(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】クリップ装着治具
(51)【国際特許分類】
B29C 33/12 20060101AFI20240830BHJP
B29C 44/24 20060101ALI20240830BHJP
F16B 2/20 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B29C33/12
B29C44/24
F16B2/20 B
(21)【出願番号】P 2022505952
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2021008042
(87)【国際公開番号】W WO2021182202
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020040283
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】亀田 和政
(72)【発明者】
【氏名】梅野 太志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 暁央
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-072938(JP,A)
【文献】特開2000-082385(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183619(WO,A1)
【文献】特開平09-260834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/12
B29C 44/24
F16B 2/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂成形型の複数の装着位置にクリップを装着するためのクリップ装着治具であって、
フレームと、
前記フレームの第1面に前記装着位置に対応する配置で固定された複数のクリップ保持具と、
前記フレームに接続されたビームと、
前記ビームの第1面から突出して、先端が前記成形型の内面に当接することで前記クリップ装着治具が前記成形型に向かって過度に押し込まれることを防止するストッパーと、
を有するクリップ装着治具。
【請求項2】
前記ストッパーの長さが、前記クリップを前記装着位置に装着したときに先端がちょうど前記成形型の内面に触れる長さ+2mm~-3mmの範囲にある、
請求項1に記載のクリップ装着治具。
【請求項3】
前記フレームを厚さ方向に貫通するスリットが形成されている、
請求項1または2に記載のクリップ装着治具。
【請求項4】
前記フレームの前記第1面から突出して、前記成形型内の突条部を両側から挟み込むガイド部を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のクリップ装着治具。
【請求項5】
前記フレームの前記第1面から突出して、前記成形型内の突条部を両側から挟み込むガイド部を有し、前記スリットが前記ガイド部の機能を兼ねる、
請求項3に記載のクリップ装着治具。
【請求項6】
前記クリップ保持具は、基部と、第1把持部と、第2把持部と、第1ロック機構と、第2ロック機構とを有し、
前記第1把持部は、前記基部に結合され、前記基部側に第1回転軸と、先端近傍の内側に第1係止部とを有し、
前記第2把持部は、前記基部に結合され、前記基部側に第2回転軸と、先端近傍の内側に第2係止部とを有し、
前記第1把持部および前記第2把持部は、
該第1把持部が前記第1回転軸を中心に回転し、該第2把持部が前記第2回転軸を中心に回転することによって該両把持部の先端の開度が変化するように、対向して設けられ、
前記開度を小さくすることによって、前記第1係止部と前記第2係止部が前記クリップの外縁を両側から係止して該クリップを把持可能であり、
前記クリップを把持した状態から該クリップを前記基部方向へ押すことにより、前記開度が増して、前記第1係止部と前記第2係止部による該クリップの係止が解かれ、
前記第1ロック機構および前記第2ロック機構は、前記第1把持部と前記第2把持部が前記クリップを把持した状態および前記第1係止部と前記第2係止部による前記クリップの係止が解かれた状態で、それぞれ前記第1把持部または前記第2把持部の回転角度をロック可能である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のクリップ装着治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡樹脂成形型に複数のクリップを取り付ける際に用いるクリップ装着治具に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートのクッション部やバック部は、ウレタンフォーム等からなるパッドに表皮材を被せて構成される。近年、パッドに形成した溝の底にクリップを埋設し、表皮材の裏面に設けられたサスペンダをクリップに係止して、パッドと表皮材を一体化することが行われている。クリップは、パッドを発泡成形する際に成形型内の突条部に取り付けておくことで、パッドの溝の底に埋設される。
