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特許7546888被吸引物誘導管、及び被吸引物吸引システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】被吸引物誘導管、及び被吸引物吸引システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
A61M1/00 160
A61M1/00 130
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020118483
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015559
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】511132443
【氏名又は名称】石北 直之
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】石北 直之
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05674209(US,A)
【文献】特開2008-161672(JP,A)
【文献】特表2017-537739(JP,A)
【文献】特表2018-520824(JP,A)
【文献】特開2013-126499(JP,A)
【文献】特開2009-297432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-38
A61M 60/00-90
A61M 39/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引装置の吸引チューブに接続されて患者の気管内の被吸引物を上気道側に誘導する被吸引物誘導管において、
前記吸引チューブと接続される接続部と、開口部とを有する誘導管本体と、
前記開口部に対して開閉可能に設けられ、先端側の外周面が先端から基端に向けて拡径するテーパー面が設けられ、かつ、前記先端側に開口部が設けられている中蓋と、を備え
前記誘導管本体の開口部の内周面は、前記誘導管本体の開口部に対して前記中蓋を開放した状態で、前記患者側に取り付ける人体装着用換気部材を当接可能に構成されてい
被吸引物誘導管。
【請求項2】
前記中蓋の内周面は、基端側から先端側に向けて縮径する曲面で構成され、前記誘導管本体の内周面と連続的な曲面となっている
請求項1に記載の被吸引物誘導管。
【請求項3】
前記誘導管本体の前記接続部は、先端に向けて縮径する接続管となっている
請求項1又は2に記載の被吸引物誘導管。
【請求項4】
前記誘導管本体の下端側外周の一端には、管状部材を把持可能なホルダーが設けられている
請求項1~の何れか1項に記載の被吸引物誘導管。
【請求項5】
前記ホルダーの内周面は、基端側から先端側に向けて拡径する構成となっている
請求項に記載の被吸引物誘導管。
【請求項6】
前記中蓋は、前記誘導管本体に対してヒンジ機構を介して開閉可能なヒンジキャップである
請求項1~3の何れか1項に記載の被吸引物誘導管。
【請求項7】
前記中蓋は、前記誘導管本体に対してヒンジ機構を介して開閉可能なヒンジキャップである
請求項4又は5に記載の被吸引物誘導管。
【請求項8】
前記中蓋の前記開口部に対して前記中蓋の一端と連結される接続コードを介して開閉可能に設けられる先端キャップを更に備える
請求項1~5の何れか1項に記載の被吸引物誘導管。
【請求項9】
前記中蓋の前記開口部に対して前記中蓋の一端と連結される接続コードを介して開閉可能に設けられる先端キャップを更に備える
請求項7に記載の被吸引物誘導管。
【請求項10】
前記誘導管本体、前記中蓋、前記ヒンジ機構、前記先端キャップ及び前記接続コードは、一体成型体で構成されている
請求項に記載の被吸引物誘導管。
【請求項11】
前記ヒンジ機構は、前記誘導管本体の前記ホルダーが配置されている方向に対して鉛直方向に開閉動作が可能に設けられており、
前記接続コードは、前記誘導管本体に対して前記中蓋を閉じて前記接続から平面視した際に、前記ホルダーに対向する配置となるように、前記中蓋の前記ヒンジ機構が配置されている方向に対して鉛直方向に延出するように設けられている
請求項又は10に記載の被吸引物誘導管。
【請求項12】
生体から被吸引物を吸引する被吸引物吸引システムにおいて、
吸引チューブが設けられている吸引装置と、
前記吸引チューブの一端に接続される請求項1~11の何れか1項に記載の被吸物誘導管と、を備える
被吸引物吸引システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被吸引物誘導管、及び被吸引物吸引システムに関する。
【背景技術】
【0002】
加齢や疾病等により咽頭部に溜まった喀痰、唾液、鼻汁等のヒトの体内にある被吸引物を咳や嚥下等により体外に排出したり、飲み下すことが困難になることがある。このような被吸引物が気管に入ると、呼吸困難や窒息、肺炎、無気肺等の原因になることから、吸引装置の吸引チューブに接続された吸引カテーテル等を用いて被吸引物を吸引して除去する必要がある。
【0003】
