(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】遮蔽性を有する歯科用セラミックス着色液
(51)【国際特許分類】
A61K 6/896 20200101AFI20240830BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20240830BHJP
A61K 6/802 20200101ALI20240830BHJP
A61K 6/818 20200101ALI20240830BHJP
【FI】
A61K6/896
A61K6/831
A61K6/802
A61K6/818
(21)【出願番号】P 2022563835
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2021042508
(87)【国際公開番号】W WO2022107867
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020192848
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020192849
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】坂本 紘之
(72)【発明者】
【氏名】樫木 信介
(72)【発明者】
【氏名】松浦 篤
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-269402(JP,A)
【文献】米国特許第3400097(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0105818(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109608233(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ケイ素化合物を含む、歯科用セラミックス着色液。
【請求項2】
前記有機ケイ素化合物が親水性である、請求項1に記載の着色液。
【請求項3】
前記有機ケイ素化合物がシリコーン化合物である、請求項1又は2に記載の着色液。
【請求項4】
前記シリコーン化合物が、官能基変性シリコーン化合物である、請求項3に記載の着色液。
【請求項5】
前記シリコーン化合物が、ポリエーテル変性シリコーン化合物、及び/又はポリオール変性シリコーン化合物である、請求項3又は4に記載の着色液。
【請求項6】
前記ポリエーテル変性シリコーン化合物、又はポリオール変性シリコーン化合物が、一般式(1)で表される化合物である、請求項5に記載の着色液。
【化1】
(式中、各R
1は、同一又は異なって、置換基を有してもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を示す。mは1以上の整数である。各R
2は同一又は異なって、ポリエーテル基又はポリオール基を示す。)
【請求項7】
前記シリコーン化合物が、すべてのR
1がメチル基であるジメチルポリシロキサン基を主鎖に有する化合物である、請求項6に記載の着色液。
【請求項8】
前記シリコーン化合物が、常温で液体である、請求項3~7のいずれか一項に記載の着色液。
【請求項9】
前記シリコーン化合物の含有率が、0.1~60質量%である、請求項3~8のいずれか一項に記載の着色液。
【請求項10】
前記有機ケイ素化合物がアルキルシラン化合物である、請求項1又は2に記載の着色液。
【請求項11】
前記アルキルシラン化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である、請求項10に記載の着色液。
【化2】
(式中、R
3は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基を示し、R
4は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はハロゲン原子を示す。nは0~3の整数である。Xは、-R
5-Y
1、-Y
1、-R
5-B
1-A
1、-R
5-A
1、又は-A
1を示す。R
5は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキレン基、又はシクロアルキレン基であり、前記アルキレン基又は前記シクロアルキレン基は、-CH
2-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)、-S-、-NH-、-NR
6-、-C(O)-O-、又は-O-基を含んでもよい。R
6は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を示す。Y
1はヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、メルカプト基、エポキシ基、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよいアミン塩を示す。B
1は-C(O)-O-、-C(O)-S-、-C(O)-NH-、-NH-C(O)-NH-、-NH-C(O)-S-、又は-NH-C(O)-O-を示す。A
1は、H
2C=CH-、H
2C=C(CH
3)-、又はH
2C=CH-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)を示す。)
【請求項12】
前記一般式(2)で表される化合物において、Xが-R
5-Y
1、又は-Y
1を示し、
Y
1がヒドロキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、エポキシ基、又は置換基を有してもよいアミン塩である、請求項11に記載の着色液。
【請求項13】
Xが-R
5-Y
1を示し、R
5が置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキレン基であり、前記アルキレン基は-CH
2-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)、-S-、-NH-、-NR
6-、-C(O)-O-、又は-O-基を含んでもよい、請求項12に記載の着色液。
【請求項14】
前記アルキルシラン化合物が、トリメチルシラノール、2-(3,4-エポキシシキロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び3-アミノプロピルトリエトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、請求項10~13のいずれか一項に記載の着色液。
【請求項15】
前記アルキルシラン化合物の含有率が、0.1~60質量%である、請求項10~14のいずれか一項に記載の着色液。
【請求項16】
さらに、着色成分を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の着色液。
【請求項17】
前記着色成分が、イオン又は錯体である、請求項16に記載の着色液。
【請求項18】
前記着色成分がAl、K、Zr、Cr、Fe、Na、V、Y、Gd、La、Yb、Tm、Ni、Mn、Co、Nd、Pr、Cu、Tb、及びEr成分からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項16又は17に記載の着色液。
【請求項19】
さらに、水、又は/及び有機溶媒を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の着色液。
【請求項20】
前記有機溶媒が、アルコール類、グリコール類、トリオール類、及びケトン類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項19に記載の着色液。
【請求項21】
前記歯科用セラミックスがジルコニアを主成分として含有する、請求項1~20のいずれか一項に記載の着色液。
【請求項22】
有機ケイ素化合物が表面に担持されて
おり、前記有機ケイ素化合物がシリコーン化合物である、歯科用セラミックス。
【請求項23】
前記有機ケイ素化合物が親水性である、請求項22に記載の歯科用セラミックス。
【請求項24】
前記シリコーン化合物が、ポリエーテル変性シリコーン化合物、及び/又はポリオール変性シリコーン化合物である、請求項
22に記載の歯科用セラミックス。
【請求項25】
有機ケイ素化合物が表面に担持され、前記有機ケイ素化合物がアルキルシラン化合物であ
り、さらに、着色成分が担持されている、歯科用セラミックス。
【請求項26】
前記アルキルシラン化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である、請求項
25に記載の歯科用セラミックス。
【化3】
(式中、R
3は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基を示し、R
4は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はハロゲン原子を示す。nは0~3の整数である。Xは、-R
5-Y
1、-Y
1、-R
5-B
1-A
1、-R
5-A
1、又は-A
1を示す。R
5は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキレン基、又はシクロアルキレン基であり、前記アルキレン基又は前記シクロアルキレン基は、-CH
2-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)、-S-、-NH-、-NR
6-、-C(O)-O-、又は-O-基を含んでもよい。R
6は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を示す。Y
1はヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、メルカプト基、エポキシ基、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよいアミン塩を示す。B
1は-C(O)-O-、-C(O)-S-、-C(O)-NH-、-NH-C(O)-NH-、-NH-C(O)-S-、又は-NH-C(O)-O-を示す。A
1は、H
2C=CH-、H
2C=C(CH
3)-、又はH
2C=CH-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)を示す。)
【請求項27】
前記一般式(2)で表される化合物において、Xが-R
5-Y
1、又は-Y
1を示し、
Y
1がヒドロキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、エポキシ基、又は置換基を有してもよいアミン塩である、請求項
26に記載の歯科用セラミックス。
【請求項28】
さらに、着色成分が担持されている、請求項22~
24のいずれか一項に記載の歯科用セラミックス。
【請求項29】
