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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】セラミックの製造方法及び複合粉体。
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20240902BHJP
   C04B 35/628 20060101ALI20240902BHJP
   A61K 6/802 20200101ALI20240902BHJP
   A61K 6/818 20200101ALI20240902BHJP
   A61K 6/838 20200101ALI20240902BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20240902BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20240902BHJP
【FI】
C04B35/488
C04B35/628 050
A61K6/802
A61K6/818
A61K6/838
A61C13/083
A61C5/70
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020134871
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2022030699
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】橋本 明香里
(72)【発明者】
【氏名】原 裕
(72)【発明者】
【氏名】中島 慶
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-091633(JP,A)
【文献】特開2009-023850(JP,A)
【文献】特表2005-535554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
A61K 6/802、6/818、6/838
A61C 5/70、13/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
第1の溶媒に前記リン酸化合物(b1)が溶解した第1の溶液と、前記金属酸化物粒子からなる金属酸化物体(a)と、を混合した後に前記第1の溶媒を除去して前記金属酸化物体(a)を構成する前記金属酸化物粒子の表面に前記リン酸化合物(b1)が付着したb1担持粒子からなるb1担持粉体を得る工程;及び
前記リン酸化合物(b1)の溶解度よりも前記金属塩(b2)の溶解度が高い溶媒であ って前記第1の溶媒とは異なる溶媒からなる第2の溶媒に前記金属塩(b2)が溶解した第2の溶液と、前記b1担持粉体と、を混合した後に前記第2の溶媒を除去して前記複合体を得る工程、
を含む複合体調製工程を、前記原料体調製工程の前工程として含む、請求項1~3の何れか1項に記載のセラミックの製造方法。
【請求項7】
ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物(A)と、金属カチオン成分がランタノイド金属カチオンであるリン酸金属塩(B)と、を含むセラミックを製造するための複合粉体である、請求項に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックの製造方法及び複合体に関する。更に詳しくは、歯科加工用ミルブランクの切削加工部に好適なセラミックを製造する方法及方法の材料として好適な複合体に関する。

【背景技術】
【0002】
近年、ICTの発展により歯科分野において、コンピュータ支援設計(CAD)やコンピュータ支援製造(CAM)の導入が進んでいる。たとえば、歯冠補綴物の作製に関しては、これらの材料をコンピュータにて設計されたデータに基づき切削装置にて切削する方法(CAD/CAM)が主流となっている。一方、金属アレルギーへの対応や高審美性に対する要求の高まりなどから、歯冠補綴物に金属以外の材料を使用することが増えており、強度や靭性に優れたジルコニア系セラミックス材が使用されている。
【0003】
CAD/CAM技術を利用してセラミック材料からなる歯冠補綴物を製造する場合には、ミルブランク(或いは歯科用ミルブランク)と呼ばれる、切削加工機に取り付け可能で且つ円盤状や直方体状の形に成形されたソリッドブロックを被加工物として用いるのが一般的である。なお、歯科用ミルブランクには、これを切削加工機に固定するための保持ピンが接合されることも多く、このような形態においては保持ピンと一体化したものを歯科用ミルブランクと呼ぶこともある。本発明では、このような保持ピンと一体化した形態を含めて歯科用ミルブランクと称する。そして、被切削体本体(歯科用ミルブランク本体)を被切削加工部と称する。このような歯科用ミルブランクの使用例として、たとえば、特許文献1には、歯冠補綴物についての3次元データを作成するデータ作成装置と、被加工物を保持する保持部と、前記被加工物を切削するための切削機構と、前記保持部および前記切削機構の駆動を制御する制御部と、を備えた切削装置と、を備える特定の歯冠補綴物作製システムを用いて、ジルコニア系セラミック材料からなる円盤状のミルブランクを切削加工することで所期の形状の歯冠補綴物を造形する技術が開示されている。
【0004】
被切削加工部がセラミック材料からなる歯科用ミルブランクとしては、一般に、CAD/CAMによる切削加工の容易性を重視して、加工が容易な仮焼結状態のセラミック材料を被切削加工部とするものが用いられることが多い。しかし、このような歯科用ミルブランクを用いた場合には被切削加工部を切削・研削加工した後に焼結状態のセラミック材料を完全焼結させて高強度のセラミックとする必要がある。完全焼結する際には、収縮の発生が避けられないため、前記歯科用ミルブランクの切削・研削加工は、この収縮量を想定して行うものの、収縮量の変動により高精度で目的とする形状の歯冠補綴物を得るのは困難であった。
【0005】
このような問題のない歯科用ミルブランクとして、切削加工性が改良された完全焼結体を被切削加工部とするミルブロックが提案されている。すなわち、特許文献2には、「ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物100質量部と、リン酸ランタンおよび/またはリン酸アルミニウム1質量部以上23質量部以下とを含むことを特徴とする歯科加工用ブロック」が記載されている。そして、特許文献2によれば、上記歯科加工用ブロックの中でも、前記リン酸ランタン及び/又はリン酸アルミニウムが、平均粒径が0.01μm以上1μm以下である結晶体として含まれるものは、切削・研削加工がさらに容易となり、かつ粗大になったリン酸ランタンおよび/またはリン酸アルミニウムの結晶体が破壊の起点となり難くなり、強度が向上する、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-42895号公報
【文献】特許第4870038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献2に記載された歯科加工用ブロック(歯科用ミルブランク)は、上記したような優れた特長を有するものである。ところが、本発明者等の検討によると、より緻密な焼結体を得るために、焼結温度を、引用文献2に具体的に示される1250℃よりも高くした場合には、切削性改良剤として機能するリン酸ランタンおよび/またはリン酸アルミニウムの結晶体の粒子径が大きくなり、焼結後に目視で確認できる斑模様が発現したり、上記結晶体が破壊起点となってしまうことにより強度が低下したりすることがあることが判明した。
【0008】
そこで本発明は、高温で焼結した場合であっても、良好な切削・加工性を保ったまま、審美性や強度の低下を起こすことのない被切削加工部と成り得るセラミックを製造できる技術を提供し、延いては上記したような優れた被切削加工部を有する歯科加工用ミルブランクを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物(A)と、金属カチオン成分がランタノイド金属カチオンであるリン酸金属塩(B)と、を含むセラミックを製造する方法であって、
(1)前記金属酸化物(A)からなる金属酸化物粒子の表面上に、“分子内に金属原子を含まないリン酸化合物”(b1)並びに“リン酸金属塩以外の金属塩であって、金属カチオンとしてランタノイド金属カチオンを含む金属塩”(b2)が保持された複合粒子からなり、前記金属酸化物粒子の表面に保持される前記リン酸化合物(b1)及び前記金属塩(b2)の量が、前記金属酸化物粒子総質量100gに対して、夫々、0.8~100ミリモルである複合体を含んでなる原料体組成物を調製する原料体調製工程;
(2)前記原料体組成物を用いて所定形状の圧縮成形体又はグリーン体を得る成形工程;及び
(3)前記成形工程で得られた圧縮成形体又はグリーン体を、直接600℃以上、1800℃以下の焼結温度で焼結するか、又は脱脂及び/或いは仮焼処理後に600℃以上、1800℃以下の焼結温度で焼結する焼結工程;
を含んでなることを特徴とするセラミックの製造方法である。
【0010】
上記第一の形態のセラミックスの製造方法(以下、「本発明のセラミック製造方法」ともいう。)においては、前記複合体において、前記金属酸化物粒子の表面に保持される前記リン酸化合物(b1)及び前記金属塩(b2)の量が、前記金属酸化物粒子総質量100gに対して、夫々、0.8~20ミリモルであることが好ましい。

