(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】高減速比変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2022505552
(86)(22)【出願日】2020-08-12
(86)【国際出願番号】 EP2020072556
(87)【国際公開番号】W WO2021028451
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-04-18
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520300482
【氏名又は名称】マクソン インターナショナル アーゲー
【氏名又は名称原語表記】MAXON INTERNATIONAL AG
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】フォン レーマン, エルンスト
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン, アストリッド
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-040460(JP,A)
【文献】国際公開第2016/165684(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性歯車(6)を内蔵するリングギヤ(9)を有する変速機(1)であって
、前記可撓性歯車(6)が、波動発生器(2)に接続されており、前記波動発生器(2)が、前記可撓性歯車(6)が一部の領域で前記リングギヤ(9)と係合するように、前記可撓性歯車(6)を変形させ、前記可撓性歯車(6)が、ばねセグメント(8)を介して互いに接続された少なくとも2つの歯付きセグメント(7.1、7.2)を備え、前記歯付きセグメントのうちの少なくとも1つ(7.1)が、
ピン要素が配置される穴(17)を備え
、前記ばねセグメント(8)の各々が
、前記変速機(1)の中央中心軸線(M)を含
み前記ばねセグメント(8)それぞれを等しいサイズの2つの領域に分割す
る中心平面(M
FS)を有し、各前記穴(17)が
、前記変速機(1)の前記中央中心軸線(M)を含
み前記穴(17)を等しいサイズの2つの領域に分割す
る中心平面(M
A)を有
し、各前記ばねセグメント(8)の前記中心平面(M
FS)が、
前記ばねセグメント(8)の前記中心平面(M
FS
)に隣り合って前記ばねセグメント(8)の前記中心平面(M
FS)の
両側に配置され
た前記穴(17)の前記中心平面(M
A)から、異なる距離にあ
る、変速機(1)において、
前記波動発生器(2)が、前記可撓性歯車(6)と接触している少なくとも1つのカムを備えることと、前記カムは、前記歯付きセグメント(7.1、7.2)が、一定の半径(R)を有しかつ前記変速機の前記中央中心軸線(M)から定義された距離(e)にある軸線(M
S
)を中心に回転する仮想歯車のセクションを形成するように、前記歯付きセグメント(7.1、7.2)が前記リングギヤ(9)と係合している領域において前記歯付きセグメント(7.1、7.2)を変形させるように構成されていることと、前記可撓性歯車(6)の歯の数が、前記歯付きセグメント(7.1、7.2)の個数の整数倍ではないことと、を特徴とする、変速機(1)。
【請求項2】
前記歯付きセグメント(7.1、7.2)のうちの少なくとも1つが、前記可撓性歯車(6)の半径方向にくびれ部(24)を有し、かつ前記ばねセグメント(8)が、前記くびれ部(24)の領域で前記歯付きセグメント(7.2)に係合していることを特徴とする、請求項1に記載の変速機(1)。
【請求項3】
前記ばねセグメント(8)が、半径方向に弾性を示しかつ接線方向に剛性であるように構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の変速機(1)。
【請求項4】
