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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】医療用糸通し器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/04 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
A61B17/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020136964
(22)【出願日】2020-08-14
(65)【公開番号】P2022032783
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】598024226
【氏名又は名称】株式会社高山医療機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高山 隆志
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-507143(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0116709(US,A1)
【文献】特開平10-309283(JP,A)
【文献】特開2017-164229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
術者に把持される把持部と、
縫合糸を保持する糸保持部を有する糸誘導部であって、頭蓋骨に形成された穿孔に挿抜可能な糸誘導部と、
前記糸誘導部が前記穿孔に挿入される方向に前記把持部から突出するように設けられ、前記頭蓋骨に固定可能な固定部と
を有する医療用糸通し器具。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用糸通し器具であって、
前記固定部は、前記穿孔に挿入される前記糸誘導部と、前記把持部との間に位置し、
前記糸誘導部が前記穿孔に挿入される方向に垂直な方向の前記固定部の大きさが、前記糸誘導部側から前記把持部側に向かうにしたがって大きくなる
ことを特徴とする医療用糸通し器具。
【請求項3】
請求項2に記載の医療用糸通し器具であって、
前記固定部の前記大きさは、
前記固定部の前記糸誘導部側の端部において前記穿孔の直径よりも小さく、
前記固定部の前記把持部側の端部において前記穿孔の直径よりも大きい
ことを特徴とする医療用糸通し器具。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の医療用糸通し器具であって、
前記固定部の外周には、ねじが形成されている
ことを特徴とする医療用糸通し器具。
【請求項5】
請求項1に記載の医療用糸通し器具であって、
前記固定部は、前記糸誘導部が前記穿孔に挿入される方向に前記把持部から突出する針状に形成されている
ことを特徴とする医療用糸通し器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用糸通し器具に関する。
【背景技術】
【0002】
脳神経外科領域の開頭手術において、頭蓋骨に窓をあけるため、頭蓋骨の一部を切り取ることがある。頭蓋骨の内面にはもともと硬膜が癒着しているため、頭蓋骨の一部を切り取る際に硬膜から剥がす必要がある。したがって、閉頭時には、切り取った頭蓋骨の一部(以下、「骨片」と呼ぶことがある)を元の位置に戻すと共に、骨片に硬膜を密着させる必要がある。骨片に硬膜を密着させる方法として、テンティングが知られている。テンティングでは、骨片に穿孔を形成し、硬膜にかけた縫合糸を当該穿孔に通し、当該縫合糸を骨片の外側に引っ張ることで、硬膜を骨片側に吊り上げることが行われる。これにより、骨片に硬膜を密着させることができる。
【0003】