【0011】
また、前記金属酸化物粒子の表面に保持される前記リン酸化合物(b1)と前記金属塩(b2)と量比が、前記リン酸化合物(b1)に含まれるリン酸基の当量:E(モル×イオン価数)に対する前記金属塩(b2)の当量:E(モル×イオン価数)のE/Eで表して、E/Eが0.8~1.2であることが好ましい。
【0012】
さらに、第1の溶媒に前記リン酸化合物(b1)が溶解した第1の溶液と、前記金属酸化物粒子からなる金属酸化物体(a)と、を混合した後に前記第1の溶媒を除去して前記金属酸化物体(a)を構成する前記金属酸化物粒子の表面に前記リン酸化合物(b1)が付着したb1担持粒子からなるb1担持粉体を得る工程;及び前記リン酸化合物(b 1)の溶解度よりも前記金属塩(b2)の溶解度が高い溶媒であって前記第1の溶媒とは 異なる溶媒からなる第2の溶媒に前記金属塩(b2)が溶解した第2の溶液と、前記b1担持粉体と、を混合した後に前記第2の溶媒を除去して前記複合体を得る工程、を含む複合体調製工程を、前記原料体調製工程の前工程として含むことが好ましい。

【0013】
さらにまた、前記(A)の金属酸化物の粒子の焼結体からなるマトリックス中に、前記(B)のリン酸金属塩からなる微細相が分散したセラミックであって、前記微細相は、非晶質及び/又は結晶質の前記リン酸金属塩からなり、走査型電子顕微鏡による観察で決定される前記リン酸金属塩の結晶子径が600nm未満である、セラミックを製造する方法であることが好ましい。
【0015】
本発明の第の形態は、ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物(A)からなる金属酸化物粒子の表面上に、“分子内に金属原子を含まないリン酸化合物”(b1)並びに“リン酸金属塩以外の金属塩であって、金属カチオンとしてランタノイド金属カチオンを含む金属塩”(b2)が保持された複合粒子からなり、前記金属酸化物粒子の表面に保持される前記リン酸化合物(b1)及び前記金属塩(b2)の量が、前記金属酸化物粒子総質量100gに対して、夫々、0.8~100ミリモルである複合体である。

【0016】
上記第の形態の複合体(以下、「本発明の複合体」ともいう。)は、ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物(A)と、金属カチオン成分がランタノイド金属カチオンであるリン酸金属塩(B)と、を含むセラミックを製造するための複合粉体であることが好ましい。

【発明の効果】
【0017】
本発明のセラミック製造方法によれば、仮焼結状態ではなく、完全に焼結された状態であっても切削・研削加工が容易であり、且つ透光性を有するセラミックスを効率的に製造することが可能となる。
【0018】
また、本発明のミルブランク製造方法によれば、上記のような優れた特性を有するセラミックスからなる被切削加工部を具備する歯科加工用ミルブランクを製造することが可能となる。そして、本発明のミルブランク製造方法で製造された歯科用ミルブランクを切削加工して歯冠補綴物を作製する場合には、被切削加工部が完全焼結状態であるにもかかわらず、容易に加工できるばかりでなく、切削加工後に(収縮を伴う)高温焼結する必要が無いため、加工後に高温焼結を要する従来のものを用いた場合と比べて、高精度で効率的に歯科用補綴物を製造することができる。さらに、作製された歯冠補綴物は、透光性を有するため、天然歯が並んだ際にも違和感がない。
【0019】
これら本発明の方法は、本発明の複合体をセラミック原料体として使用することにより可能となったものであり、本発明の複合体は、ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物系のセラミックスにおいて上記したような特徴を有するセラミックスを効率的に製造できるようにした点で、極めて有用なものであると言える。

