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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】レーダ信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20240830BHJP
   G01S 13/87 20060101ALI20240830BHJP
   G01S 13/931 20200101ALN20240830BHJP
【FI】
G01S7/40 126
G01S13/87
G01S13/931
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022579329
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034524
(87)【国際公開番号】W WO2022168361
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2021015894
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 太亮
(72)【発明者】
【氏名】黒田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸修
(72)【発明者】
【氏名】永崎 健
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/050363(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0218398(US,A1)
【文献】特開2011-043387(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0239354(US,A1)
【文献】特開2019-007934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された複数のレーダからの信号を処理するレーダ信号処理装置であって、
前記複数のレーダのうち第一のレーダからの信号により前記車両の周囲の物標を検知し、前記複数のレーダのうち第二のレーダからの信号により前記物標を検知する物標検知部と、
前記車両の走行中に、前記第一のレーダおよび前記第二のレーダで前記物標が検知された時間差と、前記第一のレーダおよび前記第二のレーダで検知された前記物標までの距離から求まる直線ないし平面の傾きの差に基づいて、前記物標が同一か否かを判定する物標判定部と、
前記物標が同一であると判定された場合に、前記第一のレーダおよび前記第二のレーダで検知された前記物標までの距離から求まる直線ないし平面の傾きの差に基づいて前記第一のレーダまたは前記第二のレーダの軸ずれを検知する軸ずれ検知部と、を備え
前記物標判定部は、前記直線ないし平面の傾きの差が第1既定値未満である場合に、前記物標が同一であると判定し、
前記軸ずれ検知部は、前記直線ないし平面の傾きの差が前記第1既定値よりも小さい第2既定値未満である場合に、軸ずれなしと判定し、前記直線ないし平面の傾きの差が前記第2既定値以上である場合に、軸ずれありと判定することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ信号処理装置において、
前記第一のレーダの検知範囲と前記第二のレーダの検知範囲は重複しないことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダ信号処理装置において、
前記車両の移動によって前記物標は前記第一のレーダの検知範囲と前記第二のレーダの検知範囲にまたがるものであることを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載のレーダ信号処理装置において、
前記物標までの距離は平面を表すデータであって、前記第一のレーダで検出された平面と前記第二のレーダで検出された平面の角度の差に基づいて、前記第一のレーダまたは前記第二のレーダの軸ずれを検知することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載のレーダ信号処理装置において、
前記複数のレーダのそれぞれに出力データの信頼度が付与され、前記軸ずれが検知された場合、前記信頼度に基づいて前記第一のレーダまたは前記第二のレーダのいずれが軸ずれを起こしているかを判定することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載のレーダ信号処理装置において、
