表面改質方法を提供する。
【0006】
[0006] チタン合金は、アルファ、ベータ、アルファ-ベータ、又はニアアルファ(near-alpha)合金でありうる。
【0007】
[0007] チタン合金は、グレード5(Ti-6Al-4V)合金又はグレード12合金でありうる。
【0008】
[0008] チタンはグレード2チタンでありうる。
【0009】
[0009] ベータ相安定剤は、ベータ同形元素(beta isomorphous element)又はベータ共析元素(beta-eutectoid element)でありうる。
【0010】
[0010] ベータ同形元素は、タングステン、バナジウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、又はそれらのいずれかの組合せでありうる。一実施形態では、ベータ同形元素は、タンタル、ニオブ、又はモリブデンである。
【0011】
[0011] ベータ共析元素は、クロム、鉄、銅、ケイ素、マンガン、又はそれらのいずれかの組合せでありうる。一実施形態では、ベータ共析元素は、銅、ケイ素、又はマンガンである。
【0012】
[0012] ベータ相安定剤は、ベータ相安定剤元素(beta phase stabiliser element)を含む化合物でありうる。
【0013】
[0013] ベータ相安定剤元素を含む化合物は、炭化物、酸化物、又は金属間化合物でありうる。
【0014】
[0014] ベータ相安定剤元素を含む化合物は炭化タングステンでありうる。
【0015】
[0015] 工程(a)は、少なくとも1種のベータ相安定剤と共に表面にチタンを適用することをさらに含みうる。
【0016】
[0016] 工程(a)は、少なくとも1種のベータ相安定剤と共に表面にTiC又はTiNを適用することをさらに含みうる。
【0017】
[0017] 工程(a)は、電解めっき (electrodeposition)、無電解めっき(electroless deposition)、溶射(thermal spraying)、スラリー被覆(slurry coating)、ワイヤ堆積(wire deposition)、化学蒸着、物理蒸着、又はプラズマ蒸着(plasma vapour deposition)により実施されうる。
【0018】
[0018] 工程(a)は、大気プラズマ溶射(atmospheric plasma spraying; APS)により実施されうる。
【0019】
[0019] 工程(b)は、表面をアーク放電(electric arc)又はプラズマアーク(plasma arc)に供することにより実施されうる。
【0020】
[0020] 工程(b)は、表面を窒化するために窒素の存在下で行われうる。
【0021】
[0021] 窒素は窒素ガスでありうる。
【0022】
[0022] 工程(b)は、表面を窒化するために窒素ガス及び不活性ガスの存在下で行われうる。
【0023】
[0023] 不活性ガスはアルゴンでありうる。
【0024】
[0024] 工程(a)及び(b)は同時に行われうる。
【0025】
[0025] 本方法は複数の窒化工程を含みうる。
【0026】
[0026] 第1の態様のある実施形態では、本発明は、
(a)チタン基材又はチタン合金基材の表面に少なくとも1種のベータ相安定剤を適用することと、
(b)表面を窒化するとともにチタンと少なくとも1種のベータ相安定剤とを合金化するために窒素の存在下で表面を加熱することと、
を含む、チタン基材又はチタン合金基材の表面改質方法を提供する。
【0027】
第1の態様の他の一実施形態では、本発明は、
(a)チタン基材又はチタン合金基材の表面を窒化することと、
(b)チタン基材又はチタン合金基材の表面に少なくとも1種のベータ相安定剤を適用することと、
(c)チタンと少なくとも1種のベータ相安定剤とを合金化するために表面を加熱することと、
を含む、チタン基材又はチタン合金基材の表面改質方法を提供する。
【0028】
[0028] 工程(c)は、表面を窒化するために窒素の存在下で行われうる。
【0029】
[0029] 窒素は窒素ガスでありうる。
【0030】
[0030] 工程(c)は、表面を窒化するために窒素ガス及び不活性ガスの存在下で行われうる。
【0031】
[0031] 不活性ガスはアルゴンでありうる。
【0032】
[0032] 第1の態様の他の一実施形態では、本発明は、
(a)チタン基材又はチタン合金基材の表面に少なくとも1種のベータ相安定剤及びTiC又はTiNの少なくとも1種を適用することと、
(b)チタンと少なくとも1種のベータ相安定剤とを合金化するために表面を加熱することと、
を含む、チタン基材又はチタン合金基材の表面改質方法を提供する。
【0033】
[0033] 少なくとも1種のベータ相安定剤及びTiC又はTiNの少なくとも1種は、同時に適用されうる。
