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特許7546904歩行時転倒リスク評価装置および歩行時転倒リスク評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】歩行時転倒リスク評価装置および歩行時転倒リスク評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20240902BHJP
   G16H 20/00 20180101ALI20240902BHJP
【FI】
A61B5/11 200
G16H20/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020190620
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079814
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-08-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年1月26日に、佐久交流センター(長野県佐久市)で開催された「令和元年度佐久市健康長寿ブランド化推進事業 歩行計測による健康増進継続調査業務調査モニタ向け報告会」にて発明を公開 令和2年3月19日に、佐久市役所(長野県佐久市)で行われた「令和元年度佐久市健康長寿ブランド化推進事業 歩行計測による健康増進継続調査業務」にて発明を公開 令和2年10月10日から10月25日にWEBで開催された「2020(令和2)年日本転倒予防学会第7回学術集会」にて発明を公開
(73)【特許権者】
【識別番号】500020287
【氏名又は名称】マイクロストーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 典彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 恵也
(72)【発明者】
【氏名】野澤 秀隆
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-000199(JP,A)
【文献】特開2020-120807(JP,A)
【文献】特開平10-165395(JP,A)
【文献】国際公開第2017/065241(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/030781(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
A61B 10/00
G16H 10/00 - 80/00
A61H 3/00 - 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象者の少なくとも腰部と胸背部にモーションセンサを装着し、前記モーションセンサによって計測された前記計測対象者の歩行時において計測されたベース計測データと、前記ベース計測データの計測の前後いずれかにおいて予め設定した所定期間内における前記計測対象者の転倒経験の有無を示す転倒経験有無データ、ふらつきによる転倒経験の有無を示すふらつき転倒経験有無データ、つまずきによる転倒経験の有無を示すつまずき転倒経験有無データ、および、すべりによる転倒経験の有無を示すすべり転倒経験有無データがそれぞれコンピュータの記憶部に入力され、
前記コンピュータの演算部が、
前記ベース計測データに基づいて前記計測対象者の前記腰部と前記胸背部のそれぞれにおける平均動揺軌跡を算出し、前記平均動揺軌跡のデータを平均動揺軌跡データとして前記記憶部に記憶させる処理を、前記計測対象者のそれぞれにおいて繰り返し実行し、
前記演算部が、
前記腰部の前記平均動揺軌跡データおよび前記胸背部の前記平均動揺軌跡データを行列データにおける1行の直列データとする行列成分生成処理を前記計測対象者のそれぞれに対して行方向に繰り返し実行し、平均動揺軌跡行列データを生成する処理を実行し、
前記演算部が、
前記平均動揺軌跡行列データを主成分分析し、予め設定した所定累積寄与率になるまでの第1主成分から第N主成分(Nは2以上の自然数)までの範囲を使用主成分範囲として決定する処理を前記計測対象者のそれぞれにおいて繰り返し実行し、
前記演算部が、
前記ベース計測データに基づいて算出した、前記腰部の左右方向の振幅を計測した第1指標、前記腰部の上下方向の振幅を計測した第2指標、前記腰部の前後方向の振幅を計測した第3指標、前記腰部を平面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第4指標、前記腰部を背面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第5指標、前記腰部を側面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第6指標、前記胸背部の左右方向の振幅を計測した第7指標、前記胸背部の上下方向の振幅を計測した第8指標、前記胸背部の前後方向の振幅を計測した第9指標、前記胸背部を平面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第10指標、前記胸背部を背面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第11指標、前記胸背部を側面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第12指標、右足着地時から次の右足着地時までの所要時間の平均値である第13指標、左足着地時における前記腰部にかかる加速度を計測した第14指標、前記右足着地時における前記腰部にかかる加速度を計測した第15指標、前記胸背部に対する前記腰部の左右方向の動きの比である第16指標、前記胸背部に対する前記腰部の前後方向の動きの比である第17指標、前記腰部の前記平均動揺軌跡における曲率半径である第18指標、前記右足着地時と前記左足着地時における前記腰部の高さ位置の差である第19指標、前記腰部の前記平均動揺軌跡の左右対称性をあらわす第20指標、および、前記胸背部の前記平均動揺軌跡の左右対称性をあらわす第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分と、を説明変数とし、前記転倒経験有無データを目的変数として、転倒リスク推定モデルを作成し、前記転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理を実行し、
前記演算部が、
前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分を前記説明変数とし、前記ふらつき転倒経験有無データを前記目的変数として、ふらつき転倒リスク推定モデルを作成し、前記ふらつき転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理を実行し、
前記演算部が、
前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分を前記説明変数とし、前記つまずき転倒経験有無データを前記目的変数として、つまずき転倒リスク推定モデルを作成し、前記つまずき転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理を実行し、
前記演算部が、
前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分と、を前記説明変数とし、前記すべり転倒経験有無データを前記目的変数として、すべり転倒リスク推定モデルを作成し、前記すべり転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理を実行し、
前記演算部が、
少なくとも前記腰部と前記胸背部に前記モーションセンサを装着した転倒リスクの評価対象である被験者の歩行時において前記モーションセンサによって計測された被験者計測データを前記記憶部に記憶させ、
前記演算部が、
前記被験者計測データに基づいて、前記被験者の前記腰部と前記胸背部のそれぞれにおける被験者平均動揺軌跡を算出し、前記被験者平均動揺軌跡のデータを被験者平均動揺軌跡データとして前記記憶部に記憶させる処理を実行し、
前記演算部が、
前記腰部の前記被験者平均動揺軌跡データおよび前記胸背部の前記被験者平均動揺軌跡データを1行の行列データとする被験者平均動揺軌跡行列データを生成する処理を実行し、
