(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】管体の止水装置
(51)【国際特許分類】
E02D 29/12 20060101AFI20240902BHJP
F16L 55/163 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
E02D29/12 E
F16L55/163
(21)【出願番号】P 2024116613
(22)【出願日】2024-07-22
【審査請求日】2024-07-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000149206
【氏名又は名称】株式会社大阪防水建設社
(74)【代理人】
【識別番号】100101786
【氏名又は名称】奥村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】木村 由真
(72)【発明者】
【氏名】奈良 聖四郎
(72)【発明者】
【氏名】大日向 正明
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-138382(JP,A)
【文献】特開2018-083386(JP,A)
【文献】特開2004-251340(JP,A)
【文献】特開平6-129579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/12
F16L 55/163
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に敷設される管体の内周面を全周にわたって覆うように、前記管体内の所定箇所に設けられる止水装置であって、
弾性体からなる止水部材と、
前記止水部材を前記管体の内周面の方向へ押圧する押え板と、
前記止水部材と前記押え板との間に介在する敷板と、を備え、
前記止水部材は、
前記管体の軸方向の一方側に設けられた第1基部と、
前記管体の軸方向の他方側に設けられた第2基部と、
前記第1基部と前記第2基部との間に設けられ、前記管体の軸方向に弾性変形して伸長が可能な伸長部と、を有し、
前記押え板は、
前記第1基部と、前記伸長部における前記第1基部寄りの部分とに跨って設けられた第1押え板と、
前記第2基部と、前記伸長部における前記第2基部寄りの部分とに跨って設けられた第2押え板と、からなり、
前記敷板は、前記伸長部を覆うように、前記止水部材と、前記第1押え板および前記第2押え板との間に介在している、ことを特徴とする管体の止水装置。
【請求項2】
前記伸長部は、前記管体が所定箇所で軸方向に分断された際に、当該分断領域を覆うように伸長し、
前記敷板は、伸長した前記伸長部を覆って当該伸長部が外水圧により膨らむのを阻止する、ことを特徴とする請求項1に記載の管体の止水装置。
【請求項3】
前記伸長部の中央部付近において、前記第1押え板と前記第2押え板との間に、これらの押え板を前記軸方向に隔離する間隙が設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の管体の止水装置。
【請求項4】
前記第1基部は、前記管体の内周面と対向する面に第1歯部を有しており、
前記第2基部は、前記管体の内周面と対向する面に第2歯部を有している、ことを特徴とする請求項1に記載の管体の止水装置。
【請求項5】
前記第1基部を前記管体の内周面の方向へ押圧する第3押え板と、
前記第2基部を前記管体の内周面の方向へ押圧する第4押え板と、をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の管体の止水装置。
【請求項6】
前記第1基部は、前記第3押え板が収納される第1空洞部を有し、
前記第2基部は、前記第4押え板が収納される第2空洞部を有している、ことを特徴とする請求項5に記載の管体の止水装置。
【請求項7】
前記第1基部は、前記第3押え板が収納される第1凹部を有し、
前記第2基部は、前記第4押え板が収納される第2凹部を有している、ことを特徴とする請求項5に記載の管体の止水装置。
【請求項8】
前記第1基部および前記第2基部は、クラックの発生を誘導するために前記管体に形成された誘導目地の両側に配置され、
前記伸長部は、その中央部と前記誘導目地とが対向するように配置され、
