(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】見返しリング、腕時計、及び見返しリングの製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 19/10 20060101AFI20240902BHJP
G04B 19/12 20060101ALI20240902BHJP
G04B 19/30 20060101ALI20240902BHJP
G04B 19/32 20060101ALI20240902BHJP
G01D 13/02 20060101ALI20240902BHJP
G01D 13/04 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G04B19/10 Z
G04B19/12 A
G04B19/30 A
G04B19/32 Z
G01D13/02 D
G01D13/04 A
(21)【出願番号】P 2021543721
(86)(22)【出願日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2020032319
(87)【国際公開番号】W WO2021044933
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2019161103
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内海 秀太
(72)【発明者】
【氏名】柴田 進
(72)【発明者】
【氏名】濱倉 信行
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和貴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勝彦
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/021456(WO,A1)
【文献】特開2004-279098(JP,A)
【文献】特開2006-250731(JP,A)
【文献】登録実用新案第3203279(JP,U)
【文献】特開2013-11496(JP,A)
【文献】特開2018-59933(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0253734(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/10 - 19/12
G04B 19/30 - 19/32
G01D 11/28
G01D 13/02 - 13/04
G01D 13/20
G01D 13/28
G09F 13/16
G09F 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
見返しリングが部材で構成されると共に、
部材がサファイア結晶、ルビー結晶、ダイヤモンド結晶、又はガラスの何れかから形成されており、
部材の平面形状が正方形、長方形、円形、楕円形、頂点3つ以上の多角形の何れかで形成されたリング形状であり、
部材の断面形状が少なくとも、直交する2つの面と、その2つの面に対し傾斜して形成される1つの面から成り、
1つの面に発光材が配置されていると共に、2つの面の少なくとも一方の面上に反射材が形成されており、
ライト照射時又は暗闇で発光材が発光すると共に、発光材から発光された光が反射材により反射されて部材内で虚像が投影される見返しリング。
【請求項2】
前記反射材が金属膜である請求項1に記載の見返しリング。
【請求項3】
前記1つの面が凹状の曲面で形成されると共に、前記発光材から発光された光が前記反射材に拡大されて投影されると共に、前記反射材により反射されて部材内で虚像が拡大されて投影される請求項1又は2に記載の見返りリング。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の見返しリングを文字盤と接して備えると共に、前記反射材が前記2つの面の内、少なくとも文字盤と接する一方の面上に形成されている腕時計。
【請求項5】
サファイア結晶、ルビー結晶、ダイヤモンド結晶、又はガラスの何れかを部材として用意し、
部材の平面形状を正方形、長方形、円形、楕円形、頂点3つ以上の多角形の何れかに研削及び研磨により形成すると共に、
部材の断面形状を研削及び研磨により少なくとも、直交する2つの面と、その2つの面に対し傾斜して形成される1つの面から形成し、
1つの面の面上に凹部を形成し、
その凹部内に発光材を配置すると共に、2つの面の少なくとも一方の面上に反射材を形成する見返しリングの製造方法。
【請求項6】
