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特許7546784アンモニア分解用触媒、その製造方法及びそれを用いた水素生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】アンモニア分解用触媒、その製造方法及びそれを用いた水素生産方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/10 20060101AFI20240830BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20240830BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B01J37/10
C01B3/04 B
B01J23/63 M
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023553134
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 KR2022003391
(87)【国際公開番号】W WO2022197013
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】10-2021-0033563
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510256159
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ホ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨンミン
(72)【発明者】
【氏名】レ、ティン アン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョン-ラン
(72)【発明者】
【氏名】キム、テ ワン
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0322622(US,A1)
【文献】特開2016-064407(JP,A)
【文献】特開2018-001096(JP,A)
【文献】特開2010-207783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 3/00 - 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水、アルコール、アンモニア分解用活性金属前駆体及び金属酸化物を含む混合物を準備するステップと、
(b)前記混合物から水とアルコールの混合溶媒を用いた溶媒熱合成によって固形物を得るステップと、
(c)前記得られた固形物を乾燥させるステップと、を含み、
前記(a)ステップのアンモニア分解用活性金属前駆体の含有量は、金属酸化物100重量部に対して1重量部~20重量部であり、前記水に対するアルコールの体積比は、0.5~1.5であり、
前記(b)ステップの溶媒熱合成は、120℃~200℃で行うことを特徴とする、アンモニア分解用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロール、グリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブタンジオール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタジオール及び1,2-ヘキサジオールよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載のアンモニア分解用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記(a)ステップのアンモニア分解用活性金属は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、バナジウム(V)、銅(Cu)、クロム(Cr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ジルコニウム(Zr)及びカルシウム(Ca)よりなる群から選択された少なくとも1種の金属であることを特徴とする、請求項1に記載のアンモニア分解用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記(a)ステップの金属酸化物は、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、イットリア(Y)、酸化セリウム(CeO)、酸化ランタン(La)、マグネシア(MgO)、酸化タングステン(WO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