前記誘導目地とその近傍が前記伸長部で覆われている、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の管体の止水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に敷設された上下水道管のような管体の内部に地下水などが浸入するのを防止する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上下水道管や排水管のように地中に敷設されている管体においては、地震や地盤沈下などに起因して、管体同士の継手部に亀裂や破損が発生すると、継手部の止水機能が損なわれて、地下水が管体の内部へ浸入する。このため、管体継手部の内面に止水装置を設けて、管内への地下水の浸入を防止することが従来から行なわれている。特許文献1には、このような止水装置の一例が示されている。
【0003】
特許文献1の止水装置は、管体の継手部の内面の全周面を覆うように装着される止水ゴムリングと、このゴムリングを継手部内面に押し付けて圧着する締付リングとを備えている。締付リングは、鉄製の薄板状のリング本体と、このリング本体の両縁部から内方に向けて突出するリブ部とを備えており、径方向に拡張が可能となっている。
【0004】
管体において、止水装置を必要とする箇所は、継手部だけに限らない。たとえば、地中でマンホールに接続されている下水管の場合は、大きな地震によって液状化現象が発生すると、マンホールに浮力による過大な力がかかって、マンホールが上方へ持ち上がる。これに伴い、マンホールに連結された下水管に大きな曲げモーメントやせん断応力が作用し、管体にクラックが発生する。このクラックによる被害拡大を抑制するために、管体に誘導目地を設けることが従来から行なわれている。誘導目地は、クラックが管体とマンホールとの接続部の近傍でのみ発生するよう誘導する溝であり、当該接続部の近傍において、管体の内周面に周方向へ設けられる。
【0005】
特許文献2には、誘導目地の一例が示されている。この誘導目地によって、クラックの発生箇所は管体とマンホールとの接続部近傍に限定されるので、管体の他の場所でクラックが多発して被害が拡大するのを防ぐことができる。しかし、誘導目地にクラックが発生すると、その箇所から地下水が管内へ浸入するので、誘導目地においても止水対策が要求される。特許文献2では、ゴムなどの可撓性材料からなる環状のシート部材で誘導目地を覆うようにして、止水対策を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-232849号公報
【文献】特許第4695381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の止水装置では、管体の継手部に亀裂や破損が発生しても、当該箇所が止水ゴムリングで覆われているため、地下水の浸入を防止できる。しかし、このゴムリングは、管体の軸方向にほとんど伸長しないので、大きな地震の発生により、継手部両側の各管体が軸方向に大きく分離してしまうと、ゴムリングの止水機能が失われ、管内に地下水が浸入する。
【0008】
また、特許文献2においても、誘導目地を覆うシート部材は管体の軸方向にほとんど伸長しないので、大きな地震により誘導目地に生じたクラックによって、誘導目地の両側の各管体が軸方向に大きく分離すると、特許文献1と同様に、シート部材の止水機能が失われて管内に地下水が浸入する。
【0009】
この対策として、ゴムリングやシート部材などの止水部材に、管体の軸方向に伸長が可能な伸長部(たとえば蛇腹部)を設け、この伸長部で管体の継手部や誘導目地を覆うことが考えられる。これによると、地震発生時に管体が軸方向に大きく分離した場合でも、伸長部がこれに追従して軸方向に伸長し、管体の分離領域を覆うので、管内への地下水の浸入を阻止することができる。
【0010】
しかるに、その一方で、止水部材の伸長部が、管体の分離領域において地下水の水圧を受けて膨らみ、管内の流路へ突出するため、流水抵抗が増大するという問題が生じる。これを回避する手段として、止水部材の全体を保護カバーで覆って、伸長部の膨らみを抑制する方法もあるが、専用のカバーが必要となってコストが増加する。
【0011】
