(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】リアクトル、コンバータ、及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20240902BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01F37/00 C
H01F37/00 M
H01F37/00 J
H01F27/28 147
(21)【出願番号】P 2021103804
(22)【出願日】2021-06-23
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 和宏
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-114578(JP,A)
【文献】特開2011-199093(JP,A)
【文献】特開2018-198301(JP,A)
【文献】特開2015-201487(JP,A)
【文献】特開2015-095532(JP,A)
【文献】特開2013-138266(JP,A)
【文献】特開2020-053666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/28
H01F 27/29-27/32
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角線で構成されたエッジワイズコイルと、
磁性コアと、
前記磁性コアの少なくとも一部を覆うモールド樹脂部とを備え、
前記エッジワイズコイルは、矩形状に構成された複数のターンを備え、
前記複数のターンの各々は、四つの直線部と、隣り合う前記直線部をつなぐ曲線状の四つの角部とを備え、
前記四つの角部の各々は、
隣り合う前記ターン同士の間に隙間が設けられた外側領域
と、
隣り合う前記ターン同士の間隔が前記隙間の間隔よりも狭い内側領域とを備え、
隣り合う前記外側領域間の最大長さが10μm以上1000μm以下であり、
前記内側領域における隣り合う前記ターン同士の間隔がゼロであり、
前記モールド樹脂部は、少なくとも対角に位置する二つの前記隙間に入り込んで
おり、
前記モールド樹脂部における前記隙間に入り込んでいる部分の長さが、前記平角線の断面における長辺の長さの30%以上75%以下である、
リアクトル。
【請求項2】
前記平角線の断面における長辺の長さaと短辺の長さbとの比であるアスペクト比a/bが2以上である、請求項
1に記載のリアクトル。
【請求項3】
前記四つの角部の各々の曲げ半径が10mm以下である、請求項1
又は請求項
2に記載のリアクトル。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載のリアクトルを備える、
コンバータ。
【請求項5】
請求項
4に記載のコンバータを備える、
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リアクトル、コンバータ、及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、コイルと磁性コアと樹脂モールド部とを備えるリアクトルを開示する。磁性コアは、内側コア部と外側コア部とを備える。樹脂モールド部は、磁性コアの表面の少なくとも一部を覆い、内側コア部と外側コア部とを一体に保持している。樹脂モールド部は、コイルと磁性コアとの組物の外周を未固化の樹脂でモールドすることで構成されている。以下、樹脂モールド部をモールド樹脂部と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モールド樹脂部を構成する際、コイルのターン間の隙間に異物が入り込む場合がある。異物は、例えば、モールド樹脂部を射出成形によって構成する場合、射出成形時の圧力で磁性コアの一部が欠けて脱落した欠片である。コイルのターン間に異物が存在すると、リアクトルの使用時において、外力又はコイルの励磁に伴う振動によって、ターン間で異物が摺動されることがある。この摺動によってコイルの絶縁被覆が損傷すると、ターン間でショートするおそれがある。
【0005】
本開示は、コイルのターン間に異物が存在する場合であっても、ターン間でのショートを防止できるリアクトルを提供することを目的の一つとする。本開示は、上記リアクトルを備えるコンバータを提供することを別の目的の一つとする。本開示は、上記コンバータを備える電力変換装置を提供することを別の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のリアクトルは、