【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者等は、歯科用ミルブランク製造時に関する前記課題を解決し、高温で焼結した場合であっても、良好な切削・加工性を保ったまま、審美性や強度の低下を起こすことのないセラミックを被切削加工部とするミルブランクを製造できる方法として、下記方法を見出し、既に提案している(特願2019-223177号)。
【0021】
すなわち、「(A)ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物と、(B)金属カチオン成分がアルミニウムカチオン及び/又はランタノイド金属カチオンであるリン酸金属塩と、を含むセラミックからなる被切削加工部を有する歯科加工用ミルブランクを製造する方法であって、
(a)ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物体:100質量部(具体的には100gに対して)、(b1)分子内に金属原子を含まない有機リン酸化合物:リン酸基の総量が10ミリモル以上、100ミリモル以下となる量、及び(b2)前記リン酸金属塩(B)以外の金属塩であって、金属カチオンとしてアルミニウムカチオン及び又はランタノイド金属カチオンを含む金属塩:前記(b1)有機リン酸化合物に含まれるリン酸基の当量(モル×イオン価数)に対して金属塩の当量(モル×イオン価数)が0.9倍当量以上、1.1倍当量以下となる量、を含んでなる原料体組成物を調製する原料体調製工程;
前記原料体組成物を用いて所定形状の圧縮成形体又はグリーン体を得る成形工程;及び
前記成形工程で得られた圧縮成形体又はグリーン体を、直接600℃以上、1800℃以下の焼結温度で焼結するか、又は脱脂及び/或いは仮焼処理後に600℃以上、1800℃以下の焼結温度で焼結する焼結工程;
を含んでなることを特徴とする前記方法」(以下、「既提案法」とも言う。)を提案している。

【0022】
上記方法では、(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の結晶体を含む原料体を用いた特許文献2に開示される方法とは異なり、その原料となる前記(b1)及び(b2)の体を含む原料体を用い、混合工程及び焼結工程でこれらを反応及び分解させて(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩を生成させるため、1250℃を超えるような高温で焼結しても、その結晶子径が小さく保つことが可能である。そして、このようにして生成した(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩は、切削性改良剤としての機能を維持しているばかりでなく、結晶子径の微細化によるものと思われるが、焼結体の外観に斑模様が発現せず、審美性が向上する。さらに、破壊の起点となり易い粗大な(B)アルミニウム・ランタノイドリン酸塩の結晶体が存在しないので、強度の低下も起こり難くなる。

【0023】
本発明の方法は、上記方法を更に改良したものであり、原料体として本発明の複合体を使用することにより、(b1)として有機リン酸化合物だけでなく無機リン酸化合物を使用することが可能となったばかりで無く、(b1)及び(b2)の使用量を有意に低減可能とし、そのことによって得られるセラミックスの透明性を高めることも可能としている。

【0024】
本発明を何ら拘束するものではないが、本発明者らは、このような優れた効果が得られるようになった理由は、次のようなものであると推定している。すなわち、本発明の方法においても(b1)と(b2)との反応により(B)を生成させ、焼結時における(B)の結晶子を小さくする点は、既提案法と同様であるが、本発明の複合体では、“ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物(A からなる金属酸化物粒子”の表面という微小領域で(b1)と(b2)が共存するため、両者の接触確率を高くしたままこれら成分の(体内における)均一な微分散化が可能になり、これら成分の配合量を減らしても切削性を低下させずに(B)の結晶子サイズを更に小さくすることができるようになったものと推定していしている。

【0025】
以下、本発明のセラミックス製造方法について、詳しく説明する。
【0026】
なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。
【0027】
1.製造目的物であるセラミックについて
1-1.組成及び微細構造について
本発明のセラミック製造方法では、ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物(A){以下、本明細書において、特に断りがない限り、「金属酸化物」とは当該「金属酸化物(A)」を意味するものとする。}と、金属カチオン成分がランタノイド金属カチオンであるリン酸金属塩(B)(以下、単に「ランタノイドリン酸塩」ともいう。)と、を含むセラミックを製造する。より具体的には、前記金属酸化物(A)の粒子の焼結体からなるマトリックス中に、前記ランタノイドリン酸塩(B)からなる微細相が分散したセラミックを製造する。

【0028】
ここで、微細相とは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)による観察で決定される非晶質及び/又は結晶質の前記ランタノイドリン酸塩(B)の結晶子径が600nm未満であることを意味する。

【0029】
なお、前記(B)ランタノイドリン酸塩の結晶子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察で次のようにして決定された値である。すなわち、SEMにより観察される前記(B)ランタノイドリン酸塩の粒子が球状又は略球状である場合には、SEM観察画面において無作為に抽出した100個の結晶体粒子の最大径である一次結晶子径(Xi)を測定し、測定値に基づき下記式により平均結晶子径を算出することにより決定された値を意味する。また、SEMにより観察される前記(B)ランタノイドリン酸塩の粒子が不定形の場合には、最大径を一次結晶子径(Xi)とみなし、球状の場合と同様に下記式により平均結晶子径を算出することにより決定された値を意味する。なお、歯科加工用ミルブランクのSEM観察画面において、リン酸ランタノイドの各結晶体の確認は、反射電子像における組成表示を用いることによって行われる。

【0030】
【数1】
【0031】
そして、このようなセラミックは、既提案法で得られるセラミックと同様に、特許文献2に記載されたセラミックのように切削加工性が良好で強度化が図られているだけでなく、既提案法で製造されるセラミックと同様に焼結体の外観に斑模様が発現せず、審美性が高いという特長を有する。
【0032】
なお、1250℃を越え1800℃以下の温度で焼結された前記酸化物系セラミック(より低温で焼結されたものと比較して、緻密化が進み、密度及び強度が高くなっている前記酸化物系セラミック)として、前記ランタノイドリン酸塩(B)の結晶子がこのような微細な状態で分散したものは、本発明者等の知り得る限りにおいて、これまで知られていない。

【0033】
更に、本発明方法で得られるセラミックにおいては、前記ランタノイドリン酸塩(B)をより高いレベルで微分散させることが可能である。すなわち、結晶子径を安定して200nm以下、好ましくは120nm以下、更に好ましくは(既提案法では実現困難なレベルである)80nm以下とすることもできる。そして、このことによって透明性も良好となる。たとえば、1mm焼結体におけるコントラスト比:Yb/Ywを0.9以下とすることができ、歯科用ミルブランクとして使用した場合に、より審美性に優れたものとなる。

