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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】浮上絶縁構造物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023124074
(22)【出願日】2023-07-31
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】成島 慶
(72)【発明者】
【氏名】太田 愛子
(72)【発明者】
【氏名】立崎 大貴
(72)【発明者】
【氏名】田中 潤
(72)【発明者】
【氏名】星野 隼人
(72)【発明者】
【氏名】山田 崇人
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳明
(72)【発明者】
【氏名】河井 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】森清 宣貴
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特許第5944194(JP,B2)
【文献】特許第6967235(JP,B1)
【文献】特開平9-14339(JP,A)
【文献】特開平9-151623(JP,A)
【文献】特開平11-171086(JP,A)
【文献】特開2006-233735(JP,A)
【文献】特開平1-198923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/36
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物本体が水槽躯体内部に設置され、前記水槽躯体内部の水の浮力を利用して前記構造物本体を浮上させることで地盤と絶縁するようにした浮上絶縁構造物であって、
前記浮上絶縁構造物は、
前記構造物本体の外周部に設置され、前記構造物本体を浮上させるための浮体と、
前記浮体に作用する浮力と反対方向の緊張力を加えるための浮力調節手段と、
を備えており、
通常時は、前記浮力調節手段により前記浮体を引き下げることで、構造物本体に作用する浮力を抑えて、前記構造物本体を前記水槽躯体内に接地させることができ、
地震時または水害時には、前記浮力調節手段の前記浮体に対する緊張力を緩めることで、構造物本体が浮上するようにした
ことを特徴とする浮上絶縁構造物。
【請求項2】
請求項1記載の浮上絶縁構造物において、
前記浮力調節手段は、
前記浮体に接続したワイヤー部材と、
前記ワイヤー部材の巻き取り長さを調節して緊張力の導入および緊張力を緩めるためのウインチと、
を備えていることを特徴とする浮上絶縁構造物。
【請求項3】
請求項2記載の浮上絶縁構造物において、
前記浮体は構造物本体と分離された構造体からなり、
前記ウインチによって前記ワイヤー部材に緊張力を導入している状態では、前記構造物本体と実質的に分離されており、
前記ウインチにより前記ワイヤー部材を巻き出して緊張力を緩めることで、前記構造物本体の外周部に形成された浮体接触部と接触し、前記浮体に作用する浮力を前記構造物本体に作用させるようにしてあることを特徴とする浮上絶縁構造物。
【請求項4】
請求項1記載の浮上絶縁構造物において、
前記浮体は、前記浮体の外郭を構成する鉄骨フレームと、
前記鉄骨フレームの内側に設けられ、空気が封入されているタンクと、
を備えていることを特徴とする浮上絶縁構造物。
【請求項5】
請求項1記載の浮上絶縁構造物において、
前記構造物本体の下部に設けられた基礎躯体に、前記構造物本体の自重を調整する荷重調整水を溜める空間を設けてある
ことを特徴とする浮上絶縁構造物。
【請求項6】
請求項1記載の浮上絶縁構造物において、
前記構造物本体に地震を感知する地震センサーが設けられている
ことを特徴とする浮上絶縁構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物本体を水槽躯体内に設け、水の浮力を利用して浮上させ、地盤と絶縁することで、地震などの災害時に構造物本体への影響が小さくなるようにした浮上絶縁構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、構造物の地震対策として、地震動の揺れに耐える耐震構造や地震動の揺れを逃がす免震構造が考えられてきた。その他、地震動の揺れから隔離する構造として、絶縁構造がある。絶縁構造とは、地盤と建物の縁が切れた状態であり、地震による揺れが建物に伝わりにくいようにしたものである。