平角線で構成されたエッジワイズコイルと、
磁性コアと、
前記磁性コアの少なくとも一部を覆うモールド樹脂部とを備え、
前記エッジワイズコイルは、矩形状に構成された複数のターンを備え、
前記複数のターンの各々は、四つの直線部と、隣り合う前記直線部をつなぐ曲線状の四つの角部とを備え、
前記四つの角部の各々は、隣り合う前記ターン同士の間に隙間が設けられた外側領域を備え、
前記モールド樹脂部は、少なくとも対角に位置する二つの前記隙間に入り込んでいる。
【0007】
本開示のコンバータは、本開示のリアクトルを備える。
【0008】
本開示の電力変換装置は、本開示のコンバータを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示のリアクトルは、コイルのターン間に異物が存在する場合であっても、ターン間でのショートを防止できる。本開示のコンバータ及び本開示の電力変換装置は、コイルのターン間に異物が存在する場合であっても、ターン間でのショートを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態のリアクトルの概略を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のリアクトルにおけるコイルとモールド樹脂部との関係を説明する図である。
【
図3】
図3は、
図1のリアクトルにおけるコイルを構成する複数のターンの一つを示す概略端面図である。
【
図4】
図4は、
図1のリアクトルにおけるコイルを構成する平角線を示す概略断面図である。
【
図7】
図7は、ハイブリッド自動車の電源系統を模式的に示す構成図である。
【
図8】
図8は、コンバータを備える電力変換装置の一例の概略を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の実施形態に係るリアクトルは、
平角線で構成されたエッジワイズコイルと、
磁性コアと、
前記磁性コアの少なくとも一部を覆うモールド樹脂部とを備え、
前記エッジワイズコイルは、矩形状に構成された複数のターンを備え、
前記複数のターンの各々は、四つの直線部と、隣り合う前記直線部をつなぐ曲線状の四つの角部とを備え、
前記四つの角部の各々は、隣り合う前記ターン同士の間に隙間が設けられた外側領域を備え、
前記モールド樹脂部は、少なくとも対角に位置する二つの前記隙間に入り込んでいる。
【0013】
本開示のリアクトルは、ターンにおける四つの角部のうち、少なくとも対角に位置する角部の外側領域の隙間にモールド樹脂部が入り込んでいることで、コイルのターン間の変位を抑制できる。コイルのターン間の変位を抑制できることで、コイルのターン間に異物が存在する場合であっても、ターン間でのショートを防止できる。
【0014】
(2)上記リアクトルの一形態として、
前記四つの角部の各々は、隣り合う前記ターン同士の間隔が前記隙間の間隔よりも狭い内側領域を備える、ことが挙げられる。
【0015】
上記形態では、言い換えると、四つの角部の外側領域は内側領域よりも広い隙間を備えている。よって、外側領域の隙間にモールド樹脂部が入り込み易い。
【0016】
(3)上記リアクトルの一形態として、
前記平角線の断面における長辺の長さaと短辺の長さbとの比であるアスペクト比a/bが2以上である、ことが挙げられる。
【0017】
上記形態では、四つの角部の外側領域に隙間が構成され易い。
【0018】
(4)上記リアクトルの一形態として、
前記四つの角部の各々の曲げ半径が10mm以下である、ことが挙げられる。
【0019】
上記形態では、四つの角部の外側領域に隙間が構成され易い。
【0020】
(5)上記リアクトルの一形態として、
隣り合う前記外側領域間の最大長さが10μm以上1000μm以下である、ことが挙げられる。
【0021】
上記形態では、四つの外側領域の隙間にモールド樹脂部が入り込み易い。
【0022】
(6)上記リアクトルの一形態として、
前記モールド樹脂部における前記隙間に入り込んでいる部分の長さが、前記平角線の断面における長辺の長さの25%以上である、ことが挙げられる。
【0023】
上記形態では、コイルのターン間の変位がより抑制され易い。
【0024】
(7)本開示の実施形態に係るコンバータは、上記(1)から(6)のいずれか1つに記載のリアクトルを備える。
【0025】
本開示のコンバータは、本開示のリアクトルを備えるため、コイルのターン間に異物が存在する場合であっても、ターン間でのショートを防止できる。
【0026】
(8)本開示の実施形態に係る電力変換装置は、上記(7)に記載のコンバータを備える。
【0027】
