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  • 特許-発泡性ポリプロピレンの生成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】発泡性ポリプロピレンの生成方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20240902BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J3/20 D CES
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024069324
(22)【出願日】2024-04-22
【審査請求日】2024-04-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519281251
【氏名又は名称】株式会社リピープラス
(74)【代理人】
【識別番号】100143100
【弁理士】
【氏名又は名称】座間 正信
(72)【発明者】
【氏名】塩野 武男
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-513899(JP,A)
【文献】特開昭63-006032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/04
C08J 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸押出機を用いて架橋ポリプロピレンを熱可塑化し、発泡性ポリプロピレンを製造する方法において、
架橋ポリプロピレンと添加剤とを混合して混合物を生成する混合工程と、
前記混合物を前記二軸押出機の第一投入部から投入して熱とせん断応力を加えて前記架橋ポリプロピレンを熱可塑化して熱可塑化物を生成する熱可塑化工程と、
前記二軸押出機の第二投入部から非架橋のポリプロピレンを投入し、前記熱可塑化物と前記非架橋のポリプロピレンに熱を加えて混練する混練工程とを、含み、
前記混合工程における前記添加剤の量が、前記架橋ポリプロピレン100重量部に対して0.1~5重量部であり、
前記添加剤は、熱可塑化した前記架橋ポリプロピレンに発泡性を付与し、1分半減期が150℃以上の過酸化物であり、
前記熱可塑化工程における前記せん断応力を5,000~8,500s-1のせん断速度で5~30秒間発生させ、
前記混練工程において投入される前記非架橋のポリプロピレンの量が、前記架橋ポリプロピレン100重量部に対して50~150重量部であることを特徴とする発泡性ポリプロピレンの生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の発泡性ポリプロピレンの生成方法において、
前記添加剤が、t-ブチルパーオキシラウレイト、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネイト、t-ヘキシルパーオキシベンゾエイト、t-ブチルパーオキシベンゾエイト、ジクミルパーオキサイド、ジt-ヘキシルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプルピル)ベンゼン、2,5ジメチル2,5ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンから選択される過酸化物を少なくとも1種含むことを特徴とする発泡性ポリプロピレンの生成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の発泡性ポリプロピレンの生成方法において、
前記混練工程により生成された発泡性ポリプロピレンは、発泡剤を加えて200℃で3分間発泡させた際、300%以上の発泡倍率を示すことを特徴とする発泡性ポリプロピレンの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリプロピレンを熱可塑化して発泡性ポリプロピレンを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン(略称PP)とは、プロピレンモノマーを重合した熱可塑性樹脂である。ポリプロピレンは汎用樹脂の中で最高の耐熱性を誇り、汎用樹脂としては比較的強度が高く、耐薬品(耐酸、耐アルカリを含む)性に優れ、吸湿性が低いという特長がある。そのため、文具、紙幣、自動車部品、包装材料、繊維製品、プラスチック部品、種々の容器など幅広い用途を持っている。
