(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】テント膜構造物用の雨筋防止部材
(51)【国際特許分類】
E04H 15/54 20060101AFI20240902BHJP
E04H 15/58 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
E04H15/54
E04H15/58 A
(21)【出願番号】P 2022166809
(22)【出願日】2022-10-18
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大原 茉奈
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-328513(JP,A)
【文献】特開平07-279488(JP,A)
【文献】実開昭56-098902(JP,U)
【文献】特開2003-182001(JP,A)
【文献】特開2007-085075(JP,A)
【文献】実公昭49-032018(JP,Y1)
【文献】米国特許第06732477(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 15/00 -15/64
E04F 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺三角柱による雨筋防止部材であって、前記長尺三角柱(両側面を除く)の三面を、傾斜面、底面、及び背面とした時、前記傾斜面と底面の交角が30~45°、かつ前記底面と背面の交角が90~100°で、さらに前記傾斜面が、その先端から突き出た1.0~2.5cm長の庇、及びその後端から伸び出た1.0~5.0cm長の折り曲げ自在べろ、を有することを特徴とするテント膜構造物用の雨筋防止部材。
【請求項2】
前記長尺三角柱が、厚さ0.3~1.0mmの熱可塑性樹脂シートから組み立てられた中空体であって、かつ前記底面の幅が3~10cmである請求項1に記載の雨筋防止部材。
【請求項3】
前記庇が、雨水落下誘導、兼雨水裏回り防止に作用し、かつ、前記折り曲げ自在べろが、テント膜構造物との接合に作用するものである請求項1または2に記載の雨筋防止部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テント倉庫(骨組テント膜構造物)の側壁に発生する雨筋汚れの増長を効果的に遅延するために、テント倉庫に装着して用いる雨筋防止部材に関する。
【背景技術】
【0002】
テント倉庫は、テント膜と鉄骨フレームとからなる建築基準法(国土交通省告示667号)に則った建築物で、工場敷地内に連棟して、主に資材、中間品、製品などの保管に利用している。テント膜の素材には、ポリエステル繊維織物、ガラス繊維織物などを芯材に含む軟質塩化ビニル樹脂シート(ターポリン、防水帆布)を使用し、その色相は、白色系、パステルアイボリー色、ライトグレー色などを主流とする。このような淡い色相のシートでは光を透過して適度な採光性が得られ、テント倉庫内を明るい空間とする省エネ設計に好適である。またテント倉庫の耐用年数をより長いものとするために、アクリル系防汚層、フッ素樹脂系防汚層などを最外層に設けている。このような防汚層を有するテント膜は拭き取りによる汚れ洗浄性に優れるが、降雨のみでは汚れが完全に落ちないため徐々に煤塵汚れが蓄積していく。この時、シートの色が白色系だと、煤塵汚れ、特に縞状に多発する雨筋汚れが際立ち、見た目に汚い状態となる。
【0003】
雨筋汚れは、建物外壁(窓の下)、ベランダ壁内側などで、雨水が垂れ落ちることで発生する縞状の汚れで、特にテント倉庫のような垂直平面で囲まれる構造では、側壁部全面に雨筋汚れが発生し易く、美観・景観を損なうことが問題となっている。雨筋汚れは、雨水に含む、鉱物粉塵、タール性煤塵、窒素酸化物などが乾くことで発生し、ある程度雨筋が密集すると、その後は雨筋の数は増えず、徐々に雨筋汚れの濃さを増していく傾向となる。特に降雨が無い期間が長いと、テント倉庫の屋根に粉塵や煤塵が堆積し、この堆積汚れが降雨でテント倉庫の側壁に流れ落ちることで、水滴幅の筋跡が顕著なる。この雨筋汚れは、排気ガスによるタール性煤塵を多く含むほど、降雨では流れ落ち難くなり、徐々に黒ずんだものに増長する。従ってテント倉庫の屋根に蓄積した汚れが、雨水と共にテント倉庫側壁に滴り落ちないようにすることで、雨筋汚れの増長を遅延させることは可能と考えられている。