前記着色成分が、イオン又は錯体である、請求項
25又は28に記載の歯科用セラミックス。
【請求項30】
前記着色成分がAl、K、Zr、Cr、Fe、Na、V、Y、Gd、La、Yb、Tm、Ni、Mn、Co、Nd、Pr、Cu、Tb、及びEr成分からなる群より選択された少なくとも1つを含む、請求項
25~29のいずれか一項に記載の歯科用セラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用セラミックスの着色液に関する。さらに詳しくは、例えば、歯科用CAD/CAMシステムでの切削加工された、インレー、アンレー、ベニア、クラウン、ブリッジ、支台歯、歯科用ポスト、義歯、義歯床、インプラント部材(フィクスチャーやアバットメント)等の歯科補綴物の作製に好適に用いられる歯科用セラミックス着色液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科用製品(例えば、代表的な被覆冠、歯冠、クラウン、差し歯等の歯科補綴物や歯列矯正用製品、歯科インプラント用製品)としては、金属がよく用いられていた。しかしながら、金属は天然歯と色が明確に異なり、審美性に欠けるという欠点を有すると共に、金属の溶出によるアレルギーを発症することもあった。そこで、金属の使用に伴う問題を解決するため、金属の代替材料として、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)等のセラミックス材料が歯科用製品に用いられてきている。特に、ジルコニアは、強度において優れ、審美性も比較的優れるため、特に近年の低価格化も相まって需要が高まっている。
【0003】
近年、歯科補綴物の最終形状及び大型のインプラント補綴物を、コンピューターによって設計し、ミリング装置により切削加工して作製するCAD/CAMシステムが普及している。該システムに用いられる被切削材料であるミルブランクの素材としては、審美性を重視するがゆえ、ジルコニアが一般に用いられており、特に最近では天然の歯牙色を再現するために透過率を高め、審美要求に応えるジルコニアが普及しつつある。また、再現性の難しい色調においては、歯科補綴物形状としたセラミックス表面に、さらに歯科用陶材を被覆して着色することで高い審美要求を満たしていた。
【0004】
しかしながら、近年、ジルコニアの透過率が向上したことによって、そのジルコニアの高い全光線透過率に起因して、下地となる残存歯牙の変色で見られる色、又はインプラントアバットメント、メタルコア等の金属製の歯科補綴物等の色等、ジルコニアが有する色以外に残存歯牙又は歯科補綴物等の下地が有する色(以下、「下地色」とも称する。)の影響を多大に受けることが増えてきた。そのため、ジルコニアで製造された歯科補綴物をそれらの下地の上に被覆すると再現すべき歯科補綴物の色調が暗くなり、審美性が損なわれることから、下地色の影響を遮蔽可能な歯科用材料が求められている。
【0005】
このような課題を解決する方法の一つに、遮蔽性を有する歯科用セラミックス着色液が一般的に用いられ、以下が提案されている。
【0006】
特許文献1には、リン成分を含有させてジルコニアを白濁させることが開示されている。
【0007】
特許文献2には、遮蔽剤として硝酸塩を用いることが開示されている。
【0008】
特許文献3には、水溶性アルミニウム化合物及び/又は水溶性ランタン化合物を含むオペーク性付与液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2017/105818号明細書
【文献】国際公開第2020/155446号
【文献】特開2019-181179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されるリン酸、及びリン酸塩等は、焼結後のジルコニア表面が粗になると推定され、ジルコニア焼結体の強度が低下することがわかった。また、特許文献1は、ジルコニアを、遮蔽性を有する白色にすることを目的としており、天然の歯牙色を再現するような着色の付与は示唆されていない。また、特許文献2には、硝酸塩は、セラミックスを焼成させる温度への加熱により、分解して、有毒ガスの発生や爆発を引き起こし、安全性に問題があった。さらに、本発明者らが検討した結果、特許文献3では、金属製支台歯に対する遮蔽性が不十分であり、目視で支台歯の色が透けてしまうことがわかった。また、特許文献3は、ジルコニアへの遮蔽性付与を目的としており、天然の歯牙色を再現するような着色の付与は示唆されていない。
【0011】
そこで、本発明は、焼結後に歯科用セラミックスの機械的強度の低下を抑制でき、保存安定性が良好であり、遮蔽性を付与できる、歯科用セラミックス着色液を提供することを目的とする。また、本発明は、着色成分を含有させた場合には、歯科用セラミックスに遮蔽性を付与しつつ、所望の色調を付与できる歯科用セラミックス着色液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、有機ケイ素化合物を含有させることで、高い遮蔽性を付与できる着色液が得られることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]有機ケイ素化合物を含む、歯科用セラミックス着色液。
[2]前記有機ケイ素化合物が親水性である、[1]に記載の着色液。
[3]前記有機ケイ素化合物がシリコーン化合物である、[1]又は[2]に記載の着色液。
[4]前記シリコーン化合物が、官能基変性シリコーン化合物である、[3]に記載の着色液。
[5]前記シリコーン化合物が、ポリエーテル変性シリコーン化合物、及び/又はポリオール変性シリコーン化合物である、[3]又は[4]に記載の着色液。
[6]前記ポリエーテル変性シリコーン化合物、又はポリオール変性シリコーン化合物が、一般式(1)で表される化合物である、[5]に記載の着色液。
【化1】
(式中、各R
1は、同一又は異なって、置換基を有してもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を示す。mは1以上の整数である。各R
2は同一又は異なって、ポリエーテル基又はポリオール基を示す。)
[7]前記シリコーン化合物が、すべてのR
1がメチル基であるジメチルポリシロキサン基を主鎖に有する化合物である、[6]に記載の着色液。
[8]前記シリコーン化合物が、常温で液体である、[3]~[7]のいずれかに記載の着色液。
[9]前記シリコーン化合物の含有率が、0.1~60質量%である、[3]~[8]のいずれかに記載の着色液。
[10]前記有機ケイ素化合物がアルキルシラン化合物である、[1]又は[2]に記載の着色液。
[11]前記アルキルシラン化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である、[10]に記載の着色液。
【化2】
(式中、R
3は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基を示し、R
4は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はハロゲン原子を示す。nは0~3の整数である。Xは、-R
5-Y
1、-Y
1、-R
5-B
1-A
1、-R
5-A
1、又は-A
1を示す。R
5は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキレン基、又はシクロアルキレン基であり、前記アルキレン基又は前記シクロアルキレン基は、-CH
2-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)、-S-、-NH-、-NR
6-、-C(O)-O-、又は-O-基を含んでもよい。R
6は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を示す。Y
1はヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、メルカプト基、エポキシ基、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよいアミン塩を示す。B
1は-C(O)-O-、-C(O)-S-、-C(O)-NH-、-NH-C(O)-NH-、-NH-C(O)-S-、又は-NH-C(O)-O-を示す。A
1は、H
2C=CH-、H
2C=C(CH
3)-、又はH
2C=CH-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)を示す。)
[12]前記一般式(2)で表される化合物において、Xが-R
5-Y
1、又は-Y
1を示し、Y
1がヒドロキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、エポキシ基、又は置換基を有してもよいアミン塩である、[11]に記載の着色液。
[13]Xが-R
5-Y
1を示し、R
5が置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキレン基であり、前記アルキレン基は-CH
2-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)、-S-、-NH-、-NR
6-、-C(O)-O-、又は-O-基を含んでもよい、[12]に記載の着色液。
[14]前記アルキルシラン化合物が、トリメチルシラノール、2-(3,4-エポキシシキロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び3-アミノプロピルトリエトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、[10]~[13]のいずれかに記載の着色液。
[15]前記アルキルシラン化合物の含有率が、0.1~60質量%である、[10]~[14]のいずれかに記載の着色液。
[16]さらに、着色成分を含む、[1]~[15]のいずれかに記載の着色液。
[17]前記着色成分が、イオン又は錯体である、[16]に記載の着色液。
[18]前記着色成分がAl、K、Zr、Cr、Fe、Na、V、Y、Gd、La、Yb、Tm、Ni、Mn、Co、Nd、Pr、Cu、Tb、及びEr成分からなる群より選択される少なくとも1つを含む、[16]又は[17]に記載の着色液。
[19]さらに、水、又は/及び有機溶媒を含む、[1]~[18]のいずれかに記載の着色液。
[20]前記有機溶媒が、アルコール類、グリコール類、トリオール類、及びケトン類からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[19]に記載の着色液。
[21]前記歯科用セラミックスがジルコニアを主成分として含有する、[1]~[20]のいずれかに記載の着色液。
[22]有機ケイ素化合物が表面に担持されている、歯科用セラミックス。
[23]前記有機ケイ素化合物が親水性である、[22]に記載の歯科用セラミックス。
[24]前記有機ケイ素化合物がシリコーン化合物である、[22]又は[23]に記載の歯科用セラミックス。
