(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】モータ車両の移動を予測的に制御するためのデバイス
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20240830BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20240830BHJP
B60W 40/10 20120101ALI20240830BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240830BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20240830BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/06
B60W40/10
B60W60/00
B62D6/00
B60L15/20 J
(21)【出願番号】P 2022512827
(86)(22)【出願日】2020-09-03
(86)【国際出願番号】 EP2020074644
(87)【国際公開番号】W WO2021043925
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-08-07
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ゴンサレス バウティスタ, ダビド
(72)【発明者】
【氏名】ミラネス, ビンセント
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102017205508(DE,A1)
【文献】国際公開第2019/038872(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0305458(US,A1)
【文献】特表2018-535871(JP,A)
【文献】特開2017-030396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/02
B60W 40/06
B60W 40/10
B60W 60/00
B62D 6/00
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上のモータ車両の移動を制御するためのデバイス(1)であって、特にESPタイプの、少なくとも1つの運転支援システムを管理するためのモジュール(15)と、交通車線に対する地面標示を検出するための車載デバイス(10)であって、前記検出される標示にしたがって前記道路のレイアウトに関係する第1の情報を提供することができる、車載デバイス(10)と、前記車両の動的挙動に関係する第2の情報を提供することができる車載測定センサ(11)のセットと、前記車両の縦方向移動を制御するためのデバイス(12)および前記車両の横方向移動を制御するためのデバイス(13)であって、前記車両のステアリングシステムの縦方向および横方向の制御のためのアクチュエータ(14)に送出される、前記縦方向移動のためおよび前記横方向移動のための制御コマンドを、前記第1の情報および第2の情報から生成することができるデバイス(12)およびデバイス(13)と、を備える、デバイス(1)において、前記デバイス(1)は、近付く道路部分を規定する複数の反復にわたって前記車両の将来位置に対応する前記車両の将来状態のセットを決定することができる、前記第1の情報および第2の情報を供給される、前記車両の前記動的挙動を予測するための予測モデル(16)を備え、前記予測モデル
(16)は、車両運転限界値の違反を決定するためのモジュール(19)に接続され、前記モジュール(19)は、各々の決定される将来状態に対して、前記車両の前記将来状態を規定する状態変数のうちの少なくとも1つが、車両運転限界値に達する、または、前記車両運転限界値を超えるかどうかを決定すること、および、前記決定から、前記車両の少なくとも1つの将来状態に対して、前記車両に対する近付くリスク状況を推測することができ
、
前記車両運転限界値の前記違反を決定するための前記モジュール(19)は、車両運転限界値を規定するパラメータの中に、前記アクチュエータに、および/または、前記車両の動力学に関係する物理的パラメータを含み、
前記物理的パラメータは、少なくとも、前記車両の、最大ステアリング角度値(α_max)、最大ステアリングホイール角速度値、最大制動能力を表す値、および、最大加速度能力を表す値を含むことを特徴とする、デバイス(1)。
【請求項2】
前記車両の前記動的挙動を予測するための前記