本開示の電力変換装置は、本開示のコンバータを備えるため、コイルのターン間に異物が存在する場合であっても、ターン間でのショートを防止できる。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係るリアクトルの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0029】
<概要>
実施形態のリアクトル1は、
図1に示すように、コイル2と磁性コア4とモールド樹脂部5とを備える。コイル2は、
図2に示すように、複数のターン20を備える。実施形態のリアクトル1の特徴の一つは、
図5に示すように、隣り合うターン20同士における特定の箇所に隙間23が設けられており、その隙間23にモールド樹脂部5が入り込んでいる点にある。以下、各構成を詳細に説明する。
【0030】
図1はリアクトル1の一例を示している。
図1では、モールド樹脂部5を簡略化して矩形状に示している。このリアクトル1では、コイル2の一部がモールド樹脂部5から露出されており、コイル2の残部及び磁性コア4がモールド樹脂部5の内部に配置されている。
図1では、モールド樹脂部5の内部に配置されている部分は破線で示している。
図2では、
図1のリアクトル1のうち磁性コア4を省略している。各図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。図面における各部の寸法比も実際と異なる場合がある。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0031】
<コイル>
コイル2は、
図2に示すように、平角線3で構成されたエッジワイズコイルである。コイル2は、矩形状に構成された複数のターン20を備える。本例のコイル2は、コイル2の製造時、隣り合うターン20同士が接触するようにエッジワイズ巻きされて構成される。隣り合うターン20同士が接触するようにエッジワイズ巻きされたコイル2は、コイル2の内側において、隣り合うターン20同士が近接又は接触するように構成されている。隣り合うターン20同士が接触するようにエッジワイズ巻きされたコイル2は、複数のターン20で構成されるコイル2の軸方向の長さが短く、小型である。
【0032】
〔平角線〕
平角線3は、横断面が矩形の巻線である。平角線3の横断面は、平角線3を平角線3の長手方向に直交する平面で切断した断面である。平角線3は、
図4に示すように、平角線3の横断面において、一対の長辺31と一対の短辺32とを備える。
【0033】
平角線3の横断面におけるアスペクト比は、2以上であることが挙げられる。アスペクト比は、長辺31の長さaと短辺32の長さbとの比率a/bである。アスペクト比は、エッジワイズ巻きされる前の平角線3におけるアスペクト比である。エッジワイズ巻きされる前の平角線3における長辺31の長さaは、エッジワイズ巻きされた後の平角線3における長辺31の長さaと略同等である。エッジワイズ巻きされる前の平角線3における短辺32の長さbは、エッジワイズ巻きされた後の平角線3のターン20を構成する直線部21(
図3)の内側又は外側における短辺32の長さbと略同等である。エッジワイズ巻きされた後の平角線3のターン20を構成する角部22(
図3)における短辺32の長さは、エッジワイズ巻きされる前の平角線3における短辺32の長さbに対して、内側では大きくなり、外側では小さくなる。エッジワイズ巻きされた後の角部22の短辺32の長さが変わるのは、平角線3がエッジワイズ巻きされると、角部22では、曲げの内側で圧縮力が作用し、曲げの外側で引張力が作用するからである。角部22では、曲げの内側で圧縮力が作用することで平角線3が短辺32方向に膨らみ、曲げの外側で引張力が作用することで平角線3が短辺32方向に薄くなる。
【0034】
上記アスペクト比が2以上であると、エッジワイズ巻きされた平角線3は、上述したように角部22において、外側の短辺32の長さbが小さくなる傾向にある。よって、後述する角部22の外側領域221に隙間23(
図5)が構成され易い。上記アスペクト比は、更に4以上、5以上、特に7以上であることが挙げられる。上記アスペクト比は、平角線3をエッジワイズ巻きする関係上、20以下、更に15以下であることが挙げられる。上記アスペクト比は、2以上20以下、更に4以上15以下、5以上12以下、特に7以上10以下であることが挙げられる。
【0035】
長辺31の長さa及び短辺32の長さbは、上記アスペクト比を満たすように、適宜選択できる。長辺31の長さaは、例えば3mm以上20mm以下、更に5mm以上15mm以下、特に7mm以上12mm以下であることが挙げられる。短辺32の長さbは、例えば0.5mm以上3mm以下、更に0.7mm以上2mm以下、特に0.8mm以上1.5mm以下であることが挙げられる。
