(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】人工呼吸器
(51)【国際特許分類】
A61M 16/00 20060101AFI20240902BHJP
A61M 16/20 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
A61M16/00 311
A61M16/20 H
(21)【出願番号】P 2020123346
(22)【出願日】2020-07-18
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】511132443
【氏名又は名称】石北 直之
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】石北 直之
【審査官】関本 達基
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/165541(WO,A1)
【文献】特表2005-527304(JP,A)
【文献】特表2010-522007(JP,A)
【文献】特開2013-017766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00
A61M 16/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体を備える人工呼吸器であって、
前記筐体は、
前記筐体の外面に開口し、前記筐体に気体を導入するインプットポートと、
前記筐体の外面に開口し、患者に送る前記気体である吸気と前記患者の呼気とが通過するメインポートと、
前記筐体の外面に開口し、前記筐体から前記気体又は前記呼気を排出する排気ポートと、
前記筐体に内蔵されており、前記メインポートと前記排気ポートとの間に設けられる人工鼻フィルタと、
前記インプットポートから前記メインポートに前記気体が通過する通気路と、
前記排気ポートと前記通気路との間に設けるリリーフ弁とを有し、
前記リリーフ弁は、前記排気ポートと前記通気路との間を開閉可能とする1つの弁体と、前記弁体の開弁圧を設定する圧力設定ばねとを有
しており、
前記人工鼻フィルタは、前記筐体の本体の外周壁と前記リリーフ弁が配置される収容部とを繋ぐように形成されている支持壁の下端に押さえられている、
人工呼吸器。
【請求項2】
筐体を備える人工呼吸器であって、
前記筐体は、
前記筐体に気体を導入するインプットポートと、
患者に送る前記気体である吸気と前記患者の呼気とが通過するメインポートと、
前記筐体から前記気体又は前記呼気を排出する排気ポートと、
前記筐体に内蔵されており、前記メインポートと前記排気ポートとの間に設けられる人工鼻フィルタと、
前記インプットポートから前記メインポートに前記気体が通過する通気路と、
前記排気ポートと前記メインポートとの間に設けるリリーフ弁とを有
しており、
前記人工鼻フィルタは、前記筐体の本体の外周壁と前記リリーフ弁が配置される収容部とを繋ぐように形成されている支持壁の下端に押さえられている、
人工呼吸器。
【請求項3】
前記人工鼻フィルタは、前記通気路と前記メインポートとの間を流れる前記吸気と前記呼気とが通過する位置に設けられる
請求項1又は2記載の人工呼吸器。
【請求項4】
前記弁体は、電気的な駆動源により開閉せず、前記通気路に流入する気体の圧力を駆動源として開閉するものである、
請求項1記載の人工呼吸器。
【請求項5】
前記筐体は、前記排気ポートと前記通気路との間に収容部を有し、
前記収容部は、前記排気ポートと連通し前記弁体を収容する弁室と、前記弁室と前記通気路とを隔てる底面部とを有し、
前記底面部は、前記弁室と前記通気路とに連通し、前記弁体により開閉する弁孔を有する、
請求項1記載の人工呼吸器。
【請求項6】
前記筐体は、さらに、前記筐体の外面に設けられ、前記圧力設定ばねによる前記開弁圧を設定する圧力設定ダイヤルを有する、
請求項1記載の人工呼吸器。
【請求項7】
前記筐体は、さらに、前記筐体の内部に設けられ、前記圧力設定ダイヤルを操作することで前記圧力設定ばねに与える押圧力を可変とするホルダを有する、
請求項6記載の人工呼吸器。
【請求項8】
前記筐体は、前記患者が自発呼吸する吸気圧により開いて前記通気路を前記筐体の外と連通する自発呼吸弁を更に有する、
請求項1~7何れか1項記載の人工呼吸器。
【請求項9】
請求項1~8何れか1項記載の人工呼吸器と、
一端が前記人工呼吸器の前記メインポートに接続され、他端が患者に繋がる患者側呼吸部
材と、を備える人工呼吸器ユニット。
【請求項10】
請求項1~8何れか1項記載の人工呼吸器を備える手動式肺人工蘇生器。
【請求項11】
請求項1~8何れか1項記載の人工呼吸器を備える吸入麻酔器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工呼吸器に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、麻酔薬吸入補助装置に用いることができ、簡易な構造でありながら、弁体が気体の圧力によって自動で適切に開閉動作するリリーフ弁を提案している(特許文献1)。このリリーフ弁は、電気的な駆動源を必要とせず、例えば人工呼吸器や吸入麻酔器に備えるAPL弁(Adjustable pressure limiting valve)として用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述のリリーフ弁と同様に、電気的な駆動源を必要としない簡易な構造でありながら人工呼吸器として用いることができる呼吸器用デバイスは、本発明者の知る限り存在しない。本発明は、肺の人工蘇生に用いることができる新しい人工呼吸器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、筐体を備える人工呼吸器であって、前記筐体は、前記筐体に気体を導入するインプットポートと、患者に送る前記気体である吸気と前記患者の呼気とが通過するメインポートと、前記筐体から前記気体又は前記呼気を排出する排気ポートと、前記インプットポートと前記メインポートとを繋ぐ通気路と、前記通気路の圧力に応じて開いて前記通気路を前記排気ポートと連通させて前記圧力を開放するリリーフ弁とを有する人工呼吸器として構成することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、筐体に、インプットポートと、メインポートと、排気ポートと、通気路と、リリーフ弁とを一体に備える簡易な構造の人工呼吸器(人工呼吸器機能を有するリリーフ弁)を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態による人工呼吸器の正面、右側面、平面を含む斜視図。