頭蓋骨に形成した穿孔に縫合糸を通すことに関連して、特許文献1には、糸把持部によって縫合糸を保持しつつ穿孔に通過させることで、穿孔に縫合糸を容易に通すことができる糸通し器具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-309283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の糸通し器具では、縫合糸を糸通し器具に保持させる際、糸通し器具を骨片に固定することができない。このため、縫合糸を糸通し器具に保持させる動作と、骨片の穿孔に糸通し器具(及び保持した縫合糸)を挿抜する動作とを骨片を持ったまま安定して行うことが困難であった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、縫合糸を糸通し器具に保持させる動作と、骨片の穿孔に糸通し器具を挿抜する動作とを骨片を持ったまま安定して行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の幾つかの実施形態は、術者に把持される把持部と、縫合糸を保持する糸保持部を有する糸誘導部であって、頭蓋骨に形成された穿孔に挿抜可能な糸誘導部と、前記糸誘導部が前記穿孔に挿入される方向に前記把持部から突出するように設けられ、前記頭蓋骨に固定可能な固定部とを有する医療用糸通し器具である。
【0008】
本発明の他の特徴については、後述する明細書および図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の幾つかの実施形態によれば、縫合糸を糸通し器具に保持させる動作と、骨片の穿孔に糸通し器具を挿抜する動作とを骨片を持ったまま安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態の糸通し器具10の斜視図である。
図2図2Aは、本実施形態の糸通し器具10の平面図である。図2Bは、本実施形態の糸通し器具10の側面図である。
図3図3は、把持部11の留め具17に固定される糸誘導部13の様子を示す説明図である。
図4図4A図4Dは、開頭手術の手順の概要を示す説明図である。
図5図5A図5Dは、本実施形態の糸通し器具10の使用例を示す説明図である。
図6図6は、固定部12の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
後述する明細書および図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0012】
術者に把持される把持部と、縫合糸を保持する糸保持部を有する糸誘導部であって、頭蓋骨に形成された穿孔に挿抜可能な糸誘導部と、前記糸誘導部が前記穿孔に挿入される方向に前記把持部から突出するように設けられ、前記頭蓋骨に固定可能な固定部とを有する医療用糸通し器具が明らかとなる。このような医療用糸通し器具によれば、縫合糸を糸通し器具に保持させる動作と、骨片の穿孔に糸通し器具を挿抜する動作とを骨片を持ったまま安定して行うことができる。
【0013】
前記固定部は、前記穿孔に挿入される前記糸誘導部と、前記把持部との間に位置し、前記糸誘導部が前記穿孔に挿入される方向に垂直な方向の前記固定部の大きさが、前記糸誘導部側から前記把持部側に向かうにしたがって大きくなることが望ましい。これにより、固定部が頭蓋骨に形成された穿孔に嵌合することで医療用糸通し器具を頭蓋骨に固定させることができる。
【0014】
前記固定部の前記大きさは、前記固定部の前記糸誘導部側の端部において前記穿孔の直径よりも小さく、前記固定部の前記把持部側の端部において前記穿孔の直径よりも大きいことが望ましい。これにより、固定部が頭蓋骨に形成された穿孔に嵌合することで医療用糸通し器具を頭蓋骨に固定させることができる。
【0015】
前記固定部の外周には、ねじが形成されていることが望ましい。これにより、固定部が頭蓋骨にねじ留めされることで、医療用糸通し器具をより強固に頭蓋骨に固定させることができる。
【0016】
前記固定部は、前記糸誘導部が前記穿孔に挿入される方向に前記把持部から突出する針状に形成されていることが望ましい。これにより、固定部を頭蓋骨に突き刺すことで医療用糸通し器具を頭蓋骨に固定させることができる。
【0017】
===本実施形態===
<構成>
図1は、本実施形態の糸通し器具10の斜視図である。図2Aは、本実施形態の糸通し器具10の平面図である。図2Bは、本実施形態の糸通し器具10の側面図である。図3は、把持部11の留め具17に固定される糸誘導部13の様子を示す説明図である。
【0018】
以下では、糸通し器具10の構成および動作を説明する際、図1図3に示す方向に従って説明を行うことがある。すなわち、糸通し器具10の輪状部19(糸誘導部13)の左右の部位(右側部位13Aおよび左側部位13B)が並ぶ方向を「幅方向」とする。また、輪状部19を含む面の向く方向(輪状部19を含む面に直交する方向、輪状部19を含む面の法線方向)を「厚さ方向」とする。また、「幅方向」及び「厚さ方向」と直交する方向のうち、把持部11から糸誘導部13(又は固定部12)を見た時の方向を「挿入方向」とし、糸誘導部13(又は固定部12)から把持部11を見た時の方向を「抜去方向」とする。後述する図5A図5Dに示すように、「挿入方向」は、糸誘導部13が骨片2の穿孔3に挿入される方向でもあり、「抜去方向」は糸誘導部13が骨片2の穿孔3から抜去される方向でもある。なお、「挿入方向」と「抜去方向」とを合わせて「挿抜方向」と呼ぶことがある。