【0004】
雨筋汚れ対策として特許文献1(実施例1,
図2)には、建物の窓部の上部に取付けた固定式装飾テントの上部に、幅15mm、厚み10mmのウレタンフォームテープ(防汚材料)を貼り付けることで、装飾テントに雨筋汚れを目立たないものとする方法が開示され、防汚材料が不織布、発泡体、ロープ、あるいは樋であることが請求項1、及び
図1に記載されている。すなわち特許文献1は、建物に付着した煤塵汚れが固定式装飾テントに流れ落ちないように防汚材料で食い止める発明で、不織布、発泡体、ロープは汚れた雨水を吸い取る作用、樋は雨水を他所に誘導する作用と推察される。しかし、不織布、発泡体、ロープだと吸い取った汚れが経時的に染み出る懸念があり、定期的な交換を必要とし、また樋では溜まった汚泥、ゴミの除去作業を必要とし、メンテナンスフリーの雨筋汚れ遅延には至らないことが判明した。
【0005】
窓部上部に取り付ける装飾テントとは異なり、テント倉庫は大型建築物なので、雨筋汚れを全て洗浄、除去するには、足場の設置、クレーン車、洗浄器具、など大掛かりな作業動員となる。従って、雨筋汚れの増長を遅延させることができれば、テント倉庫の洗浄作業の手間の軽減に繋がるが、雨筋汚れの増長の遅延に有効で、しかもメンテナンスフリーの雨筋汚れ防止方法は存在していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、テント倉庫(骨組テント膜構造物)の側壁に発生する雨筋汚れの増長を効果的に遅延するための、テント倉庫に装着して用いる雨筋防止部材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の現状に鑑みて研究、検討を重ねた結果、庇/べろ付き長尺三角柱を、テント膜構造物用の雨筋防止部材に用いることで、テント倉庫(骨組テント膜構造物)の側壁に発生する雨筋汚れの増長を効果的に遅延することが出来ることを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明のテント膜構造物用の雨筋防止部材は、長尺三角柱による雨筋防止部材であって、前記長尺三角柱(両側面を除く)の三面を、傾斜面、底面、及び背面とした時、前記傾斜面と底面の交角が30~45°、かつ前記底面と背面の交角が90~100°で、さらに前記傾斜面が、その先端から突き出た1.0~2.5cm長の庇、及びその後端から伸び出た1.0~5.0cm長の折り曲げ自在べろ、を有することが好ましい。この雨筋防止部材の装着によってテント倉庫(骨組テント膜構造物)の側壁に発生する雨筋汚れの増長を効果的に遅延させることが出来る。
【0010】
本発明のテント膜構造物用の雨筋防止部材は、前記長尺三角柱が、厚さ0.3~1.0mmの熱可塑性樹脂シートから組み立てられた中空体であって、かつ前記底面の幅が3~10cmであることが好ましい。これによって雨筋防止部材の軽量化され、かつサイズが好適化する。
【0011】
本発明のテント膜構造物用の雨筋防止部材は、前記庇が、雨水落下誘導、兼雨水裏回り防止に作用し、かつ、前記折り曲げ自在べろが、テント膜構造物との接合に作用するものであることが好ましい。これによって雨筋防止部材の傾斜面に沿って流れ落ちる、汚れを含む雨水をテント膜構造物の側壁に滴り落ちないようコントロールすることが出来る。
【発明の効果】
【0012】
本発明のテント膜構造物用の雨筋防止部材によれば、テント倉庫(骨組テント膜構造物)の側壁に発生する雨筋汚れの増長を効果的に遅延することが出来るので、テント倉庫の美観を長く保ち、テント倉庫の洗浄作業の手間を軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のテント膜構造物用の雨筋防止部材を示す図
【
