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特許7546613エンジン内の金属部品の腐食および/またはトライボ腐食を防止するための潤滑組成物
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  • 特許-エンジン内の金属部品の腐食および/またはトライボ腐食を防止するための潤滑組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】エンジン内の金属部品の腐食および/またはトライボ腐食を防止するための潤滑組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 133/46 20060101AFI20240830BHJP
   C23F 11/00 20060101ALI20240830BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20240830BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240830BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20240830BHJP
   C10N 40/26 20060101ALN20240830BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20240830BHJP
   C10M 159/20 20060101ALN20240830BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20240830BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
C10M133/46
C23F11/00 Z
C23F11/00 A
C10M169/04
C10N10:04
C10N30:12
C10N40:26
C10M139/00 A
C10M139/00 Z
C10M159/20
C10M159/22
C10M159/24
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021577877
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2020068004
(87)【国際公開番号】W WO2020260569
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】1907153
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】521566759
【氏名又は名称】トタルエネルジ マーケティング セルヴィス
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES MARKETING SERVICES
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ネビル,アン
(72)【発明者】
【氏名】アブディ エスファハニ,エルファン
(72)【発明者】
【氏名】モリナ,アーディアン
(72)【発明者】
【氏名】アンブラール,カトリーヌ
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-500443(JP,A)
【文献】特表2014-517098(JP,A)
【文献】特表2009-537681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
C23F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、特に2サイクルエンジン、例えば船舶用2サイクルエンジンの少なくとも1つの金属部品の腐食およびトライボ腐食を防止および/または軽減するための、少なくとも1つの基油を含む潤滑組成物における、0.1~30質量%の式(A)のイミダゾリン化合物、
【化1】
の使用であって、
該化合物が、
- R は、1~16個の炭素原子を含み、任意にはNH またはSHから選択された基によって鎖の末端で置換された、直鎖または分岐アルキル基を表わすか、またはR は、2~16個の炭素原子を含み、任意にはNH またはSHから選択された基によって鎖の末端で置換された、直鎖または分岐アルケニル基を表わし、また
