(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び真空排気システム
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
F04D19/04 Z
F04D19/04 G
(21)【出願番号】P 2022086185
(22)【出願日】2022-05-26
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-017864(JP,A)
【文献】特開2008-248825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口と排気口を有するハウジングと前記ハウジングの内側に配設された排気機構とを備えた真空ポンプであって、
前記排気機構の排気側出口近傍に配設され、前記ハウジング内に貫通して設けられたラジカル供給口と、
前記ラジカル供給口から前記ハウジング内にラジカルを供給し、前記供給したラジカルを
前記ラジカル供給口より吸気口側に流して前記排気機構内の反応生成物が堆積する箇所に流すラジカル供給手段と、
を備える、ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記吸気口と前記ラジカル供給口との間に、前記ラジカルを前記ハウジング外に排出する中間ポートを備える、ことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記ハウジング内に供給された前記ラジカルを前記排気口又は前記中間ポートを通して吸引して前記ハウジング外に排出可能な吸引・排気手段と、
前記ラジカルの排出経路を前記排気口又は前記中間ポートの何れかに切換可能な排気切換弁と、
を備える、ことを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記排気機構の少なくとも一部が、軸方向に多段状に配列された複数の回転翼を有する回転体と、前記複数の回転翼間に配設された複数の固定翼と、を有するターボ分子ポンプ機構である、ことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記排気機構の少なくとも一部が、回転円板と、固定円板と、前記回転円板と前記固定円板の対向面の少なくとも一部に設けられた渦状溝とを有するシグバーン型ポンプ機構である、ことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記排気機構の少なくとも一部が、回転円筒と、固定円筒と、前記回転円筒と前記固定円筒の対向面の少なくとも一部に設けられたネジ溝と、を備えるホルベック型ポンプ機構である、ことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記排気機構は、軸方向に多段状に配列された複数の回転翼を有する回転体と前記複数の回転翼間に配設された複数の固定翼とを有するターボ分子ポンプ機構、回転円板と固定円板と前記回転円板と前記固定円板の対向面の少なくとも一部に設けられた渦状溝とを有するシグバーン型ポンプ機構、又は回転円筒と固定円筒と前記回転円筒と前記固定円筒の対向面の少なくとも一部に設けられたネジ溝とを備えるホルベック型ポンプ機構のうち少なくとも2つ以上で構成され、
前記中間ポートは、隣り合う前記ターボ分子ポンプ機構、前記シグバーン型ポンプ機構又は前記ホルベック型ポンプ機構の境界付近に配設されている、ことを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
吸気口と排気口を有するハウジングと、前記ハウジングの内側に配設された排気機構と、前記排気機構の排気側出口近傍に配設され、前記ハウジング内に貫通して設けられたラジカル供給口と、を備えた真空ポンプと、
前記ラジカル供給口から前記ハウジング内にラジカルを供給し、前記供給したラジカルを
前記ラジカル供給口より吸気口側に流して前記排気機構内の反応生成物が堆積する箇所に供給するラジカル供給手段と、
を備える、
ことを特徴とする真空排気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空ポンプ及び真空排気システムに関するものであり、特に、低真空から超高真空に亘る圧力範囲で利用可能な真空ポンプ及び真空排気システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
メモリや集積回路灯の半導体装置を製造する際、空気中の塵等による影響を避けるために、高真空状態のチャンバ内で高純度の半導体基板(ウエハ)にドーピングやエッチングを行う必要があり、チャンバ内の排気には、例えば、ターボ分子等の真空ポンプが使用されている。
【0003】
このような真空ポンプとして、円筒状のケーシングと、ケーシング内に入れ子で固定されると共にネジ溝が配設された円筒状のステータと、ステータ内で高速回転可能に支持されたロータと、を備えているもの等が知られている。
【0004】
真空ポンプでは、ケーシングの吸気口から吸引したガスによっては、ポンプ内部(ケーシングの内部)で圧縮される過程で気体から固体に相変化を起こし、ポンプ内部で固化する場合がある。その結果、ポンプ内部に固化物(以下、これを「反応生成物」という)が堆積し、ガス流路が閉塞するという不具合が生じる場合がある。
【0005】
その不具合を解決する方法として、真空ポンプの内部にラジカルを供給し、反応生成物を洗浄する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
ラジカルは、三フッ化窒素(NF3)等の原料ガスに高電圧を印加してポンプ内部に堆積した固化物を強制的に引き剥がし、活性化して除去するものである。しかし、ラジカルはポンプ内に導入化する導入管や、ポンプの構成部品の表面に触れると活性を失う問題点がある。そのため、特許文献1に記載される真空ポンプのように、真空ポンプの吸気口付近にラジカル発生装置を設置した場合には、吸気口付近の洗浄効果は高いが、排気口付近に堆積する反応生成物はほとんど洗浄できない場合が多い。
【0006】
一方、反応生成物は、真空ポンプの排気口付近に堆積する場合が多く、排気口付近を効果的に洗浄する必要がある。そこで、吸気口付近だけでなく、真空ポンプの排気機構の中間付近にもラジカル発生装置を設置し、ラジカルが活性を失う前に、洗浄したい部分までラジカルを届ける技術を採用した真空ポンプも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-248825号公報
【文献】特開2022-17864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の真空ポンプは、吸気口付近と排気口付近の両方を効果的に洗浄できるようになったが、ラジカル発生装置を複数の箇所に設置する必要があり、コストが高くなるという問題点があった。
また、特許文献2に記載の真空ポンプは、供給されたラジカルは、吸気口側から排気口側へ向かって1方向に流れるため、例えば、反応生成物が堆積する箇所の中央付近にラジカル供給口を設置した場合には、ラジカル供給口より下流側は洗浄できるが、ラジカル供給口より上流側は洗浄できない。そのため、ラジカル供給口より上流側を洗浄するためには、上流側を洗浄するためのラジカル供給口が別途必要となる。
【0009】
そこで、ラジカル発生装置による洗浄効率を向上させて、少ないラジカル発生装置で真空ポンプ内に堆積する反応生成物を効果的に洗浄できるようにすると同時に、運用コストの低減を可能にすることができる真空ポンプ及び真空排気システムを提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載の発明は、吸気口と排気口を有するハウジングと前記ハウジングの内側に配設された排気機構とを備えた真空ポンプであって、前記排気機構の排気側出口近傍に配設され、前記ハウジング内に貫通して設けられたラジカル供給口と、前記ラジカル供給口から前記ハウジング内にラジカルを供給し、前記供給したラジカルを前記ラジカル供給口より吸気口側に流して前記排気機構内の反応生成物が堆積する箇所に流すラジカル供給手段と、を備える、真空ポンプを提供する。
【0011】
この構成によれば、吸気口と排気口との間に設けられているラジカル供給口からハウジング内にラジカルを供給し、ラジカル供給口より下流側へラジカルを流す経路と、ラジカル供給口より上流側へラジカル経路を切り替えることで、供給したラジカルがハウジング内のクリーニングを必要とする箇所全体に行き渡る。そして、ハウジング内における排気機構等に堆積している反応生成物を活性化し、効果的に除去することができる。これにより、少ない数のラジカル発生装置であっても反応生成物を効果的に除去することができるので、真空ポンプ内部の洗浄システムにおける洗浄部品コストの低減と運用コストの低減を両立させることが可能になる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記吸気口と前記ラジカル供給口との間に、前記ラジカルを前記ハウジング外に排出する中間ポートを備える、真空ポンプを提供する。