図2】本発明のテント膜構造物用の雨筋防止部材(長尺三角柱)の側部断面を示す 図 a/b) c/d) e/f)
【
図3】本発明のテント膜構造物用の雨筋防止部材の使用態様を示す図
【
図4】本発明のテント膜構造物用の雨筋防止部材の装着部を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のテント膜構造物用の雨筋防止部材は、長尺三角柱を基礎として、長尺三角柱(両側面を除く)の三面を、傾斜面、底面、及び背面とした時、傾斜面と底面の交角が30~45°、かつ底面と背面の交角が90~100°で、さらに傾斜面が、その先端から突き出た1.0~2.5cm長の庇、及びその後端から伸び出た1.0~5.0cm長の折り曲げ自在べろ、を有する庇/べろ付きであり、特に長尺三角柱が、厚さ0.3~1.0mmの熱可塑性樹脂シートから組み立てられた中空体であって、かつ底面の幅が3~10cmであり、特に庇の機能が、雨水落下誘導、兼雨水裏回り防止であり、かつ、折り曲げ自在べろの機能が、テント膜構造物との接合である。
【0015】
テント膜構造物への雨筋防止部材の装着は、庇/べろ付き長尺三角柱の背面をテント膜構造物の側壁上部に水平に取り付ける。この時、底面と背面の交角は90°が雨筋防止部材の装着安定性に優れ好ましいが、91°~100°とすることで、傾斜面を伝い落ちるテント膜構造物屋根からの雨水が、角度的に底面に裏回りし難いものとなり、底面を伝ってテント膜構造物の側壁部に雨水が滴り落ちる可能性をいっそう低いものとする。この角度は91°を超えるほど底面への裏回りの可能性を低いものとするが、反面、長尺三角柱の他の角度が小さくなって、長尺三角柱の傾斜面が垂直に近づき、テント膜構造物の側壁部に接近することで、傾斜面から流れ落ちる雨水がテント膜構造物の側壁部に滴り落ちて雨筋防止部材としての機能を果たさなくなる。この条件で、傾斜面と底面の交角は30~45°、好ましくは45°で、46°を超えるほど傾斜面が垂直に近付いてテント膜構造物の側壁部に接近することで、傾斜面から流れ落ちる雨水がテント膜構造物の側壁部に滴り落ちて雨筋防止部材としての機能を果たせないものとなる。一方、30°未満だと長尺三角柱の側断面形状が細長い三角形となり平常安定性を悪いものとする。また底面の幅を3~10cmに規定したことで、底面と背面の交角、及び傾斜面と底面の交角との関係から、傾斜面、及び背面の適正な幅を導き出すことができる。本発明の雨筋防止部材(長尺三角柱)は、底面と背面の交角は90°、かつ傾斜面と底面の交角は45°が好ましく、この条件での最小サイズは、底面3cm×背面3cm×傾斜面4.2cm、最大サイズは、底面10cm×背面10cm×傾斜面14.1cmである。また、傾斜面には、その先端から突き出た、雨水落下誘導、兼雨水裏回り防止のために設けた1.0~2.5cm長の庇、及びその後端から伸び出たテント膜構造物との接合のために設けた1.0~5.0cm長の折り曲げ自在べろ、を有することが必要である。先端の庇の長さが1.0cm未満だと、雨水裏回り防止が不十分となることがあり、また2.5cm長を越えると材質によっては自重で先端が垂落ちて、雨水が滴り落ちる方向が不安定となることがある。一方、折り曲げ自在べろの長さが1.0cm未満だと、テント膜構造物との接合が不十分となり、また5.0cm長を超えると接合幅が広くなり過ぎて雨筋防止部材の取り扱い性、及び接合の作業性を悪くすることがある。
【0016】
本発明の雨筋防止部材となる長尺三角柱は軽量化を目的に、厚さ0.3~1.0mmの熱可塑性樹脂シートから、中空体として組み立てることが好ましい。用いる熱可塑性樹脂シートには、テント膜構造物を構成するターポリン、または防水帆布と同一、または同質のものが、外観、色相、接合の調和性において好適である。ターポリンは、278dtex~1666dtexのマルチフィラメント糸条(特にポリエステル繊維、またはガラス繊維)による平織物(空隙率7~25%、質量125~250g/m2)の両面に、厚さ0.15~0.35mmの熱可塑性樹脂フィルムを熱圧ラミネートして得られた鏡面、または梨地艶消しのものが使用でき、特に表面に防汚層として、アクリル系樹脂塗工層、フッ素系樹脂塗工層、またはフッ素系樹脂フィルム層を形成したものが好ましい。