前記演算部が、前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点を算出し、前記使用主成分範囲に基づいて、前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点における前記第1主成分から前記第N主成分までの範囲を被験者特徴量として決定する処理を実行し、
前記演算部が、
前記転倒リスク推定モデルの前記説明変数として、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分をそれぞれ代入した際に、前記転倒リスク推定モデルにより算出された転倒リスク評価値が予め設定した転倒リスク判断値以上になった場合には、前記コンピュータの出力部に前記被験者の転倒リスクがあることを出力させると共に、前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルにおけるそれぞれの前記説明変数に、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分を各々代入した際に、前記ふらつき転倒リスク推定モデルにより算出されたふらつき転倒リスク評価値、前記つまずき転倒リスク推定モデルにより算出されたつまずき転倒リスク評価値および前記すべり転倒リスク推定モデルにより算出されたすべり転倒リスク評価値のいずれかがそれぞれの評価値に対応し、予め設定されたふらつき転倒リスク判断値、つまずき転倒リスク判断値、すべり転倒リスク判断値以上になった場合、前記被験者に前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルのいずれかに対応する転倒リスクがあることを前記コンピュータの出力部に出力させる処理を実行し、
前記演算部が、
前記転倒リスク推定モデルの前記説明変数として、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分をそれぞれ代入した際に、前記転倒リスク推定モデルにより算出された前記転倒リスク評価値が前記転倒リスク判断値未満であった場合には、前記被験者に転倒リスクがないことを前記コンピュータの出力部に出力させる処理を実行することを特徴とする歩行時転倒リスク評価装置。
【請求項2】
前記計測対象者の前記転倒経験有無データ、前記ふらつき転倒経験有無データ、前記つまずき転倒経験有無データ、および、前記すべり転倒経験有無データは、いずれも前記ベース計測データの計測後における所定期間にわたって収集されたものであることを特徴とする請求項1記載の歩行時転倒リスク評価装置。
【請求項3】
前記使用主成分範囲は、前記第1主成分から第20主成分の範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の歩行時転倒リスク評価装置。
【請求項4】
前記演算部が、前記被験者平均動揺軌跡行列データの前記主成分得点を算出する際は、
前記平均動揺軌跡行列データを主成分分析した際に得られた固有ベクトルを前記被験者平均動揺軌跡行列データに乗じて算出していることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項記載の歩行時転倒リスク評価装置。
【請求項5】
前記転倒リスク推定モデル、前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルは、いずれもニューラルネットワークによる機械学習によって作成されていることを特徴とする請求項1~4のうちのいずれか一項記載の歩行時転倒リスク評価装置。
【請求項6】
計測対象者の少なくとも腰部と胸背部にモーションセンサを装着して前記モーションセンサによって計測された前記計測対象者の歩行時において計測されたベース計測データと、前記ベース計測データの計測の前後いずれかにおいて予め設定した所定期間内における前記計測対象者の転倒経験の有無を示す転倒経験有無データ、ふらつきによる転倒経験の有無を示すふらつき転倒経験有無データ、つまずきによる転倒経験の有無を示すつまずき転倒経験有無データ、および、すべりによる転倒経験の有無を示すすべり転倒経験有無データがそれぞれ記憶部に記憶されたコンピュータの演算部に、
前記計測対象者のそれぞれに対し、前記ベース計測データに基づいて前記計測対象者の前記腰部と前記胸背部のそれぞれにおける平均動揺軌跡を算出し、前記平均動揺軌跡のデータを平均動揺軌跡データとして前記記憶部に記憶させる処理、
前記腰部の前記平均動揺軌跡データおよび前記胸背部の前記平均動揺軌跡データを行列データにおける1行の直列データとする行列成分生成処理を前記計測対象者のそれぞれに対して行方向に繰り返し実行し、平均動揺軌跡行列データを生成する処理、
前記計測対象者のそれぞれに対し、前記平均動揺軌跡行列データを主成分分析し、予め設定した所定累積寄与率になるまでの第1主成分から第N主成分(Nは2以上の自然数)までの範囲を使用主成分範囲として決定する処理、
前記計測対象者のそれぞれに対し、前記ベース計測データに基づいて算出した、前記腰部の左右方向の振幅を計測した第1指標、前記腰部の上下方向の振幅を計測した第2指標、前記腰部の前後方向の振幅を計測した第3指標、前記腰部を平面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第4指標、前記腰部を背面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第5指標、前記腰部を側面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第6指標、前記胸背部の左右方向の振幅を計測した第7指標、前記胸背部の上下方向の振幅を計測した第8指標、前記胸背部の前後方向の振幅を計測した第9指標、前記胸背部を平面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第10指標、前記胸背部を背面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第11指標、前記胸背部を側面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第12指標、右足着地時から次の右足着地時までの所要時間の平均値である第13指標、左足着地時における前記腰部にかかる加速度を計測した第14指標、前記右足着地時における前記腰部にかかる加速度を計測した第15指標、前記胸背部に対する前記腰部の左右方向の動きの比である第16指標、前記胸背部に対する前記腰部の前後方向の動きの比である第17指標、前記腰部の前記平均動揺軌跡における曲率半径である第18指標、前記右足着地時と前記左足着地時における前記腰部の高さ位置の差である第19指標、前記腰部の前記平均動揺軌跡の左右対称性をあらわす第20指標、および、前記胸背部の前記平均動揺軌跡の左右対称性をあらわす第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分と、を説明変数とし、前記転倒経験有無データを目的変数として、転倒リスク推定モデルを作成し、前記転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理、
前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分を前記説明変数とし、前記ふらつき転倒経験有無データを前記目的変数として、ふらつき転倒リスク推定モデルを作成し、前記ふらつき転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理、
前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分を前記説明変数とし、前記つまずき転倒経験有無データを前記目的変数として、つまずき転倒リスク推定モデルを作成し、前記つまずき転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理、
前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分と、を前記説明変数とし、前記すべり転倒経験有無データを前記目的変数として、すべり転倒リスク推定モデルを作成し、前記すべり転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理、
をそれぞれ実行させた後、
少なくとも前記腰部と前記胸背部に前記モーションセンサを装着した転倒リスクの評価対象である被験者の歩行時において前記モーションセンサにより計測された被験者計測データを前記記憶部に記憶させる処理、