吸引カテーテルで吸引対象となる喀痰等の被吸引物を吸引する際には、吸引カテーテルの端部が被吸引物に届かなければ、吸引効果が十分に得られない。また、この場合に、吸引カテーテルを下気道にまで挿入することによって、気道を損傷してしまう虞がある。喀痰吸引を効率的に行う関連技術として、例えば、特許文献1には、機械により患者の肺を陽圧にしてから陰圧を加える機械的咳介助(Mechanical Insufflation - Exsufflation:以下、MI-Eと称する。)を行って、肺にある喀痰を上気道に誘導させてから吸引カテーテルで吸引して採取する採取装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2013-524202号公報(明細書段落[0017])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機械的咳介助(MI-E)による喀痰吸引では、上気道に喀痰を誘導させるため、低侵襲な喀痰吸引が可能になるものの、機械操作や設定に熟練した技術が必要とされる。このため、より容易に喀痰等の被吸引物を上気道側に誘導されることが望まれる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、より容易に被吸引物を上気道側に誘導させることによって、低侵襲な被吸引物の吸引を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、吸引装置の吸引チューブに接続される被吸引物誘導管において、前記吸引チューブと接続される接続部が設けられる誘導管本体と、前記誘導管本体の一端に設けられ、先端側の外周面が先端から基端に向けて拡径するテーパー面が設けられ、かつ、先端側に開口部が設けられている中蓋と、を備える。
【0008】
本発明の一態様によれば、吸引装置の吸引チューブの先端に被吸引物誘導管を取り付けてから、被吸引物誘導管を人体装着用換気部材に密着させて連通させるだけで、被吸引物が上気道側に誘導されるので、効率的に低侵襲な被吸引物の吸引が行えるようになる。
【0009】
本発明の他の態様は、生体から被吸引物を吸引する被吸引物吸引システムにおいて、吸引チューブが設けられている吸引装置と、吸引チューブの一端に接続される前述した被吸引物誘導管と、を備える。
【0010】
本発明の他の態様によれば、吸引装置の吸引チューブの先端に被吸引物誘導管を接続してから、被吸引物誘導管を人体装着用換気部材に密着させて連通させることで、被吸引物が上気道側に誘導されるので、容易に低侵襲な被吸引物の吸引が行えるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より容易に被吸引物を上気道側に誘導させることによって、低侵襲な被吸引物の吸引を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の使用状態を示す斜視図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の未使用状態を示す斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の展開状態を示す斜視図である。
図5】本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の展開状態を示す正面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の展開状態を示す平面図である。
図7】本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の展開状態を示す底面図である。
図8】本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管を使用した被吸引物吸引システムの概略構成図である。
図9】本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管を使用した被吸引物吸引システムの他の実施態様を示す概略構成図である。
図10】本発明の他の実施形態に係る被吸引物誘導管の未使用状態を示す右側面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管を使用した被吸引物吸引システムの更に他の実施態様を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0014】
まず、本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の概略構成について、図面を使用しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の使用状態を示す斜視図であり、図2は、図1のA-A断面図であり、図3は、本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の未使用状態を示す斜視図である。
【0015】
本実施形態の被吸引物誘導管100は、患者の下気道を含む気道から喀痰を始めとする体液等の被吸引物を吸引・除去する際に、吸引装置(固定設置型又は携帯型の痰吸引器)と接続される吸引チューブの先端に取り付けて、当該吸引装置の吸引力(陰圧)により被吸引物を上気道側に誘導する部材として使用される。被吸引物誘導管100は、図1に示すように、誘導管本体110と、中蓋120と、先端キャップ130とを備える。
【0016】
誘導管本体110は、一方の面に吸引チューブと接続される接続部となる接続管112が設けられている。また、誘導管本体110は、接続管112と対向する反対側の部位が図2に示すように、内径が例えば17mm程度の開口部110aとなっており、内周面110bが接続管112の基端に向けて連続する曲面となっている。誘導管本体110の基端側には、図2に示すように、中蓋120の基端側に有する嵌合凸部120dと嵌合可能な嵌合凹部110a1が設けられている。誘導管本体110の内周面110bは、図2に示すように、嵌合凹部110a1の上端側から接続管112の基端に近づくにつれて縮径する緩やかな曲面となっている。