【0013】
この構成によれば、ラジカル供給口から供給したラジカルを、排気口だけでなく、中間ポートを通してもハウジングの外側に排出することができる。すなわち、ハウジング内における排気機構に堆積している反応生成物を活性化して効果的に除去できる位置に中間ポートを設け、必要に応じて中間ポートを通してラジカルをハウジングの外側に排出することにより、洗浄効果を最大限に発揮させることができる。また、除去した反応生成物が上流側を流れないため、上流側が汚染されるのを防ぐことができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の構成において、前記ハウジング内に供給された前記ラジカルを前記排気口又は前記中間ポートを通して吸引して前記ハウジング外に排出可能な吸引・排気手段と、前記ラジカルの排出経路を前記排気口又は前記中間ポートの何れかに切換可能な排気切換弁と、を備える、真空ポンプを提供する。
【0015】
この構成によれば、ラジカル供給口からハウジング内に供給されたラジカルを、排気切換弁による排出系路の切り換え操作により、排気口又は中間ポートの何れかよりハウジング外に排出することができる。したがって、ハウジング内における排気機構に堆積している反応生成物を活性化して効果的に除去できる排気口又は中間ポートの位置を選択して、排気切換弁によりラジカルの排出経路を切り換えることにより、洗浄効果を最大限に発揮させることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記排気機構の少なくとも一部が、軸方向に多段状に配列された複数の回転翼を有する回転体と、前記複数の回転翼間に配設された複数の固定翼と、を有するターボ分子ポンプ機構である、真空ポンプを提供する。
【0017】
この構成によれば、排気機構の少なくとも一部が、軸方向に多段状に配列された複数の回転翼を有する回転体と、複数の回転翼間に配設された複数の固定翼と、を有するターボ分子ポンプ機構において、ハウジング内における排気機構に堆積している反応生成物を活性化し、効果的に除去することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記排気機構の少なくとも一部が、回転円板と、固定円板と、前記回転円板と前記固定円板の対向面の少なくとも一部に設けられた渦状溝とを有するシグバーン型ポンプ機構である、真空ポンプを提供する。
【0019】
この構成によれば、排気機構の少なくとも一部が、回転円板と、固定円板と、回転円板と固定円板の対向面の少なくとも一部に設けられた渦状溝とを有するシグバーン型ポンプ機構において、ハウジング内における排気機構に堆積している反応生成物を活性化し、効果的に除去することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記排気機構の少なくとも一部が、回転円筒と、固定円筒と、前記回転円筒と前記固定円筒の対向面の少なくとも一部に設けられたネジ溝と、を備えるホルベック型ポンプ機構である、真空ポンプを提供する。
【0021】
この構成によれば、排気機構の少なくとも一部が、回転円筒と、固定円筒と、回転円筒と固定円筒の対向面の少なくとも一部に設けられたネジ溝と、を備えるホルベック型ポンプ機構において、ハウジング内における排気機構に堆積している反応生成物を活性化し、効果的に除去することができる。
【0022】
請求項7に記載の発明は、請求項2に記載の構成において、前記排気機構は、軸方向に多段状に配列された複数の回転翼を有する回転体と前記複数の回転翼間に配設された複数の固定翼とを有するターボ分子ポンプ機構、回転円板と固定円板と前記回転円板と前記固定円板の対向面の少なくとも一部に設けられた渦状溝とを有するシグバーン型ポンプ機構、又は回転円筒と固定円筒と前記回転円筒と前記固定円筒の対向面の少なくとも一部に設けられたネジ溝とを備えるホルベック型ポンプ機構のうち少なくとも2つ以上で構成され、前記中間ポートは、隣り合う前記ターボ分子ポンプ機構、前記シグバーン型ポンプ機構又は前記ホルベック型ポンプ機構の境界付近に配設されている、真空ポンプを提供する。
【0023】
この構成によれば、排気機構の少なくとも一部が、回転円板と、固定円板と、回転円板と固定円板の対向面の少なくとも一部に設けられた渦状溝とを有するシグバーン型ポンプ機構、又は回転円筒と固定円筒と回転円筒と固定円筒の対向面の少なくとも一部に設けられたネジ溝とを備えるホルベック型ポンプ機構のうち少なくとも2つ以上で構成された真空ポンプにおいて、ハウジング内における排気機構に堆積している反応生成物を活性化し、効果的に除去することができる。
【0024】
請求項8に記載の発明は、吸気口と排気口を有するハウジングと、前記ハウジングの内側に配設された排気機構と、前記排気機構の排気側出口近傍に配設され、前記ハウジング内に貫通して設けられたラジカル供給口と、を備えた真空ポンプと、前記ラジカル供給口から前記ハウジング内にラジカルを供給し、前記供給したラジカルを前記ラジカル供給口より吸気口側に流して前記排気機構内の反応生成物が堆積する箇所に供給するラジカル供給手段と、を備える、真空排気システムを提供する。
【0025】
この構成によれば、吸気口と排気口との間に設けられているラジカル供給口からハウジング内にラジカルを供給し、ラジカル供給口より下流側へラジカルを流す経路と、ラジカル供給口より上流側へラジカル経路を切り替えることで、供給したラジカルがハウジング内のクリーニングを必要とする箇所全体に行き渡る。そして、ハウジング内における排気機構等に堆積している反応生成物を活性化し、効果的に除去することができる。これにより、少ない数のラジカル発生装置であっても反応生成物を効果的に除去することができるので、真空ポンプ内部の洗浄システムにおける洗浄部品コストの低減と運用コストの低減を両立させることが可能な真空排気システムの実現が図れる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、吸気口と排気口との間に設けられているラジカル供給口からハウジング内にラジカルを供給すると、供給したラジカルがハウジング内のクリーニングを必要とする箇所全体に行き渡り、ハウジング内の排気機構等に堆積している反応生成物を活性化し、効果的に除去することができる。これにより、少ない数のラジカル発生装置で反応生成物を効果的に除去できるので、真空ポンプ内部の洗浄システムにおける洗浄部品コストの低減と運用コストの低減を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの第1実施例として示すターボ分子ポンプの縦断面図であり、ラジカルを中間ポートから排出する時の状態に切り換えている場合の排出経路を説明する図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの第1実施例として示すターボ分子ポンプの縦断面図であり、ラジカルを排出口から排出する時の状態に切り換えている場合の排出経路を説明する図である。
【
図3】同上第1実施例のターボ分子ポンプにおけるアンプ回路の一例を示す図である。
【
図4】同上第1実施例のターボ分子ポンプにおけるアンプ回路で検出した電流指令値が検出値より大きい場合の一制御例を示すタイムチャートである。
【
図5】同上第1実施例のターボ分子ポンプにおけるアンプ回路で検出した電流指令値が検出値より小さい場合の一制御例を示すタイムチャートである。
【
図6】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの第2実施例として示すターボ分子ポンプの縦断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの第3実施例として示すターボ分子ポンプの縦断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの第4実施例として示すターボ分子ポンプの縦断面図である。
【