前記被験者計測データに基づいて、前記被験者の前記腰部と前記胸背部のそれぞれにおける被験者平均動揺軌跡を算出し、前記被験者平均動揺軌跡のデータを被験者平均動揺軌跡データとして前記記憶部に記憶させる処理、
前記腰部の前記被験者平均動揺軌跡データおよび前記胸背部の前記被験者平均動揺軌跡データを1行の行列データとする被験者平均動揺軌跡行列データを生成する処理、
前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点を算出し、前記使用主成分範囲に基づいて、前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分から前記第N主成分までの範囲を被験者特徴量として決定する処理、
前記転倒リスク推定モデルの前記説明変数として、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分を用いて、前記転倒リスク推定モデルにより算出された転倒リスク評価値が予め設定した転倒リスク判断値以上になった場合には、前記コンピュータの出力部に前記被験者の転倒リスクがあることを出力させると共に、前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルにおけるそれぞれの前記説明変数に、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分を各々代入した際に、前記ふらつき転倒リスク推定モデルにより算出されたふらつき転倒リスク評価値、前記つまずき転倒リスク推定モデルにより算出されたつまずき転倒リスク評価値および前記すべり転倒リスク推定モデルにより算出されたすべり転倒リスク評価値のいずれかがそれぞれの評価値に対応し、予め設定されたふらつき転倒リスク判断値、つまずき転倒リスク判断値、すべり転倒リスク判断値以上になった場合、前記被験者に前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルのいずれかに対応する転倒リスクがあることを前記コンピュータの出力部に出力させる処理、
前記転倒リスク推定モデルの前記説明変数として、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分をそれぞれ代入した際に、前記転倒リスク推定モデルにより算出された前記転倒リスク評価値が前記転倒リスク判断値未満であった場合には、前記被験者に転倒リスクがないことを前記コンピュータの出力部に出力させる処理、
をそれぞれ実行させることを特徴とする歩行時転倒リスク評価プログラム。
【請求項7】
前記計測対象者の前記転倒経験有無データ、前記ふらつき転倒経験有無データ、前記つまずき転倒経験有無データ、および、前記すべり転倒経験有無データは、いずれも前記ベース計測データの計測後における所定期間にわたって収集されたものであることを特徴とする請求項6記載の歩行時転倒リスク評価プログラム。
【請求項8】
前記使用主成分範囲は、前記第1主成分から第20主成分の範囲であることを特徴とする請求項6または7記載の歩行時転倒リスク評価プログラム。
【請求項9】
前記被験者平均動揺軌跡行列データの前記主成分得点を算出する際は、
前記平均動揺軌跡行列データを主成分分析した際に得られた固有ベクトルを前記被験者平均動揺軌跡行列データに乗じることにより算出させていることを特徴とする請求項6~8のうちのいずれか一項記載の歩行時転倒リスク評価プログラム。
【請求項10】
前記転倒リスク推定モデル、前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルは、いずれもニューラルネットワークによる機械学習によって作成させていることを特徴とする請求項6~9のうちのいずれか一項記載の歩行時転倒リスク評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歩行時転倒リスク評価装置および歩行時転倒リスク評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者が歩行中に転倒して負傷し、この負傷が原因となって高齢者が自立した健康的な生活を送ることが困難になるといったケースが多くみられる。大半の人は、自分自身の現時点における歩行状態がどのようなものであるのかについて把握していないことが多く、特に高齢者においては、自分自身の歩行状態を把握していないことが転倒の原因になっていることが予想される。そこで出願人は、特許文献1(特開2017-35449号公報)に開示されているように、被験者の歩行状態を容易に診断し、理想的な歩行状態に誘導することを可能にした歩行指導装置を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-35449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている歩行指導装置は、被験者の腰部および胸背部にモーションセンサMSを装着し、モーションセンサMSの計測結果に基づいて腰部および胸背部における動作状況を算出し、動作状況から腰部および胸背部の動揺軌跡をコンピュータに解析させることで、被験者の現在の歩行状態を理想的な歩容に誘導するための運動メニューを提示することが可能である。しかしながら、現時点の歩行状態から被験者の歩行時における転倒リスクを評価することはできておらず、被験者の歩行状態に基づいた歩行時の転倒リスクを評価することができる機能の実装が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明は、上述の要望に応えるためになされたものであって、その目的は次のとおりである。すなわち本発明は、計測対象者の腰部と胸背部にモーションセンサMSを装着し、計測対象者の歩行時における腰部と胸背部の平均動揺軌跡を算出し、平均動揺軌跡の3次元成分データである平均動揺軌跡データを主成分分析し、平均動揺軌跡データと所定範囲の主成分を説明変数とし、計測対象者の転倒歴データを目的変数として、転倒リスクの推定モデルを算出し、被験者の歩行時における腰部と胸背部の動きをモーションセンサにより計測し、被験者の歩行時における腰部と胸背部の平均動揺軌跡を算出することで、算出した推定モデルに基づいて被験者の歩行時における転倒リスクを評価することが可能な歩行時転倒リスク評価装置および歩行時転倒リスク評価プログラムを提供することにある。
【0006】
上述の課題を解決するため発明者が鋭意研究した結果、以下の構成に想到した。すなわち、本発明は、計測対象者の少なくとも腰部と胸背部にモーションセンサを装着し、前記モーションセンサによって計測された前記計測対象者の歩行時において計測されたベース計測データと、前記ベース計測データの計測の前後いずれかにおいて予め設定した所定期間内における前記計測対象者の転倒経験の有無を示す転倒経験有無データ、ふらつきによる転倒経験の有無を示すふらつき転倒経験有無データ、つまずきによる転倒経験の有無を示すつまずき転倒経験有無データ、および、すべりによる転倒経験の有無を示すすべり転倒経験有無データがそれぞれコンピュータの記憶部に入力され、前記コンピュータの演算部が、前記ベース計測データに基づいて前記計測対象者の前記腰部と前記胸背部のそれぞれにおける平均動揺軌跡を算出し、前記平均動揺軌跡のデータを平均動揺軌跡データとして前記記憶部に記憶させる処理を、前記計測対象者のそれぞれにおいて繰り返し実行し、前記演算部が、前記腰部の前記平均動揺軌跡データおよび前記胸背部の前記平均動揺軌跡データを行列データにおける1行の直列データとする行列成分生成処理を前記計測対象者のそれぞれに対して行方向に繰り返し実行し、平均動揺軌跡行列データを生成する処理を実行し、前記演算部が、前記平均動揺軌跡行列データを主成分分析し、予め設定した所定累積寄与率になるまでの第1主成分から第N主成分(Nは2以上の自然数)までの範囲を使用主成分範囲として決定する処理を前記計測対象者のそれぞれにおいて繰り返し実行し、前記演算部が、前記ベース計測データに基づいて算出した、前記腰部の左右方向の振幅を計測した第1指標、前記腰部の上下方向の振幅を計測した第2指標、前記腰部の前後方向の振幅を計測した第3指標、前記腰部を平面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第4指標、前記腰部を背面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第5指標、前記腰部を側面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第6指