[25]前記シリコーン化合物が、ポリエーテル変性シリコーン化合物、及び/又はポリオール変性シリコーン化合物である、[24]に記載の歯科用セラミックス。
[26]前記有機ケイ素化合物がアルキルシラン化合物である、[22]又は[23]に記載の歯科用セラミックス。
[27]前記アルキルシラン化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である、[26]に記載の歯科用セラミックス。
【化3】
(式中、R
3は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基を示し、R
4は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はハロゲン原子を示す。nは0~3の整数である。Xは、-R
5-Y
1、-Y
1、-R
5-B
1-A
1、-R
5-A
1、又は-A
1を示す。R
5は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキレン基、又はシクロアルキレン基であり、前記アルキレン基又は前記シクロアルキレン基は、-CH
2-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)、-S-、-NH-、-NR
6-、-C(O)-O-、又は-O-基を含んでもよい。R
6は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を示す。Y
1はヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、メルカプト基、エポキシ基、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよいアミン塩を示す。B
1は-C(O)-O-、-C(O)-S-、-C(O)-NH-、-NH-C(O)-NH-、-NH-C(O)-S-、又は-NH-C(O)-O-を示す。A
1は、H
2C=CH-、H
2C=C(CH
3)-、又はH
2C=CH-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)を示す。)
[28]前記一般式(2)で表される化合物において、Xが-R
5-Y
1、又は-Y
1を示し、Y
1がヒドロキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、エポキシ基、又は置換基を有してもよいアミン塩である、[27]に記載の歯科用セラミックス。
[29]さらに、着色成分が担持されている、[22]~[28]のいずれかに記載の歯科用セラミックス。
[30]前記着色成分が、イオン又は錯体である、[29]に記載の歯科用セラミックス。
[31]前記着色成分がAl、K、Zr、Cr、Fe、Na、V、Y、Gd、La、Yb、Tm、Ni、Mn、Co、Nd、Pr、Cu、Tb、及びEr成分からなる群より選択された少なくとも1つを含む、[29]又は[30]に記載の歯科用セラミックス。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歯科用セラミックス着色液は、焼結後に歯科用セラミックスの機械的強度の低下を抑制でき、保存安定性が良好であり、遮蔽性を付与できる。また、本発明の歯科用セラミックス着色液は、着色成分を含有する場合には、歯科用セラミックスに遮蔽性を付与しつつ、所望の色調を付与できる。さらに、本発明の歯科用セラミックス着色液は、セラミックスフレームに良好に接合するためにセラミックスフレームに適合した熱膨張係数が必要になり、かつ口腔内での耐久性が必要になる等の歯科用陶材に要求される特性を備える必要がない点で、歯科用陶材と異なり、歯科用陶材に比べて使用しやすい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、歯科用セラミックスを着色するための着色液であって、有機ケイ素化合物を含むことを特徴とする。
【0016】
<有機ケイ素化合物>
まず、歯科用セラミックスに遮蔽性を付与する遮蔽性成分として、本発明の着色液に含まれる有機ケイ素化合物について説明する。本発明の有機ケイ素化合物は、下地となる残存歯牙の変色、或いはインプラントアバットメント、メタルコア等の金属製の歯科補綴物等の下地色の影響を遮蔽することで、歯科用セラミックスの色調に対して白色味を与えて着色することができる。また、本発明で用いる有機ケイ素化合物は保存安定性が良好である。さらに、有機ケイ素化合物を用いることで、歯科用セラミックスを焼結した場合に、焼結後に得られる焼結体の機械的強度が低下することを抑制することができる。本発明において、白色以外への着色のみならず、下地色の影響を遮蔽することで単に白色味を与える場合も、「着色」とし、「着色」のために用いる液状の剤を「着色液」と記載する。一方、後述する「着色成分」は、歯科用セラミックスを白色以外に着色する(例えば、歯科用セラミックスに所定の彩度を付与する)ための任意成分を意味する。
【0017】
有機ケイ素化合物を含有する歯科用セラミックス着色液を適用することにより、歯科用セラミックスの焼成後の遮蔽性を向上できる理由は定かでないが、本発明者らは以下のように推定している。すなわち、歯科用セラミックスに塗布された有機ケイ素化合物の少なくとも一部が、焼成中に二酸化ケイ素(SiO2)となり、そのうちの一部がジルコニア(ZrO2)と化合して、部分的にジルコン(ZrSiO4)が生成し、焼結されたセラミックスとは異なる結晶相が部分的に混在することで、入射光の散乱がおき、不透明になると推定している。
【0018】
本発明の着色液では、歯科用セラミックスに対して歯科用途で必要とされる遮蔽性を付与できる。これにより、透明性を低下させて対象物の表面を不透明化し、下地色の影響を遮蔽することができる。着色、及び焼結後の歯科用セラミックスのL*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)による(L*,a*,b*)について、白背景にて色度を測定した場合の明度(Lw*)と、黒背景にて色度を測定した場合の明度(Lb*)を測定し、両者の差(ΔL*=(Lw*)-(Lb*))である透明性(ΔL*)としては、歯科用途で必要となる口腔内で再現すべき焼結後の歯科用セラミックスの明度を維持する点から、11以下が好ましく、10以下がより好ましく、9以下がさらに好ましい。透明性(ΔL*)は、例えば、後記する実施例に記載の方法で評価できる。
【0019】
また、本発明の着色液では、後述の着色成分を含む場合には、歯科用セラミックスに遮蔽性を付与しつつ、歯科用セラミックスに対して歯科用途で必要とされる色調を付与できる。着色、及び焼結後の歯科用セラミックスのL*a*b*表色系による(L*,a*,b*)について、a*としては、-5~5であることが好ましく、-4~4であることがより好ましく、-3~3であることがさらに好ましい。b*としては、0.5~25であることが好ましく、1~22であることがより好ましく、2~20であることがさらに好ましい。a*、及びb*より算出した彩度(C*=((a*)2+(b*)2)1/2)としては、0.5~25であることが好ましく、1~22であることがより好ましく、2~20であることがさらに好ましい。L*としては、70~97であることが好ましく、75~96であることがより好ましく、80~95であることがさらに好ましい。a*、b*、及びL*は、例えば、実施例に記載の方法で測定できる。
【0020】
本発明の有機ケイ素化合物は、歯科用セラミックスへの浸透性及び水等への溶解性の観点から、親水性の化合物であることが好ましい。本発明における親水性とは、25℃におけるpH7の水に対する溶解度が0.5質量%以上であることを意味し、同溶解度が5質量%以上のものが好ましい。有機ケイ素化合物としては、シリコーン化合物、アルキルシラン化合物等が挙げられる。有機ケイ素化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
着色液に含まれる有機ケイ素化合物の含有率としては、着色液全量に対して、0.1~60質量%であることが好ましく、0.3~58質量%であることがより好ましく、0.5~55質量%であることがさらに好ましい。有機ケイ素化合物の含有率が0.1質量%以上の場合には、残存歯牙の変色等の下地色に対する遮蔽性が得られ、60質量%以下である場合には、歯科用セラミックスへの浸透性に優れる。
【0022】
また、ある1つの実施形態としては、本発明の着色液に用いられる有機ケイ素化合物は、高い保存安定性及び歯科用セラミックスの焼成後の高い遮蔽性の観点から、シリコーン化合物が好ましい。そこで次に、シリコーン化合物について、説明する。本発明において、シリコーン化合物は、シロキサン結合を主骨格として備える高分子化合物が好ましい。
【0023】
<シリコーン化合物>
本発明のシリコーン化合物は、ケイ素と酸素からなるシロキサン結合を骨格とし、そのケイ素にアルキル基、又はアリール基等を主体とする有機基が結合したポリマーである。本発明では、前記の通り、シリコーン化合物は親水性のシリコーン化合物であることが好ましい。そのため、シリコーン化合物としては、歯科用セラミックスへの浸透性及び水等への溶解性の観点から、親水性を持たせるための有機官能基を持った官能基変性シリコーン化合物が好ましく、保存安定性により優れる点から、ポリエーテル変性シリコーン化合物、及び/又はポリオール変性シリコーン化合物がより好ましく、一般式(1)で表される化合物であるポリエーテル変性シリコーン化合物及び/又はポリオール変性シリコーン化合物がさらに好ましい。有機官能基変性シリコーン化合物が有する官能基は、歯科用セラミックスへの浸透性に優れ、水等への溶解性が高いものであれば特に限定されず、選択できる。
【化4】
(式中、各R
1は、同一又は異なって、置換基を有してもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を示す。mは1以上の整数である。各R
2は同一又は異なって、ポリエーテル基又はポリオール基を示す。)
【0024】
R1の置換基を有してもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、特に限定されないが、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、歯科用セラミックスへの浸透性及び水等への溶解性の観点から、炭素数1~3のアルキル基がさらに好ましい。R1及びR2のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基が挙げられる。R1の置換基を有してもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。置換基としては、例えば、炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルキル基、炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、水酸基等が挙げられる。置換基の数は、歯科用セラミックスへの浸透性及び水等への溶解性をシリコーン化合物が有する限り特に限定されず、1~6個であってもよく、1~4個であってもよく、0個であってもよい。