【0034】
なお、コントラスト比:Yb/Ywとは、セラミックの透明性指標となる値であり、色差計を用いて、次のようにして決定される。すなわち、(厚さが1mmより若干厚い)セラミックの両面を耐水研磨紙#800、#1500、#3000を順次用いて研磨して1mm厚とし、その後、たとえばポーセレン・ハイブリットレジン・ジルコニア用研磨材であるスーパースターV(日本歯科工業社製)を用いて両面を鏡面研磨することで測定試料となる試験片を作製する。次いで当該試験片について、色差計を用いて、背景色黒、背景色白で分光反射率を測定し、背景色黒におけるY値(Yb)及び背景色白におけるY値(Yw)を求める。そして、YbでYwを除することによってコントラスト比:Yb/Ywを求めることができる。コントラスト比:Yb/Ywは、その値が小さいほど透明となる。
【0035】
1-2.用途
前記したように、本発明のセラミック製造方法で得られるセラミックは、1250℃を越え1800℃以下の温度で焼結されていても良好な切削・加工性を保つだけでなく、高い強度と審美性を有するため、特にジルコニアセラミックは、歯科用ミルブランクのような強度と審美性が重要視される歯科用セラミック物品として好適に使用される。
【0036】
歯科用ジルコニアとしては、イットリア、カルシア、マグネシア、セリア、酸化エルビウム等の安定化剤、アルミナ等の焼結助剤、及び、酸化鉄、酸化コバルト等の顔料を含むものが一般的であり、本発明で製造されるジルコニアセラミックにおいてもこれらが含まれていてもよい。また、強度と審美性の観点から、焼結後に正方晶が主成分となる部分安定化ジルコニアからなるものであることが好ましい。
【0037】
2.本発明のセラミック製造方法
本発明のセラミック製造方法は、(1)原料体調製工程、(2)成形工程及び(3)焼結工程を含み、上記(1)原料体調製工程において本発明の複合体を含む原料体を調製し、これを使用することを最大の特徴としている。(2)成形工程については上記原料体を用いる点を除き一般的な金属酸化物セラミックス製造方法における成形工程と特に変わる点は無く、(3)焼結工程に関しては、使用する原料体に適した焼結条件を採用する他は一般的な金属酸化物セラミックス製造方法における焼結工程と特に変わる点は無い。
以下、本発明の方法における各工程について詳しく説明する。

【0038】
2-1.原料体調製工程
原料体調製工程では、前記金属酸化物(A)からなる金属酸化物粒子(以下、単に「金属酸化物粒子」ともいう。)の表面上に、(b1)“分子内に金属原子を含まないリン酸化合物”(以下、単に「リン酸化合物」ともいう。)並びに(b2)“リン酸金属塩以外の金属塩であって、金属カチオンとしてランタノイド金属カチオンを含む金属塩”(以下、単に「ランタノイド塩」ともいう。)が保持された複合粒子からなり、前記金属酸化物粒子の表面に保持される前記リン酸化合物(b1)及び前記金属塩(b2)の量が、前記金属酸化物粒子総質量100gに対して、夫々、0.8~100ミリモルである複合体を含んでなる原料体組成物を調製する。

【0039】
ここで、上記複合体は、本発明の複合体であり、金属酸化物セラミックスの原料体として有用なものとして本発明者等によって初めて提案されたものである。そこで、先ず、本発明の複合体の原料及びその製造方法について説明する。

【0040】
(1)金属酸化物粒子及び金属酸化物体:(a)
金属酸化物粒子は、本発明の複合体の原料となる金属酸化物体(a)を構成する粒子である。金属酸化物体(a)を構成する個々の金属酸化物粒子は、ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびスピネルの少なくとも一種を主材とする金属酸化物からなり、通常は一次粒子及び/又は当該次粒子の凝集粒子からなる。金属酸化物粒子は金属酸化物体(a)として扱われることから、その特性も体の特性として把握される。金属酸化物体(a)の平均粒子径は、体として取り扱いが容易なものであれば特に限定されないが、酸化物結晶の相変態が生じにくいという理由及び焼結により粒成長が進みすぎないという理由から、平均結晶子径は0.001μm~50μm、特に0.003μm~20μmであることが好ましい。

【0041】
また、金属酸化物がジルコニアである場合、ジルコニア粒子は、単斜晶、正方晶、立方晶またはこれらの一以上の混晶の内いずれの結晶相をもつものでも良いが、イットリア、カルシア、マグネシア、セリア、酸化エルビウム等の安定化剤を含んでおり、焼結後に正方晶が主成分となる部分安定化ジルコニアが使用に適している。また、金属酸化物がアルミナである場合、アルミナ粒子は、γ、δ、κ、θ、η、α型等のいずれの結晶構造を有するものであっても良いが、容易に入手可能なγ-アルミナあるいはα-アルミナの体が好ましい。さらに、金属酸化物がムライトである場合、ムライト粒子は、コランダム結晶あるいはガラス質を含むものでも良いが、ほぼ100%のムライト結晶からなるものが好ましい。金属酸化物がスピネルである場合、スピネル粒子は、アルミナあるいはマグネシアを含んだものでも良いが、これらを含まないものが好ましい。これらの中でも、色調が白色で歯科用補綴物に適しているばかりでなく、低温で劣化し難く高い強度と靭性を持っているという観点から、部分安定化ジルコニア粒子を用いることが好ましい。

【0042】
金属酸化物体(a)は、顔料を含んでいてもよい。顔料は特に限定されず、公知のものを自由に組み合わせて用いることができ、例えば、酸化エルビウム、酸化コバルト、酸化鉄等が使用できる。また、焼結前は白色であっても、焼結後に着色し顔料として使用可能であるものも使用できる。