化銅(CuO、CuO)、酸化バリウム(BaO)の中から選択された少なくとも1種の金属酸化物、またはこれらのうちの2種以上の金属酸化物の複合酸化物または固溶体であることを特徴とする、請求項1に記載のアンモニア分解用触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアンモニア分解用触媒の製造方法で製造され、金属酸化物上に担持されたアンモニア分解用活性金属を含むことを特徴とするアンモニア分解用触媒を用いてアンモニアから水素を生産する水素生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア分解用触媒、その製造方法及びそれを用いた水素生産方法に関し、より詳細には、向上した活性と高いアンモニア転換率を示すアンモニア分解用触媒、その製造方法及びそれを用いた水素生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を効率よく貯蔵及び輸送する方法の1つは、アンモニアを水素供給源として使用することである。アンモニアを水素と窒素に分解する工程は吸熱過程であるため、生成物を得るためにはエネルギーが必要である。従来の触媒分解反応は、有用な量の水素ガスを得るために大量の熱を必要とし、これにより水素の生産に多くの費用がかかる。
2NH→3H+N(吸熱反応)・・・(1)
アンモニア分解触媒は、アンモニアを窒素と水素に分解する触媒である。これまで提案されてきたアンモニア分解触媒を用いて高純度の水素を得るには、非常に高い反応温度が必要である。
【0003】
また、アンモニアを用いた水素生産システムにおいて、アンモニア分解反応器の後ろに連結される残留アンモニア吸着塔の効率性を極大化するためには、残留アンモニアの濃度をppm単位に維持させなければならないので、高性能触媒の開発が重要である。
【0004】
したがって、高い活性を有する触媒系について多くの研究が進められているが、現在まで知られているところによると、Ruが最も高いアンモニア転換率を示すと報告されている(非特許文献1及び2)。
【0005】
特許第6381131号公報(2018年8月10日登録)では、マグネシウム化合物とルテニウム化合物を水溶液中でアルカリ金属炭酸塩によって沈殿させ、乾燥、焼成、還元を経て製造することにより、高い比表面積を有し、30Å付近に細孔径分布のピークを有する塩基性炭酸マグネシウムを含む担体にルテニウムが均一に担持されたルテニウム担持触媒を開示している。
【0006】
また、韓国公開特許第10-2021-0007699号公報(2021年1月20日公開)では、セリウム前駆体を焼成してセリウム担体を製造した後、前記セリウム担体100重量部に対してルテニウムが1~10重量部で含まれるようにルテニウム前駆体を担持、乾燥及び焼成させて製造することにより、高い活性度を有するルテニウムがセリウム格子内に置換されて結合した構造を有するアンモニア分解による水素生産用触媒を開示している。
【0007】
ところが、これらの特許は、触媒に他の活性物質を追加したり担体を変形させたりする方法によってRuの触媒活性を向上させようと試みており、本発明のようなRu触媒の製造方法を変えて触媒の活性を向上させる試みではない。
【0008】
本発明では、アンモニア分解用触媒の製造方法を改良し、既存の製法に比べて高いアンモニア分解活性を有する触媒の製造方法、及びそれによる触媒を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6381131号公報(2018年8月10日登録)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0007699号公報(2021年1月20日公開)
【非特許文献】
【0010】
【文献】Ganley et al.、Catalysis Letters、96(2004)117-122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の主な目的は、アンモニアを分解して水素を生成する反応において、触媒活性に優れる、高いアンモニア転換率を示すアンモニア分解用触媒を容易に製造することができるアンモニア分解用触媒の製造方法、その製造方法によって製造されたアンモニア分解用触媒を提供する。
【0012】
また、本発明の目的は、前記アンモニア分解用触媒を用いてアンモニアから水素を効率よく生産することができる水素生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、(a)水、アルコール、アンモニア分解用活性金属前駆体及び金属酸化物を含む混合物を準備するステップと、(b)前記混合物を溶媒熱合成して固形物を得るステップと、(c)前記得られた固形物を乾燥させるステップと、を含むことを特徴とする、アンモニア分解用触媒の製造方法を提供する。