【0003】
架橋ポリプロピレンとは、ポリプロピレンに架橋剤を添加処理したり、電子線を照射して高分子の分子鎖を立体網目状構造に分子間結合を行わせたポリプロピレンである。架橋ポリプロピレンは通常のポリプロピレンよりも耐熱性や耐衝撃性が向上しており、自動車用部品や航空機部品などに使用されている。一方、架橋ポリプロピレンは熱を加えても溶融しないため、マテリアルリサイクルが非常に困難となっている。
【0004】
そこで、架橋ポリプロピレンをマテリアルリサイクルするために、架橋ポリプロピレンに熱を加えて溶融させる熱可塑化技術が研究されている。熱可塑化とは、架橋ポリプロピレンに適切な熱とせん断応力を与えることで架橋構造を破壊し、低分子量化することで熱を加えると溶解させる技術である。しかし、架橋ポリプロピレンの架橋点を適切に切断することは難しく、単に高温、高せん断力で熱可塑化をおこなうと引張強度や剛性などの物性値が低下する。
【0005】
また、ポリプロピレンは長鎖分岐を生じづらいため、通常の方法で製造したポリプロピレンは発泡剤を加えて加熱しても発泡倍率は200%以下である。工業的に使用するには発泡倍率が高いことが望まれており、300%以上あることが好ましい場合が多いため、様々な方法で発泡性の高いポリプロピレンを生成する方法が提案されている。
【0006】
発泡性ポリプロピレンの生成方法は、例えば、特許文献1~3に記載のものが知られている。特許文献1では、適度な流動性を有しメルトテンションが高い改質ポリプロピレン組成物が開示される。特許文献2では、耐熱性、リサイクル性などの特性を有し高倍率発泡体とすることができるポリオレフィン系樹脂組成物およびその製造方法が開示される。特許文献3では、柔軟性、耐熱性に優れたポリプロピレン系軟質発泡体が得られる軟質発泡体用プロピレン系樹脂組成物を提供する方法が開示される。
【0007】
特許文献1に記載の改質ポリプロピレン組成物は、非架橋ポリプロピレンと、メルトフローレートが0.1~10g/10分の範囲で沸騰パラキシレン抽出によるゲル分率が0.01~25重量%以下である弱架橋ポリプロピレンとからなる。そして、非架橋ポリプロピレンを99~1重量%、弱架橋ポリプロピレンを1~99重量%の量で含有させる。
【0008】
特許文献2では、発泡能力を有するポリオレフィン系樹脂架橋組成物(D)に、粉末状のポリオレフィン系樹脂(E)を混合する。ポリオレフィン系樹脂架橋組成物(D)は、ポリオレフィン系樹脂(A)と、100℃以上の結晶融解ピーク(融点Tmb)を有するポリオレフィン系樹脂(B)(ポリオレフィン系樹脂にはポリプロピレンが含まれる(段落0013))と、熱分解型化学発泡剤(C)とを溶融混練する。その後、粉末状に粉砕加工することで得られる(要約、請求項7、[0028])。
【0009】
また、特許文献3に記載の軟質発泡体用プロピレン系樹脂組成物は、メタロセン触媒の存在下で重合され、かつ、メルトフローレートが0.1~10g/10min、融点が100~155℃の範囲にあるプロピレン系ランダムブロック共重合体であって、室温下でn?デカンに不溶な部分90~30重量%と、室温下でn?デカンに可溶な部分10~70重量%とから構成されるプロピレン系ランダムブロック共重合体(A)50~90重量部と、メルトテンションが4~30gの範囲にある改質ポリプロピレン(B)50~10重量部とを含む。
【0010】
【文献】特開2002-60563号公報
【文献】特開2004-26937号公報
【文献】特開2009-84304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で得られる改質ポリプロピレン組成物の発泡倍率は、明細書中の表3より発泡倍率が180~200%と低く、300%以上の高い発泡倍率の高いポリプロピレンではない。
【0012】
また、特許文献2に記載の方法で得られたポリオレフィン系樹脂組成物は、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ジエン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン3元共重合体、エチレン-オクテン共重合体、低密度ポリエチレン(特許文献2(0012)、(0043)[実施例1])など、ポリプロピレンよりも剛性が低い高分子化合物が含まれている。従って、ポリプロピレン単独の剛性よりも低いことが示唆される。
【0013】