【0017】
誘導管本体110の接続管112は、先端に向けて縮径する形状となっており、その先端が開口部112aとなっている。開口部112aの内径は、例えば、7.0mm程度となっている。なお、接続管112の形状は、先端に向けて縮径する形状となっていればよく、図1に示すような先端に向けて段階的に縮径する形状に限定されない。
【0018】
また、本実施形態では、吸引チューブと接続する「接続部」として、誘導管本体110に接続管112が設けられているが、当該接続部として、吸引チューブの内側に挿入される接続管112に限定されない。すなわち、誘導管本体110に設けられる「接続部」として、例えば、誘導管本体110の一方の面に吸引チューブが挿入されて固定可能な孔が設けられていてもよい。
【0019】
誘導管本体110の下端側外周の一端には、図1に示すように、管状部材を把持可能なホルダー116が設けられている。ホルダー116は、誘導管本体110の下端側外周の一端から1対の把持部116aが突出するように構成されており、管状部材として、例えば、吸引装置の吸引チューブの先端を上向きに固定可能になっている。ホルダー116は、図1及び図2に示すように、内周面116bが基端側から先端側に向けて拡径する構成であり、内側テーパー面になっている。
【0020】
誘導管本体110の接続管112と対向する部位には、図3に示すように、吸引対象となる被吸引物を被吸引物誘導管100内に導入する中蓋120がヒンジ機構118を介して開閉可能に設けられている。すなわち、中蓋120は、誘導管本体110の開口部110aに対してヒンジ機構118を介して開閉可能なヒンジキャップとなっている。なお、中蓋120の誘導管本体110に対する設置態様は、ヒンジ機構118を介するヒンジキャップの態様に限定されず、例えば、中蓋120の誘導管本体110の双方の接続部位に互いに嵌合する凹部と凸部を設けるように、他の態様で誘導管本体110に対して開閉可能にしてもよい。また、誘導管本体110と中蓋120とを連結するヒンジ機構118を省略して、誘導管本体110と中蓋120とを別体で構成するようにしてもよい。
【0021】
中蓋120は、図2に示すように、内周面120bが基端側から先端側に向けて縮径する曲面で構成され、中蓋120を誘導管本体110に対して閉じた際には、内周面120bが誘導管本体110の内周面110bと連続的な曲面となっており、中蓋120の内周面120bと誘導管本体110の内周面110bによって、いわゆるオリーブ形状の空間が構成される。
【0022】
また、中蓋120は、先端側に内径が例えば4.0mm程度の開口部120aを有しており、図2に示すように、中蓋120の先端側の開口部120aの外縁から基端に向けて所定の範囲が拡径するテーパー面120cが設けられている。中蓋120の開口部120aは、中蓋120の一端と連結される接続コード114を介して接続される先端キャップ130で開閉可能となっている。
【0023】
先端キャップ130は、中蓋120の開口部120aとの密閉性を確保するために、図2に示すように、中蓋120の開口部120aを塞ぐ中心側が凸部132、当該凸部132の外縁が溝部134を有する構成になっている。なお、先端キャップ130の構成は、図2に示す態様に限定されず、他の態様の構成としてもよい。
【0024】
中蓋120の開口部120aの反対側に有する基端には、前述したように、中蓋120と誘導管本体110の開口部120aとの密閉性を確保するために、図2に示すように、誘導管本体110の開口部120aの内縁に有する嵌合凹部110a1に嵌合可能な嵌合凸部120dが設けられている。なお、中蓋120の基端側の構成は、図2に示す態様に限定されず、他の態様の構成としてもよい。
【0025】
本実施形態の被吸引物誘導管100は、喀痰吸引等で吸引装置の吸引チューブと接続される使用時に、吸引対象として気道内の喀痰等を吸引する場合には、中蓋120を誘導管本体110の開口部110aに対して開放する。次に、誘導管本体110の内周面110bを、患者に装着した気管チューブや気管カニューレ等の管端に近づけて密着させることで、吸引装置からの吸引力(陰圧)により気管から肺内の終末細気管支に至る下気道内の喀痰等の被吸引物を上気道側へ移動させるバキューミング(誘導)を行う。そして、被吸引物を上気道側に移動させてから、上気道側に誘導された喀痰等の被吸引物を吸引カテーテル等の吸引用器具で吸引できるようになる。
【0026】
また、吸引対象として鼻腔内の鼻汁等を吸引する場合には、図1及び図2に示すように、中蓋120が誘導管本体110の開口部110aに対して覆って、かつ、先端キャップ130を開口部120aから外して開口部120aを開放してから、中蓋120の開口部120aの外縁に有するテーパー面120cを鼻腔に近づけて密着させる。そして、吸引装置からの吸引力により鼻腔内の鼻汁等の被吸引物を鼻腔の手前側に移動させるバキューミングを行って、そのまま被吸引物を吸引・除去できるようになっている。また、バキューミングにより鼻腔の手前側に移動させた被吸引物を吸引カテーテル等の吸引用器具で吸引することによって、被吸引物を吸引・除去することもできる。
【0027】
一方、被吸引物誘導管100の未使用時には、吸引チューブ内に残留した被吸引物の逆流による落下や、被吸引物誘導管100内に埃等の異物の浸入を防止するために、図3に示すように、中蓋120が誘導管本体110の開口部110aを塞いで、かつ、先端キャップ130が開口部120aを塞いで蓋となっている。
【0028】