図9】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの第5実施例として示すターボ分子ポンプの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、ラジカル発生装置による洗浄効率を向上させて、少ないラジカル発生装置で真空ポンプ内に堆積する反応生成物を効果的に洗浄できるようにすると同時に、運用コストの低減を可能にする真空ポンプ及び真空排気システムを提供するという目的を達成するために、吸気口と排気口を有するハウジングと前記ハウジングの内側に配設された排気機構とを備えた真空ポンプであって、前記排気機構の排気側出口近傍に配設され、前記ハウジング内に貫通して設けられたラジカル供給口と、前記ラジカル供給口から前記ハウジング内にラジカルを供給し、前記供給したラジカルを前記排気機構内の反応生成物が堆積する箇所に流すラジカル供給手段と、を備える、構成としたことにより実現した。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る一実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例において、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0030】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0031】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0032】
また、以下の説明において、上下や左右等の方向を示す表現は、絶対的なものではなく、本発明の真空ポンプの各部が描かれている姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。また、実施例の説明の全体を通じて同じ要素には同じ符号を付している。
【0033】
このターボ分子ポンプ100Aの縦断面図を
図1及び
図2に示す。
図1及び
図2において、ターボ分子ポンプ100Aは、ハウジングである円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0034】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0035】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図3に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0036】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0037】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0038】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0039】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0040】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0041】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0042】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123a、123b、123c・・・が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0043】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0044】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0045】
さらに、ターボ分子ポンプ100Aの用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102mが垂下されている。この円筒部102mの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0046】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100Aの基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100Aを物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0047】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0048】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0049】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102mの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102mの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
また、ターボ分子ポンプ100Aの用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0050】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0051】
ここに、ターボ分子ポンプ100Aは、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100Aは、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100Aの下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0052】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100Aの内部に付着して堆積する。
【0053】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100Aの内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100Aの内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100Aの性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0054】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0055】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100Aに関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図3に示す。
【0056】
図3において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0057】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0058】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0059】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0060】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0061】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0062】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0063】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0064】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100Aに生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0065】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0066】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図5に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0067】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0068】
