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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】姿勢センサーのキャリブレーション装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 21/00 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
G01P21/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023523769
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2021019836
(87)【国際公開番号】W WO2022249292
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】310021766
【氏名又は名称】株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【弁理士】
【氏名又は名称】竹居 信利
(72)【発明者】
【氏名】金子 徳秀
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-25791(JP,A)
【文献】特開2011-136813(JP,A)
【文献】特開2006-226680(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0178371(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105737855(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 15/00-21/02
G01C 17/00-19/72
G01C 25/00
G01R 33/00-33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
姿勢センサーのキャリブレーション装置であって、
前記姿勢センサーを収容する球体と、
第1の接触点で前記球体と接触し、当該第1の接触点を介して前記球体を回転させる動力を伝達する第1の動力伝達部と、
第2の接触点で前記球体と接触し、当該第2の接触点を介して前記球体を回転させる動力を伝達する第2の動力伝達部と、
前記第1の動力伝達部、及び前記第2の動力伝達部のそれぞれから動力を伝達させることで、前記球体の向きを変化させる制御装置と、
を備え、
前記第1の動力伝達部により生じる前記球体の回転は、前記第2の接触点を通る回転軸を中心とする回転であって、
前記第2の動力伝達部により生じる前記球体の回転は、前記第1の接触点を通る回転軸を中心とする回転である
ことを特徴とする姿勢センサーのキャリブレーション装置。
【請求項2】
請求項1に記載の姿勢センサーのキャリブレーション装置において、
前記第1の動力伝達部、及び前記第2の動力伝達部とともに前記球体を支持する支持部をさらに備え、
前記支持部と前記球体とが接触する接触点の摩擦係数は、前記第1の接触点、及び前記第2の接触点の摩擦係数よりも小さい
ことを特徴とする姿勢センサーのキャリブレーション装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の姿勢センサーのキャリブレーション装置において、
前記第1の動力伝達部は第1のモーターに連結され、
前記第2の動力伝達部は第2のモーターに連結され、
前記制御装置は、前記第1のモーター及び前記第2のモーターのそれぞれを駆動させて前記第1の動力伝達部、及び前記第2の動力伝達部から前記球体に動力を伝達させる
ことを特徴とする姿勢センサーのキャリブレーション装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の姿勢センサーのキャリブレーション装置において、
前記第1の動力伝達部、及び前記第2の動力伝達部は、前記第1の接触点と前記第2の接触点が前記球体の中心に対してなす角度が45度以上135度以下となるように配置されている
ことを特徴とする姿勢センサーのキャリブレーション装置。
【請求項5】
球体と、
第1の接触点で前記球体と接触し、当該第1の接触点を介して前記球体を回転させる動力を伝達する第1の動力伝達部と、
第2の接触点で前記球体と接触し、当該第2の接触点を介して前記球体を回転させる動力を伝達する第2の動力伝達部と、
を備えるキャリブレーション装置を用いる姿勢センサーのキャリブレーション方法であって、
前記姿勢センサーを前記球体内に収容するステップと、
前記第1の動力伝達部、及び前記第2の動力伝達部のそれぞれから動力を伝達させることで、前記球体の向きを変化させるステップと、