前記反射材が金属膜であり、メタライズ加工により形成して配置する請求項5に記載の見返しリングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、見返しリング、腕時計、及び見返しリングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計に備えられる見返しリング(dial trim ring又はdial ring)は、保持及び固定の機能を持たないリング形状の部品であり、時字などの目盛り表示や装飾要素を有し、文字盤の外周に配置されている。
【0003】
見返しリングの一例として、本出願人は下記特許文献1に記載の見返しリングを発明した。特許文献1記載の見返しリングは、少なくとも一つの部材で構成され、部材がサファイア単結晶、ルビー単結晶、又はガラスの何れかから形成されている。更に、部材の平面形状が正方形、長方形、円形、楕円形、頂点3つ以上の多角形の何れかで形成されたリング形状である。また文字、図形、記号の何れかが、部材の外側面、底面、内部の少なくとも何れかに印刷、凹状に形成、或いは別部材を含む場合はその別部材に発光材が嵌め込まれる事で形成されている。凹状の箇所が形成された場合はその凹状の箇所に発光材が配置されており、ライト照射時又は暗闇で文字、図形、記号の何れかが発光すると共に、文字、図形、記号の何れかから発光した光が部材から出射され、前記腕時計に備えられる事を特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1記載の見返しリングの構造では、発光材が部材の表面(傾斜面や曲面)よりも奥まって配置される。従って発光材が発光し、その光が部材内部を伝搬して部材外部へと出射して腕時計の使用者に目視される際に、部材全体も出射光の伝搬により光って目視される。よって部材全体が発光材の出射光の色に光る為、発光材の輪郭がぼやけて使用者に認識される。
【0006】
発光材を時字として備える場合、見返しリングの時字は、文字盤に備えられる時字に比べて小さい為、見返しリングの時字の輪郭がぼやけると使用者への視認性が著しく低下すると共に、見返りリングによる装飾性も低減してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、視認性を確保しながら装飾性を向上させる事が出来る見返しリングとその製造方法、及びその見返しリングを備えた腕時計の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、以下の本発明により達成される。即ち、本発明の見返しリングが部材で構成されると共に、部材がサファイア結晶、ルビー結晶、ダイヤモンド結晶、又はガラスの何れかから形成されており、部材の平面形状が正方形、長方形、円形、楕円形、頂点3つ以上の多角形の何れかで形成されたリング形状であり、部材の断面形状が少なくとも、直交する2つの面と、その2つの面に対し傾斜して形成される1つの面から成り、1つの面に発光材が配置されていると共に、2つの面の少なくとも一方の面上に反射材が形成されており、ライト照射時又は暗闇で発光材が発光すると共に、発光材から発光された光が反射材により反射されて部材内で虚像が投影される事を特徴とする。
【0009】
また、本発明の腕時計は、見返しリングを文字盤と接して備えると共に、反射材が2つの面の内、少なくとも文字盤と接する一方の面上に形成されている事を特徴とする。
【0010】
また、本発明の見返しリングの製造方法は、サファイア結晶、ルビー結晶、ダイヤモンド結晶、又はガラスの何れかを部材として用意し、部材の平面形状を正方形、長方形、円形、楕円形、頂点3つ以上の多角形の何れかに研削及び研磨により形成すると共に、部材の断面形状を研削及び研磨により少なくとも、直交する2つの面と、その2つの面に対し傾斜して形成される1つの面から形成し、1つの面の面上に凹部を形成し、その凹部内に発光材を配置すると共に、2つの面の少なくとも一方の面上に反射材を形成する事を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る見返しリング及びその見返しリングを備えた腕時計に依れば、発光材の発光による実像及び部材内で投影された虚像により、見返しリングの視認性を確保しながら装飾性を向上させる事が出来る。
【0012】
また本発明に係る見返しリングの製造方法に依れば、発光材の発光による実像及び部材内で投影された虚像により、視認性を確保しながら装飾性を向上させる事が出来る見返しリングを製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る見返しリングの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】(a)