【0003】
また、絶縁構造の種類としては、建物を空気による浮揚させるもの、磁気により浮上させるものなどがある。しかし、空気による浮揚は、浮上力不足が課題となっており、磁気による浮上は水平方向が不安定になるため、側面を支える必要があり、完全な絶縁とはならない。そこで、構造物に水の浮力を利用したものが開発されており、例えば特許文献1~6記載の発明がある。
【0004】
特許文献1には、流体中に浮揚することにより免震性を有する浮体式免震構造物が記載されている。浮体式免震構造物は、構造物本体と、該構造物本体の底部を上面とし、該底部から鉛直下方向に延びる隔壁により囲われる複数に分割された空気室とよりなり、前記空気室内の底部近傍には、流体面に接するように膜が設けられて前記空気室が密閉されているとともに、前記空気室内が、空気を連通し鉛直方向に分割される層構造となっている。
【0005】
特許文献2には、地中に設置されて上方を開口するように側壁および底面を備え、かつ高潮浸水の流入口を開口している容器構造のプール基礎の内部に、上部に建家を建築している台船型の浮体を収容すると共に、この前記台船型の浮体と前記プール型基礎の間に、浮体が上下方向のみに可動自在で水平方向に移動しないアンカー装置を設けて、プール型基礎が浸水状態となった時に浮体を鉛直上方にのみ浮上させて、前記アンカー装置により浮体の流水による水平方向流動を阻止するように構成する耐高潮建築物であって、該アンカー装置が基礎と一体で鉛直方向に延長されたガイド壁と、浮体側面が当接することにより、浮体の浸水による水平方向流動を阻止する様に構成されたことを特徴とする耐高潮建築物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、地盤の凹部内に設けられた底盤及びこの底盤周縁に立設された側壁を有する周囲構造体と、前記周囲構造体の内側に貯留された液体と、平面形状が円形もしくは六角形以上の多角形を呈し、その上部は前記液体上面より上に出た浮力構造体と、前記浮力構造体の上部に構築された上部構造体(以下、当該上部構造体と前記浮力構造体とを合わせて「本体構造物」と呼ぶ)と、前記浮力構造体もしくは前記上部構造体と前記周囲構造体もしくは前記地盤との間に設けられ、前記本体構造物を鉛直軸廻りに回転させる回転駆動機構とを備え、前記浮力構造体に作用する前記液体による浮力が前記本体構造物の総重量と等しくなる深さ以上に前記液体が前記周囲構造体内に貯留され、前記本体構造物が前記液体中に浮上し、かつ鉛直軸廻りに回転可能であることを特徴とする建築構造物が開示されている。
【0007】
特許文献4には、高地下水位地盤を掘り込んで通水性壁体を設け、周囲地盤の地下水と連通する地下水を貯水したプール内に前記地下水の水位の変動に追従して昇降可能に周囲地盤の一部に係留された函体基礎を浸漬して浮かせたことを特徴とする浮体式免震構造が開示されている。
【0008】
特許文献5には、流体中に浮揚することにより免震性を有する浮体式免震構造物であって、該浮体式免震構造物は、構造物本体と、該構造物本体の側方に設けられた空気室とよりなり、該空気室が、前記構造物本体の外壁より水平に取り付けられた張出スラブと、該張出スラブの先端部より鉛直下方向に延びる隔壁とより構成されることを特徴とする浮体式免震構造物が開示されている。
【0009】
特許文献6には、液槽と、その内部の液体に浮かべた浮体とにより、浮体上の構造物又は各種機器や装置等の免振を行う浮体式免振装置において、弾力性を有する柔かな物質による円筒体又は円柱状体を上記浮体の支持体として用い、その支持体を液槽と浮体の両方に当接して液槽内に配置し、浮体の両側を弾力的に係留してなることを特徴とする浮体式免振装置における浮体の弾性係留方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4134210号公報
【文献】特開第2007-192007号公報
【文献】特開第2007-085071号公報
【文献】特許第3870371号公報
【文献】特許第3894476号公報
【文献】特開第2003-021192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1記載の発明は、免震ピット内の流体による浮力を利用したもので、構造物本体の底部より下方に、隔壁により囲われる複数の空気室が形成され、空気室内の底部近傍に膜を設けて空気室を密閉している。地震等が生じた際に流体に生じるエネルギーを空気室に取り付けられた膜が吸収するが、構造物が不安定であり、傾きが生じる可能性がある。
