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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ミクロ細孔性炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20240830BHJP
【FI】
C01B32/05
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023558680
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 EP2022056781
(87)【国際公開番号】W WO2022200140
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】102021107429.0
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523362043
【氏名又は名称】スケルトン テクノロジーズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】SKELETON TECHNOLOGIES GMBH
【住所又は居所原語表記】Schuecostrasse 8 01900 Grossroehrsdorf Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】オハネス イェギア オハネス,マルカリアン
(72)【発明者】
【氏名】クローゼ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァインガルツ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】レイス,ヤーン
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/118471(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/207593(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0148473(US,A1)
【文献】国際公開第1998/054111(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0117094(US,A1)
【文献】特許第2695703(JP,B2)
【文献】特表2006-513969(JP,A)
【文献】特表2004-513529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
H01M 4/00
H01M 10/00
H01G 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロ細孔性炭素材料を製造する方法であって、
a)流動床反応器内にて、800℃から1300℃までの温度で、ハロゲンガスまたはハロゲンガスを含むガス混合物を用いて粒状金属炭化物材料を流動化するステップ;
b)ステップa)で得られた生成物を、150℃から最大250℃までの温度にて、1ミリバールから300ミリバールまでの圧力で真空下に維持するステップと、
このステップb)の後に、またはこのステップb)に引き続いて、
c)水素ガスの雰囲気下で、または、ガス混合物の総体積に基づいて少なくとも30体積%の水素を含むガス混合物の雰囲気下で、800℃から1300℃までの温度に維持するステップと、
d)10μm~30μmのD90粒径および1.5μm~2μmのD10粒径までに粉砕するステップと、を含む方法。
【請求項2】
ステップa)が、ハロゲンガスまたは前記ガス混合物を用いて流動化した後、800℃から1300℃までの温度で、流動床反応器内にてパージガスを用いて流動化するステップを含み、パージガスは、この温度で少なくとも炭素と反応せず、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、およびキセノンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パージガスがアルゴンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属炭化物材料が、炭化バナジウム材料、炭化チタン材料、炭化モリブデン材料、炭化ケイ素材料、炭化タングステン材料、炭化タンタル材料、および炭化ニオブからなる群から選択されるか、または、