予測モデル(16)は、入力として、前記車両の前記縦方向移動および前記横方向移動を制御するための前記デバイス(12、13)と同等な調節器(18)により送達される、前記車両の前記アクチュエータに対する予測される制御コマンドと、前記車両の横方向位置、前記車両の横方向速度、前記車両のヨー角度およびヨーレートである、現在の反復の間に決定される前記車両の前記将来状態の状態変数、および、前記車両の現在状態の状態変数とを受け取ることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記車両運転限界
値の前記違反を決定するための前記モジュール
(19)は、前記車両の前記決定される将来状態を前記車両運転限界値について比較するように、および、前記将来状態を規定する前記状態変数のうちの少なくとも1つ(α_predicted)が、対応する運転限界値(α_max)に達すると直ちに、警告信号(ld_predicted)を生成するように設計されることを特徴とする、請求項
1または
2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記運転支援システムを管理するための前記モジュール(15)は、前記生成される警告信号を受け取るように、および、前記警告信号を受け取ると、前記状態変数に対する先読み補正動作を制御するように設計されることを特徴とする、請求項
3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記先読み補正動作は、制動および/またはステアリング動作を含むことを特徴とする、請求項
4に記載のデバイス。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載
のデバイスを備えることを特徴とする、モータ車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ車両の移動を制御するためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、車両の自動化された運転の分野に適用可能であり、その自動化された運転は、特に、車両をその車両の交通車線内で維持する機能、車両の速度およびステアリングを制御する機能を含む。車両の自動化された運転は、特に、移動の安全および効率を改善することを目標とする。その自動化された運転は、特に、とりわけ制動動作によってモータ車両の軌道を制御し安定化させる機能を実行する、ESP(電子的安定プログラム(electronic stability program))に類する、危機的な状況において車両の動的挙動を修正するように設計される運転支援システムを組み込む、能動的安全システムに基づく。例えば、モータ車両が、速すぎる縦方向速度で曲がるとき、道路の曲率に追従することが困難なことがあり、モータ車両は、アンダーステアし始め得る。その結果、ESPシステムが、運転者により所望される軌道上に車両を維持するように、自動的に介入する。一般的には、車両が、運転者により所望される軌道からずれる場合、ESPシステムは、車両の軌道を補正するために、モータ/エンジントルクおよび/または制動トルクセットポイント信号を送出することになる。
【0003】
自動化された運転は、さらには、予防動作を実行しながら、危険な状況を先読みすることに努める、予防安全システムの実装に基づく。横方向制御支援に関しては、例えば、ステアリングおよび制動の両方のコマンドを制御することができる、車線に対して維持するための横方向制御支援システム(LKA(または、車線維持支援(lane keeping assist)))が論及されることがある。
【0004】
これらのシステムは、例えば、曲がり目における許可されるしきい値より速い速度、または、方向における急激な変化を試行することなどの、劣った操縦を運転者が実行するときに、車両の軌道の安定を確実にすることにおいて、良好な性能を提供する。
【0005】
しかしながら、ESPなどの運転者支援システムは、完全に自動化された運転による車両において実装されるときに、それらのシステムの性能低下に遭遇するものであり、なぜならば、そのとき、システムの動作の直線的な領域からの逸脱が存しないからである。典型的な事例は、最大速度に関する情報なしで急な曲がり目に接近している、完全に自動化された運転モードにおける車両の事例であり、車線維持システムは、車線境界を検出することになり、そのため、車両は、自律的なモードにおいて、その車両の軌道上で進み続けることになる。しかしながら、速度に関する情報なしでは、車両は、次いで、この曲がり目に対する最大速度よりもはるかに高速で運転されることがあり、なぜなら、ESPシステムが車両を安定して回復させるには遅すぎるからである。
【0006】