- R は、1~36個の炭素原子を含む、直鎖または分岐アルキル基を表わすか、またはR は、2~36個の炭素原子を含む、直鎖または分岐アルケニル基を表わす、
と定義される、式(A)のイミダゾリン化合物の使用。
【請求項2】
エンジン、特に2サイクルエンジン、例えば船舶用2サイクルエンジンの少なくとも1つの金属部品の腐食およびトライボ腐食の防止および/または軽減のための、
- 少なくとも1つの基油、および
- 0.1~30質量%の、式(A)のイミダゾリン化合物、
【化2】
を含む潤滑組成物の使用であって、
該化合物が、
- R は、1~16個の炭素原子を含み、任意にはNH またはSHから選択された基によって鎖の末端で置換された、直鎖または分岐アルキル基を表わすか、またはR は、2~16個の炭素原子を含み、任意にはNH またはSHから選択された基によって鎖の末端で置換された、直鎖または分岐アルケニル基を表わし、また
- R は、1~36個の炭素原子を含む、直鎖または分岐アルキル基を表わすか、またはR は、2~36個の炭素原子を含む、直鎖または分岐アルケニル基を表わす、
と定義される、潤滑組成物の使用。
【請求項3】
潤滑組成物が、さらに、洗浄剤、分散剤およびそれらの混合物の中から選択される添加剤を少なくとも1つ含む、請求項1または2に記載の使用
【請求項4】
潤滑組成物において、
- 洗浄剤の量が、潤滑組成物の総質量との関係において、3質量%~40質量%、好適には5質量%~30質量%、有利には10質量%~25質量%の値をとり、かつ/または
- 分散剤の量が、潤滑組成物の総質量との関係において、0.01質量%~10質量%、好適には0.1質量%~5質量%、有利には0.5質量%~3質量%の値をとる、
請求項に記載の使用
【請求項5】
分散剤が、場合によってはホウ酸化または亜鉛ブロックされた、ポリイソブチレンビス-スクシンイミドのような、スクシンイミドの中から選択される、請求項またはに記載の使用
【請求項6】
洗浄剤が、カルボキシレート、フェネート、スルホネート、サリシレート、およびフェネート-スルホネート-サリシレートの混合洗浄剤の中から選択される、炭酸カルシウムで過塩基化されている洗浄剤である、請求項からのいずれか一つに記載の使用
【請求項7】
式(A)のイミダゾリン化合物が、以下の式によって定義される、式(I)の化合物
【化3】
に相当する、請求項1からのいずれか一つに記載の使用
【請求項8】
金属部品が、シリンダ、好ましくは鋳鉄製のシリンダである、請求項1から7のいずれか一つに記載の使用。
【請求項9】
エンジン、特に2サイクルエンジン、例えば船舶用2サイクルエンジンの少なくとも1つの金属部品の腐食およびトライボ腐食を防止および/または軽減する方法であって、
- 少なくとも1つの基油、および
- 0.1~30質量%の、式(A)のイミダゾリン化合物、
【化4】
を含む潤滑組成物であって、
該化合物が、
- R は、1~16個の炭素原子を含み、任意にはNH またはSHから選択された基によって鎖の末端で置換された、直鎖または分岐アルキル基を表わすか、またはR は、2~16個の炭素原子を含み、任意にはNH またはSHから選択された基によって鎖の末端で置換された、直鎖または分岐アルケニル基を表わし、また
- R は、1~36個の炭素原子を含む、直鎖または分岐アルキル基を表わすか、またはR は、2~36個の炭素原子を含む、直鎖または分岐アルケニル基を表わす、
と定義される潤滑組成物と前記金属部品を接触させるための少なくとも1つのステップを含む、方法。
【請求項10】
潤滑組成物が、さらに、洗浄剤、分散剤およびそれらの混合物の中から選択される添加剤を少なくとも1つ含む、請求項に記載の方法
【請求項11】
潤滑組成物において、
- 洗浄剤の量が、潤滑組成物の総質量との関係において、3質量%~40質量%、好適には5質量%~30質量%、有利には10質量%~25質量%の値をとり、かつ/または
- 分散剤の量が、潤滑組成物の総質量との関係において、0.01質量%~10質量%、好適には0.1質量%~5質量%、有利には0.5質量%~3質量%の値をとる、
請求項10に記載の方法
【請求項12】
分散剤が、場合によってはホウ酸化または亜鉛ブロックされた、ポリイソブチレンビス-スクシンイミドのような、スクシンイミドの中から選択される、請求項10または11に記載の方法
【請求項13】
洗浄剤が、カルボキシレート、フェネート、スルホネート、サリシレート、およびフェネート-スルホネート-サリシレートの混合洗浄剤の中から選択される、炭酸カルシウムで過塩基化されている洗浄剤である、請求項10から12のいずれか一つに記載の方法
【請求項14】
式(A)のイミダゾリン化合物が、以下の式によって定義される、式(I)の化合物
【化5】