前記車両の挙動に関する車両情報または前記レーダが検知した物標情報を基に、前記第一のレーダまたは前記第二のレーダの軸ずれ検知処理の実行判定を行うことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーダ信号処理装置において、
前記車両のヨーレート、ステアリング角、または車両速度を基に、前記第一のレーダまたは前記第二のレーダの軸ずれ検知処理の実行判定を行うことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項8】
請求項1に記載のレーダ信号処理装置において、
前記物標判定部は、前記第一のレーダおよび前記第二のレーダで前記物標が検知された時間差と、前記物標の長さを前記車両の車両速度で除した時間を少なくとも含む時間差とを比較し、前記物標が同一か否かを判定することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ信号処理装置に係り、例えば、車両に搭載される複数のレーダ装置からなるレーダシステム、およびレーダ装置に備えられるレーダ信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車間距離警報システムやアダプティブクルーズコントロール、衝突被害軽減ブレーキなど、運転者または歩行者の安全を確保するようなシステムが車両に搭載されている。
【0003】
車載用ミリ波レーダは、上記システム内において、リアルタイムに外界の状況を探る(車両周辺の物標情報として、距離、速度、角度、反射強度などを推定する)センサーの一つであり、空間に電波を放射し、物標から跳ね返ってきた反射波を受信し、信号処理を施すことで、物標情報を推定する。
【0004】
このような車載用ミリ波レーダを、車両の異なる位置(例えば、前方の左右角に2ユニット、後方の左右角に2ユニットなど)に搭載することで、車両周囲の環境をリアルタイムに監視可能であり、検知した情報を基に、運転手へ警報を促すまたは緊急ブレーキを作動させるような周辺監視システムの研究開発が各社で進んでいる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-078925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、車載用ミリ波レーダ等のレーダ装置(以下、単にレーダと呼称する場合がある)は、レーダ搭載車両を納車後、経年により車両姿勢が変化またはレーダ自体が劣化することで、レーダ放射軸と車両進行方向軸の間にずれが生じる。
【0007】
この軸ずれによって、レーダによる周辺の物標情報の推定に誤りが生じ、レーダ後段の車両制御へ悪影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
例えば、高速道路にて自車両と同じ車線上を先行車両が走行している状況を考える。このとき、レーダ放射軸がずれていた場合、先行車両は自車両と同じ車線上にいるにも関わらず、あたかも隣車線上にいるかのように誤って先行車両の位置を推定してしまう可能性がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、車両に搭載された複数のレーダ装置を用いたレーダシステムにおいて、軸ずれの検知、および軸ずれ量の推定と補正を簡便に行うことのできるレーダ信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のレーダ信号処理装置は、車両に搭載された複数のレーダからの信号を処理するレーダ信号処理装置であって、前記複数のレーダのうち第一のレーダからの信号により前記車両の周囲の物標を検知し、前記複数のレーダのうち第二のレーダからの信号により前記物標を検知する物標検知部と、前記第一のレーダおよび前記第二のレーダで前記物標が検知された時間差と、前記第一のレーダおよび前記第二のレーダで検知された前記物標までの距離の差に基づいて、前記物標が同一か否かを判定する物標判定部と、前記物標が同一であると判定された場合に、前記第一のレーダおよび前記第二のレーダで検知された前記物標までの距離の差に基づいて前記第一のレーダまたは前記第二のレーダの軸ずれを検知する軸ずれ検知部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各レーダが検知した物標情報である壁検知情報の傾き、および検知時刻それぞれの情報を比較することで、前述した軸ずれの検知、および軸ずれ量の推定と補正が可能である。
【0012】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施例の実施例全般に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
