(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】量子情報の光変換のための超伝導インターポーザ
(51)【国際特許分類】
H10N 60/00 20230101AFI20240830BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20240830BHJP
H01L 25/065 20230101ALI20240830BHJP
H01L 25/18 20230101ALI20240830BHJP
H01L 25/04 20230101ALI20240830BHJP
H10N 60/80 20230101ALI20240830BHJP
H01L 23/12 20060101ALN20240830BHJP
H01L 23/14 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
H10N60/00 C
H01L25/08 H
H01L25/04 Z
H10N60/80 W ZAA
H01L23/12 501B
H01L23/14 M
(21)【出願番号】P 2021576724
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 EP2020067450
(87)【国際公開番号】W WO2020260251
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-11-21
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【氏名又は名称】太佐 種一
(72)【発明者】
【氏名】ブロン、ニコラス、トーレイフ
(72)【発明者】
【氏名】ボゴリン、ダニエラ、フロレンティーナ
(72)【発明者】
【氏名】グマン、パトリク
(72)【発明者】
【氏名】ハート、シーン
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァデーセ、サルヴァトーレ、ベルナルド
(72)【発明者】
【氏名】オーカット、ジェイソン
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0003753(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0102469(US,A1)
【文献】国際公開第2018/160674(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0133819(US,A1)
【文献】特開2005-322756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/00
H10N 60/80
H01L 25/07
H01L 25/04
H01L 23/12
H01L 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子情報の光変換のためのシステムであって、
マイクロ波周波数で動作するように構成された複数のデータ量子ビットを含む量子ビット・チップと、
前記量子ビット・チップから離間された変換チップであって、マイクロ波-光周波数変換器を備える前記変換チップと、
前記量子ビット・チップおよび前記変換チップに結合されたインターポーザであって、内部に複数の超伝導マイクロ波導波路が形成された誘電体材料を含む前記インターポーザと、
を備え、前記複数の超伝導マイクロ波導波路が、量子情報を前記複数のデータ量子ビットから前記変換チップ上の前記マイクロ波-光周波数変換器に伝送するように構成され、前記マイクロ波-光周波数変換器が、前記量子情報を前記マイクロ波周波数から光周波数に変換するように構成され
、前記インターポーザが、迷光場を、前記複数のデータ量子ビットから分離する、システム。
【請求項2】
前記マイクロ波-光周波数変換器が、量子情報を前記光周波数から前記マイクロ波周波数に変換するようにさらに構成され、前記複数の超伝導マイクロ波導波路が、前記量子情報を前記変換チップ上の前記マイクロ波-光周波数変換器から前記複数のデータ量子ビットに伝送するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記マイクロ波-光周波数変換器が、光周波数領域で動作するように構成されたデバイスに結合されたマイクロ波導波路を備える、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記光周波数領域で動作するように構成された前記デバイスが光共振器を備える、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記変換チップが前記光共振器に結合された光ポンプ線路をさらに備え、前記光ポンプ線路が前記量子情報を光周波数信号として伝送するように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記光周波数領域で動作するように構成された前記デバイスがバルク音響波共振器、機械的カプラ、または膜を備える、請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