【0014】
本発明の好適な一実施形態において、前記アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロール、グリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブタンジオール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタジオール及び1,2-ヘキサジオールよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とすることができる。
【0015】
本発明の好適な一実施形態において、前記アンモニア分解用活性金属は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、バナジウム(V)、銅(Cu)、クロム(Cr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ジルコニウム(Zr)及びカルシウム(Ca)よりなる群から選択された少なくとも1種の金属であることを特徴とすることができる。
本発明の好適な一実施形態において、前記(a)ステップの金属酸化物は、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、イットリア(Y)、酸化セリウム(CeO)、酸化ランタン(La)、マグネシア(MgO)、酸化タングステン(WO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化銅(CuO、CuO)、酸化バリウム(BaO)の中から選択された金属酸化物、またはこれらのうちの2種以上の金属酸化物の複合酸化物または固溶体であることを特徴とすることができる。
【0016】
本発明の好適な一実施形態において、前記(a)ステップは、水に対するアルコールの体積比が0.5~1.5であることを特徴とすることができる。
【0017】
本発明の好適な一実施形態において、前記(b)ステップの溶媒熱合成は、120℃~200℃で行うことを特徴とすることができる。
【0018】
本発明の他の実施形態は、上記のアンモニア分解用触媒の製造方法で製造され、金属酸化物上に担持されたアンモニア分解用活性金属を含むことを特徴とするアンモニア分解用触媒を提供する。
【0019】
本発明の好適な他の実施形態において、前記アンモニア分解用活性金属は、アンモニア分解用触媒の総重量に対して0.5重量%~5重量%で担持されていることを特徴とすることができる。
【0020】
本発明の別の実施形態は、アンモニア分解用触媒を用いてアンモニアから水素を生産する水素生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るアンモニア分解用触媒の製造方法は、アルコールが適用された溶媒熱合成方法を用いて触媒を製造することにより、触媒活性に優れる、高いアンモニア転換率を示す触媒を容易に製造することができる。
【0022】
また、前述の方法で製造されたアンモニア分解用触媒は、アンモニア分解反応において触媒活性に優れてアンモニア転換率を向上させることができ、高い温度及び長時間後でも長期安定性を示すことによりアンモニアから水素を効率よく生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係るアンモニア分解用触媒の概略製造工程図である。
図2】本発明の実施例1と比較例1~5で製造された触媒のアンモニア転換率測定結果グラフである。
図3】本発明の実施例1~18で製造された触媒のアンモニア転換率測定結果グラフであって、(a)~(c)は溶媒熱合成温度が固定された状態でアルコールを変化させて製造した触媒のアンモニア転換率測定結果であり、(d)~(f)はアルコールが固定された状態で溶媒熱合成温度を変化させて製造した触媒のアンモニア転換率である。
図4】本発明の実施例1及び19で製造された触媒のアンモニア転換率測定結果グラフである。
図5】本発明の実施例1、20~22で製造された触媒のアンモニア転換率測定結果グラフである。
図6】本発明の実施例1、23及び24で製造された触媒のアンモニア転換率測定結果グラフである。
図7】本発明の実施例1、25及び26で製造された触媒のアンモニア転換率測定結果グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
他に定義されない限り、本明細書で使用されたすべての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用されている命名法は、本技術分野でよく知られており、通常使用されるものである。
【0025】