図2図1に示すレーダ装置100を車両に複数設置した周辺監視システムの構成図。
図3図1に示すレーダ装置100におけるエイミング処理部180の処理フロー図。
図4】本実施例の原理説明用イメージ図(レーダ軸ずれなし)。
図5】本実施例の原理説明用イメージ図(レーダ軸ずれあり)。
図6】レーダの軸ずれ量と壁検知の直線ないし平面の傾きのずれ量との関係を示す図。
図7】レーダ100aとレーダ100cの検知範囲が一部分重複したときのイメージ図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について詳細に説明する。
【0015】
<レーダ装置>
図1に本実施例の実施例全般に係るレーダ装置の構成を示す。
【0016】
図示実施例のレーダ装置100は、ミリ波レーダ、LIDAR、ソナー等で構成されており、基本的に、送信部101と、受信部103と、レーダ信号処理部(レーダ信号処理装置)105と、送受信制御部110を備える。送信部101は、変調処理部120と送信アンテナ130を含む。受信部103は、受信アンテナ140と復調処理部150を含む。レーダ信号処理部105は、周波数解析部160と物標検知部170とエイミング処理部180を含む。
【0017】
また、エイミング処理部180は、適用条件判定部181と、物標判定部183と、軸ずれ検知部185と、軸ずれレーダ判別部187と、軸ずれ量推定・補正部189を備える。なお、レーダ信号処理部(レーダ信号処理装置)105は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等のメモリ等を備えるコンピュータとして構成されている。レーダ信号処理部(レーダ信号処理装置)105の各機能は、ROMに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することによって実現される。RAMは、プロセッサが実行するプログラムによる演算の中間データ等を含むデータを格納する。
【0018】
レーダ装置100は、まず、変調処理部120において、方式に応じて位相変調や周波数変調を施した電波を77GHz帯など特定の周波数帯へ搬送波周波数を引き上げたのち、送信アンテナ130を介して空間へ放射する。周辺の物標から反射した電波を受信アンテナ140にて受信し、復調処理部150において、送信波を用いて、信号処理にて解析可能なベースバンド信号の周波数帯域まで引き下げるとともに、信号増幅器やフィルター処理、AD変換を通して、デジタルデータ(信号)へ変換を行う。送受信制御部110は、変調処理部120および復調処理部150の動作を制御するために設けられる。
【0019】
変換したデジタルデータ(信号)を、レーダ信号処理部105の周波数解析部160へ入力し、距離方向、速度方向、角度方向へフーリエ変換した後の周波数スペクトルから、周辺物標の距離、速度、角度(以下、これらを物標情報と呼称する場合がある)を推定する。
【0020】
推定した物標情報を物標検知部170へ入力し、現在推定した物標情報だけでなく、過去の物標情報も考慮して、物標情報の推定精度を向上する。なお、物標検知部170の(トラッキングおよび壁検知処理の)処理内容は、後で詳細に説明する。
【0021】
次に、エイミング処理部180にて、レーダ軸ずれの検知を行い、軸ずれがあった場合には軸ずれ量の推定を行い、物標検知部170の物標情報を軸ずれ分だけ補正したのちに、CAN出力し、後段のECU(車両制御部)200に情報を送信する。
【0022】
つまり、エイミング処理部180は、まず、適用条件判定部181にて、軸ずれ検知処理の実行判定(適用条件判定)を行う。適用条件判定部181にて適用条件を満足した場合にのみ、物標判定部183にて、レーダ装置100および他レーダ装置100’で検知した物標情報(壁検知情報)の同一物標判定を行う。
【0023】
物標判定部183にて同一物標として判定された場合に、軸ずれ検知部185にて、同一物標として判定された2つの物標情報(壁検知情報)を比較し、軸ずれの有無の検知ないし判定を行う。軸ずれ検知部185にて軸ずれありと判定された場合に、軸ずれレーダ判別部187にて、例えば各レーダの物標情報(壁検知情報)に付与した信頼度を基に、軸ずれレーダの判別を行う。また、軸ずれ量推定・補正部189にて、軸ずれレーダの判別にて判明したレーダの軸ずれ量の推定および物標検知部170の物標情報の補正を行い、CAN出力する。
【0024】
なお、エイミング処理部180の各部の処理内容は、後で詳細に説明する。
【0025】
なお、本実施例のエイミング処理部180は、前述のように、他レーダ装置100’が検知した情報を活用して、軸ずれ検知および軸ずれ量の推定を行うため、エイミング処理部180(の物標判定部183)には、他レーダ装置100’(の物標検知部170)の検知情報100A’が入力される。