前記変換チップが複数の変換量子ビットを備え、前記複数の変換量子ビットのうちの少なくとも1つが前記マイクロ波-光周波数変換器に結合され、前記複数の超伝導マイクロ波導波路が、量子情報を前記複数のデータ量子ビットから、マイクロ波光子を介して前記複数の変換量子ビットに伝送するように構成されている、請求項1ないし6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
前記変換チップが複数のマイクロ波-光周波数変換器をさらに備え、前記複数の変換量子ビットのそれぞれが、前記複数のマイクロ波-光周波数変換器のうちの1つに結合されている、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記複数のデータ量子ビットのそれぞれが、量子計算を実行するのに十分な緩和時間およびコヒーレンス時間を有し、前記複数の変換量子ビットのそれぞれが、前記マイクロ波-光周波数変換器の変換時間を超える緩和時間およびコヒーレンス時間を有する、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記変換チップが電気光学材料もしくは圧電材料を含む基板、または、シリコン・オン・インシュレータ基板を備える、請求項1ないし9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
前記マイクロ波-光周波数変換器が光学機械システムを備える、請求項1ないし10のいずれかに記載のシステム。
【請求項12】
前記インターポーザが、第1の表面と、前記第1の表面の反対側の第2の表面とを備え、前記量子ビット・チップが前記第1の表面に結合され、前記変換チップが前記第2の表面に結合されている、請求項1ないし11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
前記量子ビット・チップおよび前記変換チップが、前記インターポーザの同じ表面に結合されている、請求項1ないし
11のいずれかに記載のシステム。
【請求項14】
前記誘電体材料が、Siウエハ、プリント回路板、有機ラミネート、セラミック、ガラス強化エポキシ・ラミネート材料、デュロイド、PEEK、およびテフロン(R)からなる群から選択された1つまたは複数を含む、請求項1ないし13のいずれかに記載のシステム。
【請求項15】
量子情報の光変換を実行するための方法であって、
マイクロ波周波数で動作するように構成された複数のデータ量子ビットを含む量子ビット・チップを提供することと、
量子情報を前記複数のデータ量子ビットから、前記量子ビット・チップから離間された変換チップに転送することであって、前記変換チップがマイクロ波-光周波数変換器を備
える、前記転送することと、
前記量子ビット・チップと前記変換チップとの間に配置された誘電体インターポーザを使用して、前記複数のデータ量子ビットを迷光場から遮蔽しながら、前記量子情報のマイクロ波-光周波数変換を実行することと、
前記量子情報を光周波数信号として出力することと、
を含む、量子情報の光変換を実行するための方法。
【請求項16】
量子コンピュータであって、
封じ込め容器を備える真空下の冷却システムと、
請求項1ないし14のいずれかに記載のシステムであって、前記封じ込め容器によって画定された冷却真空環境内に収容されている、前記システムと、
を備える、量子コンピュータ。
【請求項17】
前記量子情報を光周波数信号として、前記封じ込め容器によって画定された前記冷却真空環境から前記封じ込め容器の外部に伝送するように構成されている
第2の光ポンプ線路をさらに備える、請求項16に記載の量子コンピュータ。
【請求項18】
前記変換チップが、光リング共振器に結合された
第3の光ポンプ線路をさらに備え、前記