さらに、特許文献3に記載の軟質発泡体用プロピレン系樹脂組成物は、高価なメタロセン触媒のもとで重合されたプロピレン系ランダムブロック共重合体であり、高価な触媒を使用するために製造コストが高い。またプロピレン系ランダムブロック共重合体は、プロピレンとエチレンとの共重合体(特許文献3(0019))であり、ポリプロピレンより剛性の低いポリエチレンが含まれるため、ポリプロピレン単独の剛性よりも低いことが示唆される。
【0014】
本発明は、前記の不都合を解消するためになされたものであって、高い発泡倍率と高い剛性を備える発泡性ポリプロピレンの生成方法を提供することを目的とする。また、従来廃棄されていた架橋ポリプロピレンを原料とすることで、マテリアルリサイクルを促進するとともに発泡性ポリプロピレンを安価で生成する方法を提供することを目的とする。この発泡性ポリプロピレンを用いることで、例えば、高い発泡倍率と高い剛性の両方を必要とする用途(例えば車載用発泡体)に好適に用いることが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る発泡性ポリプロピレンの生成方法は、二軸押出機を用いて架橋ポリプロピレンを熱可塑化し、発泡性ポリプロピレンを製造する方法において、架橋ポリプロピレンと添加剤とを混合して混合物を生成する混合工程と、前記混合物を前記二軸押出機の第一投入部から投入して熱とせん断応力を加えて前記架橋ポリプロピレンを熱可塑化して熱可塑化物を生成する熱可塑化工程と、前記二軸押出機の第二投入部から非架橋のポリプロピレンを投入し、前記熱可塑化物と前記非架橋のポリプロピレンに熱を加えて混練する混練工程と、を含み、前記混合工程における前記添加剤の量が、前記架橋ポリプロピレン100重量部に対して0.1~5重量部であり、前記添加剤は熱可塑化した前記架橋ポリプロピレンに発泡性を付与し、1分半減期が150℃以上の過酸化物であり、前記熱可塑化工程における前記せん断応力を5,000~8,500s-1のせん断速度で5~30秒間発生させ、前記混練工程において投入される前記非架橋のポリプロピレンの量が、前記架橋ポリプロピレン100重量部に対して50~150重量部であることを特徴とする。
【0016】
また、前記添加剤が、t-ブチルパーオキシラウレイト、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネイト、t-ヘキシルパーオキシベンゾエイト、t-ブチルパーオキシベンゾエイト、ジクミルパーオキサイド、ジt-ヘキシルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプルピル)ベンゼン、2,5ジメチル2,5ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンから選択される過酸化物を少なくとも1種含むことを特徴とする。
【0017】
さらに、前記混練工程により生成された発泡性ポリプロピレンは、発泡剤を加えて200℃で3分間発泡させた際、300%以上の発泡倍率を示すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、1分半減期が150℃以上の過酸化物を用いて架橋ポリプロピレンを熱可塑化し、非架橋のポリプロピレンを混練することで、安価な費用で、高い発泡倍率と高剛性をもつ発泡性ポリプロピレンが得られる。得られた発泡性ポリプロピレンは発泡剤を加えて発泡させることにより、高い発泡倍率と高剛性が必要とされる用途、例えば車の内装材や車載用エアコンダクトの保護材などに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る二軸押出機の内部構造を示した断面概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る二軸押出機のシリンダ内部に配置された2本のスクリューを平面視で示す部分断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る発泡性ポリプロピレンの生成方法の工程図である。
図4】本発明の実施例1に係る発泡性ポリプロピレンに発泡剤を加えて200℃3分間発泡させた発泡体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0021】
<装置の説明>
