(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びそれにより製造された成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 33/08 20060101AFI20240830BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20240830BHJP
C08L 57/00 20060101ALI20240830BHJP
C08K 3/10 20180101ALI20240830BHJP
C08K 3/16 20060101ALI20240830BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240830BHJP
C08K 9/12 20060101ALI20240830BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240830BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20240830BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C08L33/08
C08L51/04
C08L57/00
C08K3/10
C08K3/16
C08K3/22
C08K9/12
A01P1/00
A01N59/16 A
A01N59/16 Z
A01N25/10
(21)【出願番号】P 2021563369
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 KR2020005138
(87)【国際公開番号】W WO2020222449
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】10-2019-0050235
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520087103
【氏名又は名称】ロッテ ケミカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】イム,スン オ
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107603101(CN,A)
【文献】特開2005-179607(JP,A)
【文献】特開2018-104686(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0179314(US,A1)
【文献】特開平11-277991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/08
C08L 51/04
C08L 57/00
C08K 3/10
C08K 3/16
C08K 3/22
C08K 9/12
A01P 1/00
A01N 59/16
A01N 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹
脂100重量部;
ポリアルキル(メタ)アクリレート樹
脂50重量部
~150重量部;
銀(Ag)系化合
物0.1重量部
~3重量部;及び
酸化亜
鉛0.5重量部
~10重量部を含み、
前記酸化亜鉛は1次粒子及び2次粒子からなり、前記1次粒子の平均粒子径(D50)
が1nm
~50nmで、前記2次粒子の平均粒子径(D50)
が0.1μm
~10μmであ
り、
前記ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体及び芳香族ビニル系共重合体樹脂を含み、
前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体にアルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体がグラフト重合されており、
前記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体及び前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の重合体であることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記銀系化合物及び前記酸化亜鉛の重量比(銀系化合物:酸化亜鉛)は
、1:3
~1:7であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂は、重量平均分子量
が50,000g/mol
~150,000g/molであることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記銀系化合物は、金属銀、酸化銀、ハロゲン化銀及び銀イオンを含有する担持体の1種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法によって、5cm×5cmの大きさの試片に黄色ブドウ球菌及び大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、下記数式1に従って算出した抗菌活性値がそれぞ
れ2~7であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物:
【数1】
前記数式1で、M1はブランク(blank)試片に対する24時間培養後の細菌数で、M2は熱可塑性樹脂組成物試片に対する24時間培養後の細菌数である。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物はASTM D1003によって測定した2.5mm厚の試片のヘーズ(haze)
が1%
~5%で、光透過率
が88%
~93%であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂組成物は、下記数式2に従って算出したフロップインデックス(Flop Index)