前記球体が複数の向きに向けられた状態における前記姿勢センサーの計測値を取得するステップと、
前記取得した計測値を用いて前記姿勢センサーのキャリブレーションパラメーターの値を算出するステップと、
を含むことを特徴とする姿勢センサーのキャリブレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、姿勢センサーのキャリブレーションを行うために用いられるキャリブレーション装置、及びキャリブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加速度センサーやジャイロセンサー、地磁気センサー、またこれらの機能を複合的に備える慣性計測装置(IMU)など、物体の向きや動きを検出するために用いられる各種の姿勢センサーが知られている。一般に、このような姿勢センサーを使用する際には、予めキャリブレーションを行ってその出力特性(バイアス値や感度など)を把握する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
姿勢センサーのキャリブレーションを行う際には、上下左右前後といったように3次元空間内の様々な向きに姿勢センサーを向けた状態で測定を行う必要がある。このように姿勢センサーを様々な方向に向ける作業を手作業で行うこととすると、手間が掛かったり、測定精度に問題が生じたりする。また、キャリブレーションに利用する装置の構成によっては、特定の向きに姿勢センサーを向けることが難しかったり、キャリブレーション時の測定結果に特定の傾向の誤差が含まれたりすることがある。
【0004】
本発明は上記実情を考慮してなされたものであって、その目的の一つは、比較的簡単に、かつ精度よく姿勢センサーのキャリブレーションを実現可能なキャリブレーション装置、及びキャリブレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る姿勢センサーのキャリブレーション装置は、前記姿勢センサーを収容する球体と、第1の接触点で前記球体と接触し、当該第1の接触点を介して前記球体を回転させる動力を伝達する第1の動力伝達部と、第2の接触点で前記球体と接触し、当該第2の接触点を介して前記球体を回転させる動力を伝達する第2の動力伝達部と、前記第1の動力伝達部、及び前記第2の動力伝達部のそれぞれから動力を伝達させることで、前記球体の向きを変化させる制御装置と、を備え、前記第1の動力伝達部により生じる前記球体の回転は、前記第2の接触点を通る回転軸を中心とする回転であって、前記第2の動力伝達部により生じる前記球体の回転は、前記第1の接触点を通る回転軸を中心とする回転であることを特徴とする。
【0006】
本発明の一態様に係る姿勢センサーのキャリブレーション方法は、球体と、第1の接触点で前記球体と接触し、当該第1の接触点を介して前記球体を回転させる動力を伝達する第1の動力伝達部と、第2の接触点で前記球体と接触し、当該第2の接触点を介して前記球体を回転させる動力を伝達する第2の動力伝達部と、を備えるキャリブレーション装置を用いる姿勢センサーのキャリブレーション方法であって、前記姿勢センサーを前記球体内に収容するステップと、前記第1の動力伝達部、及び前記第2の動力伝達部のそれぞれから動力を伝達させることで、前記球体の向きを変化させるステップと、前記球体が複数の向きに向けられた状態における前記姿勢センサーの計測値を取得するステップと、前記取得した計測値を用いて前記姿勢センサーのキャリブレーションパラメーターの値を算出するステップと、を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施の形態に係るキャリブレーション装置を正面側から見た様子を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係るキャリブレーション装置を背面側から見た様子を示す斜視図である。
図3】動力伝達部と球体の位置関係を示す平面図である。
図4】姿勢センサーのキャリブレーションの流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0009】
図1及び図2は、本発明の一実施形態に係るキャリブレーション装置1を模式的に示す斜視図であって、図1は正面側、図2は背面側から見た様子を示している。キャリブレーション装置1は、姿勢センサー10をキャリブレーションするために用いられる装置であって、球体20と、台座30と、支持部31と、モーター32a及び32bと、動力伝達部33a及び33bと、駆動回路34と、制御装置40と、を含んで構成されている。
【0010】