に相当する、請求項から13のいずれか一つに記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にエンジン用の、特に、エンジン内またとりわけ船舶用2サイクルエンジンのような2サイクルエンジン内の金属部品の腐食および/またはトライボ腐食を防止するのに役立つ、新規な潤滑組成物に関する。本発明はまた、エンジン特に船舶用2サイクルエンジンのような2サイクルエンジンの金属部品の不動態化処理の方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
2011年以来、エンジンが非常に低負荷(最大負荷の25%以下)で運転されるときの、過度のさらには制限されない腐食の存在が顕著となっている。既存の最新デザインエンジンを用いてもますます動作条件が厳しいために、この過度の腐食が存在する。たとえ近い将来(2020年)に船舶用エンジンのための燃料の硫黄率が規制(SOxの排出)を順守するために低減されようと、腐食の問題は、エンジンの多くの作業部分について、またより詳細には2サイクルエンジンについて、そのまま残っている。
【0003】
燃料油の燃焼は、酸性ガス、特に硫黄酸化物(SOの酸化によって形成されるSO)の形成を引き起こし、これらのガスはエンジンの金属部品と接触する。水の存在下で、SOは、加水分解され、エンジンの部品の腐食の原因である硫酸HSOとなる。硝酸、カルボン酸の官能基を単数または複数もつ化合物、またはこれらの酸の組合せのような他の酸もまた、エンジンの部品の腐食および/またはトライボ腐食の原因であり得る。
【0004】
酸腐食は、トライボロジーシステム内の、リング-ピストン-ライナ領域中にある。潤滑されるエンジン上での、この領域において、観察される摩擦は往復摺動タイプである。
【0005】
船舶用エンジン、特に船舶用2サイクルエンジンの場合、潤滑組成物は、2つのカテゴリ、すなわち、ピストン-シリンダ全体の潤滑を保証するシリンダ油と、ピストン-シリンダ全体の運動部分以外のすべての運動部分の潤滑を保証するシステム油とに区分される。
【0006】
エンジンの作動中、シリンダ油は、シリンダ上に広がって、ピストンとシリンダの壁との間に油の薄膜を形成する。この膜は、以下の3つの役割を果たす。
- 凝着摩耗を避けるために、2つの表面間の分離を保証すること、
- 燃焼室内に形成される硫酸液滴を、それらがシリンダに達して腐食および/またはトライボ腐食によるその摩耗を引き起こす前に中和すること、および
- 各表面を清潔に保つために、各表面上に形成され得るあらゆる堆積物を分散させること。
【0007】
現在使われている、エンジンまた特に船舶用エンジンのための潤滑組成物は、基油に分散剤と過塩基性洗浄剤とを添加したものを含む。これらの過塩基性洗浄剤は概して、界面活性剤の層によって覆われた炭酸カルシウムCaCOコアを含む。炭酸カルシウムは、硫酸と反応してとりわけ硫酸カルシウム(CaSO)を形成する。媒質中の硫酸の減少は、腐食および/またはトライボ腐食に対する部品の保護を可能にする。
【0008】
この保護を保証するために、使用される潤滑組成物は、(特に酸を中和するために)十分に塩基性でなければならず、このことは、これらの組成物中に含まれる洗浄剤の量を増やすことを意味する。
【0009】
このように、現在市場に出ている潤滑組成物は、70を超える塩基価(BN)を有する。
【0010】
しかしながら、これらの潤滑組成物中の洗浄剤の量の増加は、エンジンの金属部品、また特に船舶用2サイクルエンジンのような2サイクルエンジンのシリンダの研磨による表面の摩耗(つまりアブレシブ摩耗)の原因であるCaCOおよびCaSOの粒子数の増加を導く。それに現在利用可能な潤滑組成物の使用は、摩擦が往復摺動タイプであるときに、エンジンの金属部品を腐食および/またはトライボ腐食から、またとりわけ2サイクルエンジンの金属部品をトライボ腐食から、完全に保護するものではない。
【0011】
したがって、エンジン特に船舶用2サイクルエンジンのような2サイクルエンジンの金属部品の、腐食および/またはトライボ腐食に対する保護を改善することを可能にする潤滑組成物の提供には利点がある。
【0012】
塩基価の低下を可能にする潤滑組成物の提供にも利点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、エンジン、典型的には2サイクルエンジン、特に船舶用2サイクルエンジンの金属部品の、腐食および/またはトライボ腐食に対する保護を改善することを可能にする潤滑組成物を提供することである。
【0014】
本発明はより具体的には、2サイクルエンジン、特に船舶用2サイクルエンジンのためのシリンダ油の提供を目ざす。