架橋ポリプロピレンの熱可塑化は押出機を用いて行なうが、押出機にはスクリューが1本だけの一軸押出機とスクリューが2本ある二軸押出機とに大別できる。二軸押出機は一軸押出機に比べて、添加剤や充填剤など異なる成分の均一混合効率に優れる、摩擦熱の影響が少なく発熱を抑えられる、内部材料流れが複雑となりより大きなせん断応力を材料にかけることができる、などの利点がある。そのため、本発明においては二軸押出機を用いて試験を行なった。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る二軸押出機10の内部構造を示した断面概略図である。また、図2は、二軸押出機10のシリンダ12内部に配置された2本のスクリュー13を平面視で示す部分断面図である。
【0023】
図1に示すように二軸押出機10は、駆動部14からシリンダ12が延在しており、さらに架橋ポリプロピレンなどを投入するための第一投入部16及び第二投入部24を備える。そして、シリンダ12内には順番に、第一輸送部18、第一混練部20、第二輸送部26、第二混練部28及び第三輸送部32が設けられている。第一輸送部18、第一混練部20、第二輸送部26、第二混練部28、第三輸送部32のそれぞれは2本の対になるスクリュー13を有する。ここで、第一輸送部18、第二輸送部26、第三輸送部32のスクリューは輸送に適した形状のスクリューである。また、第一混練部20のスクリューは熱可塑化に適した形状のスクリューで、第二混練部28のスクリューは混練に適した形状のスクリューで構成されている。
【0024】
駆動部14には図示しないモーターが配設されており、駆動部14のモーターは、第一輸送部18のスクリューと接続され、さらに、各スクリューは、隣接するスクリューと接続している。そのため、駆動部14内のモーターが駆動すると、第一輸送部18、第一混練部20、第二輸送部26、第二混練部28及び第三輸送部32の各スクリューが同時に回転する。そのため、第一輸送部18、第一混練部20、第二輸送部26、第二混練部28及び第三輸送部32のスクリューの回転数は同一となる。さらに、シリンダ12内部を所定の温度に保つための図示しないヒーターなどの加熱手段が設けられている。なお、図1では、第一輸送部18、第二輸送部26及び第三輸送部32をハッチングで示し、第一混練部20及び第二混練部28を小さい四角の集まりとして示しているが、これらはそれぞれの部位の位置を示すための便宜的なものであることに留意されたい。
【0025】
第一輸送部18の上部には第一投入部16が設けられており、二軸押出機10の外部で混合された混合物は第一投入部16から投入され、ヒーターなどで加熱された第一輸送部18で加熱溶融されて第一混練部20へと移送される。
【0026】
第一混練部20は、高いせん断応力が生じるようにスクリューとシリンダの幅が狭く調整されている。第一混練部20の上部に第一脱気部22が設けられており、第一輸送部18から移送された混合物は第一混練部20でせん断応力と熱を加えられることで架橋ポリプロピレンが熱可塑化される。そのときに発生した気体は第一脱気部22を通り二軸押出機10の外部へと排出される。その後、熱可塑化された混合物は第二輸送部26へと移送される。
【0027】
ここで、せん断応力τとは、物体内部のある面と別な面を互い違いに平行方向に変形させたときに作用する応力のことである。変形させるのにかけた力をF、変形させた面積をAとするとせん断応力はF/Aで表わされ、単位はτ(Paパスカル)=F(Nニュートン)/A(面積m)となる。
【0028】
また、せん断応力τ(Pa)はせん断速度γ(s-1)とポリプロピレンの粘度μ(Pa・s)との積で表される。すなわちτ=μγとなる。なお、せん断速度γの単位は秒の逆数(1/s)で表わされる。ここでポリプロピレンの粘度μはポリプロピレンの種類と温度により定まるため、せん断応力τはせん断速度によりコントロールすることが一般的である。
【0029】
ここで、せん断速度γ(s-1)は押出機のシリンダとスクリューのクリアランスt(mm)およびスクリューの先端頂部の速度v(mm/s)からγ=v/tとなる。なお、このスクリューの先端頂部の速度vは、スクリューの回転をN(rpm)、径をD(mm)とすると、v=πND/60となる。すなわち、せん断速度はγ=πND/60tで表わされる。ここでπは円周率を表わす。なお、せん断速度の式より、クリアランスが大きいとせん断速度は小さくなり、逆にクリアランスが小さいとせん断速度は大きくなる。そして、第一混練部20のクリアランスは第2混練部28のクリアランスよりも小さいため、第一混練部20のせん断速度は第2混練部28よりも大きく設定されている。
【0030】