【0026】
ここで、他レーダ装置100’(の物標検知部170)の検知情報100A’とは、例えば、壁として識別した情報のうち、壁の傾き(検知した距離情報から算出)や検知時刻などであり(後で説明)、他レーダ装置100’とは、例えば、レーダ装置100を前方左角レーダ100a(図2に示す)とした場合に、後方左角レーダ100c(図2に示す)のことを表すこととする。
【0027】
<周辺監視システム(レーダシステム)>
前記<レーダ装置>にて、レーダ装置単体の内部的な処理を説明した。前述したレーダ装置を複数ユニット用いた(車両に複数設置した)レーダシステムとしての周辺監視システムの一構成例を図2に示す。図2では、車両前方の左右角に2ユニット(100aおよび100b)、車両後方の左右角に2ユニット(100cおよび100d)をそれぞれ搭載した例を示している。後で説明するように、本実施例では、車両500に搭載された各レーダ装置(前方左角レーダ100a、前方右角レーダ100b、後方左角レーダ100c、後方右角レーダ100d)の検知範囲は重複していない。各レーダ装置100a、100b、100c、100dで検知した情報はCANバス300を通してECU200に送信され、ECU200内部で周辺の物標との衝突予測を行い、衝突の危険度に応じて、運転手へ警報または緊急ブレーキを作動させるシステムとなっている。
【0028】
本実施例のレーダ信号処理部(レーダ信号処理装置)105は、各レーダ装置100a、100b、100c、100d内、または、ECU200内に纏めて搭載される処理装置であり、搭載場所には依存しない。本実施例では、各レーダ装置100a、100b、100c、100d内に搭載される場合を例示している。
【0029】
<レーダ信号処理部(レーダ信号処理装置)105>
以下、図1とともに図3を参照して、レーダ装置100内のレーダ信号処理部105内の物標検知部170およびエイミング処理部180の各部の処理内容を説明する。
【0030】
<物標検知部170>
レーダ装置100のレーダ信号処理部105における、物標検知部170のトラッキングおよび壁検知処理について説明する。物標検知部170は、まず、周波数解析部160で現在推定した物標情報だけでなく、過去の物標情報も考慮して、車両の周囲の物標(情報)を追跡・検知するトラッキング処理を実施する。トラッキング処理の詳細については従来公知の技術を採用できるため本明細書では割愛する。トラッキング処理後の検知点が以下の条件を満たしたとき、物標検知部170は、車両の周囲に壁やガードレール等の構造物が存在するとして、壁検知情報をCANへ出力する。なお、ここで述べた壁検知情報とは、検知した壁の傾きや検知時刻情報を示す。すなわち、物標検知部170は、トラッキング処理後の物標(検知点)までの距離から平面を表すデータを壁として検出し、検出された平面(データ)の角度(壁の傾きに相当)を検知時刻とともに壁検知情報としてCANへ出力する。
【0031】
≪壁検知の条件≫
・検知点が等間隔、かつ、縦方向(鉛直方向)に並んでいること
・静止物からの検知点であること
【0032】
<エイミング処理部180>
レーダ装置100のレーダ信号処理部105における、エイミング処理部180のフローチャートを図3に示す。エイミング処理部180は、レーダ装置100内で推定した検知情報100Aと、他レーダ装置100’内で推定した検知情報100A’を主な入力情報とする。ここで、レーダ装置100とは、例えば前方左角レーダ100a、他レーダ装置100’とは、後方左角レーダ100cをそれぞれ示し(図2参照)、検知情報100Aと100A’は、各レーダの物標検知部170のトラッキングおよび壁検知処理内で検知した壁検知情報(検知線の傾きと検知した時刻)を示すこととする。
【0033】
エイミング処理部180は、図3に示すように、適用条件判定部181による適用条件判定S301、物標判定部183による同一物標判定S303、軸ずれ検知部185による軸ずれ判定S305、軸ずれレーダ判別部187による軸ずれレーダの判別S307、軸ずれ量推定・補正部189による軸ずれ量推定および補正S309、合計5つの処理ブロックから構成され、物標に関する最初の処理である同一物標判定S303に入る前に、軸ずれ検知処理の実行判定の処理である適用条件判定S301を行う。
【0034】
(適用条件判定S301:適用条件判定部181)
同一物標判定S303に入る前に、適用条件判定S301では、軸ずれ検知処理の実行の適用条件を満足しているか否かの判定を行う。適用条件すべてを満足した場合にのみ(S302:Yes)、同一物標判定S303に移行するとし、適用条件を満足しなかった場合には(S303:No)、同一物標判定S303以降の処理をすべてスキップする。
【0035】