【0015】
本発明の別の目的は、低下した塩基価を有する潤滑組成物を提供することである。
【0016】
本発明の以下の説明を読むことにより、他の目的がさらに明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの目的は、以下を含む潤滑組成物に関する本発明によって果たされる。
- 少なくとも1つの基油、および
- 0.1~30質量%、好適には0.5質量%~20質量%、有利には1質量%~10質量%の、式(A)のイミダゾリン化合物、
【化1】
式中、
- Rは、1~16個の炭素原子、好適には1~12個の炭素原子、有利には2~8個の炭素原子を含み、任意にはNH、OHまたはSHの中から選択された基によって鎖の末端で置換された、直鎖または分岐アルキル基を表わすか、またはRは、2~16個の炭素原子、好適には2~12個の炭素原子、有利には2~8個の炭素原子を含み、任意にはNH、OHまたはSHの中から選択された基によって鎖の末端で置換された、直鎖または分岐アルケニル基を表わす。好ましくは、Rは、2~8個の炭素原子、好適には2~6個の炭素原子、有利には2~4個の炭素原子を含み、また-NH基によって鎖の末端で置換された、直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基を表わす。
- Rは、1~36個の炭素原子、好適には4~28個の炭素原子、有利には8~24個の炭素原子を含む、直鎖または分岐アルキル基を表わすか、またはRは、2~36個の炭素原子、好適には4~28個の炭素原子、有利には8~24個の炭素原子を含む、直鎖または分岐アルケニル基を表わす。
【0018】
一実施形態によると、Rは、1~12個の炭素原子、好ましくは2~8個の炭素原子、さらに好ましくは2~6個の炭素原子、さらには2~4個の炭素原子を含む、直鎖または分岐アルキル基を表わし、前記R基は好ましくは、-NH基によってアルキル鎖の末端で置換されている。
【0019】
一実施形態によると、Rは、4~28個の炭素原子、好ましくは8~24個の炭素原子を含む、直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基を表わす。好ましくは、Rは、4~28個の炭素原子、好ましくは8~24個の炭素原子を含む、直鎖または分岐アルケニル基を表わす。
【0020】
好ましくは、R基は、少なくとも1つの二重結合を含むアルケニル基を表わす。好適には、前記二重結合は、イミダゾリン官能基との関係においてアルケニル基のC-8、C-9に位置する。
【0021】
本発明の特定の一実施形態によると、潤滑組成物中に含まれる基油は、鉱物由来の油、合成由来の油、または植物由来の油、ならびにそれらの混合物の中から選択される。
【0022】
本出願中で概して使用される鉱油または合成油は、下表中にまとめられたようにAPI分類中で定義されているクラスの1つに属している。
【0023】
【表1】
【0024】
第1群の鉱油は、選択されたナフテン系またはパラフィン系原油の分解蒸留、次いで溶剤での抽出、溶剤または触媒での脱ろう、水素化処理または水素添加などのプロセスによるこれらの留出物の精製によって得ることができる。
【0025】
第2群および第3群の油は、より厳しい精製プロセス、例えば水素化処理、水素化分解、水素添加および触媒による脱ろうの中から組み合わせることによって得られる。
【0026】
第4群または第5群の合成基油の例は、ポリアルファオレフィン、ポリブテン、ポリイソブテン、アルキルベンゼンを含む。
【0027】
これらの基油は、単独でまたは混合した形で使用可能である。鉱油を合成油と組合せてもよい。
【0028】
船舶用の2サイクルディーゼルエンジンのためのシリンダ油は、SAE-40~SAE-60の粘度等級、概して16.3~21.9mm/sの100℃動粘度と等価であるSAE-50を有する。
【0029】
等級40の油は、12.5~16.3mm/sの100℃動粘度を有する。
【0030】
等級50の油は、16.3~21.9mm/sの100℃動粘度を有する。
【0031】
等級60の油は、21.9~26.1mm/sの100℃動粘度を有する。
【0032】
業務上の用途に応じて、船舶用2サイクルディーゼルエンジン向けのシリンダ油は、18~21.5、好適には19~21.5mm/sの100℃動粘度を有するように調合されることが好ましい。
【0033】
この粘度は、例えば、第1群の鉱物性基油、例えばSolvent Neutral基油(例えば500SNまたは600SN)やBrightstockを含む基油と添加剤とを混合することによって得ることができる。添加剤と混合した状態でSAE-50等級と両立し得る粘度を有する鉱物性基油、合成基油または植物由来の基油の他の全ての組合せが、使用可能である。