図2の見返しリングのA-A断面図である。(b)
図3(a)の円B部分の拡大図である。
【
図4】
図1の見返しリングに於いて、発光材から発光された光が見返しリング外部へ出射されて実像を投影する状態と、反射材により反射されて部材内で虚像を投影する状態の各光路を示す説明断面図である。
【
図5】
図1の見返しリングに於いて、発光材の発光により実像が観察される状態と、部材内で虚像が観察される状態を示す部分拡大説明図である。
【
図6】
図3の見返しリングを備えた腕時計の一例を示す断面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る見返りリングの各種変更形態を示す平面図である。
【
図8】本発明の実施例に係る見返しリングの平面図である。
【
図9】(a)
図8の見返しリングのC-C断面図である。(b)
図9(a)の円D部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態の第一の特徴は、見返しリングが部材で構成されると共に、部材がサファイア結晶、ルビー結晶、ダイヤモンド結晶、又はガラスの何れかから形成されており、部材の平面形状が正方形、長方形、円形、楕円形、頂点3つ以上の多角形の何れかで形成されたリング形状であり、部材の断面形状が少なくとも、直交する2つの面と、その2つの面に対し傾斜して形成される1つの面から成り、1つの面に発光材が配置されていると共に、2つの面の少なくとも一方の面上に反射材が形成されており、ライト照射時又は暗闇で発光材が発光すると共に、発光材から発光された光が反射材により反射されて部材内で虚像が投影される見返しリングとした事である。
【0015】
この構成に依れば、発光材の発光による実像の目視により、使用者は発光材の輪郭がぼやける事無くくっきりと認識する事が可能となる。更に、部材内部に伝搬された光が反射材で反射される事で、部材の内部で虚像が投影され、実像の下に虚像が配置されて目視される。従って実像が奥行きを有して立体的に認識され、時字(又は文字、図形、記号)が立体的に浮き上がって認識可能となる。よって発光材の発光による実像及び部材内で投影された虚像により、見返しリングの時字や文字、図形、記号の視認性を確保しながら装飾性を向上させる事が出来る。
【0016】
なお本発明に於いて多角形とは、辺が曲線状の形状や、各頂点を丸めて角丸とした平面形状も含むものとする。
【0017】
本実施の形態の第二の特徴は、サファイア結晶、ルビー結晶、ダイヤモンド結晶、又はガラスの何れかを部材として用意し、部材の平面形状を正方形、長方形、円形、楕円形、頂点3つ以上の多角形の何れかに研削及び研磨により形成すると共に、部材の断面形状を研削及び研磨により少なくとも、直交する2つの面と、その2つの面に対し傾斜して形成される1つの面から形成し、1つの面の面上に凹部を形成し、その凹部内に発光材を配置すると共に、2つの面の少なくとも一方の面上に反射材を形成する見返しリングの製造方法とした事である。
【0018】
この製造方法に依れば、発光材の発光による実像及び部材内で投影された虚像により、視認性を確保しながら装飾性を向上させる事が出来る見返しリングを製造可能となる。更に、発光材を凹部に埋設して配置出来るので、経年に伴う発光材の剥がれや摩耗又は消失が防止され、見返しリングの時字や文字、図形、記号の視認性と装飾性の低下も防止出来る。
【0019】
本実施の形態の第三の特徴は、反射材が金属膜と云う事である。
【0020】
また本実施の形態の第四の特徴は、反射材が金属膜であり、メタライズ加工により形成して配置する見返しリングの製造方法とした事である。
【0021】
これらの構成及び製造方法に依れば、前記各効果に加えて、金属膜の色や光沢が使用者に目視で確認されるので、反射機能と共に見返しリングの装飾性を向上する事が可能となる。
【0022】
また本実施の形態の第五の特徴は、1つの面が凹状の曲面で形成されると共に、発光材から発光された光が反射材に拡大されて投影されると共に、反射材により反射されて部材内で虚像が拡大されて投影される見返しリングとした事である。
【0023】
この構成に依れば、前記各効果に加えて、1つの面での虚像の焦点を遠くに設定する事が出来るので、虚像を拡大する事が出来る。更に反射材で反射させる事で、虚像の光路長を反射光路長の分だけ延伸可能となる。よって光路長の延伸分だけ更に虚像を拡大可能となる。従って見返しリングの視認性と装飾性をより向上させる事が出来る。
【0024】
また本実施の形態の第六の特徴は、前記何れかの見返しリングを文字盤と接して備えると共に、反射材が2つの面の内、少なくとも文字盤と接する一方の面上に形成されている腕時計とした事である。
【0025】