【0036】
平角線3は、
図2に示すように、導体線38と絶縁被覆39とを有する被覆線であることが挙げられる。導体線38の構成材料は、銅等が挙げられる。絶縁被覆39の構成材料は、ポリアミドイミド等の樹脂が挙げられる。コイル2の両端部において、絶縁被覆39が剥がされて導体線38が露出されている。この露出された導体線38には図示しない端子が接続される。
【0037】
〔ターン〕
複数のターン20の各々は、
図3に示すように、四つの直線部21と四つの角部22とを備える。各ターン20は矩形状に構成されている。各ターン20は、平角線3がらせん状にエッジワイズ巻きして構成されている。よって、
図3では、隣のターン20に移行する箇所に、ターン20の周方向を分断するように切断線を示している。各ターン20は、各角部22の曲げ半径Rが10mm以下を満たす矩形状に構成されていることが挙げられる。各角部22の曲げ半径Rが10mm以下であることで、後述する角部22の外側領域221に隙間23が構成され易い。各角部22の曲げ半径Rは、更に8mm以下、7mm以下、6mm以下、特に5mm以下であることが挙げられる。角部22の曲げ半径Rは、平角線3をエッジワイズ巻きする関係上、1mm以上、更に2mm以上であることが挙げられる。角部22の曲げ半径Rは、1mm以上10mm以下、更に2mm以上8mm以下、3mm以上7mm以下、特に5mm以上6mm以下であることが挙げられる。
【0038】
〔ターンの角部〕
各ターン20の角部22は、隣り合う直線部21をつなぐ曲線状に構成されている。各角部22は、
図5に示すように、複数のターン20における角部22を含む縦断面において、外側領域221、内側領域222、及び中央領域223を備える。複数のターン20の縦断面は、複数のターン20をターン20の軸方向に平行な平面で切断した断面である。外側領域221はターン20の外側に位置する。内側領域222はターン20の内側に位置する。中央領域223は外側領域221と内側領域222との間に位置する。外側領域221、内側領域222、及び中央領域223は、
図4に示す平角線3の長辺31の長さaを三等分した領域である。
【0039】
外側領域221は、ターン20の内側から外側に向かって先細るように構成されている。つまり、外側領域221は、ターン20の内側から外側に向かって漸次的に小さくなるような厚さを有する。厚さは平角線3の短辺32(
図4)に沿った長さである。外側領域221の先端は曲線状に構成されている。
【0040】
外側領域221では、隣り合うターン20同士の間に隙間23が設けられている。隙間23は、例えばターン20の外側から内側に向かって狭まるように構成されている。本例の隙間23は、外側領域221に加えて、中央領域223の間にまで設けられている。隙間23には、後述するモールド樹脂部5が入り込んでいる。
【0041】
隣り合う外側領域221の最大長さL1は、10μm以上1000μm以下であることが挙げられる。上記最大長さL1は、隣り合う外側領域221の各々における曲線状の先端と直線状の側面との変曲点P間の長さである。上記最大長さL1は、隙間23における複数のターン20の軸方向に沿った長さでもある。上記最大長さL1が10μm以上であることで、隙間23が確保され易く、隙間23に後述するモールド樹脂部5が入り込み易い。隙間23の上記長さが大きくなると、相対的に外側領域221の厚さが小さくなる。上記最大長さL1が1000μm以下であることで、相対的に外側領域221の厚さが確保される。上記最大長さL1は、更に20μm以上900μm以下、特に30μm以上800μm以下であることが挙げられる。上記最大長さL1は、10μm以上で、平角線3の短辺32の長さb(
図4)以下であってもよい。ここでの短辺32の長さbは、直線部21(
図3)の内側又は外側における短辺32の長さbにおける全ターン20の平均値である。
【0042】
内側領域222は、エッジワイズ巻きされる前の平角線3における短辺32の長さb(
図4)と同等の厚さを有する。内側領域222は、外側領域221よりも大きい厚さを有する。内側領域222の厚さは、例えば外側領域221の1.05倍以上、更に1.1倍以上、特に1.2倍以上であることが挙げられる。
【0043】