上記のような問題点に鑑み、本発明は、地震等によって管体の継手部や誘導目地の両側の管体が大きく分離した場合でも、止水機能が維持されるようにすることを課題とする。本発明の他の課題は、専用のカバーを用いずに止水部材の膨らみを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による管体の止水装置は、地中に敷設される管体の内周面を全周にわたって覆うように、管体内の所定箇所に設けられる止水装置であって、弾性体からなる止水部材と、この止水部材を管体の内周面の方向へ押圧する押え板と、止水部材と押え板との間に介在する敷板とを備えている。止水部材は、第1基部と、第2基部と、伸長部とを有している。第1基部は、管体の軸方向の一方側に設けられ、第2基部は、管体の軸方向の他方側に設けられている。伸長部は、第1基部と第2基部との間に設けられており、管体の軸方向に弾性変形して伸長が可能である。押え板は、第1押え板と第2押え板とからなる。第1押え板は、止水部材の第1基部と、止水部材の伸長部における第1基部寄りの部分とに跨って設けられる。第2押え板は、止水部材の第2基部と、止水部材の伸長部における第2基部寄りの部分とに跨って設けられる。敷板は、止水部材の伸長部を覆うように、止水部材と、第1押え板および第2押え板との間に介在している。
【0013】
このような止水装置においては、大きな地震や地盤沈下などにより発生したクラックのために、継手部や誘導目地の両側の管体が分断されて軸方向に大きく分離した場合でも、止水装置の伸長部が伸長してクラックの発生箇所を覆うので、管体内への地下水の浸入が阻止される。また、クラックを介して地下水の水圧が止水部材の伸長部に加わっても、伸長部は敷板で覆われているので、伸長部が膨らんで管内へ突出することはない。したがって、止水部材の全体を覆う専用のカバーが不要となり、コストが低減される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、地震等の発生時に管体が大きく分離した場合でも、止水機能が維持されるので、管体内へ地下水が浸入するのを阻止することができる。また、専用のカバーを用いずに、止水部材の伸長部の膨らみを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の止水装置を設けた管体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図を通して、同一の部分または対応する部分には、同一符号を付してある。
【0017】
図1は、本発明による止水装置100が設けられた管体1の断面図を示している。管体1は、たとえばコンクリート製のヒューム管などからなる下水管であって、図の左方向に位置するマンホール(図示省略)に接続されている。座標軸のXは管体1の軸方向、Yは管体1の径方向、Zは管体1の周方向をそれぞれ表している。管体1の内部は、下水が流れる中空の流路20となっている。また、管体1には、地震発生時などにクラックの発生を誘導する誘導目地2が、周方向Zに形成されている。
【0018】
止水装置100は、管体1の内周面11における誘導目地2が形成された箇所とその近傍とを、周方向Zの全周にわたって覆うように設けられる。この止水装置100には、ゴムなどの弾性体からなる止水部材3と、ステンレス製のばね鋼のような可撓性を有する金属板からなる押え板4、5、7、9と、同じく可撓性を有する金属板からなる敷板6、8、10とが備わっている。
【0019】
図2は、止水部材3の詳細な構造を示している。止水部材3は、耐震性を有する合成ゴムなどからなり、管体1の軸方向X(
図1参照)の一方側に設けられた第1基部32と、軸方向Xの他方側に設けられた第2基部35と、これらの間に設けられた伸長部31とを有している。第1基部32には、第1空洞部33および第1歯部34が、管体1の周方向Z(
図1参照)に設けられている。第2基部35には、第2空洞部36および第2歯部37が、同じく周方向Zに設けられている。伸長部31は、第1基部32および第2基部35よりも肉薄であって、蛇腹状に形成されており、後述するように、管体2の軸方向Xに弾性変形して伸長することが可能な形状となっている。
【0020】
図3は、止水装置100の詳細な構造を示す断面図である。この断面図は、
図1における下側(管体1の底側)の断面図を拡大したものである。
図3からわかるように、止水部材3の第1基部32および第2基部35は、管体1に形成された誘導目地2の両側に配置されている。また、止水部材3の伸長部31は、その中央部と誘導目地2とが対向するように配置されており、誘導目地2とその近傍が伸長部31で覆われている。そして、止水部材3は、押え板4、5、7、9によって、敷板6、8、10を介して、管体1の内周面11の方向へ押圧され、内周面11に圧着されている。