【0012】
特許文献2記載の発明は、建家を有する台船型の浮体をプール基礎の内部に収容したもので、浮体と基礎の間にアンカー装置を設け、浸水状態では浮体を鉛直上方にのみ浮上させ、水平方向流動を阻止する。アンカーで上下方向のみ可動できる構造であるため、絶縁構造ではなく、人が居住する住宅程度の規模を対象としたものである。
【0013】
特許文献3記載の発明は、液体が貯留される周囲構造体と、浮力構造体と、上部構造体とからなり、浮力構造体に作用する浮力が本体構造体の総重量と等しくなるようにしている。また、本体構造物が液体中に浮上した状態で鉛直軸廻りに回転可能であり、回転式高層ビルやマンションを想定している。
【0014】
特許文献4記載の発明は、高地下水位地盤に通水性壁体を設け、連通する地下水を貯水したプール内に地下水の水位の変動に追従して昇降可能に係留された函体基礎を浮かせた浮体式免震構造で、函体基礎の上に橋脚や上部工が設けられている記載があり、橋梁基礎構造などの建物基礎に組み込まれる想定をしている。
【0015】
特許文献5記載の発明は、構造物本体の側方に空気室を設けた浮体式免震構造物であり、空気室は構造物本体の外壁から水平に取り付けられた張出スラブと、その張出スラブの先端部から鉛直下方向に延びる隔壁とから構成されている。特許文献1記載の発明のように構造物本体の下部ではなく、側部に空気室が設けられているため、構造物全体の重心点の位置が下方に下がり、安定感が増すかもしれないが、空気室のメンテナンス作業は難しい。
【0016】
特許文献6記載の発明は、液槽内の浮体の係留に弾力性を有する柔らかな物質による円筒体又は円柱状体を浮体の支持体として用いているが、固定部分がなく、浮体に働く浮力に対してあまり検討されていないため、この浮体の上部に構造物を設けた場合に大きく下降することが考えられる。
【0017】
本発明は、水槽内部に浮体を備えた構造物を設けることによって、地盤と絶縁した状態で、構造物本体を水の浮力を利用して浮上させ、地震などの災害時に構造物本体への影響が小さくなるようにした浮上絶縁構造物を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る浮上絶縁構造物は、構造物本体が水槽躯体内部に設置され、前記水槽躯体内部の水の浮力を利用して前記構造物本体を浮上させることで地盤と絶縁するようにした浮上絶縁構造物であって、前記浮上絶縁構造物は、前記構造物本体の外周部に設置され、前記構造物本体を浮上させるための浮体と、前記浮体に作用する浮力と反対方向の緊張力を加えるための浮力調節手段と、を備えており、通常時は、浮力調節手段により前記浮体を引き下げることで、構造物本体に作用する浮力を抑えて、前記構造物本体を前記水槽躯体内に接地させることができ、地震時または水害時には、前記浮力調節手段の前記浮体に対する緊張力を緩めることで、構造物本体が浮上するようにしたことを特徴とするものである。
【0019】
本発明の浮上絶縁構造物は、構造物本体を水槽躯体内部に設置するもので、地盤と絶縁することによって、地震の揺れから離した構造となっている。構造物本体には、浮力調節手段によって浮体を繋いでいる。浮力調節手段は、浮体に作用する浮力と反対方向の緊張力を加えるためのものであり、浮体を引き下げることで浮体の浮力を小さくしたり、浮体にかける緊張力を弱めて浮体を浮上させたりすることができる。浮体の浮上を調節することによって、構造物本体にかかる浮力を調節することができる。
【0020】
通常時は、浮体の浮力が構造物本体の重量よりも小さくなるように、浮力調節手段で調節して浮体を引き下げることで、構造物本体は浮上することなく、水槽躯体に接地している。地震時または水害時は、浮力調節手段によって浮体の浮力が構造物本体の重量よりも大きくなるように浮体に対する緊張力を緩めて、構造物本体が浮上する。
【0021】
また、本発明の浮上絶縁構造物における浮力調節手段は、前記浮体に接続したワイヤー部材と、前記ワイヤー部材の巻き取り長さを調節して緊張力の導入および緊張力を緩めるためのウインチと、を備えているとよい。
【0022】
浮力調節手段は、浮体の位置を上下移動させることで、浮体の浮力を調節できる構造が好ましい。本発明では、ワイヤー部材を用いて、浮体を構造物本体に接続し、繋いだワイヤー部材の巻き取り長さをウインチで調節することで、緊張力を導入したり、緩めたりできるようにするとよい。
【0023】