【0043】
(2)リン酸化合物:(b1)
リン酸化合物(b1)としては、分子内に金属原子を有しないリン酸化合物が特に限定されず使用できる。ここで、リン酸化合物とは、分子内に、広義のリン酸基、すなわち、リン酸から誘導される酸性基であるホスフィン酸基、ホスホン酸基、ホスホン酸水素モノエステル基、リン酸二水素モノエステル基などのリン酸基を有する化合物を意味する。
【0044】
好適に使用できるリン酸化合物(b1)を具体的に例示すると、有機リン酸化合物としては、2-アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、10-アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、ビス(2-アクリロキシエチル)アシッドホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、ピロリン酸ビス〔2-アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-アクリロイルオキシブチル〕およびこれらのアクリレートに対応するメタクリレートやビニルリン酸、フィチン酸などを挙げることができる。
【0045】
また、無機リン酸化合物としては、オルトリン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウムなどを挙げることができる。
【0046】
これらの中でも焼結時にリン酸基以外の部位が分解、除去されるものが好適に用いられる。さらに好適には、焼結の際に分解・除去される成分の少ない無機リン酸化合物や分子量400以下の有機リン酸化合物である。好適に使用できるリン酸化合物(b1)を例示すればオルトリン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、ビニルホスホン酸等を挙げることができる。
【0047】
(3).ランタノイド塩:(b2)
ンタノイド塩(b2)は、ランタノイドリン酸金属塩(B)以外の金属塩であって、金属カチオンとしてランタノイド金属カチオンを含む金属塩であり、前記リン酸化合物(b1)と反応(b1のリン酸基以外の部位及びb2のアニオン部の脱離を伴う)してランタノイドリン酸塩(B)を生成するものである。

【0048】
ンタノイド塩としては、上記機能を有する金属塩であれば特に限定されず、無機アニオン塩、有機アニオン塩の何れも使用できる。無機アニオン塩を具体的に例示すると、硝酸塩、塩化物塩、臭化物塩、臭素酸塩、塩素酸塩、ヨウ化物塩、過酸化物塩、炭酸塩などを挙げることができる。また、有機アニオン塩を具体的に例示すると、酢酸塩、イソプロポキシド塩、エトキシ塩、クロラニル塩、アセチルアセトナト塩などを挙げることができる。これらの中でも溶解性の観点から無機アニオン塩が好ましく、さらに焼結時にアニオン部が分解、除去され易い点から硝酸塩が特に好適に用いられる。好適に使用できる金属塩(b2)を例示すれば硝酸ランタン六水和物を挙げることができる。

【0049】
(4)本発明の複合体を構成する複合粒子
本発明の複合体を構成する複合粒子では、金属酸化物粒子の表面上に、(b1)リン酸化合物及び(b2)ランタノイド塩が、前記金属酸化物粒子総質量100gに対して、夫々、0.8~100ミリモル保持されている。

【0050】
リン酸化合物(b1)の上記保持量が0.8ミリモルより少ない含有量の場合には、十分な切削加工性が得られ難く、上記保持量が100ミリモルを越える場合には、焼結後に細孔が残り十分な強度が得られない可能性がある。リン酸化合物(b1)の上記保持量は、得られるセラミックの透明性の観点から、0.8~20ミリモルであることがより好ましい。ランタノイド塩(b2)の保持量についても同様であり、得られるセラミックの透明性の観点から、0.8~20ミリモルであることが好ましい。

【0051】
さらに、保持される(b1)リン酸化合物及び(b2)ランタノイド塩の量比に関しては、リン酸化合物(b1)に含まれるリン酸基の当量:Ep(モル×イオン価数)とランタノイド塩(b2)の当量:Em(モル×イオン価数)の比Em/Epが0.8~1.2なる量であることが好ましい。Em/Epが0.8未満の場合には、リン酸化合物が過剰となり、過剰分のリン酸化合物を焼結することでリン酸化物やリンが生成する可能性があり、色調等に影響する可能性がある。また、Em/Epが1.2を越える場合には、焼結後に金属酸化物が生成し、色調等に影響する可能性がある。ランタノイド塩(b2)の含有量は、上記Em/Epで表して、0.95~1.05であることがより好ましい。

【0052】
なお、前記保持量及び保持量割合は、複合紛体に含まれる複合粒子全体の平均値を意味する。
【0053】
(5)本発明の複合体の製造方法
本発明の複合体は、下記製法1又は製法2により好適に製造することができる。

【0054】
製法1:リン酸化合物(b1)及びランタノイド塩(b2)が溶解している溶液と金属酸化物粒子からなる金属酸化物体(a)と、を混合した後に溶媒を除去して前記複合体を得る方法。

【0055】
製法2:第1の溶媒にリン酸化合物(b1)が溶解した第1の溶液と、金属酸化物粒子からなる金属酸化物体(a)と、を混合した後に前記第1の溶媒を除去して前記金属酸化物体(a)を構成する前記金属酸化物粒子の表面に前記リン酸化合物(b1)が付着したb1担持粉体を得る工程;及び、第2の溶媒に前記金属塩(b2)が溶解した第2の溶液と、前記b1担持粉体と、を混合した後に前記第2の溶媒を除去して前記複合体を得る方法。

【0056】
使用するリン酸化合物(b1)とランタノイド塩(b2)によっては、溶媒に対する夫々の溶解度が異なりことがあり、比較的少ない溶媒量で両者を同時に所望量で溶解させることが難しい場合には、第二の方法を採用することが好ましい。