【0025】
R1としては、歯科用セラミックスへの浸透性及び水等への溶解性の観点から、置換基を有してもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましい。
【0026】
R2のポリエーテル基としては、ポリアルキレングリコール構造を含む基であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体等の基が挙げられる。ポリオール基としては、2個以上のヒドロキシ基を有する基(例えば、脂肪族基等)であれば特に限定されず、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等の基が挙げられる。
【0027】
該シリコーン化合物は、シロキサン結合を有する主鎖(以下、シロキサン主鎖という。)がすべてのR1がメチル基であるジメチルポリシロキサン基であることが好ましい。シロキサン主鎖がジメチルポリシロキサン基であることで、螺旋状の骨格構造を持ち、歯科用セラミックスへの浸透性が向上すると推定される。
【0028】
該シリコーン化合物は、歯科用セラミックスへの浸透性及び水等に対する溶解性の観点から、常温(20~35℃)で液体のものが好ましい。常温でゴム状、又は固体である場合、分子量の増加や親水性の低下により、歯科用セラミックスへの浸透性が不十分となり、遮蔽性が十分に得られないおそれがある。
また、該シリコーン化合物は、歯科用セラミックスへの浸透性及び水等に対する溶解性の観点から、シロキサン主鎖におけるシロキサン結合の数が2000以下(一般式(1)で表される化合物の場合には、mが1998以下)であることが好ましい。シロキサン結合の数が2000を超えると、分子量の増加や親水性の低下により、歯科用セラミックスへの浸透性が不十分となり、遮蔽性が十分に得られないおそれがある。
【0029】
該シリコーン化合物は、歯科用セラミックスへの浸透性及び水等への溶解性の観点から、溶解性パラメータ(Solubility Parameter、以下「SP値」)として、8.2(cal/cm3)1/2以上が好ましく、8.4(cal/cm3)1/2以上がより好ましく、8.6(cal/cm3)1/2以上がさらに好ましい。SP値が8.2(cal/cm3)1/2未満の場合には、歯科用セラミックスの浸透性が不十分となり、遮蔽性が十分に得られないおそれや、水溶媒への溶解性能が低く、沈降、分離等を引き起こすおそれがある。
【0030】
前記SP値は、互いの分子間の引き合う力、すなわち凝集エネルギー密度CED(Cohesive Energy Density)の平方根で表される。なお、CEDとは、1mLのものを蒸発させるのに要するエネルギー量である。
【0031】
前記SP値としては、Fedors法により下記式(A)を用いて計算することができる。
SP値=(CED値)1/2=(E/V)1/2 ・・・・・式(A)
前記式(A)において、Eは凝集エネルギー(cal/mol)であり、Vはモル分子容(cm3/mol)である。SP値の計算方法は諸説あるが、本発明においては一般的に用いられているFedorsの方法を用いた。
【0032】
前記計算方法、凝集エネルギーE、及びモル分子容Vの諸データとしては、塗料の研究 152号 2010年10月発行 第41~46頁(「添加剤の溶解性パラメータに関する考察」、上田伸一、山田共男、杉島正見著)に記載の方法、及びデータ(第42頁の表2のEcoh及びモル分子容、表3のFedors値等)、及びR.F.Fedors,Polymer Engineering & Science.Feb,Vol.14,No.2,147-154(1974)に記載の方法、及びデータを参照することができる。
【0033】
シリコーン化合物としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、商品名「KP-120」、「KP-106」、「KP-110」、「KP-101」、「KP-125」、「KP-112」(以上、信越化学工業株式会社製)等のポリエーテル変性シリコーン;商品名「KP-104」、「KP-105」(以上、信越化学工業株式会社製)等のポリオール変性シリコーン等が挙げられる。
【0034】
着色液に含まれるシリコーン化合物の含有率としては、着色液全量に対して、0.1~60質量%であることが好ましく、0.3~58質量%であることがより好ましく、0.5~55質量%であることがさらに好ましい。シリコーン化合物の含有率が0.1質量%以上の場合には、残存歯牙の変色等の下地色に対する遮蔽性が得られ、60質量%以下である場合には、歯科用セラミックスへの浸透性に優れる。
【0035】
また、他のある1つの実施形態としては、本発明の着色液に用いられる有機ケイ素化合物は、高い保存安定性及び歯科用セラミックスの焼成後の高い遮蔽性の観点から、アルキルシラン化合物が好ましい。そこで次に、アルキルシラン化合物について、説明する。
【0036】
<アルキルシラン化合物>
まず、本発明の歯科用セラミックス着色液に含まれるアルキルシラン化合物について説明する。本発明のアルキルシラン化合物は、下地となる残存歯牙の変色、或いはインプラントアバットメント、メタルコア等の金属製の歯科補綴物等の下地色の影響を遮蔽することで、歯科用セラミックスの色調に対して白色味を与えて着色することができる。また、本発明で用いるアルキルシラン化合物は保存安定性が良好である。さらに、アルキルシラン化合物を用いることで、歯科用セラミックスを焼結した場合に、焼結後に得られる焼結体の機械的強度が低下することを抑制することができる。なお、本発明において、アルキルシラン化合物とは、アルキル基を有するシラン化合物であり、前記アルキル基は置換基を有していてもよい。
【0037】
本発明のアルキルシラン化合物は、歯科用セラミックスへの浸透性、水等への溶解性の観点から、親水性であることが好ましい。
【0038】
本発明のアルキルシラン化合物の分子構造は、保存安定性及び遮蔽性により優れ、焼結体の機械的強度の低下をより抑制できる点から、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【化5】
(式中、R
3は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基を示し、R
4は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はハロゲン原子を示す。nは0~3の整数である。Xは、-R
5-Y
1、-Y
1、-R
5-B
1-A
1、-R
5-A
1、又は-A
1を示す。R
5は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキレン基、又はシクロアルキレン基であり、前記アルキレン基又は前記シクロアルキレン基は、-CH
2-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)、-S-、-NH-、-NR
6-、-C(O)-O-、又は-O-基を含んでもよい。R
6は置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を示す。Y
1はヒドロキシ基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、メルカプト基、エポキシ基、ハロゲン原子、又は置換基を有してもよいアミン塩を示す。B
1は-C(O)-O-、-C(O)-S-、-C(O)-NH-、-NH-C(O)-NH-、-NH-C(O)-S-、又は-NH-C(O)-O-を示す。A
1は、H
2C=CH-(ビニル基)、H
2C=C(CH
3)-(1-メチルエテニル基)、又はH
2C=CH-C
6H
4-(C
6H
4はフェニレン基を示す)を示す。)
【0039】
R3及びR4の置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキル基としては、特に限定されないが、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、炭素数1~3のアルキル基がさらに好ましい。R3及びR4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R4の置換基を有してもよいアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、フェニル基が好ましい。R3及びR4のアルキル基、及びR4のアリール基の置換基としては、例えば、炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルキル基、炭素数1~6(好ましくは炭素数1~3)のアルコキシ基、フェニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、水酸基等が挙げられる。置換基の数は、歯科用セラミックスへの浸透性及び水等への溶解性をアルキルシラン化合物が有する限り特に限定されず、1~6個であってもよく、1~4個であってもよく、0個であってもよい。ある実施形態では、一般式(2)で表される化合物において、R3は、無置換の直鎖、又は分岐鎖のアルキル基を示し、R4は無置換の直鎖、又は分岐鎖のアルキル基、無置換のフェニル基、又はハロゲン原子を示す。
【0040】
R5の置換基を有してもよい直鎖、又は分岐鎖のアルキレン基としては、特に限定されないが、炭素数1~8のアルキレン基が好ましく、炭素数1~6のアルキレン基がより好ましく、炭素数1~4のアルキレン基がさらに好ましく、炭素数1~3のアルキレン基が特に好ましい。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-ヘキシレン基等が挙げられる。R5の直鎖、又は分岐鎖のシクロアルキレン基としては、特に限定されないが、炭素数3~10のシクロアルキレン基が好ましく、炭素数4~8のシクロアルキレン基がより好ましく、炭素数4~7のシクロアルキレン基がさらに好ましい。シクロアルキレン基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基(例えば、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基)等が挙げられる。R5のアルキレン基及びシクロアルキレン基の置換基の種類及び数は、R3及びR4のアルキル基の置換基と同様である。
【0041】
また、R5の前記アルキレン基又は前記シクロアルキレン基は、-CH2-C6H4-(C6H4はフェニレン基を示す)、-S-、-NH-、-NR6-、-C(O)-O-、-O-基を結合基として含んでもよい。言い換えると、前記アルキレン基又は前記シクロアルキレン基は、-CH2-C6H4-(C6H4はフェニレン基を示す)、-S-、-NH-、-NR6-、-C(O)-O-、-O-基で中断されていてもよい。R5は、具体的には、-C2H4-NH-C3H6-、-CH2-NH-C2H4-NH-C3H6-、-CH2-O-C3H6-等であってもよい。R6のアルキル基、アリール基は、R4と同様である。R6のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。R6のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基の置換基の種類及び数は、R3及びR4のアルキル基の置換基と同様である。