が8~11であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物:
【数2】
前記数式2で、L
*
15°、L
*
45°及びL
*
110°は、それぞれ15°、45°及び110°の角度で分光光度計(spectrophotometer)を使用して測定した反射光のルミナンス(luminance,L
*)を意味する。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに1項に記載の熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びそれにより製造された成形品に関する。より具体的には、本発明は、抗菌性、熱安定性、透明性及び金属質感等に優れた熱可塑性樹脂組成物及びそれにより製造された成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、個人の健康と衛生に対する関心及び所得水準の向上に伴い、抗菌衛生機能が含まれた熱可塑性樹脂製品に対する要求が増加している趨勢にある。これにより、生活用品及び電子製品等の表面において菌を除去したり、抑制できる抗菌処理を施した熱可塑性樹脂製品が増えており、安定且つ信頼性を有する機能性抗菌素材(抗菌性熱可塑性樹脂組成物)の開発は非常に重要な課題となっている。
【0003】
このような抗菌性熱可塑性樹脂組成物を製造するためには、抗菌剤の添加が必ず必要であり、抗菌剤は有機抗菌剤と無機抗菌剤に分けることができる。
【0004】
有機抗菌剤は、相対的に価格が安く、少量でも抗菌効果が良いが、時には人体に毒性を有し、特定の菌に対してのみ効果がある場合があり、高温加工時には、分解されて抗菌効果が喪失するおそれがある。また、加工後に変色の原因になり得、溶出問題により抗菌持続性が短いという短所があるため、抗菌性熱可塑性樹脂組成物に適用できる有機抗菌剤の範囲は極めて限定的である。
【0005】
無機抗菌剤は、銀(Ag)、銅(Cu)等の金属成分が含有された抗菌剤であって、熱安定性に優れ、抗菌性熱可塑性樹脂組成物(抗菌性樹脂)の製造に多く使用されているが、有機抗菌剤に比べて抗菌力が不足するため過剰に添加する必要があり、相対的に高い価格と加工時の均一分散の問題や金属成分による変色等の短所があり、使用に多くの制約がある。
【0006】
また、熱可塑性樹脂組成物がルミナス素材に適用される場合は金属質感が重要になるが、ルミナス素材に既存の抗菌剤を適用すると、金属質感、透明性等が低下するおそれがある。
【0007】
よって、抗菌性、熱安定性、透明性及び金属質感等に優れた熱可塑性樹脂組成物の開発が必要な実情にある。
【0008】
本発明の背景技術は、韓国特許第10-0696385号等に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、抗菌性、熱安定性、透明性及び金属質感等に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供するためのものである。
【0010】
本発明の別の目的は、当該熱可塑性樹脂組成物から形成された成形品を提供するためのものである。
【0011】
本発明の上記及びその他の目的は、下記で説明する本発明によって全て達成できる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1.本発明の一つの観点は、熱可塑性樹脂組成物に関するものである。前記熱可塑性樹脂組成物は、ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂約100重量部;ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂約50重量部~約150重量部;銀(Ag)系化合物約0.1重量部~約3重量部;及び酸化亜鉛約0.5重量部~約10重量部を含み、前記酸化亜鉛は1次粒子及び2次粒子からなり、前記1次粒子の平均粒子径(D50)が約1nm~約50nmで、前記2次粒子の平均粒子径(D50)が約0.1μm~約10μmであることを特徴とする。
【0013】
2.前記1の具体例において、前記銀系化合物及び前記酸化亜鉛の重量比(銀系化合物:酸化亜鉛)は、約1:3~約1:7になり得る。
【0014】
3.前記1又は2の具体例において、前記ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体及び芳香族ビニル系共重合体樹脂を含み得る。
【0015】
4.前記1~3の具体例において、前記ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体にアルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体がグラフト重合されたものになり得る。
【0016】
5.前記1~4の具体例において、前記芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体及び前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の重合体になり得る。
【0017】
6.前記1~5の具体例において、前記ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂は、重量平均分子量が約50,000g/mol~約150,000g/molになり得る。
【0018】
7.前記1~6の具体例において、前記銀系化合物は、金属銀、酸化銀、ハロゲン化銀及び銀イオンを含有する担持体の1種以上を含み得る。
【0019】
8.前記1~7の具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z 2801抗菌評価法によって、5cm×5cmの大きさの試片に黄色ブドウ球菌及び大腸菌を接種し、35℃、RH90%の条件で24時間培養した後、下記数式1に従って算出した抗菌活性値がそれぞれ約2~約7になり得る:
【0020】
【0021】
前記数式1で、M1はブランク(blank)試片に対する24時間培養後の細菌数で、M2は熱可塑性樹脂組成物試片に対する24時間培養後の細菌数である。
【0022】
9.前記1~8の具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物はASTM D1003によって測定した2.5mm厚の試片のヘーズ(haze)が約1%~約5%で、光透過率が約88%~約93%になり得る。
【0023】
10.前記1~9の具体例において、前記熱可塑性樹脂組成物は、下記数式2に従って算出したフロップインデックス(Flop Index)が約8~約11になり得る:
【0024】
【0025】
前記数式2で、L*
15°、L*
45°及びL*
110°は、それぞれ15°、45°及び110°の角度で分光光度計(spectrophotometer)を使用して測定した反射光のルミナンス(luminance,L*)を意味する。
【0026】
11.本発明の他の観点は、成形品に関するものである。前記成形品は前記1~10のいずれかによる熱可塑性樹脂組成物から形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、抗菌性、熱安定性、透明性及び金属質感等に優れた熱可塑性樹脂組成物及びそれにより形成された成形品を提供できる発明の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[発明を実施するための最善の形態]
以下、本発明を詳しく説明する。
【0029】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、(A)ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂;(B)ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂;(C)銀(Ag)系化合物;及び(D)酸化亜鉛を含む。
【0030】
本明細書において、数値範囲を表す「a~b」は
【0031】
【0032】
と定義する。
【0033】
(A)ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂
本発明のゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂としては、通常の透明性熱可塑性樹脂組成物に使用されるゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂を使用することができ、例えば、(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体及び(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂を含み得る。
【0034】
(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体
本発明の一具体例にかかるゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、熱可塑性樹脂組成物の透明性、耐衝撃性、流動性等を向上させることができるものとして、ゴム質重合体にアルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体がグラフト共重合されたものになり得る。例えば、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム質重合体にアルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含む単量体混合物をグラフト共重合して得ることができ、必要に応じて、単量体混合物に加工性及び耐熱性を付与する単量体をさらに含んでグラフト重合することができる。重合は、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の公知の重合方法によって行うことができる。
【0035】
具体例において、ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリ(スチレン-ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン)等のジエン系ゴム及びジエン系ゴムに水素添加した飽和ゴム、イソプレンゴム、ポリブチルアクリル酸等のアクリル系ゴム及びエチレン-プロピレン-ジエン単量体の三元共重合体(EPDM)等を例示することができる。これらは単独で使用したり、2種以上混合して使用できる。例えば、ジエン系ゴムを使用することができ、具体的には、ブタジエン系ゴムを使用できる。
【0036】
具体例において、ゴム質重合体(ゴム粒子)の平均粒子径(Z-平均)は、約0.1μm~約0.5μm、例えば約0.2μm~約0.4μmになり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の透明性が低下することなく、耐衝撃性、耐熱性、流動性等に優れ得る。ここで、ゴム質重合体(ゴム粒子)の平均粒子径(Z-平均)は、ラテックス(latex)状態で光散乱(light scattering)方法を用いて測定することができる。具体的には、ゴム質重合体ラテックスをメッシュ(mesh)に濾して、ゴム質重合体重合中に生じる凝固物を除去し、ラテックス0.5g及び蒸留水30mlを混合した溶液を1,000mlフラスコに注ぎ、蒸留水を満たして試料を製造した後、試料10mlを石英セル(cell)に移し、これに対して光散乱粒度測定器(malvern社,nano-zs)でゴム質重合体の平均粒子径を測定できる。
【0037】