本明細書に記載されている「備える」、「含む」、又は「有する」などの用語は、明細書上に記載されている特徴、数値、ステップ、動作、構成要素、部品又はこれらの組み合わせが存在することを指すものであり、言及されていない他の特徴、数値、ステップ、動作、構成要素、部品又はこれらの組み合わせが存在又は付加される可能性を排除しない。
【0026】
本発明は、ある観点において、(a)水、アルコール、アンモニア分解用活性金属前駆体及び金属酸化物を含む混合物を準備するステップと、(b)前記混合物を溶媒熱合成して固形物を得るステップと、(c)前記得られた固形物を乾燥させるステップと、を含むことを特徴とするアンモニア分解用触媒の製造方法に関する。
【0027】
より具体的には、本発明者らは、アルコールが適用された溶媒熱合成方法を用いてアンモニア分解用触媒を製造した場合、製造された触媒の活性に優れるうえ、アンモニア転換率を向上させることができることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明では、アルコールが適用された溶媒熱合成方法を用いてアンモニア分解用触媒を製造する、アンモニア分解用触媒の製造方法を提供する。
【0028】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るアンモニア分解反応用触媒の製造方法の好適な実施例を詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係るアンモニア分解反応用触媒の製造方法の概略工程図である。
【0030】
図1を参照すると、本発明の一実施形態に係るアンモニア分解反応用触媒の製造方法は、まず、水、アルコール、アンモニア分解用活性金属前駆体及び金属酸化物を混合して混合物を得る[(a)ステップ]。
【0031】
前記(a)ステップで、水、アルコール、アンモニア分解用活性金属前駆体及び金属酸化物の混合は、一度に行ってもよく、それぞれ分けて添加してもよい。一例として、まず、水にアンモニア分解用活性金属前駆体を添加し、アルコールを混合した後、ここに金属酸化物を混合する方式で行ってもよい。
【0032】
前記アンモニア分解用活性金属は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、バナジウム(V)、銅(Cu)、クロム(Cr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ジルコニウム(Zr)及びカルシウム(Ca)よりなる群から選択された少なくとも1種の金属であってもよく、好ましくはルテニウムであってもよい。
【0033】
また、前記アンモニア分解用活性金属前駆体としては、前述した活性金属イオンを含む有機化合物及び無機化合物であれば制限なく適用することができ、好ましくは、アンモニア分解用活性金属はルテニウムであり、前記ルテニウムの前駆体物質としては、ルテニウム塩化物、ルテニウム室化物、ルテニウムアセチルアセトネート、ルテニウムヨウ化物などであってもよく、さらに好ましくは、RuCl・xHO、[Ru(NH]Clなどのルテニウム塩化物であってもよい。
【0034】
このとき、前記アンモニア分解用活性金属前駆体は、後述する金属酸化物100重量部に対して、1重量部~10重量部で混合することができる。もし、アンモニア分解用活性金属前駆体が金属酸化物100重量部に対して、1重量部未満で混合される場合には、アンモニア分解用活性金属担持量の減少によりアンモニア分解反応の活性が低下し、10重量部を超える場合には、アンモニア分解用活性金属担持量の増加により製造費用が高くなるとともに、アンモニア分解用活性金属粒子の凝集現象によりアンモニア分解反応の活性低下問題が発生することがある。
【0035】
また、アルコールは、前記アンモニア分解用活性金属粒子が凝集することを防止し、分散度を高めながらアンモニア分解用活性金属を還元させる役割であって、ヒドロキシ基が飽和炭素原子に結合した化合物であれば、制限なく適用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロール、グリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブタンジオール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタジオール及び1,2-ヘキサジオールよりなる群から選択される少なくとも1種であってもよく、好ましくはプロパノール、ジエチレングリコール、エチレングリコールであってもよい。
【0036】
このとき、前記アルコールは、水に対するアルコールの体積比が0.5~1.5であり、好ましくは1であり得る。もし水に対するアルコールの体積比が0.5未満である場合には、アンモニア分解用活性金属粒子が凝集することを防止することができず、かつ、アンモニア分解用活性金属の還元率が低下してアンモニア分解反応の活性低下が発生することがあり、1.5を超える場合には、反応時間が長くなったり結晶性が低下したりするという問題が発生することがある。