【0019】
糸通し器具10は、頭蓋骨に形成された穿孔に縫合糸を通すための器具である。糸通し器具10は、把持部11と、固定部12と、糸誘導部13とを有する。
【0020】
把持部11は、糸通し器具10を使用する際に、術者(ここでは、医師)に把持される部材である。本実施形態の糸通し器具10では、糸通し器具10を使用する際に、骨片に形成された穿孔に糸誘導部13を挿入する(後述する図5A及び図5Bを参照)。この際、術者は把持部11を把持して糸誘導部13を骨片側に移動させることになる。図1図2Bに示すように、把持部11は、幅方向の大きさよりも厚さ方向の大きさが小さくなるように形成されている。すなわち、把持部11は、厚さ方向に薄い板状に形成されている。ただし、把持部11は、幅方向に薄い板状に形成されていても良いし、棒状(幅方向の大きさと厚さ方向の大きさとが同じ形状)に形成されていても良い。また、術者が把持できる形状であれば他の形状であっても良い。把持部11が板状に形成されることにより、把持部11が棒状に形成される場合に比べて、雄ねじ部15を有する固定部12を骨片の穿孔にねじ留め固定する際に、糸通し器具10に回転力を与えやすくなる(トルクをかけやすくなる)。把持部11には術者が把持する際の把持面11Aが設けられている。把持面11Aは、幅方向に平行な面である。また、把持面11Aは、厚さ方向に垂直な面でもある。
【0021】
把持部11は、鍔部14と、留め具17とを有する。
【0022】
鍔部14は、固定部12を骨片に固定する際に、骨片の外面に沿わせる部材である。図1図2Bに示すように、鍔部14は、把持面11Aが形成されている把持部11の部分よりも挿入方向側(糸誘導部13側、固定部12側)に設けられている。把持部11に鍔部14が設けられていることにより、骨片の穿孔に対してまっすぐ糸誘導部13を挿入させると共に、固定部12を骨片に固定させることができる。図1図2Bに示すように、鍔部14の挿入方向側の面は、挿抜方向に垂直な面である。なお、鍔部14は、設けられなくても良い。
【0023】
留め具17は、糸誘導部13の抜去方向側の端部を把持部11に固定する(引き留める)部材である。言い換えれば、留め具17は、糸誘導部13の根元を保持する部材である。図3に示すように、留め具17は、鍔部14から挿入方向に突出して形成されている。そして、留め具17の外周面に糸誘導部13の抜去方向側の端部が固定されている。なお、図3では図示していないが、留め具17の幅方向に孔が形成され、糸誘導部13の抜去方向側の端部が当該孔に挿入されて固定されても良い。これにより、糸誘導部13が骨片2の穿孔3から抜去され(後述する図5Dを参照)、糸誘導部13が抜去方向に引っ張り力を受けた際、留め具17から糸誘導部13が外れにくくなる。なお、留め具17は、鍔部14から突出して形成されなくても良く、糸誘導部13の抜去方向側の端部が鍔部14(把持部11)に直接固定されても良い。
【0024】
固定部12は、糸通し器具10を骨片に固定可能な部位である。図1図3に示すように、固定部12は、挿入方向に鍔部14(把持部11)から突出するように設けられている。また、図1図3に示すように、固定部12は、穿孔に挿入される糸誘導部13と、把持部11との間に位置している。さらに、本実施形態では、図3に示すように、固定部12は、糸誘導部13の挿抜方向を軸として見たときに、把持部11の留め具17の外側に設けられている。固定部12から見ると、留め具17は、糸誘導部13の挿抜方向を軸として見たときに、固定部12の内側に設けられている。図3に示すように、糸誘導部13の抜去方向側の端部は、固定部12に外側から押さえられて留め具17に固定されている。これにより、留め具17から糸誘導部13がより外れにくくなる。ただし、糸誘導部13の抜去方向側の端部は、固定部12に外側から押さえられて留め具17に固定されていなくても良い。
【0025】