第3の光ポンプ線路が、前記量子情報を光周波数信号として、前記変換チップから第2の量子ビット・チップに結合された第2の変換チップに伝送するように構成されている、請求項16または17に記載の量子コンピュータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の現在請求されている実施形態は、量子情報の光変換のためのシステムおよび方法に関し、より詳細には、量子情報の光変換のための超伝導インターポーザに関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導量子ビットは、電磁スペクトルのマイクロ波領域で動作する。マイクロ波周波数では、マイクロ波伝送線路(すなわち、同軸ケーブル、プリント回路板のストリップ線路)は、損失が非常に大きい(約1dB/フィートの減衰)。これらの損失は、量子情報が遠くに輸送されるのを妨げる。例えば、損失は、量子情報がマイクロ波伝送線路を使用して希釈冷却機環境の外に輸送されることを妨げる。光変換は、マイクロ波の光子を光の周波数(すなわち、通信範囲約1550nm)に変換する。電磁スペクトルのこの領域では、光子は、光ファイバまたは自由空間を通って実質的に無損失(約0.2dB/km)で伝搬することができる。しかしながら、量子ビットおよび光変換器の材料と動作は、多くの場合互換性がない。
【0003】
したがって、当技術分野では、前述の問題に対処する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
第1の態様から見ると、本発明は、マイクロ波周波数で動作するように構成された複数のデータ量子ビットを含む量子ビット・チップと、前記量子ビット・チップから離間された変換チップであって、マイクロ波-光周波数変換器を備える変換チップと、前記量子ビット・チップおよび前記変換チップに結合されたインターポーザであって、内部に複数の超伝導マイクロ波導波路が形成された誘電体材料を含む、インターポーザと、を備え、前記複数の超伝導マイクロ波導波路が、量子情報を前記複数のデータ量子ビットから前記変換チップ上のマイクロ波-光周波数変換器に伝送するように構成され、前記マイクロ波-光周波数変換器が、前記量子情報を前記マイクロ波周波数から光周波数に変換するように構成されている、量子情報の光変換のためのシステムを提供する。
【0005】
さらなる態様から見ると、本発明は、マイクロ波周波数で動作するように構成された複数のデータ量子ビットを含む量子ビット・チップを提供することと、量子情報を前記複数のデータ量子ビットから、前記量子ビット・チップから離間された変換チップに転送することであって、前記変換チップがマイクロ波-光周波数変換器を備える、転送することと、前記量子ビット・チップと前記変換チップとの間に配置された誘電体インターポーザを使用して、前記複数のデータ量子ビットを迷光場から遮蔽しながら、前記量子情報のマイクロ波-光周波数変換を実行することと、前記量子情報を光周波数信号として出力することと、を含む、量子情報の光変換を実行するための方法を提供する。
【0006】
さらなる態様から見ると、本発明は、封じ込め容器を備える真空下の冷却システムと、本発明のシステムを備え、システムは封じ込め容器によって画定された冷却真空環境内に収容されている、量子コンピュータを提供する。
【0007】
さらなる態様から見ると、本発明は、封じ込め容器を備える真空下の冷却システムと、前記封じ込め容器によって画定された冷却真空環境内に収容された量子ビット・チップであって、マイクロ波周波数で動作するように構成された複数のデータ量子ビットを含む量子ビット・チップと、前記封じ込め容器によって画定された冷却真空環境内に収容された変換チップであって、前記量子ビット・チップから離間され、マイクロ波-光周波数変換器を備える変換チップと、前記封じ込め容器によって画定された冷却真空環境内に収容され、前記量子ビット・チップおよび前記変換チップに結合されたインターポーザであって、内部に複数の超伝導マイクロ波導波路が形成された誘電体材料を含むインターポーザと、を備え、前記複数の超伝導マイクロ波導波路が、量子情報を前記複数のデータ量子ビットから前記変換チップ上の前記マイクロ波-光周波数変換器に伝送するように構成されており、前記マイクロ波-光周波数変換器が、前記量子情報を前記マイクロ波周波数から光周波数に変換するように構成されている、量子コンピュータを提供する。
【0008】
本発明の一実施形態によると、量子情報の光変換のためのシステムは、マイクロ波周波数で動作するように構成された複数のデータ量子ビットを含む量子ビット・チップと、量子ビット・チップから離間された変換チップであって、マイクロ波-光周波数変換器を含む変換チップと、を含む。本システムは、量子ビット・チップおよび変換チップに結合されたインターポーザであって、内部に複数の超伝導マイクロ波導波路が形成された誘電体材料を含むインターポーザを含む。複数の超伝導マイクロ波導波路は、量子情報を複数のデータ量子ビットから変換チップ上のマイクロ波-光周波数変換器に伝送するように構成されており、マイクロ波-光周波数変換器は、量子情報をマイクロ波周波数から光周波数に変換するように構成されている。