【0037】
また、本発明に係るアンモニア分解用触媒の製造方法は、アンモニア分解用活性金属ナノ粒子の分散を改善するために、アンモニア分解用活性金属前駆体及びアルコールと共に安定化剤をさらに混合することができる。
【0038】
前記安定化剤は、アンモニア分解用活性金属ナノ粒子の分散を改善するために用いられる水溶性重合体であり、様々な分子量を有する水溶性重合体が多様に適用できるが、アンモニア分解用活性金属ナノ粒子の分散改善の面で、好ましくは、重量平均分子量(Mw)が1,000Da~400,000Daであり、より好ましくは、重量平均分子量(Mw)は10,000Da~80,000Daであり得る。このとき、前記重量平均分子量は、常温でゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって測定された分子量である。
【0039】
前記安定化剤としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ビニルピロリドン含有共重合体、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリオキシエチレン、及びこれらの混合物であってもよく、アンモニア分解用活性金属ナノ粒子の分散改善の面でポリビニルピロリドンが有用である。
【0040】
このようにアルコールを混合してアンモニア分解用活性金属ナノ粒子を均一に分散させることにより、アンモニア分解用活性金属が担体上に均一に分散された触媒を製造することができる。
【0041】
一方、金属酸化物は、前記アンモニア分解用活性金属を均一に分散、支持する役割であって、高温のアンモニア脱水素化分解反応において強い触媒活性物質-担体体の相互作用により触媒活性物質粒子の凝集効果を制限することができ、アンモニア分解用活性金属に十分な電子密度を提供することができて触媒活性を向上させることができ、熱的安定性及び耐久性を向上させることにより、アンモニア分解活性の向上、特に長時間使用中における分解活性の持続性の向上に有効である。
【0042】
前記金属酸化物は、特に限定されないが、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、イットリア(Y)、酸化セリウム(CeO)、酸化ランタン(La)、マグネシア(MgO)、酸化タングステン(WO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化銅(CuO、CuO)、酸化バリウム(BaO)の中から選択された金属酸化物、またはこれらのうちの2種以上の金属酸化物の複合酸化物または固溶体であってもよく、好ましくは、酸化セリウム、酸化ランタン及びこれらの固溶体である。
【0043】
前記金属酸化物が混合された混合物は、金属酸化物上にアンモニア分解用活性金属が均一に分散できるように攪拌し、超音波処理を行うことができ、水酸化ナトリウム(NaOH)等の沈殿剤をさらに添加して触媒形成を促進させることができる。このとき、前記沈殿剤は、水酸化ナトリウム、アンモニア水、尿素、水酸化カリウムなどであってもよい。このとき、前記沈殿剤の量は、追加されたアンモニア分解用活性金属のモル当たり1~10モルであり得る。
【0044】
その後、前記混合物を溶媒熱(solvothermal)合成して固形物を得る[(b)ステップ]。
【0045】
前記溶媒熱合成は、120℃~200℃の温度で所定の時間、例えば4時間~24時間行うことができる。もし熱合成温度が120℃未満である場合には、低い反応温度により前駆体が十分に還元できないため収率が劣るという問題が発生するおそれがあり、200℃を超える場合には、高い温度により粒子が凝集したり大きくなったりするという問題が発生するおそれがある。
【0046】
前述したように溶媒熱合成されて反応物に沈殿した固形物を得て、真空オーブン、熱風、恒温恒湿、マイクロ波などの公知の方法及び装置を用いて十分に乾燥させてアンモニア分解用触媒を製造する[(d)ステップ]。
【0047】
また、乾燥後、さらに触媒を活性化させるために、水素やアンモニアなどの還元性ガスを用いて還元させることができる。
【0048】
本発明は、他の観点において、上記のアンモニア分解用触媒の製造方法で製造され、金属酸化物上に担持されたアンモニア分解用活性金属を含むことを特徴とするアンモニア分解用触媒、及び前記アンモニア分解用触媒を用いてアンモニアから水素を生産する水素生産方法に関する。
【0049】
本発明の製造方法で製造されたアンモニア分解用触媒は、アンモニア分解用活性金属の分散度が高くなり、アンモニア分解用活性金属と担持体金属酸化物との強い相互作用(SMSI)効果により触媒活性、熱的安定性及び耐久性が全て向上して、アンモニア分解反応においてアンモニア転換率を向上させることができ、高い温度及び長時間後でも長期安定性を示すことができる。