【0034】
典型的には、船舶用低速2サイクルディーゼルエンジンのためのシリンダ潤滑剤の従来の調合物は、SAE40~SAE60等級、好適にはSAE50等級(SAE J300規格による)のものであり、例えばAPI第1群クラスの船舶用エンジンでの使用に適応された、すなわち選択された原油の分解蒸留そしてその後の溶剤での抽出、溶剤または触媒での脱ろう、水素化処理または水素添加などのプロセスによるこれらの蒸留物の精製によって得られた、鉱物由来および/または合成の潤滑基油を少なくとも50質量%含む。その粘度指数(VI)は80~120であり、その硫黄含有量は0.03%超、その飽和物含有量は90%未満である。
【0035】
有利には、本発明に係る潤滑組成物は、組成物の総質量との関係において少なくとも50質量%の単数または複数の基油を含む。
【0036】
より有利には、本発明に係る潤滑組成物は、組成物の総質量との関係において少なくとも60質量%、さらには少なくとも70質量%の単数または複数の基油を含む。
【0037】
より際立って有利には、本発明に係る潤滑組成物は、組成物の総質量との関係において60~99.9質量%の基油、好ましくは70~98質量%の基油を含む。
【0038】
好ましくは、本発明に係る潤滑組成物はさらに、洗浄剤、分散剤およびそれらの混合物の中から選択される添加剤を少なくとも1つ含む。
【0039】
本発明に係る潤滑組成物中で使用される洗浄剤は、当業者にとって周知のものである。
【0040】
本発明において、潤滑組成物の調合において一般的に使用されている洗浄剤は、親油性の長い炭化水素鎖と親水性頭部を含むアニオン化合物である。関連するカチオンは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属カチオンである。
【0041】
洗浄剤は好ましくは、カルボン酸、スルホン酸、サリチル酸、ナフテン酸ならびにフェネート塩のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の中から選択される。
【0042】
アルカリ金属およびアルカリ土類金属は好ましくは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムである。
【0043】
これらの金属塩は、ほぼ化学量論量で金属を含有し得る。この場合、非過塩基性または「中性」の洗浄剤に言及されるが、これらはいくらかの塩基性にも寄与する。これらの「中性」の洗浄剤は典型的には、ASTM D2896に準じて測定された、150mgKOH/g未満、または100mgKOH/g未満、さらには80mgKOH/g未満のBNを有する。
【0044】
中性と呼ばれるこのタイプの洗浄剤は、本発明に係る潤滑剤のBNに部分的に寄与することができる。例として、例えばカルシウム、ナトリウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ金属およびアルカリ土類金属のカルボキシレート、スルホネート、サリシレート、フェネート、ナフテネートタイプの中性洗浄剤を利用する。
【0045】
金属が過剰(化学量論量を超える量)である場合、過塩基性と呼ばれる洗浄剤ということになる。それらのBNは高く、例えば150mgKOH/g超、典型的には200~700mgKOH/g、概して250~450mg/KOH/gである。
【0046】
洗浄剤に過塩基性の性質をもたらす過剰の金属は、例えばカルボネート、ヒドロキシド、オキサレート、アセテート、グルタメートなど、不油溶性の金属塩の形態を呈し、好適にはカルボネートである。
【0047】
同じ過塩基性洗浄剤中で、これらの不溶性塩の金属は、油溶性の洗浄剤のものと同じであってよく、あるいは異なるものであってもよい。これらは、好適には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムの中から選択される。
【0048】
過塩基性洗浄剤は、こうして、油溶性の金属塩の形態で洗浄剤により潤滑組成物中に懸濁状態に維持されている不溶性金属塩で構成されたミセルの形態を呈する。
【0049】
単一のタイプの洗浄剤可溶性金属塩を含む過塩基性洗浄剤は、概して、この洗浄剤の疎水性鎖の性質にちなんで命名される。
【0050】
したがって、それらの過塩基性洗浄剤は、この洗浄剤がそれぞれカルボキシレート、フェネート、サリシレート、スルホネートまたはナフテネートであるかに応じて、カルボキシレートタイプ、フェネートタイプ、サリシレートタイプ、スルホネートタイプ、ナフテネートタイプのものと称される。