【
図2】
図1の人工呼吸器の背面、右側面、底面を含む斜視図。
【
図9】
図1の人工呼吸器のダイヤルカバーの背面斜視図。
【
図12】
図5のXII-XII線で断面し左に90°回転させた状態を示すダイヤルカバーと圧力設定ダイヤルの断面図。
【
図14】
図1の人工呼吸器の正面、右側面、平面を含む分解斜視図。
【
図15】
図1の人工呼吸器の正面、右側面、底面を含む分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一態様による実施形態の例を、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。以下の説明で「上」、「下」、「左」、「右」の方向を示す用語は、説明の便宜のために使用するものであり、人工呼吸器1の使用方法、使用態様を示すものではない。本明細書及び特許請求の範囲に記載する「第1」、「第2」、「第3」の用語は、発明や実施形態の異なる構成要素を区別するための識別用語として使用するものであり、特定の順序や優劣等を示すものではない。したがって当初明細書に記載の無い「第4」以上を用いることもある。
【0009】
人工呼吸器1の全体構成
【0010】
人工呼吸器1は、筐体2を備える。筐体2は、複数の部品を組み合わせて構成されており、その全体形状は箱状の多面体を呈する。箱状の多面体は、本実施形態では6面体で構成されている。6面体の外周面(正面、右側面、背面、左側面)と天面(
図5)は、大きく突出する形状要素が無い平面で構成されている。そのため筐体2は、全体としてコンパクトに形成されており、また人工呼吸器1を机の上などに置いた際に転がらないよう安定した姿勢で置くことができる。筐体2の底面(
図6)には、後述するメインポート12gが突出している。
【0011】
筐体2の説明
【0012】
筐体2は、
図14、
図15で示すように、本体3と、ダイヤルカバー4と、圧力設定ダイヤル5と、ロック解除ボタン6と、ホルダ7と、圧力設定ばね8と、弁体9と、人工鼻フィルタ10と、弁膜11と、蓋12と、ねじ13とを有する。人工呼吸器1は、筐体2にそれらの部品を一体に備えるように構成した新しいコンパクトな肺人工蘇生器である。人工呼吸器1に備えるリリーフ弁14は、ダイヤルカバー4、圧力設定ダイヤル5、ロック解除ボタン6、ホルダ7、圧力設定ばね8、弁体9により構成されている。
【0013】
本体3の説明
【0014】
本体3は、箱状の樹脂成形体にて形成されている。本体3は、〔1〕上面壁30と、〔2〕外周壁31と、〔3〕上面壁30の裏面から外周壁31の内側に突出する筒状の収容部32と、〔4〕外周壁31と収容部32とを繋ぐ支持壁33とを有する。
【0015】
〔1〕上面壁30
【0016】
上面壁30は、四隅にねじ13の挿通孔30aの孔端が開口している。上面壁30の中心には収容部32の筒状部32aが開口している。筒状部32aの開口の周囲には複数の係止凹部30bが形成されている。係止凹部30bには、後述する圧力設定ダイヤル5の係止片53に設けた小突起53aが係止する。すなわち、圧力設定ダイヤル5を時計回りに回転させると小突起53aが係止凹部30bと係止して、操作者に対してクリック感を発生させる。これにより圧力設定ダイヤル5が回転して設定する圧力値が変化することを、操作者が確認することができる。また、小突起53aが係止凹部30bと係止することで、圧力設定ダイヤル5の位置を維持することができる。人工呼吸器1のリリーフ弁14は、このような回転クリック発生部15(小突起53a、係止凹部30b)を有する。係止凹部30bは、最小の設定圧力値(本実施形態では5cmH2O)から中間の設定圧力値(本実施形態では20cmH2O)に至るまで1cmH2Oごとに配置されている。また係止凹部30bは、中間の圧力設定値から最大の圧力設定値(本実施形態では45cmH2O)に至るまでは、5cmH2Oごとに配置されている。
【0017】
〔2〕外周壁31
【0018】
外周壁31は、筒状に形成されており、本実施形態では角筒状に形成されている。外周壁31には、インプットポート31aと排気ポート31bが形成されている。
【0019】
インプットポート31aは、筐体2に対して患者に吸気する気体を導入する部位である。インプットポート31aは、外周壁31の第1の外面31cに対して筐体2の内側に凹むインプットポート用凹部31a1と、インプットポート用凹部31a1の内側に形成された第1の接続管31a2とを有する。第1の接続管31a2の外側端には導入口31a3が開口する。第1の接続管31a2の内側端(筐体側端)は、後述する通気路16(インプット側通気空間34a)に開口している。
【0020】
第1の接続管31a2は、気体(例えば、空気や酸素と空気の混合ガス)を供給する配管や、空気または酸素ボンベ、エアコンプレッサーなどと酸素チューブを介して接続することができる。
【0021】
第1の接続管31a2は、前記外側端から前記内側端にかけて外径が拡大するテーパー形状に形成されている。酸素チューブの接続部は規格が一定ではなく、個別にカットして用いるバブルチューブタイプのチューブもある。このためテーパー形状の第1の接続管31a2であれば、それらの様々なチューブをその内径に応じて接続することが可能である。
【0022】
吸気用一次側接続対象物(配管や接続口)は、インプットポート用凹部31a1と第1の接続管31a2との隙間に入り込ませることができる。したがって、第1の接続管31a2と吸気用一次側接続対象物との接続部分は、インプットポート用凹部31a1に隠されて外力の作用に対して保護することができる。このため、人や物が意図せず接続部分に接触することによって、呼吸用一次側接続対象物が緩んだり外れたりするのを防ぐことができる。
【0023】
第1の接続管31a2の導入口31a3は、外周壁31の第1の外面31cよりも外に突出せずに配置されている。これによりインプットポート31aが形成されている外周壁31の第1の外面31cは、大きく突出する形状要素が無い平面として構成できる。したがって外周壁31を全体としてコンパクトに形成することができ、また机の上などに安定した姿勢で置くことができる。さらに、インプットポート31aが突出していないので、落としたときにインプットポート31aが破損したり折れたりするリスクを減らすことができる。
【0024】
排気ポート31bは、筐体2から気体又は呼気を排出する部位である。排気ポート31bは、外周壁31の第2の外面31dに対して筐体2の内側に凹む排気ポート用凹部31b1と、排気ポート用凹部31b1の内側に形成された第2の接続管31b2とを有する。第2の接続管31b2の内側端(筐体側端)は、後述する弁室32c1に開口している。
【0025】
第2の接続管31b2は、例えば蛇管等に差し込むことができる。しかしながら、第2の接続管31b2は、蛇管等を接続せずに開放しておいてもよい。
