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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】発毛剤、及び美白剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9722 20170101AFI20240902BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20240902BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20240902BHJP
   C12N 1/12 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
A61K8/9722
A61Q7/00
A61Q19/02
C12N1/12 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020095977
(22)【出願日】2020-06-02
(65)【公開番号】P2021187796
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-28
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22360
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】平野 篤
(72)【発明者】
【氏名】堀川 豊
(72)【発明者】
【氏名】額賀 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博子
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-068943(JP,A)
【文献】特開2010-013416(JP,A)
【文献】特開2018-043946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 99/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina/JAPICDOC
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株藻体分泌物、又は前記TEPMO-26株の藻体アルコール水溶液抽出物を有効成分とする、発毛剤。
【請求項2】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株藻体分泌物有効成分とする、美白剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Botryococcus terribilis(ボトリオコックス テリビリス)に属する微細藻類である黄緑色藻のTEPMO-26株に由来する、発毛剤、及び美白剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞内に油分を蓄積する微細藻類がいくつか知られており、例えば、炭素数30~34程度の炭化水素を蓄積するボトリオコックス属に属する微細藻類が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-226062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微細藻類はバイオマスエネルギーの原料として一般に注目されているが、本発明者らが単離したボトリオコックス属に属する黄緑色藻のTEPMO-26株は種々の代謝物を産生することから、それらの代謝物の中に医薬品類の有効成分を含むことが考えられた。本発明者らはこれを検討し、次の有効成分を含むことを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
本発明は、ボトリオコックス属に属する黄緑色藻のTEPMO-26株に由来する、発毛剤、及び美白剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、発毛剤。
[2] 独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに、FERM P-22360として寄託された微細藻類Botryococcus terribilis TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、美白剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ボトリオコックス属に属する黄緑色藻のTEPMO-26株に由来する、発毛剤、及び美白剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】増殖期における緑色のTEPMO-26株が攪拌培養液中に分散している様子を示す写真である。培養初期の緑色の細胞(藻体)は、表面が滑らかな雨滴型で、細胞同士が近接した群体を形成する。