【0009】
本発明の一実施形態によると、量子情報の光変換を実行する方法は、マイクロ波周波数で動作するように構成された複数のデータ量子ビットを含む量子ビット・チップを提供することと、量子情報を複数のデータ量子ビットから、量子ビット・チップから離間された変換チップであって、マイクロ波-光周波数変換器を含む変換チップに転送することと、を含む。本方法は、量子ビット・チップと変換チップとの間に配置された誘電体インターポーザを使用して、複数のデータ量子ビットを迷光場から遮蔽しながら、量子情報のマイクロ波-光周波数変換を実行することと、量子情報を光周波数信号として出力することとを含む。
【0010】
本発明の一実施形態によると、量子コンピュータは、封じ込め容器を備える真空下の冷却システムと、封じ込め容器によって画定された冷却真空環境内に収容された量子ビット・チップであって、マイクロ波周波数で動作するように構成された複数のデータ量子ビットを含む量子ビット・チップとを含む。本システムは、封じ込め容器によって画定された冷却真空環境内に収容された変換チップであって、量子ビット・チップから離間され、マイクロ波-光周波数変換器を含む変換チップをさらに含む。本システムは、封じ込め容器によって画定された冷却真空環境内に収容され、量子ビット・チップおよび変換チップに結合された、インターポーザであって、内部に複数の超伝導マイクロ波導波路が形成された誘電体材料を含むインターポーザを含む。複数の超伝導マイクロ波導波路は、量子情報を複数のデータ量子ビットから変換チップ上のマイクロ波-光周波数変換器に伝送するように構成されており、マイクロ波-光周波数変換器は、量子情報をマイクロ波周波数から光周波数に変換するように構成されている。
【0011】
ここで、本発明は、以下の図に示されるような好ましい実施形態を参照して、例としてのみ説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態による、量子情報の光変換のためのシステムの概略図である。
【
図2A】本発明の一実施形態による変換チップの概略図である。
【
図2B】本発明の一実施形態による量子ビット・チップの概略図である。
【
図2C】本発明の一実施形態によるインターポーザの概略図である。
【
図2D】本発明の一実施形態による、
図2Aの変換チップおよび
図2Bの量子ビット・チップに結合された
図2Cのインターポーザの概略図である。
【
図3A】2つの変換量子ビットを含む変換チップの概略図である。
【
図3B】本発明の一実施形態によるインターポーザの概略図である。
【
図3C】
図3Aの変換チップおよび量子ビット・チップに結合された
図3Bのインターポーザの概略図である。
【
図4】インターポーザの同じ表面に結合された量子ビット・チップおよび変換チップの概略図である。
【
図5】量子情報の光変換を実行するための方法を示す流れ図である。
【
図6】本発明の一実施形態による量子コンピュータの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態による、量子情報の光変換のためのシステム100の概略図である。システム100は、マイクロ波周波数で動作するように構成された複数のデータ量子ビット104、106、108を含む量子ビット・チップ102を含む。システム100は、量子ビット・チップ102から離間された変換チップ110を含む。変換チップ110は、マイクロ波-光周波数変換器を含む(
図1には図示せず、
図2A参照)。システム100は、量子ビット・チップ102および変換チップ110に結合されたインターポーザ112を含む。インターポーザ112は、内部に複数の超伝導マイクロ波導波路116、118、120が形成された誘電体材料114を含む。複数の超伝導マイクロ波導波路116、118、120は、量子情報を複数のデータ量子ビット104、106、108から変換チップ110上のマイクロ波-光周波数変換器に伝送するように構成されている。マイクロ波-光周波数変換器は、量子情報をマイクロ波周波数から光周波数に変換するように構成されている。
図1の実施形態は、特定の数のデータ量子ビット、マイクロ波-光周波数変換器、および超伝導マイクロ波導波路を有する例を示すが、本発明の実施形態は、これらの特定の数に限定されない。本発明の実施形態は、より多くのまたはより少ないデータ量子ビット、マイクロ波-光周波数変換器、および超伝導マイクロ波導波路を含むことができる。
【0014】