本実施形態では、図2A及び図2Bに示すように、固定部12の外周には、挿抜方向に垂直な面(把持部11の鍔部14の挿入方向側の面)を底面とし、挿入方向に凸となる円錐面が形成されている。これにより、挿抜方向に垂直な方向の固定部12の大きさが、糸誘導部13側(挿入方向側)から把持部11側(抜去方向側)に向かうにしたがって大きくなる。なお、固定部12の糸誘導部13側(挿入方向側)の端部における挿抜方向に垂直な方向の固定部12の大きさ(D1)は、糸誘導部13が挿入される骨片の穿孔の直径(D)よりも小さく形成されている(D1<D)。また、固定部12の把持部11側(抜去方向側)の端部における挿抜方向に垂直な方向の固定部12の大きさ(D2)は、糸誘導部13が挿入される骨片の穿孔の直径(D)よりも大きく形成されている(D2>D)。これにより、糸誘導部13を骨片の穿孔に挿入した状態から糸通し器具10をさらに挿入方向に移動させたときに、固定部12の挿抜方向の所定位置(糸誘導部13側の端部から把持部11側の端部までの間の所定位置)で固定部12が骨片の穿孔に嵌まる(嵌合する)ことになる。これにより、固定部12を骨片の穿孔に挿入することで糸通し器具10を骨片に固定させることができる。なお、固定部12の外周面は、円錐面でなくても良く、固定部12の挿抜方向の所定位置で固定部12が骨片の穿孔に嵌まる(嵌合する)ことが可能であれば他の形状であっても良い。
【0026】
また、本実施形態では、図1図2Bに示すように、固定部12の外周には、雄ねじ部15が形成されている。以下では、雄ねじ部15を単に「ねじ」と呼ぶことがある。固定部12が挿抜方向の所定位置で骨片の穿孔に嵌まった(嵌合した)状態で、把持部11に回転力が付与されることで、固定部12が挿抜方向を軸として回転し、外周にねじが形成された固定部12が骨片の穿孔にねじ留めされることになる。これにより、固定部12を骨片の穿孔にねじ留めして固定することが可能である。したがって、糸通し器具10をより強固に骨片に固定させることができる。ただし、固定部12の外周に雄ねじ部15が形成されていなくても良い。
【0027】
糸誘導部13は、縫合糸を骨片の穿孔に通す際に縫合糸を誘導する部材である。糸誘導部13は、骨片2の穿孔3に挿入された状態で(後述する図5Bを参照)、縫合糸5が挿入されることで(後述する図5Cを参照)、縫合糸5を保持しつつ骨片2の外側(抜去方向側)に縫合糸5を誘導する(後述する図5Dを参照)。本実施形態の糸誘導部13は、一本の線状の部材を曲げて構成されている。図3に示すように、糸誘導部13の両端部は、把持部11の留め具17に固定されている。両端部が固定された糸誘導部13は、交差部18を形成しつつ一周するように曲げられることで、交差部18の挿入方向側で輪状部19が形成されている。輪状部19は縫合糸が挿入される部位である。交差部18を形成することで、輪状部19を幅方向に開いた状態で保つことができる。
【0028】
輪状部19の挿入方向の端部には、糸保持部16が形成されている。糸保持部16は、糸誘導部13を骨片の穿孔に挿入する際に最初に差し入れる部位である。また、糸保持部16は、骨片2の外側(抜去方向側)に縫合糸5を誘導する際に、輪状部19に挿入された縫合糸を保持する部位でもある。図1図2A及び図3に示すように、糸保持部16は、輪状部19の挿入方向側の端部において鋭角に折られて形成されている。これにより、糸誘導部13を骨片の穿孔に挿入する際に差し入れやすくなる。また、輪状部19に挿入され、糸保持部16に位置する縫合糸5は、幅方向の両側で糸誘導部13と摩擦し保持されることになる。ただし、糸保持部16は、骨片の穿孔に差し入れ、輪状部19に挿入された縫合糸を保持することができれば、輪状部19の挿入方向側の端部において鋭角に折られて形成されていなくても良い。
【0029】
輪状部19は、糸保持部16と交差部18とを結ぶ線を境にして幅方向の一方側(輪状部19を厚さ方向に見たときの右側)の右側部位13Aと、他方側(輪状部19を厚さ方向に見たときの左側)の左側部位13Bとで構成されている。右側部位13Aの挿抜方向の中間には、右側折れ部20Aが設けられている。また、左側部位13Bの挿抜方向の中間には、左側折れ部20Bが設けられている。右側折れ部20Aと左側折れ部20Bとは、輪状部19において折られて形成されている部位である。これにより、輪状部19は、糸保持部16及び交差部18を結ぶ線と、右側折れ部20A及び左側折れ部20Bを結ぶ線とがそれぞれ対角線となる菱形状に形成される。
【0030】
このため、輪状部19を糸保持部16から抜去方向に見たときに、右側部位13Aと左側部位13Bとは、右側折れ部20A(又は左側折れ部20B)に向かうにつれて互いに離間する向きになる。また、輪状部19を右側折れ部20A(又は左側折れ部20B)から抜去方向に見たときに、右側部位13Aと左側部位13Bとは、交差部18に向かうにつれて互いに近接する向きになる。逆に言うと、輪状部19を交差部18から挿入方向に見たときに、右側部位13Aと左側部位13Bとは、右側折れ部20A(又は左側折れ部20B)に向かうにつれて互いに離間する向きになる。また、輪状部19を右側折れ部20A(又は左側折れ部20B)から挿入方向に見たときに、右側部位13Aと左側部位13Bとは、糸保持部16に向かうにつれて互いに近接する向きになる。