図2】培養後期のTEPMO-26株の光学顕微鏡写真である。写真中、オレンジ色の細胞は、表面の滑らかさが失われ、細胞間に間隙が生じている。
図3】培養後期に大量の炭化水素を藻体内に蓄積し、オレンジ色を呈したTEPMO-26株が攪拌停止とともに培養液の液面に浮上した様子を示す写真である。写真上部は透明な培養容器であり、写真中央の濃い色に見える帯が浮上した細胞群であり、写真下部は培養液中に散見される少数の細胞群である。
図4】本発明に係る試料がヒト毛乳頭細胞増殖促進作用を示したことを表すグラフである。
図5】本発明に係る試料がβカテニン遺伝子の発現促進作用を示したことを表すグラフである。
図6】本発明に係る試料がアルカリホスファターゼ遺伝子の発現促進作用を示したことを表すグラフである。
図7】本発明に係る試料がCORIN遺伝子の発現促進作用を示したことを表すグラフである。
図8】本発明に係る試料(S1)のメラニン産生抑制効果を検証した結果を示すグラフである。
図9】本発明に係る試料(S2)のメラニン産生抑制効果を検証した結果を示すグラフである。
図10】本発明に係る試料(S3)のメラニン産生抑制効果を検証した結果を示すグラフである。
図11】本発明に係る試料(S4)のメラニン産生抑制効果を検証した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪薬剤の形態≫
本発明に係る薬剤は、TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする。
【0010】
<藻体>
TEPMO-26株の藻体は、水を含む藻体でもよいし、乾燥した藻体でもよい。藻体の生死の状態はいずれであってもよい。藻体を乾燥させる方法は特に限定されず、例えば、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、風乾等の常法が適用可能である。
TEPMO-26株の藻体は、後述するように、増殖し易い良好な培養条件であると緑色を呈するが、その後に増殖し難い条件に切り替えるとオレンジ色に変化する。藻体の色の変化は、藻体に含まれる色素の種類や組成が変化したことを示す。
【0011】
本明細書及び特許請求の範囲において、「TEPMO-26株の藻体」の用語は、緑色を呈する藻体とオレンジ色を呈する藻体を区別せず、両方を含む用語である。これらを特に区別する場合には、TEPMO-26株の緑色を呈する藻体を「グリーンセル」といい、TEPMO-26株のオレンジ色を呈する藻体を「オレンジセル」という。
なお、「TEPMO-26株の藻体」を単に「TEPMO-26株」と略すことがある。
【0012】
<藻体分泌物>
TEPMO-26株の藻体分泌物は、TEPMO-26株が生育した培養液若しくは培地に含まれる前記藻体に由来する成分、又は、前記培養液若しくは前記培地から回収した藻体を水若しくは培養液に懸濁した懸濁液に含まれる前記藻体に由来する成分(ただし、藻体自体は除く。)である。
ここで「生育」とは、TEPMO-26株が増殖する場合だけでなく、TEPMO-26株が増殖せずとも生きた状態で活動する場合も含む。
前記藻体分泌物には、TEPMO-26株の藻体から分泌又は排出された有機物が含まれる。前記有機物としては、例えば、多糖類、タンパク質、ペプチド、核酸、脂質、ホルモン様物質等の代謝産物が挙げられる。
前記藻体に由来する成分は、任意の溶媒に溶解又は分散された液体として、又は、乾燥した固体(例えば粉末)として使用され得る。
【0013】
<藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物>
TEPMO-26株の藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物は、湿潤又は乾燥状態の藻体をアルコール又はアルコール水溶液に接触させて、アルコール又はアルコール水溶液に溶解又は分散されたことにより藻体から抽出された、藻体に由来する成分である。
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の1価アルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール等の2価アルコールが挙げられる。前記アルコールは1価アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、又はイソプロパノールがより好ましい。