【0050】
前記アンモニア分解用触媒は、アンモニア分解用触媒の総重量に対して、アンモニア分解用活性金属が0.5重量%~5重量%で担持されてもよい。前記アンモニア分解用触媒において、アンモニア分解用活性金属がアンモニア分解用触媒の総重量に対して、0.5重量%未満で担持される場合には、活性点として作用するアンモニア分解用活性金属密度の減少によりアンモニア分解反応の活性が十分に高くならないという問題点が発生するおそれがあり、アンモニア分解用活性金属が5重量%を超える場合には、効果に比べて製造費用が高くなるという問題が発生するおそれがある。
【0051】
また、本発明に係る水素の生産方法は、金属酸化物上に担持されたアンモニア分解用活性金属を含む触媒を用いてアンモニア含有ガスを処理し、前記アンモニアを窒素と水素に脱水素化分解して水素を生産することができる。
【0052】
前記アンモニア分解用触媒は、400℃~500℃の温度で98%以上のアンモニア転換率を示すものであり、具体的には、500℃の温度で100%のアンモニア転換率を示すことができる。
【実施例
【0053】
以下、具体的な実施例によって本発明をより具体的に説明する。下記の実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲は、これに限定されるものではない。
【0054】
<実施例1:Alcohol-assisted Solvothermalを用いた触媒の製造>
脱イオン水35mlにRuCl・xHO(Sigma製、99.98%)0.04gを添加した後、エチレングリコール35ml(99.8%、Sigma製)を添加し、30分間撹拌した。次いで、前記混合物にCeO(Sigma製、99.95%)1.0gを前記混合物に添加し、30分間超音波処理した。その後、脱イオン水500mlにNaOH(Daegung製、97%、沈殿剤)10gが希釈された0.5M NaOH6mlを前記混合物に添加し、30分間撹拌した。前記攪拌された混合物を100mlのTeflon-lined autoclaveに移した後、160℃で加熱し、前記温度に8時間維持させて反応を行った。その後、生成された沈殿物を収集し、脱イオン水とエタノールで数回洗浄した後、真空オーブンにて110℃で12時間乾燥させて、ルテニウムが1.4wt%で担持されたアンモニア分解用触媒を製造した。
【0055】
<実施例2~18:Alcohol-assisted Solvothermalを用いた触媒の製造>
実施例1と同様の方法でアンモニア分解用触媒を製造するが、表1の条件で触媒を製造した。
【0056】
<実施例19:Alcohol-assisted Solvothermalを用いた触媒の製造>
脱イオン水35mlにRuCl・xHO(Sigma製、99.98%)0.04gを添加した後、エチレングリコール35ml(99.8%;Sigma製)を添加し、30分間撹拌した。次いで、前記混合物にポリビニルピロリドン(PVP、Sigma製、average mol wt 40,000)0.21gを添加し、30分間攪拌した後、CeO(Sigma製、99.95%)1.0gを前記混合物に添加し、30分間超音波処理した。その後、脱イオン水500mlにNaOH(Daegung製、97%、沈殿剤)10gが希釈された0.5M NaOH6mlを前記混合物に添加し、30分間撹拌した。前記攪拌された混合物を100mlのTeflon-lined autoclaveに移した後、160℃で加熱し、前記温度に8時間維持させて反応を行った。その後、生成した沈殿物を収集し、脱イオン水とエタノールで数回洗浄した後、真空オーブンにて110℃で12時間乾燥させ、ルテニウムが1.4wt%で担持されたアンモニア分解用触媒を製造した。
【0057】
<実施例20~24:Alcohol-assisted Solvothermalを用いた触媒の製造>
実施例1と同様の方法でアンモニア分解用触媒を製造するが、表1の条件で触媒を製造した。
【0058】
【表1】
【0059】
<実施例25:Alcohol-assisted Solvothermalを用いた触媒の製造>
実施例1と同様の方法でアンモニア分解用触媒を製造するが、脱イオン水35mlにRuCl・xHO(Sigma製、99.98%)0.02gを添加した後、エチレングリコール35ml(99.8%、Sigma製)を添加し、30分間撹拌した。次いで、前記混合物にCeO(Sigma製、99.95%)1.0gを前記混合物に添加して、ルテニウムが0.7wt%で担持されたアンモニア分解用触媒を製造した。
【0060】
<実施例26:Alcohol-assisted Solvothermalを用いた触媒の製造>