具体例において、ゴム質重合体の含量は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の全体100重量%中、約5重量%~約65重量%、例えば約10重量%~約60重量%になり得、単量体混合物(アルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を含む)の含量は、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体の全体100重量%中、約35重量%~約95重量%、例えば約40重量%~約90重量%になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、透明性、耐熱性、流動性等が優れ得る。
【0038】
具体例において、アルキル(メタ)アクリレートは、ゴム質共重合体にグラフト共重合されたり、芳香族ビニル系単量体等と共重合できるものとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等、炭素数1~10のアルキル(メタ)アクリレートを使用することができ、具体的には、メチル(メタ)アクリレート等を使用できる。アルキル(メタ)アクリレートの含量は、単量体混合物100重量%中、約55重量%~約85重量%、例えば約60重量%~約80重量%になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、透明性、耐熱性、流動性等が優れ得る。
【0039】
具体例において、芳香族ビニル系単量体は、ゴム質共重合体にグラフト共重合できるものとして、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレン等を使用することができる。これらは、単独で使用したり、2種以上を混合して使用できる。芳香族ビニル系単量体の含量は、単量体混合物100重量%中、約10重量%~約40重量%、例えば約15重量%~約35重量%になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、透明性、耐熱性、流動性等が優れ得る。
【0040】
具体例において、シアン化ビニル系単量体は、芳香族ビニル系と共重合可能なものとして、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、フマロニトリル等を例示できるが、これに制限されるのではない。これらは単独で使用したり、2種以上混合して使用できる。例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。シアン化ビニル系単量体の含量は、単量体混合物100重量%中、約1重量%~約30重量%、例えば約5重量%~約25重量%になり得る。上記範囲において、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、透明性、耐熱性、流動性等が優れ得る。
【0041】
具体例において、加工性及び耐熱性を付与するための単量体としては、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、N-置換マレイミド等を例示できる。加工性及び耐熱性を付与するための単量体を使用する際、その含量は単量体混合物100重量%中、約15重量%以下、例えば約0.1重量%~約10重量%になり得る。上記範囲で、他の物性が低下することなく、熱可塑性樹脂組成物に加工性及び耐熱性等を付与することができる。
【0042】
具体例において、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体としては、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(g-MABS)等を例示することができる。ここで、g-MABSは、ゴム質重合体(コア,core)であるポリブタジエン(PBD)と、コアにグラフト共重合されたメチルメタクリレート-アクリロニトリル-スチレン共重合体シェル(shell)からなるものになり得、シェルは、アクリロニトリル-スチレン樹脂からなる内部シェルとポリメチルメタクリレートからなる外部シェルを含み得るが、これに限定されるのではない。
【0043】
具体例において、ゴム変性ビニル系グラフト共重合体は、ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂100重量%中、約5重量%~約60重量%、例えば約10重量%~約50重量%で含むことができる。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物の透明性、耐衝撃性、耐熱性、流動性、これらの物性バランス等が優れ得る。
【0044】
(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂
本発明の一具体例にかかる芳香族ビニル系共重合体樹脂は、通常のゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂に使用される芳香族ビニル系共重合体樹脂になり得る。例えば、芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体等の芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体を含む単量体混合物の重合体になり得る。
【0045】
具体例において、芳香族ビニル系共重合体樹脂は、芳香族ビニル系単量体及び芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体等を混合した後、これを重合して得ることができ、重合は、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の公知の重合方法によって行うことができる。
【0046】
具体例において、芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレン等が使用できるが、これに制限されるのではない。これらは、単独又は2種以上混合して適用できる。芳香族ビニル系単量体の含量は、芳香族ビニル系共重合体樹脂の全体100重量%中、約20重量%~約90重量%、例えば約30重量%~約85重量%になり得る。上記範囲で熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性等が優れ得る。