前記アルコール水溶液は、1種以上の前記アルコールを含む水溶液である。
前記アルコール水溶液の総質量に対する前記アルコールの合計の含有量は、有効成分の抽出効率を高める観点から、50~99質量%が好ましく、60~95質量%がより好ましく、70~90質量%がさらに好ましい。
抽出時の前記アルコール若しくは前記アルコール水溶液の温度は、例えば4~40℃が挙げられ、18~28℃程度が簡便で好ましい。
抽出時の前記藻体(乾燥時の質量)と前記アルコール若しくは前記アルコール水溶液の質量比は、例えば10:1~1:10の範囲で適宜調整すればよい。
抽出時間は特に制限されず、例えば1~2400時間が挙げられ、24~480時間が好ましい。
抽出時に、ホモジナイザーや超音波処理機を用いて前記藻体を砕いてもよいし、前記藻体を砕かずに自然に抽出してもよい。
抽出後には、遠心分離や濾過によって、前記藻体の残渣を除去することにより、目的の抽出物を含む抽出液が得られる。
前記抽出液に含まれるアルコール及び/又は水は、除去されてもよいし、他の溶媒に置換されてもよい。
前記藻体に由来する成分は、任意の溶媒に溶解又は分散された液体として、又は、乾燥した固体(例えば粉末)として使用され得る。
【0014】
<TEPMO-26株>
本発明に用いられるTEPMO-26株はボトリオコックス属に属する黄緑色藻である。その培養初期における形態は、図1の光学顕微鏡写真に示す様なコロニー状の群体を呈し、概ね従来のボトリオコックス ブラウニー(Botryococcus braunii)と類似した形態である。二酸化炭素を例えば5~20%で含む通気ガスを供給しながら撹拌し、例えば25~35℃でTEPMO-26株を培養すると、最短2.1日で藻体濃度が倍化する。適当な藻体濃度に達した時点で、通気ガスを純空気に切り換えると、培養液のpHがアルカリ性へ変化し、翌日には藻体が黄色味を帯びはじめ、数日以内にオレンジ色が深まる(図2)。また、培養液の攪拌を停止すると藻体が培養液の液面に浮上する(図3)。藻体が緑色である場合に攪拌を停止すると藻体は培養液の底へ沈降することから、オレンジ色に変色した藻体内には培養液よりも密度が低い物質(高濃度の油分)が蓄積されていることが分かる。
【0015】
常法により、TEPMO-26株からDNAを抽出し、18S rDNAのITS-2領域の塩基配列解析を行った結果、ボトリオコックス属の既知の微細藻類ボトリオコックス テリビリスのAICB870株と塩基配列が高い相同性を示したことから、TEPMO-26株はボトリオコックス属テリビリス種(Botryococcus terribilis)に分類される株であることが分かった。
【0016】
TEPMO-26株は、出願人によって、受託番号FERM P-22360として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに受託された(受託日:2018年3月9日)。
【0017】
[TEPMO-26株の培養方法]
TEPMO-26株を培養する方法は特に制限されず、例えば、従来のボトリオコックス属に属する微細藻類を培養可能な公知方法が適用できる。また、例えば培養容器を継代ごとに大きくすることにより、大量培養を行うことができる。培養時には藻体が沈殿しない程度に攪拌しながら、光照射下で通気培養することが好ましい。
【0018】
培養液の種類は特に限定されず、微細藻類を培養可能な公知の培養液が適用可能であり、例えば、C培地、BG-11培地、BG-11改変培地等が挙げられる。
培養液のpHは、pH6~9が好ましく、pH6~7がより好ましい。
【0019】
培養温度は、例えば、20~35℃の範囲で、培養する微細藻類の倍化時間が短くなる温度を選定することが好ましい。
【0020】
培養液に通気するガスには二酸化炭素が含まれていることが好ましい。通気ガス中の二酸化炭素濃度としては、例えば0.5~20体積%が好ましい。また、通気ガスの通気量は0.01~0.03(v/v/min)が好ましい。上記範囲であると良好に増殖し易い。
【0021】
光照射条件としては、培養液中の藻体濃度や培養槽の深さによって適宜調節すればよく、例えば、10~10000μmol/m/sの自然光又は人工光が適用できる。
【0022】
培養液中の初期の藻体濃度は特に限定されないが、例えば、0.01~0.5dry‐g/L(乾燥重量g/L)が好ましく、0.03~0.3dry‐g/Lがより好ましい。上記好適な範囲であると盛んに増殖し、倍化時間が比較的短くなり易い。
【0023】