第二輸送部26は、第一混練部20と第二混練部28とに接続されており、また第二輸送部26の上部には第二投入部24が設けられている。第二投入部24から投入された個体の投入物は、ヒーターなどで加熱された第二輸送部26内で溶融し、第一混練部20から移送された混合物と共に第二混練部28へと移送される。
【0031】
第二混練部28は第二輸送部26と第三輸送部32と接続しており、混合及び混練作用が生じる2本のスクリューを有する。そして第二混練部28では第二輸送部26から移送された熱可塑化された混合物と投入物とを均一に混練できる。その後、混練された発泡性ポリプロピレンは第三輸送部32へと移送される。なお、ここで「混合」は、2つ以上の材料を混ぜること全般を意味する。また「混練」は、比較的粘度が高い少なくとも1つの材料(ここでは、溶融状態の熱可塑化された架橋ポリプロピレン)に別の材料(ここでは、溶融状態の非架橋ポリプロピレン)を混ぜた上で練ることを意味する。
【0032】
第三輸送部32は第二混練部28と排出部34と接続している。そして、第三輸送部32の上部には第二脱気部30が設けられており、シリンダ12内部で発生した気体が外部に排出される構造となっている。第二混練部28から移送された発泡性ポリプロピレンは第三輸送部32を通り排出部34から外部へと排出される。
【0033】
<工程の説明>
次に、図3を用いて本発明の実施形態に係る発泡性ポリプロピレンの生成方法について説明する。図3は、本発明の実施形態に係る発泡性ポリプロピレンの生成方法の工程図である。
【0034】
(準備工程:S1)
スタート時に二軸押出機10の電源が投入される。そうすると二軸押出機10の駆動部14内にあるモーターが回転し、駆動部14に接続した第一輸送部18、第一混練部20、第二輸送部26、第二混練部28及び第三輸送部32のそれぞれのスクリューが回転する。同時に加熱機構によりシリンダ12内部が所定の温度に加熱され、装置が十分に安定するまで所定の時間が保たれる。
【0035】
上述したようにせん断速度はγ=πND/60tの式で表わされるが、第一混練部におけるせん断速度は5,000~15,000s-1、好ましくは6,000~8,500s-1となるようにスクリューの回転速度が設定される。第一混練部において5,000s-1未満のせん断速度の場合では熱可塑化が十分に進行しない。また、15,000s-1を超えるせん断速度をかけると得られる発泡性ポリプロピレンの物性値が著しく低下する。
【0036】
また、第一混練部におけるせん断応力は5~30秒間発生させることが好ましく、さらには10~15秒間発生させることが好ましい。5秒間未満の時間では熱可塑化が十分に進行せず、30秒より長くせん断応力をかけると得られる発泡性ポリプロピレンの物性値が著しく低下する。
【0037】
また、第一混練部20内の温度は150~280℃、好ましくは220~250℃に設定される。第一混練部20における温度が150℃未満だと十分な反応が進行せず架橋ポリプロピレンの熱可塑化が十分に進まない。また、280℃を超える温度になると発泡性ポリプロピレンが熱劣化して物性値が大きく低下する。
【0038】
(混合工程:S2)
次に、二軸押出機10の外部で架橋ポリプロピレンと添加剤を混合して混合物を生成する。この時、架橋ポリプロピレン100重量部に対して、添加剤は0.1~5重量部の割合で混合することが好ましい。添加剤の量が0.1重量部よりも少ないと熱可塑化反応が十分に進まず、5重量部より多いと最終的に得られる発泡性ポリプロピレンの物性値が低下する。
【0039】
添加剤は、1分半減期が150℃以上の過酸化物であることが好ましい。1分半減期が150℃未満だと熱可塑化が始まる前に過酸化物が分解してしまい、架橋ポリプロピレンの熱可塑化が十分にすすまない。なお、1分半減期とは、1分間でその過酸化物の半分(50%)が分解する温度のことをいう。
【0040】
1分半減期が150℃以上の過酸化物を用いて架橋ポリプロピレンを熱可塑化すると、適切に架橋点が切断され、多くの長鎖分岐を有するポリプロピレンが生成される。ポリマーは主鎖と、主鎖から伸びる側鎖とがあるが、側鎖の炭素数が6以上からなる分子鎖を長鎖分岐という。多くの長鎖分岐を有するポリプロピレンは高い発泡倍率を有することが知られている。
【0041】
そのため添加剤は、t-ブチルパーオキシラウレイト、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネイト、t-ヘキシルパーオキシベンゾエイト、t-ブチルパーオキシベンゾエイト、ジクミルパーオキサイド、ジt-ヘキシルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプルピル)ベンゼン、2,5ジメチル2,5ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンから選択される過酸化物を少なくとも1種含むことが好ましい。添加剤は1種類のみでもいいし、2種類以上を用いても良い。