【0051】
過塩基性洗浄剤は、ミセルが、その疎水性鎖の性質により互いに異なっている複数のタイプの洗浄剤を含んでいる場合に、混合タイプのものと称される。
【0052】
本発明に係る潤滑組成物中で使用するためには、油溶性の金属塩は好適には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムのフェネート、スルホネートおよび/またはサリシレートの混合洗浄剤、サリシレート、スルホネート、フェネート、およびカルボキシレートである。
【0053】
過塩基性の性質をもたらす不溶性金属塩は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩、好適には炭酸カルシウムである。
【0054】
好ましくは、本発明に係る潤滑組成物中で使用される洗浄剤は、カルボキシレート、フェネート、スルホネート、サリシレート、およびフェネート-スルホネート-サリシレートの混合洗浄剤の中から選択される、炭酸カルシウムで過塩基化されている洗浄剤である。
【0055】
有利には、本発明に係る潤滑組成物は、潤滑組成物の総質量との関係において3~40質量%、好適には5質量%~30質量%、有利には10質量%~25質量%の単数または複数の洗浄剤を含み得る。
【0056】
分散剤は、特に船舶向けの分野で応用するための、潤滑組成物の調合物中に使用される周知の添加剤である。その第1の役割は、当初から潤滑組成物中に存在するかまたはエンジン内で使用する間に潤滑組成物中に現われる粒子を懸濁状態に維持することにある。これらの分散剤は、立体障害に作用することによって、その凝集を防止する。これらの分散剤は同様に、中和に対する相乗効果を有することもできる。
【0057】
本発明において、潤滑剤用添加剤として使用される分散剤は、概して50~400個の炭素原子を含む、比較的長い炭化水素鎖に結び付けられた極性基を含む。極性基は、典型的には少なくとも1つの窒素元素または酸素元素を含む。
【0058】
コハク酸から誘導された化合物は、潤滑添加剤として特に使用されている分散剤である。詳細には、無水コハク酸とアミンの縮合によって得られるスクシンイミド、無水コハク酸とアルコールまたはポリオールの縮合によって得られるコハク酸エステルが使用される。
【0059】
これらの化合物は、次に、さまざまな化合物、特に硫黄、酸素、ホルムアルデヒド、カルボン酸、ならびにホウ素または亜鉛を含む化合物によって処理されて、例えばホウ酸化スクシンイミドまたは亜鉛ブロックスクシンイミドを生成することができる。
【0060】
アルキル基で置換されたフェノール、ホルムアルデヒドおよび一級または二級アミンの重縮合によって得られるマンニッヒ塩基も同様に、潤滑剤中で分散剤として使用される化合物である。
【0061】
好ましくは、本発明に係る分散剤は、場合によってはホウ酸化または亜鉛ブロックされた、ポリイソブチレンビス-スクシンイミドような、スクシンイミドの中から選択される。
【0062】
有利には、本発明に係る潤滑組成物は、潤滑組成物の総質量との関係において0.01~10質量%、好適には0.1質量%~5質量%、有利には0.5質量%~3質量%の単数または複数の分散剤を含み得る。
【0063】
潤滑組成物はさらに少なくとも1つの摩耗防止添加剤を含むことができる。
【0064】
好ましくは、摩耗防止添加剤は、ジチオリン酸亜鉛またはZDDPである。このカテゴリ中には、リン、硫黄、窒素、塩素およびホウ素を含むさまざまな化合物も含まれる。
【0065】
多様な摩耗防止添加剤が存在するが、最も多く使用されるカテゴリは、金属アルキルチオリン酸塩、詳細にはアルキルチオリン酸亜鉛、そしてより具体的にはジアルキルジチオリン酸亜鉛つまりZDDPといったリン-硫黄を含む添加剤のカテゴリである。
【0066】
リン酸アミン、ポリスルフィド、特に含硫黄オレフィンも、一般的に使用されている摩耗防止添加剤である。
【0067】
同様に、通常、潤滑組成物中には、例えば金属ジチオカルバメート、詳細にはジチオカルバミン酸モリブデンなどの含窒素および含硫黄タイプの摩耗防止および極圧添加剤も見られる。グリセロールのエステルも同様に、摩耗防止添加剤である。例えば、モノ、ジおよびトリオレエート、モノパルミテートおよびモノミリステートを挙げることができる。
【0068】
特定の一実施形態によると、潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において以下を含む。
- 50~96.9重量%、好ましくは60~95重量%、さらに好ましくは70~90重量%の単数または複数の基油、