また、本発明の浮上絶縁構造物における浮体は構造物本体と分離された構造体からなり、前記ウインチによって前記ワイヤー部材に緊張力を導入している状態では、前記構造物本体と実質的に分離されており、前記ウインチにより前記ワイヤー部材を巻き出して緊張力を緩めることで、前記構造物本体の外周部に形成された浮体接触部と接触し、前記浮体に作用する浮力を前記構造物本体に作用させるようにしてあるとよい。
【0024】
ウインチによってワイヤー部材を巻き取って緊張力を導入している状態では、浮体による浮力の作用が抑制されて構造物本体と浮体が実質的に分離されている。一方、ウインチによりワイヤー部材を巻き出すことで緊張力を緩めると、浮体が浮上して構造物本体の外周部に形成した浮体接触部と接触し、構造物本体に浮体の浮力を作用させることができる。
【0025】
本発明の浮上絶縁構造物における浮体は、浮体の外郭を構成する鉄骨フレームと、前記鉄骨フレームの内側に設けられ、空気が封入されているタンクと、を備えているとよい。浮体は、例えば、空気を封入したタンクを鉄骨フレームで囲って外郭を構成したものであれば、鉄骨フレームによってタンクが保護されて耐久性も保たれる。
【0026】
また、本発明の浮上絶縁構造物において、前記構造物本体の下部に設けられた基礎躯体に、前記構造物本体の自重を調整する荷重調整水を溜める空間を設けてあるとよい。構造物本体の下部に設けられた基礎躯体を複数個の空間に分けて、構造物本体の自重を調整するための荷重調整水を溜める空間として用いることもできる。また、その空間を浮力を補うための空気タンクとして用いてもよい。
【0027】
本発明の浮上絶縁構造物の構造物本体に地震を感知する地震センサーが設けられているとよい。地震センサーを設けて、浮力調節手段と連動させておけば、地震発生時に、すぐに浮力調節手段で浮体を浮上させて、構造物本体を浮上させることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、以上のような浮上絶縁構造物であるので、以下のような効果がある。
【0029】
(1)通常時は、浮力調節手段によって浮体に緊張力を導入して浮体を引き下げることで、構造物本体に作用する浮力を抑えて、構造物本体を水槽躯体内に接地させるため、常時浮上させる場合に比べ、構造物本体を安定した状態で支持することができ、風や波浪の影響も少なくすることができる。また、地震時または水害時には、浮力調節手段によって、浮体に対する緊張力を緩めることで構造物本体に対し浮体の浮力が加算され、構造物本体を浮上させることで地盤と絶縁し、地震力や水害からの影響を回避することができる。
【0030】
(2)浮力調節手段を構造物本体と浮体を繋ぐワイヤー部材と、ワイヤー部材の巻き取り長さを調節するウインチとで構成することで、ワイヤー部材の緊張力の導入および緩めることにより、構造物本体に作用する浮力の調節を容易に行うことができる。
【0031】
(3)構造物本体の外周部に浮体接触部を設けることによって、地震時または水害時に浮上した浮体が浮体接触部と接触し、浮体の浮力を構造物本体に作用させて構造物本体を浮上させることができる。また、浮体が流れてしまうことを防ぐこともできる。
【0032】
(4)構造物本体に地震センサーを設置し、浮力調節手段と連動させれば、地震発生時に、すぐに浮力調節手段で浮体を浮上させて、構造物本体を浮上させることができ、迅速な対応が図れる。
【0033】
(5)既存河川などを利用することで、地下部分の掘削量や排土を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係る浮上絶縁構造物の一実施形態を示したイメージ図であり、(a)は通常時、(b)は地震時を示したものである。
図2】本発明に係る浮上絶縁構造物の一実施形態を示した平面図である。
図3】本発明に係る浮上絶縁構造物の一実施形態を示した断面図であり、(a)は通常時、(b)は地震時、(c)は水害時を示したものである。
図4】本発明に係る浮上絶縁構造物において、浮体による復原力の説明図であり、(a)は通常時の静止状態、(b)は傾斜発生時の状態である。
図5】本発明に係る浮上絶縁構造物に用いる浮体の構造の一実施形態を示したものであり、(a)は正面図、(b)は(a)の直交方向の図である。
図6】本発明に係る浮上絶縁構造物を運河に設置した場合のイメージ図である。
図7】本発明に係る浮上絶縁構造物の施工方法を示したイメージ図である。