【0047】
具体例において、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、フマロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸及びそのアルキルエステル、無水マレイン酸、N-置換マレイミド等が使用でき、単独又は2種以上混合して使用できる。芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の含量は、芳香族ビニル系共重合体樹脂の全体100重量%中、約10重量%~約80重量%、例えば約15重量%~約70重量%になり得る。上記範囲で熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、流動性等が優れ得る。
【0048】
具体例において、芳香族ビニル系共重合体樹脂は、GPC(gel permeation chromatography)で測定した重量平均分子量(Mw)が約10,000g/mol~約300,000g/mol、例えば、約50,000g/mol~約200,000g/molになり得る。上記範囲で熱可塑性樹脂組成物の機械的強度、成形性等が優れ得る。
【0049】
具体例において、芳香族ビニル系共重合体樹脂は、ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂100重量%中、約40重量%~約95重量%、例えば約50重量%~約90重量%で含むことができる。上記範囲で熱可塑性樹脂組成物の透明性、耐衝撃性、耐熱性、流動性、これらの物性バランス等が優れ得る。
【0050】
具体例において、ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂としては、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(g-MABS)、及びスチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)の混合物形態であるメチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(MABS樹脂)等が例示できるが、これに制限されるのではない。ここで、MABS樹脂は、g-MABSがSANに分散された形態になり得る。
【0051】
(B)ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂
本発明の一具体例にかかるポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂は、熱可塑性樹脂組成物の透明性、相容性、耐衝撃性等を向上させることができるものである。
【0052】
具体例において、ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂は、公知の重合方法で重合された炭素数1~10のアルキル(メタ)アクリレートの1種以上を含む単量体の重合体、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート及び炭素数2~10のアルキル(メタ)アクリレートの共重合体等になり得、具体的にはポリメチルメタクリレート(PMMA)になり得る。
【0053】
具体例において、ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂は、GPC(gel permeation chromatography)で測定した重量平均分子量が約50,000g/mol~約130,000g/mol、例えば約60,000g/mol~約120,000g/molの透明熱可塑性樹脂になり得る。上記範囲で熱可塑性樹脂組成物の透明性、耐衝撃性等に優れ得る。
【0054】
具体例において、ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂は、ガラス転移温度が約90℃~約110℃、例えば約95℃~約110℃になり得る。上記範囲で熱可塑性樹脂組成物の耐熱性、相容性等に優れ得る。
【0055】
具体例において、ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂は、ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂約100重量部に対して、約50重量部~約150重量部、例えば約70重量部~約140重量部で含むことができる。ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂の含量が、約50重量部未満の場合は熱可塑性樹脂組成物のヘーズ、透過率等が低下するおそれがあり、約150重量部を超える場合は熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性等が低下するおそれがある。
【0056】
(C)銀(Ag)系化合物
本発明の一具体例にかかる銀系化合物は抗菌剤であって、銀成分を含む化合物であれば特に制限はなく、例えば、金属銀、酸化銀、ハロゲン化銀、銀イオンを含有する担持体、これらの組合せ等を含むことができる。これらのうち、銀イオンを含有する担持体を使用できる。担持体としては、ゼオライト、シリカゲル、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸-ナトリウム-ジルコニウム、リン酸-ナトリウム-水素-ジルコニウム等を挙げることができる。担持体は、多孔質構造であることが好ましい。多孔質構造の担持体は、銀成分をその内部にまで保有することができるため、銀成分の含有量を多くすることができるだけでなく、銀成分の持続性能(維持性能)が向上する。具体的には、銀系化合物としては、銀ナトリウム水素ジルコニウムホスフェート(silver sodium hydrogen zirconium phosphate)等を使用することができる。