次に、本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の展開状態について、図面を使用しながら説明する。図4は、本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の展開状態を示す斜視図であり、図5は、本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の展開状態を示す正面図であり、図6は、本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の展開状態を示す平面図であり、図7は、本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管の展開状態を示す底面図である。
【0029】
本実施形態の被吸引物誘導管100は、図4図7に示すように、誘導管本体110、中蓋120、ヒンジ機構118、先端キャップ130及び接続コード114が一体成型体で構成されている。すなわち、被吸引物誘導管100は、各構成要素がポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ABS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)等の熱可塑性樹脂を射出成形することによって一体成型体として構成されている。
【0030】
ヒンジ機構118は、図6及び図7に示すように、誘導管本体110のホルダー116が配置されている方向に対して鉛直方向に開閉動作が可能に設けられている。ヒンジ機構118は、誘導管本体110と中蓋120を連結するヒンジ連結部118aと、当該ヒンジ連結部118aの両側に有する板バネ118bと、を備えている。このため、図5に示すように、誘導管本体110に対して中蓋120を開放した際に、板バネ118bの復元力により中蓋120の開放状態を維持できるようになっている。
【0031】
接続コード114は、図6及び図7に示すように、中蓋120のヒンジ機構118が配置されている方向に対して鉛直方向に延出するように設けられている。具体的には、接続コード114は、誘導管本体110に対して中蓋120を閉じて接続管112から被吸引物誘導管100を平面視した際に、ホルダー116に対して対向する配置となるように、中蓋120のヒンジ機構118が配置されている方向に対して鉛直方向に延出するように設けられている。
【0032】
本実施形態の被吸引物誘導管100の各構成要素をこのように配置することによって、誘導管本体110の開口部120aに対する中蓋120の開閉動作と、中蓋120の開口部120aに対する先端キャップ130の開閉動作が互いに阻害しないようになる。このため、被吸引物誘導管100の使用時における中蓋120や先端キャップ130の開閉操作の作業効率が向上する。
【0033】
次に、本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管100を適用した被吸引物吸引システム及び被吸引物誘導方法について、図面を使用しながら説明する。図8は、本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管を使用した一実施形態による被吸引物吸引システムの概略構成図である。なお、図8は、被吸引物誘導管100、被吸引物吸引システム1及び被吸引物吸引システム1を適用した被吸引物誘導方法の一実施形態として、気管切開により患者に装着した気管カニューレ(人体装着用換気部材)を通じて被吸引物として喀痰を誘導してから吸引する様子を示している。
【0034】
被吸引物吸引システム1は、生体となる患者P1の気道となる気管A1や、図示しない肺等に詰まった喀痰を始めとする体液等の被吸引物を吸引する際に適用される。被吸引物吸引システム1は、図8に示すように、前述した被吸引物誘導管100を吸引装置10の吸引チューブ12の一端に接続されて構成されている。吸引装置10は、ポリウレタン等の可撓性を有する樹脂等からなる吸引チューブ12内に吸引圧を発生させる負圧源となる吸引ポンプ14と、吸引チューブ12から吸引した被吸引物を収容する収容部16と、を備えており、被吸引物を吸引する機能を有する。なお、吸引装置10としてポータブル吸引器を使用する場合には、当該ポータブル吸引器に本実施形態の被吸引物誘導管100を直接繋げて使用することも可能なので、この場合には、吸引チューブ12を省略してもよい。また、本実施形態の被吸引物吸引システム1では、吸引チューブ12の一端に被吸引物誘導管100を取り付けているが、被吸引物誘導管100が吸引チューブ12と一体となる態様として構成することもできる。
【0035】
本実施形態では、例えば、被吸引物誘導管100の中蓋120を誘導管本体110に対して開放してから、図8に示すように、誘導管本体110を患者P1の喉元に形成した切開孔A2に挿入して固定板22とカフ24で固定された気管カニューレ20に近づける。そして、気管カニューレ20の一端20aに被吸引物誘導管100の誘導管本体110の内周面110bを当接させてから吸引装置10による吸引操作を開始する。吸引装置10からの吸引力(陰圧)が被吸引物誘導管100を介して気管カニューレ20に伝達されることによって、気管A1から肺内の終末細気管支に至る下気道内の喀痰等の被吸引物を上気道側に向けて移動させるバキューミング(誘導)が行われる。
【0036】
すなわち、本実施形態の被吸引物吸引システム1及び被吸引物誘導方法は、吸引チューブ12に接続した被吸引物誘導管100を、切開孔A2に挿入して気管A1内に到達する気管カニューレ20の一端20aに密着させることによって、気管カニューレ20から吸引した喀痰等の被吸引物を上気道側に向けて移動させる。その後、上気道側に向けて誘導された気管A1内の喀痰等の被吸引物を吸引カテーテルで吸引されるようになる。