前記ばねセグメント(8)が、前記歯付きセグメント(7.1、7.2)と一体的に形成されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の変速機(1)。
【請求項5】
前記ばねセグメント(8)が、隣り合う前記歯付きセグメント(7.1、7.2)を互いに接続するウェブとして形成されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の変速機(1)。
【請求項6】
前記可撓性歯車(6)が、前記穴(17)が設けられた少なくとも1つの第1の前記歯付きセグメント(7.1)と、穴を備えない少なくとも1つの第2の前記歯付きセグメント(7.2)と、を備えることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の変速機(1)。
【請求項7】
前記ばねセグメント(8)が、前記少なくとも1つの第1の歯付きセグメント(7.1)の前記穴(17)のレベルで、前記少なくとも1つの第1の歯付きセグメント(7.1)に係合していることを特徴とする、請求項6に記載の
変速機(1)。
【請求項8】
前記ばねセグメント(8)が、前記ばねセグメント(8)が前記少なくとも1つの第1の歯付きセグメント(7.1)と接触している領域に、逃げ溝(25)を有することを特徴とする、請求項6または7に記載の変速機(1)。
【請求項9】
複数の前記歯付きセグメント(7.1、7.2)、特に少なくとも4つの前記歯付きセグメント(7.1、7.2)が、設けられていることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の変速機(1)。
【請求項10】
前記歯付きセグメントのうちの半数(7.1)が、前記穴(17)を備えることを特徴とする、請求項9に記載の変速機(1)。
【請求項11】
前記第1の歯付きセグメント(7.1)の前記穴(17)が、前記歯付きセグメント(7.1)それぞれの内部に配置されていることを特徴とする、請求項
6~8、または請求項6に間接的に従属する請求項9もしくは10のいずれか一項に記載の変速機(1)。
【請求項12】
各前記歯付きセグメント(7.1、7.2)が、2つの支持点で前記波動発生器(2)に支持されていることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の変速機(1)。
【請求項13】
前記ピン要素が、出力シャフトに接続されたボルト(12)として構成されていることを特徴とする、請求項1~
12のいずれか一項に記載の変速機(1)。
【請求項14】
スリーブ(13)が、各ボルト(12)に配置されていることを特徴とする、請求項
13に記載の変速機(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性歯車を内蔵するリングギヤを有する変速機であって、可撓性歯車が、波動発生器に接続されており、波動発生器が、当該可撓性歯車が一部の領域でリングギヤと係合するように、可撓性歯車を変形させ、可撓性歯車が、ばねセグメントを介して互いに接続された少なくとも2つの歯付きセグメントを備え、歯付きセグメントのうちの少なくとも1つが、ピン要素が配置される穴(Ausnehmung)を備える、変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような変速機は、既に知られており、例えばロボット工学において、使用されている。自動車のセクターにおける使用も知られている。例えば、国際公開第2016/165684号は、リングギヤと、駆動輪と、波動発生器と、弾性平歯車とを有する2つの構成要素を調整するための、調整機構を示している。弾性平歯車は、いくつかの同一に構造化された歯付き要素からなる。各歯付き要素は、リングギヤに面する頭領域と、波動発生器に面する足領域とを備える。歯付き要素の頭領域には、リングギヤと接触することができる歯部が設けられている。さらに、各歯付き要素は、歯部を途切れさせかつ駆動輪の駆動ピンと接触している、その頭セグメント内の外側へ開いた穴を有する。隣り合って配置された歯付き要素は、弾性接続要素を介して互いに接続されている。波動発生器は、略楕円形であり、波動発生器はまた、弾性平歯車の2つの反対側に配置された領域がリングギヤと係合するように、弾性平ギヤに楕円形の形状を帯びさせる。