【0042】
(第一投入工程:S3)
架橋ポリプロピレンと添加剤を混合した混合物は第一投入部16から投入され、第一輸送部18で二軸のスクリュー回りを回転しながら加熱溶融され、第一混練部20へと導入される。
【0043】
(熱可塑化工程:S4)
混合物は、第一混練部20においてせん断応力と熱を加えられて、架橋ポリプロピレンの架橋点が切断され熱可塑化される。熱可塑化が進行する際に発生する気体は第一混練部20の上側にある第一脱気部22からシリンダ12の外に排出される。発生した気体が排出されるため第一混練部20は大気圧に近い圧力となる。また、第一混練部20において、150℃~280℃の温度範囲であることが好ましく、より好適には220~250℃であることが好ましい。150℃未満では架橋プロピレンの熱可塑化が十分に進行せず、280℃超えではポリプロピレン自体が分解してしまうためである。
【0044】
(第二投入工程:S5)
第二投入部24からは非架橋ポリプロピレンが投入され、第一混練部20で熱可塑化された混合物とともに第二輸送部26から第二混練部28へと導入される。非架橋ポリプロピレンは、第一投入部から投入された架橋ポリプロピレン100重量部に対して50~150重量部であることが好ましい。
【0045】
第二投入部24から投入される非架橋ポリプロピレンの量が50重量部よりも少ないと得られる発泡性ポリプロピレンの物性値が低く、成型品に不良が起こりやすい。また、150重量部より多いと得られる発泡性ポリプロピレンの発泡倍率が低くなり適切な発泡体が得られない。
【0046】
(混練工程:S6)
そして、熱可塑化された混合物と第二投入部24から投入された非架橋ポリプロピレンは第二混練部28において混合混練されて均一な発泡性ポリプロピレンが得られる。熱可塑化工程後に非架橋のポリプロピレンを混練するのは成形性をよくするためである。
(排出工程:S7)
その後、発泡性ポリプロピレンは第三輸送部を通り、排出部34より二軸押出機10の外部へと排出され、発泡性ポリプロピレンが得られる。
【0047】
上記のようにして得られた発泡性ポリプロピレンは優れた成型性と機械強度をもち、引張強度が20MPa以上、引張伸び率が600%超、弾性率が400MPa以上となる。なお、ポリプロピレンの剛性は弾性率の高さで示される。また、3倍以上の発泡倍率を持つため物理的な強度と高い発泡性が要求される用途に用いることができる。なお、ここでの弾性率は、ものを引っ張ったときの伸びと力の関係から求められる定数のことである。
【0048】
<実施例及び比較例>
以下、本発明の実施例および比較例により発泡性ポリプロピレンの結果を示すが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
【0049】
〔引張試験及び伸び試験〕
引張試験及び伸び試験を発泡性ポリプロピレンに対して行った。引張試験及び伸び試験装置は島津製作所製オートグラフAGSシステムを用いた。また引張試験は日本産業規格(JIS)K6922-2に準拠して1mm厚のシート状にプレス成型した発泡性ポリプロピレンをダンベル3号の形状に打ち抜き、50mm/minの速度で引張試験機を用いて行った。
【0050】
〔ゲル分率〕
ゲル分率は、JIS-K6796に準拠して沸騰熱キシレン中で8時間抽出した。その後、140℃で3時間真空乾燥した後の重量を秤量し、抽出前の重量との比から下式によりゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(抽出後重量(g)/抽出前重量(g))×100
なお、原料として使用した架橋ポリプロピレンのゲル分率は50~80%であった。
【0051】
〔発泡倍率〕
発泡倍率(%)は、発泡性ポリプロピレンに発泡剤を混合した後、幅が2mmの間隔に保たれ、150℃に加熱された二本のロールの間を通して成形した。その後200℃のオーブン中で3分間加熱して発泡をさせた。発泡倍率(%)は下式により算出した。
発泡倍率(%)=(発砲後断面積長さ(mm)/発砲前断面積長さ(mm))×100