以上で説明した培養方法により、グリーンセルが得られる。グリーンセルをオレンジセルに変化させる方法として、(i)通気ガス中の二酸化炭素濃度を低下させる、(ii)通気ガスを停止する、(iii)pHを上昇させる等の培養条件を切り替える方法が挙げられる。
培養条件を切り替える時期としては、増殖期の後半が好ましく、例えば、藻体濃度が0.8dry‐g/L以上になった後で培養条件を切り替えることが好ましい。藻体濃度が比較的高くなった後で培養条件を切り替えることにより、オレンジセルに変化する効率を高めることができる。
【0024】
上記(iii)の方法としては、例えば、グリーンセルの培養で用いた培養液のpHが6.0~6.5である場合、グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液のpHは、pH7.0~10.0が好ましく、pH7.5~9.5がより好ましく、pH8.0~9.0がさらに好ましい。また、例えば、グリーンセルの培養で用いた培養液のpHが6.5超~7.5である場合、グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液のpHは、pH8.0~10.0が好ましく、pH8.5~9.5がより好ましく、pH8.0~9.0がさらに好ましい。
【0025】
培養液のpHをアルカリ性に近づける方法としては、例えば、培養液中に通気する通気ガス中の二酸化炭素濃度を低下させる上記(i)の方法、培養液への通気を中止する上記(ii)の方法、培養液中にアルカリ性物質を添加する上記(iii)の方法等が挙げられる。
【0026】
前記アルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化マグネシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ性側で使用される公知のpH緩衝剤等が挙げられる。
【0027】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液の温度は、例えば、20~50℃の範囲で、微細藻類の色が徐々に褐変する温度を選定することが好ましい。
【0028】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液への通気ガスには、二酸化炭素が含まれていないことが好ましく、含まれているとしても二酸化炭素濃度は0.1体積%以下であることが好ましい。また、通気ガスの通気量は0.01~0.03(v/v/min)が好ましい。
【0029】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養液に対する光照射は行ってもよいし、行わなくてもよい。前記培養液に光照射を行う場合の光照射条件としては、例えば、10~10000μmol/m/sが挙げられる。
【0030】
グリーンセルをオレンジセルに変化させる培養日数としては、例えば、0.5~40日程度が挙げられ、3~10日程度が好ましい。
【0031】
培養液からグリーンセルまたはオレンジセルを回収する方法は特に限定されず、従来の微細藻類の場合と同様の方法が適用可能であり、例えば、培養液をフィルターに通して藻体を濾過して回収する方法、培養液を遠心分離して藻体を浮上または沈殿させて回収する方法が挙げられる。また、培養液の攪拌を停止し、沈殿したグリーンセルを吸引、濾過、デカンテーション等により回収する方法も挙げられる。さらに、培養液の攪拌を停止し、液面に浮上させたオレンジセルを吸引、濾過、デカンテーション等により回収する方法も挙げられる。
【0032】
回収した藻体が、培養液のpH調整に影響されて酸性又はアルカリ性を示す場合がある。回収した藻体のpHは、必要に応じて調整すればよく、例えばpH6~8に調整してもよい。
また、藻体を回収した後の培養液のpHを必要に応じて調整してもよく、例えばpH6~8に調整してもよい。
また、藻体を回収する直前の培養液のpHを必要に応じて調整してもよく、例えばpH6~8に調整してもよい。
pHを調整する方法は特に制限されず、例えば無機酸又は無機アルカリ塩を添加する公知方法が適用される。
【0033】
≪発毛剤≫
本発明の一態様は、TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、発毛剤である。
【0034】
本態様の発毛剤によれば、後述する実施例で示すように、ヒト毛乳頭細胞活性化作用としての毛乳頭細胞増殖促進(発毛効果)、発毛遺伝子3種(CTNNB1遺伝子、ALPL遺伝子、CORIN遺伝子)の発現促進が得られる。本態様の発毛剤は育毛剤と称してもよい。
【0035】