- 0.1~30重量%、好ましくは0.5~20重量%、さらに好ましくは1~10重量%の、単数または複数の、式(A)のイミダゾリン化合物、および
- 3~40重量%、好ましくは5~30重量%、さらに好ましくは10~25重量%の単数または複数の洗浄剤、および
- 場合によっては0.01~10重量%、好ましくは0.1~5重量%、さらに好ましくは0.5~3重量%の単数または複数の分散剤。
【0069】
特定の一実施形態によると、潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において以下を含む。
- 60~99重量%、好ましくは60~95重量%、さらに好ましくは70~90重量%の単数または複数の基油、
- 0.1~30重量%、好ましくは0.5~20重量%、さらに好ましくは1~10重量%の、単数または複数の、式(A)のイミダゾリン化合物、および
- 0.01~10重量%、好ましくは0.1~5重量%、さらに好ましくは0.5~3重量%の単数または複数の分散剤、および
- 場合によっては3~40重量%、好ましくは5~30重量%、さらに好ましくは10~25重量%の単数または複数の洗浄剤。
【0070】
潤滑組成物は、それらの使用に適応させられたあらゆるタイプの機能性添加剤、例えばポリメチルシロキサン、ポリアクリレートなどの極性ポリマーであり得る消泡添加剤、例えばフェノールまたはアミノ系酸化防止添加剤、および/または例えば有機金属化合物またはチアジアゾールである防錆添加剤なども含むことができる。これらは、当業者にとって公知のものである。
【0071】
本発明の好ましい一実施形態によると、式(A)の化合物は、以下の化合物(I)である:
【化2】
【0072】
特定の一実施形態によると、潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において以下を含む。
- 50~96.9重量%、好ましくは60~95重量%、さらに好ましくは70~90重量%の単数または複数の基油、
- 0.1~30重量%、好ましくは0.5~20重量%、さらに好ましくは1~10重量%の、上に定義された式(I)の化合物を少なくとも1つ含む単数または複数のイミダゾリン化合物、および
- 3~40重量%、好ましくは5~30重量%、さらに好ましくは10~25重量%の、フェネートまたはスルホネートタイプの過塩基性洗浄剤を少なくとも1つ含む単数または複数の洗浄剤、および
- 場合によっては0.01~10重量%、好ましくは0.1~5重量%、さらに好ましくは0.5~3重量%の単数または複数の分散剤。
【0073】
特定の一実施形態によると、潤滑組成物は、潤滑組成物の総重量との関係において以下を含む。
- 60~99重量%、好ましくは60~95重量%、さらに好ましくは70~90重量%の単数または複数の基油、
- 0.1~30重量%、好ましくは0.5~20重量%、さらに好ましくは1~10重量%の、上に定義された式(I)の化合物を少なくとも1つ含む単数または複数のイミダゾリン化合物、および
- 0.01~10重量%、好ましくは0.1~5重量%、さらに好ましくは0.5~3重量%の、スクシンイミドの中から選択される単数または複数の分散剤、および
- 場合によっては3~40重量%、好ましくは5~30重量%、さらに好ましくは10~25重量%の単数または複数の洗浄剤。
【0074】
本発明は同様に、2サイクルエンジン特に船舶用2サイクルエンジンのようなエンジンの少なくとも1つの金属部品の潤滑のための、本発明に係る潤滑組成物の使用にも関する。
【0075】
好ましくは、本発明に係る潤滑組成物の使用は、前記エンジンの前記金属部品の腐食および/またはトライボ腐食を防止および/または軽減することを可能にする。
【0076】
本発明は同様に、2サイクルエンジン特に船舶用2サイクルエンジンのようなエンジンの少なくとも1つの金属部品の、本発明に係る潤滑組成物とのエンジンの前記部品の接触を含む潤滑方法にも関する。
【0077】
本発明は同様に、2サイクルエンジン特に船舶用2サイクルエンジンのようなエンジンの少なくとも1つの金属部品の腐食および/またはトライボ腐食を防止および/または軽減するための、少なくとも1つの基油を含む潤滑組成物における、本発明に係る式(A)の化合物の使用にも関する。
【0078】
本発明は同様に、2サイクルエンジン特に船舶用2サイクルエンジンのようなエンジンの少なくとも1つの金属部品の、本発明に係る潤滑組成物との前記金属部品の潤滑を含む腐食および/またはトライボ腐食の防止および/または軽減方法にも関する。
【0079】
本発明は同様に、2サイクルエンジン特に船舶用2サイクルエンジンのようなエンジンの少なくとも1つの金属部品の不動態化処理のための、本発明に係る潤滑組成物の使用にも関する。