【0021】
止水部材3を管体1の内周面11に圧着させる工法としては、たとえば特許文献1に示されているように、ジャッキを用いて押え板4、5、7、9を径方向Y(
図1参照)へ拡径させる工法を採用することができる。
【0022】
第1押え板4は、止水部材3の第1基部32と、伸長部31における第1基部32寄りの部分(ほぼ左半分)とに跨って、
図1の周方向Zに設けられている。第2押え板5は、止水部材3の第2基部35と、伸長部31における第2基部35寄りの部分(ほぼ右半分)とに跨って、
図1の周方向Zに設けられている。
【0023】
敷板6は、止水部材3の伸長部31の全域を覆うように、
図1の周方向Zに設けられていて、止水部材3と押え板4、5との間に介在している。したがって、第1押え板4は、敷板6を介して、止水部材3の第1基部32の一部と、伸長部31のほぼ左半分とを押圧し、第2押え板5は、敷板6を介して、止水部材3の第2基部35の一部と、伸長部31のほぼ右半分とを押圧する。また、止水部材3の伸長部31の中央部付近において、第1押え板4と第2押え板5との間に、これらの押え板4、5を
図1の軸方向Xに隔離する間隙12が設けられている。この間隙12の位置は、管体1に形成された誘導目地2の位置に対応している。
【0024】
第3押え板7は、
図1の周方向Zに設けられていて、止水部材3の第1基部32に形成された第1空洞部33に、敷板8とともに収納されている。敷板8は、本発明において必須のものではなく、省略してもよい。第4押え板9も、
図1の周方向Zに設けられていて、止水部材3の第2基部35に形成された第2空洞部36に、敷板10とともに収納されている。この敷板10も、本発明において必須のものではなく、省略してもよい。
【0025】
第1基部32において、管体1の内周面11と対向する面に、第1歯部34が形成されている。この第1歯部34は、押え板4、7が第1基部32を押圧する際に、管体1の内周面11に対する第1基部32の圧着力を増大させる働きをする。また、第2基部35において、管体1の内周面11と対向する面に、第2歯部37が形成されている。この第2歯部37も同様に、押え板5、9が第2基部35を押圧する際に、管体1の内周面11に対する第2基部35の圧着力を増大させる働きをする。
【0026】
図4は、管体1を
図1の軸方向Xからみた場合の、第1押え板4を含む断面の一部を示している。止水部材3は、敷板6を介して第1押え板4により押圧され、管体1の内周面11に密着している。第1押え板4は、周方向Zに複数枚設けられており、それらが拡径部材P(特許文献1の縁切り部に相当)を介して連結されている。敷板6は、単一の部材からなり、その一部がオーバーラップするように設けられている。なお、図示は省略するが、第2押え板5を含む断面についても、上記と同様の構造が当てはまる。
【0027】
図5は、管体1を
図1の軸方向Xからみた場合の、第3押え板7を含む断面の一部を示している。止水部材3は、敷板8を介して第3押え板7により押圧され、管体1の内周面11に密着している。第3押え板7は、周方向Zに複数枚設けられており、それらが拡径部材Q(特許文献1の縁切り部に相当)を介して連結されている。敷板8は、
図4の敷板6のような単一の部材ではなく、拡径部材Qの箇所に対応して部分的に設けられた複数の部材からなる。なお、図示は省略するが、第4押え板9を含む断面についても、上記と同様の構造が当てはまる。
【0028】
次に、上述した止水装置100の機能につき、地震が発生した場合を想定して、
図6を参照しながら説明する。
図6(a)は、地震が発生していない通常の状態を示している。この状態は、
図3と同じであり、誘導目地2を覆う伸長部31は蛇腹形状を維持している。
【0029】
図6(b)は、大きな地震によって誘導目地2にクラックCRが発生し、管体1が誘導目地2の箇所で左右(軸方向X)に分断された状態を示している。この場合、分断された左側の管体1aは、液状化によるマンホールの浮き上がりと連動して、a方向(マンホール側)へ変位する。なお、実際には、管体1aは斜め上方向へ変位するが、ここでは説明の便宜上、水平方向へ変位している。一方、分断された右側の管体1bは、クラックCRの発生によってマンホールから切り離され、また周囲の地盤から土圧も受けているので、ほとんど変位しない。
【0030】
このため、右側の管体1bにおいては、止水部材3の第2基部35、第2押え板5、第4押え板9、および敷板10は変位せず、