前記金属炭化物材料が炭化ケイ素材料であり、ハロゲンガスは塩素である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ステップa)において、ハロゲンガスは、化学量論的に必要な量の100%から110%までの量が供給される、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ステップb)において、真空が、5ミリバール~200ミリバール、または5ミリバール~80ミリバールある、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ステップa)は、8時間から13時間までの期間にわたって実施され、
ステップb)は、12時間から30時間までの期間にわたって実施され、
ステップc)は、2時間から4時間までの期間にわたって実行される、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ステップa)において、ハロゲンガスによる流動化は、9時間から11時間までの期間にわたって実行され、パージガスによる流動化は、1.5時間から2.5時間までの期間にわたって実行され、
ステップb)は、22時間から26時間までの期間にわたって実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップc)がステップd)の前に実行されるか、または、
ステップd)がステップc)の前に実行されるか、または、
ステップc)がステップd)の前に実行されてから、ステップc)が、より短い時間で再度実行される、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ステップb)が流動床反応器を使用して実施される、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ステップc)が、流動床反応器を使用して、またはロータリーキルンを使用して実行される、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ細孔性炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本件開示中にて使用される、マクロ細孔(macropores)、メソ細孔(mesopores)およびミクロ細孔(micropores)の用語は、IUPACによって採用された分類に基づいており、それによると、マクロ細孔は50nmを超える細孔径を有し、メソ細孔は2nmと50nmとの間の細孔径を有し、ミクロ細孔は直径が2nm未満の細孔径を有する。
【0003】
粒径は、本件開示中にて、液体媒体中でのレーザー回折によって測定される。界面活性剤といった補助材料が使用されうる。測定の評価は、ミー理論(Mie)および/またはフラウンホーファー回折理論(Fraunhofer)にしたがって実行されうる。
【0004】
金属炭化物材料からミクロ細孔性炭素材料を製造する方法は、例えば、WO98/54111A1およびUS8137650B2から知られている。
US2012/0148473A1は、金属および/または半金属を高温で高純度に熱化学エッチングすることによって金属炭化物から炭素を製造する方法を開示している。
S. Osswald、J. Chmiola, Y. Gogotsi, 「真空アニーリングによる炭化物由来炭素の構造進化」, CARBON、vol.50, no. 13, 2012?06?17, 4880~4886 pages, XP55938907, GB, ISSN: 0008?6223, doi:10.1016/j.carbon.2012.06.016は、炭化物由来炭素の高温処理を開示している。真空アニーリングは、1500℃まで細孔サイズに大きな変化を与えることなく、炭化チタン由来カーボンの細孔容積と表面積を増加させる。この処理により、サブナノメートルの細孔性と最大2000m /gまでの比表面積を備えた微孔質炭素が生成される。一方、1600℃を超える温度でサンプルを処理すると、黒鉛化とミクロ細孔構造の崩壊により細孔サイズが1nmを超えて増加する。この結果は、真空処理を用いて細孔構造をさらに調整できることを示している。したがって、炭化物由来の炭素の真空アニーリングは、気相または液相の活性化などの従来の微細構造変性の方法に代わる適切な方法である。
WO2017/207593A1は、気相活性化による初期多孔質炭素材料の物理的活性化を開示している。所定の表面積と細孔サイズを備えたナノ多孔質炭素材料を選択し、500℃~900℃の温度範囲で炭素を加熱し、水蒸気と反応させることで活性化する。
WO2005/118471A1は、細孔径分布が修正・変更されたミクロ細孔性炭素を製造する方法を開示している。炭素は、金属炭化物またはメタロイド(半金属)炭化物から由来し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ミクロ細孔性炭素材料は、電池及びスーパーキャパシタ(supercapacitor)の分野での応用に一般的な電極材料である。特に、細孔サイズが小さいほど、体積あたり電気容量(ファラド/cm)が大きくなるのに有利であることが知られている。しかし、通常の製造プロセスの問題は、合成温度の上昇にともなって細孔サイズが増大することである。