標、前記胸背部の左右方向の振幅を計測した第7指標、前記胸背部の上下方向の振幅を計測した第8指標、前記胸背部の前後方向の振幅を計測した第9指標、前記胸背部を平面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第10指標、前記胸背部を背面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第11指標、前記胸背部を側面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第12指標、右足着地時から次の右足着地時までの所要時間の平均値である第13指標、左足着地時における前記腰部にかかる加速度を計測した第14指標、前記右足着地時における前記腰部にかかる加速度を計測した第15指標、前記胸背部に対する前記腰部の左右方向の動きの比である第16指標、前記胸背部に対する前記腰部の前後方向の動きの比である第17指標、前記腰部の前記平均動揺軌跡における曲率半径である第18指標、前記右足着地時と前記左足着地時における前記腰部の高さ位置の差である第19指標、前記腰部の前記平均動揺軌跡の左右対称性をあらわす第20指標、および、前記胸背部の前記平均動揺軌跡の左右対称性をあらわす第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分と、を説明変数とし、前記転倒経験有無データを目的変数として、転倒リスク推定モデルを作成し、前記転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理を実行し、前記演算部が、前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分を前記説明変数とし、前記ふらつき転倒経験有無データを前記目的変数として、ふらつき転倒リスク推定モデルを作成し、前記ふらつき転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理を実行し、前記演算部が、前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分を前記説明変数とし、前記つまずき転倒経験有無データを前記目的変数として、つまずき転倒リスク推定モデルを作成し、前記つまずき転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理を実行し、前記演算部が、前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分と、を前記説明変数とし、前記すべり転倒経験有無データを前記目的変数として、すべり転倒リスク推定モデルを作成し、前記すべり転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理を実行し、前記演算部が、少なくとも前記腰部と前記胸背部に前記モーションセンサを装着した転倒リスクの評価対象である被験者の歩行時において前記モーションセンサによって計測された被験者計測データを前記記憶部に記憶させ、前記演算部が、前記被験者計測データに基づいて、前記被験者の前記腰部と前記胸背部のそれぞれにおける被験者平均動揺軌跡を算出し、前記被験者平均動揺軌跡のデータを被験者平均動揺軌跡データとして前記記憶部に記憶させる処理を実行し、前記演算部が、前記腰部の前記被験者平均動揺軌跡データおよび前記胸背部の前記被験者平均動揺軌跡データを1行の行列データとする被験者平均動揺軌跡行列データを生成する処理を実行し、前記演算部が、前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点を算出し、前記使用主成分範囲に基づいて、前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点における前記第1主成分から前記第N主成分までの範囲を被験者特徴量として決定する処理を実行し、前記演算部が、前記転倒リスク推定モデルの前記説明変数として、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分をそれぞれ代入した際に、前記転倒リスク推定モデルにより算出された転倒リスク評価値が予め設定した転倒リスク判断値以上になった場合には、前記コンピュータの出力部に前記被験者の転倒リスクがあることを出力させると共に、前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルにおけるそれぞれの前記説明変数に、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分を各々代入した際に、前記ふらつき転倒リスク推定モデルにより算出されたふらつき転倒リスク評価値、前記つまずき転倒リスク推定モデルにより算出されたつまずき転倒リスク評価値および前記すべり転倒リスク推定モデルにより算出されたすべり転倒リスク評価値のいずれかがそれぞれの評価値に対応し、予め設定されたふらつき転倒リスク判断値、つまずき転倒リスク判断値、すべり転倒リスク判断値以上になった場合、前記被験者に前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルのいずれかに対応する転倒リスクがあることを前記コンピュータの出力部に出力させる処理を実行し、前記演算部が、前記転倒リスク推定モデルの前記説明変数として、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分をそれぞれ代入した際に、前記転倒リスク推定モデルにより算出された前記転倒リスク評価値が前記転倒リスク判断値未満であった場合には、前記被験者に転倒リスクがないことを前記コンピュータの出力部に出力させる処理を実行することを特徴とする歩行時転倒リスク評価装置である。
【0007】
これにより、歩行状態の計測と同様にして被験者の腰部と胸背部の動きを計測し、計測データに基づいた複数の指標および主成分データを推定モデルに代入することで被験者の歩行時における転倒リスクの評価を行うことができる。
【0008】
また、前記計測対象者の前記転倒経験有無データ、前記ふらつき転倒経験有無データ、前記つまずき転倒経験有無データ、および、前記すべり転倒経験有無データは、いずれも前記ベース計測データの計測後における所定期間にわたって収集されたものであることが好ましい。
【0009】
これにより、計測対象者の腰部と胸背部の平均動揺軌跡データを収集した後における計測対象者の転倒履歴データが蓄積されるため、将来における歩行時の転倒リスクの評価に適している。
【0010】
また、前記使用主成分範囲は、前記第1主成分から第20主成分の範囲であることが好ましい。
【0011】
これにより、データ処理に用いるデータ数を少なくすることで、各種の転倒リスクの推定モデルの作成を容易に行うことができる。
【0012】
また、前記演算部が、前記被験者平均動揺軌跡行列データの前記主成分得点を算出する際は、前記平均動揺軌跡行列データを主成分分析した際に得られた固有ベクトルを前記被験者平均動揺軌跡行列データに乗じて算出していることが好ましい。
【0013】
これにより、被験者の歩行時において計測された計測データから短時間で主成分得点を算出することができる。
【0014】
また、前記転倒リスク推定モデル、前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルは、いずれもニューラルネットワークによる機械学習によって作成されていることが好ましい。
【0015】
これにより、各種の転倒リスク推定モデルの作成を効率的かつ正確に行うことができる。
【0016】