本実施形態において、キャリブレーションの対象となる姿勢センサー10は、加速度、及び回転の角速度を計測可能な慣性計測装置であることとする。具体的に姿勢センサー10は、互いに直交する3つの基準軸であるX軸、Y軸、及びZ軸のそれぞれについて、その基準軸に沿って加わる加速度、及びその基準軸を回転中心とした回転の角速度を計測し、その結果を示す信号を出力するものとする。すなわち、本実施形態において姿勢センサー10は計6個の計測値を出力する。姿勢センサー10の計測値に基づいて加速度や各速度の真の値を知るためには、これら6個の計測値のそれぞれについて、真の値が0の場合に出力されるバイアス値(オフセット値)、及び真の値の変化に応じた計測値の比例定数に相当する感度(スケールファクター)の2種類の数値を予め把握する必要がある。そのため本実施形態では、姿勢センサー10のキャリブレーションを予め実行することによって、6個の計測値のそれぞれについてのバイアス値及び感度を特定するものとする。
【0011】
また、姿勢センサー10が加速度、及び角速度それぞれの計測を行う基準となる3つの基準軸は互いに直交していることが理想だが、実際には正確に直交しておらず、軸ずれが生じていることがある。このような姿勢センサー10を使用する場合、加速度の計測系、及び角速度の計測系のそれぞれについて、どの方向にどの程度の軸ずれが生じているかを予め特定し、実際の使用時にはその軸ずれを考慮して計測値を補正する必要がある。そこで本実施形態では、このような軸ずれの向き及び大きさを示すパラメーターもキャリブレーションによって特定するものとする。なお、以下では以上説明したようにキャリブレーションによって特定されるバイアス値や感度、軸ずれ量などのパラメーターを総称してキャリブレーションパラメーターと表記する。
【0012】
本実施形態において姿勢センサー10は、センサー基板11に搭載されているものとする。センサー基板11には、姿勢センサー10とともに制御回路12、及び通信回路13が搭載されている。制御回路12はマイクロプロセッサ等であって、キャリブレーションの実行中、姿勢センサー10が出力する計測結果を取得し、通信回路13を介して制御装置40に対して送信する。通信回路13は、制御装置40との間で無線通信を行うための通信モジュールである。本実施形態において姿勢センサー10の計測結果は、無線通信によってリアルタイムで制御装置40に対して送信される。
【0013】
球体20は、その表面が略凹凸のない球状になっており、内部に姿勢センサー10を収容するための空間が設けられている。例えば球体20は、プラスティック製のカプセルなどであってよい。
【0014】
キャリブレーションの対象となる姿勢センサー10が搭載されたセンサー基板11は、球体20の内部に収容される。具体的に、姿勢センサー10は球体20内において固定され、その球体20に対する相対的な位置や向きがキャリブレーションの実行中に変化しないように維持される。センサー基板11は、例えば球体20の内壁に固定されてよい。なお、姿勢センサー10は球体20内の任意の位置に固定されてよいが、キャリブレーションの精度を高めるためには、球体20の中心Oよりも外表面に近い位置に配置することが好ましい。また、球体20内には、センサー基板11を支持したり固定したりするための部材が含まれてよい。
【0015】
台座30は、球体20を支持するための台であって、水平面と略平行になるように、かつ水平面に対する位置や傾きがキャリブレーションの実行中に変化しないように、卓上などに配置される。台座30には、支持部31、モーター32a、及びモーター32bが固定されている。
【0016】
支持部31は、その先端で球体20を支持するための部材であって、台座30から上方に突出するように配置されている。支持部31の先端は、球体20と接触する部分の面積が小さく、球体20との間の摩擦係数が小さくなることが望ましい。そのため本実施形態では、支持部31の先端はプラスティック等の素材によって球状に形成されており、その表面の一点で球体20と接するようになっている。以下では支持部31の先端が球体20と接触する点を接触点Pと表記する。
【0017】
モーター32a及び32bは、互いに対向するように台座30上に固定されており、後述する駆動回路34から入力される駆動信号に従って動作する。モーター32a及び32bは、各種のモーターなどであってよい。ただし、モーター32a及び32bの駆動を停止させる際に振動が生じたり、停止中にトルクによる振動が生じたりすることは望ましくない。そこで、このような振動が生じにくいステッピングモーターなどのモーターを採用することが望ましい。
【0018】
動力伝達部33a及び33bは、いずれも円板状の形状を有しており、互いに同じ大きさを有している。動力伝達部33aの中心にはモーター32aの回転軸が連結されており、動力伝達部33aはモーター32aの駆動によってその回転軸を中心に回転する。同様に、動力伝達部33bの中心にはモーター32bの回転軸が連結されており、動力伝達部33bはモーター32bの駆動によってその回転軸を中心に回転する。なお、以下では必要に応じて、モーター32a及び32bをまとめてモーター32と表記し、動力伝達部33a及び33bの二つをまとめて動力伝達部33と表記する。これらの動力伝達部33を回転させることで、キャリブレーションを実行する際に、姿勢センサー10を収容する球体20を回転させて任意の向きに向けることができる。球体20の回転制御の詳細については、後述する。