また防水帆布は、10番手(591dtex)~30番手(197dtex)の短繊維紡績糸条(特にポリエステル繊維の単糸または双糸または撚糸または合撚糸)によるスパン平織物(空隙率0~12%、質量120~250g/m2)の両面に熱可塑性樹脂含浸被覆層をコーティング法、またはデッピィング法で設けて得られた鏡面、または梨地ものが使用でき、特に表面に防汚層として、アクリル系樹脂塗工層、フッ素系樹脂塗工層、またはフッ素系樹脂フィルム層を形成したものが好ましい。上記のターポリン、及び防水帆布に用いる熱可塑性樹脂は、加工性、難燃性、耐候性、及び高周波溶着性に特に優れた軟質塩化ビニル系樹脂組成物が好ましい。軟質塩化ビニル系樹脂組成物は、例えば、塩化ビニル樹脂、可塑剤、金属複合安定剤、難燃剤、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤など公知の資材を配合したものである。
【0017】
本発明の雨筋防止部材の基礎となる長尺三角柱は、上記ターポリン、または防水帆布から切り出した1~2m長×11~44cm幅のパーツを折込み、水平に4分割する3ヶ所の折込線によって空洞の三角柱を形成することができる。水平に4分割された4つの領域は上(または下)から順に、「背面、傾斜面、底面、のりしろ面」(
図2-a)、または「のりしろ面、背面、傾斜面、底面」(
図2-b)、または「のりしろ面、傾斜面、底面、背面」(
図2-c)、または「のりしろ面、背面、底面、傾斜面」(
図2-d)、または「底面、背面、傾斜面、のりしろ面」(
図2-e)、または「傾斜面、背面、底面、のりしろ面」(
図2-f)、の何れかで、(
図2-a)/(
図2-b)、(
図2-c)/(
図2-d)、(
図2-e)/(
図2-f)は、各々、のりしろ面の重なりの上側/下側の差異である。のりしろ面の接着は、酢酸ビニル系、クロロプレン系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン系、シアノアクリレート系、などの公知の接着剤を用いることができる。のりしろ面の幅は、のりしろ面と重なる面の幅と同じである必要はない。このうち、「傾斜面、背面、底面、のりしろ面」(
図2-e)の傾斜面の長さを1.0~2.5cm長拡張することで、この拡張部を先端の庇に設定することができる。また、「のりしろ面、背面、底面、傾斜面」(
図2-f)傾斜面の長さを1.0~5.0cm長拡張することで、この拡張部を折り曲げ自在べろとすることができる。この折り曲げ自在べろをテント膜構造物の側壁に固定することでテント膜構造物の屋根から流れ落ちる雨水は、折り曲げ自在べろ伝いに傾斜面を通過して先端の庇に誘導されて滴り落ちる。前者は別途、折り曲げ自在べろを設ける必要があり、後者は別途、先端に庇を設ける必要がある。傾斜面に庇と折り曲げ自在べろを同時に設けるには、先に長尺三角柱を組み立て、次に傾斜面の幅に2.0~7.5cm幅を加算した帯状シートを切り出し、最後に帯状シートを長尺三角柱の傾斜面上に接着することで、庇/べろ付き長尺三角柱を得ることができる。この折り曲げ自在べろをテント膜構造物の側壁に固定することでテント膜構造物の屋根から流れ落ちる雨水を雨筋防止部材の先端の庇までスムーズに誘導することができる。先端の庇から雨水が勢いよく滴り落ち、雨筋防止部材の底面への裏回りが防止されることで、屋根から流れ落ちた雨水がテント膜構造物の側壁に流れ込む可能性を一段と低いものとする。それによってテント膜構造物の側壁の雨筋の増長を大幅に遅延することができるようになる。
【0018】