この構成に依れば、発光材の発光による実像及び部材内で投影された虚像により、見返しリングの視認性を確保しながら装飾性を向上させる事が出来る。更に反射材となる金属膜を、見返しリングの底面となる面のみに形成しているので、1つの実像当たりの虚像の反射回数を1回に設定する事が可能となる。従って、複数の反射により虚像が複数部材内に投影される事が防止されるので、虚像の視認性低下が防止され、見返しリングの時字や文字、図形、記号の視認性低下も防止出来る。
【0026】
以下、
図1~
図7を参照して本発明の実施形態に係る見返しリングを説明する。本実施形態に係る見返しリング1は
図1~
図3に示す様に一つの部材2で構成され、部材2がサファイア結晶、ルビー結晶、ダイヤモンド結晶、又はガラスの何れかから形成されている。結晶としては単結晶や多結晶、それらの中間構造を有する結晶等が挙げられる。またガラスとしては、クリスタルガラス(lead glass)や石英ガラス等が挙げられるが、製造工程に於ける環境への配慮の点から鉛非含有である石英ガラスがより好ましい。
【0027】
部材2の平面形状は、正方形、長方形、円形、楕円形、頂点3つ以上の多角形の何れかで形成されたリング形状である。
図2では、平面形状が円形の見返りリング1を例示している。また
図2の各種変更形態として
図7(a)~(c)に順に示す様に、四角形の見返しリング13、長方形の見返しリング14、楕円形の見返しリング15や、
図7(d)に示す様に頂点が3つ以上(
図7(d)では頂点が4つ)の多角形の見返しリング16のリング形状でも良い。なお本発明に於いて多角形とは、辺が曲線状の形状や、各頂点を丸めて角丸とした平面形状も含むものとする。例えば
図7(d)に示す様に、辺が全て曲線状で形成されている形態でも良いし、一部の辺のみ曲線状とし残りの辺を直線状に形成しても良い。
【0028】
また
図3(a)は、
図2の見返しリング1のA-A断面図であり、
図3(b)は
図3(a)の円B部分の拡大図である。
図3に示す様に部材2の断面形状は少なくとも、直交する2つの面(3a、3b)と、その2つの面に対し傾斜して形成される1つの面3cから成る。
図3では一例として、面3cが小さな曲率で以て緩やかな凹状に形成されている形態を図示しているが、直線状の平面に形成されていても良い。更に、
図3(b)では2つの面3aと3bの面合わせ部分が一続きに直交形成されている形態を図示している。しかし3aと3bの面合わせ部分が面取り加工され、3aと3bの面合わせ部分が一続きに直交形成されていなくとも、本発明では3aと3bは直交しているものと見なす。
【0029】
更に面3cの面上に発光材4が配置されている。
図3では面3cの面上に凹部が形成されていると共に、その凹部内に発光材4が埋設されて配置されている形態を例示している。凹部深さは約0.5mmとする。なお面3cへの発光材4の配置としては
図3の形態の他に、面3cの面上への発光材4の印刷(例えば蛍光インクの印刷)や塗装により行われても良い。
【0030】
図1~
図3では、発光材4は時字として配置されている。但し時字以外にも、文字、図形、記号の何れかを表す為に配置されても良い。文字又は図形又は記号としては、アルファベット、ひらがな、カタカナ、漢字、数字、漢数字、符号等のあらゆる文字や、ブランドロゴを含む。また図形としては、円や三角形又は四角形といった基本的な図形や、より複雑な幾何学模様、又はブランドや製造者を示すトレードマークも含む。
【0031】
発光材4としては、紫外線領域(254nm~365nm)、可視光領域(365nm超~780nm未満)、又は赤外線領域(780nm以上)の光を発光する蓄光体(燐光体)、蛍光体、又は発光ガラスが用いられる。蓄光体(燐光体)としては、アルミナ系酸化物の無機顔料、硫化物系顔料が挙げられ、蛍光体としては蛍光インクが挙げられる。
【0032】
更に見返しリング1では、2つの面(3aと3b)の少なくとも一方の面上に、金属膜から成る反射材が形成されている。
図1~
図3では見返しリング1の面3aの面上に、図示しない反射材が成膜形成されている。
【0033】
以上の様にして形成された見返しリング1の外部からライトを照射するか、又は見返しリング1を暗闇に置く事で、発光材4を発光させる。ライトとしては、いわゆるブラックライトと呼ばれる波長が365nm付近又は254nm~365nmの紫外線領域の光を発光する紫外線灯又は紫外線発光ダイオード(LED)や、780nm以上の赤外線領域の光を発光する赤外線発光素子で構成すれば良い。このようなライトから出射される特定波長の光に反応して、発光材4が有色発光する。或いは発光材4が蓄光体(燐光体)の場合、暗闇に置かれると励起光の消失により発光し続ける。
【0034】
時字や文字、図形、記号は、発光材4を構成する材料により、254nm~365nmの紫外線領域、365nm超~780nm未満の可視光領域、又は780nm以上の赤外線領域と云った特定波長を有する光を発光する。更に、発光材4から発光された特定波長を有する光は、部材2の外部へと出射される。部材2の外部へと出射された光は、