【0019】
駆動回路34は、モーター32a及び32bを駆動させるための制御回路である。駆動回路34は有線又は無線で制御装置40と接続されており、制御装置40からの制御命令を受け付ける。そして、モーター32a及び32bのそれぞれに対して、制御命令に応じて決まる量だけ動力伝達部33を回転させる駆動信号を出力する。
【0020】
制御装置40は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置であって、キャリブレーション作業者の指示などに基づいてキャリブレーションの実行制御を行う。具体的に制御装置40は、駆動回路34に対して制御命令を出力することによってモーター32a及び32bのそれぞれを駆動させる。これにより制御装置40は、後述するように球体20の向きを任意の向きに変化させることができる。また、制御装置40は、キャリブレーション実行中に姿勢センサー10が出力する計測値のデータを無線通信によって通信回路13から受信する。そして、この計測値のデータを用いてキャリブレーションパラメーターの値を算出する。
【0021】
以下、球体20の回転制御について説明する。キャリブレーションを実行する際、球体20は、支持部31、動力伝達部33a、及び動力伝達部33bのそれぞれと接触し、これらの部材によって支持される。ただし、球体20は、これらの部材のいずれとも接着されているわけではなく、単にこれらの部材の上に載せられた状態になる。具体的に各動力伝達部33は、その側面の、連結されたモーター32側と反対側の一点で球体20を支持する。以下では、球体20が動力伝達部33aと接する位置を接触点P、動力伝達部33bと接する位置を接触点Pと表記する。すなわち、球体20は接触点P、P、及びPの3点で支持されることとなる。
【0022】
図3は、動力伝達部33a及び33bと球体20との間の位置関係を示す図であって、キャリブレーション装置1を上方から見た平面図である。同図に示されるように、モーター32a及び32bの回転軸は略同一直線上に配置されており、動力伝達部33a及び33bは互いに平行に、かつ対向するように配置されている。また、動力伝達部33a及び33bは互いに同じ大きさであって、その水平面に対する高さが互いに等しくなるように配置されている。さらに、動力伝達部33a及び33bは、接触点P及びPが球体20の中心Oに対して略直角をなすように配置されている。すなわち、角POPが略直角になるように動力伝達部33a、動力伝達部33b、及び球体20の位置関係が決定されている。
【0023】
接触点P、P、及びPは、いずれも球体20の中心Oよりも鉛直下方(すなわち、台座30側)に位置し、平面視においてその内部に中心Oを含む三角形を形成している。さらに、本実施形態において支持部31の接触点Pは、接触点P及び接触点Pから略等しい距離になるように配置されている。すなわち、三角形Pは二等辺三角形になっている。そして、点Pから線分Pに下ろした垂線が、平面視において中心Oと重なっている。
【0024】
各動力伝達部33の側面は、球体20との間の摩擦係数が大きくなるような材質により構成されている。具体的に、動力伝達部33と球体20との間の接触点P及びPの摩擦係数は、少なくとも支持部31と球体20との間の接触点Pの摩擦係数よりも大きくなる。例えば動力伝達部33の側面は、ゴムなどのように支持部31の先端部分よりも弾性が大きい素材によって形成されてよい。これにより、動力伝達部33と球体20との間の摩擦係数を大きくするとともに、モーター32の駆動によって生じる振動は球体20に伝達しにくくすることができる。
【0025】
接触点P及びPの摩擦係数を大きくすることにより、どちらかのモーター32を駆動させて連結された動力伝達部33を回転させると、その回転が球体20に伝達され、球体20が回転する。このとき、前述したように球体20は接触点Pを含む3点で支持されているので、その位置は変化せず、その場で回転することになる。すなわち、キャリブレーションの実行中、球体20が回転しても、その中心Oの3次元空間内における位置は変化しない。
【0026】