【0042】
B1は、-C(O)-O-、-C(O)-NH-、-NH-C(O)-NH-、又は-NH-C(O)-O-が好ましい。A1は、H2C=CH-、又はH2C=C(CH3)-が好ましい。Y1はヒドロキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、エポキシ基、又は置換基を有してもよいアミン塩が好ましい。
【0043】
これらのうち、Xが-R5-Y1を示す化合物、又は-Y1を示す化合物がより好ましく、歯科用セラミックスへの浸透性や水等への溶解性の観点からXが-R5-Y1、又は-Y1を示し、Y1がヒドロキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、エポキシ基、又は置換基を有してもよいアミン塩であることがさらに好ましい。ある好適な実施形態では、一般式(2)で表される化合物において、Xが-R5-Y1を示し、R5が直鎖、又は分岐鎖のアルキレン基であり、前記アルキレン基は-CH2-C6H4-(C6H4はフェニレン基を示す)、-S-、-NH-、-NR6-、-C(O)-O-、又は-O-基を含んでもよい、歯科用セラミックス着色液が挙げられる。Y1のアルコキシ基、アミノ基、及びアミン塩の置換基の種類及び数は、R3及びR4のアルキル基の置換基と同様である。
【0044】
具体的な化合物としては、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-[2-(2-アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルキルシラン化合物;3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシキロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルキルシラン化合物;N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩等のビニル基含有アルキルシラン化合物;トリメチルシラノール、トリメチルシリルメタノール、トリメチルシリルエタノール等のヒドロキシ基含有アルキルシラン化合物等が挙げられる。これらのうち、トリメチルシラノール、2-(3,4-エポキシシキロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び3-アミノプロピルトリエトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び3-アミノプロピルトリエトキシシランからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0045】
本発明の着色液に含まれるアルキルシラン化合物の含有率としては、着色液全量に対して、0.1~60質量%であることが好ましく、0.3~58質量%であることがより好ましく、0.5~55質量%であることがさらに好ましい。アルキルシラン化合物の含有率が0.1質量%以上である場合には、残存歯牙の変色等の下地色に対する遮蔽性が得られ、60質量%以下である場合には、保存安定性に優れる。
【0046】
ある他の実施形態としては、有機ケイ素化合物(例えば、シリコーン化合物、アルキルシラン化合物)と、着色成分とを含む、歯科用セラミックス着色液が挙げられる。本発明では、着色液に含有させる有機ケイ素化合物の保存安定性が良好であり、着色成分と反応しないため、着色成分を含有させることができると推定され、歯科用セラミックスに遮蔽性を付与しつつ、所望の色調を付与できる。なお、本発明における着色成分とは、セラミックス仮焼体、又は未焼成体に着色液を塗布した後に焼結した際に、セラミックス焼結体に着色を施すものである。
【0047】
着色成分としては、特に限定されないが、イオン、錯体等が挙げられ、特に金属イオンが好ましい。着色成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明に用いる着色成分のイオン及び錯体について説明する。イオン及び錯体は、1又は複数の着色性のカチオンを含む。「着色性」とは、人間の目に可視のスペクトル(例えば、波長380~790nmの範囲)で有意な吸収を有することを意味する。本発明における着色性のカチオンは、焼成後に発色する。本発明のイオン及び錯体は、着色性のカチオンを溶解させることができ、それによってセラミックス仮焼体、又は未焼成体に塗工され、かつ焼成後にセラミックス焼結体を着色できるものである。
【0049】
前記着色性のカチオンとしては、Al、K、Zr、Cr、Fe、Na、V、Y、Gd、La、Yb、Tm、Ni、Mn、Co、Nd、Pr、Cu、Tb、及びErからなる群より選択された少なくとも1つの成分(元素)のイオンが好ましく、Al、K、Cr、Fe、Na、V、Ni、Mn、Co、及びErからなる群より選択された少なくとも1つの成分のイオンがより好ましく、Al、K、Cr、Fe、Na、V、Ni、Mn、Co、及びErからなる群より選択された少なくとも2つの成分のイオンがさらに好ましい。イオン溶液は、該カチオンの1つだけを含有してもよく、2種以上のカチオンを組み合わせて含有してもよい。
【0050】
前記着色性のカチオンは、該カチオン及びアニオンを含む塩として後述の溶媒に添加されてもよい。該アニオンとしては、例えば、OAc-、NO3
-、NO2
-、CO3
2-、HCO3
-、ONC-、SCN-、SO4
2-、SO3
2-、グルタレート、ラクテート、グルコネート、プロピオネート、ブチラート、グルクロネート、ベンゾエート、フェノラート、ハロゲンアニオン(フッ化物、塩化物、臭化物)、アセテート等が挙げられる。Acはアセチル基を意味する。
【0051】
本発明のある好適な実施形態としては、歯科用セラミックスを黄色味の色調に着色させるために、着色成分が、V(バナジウム)成分を含む着色液が挙げられる。
【0052】
Vのイオン又は錯体は、Vのカチオン、及びアニオンを含む塩、又はV、及び配位子を含む錯体として、着色液に添加されてもよい。該アニオン又は配位子としては、例えば、OAc-、NO3
-、NO2
-、CO3
2-、HCO3
-、ONC-、SCN-、SO4
2-、SO3
2-、グルタレート、ラクテート、グルコネート、プロピオネート、ブチラート、グルクロネート、ベンゾエート、フェノラート、ハロゲンアニオン(フッ化物、塩化物、臭化物)、アセテート等が挙げられる。
【0053】
バナジウム化合物としては、保存安定性、取り扱いやすさの観点から、+IV、及び/又は+V価のバナジウム化合物が好ましく、オキシドバナジウム化合物がより好ましい。
【0054】
V成分の具体的な化合物の例としては、バナジウムアセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート、バナジルステアレート、バナジウムナフテネート、バナジウムベンゾイルアセトネート、バナジルオキサレート、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム、バナジウム(V)オキシトリイソプロポキシド、三塩化酸化バナジウム(V)、二塩化酸化バナジウム(IV)、塩化バナジウム(III)水和物(六水和物)、塩化バナジウム(III)無水物、二ケイ化バナジウム、三酸化二バナジウム(III)、四酸化二バナジウム(IV)、五酸化二バナジウム(V)、十三酸化四バナジウム二鉄、硫酸バナジル(IV)水和物、臭化バナジウム(III)、シュウ酸バナジル(シュウ酸オキソバナジウム(IV))、酢酸バナジル(IV)(VO[OC(O)CH3]2)、硝酸バナジル(V)(VO(NO3)3)、グリコール酸バナジル、水素化バナジウム、セレン化バナジウム、炭化バナジウム(VC)、窒化バナジウム(VN)、二バナジン酸カリウム、バナジン酸カリウム、メタバナジン酸カリウム(KVO3)(V)、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)(V)、二バナジン酸ナトリウム(Na4V2O7)、バナジン酸ナトリウム(Na3VO4)、バナジン酸ナトリウム水和物、メタバナジン酸リチウム(LiVO3)、二バナジン酸ルビジウム(Rb4V2O7)、メタバナジン酸ルビジウム(RbVO3)、バナジン酸ルビジウム(Rb3VO4)、二ホウ化バナジウム、ホウ化バナジウム(VB)、硫化バナジウム(III)(V2S3)等が挙げられる。これらのうち、着色液が保存安定性に優れ、取り扱い性に優れる点から、シュウ酸バナジル、硝酸バナジル、酢酸バナジルが好ましい。バナジウム成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
また、本発明のある好適な実施形態としては、着色成分として、Cr成分を含む着色液が挙げられる。
【0056】
Crのイオン又は錯体は、Crのカチオン及びアニオンを含む塩、又は、Cr及びその配位子を含む錯体として、着色液に添加されてもよい。該アニオン又は配位子としては、例えば、OAc-、NO3
-、NO2
-、CO3
2-、HCO3
-、ONC-、SCN-、SO4
2-、SO3
2-、グルタレート、ラクテート、グルコネート、プロピオネート、ブチラート、グルクロネート、ベンゾエート、フェノラート、ハロゲンアニオン(フッ化物、塩化物、臭化物)、アセテート等が挙げられる。
【0057】
Cr成分の具体的な化合物の例としては、3価、4価の化合物が挙げられ、3価のクロム化合物が好ましい。例えば、塩化クロム(III)、塩化クロム(III)水和物(六水和物)、臭化クロム(III)水和物(六水和物)、硝酸クロム(III)水和物(九水和物)、硫酸クロム(III)水和物(n水和物)、酢酸クロム(III)水和物(一水和物)、ギ酸クロム(III)水和物(n水和物)等が挙げられ、水及び有機溶媒への溶解性に優れる点から、硝酸クロム(III)水和物(九水和物)、塩化クロム(III)水和物(六水和物)、酢酸クロム(III)水和物(一水和物)が好ましい。Cr成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
本発明の着色液は、溶媒として、さらに、水、及び/又は有機溶媒を含むことが好ましい。水、及び/又は有機溶媒は、前記有機ケイ素化合物(例えば、シリコーン化合物、アルキルシラン化合物)を溶解させ、着色液の歯科用セラミックスへの浸透性を向上させる。前記有機ケイ素化合物が水に溶解することで、本発明の歯科用セラミックス着色液は、塗布しやすく操作性に優れる。溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