本態様の発毛剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、TEPMO-26株の藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、TEPMO-26株の藻体のエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、TEPMO-26株の藻体の60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0036】
また、本態様の発毛剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、グリーンセルのアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、グリーンセルのエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、グリーンセルの60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
【0037】
また、本態様の発毛剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、オレンジセルのアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物が好ましく、オレンジセルのエタノール若しくはエタノール水溶液抽出物がより好ましく、オレンジセルの60~80%エタノール水溶液抽出物がさらに好ましい。
上記オレンジセルのpHは、アルカリ性(例えばpH8超~11)であってもよいし、中性付近(例えばpH6~8)であってもよい。
【0038】
また、本態様の発毛剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、藻体分泌物であってもよい。前記藻体分泌物は、グリーンセルを回収した後の培養液又は前記培養液に含まれる成分であることが好ましく、前記培養液を乾燥して得られた乾燥体であることがより好ましく、前記培養液を凍結乾燥して得られた凍結乾燥体であることがより好ましい。
【0039】
≪美白剤≫
本発明の一態様は、TEPMO-26株の藻体若しくは藻体分泌物、又は前記藻体のアルコール抽出物若しくはアルコール水溶液抽出物を有効成分とする、美白剤である。
【0040】
本態様の美白剤によれば、後述する実施例で示すように、メラノーマ細胞におけるメラニン産生量を低減することができる。従い、本態様の美白剤はメラニン産生抑制剤と称してもよい。
【0041】
本態様の美白剤の有効成分は、上述の効果が充分に得られることから、藻体分泌物であることが好ましい。前記藻体分泌物は、グリーンセルを回収した後の培養液又は前記培養液に含まれる成分であることが好ましく、前記培養液を乾燥して得られた乾燥体であることがより好ましく、前記培養液を凍結乾燥して得られた凍結乾燥体であることがより好ましい。
【0042】
≪薬剤含有組成物≫
本発明の一態様として、上述した各薬剤(発毛剤、又は美白剤)と、薬学的に許容される担体とを含有する、薬剤含有組成物が挙げられる。
【0043】
薬学的に許容される担体としては、特に制限されず、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、増粘剤、湿潤剤、注射剤用溶剤等が挙げられる。また、その他の添加剤としては、特に制限されず、例えば、防腐剤、pH調整剤、安定剤紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、香料等が挙げられる。薬学的に許容される担体及びその他の添加剤としては、例えば、第十六改正日本薬局方等に記載されている一般的な原料を使用することができる。
【0044】
前記薬剤含有組成物の剤型としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口的に投与する剤型、あるいは、注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の非経口的に投与する剤型等が挙げられる。
【0045】
皮膚外用剤としては、例えば、クリーム、ローション、化粧水、乳液、ファンデーション、パック剤、フォーム剤、硬膏剤、軟膏剤、パップ剤、エアゾール剤等の剤型が挙げられる。
【0046】
前記薬剤含有組成物は、疾患治療薬であってもよいし、化粧料であってもよいし、サプリメント等の食品であってもよい。
【0047】
前記薬剤含有組成物中の総質量に対する前記薬剤の含有量は、前記薬剤の固形分(乾燥重量)換算で、例えば、0.01~50質量%、0.01~30質量%、0.01~10質量%、0.01~5質量%、又は0.01~1質量%の範囲が挙げられる。
【0048】