文書KR100851120が、モータ車両のための車線追従システムを説明している。このシステムは、ステアリングおよび制動コマンドの組み合わせによって車両を制御するためのステアリング制御アルゴリズムに基づく。そのシステムは、車両の、ステアリング角度、ヨーレート、加速度、および速度を測定するための車載センサのセットを備える。そのシステムは、さらには、フィードバックおよびフィードフォワードステアリング制御モジュールに供給するように、車両の非測定可能状態変数を推定することを、車両軌道制御モデルを基にして可能にする、状態観測器を備える。特に、観測器は、車両ステアリング制御モジュールに供給するために必要とされる情報を算出するために、ステアリングホイールに対する横方向速度およびステアリング角度値を推定するために使用される。システムは、さらには、車線地面標示を検出するためのカメラから組成される。このカメラは、軌道の曲率に関する情報を備える車線検出情報を提供するためのコンピューティングモジュールと関連付けられる。
【0007】
ステアリング制御モジュールは、車両の動的挙動を電子的に調節するための、システムのアクチュエータを制御することを、特に、運転タスクを車両の運転者と分担するように、車両の車載センサにより提供される情報、観測器により提供される情報、および車線検出情報を基にして、車両ステアリングシステムのステアリングアクチュエータ、および制動アクチュエータを制御することを可能にする。
【0008】
ステアリングおよび制動アクチュエータに関するコマンドは、非測定可能変数を推定しながら、横方向および縦方向誤差を基にして算出される。このシステムは、それゆえに、運転者に対するリアルタイム運転支援を提供するが、何を車両が将来においてすることができるか、またはできないかの予測を可能としない。確かに、定義により、運転者の操作は、まだ存在しない。現実において、そのことは、車両の現在の挙動を、軌道の検出される曲率値について比較し、この比較を基にして、リアホイールと関連付けられるESPシステムに作用することにより、経時的に各々の反復において繰り返される、直接的な動作の問題である。
【0009】
しかしながら、特に、完全に自動化された運転による車両の事例において、システムは、車両の物理的限度が達され得る、不安定な状況に直面するときに、反応することができなければならない。典型的な例は、急な曲がり目であって、車両が、タイヤとその曲がり目における地面との間のグリップにより定められる物理的限界を与えられた様態で、はるかに高すぎる速度で進入し得る、急な曲がり目である。
【発明の概要】
【0010】
したがって、車両において、自動化された運転能力を実装する文脈において、適した安全戦略が先行して取り入れられることを可能とする、車両の安定限界を超過し得る、車両の将来状態を先読みすることが可能であることの必要性が存する。
【0011】
その目的のために、本発明は、道路上のモータ車両の移動を制御するためのデバイスであって、特にESPタイプの、少なくとも1つの運転支援システムを管理するためのモジュールと、交通車線に対する地面標示を検出するための車載デバイスであって、検出される標示にしたがって道路のレイアウトに関係する第1の情報を提供することができる、車載デバイスと、車両の動的挙動に関係する第2の情報を提供することができる車載測定センサのセットと、車両の縦方向移動を制御するためのデバイスおよび車両の横方向移動を制御するためのデバイスであって、第1の情報および第2の情報から、車両のステアリングシステムの縦方向および横方向の制御のためのアクチュエータに送出される、縦方向移動のためおよび横方向移動のための制御コマンドを生成することができる、車両の縦方向移動を制御するためのデバイスおよび車両の横方向移動を制御するためのデバイスと、を備える、デバイスにおいて、近付く道路部分を規定する複数の反復にわたって車両の将来位置に対応する車両の将来状態のセットを決定することができる、第1の情報および第2の情報を供給される、車両の動的挙動を予測するためのモデルを備え、前記予測モデルは、車両運転限界値の違反を決定するためのモジュールに接続され、そのモジュールは、各々の決定される将来状態に対して、車両の前記将来状態を規定する状態変数のうちの少なくとも1つが、車両運転限界値に達する、または、その車両運転限界値を超えるかどうかを決定すること、および、その決定から、車両の少なくとも1つの将来状態に対して、車両に対する近付くリスク状況を推測することができることを特徴とする、デバイスに関する。
【0012】
したがって、この装置のおかげで、車両モデルは、車両運転限界値が違反される状況に対応する将来位置を識別すること、および、これらの状況を予防するために先行して判断を行うことができるよう、自律的なモードにおける車両の将来位置を、その車両の前方の軌道全体にわたって予測することができる。
【0013】
有利には、車両の動的挙動を予測するためのモデルは、入力として、車両の縦方向移動および横方向移動を制御するためのデバイスと同等な調節器により送達される、車両のアクチュエータに対する予測される制御コマンドと、車両の横方向位置、車両の横方向速度、車両のヨー角度およびヨーレートである、現在の反復の間に決定される車両の将来状態の状態変数、および、その車両の現在状態の状態変数とを受け取る。
【0014】