本実施例は、レーダの壁検知情報を活用して軸ずれ検知および推定を行っている。したがって、レーダの壁検知情報の精度が悪い状態で本実施例を適用した場合、誤作動(誤った軸ずれ検知等)に繋がる恐れがある。
【0036】
そこで、壁検知情報の精度が比較的高い状況下でのみ本実施例を適用する。下記に適用条件判定S301にて判定する本実施例の適用条件と、各適用条件の設定根拠を示す。
【0037】
≪本実施例の適用条件≫
(a)前方レーダおよび後方レーダ共に壁検知情報が存在していること
(b)ヨーレートが既定値以下であること、またはステアリング角が既定値以下であること
(c)自車速度が既定値以上であること
【0038】
≪適用条件の設定根拠≫
(a)前方レーダおよび後方レーダ共に壁検知情報が存在していること
本実施例は、壁検知情報を用いてレーダ軸ずれの検知および軸ずれ量の推定を行っているため、前記情報が存在することが本実施例の前提条件となる。
【0039】
(b)ヨーレートが既定値以下であること、またはステアリング角が既定値以下であること
自車両が旋回しているとき、下記の観点で壁検知情報の精度が劣化する可能性がある。したがって、自車旋回時は本実施例を適用範囲外とする(言い換えれば、直進状態を本実施例の適用範囲とする)ために、(b)の条件を設けている。
・物標の状態判定(移動物または静止物の判定)の精度が劣化する
・壁またはガードレールを斜めに検知してしまい、誤った軸ずれ検知に繋がる
【0040】
その一方で、自車旋回時のヨーレート等を考慮して、物標の状態判定、および壁検知を実施することも可能であるが、直進時と同等の精度が必ずしも保証できないと考えられるため、本適用条件を設定するに至った。
【0041】
(c)自車速度が既定値以上であること
本適用条件は、壁検知情報の精度劣化ではなく、後段の同一物標判定S303の精度劣化という観点で設定している。後述する同一物標判定S303にて記述する、前方レーダが壁検知してから後方レーダで壁検知するまでの時間差Δtは、車両速度Vsvの関数になっており、Vsvが大きいほどΔtは小さく、Vsvが小さいほどΔtは大きくなる、といった反比例の関係にある。
【0042】
したがって、車両速度が低速(または停止)の場合、Δtが大きくなることから、前方レーダで検知した物標と後方レーダで検知した物標が、同一物標でない可能性も高くなると考えられる。
【0043】
例えば、車両速度3km/hで直進(Vsv=3km/h)、車両長さを5m(Lsv=5m)、検知した壁の長さを4m(Lwall=4m)、と仮定する。後述する式(1)によって、Δtを算出すると、10.8秒となる。
【0044】
この10.8秒間に、例えば自車両の後方左角レーダ100cの検知範囲内に別車両が同じくらいの車速で斜めに入り込んできた場合、前方レーダと後方レーダの壁検知結果に差分が生じてしまい、誤った軸ずれ検知に繋がる可能性がある。
【0045】
前述のように、誤った軸ずれ検知を防止するために、本適用条件を設定した。
【0046】
すなわち、適用条件判定S301では、車両の挙動に関する車両情報(ヨーレート、ステアリング角、車両速度)、レーダが検知した物標情報としての壁検知情報を基に、レーダの軸ずれ検知処理の実行判定を行い、誤った軸ずれ検知を防止する。
【0047】
(同一物標判定S303:物標判定部183)
同一物標判定S303では、レーダ装置100(前方左角レーダ100a)および他レーダ装置100’(後方左角レーダ100c)で検知した壁検知情報が、同一物標か否かの判定を行う。図4に本処理を説明するためのイメージ図を示す。図4の左図は、車両500がある速度Vsv[km/h]で走行中の任意の時刻t[sec]に、前方左角レーダ100aにてガードレールのある断片を検知した場面を示している。図4の右図は、左図からΔt秒後の時刻t+Δt[sec]において、前述の前方左角レーダ100aで検知したガードレールのある断片と「同じ断片」を後方左角レーダ100cにて検知した場面を示している。本実施例では、レーダ100aの検知範囲とレーダ100cの検知範囲は重複しないが、Δt秒間に車両500が移動することによって、ガードレールのある断片はレーダ100aの検知範囲とレーダ100cの検知範囲にまたがるものとなる。
【0048】
ここで、ガードレールは静止物であることと、自車速度が既知であることから、レーダ100aで検知してから、レーダ100cで検知するまでの時間差Δtは下記の式(1)で算出することが可能である。ここで、Lwallとはレーダ100aで検知したガードレール断片の長さ、Lsvとは車両の進行方向長さ、Vsvとは車両速度をそれぞれ示している。なお、下記の計算式(1)は、レーダ100aとレーダ100cの設置角度について、レーダ100aの検知範囲(図4の前方左角の扇形の向き)の左端を車両前面と平行、レーダ100cの検知範囲(図4の後方左角の扇形の向き)の左端を車両背面と平行とした場合の計算式であり、レーダ設置角度によって算出式は異なる。