図6(a)と同じ状態を維持する。これに対し、左側の管体1aにおいては、管体1aのa方向への変位に伴い、止水部材3の第1基部32が、第1押え板4と第3押え板7とによって管体1aの内周面11に圧着された状態を維持したまま、管体1aと共にa方向へ移動する。また、第1押え板4と敷板6は、共にステンレスなどの金属板であり、両者間の摩擦が小さいことから、第1押え板4は敷板6の上をスライドして、第1基部32と共にa方向へ移動する。その結果、第1押え板4と第2押え板5との間の間隙12が拡大する。
【0031】
この第1基部32のa方向への移動により、止水部材3の蛇腹状であった伸長部31が、
図6(b)に示すように、第1基部32に引っ張られて直線状に伸長する。そして、クラックCRによって生じた管体1a、1bの分断領域Sが、伸長した直線状の伸長部31で覆われる。また敷板6も、その左端部分が第1押え板4と伸長部31との間に挟まれた状態で、a方向へ少し移動する。しかし、敷板6の右端部分は、第2押え板5と伸長部31との間に挟まれていて、第2押え板5からa方向へ離れることはないので、直線状の伸長部31の大部分は、敷板6で覆われた状態が維持される。
【0032】
したがって、
図6(c)に示すように、管体1a、1bの分断領域Sから浸入する地下水によって、矢印で示した外水圧が止水部材3の伸長部31に作用しても、少なくとも間隙12の領域では、伸長した伸長部31が敷板6で覆われているので、伸長部31が膨らんで間隙12から管内へ突出することはない。また、伸長部31が直線状に伸長した後も、止水部材3の第1基部32と第2基部35は、管体1a、1bへ圧着された状態を維持するので、地下水が管内へ浸入することはない。
【0033】
以上述べたように、本発明の止水装置100によれば、地震発生時に管体1の目地2にクラックCRが生じ、管体1が左右に大きく分離した場合でも、止水装置100の伸長部31が延びて管体1の分断領域Sを覆うので、管体1内へ地下水が浸入するのを阻止することができる。また、地下水の水圧が止水部材3の伸長部31に加わっても、伸長部31が膨らんで管内へ突出することがないので、管体1内の流水抵抗の増加を抑制することができる。さらに、敷板6が、地震発生時において、第1押え板4のa方向への滑らかなスライドを可能にする機能に加えて、地下水の外水圧による伸長部31の膨らみを抑制する保護カバーと同等の機能を発揮するので、専用の保護カバーが不要となり、コストを低減することができる。
【0034】
図7は、本発明による止水装置の他の実施形態を示している。この止水装置200では、第1基部32において、
図3の第1空洞部33に代えて第1凹部38が設けられており、また、第2基部35において、
図3の第2空洞部36に代えて第2凹部39が設けられている。そして、第1凹部38に第3押え板7および敷板8が収納され、第2凹部39に第4押え板9および敷板10が収納されている。その他の構造については、
図3の止水装置100と基本的に同じであり、また、機能についても
図3の止水装置100と同じであるので、それらについての詳細な説明は省略する。
【0035】
以上の実施形態においては、更生処理の施されていない管体1を例に挙げたが、本発明の止水装置は、更生処理が施された管体(更生管)にも用いることができる。
図8はその一例を示している。なお、
図8は管体1の上側(天井側)の断面図である。
【0036】
図8において、管体1の老朽化した内周面11を補修するために、硬質塩化ビニルのようなライニング材40が、公知の工法により内周面11の全域を覆うように設けられている。ライニング材40と内周面11との間には、モルタルのような裏込材41が充填されている。管体1、ライニング材40、および裏込材41によって、更生管Wが構成される。ライニング材40と裏込材41は、ライニング層LNを形成している。このライニング層LNには、管体1に形成された誘導目地2と対応する箇所に、誘導目地42が形成されている。この誘導目地42も、管体1の誘導目地2と同様に、クラックの発生を誘導するためのものである。
【0037】
止水装置100は、
図1等に示した止水装置100と同じものである。この止水装置100は、止水部材3が押え板4、5、7、9によりライニング材40に圧着された状態で、更生管Wの内周面に設置されている。止水部材3は、ライニング層LNの誘導目地42とその近傍を覆っている。地震発生時に、管体1の誘導目地2にクラックが生じると、誘導目地42にもクラックが生じるが、誘導目地42が止水部材3で覆われているため、誘導目地2、42を介して地下水が管内に浸入することはない。