【0026】
第2の接続管31b2は、先端側から前記内側端にかけて外径が拡大するテーパー形状に形成されている。例えば、第2の接続管31b2に接続可能な蛇管は、内径18mmと22mmのものが流通しているが、メーカーによって僅かに内径にばらつきが見られる。テーパー形状の第2の接続管31b2であれば、それらの内径にばらつきが見られる場合でも、テーパー形状によってフィットさせて確実に接続することができる。
【0027】
排気用二次側接続対象物(蛇管等)は、排気ポート用凹部31b1と第2の接続管31b2との隙間に入り込ませることができる。したがって、第2の接続管31b2と排気用二次側接続対象物との接続部分は、排気ポート用凹部31b1に隠されて外力の作用に対して保護することができる。このため、人や物が意図せず接続部分に接触することによって、排気用一次側接続対象物が緩んだり外れたりするのを防ぐことができる。
【0028】
第2の接続管31b2の排気口31b3は、外周壁31の第2の外面31dよりも外に突出せずに配置されている。これにより排気ポート31bが形成されている外周壁31の第2の外面31dは、大きく突出する形状要素が無い平面として構成できる。したがって外周壁31を全体としてコンパクトに形成することができ、また机の上などに安定した姿勢で置くことができる。
【0029】
第2の接続管31b2の排気口31b3は、径方向で直接的に切断したような端面形状ではなく、筐体2の内側に向けて凹む湾曲凹部31b4が形成されている。湾曲凹部31b4は、排気口31b3の端面を先端側から筐体2の内側に向けて円弧状に切り取ったような湾曲形状に形成されている。その湾曲形状は、例えば親指の腹の形状に沿うような形状として形成されている。例えば、人工呼吸器1の使用中に気管、気管支、肺に喀痰等の異物が存在することが判明し、それを上気道側に誘導し除去することで患者の呼吸を楽にしたい場合がある。このような場合には、親指で排気口31b3を全閉することで吸気をし続けて、気道内圧が瞬間的に高めるように、患者の肺を膨張させる。次に親指を離すと、リリーフ弁14が開いて排気ポート31bから排気される。すると瞬間的に昇圧された気道圧力が減圧され、膨張した肺が瞬間的に縮むことにより、異物を上気道側に誘導させることができる。こうした異物の誘導処置を行う際に、排気口31b3に湾曲凹部31b4が形成されていると、例えば親指の腹を正しく沿わせて閉塞させることができるので、容易かつ確実に誘導処置を行うことができる。
【0030】
排気ポート31bを有する第2の外面31dには、排気口31b3と連通し且つ第2の外面31dの外端に到達する通気溝31eが形成されている。通気溝31eは、湾曲する凹面により形成されており、排気ポート31bを中心とする両側から第2の外面31dの外端に向けて伸長している。このような通気溝31eを設けることで、排気口31b3が、例えば壁面、体の一部、衣類、枕などと密着して意図せず塞がれそうになっても、通気溝31eによって排気経路を確保することができ、完全に排気が遮断されることなく安全に使用できる。なお、通気溝31eは、排気ポート31bの両側に設けているが、片側だけとしてもよい。
【0031】
〔3〕収容部32
【0032】
収容部32は、筒状部32aと底面部32bとを有する。筒状部32aと底面部32bとで囲まれた収容空間32cには、ホルダ7、圧力設定ばね8、弁体9等のリリーフ弁14を構成する部品の一部が配置されている。このように収容部32は、リリーフ弁14の構成部品をコンパクトに配置することができる。
【0033】
筒状部32aの内周面には、排気ポート31bの第2の接続管31b2の内側端(筐体側端)が開口している。筒状部32aの内周面には、ホルダ7が収容部32の中心軸の軸方向に沿って移動するのを案内するガイド部32a1が設けられている。ガイド部32a1は、ホルダ7の外周面に形成されている一対のガイド突起7cを挿入する一対の溝により形成されている。したがって、ホルダ7は、ガイド突起7cがガイド部32a1に沿って案内されることにより、偏りのない姿勢で収容部32の内部を前記中心軸の軸方向に沿って移動することができる。
【0034】
底面部32bは、弁座32b1と弁孔32b2とを有する。弁座32b1は、底面部32bの直径よりも小径に形成されており、収容空間32cに向けて突出する円筒状に形成されている。弁孔32b2は弁座32b1の内周面として形成されており、底面部32bを貫通する貫通孔として形成されている。
【0035】
収容空間32cには、弁室32c1が形成されている。弁室32c1は、底面部32bとホルダ7との間の空間によって形成されており、そこには圧力設定ばね8の下側部分と弁体9とが配置されている。弁体9は、弁室32c1の内部を上下方向に移動可能に構成されている。弁室32c1の空間高さは、収容部32の中心軸の軸方向に移動可能であるホルダ7の位置(弁室32c1に面するホルダ7の底面の位置)に応じて変化する。しかしながら、弁室32c1は、前述した排気ポート31bと常時連通する位置に形成されている。
【0036】
〔4〕支持壁33
【0037】
支持壁33は、外周壁31と収容部32とを繋ぐように複数箇所に形成されている。隣接する支持壁33どうしの間には、第1の通気空間34が形成されている。複数の第1の通気空間34のうちの一つは、インプット側通気空間34aとして形成されている。インプット側通気空間34aには、インプットポート31aの第1の接続管31a2の内側端(筐体側端)が開口している。インプットポート31aから流入する気体は、先ずこのインプット側通気空間34aに入り込み、そこから第1の通気空間34に流れる。
【0038】
支持壁33は、第1の支持壁33aと、第2の支持壁33bと、第3の支持壁33cとを有する。このうち、第1の支持壁33aには下方に突出する第1の脚部33a1が形成されており、第2の支持壁33bにも下方に突出する第2の脚部33b1が形成されている。第3の支持壁33cは、収容部32の底面部32bよりも下方に突出しておらず、底面部32bと同じ高さ位置で形成されている。
【0039】
第1の脚部33a1は、弁孔32b2を中心とする両側に筐体2の第1の対角線上に沿って形成されている。第1の脚部33a1は、外周壁31の下端を超える長さで形成されている。各第1の脚部33a1の先端は、人工鼻フィルタ10を通過して弁膜11を押さえる第1の保持部33a2として形成されている。したがって人工鼻フィルタ10は、第1の脚部33a1により確実に保持される。
【0040】
第2の脚部33b1は、弁孔32b2を中心とする両側に筐体2の第2の対角線上に沿って形成されている。各第2の脚部33b1の先端は、人工鼻フィルタ10を押さえる第2の保持部33b2として形成されている。したがって患者の呼気を受けても人工鼻フィルタ10がバタつくことがなく、人工鼻フィルタ10はその配置した状態を確実に維持することができる。