【0003】
この先行技術から出発して、特に変速機のより小さい直径でも可撓性歯車の十分な弾性変形を得ることができるように、上記の変速機がここでさらに改善されるべきであり、高いねじれ剛性を有する非常に短い変速機が提供される。
【発明の概要】
【0004】
本発明によれば、この目的のために、ばねセグメントの各々が、変速機の中央中心軸線を含みばねセグメントそれぞれを等しい長さの2つの領域に分割する中心平面を有することと、各穴が、変速機の中央中心軸線を含み穴を等しいサイズの2つの領域に分割する中心平面を有することと、各ばねセグメントの中心平面が、ばねセグメントの中心平面に隣り合ってばねセグメントの中心平面の両側に配置された穴の中心平面から、異なる距離にあることと、が提供される。
【0005】
そのような歯車は、非常に短くなるように構築することができるが、それでもやはり所望の高いねじれ剛性を有することができる。さらに、本発明による変速機の構成は、特に変速機の小さな直径で依然として歯車の十分な弾性変形を達成できるように、可撓性歯車の可撓性を向上する可能性を開く。
【0006】
歯付きセグメントのうちの少なくとも1つが、可撓性歯車の半径方向にくびれ部(Taillierung)を備えることと、ばねセグメントが、くびれ部の領域でこの歯付きセグメントに係合していることと、も提供することができる。結果として、ばねセグメントは、より大きくまたはより長くなるように、それぞれ構成することができ、そのことによって、可撓性歯車の可撓性は、さらに向上し、これは、小さい変速機直径で特に有利である。
【0007】
ばねセグメントは、好適には、半径方向に弾性を示しかつ接線方向に剛性であるように構成されているべきである。すると、可撓性歯車の変形は、半径方向にのみ可能にされる。接線方向では、可撓性歯車が接線方向に変形することなしに、1つの歯付きセグメントから隣りの歯付きセグメントへ力が伝達されることができる。結果として、変速機入力と変速機出力との間のギヤバックラッシュが、可能な限り小さく保たれる。
【0008】
ばねセグメントが歯付きセグメントと一体的に形成されているという点で、可撓性歯車の特に簡素な構成を可能にすることができる。
【0009】
ばねセグメントは、好適には、隣り合う歯付きセグメントを接続するウェブとして、構成されている。これらのウェブは、好ましくは弧状であるように形成されており、半径方向に所望の弾性を確保する一方で、接線方向には剛性である。ウェブは、好ましくは、歯付きセグメントの頭領域から距離を置いて、かつ足領域から距離を置いて、配置されている。ここで、当該歯付きセグメントは、当該頭領域でリングギヤと係合し、当該足領域で波動発生器と接触する。弧状ウェブは、好ましくは、円形線に沿って延在し、当該円形線の中心は、変速機の、領域内または中央中心軸線上に配置されている。代替として、直線状に設計されたウェブも可能である。
【0010】
可撓性をさらに向上させるために、穴が設けられた少なくとも1つの第1の歯付きセグメントと、穴を備えない少なくとも1つの第2の歯付きセグメントと、を可撓性歯車が備えることを提供することができる。くびれ部が設けられた歯付きセグメントは、好ましくは、穴を備えない。結果として、歯付きセグメント間に延在するばねセグメントを、より長くなるように構成することができ、歯付きセグメントの可撓性と強度との良好な組み合わせが得られる。少なくとも1つの第2の歯付きセグメントの歯部の力は、ばねセグメントを介して少なくとも1つの第1の歯付きセグメントに伝達される。
【0011】
さらに別の実施形態では、ばねセグメントは、少なくとも1つの第1の歯付きセグメントの穴のレベルで、少なくとも1つの第1の歯付きセグメントに係合している。これにより、少なくとも1つの第2の歯付きセグメントの歯部の力の、少なくとも1つの第1の歯付きセグメントへの良好な伝達がもたらされる。