【0034】
[0034] 少なくとも1種のベータ相安定剤及びTiC又はTiNの少なくとも1種は、APSにより適用されうる。
【0035】
[0035] 工程(b)は、不活性雰囲気中たとえばアルゴン下などで行われうる。
【0036】
[0036] 第2の態様では、本発明は、第1の態様の方法により得られる、あらゆる(whenever obtained)、表面改質されたチタン基材又はチタン合金基材を提供する。
【0037】
図面の簡単な説明
[0037] 次に、単なる例にすぎないが添付の図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】[0037]表1に列挙される実施例1~3の表面領域のマイクロ構造を示す走査電子顕微鏡画像である。
図2】[0037]表1に列挙される実施例1~3の表面領域の相成分及び分率を示すグラフである。
図3】[0037]表1に列挙される実施例1~3の表面領域の硬度プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
実施形態の説明
[0038] 第1の態様では、本発明は、
(a)チタン基材又はチタン合金基材の表面に少なくとも1種のベータ相安定剤を適用することと、
(b)チタンと少なくとも1種のベータ相安定剤とを合金化するために表面を加熱することと、
を含む、チタン基材又はチタン合金基材の表面改質方法を提供する。
【0040】
[0039] ベータ相安定剤は、ベータ同形元素又はベータ共析元素でありうる。ベータ同形元素は、ベータチタンへの完全相互溶解性(complete mutual solubility)を呈し、一方、ベータ共析元素は、ベータチタンへの制限された溶解性を有するとともにベータ相の共析分解(eutectoid decomposition)により金属間化合物を形成する。本方法に使用するのに好適なベータ同形元素の例としては、限定されるものではないが、タングステン、バナジウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、又はそれらのいずれかの組合せの1つ以上が挙げられる。本方法に使用するのに好適なベータ共析元素の例としては、限定されるものではないが、クロム、鉄、銅、ケイ素、マンガン、又はそれらのいずれかの組合せが挙げられる。一実施形態では、ベータ共析元素は銅である。
【0041】
[0040] 代替実施形態では、ベータ相安定剤は、ベータ相安定剤元素を含む化合物、たとえば、炭化物、酸化物、金属間化合物などである。ベータ相安定剤元素は、チタンのベータ相を安定化可能ないずれかの元素、たとえば、本明細書に定義されるベータ同形元素又はベータ共析元素でありうる。一実施形態では、ベータ相安定剤元素を含む化合物は炭化タングステンである。
【0042】
[0041] チタン基材又はチタン合金基材の表面に少なくとも1種のベータ相安定剤を適用する工程は、表面にチタン又はチタン合金を適用することをさらに含みうる。
【0043】
[0042] チタン基材又はチタン合金基材の表面に少なくとも1種のベータ相安定剤を適用することは、基材の表面上にベータ相安定剤を堆積するいずれかの方式で行われうる。模範的技術としては、限定されるものではないが、電解めっき、無電解めっき、溶射、スラリー被覆、ワイヤ堆積、化学蒸着、物理蒸着、及びプラズマ蒸着が挙げられる。
【0044】
[0043] 溶射には、プラズマ溶射(plasma spraying)、デトネーション溶射(detonation spraying)、ワイヤアーク溶射(wire arc spraying)、フレーム溶射(flame spraying)、高速オキシ燃料被覆溶射(high velocity oxy-fuel coating spraying)、高速空気燃料溶射(high velocity air fuel spraying)、ウォーム溶射(warm spraying)、及びコールド溶射(cold spraying)をはじめとするいくつかのバリエーションが存在する。一実施形態では、少なくとも1種のベータ相安定剤は、大気プラズマ溶射(APS)を用いてチタン基材又はチタン合金基材の表面への適用が実施される。
【0045】
[0044] 少なくとも1種のベータ相安定剤は、約50ミクロン~約500ミクロン、又は約75ミクロン~約500ミクロン、又は約100ミクロン~約500ミクロン、又は約100ミクロン~約400ミクロン、又は約150ミクロン~約400ミクロンの厚さでチタン基材又はチタン合金基材の表面に適用されうる。
【0046】