前記薬剤含有組成物又は前記薬剤の投与方法は特に制限されず、投与対象者の症状、体重、年齢、性別等に応じて適宜決定すればよい。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等は経口投与される。また、注射剤は、単独で、又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて、動脈内、筋肉内、皮内、皮下又は腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。皮膚外用剤は、患部に塗布、貼付又はスプレーされる。
【0049】
前記薬剤含有組成物又は前記薬剤の投与量は、投与対象者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり、一概には決定できないが、経口投与の場合には、例えば1日あたり0.01~5000mg/kg体重の有効成分を投与すればよい。また、注射剤の場合には、例えば1日あたり0.01~500mgの有効成分を投与すればよい。また、坐剤の場合には、例えば1日あたり0.01~1000mgの有効成分を投与すればよい。また、皮膚外用剤の場合には、例えば1日あたり0.01~500mgの有効成分を投与すればよい。
【実施例
【0050】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例だけに限定されるものではない。
【0051】
[株の単離と選抜]
国内の水田や人工池、ダム湖からサンプリングした表層水を顕微鏡観察し、ボトリオコックス属の細胞群体の単離を公知のピペット洗浄法で行った。得られた複数の単離株の中から増殖力に優れた株を、500mL培養瓶に移植し、培養容器表面光強度50μmol/m2/s、温度25℃、5%CO2/95%Air-1mL/secで通気して増殖させた。最も増殖に優れた株としてTEPMO-26株を選抜した。単離から選抜に至る培養にはC培地(Ichimura, 1971)を用いた。
【0052】
[培養例1]
TEPMO-26株を下記条件で培養した。
緑藻用C培地、ラン色細菌用BG-11培地、BG-11改変培地の3種の液体培地を使用し、TEPMO-26株の増殖の比較を行った。ここで使用したBG-11培地は、C培地よりも窒素濃度が高く窒素要求性の高い株に適し、かつ高価なビタミンを含まない培地である。BG11改変培地はBG-11培地をさらに安価にするため、窒素減としての硝酸塩を、窒素ベースで等モル濃度の尿素に置き換えた培地である。培地各500mLを用意し、初期細胞濃度0.2dry-mg/L、光強度50μmol/m2/s、温度25℃、5%CO2/95%Air-8mL/sec通気で培養を開始した。
【0053】
ほぼ5日間隔で定期的に培養液をサンプリングし、波長730nmの吸光度測定により細胞濃度(藻体濃度)を求めた。ここで、吸光度として求めた細胞濃度を、乾燥重量としての細胞濃度(dry-g/L)に換算するための換算係数を算出した。培養開始時および培養終了時に吸光度測定したサンプルをろ過乾燥し、吸光度1あたりの乾燥藻体濃度を算出したところ、平均3.42dry-g/Lであった。なお、吸光度と細胞濃度の関係は、群体の大きさに影響されるため、培養期間中に群体サイズが変化していないことを顕微鏡下で確認した。
【0054】
36日の培養の結果、C培地(pH7.5)、BG-11培地(pH 7.5)、BG-11改変培地(pH 7.5)の何れの液体培地を使用した場合においても、細胞濃度は約1.3dry-g/Lに到達した。倍化時間は細胞濃度0.3dry-g/L付近で最短5.6日を示した。
【0055】
次に、BG-11培地及びBG-11改変培地における細胞濃度が約1.3dry-g/Lに到達した時点以後、引き続き5%CO2/95%Air-8mL/sec通気で培養を継続した場合と、100%Air-8mL/sec通気に切り替えて培養を継続した場合を比較した。
【0056】
その結果、5%CO2/95%Airで培養を継続した場合には、両方の培地において細胞は緑色を保ったままで増殖を続けた。一方、100%Airに切り替えた場合には、培養液のpHはそれぞれBG-11培地(pH 8.5)、BG-11改変培地(pH 8.5)となり、切り替えた翌日には細胞を含んだ培養液の色調が緑色から黄色味を帯びた緑色に変化した。特にBG-11改変培地において、切り替え7日目には細胞を含んだ培養液の色調が完全にオレンジ色に変化した。
【0057】
細胞がオレンジ色に変色した段階で通気攪拌を停止すると、オレンジ色の細胞群体は、ほぼ透明な培養液の液面付近に浮上し、固液分離によって二層に分かれた(図3)。オレンジ色の細胞群体を回収し、ナイルレッド染色の後、顕微鏡観察した。オレンジ色の細胞群体は、活発な増殖を示す緑色の細胞群体に比較して、細胞中において赤色発光を伴う葉緑素が減少し、黄色発色を伴う油分が顕著に増加していた。