【0012】
くびれ部が設けられた歯付きセグメントよりも中間領域において著しくより幅広の、穴が設けられた歯付きセグメントであってもまた十分な可撓性を得るために、ばねセグメントが、当該ばねセグメントが少なくとも1つの第1の歯付きセグメントと接触している領域に、逃げ溝(Freistich)を有することを提供することができる。
【0013】
さらに、複数の歯付きセグメント、特に少なくとも4つの歯付きセグメントが設けられていることを提供することができる。4つ以上の歯付きセグメントを有し、それに応じて4つ以上のばねセグメントによって互いに接続された、可撓性歯車の場合、歯車の十分な可撓性を簡素な方法で確保することができる。
【0014】
可撓性歯車の可撓性と十分な強度との間の良好な妥協点が、歯付きセグメントのうちの半数が穴を備えることで可能になり得る。したがって、同じ数の第1および第2の歯付きセグメントが存在する。穴を備えない第2の歯付きセグメントは、歯部の力を、穴を有する第1の歯付きセグメントに、ばね要素を介して伝達する。結果として、可撓性の接続部をより大きくなるように構成することができ、そのことによって、可撓性歯車の可撓性が向上し、変速機の直径が小さくても十分な弾性変形を依然として確保することができる。
【0015】
さらに別の実施形態では、歯付きセグメントそれぞれの内部の第1の歯付きセグメントに穴が配置されていることを提供することができる。したがって、これら歯付きセグメントの穴は、閉じた周輪郭を有し、ピン要素は、当該周輪郭に沿って転動する。結果として、ピン要素と歯付きセグメントそれぞれの穴との間の接触は、決して途切れることがなく、これにより変速機の運転の滑らかさが向上する。穴は、好適には、略楕円形であるように構成されている。すると、さらに、歯付きセグメントは、リングギヤに面する頭領域に、端から端までの歯部を有することができる。
【0016】
さらに別の実施形態によれば、歯付きセグメントの各々は、2つの支持点で波動発生器に支持されていることができる。すると、波動発生器に面する足領域は、2つの点でのみ波動発生器と接触するように、くぼんでいるように構成されている。2つの支持点間の角度は、好ましくは、約170°である。したがって、歯付きセグメントの、波動発生器の外輪郭に対して垂直な位置合わせが改善され得る。
【0017】
さらに別の実施形態では、波動発生器が、可撓性歯車と接触している少なくとも1つのカムを備えることと、歯付きセグメントが、一定の半径を有しかつ変速機の中央中心軸線から定義された距離に配置されている軸線を中心に回転する、仮想歯車のセクションを形成するように、当該歯付きセグメントが、リングギヤと係合している領域において変形されるように、カムが、構成されていることと、が提供される。一定の半径を有する、仮想歯車のセクションは、好ましくは45°~100°または55°~85°および特に60°~80°の角度範囲を含む。仮想歯車の一定の半径は、好ましくは75~99%、または82~97%および特に85~95%の、リングギヤの半径に対する長さ比を有する。結果として、歯付きセグメントの数は、可撓性歯車全体の歯の数とは無関係とすることができる。したがって、歯車の歯の数は、歯付きセグメントの個数の整数倍ではない。結果として、歯付きセグメント上の歯の配置は、必ずしも均一である必要はない。上記の波動発生器の構成は、歯付きセグメント上のすべての歯が同じ形状を有することを保証する。そこでの唯一の境界条件は、隣接する歯セグメント上に位置する2つの外側歯の間の距離が、この領域内の歯幅Sの整数倍であることである。そこでの歯幅Sは、2つの隣り合う歯の間の距離の2倍を意味する。波動発生器は、好ましくは、波動発生器が、一定の半径を有するセクションを、可撓性歯車がリングギヤと接触する領域に備えるように、波動発生器の周上に配置された2つのそれぞれのカムを備える。一定の半径を有するセクションは、好ましくは45°~100°または55°~85°および特に60°~80°の角度範囲を含む。あるいは、波動発生器は、楕円形のセクションプロファイルを、可撓性歯車がリングギヤと接触する領域に備えることもできる。上述の構成では、好ましくはそれに応じて可撓性歯車の歯が適合されることができ、可撓性歯車の歯は、少なくとも2つの異なる歯の形状を有することができる。例えば3つ、4つ、またはそれ以上のカムを有する波動発生器の構成も、可能である。カムは、好ましくは、波動発生器の周の周りに対称に配置されている。