【0057】
具体例において、銀系化合物は、粒度分析器(Beckman Coulter社,Laser Diffraction Particle Size Analyzer LS I3 320装備)を使用して測定した平均粒子径(D50)が約1.5μm以下、例えば約0.1μm~約1μmになり得る。
【0058】
具体例において、銀系化合物は、ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂約100重量部に対して、約0.1重量部~約3重量部、例えば約0.5重量部~約2重量部で含むことができる。銀系化合物がゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂約100重量部に対して、約0.1重量部未満含まれる場合は熱可塑性樹脂組成物の抗菌性等が低下するおそれがあり、約3重量部を超える場合は熱可塑性樹脂組成物のヘーズ及び透過率等が低下するおそれがある。
【0059】
(D)酸化亜鉛
本発明の酸化亜鉛は、銀系化合物と一緒に熱可塑性樹脂組成物の熱安定性を低下させずに、抗菌性、透明性及び金属質感等を向上させることのできるものであり、1次粒子(単一粒子)及び1次粒子の凝集によって形成された2次粒子からなる。ここで、粒度分析器(Beckman Coulter社,Laser Diffraction Particle Size Analyzer LS I3 320装備)で測定した1次粒子の平均粒子径(D50)が約1nm~約50nm、例えば約1nm~約30nmになり得、2次粒子の平均粒子径(D50)が約0.1nm~約10μm、例えば約0.5μm~約5μmになり得る。酸化亜鉛1次粒子の平均粒子径が約1nm未満の場合は熱可塑性樹脂組成物の抗菌性等が低下するおそれがあり、約50nmを超える場合は熱可塑性樹脂組成物の金属質感等が低下するおそれがある。また、酸化亜鉛2次粒子の平均粒子径が、約0.1μm未満の場合は熱可塑性樹脂組成物の抗菌性等が低下するおそれがあり、約10μmを超える場合は熱可塑性樹脂組成物の金属質感等が低下するおそれがある。
【0060】
具体例において、酸化亜鉛は、ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂約100重量部に対して、約0.5重量部~約10重量部、例えば約1重量部~約7重量部で含むことができる。酸化亜鉛がゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂約100重量部に対して、約0.5重量部未満含まれる場合は熱可塑性樹脂組成物の抗菌性、抗菌性等が低下するおそれがあり、約10重量部を超える場合は熱可塑性樹脂組成物のヘーズ及び透過率等が低下するおそれがある。
【0061】
具体例において、銀系化合物及び酸化亜鉛の重量比(銀系化合物:酸化亜鉛)は、約1:3~約1:7になり得る。上記範囲で熱可塑性樹脂組成物の抗菌性、透明性、金属質感等がさらに優れ得る。
【0062】
本発明の一具体例にかかる熱可塑性樹脂組成物は、通常の熱可塑性樹脂組成物に含まれる添加剤をさらに含むことができる。添加剤としては、難燃剤、充填剤、酸化防止剤、滴下防止剤、滑剤、離型剤、核剤、帯電防止剤、安定剤、顔料、染料、これらの混合物等を例示できるが、これに制限されるのではない。添加剤の使用時、その含量はゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂約100重量部に対して、約0.001重量部~約40重量部、例えば約0.1重量部~約10重量部になり得る。
【0063】
本発明の一具体例にかかる熱可塑性樹脂組成物は、構成成分を混合し、通常の二軸押出機を使用して、約200℃~約280℃、例えば約220℃~約250℃で溶融押出ししたペレット形態になり得る。
【0064】
具体例において、熱可塑性樹脂組成物は黄色ブドウ球菌、大腸菌、枯草菌、緑膿菌、サルモネラ菌、肺炎球菌、MRSA(Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus)等の多様な細菌に対して抗菌効果があるものであり、JIS Z 2801抗菌評価法によって、5cm×5cmの大きさの試片に黄色ブドウ球菌及び大腸菌を接種し、35℃、RH 90%の条件で24時間培養した後、下記数式1に従って算出した抗菌活性値がそれぞれ独立して約2~約7、例えば約2~約6になり得る。
【0065】
【0066】
数式1で、M1はブランク(blank)試片に対する24時間培養後の細菌数で、M2は熱可塑性樹脂組成物試片に対する24時間培養後の細菌数である。
【0067】
ここで、「ブランク試片」は、試験試片(熱可塑性樹脂組成物試片)の対照試片である。具体的には、接種した細菌が正常に成長したか確認するための空のペトリ皿(petri dish)上に細菌を接種した後、試験試片と同様に24時間培養させたものであり、培養した細菌の個数を比較して試験試片の抗菌性能を判断する。また、「細菌数」は、各試片に菌を接種し、24時間培養後、接種した菌液を回収して薄める過程を経て、再度培養皿でコロニーに成長させて数えることができる。コロニーの成長が非常に多く数えにくい時は、区画に分けて数えた後、実際の個数に変換させることができる。
【0068】
具体例において、熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D1003によって測定した2.5mm厚の試片のヘーズ(haze)が約1%~約5%、例えば約2%~4.1%になり得、光透過率が約88%~約93%、例えば約89%~92%になり得る。
【0069】
具体例において、熱可塑性樹脂組成物は、下記数式2に従って算出したフロップインデックス(Flop Index)が約8~約11、例えば約8~約10になり得る。上記範囲で、熱可塑性樹脂組成物(成形品)の金属質感が優れ得る。
【0070】