【0080】
本発明は同様に、エンジンの少なくとも1つの金属部品の、本発明に係る潤滑組成物との前記金属部品の少なくとも1つの接触ステップを含む、不動態化処理の方法にも関する。
【0081】
本発明は同様に、2サイクルエンジン特に船舶用2サイクルエンジンのようなエンジンの少なくとも1つの金属部品の不動態化処理のための、少なくとも1つの基油を含む潤滑組成物における、本発明に係る式(A)の化合物の使用にも関する。
【0082】
好ましくは、本発明に係る金属部品は、シリンダまたはピストンである。
【0083】
有利には、金属部品は鋳鉄製である。
【0084】
好ましくは、本発明に係るエンジンは2サイクルエンジンである。好ましくは、エンジンは船舶用2サイクルエンジンである。
【0085】
好ましくは、エンジンは、重油を消費するエンジンである。「重油」とは、本発明の意味において、場合によっては添加剤の加えられた、石油の分解蒸留に由来する重い留分のことである。
【0086】
本発明の意味において、「腐食」とは、酸化剤との化学反応による材料、好ましくは金属材料の変質を意味する。好ましくは、この酸化剤は酸である。好適には、この酸は硫酸HSOである。
【0087】
本発明の意味において、「トライボ腐食」とは、上に定義されたような腐食と摩擦とが組み合わされた作用によって、金属材料の劣化および摩耗に導くプロセスを意味する。
【0088】
有利には、本発明中に定義される式(A)の化合物は、シリンダ潤滑組成物中に使用されて、船舶用2サイクルエンジンのような2サイクルエンジンのシリンダおよびピストン上での酸によるトライボ腐食を軽減させる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】本発明に係る組成物CLと比較組成物CCとの存在下で導かれたトライボロジー試験後に得られた、鋳鉄製厚板の深さプロファイルを表している。
【発明を実施するための形態】
【0090】
本発明は次に、非制限的な実施例を使って説明される。
【0091】
実施例1:潤滑組成物
表2の組成物(CL:本発明に係る潤滑組成物、CC:比較潤滑組成物)を、60℃の基油中で分散剤および/または洗浄剤および添加剤を混合することによって調製した。
【0092】
【表2】
【0093】
実施例2:摩耗深さ試験の結果
トライボロジー試験が、往復動トライボメータBiceriで、直径6mmおよび曲率半径50mmの鋼棒(EN31)と、800グリットのSiC研磨紙を用いて研磨された鋳鉄製厚板(FT25)とを使用して行われた。鋼棒も同様に研磨されて、50~100nmの粗さRaを得た。さらに、摩擦領域外の鋳鉄製厚板の領域は、樹脂ですっかり覆われた。この樹脂は、試験の終わりに取り外される。そのようにして、樹脂ですっかり覆われた領域は、試験中に腐食することはなく、腐食現象に起因する摩耗の痕跡の深さを測定するための尺度として役立つ。
【0094】
各試験の前に、潤滑組成物は、100℃に加熱され、そして「T」構造を使って室温の5M(27質量%)の硫酸溶液と接触する。潤滑組成物は主輸送管を介して運ばれ、そして酸溶液は主輸送管に垂直な輸送管を通って供給された。
【0095】
これらの試験の条件は、以下の通りである。
- 温度:100℃
- 圧力:0.67GPa
- 速度:0.02m/s
- トレースの長さ:5mm
- 継続時間:6時間
【0096】
各試験の終わりに、腐食生成物がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液を用いて取り除かれ、そして鋳鉄製厚板の摩耗が白色光干渉計によって分析され、このことは腐食および/またはトライボ腐食によって生じた摩耗痕の3Dプロファイルを得ることを可能にした。
【0097】
これらの3Dプロファイルは、摩耗痕の深さプロファイルを得ることを可能にする。図1は、本発明に係る潤滑組成物CLと比較組成物CCとの存在下で導かれた上に記述されたようなトライボロジー試験後に得られた、鋳鉄製厚板の深さプロファイルを表している。
【0098】
これらの試験の結果は、式(I)の化合物が無い場合、鋳鉄製厚板が、鋼棒と接触していない領域(接触外領域)のところで腐食し、またトライボ腐食に起因する摩耗も同様に、棒と接触している領域のところで観察されることを示している。式(I)の化合物の存在は、腐食およびトライボ腐食に対する保護を改善する。実際に、なんらかの理論によって結びつけるつもりはなく、添加剤は、金属部品の表面と潤滑組成物の油との間の物理的バリアを形成することにより、洗浄剤による酸液滴の中和に付け加わるようになる第2の保護層を作り出すことを可能にし、このことは腐食現象を防止する。
図1