【0018】
出力シャフトに接続されたボルトとしてピン要素が構成されていることを、簡素な構成で提供することができる。結果として、可撓性歯車の運動は、ボルトを介して出力部の均一な回転運動に伝達される。
【0019】
そこでは、関連する利点を有する滑り軸受が形成されるように、各ボルトにスリーブが配置されていることが好ましい。あるいは、弾性スリーブまたは弾性Oリングを各ボルトに配置することもできる。この構成変形では、関連する穴は、代替的に、円形断面を有して構成され得る。
【0020】
代替的な構成では、ピン要素は、固定されているように形成されており、リングギヤは、回転可能であるように形成されている。そこでは、リングギヤは、可撓性歯車の係合によって駆動され、したがって、この構成変形における出力要素として機能する。
【0021】
本発明は、図を使用して以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】
図2の変速機のIII-III線に沿った断面図である。
【
図6】
図1の変速機の、可撓性歯車とリングギヤとの間の係合の領域の図である。
【
図7】
図6に示す可撓性歯車とリングギヤとの間の係合の領域の、簡略化された図である。
【
図8】可撓性歯車とリングギヤとの間の係合の領域の拡大された図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
同様の構成要素が同様の参照符号によって示されるということが、以下の説明に適用される。関連する図の説明においてより詳細に説明されていない参照符号を、図が含む場合、先行するかまたは後続の図の説明が、参照される。
【0024】
本発明の変速機1の一実施形態を
図1に示す。変速機1は、波動発生器2と、可撓性歯車6と、固定リングギヤ9と、ピン要素11と、が配置されたハウジング10を備える。ハウジング10のカバーは、変速機の内部が見えるようにするために、取り外されている。変速機1は、略ディスク形状であり、中央中心軸線Mを有する。
【0025】
波動発生器2は、略楕円形の断面を有する、基体3を備える。略楕円形の断面による結果として、基体3は、隆起部を有する2つのセクションを有する。基体3上の隆起部は、波動発生器2のカムを形成する。可撓性歯車6は、カムによってリングギヤ9に接触するように作られている。基体3は、一定の半径を有するセクションを備えることができ、この場合、この一定の半径の中心MSは、中央中心軸線Mから距離eだけオフセットされている。変形可能なスリーブ5によって囲まれた、転動要素4が、基体3上に配置されている。可撓性歯車6は、波動発生器2上に配置されている。したがって、可撓性歯車6は、変形可能なスリーブ5および転動要素4を介して、基体3と接触している。
【0026】
可撓性歯車6は、可撓性ばねセグメント8を介して互いに接続された、いくつかの歯付きセグメント7.1、7.2を備える。可撓性歯車6には、外側歯部14が設けられており、当該外側歯部14は、固定リングギヤ9の内側歯部15と係合するように作られ得る。図示の実施形態では、可撓性歯車6は、6個の第1の歯付きセグメント7.1および6個の第2の歯付きセグメント7.2に分割された、12個の歯付きセグメント7.1、7.2を備える。第1の歯付きセグメント7.1は、第1の歯付きセグメント7.1それぞれの内部の端から端までの開口部として構成された、穴17をそれぞれ備える。ピン要素11のボルト12はそれぞれ、各穴17に受け入れられる。各ボルト12は、滑り軸受が形成されるように、スリーブ13によって囲まれている。波動発生器2の基体3の楕円形の形状は、転動要素4および変形可能なスリーブ5によって可撓性歯車6に伝達される。結果として、2つの互いに反対側に配置された点で、可撓性歯車6の外側歯部14は、リングギヤ9の内側歯部15と係合する。