【0003】
特許文献1~3には、上記の用途に用いるクリップが記載されている。特許文献4および5には、成形型に形成されたリブ状突起部の部品装着位置にクリップ等の部品を係止する際に用いられる部品保持部材および部品取付治具が記載されている。部品保持部材は、成形型に装着する際にクリップを保持する部材である。部品取付治具は、治具基体の一方の面に、成形型の部品装着位置に対応して複数の部品取付部材が配置されたもので、一度の作業で複数のクリップを成形型に装着することができる。特許文献6には、成形型内の突条部に固定具を取り付けて、この固定具にクリップを装着することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-185204号公報
【文献】特開2016-186324号公報
【文献】特開2016-186325号公報
【文献】国際公開番号WO2017/183619号
【文献】特開2019-72938号公報
【文献】特開2017-60582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは実験によって、複数のクリップを成形型に一度に装着する場合は、装着治具を成形型に向かって押し付ける力加減が難しいことに気付いた。複数のクリップを同時に成形型の突条部や固定具に押し込むため、より強い力で押し込むことが必要なためである。このとき、装着治具を押し付ける力が強すぎると、クリップの装着完了後にも勢い余って、装着治具をさらに押し込むことがあり、クリップを破損したり、成形型の突条部を損傷する虞があった。
【0006】
本発明は上記を考慮してなされたものであり、複数のクリップを成形型に一度に装着することが可能で、より安全に作業できるクリップ装着治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のクリップ装着治具は、発泡樹脂成形型の複数の装着位置にクリップを装着するためのクリップ装着治具であって、フレームと、前記フレームの第1面に前記装着位置に対応する配置で固定された複数のクリップ保持具と、前記フレームに接続されたビームと、前記ビームの第1面から突出して、先端が前記成形型の内面に当接することで前記クリップ装着治具が前記成形型に向かって過度に押し込まれることを防止するストッパーとを有する。
【0008】
この構成により、クリップ装着治具を成形型に向かって押し付ける力が強すぎても、ストッパーの先端が成形型の内面に当接すると装着治具がそれ以上に押し込まれることがなく、クリップや成形型の損傷を防止できる。
【0009】
好ましくは、前記ストッパーの長さが、前記クリップを前記装着位置に装着したときに先端がちょうど前記成形型の内面に触れる長さ+2mm~-3mmの範囲にある。ストッパーの先端がちょうど成形型の内面に触れるとはストッパーの先端が成形型の内面に接して、かつストッパーによる圧力が成形型の内面に作用しない状態をいう。これにより、クリップや成形型の損傷をさらに確実に防止できる。
【0010】
好ましくは、上記クリップ装着治具は、前記フレームを厚さ方向に貫通するスリットが形成されている。フレームを厚さ方向とはフレームの第1面に垂直な方向である。これにより、スリットを通して成形型内の突条部を視認することで、クリップ装着作業時にクリップ装着治具の位置合わせが容易になる。
【0011】
好ましくは、上記クリップ装着治具は、前記フレームの前記第1面から突出して、前記成形型内の突条部を両側から挟み込むガイド部を有する。これにより、成形型内の突条部をガイド部に嵌め込むことで、クリップ装着作業時にクリップ装着治具の位置がずれない。 また、成形型内の突条部の形状によっては、前記スリットが前記ガイド部の機能を兼ねることができる。
【0012】
好ましくは、前記クリップ保持具は、基部と、第1把持部と、第2把持部と、第1ロック機構と、第2ロック機構とを有する。前記第1把持部は、前記基部に結合され、前記基部側に第1回転軸と、先端近傍の内側に第1係止部とを有する。前記第2把持部は、前記基部に結合され、前記基部側に第2回転軸と、先端近傍の内側に第2係止部とを有する。前記第1把持部および前記第2把持部は、該第1把持部が前記第1回転軸を中心に回転し、該第2把持部が前記第2回転軸を中心に回転することによって該両把持部の先端の開度が変化するように、対向して設けられ、前記開度を小さくすることによって、前記第1係止部と前記第2係止部が前記クリップの外縁を両側から係止して該クリップを把持可能であり、前記クリップを把持した状態から該クリップを前記基部方向へ押すことにより、前記開度が増して、前記第1係止部と前記第2係止部による該クリップの係止が解かれる。そして、前記第1ロック機構および前記第2ロック機構は、前記第1把持部と前記第2把持部が前記クリップを把持した状態および前記第1係止部と前記第2係止部による前記クリップの係止が解かれた状態で、それぞれ前記第1把持部または前記第2把持部の回転角度をロック可能である。