【0006】
しかしながら、反応中の温度が高いほど、反応がより速く進行し、したがって生産性が向上するので有利である。
【0007】
本発明の目的は、ミクロ細孔性炭素材料の改良された製造プロセスを開示することである。
【0008】
この目的は、独立請求項の対象(内容)によって達成される。好ましいさらなる実施形態は、従属請求項の対象(内容)である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ミクロ細孔性炭素材料を製造する方法を提供し、この方法は、以下のステップを含む:
a)流動床反応器内にて、ハロゲンガス、またはハロゲンガスを含むガス混合物を用いて800℃以上1300℃以下(両端の値を含む)の温度にて粒状金属炭化物材料を流動化するステップ、
b)ステップa)で得られた生成物を、150℃以上250℃以下の温度(両端の値を含む)にて、かつ1ミリバール以上300ミリバール以下(両端の値を含む)の圧力の真空下にて維持するステップ、
そして、ステップa)の後で、またはステップa)に引き続いて、
c)水素ガスの雰囲気下で、または、ガス混合物の総体積に対して少なくとも30体積%の水素を含むガス混合物の雰囲気下で、800℃以上1300℃以下(両端の値を含む)の温度に維持するステップ、及び、
d)10μm以上30μm以下(両端の値を含む)の粒径D90、及び1.5μm以上2μm以下(両端の値を含む)の粒径D10となるまで粉砕するステップ。
【0010】
好ましくは、ハロゲンガスは、少なくとも1つのハロゲン原子を含むガスである。HClおよびClがハロゲンガスの例である。
【0011】
好ましくは、ステップa)において、ガス混合物は、ハロゲンガスと、その温度で不活性である不活性ガスとからなる。
【0012】
好ましくは、ステップa)において、ガス混合物は、ハロゲンガスと、その温度で金属炭化物材料と反応する反応性ガスとからなる。
【0013】
好ましくは、ステップa)において、ガス混合物は、ハロゲンガス、不活性ガス、及び反応性ガスからなる。
【0014】
好ましくは、不活性ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、及びキセノンからなる群から選択される。好ましくは、不活性ガスはアルゴンである。
【0015】
好ましくは、反応性ガスは、一酸化炭素、二酸化炭素、及び水からなる群から選択される。
【0016】
好ましくは、ハロゲンガスは、少なくとも1つのハロゲン原子を含むガスである。HCl及びClがハロゲンガスの例である。
【0017】
好ましくは、ステップa)において、ガス混合物は、ハロゲンガスと、その温度で不活性である不活性ガスとからなる。
【0018】
好ましくは、ステップa)において、ガス混合物は、ハロゲンガスと、その温度で金属炭化物材料と反応する反応性ガスとからなる。
【0019】
好ましくは、ステップa)において、ガス混合物は、ハロゲンガス、不活性ガス、および反応性ガスからなる。
【0020】
好ましくは、不活性ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、およびキセノンからなる群から選択される。好ましくは、不活性ガスはアルゴンである。
【0021】
好ましくは、反応性ガスは、一酸化炭素、二酸化炭素、および水からなる群から選択される。
【0022】
好ましくは、金属炭化物材料は、10μmを超えて500μmまでを含む粒径D90を有し、好ましくは50μmを含み200μmまでの粒径D90を有し、より好ましくは120μmから180μmまでの粒径D90を有する。粒度分布は、単峰性(monomodal)または多峰性(multimodal)であり得るが、好ましくは二峰性(bimodal)である。
【0023】
好ましくは、ステップa)において、ハロゲンガスまたはガス混合物を用いて流動化した後、流動床反応器内でパージガスを用いて800℃以上1300℃以下(両端の値を含む)の温度で流動化する。ここで、前記温度にて、パージガスが、少なくとも炭素とは反応しない。
【0024】
好ましくは、ステップa)において、流動化中の温度は、900℃以上1200℃以下(両端の値を含む)、好ましくは1000℃以上1100℃以下(両端の値を含む)、好ましくは950℃以上1050℃以下(両端の値を含む)であり、好ましくは980℃以上1020℃以下(両端の値を含む)である。
【0025】
好ましくは、パージガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、およびキセノンからなる群から選択される。好ましくは、パージガスはアルゴンである。
【0026】
好ましくは、金属炭化物材料は、三元炭化物材料、炭化バナジウム材料、炭化チタン材料、炭化モリブデン材料、炭化ケイ素材料、炭化タングステン材料、炭化タンタル材料、および炭化ニオブ材料からなる群から選択される。好ましくは、金属炭化物材料は、VC、TiC、MoC、SiC、WC、TaC、およびNbCからなる群から選択される。好ましくは、金属炭化物材料は、炭化ケイ素材料またはSiCである。好ましくは、ハロゲンガスは塩素である。