本発明の一実施形態によると、マイクロ波-光周波数変換器は、量子情報を光周波数からマイクロ波周波数に変換するようにさらに構成され、複数の超伝導マイクロ波導波路116、118、120は、量子情報を変換チップ上のマイクロ波-光周波数変換器から複数のデータ量子ビット104、106、108に伝送するように構成されている。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるインターポーザ112は、第1の表面122と、第1の表面122の反対側の第2の表面124とを含む。量子ビット・チップ102は、インターポーザ112の第1の表面122に結合され、変換チップ110は、インターポーザ112の第2の表面124に結合されている。
【0016】
本発明の一実施形態によると、量子ビット・チップは、インターポーザに結合されている。
図1では、量子ビット・チップ102は、複数のはんだバンプ126、128、130を使用してインターポーザ112に結合されている。はんだバンプ126、128、130は、超伝導マイクロ波導波路116、118、120に直接結合されてもよく、データ量子ビット104、106、108に容量結合されてもよい。はんだバンプは、超伝導材料から形成されてもよいが、本発明の実施形態は、超伝導材料から形成されたはんだバンプに限定されない。はんだバンプの材料の一例は、インジウムである。本発明の実施形態は、
図1に示す例に示されるはんだバンプの数に限定されない。
【0017】
本発明の一実施形態によると、変換チップは、インターポーザに結合されている。
図1では、変換チップ110は、複数のはんだバンプ132、134、136を使用してインターポーザ112に結合されている。はんだバンプ132、134、136は、マイクロ波-光周波数変換器を超伝導マイクロ波導波路116、118、120に結合する。本発明の一実施形態によるシステム100は、複数の量子ビット・チップおよび変換チップを含むことができる。量子ビット・チップおよび変換チップは、単一のインターポーザまたは複数のインターポーザに接合されてもよい。
【0018】
本発明の一実施形態によるシステムは、量子情報を超伝導量子ビット・チップから、誘電体インターポーザに埋め込まれた超伝導導波路を介して、光変換を実行するチップに転送することを可能にする。本システムは、変換チップ上に配置されたマイクロ波-光変換器によって生成される迷光場を、パッケージング・ソリューションを介して超伝導量子ビット・チップ上のデータ量子ビットから分離する。すなわち、データ量子ビットを1つのチップ上に形成することができ、一方、マイクロ波-光変換器を別のチップ上に形成することができる。したがって、材料処理工程が量子ビット・チップと光変換チップとの間で分離される。量子ビット・チップ上のデータ量子ビットは、量子ビットのコヒーレンスを最適化する材料およびプロセスを使用して製造することができる。一方、変換チップは、データ量子ビットの品質に影響を与えることなく、マイクロ波-光変換を容易にする材料およびプロセスを使用して製造することができる。
【0019】
本システムはまた、変換チップ上に量子ビットを含むことができる。この場合、量子ビット・チップは、高品質の量子ビットを有することができるが、変換チップ上の量子ビットは、10ns~1μsの範囲の変換時間よりも長い寿命を有していればよい。さらに、変換チップを形成するのに有用である可能性がある電気光学材料または圧電材料などの基板は、多くの場合、量子ビットの高寿命と両立しない。また、変換基板としてしばしば使用されるシリコン・オン・インシュレータ(SOI)上に長寿命の量子ビットを製造することも困難である。SOI上に形成された量子ビットは、しばしば、3μsのオーダのT1およびT2時間を有する。複数のリソグラフィ工程などの、マイクロ波-光変換器を形成するのに有用な処理技術は、接合アニーリングまたは2レベルシステムの導入あるいはその両方(すなわち、誘電損失)に起因して量子ビットの寿命を低下させる可能性がある。データ量子ビットとマイクロ波-光変換器を異なるチップ上に分離することによって、最適な処理技術を使用して、各チップおよびその上に含まれる構造体を形成することができる。
【0020】
本発明の一実施形態によると、マイクロ波-光周波数変換器は、光周波数領域で動作するように構成されたデバイスに結合されたマイクロ波導波路を備える。
図2Aは、変換チップ200の概略図である。変換チップ200は、光周波数領域で動作するように構成されたデバイス206に結合されたマイクロ波導波路204を含むマイクロ波-光周波数変換器202を含む。デバイス206は、例えば、リング、楕円、レース・トラック、または二重の8の字形の形状の光共振器であってもよい。デバイス206は、例えば、バルク音響波共振器、機械的カプラ、または膜であってもよい。変換チップ200はまた、デバイス206に結合された光ポンプ線路208を含むことができる。光ポンプ線路208は、量子情報を光周波数信号として伝送するように構成されている。