【0037】
なお、本実施形態では、被吸引物誘導管100の開口部110aの径は、気管カニューレ20の一端20aの径と比べて幾分大きめにして、余裕を持たせる構成となっている。具体的には、例えば、気管カニューレ20の一端20aの外径をφ15mmした場合に、被吸引物誘導管100の開口部110aの内径を17mmとすることによって、双方の部材を密着させ易くした上で、過度の密着操作、すなわち双方の部材の連結による患者の窒息事故を抑制できるようになっている。
【0038】
このように、本実施形態の被吸引物吸引システム1及び被吸引物誘導方法では、被吸引物誘導管100が気管A1から終末細気管支に至る下気道内の喀痰等の被吸引物を上気道側に向けて移動させるバキューミングを行ってから、吸引カテーテル等の吸引用器具で上気道側に向けて気管A1内に移動された被吸引物を吸引する。すなわち、本実施形態の被吸引物吸引システム1の被吸引物誘導管100は、気管A1から終末細気管支に至る下気道内の喀痰等の被吸引物を吸引カテーテル等の吸引用器具で吸引し易くするために、気管A1の上気道側の部位に向けて誘導するアタッチメントとして使用される。
【0039】
次に、本実施形態による被吸引物誘導方法の適用例として被吸引物吸引システム1を用いて行うことのできる喀痰吸引方法を説明する。患者P1の下気道から喀痰等の被吸引物を吸引する際には、まず、聴診器で患者P1の肺等を聴診してから、例えば、バッグバルブマスクを用いて40cmH2Oの陽圧で5秒間の加圧換気をして肺を膨らませる。このとき、被吸引物の貯留箇所よりも末梢が無気肺であると、バキューミングをしても抹消肺に空気が無いため、被吸引物を上気道側へ絞り上げることが難しいことがある。そこで、本実施形態では、吸引処置の前に加圧換気を行うようにしている。
【0040】
また、喀痰吸引が必要な時は、患者P1の呼吸状態が悪く、血中酸素飽和度が低いことが多く、喀痰吸引中、患者P1は、呼吸が出来ずに低酸素化を来し易い。そこで、本実施形態では、吸引処置を行う前に前述の加圧換気を行うときには、酸素を混ぜて加圧換気を行って患者の容体を安定させてから、吸引処置を始めるようにしている。なお、短時間で患者P1の容体を安定させるために、加圧換気に高濃度の酸素を混ぜることとしてもよいが、短時間の要請が無ければ、酸素が含まれる通常の空気による加圧換気としてもよい。また、バッグバルブマスク等の加圧換気器具は、本実施形態の被吸引物吸引システム1の構成として含めることもできる。
【0041】
その後、例えば、60cmHOの陰圧で5秒間のバキューミングを行って肺全体を収縮させて喀痰等の被吸引物を上気道側に誘導してから、上気道側に誘導された喀痰等の被吸引物を吸引カテーテル等の吸引用器具で吸引する。このとき、バキューミングにより肺が絞られると無気肺になるので、再び40cmHOの陽圧で5秒間の加圧換気をすることによって、肺は、空気が存在する正常な状態に戻るようになる。このように、本実施形態の被吸引物吸引システム1では、陰圧でのバキューミングで肺全体を収縮させて行う吸引処置の前後に加圧換気を行うようにしている。
【0042】
本実施形態の被吸引物吸引システム1を適用した被吸引物誘導方法では、患者P1を聴診してから陽圧での加圧換気、陰圧でのバキューミング、上気道側に誘導された被吸引物の吸引、その後の再度の陽圧での加圧換気をするサイクルを患者P1の症状が改善するまで繰り返す。このように、本実施形態の被吸引物吸引システム1では、吸引装置10の吸引チューブ12の先端に被吸引物誘導管100を接続してから、下気道内の被吸引物を上気道側に向けて誘導するバキューミング操作を行って、上気道側に誘導された被吸引物を吸引カテーテル等の吸引用器具で吸引する吸引操作をすることによって、容易に低侵襲な喀痰吸引が実現されるようになる。また、本実施形態では、当該吸引操作の前後に加圧換気を行うことによって、患者P1の苦痛をより軽減する低侵襲な喀痰吸引が実現されるようになる。
【0043】
なお、本実施形態では、被吸引物吸引システム1は、吸引チューブ12と接続された被吸引物誘導管100を患者P1の喉元に装着した気管カニューレ20に被吸引物誘導管100の誘導管本体110の内周面110bを当接させてバキューミングを行ってから、上気道側に誘導された被吸引物を吸引カテーテル等で吸引しているが、他の態様にも適用可能である。例えば、患者P1の喉元に形成した切開孔A2に気管カニューレ20が装着されていない場合には、被吸引物誘導管100の誘導管本体110に対して中蓋120を閉じて、中蓋120の先端側開口部120aを切開孔A2に密着させてからバキューミングを行って、気管A1から終末細気管支に至る下気道内の喀痰等の被吸引物を上気道側に誘導されてから、吸引カテーテル等の吸引用器具で上気道側に誘導された被吸引物を吸引・除去してもよい。
【0044】
また、本実施形態の被吸引物吸引システム1は、気管カニューレ20等の人体装着用換気部材が挿管されていなくても、図9で示すように構成してもよい。図9は、被吸引物誘導管100、被吸引物吸引システム1及び被吸引物吸引システム1を適用した被吸引物誘導方法の一実施形態として、患者P1の口腔を覆う吸気用マスク50の端部に装着した接続部材52から分岐した分岐口54に、吸引装置10の吸引チューブ12に接続した被吸引物誘導管100を密着させて、被吸引物の誘導を行う実施形態を示す。なお、吸気用マスク50は、例えば、口鼻マスク等のマスクを利用できる。
【0045】