図8図7の実施形態の次のステップを示したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る浮上絶縁構造物1の一実施形態を示したイメージ図である。本発明の浮上絶縁構造物1は、構造物本体2が水槽躯体3の内部に設置されており、例として地上3階建てとした。構造物本体2の側方には浮体接触部9が設けられている。構造物本体2下部の基礎躯体4の空間は、空気タンク10として使用することもできる。この実施例では地震センサー12を基礎躯体4に設置している。
【0036】
通常時は、図1(a)に示したように、浮体5と浮体接触部9は離れた状態である。浮力調節手段によって、ワイヤー6に緊張力を導入して、浮体5の浮上位置を引き下げて、構造物本体2に浮力がかからないようにしており、基礎躯体4の底部が水槽躯体3に接地している。
【0037】
地震時に地震センサー12で地震を感知すると、図1(b)に示したように、浮体5の浮上位置を調節していたワイヤー6の緊張力を緩めて、浮体5に浮力が働いて浮かび上がり、浮体接触部9に接触して構造物本体2を浮上させる構造になっている。
【0038】
図1では地震センサー12を基礎躯体4に設置しているが、地震センサー12は構造物本体1に作用する地震を感知することができれば、どこに設置してもよい。また、浮体接触部9は浮体5が水面より上に浮かび上がり、流れてしまうのを防ぐ役目もある。
【0039】
図2は、本発明に係る浮上絶縁構造物1において、構造物本体2に浮体5を設けた部分を示した平面図である。例として、建物規模は鉄骨造の地上3階地下1階建、主要用途は店舗を想定したものである。柱と柱の間を7~7.2mとし、構造物本体の断面は、49m×14.4mとした。構造物本体から水槽躯体3までの水平距離は、4.3m程度とした。構造物本体2は水槽躯体3の中に設置されており、構造物本体2の周囲を取り囲むように浮体5を設けている。浮体5の量は構造物本体2に浮力が作用する量であればよく、浮体5を取り付ける部分も浮力が構造物本体2に作用すればどこでもよい。
【0040】
図3は、本発明に係る浮上絶縁構造物1の一実施形態を断面図で示したものである。例として基礎躯体4の上に地下1階地上3階建ての構造物本体2で、各フロアの床の幅は14.4m、高さは2.75~3.9m程度とし、厚みが80~90cmの水槽躯体3の中に設置されている。基礎躯体4は、幅を14.4m、高さを2.1mと設定した。4つの空間に分かれており、2つを空気タンク10として使用し、もう2つには荷重調整水11を入れ、構造物本体2の自重を調整している。また、地下1階に地震センサー12を設置している。
【0041】
構造物本体2の側方には、水平に延びた浮体接触部9があり、浮体接触部9の下部にウインチ7を取り付けている。浮体5と構造物本体2を繋ぐワイヤー6は、浮体接触部9のウインチ7から、水槽躯体3底部に設けた滑車8を通って浮体5に繋がれている。
【0042】
図3(a)は通常時の浮上絶縁構造物1の状態を示している。通常時は、ウインチ7でワイヤー6に緊張力を導入して固定し、浮体5を所定の浮上高さにすることで浮体5によって加算される浮力を小さくしている。あるいは浮体5によって加算される浮力を0とすることができる。また、基礎躯体4に設けた2つの空間には荷重調整水11を入れている。構造物本体2の重量よりも構造物本体2自体の浮力と浮体5によって加算される浮力の合計を小さくすることで、構造物本体2を水槽躯体3底部に接地するようにし、風圧などによって振動することのない安定した状態にある。
【0043】
図3(b)に、地震時の浮上絶縁構造物1の状態を示した。構造物本体2内に設置した地震センサー12によって地震を感知すると、ウインチ7が作動してワイヤー6に働いていた緊張力を緩めることで、ワイヤー6が引き出されて長くなる。すると、浮体5が浮上して、浮体接触部9に接触することで、浮体5に作用している浮力が加算されて、構造物本体2がわずかに浮上し、地盤と絶縁される。この時の合計の浮力は構造物本体2の重量よりも大きくなっている。
【0044】
図3(c)に、水害時の浮上絶縁構造物1の状態を示した。水害時などで水位が急激に上がった場合には、水位に対応した適度な高さに構造物本体2を浮上させる必要がある。ウインチ7を作動させることで、浮体5を繋いでいるワイヤー6の緊張力を調整し、ワイヤー6を引き出して長くする。浮上した浮体5が浮体接触部9に接触することで、浮体5に作用している浮力を加算し、図3(c)のような適度な高さに構造物本体2を浮上させて、地盤と絶縁させる。
【0045】
また、例えば地上側と構造物本体2を繋ぐような係留装置などを設けて、構造物本体2の流失防止をしておくことで、浸水等による被害を受けず、建物機能を維持できる。例えば地域の防災拠点として活躍することも考えられる。