【0041】
筐体2では、支持壁33の下側に人工鼻フィルタ10が配置される。第2の脚部33b1の第2の保持部33b2が人工鼻フィルタ10と当接すると、人工鼻フィルタ10と収容部32の底面部32bとの間に隙間が形成される。その隙間が第1の通気空間34を構成し、第1の通気空間34は通気路16を構成することとなる。
【0042】
ダイヤルカバー4の説明
【0043】
ダイヤルカバー4は、樹脂成形体で形成されており、本体3の上面壁30に取付けられて、圧力設定ダイヤル5を回転可能に保持する。
【0044】
ダイヤルカバー4の表面には、設定する圧力値に対応する複数の数字や単位を立体的に表示する表示部4aが形成されている。本実施形態のリリーフ弁14は、APL弁として動作するものである。表示部4aは、立体的に突出する形状で形成する例を示しているが、立体的に凹む凹形状で形成してもよい。このように表示部4aは、樹脂成形体の一部として構成されているので、経年により表示が消失することがない。本実施形態では、最小の設定圧力値として「5」が表示され、そこから「10」、「15」、「20」、「30」、「40」の各表示部4aが形成されている。「cmH2O」は、設定圧力値の単位を示している。
【0045】
ダイヤルカバー4の裏面には、ロック解除ボタン6の配置凹部4bが形成されている。配置凹部4bには、ロック解除ボタン6の移動をガイドするガイド凹部4b1が形成されている。
【0046】
ダイヤルカバー4の裏面には、圧力設定ダイヤル5のダイヤル本体50を配置する円状の配置開口4cと隣接する位置に、回転ガイド部4dが形成されている。回転ガイド部4dは、後述する圧力設定ダイヤル5のフランジ部51の回転をガイドするとともに、その脱離を防ぐ部位である。回転ガイド部4dには、表示部4aの「5」の位置に対応して設けた第1の当接受け部4d1と、表示部4aの「20」の位置に対応して設けた第2の当接受け部4d2と、表示部4aとしては存在しない「45」の位置に対応して設けた第3の当接受け部4d3とが形成されている。
【0047】
第1の当接受け部4d1と第2の当接受け部4d2との間では、圧力設定ダイヤル5を自由に回転することができる。圧力設定ダイヤル5は、ストッパー52が第1の当接受け部4d1と当接することで回転を停止し、その停止位置で最小の設定圧力値「5」が設定される。圧力設定ダイヤル5は、ストッパー52が第2の当接受け部4d2と当接することで回転を停止し、その停止位置で中間の設定圧力値「20」が設定される。なお、本実施形態における最小、中間、最大の設定圧力値は例示であって他の値でもよい。
【0048】
この中間の設定圧力値「20」を超える圧力値を設定するには、ストッパー52が第2の当接受け部4d2の段差を乗り越える必要がある。そのためには、操作者がロック解除ボタン6を圧力設定ダイヤル5の中央に向けて押し込むことで、ストッパー52を下方に押し下げる。これによってストッパー52が当該段差を乗り越えることができる。そして段差を乗り越えた状態のまま圧力設定ダイヤル5を回転させることで、最大の設定圧力値「45」まで圧力設定ダイヤル5をさらに回転させることができる。
【0049】
このように所定の圧力設定値で圧力設定ダイヤル5の自由回転を規制し、それを超える圧力値を設定するための回転ロック解除機構17(第2の当接受け部4d2、ストッパー52)を備えることで、気道内圧を誤って高く設定し過ぎることが無いようにすることができる。
【0050】
圧力設定ダイヤル5の説明
【0051】
圧力設定ダイヤル5は、円盤形状の樹脂成形体で形成されており、ダイヤル本体50、フランジ部51、ストッパー52、係止片53が形成されている。
【0052】
ダイヤル本体50の表面には、ダイヤル本体50を回転操作するための圧力設定キー18を差し込む2つのキー孔50aが設けられている。圧力設定キー18の説明は後述する。ダイヤル本体50の裏面には、突出筒50bが形成されており、その外周面にはホルダ7の雌ねじ7dと螺合する雄ねじ50cが形成されている。雄ねじ50cと雌ねじ7dは二条ねじとして設けられており、圧力設定ダイヤル5の回転精度を高められている。これらの雄ねじ50cと雌ねじ7dは、圧力設定ねじとして構成されている。
【0053】
突出筒50bの内側は、圧力設定ばね8の上端側を挿入するばね収容部50dとして構成されている。
【0054】
フランジ部51は、前述したダイヤルカバー4の回転ガイド部4dに対向して配置される。フランジ部51には、フランジ部51を欠如する欠如部にストッパー52と係止片53が形成されている。
【0055】
ストッパー52は、ダイヤル本体50の側面から片持ち梁状に伸長する突起として形成されている。ストッパー52は、厚肉部52aと薄肉部52bとが形成されている。圧力設定ダイヤル5を回転操作すると、このストッパー52が前述の第1の当接受け部4d1、第2の当接受け部4d2、第3の当接受け部4d3に対して当接して回転量を規制することができる。そして、ストッパー52は、厚肉部52aの基端(ダイヤル本体50側の端部)を支点として、フランジ部51の高さ方向で変位可能として構成されている。したがって、ロック解除ボタン6の押圧を受けると下方に変位して、第2の当接受け部4d2の段差を超えて回転が規制されたロック状態を解除することができる。
【0056】
ダイヤル本体50の表面には、ストッパー52に対応する位置に設定圧力値指示部50eが形成されている。設定圧力値指示部50eは、本実施形態では三角形状の記号で立体的に形成されているが、設定圧力値を認識できれば良いためその他の形状でも良い。なお、設定圧力値指示部50eは、立体的に突出する形状とする例を示しているが、立体的に凹む凹形状で形成してもよい。
【0057】
係止片53は、ダイヤル本体50の側面から片持ち梁状に伸長する突起として形成されている。したがって、この係止片53も基端(ダイヤル本体50側の端部)を支点として、フランジ部51の高さ方向で変位可能として構成されている。そして係止片53の裏面には小突起53aが形成されている。この小突起53aは、前述した本体3の上面壁30の係止凹部30bと係止することで、圧力設定ダイヤル5を回転操作したときにクリック感を発生することができる。小突起53aは係止片53がフランジ部51の高さ方向で撓んで変位することで、係止凹部30bに対する係止及び係止解除を行う。
【0058】
ロック解除ボタン6の説明
【0059】
ロック解除ボタン6は、「ロック解除部」として構成されており、押圧操作部6aと、押圧部6bとを有する。押圧操作部6aは、ダイヤルカバー4の外周面からわずかに突出するように、ダイヤルカバー4の配置凹部4bに配置されている。したがって、押圧操作部6aが押す操作を行う部分であることを、使用者が容易に認識することができる。