有利には、車両運転限界値の違反を決定するためのモジュールは、車両運転限界値を規定するパラメータの中に、前記アクチュエータに、および/または、車両の動力学に関係する物理的パラメータを含む。
【0015】
好ましくは、前記パラメータは、少なくとも、車両の、最大ステアリング角度値、最大ステアリングホイール角速度値、最大制動能力を表す値、および、最大加速度能力を表す値を備える。
【0016】
有利には、車両運転限界の違反を決定するための前記モジュールは、車両の決定される将来状態を車両運転限界値について比較するように、および、これらの将来状態を規定する状態変数のうちの少なくとも1つが、対応する運転限界値に達すると直ちに、警告信号を生成するように設計される。
【0017】
有利には、運転支援システムを管理するためのモジュールは、前記生成される警告信号を受け取るように、および、前記警告信号を受け取ると、前記状態変数に対する先読み補正動作を制御するように設計される。
【0018】
有利には、前記先読み補正動作は、制動および/またはステアリング動作を備える。
【0019】
本発明は、上記で説明されたようなデバイスを備えるモータ車両にも関する。
【0020】
本発明の他の特色および利点は、例解的および非制限的な例の様式により、ならびに、添付される図面を参照して与えられる、下記の説明を読むことから、より歴然と明らかになることになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の制御デバイスのアーキテクチャを例解する線図である。
【
図2】本発明の制御デバイスが評価される、車両の軌道の例を例解するグラフである。
【
図3A】
図2において例解される顕著なカーブにより形成される軌道部分のグラフであり、この軌道部分上の車両の実際の状態および予測される状態における変化を例解する。
【
図4】
図2のコースの全体を通して、追従されることになる軌道についての、車両の実際の状態および予測される状態の横方向誤差における経時的な変動を例解するグラフである。
【
図5】ステアリングホイールのステアリング角度の最大値についての、ステアリングホイールの実際のステアリング角度における、および、予測される角度における、経時的な変動を例解するグラフである。
【
図6】車両運転限界値の違反を決定するためのモジュールの対応する出力を例解するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照すると、車両の移動を制御するためのデバイス1は、交通車線地面標示を検出するための車載デバイス10を備える。この車載デバイス10は、典型的には、車両の前方の景色の画像を獲得することができるように、および、モータ車両の前方の道路標示を検出することができるように、例えば、ウィンドシールドの上部において、車両の屋根との接合部において設置されるかあるいは車両の室内後写鏡の背後に設置される、モータ車両について前方向に向きを設定される車載カメラである。このことをするために、カメラは処理ユニットと関連付けられ、その処理ユニットは、特に、車両により追従される交通車線に沿う、地面上の道路標示ラインを検出するために、カメラにより提供される画像ストリームを取り込み、画像処理技法を使用してその画像ストリームを分析する。処理ユニットは、さらには、検出される標示に基づく、道路のレイアウトに関係する情報、特に、車線の数、路肩の幅、中間車線の方向における横方向ずれ、および、軌道の曲率プロファイルを提供するように設計される。
【0023】
車両は、さらには、車両装備の様々な物品(ステアリングホイール、ステアリング、ブレーキ、その他)上に配置される、車載センサ11のセットを装備され、それらの車載センサ11は、車両の動的挙動に関係する情報、特に、車両の、速度、向首方向角度、加速度、ヨーレート、その他などの情報を提供することができる。
【0024】
道路のレイアウトに関係する情報、および、車両の動的挙動に関係する情報は、車両の縦方向移動を制御するためのデバイス12、または縦方向コントローラに、および、車両の横方向移動を制御するためのデバイス13、または横方向コントローラに送達され、それらのデバイスは、例えば中間車線に追従するための制御戦略を適用することにより、自律的なモードにおいて、つまりは、運転者からの操作なしで、車両をステアリングすることを可能にするように、この情報から、各々の反復点において、縦方向移動および横方向移動を制御するためのコマンドを、車両ステアリングシステムの、アクチュエータ14、特に、少なくとも1つの車両縦方向制御アクチュエータ、および、少なくとも1つのステアリングアクチュエータに対して生成することができる。したがって、車両の縦方向位置決めのために、車両の縦方向移動を制御するためのデバイス12は、車両制動および加速度アクチュエータを制御するために使用される。車両の横方向位置決めのために、車両の横方向移動を制御するためのデバイス13は、ホイールのステアリング角度を制御するためのアクチュエータを制御するために使用される。