実施例1と同様の方法でアンモニア分解用触媒を製造するが、脱イオン水35mlにRuCl・xHO(Sigma製、99.98%)0.2gを添加した後、エチレングリコール35ml(99.8%、Sigma製)を添加し、30分間撹拌した。次いで、前記混合物にCeO(Sigma製、99.95%)1.0gを前記混合物に添加して、ルテニウムが2.7wt%で担持されたアンモニア分解用触媒を製造した。
【0061】
<比較例1:Wet-impregnationを用いた触媒の製造>
脱イオン水50mlにRuCl・xHO(Sigma製、99.98%)0.04gを添加して30分間撹拌した。CeO(Sigma製、99.95%)1.0gを前記溶液に添加し、30分間撹拌し続けた。その後、前記混合物をRotavapor(R-205、Buchi)中で150rpmの撹拌速度にて60℃で4時間熟成した後、1時間、72mbarの圧力下に60℃で水蒸発によって固形物を得た。前記得られた固形物を110℃で12時間乾燥させた後、500℃にて3時間空気中でか焼させ、触媒の総重量に対してルテニウムが1.5wt%で担持されたアンモニア分解用触媒を製造した。
【0062】
<比較例2:Deposition-precipitationを用いた触媒の製造>
脱イオン水50mlに懸濁したCeO(Sigma製、99.95%)1.0gにRuCl・xHO(Sigma製、99.98%)0.04gを添加した。0.5M NHOH(脱イオン水にNHOH(Samchun製、28~30%)16.3mlを希釈して最終溶液0.5Lを得る)を用いて前記懸濁物のpHを9.0に調整した。前記生成された懸濁物を400rpmの速度で撹拌しながら室温で12時間熟成させて沈殿物を生成させた。前記生成された沈殿物を濾過によって分離した後、脱イオン水とエタノールで洗浄し、110℃で12時間乾燥させ、触媒の総重量に対してルテニウムが1.5wt%で担持されたアンモニア分解用触媒を製造した。
【0063】
<比較例3:Alcohol-refluxを用いた触媒の製造>
RuCl・xHO(Sigma製、99.98%)0.04gを撹拌の下に、エチレングリコール(Sigma製、99.8%)に添加した後、CeO(Sigma製、99.95%)1.0gを前記混合物に添加し、30分間撹拌し続けた。その後、前記混合物にNaOH(Daejung製、97%)0.12gを添加し、30分間撹拌し続けた後、160℃で3時間還流させた。前記生成された懸濁物を室温で400rpmにて撹拌しながら12時間熟成させて沈殿物を生成させた。前記生成された沈殿物を濾過によって分離した後、脱イオン水とエタノールで洗浄し、110℃で12時間乾燥させて、触媒の総重量に対してルテニウムが1.0wt%で担持されたアンモニア分解用触媒を製造した。
【0064】
<比較例4:ハイドロサーマル(Hydrothermal)を用いた触媒の製造>
脱イオン水50mlにRuCl・xHO(Sigma製、99.98%)0.04gを添加し、30分間攪拌した後、CeO(Sigma製、99.95%)1.0gを前記溶液に添加し、30分間攪拌し続けた。その後、前記混合物を75mlのTeflon-lined autoclaveに移し、160℃に加熱した後、8時間160℃を維持した。前記反応物で生成された沈殿物を収集し、脱イオン水とエタノールで数回洗浄した後、真空オーブンで110℃にて12時間乾燥させ、触媒の総重量に対してルテニウムが1.4wt%で担持されたアンモニア分解用触媒を製造した。
【0065】
<比較例5:ソルボサーマル(Solvothermal)を用いた触媒の製造>
実施例1と同様の方法でアンモニア分解用触媒を製造するが、脱イオン水を使用せず、エチレングリコール100vol%を用いて、ルテニウムが0.6wt%で担持されたアンモニア分解用触媒を製造した。
【0066】
<実験例1:製造方法による触媒のアンモニア転換率の測定>
実施例1と比較例1~5で製造された触媒を用いてそれぞれのアンモニア脱水素化分解反応を行うことにより、アンモニア転換率を測定した。前記測定では、常圧でアンモニア空間速度6,000ml/gcat./hと反応温度300℃、350℃、400℃、450℃及び500℃の条件下でアンモニア分解能を測定した。下記式1でアンモニア転換率を算出して表2及び図2に示した。
アンモニア転換率(%)=[(反応器入口のアンモニア濃度)-(反応器出口のアンモニア濃度)/(反応器入口のアンモニア濃度)]×100・・・(式1)
【0067】
【表2】
【0068】
表2及び図2に示すように、実施例1で製造された触媒の場合は、比較例1~5の触媒に比べて450℃以下の全範囲でアンモニア分解能に優れていることを確認することができた。
【0069】
<実験例2:アルコールによるアンモニア転換率の測定>