【0027】
好ましくは、ステップa)において、ハロゲンガスは、化学量論的に必要な量の100%から110%まで(両端の値を含む)の量で供給される。好ましくは、ステップb)における真空は、化学量論的に必要な量の5ミリバール以上200ミリバール以下(両端の値を含む)である。
【0028】
好ましくは、ステップb)における真空は、5ミリバール以上200ミリバール以下(両端の値を含む)、好ましくは5ミリバール以上80ミリバール以下(両端の値を含む)、より好ましくは8ミリバール以上15ミリバール以下(両端の値を含む)、より好ましくは10ミリバールである。
【0029】
好ましくは、ステップa)は、8時間から13時間まで(両端の値を含む)の期間にわたって行われる。
【0030】
好ましくは、ステップb)は、12時間以上30時間以下(両端の値を含む)の期間にわたって行われる。
【0031】
好ましくは、ステップc)は、2時間以上4時間以下(両端の値を含む)の期間にわたって行われる。
【0032】
好ましくは、ステップa)において、ハロゲンガスまたはガス混合物による流動化は9時間から13時間まで(両端の値を含む)の期間にわたって実施され、パージガスによる流動化は1.5時間から2.5時間までの期間にわたって行われる。
【0033】
好ましくは、ステップa)において、ハロゲンガスまたはガス混合物を用いた流動化は、金属炭化物材料1キログラムあたり2.5時間~3.5時間の期間にわたって行われる。
【0034】
好ましくは、ステップb)は、22時間から26時間まで(両端の値を含む)の期間にわたって行われる。
【0035】
好ましくは、ステップb)は、22時間以上26時間以下(両端の値を含む)の期間にわたって行われる。
【0036】
好ましくは、ステップc)はステップd)の前に実行される。好ましくは、ステップd)はステップc)の前に実行される。好ましくは、ステップc)は、ステップd)の前に実行され、その後、ステップc)は、より短い期間にわたって、好ましくは15分以上の期間にわたって再び実行される。
【0037】
好ましくは、ステップb)は流動床反応器を使用して行われる。
【0038】
好ましくは、ステップc)は、流動床反応器を使用して、または管状キルンもしくはロータリーキルンを使用して行われる。
【0039】
本発明の1つのアイデアは、エネルギー貯蔵分野での応用のためにミクロ細孔性炭素材料を製造することである。特に、エネルギー貯蔵の用途に特に有用な細孔構造だけでなく、生成される炭素材料の量の増加も達成されるべきである。本発明は、金属炭化物材料をハロゲンガスで処理し、その反応によりミクロ細孔性炭素材料を製造するという基本原理に従う。このタイプの炭素材料は、「カーバイド由来カーボン」または略してCDCと呼ばれる。
【0040】
金属炭化物材料、例えば炭化ケイ素は、粒径が約150μmの顆粒として流動床反応器に供給される。
【0041】
好ましくは、粒子の90パーセントは150μm未満のサイズを有し、これは手短にいうと150μmのD90として知られる。原理的には、最大約500μmまでの他の粒子サイズも考えられる。流動床反応器内にて金属炭化物粉末の許容可能な流動化を達成するには、ガス流量を調整する必要がある。
【0042】
ハロゲンガス、例えば塩素による処理中に、金属は、金属炭化物材料から除去されるのであって、高温により、ガス状金属ハロゲン化物化合物として反応器から吹き出される。残るのは炭素材料であり、最終的にエネルギー貯蔵装置の製造に望ましい(複数の)特性を得るために、さらなるステップで処理する必要がある。これらの特性は、とりわけ、ポリマーのサイズ、粒子サイズ、カーボン表面の官能基によって影響される。
【0043】
反応器および材料から過剰なハロゲンガスを除去するために、流動床反応器は、高温でアルゴンなどの不活性ガスでパージされることが好ましい。
【0044】
有利には、ハロゲン処理および不活性ガスによるパージの後、炭素材料は真空下にて約250℃までの中程度の温度まで加熱される。このようにして、ハロゲン含有不純物を、炭素材料からさらに効果的に除去しうる。
【0045】
脱ハロゲン化された材料は、「ダングリングボンド(dangling bond)」としても知られる切断結合または不飽和結合を、まだ有しているのでありうる。材料を高温にて水素ガスで処理すると、切断された結合が飽和して効果的に除去される。したがって、結合の切断により、炭素材料上に望ましくない物質が集積する可能性を低減しうる。
【0046】
有利には、炭素材料は、スーパーキャパシタや二次電池などのエネルギー貯蔵セルの製造に使用される。特に、炭素材料はセルの電極の少なくとも1つに使用される。この目的のためには、「スラリー」としても知られる、炭素材料を含む微細な懸濁物ないしはスラリーを生成しうるのが有利である。この粒径により、いわゆるドライ電極の製造も可能になる。炭素材料は、水素ガスによる処理の前または後に、例えばボールミルまたはジェットミルなどの粉砕機でもって、粉砕されうる。