【0060】
前述のように配置凹部4bにはガイド凹部4b1が形成されており、そこには押圧部6bに設けたガイド突起6b1が配置される。これによりロック解除ボタン6は、圧力設定ダイヤル5の中心に向かう径方向でスムーズに進退動することができ、また筐体2からの脱落が防止される。押圧部6bには、傾斜面部6b2が形成されている。この傾斜面部6b2が圧力設定ダイヤル5のストッパー52の薄肉部52bに対して斜めに当接することで、ストッパー52の下方向へのスムーズな変位を誘導することができる。
【0061】
ホルダ7の説明
【0062】
ホルダ7は、円筒状のホルダ本体7aと、ホルダ本体7aの底面側から上端側に向けて突出する円筒状突出部7bとを有する。
【0063】
ホルダ本体7aの外周面には、ガイド突起7cが形成されている。ホルダ7は、ガイド突起7cが収容部32の筒状部32aのガイド部32a1に沿って案内されることにより、偏りのない姿勢で収容部32の内部を前記中心軸の軸方向に沿って移動することができる。
【0064】
ホルダ本体7aの内周面には、圧力設定ダイヤル5の雄ねじ50cと螺合する雌ねじ7dが形成されている。圧力設定ダイヤル5を時計周りに回転させると、雌ねじ7dが雄ねじ50cと螺合することで、ホルダ本体7aが下方に送られる。この場合、ホルダ7が圧力設定ばね8を圧縮する圧縮量が大きくなる。したがって圧力設定ばね8は、弾性変形に必要な押圧力が高くなり、弁体9を開放する圧力も高くなる。これとは逆に圧力設定ダイヤル5を反時計回りに回転させると、ホルダ本体7aが上方に送られることで、弁体9を開放する圧力が低くなる。
【0065】
円筒状突出部7bの内側には、圧力設定ばね8の上端側が挿入されて配置される。
【0066】
圧力設定ばね8の説明
【0067】
圧力設定ばね8は、金属製の圧縮コイルばねとして形成されている。前述のように圧力設定ばね8の上端側はホルダ7の円筒状突出部7bの内側に挿入されて保持される。他方、圧力設定ばね8の下端側は、弁体9の柱状突起9a2に外挿されて保持される。なお、本実施形態の圧力設定ばね8は金属製のものを例示したが、低コスト化、金属の持ち込みができないMRI室への持ち込みを可能とする目的で樹脂成形体としてもよい。
【0068】
弁体9の説明
【0069】
弁体9は、基部9aと、環状部9bと、円筒状周壁部9cと、弁軸9dとを有する。
【0070】
基部9aは、円盤状に形成されており、閉状態で弁座32b1と当接して弁孔32b2を閉塞している。弁体9の閉状態で、基部9aのうち弁孔32b2に晒されている部分は、吸気や呼気の圧力を受ける第1の受圧面部9a1として形成されている。基部9aの上面には、圧力設定ばね8の下端側に挿入する柱状突起9a2を有する。
【0071】
環状部9bは、基部9aの外周面から外方に突出する円環状に形成されている。環状部9bは、弁体9が開状態となった際に、流入する気体の圧力を受ける第2の受圧面部9b1を構成している。
【0072】
環状部9bの外周端には円筒状周壁部9cが形成されている。円筒状周壁部9cにおける第2の受圧面部9b1と連続する内周面部分は、第2の受圧面部9b1に流れてきた気体を、第2の受圧面部9b1とともに受け止める部位として形成されている。円筒状周壁部9cは、環状部9bの上面側にも突出している。これは気体の圧力を受けて開閉動作する弁体9の全体としてのバランスを取るために設けられている。
【0073】
円筒状周壁部9cは、上端及び下端が弁体9の中心軸側に湾曲する球面状外周面9c1を有している。このため弁体9が開閉動作する際に、仮に弁体9が斜めに傾くことがあったとしても、円筒状周壁部9cの上端縁と下端縁とが弁室32c1に引っ掛からずに、適切に開閉動作させることができる。また、球面状外周面9c1と弁室32c1との間には、通気間隙が形成されており、弁体9はスムーズに変位することができる。
【0074】
弁軸9dは、ステンレス等の金属棒で形成されており、基部9aと一体構造として構成されている。本実施形態では、インサート成形にて一体成形体として構成している。これによれば弁軸9dを弁体9に対して強固に一体化することができ、弁軸9dが位置ずれしたり、外れたりする問題がなく、弁体9の耐久性と安全性を高めることができる。
【0075】
弁軸9dは、弁体9の中心軸に沿って配置されており、その上端は柱状突起9a2の上面からわずかに突出している。弁軸9dの下端は、後述する蓋12の軸受け部12dに挿入されている。後述のように弁体9が開閉動作をする際には、弁体9が最も大きく開いても、弁軸9dの下端は軸受け部12dから抜けないように保持されており、且つ弁軸9dは軸受け部12dのガイドを受けながら正確に上下動するようになっている。このように弁軸9dの下端を軸受け部12dに挿入して保持することで、弁体9の正確な開閉動作を継続して行い続けることができるよう耐久性を高めている。
【0076】
弁体9は、次のように動作する。気体(吸気又は呼気)の圧力が第1の受圧面部9a1に作用し、その圧力が弁体9の開弁圧(圧力設定ばね8の設定圧力)を超えると、弁体9が弁座32b1から離れるように変位する。これにより弁体9が開く。次に、第2の受圧面部9b1と円筒状周壁部9cの内面が、弁座32b1から流入する気体の圧力を受けることで、さらに弁体9は弁座32b1から離れる方向に変位する。これにより気体の圧力を受ける弁体9の受圧面積は拡大する。したがって、通気間隙から気体が流出することで圧力を開放しながらも、拡大した受圧面積で圧力を受け続けることで、急激な減圧を抑制しつつ弁体9の開弁状態を安定して維持することができる。
【0077】
人工鼻フィルタ10の説明
【0078】
人工鼻フィルタ10は、多角形状に形成されており、中央に設けた挿通孔10aと、前述した第1の支持壁33aの第1の脚部33a1が通過する溝部10bとを有する。人工鼻フィルタ10は、後述するように、吸気と呼気が流れるメインポート12gと排気ポート31bとの間に配置される。このため人工鼻フィルタ10を呼気が通過する際に、人工鼻フィルタ10が呼気の熱と水分を捕捉することができる。そして吸気が人工鼻フィルタ10を通過することで、吸気を加温及び加湿して、患者の気道の乾燥を防ぐことができる。また、嘔吐物等の異物がメインポート12gから逆流してきても、人工鼻フィルタ10で止めることができ、リリーフ弁14の正常な動作を損ねないようにすることができる。
【0079】
人工鼻フィルタ10は、シート状のフィルタ用のシート材から複数個取る際に、例えば人工鼻フィルタ10が円形であると無駄な材料ロスが発生してしまう。これに対して人工鼻フィルタ10は多角形状であるため、材料取りする際のロスを減らすことができる。筐体2を角型としているのは、このような背景もある。
【0080】
弁膜11(自発呼吸弁)の説明
【0081】