【数1】
【0049】
ここで、レーダ100aで検知した時刻とレーダ100cで検知した時刻の差分は、もし同一物標をそれぞれのレーダで検知していれば、Δtとほぼ等しくなるはずである。
【0050】
したがって、同一物標判定S303では、上記の壁検知時刻差とΔtとの比較を加えた下記の二つの条件を同時に満たした場合に、レーダ100aで検知した情報とレーダ100cで検知した情報は、同一物標であると判定する。
(a)レーダ100aおよびレーダ100cの壁検知時刻差≒Δt
(b)レーダ100aおよびレーダ100cの壁検知の傾きの差<既定値1
【0051】
ここで、レーダ100aおよびレーダ100cの壁検知時刻差(=レーダ100aで検知した時刻とレーダ100cで検知した時刻の差分)および壁検知の傾きの差は、レーダ100aおよびレーダ100cで検知した壁検知情報(検知情報100A、検知情報100A’)に含まれる検知時刻および壁の傾きを基に、算出可能である。
【0052】
すなわち、同一物標判定S303では、前方左角レーダ100aおよび後方左角レーダ100cで物標が検知された時間差と、前方左角レーダ100aおよび後方左角レーダ100cで検知された物標までの距離から求まる傾きの差に基づいて、物標が同一か否かを判定する。
【0053】
レーダ100a、レーダ100cで検知した情報が、同一物標であると判定された場合に(S304:Yes)、軸ずれ判定S305へ移行し、同一物標と判定されなかった場合には(S304:No)、軸ずれ判定S305以降をスキップして処理を終了する。
【0054】
(軸ずれ判定S305:軸ずれ検知部185)
軸ずれ判定S305では、同一物標として判定された2つの壁検知情報(直線ないし平面の傾き)を比較することにより、軸ずれの有無の検知ないし判定を行う。
【0055】
直線ないし平面の傾きの差<既定値2のとき、軸ずれなしと判定し(S306:No)、処理を終了する。一方、直線ないし平面の傾きの差≧既定値2のとき、軸ずれありと判定し(S306:Yes)、軸ずれレーダの判別S307へ移行する。
【0056】
ここで、判別のための既定値2は、同一物標判定S303における既定値1よりも小さいものであり、直線ないし平面の傾きの差がこの既定値2を超えた場合には軸ずれありと判定し(S306:Yes)、超えなかった場合には直線ないし平面の傾きの差はレーダの検知誤差の範囲内のものであるとして、軸ずれなしと判定する(S306:No)。
【0057】
図5に後方左角レーダ100cのみが軸ずれしたときの本処理を説明するためのイメージ図を示す。軸ずれが生じた場合、図5のように壁検知結果の直線ないし平面が軸ずれ量分だけ斜めに傾く。
【0058】
すなわち、軸ずれ判定S305では、同一物標判定S303にて物標が同一であると判定された場合に、前方左角レーダ100aおよび後方左角レーダ100cで検知された物標までの距離から求まる傾きの差(換言すれば、前方左角レーダ100aで検出された平面と後方左角レーダ100cで検出された平面の角度の差)に基づいて、前方左角レーダ100aまたは後方左角レーダ100cの軸ずれを検知する。
【0059】
(軸ずれレーダの判別S307:軸ずれレーダ判別部187)
軸ずれ判定S305にて、レーダの軸ずれを検知したのちに、軸ずれレーダの判別S307にて、第一にレーダの壁検知情報に出力データの信頼度を付与する。次に、信頼度の高い壁検知情報を正として、信頼度の低い壁検知情報に軸ずれが生じたとして、軸ずれが生じたレーダを判別する。
【0060】
例えば、図2のような車両構成に加えて、車両脇を監視するレーダ(側方レーダ)を車両側方に設置したとする。この場合、前方レーダと側方レーダ間で検知範囲が重複する領域(以下、この重複した領域を共通領域と呼称する)が生まれる。この共通領域内において、前方レーダと側方レーダは同じ物標に対してそれぞれ検知情報を取得するため、それら検知情報の差分はレーダの検知精度未満に収まるといえる。したがって、共通領域内で検知した壁検知情報の差分がレーダの検知精度未満に収まった場合、前方レーダと側方レーダ共に同じような軸のずれ方をしている可能性は低いことから、壁検知情報の信頼性は高いとして、信頼度を加算する。
【0061】
そして、信頼度の高いレーダの壁検知情報を正として考えることで、信頼度が相対的に低いもう一方のレーダの壁検知情報を生み出したレーダに、軸ずれが生じたと判定することができる。
【0062】
信頼度付与の方法は本手法の限りではなく、例えばレーダ以外の他のセンサーの検知情報とのAND条件から信頼度を付与する、などの手法も考えられる。
【0063】
(軸ずれ量推定および補正S309:軸ずれ量推定・補正部189)