具体的に、モーター32aによって動力伝達部33aが回転すると、接触点Pから球体20を回転させようとする動力が伝達される。ここで、接触点Pの摩擦係数より接触点Pの摩擦係数が大きいため、球体20は接触点P上を滑る一方で接触点Pでは滑らず、図3において矢印A1で示されるように、接触点Pと球体20の中心Oを通る回転軸R1を中心に回転する。同様に、モーター32bを駆動させた場合、動力伝達部33bの回転が接触点Pから球体20に伝達される。その結果、図3において矢印A2で示されるように、球体20は接触点Pと中心Oを通る回転軸R2を中心に回転する。なお、キャリブレーションの実行中、制御装置40はモーター32a及び32bを同時に動作させることはなく、常にどちらか一方のみを動作させることとする。このように、それぞれのモーター32を動作させることで、制御装置40は球体20を2つの回転軸に沿って回転させることができる。
【0027】
ここで、モーター32の回転量に対して球体20がどの程度回転するかは、動力伝達部33の半径と球体20の半径の比率によって予め求められる。そのため制御装置40は、この比率に応じて計算される角度の分だけ各モーター32を回転させることによって、球体20を回転軸R1及びR2のそれぞれに沿って目標とする回転量だけ回転させることができる。
【0028】
前述したように、角POPは略直角になるように配置されているので、2つの回転軸R1及びR2は略直交する。そのため、回転軸R1を中心とした回転と回転軸R2を中心とした回転を組み合わせることで、制御装置40は球体20を全天周どの向きにも向けることができる。これにより、球体20内に固定されている姿勢センサー10も任意の向きに向けることができる。なお、角POPは厳密に直角にならずとも、互いに交差する2軸に沿って球体20を回転させることができれば、任意の向きに球体20を向けることができる。しかしながら、効率的に球体20の向きを変化させるためには角POPが直角に近いことが望ましく、その角度は少なくとも45度以上135度以下の範囲とすることが望ましい。
【0029】
なお、本実施形態では姿勢センサー10の計測結果を無線通信によって制御装置40に送信するので、球体20自体にはケーブル等が接続されていない。そのため、球体20がどのような向きに向けられてもその動きが阻害されることはない。
【0030】
以下、このキャリブレーション装置1を用いた姿勢センサー10のキャリブレーションの流れについて、図4のフロー図を用いて説明する。まずキャリブレーション作業者は、キャリブレーション対象となる姿勢センサー10を搭載したセンサー基板11を球体20内に固定することで、姿勢センサー10を球体20内に収容する(S1)。そして、姿勢センサー10を収容した球体20を支持部31、動力伝達部33a、及び動力伝達部33bの上に配置する(S2)。
【0031】
その後、制御装置40がキャリブレーションのための計測制御を開始する。具体的に、まず制御装置40は、制御回路12に対して姿勢センサー10の計測開始を指示する(S3)。この計測開始のタイミングが、一連の計測制御における基準時点となる。この基準時点以降、必要な計測が終了するまで、制御回路12は姿勢センサー10の計測結果を継続的に取得し、取得した計測結果を通信回路13経由で制御装置40に送信する。
【0032】
続いて制御装置40は、S2で配置されて球体20が静止した状態を所定時間維持したまま、姿勢センサー10の計測結果を取得する(S4)。この最初の状態が、キャリブレーションにおける基準状態となる。なお、このとき水平面に対して姿勢センサー10がどのような向きにあるかを制御装置40は予め把握する必要はなく、姿勢センサー10がどのような向きにあってもその状態を基準とした姿勢の変化を考慮して制御装置40はキャリブレーションパラメーターを推定することができる。つまり、制御装置40は、計測対象となるパラメーターの計測中における真の値を知ることなく、キャリブレーションを行うことができる。
【0033】
その後、制御装置40は、球体20を目標の向きに向けるよう回転させる(S5)。具体的に制御装置40は、駆動回路34に対して制御命令を出力することによって、モーター32a又は32bを動作させ、連結された動力伝達部33を回転させる。このとき制御装置40は、前述したように、モーター32a及び32bを両方同時に動かさずに、常にいずれか一方のみを動作させることとする。モーター32a及びモーター32bのいずれか一方を動作させるか、あるいは両方のモーター32を順に一つずつ動作させることによって、2方向の回転の組み合わせによって制御装置40は球体20を任意の向きに向けることができる。
【0034】
その後、制御装置40は、S5の回転制御が終了し、球体20が目標の向きに到達した状態で、球体20を所定時間以上静止させる(S6)。この状態における計測値は、所定の向きにおいて姿勢センサー10が検知する重力加速度を示している。
【0035】
制御装置40は、姿勢センサー10の計測結果の取得を継続しながら、以上説明したS5及びS6の制御を予め定められた回数だけ繰り返す(S7)。このとき制御装置40は、新たな球体20の目標の向きを過去のS5の制御で目標とした向きとは異なる向きになるように決定する。これにより制御装置40は、互いに異なる複数の向きに姿勢センサー10を向けた状態で姿勢センサー10の計測値を取得することができる。