攪拌停止により液面浮上したオレンジ色の細胞群体を茶漉しネットで回収することができた。
【0058】
[培養例2]
BG-11改変培地500mLを用意し、初期細胞濃度0.2dry-mg/L、光強度50μmol/m2/s、5%CO2/95%Air-8mL/sec通気の条件下で、培養温度を20℃、25℃、30℃、35℃の4段階に設定して、TEPMO-26株の増殖を比較した。
その結果、各温度における倍化時間が170日、8.5日、7.5日、13日であったことから、至適増殖温度帯は25~30℃近辺にあり、20℃近辺に温度が低下すると著しく増殖が低下することが判った。
【0059】
[培養例3]
BG-11改変培地を使用し、培養規模を10Lジャーファメンタ、50Lパンライト水槽、50Lチューブリアクタに拡大し、更に各培養容器表面の光強度をそれぞれ100、270、320μmol/m2/sに設定して、5%CO2/95%Air通気、培養温度25℃で、TEPMO-26株の増殖を比較した。
その結果、細胞濃度は50Lチューブリアクタで最高1dry-g/Lに達し、倍化時間は10Lジャーファメンタで最短の2.1日であった。また、50Lチューブリアクタへの通気を5%CO2から純空気に切り替えることによって、細胞がオレンジに変色し、細胞内で炭化水素が産生されたことを確認することができた。
【0060】
[培養例4]
TEPMO-26株を下記条件で培養した。
緑藻用C液体培地を使用し、初期細胞濃度0.2dry-mg/L、光強度50μmol/m2/s、温度25℃、5%CO2/95%Air-8mL/sec通気で培養を開始した。
【0061】
約10日後、細胞濃度約0.5dry-g/Lに到達した時点で、32μm金属メッシュろ過によりTEPMO-26株細胞コロニーを回収し、フリーズドライしたものを「グリーンセル」とした。
【0062】
「グリーンセル」回収後の培養液を、0.45μフィルターろ過し、上清をフリーズドライして得られた乾燥物を「藻体分泌物」とした。
【0063】
緑藻用C液体培地を使用し、初期細胞濃度0.2dry-mg/L、光強度50μmol/m2/s、温度25℃、5%CO2/95%Air-8mL/sec通気で培養を開始し、細胞濃度が約1.3dry-g/Lに到達した時点で水酸化ナトリウムを投入して培養液のpHを10前後まで高め、さらに10日ほど経過後にオレンジ色を呈したTEPMO-26株細胞コロニーを、32μm金属メッシュろ過により回収したものを「オレンジセル」とした。
ここで回収した「オレンジセル」は水酸化ナトリウムの持ち込みがあるためpH10のアルカリ性を示す。塩酸を用いてpHを7.4まで低下させたものを「オレンジセル(pH7.4)」とした。
【0064】
[実施例用のサンプル調製]
培養例4で得たグリーンセル、オレンジセル、及びオレンジセル(pH7.4)の凍結乾燥体の各100mgに対して、70%(v/v)エタノール1mLの割合で添加して、各サンプルを浸潤させた状態で、室温、暗所にて14日間抽出を行った。抽出後、2000rpm、5分間の遠心分離を行い、上清をフィルター(ポアサイズ0.22μm)にて滅菌した。
ここで得た、グリーンセルの抽出サンプルを以下では「S1」といい、オレンジセルの抽出サンプルを以下では「S2」といい、オレンジセル(pH7.4)の抽出サンプルを以下では「S3」という。
培養例4で得た藻体分泌物の凍結乾燥体を滅菌水に溶解して、終濃度5mg/mLの溶液を得た。ここで得た溶液を以下では「S4」という。
各サンプルを使用時まで-20℃で保存した。
【0065】
[実施例1;発毛剤]
<実験方法>
ヒト毛包真皮乳頭細胞(HFDPC)は、正常なヒトの頭皮毛包の乳頭から分離された間葉系細胞である。この細胞株は、HFを組織化する分子メカニズムを研究するため、および発毛製品の開発と評価のために使用した。 HFDPCは、成長因子を補充した乳頭細胞成長培地(ウシ胎児血清、インスリントランスフェリントリヨードサイロニン、ウシ下垂体抽出物、およびシプロテロン溶液)で維持培養した。細胞は、5%CO2の加湿雰囲気中、75 cm2フラスコ内で37℃の無菌条件下で培養した。細胞の生存率は、トリパンブルー排除法を使用して測定した。