図4に示す様に実像5として使用者にそのまま目視で認識される。実像5の目視により、使用者は発光材4の輪郭がぼやける事無くくっきりと認識する事が可能となる。
【0035】
更に、面3cから部材2の内部に伝搬するもう一方の光路に従い、発光材4から出射された光は部材2内部へと伝搬する。部材2内部に伝搬された光は前記反射材で反射される事で、部材2の内部で
図4に示す様に虚像6が投影される。
【0036】
実像5と虚像6により、使用者には
図4及び
図5に示す様に実像5の下に虚像6が配置されて目視される。従って実像5が奥行きを有して立体的に認識され、時字(又は文字、図形、記号)が立体的に浮き上がって認識可能となる。よって発光材4の発光による実像5及び部材2内で投影された虚像6により、見返しリング1の時字や文字、図形、記号の視認性を確保しながら装飾性を向上させる事が出来る。
【0037】
見返しリング1では、前述の通り面3cを緩やかな凹状に形成している。従って面3cでの虚像6の焦点を遠くに設定する事が出来るので、虚像6を拡大する事が出来る。更に反射材で反射させる事で、虚像6の光路長を反射光路長の分だけ延伸している。よって光路長の延伸分だけ更に虚像6を拡大可能となる。従って
図4及び
図5に示す様に前記視認性と装飾性をより向上させる事が出来る為、面3cは平面よりも緩やかな凹状に形成される事がより好ましい。
【0038】
反射材を構成する金属膜は、Ni、Au、Cr、Ho、Pt、Pd、Ta、Ti、V、Mo、Mnから選択された金属から成り、この金属膜を単層又は複数層形成して反射材とする。金属膜の総厚みは0.1μm~100μmとする。この様な金属膜は、使用者からは
図2の様に見返しリング1の平面方向から部材2を介して目視で確認される。従って反射材を金属膜で形成する事により、金属膜の色や光沢が使用者に目視で確認されるので、反射機能と共に見返しリング1の装飾性を向上する事が可能となる。
【0039】
部材2内の虚像6及び金属膜の視認性の点で、前記のサファイア結晶、ルビー結晶、ダイヤモンド結晶は、透明性が高い単結晶が最も好ましい。
【0040】
なお、見返しリング1の外観に現れる面には、表面粗さRaが0.1μm以下となる様に鏡面研磨が施される。Raの測定は、表面粗さ測定機により行えば良い。Raを0.1μm以下と設定する事により、面3a、3b、3cでの光の散乱が防止されるので、部材2内部の虚像6の視認性や、面3aの金属膜の視認性の低下も防止可能となる。
【0041】
このような見返しリング1を、
図6に示す様に腕時計7の内部に備える。腕時計7の内部に於いて見返しリング1は面3aと文字盤12の外周とが接して備えられる。従って前記反射材は2つの面(3a、3b)の内、少なくとも文字盤12と接する一方の面3a上に形成されている事になる。更に、面3aが見返しリング1の底面、面3bが側面となる。
【0042】
見返しリング1を、面3aと接して文字盤12の面上に備える際は、前記反射材の金属膜を、半田接合用の下地膜として使用しても良い。この様な半田接合構造とする事により、別途接合用の下地膜を成膜する必要が無くなり、腕時計7の製造工程の削減と低コスト化を実現する事が出来る。
【0043】
なお
図6中の、引き出し番号8は長針(分針)、9は短針(時針)、10は秒針、11はケースを、それぞれ示している。
【0044】
以上の腕時計に依れば見返しリング1を備える事により、発光材4の発光による実像5及び部材2内で投影された虚像6により、見返しリング1の視認性を確保しながら装飾性を向上させる事が出来る。
【0045】
更に反射材となる金属膜を、見返しリング1の底面となる面3aのみに形成しているので、1つの実像5当たりの虚像6の反射回数を1回に設定する事が可能となる。従って、複数の反射により虚像6が複数部材2内に投影される事が防止されるので、虚像6の視認性低下が防止され、見返しリング1の時字や文字、図形、記号の視認性低下も防止出来る。
【0046】
反射材は、面3aに形成する方が見返しリング1を使用者が目視した時に、実像5の下に虚像6が配置される為、面3bに反射材を形成するよりも好ましい。また反射材を面3aに加えて、更に面3bに形成する事は、虚像6の反射回数が1回に抑えられないため望ましくない。
【0047】
次に見返しリング1の製造方法を説明する。最初に、サファイア結晶、ルビー結晶、ダイヤモンド結晶、又はガラスの何れかを部材2の材料として用意する。部材2を構成する各材料は公知の方法を用いて作製すれば良い。サファイア結晶やルビー結晶は、EFG(Edge-defined Film-fed. Growth)法、キロプロス法、チョクラスルキー法、ベルヌーイ法、垂直ブリッジマン法などによって育成成長されたものを用いる。ダイヤモンド結晶はエピタキシャル法により形成すれば良い。