【0027】
波動発生器2は、好ましくは駆動シャフトに接続されている。駆動シャフトの回転によって波動発生器2が回転する。この回転運動は、可撓性歯車6に伝達される。したがって、可撓性歯車6の外側歯部14は、リングギヤ9の内側歯部15に沿って延びる。歯付きセグメント7.1、7.2の間に配置されたばねセグメント8は、可撓性歯車6の可撓性または弾性変形を可能にする。可撓性歯車6の運動は、ボルト12を介して出力部の均一な回転運動に伝達される。
【0028】
図2では、
図1の変速機1が、正面図で示されている。波動発生器2および波動発生器2の基体3の、楕円形の断面形状は、そこではっきりと見ることができる。楕円の中心は、常に変速機1の中央中心軸線M上にある。図示されている場合において、楕円形の基体3の主軸線16は、正確に水平に位置合わせされている。波動発生器2の楕円形の形状に起因して、可撓性歯車6は、可撓性歯車6の外側歯部14が固定リングギヤ9の内側歯部15と係合するように、2つの領域、
図2に示されている場合においては変速機1の右手側および左手側でそれぞれ変形される。さらに、
図2の上側および下側に示されている、他の2つの領域では、可撓性歯車6の外側歯部14は、リングギヤ9の内側歯部15と係合していない。
【0029】
図3は、
図2の変速機1のIII-III線に沿った断面図を示している。変速機1は、ハウジングカバー10.1によって閉じられる、ハウジング10を備える。リングギヤ9は、ハウジング10内に固定されている。リングギヤ9は、セクションで可撓性歯車6と係合しており、その目的のために、リングギヤ9は内側歯部15を備えかつ可撓性歯車6は外側歯部14を備える。可撓性歯車6は、第1の歯付きセグメント7.1を備える。第1の歯付きセグメント7.1の各々は、穴17を備える。ボルト12のうちの1つが、各穴17に配置されている。スリーブ13のうちの1つは、滑り軸受が形成されるように、ボルト12の各々に取り付けられ得る。穴17は、スリーブ13よりも幾分大きい。図示されている場合において、穴17は、楕円形の断面を有する。ボルト12およびスリーブ13の断面は、円形である。穴17の直径は、スリーブ13の外径よりも僅かに大きい。可撓性歯車の輪6は、変形可能なスリーブ5上に載っている。変形可能なスリーブ5は、転動要素4を介して基体3に接続されている。基体3、転動要素4、および変形可能なスリーブ5は、波動発生器2を形成する。
図3においてはっきりと見ることができるように、変速機1は、非常に短い全長L
Gを有し、したがって、直径に対して非常に短い。それにもかかわらず、高いねじれ剛性が与えられる。上記のような変速機は、減速比が高い。
【0030】
可撓性歯車6の一実施形態を
図4に示す。既に説明したように、可撓性歯車6は、ばねセグメント8を介して互いに接続された、第1および第2の歯付きセグメント7.1、7.2を備える。図示の実施形態では、可撓性歯車6は、12個の歯付きセグメント7.1、7.2を備える。歯付きセグメントの2個目ごとに、すなわち第1の歯付きセグメント7.1は、穴17を備える。第1の歯付きセグメント7.1は、すべて互いに同一に構成されている。第2の歯付きセグメント7.2は、第1の歯付きセグメント7.1の間に配置されている。第2の歯付きセグメント7.2は、穴を備えない。隣り合う歯付きセグメント7.1、7.2は、ばねセグメント8を介して接続されている。ばねセグメント8は、円形線に沿って延在する弧状ウェブとして構成されており、この構成では、当該円形線の中心は、変速機1の中心軸線上に配置されている。
【0031】
第1の歯付きセグメント7.1および第2の歯付きセグメント7.2の形状は、以下により詳細に説明される。
【0032】