【0057】
本発明のセラミック製造方法においては、上記方法2からなる複合体調製工程を前記原料体調製工程の前工程として含むことが好ましい。

【0058】
前記製法1と2は担持を1段階で行うか2段階で行うかの点では異なるものの、基本操作は同様であるので、以下、2段階法である製法2について詳しく説明する。
【0059】
(5-1)製法2:b1担持粉体を得る工程
b1担持粉体を得る工程では、先ず、第1の溶媒にリン酸化合物(b1)が溶解した第1の溶液を準備する。第1の溶媒としては、リン酸化合物(b1)を溶解する溶媒が特に限定されず使用できる。例えば、水、エタノール等のアルコール類、アセトン等公知のものが使用可能であるが、安全性及び溶媒除去の容易性の観点から水もしくはアルコール類を使用することが好ましい。これら溶媒は1種を単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよく、2種以上を混合して使用する場合は互いに相溶するものが好ましい。
【0060】
使用する第1の溶媒の量は、使用する金属酸化物体(a)の全量が液中に浸るような量であれば特に限定されないが、溶媒除去の容易さの観点から金属酸化物体(a)100gに対して150~500ml程度であることが好ましい。また、第1の溶媒に溶解するリン酸化合物(b1)の全量が金属酸化物体(a)の表面に保持されると考えられることから、リン酸化合物(b1)は保持させたい量(担持量)と使用する金属酸化物体(a)の量から適宜決定すればよい。

【0061】
前記工程では、次に、得られた第1の溶液と所定量の金属酸化物体(a)とを混合する。混合方法としては、均一に混合する方法であれば特に限定されず、例えば、撹拌、振盪、振動、超音波等による方法が採用できる。

【0062】
前記工程では、次に、得られた混合物から前記第1の溶媒を除去して前記金属酸化物紛体(a)を構成する前記金属酸化物粒子の表面に前記リン酸化合物(b1)が付着したb1担持粉体を得る。第1の溶媒の除去の方法としては、第1の溶媒が除去できる方法であれば特に限定されないが、溶媒除去にかかる時間の短さや溶媒をほぼ全て除去できるという観点から、減圧乾燥法及び/又は加熱乾燥法を採用することが好ましい。ここで、減圧乾燥法とは、例えば800ヘクトパスカル以下での減圧下にて溶媒を除去する方法であり、加熱乾燥法とは、室温以上の温度にて溶媒を除去する方法であり、減圧下で加熱することにより、溶媒の沸点よりも低い温度で有機溶媒の除去(乾燥)を行うことができる。高温下での処理を必要としないと言う観点から、加熱乾燥法を採用する場合でも、適宜減圧乾燥法と併用する等して100℃以下の温度で乾燥させることが好ましい。さらに溶媒の除去の際に、造粒を行ってもよい。たとえば、スプレードライヤー等を用いて造粒工程を行いながら溶媒を除去してもよい。
【0063】
(5-2)製法2:複合体を得る工程
複合体を得る工程では、第2の溶媒に前記ランタノイド塩(b2)が溶解した第2の溶液{但し、溶液中で(b1)と(b2)とが反応するものを除く。}と、前記b1担持粉体と、を混合した後に前記第2の溶媒を除去して前記複合体を得る。第2の溶液としては、ランタノイド塩(b)を溶解する水、エタノール等のアルコール類、アセトン 使用可能であるが、安全性及び溶媒除去の容易性の観点か水もしくはアルコール類を使用することが好ましい。但し、第2の溶媒は、第1の溶媒と異なるものであり、更に第2の溶媒に対するb1の溶解度より第2の溶媒に対するb2の溶解度が有意に高いものである必要がある

【0064】
当該工程における混合方法及び溶媒除去は、b1担持粉体を得る工程と同様である。
【0065】
(5-3)原料体及びその調製方法
原料体は本発明の複合体のみからなるものであっても良く、本発明の複合体と金属酸化物体(a)との混合体からなるものであっても良く、さらにこれらの何れかに、その他成分を配合したものであっても良い。効果の観点及び成形性等の観点からは、本発明の複合体にその他成分を適宜配合したものであることが好ましい。

【0066】
その他成分としては、バインダー、微細フィラー、遮光剤、蛍光剤等を挙げることができる。バインダー成分の添加の有無は、焼結体の成形方法等に応じて適宜選択することができる。バインダー成分を添加する場合、例えばアクリル系バインダーやオレフィン系バインダー、ワックス等を使用することができる。
【0067】
さらに、原料体には、流動性向上等を目的として、強度や外観の審美性に影響を及ぼさない範囲で混合体の粒径と比較し十分に小さい粒径の微細フィラーを配合することが可能であり、例えばシリカなどを配合することができる。

【0068】
原料体は、各成分を秤量し、これらを混合することにより容易に調製できる。混合方法は、金属酸化物粒子の表面上により均一に保持できるという観点から湿式方法を採用することが好ましい。湿式方法で用いる溶媒としては、安全性及び溶媒除去の容易性の観点からアルコール類を使用することが好ましい。

【0069】
湿式方法にて混合した場合には、溶媒の乾燥時にオーブン等で溶媒を除去するだけでなく、原料体調製工程において造粒を行ってもよい。たとえば、スプレードライヤー等を用いて造粒工程を行いながら乾燥してもよい。

【0070】
2-2.成形工程
成形工程では、前記原料体組成物を用いて所定形状の圧縮成形体又はグリーン体を得る。このとき成形方法は、原料として前記原料体組成物を用いる以外は、従来の体原料を用いて焼結或いは仮焼前のミルブランク用成形体を得る従来の方法と特に変わる点は無く、プレス成形、押出成形、射出成形、鋳込成形、テープ成形、積層造形による成形、体造形による成形、光造形による成形等、体成形法或いはグリーン体成形法として知られている方法が特に制限なく使用できる。また、多段階的な成形を施してもよい。例えば、本発明の焼結用原料体組成物を一軸プレス成形した後に、さらにCIP(Cold
Isostatic Pressing;冷間静水等方圧プレス)処理を施したものでもよい。また、成形工程において、複数種の混合体を積層し成形してもよい。