【0025】
これらの2つの制御デバイス12および13は、下記の入出力変数:現在の車両速度、現在の車両加速度、所与の反復点における所望される車両速度、所与の反復点における所望される車両加速度、現在のヨーレート、所与の反復点における所望されるヨーレート、現在の車両向首方向誤差、現在の車両横方向誤差を使用する、調節器を実装する。
【0026】
制御デバイス12および13の出力は、次いで、車両に装備される、車両の運転支援システム、特にESPシステムを管理するためのモジュール15において使用される。これらのシステムは、それゆえに、センサからの情報を使用するだけでフィードバック制御され、そのことは、単に反応的なタイプの支援を確実にする。現在、近付く道路部分に対する車両運転限界を指示することができるシステムは存しない。換言すれば、これらのシステムは、盲目であり、非常制動、または、曲がり目における超過速度などの、車両運転限界が違反される状況を引き起こしそうである、車両の将来状態を先読みすることができない。
【0027】
したがって、車両の動的挙動を予測するためのモデル16に、一方では、車両の動的挙動に関係する情報、および他方では、道路のレイアウトに関係する情報を供給することが施され、そのことによって、モデル16は、この情報を使用して、車両の将来状態を予測することができる。
【0028】
この予測モデル16は、それゆえに、モデル出力として、電子ホライゾンまでの、車両の将来状態に対応する車両位置のセットを予測することを可能にするために、車両横方向速度と、車両縦方向速度と、車両ヨーレートと、ステアリング角度とを備える車両状態信号に、ならびに、道路のレイアウトに関係する情報、およびより詳しくは、軌道の曲率に敏感である。電子ホライゾンは、車両が、近い将来において内へと移動しそうである、すなわち、実のところは、車載検出デバイスにより許される最大視界までの、道路環境に関係する情報のセットから形成される。
【0029】
これらの将来位置の各々は、車両ステアリング、アクセル、および制動コマンドと関連付けられ、そのことは、これらの将来位置のうちの1つが車両運転限界の外側にあるかどうかを判定することを可能にする。
【0030】
車両予測モデルは、下記のように決定される。
Y
v=C
vX
v
ここで、u
vは、ステアリングホイール角度コマンドであり、X
vは、下記のように定義される状態ベクトルである。
X
v=[y
v v
y ψ
v ω
v]
ここで、y
vは、車両横方向位置であり、v
yは、車両横方向速度であり、ψ
vは、車両ヨー角度であり、ω
vは、車両ヨーレートである。
【0031】
行列A、B、およびCが、下記で説明される。
C
v=[0 0 0 1]
ここで、C
fおよびC
rは、それぞれ、フロントおよびリアホイールにおけるコーナリング剛性に対応し、v
xは、車両の速度であり、mは、車両の質量であり、I
zは、垂直軸Zの周りでの慣性のモーメントであり、aおよびbは、それぞれ、フロントおよびリアホイールまでの車両の重心からの距離である。
【0032】
この、車両に特化した動的モデルは、安定限界を含めるために、PACEJKAにより提案されたモデル、または類するものを基にして開発される、タイヤ挙動の記述モデルに接続され得る。
【0033】
モデル16の出力は、車両の将来位置が算出される、車両の将来状態を決定するためのモジュール17に接続される。より具体的には、このモジュール17は、車両の現在の速度、車両の位置および向き、ホイールベース、ならびに、ステアリングホイールの角度を使用して、第1の反復を算出する。次に、将来状態に対して、予測モデル16が、車両の予測調節器18の閉ループ応答を考慮に入れて未来方向に遂行され、その予測調節器18は、車両の縦方向および横方向移動を制御するためのデバイス12および13において実装される調節器と同じ応答を提供する。したがって、車両の将来位置は、前記位置に対して、車両の縦方向および横方向移動を制御するためのデバイスにより後刻適用されることになる制御戦略と同じ制御戦略を使用して推定される。
【0034】
したがって、入力値は、現在の反復の始まりにおいて収集される、調節器18により提供される、予測される制御コマンドであり、状態値は、先の反復におけるシステムの状態を特徴付ける、更新された状態ベクトルXvの成分である。
【0035】
車両の将来状態を決定するためのモジュール17の出力は、したがって、第1に車両の予測調節器18に提供され、その予測調節器18は、上記で指摘されたように、車両の縦方向および横方向移動を制御するためのデバイス12および13と同等である。主な違いは、予測調節器の出力は、さらには、電子ホライゾン全体に及ぶ車両の将来状態が予測により扱われることを可能とするように、予測モデル16に供給するために使用されるということである。
【0036】