【0031】
本実施形態では、輪状部19(糸誘導部13)は、右側折れ部20Aと左側折れ部20Bとが幅方向に近接及び離間するように弾性変形可能である。図1図3に示す状態の糸通し器具10は、右側折れ部20Aと左側折れ部20Bとが幅方向に離間した状態であり、このとき、「輪状部19が幅方向に開いた状態」と呼ぶことがある。輪状部19が幅方向に開いた状態では、輪状部19に縫合糸を挿入しやすくなっている。また、右側折れ部20Aと左側折れ部20Bとが幅方向に近接した状態(後述する図5Aの破線を参照)を「輪状部19が幅方向に閉じた状態」と呼ぶことがある。輪状部19が幅方向に閉じた状態では、輪状部19は挿抜方向に延びる線状に近い形状となり、骨片の穿孔に対して挿抜することが可能になる。
【0032】
<開頭手術の概要>
図4A図4Dは、開頭手術の手順の概要を示す説明図である。
【0033】
以下では、本実施形態の糸通し器具10の動作を説明する前に、開頭手術の概要を説明する。人間の頭部は、外側から皮膚、筋膜(腱膜)、頭蓋骨、硬膜、クモ膜などが脳を包んでいる。開頭手術は、これらを開けて脳を露出する手技である。このうち、頭蓋骨をあける作業においては、専用のドリルで頭蓋骨1に複数の孔を開け、これをつなぐ形で電気のこぎり等の器具で頭蓋骨1の一部である骨片2を切り取る(図4A参照)。これにより、頭蓋骨1に窓(骨窓)があけられることになる。なお、骨片2は、骨弁とも呼ばれることがある。また、以下では、骨片2のことを単に「頭蓋骨」と呼ぶことがある。骨片2を取り外すと、脳を覆う硬膜4があらわれ、これをハサミで切り開くことにより、クモ膜をかぶった脳の表面が現れる。
【0034】
図4B図4Dでは、治療が終了した後の、閉頭時の手順を示している。治療が終了すると、術者は硬膜4を縫合する。硬膜4はもともと頭蓋骨の内面(切り取る前の骨片2部分の内面)に癒着しているため、切り取った骨片2を元の位置に戻すと共に、図4B図4Dに示すテンティングを用いて、硬膜4を骨片2に密着させる。
【0035】
テンティングでは、術者は、まず、図4Bに示すように、骨片2に複数(ここでは、4個)の穿孔3を形成する。ただし、骨片2に形成する穿孔3は1つであっても良い。穿孔3の直径は、1.0mm~1.5mm程度である。なお、硬膜4には穿孔3の数と同数(ここでは、4本)の縫合糸5が引っ掛けられ、外側に延びている。そして、術者は、図4Cに示すように、縫合糸5を穿孔3にそれぞれ通す。また、図4Dに示すように、骨片2を元の位置(切り出した位置)に戻す。ここで、縫合糸5を骨片2の外側に引っ張ることで、硬膜4を骨片2側に吊り上げ、骨片2に密着させる。最後に、術者は、縫合糸5を結ぶ。なお、図4B図4Dでは、縫合糸5は、硬膜4の1か所から1本の縫合糸5が延び出ているが、硬膜4の1か所から2本以上の縫合糸5が延び出る場合もある。この場合、2本以上の縫合糸5を穿孔3に通すことになる。
【0036】
<動作>
図5A図5Dは、本実施形態の糸通し器具10の使用例を示す説明図である。本実施形態の糸通し器具10は、前述の図4Cに示す縫合糸5を穿孔3に通す際に用いられる。
【0037】
図5Aに示すように、術者は、まず、糸通し器具10の把持部11を手に持ち、糸誘導部13を骨片2の穿孔3に挿入させるために、図5Aに示す挿入方向に糸通し器具10を移動させる。糸誘導部13を穿孔3に挿入する前では、輪状部19が幅方向に開いた状態(右側折れ部20Aと左側折れ部20Bとが幅方向に離間した状態)である。術者が挿入方向に糸通し器具10を移動させると、糸保持部16が骨片2の穿孔3に最初に差し入れられる。糸保持部16は輪状部19の挿入方向側の端部において鋭角に折られて形成されているので、骨片2の穿孔3に差し入れやすくなっている。術者が挿入方向に糸通し器具10をさらに移動させると、穿孔3の幅方向の大きさに沿うように、右側折れ部20Aと左側折れ部20Bとが互いに近接する向きに輪状部19が弾性変形する。つまり、図5Aの破線に示すように、穿孔3の幅方向の大きさに沿うように、輪状部19が幅方向に閉じた状態となるように弾性変形する。輪状部19が幅方向に閉じた状態では、輪状部19は挿抜方向に延びる線状に近い形状となり、骨片2の穿孔3にさらに挿入することが可能になる。
【0038】