同様の条件下でアルコールの種類のみを異ならせて製造された実施例1~18の触媒を用いてそれぞれのアンモニア脱水素化分解反応を行うことにより、アンモニア転換率を測定した。前記測定では、常圧でアンモニア空間速度6,000ml/gcat./hと反応温度300℃、350℃、400℃、450℃及び500℃の条件下でアンモニア分解能を測定した。式1でアンモニア転換率を算出して表3及び図3に示した。
【0070】
【表3】
【0071】
表3及び図3に示すように、触媒の製造において適用されたアルコールの種類と合成温度によってアンモニア分解能が異なることが分かった。特に、合成温度120℃では、2-プロパノールを適用した実施例13の触媒はアンモニア転換率が高く、合成温度160℃では、ジエチレングリコールを適用した実施例5の触媒はアンモニア転換率が高く、合成温度200℃では、エチレングリコールを適用した実施例3の触媒はアンモニア転換率が高いことが分かった。同じアルコールを用い、合成温度を変えて製造された触媒の結果は、図3の(a)~(c)に示した。使用したアルコールの種類によって最適な合成温度が存在することを確認することができた。
【0072】
<実験例3:安定化剤の使用によるアンモニア転換率の測定>
同様の条件下で安定化剤の使用有無によって製造された実施例1及び19の触媒を用いてそれぞれのアンモニア脱水素化分解反応を行うことにより、アンモニア転換率を測定した。前記測定では、常圧でアンモニア空間速度6,000ml/gcat./hと反応温度300℃、350℃、400℃、450℃及び500℃の条件下でアンモニア分解能を測定し、式1でアンモニア転換率を算出して図4に示した。
【0073】
図4に示すように、安定化剤を使用した実施例19の触媒が、安定化剤を使用していない実施例1の触媒に比べて低温でのアンモニア転換率においてやや高かったが、高温になるほどアンモニア転換率が類似していることが分かった。よって、安定化剤を使用しないことが製造費用の観点で好ましいことが分かった。
【0074】
<実験例4:沈殿剤の使用によるアンモニア転換率の測定>
同様の条件下で沈殿剤の種類及び沈殿剤の使用有無によって製造された実施例の触媒を用いてそれぞれのアンモニア脱水素化分解反応を行うことにより、アンモニア転換率を測定した。前記測定では、常圧でアンモニア空間速度6,000ml/gcat./hと反応温度300℃、350℃、400℃、450℃及び500℃の条件下でアンモニア分解能を測定した。式1でアンモニア転換率を算出して図5に示した。
【0075】
図5に示すように、沈殿剤を使用していない実施例22の触媒が、沈殿剤を使用した実施例1、20及び21の触媒に比べて高いアンモニア転換率を示すことが分かった。沈殿剤の中では、尿素よりもNaOH及びNHOHを用いて製造された触媒のアンモニア転換率が高いことが分かった。
【0076】
<実験例5:合成条件によるアンモニア転換率の測定>
同様の条件下で合成時間によって製造された実施例の触媒を用いてそれぞれのアンモニア脱水素化分解反応を行うことにより、アンモニア転換率を測定した。前記測定では、常圧でアンモニア空間速度6,000ml/gcat./hと反応温度300℃、350℃、400℃、450℃及び500℃の条件下でアンモニア分解能を測定した。式1でアンモニア転換率を算出して図6に示した。
【0077】
図6に示すように、8時間溶媒熱合成して製造された実施例1の触媒が、2時間、24時間それぞれ溶媒熱合成して製造された実施例23と24の触媒に比べて高いアンモニア転換率を示すことが分かった。
【0078】
<実験例6:ルテニウム含有量によるアンモニア転換率の測定>
同様の条件下でルテニウム含有量を変えて製造された実施例の触媒を用いてそれぞれのアンモニア脱水素化分解反応を行うことにより、アンモニア転換率を測定した。前記測定では、常圧でアンモニア空間速度6,000ml/gcat./hと反応温度300℃、350℃、400℃、450℃及び500℃の条件下でアンモニア分解能を測定した。式1でアンモニア転換率を算出して図7に示した。
【0079】
図7に示すように、触媒の総重量に対してルテニウム含有量が0.7wt%から2.7wt%に増加するほどアンモニア転換率が高くなることを確認することができた。よって、本発明に係る触媒の製造方法で製造する場合、セリア支持体にRu金属を2.7wt%までは均一に分散させることができることを間接的に確認することができた。
【0080】
したがって、本発明に係るアンモニア分解用触媒は、アンモニア分解反応において触媒活性に優れてアンモニア転換率を向上させることができ、高い温度及び長時間後でも長期安定性を示すことを確認することができた。
【0081】
本発明は、上記の実施形態を参照して説明されたが、本発明の概念及び範囲内で互いに異なる実施形態を構成することもできる。よって、本発明の範囲は、添付された請求の範囲及びそれと同等のものによって定められ、本明細書に記載されている特定の実施形態によって限定されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7