【0071】
成形工程で得られる圧縮成形体又はグリーン体の形状は、目的とするミルブランクの形状に応じて適宜決定すればよいが、通常は円盤状のもの(ディスクタイプ)、或いは直方体又は略直方体形状のもの(ブロックタイプ)などが一般的である。
【0072】
2-3.焼結工程
焼結工程では、前記成形工程で得られた圧縮成形体又はグリーン体を、直接600℃~1800℃の焼結温度で焼結するか、又は脱脂及び/或いは仮焼処理後に、600℃~1800℃の焼結温度で焼結する。
【0073】
(1)脱脂及び/又は仮焼処理
本発明の方法では、焼結工程における焼結を行う前に脱脂及び/又は仮焼処理を行うこともできる。ここで、脱脂処理とは、前記成形工程で得られた圧縮成形体又はグリーン体に含まれる水分、溶媒、バインダーなどを揮発除去或いは分解除去する処理を意味し、仮焼処理とは加工しやすい強度まで向上させる処理を意味する。これら処理は、通常、100℃以上、1100℃以下であって且つ焼結温度よりも低い温度で行われる。
【0074】
脱脂及び/又は仮焼処理の方法としては、従来から知られている方法が特に制限されず使用でき、連続的に行っても、多段階的に行ってもよい。また、有機物を効率的に除去するため、酸素を含む空気雰囲気下で行うことが好ましい。なお、脱脂及び/又は仮焼処理は、その前工程である成形工程及び/又はその後に行われる焼結と同一の装置を用いた方法、例えばSPS(放電プラズマ焼結:Spark Plasma Sintering)法やHP(ホットプレス)法等により、連続的に行うこともできる。
【0075】
(2)焼結
焼結工程では、前記成形工程で得られた圧縮成形体又はグリーン体を、直接600℃~1800℃の焼結温度で焼結するか、又は脱脂及び/或いは仮焼処理後に、600℃~1800℃の焼結温度で焼結する。ここで、焼結(焼成或いは焼き締めとも呼ばれる。)とは、その温度(或いは温度範囲)で一定時間保持して、圧縮成形体又はグリーン体を金属酸化物の融点以下の温度に加熱して、体粒子を互いに表面拡散(凝着、融着)させて多結晶体に変化させることを意味し、焼結温度とは、その温度(或いは一定の温度範囲内)に一定時間保持して、所望の程度に焼結を進行させる温度(或いは温度範囲)をいう。焼結温度が600℃未満の場合には、緻密化が不十分で焼結体の密度は低くなり、強度も低くなり、切削加工に適さないものとなってしまう。また、1800℃より高い場合には、粒成長が進みすぎることにより強度が低下する可能性がある。

【0076】
当該焼結も、前記原料体組成物を用いた成形体を上記焼結温度で焼結する以外、従来から知られている金属酸化物体の焼結と特に変わる点はないが、ランタノイドリン酸塩(B)を効率的に生成させると共にその結晶成長が進み過ぎないようにするために、空気中で、焼結温度を1250℃~1600℃とし、この温度で30分~4時間保持するようにして行うことが好ましい。

【0077】
.ミルブランク製造方法
ラミックからなる被切削加工部を有する歯科加工用ミルブランクを製造する方法であって、前記被切削加工部の製造工程として、本発明のセラミックス製造方法を含むこと できるこのような方法を本発明のミルブランク製造方法ともいう。

【0078】
なお、歯科加工用ブランクとは、CAD/CAMシステムにおける切削加工機に取り付け可能にされた被切削体(ミルブランクとも呼ばれる。)を意味し、通常は被切削加工部と(切削加工機に取り付けるための)取り付け部材を含んでなる。また、被切削体の形状としては、直方体や円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロック又は板状若しくは盤状に形成された(ソリッド)ディスク等が一般的に知られている。本発明で製造されるミルブランクも、その基本的構成や構造自体は、従来のジルコニアセラミック製歯科加工用ミルブランク等と特に変わる点は無い。
【0079】
本発明のミルブランク製造方法によれば、被切削加工部が良好な切削・加工性を有し、且つ高い強度と審美性を有するセラミックスからなる歯科用ミルブランクを製造することができる。
【実施例
【0080】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。以下に、各実施例および比較例のサンプルの作製に用いた物質の略称・略号およびその構造式または物質名と、各種サンプルの調整方法と、各種の評価方法とについて説明する。
【0081】
<セラミック粉体の原材料>
1.(a)金属酸化物
・Zpex4:東ソー株式会社製ジルコニア、平均一次粒径90nm、イットリア含有量3.9mol%
・AHP200:日本軽金属株式会社製アルミナ、平均一次粒子径400nm
2.(b1)リン酸化合物
・リン酸二水素アンモニウム:NHPO、富士フィルム和光純薬株式会社製
・リン酸三アンモニウム:(NHPO、純正化学株式会社製
・オルトリン酸:HPO、富士フィルム和光純薬株式会社製
・MDP(10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート):ミヨシ油脂株式会社製
・ビニルホスホン酸:シグマアルドリッチ社製
3.(b2)ランタノイド塩
・硝酸ランタン6水和物:La(NO・6HO、富士フィルム和光純薬株式会社製
・硝酸イッテルビウムn水和物:Yb(NO・nHO、富士フィルム和光純薬株式会社製
・酢酸ランタンn水和物:La(CHCOO)・nHO、富士フィルム和光純薬株式会社製
4.溶媒
・エタノール:富士フィルム和光純薬株式会社製
・蒸留水:富士フィルム和光純薬株式会社製。