HFDPCは、発毛サイクルと成長期の誘導と持続時間を調節し、細胞の高い増殖率は、毛の成長サイクルの加速と相関している。各抽出サンプルを1/500, 1/1000, 1/2000の希釈によりHFPDCに処理し、サンプルの存在下で細胞の増殖を確認した。3-(4,5-ジメチル-チアゾール-2-y1)2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)を使用して、増殖促進効果を調べた。最初に、細胞を96ウェルプレートに37℃で3×105細胞/ウェルで播種した。 24時間播種後、成長培地をさまざまな濃度の異なる1/500, 1/1000, 1/2000の希釈により置き換え、48時間インキュベートした。MTT試薬(5 mg/ml)を細胞に添加し、さらに8時間インキュベートした後、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加し、一晩インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーを使用して、570 nmで吸光度を測定し、細胞の生存率を、未処理細胞に対する生細胞の割合(%)として定量化した。サンプル処理後のHFDPC細胞形態の変化も併せて顕微鏡にて観察した。
HFDPCの成長段階では、アルカリ性ホスファターゼ(ALP)とβ-カテニンを含む真皮乳頭遺伝子マーカーが増大する。S1~S4の4種の試料について、毛乳頭細胞で発毛マーカーの発現を確認した。HFDPCを5×104細胞/ウェルの密度で37℃、6ウェルプレートに24時間播種し、培養液を除去して、1/500, 1/1000, 1/2000の希釈した抽出物を含む培地に交換した。24時間後と48時間後、ISOGENキットを使用して製造元の指示に従って総RNA抽出を行う前に、細胞を冷PBSで洗浄した。NanoDrop2000分光光度計を使用して全RNAを定量化し、定量的リアルタイムPCR分析を実施した。抽出されたRNAから、次のようなサイクリングプロトコールを備えたSuperScript III逆転写キットを使用して、cDNAを合成した(95℃で10分間、95℃で15秒間40サイクル、60℃で1分間)。リアルタイムPCRは、7500 Fast Real-Time PCR Software 1.3.1とCTNNB1およびALPLに固有のTaqManプローブを使用して実行した。内因性対照としてGAPDHを使用し、2-△△Ct法を適用して、GAPDHと比較して相対的mRNAを計算した。
【0066】
<結果>
・ヒト毛乳頭細胞増殖促進作用
すべての試料「S1~S4」で、72時間処理によりヒト毛乳頭細胞の有意な増殖促進効果が見られた(図4)。
【0067】
・発毛遺伝子3種の発現
すべての試料「S1~S4」で、48時間処理により、CTNNB1遺伝子(図5)、ALPL遺伝子(図6)、CORIN(図7)遺伝子の有意な発現促進が認められた。
【0068】
<考察>
ヒト毛乳頭細胞活性化作用としての毛乳頭細胞増殖促進(発毛効果)、発毛遺伝子3種のCTNNB1遺伝子、ALPL遺伝子、CORIN 遺伝子発現促進が確認された。これらの実験結果から、サンプル「S1~S4」のそれぞれが、育毛作用を有する発毛剤となり得る。
【0069】
[実施例2;美白剤]
<実験方法>
マウスB16メラノーマ細胞(B16F10細胞)を実験に供した。B16F10細胞は、RPMI1640培地に、10% FBS、1% Penicillin/Streptomycinを添加した培地を用いて、37℃、5% CO2存在下で培養した。S1~S4の4種の試料について、メラニン産生に及ぼす影響評価を実施した。評価の際、B16F10細胞を3.7 ×105 cells/wellの細胞数で10cm2ディッシュに播種し24時間培養後、各試料を1/2000、1/1000、1/500の濃度で培地に希釈し、細胞に添加した。試料処理48時間の後、試料入り培地を除去し、Trypsinを用いて細胞の回収を行った。細胞の回収後、Triton-X、トリクロロ酢酸および超音波処理により細胞を破砕し、水酸化ナトリウム溶液中で細胞中のメラニンを溶解させた。その後96ウェルプレートに溶液を移し、410 nmの吸光度測定を行った。
【0070】
<結果>
メラニン定量を実施したところ、4種の試料について、いずれの処理濃度において細胞生存率の減少は認められなかった(図8~11)。図中、グラフ左軸はメラニン産生量、右軸は細胞生存率を示す。
また各試料で処理した細胞のメラニン産生量を定量したところ、S1(図8)、S2(図9)、S3(図10)について、いずれの処理濃度においてもメラニン産生量の有意な変動は認められなかった。しかしながら、S4について、全ての試料処理群(1/2000、1/1000、1/500希釈)において、有意なメラニン産生量の減少が認められた(図11)。
【0071】
<考察>
藻体分泌物サンプル「S4」において、メラニン産生抑制効果が認められたことから「S4」は美白作用を有する美白剤となり得る。
図1
図2
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図9
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図11