[0045] チタン又はチタン合金と少なくとも1種のベータ相安定剤とを合金化するために表面を加熱することは、チタンと少なくとも1種のベータ相安定剤とを合金化するのに十分なエネルギー密度を有するいずれかのプロセスにより達成されうる。いくつかの実施形態では、加熱することは、表面をアーク放電又はプラズマアークに供することにより実施される。プラズマアークは、プラズマアーク溶接機から得られうる。ガスタングステンアーク溶接機(gas tungsten arc welder)からのアーク放電で表面を加熱することは、チタンと少なくとも1種のベータ相安定剤とを合金化する費用効果的且つ単純な方法であることが、本出願人により見いだされた。代替実施形態では、チタン又はチタン合金と少なくとも1種のベータ相安定剤とを合金化するためにレーザーが使用されうる。
【0047】
[0046] いくつかの実施形態では、チタンと少なくとも1種のベータ相安定剤とを合金化するために表面を加熱することは、表面を窒化するためにも窒素の存在下で実施されうる。たとえば、表面は、窒素ガスの存在下で加熱されうる。いくつかの実施形態では、表面は、窒素ガス及び不活性ガスたとえばアルゴンなどの存在下で加熱されうる。窒化チタン層中さらにはマイクロ構造中のTiN相とTiN相との相対割合を制御するために、窒素ガスと不活性ガスとの相対割合が選択されうる。窒素ガス対不活性ガスの好ましい相対割合は、特定用途に依存するであろうが、典型的には、体積パーセント基準で90:10~20:80、又は80:20~70:30の範囲内である。
【0048】
[0047] いくつかの実施形態では、本方法は、少なくとも1種のベータ相安定剤の適用前に1つ以上の窒化工程を含みうる。これらの実施形態では、本方法の最終工程は、典型的には、少なくとも1種のベータ相安定剤と窒素富化されたチタン基材又はチタン合金基材とを合金化するために表面を加熱することである。代替的に、表面をさらに窒化することが望まれる場合、最終工程は、表面をさらに窒化するとともにチタンと少なくとも1種のベータ相安定剤とを合金化するために窒素の存在下で表面を加熱することに関与しうる。
【0049】
[0048] 窒素ガス対不活性ガスの組成が各工程で異なるマルチ工程窒化は、ある特定の摩耗クリティカル用途に有用でありうる窒化物グラジエントの達成を可能にする。
【0050】
[0049] 少なくとも1種のベータ相安定剤は、TiC又はTiNの少なくとも1種と共に適用されうる。一実施形態では、少なくとも1種のベータ相安定剤及びTiC又はTiNの少なくとも1種は、表面に同時に適用されうる。これは、たとえば、プラズマトランスファーアーク(PTA)などの熱源中にTiN又はTiCとベータ相安定剤との混合物を供給することと(両方とも粉末形態で)、チタン基材又はチタン合金基材上の被覆の溶融、合金化、及び冶金融合を行うことと、により達成されうる。一実施形態では、TiN又はTiCとベータ相安定剤との粉末状混合物は、APSを用いてチタン基材又はチタン合金基材上に溶射されうるとともに、表面は、ベータ相安定剤とタンタルとを合金化するために加熱されうる。
【0051】
[0050] 他の一実施形態では、工程(a)及び(b)は同時に行われうる。たとえば、ベータ相安定剤は、APSを用いてチタン基材又はチタン合金基材上に溶射されうるとともに、表面は同時に加熱されうる。表面窒化も望まれる場合、加熱することは窒素雰囲気中で実施可能である。
【0052】
[0051] 当業者であれば、本明細書に開示される方法が非合金チタン及びチタン合金を含む広範にわたる基材に適用可能であることは分かるであろう。非合金チタンの例としては、限定されるものではないが、グレード1、2、2H、及び3が挙げられる。チタン合金は、アルファ、ベータ、アルファ-ベータ、又はニアアルファ合金のいずれも含む。いくつかの実施形態では、チタン合金は、グレード5(Ti-6Al-4V)又はグレード12合金である。Ti-6Al-4Vは、航空機及びエンジンの製造で、さらには海洋産業及び鉱業産業で、たとえば、ブレード、ディスク、リング、エアフレーム、ファスナー、及びハブに広く使用されている。
【0053】
[0052] 本方法の実施前、チタン基材又はチタン合金基材は、原料の状態、製造されたままの状態、又は表面改質前の状態、たとえば、焼鈍、時効硬化、加工硬化、又は窒化を介した状態でありうる。
【0054】
[0053] 窒化などの以前に提案された方法と比較したとき、本方法は、高硬度且つ改善された破壊靭性と有意に低減された熱応力誘起亀裂傾向(thermal stress induced cracking tendency)を有して、表面に高リファイン樹状マイクロ構造(highly refined dendritic microstructure)を提供すると考えられる。本方法は、硬質強化相のマイクロ構造リファインメント及び靭性ベータ相マトリックス相の形成に基づいて耐摩耗性及び耐食性の両方を改善することが示された。
【0055】