【0047】
粒子サイズD90が10μm~30μmの場合、実際には特に有用であることが証明されている。好ましくは、粒子は1.5μmを超え2μmまでの粒径D10を有するべきである。
【0048】
全体として、本件開示に記載のアイデアは、スーパーキャパシタおよび二次電池の製造に使用するのに適したミクロ細孔性炭素材料を製造するために使用されうる。本件開示に開示されるミクロ細孔性炭素材料は、3種類の細孔、すなわち、ミクロ細孔、メソ細孔およびマクロ細孔をすべて有する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】製造プロセスの概略フロー図を示す。
図2】合成後、サイズ縮小前における粒子断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図3】炭素材料の細孔サイズ分布の図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
実施形態の例について、添付の概略図を参照して、より詳細に説明する。
【0051】
以下、ミクロ細孔性炭素材料の製造方法の一実施形態を示す図1を参照する。
【0052】
この方法は、処理ステップS100を含む。処理ステップS100では、粒子状金属炭化物材料、例えば炭化ケイ素が、最初に流動床反応器に供給される。反応器は、したがって金属炭化物材料は、約1000℃の温度にまで加熱される。800℃より低い温度も考えられうる。加熱プロセスは、好ましくは1時間と1.5時間との間にわたって行われる。
【0053】
次に、金属炭化物材料は、ハロゲンガス、好ましくは塩素ガスによって流動化される。塩素ガスの体積流量(volumetric flow rate)は、化学量論的に必要な量の塩素ガスの約100パーセントから110パーセントが、流動層反応器を通って流れるように調整される。
【0054】
高温での流動化は、流動床反応器内にて、金属炭化物材料1キログラムあたり約2.5時間から3.5時間にわたって行われる。
【0055】
ハロゲン処理の完了後、流動層反応器は一定の高温でパージガスにより流動化される。パージガスは、1000℃の高温でもカーボンと反応しないガスである。好ましいパージガスは、例えばアルゴンである。パージガスは、複数の物質の混合物であってもよい。
【0056】
本件方法は、さらに、脱着ステップS102を含む。脱着ステップでは、前のステップで得られた生成物を流動床反応器から取り出し、約10ミリバールの低真空下に、好ましくは195℃~205℃の温度に維持する。このプロセス中に、材料から、過剰なハロゲンガスが放出される。材料から、ハロゲンガスが分離・分解して出て来ることから、粉末化された材料が目に見えて動くのでありうる。
【0057】
好ましくは、脱離ステップS102は、少なくとも、材料の目に見える動きが停止するまで実行される。さらに、約15分から30分の短い安全期間を脱着ステップS102に備え付けることができるのであり、それにより脱着ステップが、より長く実行される。脱着ステップは、別個の監視なしで実行することもできる。この場合、脱離ステップS102は、例えば12時間~24時間にわたって実施される。
【0058】
本件方法は、さらに、不動態化ステップS104および粉砕ステップS106を含む。これらのステップは、処理ステップS100および脱離ステップS102の後に実施される。
【0059】
不動態化ステップS104では、前のステップから得られた材料をロータリーキルンまたは流動床反応器に投入する。材料を約1000℃の温度に加熱し、水素ガス、またはガス混合物の総体積に基づいて少なくとも50体積パーセントの水素を含むガス混合物と接触させる。流動床反応器の場合、材料は水素ガスまたはガス混合物によって流動化される。
【0060】
不動態化ステップの継続時間は、不動態化された材料の総溶解固形分(TDS)値に基づくことが好ましい。TDS値を決定するには、カーボンを蒸留水中で10分間煮沸し、濾別した水について、導電率プローブを使用して25℃で測定する。パッシベーションステップS104は、少なくとも、TDS値が50μS/cmになるまで、または50μS/cmより低くなるまで実行される。なぜなら、このとき、スラリーによる腐食に起因して電極が損傷する危険性が高くなるからである。パッシベーションステップS104は、TDS値が、2.5μS/cmと50μS/cmとの間になるまで、好ましくは10μS/cmになるまで、より好ましくは5μS/cmになるまで実行されることが好ましい。
【0061】
次に、粉砕ステップS106において、不動態化された材料は、10μm以上15μm以下の粒径D90、及び1.5μmを超え2μm以下の粒径D10になるまで粉砕される。これらの粒径により、スーパーキャパシタおよび二次電池の製造、またはそれらの電極の製造のためのさらなる処理に、特に適したスラリーの形成が可能になる。