内側領域222では、隣り合うターン20同士の間隔が上記隙間23よりも狭い。内側領域222では、隣り合うターン20同士の間隔がゼロである場合もある。つまり、内側領域222では、隣り合うターン20同士が接している場合もある。本例の内側領域222では、隣り合うターン20同士が接している。内側領域222において隙間が構成されている場合、その隙間に後述するモールド樹脂部5が入り込んでいてもよいし、入り込んでいなくてもよい。例えば、内側領域222では、隙間が構成されていたとしても、モールド樹脂部5の構成樹脂の粘度等によっては、モールド樹脂部5が入り込むことができない隙間である場合がある。
【0044】
〔ターンの直線部〕
各ターン20の直線部21は、
図6に示すように、複数のターン20における直線部21を含む上記縦断面において、外側領域211、内側領域212、及び中央領域213を備える。外側領域211はターン20の外側に位置する。内側領域212はターン20の内側に位置する。中央領域213は外側領域221と内側領域222との間に位置する。
外側領域211、内側領域212、及び中央領域213は、
図4に示す平角線3の長辺31の長さaを三等分した領域である。
【0045】
直線部21では、外側領域211の厚さと内側領域212の厚さとは略同等である。中央領域213の厚さは、外側領域211の厚さ及び内側領域212の厚さと同等以下である。本例の中央領域213は、外側領域211の厚さ及び内側領域212の厚さと同等である。
【0046】
外側領域211及び内側領域212では、隣り合うターン20同士の間隔が、角部22における外側領域221よりも狭い。外側領域211及び内側領域212では、隣り合うターン20同士の間隔がゼロである場合もある。つまり、外側領域211及び内側領域212では、隣り合うターン20同士が接している場合もある。本例の外側領域211及び内側領域212では、隣り合うターン20同士が接している。外側領域211及び内側領域212において隙間が構成されている場合、その隙間に後述するモールド樹脂部5が入り込んでいてもよいし、入り込んでいなくてもよい。例えば、外側領域211及び内側領域212では、隙間が構成されていたとしても、モールド樹脂部5の構成樹脂の粘度等によっては、モールド樹脂部5が入り込むことができない隙間である場合がある。
【0047】
<磁性コア>
磁性コア4は、コイル2の複数のターン20の内側に配置された部分と、複数のターン20の外側に配置された部分とを備える。磁性コア4は、コイル2がつくる磁束が通過する閉磁路を構成している。
【0048】
本例の磁性コア4は、全体としてθ状に構成されている。θ状の磁性コア4は、
図1に示すように、一つのミドルコア部41と、二つのサイドコア部42,43と、二つのエンドコア部44,45とを備える。ミドルコア部41は、複数のターン20の内側に配置されている部分を有する。二つのサイドコア部42,43の各々は、複数のターン20の外側でミドルコア部41と並んで配置されている。二つのエンドコア部44,45の各々は、複数のターン20の外側でミドルコア部41と二つのサイドコア部42,43とをつなぐように配置されている。磁性コア4は、ミドルコア部41と二つのサイドコア部42,43と二つのエンドコア部44,45とが接続されることで、コイル2を励磁した際に磁束が流れ、閉磁路が形成される。磁束は、ミドルコア部41からエンドコア部44に流れ、エンドコア部44から二つのサイドコア部42,43の各々に流れ、各サイドコア部42,43からエンドコア部45に流れ、エンドコア部45からミドルコア部41に流れる。
【0049】
ミドルコア部41の形状は、複数のターン20の内周形状に概ね対応した形状である。複数のターン20の内周面とミドルコア部41の外周面との間には隙間が存在する。この隙間には、例えば後述するモールド樹脂部5が入り込んでいる。本例のミドルコア部41の形状は矩形柱状であり、ミドルコア部41を軸方向から見た端面形状が矩形状である。ミドルコア部41の角部は、複数のターン20の角部22に沿うように丸められている。
【0050】
サイドコア部42,43の形状は、複数のターン20の外側で複数のターン20の軸方向に延びる形状であれば、特に限定されない。本例のサイドコア部42,43は、複数のターン20の軸方向に延びる直方体状である。サイドコア部42,43は、複数のターン20の外周面を構成する四面のうち、複数のターン20の軸を挟んで向かい合う位置にある二面に面するように配置されている。つまり、サイドコア部42,43は、複数のターン20の外周面を構成する四面のうち、複数のターン20の軸を挟んで向かい合う位置にある二面を外側から挟むように配置されている。複数のターン20におけるサイドコア部42,43に向き合わない面は、磁性コア4から露出されている。
【0051】
エンドコア部44,45の形状は、一つのミドルコア部41及び二つのサイドコア部42,43の各端部同士をつなぐ形状であれば、特に限定されない。本例のエンドコア部44,45は、一つのミドルコア部41及び二つのサイドコア部42,43の並び方向に長い直方体状である。