該水は、本発明の効果に悪影響を及ぼす不純物を実質的に含有しないものを使用する必要があり、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水が好ましい。歯科用セラミックス着色液における水の含有率は、40~99.9質量%であることが好ましく、42~99.7質量%であることがより好ましく、45~99.5質量%であることがさらに好ましい。「不純物を実質的に含有しない」とは、本発明の効果を妨げない程度の量の不純物であれば、許容され、本発明の効果を妨げる程度の量の不純物は含まないことを意味し、不純物の種類によって異なるが、例えば、不純物の含有率は、0.01質量%未満であってもよく、0.001質量%未満であってもよい。
【0060】
該有機溶媒は、前述の方法で算出されるSP値として、8.6(cal/cm3)1/2以上が好ましく、8.8(cal/cm3)1/2以上がより好ましい。着色成分を含まない実施形態では、SP値が8.6(cal/cm3)1/2以上の場合、溶解させた有機ケイ素化合物(特に、親水性のシリコーン化合物、親水性のアルキルシラン化合物)の歯科用セラミックスへの十分な浸透性が得られ、十分な遮蔽性が得られる。着色成分を含む実施形態では、SP値が8.6(cal/cm3)1/2以上の場合、前述の十分な遮蔽性が得られることに加え、着色成分の溶解性が十分であり、着色液の歯科用セラミックスへの十分な浸透性が得られ、十分な着色を得ることができる。
【0061】
該有機溶媒としては、アルコール類、グリコール類、トリオール類、及びケトン類からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、2,2-ジメチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、2-(ベンジルオキシ)エタノール、3-(ベンジルオキシ)-1-プロパノール、2-(ベンジルオキシ)-1-ブタノール、5-(ベンジルオキシ)-1-ペンタノール等のアルコール類;1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量200~600)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1、3-ヘキサンジオール等のジオール類;グリセリン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール等のトリオール類;アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。また、有機溶媒は後述する増粘剤として粘度の調製に使用してもよい。
【0062】
本発明の着色液における有機溶媒の含有率は、40~99.9質量%であることが好ましく、42~99.7質量%であることがより好ましく、45~99.5質量%であることがさらに好ましい。
【0063】
ある実施形態としては、有機ケイ素化合物(例えば、シリコーン化合物、アルキルシラン化合物)、溶媒、錯化剤、及び増粘剤を含み、溶媒として、水、及び/又は有機溶媒を含み、溶媒の含有率が、40~99.7質量%である、歯科用セラミックス着色液が挙げられる。前記実施形態では、溶媒の含有率は、41~99.6質量%であることが好ましく、42~99.5質量%であることがより好ましく、45~99.2質量%であることがさらに好ましい。
【0064】
ある実施形態では、本発明の着色液(例えば、シリコーン化合物を含む着色液、アルキルシラン化合物を含む着色液)のpHは、0~12が好ましく、1~11がより好ましく、2~10がさらに好ましい。本発明に含有させる有機ケイ素化合物の保存安定性が良好であり、pHの影響を受けにくいため、広い範囲のpHが適用可能である。該pHが上記範囲外にある場合、シリコーン化合物、又は着色成分が溶液から沈殿し始める場合がある。pHは、市販品のpHメーター(例えば、株式会社堀場製作所製のコンパクトpHメーターラクアツイン(LAQUA twin)等)を用いて測定できる。
【0065】
本発明の着色液は、本発明の効果を阻害しない範囲で、錯化剤を含有していてもよい。錯化剤を添加することは、着色液中の着色成分の保存安定性の改善、着色液に添加された塩の溶解プロセスの促進、及び/又は着色液中に溶解し得る塩の量の増加のために有益な場合がある。
【0066】
錯化剤は、通常、着色液中に存在する金属イオンと錯体を形成することができる。形成された錯体は、溶媒中に可溶性でなくてはならない。例えば、錯化剤は、着色液に含有される着色成分のイオンのモル量に関して、少なくとも化学量論比で使用でき、着色液のカチオンに対する錯化剤のモル比が約1、又は約2、又は約3以上であるならば、良好な結果が得られる。
【0067】
該錯化剤の例として、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)グリシン、アセチルアセトネート、クラウンエーテル、クリプタンド、エチレンジアミントリアセテート及びその塩、エチレンジアミンテトラアセテート及びその塩、ニトリロトリアセテート及びその塩、クエン酸及びその塩、トリエチレンテトラアミン、ポルフィン、ポリアクリレート、ポリアスパラゲート、酸性ペプチド、フタロシアニン、サリチレート、グリシネート、ラクテート、プロピレンジアミン、アスコルベート、シュウ酸及びその塩、並びにこれらの混合物が挙げられる。錯化剤は、1種を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0068】
本発明の着色液における錯化剤の含有率としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されず、例えば、溶液中のカチオンを溶解するために、又はこれらカチオンの沈殿を防止するために十分な量を含有することが好ましい。具体的には、着色液において、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.10質量%以上がさらに好ましい。また、該含有率について特定の上限はないが、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。使用する錯化剤の量が少なすぎると、完全に溶解しない可能性があり、使用する錯化剤の量が多すぎると、過剰な錯化剤それ自体が溶解されずに残る可能性がある。
【0069】
本発明の着色液は、必要量がセラミックス表面に塗布されるだけでなく、セラミックス未焼成体、又はセラミックス仮焼体の細孔に移動することができるように適切な粘度を有することが好ましい。該適切な粘度としては、例えば、20℃において0.1~10000mPaが好ましく、0.5~6000mPaがより好ましく、1~3000mPaがさらに好ましい。該粘度が高すぎる場合、セラミックス未焼成体、又はセラミックス仮焼体の細孔に含有させることができないおそれがある。粘度の測定方法は特に限定されないが、25℃でブルックフィールド粘度計によって測定できる。
【0070】
本発明の着色液は、適切な粘度とすることを目的として、本発明の効果を阻害しない範囲で、1、又は複数の増粘剤を含有してもよい。
【0071】
該増粘剤としては、前記有機溶媒から選択して粘度を調製してもよいし、下記増粘剤から選択してもよい。前記の有機溶媒以外の増粘剤としては、メチルセルロース、カルボキシセルロース、ギドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、タマリンドシードガム、ペクチン等の多糖類化合物;ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、トレハロース等の糖アルコール化合物;ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール等の合成ポリオール化合物;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール(分子量1000以上)、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、12-ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等の固体の有機化合物等が挙げられる。これらの増粘剤は、1種を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0072】
本発明の着色液における該増粘剤の含有率は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~8質量%であることがより好ましく、0.2~5質量%であることがさらに好ましい。
【0073】
本発明の着色液は、本発明の効果を損なわない限り、その他の添加剤、その他の遮蔽剤を含有してもよい。
【0074】
その他の添加剤としては、安定化剤(例えば、メトキシフェノール、ハイドロキノン、トパノールA(2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール等、及びこれらの混合物等(ただし、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤を除く))、緩衝剤(例えば、酢酸塩、アミノ緩衝剤、及びこれらの混合物等)、抗菌剤(例えば、クロルヘキシジングルコン酸塩等のグルコン酸類)、防腐剤(例えば、ソルビン酸、安息香酸、及びこれらの混合物等)、その他シラン化合物、並びにこれらの混合物が挙げられる。その他の遮蔽剤としては、硝酸アルミニウム等の硝酸塩;リン酸等のリン成分;ケイ酸ナトリウム五水和物、水溶性アルミニウム化合物、水溶性ランタン化合物が挙げられる。その他の添加剤及びその他の遮蔽剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明の着色液における該添加剤及び遮蔽剤の含有率は、例えば、0.01~10質量%とすることができ、0.05~5質量%であってもよく、0.1~3質量%であってもよい。
【0075】
本発明の歯科用セラミックス着色液は、本発明の効果を奏する限り、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、リン酸、及びリン酸塩(アンモニウム塩等)、リン酸エステル等のリン含有成分;硝酸カリウム、硝酸マグネシウム、硝酸コバルト(II)、硝酸ニッケル(II)、硝酸プラセオジム(III)、硝酸セリウム(III)、硝酸ネオジム(III)等の硝酸塩;塩化エルビウム、塩化イットリウム、塩化鉄等の塩化物;水溶性アルミニウム化合物(硝酸アルミニウム等)及び水溶性ランタン化合物等が挙げられる。他の成分の含有率は、例えば、10質量%未満とすることができ、5質量%未満であってもよく、1質量%未満であってもよく、0.01質量%未満であってもよい。ある好適な実施形態では、前記他の成分を含まない、歯科用セラミックス着色液が挙げられる。また、本発明の歯科用セラミックス着色液は、歯科用陶材に代えて用いることで、歯科用陶材を使用する場合、幾層にも積層しなければ遮蔽できない、残存歯牙の変色やインプラントアバットメント、メタルコア等の金属製の歯科補綴物等の下地色の影響を遮蔽できる。そのため、ある好適な実施形態では、本発明の歯科用セラミックス着色液は、歯科用陶材に含まれるガラス成分(SiO2、Al2O3、Li2O、Na2O、K2O等)を含まない。一方、より審美性に優れる歯科補綴物を得るために、歯科用陶材と組み合わせることもできる。