また、他の発明として、計測対象者の少なくとも腰部と胸背部にモーションセンサを装着して前記モーションセンサによって計測された前記計測対象者の歩行時において計測されたベース計測データと、前記ベース計測データの計測の前後いずれかにおいて予め設定した所定期間内における前記計測対象者の転倒経験の有無を示す転倒経験有無データ、ふらつきによる転倒経験の有無を示すふらつき転倒経験有無データ、つまずきによる転倒経験の有無を示すつまずき転倒経験有無データ、および、すべりによる転倒経験の有無を示すすべり転倒経験有無データがそれぞれ記憶部に記憶されたコンピュータの演算部に、前記計測対象者のそれぞれに対し、前記ベース計測データに基づいて前記計測対象者の前記腰部と前記胸背部のそれぞれにおける平均動揺軌跡を算出し、前記平均動揺軌跡のデータを平均動揺軌跡データとして前記記憶部に記憶させる処理、前記腰部の前記平均動揺軌跡データおよび前記胸背部の前記平均動揺軌跡データを行列データにおける1行の直列データとする行列成分生成処理を前記計測対象者のそれぞれに対して行方向に繰り返し実行し、平均動揺軌跡行列データを生成する処理、前記計測対象者のそれぞれに対し、前記平均動揺軌跡行列データを主成分分析し、予め設定した所定累積寄与率になるまでの第1主成分から第N主成分(Nは2以上の自然数)までの範囲を使用主成分範囲として決定する処理、前記計測対象者のそれぞれに対し、前記ベース計測データに基づいて算出した、前記腰部の左右方向の振幅を計測した第1指標、前記腰部の上下方向の振幅を計測した第2指標、前記腰部の前後方向の振幅を計測した第3指標、前記腰部を平面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第4指標、前記腰部を背面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第5指標、前記腰部を側面視した際における前記腰部の軌跡長を計測した第6指標、前記胸背部の左右方向の振幅を計測した第7指標、前記胸背部の上下方向の振幅を計測した第8指標、前記胸背部の前後方向の振幅を計測した第9指標、前記胸背部を平面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第10指標、前記胸背部を背面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第11指標、前記胸背部を側面視した際における前記胸背部の軌跡長を計測した第12指標、右足着地時から次の右足着地時までの所要時間の平均値である第13指標、左足着地時における前記腰部にかかる加速度を計測した第14指標、前記右足着地時における前記腰部にかかる加速度を計測した第15指標、前記胸背部に対する前記腰部の左右方向の動きの比である第16指標、前記胸背部に対する前記腰部の前後方向の動きの比である第17指標、前記腰部の前記平均動揺軌跡における曲率半径である第18指標、前記右足着地時と前記左足着地時における前記腰部の高さ位置の差である第19指標、前記腰部の前記平均動揺軌跡の左右対称性をあらわす第20指標、および、前記胸背部の前記平均動揺軌跡の左右対称性をあらわす第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分と、を説明変数とし、前記転倒経験有無データを目的変数として、転倒リスク推定モデルを作成し、前記転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理、前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分を前記説明変数とし、前記ふらつき転倒経験有無データを前記目的変数として、ふらつき転倒リスク推定モデルを作成し、前記ふらつき転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理、前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分を前記説明変数とし、前記つまずき転倒経験有無データを前記目的変数として、つまずき転倒リスク推定モデルを作成し、前記つまずき転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理、前記第1指標乃至前記第21指標と、前記使用主成分範囲における前記第1主成分乃至前記第N主成分と、を前記説明変数とし、前記すべり転倒経験有無データを前記目的変数として、すべり転倒リスク推定モデルを作成し、前記すべり転倒リスク推定モデルを前記記憶部に記憶させる処理、をそれぞれ実行させた後、少なくとも前記腰部と前記胸背部に前記モーションセンサを装着した転倒リスクの評価対象である被験者の歩行時において前記モーションセンサにより計測された被験者計測データを前記記憶部に記憶させる処理、前記被験者計測データに基づいて、前記被験者の前記腰部と前記胸背部のそれぞれにおける被験者平均動揺軌跡を算出し、前記被験者平均動揺軌跡のデータを被験者平均動揺軌跡データとして前記記憶部に記憶させる処理、前記腰部の前記被験者平均動揺軌跡データおよび前記胸背部の前記被験者平均動揺軌跡データを1行の行列データとする被験者平均動揺軌跡行列データを生成する処理、前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点を算出し、前記使用主成分範囲に基づいて、前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分から前記第N主成分までの範囲を被験者特徴量として決定する処理、前記転倒リスク推定モデルの前記説明変数として、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分を用いて、前記転倒リスク推定モデルにより算出された転倒リスク評価値が予め設定した転倒リスク判断値以上になった場合には、前記コンピュータの出力部に前記被験者の転倒リスクがあることを出力させると共に、前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルにおけるそれぞれの前記説明変数に、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分を各々代入した際に、前記ふらつき転倒リスク推定モデルにより算出されたふらつき転倒リスク評価値、前記つまずき転倒リスク推定モデルにより算出されたつまずき転倒リスク評価値および前記すべり転倒リスク推定モデルにより算出されたすべり転倒リスク評価値のいずれかがそれぞれの評価値に対応し、予め設定されたふらつき転倒リスク判断値、つまずき転倒リスク判断値、すべり転倒リスク判断値以上になった場合、前記被験者に前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルのいずれかに対応する転倒リスクがあることを前記コンピュータの出力部に出力させる処理、前記転倒リスク推定モデルの前記説明変数として、前記第1指標乃至前記第21指標と前記被験者特徴量における前記被験者平均動揺軌跡行列データの主成分得点の前記第1主成分乃至前記第N主成分をそれぞれ代入した際に、前記転倒リスク推定モデルにより算出された前記転倒リスク評価値が前記転倒リスク判断値未満であった場合には、前記被験者に転倒リスクがないことを前記コンピュータの出力部に出力させる処理、をそれぞれ実行させることを特徴とする歩行時転倒リスク評価プログラムがある。
【0017】
これにより、歩行状態の計測と同様にして被験者の腰部と胸背部の動きを計測し、計測データに基づいた複数の指標および主成分データを推定モデルに代入することで被験者の歩行時における転倒リスクの評価を行うことができる。
【0018】
また、前記計測対象者の前記転倒経験有無データ、前記ふらつき転倒経験有無データ、前記つまずき転倒経験有無データ、および、前記すべり転倒経験有無データは、いずれも前記ベース計測データの計測後における所定期間にわたって収集されたものであることが好ましい。
【0019】
これにより、計測対象者の腰部と胸背部の平均動揺軌跡データを収集した後における計測対象者の転倒履歴データが蓄積されるため、将来における歩行時の転倒リスクの評価に適している。
【0020】
また、前記使用主成分範囲は、前記第1主成分から第20主成分の範囲であることが好ましい。
【0021】
これにより、データ処理に用いるデータ数を少なくすることで、各種の転倒リスクの推定モデルの作成を容易に行うことができる。
【0022】
また、前記被験者平均動揺軌跡行列データの前記主成分得点を算出する際は、前記平均動揺軌跡行列データを主成分分析した際に得られた固有ベクトルを前記被験者平均動揺軌跡行列データに乗じることにより算出させていることが好ましい。
【0023】
これにより、被験者の歩行時において計測された計測データから短時間で主成分得点を算出することができる。
【0024】
また、前記転倒リスク推定モデル、前記ふらつき転倒リスク推定モデル、前記つまずき転倒リスク推定モデルおよび前記すべり転倒リスク推定モデルは、いずれもニューラルネットワークによる機械学習によって作成させていることが好ましい。
【0025】
これにより、各種の転倒リスク推定モデルの作成を効率的かつ正確に行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本開示における歩行時転倒リスク評価装置および歩行時転倒リスク評価プログラムの構成を採用することにより、歩行状態の計測と同様にして被験者の腰部と胸背部の動きをモーションセンサで計測し、計測データに基づいた複数の指標および主成分データを推定モデルに代入することで被験者の歩行時における転倒リスクの評価を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態における歩行時転倒リスク評価装置の概略構成図である。