【0062】
粉砕ステップS106は、不動態化ステップS104の前または後に実行することができる。粉砕ステップS106が不動態化ステップS104の後に実行される場合、不動態化ステップS104を再度実行することが有利であるが、その期間は最初のパス(ステップの実行)よりも短い。
【0063】
<実施例1:SiCから作られた炭素材料>
以下、図1図3を参照する。図2および図3は、SiCをベースとして前述の方法によって得られたミクロ細孔性炭素材料の特徴を示す。
【0064】
図2は、本発明に従って調製された単一粒子の断面の走査型電子顕微鏡画像を示す。このミクロ細孔性炭素材料には、明らかにマクロ細孔が存在する。
【0065】
図3から知られるように、ミクロ細孔性炭素材料は、5オングストローム(Å)と9Åとの間の細孔直径を持つ多数の細孔を有する。最も一般的な細孔サイズは約6.5Åである。
【0066】
これらのミクロ細孔に加えて、この材料には9Åを超えてほぼ20Åまでの孔径をもつミクロ細孔もある。この範囲で最も一般的なのは、約11.5Åから12.5Åの孔径である。マクロ細孔を含む細孔分布は、スーパーキャパシタや二次電池の製造に特に適している。
【0067】
気孔率は、次のlUPACテクニカルレポートに記載された、ブルナウアー-エメット-テラー(BET)およびRouquerolの評価方法と組み合わせた窒素物理吸着によって決定された:Thommesらによる「表面積と細孔サイズ分布の評価を特に参照したガスの物理吸着(lUPACテクニカルレポート)」("Physisorption of gases, with special reference to the evaluation of surface area and pore size distribution (lUPAC Technical Re-port)" by Thommes et al) Pure and Applied Chemistry 2015; 87(9-10):1051-1069。このlUPACテクニカルレポートの開示は、特に参照により、本件開示中に組み込まれる。全細孔容積はBETを使用して決定され、一方、ミクロ細孔容積は密度汎関数理論(DFT)を使用して決定された。ミクロ細孔性材料についてはBET法のすべての仮定が満たされるわけではないため、BET法とDFT法から求められた表面積は矛盾しているように見えうる。細孔サイズの分布を見ることで、これら表面積の相互の比率について、すなわち、炭素材料のどれだけの表面積がミクロ細孔によるものかについて、正確な推定を可能にする。
【0068】
ここで提示した方法を使用してSiCから製造されたミクロ細孔性炭素材料は、約1290m/gの表面積と0.6cm/gの全細孔容積を持っていた。全細孔容積は、IUPACに従って相対圧力0.95で測定される。ここで、ミクロ細孔容積は約0.5cm/gを占め、ミクロ細孔表面積は約1334m/gである。図3の孔径分布を考慮すると、表面積のほぼ全体がミクロ細孔によるものであって、ミクロ細孔の大部分もまた、直径が5Åと9Åとの間であると結論付けうる。
【0069】
さらに、この方法によって製造された微多孔性炭素材料は、ミクロ細孔性炭素材料の総質量に基づいて1重量%未満の灰分を有する。骨格密度は、約2.277g/cm~2.451g/cmである。骨格密度は、一定体積でのヘリウムピクノメトリー(helium pycnometry)によって測定された(Micromeritics のガスピクノメーターAccuPyc IIを使用)。
【0070】
標準的な分光法を使用すると、炭素材料は、黒鉛構造と非晶質構造を含むことが示され (ラマン分光法)、表面に酸素含有基がないことが示された(IR 分光法)。
【0071】
<実施例2:TiCから作られた炭素材料>
本件方法が、上述のように、炭化物材料としてTiCを使用して実行される。細孔サイズの分布はSiCと似ているが、主ピークは8.5Åにある。炭素材料の表面積は約1681m/g、総細孔容積は0.8cm/gである。このうち、ミクロ細孔容積は0.6cm/gを占め、ミクロ細細孔表面積は約1448m/gである。
【0072】
<比較例:市販活性炭>
市販の活性炭は、例えばクラレ社から商品名YP-50Fとして入手可能である。細孔サイズの主ピークは8Åである。炭素材料は、表面積が約1707m/gで、総細孔容積が0.9cm/gである。ミクロ細孔容積が0.6cm/gであり、ミクロ細孔表面積が1289m/gである。
【0073】
特にはスーパーキャパシタや二次電池の電極に使用するためのミクロ細孔性炭素材料の製造を改善するために、粒子状金属炭化物材料を流動床反応器内中、高温にてハロゲンガスでもって流動させる方法が提案されている。ハロゲンガスは、真空下で150℃から最大250℃までの低温で脱着され、その後、炭素材料は水素ガスを使用して不動態化され、その後に粉砕される。

図1
図2
図3