ところで、上述したターボ分子ポンプ100Aにあっては、外筒127とベース部129とを有して概略円筒状に形成されているハウジング110Aの吸気口101から吸引したガスによっては、ハウジング110Aの内部で圧縮する過程で気体から固体に相変化を起こし、ハウジング110Aの内部で固化する場合がある。その結果、ハウジング110Aの内部に固化物(以下、これを「反応生成物」という)が堆積し、ガス流路が閉塞するという不具合が生じる場合がある。
【0069】
また、この第1の実施例のターボ分子ポンプ100Aでは、ハウジング110Aの上流側にターボ分子ポンプ機構部301を構成し、下流側にネジ溝ポンプ機構部302を構成している排気機構132を有している。そして、ターボ分子ポンプ機構部301には、軸方向に多段状に配列された複数の回転翼102を有する回転体103と複数の回転翼102間に配設された複数の固定翼123を設けている。一方、ネジ溝ポンプ機構部302には、回転体103と一体に回転する回転円筒としての円筒部102mと、固定円筒としてのネジ付スペーサ131と、回転する円筒部102mの外周面と対向する対向面であるネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aを設けて、いわゆるホルベック型ポンプ機構として構成している。また、ハウジング110Aの上流側と下流側との略中間部分、すなわちターボ分子ポンプ機構部301とホルベック型ポンプ機構として構成しているネジ溝ポンプ機構部302の境界付近にハウジング110A内に貫通している中間ポート112を設けているとともに、排気機構132の排気側出口近傍である排気口133の近傍に、ハウジング110A内に貫通してラジカル供給口134Aを設けている。そして、ラジカル供給口134Aにラジカル供給手段135を接続し、そのラジカル供給手段135からラジカル供給口134Aを通してハウジング110A内にラジカル136を供給し、その供給したラジカル136を排気機構132の反応生成物が堆積している箇所に流すし、そのラジカル136で排気機構132等に堆積している反応生成物を活性化して除去するようにしている。ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給は、制御装置200により制御されて適正量供給される。また、ラジカル供給手段135とラジカル供給口134Aとの間には、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給をオン・オフ制御する開閉弁140Aが設けられている。開閉弁140Aの開閉は、制御装置200により制御される。
【0070】
また、ハウジング110Aにおける吸気口101と排気口133との間には、パージガス供給手段137からのパージガス138をハウジング110A内に供給するパージガス供給口139を設けている。パージガス供給口139は、中間ポート112よりも上流側(ターボ分子ポンプ機構部301側)で、かつ吸気口101よりも下流側に設けられている。パージガス供給手段137からのパージガス138の供給は、制御装置200により制御されて適正量供給される。
【0071】
なお、ラジカル136は、ハウジング110Aの内部に堆積している固化物を除去可能な、例えば三フッ化窒素(NF3)等の原料ガスに高電圧を印加して生成したフッ素ラジカルなどである。一方、パージガス138は、ラジカル供給口134Aからハウジング110A内に供給されたラジカル136が、ハウジング110A内で吸気口101側に向かって所定の位置まで流れたら、それ以上は吸気口101側に向かって流れないように、ラジカル136を下流側に向かって押し流す役割をする不活性ガスであり、例えば窒素ガス(N2)である。
【0072】
また、中間ポート112と排気口133は、それぞれ排気切換弁202A又は排気切換弁202Bを介して、吸引・排気手段201と接続されている。吸引・排気手段201は、中間ポート112及び排気口133を通して、ハウジング110A内のラジカル136及びパージガス138を、ハウジング110Aの外側へ強制的に吸引・排出する吸引ポンプを有している。中間ポート112と吸引・排気手段201との間に介装されている排気切換弁202Aと、排気口133と吸引・排気手段201との間に介装されている排気切換弁202Bは、それぞれ制御装置200により開閉制御される開閉弁である。ここでの排気切換弁202Aと排気切換弁202Bは、ラジカル136及びパージガス138を用いてハウジング110Aの内部に堆積している反応生成物を除去するためのクリーニングを行うときには、制御装置200により択一的に開閉制御され、その切り換え操作により、後述するようにしてラジカル136及びパージガス138の排出経路を切り換えて、ハウジング110A内の排気機構132のクリーニングと、排気機構132の出口から排気口133までの排気経路のクリーニングを効果的に行うことができる。
【0073】
次に、ハウジング110Aの内部に堆積している反応生成物を除去するためのクリーニング動作を説明する。ハウジング110Aの内部に堆積している反応生成物を除去するクリーニングを行う場合は、吸気口101からの送り込まれるプロセスガスは停止される。そして、このクリーニングでは、ハウジング110A内の反応生成物をより効果的に除去するために、ハウジング110A内における排気機構132のクリーニングと、排気機構132の出口から排気口133までの排気経路のクリーニングの、2回のクリーニングに分けて行う。
【0074】
まず、ハウジング110A内の排気機構132の上流側におけるクリーニングを行う場合は、制御装置200の制御により、排気切換弁202Aが開、排気切換弁202Bが閉に切り換えられ、中間ポート112が開、排気口133が閉となる。
図1は、この状態を示している。その後、開閉弁140Aが開かれ、ラジカル供給手段135からラジカル136がハウジング110A内にラジカル供給口134Aを通して供給されるとともに、パージガス供給手段137からパージガス138がハウジング110A内にパージガス供給口139を通して供給される。また、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給と、パージガス供給手段137からのパージガス138の供給に合わせて吸引・排気手段201が駆動され、ハウジング110A内に供給されたラジカル136及びパージガス138が中間ポート112を通してハウジング110Aの外側に吸引されて排出される。
【0075】
そして、ハウジング110A内に供給されたラジカル136は、ハウジング110Aの内部を流れるとき、ハウジング110Aの内部に堆積している反応生成物を活性化して分解・除去し、反応生成物及びパージガス138と共にハウジング110Aの外に排出されて処理される。なお、ハウジング110A内の上流側(吸気口101側)のパージガス供給口139から供給されて中間ポート112からラジカル136と共にハウジング110Aの外に排出されて流されるパージガス138は、ラジカル136がハウジング110A内を流れるとき、ラジカル136をパージガス138の流れに乗せて中間ポート112に誘導し、ラジカル136が、反応生成物と共にハウジング110A内の規定の高さ箇所を超えて吸気口101側に流れるのを阻止する。すなわち、ラジカル136が分解した反応生成物がターボ分子ポンプ機構部301に流れ、ターボ分子ポンプ機構部301の上流側に堆積するのを阻止する。
【0076】
これにより、排気機構132に堆積している反応生成物をラジカル136で効果的に分解して、その分解したガスを中間ポート112からハウジング110Aの外側に排出することができる。
【0077】
なお、この排気機構132のクリーニング操作時に、パージガス供給手段137からハウジング110A内に流されるパージガス138の量は約1,000sccm、ラジカル供給手段135からハウジング110A内に流されるラジカル136の量は約50sccmであり、ラジカル供給手段135での供給電力は約300ワット(W)である。
【0078】
次に、ハウジング110A内の排気機構132の出口から排気口133までの排気経路のクリーニングを行う場合は、制御装置200の制御により、排気切換弁202Aが閉、排気切換弁202Bが開に切り換えられ、中間ポート112が閉、排気口133が開となる。
図2は、この状態を示している。その後、開閉弁140Aが開かれ、ラジカル供給手段135から、ラジカル136がハウジング110A内にラジカル供給口134Aを通して供給されるとともに、パージガス供給手段137から、パージガス138がハウジング110A内にパージガス供給口139を通して供給される。また、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給と、パージガス供給手段137からのパージガス138の供給に合わせて吸引・排気手段201が駆動され、ハウジング110A内に供給されたラジカル136及びパージガス138が排気口133を通してハウジング110Aの外側に吸引されて排出される。なお、この下流側における排気機構132のクリーニング操作時に、パージガス供給手段137からハウジング110A内に流されるパージガス138の量は約50sccm、ラジカル供給手段135からハウジング110A内に流されるラジカル136の量は約50sccmで、供給電力は約300ワット(W)である。