図2】計測対象者および被験者の腰部と胸背部にモーションセンサを装着した状態を示す説明図である。
図3】本実施形態における歩行時転倒リスク評価装置の処理フロー図である。
図4図3の処理フロー図のつづきである。
図5図4の処理フロー図のつづきである。
図6】モーションセンサの計測データから算出した平均動揺軌跡を示す説明図と、平均動揺軌跡データの内訳を示す説明図である。
図7】平均動揺軌跡データを用いて平均動揺軌跡行列データを作成した状態を示す説明図である。
図8】平均動揺軌跡データの行成分に平均動揺軌跡行列データの固有ベクトルを乗じて平均動揺軌跡行列データの主成分得点を得た状態を示す説明図である。
図9】主成分得点から使用主成分範囲を抽出して特徴量を得た状態を示す説明図である。
図10】転倒リスク推定モデルの作成方法を示す説明図である。
図11】ふらつき転倒リスク推定モデル、つまずき転倒リスク推定モデルおよびすべり転倒リスク推定モデルの作成方法を示す説明図である。
図12】平均動揺軌跡データから算出された各指標の名称と各指標の具体的な内容を示す一覧図である。
図13】被験者平均動揺軌跡データから算出した指標と使用主成分範囲から抽出した主成分を推定モデルに代入し、各種の歩行時における転倒リスクの評価値を算出している説明図である。
図14】被験者計測データに基づいた被験者の転倒リスク等の出力画面例を示す説明図である。
図15】被験者計測データに基づいた被験者の転倒リスク等の出力画面例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明にかかる歩行時転倒リスク評価装置100の実施形態について説明を行う。図1に示すように本実施形態における歩行時転倒リスク評価装置100は、一般的なコンピュータにより構成することができる。具体的には、CPUに代表される演算部10、演算部10に歩行時転倒リスク評価装置100としての動作を実行させるための歩行時転倒リスク評価プログラムPGMや各種データ等が記憶可能な不揮発性記録媒体等に代表される記憶部20を有している。演算部10と記憶部20は内部バス30により接続されている。また、演算部10には、マウス、キーボードおよび無線通信手段に代表されるデータ入力部40およびディスプレーに代表される出力部50が内部バス30を介して接続されている。
【0029】
記憶部20には、図2に示すように複数の計測対象者200に対し少なくとも腰部YBと胸背部KBの2箇所にモーションセンサMSを装着し、計測対象者200の歩行時において計測された腰部YBおよび胸背部KBの計測データであるベース計測データBKDが複数記憶される(B-1)。モーションセンサMSが計測したベース計測データBKDは、データ入力部40を介して記憶部20に記憶させることができる。ここではX人(Xは自然数である。以下同じ)の計測対象者200に対して同様の処理を繰り返し行った。
【0030】
演算部10は、歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて記憶部20からベース計測データBKDを読み出しすると共に、図6に示すような腰部YBと胸背部KBの平均動揺軌跡HDKを算出(B-2)する処理を実行する。引き続き演算部10は、歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて算出した腰部YBおよび胸背部KBの平均動揺軌跡HDKのX成分(101成分)、Y成分(101成分)、Z成分(101成分)を平均動揺軌跡データHDKDとして算出(B-3)する処理を実行する。このようにして算出された腰部YBおよび胸背部KBの平均動揺軌跡データHDKDは、図6に示すように合計606成分になり、記憶部20に記憶される。
【0031】
次に演算部10は、歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて腰部YBおよび胸背部KBの平均動揺軌跡データHDKDの606成分を上述の記載順に計測対象者200一人当たり1行606列の直列データである行列成分GSの形式となるように結合させる処理(行列成分生成処理:B-4)を実行する。演算部10は、歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいてX人の計測対象者200に対して同様に1行606列の直列データを生成し、計測対象者200毎に行方向に配置することでX行606列からなる平均動揺軌跡行列データHDKGDを作成すると共に記憶部20に記憶させる処理(B-5)を実行する。
【0032】
次に演算部10は、歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて平均動揺軌跡行列データHDKGDに対して主成分分析を実行し、平均動揺軌跡行列データHDKGDの固有ベクトルKVを算出し、記憶部20に記憶させる処理(B-6)を実行する。次に演算部10は、歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、平均動揺軌跡データHDKDの606成分を1行606列にした行列成分GSに固有ベクトルKVを乗じて平均動揺軌跡データ主成分得点STを算出すると共に記憶部20に記憶させる処理(B-7)を実行する。続いて演算部10は、歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて平均動揺軌跡データ主成分得点STの第1主成分から第606主成分までの各寄与率を第1主成分の寄与率から順番に累積して累積寄与率RKRを算出すると共に記憶部20に記憶させ(B-8)、累積寄与率RKRが記憶部20に予め記憶されている所定累積寄与率SRKR以上であるか否かを判断(B-9)し、累積寄与率RKRが所定累積寄与率SRKR未満のとき(B-9のNo)は(B-8)を繰り返し実行する。なお、本実施形態における所定累積寄与率SRKRは95%を設定している。
【0033】
演算部10により累積寄与率RKRが所定累積寄与率SRKR以上になったことが判断される(B-9のYes)と、その時点における第1主成分から第N主成分(Nは2以上の自然数:以下同様)までを使用主成分範囲SSHとして決定すると共に記憶部20に記憶させる処理(B-10)を実行する。次に演算部10は、使用主成分範囲SSHに該当する平均動揺軌跡データ主成分得点STの第1主成分から第N主成分までを抽出したものを特徴量TRとして記憶部20に記憶させる処理(B-11)を実行する。本実施形態で設定した所定累積寄与率SRKRを95%とした場合、使用主成分範囲SSHは20となり、平均動揺軌跡データ主成分得点STの第1主成分から第20主成分までを抽出したものが特徴量TRになる。
【0034】
また、演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、記憶部20からベース計測データBKDまたは平均動揺軌跡データHDKDを読み出し、いずれかより図12に示すような第1指標S1乃至第21指標S21を算出すると共に、それぞれを記憶部20に記憶させる処理(B-12)を実行する。第1指標S1は、腰部YBの左右方向の振幅をあらわす数値データである。第2指標S2は、腰部YBの上下方向の振幅をあらわす数値データである。第3指標S3は、腰部YBの前後方向の振幅をあらわす数値データである。第4指標S4は、腰部YBを平面視した際における腰部YBの軌跡長をあらわす数値データである。第5指標S5は、腰部YBを背面視した際における腰部YBの軌跡長をあらわす数値データである。第6指標S6は、腰部YBを側面視(ここでは左側面視としているが、右側面視とすることもできる。以下同様)した際における腰部YBの軌跡長をあらわす数値データである。
【0035】
第7指標S7は、胸背部KBの左右方向の振幅をあらわす数値データである。第8指標S8は、胸背部KBの上下方向の振幅をあらわす数値データである。第9指標S9は、胸背部KBの前後方向の振幅をあらわす数値データである。第10指標S10は、胸背部KBを平面視した際における胸背部KBの軌跡長をあらわす数値データである。第11指標S11は、胸背部KBを背面視した際における胸背部KBの軌跡長をあらわす数値データである。第12指標S12は、胸背部KBを側面視した際における胸背部KBの軌跡長をあらわす数値データである。第13指標S13は、右足着地時から次の右足着地時までの所要時間の平均値をあらわす数値データである。第14指標S14は、左足着地時における腰部YBにかかる加速度をあらわす数値データである。第15指標S15は、右足着地時における腰部YBにかかる加速度をあらわす数値データである。