【0052】
磁性コア4は、第一コア片と第二コア片とが組み合わされて構成されることが挙げられる。第一コア片及び第二コア片の各々の形状は、種々の組み合わせから選択できる。
図1に示す磁性コア4は、E字状の第一コア片と、T字状の第二コア片とを組み合わせたE-T型である。E字状の第一コア片は、ミドルコア部41の一部と、二つのサイドコア部42,43と、エンドコア部44とを備える。T字状の第二コア片は、ミドルコア部41の残部と、エンドコア部45とを備える。その他の組み合わせとしては、例えば、E-U型、E-I型、T-U型などがある。
【0053】
磁性コア4は、軟磁性材料を含む成形体で構成されている。軟磁性材料としては、鉄や鉄合金等の金属、フェライト等の非金属が挙げられる。鉄合金は、例えば、Fe-Si合金、Fe-Ni合金等が挙げられる。軟磁性材料を含む成形体としては、圧粉成形体や複合材料の成形体等が挙げられる。
【0054】
圧粉成形体は、軟磁性材料からなる粉末、即ち軟磁性粉末を圧縮成形することで得られる。圧粉成形体は、複合材料に比較して、コア片に占める軟磁性粉末の割合が高い。圧粉成形体中の軟磁性粉末の含有量は、圧粉成形体を100体積%とすると、例えば80体積%超、更に85体積%以上であることが挙げられる。
【0055】
複合材料の成形体では、軟磁性粉末が樹脂中に分散している。複合材料の成形体は、未固化の樹脂中に軟磁性粉末を混合して分散させた原料を金型に充填し、樹脂を固化させることで得られる。複合材料は、樹脂中の軟磁性粉末の含有量を調整することによって、磁気特性、例えば比透磁率や飽和磁束密度を制御し易い。複合材料の成形体中の軟磁性粉末の含有量は、複合材料を100体積%とすると、例えば、30体積%以上80体積%以下であることが挙げられる。
【0056】
軟磁性粉末は、軟磁性粒子の集合体である。軟磁性粒子は、その表面に絶縁被覆を有する被覆粒子であってもよい。絶縁被覆の構成材料は、リン酸塩等が挙げられる。複合材料の樹脂は、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂(例、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン9T等)、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド(PI)樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。複合材料は、樹脂に加えて、フィラーを含有してもよい。フィラーを含有することで、複合材料の放熱性を向上させることができる。フィラーは、例えば、セラミックスやカーボンナノチューブ等の非磁性材料からなる粉末を利用できる。セラミックスは、例えば、金属又は非金属の酸化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。酸化物の一例として、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム等が挙げられる。窒化物の一例として、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等が挙げられる。炭化物の一例として、炭化珪素等が挙げられる。
【0057】
磁性コア4の少なくとも一部は圧粉成形体で構成されていることが挙げられる。圧粉成形体で構成された磁性コア4は、リアクトル1の製造過程において、後述するモールド樹脂部5を射出成形によって構成する場合、射出成形時の圧力で磁性コア4の一部が欠けることがある。よって、磁性コア4の少なくとも一部が圧粉成形体で構成されたリアクトル1では、後述する実施形態の効果が発揮され易い。
【0058】
<モールド樹脂部>
モールド樹脂部5は、
図1に示すように、磁性コア4の少なくとも一部を覆っている。モールド樹脂部5は、磁性コア4を外部環境から保護する機能を有する。モールド樹脂部5は、更にコイル2を覆っていてもよい。モールド樹脂部5がコイル2と磁性コア4との間に介在されていれば、コイル2と磁性コア4との絶縁を確保し易い。モールド樹脂部5がコイル2と磁性コア4との間に跨って存在していれば、コイル2と磁性コア4とを互いに位置決めし易い。また、モールド樹脂部5が、第一コア片と第二コア片との間に跨って存在していれば、第一コア片と第二コア片とを互いに固定できる。
【0059】