弁膜11は、天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー等のゴム状弾性体で形成されている。弁膜11は、蓋12に設けた自発呼吸用開口12eを常時密閉している。そして患者が自発呼吸する吸気圧により捲れることで開いて、筐体2の通気路16と筐体2の外とを連通する「自発呼吸弁」として機能する。人工呼吸管理下にある意識の無い患者が覚醒した際に、人工呼吸による吸気では苦しくなり、突然大きく自発的に息を吸うことがある。そのような場合が生じても、弁膜11が自発呼吸弁として機能することで、突発的な自発呼吸にも対応することができ、患者の安全な呼吸を確保することができる。
【0082】
蓋12の説明
【0083】
蓋12は、樹脂成形体で形成されており、本体3の底面に組み合わされる。蓋12は外周壁12aと底面部12bとを有する。外周壁12aと底面部12bとによって囲まれた空間は、第2の通気空間12cを構成している。蓋12が本体3と組み合わされることで、本体3の第1の通気空間34と蓋12の第2の通気空間12cとが一体化された空間となり、通気路16を形成する。
【0084】
第2の通気空間12cには、前述した人工鼻フィルタ10が配置される。底面部12bには円筒状の軸受け部12dが突出して形成されており、軸受け部12dが人工鼻フィルタ10の挿通孔10aに挿通されることで、人工鼻フィルタ10を容易に中央に位置決めすることができる。また、外周壁12aの四隅には、ねじ13が締結される筒状のねじ孔部12a1が形成されている。人工鼻フィルタ10の四隅にある凹形状の位置決め部10cを筒状のねじ孔部12a1に位置合わせすることで、人工鼻フィルタ10を外周壁12aの内側の第2の通気空間12cに容易に収容することができる。そして、ねじ13がねじ孔部12a1に締結されることで、人工呼吸器1が組み合わさる。ねじ13の頭の上は封止部13aが形成され、ねじ13を外して分解できないようにしている。ねじ13を外して人工呼吸器1を分解してしまうと、初期の性能を発揮できなくなるおそれがあるからである。
【0085】
底面部12bには、自発呼吸用開口12eと、弁膜11の配置凹部12fと、メインポート12gが形成されている。
【0086】
自発呼吸用開口12eは、本実施形態では2つ形成されている。自発呼吸用開口12eは、それぞれ単一の開口として形成されており、自発呼吸用開口12eの内側口縁には弁膜11の配置凹部12fが形成されている。配置凹部12fは、弁膜11の厚み分の高さを有する環状段差面として形成されており、弁膜11はその外周縁を全周にわたって配置凹部12fと密着可能な状態で位置決めされて収容されている。自発呼吸用開口12eには、その径方向に架け渡した支持部12hを有する。支持部12hは、自発呼吸用開口12eにあって弁膜11を支持しており、弁膜11が外に脱離しないように確実に保持している。支持部12hと弁膜11とは接着剤等により固定し、または熱融着や超音波融着により固定することができる。熱融着や超音波融着により固定すれば、支持部12hと弁膜11との固着部位は、より患者にとって安全な固定構造となる。
【0087】
自発呼吸用開口12eに配置された弁膜11は、外面側の第1の面を支持部12hと配置凹部12fによって支持され、内面側の第2の面を人工鼻フィルタ10と第1の脚部33a1の第1の保持部33a2によって支持されている。このうち支持部12hと第1の保持部33a2とは、人工鼻フィルタ10の厚み方向で重なる位置に形成されているため、弁膜11が位置ずれしたり脱落したりしないように、確実に挟持することができる。
【0088】
このように設置される弁膜11が開弁する際には、支持部12hと接触していない弁膜11の部分が捲れるようにして自発呼吸用開口12eを開放する。このとき弁膜11は、人工鼻フィルタ10を弾性変形させるように捲れ上がる。つまり、弁膜11における支持部12hと固着しない非拘束部分は、閉弁状態では人工鼻フィルタ10により捲れ上がらないように押さえ付けられており、自発呼吸用開口12eを確実に閉塞することができる。
【0089】
メインポート12gは、蓋12の底面から外向きに突出する円筒形状の筒として形成されている。このメインポート12gは、例えば、患者に装着する蘇生用マスクの接続口、蘇生用マスクに接続した蛇管の接続口、経鼻もしくは経口による気管内挿管チューブや、気管切開チューブ、声門上器具(ラリンジアルマスク)の接続口などに接続することができる。メインポート12gは、テーパー形状の筒として形成されている。本実施形態では、メインポート12gの外径は先端側が21.5mmで基端側が22.5mmに拡大するテーパー形状であり、内径は先端側が15.5mmで基端側が14.5mmに縮小するテーパー形状となっている。メインポート12gの外形面が、先端側から基端側に向けて拡大するテーパー形状であるため、接続対象とするチューブの接続口の口径の違いやバラツキを吸収することができる。なお、上記外径及び内径のサイズは例示である。
【0090】
メインポート12gは、底面部12bの中心からずらした位置にある。メインポート12gを中心に形成すると、メインポート12gは前述の軸受け部12dと干渉してしまう。干渉を避けるには、通気路16からメインポート12gに通じる通気経路を確保する必要があり、そのために蓋12を大型化する必要がある。これに対して本実施形態では、通気路16と連通するメインポート12gを底面部12bの中心位置からずらすことで、メインポート12gが軸受け部12dと干渉するのを避けている。したがって、本実施形態では、蓋12を大型化する必要が無く、蓋12と蓋12を含む人工呼吸器1をコンパクトに形成することができる。また、メインポート12gを中心位置からずらすことで、メインポート12gが弁体9と一直線上に位置しなくなる。換言すれば、メインポート12と弁孔32b2とは、互いにオフセットした位置に形成されている。そのため吐物や痰がメインポート12gから逆流した場合に、それらが弁体9に付着して正確な動作を妨げるのを抑制することができる。
【0091】
圧力設定キー18の説明
【0092】
圧力設定キー18は、
図1で示すようにキー本体18aと、キー本体18aから二股状に伸長するキー部18bとを有する。なお、
図1に示す圧力設定キー18は、キー部18bの先端をキー孔50aに差し込んだ状態を示している。
【0093】
キー本体18aの中央にはクリップ18cが形成されており、例えば医療者が着用する白衣の胸ポケットに差し込んでクリップ止めできるようにされている。これにより医療者が圧力設定キー18を紛失してしまうのを防止することができる。
【0094】
キー部18bは、その先端を圧力設定ダイヤル5のキー孔50aに挿入可能となっている。キー部18bをキー孔50aに挿入した状態でキー本体18aを摘まんで回すことで、圧力設定ダイヤル5を回転することができる。