【0036】
第16指標S16は、胸背部KBに対する腰部YBの左右方向の動きの比を示す数値データである。第17指標S17は、胸背部KBに対する腰部YBの前後方向の動きの比を示す数値データである。第18指標S18は、腰部YBの平均動揺軌跡HDKにおける曲率半径の数値データである。第19指標S19は、右足着地時と左足着地時における腰部YBの高さ位置の差を示す数値データである。第20指標S20は、腰部YBの平均動揺軌跡HDKの左右対称性をあらわす数値データである。第21指標S21は、胸背部KBの平均動揺軌跡HDKの左右対称性をあらわす数値データである。
【0037】
また、記憶部20には、ベース計測データBKDを提供したX人の計測対象者200がベース計測データBKDを提供した後の予め設定した所要期間にわたって収集した計測対象者200の転倒の有無を示す転倒経験有無データTKD1、ふらつきによる転倒経験の有無を示すふらつき転倒経験有無データTKD2、つまずきによる転倒経験の有無を示すつまずき転倒経験有無データTKD3、および、すべりによる転倒経験の有無を示すすべり転倒経験有無データTKD4が記憶されている。ここでは、演算部10がデータ入力部40から入力された計測対象者200がベース計測データBKDを提供した後の6か月間にわたって収集された転倒経験有無データTKD1乃至すべり転倒経験有無データTKD4を記憶部20に記憶させる処理(B-13)を実行している。
【0038】
演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、X人の計測対象者200のそれぞれに対し、第1指標S1乃至第21指標S21と特徴量TRとを説明変数とし、転倒経験有無データTKD1を目的変数として、転倒リスク推定モデルSM1を生成し、転倒リスク推定モデルSM1を記憶部20に記憶させる処理(B-14)を実行する。ここでは、計測対象者200一人当たり41個の説明変数(転倒予測因子)が得られるので、41個のX倍の説明変数を有することになる。本実施形態においては、演算部10が歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、X人分の説明変数を用いてニューラルネットワークによる機械学習を行うことにより、41個の説明変数から目的変数(ここでは歩行時における転倒リスクの数値)が得られる多項式からなる転倒リスク推定モデルSM1を生成すると共に転倒リスク推定モデルSM1を記憶部20に記憶させる処理を実行している。
【0039】
続いて演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、計測対象者200のそれぞれに対し、第1指標S1乃至第21指標S21と特徴量TRとを説明変数とし、ふらつき転倒経験有無データTKD2を目的変数として、ふらつき転倒リスク推定モデルSM2を生成し、ふらつき転倒リスク推定モデルSM2を記憶部20に記憶させる処理(B-15)を実行する。ふらつき転倒リスク推定モデルSM2の生成手法は、転倒リスク推定モデルSM1の生成手法と同様にして行うことができる。すなわち、ふらつき転倒リスク推定モデルSM2は、41個の説明変数から目的変数(ここではふらつき転倒リスクの数値)が得られる多項式となる。
【0040】
続いて演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、計測対象者200のそれぞれに対し、第1指標S1乃至第21指標S21と特徴量TRとを説明変数とし、つまずき転倒経験有無データTKD3を目的変数として、つまずき転倒リスク推定モデルSM3を生成し、つまずき転倒リスク推定モデルSM3を記憶部20に記憶させる処理(B-16)を実行する。つまずき転倒リスク推定モデルSM3の生成手法は、転倒リスク推定モデルSM1の生成手法と同様にして行うことができる。すなわち、つまずき転倒リスク推定モデルSM3は、41個の説明変数から目的変数(ここではつまずき転倒リスクの数値)が得られる多項式となる。
【0041】
続いて演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、計測対象者200のそれぞれに対し、第1指標S1乃至第21指標S21と特徴量TRとを説明変数とし、すべり転倒経験有無データTKD4を目的変数として、すべり転倒リスク推定モデルSM4を生成し、すべり転倒リスク推定モデルSM4を記憶部20に記憶させる処理(B-17)を実行する。すべり転倒リスク推定モデルSM4の生成手法は、転倒リスク推定モデルSM1の生成手法と同様にして行うことができる。すなわち、すべり転倒リスク推定モデルSM4は、41個の説明変数から目的変数(ここではすべり転倒リスクの数値)が得られる多項式となる。
【0042】
そして演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、少なくとも腰部YBと胸背部KBにモーションセンサMSを装着した転倒リスクの評価対象者である被験者300の歩行時においてモーションセンサMSにより計測された計測データを被験者計測データHKDとして記憶部20に記憶させる処理(S-1)を実行する。
【0043】
つづいて演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、記憶部20から被験者計測データHKDを読み出しすると共に、図6に示すような腰部YBと胸背部KBの被験者平均動揺軌跡HHDKを算出する処理(S-2)を実行する。引き続き演算部10は、歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて算出した腰部YBおよび胸背部KBの被験者平均動揺軌跡HHDKの3次元成分であるX成分(101成分)、Y成分(101成分)、Z成分(101成分)を被験者平均動揺軌跡データHHDKDとして算出する処理(S-3)を実行する。このようにして算出された腰部YBおよび胸背部KBの被験者平均動揺軌跡データHHDKDは、図6(B)に示すように合計606成分になり、記憶部20に記憶される。
【0044】
次に演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、腰部YBおよび胸背部KBの被験者平均動揺軌跡データHHDKDの606成分を上述の記載順に直列に結合して1行606列の行列データ形式にした被験者平均動揺軌跡行列データHHDKGDを作成する。作成された被験者平均動揺軌跡行列データHHDKGDは、演算部10により記憶部20に記憶(S-4)される。
【0045】
次に演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、被験者平均動揺軌跡行列データHHDKGDに対し、先に算出した平均動揺軌跡行列データHDKGDの固有ベクトルKVを乗じて、被験者平均動揺軌跡行列データHHDKGDの主成分得点である被験者平均動揺軌跡データ主成分得点HSTを算出すると共に記憶部20に記憶させる処理(S-5)を実行する。続いて演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、予め決定した使用主成分範囲SSHに基づき被験者平均動揺軌跡データ主成分得点HSTの第1主成分から第20主成分までを抽出して被験者特徴量HTRを算出して記憶部20に記憶させる(S-6)。
【0046】
また、演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、記憶部20から被験者計測データHKDまたは被験者平均動揺軌跡データHHDKDを読み出し、いずれかより図12に示すような第1指標S1乃至第21指標S21を算出する処理(S-7)を実行し、それぞれを記憶部20に記憶させる処理を実行する。第1指標S1乃至第21指標S21の詳細は、計測対象者200により計測されたベース計測データBKDにおけるデータ処理についての説明と等しいため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0047】