【0076】
本発明の着色液により着色される歯科用セラミックスは、歯科に用いるセラミックスを含有するものであれば特に限定はなく、例えば、ジルコニア(「酸化ジルコニウム」又は「ZrO2」ともいう。)、アルミナ(「酸化アルミニウム」又は「Al2O3」ともいう。)、長石ガラス、二ケイ酸ガラス、陶材等を含有するものが挙げられる。歯科用セラミックスは、ジルコニア及び/又はアルミナを含有するものが好ましく、ジルコニアを主成分として含有するものがより好ましい。「主成分」とは、後記するジルコニア仮焼体に関する説明のとおりである。
【0077】
本発明の着色液により着色される歯科用セラミックスとは、焼結前のものであれば、未焼成体であっても仮焼体であってもよいが、着色液の浸透の観点から、歯科用セラミックスがジルコニアを主成分として含有する場合、歯科用セラミックスがジルコニア仮焼体であることが好ましい。
【0078】
本発明の他の実施形態としては、その表面に有機ケイ素化合物(例えば、シリコーン化合物、アルキルシラン化合物)が担持されている、歯科用セラミックス(着色セラミックス仮焼体、又は着色未焼成体)が挙げられる。有機ケイ素化合物の含有率としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されず、所望する焼結後の遮蔽性の強弱等に応じて本発明の着色液の塗布量等により適宜調整することができる。また、有機ケイ素化合物の担持範囲としては、本発明の着色液等の適用により、毛細管現象を利用して、セラミックス仮焼体、又は未焼成体の外部と連通する空間に浸入することができ、最表面のみならず、表面内部への担持を調整することができる。なお、担持とは、一般的に、担体に付着した状態であり、本発明では、セラミックスに吸着等で付着した状態である。
【0079】
本発明の歯科用セラミックスでは、焼成した後に、歯科用途で要求される所望の遮蔽性が付与できるとともに、着色成分を含む場合には、同時に所望の着色が付与できる。このような実施形態としては、着色成分が、担持されている歯科用セラミックスが挙げられる。着色成分は、着色液で説明したものと同様である。
【0080】
セラミックス仮焼体、又は未焼成体は、上述の通り、ジルコニアを主成分として含有するものが好ましい。以下、歯科用セラミックスがジルコニアを主成分として含有する実施形態について説明する。なお、本発明において、着色液により着色される前の仮焼体を単に「セラミックス仮焼体」或いは「ジルコニア仮焼体」、着色後の仮焼体を「着色セラミックス仮焼体」或いは「着色ジルコニア仮焼体」と表現して区別する。なお、本発明の着色液は、ジルコニア未焼成体を着色するために用いることもでき、その場合には、仮焼体を経ずにジルコニア焼結体が製造される。そのような焼結体を想定した場合、該ジルコニア未焼成体の好適な実施形態としては、以降のジルコニア仮焼体に関する説明における各条件を同様に適用することができる。セラミックス仮焼体及び未焼成体は、ブロック或いはディスク等の形状を有していてもよい。
【0081】
本発明におけるジルコニア仮焼体について説明する。該ジルコニア仮焼体はジルコニア(ZrO2:酸化ジルコニウム)を主成分とし、ジルコニアを仮焼させたもの(ジルコニア粒子(粉末)が完全には焼結していない状態)を指す。ジルコニア仮焼体は目的とする歯科用製品に応じて加工された形状を有するものであってもよい。主成分とは、50質量%以上であればよい。本発明に係るジルコニア仮焼体におけるジルコニアの含有率は、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上がよりさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましく、85質量%以上が最も好ましい。例えば、歯科補綴物や歯科インプラント用製品の用途で使用するのであれば、ジルコニア粉末を公知の技術をもってプレス成形をして得られたディスク或いはブロックに対して仮焼等の処理をして、該ジルコニア仮焼体を作製することができる。ジルコニア未焼成体におけるジルコニアの含有率は、ジルコニア仮焼体の含有率と同様である。ジルコニア仮焼体の密度は2.7g/cm3以上が好ましい。また、ジルコニア仮焼体の密度は4.0g/cm3以下が好ましく、3.8g/cm3以下がより好ましく、3.6g/cm3以下がさらに好ましい。この密度範囲にあると成形加工を容易に行うことができる。仮焼体の密度は、例えば、(仮焼体の質量)/(仮焼体の体積)として算出することができる。また、ジルコニア仮焼体の3点曲げ強さは、15~70MPaが好ましく、18~60MPaがより好ましく、20~50MPaがさらに好ましい。前記曲げ強さは、厚み5mm×幅10mm×長さ50mmの試験片を用い、試験片のサイズ以外はISO 6872:2015に準拠して測定することができる。該試験片の面及びC面(試験片の角を45°の角度で面取りした面)は、600番のサンドペーパーで長手方向に面仕上げする。該試験片は、最も広い面が鉛直方向(荷重方向)を向くように配置する。曲げ試験測定において、スパンは30mm、クロスヘッドスピードは0.5mm/分とする。
【0082】
本発明におけるジルコニア仮焼体は、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤(以下、単に「安定化剤」とも称する。)を含むことが好ましい。例えば、仮焼前のジルコニアに安定化剤を含ませることが好ましい。
【0083】
安定化剤としては、例えば、酸化イットリウム(Y2O3)(以下、「イットリア」という。)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化セリウム(CeO2)、酸化スカンジウム(Sc2O3)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化ランタン(La2O3)、酸化エルビウム(Er2O3)、酸化プラセオジム(Pr6O11)、酸化サマリウム(Sm2O3)、酸化ユウロピウム(Eu2O3)、及び酸化ツリウム(Tm2O3)等の酸化物が挙げられ、イットリアが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ある好適な実施形態では、着色対象の歯科用セラミックスがジルコニアを主成分として含有し、さらに安定化剤としてイットリアを含有し、安定化剤は実質的にイットリアのみである、着色液が挙げられる。前記好適な実施形態において、安定化剤は実質的にイットリアのみとは、イットリア以外の安定化剤の含有率がジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、0.1mol%未満であり、0.05mol%以下であることが好ましく、0.01mol%以下であることがより好ましく、0.001mol%以下であることがさらに好ましい。安定化剤の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することができる。
【0084】
歯科用セラミックスがジルコニアを主成分として含有し、さらに安定化剤を含有する場合には、安定化剤の含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、0.1~18mol%が好ましく、1~15mol%がより好ましく、1.5~10mol%がさらに好ましい。ジルコニア未焼成体における安定化剤の種類及び含有率は、ジルコニア仮焼体における安定化剤の種類及び含有率と同様である。ある好適な実施形態において、ジルコニアを主成分として含有する歯科用セラミックスにおけるイットリアの含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計100モル%において、2.5~9.5mol%が好ましく、3.0~9.0mol%がより好ましく、3.5~8.5mol%がさらに好ましい。
【0085】
本発明のジルコニア未焼成体及びジルコニア仮焼体は、必要に応じて、着色剤(顔料、複合顔料及び蛍光剤を含む)、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、シリカ(SiO2)等を含むことができる。これらの成分は1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。前記顔料としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb及びErの群から選択される少なくとも1つの成分の酸化物が挙げられる。前記複合顔料としては、例えば、(Zr,V)O2、Fe(Fe,Cr)2O4、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)2O4・ZrSiO4、(Co,Zn)Al2O4等が挙げられる。前記蛍光剤としては、例えば、Y2SiO5:Ce、Y2SiO5:Tb、(Y,Gd,Eu)BO3、Y2O3:Eu、YAG:Ce、ZnGa2O4:Zn、BaMgAl10O17:Eu等が挙げられる。
【0086】
本発明のジルコニア仮焼体の一般的な製造方法を記す。まず、安定化剤を含むジルコニア原料顆粒を用意し、これをブロック或いはディスク等の形状にプレス成形する。次に、必要に応じてその成形体(未焼成体)にCIP(Cold Isostatic Pressing:冷間静水等方圧プレス)処理を施す。この際の加圧力は、例えば50~500MPaである。次いで、これに仮焼処理を施す。仮焼は、室温から緩やかに800~1200℃まで昇温し、1~6時間程度係留することでジルコニア仮焼体を得ることができる。得られたジルコニア仮焼体は、最終的な歯科用製品に応じ、従来公知の装置を用いて切削加工される。例えば、歯科用製品が歯科補綴物である場合、CAD/CAM等を用いて歯冠形状に切削加工される。
【0087】
本発明の着色ジルコニア仮焼体の製造方法は、前記歯科用セラミックス着色液を切削加工後のジルコニア仮焼体に含有させる工程を含む。前記歯科用セラミックス着色液を含有させる方法としては、例えば、筆等を用いてジルコニア仮焼体に塗布したり、着色液を入れた容器にジルコニア仮焼体を浸漬したり、スプレー等を用いてジルコニア仮焼体に噴霧したりする方法等が挙げられ、従来公知の器具、装置を用いることができる。なお、仮焼工程を含まずに、未焼成体から直接にジルコニア焼結体を製造する場合には、前記歯科用セラミックス着色液は、切削加工後のジルコニア未焼成体に含有させてもよい。
【0088】
本発明はさらに、前記着色ジルコニア仮焼体を焼結することで得られるジルコニア焼結体を包含する。該ジルコニア焼結体の製造方法は、前記着色ジルコニア仮焼体を焼成する工程を含む。焼成温度(焼成最高温度)は、ジルコニアの種類に応じて適宜変更でき、着色成分が発色する限り特に限定されないが、1350℃以上が好ましく、1450℃以上がより好ましく、1500℃以上がさらに好ましい。焼成温度の上限は、特に限定されないが、例えば1600℃以下が好ましい。なお、本発明のジルコニア焼結体には、成形したジルコニア粉末を常圧下ないし非加圧下において焼結させた焼結体のみならず、HIP(Hot Isostatic Pressing:熱間静水等方圧プレス)処理等の高温加圧処理によって緻密化させた焼結体も含まれる。