【0095】
キー部18bは、気管チューブ等のコネクタとカテーテル等のチューブのコネクタとの接続を解除するディスコネクトウェッジとしても使用することができる。キー部18bをディスコネクトウェッジとして使用する際には、キー部18bは、円弧状のアーチ部18dを気管チューブに沿わせることができる。
【0096】
人工呼吸器1を用いる医療機器の実施態様
【0097】
人工呼吸器1のインプットポート31aには、空気や酸素と空気の混合ガスを供給する配管や、空気または酸素ボンベ、エアコンプレッサーなどと、酸素チューブを介して接続することができる。メインポート12gには、患者に装着する蘇生用マスクの接続口、蘇生用マスクに接続した蛇管の接続口、経鼻もしくは経口による気管内挿管チューブや、気管切開チューブ、声門上器具(ラリンジアルマスク)の接続口などを接続することができる。排気ポート31bには、蛇管を接続することができ、蛇管には例えば排気(患者の呼気)に含まれる麻酔ガスを浄化する浄化フィルタを接続することができる。
【0098】
このように人工呼吸器1は、組み合わせる器械によって多用途で利用可能であり、その一例を以下に示す。以下の各実施態様は、適宜、蛇管や呼吸管を含む構成としてもよい。以下の各実施態様は、さらに、例えば蘇生用マスクや気管内挿管チューブ等の患者側呼吸部材と人工呼吸器1のメインポート12gとの間にスパイロメーターなどの換気量測定器を設けて、1回換気流量(呼吸量)をモニター可能な構成とすることもできる。
【0099】
〔1〕手動式肺人工蘇生器
【0100】
第1の実施態様として、人工呼吸器1は、患者が装着し人工呼吸器1のメインポート12gに繋がる蘇生用マスクや気管内挿管チューブ等の「患者側呼吸部材」と、人工呼吸器1のインプットポート31aに繋がる蘇生バッグやフットポンプ等の「手動式気体供給器」と、を少なくとも備えることで、「手動式肺人工蘇生器」として実施することができる。これによれば一般的な手動式肺人工蘇生器に人工呼吸器機能を付与することができる。動力となる空気を供給する方法は、専門の知識がなくても行うことが可能であり、蘇生バッグを揉む、またはフットポンプを踏んで空気を供給し続けさえすれば、リリーフ弁14が圧力を自動で調節可能であるため、手動でも安全に使用できる。また、フットポンプを使用する場合には、足で換気することができて両手が空くので、患者の処置が同時にできて便利である。この手動式肺人工蘇生器は、さらに、蘇生バッグ等の手動式気体供給器に繋がる酸素ガスや混合ガスを給するガス供給源を備える構成とすることもできる。
【0101】
〔2〕人工呼吸器ユニット
【0102】
第2の実施態様として、人工呼吸器1は、患者が装着し人工呼吸器1のメインポート12gに繋がるマスク又は挿管等の「患者側呼吸部材」と、人工呼吸器1のインプットポート31aに繋がる空気と酸素との混合ガス等を「気体」として供給する「ガス供給源」とを少なくとも備えることで、空圧作動式の「人工呼吸器ユニット」として実施することができる。これによれば、震災時、停電時、すべての人工呼吸器が使用中で空きが無い時などのように、電気的な駆動源を備える人工呼吸器を使えない状況でも、人工呼吸器を行うことができる。
【0103】
〔3〕吸入麻酔器
【0104】
第3の実施態様として、人工呼吸器1は、患者が装着し人工呼吸器1のメインポート12gに繋がるマスク等の「患者側呼吸部材」と、人工呼吸器1のインプットポート31aに繋がる麻酔ガスを「気体」として供給する「麻酔ガス供給源」と、排気ポート31bに繋がる蛇管に接続した「麻酔ガス浄化フィルタ」とを少なくとも備えることで、「吸入麻酔器」として実施することができる。これによれば、簡易な装置構造で吸入麻酔器を実現することができる。
【0105】
人工呼吸器1の効果
【0106】
以下、主要な実施形態の構成を取り上げてそれに対応する効果を説明する。
【0107】
人工呼吸器1は、筐体2を備えており、筐体2は筐体2に気体を導入するインプットポート31aと、患者に送る前記気体である吸気と患者の呼気とが通過するメインポート12gと、筐体2から気体又は呼気を排出する排気ポート31bと、インプットポート31aとメインポート12gとを繋ぐ通気路16と、通気路16の圧力に応じて開いて通気路16を排気ポート31bと連通させて圧力を開放するリリーフ弁14とを有する。このように人工呼吸器1は、それらの構成要素を一体に備えるため、電気的な駆動源を必要とせず、簡易な構造でありながら人工呼吸器として機能する新しい肺人工蘇生器用のデバイスを提供することができる。
【0108】
人工呼吸器1は、単回使用の「使い捨て人工呼吸器」として構成することができる。これによれば、人工呼吸器1を複数の患者で使い回すことにより生じる感染症の予防に役立てることができる。この場合、さらに、人工呼吸器1のすべての部品が樹脂成形体であれば、金属部材と樹脂部材とに分けた分別廃棄が不要な「使い捨て人工呼吸器」として構成することができる。
【0109】
筐体2は、さらに、メインポート12gと排気ポート31bとの間に人工鼻フィルタ10を有する。これによれば、筐体2の内部に人工鼻フィルタ10を内蔵するため、医療者は人工呼吸器1に加えて人工鼻フィルタ用のデバイスを用意しなくてもよい。
【0110】
筐体2は、インプットポート31a、排気ポート31b、通気路16、リリーフ弁14を内蔵している。したがって、筐体2の外に突出する形状要素を少なくすることができ、人工呼吸器1をコンパクトに形成することができる。一例として本実施形態の人工呼吸器1は、例えばメインポート12gを含む高さ(
図3の正面図で示すダイヤルカバー4の上面からメインポート12gの下端までの長さ)、幅(
図5で示す人工呼吸器1の横方向の長さ)、奥行き(
図5で示すロック解除ボタン6を除く人工呼吸器1の縦方向の長さ)を、それぞれ77.2mm、50.0mm、50.0mmとして実施することが可能である。
【0111】
筐体2は、さらに、筐体2に設けた自発呼吸用開口12eと、患者が自発呼吸する吸気圧により開いて通気路16を筐体2の外と連通する「自発呼吸弁」として機能する弁膜11とを有する。これによれば、人工呼吸器1により人工呼吸管理下にある意識が無い患者が突然意識を取り戻し、自発呼吸により深呼吸をした場合でも、弁膜11が開いて患者の吸気を助けることができる。
【0112】
実施形態の変形例
【0113】
前記実施形態では、弁軸9dが金属棒で形成されており、弁体9の基部9aと一体構造として構成する例を示したが、一体構造とする方法は、インサート成形に限らず、接着剤による接着、ねじによる固定等の他の一体構造を適用することもできる。これによれば弁体9と弁軸9dとの一体構造を簡易に実現できる。
【0114】