【0013】
ここで第1把持部と第2把持部の先端の開度とは、第1把持部の先端と第2把持部の先端との距離の広狭の度合いである。また、本明細書中で、第1把持部と第2把持部の先端の開度を単に「把持部の開度」といい、把持部の開度を小さくすることを「把持部を閉じる」、係止部がクリップの外縁に係止した状態を「把持部が閉じた状態」、把持部の開度を大きくすることを「把持部を開く」、把持部の開度が大きく、係止部によるクリップの係止が解かれて、クリップを取り外せる状態を「把持部が開いた状態」という。
【0014】
この構成により、クリップ保持具に保持したクリップを成形型の所定の位置に押し付けて固定したときに、第1把持部と第2把持部が開いた状態でロックされるため、クリップ保持具を引いてクリップから離すときに、クリップに余計な力がかからない。
【発明の効果】
【0015】
本発明のクリップ装着治具によれば、複数のクリップを成形型に一度に装着することができる。その際、クリップ装着治具を成形型に向かって押し付ける力が強すぎても、ストッパーの先端が成形型の内面に当接すると装着治具がそれ以上に押し込まれることがない。これにより、クリップや成形型が損傷することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態のクリップ装着治具を用いて成形型に装着するクリップの例である。
【
図3】
図2のPPにおけるクリップ保持具の断面図である。
【
図4】
図2のQQにおけるクリップ保持具の断面図である。A:把持部が閉じた状態、B:把持部が開いた状態。
【
図5】クリップ保持具を用いた、成形型内の所定の位置に配置された固定具へのクリップの装着作業を説明するための図である。A:クリップを保持した状態、B:クリップを固定具に押し込んでいる状態、C:クリップを固定具に装着した状態、D:クリップ保持具をクリップから離した状態。
【
図6】一実施形態のクリップ装着治具の斜視図である。
【
図7】一実施形態のクリップ装着治具の使用方法を説明するための図である。
【
図9】他の例のガイド部の機能を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のクリップ装着治具の一実施形態を
図1および
図6~9に基づいて説明する。
【0018】
まず、
図1を参照して、本実施形態のクリップ装着治具が装着するクリップ70は、板状部71と係止部73を有する。クリップは、係止部73をパッド成形型内の突条部の所定の位置に係止することで、成形型に装着される。パッドの成形時には、発泡樹脂が板状部に設けられた貫通穴72に入り込み、板状部71を包み込むことで、パットの溝の底にクリップが埋設される。また、成形型内の突条部は、クリップを係止する部分が他の部分より一段低く形成されている。これにより、成形されたパッドの溝内部に係止部73が露出する。クリップは、成形型内の突条部に直接装着してもよいし、特許文献6に記載されたように、成形型内の所定の位置に配置された固定具に係止してもよい。パッド成形後に、クリップの係止部73に表皮材のサスペンダが係止される。本明細書中で「パッド成形型」あるいは「発泡樹脂成形型」を単に「成形型」という。
【0019】
図6は、クリップ装着治具60を、クリップ装着作業時に成形型に面する側から見た斜視図である。クリップ装着治具60は、フレーム61と、2本のビーム64と、フレームの第1面66に取り付けられた複数のクリップ保持具10とを有する。
図6では、簡単のために、クリップ保持具を直方体で示した。クリップ保持具の詳細は後述する。各クリップ保持具10にクリップを保持して、成形型内の突条部に設けられたクリップ装着位置に位置を合わせてクリップ装着治具60を押し付けることで、成形型に複数のクリップを一度に装着することができる。本明細書中で「クリップ装着治具」を単に「装着治具」ということがある。
【0020】
フレーム61は、平面視において、パッド成形型内の突条部に沿う形状を有する。
図6では、フレームは略長方形状で、2つの短辺が一方に(
図6の左上方向に)突き出した形状を有している。クリップ保持具10はフレーム上に、成形型のクリップ装着位置に対応して配置される。
【0021】
フレーム61の一部には、幅方向の中央に、フレームを厚さ方向、すなわち第1面66から反対側の面にかけて貫通するスリット62が形成されている。スリット62はフレーム上の、クリップ保持具10が取り付けられていないところに設けられる。装着治具60を用いたクリップの装着作業時に、スリット62を通して突条部を視認することで、装着治具の位置合わせができる。