なお、本実施形態では、被吸引物誘導管100の開口部110aの径は、接続部材52の分岐口54の径と比べて幾分大きめにして、余裕を持たせる構成となっている。具体的には、例えば、接続部材52の分岐口54の外径をφ15mmした場合に、被吸引物誘導管100の開口部110aの内径を17mmとすることによって、双方の部材を密着させ易くした上で、過度の密着操作、すなわち双方の部材の連結による患者の窒息事故を抑制できるようになっている。
【0046】
このように、被吸引物誘導管100の誘導管本体110の開口部110a側から内周面110bを吸気用マスク50の接続部材52の分岐口54に密着させることによって、気管A1から終末細気管支に至る下気道内の喀痰等の被吸引物をバキューミングするので、当該被吸引物を上気道の口腔内に誘導できるようになる。このため、吸引カテーテル等の吸引用器具で上気道の口腔内に誘導された被吸引物を容易に吸引し易くすることができる。また、本実施形態では、吸気用マスク50を介してバキューミングを行うことによって、口腔内のみならず、鼻腔内の被吸引物を吸引用マスク50に向けて誘導して、吸引できるようになる。
【0047】
さらに、本実施形態では、吸引チューブ12に接続する被吸引物誘導管として、図10に示すような中蓋220が例えば140mm程度の長さを有するロングキャップの構成となる被吸引物誘導管200を使用すれば、吸引カテーテル等の吸引用器具を使用しなくてもよい。すなわち、接続管212とホルダー216を備える誘導管本体210に開閉可能に設けられている中蓋220は、先端形状が丸くなっており、かつ、先端に開口部221aを有する先端部221と、誘導管本体210に接続される基端部223との間に長尺中空状の管部222を備える構成となっていれば、吸引チューブ12に接続される被吸引物誘導管200のみで、被吸引物を口腔内に誘導してから、誘導した被吸引物を吸引できるようになる。
【0048】
具体的には、まず、被吸引物誘導管200の誘導管本体210に対して中蓋220を開放してから、誘導管本体210を吸引用マスク50の接続部材52の分岐口54に密着させることによってバキューミングを行って、患者P1の下気道内の喀痰等の被吸引物を上気道に誘導する。その後、誘導管本体210に対してロングキャップ形状の中蓋220を閉めてから、吸引用マスク50を患者P1の顔から外して、当該中蓋220の先端部221を患者P1の口腔内に直接挿入する。そして、口腔内に誘導した被吸引物を中蓋220の先端部221の開口部221aから吸引する。
【0049】
このように、本実施形態の被吸引物誘導管200は、中蓋220の先端部221の形状が丸くなっているので、口腔内に中蓋220を挿入して被吸引物を吸引する際に、口腔の損傷を抑制できるようになる。また、本実施形態の被吸引物誘導管200は、いわゆるオリーブ管として、鼻腔内の鼻汁等の被吸引物の吸引にも適用できるようになる。なお、本実施形態の被吸引物誘導管200は、口腔内吸引用の吸引管として適用されるので、管部222には、口腔内に挿入し易いように、例えば75°程度の屈曲部を有する構成としてもよい。また、中蓋220の先端部221の開口部221aを開閉可能な先端キャップを設けるようにしてもよい。
【0050】
さらに、本実施形態の被吸引物吸引システム1は、被吸引物誘導管100、被吸引物吸引システム1及び被吸引物吸引システム1を適用した被吸引物誘導方法の一実施形態として、図11に示すように構成してもよい。すなわち、本実施形態の被吸引物吸引システム1は、図11に示すように、手術後のICU等において気管チューブ30を患者P1の口から気管A1内に挿管した人工呼吸器管理下にある患者P1に対して、喀痰等の被吸引物を吸引・除去する際に適用される。具体的には、気管A1内に向けて気管チューブ30を挿入して、気管チューブ30の先端側をカフ32で固定して、気管チューブ30の基端側に有するジョイント部30aに被吸引物誘導管100を密着させることによって、喀痰等の被吸引物を上気道側に誘導する。そして、上気道側に誘導した被吸引物を吸引カテーテル等の吸引用器具で吸引することによって、当該被吸引物が除去されるようになる。
【0051】
なお、本実施形態では、被吸引物誘導管100の開口部110aの径は、気管チューブ30のジョイント部30aの径と比べて幾分大きめにして、余裕を持たせる構成となっている。具体的には、例えば、気管チューブ30のジョイント部30aの外径をφ15mmした場合に、被吸引物誘導管100の開口部110aの内径を17mmとすることによって、双方の部材を密着させ易くした上で、過度の密着操作、すなわち双方の部材の連結による患者の窒息事故を抑制できるようになっている。
【0052】
次に、本発明の一実施形態に係る被吸引物誘導管100及び被吸引物吸引システム1の作用・効果について説明する。
【0053】
本実施形態の被吸引物誘導管100は、吸引装置10の吸引チューブ12の一端に接続される誘導管本体110の接続管112が先端に向けて縮径する構成となっている。このため、誘導管本体110の接続管112と吸引チューブ12の一端との密着性が高まるので、吸引装置10からの吸引圧が確実に被吸引物誘導管100内に付与されて、被吸引物誘導管100を介して、気管から終末細気管支に至る下気道に有する喀痰等の被吸引物を吸引カテーテル等の吸引用器具で吸引し易くするために、効率的に上気道側に誘導させることができるので、吸引効率が向上する。
【0054】
すなわち、吸引装置10の吸引チューブ12の先端に本実施形態の被吸引物誘導管100を取り付けてから、当該被吸引物誘導管100を患者に装着した気管チューブ30、気管カニューレ20、吸引用マスク50等の人体装着用換気部材に当てて連通させることで、被吸引物が上気道側に誘導されるようになるので、容易な手技で被吸引物を上気道側に誘導できるようになる。このため、上気道側からの被吸引物の吸引(体外への排出)も低侵襲で容易に行えるようになる。