【0071】
数式2で、L*
15°、L*
45°及びL*
110°は、それぞれ15°、45°及び110°の角度で分光光度計(spectrophotometer)を使用して測定した反射光のルミナンス(luminance,L*)を意味する。
【0072】
本発明にかかる成形品は、熱可塑性樹脂組成物から形成される。抗菌性熱可塑性樹脂組成物は、ペレット形態に製造でき、製造されたペレットは、射出成形、押出成形、真空成形、キャスティング成形等の多様な成形方法によって多様な成形品(製品)に製造できる。このような成形方法は、本発明の属する分野の通常の知識を有する者によって知られている。成形品は、抗菌性、熱安定性、透明性、金属質感、流動性(成形加工性)、これらの物性バランス等に優れるため、身体接触の多い抗菌機能製品、外装材等に有用である。
【0073】
[発明を実施するための形態]
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明するが、このような実施例は、単に説明の目的のためのものであり、本発明を制限すると解釈してはならない。
【0074】
実施例
実施例及び比較例で使用した各成分の仕様は次の通りである。
【0075】
(A)ゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂
下記(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体28重量%、及び(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂72重量%を含むゴム変性芳香族ビニル系共重合体樹脂を使用した。
【0076】
(A1)ゴム変性ビニル系グラフト共重合体
平均粒子径(Z-平均)が0.28μmのブタジエンゴム55重量%にスチレン、アクリロニトリル及びメチルメタクリレート(スチレン/アクリロニトリル/メチルメタクリレート:20重量%/10重量%/70重量%)45重量%をグラフト共重合して製造されたコア-シェル形態のグラフト共重合体(g-MABS)を使用した。
【0077】
(A2)芳香族ビニル系共重合体樹脂
スチレン80重量%及びアクリロニトリル20重量%が重合されたSAN樹脂(重量平均分子量:130,000g/mol)を使用した。
【0078】
(B)ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂
ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA,重量平均分子量:100,000g/mol)を使用した。
【0079】
(C)銀(Ag)系化合物
銀ナトリウム水素ジルコニウムホスフェート(silver sodium hydrogen zirconium phosphate,製造社:Toa Gosei Co.,LTD,製品名:Novaron AGZ030)を使用した。
【0080】
(D)酸化亜鉛
(D1)1次粒子の平均粒子径(D50)が10nmで、2次粒子の平均粒子径(D50)が1.7μmの酸化亜鉛(製造社:SH energy & chemical,製品名:ANYZON)を使用した。
【0081】
(D2)単一粒子からなる平均粒子径(D50)が1.0μmの酸化亜鉛(製造社:PJ Chemtek,製品名:KS-1)を使用した。
【0082】
実施例1~5及び比較例1~5
各構成成分を下記表1に記載したような含量で添加した後、230℃で押出してペレットを製造した。押出しはL/D=36、直径45mmの二軸押出機を使用し、製造されたペレットは80℃で4時間以上乾燥させた後、6Oz射出機(成形温度230℃,金型温度:60℃)で射出して試片を製造した。製造された試片に対して下記の方法で物性を評価し、その結果を表1に示した。
【0083】
物性の測定方法
(1)抗菌活性値:JIS Z 2801抗菌評価法によって、5cm×5cmの大きさの試片に黄色ブドウ球菌及び大腸菌を接種し、35℃、RH 90%の条件で24時間培養した後、下記数式1に従って算出した。
【0084】
【0085】
数式1で、M1はブランク(blank)試片に対する24時間培養後の細菌数で、M2は熱可塑性樹脂組成物試片に対する24時間培養後の細菌数である。
【0086】
(2)ヘーズ及び光透過率(単位:%):ASTM D1003によって日本電色社のHaze meter NDH 2000装備を用いて2.5mm厚の試片のヘーズ(haze)及び光透過率(全光線透過率)を測定した。
【0087】
(3)フロップインデックス(Flop index):実施例及び比較例で製造したペレット形態の押出物に対して、下記数式2に従ってフロップインデックスを算出した。
【0088】
【0089】
数式2で、L*
15°、L*
45°及びL*
110°は、それぞれ15°、45°及び110°の角度で分光光度計(spectrophotometer,製造社:BYK,モデル名:BYK Mac)を使用して測定した反射光のルミナンス(luminance,L*)を意味する。
【0090】
【0091】
【0092】
結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、抗菌性、熱安定性、透明性及び金属質感(フロップインデックス)等が全て優れることが分かる。
【0093】
一方、銀系化合物の含量が本発明の範囲未満である比較例1は、抗菌性等が低下することが分かり、銀系化合物の含量が本発明の範囲を超える比較例2は、ヘーズ、透過率等が低下することが分かり、酸化亜鉛の含量が本発明の範囲未満である比較例3は、抗菌性等が低下することが分かり、酸化亜鉛の含量が本発明の範囲を超える比較例4は、ヘーズ、透過率、金属質感等が低下することが分かる。また、本発明の酸化亜鉛の代わりに酸化亜鉛(D2)を適用した比較例5は、金属質感等が低下することが分かる。
【0094】
本発明の単純な変形あるいは変更は、本分野の通常の知識を有する者が容易に実施することができ、このような変形や変更は全て本発明の領域に含まれると見なすことができる。