【0079】
そして、ハウジング110A内に供給されたラジカル136は、ハウジング110Aの内部を流れるとき、ハウジング110Aの内部に堆積している反応生成物を活性化して分解・除去し、反応生成物及びパージガス138と共にハウジング110Aの外側に排出されて処理される。また、排気機構132の下流側(ネジ溝ポンプ機構部302側)におけるクリーニングを行う場合も、ハウジング110A内の上流側のパージガス供給口139からパージガス138が供給されて、排気口133からラジカル136と共にハウジング110Aの外側に流されて排出される。そのパージガス138は、ラジカル136がハウジング110A内を流れるとき、ラジカル136をパージガス138の流れに乗せて排気口133に誘導し、ラジカル136が反応生成物や塵と共にハウジング110A内の規定の高さ箇所を超えて吸気口101側に流れるのを阻止する。
【0080】
したがって、このように構成された第1実施例におけるターボ分子ポンプ100Aでは、ハウジング110Aの内部に堆積している反応生成物を除去する際、吸気口101と排気口133との間に設けられているラジカル供給口134Aからハウジング110A内にラジカル136を供給するようにしているので、供給したラジカル136がハウジング110A内のクリーニングを必要とする箇所全体に行き渡り、堆積している反応生成物を活性化させて効果的に除去することができる。特に、排気機構132におけるクリーニングと、排気機構132の出口から排気口133までの排気経路におけるクリーニングとに分けて、クリーニングを行うことにより、クリーニングを必要としない他の構成部品の表面にラジカル136ができるだけ触れずに、そしてラジカル136の活性を失わせることなく、短い経路で効果的にクリーニングを行うことができる。これにより、少ない数のラジカル発生装置(ラジカル供給手段135)であっても反応生成物を効果的に除去することができるので、ターボ分子ポンプ100Aの内部の洗浄システムにおける洗浄部品コストの低減と運用コストの低減を両立させることが可能になる。
【0081】
なお、第1実施例のターボ分子ポンプ100Aにおけるハウジング110Aの内部のクリーニングにおいて、中間ポート112からパージガス138及びラジカル136を排出する場合、分解されたガスがハウジング110Aの吸気口101まで確実に流れないようにするには、吸気口101の上部に開閉弁を設置し、洗浄中は開閉弁を閉じるとよい。
【0082】
また、クリーニング操作中、排気機構132を、例えば定格回転数の約半分である13,500rpm程度の低速で回転をさせてもよい。排気機構132を低速回転させると、未反応のラジカル136を中間ポート112から排出されることが少なくなり、生成したラジカル136を有効に利用できる。また、排気機構132の回転数を徐々に下げながらクリーニングすると、排気口133付近から吸気口101まで効果的に洗浄することが可能になる。一方、排気機構132の回転数が高すぎると、未反応のラジカル136が上流側まで到達しにくくなる。したがって、ハウジング110A内における上流側のクリーニング効果が低い場合は、排気機構の一部を構成している回転体103の回転数を少し下げるとよい。また、上流側のクリーニング効果を更にあげるためには、排気機構の一部を構成している回転体103を逆回転させてもよい。
【0083】
図6は、
図1及び
図2に示したターボ分子ポンプ100Aの一部を変形した第2実施例としてのターボ分子ポンプ100Bを示すものである。
図6に示す第2実施例のターボ分子ポンプ100Bは、
図1及び
図2に示したターボ分子ポンプ100Aが、ハウジング110Aの外側に、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給を開閉制御する開閉弁140Aを設けていたのに対して、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給を受けるラジカル供給口134Bと、ラジカル供給口134Bの開閉を制御する開閉弁140Bを、それぞれハウジング110Bの内部に設けたものであり、他の構成及び作用効果は第1実施例のターボ分子ポンプ100Aと同じである。したがって、以下の説明では、
図1及び
図2に示した第1の実施例のターボ分子ポンプ100Aと同じ構成部材には同じ符号を付して説明を省略し、異なる構造の部分についてのみ説明する。なお、
図6中に示すハウジング110Bは、
図1及び
図2中に示すハウジング110Aに対応するものであり、またラジカル供給口134Bは、同じく
図1及び
図2中に示すラジカル供給口134Aに対応するものである。
【0084】
図6に示す第2実施例のターボ分子ポンプ100Bでは、ラジカル供給口134Bを、ハウジング110Bにおけるベース部129の内部に設けているとともに、ラジカル供給口134Bを開閉操作する開閉弁140Bもベース部129内に、開閉弁140Bの一部(弁体142)を突出させて設けている。開閉弁140Bは、例えば電磁操作弁である。そして、電磁操作により弁体142が開閉弁140Bから突き出されると、弁体142がラジカル供給口134Bを塞いで閉じ、ラジカル供給手段135からのラジカル136がラジカル供給口134Bを通してハウジング110Bの内部に流れるのを阻止する。また、ハウジング110Bの内部を流れるプロセスガスが、ラジカル供給手段135の内部に流れるのも阻止する。反対に、電磁操作により弁体142がラジカル供給口134Bから離れる方向(開閉弁140Bの本体側)に引かれると、ラジカル供給口134Bが開き、ラジカル供給手段135からのラジカル136がラジカル供給口134Bを通してハウジング110Bの内部に流れる設定になっている。
【0085】
次に、第2実施例のターボ分子ポンプ100Bにおける、ハウジング110Bの内部に堆積している反応生成物を除去してクリーニングを行う場合の動作について説明する。この場合も、ハウジング110Bの内部に堆積している反応生成物を除去するクリーニングを行う場合は、吸気口101からの送り込まれるプロセスガスは停止される。そして、このクリーニングでも、ハウジング110B内の反応生成物をより効果的に除去するために、ハウジング110B内における排気機構132のクリーニングと、排気機構132の出口から排気口133までの排気経路のクリーニングの、2回のクリーニングに分けて行う。
【0086】
まず、ハウジング110B内の排気機構132におけるクリーニングを行う場合は、制御装置200の制御により、排気切換弁202Aが開、排気切換弁202Bが閉に切り換えられ、中間ポート112が開、排気口133が閉となる。その後、開閉弁140Bの弁体142が開かれ、ラジカル供給手段135から、ラジカル136がラジカル供給口134Bを通してハウジング110Bの内部に供給されるとともに、パージガス供給手段137からパージガス138がパージガス供給口139を通してハウジング110Bの内部に供給される。また、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給と、パージガス供給手段137からのパージガス138の供給に合わせて吸引・排気手段201が駆動され、ハウジング110Bの内部に供給されたラジカル136及びパージガス138が、中間ポート112を通してハウジング110Bの外側に吸引されて排出される。
【0087】
そして、ハウジング110B内に供給されたラジカル136は、ハウジング110Bの内部を流れるとき、ハウジング110Bの内部に堆積している反応生成物を活性化して分解・除去し、反応生成物及びパージガス138と共にハウジング110Bの外側に排出されて処理される。なお、ハウジング110B内の上流側(吸気口101側)のパージガス供給口139から供給されて中間ポート112からラジカル136と共にハウジング110Bの外に流されるパージガス138は、ラジカル136がハウジング110Bの内部を流れるとき、ラジカル136をパージガス138の流れに乗せて中間ポート112に誘導し、ラジカル136が反応生成物と共にハウジング110B内の規定の高さ位置を超えて吸気口101側に流れるのを阻止する。
【0088】
これにより、排気機構132に堆積している反応生成物をラジカル136で効果的に分解し、分解したガスを中間ポート112からハウジング110Bの外側に排出できる。
【0089】