【0055】
また、吸引装置10の陰圧を用いたバキューミングは、吸引チューブ12を気管チューブ30や気管カニューレ20等の人体装着用換気部材に密着させることでも可能であった。しかしながら、吸引チューブ12は、ハサミで吸引チューブ12をカットして使用する際に、吸引チューブ12の断面が不整であり、チューブ径も異なるため、気管チューブ30や気管カニューレ20等の人体装着用換気部材との密着をさせ難く、施術者の技量によってバキューミングの効果に差が生じていた。このため、本実施形態では、吸引チューブ12の先端に接続管112が誘導管本体110に設けられている被吸引物誘導管100を取り付けて、吸引チューブ12と接続管112との密着性を高めた上で、気管カニューレ20や気管チューブ30等の人体装着用換気部材との密着性を高めるようにしている。従って、本実施形態によれば、熟練の施術者でなくても、熟練の施術者と同等のバキューミング効果が得られるようになり、誰がやっても同等のバキューミングが出来るようになる。
【0056】
また、本実施形態では、接続管112を有する誘導管本体110の開口部120aに対して、中蓋120が開閉可能に設けられている。このため、中蓋120を誘導管本体110の開口部110aに対して開放すると、誘導管本体110の内周面110bが患者P1側に取り付けられる気管カニューレ20等の各種人体装着用換気部材と密接し易くなる。
【0057】
このため、被吸引物誘導管100と気管カニューレ20等の各種人体装着用換気部材との密閉性を高めることによって、吸引装置10からの吸引圧が被吸引物誘導管100を介して各種人体装着用換気部材に伝わり易くなるので、気管A1から終末細気管支に至る下気道内の末梢の喀痰や異物等の被吸引物を上気道側に容易に移動させられるようになる。そして、上気道側に誘導された被吸引物は、被吸引物を吸引する際に使用する吸引カテーテル等の吸引用器具から近くなることから、容易に吸引できるようになるので、吸引対象となる被吸引物の吸引効率が向上する。
【0058】
また、本実施形態では、誘導管本体110の開口部120aに対して中蓋120を閉じると、誘導管本体110の内周面110aと中蓋120の内周面120aによって連続的な曲面が形成されて、被吸引物誘導管100内にオリーブ形状の空間が形成される。このため、被吸引物誘導管100の誘導管本体110の接続管112と吸引チューブ12を接続した状態で誘導管本体110の開口部120aに対して中蓋120を閉じて、かつ、先端キャップ130を中蓋120の開口部120aに対して開放した状態で患者P1の鼻腔に近づけて吸引操作をすると、いわゆるオリーブ管と同様に、オリーブ形状の空間を介して、鼻汁等の被吸引物を鼻腔の手前側に誘導して効率的に吸引できるようになる。
【0059】
さらに、本実施形態では、気管カニューレ20の吸引ポートの外径が小さい場合には、誘導管本体110に対して中蓋120を閉じて、中蓋120の開口部120aに気管カニューレ20を密着させて、バキューミングと吸引操作をすることによって、被吸引物を上気道側に誘導させてから吸引できるので、吸引効率を高められる。
【0060】
このように、本実施形態では、被吸引物誘導管100が吸引装置10の吸引チューブ12と患者P1側から喀痰等の被吸引物を吸引する際の気管カニューレ20や吸引カテーテル等の各種人体装着用換気部材の態様に応じて、中蓋120を開閉させることによって、当該各種人体装着用換気部材との当接部位を変更して密着度を高められる。このため、患者P1側に挿入したり、取り付けられる各種人体装着用換気部材と吸引装置10の吸引チューブ12との間に介在させるアタッチメントとして、本実施形態の被吸引物誘導管100を取り付けることによって、下気道側に有する喀痰等の被吸引物を上気道側に誘導する誘導管として機能して、上気道側に誘導された喀痰等の吸引を容易に行って低侵襲な喀痰等の被吸引物の吸引を実現できるようになる。
【0061】
すなわち、一般的に気道内に吸引チューブに接続した吸引カテーテルを挿入して喀痰吸引を行う場合には、吸引カテーテル先端が吸引対象となる喀痰に届かなければ、十分な吸引効果が得られなかった。また、盲目的な吸引カテーテルの挿入操作では、吸引カテーテルの深挿入による気道刺激で患者の気道損傷等のリスクが懸念されていた。一方、機械的咳補助(MI-E)は、短時間で低侵襲な喀痰吸引が実現できる。しかしながら、機械的咳補助(MI-E)を行う装置が電気機械的に吸気/呼気圧の制御を伴う構成であるため高額なものとなり、また、機械により陽圧を加えた後に陰圧を加える吸引操作に熟練した技術が必要とされるので、操作訓練をしないで吸引操作を実行するのが困難であった。
【0062】
これに対して、本実施形態の被吸引物誘導管100を吸引チューブ12の先端に取り付けてから、患者P1側に装着される気管カニューレ20や気管チューブ30等の人体装着用換気部材に密着させるアタッチメントとして使用すれば、被吸引物誘導管100と吸引チューブ12との密着度、及び被吸引物誘導管100と人体装着用換気部材との密着度の双方とも高められる。このため、吸引装置10からの吸引力(陰圧)が吸引チューブ12や人体装着用換気部材との密着部位から漏れることなく、気管カニューレ20や気管チューブ30等の人体装着用換気部材に伝わるようになる。
【0063】