本発明の雨筋防止部材の基礎となる長尺三角柱の素材には、ターポリン、及び防水帆布、以外の素材を用いてもよく、その他素材は例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、半硬質塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート)、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート、など厚さ0.3~1.0mmの熱可塑性樹脂シートで、カレンダー圧延成型、またはTダイス押し出し成型された着色、または無着色の単層シート、または複層シートである。複層シートの具体例は、単層シート上にフッ素系樹脂層が形成されたもの、さらには単層シートとボール紙(板紙)による防水積層体が挙げられる。これらのシートから切り出した1~2m長×11~44cm幅のパーツを折込み、水平に4分割する3ヶ所の切込線によって空洞の三角柱を形成することができる。水平に4分割された4つの領域は先述した(
図2-a)~(
図2-f)の何れかと同様であり、傾斜面先端の庇、及び傾斜面後端の折り曲げ自在べろの形成についても段落〔0017〕と同様で、特に折り曲げ自在べろは背面と同一方向、かつ背面の延長となるように形成する必要がある。これらにおいて、のりしろ面の接着は、酢酸ビニル系、クロロプレン系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン系、シアノアクリレート系、などの公知の接着剤を用いることができる。のりしろ面の幅は、のりしろ面と重なる面の幅と同じである必要はない。特にターポリン、防水帆布をパーツとする雨筋防止部材は、フレキシブルな空洞の三角柱なので積雪時に可逆的に変形し、積雪荷重によるダメージから逃れ、復元するメリットを有している。
【0019】
雨筋防止部材のテント膜構造物への装着は、折り曲げ自在べろ、及び背面を、接着剤、粘着テープ、及び樹脂製面ファスナー、から選ばれた1種以上の手段を用いて、テント膜構造物の側壁最上部に水平固定する。テント倉庫は、骨組み(フレーム)とターポリン縫製物、または防水帆布縫製物とから構成され、形状は主に、屋根部がアーチ屋根の蒲鉾型、三角屋根の切褄型がある。雨筋防止部材を装着する側壁上部とは屋根(蒲鉾屋根のアーチ部、または切褄屋根の傾斜部)と側壁(垂直部)の境目から20cm以内であり、側壁に固定した折り曲げ自在べろが雨水の傾斜面(先端のべろ)への誘導部となる。接着剤は、酢酸ビニル系、クロロプレン系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン系、シアノアクリレート系、などの公知の接着剤を用いることができる。粘着テープは、ガラス転移温度(Tg)がー60~-40℃のアクリル酸エステル系共重合体、ウレタン系共重合体、シリコーンゴム系共重合体、SBRゴム系、SISゴム系、などを主体とし、必要に応じてタッキファイャー(変性ロジン、水添ロジン、テルペンフェノール、芳香族変性テルペン、C5/C9系石油樹脂、C9系石油樹脂、スチレン系、クマロン系、インデン系など)、軟化剤(フタル酸エステル系可塑剤、プロセスオイル、ナフテン系オイル、液状ポリイソプレン、など)、その他、酸化防止剤、充填剤などを含む組成物を、不織布、フィルムなどの支持体に塗工して得られる両面テープで、この両面テープの使用により雨筋防止部材の交換を可能とする。また、樹脂製面ファスナーは着脱を自在とする雄面/雌面との係合ペアで、雌雄係合物は剪断応力に優れる反面、めくり剥がしが容易である。樹脂製面ファスナーの種類は、雄面に鉤型突起を高密度(1cm2に25~100個)で有し、雌面にコイル型またはループ型の突起を高密度(1cm2に25~100個)有し、鉤がコイルまたはループに引っ掛かる係合タイプ、または雄面、及び雌面にキノコ型突起を多数(1cm2に9~50個)有し、向き合うキノコ型突起の傘同士の引っ掛かりによる係合タイプの何れも使用でき、裏面に粘着層を有するもの、あるいは両面粘着テープとの併用が好ましい。樹脂製面ファスナーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル(PET)樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン)など高高度、高モジュラスの熱可塑性樹脂製が好ましい。特に樹脂製面ファスナーを用いることにより、雨筋防止部材のテント膜構造物への装着が着脱自在となり、雨筋防止部材の交換が容易となる。この場合、折り曲げ自在べろとテント膜構造物側壁の接合には両面粘着テープを併用して、隙間を生じないようにする必要がある。べろと側壁の接合部に隙間を生じると雨水がテント膜構造物側壁に流れ込み、雨筋防止部材の機能が半減する。