【0022】
フレーム61の第1面66には、クリップ装着作業時に成形型内の突条部を両側から挟み込むガイド部63が設けられている。ガイド部はフレーム上の、クリップ保持具10が取り付けられていないところに設けられる。ガイド部は、好ましくは、フレーム上のスリット62が形成された位置に設けられる。突条部がガイド部に嵌合するのを作業者がスリットを通して視認できるからである。ガイド部の形状は特に限定されず、突条部と嵌合してフレームの位置決めが可能であればよい。ガイド部の数は特に限定されない。
図6では、ガイド部63は、スリット62を挟んで2枚の板状片が突出して形成され、フレームの2か所に設けられている。装着治具60を用いたクリップの装着作業時に、ガイド部を成形型内の突条部に嵌め込むことで、装着治具60の位置がずれない。
【0023】
また、成形型内の突条部の形状によって、可能であればスリット62がガイド部の機能を兼ねることが好ましい。前述のとおり、突条部のクリップ装着位置は他の部分より一段低く形成されているので、例えばクリップ装着位置間の突条部の先端が薄く形成されている場合などでは、スリット62がガイド部63の機能を兼ねることができる。クリップの装着作業時に、成形型内の突条部がスリット62に嵌合することで、装着治具の位置がずれない。
【0024】
ビーム64は、フレーム61の長方形の中に、その短辺に平行に2本設けられている。ビームは、フレームの変形を防止するとともに、成形型へのクリップの装着作業時に手で持って装着治具を保持するために設けられる。ビームの形状および本数は特に限定されない。
【0025】
ビーム64の第1面67には、各ビームに2本ずつ、計4本のストッパー65が設けられている。ストッパー65は、成形型へのクリップの装着作業時にクリップ装着治具60を押し込みすぎないための安全装置である。クリップの装着が完了した後に、さらに装着治具を押し続けると、クリップを破損したり、成形型の突条部を損傷する虞がある。特に、クリップを金属製の固定具に係止する場合は、固定具によって、成形型の突条部を損傷する虞が大きくなる。クリップ装着作業時に、ストッパーが成形型内面に当接することで、装着治具が過度に押し込まれることを防止できる。
【0026】
各ストッパー65の長さは、装着治具60を用いてクリップ70を成形型に装着したときに、ストッパーの先端がちょうど成形型の内面に触れる長さ(以下、「理想的な長さ」という)である。ストッパーの先端がちょうど成形型の内面に触れるとは、ストッパーの先端が成形型の内面に接して、かつストッパーによる圧力が成形型の内面に作用しない状態をいう。
【0027】
ストッパーがこの理想的な長さより長いと、クリップを成形型に装着した時点で、ストッパーの先端が成形型の内面を押している状態となる。したがって、ストッパーが長すぎると、クリップの装着が不完全になったり、成形型を変形させたりする虞がある。自動車用シートに用いられるクリップの寸法等を考慮すると、ストッパーの長さは、好ましくは上記理想的な長さ+2mm以下、より好ましくは上記理想的な長さ+1mm以下である。
【0028】
一方、ストッパーが理想的な長さより短いと、クリップを成形型に装着した時点で、ストッパーの先端は成形型の内面に当たっていない。したがって、ストッパーが短すぎると、クリップの装着が完了した後に、さらに装着治具が成形型に向かって押し込まれる恐れがある。自動車用シートに用いられるクリップの寸法や変形後に復元する能力を考慮すると、ストッパーの長さは、好ましくは上記理想的な長さ-3mm以上、より好ましくは上記理想的な長さ-2mm以上である。
【0029】
ストッパー65は、成形型へのクリップ装着作業時に、突条部と干渉しない位置に設けられる。ストッパーの本数は特に限定されないが、好ましくは4本である。また4本のストッパーは、好ましくは長方形の角を占めるように配置される。クリップ装着作業時に、ストッパーの先端を視認することで、クリップ装着治具60と成形型との位置関係を把握しやすいからである。
【0030】
クリップ装着治具60は、好ましくは樹脂を用いて作製する。成形型を傷つけないためである。クリップ装着治具の製造方法は特に限定されないが、例えば3Dプリンティングによれば、フレーム61、ビーム64およびストッパー65の全体を一体に作製できるので好ましい。
【0031】
次に、クリップ装着治具60の使用方法を説明する。
【0032】
まず、
図6において、クリップ保持具10にクリップ70を取り付ける。
図7を参照して、ビーム64を両手で持って、クリップを成形型に向けて、クリップと成形型の突条部に設けられたクリップ装着位置が正対するように、装着治具の位置を合わせる。位置合わせは、フレーム61と突条部に形状を参考にして、さらにスリット62から突条部を視認して行う。
【0033】