前記実施形態では、弁軸9dを金属棒で形成する例を示したが、弁軸9dを弁体9の基部9aの一部分として構成することもできる。これによれば、弁体9が全体として樹脂成形体となるため、部品点数を減らすことができ、コスト低下を図れる。この場合、さらに圧力設定ばね8を樹脂ばねとし、ねじ13を金属ねじではなく樹脂ねじとすれば、人工呼吸器1のすべての部品を樹脂成形体にて構成でき、人工呼吸器1を装着したまま、金属の持ち込みができないMRI室を利用することができる。また、低コスト化も図ることができる。
【0115】
前記実施形態では、人工呼吸器1の各部品を樹脂成形体で構成する例を示したが、樹脂成形体としては、金型成形による成形体ではなく、3Dプリンタ造形体として構成することもできる。これによれば高価な成形金型が無くても3Dプリンタがあれば人工呼吸器1の部品を製造することができ、例えば物流が発達しておらず交通が不便な遠隔地や離島、さらに宇宙ステーション等でも、人工呼吸器1を製造して使用することが可能となる。また、必要な数量だけ人工呼吸器1を製造することが可能となり、経済的である。
【0116】
前記実施形態では、人工呼吸器1の各部品を樹脂で構成する例を示したが、各部品の全部または一部を金属製としてもよい。金属製の場合、切削体、鋳造体、金属3Dプリンタによる3Dプリント造形体などの基本的な製造方法の違いを問わず、金属材料で製造したものであれば、どのようなものでもよい。これにより、人工呼吸器1と各部品の耐久性を高めることできる。
【0117】
前記実施形態ではインプットポート31a、排気ポート31bが筐体2の外面から突出しない例を示したが、メインポート12gのように筐体2から突出する形状に構成することもできる。これによればインプットポート31aや排気ポート31bに接続する管が正しく接続されているかを目視で確認することができる。前記実施形態ではメインポート12gが筐体2の外面から突出する例を示したが、インプットポート31aのように筐体2から突出しないように構成することもできる。これによればメインポート12gが突出せず人工呼吸器1をコンパクトに構成することができ、また破損も予防することができる。
【0118】
前記実施形態では排気ポート31bから本体3の第2の外面31dから伸長する通気溝31eを形成する例を示した。しかしながら例えば第2の外面31dに突起を設けたり、多孔質部材(例えばメッシュや通気性スポンジ等)を第2の外面31dに設けることで、排気口31b3からの排気経路を確保することもできる。
【0119】
前記実施形態では通気路16を、本体3の第1の通気空間34と蓋12の第2の通気空間12cとで構成する例を示したが、「通気路」は本体3または蓋12の何れか一方に設けたものでもよい。
【0120】
前記実施形態では、圧力設定専用の器械である圧力設定キー18を用いて圧力設定ダイヤル5を回転操作する例を示したが、圧力設定ダイヤル5に操作ノブを設けて回転操作する構成とすることもできる。これによれば容易に回転操作することができる。
【0121】
前記実施形態では圧力設定ダイヤル5を回転するとクリック感を発生する回転クリック発生部15を設ける例を示したが、設定圧力値が変化する所定の回転量ごとに圧力設定ダイヤル5の回転が停止してロックするラッチ機構を設けてもよい。このようなラッチ機構は、例えば圧力設定ダイヤル5の外周面に傾斜面と段差面が連続する凹凸部を設け、そこに対してロック解除ボタン6のようなロック部材をばね等により押圧付勢して係止させる構造として構成することもできる。これによれば圧力設定ダイヤル5を回転させるごとにロックが掛かるので、圧力設定ダイヤル5が何かにぶつかることで不意に設定圧力値が変わるのを防止することができる。
【0122】
前記実施形態ではダイヤルカバー4に文字、数字でなる表示部4a、記号でなる設定圧力値指示部50eを樹脂成形体の形状として設ける例を示し、また同様に筐体2にも英文字の「INPUT」、「OUT」、「PATIENT」と三角形状の指示記号を設ける例を示した。しかしながら、それらはレーザーによる刻印部や貼り付けた印刷シールによって構成することもできる。
【0123】
なお、本発明の一実施形態について詳細に説明したが、本発明の構成及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0124】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、人工呼吸器1、人工呼吸器ユニット、手動式肺人工蘇生器、吸入麻酔器の構成、動作も本発明の一実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0125】
1 人工呼吸器
2 筐体
3 本体
30 上面壁
30a 挿通孔
30b 係止凹部
31 外周壁
31a インプットポート
31a1 インプットポート用凹部
31a2 第1の接続管
31a3 導入口
31b 排気ポート
31b1 排気ポート用凹部
31b2 第2の接続管
31b3 排気口
31b4 湾曲凹部
31c 第1の外面
31d 第2の外面
31e 通気溝
32 収容部
32a 筒状部
32a1 ガイド部
32b 底面部
32b1 弁座
32b2 弁孔
32c 収容空間
32c1 弁室
33 支持壁
33a 第1の支持壁
33a1 第1の脚部
33a2 第1の保持部
33b 第2の支持壁
33b1 第2の脚部
33b2 第2の保持部
33c 第3の支持壁
34 第1の通気空間
34a インプット側通気空間
4 ダイヤルカバー
4a 表示部
4b 配置凹部
4b1 ガイド凹部
4c 配置開口
4d 回転ガイド部
4d1 第1の当接受け部
4d2 第2の当接受け部
4d3 第3の当接受け部
5 圧力設定ダイヤル
50 ダイヤル本体
50a キー孔
50b 突出筒
50c 雄ねじ
50d ばね収容部
50e 設定圧力値指示部
51 フランジ部
52 ストッパー
52a 厚肉部
52b 薄肉部
53 係止片
53a 小突起
6 ロック解除ボタン(ロック解除部)
6a 押圧操作部
6b 押圧部
6b1 ガイド突起
6b2 傾斜面部
7 ホルダ
7a ホルダ本体
7b 円筒状突出部
7c ガイド突起
7d 雌ねじ
8 圧力設定ばね
9 弁体
9a 基部
9a1 第1の受圧面部
9a2 柱状突起
9b 環状部
9b1 第2の受圧面部
9c 円筒状周壁部
9c1 球面状外周面
9d 弁軸
10 人工鼻フィルタ
10a 挿通孔
10b 溝部
10c 位置決め部
11 弁膜(自発呼吸弁)
12 蓋
12a 外周壁
12a1 ねじ孔
12b 底面部
12c 第2の通気空間
12d 軸受け部(軸孔)
12e 自発呼吸用開口(自発呼吸弁)
12f 配置凹部
12g メインポート
12h 支持部
13 ねじ
13a 封止部
14 リリーフ弁
15 回転クリック発生部
16 通気路
17 回転ロック解除機構
18 圧力設定キー
18a キー本体
18b キー部
18c クリップ
18d アーチ部