なお発泡剤は、ADCA(アゾジカーボンアミド)、DPT(N,N'-ジニトロペンタメチレンテトラミン)、OBSH(4,4'-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド)、炭酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素ナトリウム系発泡剤などから選ばれた一種類以上の発泡剤を用いることができるが、これらに限定するものではない。
【0052】
次に、本実施例1~8と比較例1~4を詳しく説明する。
【0053】
【表1】
XPP:架橋ポリプロピレン、MI:メルトフローインデックス、○:外観が非常に滑らか、△:外観が凸凹している、最大応力:JISK6922-2に準拠して行った引張試験での最大の引張り強さ
【0054】
以下に実施例1~8を説明する。実施例1~8は架橋ポリプロピレン(XPP)100重量部に添加剤として表1に示すように、0.5~5.0重量部の過酸化物を混合し混合物を生成した。その後、前述した工程により二軸押出機による熱可塑化を行なった後に非架橋のポリプロピレンを混練することで発泡性ポリプロピレンを得て、物性値および発泡倍率を測定した。
【0055】
(実施例1)
図1の二軸押出機10を用いて第一混練部の温度を230℃、スクリュー回転数250rpm、最高せん断速度8,500s-1、せん断時間が15秒となるように設定した。また、第二混練部28の樹脂温度は220℃、スクリュー回転数250rpm、最高せん断速度700s-1、混錬時間が20秒となるように設定した(図3 S1:準備工程)。そして、架橋ポリプロピレンを100重量部に添加剤としてジクミルパーオキサイド0.5重量部を混合した混合物を得た(図3 S2:混合工程)。その後、混合物を第一投入部16から二軸押出機10に投入した(図3 S3:投入工程)。そして、第一混練部20で15秒間混練をおこない架橋ポリプロピレンが熱可塑化された混合物を生成した(図3 S4:熱可塑化工程)。ついで、第二投入部24から非架橋ポリプロピレン100重量部を投入した(図3 S5:第二投入工程)。熱可塑化された混合物と第二投入部から投入された第二非架橋ポリプロピレンは第二輸送部26から第二混練部28に移送され、混練されて均一な発泡性ポリプロピレンとなり(図3 S6:混練工程)、第三輸送部32を通って排出部34から排出され、発泡性ポリプロピレンを得た(図3 S7:排出工程)。
【0056】
得られた発泡性ポリプロピレンの剛性を示す弾性率は483Mpaであり、その他の物性値(ゲル分率、MI、弾性率、最大応力及び伸び)は表1に示すとおりであった。また、発泡倍率は450%であった。また、得られた発泡体の断面図を図4に示すが、独立した気泡が形成されている。
【0057】
(実施例2)
添加剤としてジクミルパーオキサイド0.5重量部、スクリュー回転数を350rpm、せん断速度12,000s-1とした以外は実施例1と同様に試験を行い、発泡性ポリプロピレンを得た。得られた発泡性ポリプロピレンの弾性率は485Mpaであり、その他の物性値は表1に示すとおりであった。また、発泡倍率は600%であった。
【0058】
(実施例3)
添加剤としてジクミルパーオキサイド0.1重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、発泡性ポリプロピレンを得た。得られた発泡性ポリプロピレンの弾性率は439Mpaであり、発泡倍率は350%であった。
【0059】
(実施例4)
添加剤としてジクミルパーオキサイド1.0重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、発泡性ポリプロピレンを得た。得られた発泡性ポリプロピレンの弾性率は453Mpaであり、発泡倍率は310%であった。
【0060】
(実施例5)
添加剤としてジクミルパーオキサイド2.0重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、発泡性ポリプロピレンを得た。得られた発泡性ポリプロピレンの弾性率は538Mpaであり、発泡倍率は470%であった。
【0061】
(実施例6)
添加剤としてジクミルパーオキサイド5.0重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、発泡性ポリプロピレンを得た。得られた発泡性ポリプロピレンの弾性率は464Mpaであり、発泡倍率は320%であった。
【0062】
(実施例7)
添加剤としてジブチルパーオキサイド1.0重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、発泡性ポリプロピレンを得た。得られた発泡性ポリプロピレンの弾性率は549Mpaであり、発泡倍率は450%であった。