【0021】
図2Bは、本発明の一実施形態による量子ビット・チップ212の概略図である。量子ビット・チップ212は、マイクロ波周波数で動作するように構成されたデータ量子ビット214を含む。
【0022】
図2Cは、本発明の一実施形態によるインターポーザ216の概略図である。インターポーザ216は、内部に超伝導マイクロ波導波路220が形成された誘電体材料218を含む。本発明の一実施形態によると、誘電体材料218は、例えば、プリント回路板、有機ラミネート、シリコン・チップ、セラミック、FR-4などのガラス強化エポキシ・ラミネート材料、デュロイド、またはポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)のうちの1つもしくは複数を含む。本発明の一実施形態によると、超伝導マイクロ波導波路220は、例えば、ニオブ、アルミニウム、スズ、電気めっきレニウム、またはインジウムのうちの1つもしくは複数から形成されてもよい。
【0023】
図2Dは、本発明の一実施形態による、変換チップおよび量子ビット・チップに結合されたインターポーザの概略図である。超伝導マイクロ波導波路220は、量子情報をデータ量子ビット214から変換チップ上のマイクロ波-光周波数変換器202に伝送するように構成されている。
図2Bおよび
図2Dは、単一のデータ量子ビット214を有する量子ビット・チップを示しているが、本発明の実施形態による量子ビット・チップは、複数のデータ量子ビットを含むことができる。
図2Cおよび
図2Dは、単一の超伝導マイクロ波導波路220を有するインターポーザを示しているが、本発明の実施形態によるインターポーザは、複数の超伝導マイクロ波導波路を含むことができる。
【0024】
本発明の一実施形態によると、変換チップは、複数の変換量子ビットを含む。
図3Aは、2つの変換量子ビット302、304を含む変換チップ300の概略図である。変換量子ビット302、304のそれぞれは、マイクロ波-光周波数変換器306、308に結合されている。本発明の一実施形態によるマイクロ波-光周波数変換器306、308はそれぞれ、光領域で動作するように構成された共振器314、316に結合されたマイクロ波導波路310、312を含む。共振器314、316は、様々な形状、例えば、リング、レース・トラック、または8の字形を有することができる。共振器314、316はそれぞれ、光ポンプ線路318、320に結合されてもよい。
【0025】
図3Bは、本発明の一実施形態によるインターポーザ322の概略図である。インターポーザ322は、内部に2つの超伝導マイクロ波導波路326、328が形成された誘電体材料324を含む。
【0026】
図3Cは、
図3Aの変換チップ300と、
図2Bに示す量子ビット・チップ212などの量子ビット・チップとに結合された
図3Bのインターポーザ322の概略図である。超伝導マイクロ波導波路326、328は、量子情報をデータ量子ビット330から、変換量子ビット302、304を介してマイクロ波-光周波数変換器306、308に伝送するように構成されている。マイクロ波導波路326、328は、量子情報をデータ量子ビット330から、マイクロ波光子を介して変換量子ビット302、304に伝送する。本発明の実施形態は、
図3A~
図3Cに示す例に示される特定の数のデータ量子ビット、超伝導マイクロ波導波路、および変換量子ビットに限定されない。
【0027】
本発明の一実施形態によると、複数のデータ量子ビットのそれぞれは、量子計算を実行するのに十分な緩和時間(T1)およびコヒーレンス時間(T2)を有する。本発明の一実施形態によるデータ量子ビットは、75μsを超えるT1時間およびT2時間を有することができる。本発明の一実施形態によるデータ量子ビットは、100μs以上のオーダのT1時間およびT2時間を有することができる。
【0028】
本発明の一実施形態によると、複数の変換量子ビットのそれぞれは、マイクロ波-光周波数変換器の変換時間を超える緩和時間およびコヒーレンス時間を有する。例えば、マイクロ波-光周波数変換に必要な時間が約10ns~1μsの場合、変換量子ビットは、約3μs以上のオーダのT1時間およびT2時間を有することができる。本発明の一実施形態によると、マイクロ波-光周波数変換器の変換時間は、1μs未満である。本発明の一実施形態によると、変換量子ビットは、データ量子ビットのT1時間およびT2時間よりも小さいT1時間およびT2時間を有する。