【0036】
S5及びS6の制御を予め定められた回数だけ繰り返すと、制御装置40は姿勢センサー10の計測制御を終了する(S8)。ここまでの計測制御により、制御装置40は、基準時点以降の各時点において、駆動回路34に対する制御命令の内容から推定される姿勢センサー10の状態(基準状態を基準とした姿勢センサーの向き及び回転の角速度)とその時点の姿勢センサー10の計測結果との組み合わせからなる時系列データを得ることができる。
【0037】
最後に制御装置40は、S3からS8までの計測制御を実行中に取得した姿勢センサー10の計測値の時系列データを用いて、姿勢センサー10のキャリブレーションパラメーターの値を算出する(S9)。このキャリブレーションパラメーターの算出処理自体は、公知のアルゴリズムによって実現可能である。互いに異なる様々な向きに姿勢センサー10を向けた状態で計測を行った結果を用いることで、精度よくキャリブレーションパラメーターの値を求めることができる。
【0038】
キャリブレーションの対象となった姿勢センサー10を搭載した端末装置を製造する際には、以上説明した手順によって算出されたキャリブレーションパラメーターの値を、その端末装置内に記録する。その端末装置を実際に使用する際には、記録されたキャリブレーションパラメーターの値を用いて、姿勢センサー10の計測値から計測対象となるパラメーターの真の値を算出する。
【0039】
以上説明した本実施形態に係るキャリブレーション装置1によれば、キャリブレーションに必要な計測制御を自動化し、手間をかけずに比較的再現性の高い計測を行うことができる。また、本実施形態では、回転軸R1及びR2の2軸の回転によって姿勢センサー10の姿勢を変化させているが、これらの回転を実現する駆動系は互いに独立しているため、累積誤差が生じず、計測精度を高めることができる。
【0040】
本発明の実施の形態は、以上説明したものに限られるものではない。例えば以上の説明においては、姿勢センサー10は、加速度及び回転の角速度の双方を計測する慣性計測装置であることとした。しかしながら、本発明の実施の形態に係るキャリブレーション装置1が対象とする姿勢センサーはこのようなものに限られず、その向きや動きを計測する各種のセンサーであってよい。例えば姿勢センサーは、加速度を計測する加速度センサーや、回転の角速度を計測するジャイロセンサーや、地磁気を計測する地磁気センサーなどであってよい。
【0041】
また、キャリブレーションによって算出するキャリブレーションパラメーターの種類についても、以上説明したものに限られない。例えばセンサーの種類によっては、以上説明したパラメーターの一部のみを求めることとしてもよいし、さらにより多くの数値を求めることとしてもよい。
【0042】
また、以上の説明では、制御回路12は姿勢センサー10の計測結果をつど無線通信で制御装置40に対して送信することとしたが、これに限らず制御回路12は、キャリブレーションの実行中に姿勢センサー10が出力する計測結果を外部に送信せずに蓄積することとしてもよい。この場合、上述したように球体20を回転させてキャリブレーションに必要な計測制御を完了した後に、球体20内からセンサー基板11を取り出し、その内部に蓄積された計測結果を利用してキャリブレーション値を算出する。この場合、通信回路13をセンサー基板11に搭載する必要はない。
【0043】
また、以上の説明では制御装置40は、モーター32a及び32bの回転量から球体20の回転方向及び回転量を決定し、キャリブレーションパラメーターの算出に用いることとした。しかしながら、接触点Pや接触点Pで滑りが生じるなどして、モーター32の回転量から算出される球体20の回転量と実際の球体20の回転量との間にずれが生じる可能性もある。そこで制御装置40は、別の手段でキャリブレーションの実行時における球体20の現実の回転方向及び回転量を特定し、その特定結果を用いてキャリブレーションパラメーターの値を算出してもよい。例えば球体20の表面に識別用のマーカーを複数配置し、制御装置40はカメラを用いてそのマーカーの動きを特定することとしてもよい。この場合、球体20を撮影可能な位置にカメラを設置し、キャリブレーションの実行中、制御装置40はカメラによる撮影画像をリアルタイムで取得する。そして、画像認識によってその撮影画像に写っているマーカーの位置を特定し、計測制御中のマーカーの動きを追跡する。これにより、実際の球体20の回転の向きや回転量を精度よく特定することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 キャリブレーション装置、10 姿勢センサー、11 センサー基板、12 制御回路、13 通信回路、20 球体、30 台座、31 支持部、32a及び32b モーター、33a及び33b 動力伝達部、34 駆動回路、40 制御装置。
図1
図2
図3
図4