なお、この排気機構132のクリーニングで、パージガス供給手段137からハウジング110Bの内部に流されるパージガス138の量は約1,000sccm、ラジカル供給手段135からハウジング110Bの内部に流されるラジカル136の量は約50sccmであり、ラジカル供給手段135での供給電力は約300ワット(W)である。
【0090】
次に、ハウジング110B内の排気機構132の出口から排気口133までの排気経路のクリーニングを行う場合を説明する。下流側のクリーニングを行う場合は、制御装置200の制御により、排気切換弁202Aが閉、排気切換弁202Bが開に切り換えられ、中間ポート112が閉、排気口133が開となる。その後、開閉弁140Bが開かれ、ラジカル供給手段135から、ラジカル136がラジカル供給口134Bを通してハウジング110Bの内部に供給されるとともに、パージガス供給手段137から、パージガス138がパージガス供給口139を通してハウジング110Bの内部に供給される。また、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給と、パージガス供給手段137からのパージガス138の供給に合わせて吸引・排気手段201が駆動され、ハウジング110Bの内部に供給されたラジカル136及びパージガス138が、排気口133を通してハウジング110Bの外側に吸引されて排出される。なお、排気機構132の出口から排気口133までの排気経路のクリーニング操作時に、パージガス供給手段137からハウジング110B内に流されるパージガス138の量は約50sccm、ラジカル供給手段135からハウジング110B内に流されるラジカル136の量は約50sccmで、供給電力は約300ワット(W)である。
【0091】
そして、ハウジング110B内に供給されたラジカル136は、ハウジング110Bの内部を流れるとき、ハウジング110Bの内部に堆積している反応生成物を活性化して分解・除去し、反応生成物及びパージガス138と共にハウジング110Bの外側に排出されて処理される。また、排気機構132の下流側におけるクリーニングを行う場合も、ハウジング110B内の上流側のパージガス供給口139から供給されて排気口133からラジカル136と共にハウジング110Bの外に流されるパージガス138は、ラジカル136がハウジング110Bの内部を流れるとき、ラジカル136をパージガス138の流れに乗せて排気口133に誘導し、ラジカル136が反応生成物と共にハウジング110B内の規定の高さ位置を超えて吸気口101側に流れるのを阻止する。
【0092】
したがって、このように構成された第2実施例のターボ分子ポンプ100Bでは、ハウジング110Bの内部に堆積している反応生成物を除去する際、吸気口101と排気口133との間に設けられているラジカル供給口134Bからハウジング110Bの内部にラジカル136を供給するようにしているので、供給したラジカル136がハウジング110B内のクリーニングを必要する箇所全体に行き渡り、堆積している反応生成物を活性化させて効果的に除去できる。特に、排気機構132におけるクリーニングと、排気機構132の出口から排気口133までの排気経路におけるクリーニングとに分けてクリーニングを行うことにより、クリーニングを必要としない他の構成部品の表面にラジカル136ができるだけ触れずに、そしてラジカル136の活性を失わせることなく短い経路で効果的にクリーニングを行うことができる。これにより、少ない数のラジカル発生装置(ラジカル供給手段135)であっても反応生成物を効果的に除去することができ、ターボ分子ポンプ100Bの内部の洗浄システムにおける洗浄部品コストの低減と運用コストの低減を両立させることが可能になる。
【0093】
図7は、
図1及び
図2に示したターボ分子ポンプ100Aの一部を変形した第3実施例としてのターボ分子ポンプ100Cを示すものである。
図7に示す第3実施例のターボ分子ポンプ100Cは、
図1及び
図2に示したターボ分子ポンプ100Aが、吸気口101と排気口133との間にラジカル供給口134を設けていたのに対して、排気口133からラジカル136を供給するようにしたものであり、他の構成及び作用効果は第1実施例のターボ分子ポンプ100Aと同じである。したがって、以下の説明では、
図1及び
図2に示した第1の実施例のターボ分子ポンプ100Aと同じ構成部材には同じ符号付して説明を省略し、異なる構造の部分についてのみ説明する。なお、
図7中に示すハウジング110Cは、
図1及び
図2中に示すハウジング110Aに対応するものであり、またラジカル供給口134Cは、同じく
図1及び
図2中に示すラジカル供給口134Aに対応するものである。
【0094】
図7に示す第3実施例のターボ分子ポンプ100Cでは、中間ポート112を、排気機構132の軸方向における略中間部分に対応して設けている。より具体的に説明すると、
図7に示すように、中間ポート112を、排気機構132における軸方向に多段状に配列された複数の回転翼102と複数の回転翼102間に配設された複数の固定翼123とを有する上流部分(ターボ分子ポンプ機構部301)と、円筒部102mと円筒部102mの外周面と対向するネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131a有する下流部分(ネジ溝ポンプ機構部302)と、の間にほぼ対応させて設けている。
【0095】
また、ターボ分子ポンプ100Bの中間ポート112には、開閉弁202Cを介して吸引・排気手段201が接続されている。吸引・排気手段201は、クリーニングを行う際、中間ポート112を通して、ハウジング110C内のラジカル136及びパージガス138をハウジング110Cの外側へ強制的に吸引・排出する吸引ポンプを有している。ここでの開閉弁202Cは、制御装置200により開閉制御される弁である。そして、開閉弁202Cは、ラジカル136及びパージガス138を用いてハウジング110C内に堆積している反応生成物を除去するクリーニングを行う際には、制御装置200により開に制御され、中間ポート112を吸引・排気手段201に接続し、ハウジング110C内のガスをハウジング110Cの外に吸引・排出して、ハウジング110Cの内部における排気機構132等のクリーニングが効果的に行えるようにしている。
【0096】
次に、ハウジング110Cの内部に堆積している反応生成物を除去するクリーニングを行う場合の動作を説明する。ハウジング110C内の排気機構132等のクリーニングを行う場合は、制御装置200の制御により、開閉弁202Cが閉から開に切り換えられる。その後、三方弁140Cが切り換えられ、ラジカル供給手段135からラジカル136が、排気口133を通してハウジング110C内に供給されるとともに、パージガス供給手段137からパージガス138が、パージガス供給口139を通してハウジング110C内に供給される。また、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給と、パージガス供給手段137からのパージガス138の供給に合わせて吸引・排気手段201が駆動され、ハウジング110C内に供給されたラジカル136及びパージガス138が、中間ポート112を通してハウジング110Cの外側に排出される。
【0097】
そして、ハウジング110C内に供給されたラジカル136は、ハウジング110Cの内部を流れるとき、ハウジング110Cの内部に堆積している反応生成物を活性化して分解・除去し、反応生成物及びパージガス138と共にハウジング110Cの外側に排出されて処理される。なお、ハウジング110C内の上流側(吸気口101側)のパージガス供給口139から供給されて中間ポート112からラジカル136と共にハウジング110Cの外に流されるパージガス138は、ラジカル136がハウジング110Cの内部を流れるとき、ラジカル136をパージガス138の流れに乗せて中間ポート112に誘導し、ラジカル136が反応生成物と共にハウジング110A内の規定の高さ位置を超えて吸気口101側に流れるのを阻止する。したがって、第3実施例の構造では、パージガス供給手段137からハウジング110C内に流されるパージガス138の量とラジカル供給手段135からハウジング110C内に流されるラジカル136の量とのバランスを取りながら調整して、ラジカル136が反応生成物と共にハウジング110Cの上流側に向かう流れを制御する。そして、このパージガス138とラジカル136との高さ位置の調整でハウジング110C内のクリーニング範囲を設定し、その設定範囲以内でのクリーニングを行う。
【0098】
図8は、
図1及び
図2に示したターボ分子ポンプ100Aの一部を変形した第4実施例としてのターボ分子ポンプ100Dを示すものである。
図8示す第4実施例のターボ分子ポンプ100Dは、
図1及び