【0089】
本発明のジルコニア焼結体中及びジルコニア仮焼体中の安定化剤の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することができる。
【0090】
本発明のジルコニア焼結体は、好ましくは、部分安定化ジルコニア及び完全安定化ジルコニアの少なくとも一方をマトリックス相として有する。ジルコニア焼結体において、ジルコニアの主たる結晶相は正方晶系及び立方晶系の少なくとも一方である。ジルコニア焼結体は、正方晶系、及び立方晶系の両方を含有してもよい。ジルコニア焼結体は単斜晶系を実質的に含有しないと好ましい。なお、安定化剤を添加して部分的に安定化させたジルコニアは、部分安定化ジルコニア(PSZ:Partially Stabilized Zirconia)と呼ばれ、完全に安定化させたジルコニアは完全安定化ジルコニアと呼ばれている。
【0091】
本発明は、前記ジルコニア焼結体からなる歯科用製品を包含する。該歯科用製品としては、歯科補綴物、歯列矯正用製品、又は歯科インプラント用製品等が挙げられる。該歯科補綴物としては、例えばジルコニア製のインレー、アンレー、ラミネートベニア、及びクラウン等に用いることができる。
【0092】
上記の実施形態において、各成分の種類、含有率等を適宜変更でき、任意の成分について、追加、削除等の変更をすることができる。また、上記の実施形態において、着色液の組成と特性の値を適宜変更して組み合わせることもできる。
【0093】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0095】
[実施例1-1~1-24、2-1~2-18及び比較例1-1~1-6]
各実施例及び比較例の着色液を以下のように調製し、その特性を評価した。結果を表1~表4に示す。
【0096】
[有機ケイ素化合物の水に対する溶解度の評価方法]
有機ケイ素化合物0.015g、及び0.15gに、pH7の水をそれぞれ2.985g、及び2.85gを添加した後、25℃にて1時間撹拌して目視で観察し、以下の基準に従って溶解度の評価を実施した。
A:25℃において、水への溶解度が5質量%以上である。
B:25℃において、水への溶解度が0.5質量%以上、かつ5質量%未満である。
C:25℃において、水への溶解度が0.5質量%未満である。
【0097】
[着色液の調製]
表1~表4に記載の各成分を、表に記載の質量%で、常温下にて混合して着色液を調製した。なお、使用した有機ケイ素化合物については、以下の通りである。水への溶解度は、後述の基準にて評価を実施した。
【0098】
<シリコーン化合物>
KP-120:信越化学工業株式会社製、ポリエーテル変性シリコーン、SP値:10.0(cal/cm3)1/2、水への溶解度:A
KP-106:信越化学工業株式会社製、ポリエーテル変性シリコーン、SP値:8.9(cal/cm3)1/2、水への溶解度:A
KP-110:信越化学工業株式会社製、ポリエーテル変性シリコーン、SP値:8.3(cal/cm3)1/2、水への溶解度:B
KP-104:信越化学工業株式会社製、ポリオール変性シリコーン、SP値:11.6(cal/cm3)1/2、水への溶解度:A
【0099】
<アルキルシラン化合物>
KBM-403:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、水への溶解度:A
KBM-602:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、水への溶解度:A
KBM-903:3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、水への溶解度:A
トリメチルシラノール:信越化学工業株式会社製、水への溶解度:B
【0100】
[着色液の保存安定性の評価]
前記調整した着色液を、ESリキッド(クラレノリタケデンタル株式会社製)の容器に12ml充填し、着色液が実際に使用される輸送時環境、保管環境等を考慮して、40℃、50℃、及び60℃にて60日間保存した後、以下の基準に従って評価を実施した。
○:着色液の成分分離、及びゲル化が目視で確認されない。
×:着色液の成分分離が目視で確認される、又は着色液のゲル化が目視で確認される。
【0101】
[ジルコニア仮焼体の製造]
次に、前記着色液を塗布するジルコニア仮焼体の製造方法を説明する。
【0102】
まず、安定化剤を含有するジルコニア粉末を作製した。ジルコニア粉末90.1質量%に、安定化剤としてイットリア9.9質量%(5.5mol%)を添加し、混合物を作製した。次に、この混合物を水に添加してスラリーを作製し、平均粒径0.13μm以下になるまでボールミルで湿式粉砕混合した。粉砕後のスラリーをスプレードライヤで乾燥させ、得られた粉末を950℃で2時間焼成して、粉末(一次粉末)を作製した。なお、前記平均粒径は、レーザー回折散乱法により求めることができる。レーザー回折散乱法は、具体的に例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
【0103】
得られた一次粉末に対して、水を添加してスラリーを作製し、平均粒径0.13μm以下になるまでボールミルで湿式粉砕混合した。粉砕後のスラリーにバインダを添加した後、スプレードライヤで乾燥させて、粉末(二次粉末)を作製した。作製した二次粉末を原料粉末として、後述のジルコニア仮焼体の製造に用いた。
【0104】
次に、ジルコニア仮焼体の製造方法について説明する。直径19mmの金型に、前記原料粉末1.32gを充填し、一軸プレス成形機によって、面圧57.5kNで20秒間、1次プレス成形した。得られた1次プレス成形体を1000℃で2時間焼成してジルコニア仮焼体を作製した。
【0105】
[焼結体の色度の測定]
前記調製した着色液を、前記製造したジルコニア仮焼体に筆にて塗布した後、表1~4に記載の焼成条件で焼成して、ジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体を直径15mm、厚さ1.2mmの円板に研磨加工し、オリンパス株式会社製の分光測色計「クリスタルアイ」を用いて、測定モード:7band LED光源、白背景にて、L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)による色度を測定した(n=3)。測定値の平均値を表1~4に示す。また、測定したa*、及びb*の平均値により、彩度C*=((a*)2+(b*)2)1/2を算出した。
【0106】
[焼結体の透明性の測定]
前記調製した着色液を、前記製造したジルコニア仮焼体に筆にて塗布した後、表1~4に記載の焼成条件で焼成して、焼結体を得た。得られた焼結体を直径15mm、厚さ1.2mmの円板に研磨加工し、オリンパス株式会社製の分光測色計「クリスタルアイ」を用いて、測定モード:7band LED光源で、白背景にて色度を測定した場合の明度(Lw*)と、同じ試験片で、同じ測定装置、測定モード、光源で黒背景にて色度を測定した場合の明度(Lb*)を測定し、両者の差(ΔL*=(Lw*)-(Lb*))を透明性(ΔL*)とした(n=3)。算出した値の平均値を表1~4に示す。また、着色液で着色しないジルコニア焼結体(比較例1-1)を基準として、透明性の変化率を以下の式で算出した。
透明性の変化率(%)={(着色液を塗布し焼成した焼結体の透明性-着色しないジルコニア焼結体の透明性)/着色しないジルコニア焼結体の透明性}×100
【0107】
[焼結体の遮蔽度の評価]
前記製造したジルコニア仮焼体から、歯科用ミリングマシン(商品名:DWX-51D、Roland DG社製)を用いてクラウン形状に削り出し、クラウン形状の内側に前記調製した着色液を筆にて塗布した後、表1~4に記載の焼成条件で焼成して、焼結体を得た。得られたクラウン形状の焼結体を、金属製支台歯に被せて、以下の基準にて遮蔽度の評価を実施した。
○:着色液を塗布していない焼結体と比較して、目視で、金属製支台歯の色が透けていない(遮蔽度が高い)。
△:目視で、金属製支台歯の色が透けているが、着色液を塗布していない焼結体と比較して、若干透けていない(遮蔽度が若干高い)。
×:着色液を塗布していない焼結体と比較して、目視で、金属製支台歯の色が透けている、又は同等程度である(遮蔽度が低い、又はない)。
【0108】
[焼結体の2軸曲げ強さの測定]
前記調製した着色液を、前記製造したジルコニア仮焼体に筆にて塗布した後、表1~4に記載の焼成条件で焼成して、直径15mm、厚さ1.2mmの焼結体を得た。得られた焼結体を、JIS T 6526:2012に準拠して、島津製作所株式会社製の万能精密試験機オートグラフ(商品名「AG-I 100kN」)を用いて、クロスヘッドスピード0.5mm/分にて、2軸曲げ強さを測定した(n=3)。測定値の平均値を表1~4に示す。また、着色液で着色しないジルコニア焼結体(比較例1-1)を基準として、2軸曲げ強さの変化率を以下の式で算出した。
2軸曲げ強さの変化率(%)={(着色液を塗布し焼成した焼結体の2軸曲げ強さ-着色しないジルコニア焼結体の2軸曲げ強さ)/着色しないジルコニア焼結体の2軸曲げ強さ}×100
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
無機ケイ素化合物を含有させた比較例1-2及び1-3では、保存安定性が悪く、保存中にゲル化が目視で確認され、リン酸を配合させた比較例1-4では、ジルコニア焼結体の2軸曲げ強さの低下が確認された。また、水溶性アルミニウムを配合させた比較例1-5及び1-6では、金属製支台歯の色が透けてしまい、遮蔽性が不十分であることが確認された。
【0114】
これに対して、有機ケイ素化合物を含有させた実施例1-1~1-24及び2-1~2-18では、ジルコニア焼結体の強度の低下がなく、保存安定性が良好、かつ優れた遮蔽性が確認された。さらに、着色成分を含有させた実施例1-5~1-7、1-10、1-11、1-17~1-24、2-5~2-8、2-10、2-12~2-18においては、保存安定性が良好で優れた遮蔽性を有するとともに、所望の着色が付与できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の歯科用セラミックス着色液は、焼結後に歯科用セラミックスの機械的強度の低下を抑制でき、保存安定性が良好であり、遮蔽性を付与できる。また、本発明の歯科用セラミックス着色液が着色成分を含有する場合には、歯科用セラミックスに遮蔽性を付与しつつ、所望の色調を付与できる。そのため、歯科用セラミックスを着色するための着色液として好適に用いることができる。特に、セラミック歯冠の需要が益々増大し、個々の審美要求が高まっていることに伴い、歯科用セラミックス着色液の使用頻度が増えることが予想されるため、本発明の遮蔽性を有する歯科用セラミックス着色液は有用である。