【0063】
(実施例8)
添加剤として2,5ジメチル2,5ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン1.0重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、発泡性ポリプロピレンを得た。得られた発泡性ポリプロピレンの弾性率は472Mpaであり、発泡倍率は380%であった。
【0064】
実施例1~6の結果から、添加剤としてジクミルパーオキサイドを0.1~5重量部混合し熱可塑化を行うことで剛性を示す弾性率は400Mpa以上、発泡倍率が310~600%と高い発泡性を示すポリプロピレンが得られた。また、実施例7~8の結果から、添加剤としてジブチルパーオキサイド1.0重量部または2,5ジメチル2,5ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン1.0重量部を混合し熱可塑化を行うことで剛性を示す弾性率は472~549Mpa、発泡倍率が380~450%と高い発泡性を示すポリプロピレンが得られた。また、図4に示すように、実施例1で得られた発泡性ポリプロピレンに発泡剤を加えて200℃で3分間発泡させた発泡体の断面図をみると、各々の気泡がつながっていない独立気泡であることがわかる。高い剛性を得るには独立気泡が好ましい。
【0065】
(比較例1)
以下に比較例1~4を説明する。比較例1は架橋ポリプロピレンに添加剤ジラウロイルパーオキサイド(1分半減期113℃)1.0重量部を用いた以外は実施例1と同様に試験を行い、発泡性ポリプロピレンを得た。得られた発泡性ポリプロピレンの弾性率は517Mpaであり、発泡倍率は120%であった。
【0066】
(比較例2)
比較例2は添加剤を用いない以外は実施例1と同様に試験を行い、発泡性ポリプロピレンを得た。得られた発泡性ポリプロピレンの弾性率は364Mpaであり、発泡倍率は110%であった。
【0067】
(比較例3)
比較例3は添加剤を用いず、回転数を350rpmとした以外は実施例1と同様に試験を行い、発泡性ポリプロピレンを得た。得られた発泡性ポリプロピレンの弾性率は437Mpaであり、発泡倍率は110%であった。
【0068】
(比較例4)
比較例4は添加剤を用いず、回転数を450rpmとした以外は実施例1と同様に試験を行い、発泡性ポリプロピレンを得た。得られた発泡性ポリプロピレンの弾性率は505Mpaであり、発泡倍率は110%であった。
【0069】
比較例1及び2~4に示したように、1分半減期が150℃以下の添加剤か、添加剤を用いずに架橋ポリプロピレンの熱可塑化を行うと、発泡倍率は110~120%と実施例と比べてかなり低く、ほとんど発泡しない結果であった。
【0070】
以上の結果より、添加剤として1分半減期が150℃以上の過酸化物を架橋ポリプロピレン100重量部に対して0.1~5重量部用いて発泡性ポリプロピレンを生成することにより発泡倍率が300%以上と高い発泡性能を示す発泡性ポリプロピレンが得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば二軸押出機を用いて1分半減期が150℃以上の過酸化物を架橋ポリプロピレン100重量部に対して0.1~5重量部用いて発泡性ポリプロピレンを生成することにより高い発泡性能を持つ発泡性ポリプロピレンを生成することができる。また、図4に示すように、発泡性ポリプロピレンの発泡体は独立気泡であるため、高い剛性や断熱性が必要とされる用途での利用が可能となる。
【符号の説明】
【0072】
10 二軸押出機
12 シリンダ
13 スクリュー
14 駆動部
16 第一投入部
18 第一輸送部
20 第一混練部
22 第一脱気部
24 第二投入部
26 第二輸送部
28 第二混練部
30 第二脱気部
32 第三輸送部
34 排出部
【要約】
【課題】
高い発泡倍率と高剛性の両方を必要とする用途(例えば車載用発泡体)であっても好適に用いることが可能な発泡性ポリプロピレンの生成方法を提供する。
【解決手段】
添加剤と混合した架橋ポリプロピレンを熱可塑化した後、非架橋のポリプロピレンと混練する。前記添加剤は、熱可塑化した架橋ポリプロピレンに発泡性を付与し、1分半減期が150℃以上の過酸化物である。これにより得られる発泡性ポリプロピレンは、高い発泡倍率と高い剛性を示す。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4