車両の将来状態を決定するためのモジュール17の出力は、さらには、車両運転限界値の違反を決定するためのモジュール19に送達される。このモジュール19は、車両のアクチュエータ、または、車両それ自体の動力学のいずれかからの物理的限界のすべてを含む。そのモジュール19は、最大ステアリングホイール角度、最大ステアリングホイール角速度、最大制動能力、および最大加速度能力を考慮に入れる。そのモジュール19は、これらの最大値について車両の将来状態のすべてを監視し、これらの将来状態のうちの1つが車両の限界を超えるときにインジケータフラグを立ち上げるように設計される。
【0037】
車両運転限界の違反を決定するためのモジュール19は、車両の運転支援システムを管理するためのモジュール15に接続される。そのモジュール15は、したがって、制御デバイス12および13の現在の出力と、違反インジケータによる予測調節器の出力とを受け取る。そのモジュール15は、車両運転限界の違反のインジケータが立ち上げられた将来状態にしたがって、先行して反応することにより、車両の動的挙動を修正することを可能にする。
【0038】
下記の例が、先程説明された原理を例解する。
図2は、XおよびY座標上で、顕著なカーブCが取り上げられる、具体的な軌道の例を例解する。軌道全部分が、
図1を参照して上記で説明されたような、車両の移動を制御するためのデバイス1を装備される車両により追従される。
図3Aおよび3Bは、制御可能範囲の外側である、すなわち、車両の運転限界値に達するかあるいはその運転限界値を超える、アクチュエータ制御信号、または、車両の将来状態を、車両の予測モデルが検出するときの、まさにその瞬間を、より精確に示す。
図3Aは、
図2の顕著なカーブCにおける軌道部分を示し、対するに、
図3Bは、顕著なカーブC内への入口の詳細図である。
図3Aは、車両により追従されることになる軌道T、車載センサにより決定されるような車両の実際の状態st_real、および、予測モデル16により提供される車両の将来または予測される状態st_predictedを示す。車両は、それゆえに、車両の実際の状態st_realのセットにより規定される軌道に追従することになるが、予測モデルは、ラインst_predictedの終了により表される、制御可能範囲の外側である車両の将来状態を、先行して、例えば800ms前に検出することができる。
【0039】
図4は、
図2のコースの全体を通して、追従されることになる軌道についての、車両のメートル単位での横方向誤差を示す。曲線ε_realは、追従されることになる軌道についての、車両の実際の状態の横方向誤差を表し、曲線ε_predictedは、追従されることになる軌道についての、800ms先行した車両の予測される状態の横方向誤差を表す。12番目の秒のあたりで、1メートルより多い横方向誤差が現れ、そのことは、車両が制御可能範囲から逸脱するということを意味する。
【0040】
図5は、時間の関数としての、車両の実際の状態から結果的に生じるステアリングホイールステアリング角度α_realの、および、予測される角度α_predictedからの挙動を、それらばかりでなく、約65°にセットされる、電動パワーステアリングシステムにより提供されるステアリングホイールステアリング角度の最大値α_maxを示す。この例において、予測のおかげで、車両は、最大制御可能値に達するステアリングホイールステアリング角度状態を、それらの状態が発生する前に検出し、そのことにしたがって判断を行うことができる。
図5は、車両の実際の状態に後刻対応することになる、車両の予測される状態の、時間における先行を例解する。したがって、予測モデルは、ステアリング角度が最大値に達する、潜在的に危険な状況に対応する、車両の将来状態を先行して決定することを可能にする。
【0041】
図6は、車両運転限界の違反を決定するためのモジュールの対応する出力を例解する。したがって、違反インジケータld_predictedの立ち上がりは、車両運転限界の違反を決定するためのモジュールが、ステアリングホイールステアリング角度についての車両の将来状態が、最大の可能とされる限界値を破るということを検出するときを示す。そのような警告は、車両の制御可能範囲の外側の、その車両の1つまたは複数の予測される状態変数に対して発行され得る。ここにおいて提示される例において、インジケータld_predictedの立ち上がりは、作用する運転支援システムを管理するためのモジュール15に、実際の状態が発生する約0.8秒前に、ステアリング角度における将来変化を通知することを可能にする。車両の運転支援システムを管理するためのモジュール15は、次いで、ステアリング角度が最大の可能とし得る限界値を破ることを予防することの目標を伴って、先読み補正作用を制御することにより、先行して、作用し、この状況を予防することができる。そのような先読み補正作用は、例えば、わずかな制動および/またはステアリング作用であり得る。したがって、本発明は、車両の安定限界が超えられ得る、その車両の将来状態を先読みし、適切な安全戦略を先行して取り入れることにより、車両の安全を増大することを可能にする。