【0029】
本発明の一実施形態によると、変換チップは、電気光学材料、圧電材料、またはシリコン・オン・インシュレータ基板のうちの1つもしくは複数を含む基板を含む。本発明の一実施形態によると、マイクロ波-光周波数変換器は、例えば、膜などの光学機械システムを含む。
【0030】
図1に示す構成の代替として、量子ビット・チップおよび変換チップは、インターポーザの同じ表面に結合されてもよい。
図4は、インターポーザ406の同じ表面404に結合された量子ビット・チップ400および変換チップ402の概略図である。
【0031】
図5は、量子情報の光変換を実行するための方法500を示す流れ図である。方法500は、マイクロ波周波数で動作するように構成された複数のデータ量子ビットを含む量子ビット・チップを提供すること(502)を含む。方法500は、量子情報を複数のデータ量子ビットから、量子ビット・チップから離間された変換チップであって、マイクロ波-光周波数変換器を含む、変換チップに転送すること(504)を含む。方法500は、量子ビット・チップと変換チップとの間に配置された誘電体インターポーザを使用して、複数のデータ量子ビットを迷光場から遮蔽しながら、量子情報のマイクロ波-光周波数変換を実行すること(506)と、量子情報を光周波数信号として出力すること(508)とを含む。
【0032】
図6は、本発明の一実施形態による量子コンピュータ600の概略図である。量子コンピュータ600は、封じ込め容器602を備える真空下の冷却システムを含む。量子コンピュータ600は、封じ込め容器602によって画定された冷却真空環境内に収容された量子ビット・チップ604を含む。量子ビット・チップ604は、マイクロ波周波数で動作するように構成された複数のデータ量子ビット606、608、610を含む。量子コンピュータ600は、封じ込め容器602によって画定された冷却真空環境内に収容された変換チップ612を含む。変換チップ612は、量子ビット・チップ604から離間されており、マイクロ波-光周波数変換器を含む。量子コンピュータ600は、封じ込め容器602によって画定された冷却真空環境内に収容されたインターポーザ614を含む。インターポーザ614は、量子ビット・チップ604および変換チップ612に結合されている。インターポーザ614は、内部に複数の超伝導マイクロ波導波路618、620、622が形成された誘電体材料616を含む。複数の超伝導マイクロ波導波路618、620、622は、量子情報を複数のデータ量子ビット606、608、610から変換チップ612上のマイクロ波-光周波数変換器に伝送するように構成され、マイクロ波-光周波数変換器は、この量子情報をマイクロ波周波数から光周波数に変換するように構成されている。
【0033】
本発明の一実施形態によると、誘電体材料616は、プリント回路板、有機ラミネート、シリコン・
ウエハ、セラミック、FR-4などのガラス強化エポキシ・ラミネート材料、デュロイド、
テフロン(R)、またはポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)のうちの1つもしくは複数を含む。本発明の一実施形態によると、マイクロ波-光周波数変換器は、光周波数領域で動作するように構成されたデバイスに結合されたマイクロ波導波路を含む。変換チップ612は、
図2の光ポンプ線路208などの、光周波数領域で動作するように構成されたデバイスに結合された光ポンプ線路をさらに含むことができる。光ポンプ線路は、量子情報を、封じ込め容器602によって画定された冷却真空環境から封じ込め容器602の外部に光周波数信号として伝送するように構成されてもよい。代替的または追加的に、光ポンプ線路は、量子情報を光周波数信号として、変換チップ612から、第2の量子ビット・チップに結合された第2の変換チップに伝送するように構成されてもよい。
【0034】
本発明の一実施形態による量子コンピュータは、複数のデータ量子ビット・チップ、変換チップ、およびインターポーザを含むことができる。さらに、本発明の実施形態は、
図6に示す特定の数のデータ量子ビット、マイクロ波-光周波数変換器、および超伝導マイクロ波導波路に限定されない。
【0035】
本発明の様々な実施形態の説明は、例示の目的で提示されてきたが、網羅的であることを意図するものではなく、または開示された実施形態に限定されることを意図するものではない。説明された実施形態の範囲から逸脱することなく、多くの修正および変形が当業者には明らかであろう。本明細書で使用される用語は、実施形態の原理、市場で見られる技術に対する実際の適用または技術的改善を最もよく説明するために、または当業者が本明細書に開示される実施形態を理解できるようにするために選択された。