すなわち、被吸引物誘導管100の接続管112を吸引チューブ12の一端に接続してから、被吸引物誘導管100の誘導管本体110の開口部110a側に有する内周面110bを患者P1側に装着された気管カニューレ20や気管チューブ30等の人体装着用換気部材に密着させると、誘導管本体110を介したバキューミングにより、患者P1の下気道内の末梢の喀痰や異物等の被吸引物を上気道側に移動させられる。このため、上気道側に移動した被吸引物を吸引カテーテル等の吸引用器具を用いて容易に吸引除去できるようになる。特に、本実施形態では、前述したように、陰圧でのバキューミング操作の前と、上気道側に誘導された被吸引物の吸引操作の後にバッグバルブマスク等による陽圧での加圧換気をすることによって、容易に低侵襲な喀痰等の被吸引物の吸引除去ができるようになる。
【0064】
このように、本実施形態の被吸引物誘導管100を吸引チューブ12の先端に取り付けて、患者P1側に装着される人体装着用換気部材に密着させるアタッチメントとして使用することによって、被吸引物を容易に上気道側に誘導できるので、上気道側に誘導された被吸引物を吸引し易くなり、吸引効率が向上する。特に、喀痰吸引を行う際に、吸引カテーテルを患者P1の気道内に盲目的に深く挿入して、咳を誘発させる方法では、患者P1に苦痛が伴うだけでなく、血圧上昇による脳血管障害や、気道損傷等の深刻な合併症のリスクも伴うが、本実施形態では、かかる苦痛や合併症のリスクを抑制できるようになる。
【0065】
また、本実施形態では、機械的咳補助(MI-E)を行う高額な装置を使用しないで、効率的な喀痰吸引が行われるようになるので、より低コストで患者P1の苦痛等を低減して、患者P1のQOL(Quality Of Life)を高められる低侵襲な喀痰等の被吸引物の吸引が実現されるようになる。さらに、本実施形態では、被吸引物誘導管100が簡易な構成であるため、機械的咳介助(例えば、MI-E)や装置を使用して行う喀痰吸引法(例えば、気管支鏡、パーカッションベンチレータ)よりも、被吸引物誘導管100を低価格で量産することが可能であり、準備や後片付けに係る手間も低減することができる。また、本実施形態では、体位ドレナージ、スクイージング(徒手的呼吸介助)等の喀痰吸引法よりも、確実に被吸引物を誘導することが可能となる。特に、体位ドレナージやスクイージングは、長期寝たきり患者の場合には、体位変換による骨折のリスクが伴うが、本実施形態によるバキューミングでは、患者がどのような体位でも、被吸引物の吸引効果が得られるため、体位変換による骨折のリスクを低減できる。
【0066】
また、本実施形態では、中蓋120が誘導管本体110に対してヒンジ機構118を介して開閉可能に構成されているので、喀痰吸引等の使用時に片手で容易に中蓋120の開閉操作を行えるので、喀痰吸引等の作業効率が向上する。また、被吸引物誘導管100を使用後に、誘導管本体110に対して中蓋120を開放することによって、洗浄等のメンテナンスを容易に行えるようになる。
【0067】
さらに、本実施形態では、誘導管本体110の下端側外周の一端には、吸引チューブ12等の管状部材を把持可能なホルダー116が設けられている。このため、喀痰吸引操作が終了した使用後の吸引チューブ12内に残留した排液を垂らさないように、吸引チューブ12の先端を上向き固定することができる。特に、本実施形態では、誘導管本体110のホルダー116は、内周面116bが基端側から先端側に向けて拡径する構成となっているので、可撓性を有する樹脂からなる吸引チューブ12をホルダー116の先端側から基端側に向けて取り付け易くした上で固定できるようになる。
【0068】
また、本実施形態では、被吸引物誘導管100を構成する誘導管本体110、中蓋120、ヒンジ機構118、先端キャップ130及び接続コード114は、一体型の樹脂成型体で構成されている。このため、熱可塑性樹脂を射出成形することによって、各構成要素を備える被吸引物誘導管100を展開した状態で容易に製造することができる。その際に、誘導管本体110と中蓋120とを連結するヒンジ機構118と、中蓋120と先端キャップ130とを連結する接続コード114の配置に留意して、展開した状態で一体成型体として構成することによって取扱いが容易であり、使用時における医療者等におけるユーザビリティが向上する。特に、被吸引物誘導管100は、これを分離可能な複数部品で構成した場合には、構成部品を紛失するおそれがある。しかしながら、本実施形態の被吸引物誘導管100は、単一の樹脂成型体で構成されるため、構成部品を紛失することもない。
【0069】
なお、上記のように本発明の一実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0070】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、被吸引物誘導管、被吸引物吸引システムの構成、動作も本発明の一実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 被吸引物吸引システム
10 吸引装置
12 吸引チューブ
14 吸引ポンプ
16 収容部
20 気管カニューレ
20a 一端
22 固定板
24 カフ
30 気管チューブ
32 カフ
50 吸引用マスク
52 接続部材
54 分岐口
100、200 被吸引物誘導管
110、210 誘導管本体
110a 開口部
110a1 嵌合凹部
110b 内周面
112、212 接続管
112a 開口部
114、214 接続コード
116、216 ホルダー
116a 把持部
116b 内周面
118 ヒンジ機構
118a ヒンジ連結部
118b 板バネ
120、220 中蓋
120a 開口部
120b 内周面
120c テーパー面
120 嵌合凸部
130、230 先端キャップ
132 凸部
134 溝部
221 先端部
221a 開口部
222 管部
223 基端部
A1 気管
A2 切開孔
P1 患者(生体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11