【0046】
図4は、本発明に係る浮上絶縁構造物1において、浮体5による復原力を示した概略図である。(a)はウインチ7によってワイヤー6に緊張力を導入し、所定の浮上高さでワイヤー6の長さを固定しており、構造物本体2が安定した静止状態である。
【0047】
図4(b)は浮上時に風圧などの外力により構造物本体2に傾斜が生じた場合を示している。傾斜発生時に、浮上側は浮体5が引き下げられ、構造物本体2から離れることで浮力が減少するとともにウインチ7に下向きの力が発生する。沈下側は浮力が押し下げられ、水中にある部分が増えるため浮力が増加する。図のように浮体の浮力が変化することによって、ウインチ7をアクティブに制御することなく復原力が発生し、浮上時にも安定性が期待できる。
【0048】
図5には、本発明に係る浮上絶縁構造物1に用いられる浮体5の構造の一実施形態を示した。例えば、浮体5を鉄骨フレーム13と空気の封入されたタンク14で構成する。タンク14を鉄骨フレーム13の外郭で囲むことで、タンク14を保護し、耐久性を保持することができる。ここで示した1ユニットの浮体5は、長さ3.0m×4、高さ3.0m、幅が0.6mのものを想定している。
【0049】
平常時には、浮体5はワイヤー6によって水中に引き下げられており、浮体5の浮力とワイヤー6の引張力が釣り合っている。地震時の浮上安定時には、構造物本体2に設けた浮体接触部9に接触し、構造物本体2に浮力を追加することで浮上させる。この時、浮体5の浮力と浮体接触部9に作用する反力が釣り合っている。
【0050】
平常時および浮上安定時に鉄骨フレーム13を形成する鉄骨部材に作用する軸力から部材断面を決定する。図5の寸法に対して、例えば鉄骨部材を高さ100mm×幅50mm×ウェブ厚5mm×フランジ厚7.5mmの溝形鋼とすると、浮力に対する鉄骨重量の割合は5%程度であり、浮体の浮力を有効に利用できると考えられる。
【0051】
図6は、例として本発明に係る浮上絶縁構造物1を運河に用いた場合のアイデア図である。例えば、大阪は水都と呼ばれるように、海と川(運河)に恵まれた土地である。しかし、交通の発達により、運河の利用が激減しており、埋め立てが行われている。しかし、埋め立てるにも手間や費用がかかるため、埋め立てるのではなく、運河の整備を行い、水槽躯体を設けて、その内部に構造物本体を設けると、利用のなくなった既存河川や運河などを有効活用できてよい。例えば店舗などの商業施設などに利用できると考えられる。
【0052】
図7、8は、本発明に係る浮上絶縁構造物1を既存河川に施工する方法をイメージ図で示したものである。
(1)対象エリアとして示した水槽躯体を構築する箇所の手前から、仮設水路などによる河川の切り回しを行う。
(2)一旦、対象エリアへ流れ込む水を土のうや盛土などで堰き止める。
(3)河川側にて台船などを用いて、鋼管矢板を施工し、施工ヤードを囲う。
(4)河川側の地盤改良を行い、施工ヤード内への地下水の流入を防止する。
(5)施工ヤード側で排水、ヘドロ浚渫、掘削を行う。
(6)地盤を浅層改良する。また、支持層が深い場合は、杭基礎を施工する。
(7)水槽躯体を築造する。
(8)構造物本体(浮上建物)を施工する。
【符号の説明】
【0053】
1…浮上絶縁構造物
2…構造物本体
3…水槽躯体
4…基礎躯体
5…浮体
6…ワイヤー
7…ウインチ
8…滑車
9…浮体接触部
10…空気タンク
11…荷重調整水
12…地震センサー
13…鉄骨フレーム
14…タンク
15…ワイヤー取付け部
16…浮体接触箇所
【要約】      (修正有)
【課題】水槽内部に設置した構造物本体を水の浮力を利用して浮上させ、地震などの災害時に構造物への影響が小さくなるようにした浮上絶縁構造物を提供する。
【解決手段】本発明に係る浮上絶縁構造物1は、構造物本体2が水槽躯体3内部に設置され、水槽躯体3内部の水の浮力を利用して構造物本体2を浮上させることで地盤と絶縁するようにしたものであり、構造物本体2の外周部に設置され、構造物本体2を浮上させるための浮体5と、浮体5に作用する浮力と反対方向の緊張力を加えるための浮力調節手段と、を備えている。通常時は、浮力調節手段により浮体5を引き下げることで、構造物本体2に作用する浮力を抑えて、構造物本体2を水槽躯体3内に接地させることができ、地震時または水害時には、浮力調節手段の浮体5に対する緊張力を緩めることで、構造物本体2を浮上させることができる。
【選択図】図3
図1
図2
図3
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図8