本例のモールド樹脂部5は、コイル2と磁性コア4とを含む組物の外周を覆っている。本例の組物は、モールド樹脂部5によって外部環境から保護される。また、本例の組物は、モールド樹脂部5によってコイル2と磁性コア4とが一体化されて構成されている。磁性コア4の外周面の少なくとも一部、又はコイル2の外周面の少なくとも一部がモールド樹脂部5から露出していてもよい。本例では、コイル2の複数のターン20におけるサイドコア部42,43に向き合わない面の一部がモールド樹脂部5から露出している。
【0060】
モールド樹脂部5は、
図5に示すように、複数のターン20の角部22の外側領域221に設けられた隙間23に入り込んでいる。隙間23に入り込んだモールド樹脂部5は、各平角線3の長辺31(
図4)に接触している。隙間23に入り込んだモールド樹脂部5は、隣り合うターン20間の変位を抑制する機能を有する。ターン20間の変位とは、ターン20同士が複数のターン20の軸方向に変位することである。
【0061】
モールド樹脂部5は、四つの角部22の少なくとも対角に位置する角部22に設けられた二つの隙間23に入り込んでいる。言い換えると、モールド樹脂部5は、四つの隙間23のうち少なくとも対角に位置する二つの隙間23に設けられている。四つの隙間23のうち少なくとも対角に位置する二つの隙間23は、隣り合うターン20を構成する四つの角部22に対応する隙間である。モールド樹脂部5は、対角に位置する二つ隙間23に加えて、残りの二つの隙間23の少なくとも一方にも入り込んでいてもよい。モールド樹脂部5は、四つの隙間23の全てに入り込んでいてもよい。
【0062】
モールド樹脂部5における隙間23に入り込んでいる部分の長さL2は、平角線3の横断面における長辺31の長さa(
図4も参照)の25%以上であることが挙げられる。上記長さL2は、隣り合うターン20の外側領域221の先端を結んだ線からモールド樹脂部5の隙間23に入り込んだ平角線3の幅方向に沿った最大長さである。平角線3の幅は平角線3の長辺31方向の長さである。上記長さL2が長さaの25%以上であることで、ターン20間の変位が抑制され易い。上記長さL2が長いほど、ターン20間の変位が抑制され易い。上記長さL2は、長さaの更に30%以上、40%以上、特に50%以上であることが挙げられる。上記長さL2は、平角線3をエッジワイズ巻きする関係上、75%以下、更に70%以下、特に65%以下であることが挙げられる。上記長さL2は、長さaの25%以上75%以下、更に30%以上75%以下、40%以上70%以下、特に50%以上65%以下であることが挙げられる。
【0063】
モールド樹脂部5を構成する樹脂は、例えば、上述した複合材料の樹脂と同様の樹脂が挙げられる。モールド樹脂部5の構成材料は、複合材料と同様に、上述したフィラーを含有していてもよい。
【0064】
<コンバータ・電力変換装置>
上述した実施形態のリアクトル1は、以下の通電条件を満たす用途に利用できる。通電条件としては、例えば、最大直流電流が100A以上1000A以下程度であり、平均電圧が100V以上1000V以下程度であり、使用周波数が5kHz以上100kHz以下程度であることが挙げられる。実施形態のリアクトル1は、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車等の車両等に載置されるコンバータの構成部品や、このコンバータを備える電力変換装置の構成部品に利用できる。
【0065】
ハイブリッド自動車や電気自動車等の車両1200は、
図7に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ1220とを備える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジン1300を備える。
図7では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを備える形態とすることができる。
【0066】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。本例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V~300V程度のメインバッテリ1210の入力電圧を400V~700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される入力電圧をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。入力電圧は、直流電圧である。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0067】
コンバータ1110は、