各第1の歯付きセグメント7.1は、足領域18を備え、当該各第1の歯付きセグメント7.1は、当該足領域18で波動発生器2と接触する。足領域18から出発して、胴領域19が、半径方向に外側に隣接しており、穴17は、当該胴領域19内に配置されている。したがって、穴17は、歯付きセグメント7.1の内部に位置する、閉じた輪郭を有する。ボルト12またはスリーブ13は、それぞれ、この輪郭に沿って転動する。結果として、ボルト12またはスリーブ13と穴17との接触は、決して途切れることがなく、そのことによって、変速機1の運転の滑らかさが向上する。頭領域20は、半径方向に胴領域19に隣接している。外側歯部14は、各第1の歯付きセグメント7.1の頭領域20の、外側へ面する周面上に形成されている。穴17は、第1の歯付きセグメント7.1の内部に配置されているため、外側歯部14は、第1の歯付きセグメント7.1の、外側へ面する周面全体にわたって延在する。可撓性歯車6の周方向Uにおける第1の歯付きセグメント7.1の幅が、ここで調べられる場合、第1の歯付きセグメント7.1は、足領域18において最初の幅を有し、当該幅は、胴領域でテーパ状になって、第1の歯付きセグメント7.1が外周で最大幅を有するように外側に向かって再び増大する。
【0033】
第2の歯付きセグメント7.2も、波動発生器2と接触する足領域21を備える。胴領域22は、頭領域23に移行するのであり、第2の歯付きセグメント7.2の場合にも、半径方向に外側においてこの足領域21に隣接する。第2の歯付きセグメント7.2は、穴を備えない。代わりに、第2の歯付きセグメント7.2は、胴領域22で激しくくびれており、したがって、くびれ部24を有する。外側歯部14は、第2の歯付きセグメント7.2の頭領域23の、外側へ面する周面上にも形成されている。
【0034】
歯付きセグメント7.1、7.2の各々は、隣接して配置された歯付きセグメント7.2、7.1に、ばねセグメント8を介して接続されている。ばねセグメント8は、可撓性歯車6の周方向に円形線上に延在する、弧状ウェブとして構成されている。ばねセグメント8は、穴17の略中心のレベルで、第1の歯付きセグメント7.1に係合している。ばねセグメント8と第2の歯付きセグメント7.2との間の接続は、くびれ部24のレベルにある。
図4においてはっきりと見ることができるように、可撓性歯車6は、一体的に形成されている。
【0035】
穴を備えない第2の歯付きセグメント7.2は、歯部の力を、穴17を有する第1の歯付きセグメント7.1に、ばね要素8を介して伝達する。これにより、ばねセグメント8をより大きく構成することが可能になり、そのことによって、可撓性が向上し、変速機1のより小さい直径でも依然として十分な弾性変形を得ることができる。図示のばね要素8の形状は、それらばね要素8が接線方向に弾性を可能な限り有しないのであって半径方向にのみ弾性を有することを、確実にする。
【0036】
ばねセグメント8の各々は、中心平面MFSであって、変速機1の中央中心軸線を含み、かつばねセグメント8それぞれを等しい長さの2つの領域に分割する、中心平面MFSを有する。ばねセグメント8は、ウェブによって円形の弧の形状に形成されているため、この長さは、弧の長さに対応する。穴17の各々も、中心平面MAであって、変速機1の中央中心軸線を含み、穴17それぞれを2つの等しく大きな領域に分割する、中心平面MAを有する。歯付きセグメント7.1、7.2の間のばねセグメント8は、各ばねセグメント8の中心平面MFSが、隣りの穴17の2つの中心平面MAから異なる距離にあるように、非対称であるように構成されている。各ばねセグメント8の中心平面MFS、および各穴17の中心平面MAは、変速機1の中央中心軸線Mで交差する。したがって、各ばねセグメントの中心平面MFSと、それの隣りに配置された2つの中心平面MAそれぞれとの間の距離は、サイズの異なる角度によって表すことができる。
【0037】
図4の細部Vを拡大して