【0038】
図8の実施形態では、管体1にライニング処理を施した後に、止水装置100が設けられるが、これとは逆に、
図9に示したように、管体1に止水装置100を設けた後に、ライニング材40と裏込材41とによってライニング処理を施してもよい。この場合も、地震発生時に、誘導目地2にクラックが生じても、誘導目地2が止水部材3で覆われているため、誘導目地2を介して地下水が管内に浸入することはない。
【0039】
なお、
図8の場合は、地震発生時に、ライニング層LNにおける止水部材3で覆われていない箇所にクラックが生じると、その箇所において、誘導目地2からの地下水が管内へ浸入するおそれがあるので、ライニング層LNにおける止水部材3で覆われた箇所に、誘導目地42を設ける必要がある。これに対し、
図9の場合は、ライニング層LNの何処の箇所にクラックが発生しても、止水部材3が誘導目地2からの地下水の浸入を阻止するので、ライニング層LNに
図8のような誘導目地42を設ける必要はない。
【0040】
本発明では、以上述べた以外にも種々の実施形態を採用することができる。たとえば、前記の実施形態では、管体1が下水管である例を挙げたが、管体1は上水管、排水管、導水トンネルなどであってもよい。また、管体1は、既設管であってもよいし、新設管であってもよい。
【0041】
前記の実施形態では、本発明の止水装置を、管体の誘導目地の箇所に設けた例を挙げたが、本発明の止水装置は、管体の継手部に設けることもできる。
【0042】
前記の実施形態では、止水部材3の伸長部31が蛇腹状に形成されている例を挙げたが、伸長部31は、管体1の軸方向Xへ伸びる形状であればよく、蛇腹形に限定されない。たとえば、扁平に変形可能な直線形状や、折り畳まれた形状であってもよい。
【0043】
前記の実施形態では、第1押え板4と第2押え板5との間に間隙12が設けられているが、間隙12を設けずに、第1押え板4と第2押え板5とが、それぞれの端部において突合するような構造にしてもよい。
【0044】
前記の実施形態では、敷板6が金属材である例を挙げたが、敷板6は可撓性を有する硬質の樹脂材であってもよい。
【0045】
前記の実施形態では、止水部材3に布が埋設されていないが、繊維を縦横に織り込んだ布を止水部材3に埋設して、止水部材3の強度を向上させてもよい。
【0046】
前記の実施形態では、第1押え板4と第2押え板5が、
図1のように流路20内で露出した状態となっているが、錆の対策として、押え板4、5を熱収縮チューブで被覆してもよい。その際、押え板4、5と熱収縮チューブとの間に、グリースを介在させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の止水装置は、下水管、上水管、排水管のような地中に敷設される管体において、地震や地盤沈下の発生時に地下水が管内へ浸入するのを防止する手段として利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 管体
2 誘導目地
3 止水部材
4 第1押え板
5 第2押え板
6 敷板
7 第3押え板
9 第4押え板
11 内周面
12 間隙
31 伸長部
32 第1基部
33 第1空洞部
34 第1歯部
35 第2基部
36 第2空洞部
37 第2歯部
38 第1凹部
39 第2凹部
40 ライニング材
41 裏込材
42 誘導目地
100、200 止水装置
S 分断領域
X 軸方向
Y 径方向
Z 周方向
【要約】
【課題】地震等により管体が軸方向に大きく分離した場合でも止水機能を維持するとともに、専用の保護カバーを用いずに止水部材の膨らみを抑制する。
【解決手段】止水装置100は、弾性体からなる止水部材3と、この止水部材3を管体1の内周面11の方向へ押圧する第1押え板4および第2押え板5と、止水部材3と押え板4、5との間に介在する敷板6とを備えている。止水部材3は、管体1の軸方向Xの一方側に設けられた第1基部32と、軸方向Xの他方側に設けられた第2基部35と、これらの基部32、35の間に設けられ軸方向Xへ伸長が可能な伸長部31とを有する。第1押え板4は、第1基部32と伸長部31における第1基部寄りの部分とに跨って設けられ、第2押え板5は、第2基部35と伸長部31における第2基部寄りの部分とに跨って設けられている。敷板6は、伸長部31を覆うように、止水部材3と押え板4、5との間に介在している。
【選択図】
図6