【0082】
<焼結体の評価方法>
(1)焼結体切削性評価
ダイヤモンドポイントHP 形態25(株式会社松風製)を用い、焼結体の側面に対し垂直に水冷下10000rpm(ユーティリオ(株式会社モリタ製))で切削を行い、5秒後の切削の深さを測定した。
【0083】
(2)焼結体外観目視評価
厚さ1mmの焼結体の外観に斑模様が見えるかを目視にて確認した。判断基準を以下に示す。
○:蛍光灯越しに観察した際に斑模様が見えない。
×:蛍光灯越しに観察した際に斑模様が見える。
【0084】
(3)焼結体透明性評価
実施例及び比較例で調製されたセラミック粉体を用いて焼結体を作製後、耐水研磨紙#800、#1500、#3000を用いて1mm厚とし、その後、ポーセレン・ハイブリットレジン・ジルコニア用研磨材であるスーパースターV(日本歯科工業社製)を用いて両面を鏡面研磨した焼結体を透明性評価用サンプルとして使用した。サンプルは色差計(東京電色製、「TC-1800MKII」)を用いて、背景色黒、背景色白で分光反射率を測定し、背景色黒におけるY値を背景色白におけるY値で割ったものをコントラスト比(Yb/Yw)とした。Yb/Ywが小さいほど透明となる。
【0085】
(4)焼結後のランタノイドリン酸塩の平均結晶子径評価
走査型電子顕微鏡(SEM)「S-3400N」(日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、焼結後のランタノイドリン酸塩の結晶体の平均結晶子径を算出した。平均結晶子径は、SEM観察画面において無作為に抽出した100個の結晶体粒子の平均径を算出した。なお、歯科加工ミルブランクのSEM観察画面において、ランタノイドリン酸塩の各結晶体の確認は、反射電子像における組成表示を用いることによって行った。

【0086】
実施例1
セラミック粉体の製造: リン酸二水素アンモニウム0.09gと蒸留水300mLを秤量、混合しリン酸二水素アンモニウム溶液を得た。硝酸ランタン六水和物0.35gとエタノール300mLを秤量、混合し硝酸ランタン溶液を得た。リン酸二水素アンモニウム溶液にZpex4 100gを添加し、1時間混合した。その後、エバポレーターにて溶媒除去後、硝酸ランタン溶液に添加し、1時間混合した。その後、再度エバポレーターにて溶媒を除去することでセラミック粉体の製造を行った。
焼結体の製造: 得られた原料体組成物1.3gを直径20mmのプレス用金型を用いて、最大荷重200MPaで一軸プレスすることにより円盤状の成形体を得た。その後、成形体を株式会社モトヤマ製の電気炉「スーパーバーン」を用いて、1450℃、2時間の条件で焼結させ、焼結体を得た。得られた焼結体の評価結果を表4に示す。

【0087】
実施例2~8、比較例2~3
セラミック粉体の原料及び量を表1及び表3に示すように変える他は実施例1と同様にしてセラミック粉体を製造し、得られたセラミック粉体を用い、焼結条件を表1及び表3に示すように変える他は実施例1と同様にして焼結体を製造した。なお、表1~3中の「↑」は「同上」を意味する。得られた焼結体の評価結果を表4に示す。
【0088】
実施例9
セラミックの製造: オルトリン酸0.43g、MDP0.13g、硝酸ランタン六水和物1.78g、エタノール150mL、及び蒸留水150mLを秤量、混合し溶液を得た。得られた溶液にZpex4 100gを添加し、1時間混合した。その後、エバポレーターにて溶媒を除去することでセラミック粉体の製造を行った。
得られたセラミック粉体を用い、実施例1と同様にして焼結体を製造した。得らえた焼結体の評価結果を表4に示す。
【0089】
実施例10
セラミック粉体の原料及び量を表2に示すように変える他は実施例9と同様にしてセラミック粉体を製造し、得られたセラミック粉体を用い、実施例1と同様にして焼結体を製造した。得られた焼結体の評価結果を表4に示す。
【0090】
比較例1
セラミック粉体の製造: 市販のZpex4に処理を加えず、セラミック粉体をして用いた。表3に示す条件にて実施例1と同様にして焼結体を製造し、焼結体の評価を行った。結果を表4に示す。
【0091】
比較例4
セラミックの製造: オルトリン酸0.47g、硝酸ランタン六水和物0.17g、及びエタノール300mLを秤量、混合し懸濁液を得た。得られた懸濁液にZpex4 100gを添加し、1時間混合した。その後、エバポレーターにて溶媒を除去することでセラミック粉体の製造を行った。
得られたセラミック粉体を用い、実施例1と同様にして焼結体を製造し、焼結体の評価を行った。結果を表4に示す。
【0092】
比較例5
セラミック粉体の原料及び量を表3に示すように変える他は比較例4と同様にしてセラミック粉体を製造し、得られたセラミック粉体を用い、表3に示す条件にて比較例4と同様に焼結体を製造した。得られた焼結体の評価結果を表4に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
実施例1~10の結果から理解されるように、本発明で規定する条件を満たしていると、審美性に優れ且つ切削性にも優れる歯科用補綴物が得られることが分かる。
【0098】
比較例1の結果から理解されるように、(b1)リン酸化合物及び(b2)アルミニウム・ランタノイド塩の何れも含まない原料紛体を用いた場合には、コントラスト比が低く審美性には優れるものの、切削性が乏しい。
【0099】
比較例2および3の結果から理解されるように、(b1)リン酸化合物と(b2)アルミニウム・ランタノイド塩の一方のみを含む原料紛体を用いた場合には、コントラスト比が低いものの、外観目視評価における審美性が乏しく、切削性も乏しい。
【0100】
比較例4および5の結果から理解されるように(b1)リン酸化合物及び(b2)アルミニウム・ランタノイド塩の保持量(添加量)が本発明で規定する下限値未満である場合には、コントラスト比は低いものの、外観目視評価における審美性および切削性が乏しく、反対に保持量(添加量)が本発明で規定する上限値を越えて多い場合には、良好な切削性を有するものの審美性が乏しい。