軸ずれ量推定および補正S309では、軸ずれが生じていた場合に、軸ずれレーダの判別S307にて判明した、軸ずれが生じているレーダの軸ずれ量(軸ずれ角度)の推定および補正を行う。レーダの軸ずれ量189aと壁検知の直線ないし平面の傾きのずれ量189bとの関係を図6に示す。
【0064】
図6は、後方左角レーダ100cを所定角度θで設置したとして、反時計回り方向に角度φの軸ずれが生じた場合を仮定して描画している。図6より、レーダの軸ずれ量189aと壁検知の直線ないし平面の傾きのずれ量189bは等しいため、レーダの軸ずれ量は壁検知の直線ないし平面の傾きのずれ量から推定することができる。
【0065】
物標検知情報の補正の際には、物標検知位置と速度ベクトルを、推定したレーダの軸ずれ量189a分だけ(反対方向に)回転させることで、見かけ上の軸ずれの補正が可能である。
【0066】
<作用効果>
以上で説明したように、本実施例のレーダ信号処理部(レーダ信号処理装置)105は、車両に搭載された複数のレーダからの信号を処理するものであって、前記複数のレーダのうち第一のレーダからの信号により前記車両の周囲の物標を検知し、前記複数のレーダのうち第二のレーダからの信号により前記物標を検知する物標検知部170と、前記第一のレーダおよび前記第二のレーダで前記物標が検知された時間差と、前記第一のレーダおよび前記第二のレーダで検知された前記物標までの距離(から求まる傾き)の差に基づいて、前記物標が同一か否かを判定する物標判定部183と、前記物標が同一であると判定された場合に、前記第一のレーダおよび前記第二のレーダで検知された前記物標までの距離(から求まる傾き)の差に基づいて前記第一のレーダまたは前記第二のレーダの軸ずれを検知する軸ずれ検知部185と、を備える。
【0067】
また、前記物標までの距離は平面を表すデータであって、前記第一のレーダで検出された平面と前記第二のレーダで検出された平面の角度(傾き)の差に基づいて、前記第一のレーダまたは前記第二のレーダの軸ずれを検知する。
【0068】
また、前記複数のレーダのそれぞれに出力データの信頼度が付与され、前記軸ずれが検知された場合、前記信頼度に基づいて前記第一のレーダまたは前記第二のレーダのいずれが軸ずれを起こしているかを判定する。
【0069】
本実施例によれば、各レーダが検知した物標情報である壁検知情報の傾き、および検知時刻、それぞれの情報を比較することで、前述した軸ずれの検知、および軸ずれ量の推定と補正が可能である。言い換えれば、複数レーダの物標情報である壁検知情報および検知時刻の比較によるレーダ軸ずれ検知と軸ずれ量推定が可能となる。
【0070】
<変形例>
図7にレーダ100aとレーダ100cの検知範囲が一部分重複したときのイメージ図を示す。
【0071】
図7に示す例では、レーダ100aとレーダ100cの検知範囲が一部分重複しているが、本実施例では、図7に示すような共通領域の有無に関わらず、レーダの軸ずれ検知が可能である。
【0072】
特許文献1として挙げた公知例は、共通領域において各レーダで同じ物標を観測し、その観測した情報を比較することでレーダの軸ずれを検知している。同じ物標を観測するという点では本実施例でも同様であるが、直線ないし平面の傾きという座標によらない相対的な情報を比較していること、検知時刻の差分を既知の値(実施例1で述べたΔt)と比較すること、上記二点の比較により、共通領域が無かったとしても同じ物標を各レーダで観測することを可能としている。
【0073】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0074】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0075】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0076】
100:レーダ装置
100A:検知情報(レーダ装置)
100a:前方左角レーダ
100b:前方右角レーダ
100c:後方左角レーダ
100d:後方右角レーダ
100’:他レーダ装置
100A’:検知情報(他レーダ装置)
101:送信部
103:受信部
105:レーダ信号処理部(レーダ信号処理装置)
110:送受信制御部
120:変調処理部
130:送信アンテナ
140:受信アンテナ
150:復調処理部
160:周波数解析部
170:物標検知部
180:エイミング処理部
181:適用条件判定部
183:物標判定部
185:軸ずれ検知部
187:軸ずれレーダ判別部
189:軸ずれ量推定・補正部
189a:レーダの軸ずれ量
189b:壁検知の直線ないし平面の傾きのずれ量
200:ECU(車両制御部)
300:CANバス
500:車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7