図2に示したターボ分子ポンプ100Aが、ラジカル供給口134Aの位置を、排気機構132の軸方向において排気口133と略同じ高さ位置に設けていたのに対して、ラジカル供給口134Dの位置を、排気口133よりも上方で、かつ、排気機構132における円筒部102mと円筒部102mの外周面と対向するネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aを有する下流部分(ネジ溝ポンプ機構部302)とほぼ対応している位置に設けたもので、他の構成及び作用効果は第1実施例のターボ分子ポンプ100Aと同じである。したがって、以下の説明では、
図1及び
図2に示した第1の実施例のターボ分子ポンプ100Aと同じ構成部材には同じ符号付して説明を省略し、異なる構造の部分についてのみ説明する。なお、
図8中に示すハウジング110Dは、
図1及び
図2中に示すハウジング110Aに対応するものであり、またラジカル供給口134Dは、同じく
図1及び
図2中に示すラジカル供給口134Aに対応するものである。
【0099】
図8に示す第4実施例のターボ分子ポンプ100Dにおけるラジカル供給口134Dは、排気口133よりも上方で、かつ排気機構132における円筒部102mと円筒部102mの外周面と対向するネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aを有する下流部分(ネジ溝ポンプ機構部302)とほぼ対応する位置で、かつネジ付スペーサ131の外周面に、ハウジング110D及びネジ付スペーサ131を貫通した状態にして設けている。
【0100】
この第4実施例のターボ分子ポンプ100Dにおける、ハウジング110Dの内部に堆積している反応生成物を除去してクリーニングを行う場合の動作について次に説明する。この場合も、ハウジング110Dの内部に堆積している反応生成物を除去するクリーニングを行う場合は、吸気口101からの送り込まれるプロセスガスは停止される。
【0101】
そして、第4実施例のターボ分子ポンプ100Dにおいて、ラジカル供給口134Dより上流側をクリーニングする場合は、制御装置200の制御により、排気切換弁202Aが開、排気切換弁202Bが閉に切り換えられ、中間ポート112が開、排気口133が閉となる。その後、開閉弁140Aが開かれ、ラジカル供給手段135からラジカル136が、ラジカル供給口134Dを通してハウジング110D内に供給されるとともに、パージガス供給手段137からパージガス138が、パージガス供給口139を通してハウジング110D内に供給される。また、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給と、パージガス供給手段137からのパージガス138の供給に合わせて吸引・排気手段201が駆動され、ハウジング110D内に供給されたラジカル136及びパージガス138が中間ポート112を通してハウジング110Dの外側に吸引されて排出される。
【0102】
そして、ハウジング110D内に供給されたラジカル136は、ハウジング110Dの内部を流れるとき、排気機構132の内部に堆積している反応生成物を活性化して分解・除去し、反応生成物及びパージガス138と共にハウジング110D外に排出されて処理される。なお、ハウジング110D内の上流側(吸気口101側)のパージガス供給口139から供給されて中間ポート112からラジカル136と共にハウジング110Dの外に流されるパージガス138は、ラジカル136がハウジング110D内を流れるとき、ラジカル136をパージガス138の流れに乗せて中間ポート112に誘導し、ラジカル136が反応生成物と共にハウジング110D内の規定の高さ位置を超えて吸気口101側に流れるのを阻止する。
【0103】
これにより、ハウジング110Dの下流側(排気口133)から中間ポート112を超えた上流側の所定の高さ位置まで、広い範囲に渡って堆積している反応生成物をラジカル136で効果的に分解して、分解したガスを中間ポート112からハウジング110Dの外側に排出することができる。
【0104】
なお、この上流側における排気機構132のクリーニングでパージガス供給手段137からハウジング110Dの内部に流されるパージガス138の量は約1,000sccm、ラジカル供給手段135からハウジング110A内に流されるラジカル136の量は約50sccmであり、ラジカル供給手段135での供給電力は約300ワット(W)である。
【0105】
次に、ラジカル供給口134Dより下流側の範囲を、集中的にクリーニングを行う場合は、制御装置200の制御により、排気切換弁202Aが閉、排気切換弁202Bが開に切り換えられ、中間ポート112が閉、排気口133が開となる。その後、開閉弁140Aが開かれ、ラジカル供給手段135からラジカル136が、ラジカル供給口134Dを通してハウジング110Dの内部に供給されるとともに、パージガス供給手段137からパージガス138が、パージガス供給口139を通してハウジング110D内に供給される。また、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給と、パージガス供給手段137からのパージガス138の供給に合わせて吸引・排気手段201が駆動され、ハウジング110Dの内部に供給されたラジカル136及びパージガス138が排気口133を通してハウジング110Dの外側に吸引されて排出される。なお、この下流側における排気機構132のクリーニングでパージガス供給手段137からハウジング110Dの内部に流されるパージガス138の量は約50sccm、ラジカル供給手段135からハウジング110B内に流されるラジカル136の量は約50sccmで、供給電力は約300ワット(W)である。
【0106】
そして、ハウジング110Dの内部に供給されたラジカル136は、ハウジング110Dの内部を流れるとき、ハウジング110Dの内部に堆積している反応生成物を活性化して分解・除去し、反応生成物及びパージガス138と共にハウジング110Dの外側に排出されて処理される。また、排気機構132の下流側(ネジ溝ポンプ機構部302)におけるクリーニングを行う場合も、ハウジング110D内の上流側のパージガス供給口139から供給されて排気口133からラジカル136と共にハウジング110Dの外側に流されるパージガス138は、ラジカル136がハウジング110D内を流れるとき、ラジカル136をパージガス138の流れに乗せて排気口133に誘導し、ラジカル136が反応生成物と共にハウジング110B内の規定の高さ位置を超えて吸気口101側に流れるのを阻止する。
【0107】
したがって、このように構成された第4実施例におけるターボ分子ポンプ100Dでは、ハウジング110D内に堆積している反応生成物を除去する際、吸気口101と排気口133との間に設けられているラジカル供給口134Dからハウジング110D内にラジカル136を供給するようにしているので、供給したラジカル136がハウジング110D内のクリーニングを必要とする箇所全体に行き渡り、堆積している反応生成物を活性化させて効果的に除去することができる。特に、ラジカル供給口134Dより上流側におけるクリーニングと、ラジカル供給口134Dより下流側におけるクリーニングとに分けて行うことにより、短い経路でクリーニングを必要としない他の構成部品の表面にラジカル136ができるだけ触れずに、ラジカル136の活性を失わせることなくクリーニングを行うことができる。これにより、少ない数のラジカル発生装置(ラジカル供給手段135)であっても反応生成物を効果的に除去することができので、ターボ分子ポンプ100Dの内部の洗浄システムにおける洗浄部品コストの低減と運用コストの低減の両方を抑えることが可能になる。
【0108】
図9は、
図1及び
図2に示したターボ分子ポンプ100Aの一部を変形した第5実施例としてのターボ分子ポンプ100Eを示すものである。
図9に示す第5実施例のターボ分子ポンプ100Eは、
図1及び
図2、
図6、
図7、
図8にそれぞれ示したターボ分子ポンプ100A、100B、100C、100Dのネジ溝ポンプ機構部302の構成がいずれもホルベック型ポンプ機構であったのに対して、シグバーン型ポンプ機構とした場合であり、他の構成及び作用効果は第1実施例のターボ分子ポンプ100Aと同じである。したがって、以下の説明では、
図1及び
図2に示した第1の実施例のターボ分子ポンプ100Aと同じ構成部材には同じ符号付して説明を省略し、異なる構造の部分についてのみ説明する。なお、
図9中に示すハウジング110Eは、
図1及び
図2中に示すハウジング110Aに対応するものであり、またラジカル供給口134Eは、同じく
図1及び
図2中に示すラジカル供給口134Aに対応するものである。
【0109】
ネジ溝ポンプ機構部302をシグバーン型ポンプ機構として構成している