[0054] 本発明はまた、他の一態様では、第1の態様の方法によりいつでも得られる表面改質されたチタン基材又はチタン合金基材を提供する。
【0056】
[0055] 下記の実施例は、本発明を例示することを意図したものである。それらは、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【実施例
【0057】
実施例
[0056] 以下の表1は、代表的ベータ共析元素(実施例1)及び代表的ベータ同形元素(実施例2)で調製された実施例のチタン基材及びチタン合金基材の表面改質を詳述する。比較例(実施例3)として、厚さ15mmのTiグレード2プレート材料の窒化が提供される。実施例1~3では、表面溶融は、窒素(80体積%、残部アルゴン)の存在下でガスタングステンアーク溶接(GTAW)により実施された。同一基材材料で実施された実施例1及び2は、2工程プロセスである。実施例1及び2では、工程1は、代表的ベータ共析元素としてCuを含むAPS被覆(実施例1)及び結合成分又は希釈成分としてのTiと共に代表的ベータ同形元素としてWCを含有する化合物を含むAPS被覆(実施例2)に関与する。実施例1及び2では、APS被覆は100~400ミクロンの厚さであった。実施例1及び2では、工程2は、明記されたガス混合物の存在下でAPS層及び下側Ti基材を溶融する熱源としてGTAWを用いる窒化工程である。ここで提示されたガス混合物は、比較の便宜上、80体積%の窒素(残部はアルゴンである)に固定される。当業者であれば、窒化チタン相の量及び得られる改質層の硬度を効果的に制御するために他のガス混合物を適用可能であることは分かるであろう。
【0058】
【表1】
【0059】
[0057] 表1の実施例はすべて、図1(a)~(c)の走査電子顕微鏡画像に示されるように、基材と識別可能な表面層を生成した。層中に存在する相はすべて、X線回折により決定されて図2に提示される。実施例3は、TiN一次樹枝状晶(約53vol.%)と、TiNマトリックス相(約47vol.%)と、を含むマイクロ構造を生成した。実施例1は、微細TiN樹枝状晶(約33vol.%)と、CuTiのマトリックス相(約53vol.%)と、少量のTiN(約10vol.%)と、を含む表面層を形成した。実施例2は、TiNの微細一次樹枝状晶(約42vol.%)と、ベータチタンマトリックス相(約50%)と、APS被覆からのレムナント非溶融粉末か又は固化時に析出したかのどちらかの微細(<10ミクロン)WC相と、からなるマイクロ構造を生成した。
【0060】
[0058] 50gの負荷荷重を用いてビッカースマイクロ硬度試験により測定された硬度プロファイルが図3に示される。表1に列挙される実施例1~3はすべて、下側Tiグレード2基材と比べて硬度を実質的に増加させる。硬度は、表面から下側基材まで徐々に減少する。表1には、表面下100ミクロンの深さでの実施例1~3の改質表面の硬度がまとめられている。
【0061】
[0059] 表1はまた、窒化表面へのベータ安定化元素の添加が、良好な硬化効果を維持しつつ、表面改質の破壊靭性(KIC)に有益な影響を及ぼしたことを実証する。破壊靭性は、被覆の断面で行われるビッカース硬度インデント(Vickers hardness indent)のコーナーでクラック長さを測定することにより測定された(硬質被覆に対する通常の技術)。さらに、表面改質のクラック発生密度(cracking density)は、窒化物表面とベータ安定化元素との合金化により低減された(表1に示される通り)。いかなる特定理論にも拘束されることを望むものではないが、これは靭性ベータチタンマトリックス相の形成に帰属されうるとともに、この相は、Ti及びTi合金がベータ相安定剤富化(beta phase stabiliser enrichment)の不在下で同一プロセス条件下でGTAWにより窒化されたときに形成される、より脆性のTiNマトリックス相を置き換える。
【0062】
低及び高応力摩耗試験
[0060] 非改質Tiグレード2及び表1に列挙される実施例1~3のサンプルは、低応力耐摩耗性を定量するためのASTM G65ドライサンド/ゴムホイール試験法に付された。試験前、表面から直接50~100ミクロンを機械研磨により除去して、試験試料のフラット表面を形成した。被覆試料に対する標準手順(ASTM G65の「手順B」-200rpmで2000回転)に沿って130Nの荷重を適用し、摩耗サンド(abrading sand)の制御フロー(約500g/min)も供給した。試験の前及び後に微量天秤(±0.01g)で試験サンプルを秤量して質量損失を決定し、表面改質領域の測定密度を用いて体積損失に変換した。既知のジオメトリーの被覆の非常に小さなサンプルを作製することにより、密度を決定した。
【0063】