図8を参照して、クリップ装着治具60を成形型81に向けて押し、成形型内の突条部82をガイド部63に嵌め込む。あるいは、
図9を参照して、スリット62がガイド部の機能を兼ねる場合には、成形型内の突条部82をスリット62に嵌め込む。装着治具をさらに成形型に向けて押す。装着治具は、ガイド部が突条部に案内されて、装着治具の面方向にずれることなく成形型に近づく。装着治具を成形型に押し付けてクリップを装着位置に係止する。ストッパー65が成形型81の内面83に当たると、装着治具60はそれ以上成形型に向かった押し込まれることがない。装着治具を成形型から離す。以上によって、複数のクリップが成形型に一度に装着される。
【0034】
本発明者らは実験によって、複数のクリップを成形型に一度に装着する場合は、装着治具を押し付ける力加減が難しいことに気付いた。複数のクリップを同時に固定具に押し込むため、より強い力で押し込むことが必要なためである。装着治具を押し付ける力が弱すぎると、当然装着が不十分になる。一方で、ストッパーのない装着治具では、装着治具を押し付ける力が強すぎると、クリップの装着完了後にも勢い余って、装着治具をさらに押し込むことがあった。本実施形態のクリップ装着治具60では、装着治具を押し付ける力が強すぎても、ストッパー65の先端が成形型の内面に当接すると装着治具がそれ以上押し込まれることがなく、装着治具が成形型に向かって過度に押し込まれることがない。これにより、クリップや成形型の損傷を防止できる。
【0035】
また、自動車用シートのバック部の成形型では、型の内面や突条部の上面に起伏が多く、作業者が持った装着治具がクリップ装着位置に対して傾いた状態になりやすく、ストッパーのない装着治具では、装着治具の上下左右のいずれかにあるクリップだけが固定具に強く押し付けられることがあった。本実施形態のクリップ装着治具60では、ストッパー65の先端と成形型内面との距離を視認することにより、装着治具を成形型に正対させた時点で、装着治具が斜めになりにくかった。
【0036】
次にクリップ保持具の一例を
図2~5に基づいて説明する。
【0037】
図2~4を参照して、クリップ保持具10は、基部20、第1把持部40、第2把持部50および保持台30を有する。第1把持部40、第2把持部50および保持台30は、後述するように、いずれも基部20に結合している。基部20は略直方体の外形を有する。第1把持部と第2把持部は、基部の幅方向(図のY方向)の両側に、対称に、向かい合って設けられる。
【0038】
第1把持部40は、基部20の幅方向の片側近くに内蔵された、基部の長さ方向(図のX方向)に伸びる第1回転軸42を介して基部に結合している。第1把持部は第1回転軸を中心に回転可能である。
図2、
図3および
図4Aは第1把持部が閉じた状態であり、
図4Bは第1把持部が開いた状態である。
【0039】
第1把持部40の先端には、内側に曲がった鉤状の第1係止部41が形成されている。なお、本明細書において、基部の幅方向の中心に近い側を「内側」、当該中心から遠い側を「外側」という。第1把持部が閉じた状態では、第1係止部がクリップ70の板状部71の縁に係止する(
図4A)。第1把持部が開いた状態では、第1係止部のクリップの係止が解除される(
図4B)。なお、第1係止部の形状は、これには限られず、第1把持部が閉じた状態でクリップに係止し、第1把持部が開いた状態でクリップの係止が解除される形状であればよい。例えば、第1係止部は、第1把持部の先端近くの内側面から突出するピンや突条部であってもよいし、第1把持部の先端近くの内側面に形成された溝や窪みであってもよい。
【0040】
基部20の内部には、第1回転軸42の内側に、第1回転軸と平行に第1ボールプランジャ43が固定されている。ボールプランジャはスプリングを内蔵しており、先端のボールを押すとボールが内部に沈み、荷重から解放されるとスプリングの力でボールが元に戻る部品である。第1把持部40には、第1ボールプランジャ43に面した側面の、第1回転軸42より内側の2か所に、ボール43aの受け座45、46が形成されている。受け座は、ボールが嵌る窪みである。第1ボールプランジャのボールが受け座に嵌ることによって、第1把持部がその回転姿勢でロックされる。第1把持部が閉じた状態ではボールが受け座45に嵌ることにより第1把持部は閉じた状態でロックされる。第1把持部が開いた状態ではボール43aが受け座46に嵌ることにより第1把持部は開いた状態でロックされる。また、第1把持部がこのようにロックされた状態で、第1把持部を回転させようとする一定以上の大きさの力が加えられると、ボールがボールプランジャ内部に沈んで、ロックが外れる。本実施形態の第1ロック機構は、基部に固定された第1ボールプランジャ43と、第1回転軸と直交する第1把持部の側面であって、第1ボールプランジャに面した第1把持部の側面の2か所に設けられた受け座45、46とから構成される。
【0041】