図9に示すターボ分子ポンプ100Eにおけるネジ溝ポンプ機構部302は、軸方向で互いに対向する回転円板302Aと固定円板302Bとを有している。そして、回転円板302Aと対向する固定円板302Bの両面に、それぞれ渦巻き状山部302Dと渦巻き状谷部302Eを設けてなる渦状溝としての、ネジ溝302Fが形成されている構造になっている。
【0110】
また、
図9に示すターボ分子ポンプ100Eでの中間ポート112は、ターボ分子ポンプ機構部301とジグバーン型ポンプ機構として構成しているネジ溝ポンプ機構部302の境界付近に、ハウジング110A内に貫通した状態にして設けている。一方、ターボ分子ポンプ100Eでのラジカル供給口134Eは、排気口133よりも上方で、かつ、排気機構132における下流部分の下側(回転円板302Aの下面)とほぼ対応する位置であり、ハウジング110Eを貫通した状態にして設けている。
【0111】
この第5実施例のターボ分子ポンプ100Eにおける、ハウジング110Eの内部に堆積している反応生成物を除去してクリーニングを行う場合の動作について次に説明する。この場合も、ハウジング110Eの内部に堆積している反応生成物を除去するクリーニング作業を行う場合は、吸気口101から送り込まれるプロセスガスは停止される。
【0112】
そして、第5実施例のターボ分子ポンプ100Eにおいて、ハウジング110E内の下流側から上流側の範囲に渡ってクリーニングをする場合は、制御装置200の制御により、排気切換弁202Aが開、排気切換弁202Bが閉に切り換えられ、中間ポート112が開、排気口133が閉となる。その後、開閉弁140Aが開かれ、ラジカル供給手段135からラジカル136が、ラジカル供給口134Eを通してハウジング110E内に供給されるとともに、パージガス供給手段137からパージガス138が、パージガス供給口139を通してハウジング110E内に供給される。また、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給と、パージガス供給手段137からのパージガス138の供給に合わせて吸引・排気手段201が駆動され、ハウジング110E内に供給されたラジカル136及びパージガス138が、中間ポート112を通してハウジング110Eの外側に吸引されて排出される。
【0113】
そして、ハウジング110E内に供給されたラジカル136は、ハウジング110Eの内部を流れるとき、ハウジング110Eの内部に堆積している反応生成物を活性化して分解・除去し、反応生成物及びパージガス138と共にハウジング110E外に排出されて処理される。なお、ハウジング110E内の上流側(吸気口101側)のパージガス供給口139から供給されて中間ポート112からラジカル136と共にハウジング110Eの外側に流されるパージガス138は、ラジカル136がハウジング110B内を流れるとき、ラジカル136をパージガス138の流れに乗せて中間ポート112に誘導し、ラジカル136が反応生成物と共にハウジング110E内の規定の高さ位置を超えて吸気口101側に流れるのを阻止する。
【0114】
これにより、ハウジング110Eの下流側(排気口133)から中間ポート112を超えた上流側の所定の高さ位置まで、広い範囲に渡って堆積している反応生成物をラジカル136で効果的に分解して、分解したガスを中間ポート112からハウジング110Eの外に排出することができる。
【0115】
なお、この上流側における排気機構132のクリーニングでパージガス供給手段137からハウジング110Eの内部に流されるパージガス138の量は約1,000sccm、ラジカル供給手段135からハウジング110E内に流される、ラジカル136の量は約50sccmであり、ラジカル供給手段135での供給電力は約300ワット(W)である。
【0116】
次に、ハウジング110E内の排気機構132の下流側の範囲(本例では、シグバーン型ポンプ機構の部分)だけを集中的にクリーニングを行う場合は、制御装置200の制御により、排気切換弁202Aが閉、排気切換弁202Bが開に切り換えられ、中間ポート112が閉、排気口133が開となる。その後、開閉弁140Aが開かれ、ラジカル供給手段135からラジカル136が、ラジカル供給口134Eを通してハウジング110E内に供給されるとともに、パージガス供給手段137からパージガス138が、パージガス供給口139を通してハウジング110D内に供給される。また、ラジカル供給手段135からのラジカル136の供給と、パージガス供給手段137からのパージガス138の供給に合わせて吸引・排気手段201が駆動され、ハウジング110E内に供給されたラジカル136及びパージガス138が排気口133を通してハウジング110Eの外側に吸引されて排出される。なお、この下流側における排気機構132のクリーニングでパージガス供給手段137からハウジング110E内に流されるパージガス138の量は約50sccm、ラジカル供給手段135からハウジング110E内に流されるラジカル136の量は約50sccmで、供給電力は約300ワット(W)である。
【0117】
そして、ハウジング110E内に供給されたラジカル136は、ハウジング110Eの内部を流れるとき、ハウジング110Eの内部に堆積している反応生成物を活性化して分解・除去し、反応生成物及びパージガス138と共にハウジング110Eの外側に排出されて処理される。また、排気機構132の下流側(本例では、シグバーン型ポンプ機構の部分)におけるクリーニングを行う場合も、ハウジング110Eの上流側のパージガス供給口139から供給されて排気口133からラジカル136と共にハウジング110Eの外側に流されて排出されるパージガス138は、ラジカル136がハウジング110Eの内部を流れるとき、ラジカル136をパージガス138の流れに乗せて排気口133に誘導し、ラジカル136が反応生成物と共にハウジング110E内の規定の高さ位置を超えて吸気口101側に流れるのを阻止する。
【0118】
したがって、このように構成された第5実施例によるターボ分子ポンプ100Eでは、ハウジング110E内に堆積している反応生成物を除去する際、吸気口101と排気口133との間に設けられているラジカル供給口134Eからハウジング110E内にラジカル136を供給するようにしているので、供給したラジカル136がハウジング110E内のクリーニングを必要とする箇所全体に行き渡り、堆積している反応生成物を活性化させて効果的に除去することができる。特に、排気機構132の上流側におけるクリーニングと下流側におけるクリーニングとに分けて行うことにより、短い経路でクリーニングを必要としない他の構成部品の表面にラジカル136ができるだけ触れずに、ラジカル136の活性を失わせることなくクリーニングを行うことができる。これにより、少ない数のラジカル発生装置(ラジカル供給手段135)であっても反応生成物を効果的に除去することができ、ターボ分子ポンプ100Eの内部を洗浄するシステムにおける洗浄部品コストの低減と運用コストの低減の両方を抑えることが可能になる。
【0119】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変や組み合わせを成すことができ、そして、本発明が該改変や該組み合わせされたものに及ぶことは当然である。
また、各実施例では、ラジカル供給手段135をターボ分子ポンプ100A~100Eの外側に設置する構造を用いて説明したが、ラジカル発生装置をハウジング110A~100Eに内蔵するように設置してもよい。
【符号の説明】
【0120】
100A :ターボ分子ポンプ
100B :ターボ分子ポンプ
100C :ターボ分子ポンプ
100D :ターボ分子ポンプ
100E :ターボ分子ポンプ
101 :吸気口
102 :回転翼
102m :円筒部
103 :回転体(排気機構)
110A :ハウジング
110B :ハウジング
110C :ハウジング
110D :ハウジング
110E :ハウジング
112 :中間ポート
113 :ロータ軸
123 :固定翼
123a :固定翼
123b :固定翼
123c :固定翼
125 :固定翼スペーサ
127 :外筒
129 :ベース部
131 :ネジ付スペーサ
131a :ネジ溝
132 :排気機構
133 :排気口
134A :ラジカル供給口
134B :ラジカル供給口
134C :ラジカル供給口
134D :ラジカル供給口
134E :ラジカル供給口
135 :ラジカル供給手段
136 :ラジカル
137 :パージガス供給手段
138 :パージガス
139 :パージガス供給口
140A :開閉弁
140B :開閉弁
140C :三方弁
200 :制御装置
201 :吸引・排気手段
202A :排気切換弁
202B :排気切換弁
202C :開閉弁
301 :ターボ分子ポンプ機構部
302 :ネジ溝ポンプ機構部
302A :回転円板
302B :固定円板
302D :渦巻き状山部
302E :渦巻き状谷部
302F :ネジ溝