【0048】
次に、用意した前記各材料を研削及び研磨して、平面形状を前述した正方形、長方形、円形、楕円形、頂点3つ以上の多角形の何れかに形成すると共に、断面形状を直交する2つの面(3a、3b)と、その2つの面に対し傾斜して形成される1つの面3cから形成して、部材2を形成する。研削としてスライス及び所定のリング形状への抜き加工を施して、所望のリング形状を切り出す。また研磨としては、ラッピング、MP(Mechanical Polishing)、又はCMP(Chemical Mechanical Polishing)加工を施して、部材2の外観に現れる面の表面粗さRaを0.1μm以下とする。
【0049】
研磨後、面3cの面上に発光材4を配置する。
図3に示す様に凹部を形成する場合は、レーザ走査や超音波加工により行う。発光材4の配置は、凹部内への埋設が最も好ましい。その理由は、見返しリング1を腕時計に備えた後でも、経年に伴う発光材4の剥がれや摩耗又は消失が防止され、見返しリング1の時字や文字、図形、記号の視認性と装飾性の低下も防止出来る為である。
【0050】
発光材4の配置後、部材2を洗浄及び乾燥させ、その後2つの面(3a、3b)の少なくとも一方の面上に反射材を形成する。見返しリング1では面3a上にメタライズ加工(メッキ加工)により金属膜を成膜配置する。メタライズ加工法は、真空蒸着法もしくはスパッタリング法を適用する。メタライズ加工の際は、金属膜を成膜しない面3b(見返しリング1の側面)と面3c(見返しリング1の斜面)にマスキングを施す。
【0051】
以上の製造方法に依れば、発光材4の発光による実像5、及び部材2内で投影された虚像6により、視認性を確保しながら装飾性を向上させる事が出来る見返しリング1を製造可能となる。またメタライズ加工により金属膜を反射材として形成する事により、金属膜の色や光沢が使用者に目視で確認されるので、反射機能と共に見返しリング1の装飾性を向上する事が可能となる。
【0052】
なお、部材2の材料は、透明なプラスチックでも良い。
【実施例】
【0053】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。また実施形態の見返しリング1と重複する箇所には同一番号を付し、記載を省略又は簡略化して説明する。更に承伏する製造方法に関しても、記載を省略又は簡略化して説明する。
【0054】
以下、
図8と
図9を参照して本発明の実施例に係る見返しリング17を説明する。本実施例では、一つの部材2で見返しリング17を構成した。部材2はサファイア単結晶で形成し、外観に現れる面には、表面粗さRaが0.1μm以下となる様に鏡面研磨を施した。サファイア単結晶はEFG法で作製した。
【0055】
部材2の平面形状は円形のリング形状とした。また断面形状は、直交する2つの面(3a、3b)と、その2つの面に対し傾斜する1つの面3cで形成し、角部は適宜面取り加工を施した。面3cは凹状に形成した。更に見返しリング17の外形寸法は、外径39.36mm、内径36.0mm、外径での厚さを1.32mm、面3cの曲面を形成する円の半径を48.79mmに設定した。
【0056】
面3cの面上に、時字を構成する凹部をレーザ走査で形成し、更に凹部に発光材4を埋設して配置した。発光材4としては、可視光領域(365nm超~780nm未満)の光を励起光とする蓄光体(燐光体)を用いた。
【0057】
更に面3aの面上に、Crから成る金属膜を反射材として真空蒸着法により形成した。面3a以外の箇所にはレジストインクによりマスキングを施して、金属膜の蒸着を行った。
【0058】
この様にして形成した見返しリング17を、
図6に示す様な腕時計7内部の文字盤12上に半田接合で備えた。半田接合は、前記金属膜部分にスクリーン印刷を用いてペースト状の半田材(Au-Snろう材(Au80%、Sn20%))を付着させ、電気炉を用いて還元雰囲気で280℃~300℃、5分間熱処理により半田接合した。その後徐冷した。
【0059】
その腕時計7を暗闇に置き発光材4を発光させると共に、発光動作を確認した。確認の結果、赤、青、緑色の光が見返しリング17から外部へと出射されて、実像が目視により確認された。更に、虚像が部材2内部で実像の下に配置されて目視された。
【0060】
本発明に於ける見返しリングの寸法は、見返しリングを備える腕時計のデザインや仕様に応じて種々設定可能であり、本実施例の記載に限定されない。
【符号の説明】
【0061】
1、13、14、15、16、17 見返しリング
2 部材
3a、3b、3c 面
4 発光材
5 実像
6 虚像
7 腕時計
8 長針(分針)
9 短針(時針)
10 秒針
11 ケース
12 文字盤