術者が挿入方向に糸通し器具10をさらに移動させ、輪状部19における穿孔3の位置が右側折れ部20A(又は左側折れ部20B)に達した後は、再び右側折れ部20Aと左側折れ部20Bとが互いに離間する向きに輪状部19が弾性変形(復元)する。輪状部19の交差部18が穿孔3に位置するまで糸通し器具10が挿入されると、再び輪状部19が幅方向に開いた状態となる。
【0039】
術者が挿入方向に糸通し器具10をさらに移動させると、図5Bに示すように、固定部12の挿抜方向の所定位置(糸誘導部13側の端部から把持部11側の端部までの間の所定位置)で固定部12が骨片の穿孔に嵌まる(嵌合する)。これにより、固定部12を骨片2の穿孔3に挿入することで糸通し器具10を骨片に固定させることができる。また、本実施形態では、固定部12の外周に雄ねじ部15が形成されているので、固定部12が挿抜方向の所定位置で骨片の穿孔に嵌まった(嵌合した)状態で、術者が把持部11に回転力が付与すると、固定部12が挿抜方向を軸として回転し、固定部12が骨片2の穿孔3にねじ留めされる。これにより、糸通し器具10をより強固に頭蓋骨に固定させることができる。
【0040】
本実施形態では、糸通し器具10と骨片2とが固定されたため、術者は骨片2を持ったまま、糸通し器具10の把持部11から手を放しても、糸通し器具10が骨片2から脱落することを抑制することができる。
【0041】
次に術者は、図5Cに示すように、糸誘導部13の輪状部19の間に縫合糸5を通す。その後に、図5Dに示すように、術者は固定部12の雄ねじ部15を穿孔3から外し、抜去方向に糸誘導部13を穿孔3から抜去する。糸誘導部13は糸保持部16が設けられているので、骨片2の外側(抜去方向側)に縫合糸5を誘導する際に、輪状部19に挿入された縫合糸を保持している。縫合糸5を保持しつつ骨片2の外側(抜去方向側)に縫合糸5を誘導されることになる。これにより、穿孔3に縫合糸5を通すことができる。
【0042】
以上のように、本実施形態では、糸通し器具10と骨片2とが固定部12により固定可能であるため、骨片2を持ったまま、図5Cに示す縫合糸5を糸誘導部13に保持させる動作と、図5Dに示す骨片2の穿孔3から糸通し器具を抜去する動作とを安定して行うことができる。仮に、糸通し器具10に固定部12が設けられていない場合(糸通し器具10と骨片2とが固定できない場合)、例えば、術者が糸誘導部13の輪状部19の間に縫合糸5を通す際、糸通し器具10が骨片2から脱落してしまう可能性がある。このため、一方の術者が骨片2を持ち、他方の術者が糸誘導部13の輪状部19の間に縫合糸5を通すなど、二人の術者が共同して作業を行う必要がある。しかし、本実施形態では、一人の術者でも、骨片2を持ったまま、縫合糸5を糸誘導部13に保持させる動作と、骨片2の穿孔3から糸通し器具を抜去する動作とを安定して行うことができる。
【0043】
<変形例>
図6は、固定部12の変形例を示す説明図である。
【0044】
本変形例では、固定部12は、挿入方向に把持部11から突出する針状に形成されている。これにより、固定部12を頭蓋骨1に突き刺すことで糸通し器具10を頭蓋骨1に固定させることができる。本変形例においても、糸通し器具10と骨片2とが固定部12により固定可能であるため、骨片2を持ったまま、図5Cに示す縫合糸5を糸誘導部13に保持させる動作と、図5Dに示す骨片2の穿孔3から糸通し器具を抜去する動作とを安定して行うことができる。
【0045】
<小括>
図1図3及び図6に示すように、術者に把持される把持部11と、縫合糸5を保持する糸保持部16を有する糸誘導部13であって、頭蓋骨(骨片2)に形成された穿孔3に挿抜可能な糸誘導部13と、糸誘導部13が穿孔3に挿入される方向に把持部11から突出するように設けられ、頭蓋骨(骨片2)に固定可能な固定部12とを有する。これにより、縫合糸5を糸通し器具10に保持させる動作と、骨片2の穿孔3に糸誘導部13(糸通し器具10)を挿抜する動作とを骨片を持ったまま安定して行うことができる。
【0046】
===その他===
前述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更・改良され得ると共に、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
1 頭蓋骨、2 骨片、3 穿孔、4 硬膜、5 縫合糸、
10 糸通し器具、11 把持部、11A 把持面、12 固定部、
13 糸誘導部、13A 右側部位、13B 左側部位、14 鍔部、
15 雄ねじ部、16 糸保持部、17 留め具、18 交差部、
19 輪状部、20A 右側折れ部、20B 左側折れ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6