図5に示す。第1の歯付きセグメント7.1および第2の歯付きセグメント7.2が、示されている。既に説明したように、第1の歯付きセグメント7.1は、足領域18と、胴領域19と、頭領域20とを備える。穴17は、第1の歯付きセグメント7.1の胴領域19に位置する。外側歯部14は、頭領域20に形成されている。第2の歯付きセグメント7.2も、足領域21と、くびれ部24を備える胴領域22と、頭領域23とを備える。外側歯部14は、頭領域23の外周面上に形成されている。第2の歯付きセグメント7.2の足領域21、さらには第1の歯付きセグメント7.1の足領域18は、歯付きセグメント7.1、7.2の各々が、2つの支持点で波動発生器2に支持されるように、くぼんだ穴を備える。したがって、歯付きセグメント7.1、7.2の、波動発生器2の外輪郭に対して垂直な位置合わせが改善される。このくぼんだ陥没は、約170°の開口角度βを有する。
【0038】
ばねセグメント8は、略穴17のレベルで、第1の歯付きセグメント7.1に係合している。ばねセグメント8は、ばねセグメント8が第1の歯付きセグメント7.1に移行する領域に、逃げ溝25を有する。この逃げ溝25は、ばねセグメント8から第1の歯付きセグメント7.1への移行領域における、可撓性歯車6の可撓性を向上することができる。
【0039】
ばねセグメント8は、くびれ部24のレベルで、第2の歯付きセグメント7.2に係合している。第2の歯付きセグメント7.2は、この領域において非常に小さな幅を有するため、そこには十分な可撓性が与えられる。隣り合って配置された歯付きセグメント7.1、7.2は、頭領域、さらには足領域の両方で、互いに距離を置いて配置されている。
【0040】
図5において見ることができるように、第1の歯付きセグメント7.1は、第2の歯付きセグメント7.2とは異なる数の歯を有することができる。したがって、可撓性歯車6の歯の数は、歯付きセグメント7.1、7.2の個数の整数倍ではない。したがって、歯付きセグメント7.1、7.2の個数は、可撓性歯車6全体の歯の数によって決まらない。したがって、歯付きセグメント7.1、7.2上の歯の、数および/または配置は、必ずしも均一ではない。歯付きセグメント7.1、7.2上のすべての歯が同じ形状を有するための目的で、波動発生器2の幾何学的形状、すなわち2つの反対側に配置されたカムを有する楕円形の断面形状が、上側の高い点(高さ)の領域に角度αにわたって一定の半径Rが延在するように、選択され得る。ここで、歯付きの係合は、当該角度α内で起きる。この実施形態では、角度αは、72°である。これを
図6~
図8に示す。このセクション、すなわち角度αのセクション内に位置するすべての歯付きセグメント7.1、7.2は、軸線M
Sを中心に回転する、半径Rを有する仮想歯車をもたらす。この軸線M
Sは、変速機1の中央中心軸線Mから一定の距離eにある。距離eはそこで、リングギヤの半径に対して10%未満の長さ比を有する。唯一の境界条件は、隣接する変速機要素7.1、7.2上に位置する2つの外側歯の間の距離が、この領域内の歯幅Sの整数倍であることである。歯幅Sは、ここでは、外側歯部14の隣り合って配置された2つの歯の間の距離の2倍として定義される。これを
図8に示す。
【0041】
高減速比の本発明による変速機の利点は、変速機の長さが非常に短く、ねじれ剛性が高いことである。
【符号の説明】
【0042】
1 変速機
2 波動発生器
3 基体
4 転動要素
5 変形可能なスリーブ
6 可撓性歯車
7.1 第1の歯付きセグメント
7.2 第2の歯付きセグメント
8 ばねセグメント
9 リングギヤ
10 ハウジング
10.1 ハウジングカバー
11 ピン要素
12 ボルト
13 スリーブ
14 外側歯部
15 内側歯部
16 主軸線基体
17 穴
18 足領域第1の歯付きセグメント
19 胴領域第1の歯付きセグメント
20 頭領域第1の歯付きセグメント
21 足領域第2の歯付きセグメント
22 胴領域第2の歯付きセグメント
23 頭領域第2の歯付きセグメント
24 くびれ部
25 逃げ溝
M 中央中心軸線変速機
LG 全長変速機
U 周方向
MFS 中心平面ばねセグメント
MA 中心平面穴
MS 軸線仮想歯車
R 半径仮想歯車
e 距離仮想歯車
α 角度
β 開口角度
S 歯幅