[0061] 非改質Tiグレード2及び表1に列挙される選択された変形形態のサンプルは、ASTM B611高応力摩耗試験に付された。試験前、表面から直接50~100ミクロンを機械研磨により除去して、試験試料のフラット表面を形成した。この試験では、シリカ粒子の水スラリー中に浸漬された回転AISI 1020スチールホイールに接する垂直位置にフラット試験試料を保持した。レバーアームにより190Nの力で試験試料を回転スチールホイールにプレスした。1000回転の持続時間及び100rpmの回転速度の試験に関与するASTM B611の「手順A」を利用した。試験の前及び後にサンプルを秤量することにより質量損失を計算した。質量損失を体積損失に変換して、耐摩耗性に関してサンプルをランク付けした。
【0064】
[0062] 摩耗データはすべて表2に示される。表面改質はすべて、低応力及び高応力アブレシブ摩耗試験の条件下で非改質Tiグレード2の摩耗率(wear rate)を低減する効果を有していた。実施例3と非改質Tiグレード2との比較は、低及び高応力アブレシブ摩耗率(abrasive wear rate)が窒化により減少したことを示す。窒化物表面へのベータ安定化元素の添加は、摩耗率に実質的影響を及ぼした。実施例3と比べて、低応力及び高応力アブレシブ摩耗率は、ベータ安定化元素の添加により低減された。いかなる特定理論にも拘束されることを望むものではないが、これは靭性ベータチタンマトリックス相(tough beta titanium matrix phase)の形成に帰属されうるとともに、この相は、Ti及びTi合金がベータ相安定剤富化の不在下で同一プロセス条件下でGTAWにより窒化されたときに形成される、より脆性のTiNマトリックス相を置き換える。
【0065】
【表2】
【0066】
高温硫酸腐食試験
[0063] 試験は、チタンが中程度の性能を提供することが知られる取組み困難な腐食環境での腐食挙動に対して、表1の実施例1~3に詳述されるプロセスの変形形態によるチタン基材の表面改質効果を評価するために行われた。これらの条件は、高圧酸浸出(HPAL)又は圧力酸化(POX)湿式冶金プロセスの使用条件に類似するように設計された。
【0067】
[0064] 99%硫酸の水性溶液中での腐食試験のために、Parr 4748大容量酸分解ベッセル(large capacity acid digestion vessel)を使用した。サンプルが被覆層のみからなるように、5mm×5mm×0.5mmの大きさの試験サンプルを表面改質基材から作製した。サンプルを超音波洗浄し、試験前に秤量し、次いで、Teflon(登録商標)ホルダーを用いてベッセル内に配置した。ベッセル容量の<50%(30mL)まで硫酸を満たしてシールし、そしてマッフル炉に移して200℃で7日間加熱した。サンプルを超音波洗浄し、完全に乾燥させ、そして腐食試験後に秤量した。質量損失を計算してmm/年に変換した。
【0068】
[0065] mm/年の腐食データはすべて、表3に示される。非改質Tiグレード2基材材料では、3.85±0.12mm/yrの腐食速度で均一全面腐食が観測された。窒化工程単独後に得られた基材では(実施例3、表1)、腐食速度は4.27±0.19mm/年(約11%)までわずかに増加したほか、孔食も顕在化した。窒化物表面へのベータ安定化元素の添加は、腐食速度に変動的影響を及ぼした。実施例3と比べて、腐食速度は、実施例2でのベータ安定化元素の添加により低減された。マトリックス相の選択腐食からなる全面腐食挙動(general corrosion behaviour)が観測された。いかなる特定理論にも拘束されることを望むものではないが、この試験環境での腐食挙動は、マトリックス相の合金化学により決定されうる。
【0069】
【表3】
【0070】
[0066] 本発明は、ここまでに与えられた実施例のみに限定されるものではない。言い換えると、以上の実施例で実際に使用されたものに対して本明細書のいずれかの位置に述べられた一般的又は具体的に記載のベータ相安定剤、プロセス条件、及びプロセス工程のシーケンスのいずれかを置き換えることにより、困難を伴うことなく同様に奏功して実施例を再現しうることは、当業者であれば分かるであろう。
【0071】
[0067] 本発明の実施形態は、改善された性質、たとえば、改善された耐摩耗性や耐食性などを有するチタン基材及びチタン合金基材を提供するのに一般的及び具体的の両方で有用な表面改質方法を提供する。
【0072】
[0068] 本明細書の目的では、「comprising(~を含む)」という語は、「including but not limited to(~を含むが、これらに限定されるものではない)」を意味するとともに、「comprises(~を含む)」という語は、対応する意味を有する。
【0073】
[0069] 以上の実施形態は、単なる例として記載されているにすぎず、以下の特許請求の範囲内で修正が可能である。
図1
図2
図3