【0020】
次に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
〈雨筋汚れの評価〉
テント膜構造物(テント倉庫)を構成する防水帆布(※エステル5号帆布)から採取した曝露試験体(長さ180cm×幅30cm:長さは防水帆布の長手方向)を、屋外曝露用の鉄骨フレーム(南向き曝露台)に装着(シート四隅にハトメを打ち、ハトメ穴を通じてフレームにロープ固定)して4月~9月の6ヶ月間曝露試験を、滋賀県草津市内の平岡織染株式会社滋賀工場の敷地内にて実施した。曝露台は30°の傾斜部100cm、及び傾斜部から続く垂直部80cmで構成されるもので、傾斜部はテント膜構造物の屋根、垂直部はテント膜構造物の側壁部をシミュレーションしたものである。この曝露試験では、垂直面における雨筋汚れの発生、及び汚れの濃さを色差ΔE値、すなわち初期(ブランク)との色差ΔE値(JIS Z8729)で、2ヶ月後、4ヶ月後、6ヶ月後、の試験体(実施例、比較例)表面を1~4の4ランク(
図5参照)で評価した。色差計測はコニカミノルタ株式会社製のカラーリーダー色差計(CR-10PLUS)を用いた。
※厚さ0.5mm、質量570g/m
2、アイボリー色のエステル5号帆布(ポリエステル5号スパン織物に軟質塩化ビニル樹脂組成物ペーストゾルを含浸被覆し、加熱処理でゲル化させた防水帆布の表面にフッ素樹脂塗膜を形成したもの)
ΔE=0~1.9 :1=汚れがなく良好。初期の状態を維持している
ΔE=2~3.9 :2=かすかに雨筋汚れを認める
ΔE=4~7.9 :3=はっきりした雨筋汚れを認める
ΔE=8以上 :4=雨筋汚れが目立つ
【0021】
[実施例1]
1)長尺三角柱の作成
熱可塑性樹脂シートとして、厚さ0.5mm、質量570g/m2、アイボリー色のエステル5号帆布(ポリエステル5号スパン織物に軟質塩化ビニル樹脂組成物ペーストゾルを含浸被覆し、加熱処理でゲル化させた防水帆布の表面にフッ素樹脂塗膜を形成したもの)を用い、エステル5号帆布の幅方向30cm、長手方向21.6cmの長方形を採取し、この長手方向21.6cmを、のりしろ4.5cm/傾斜面7.1cm/背面5.0cm/底面5.0cmに区画し、フッ素樹脂塗膜形成面が外面となるように折り曲げ、家庭用アイロン(120℃)で折り目を付けて底面をクロロプレンゴム接着剤(溶剤型)で糊付け二重とする空洞の三角柱を作成した。この三角柱は、底面(5.0cm)と背面(5.0cm)の交角90°、傾斜面(7.1cm)と底面(5.0cm)の交角45°である。
2)雨筋防止部材の作成
同じエステル5号帆布から、幅方向30cm、長手方向13.6cmの長方形を採取し、これをクロロプレンゴム接着剤(溶剤型)で三角柱の傾斜面(7.1cm)に、フッ素樹脂塗膜形成面が外面となるように固定すると同時に、傾斜面先端から1.5cm幅飛び出た庇、及び傾斜面後端から5cm幅飛び出た折り曲げ自在べろを同時形成し、本発明の雨筋防止部材(1)を得た。
3)雨筋防止部材の装着
テント膜構造物(テント倉庫)を構成するエステル5号帆布から採取した曝露試験体(長さ180cm×幅30cm:長さは防水帆布の長手方向)の、長さ100cmと80cmの境目に雨筋防止部材(1)の折り曲げ自在べろ(5.0cm)の先端が重なるように、雨筋防止部材(1)をクロロプレンゴム接着剤(溶剤型)で固定装着して曝露試験体(1)を得た。雨筋防止部材(1)の曝露試験体に対する接着面は、背面(5.0cm)、及び折り曲げ自在べろ裏面(5.0cm)である。
【0022】
[実施例2]