第2把持部50、第2把持部が有する第2係止部51、第2回転軸52、受け座55、56、および第2把持部に付随する第2ロック機構(図示せず)は、第1把持部40と同様に構成されている。
【0042】
第1把持部40と第2把持部50は、両把持部の回転によって、先端の開度が変化する。把持部40、50が閉じた状態では、第1係止部41と第2係止部51がクリップの外縁を両側から係止して把持できる(
図4A)。把持部40、50が開いた状態では、第1係止部と第2係止部によるクリップの係止が解除される(
図4B)。
【0043】
保持台30は、基部20と第1把持部40と第2把持部50に囲まれた空間内に、基部と略平行に設けられる。クリップ70を載置する保持台の第1面31には、クリップの貫通穴72に嵌る凸部33が形成されており、これによって保持台上でクリップを位置決めできる。保持台の幅(図のY方向)は、クリップの幅と同じかわずかに広く形成されている。
【0044】
保持台30と基部20の間には、弾性部材であるコイルばね36が配置されている。保持台はコイルばね36を介して基部に結合している。保持台は、基部に面した第2面32の中心に支持棒34が固定され、支持棒は、コイルばねおよび基部に設けられたガイド穴21に挿通されて、保持台と反対側の端部にロックピン35が固定されている。
【0045】
図4Aを参照して、把持部40、50が閉じた状態では、コイルばね36は中立または少し圧縮された状態にあり、ロックピン35が基部20に当たることで、保持台の第1面31と係止部41、51との間にクリップ70を保持できる空隙を確保する。
【0046】
第1把持部40と第2把持部50の向かい合う面には傾斜面47、57が設けられ、把持部の先端側から基部20側に向かうにしたがって両把持部の間隔が狭くなる。これにより、
図4Bを参照して、保持台30を基部20方向へ押し込むにつれて、保持台が第1把持部および第2把持部の傾斜面47、57を外側へ押して、両把持部40、50が開く。
【0047】
次に、クリップ保持具10の使用方法を説明する。
【0048】
図5Aにおいて、クリップ保持具10はクリップ70を保持した状態である。把持部40、50は閉じた状態にあり、両把持部はロックされている。一方、成形型の突条部には、所定の位置にクリップ固定具80が配置されている。クリップを固定具80に正対させて近づけていく。
【0049】
図5Bを参照して、クリップ70を固定具80に押し込むと、両把持部40、50のロックが外れ、さらに、クリップ保持具10の保持台30が基部20側に押し込まれることで、コイルばね36が縮むとともに、保持台が両把持部の傾斜面47、57を外側に押して、両把持部40、50を開いていく。クリップ保持具は、クリップが直接両把持部を押し開く構造とすることもできるが、本実施形態のように保持台が両把持部を押し開く方が、クリップを傷める虞がないので好ましい。
【0050】
図5Cを参照して、クリップ70をさらに固定具80に押し込むと、クリップが固定具に係止されて、クリップが成形型に装着される。このとき、把持部40、50は開いた状態で再びロックされる。
【0051】
図5Dを参照して、クリップ保持具10を成形型から離す。コイルばね36は伸びて中立状態に戻り、保持台30は両把持部の傾斜面47、57から離れるが、両把持部40、50が開いた状態でロックされている。両係止部41、51の間隔がクリップ70の幅より広いので、クリップが第1係止部41と第2係止部51の間から抜ける。これにより、クリップ保持具をクリップから離す際に、クリップに余計な力が作用せず、クリップが引きずられて固定具80から外れたり、クリップの位置がずれる虞がない。
【0052】
また、上記構造のクリップ保持具10を用いると、クリップの押し込み量に応じて押し込む力が徐々に増加するため、装着治具に保持された全部のクリップの押し込み量を等しくするように、クリップを押し込みながら装着治具の傾きを修正できる。そのため、上記クリップ保持具10は、複数のクリップを成形型に一度に装着するような本実施形態のクリップ装着治具60に用いるのに、特に適している。
【符号の説明】
【0053】
10 クリップ保持具
20 基部
21 ガイド穴
30 保持台
31 保持台の第1面
32 保持台の第2面
33 凸部(クリップ位置決め機構)
34 支持棒
35 ロックピン
36 コイルばね(弾性部材)
40 第1把持部
41 第1係止部
42 第1回転軸
43 第1ボールプランジャ
45 受け座(第1把持部閉位置)
46 受け座(第1把持部開位置)
47 傾斜面
50 第2把持部
51 第2係止部
52 第2回転軸
55 受け座(第2把持部閉位置)
56 受け座(第2把持部開位置)
57 傾斜面
60 クリップ装着治具
61 フレーム
62 スリット
63 ガイド部
64 ビーム
65 ストッパー
66 フレームの第1面
67 ビームの第1面
70 クリップ
71 板状部
72 貫通穴
73 係止部
80 固定具
81 成形型
82 突条部
83 成形型の内面