図8に示すように複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトル1115とを備え、ON/OFFの繰り返しにより入力電圧の変換を行う。入力電圧の変換とは、ここでは昇降圧を行う。スイッチング素子1111には、電界効果トランジスタ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ等のパワーデバイスが利用される。リアクトル1115は、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。リアクトル1115として、上述した実施形態のリアクトル1を備える。
【0068】
車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を備える。コンバータ1110は、代表的には、DC-DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC-DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150のなかには、DC-DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、上述した実施形態のリアクトル1と同様の構成を備え、適宜、大きさや形状等を変更したリアクトルを利用できる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、上述した実施形態のリアクトル1を利用することもできる。
【0069】
<実施形態の効果>
実施形態のリアクトル1は、ターン20を構成する四つの角部22の少なくとも対角に位置する角部22の隙間23にモールド樹脂部5が入り込んでいることで、ターン20間の変位を抑制できる。例えば、実施形態のリアクトル1は、リアクトル1の使用時における外力やコイル2の励磁に伴う振動によっても、ターン20間の変位を抑制できる。ターン20間の変位が抑制されることで、ターン20間に異物が存在する場合であっても、ターン20間で異物が摺動されず、異物が平角線3の絶縁被覆39を損傷させることを抑制できる。よって、実施形態のリアクトル1は、ターン20間に異物が存在する場合であっても、ターン20間でのショートを防止できる。
【0070】
実施形態のリアクトル1は、ターン20の直線部21の内側及び外側、及び角部22の内側では隣り合うターン20同士が接しているため、小型である。リアクトル1が小型であるのは、隣り合うターン20同士が接していることで、複数のターン20で構成されるコイル2の軸方向の長さが短いからである。隣り合うターン20同士が接しているのは、コイル2の製造時、隣り合うターン20同士が接触するようにエッジワイズ巻きしたからである。
【0071】
実施形態のリアクトル1は、以下の条件を満たすことで、コイル2の軸方向の長さが短く、かつターン20の角部22の外側に隙間23が構成され易い。一つ目の条件は、平角線3の横断面におけるアスペクト比が2以上を満たすことである。二つ目の条件は、各角部22の曲げ半径Rが10mm以下を満たすことである。上記条件を満たすことで、例えば、隣り合う外側領域221の最大長さL1が10μm以上1000μm以下となり易く、隙間23にモールド樹脂部5が入り込み易い。モールド樹脂部5における隙間23に入り込んでいる部分の長さL2が平角線3の横断面における長辺31の長さaの25%以上となり易い。隙間23にモールド樹脂部5が良好に入り込んでいることで、ターン20間の変位を良好に抑制できる。
【0072】
実施形態の電力変換装置1100、及び実施形態のコンバータ1110は、実施形態のリアクトル1を備えることで、コイル2のターン20間に異物が存在する場合であっても、ターン20間でのショートを防止でき、信頼性が高い。
【符号の説明】
【0073】
1 リアクトル
2 コイル、20 ターン、21 直線部、22 角部
211,221 外側領域、212,222 内側領域、213,223 中央領域
23 隙間
3 平角線、31 長辺、32 短辺、38 導体線、39 絶縁被覆
4 磁性コア
41 ミドルコア部、42,43 サイドコア部、44,45 エンドコア部
5 モールド樹脂部
a,b,L1,L2 長さ、R 曲げ半径、P 変曲点
1100 電力変換装置、1110 コンバータ、1111 スイッチング素子
1112 駆動回路、1115 リアクトル、1120 インバータ
1150 給電装置用コンバータ、1160 補機電源用コンバータ
1200 車両、1210 メインバッテリ、1220 モータ
1230 サブバッテリ、1240 補機類、1250 車輪、1300 エンジン