エステル5号帆布から、幅方向30cm、長手方向21.8cmの長方形を採取し、この長手方向21.8cmを、のりしろ4.5cm/傾斜面7.3cm/背面5.0cm/底面5.0cmに区画し、実施例1と同様にして空洞の三角柱を作成した。この三角柱は、底面(5.0cm)と背面(5.0cm)の交角95°、傾斜面(7.3cm)と底面(5.0cm)の交角42°である。次に同じステル5号帆布から採取した、幅方向30cm、長手方向13.8cmの長方形を、実施例1と同様にして三角柱の傾斜面(7.3cm)に固定すると同時に、傾斜面先端から1.5cm幅飛び出た庇、及び傾斜面後端から5cm幅飛び出た折り曲げ自在べろを同時形成し、本発明の雨筋防止部材(2)を得た。次に、実施例1と同様にして曝露試験体の、長さ100cmと80cmの境目に雨筋防止部材(2)の折り曲げ自在べろ(5.0cm)の先端が重なるように、雨筋防止部材(2)を固定装着して曝露試験体(2)を得た。雨筋防止部材(2)の曝露試験体に対する接着面は、背面(5.0cm)、及び折り曲げ自在べろ裏面(5.0cm)である。
【0023】
[比較例1]
実施例1において、雨筋防止部材の装着を省略し、曝露試験体(3)とした。曝露試験体(3)は、雨筋防止部材の装着を省略したことで曝露開始2ヶ月目から淡い雨筋汚れが発生し、6ヶ月後には遠くからも目立つ濃い雨筋汚れとなった。雨筋防止部材の有無による雨筋汚れ発生の遅延効果は顕著であった。
【0024】
[比較例2]
実施例1の雨筋防止部材(1)を雨筋比較部材(1)に変更した以外は実施例1と同様とした。雨筋比較部材(1)は、実施例1の長尺三角柱に、エステル5号帆布から採取した、幅方向30cm、長手方向12.1cmの長方形を、三角柱の傾斜面(7.1cm)に、フッ素樹脂塗膜形成面が外面となるように固定したもので、傾斜面先端から飛び出る庇が省略され、傾斜面後端から飛び出る長さ5.0cmの折り曲げ自在べろのみが形成されたものである。実施例1と同様にして、雨筋比較部材(1)を固定装着した曝露試験体(4)を得た。曝露試験体(4)は、傾斜面先端から飛び出る庇を省略したことで、傾斜面を流れ落ちる水滴の一部が雨筋比較部材(1)の底面に伝い、曝露試験体(4)の垂直面に流れ混むことで、曝露開始4ヶ月目から雨筋汚れが発生し、6ヶ月後には目立つ雨筋汚れとなった。傾斜面先端から飛び出る庇の有無による雨筋汚れ発生の遅延効果は顕著であった。
【0025】
[比較例3]
実施例1の雨筋防止部材(1)を雨筋比較部材(2)に変更した以外は実施例1と同様とした。雨筋比較部材(2)は、エステル5号帆布から、幅方向30cm、長手方向20.7cmの長方形を採取し、この長手方向20.7cmを、のりしろ4.5cm/傾斜面6.2cm/背面5.0cm/底面5.0cmに区画し、実施例1と同様にして空洞の三角柱を作成した。この三角柱は、底面(5.0cm)と背面(5.0cm)の交角70°、傾斜面(5.0cm)と底面(5.0cm)の交角55°である。次に同じステル5号帆布から採取した、幅方向30cm、長手方向12.8cmの長方形を、実施例1と同様にして三角柱の傾斜面(6.2cm)に固定して雨筋比較部材(2)を得た。雨筋比較部材(2)は、傾斜面先端から飛び出た長さ0.5cmの庇、及び傾斜面後端から飛び出た長さ5cmの折り曲げ自在べろが形成されたものである。実施例1と同様にして、雨筋比較部材(2)を固定装着した曝露試験体(5)を得た。曝露試験体(5)は、傾斜面先端から飛び出る庇を0.5mmとしたこと、底面と背面の交角を70°としたことで、傾斜面を流れ落ちる水滴の一部が雨筋比較部材(2)の底面に伝い、曝露試験体(5)の垂直面に流れ混むことで、曝露開始4ヶ月目から雨筋汚れが発生し、6ヶ月後には目立つ雨筋汚れとなった。傾斜面先端から飛び出る庇の長さ、及び底面と背面の交角による雨筋汚れ発生の遅延効果は顕著であった。
【0026】
【産業上の利用可能性】
【0027】
上記、実施例、及び比較例から明らかな様に、本発明のテント膜構造物用の雨筋防止部材によれば、テント倉庫(骨組テント膜構造物)の側壁に発生する雨筋汚れの増長を効果的に遅延することが出来るので、テント倉庫の美観を長く保ち、テント倉庫の洗浄作業の手間を軽減することが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1:雨筋防止部材
1-1:長尺三角柱
1-2:傾斜面
1-2-1:庇
1-2-2:折り曲げ自在べろ
1-3:底面
1-4:背面
1-5:のりしろ
2:テント倉庫
2-1:天井部
2-2:側壁部
3:接着剤、または両面粘着テープ
4:雨筋汚れ