演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、記憶部20から転倒リスク推定モデルSM1、ふらつき転倒リスク推定モデルSM2、つまずき転倒リスク推定モデルSM3、および、すべり転倒リスク推定モデルSM4をそれぞれ読み出しする。続いて演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、図13に示すように、被験者300の第1指標S1乃至第21指標S21と被験者特徴量HTRを転倒リスク推定モデルSM1に代入して被験者300の転倒リスク評価値R1を算出し、算出した転倒リスク評価値R1を記憶部20に記憶させる処理(S-8)を実行する。そして演算部10は、転倒リスク評価値R1と記憶部20に予め記憶されている転倒リスク判断値J1との比較(S-9)を行い、転倒リスク評価値R1が転倒リスク判断値J1以上であるとき(S-9のYes)は、出力部50に被験者300に転倒リスクがある旨を表示する処理(S-10)を実行する。
【0048】
以上に引き続き演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、第1指標S1乃至第21指標S21と被験者特徴量HTRを、ふらつき転倒リスク推定モデルSM2、つまずき転倒リスク推定モデルSM3、および、すべり転倒リスク推定モデルSM4のそれぞれに代入し、ふらつき転倒リスク評価値R2、つまずき転倒リスク評価値R3、および、すべり転倒リスク評価値R4をそれぞれ算出すると共に記憶部20に記憶させる処理(S-11)を実行する。
【0049】
そして演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、ふらつき転倒リスク評価値R2と記憶部20に予め記憶されているふらつき転倒リスク判断値J2を比較(S-12)し、ふらつき転倒リスク評価値R2がふらつき転倒リスク判断値J2以上であるとき(S-12のYes)は、演算部10が被験者300にふらつき転倒リスクがある旨を出力部50に出力させる処理(S-13)を実行する。演算部10により、ふらつき転倒リスク評価値R2がふらつき転倒リスク判断値J2未満であるとき(S-12のNo)は(S-13)の次の処理に進む。次に演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、つまずき転倒リスク評価値R3がつまずき転倒リスク判断値J3を比較(S-14)し、つまずき転倒リスク評価値R3がつまずき転倒リスク判断値J3以上であるとき(S-14のYes)は、演算部10が被験者300につまずき転倒リスクがある旨を出力部50に出力させる処理(S-15)を実行する。演算部10により、つまずき転倒リスク評価値R3がつまずき転倒リスク判断値J3未満であるとき(S-14のNo)は(S-15)の次の処理に進む。
【0050】
そして、演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、すべり転倒リスク評価値R4とすべり転倒リスク判断値J4を比較(S-16)し、すべり転倒リスク評価値R4がすべり転倒リスク判断値J4以上であるとき(S-16のYes)は、演算部10が被験者300にすべり転倒リスクがある旨を出力部50に出力させる処理(S-17)を実行する。すべり転倒リスク評価値R4がすべり転倒リスク判断値J4未満であると演算部10により判断されたとき(S-16のNo)は、演算部10は歩行時転倒リスク評価における処理を終了させる(END)。
【0051】
なお、転倒リスク評価値R1が転倒リスク判断値J1以上であるときは、ふらつき転倒リスク評価値R2、つまずき転倒リスク評価値R3、および、すべり転倒リスク評価値R4の少なくとも1つは、ふらつき転倒リスク判断値J2、つまずき転倒リスク判断値J3、および、すべり転倒リスク判断値J4以上になる。
【0052】
また、演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、転倒リスク評価値R1が転倒リスク判断値J1未満であると判断したとき(S-9のNo)には、出力部50であるモニタに、被験者300には現時点では転倒リスクがない旨を出力させる処理(S-18)を実行して歩行時転倒リスク評価における処理を終了する(END)。
【0053】
さらに演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、被験者300の転倒リスク評価値R1が転倒リスク判断値J1未満であった場合、被験者300の転倒リスク評価値R1が転倒リスク判断値J1以上であった場合のいずれにおいても、次の処理を追加実行してもよい。演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、図14に示すように、転倒リスク評価値R1、ふらつき転倒リスク評価値R2、つまずき転倒リスク評価値R3、および、すべり転倒リスク評価値R4の各数値を合計して総転倒リスク評価値ΣRを算出し、算出した総転倒リスク評価値ΣRと予め記憶部20に記憶させてある段階評価値とを比較して、被験者300の転倒リスクを『安心』、『やや安心』、『やや心配』および『心配』の4段階評価を出力部50に出力させる処理を実行してもよい。
【0054】
また、図14に出力切替ボタン(図示はせず)を設ければ、使用者が出力切替ボタンをクリックすると、演算部10が歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、出力部50への出力画面を図15に示す画面に切り替える処理を実行させることもできる。図15の上部には被験者300の属性を示す被験者属性データHZDが表示されている。被験者属性データHZDは左から順に、データ名称、性別、年齢、転倒歴の有無および所属グループが表示されている。図15の中段左側部分には、被験者計測データHKDから算出した被験者300の歩行特徴指標と、過去に蓄積したベース計測データBKDに基づくデータベースとを比較し、上体のふらつき、筋活動の連携、動きの滑らかさ、支持性の左右差、腰の動きの左右差および背中の動きの左右差の項目に対する被験者300の歩行特徴指標のデータベースに対する相対評価(偏差値)を示すレーダーチャートRCが表示されている。
【0055】
また、図15の中段右側部分には、被験者300の総転倒リスク評価値ΣRと転倒リスクが表示されている。さらに図15の下段左側部分には、被験者300を被験者300の左横、後方および頭上から臨んだ被験者平均動揺軌跡HHDKが出力されている。さらにまた図15の下段右側部分には、縦軸に腰の動きの左右対称性を取り、横軸に年齢を取ったグラフGRPが表示されている。グラフGRPにおける線ZTはデータベース全体における年代平均を示し、線GRは被験者300の所属グループにおける年代平均を示している。プロットされた点は被験者300(本人)のデータを示している。被験者300は図14に加えて図15を参照することで、データベースや被験者300の所属グループにおける被験者300(本人)の現状を客観的に把握することができる。なお、図15においては、グラフGRPの縦軸に腰の動きの左右対称性を取った形態について説明しているが、縦軸にレーダーチャートRCの各項目や転倒リスク(ふらつき転倒リスク、つまずき転倒リスクおよびすべり転倒リスクとすることもできる)を取ったグラフにすることもできる。
【0056】
以上により、モーションセンサMSにより計測された被験者計測データHKDから現時点における被験者300の歩行時における転倒リスクの有無の評価ができる。また、歩行時における転倒リスクがあると評価された場合には、その転倒リスクが、ふらつき転倒リスク、つまずき転倒リスク、および、すべり転倒リスクのいずれかに該当するかについても評価することができる点で好都合である。そして、演算部10は歩行時転倒リスク評価プログラムPGMに基づいて、被験者300にふらつき転倒リスク、つまずき転倒リスク、および、すべり転倒リスクがあると評価された(図14内のいずれかの該当リスク表示GRHが点灯等した)とき、記憶部20に予め記憶されているそれぞれの転倒リスクに対応する歩行改善体操画像KTGを出力部50に出力する処理を実行することもできる。これにより、被験者300に対し、歩行時の転倒リスクを低減させるための施策を被験者300に提案することができる。出力部50への歩行改善体操画像KTGの出力は、静止画像のみではなく動画を出力させることも可能である。
【0057】
引き続き他の被験者300の歩行時における転倒リスクの評価を行う場合には、転倒リスク推定モデルSM1、ふらつき転倒リスク推定モデルSM2、つまずき転倒リスク推定モデルSM3、および、すべり転倒リスク推定モデルSM4は、既に記憶部20に記憶されているので、先に説明した被験者300と同様の被験者計測データHKDのデータ処理手順を演算部10に実行させれば、他の被験者300に対する歩行時における転倒リスクの有無の評価、転倒リスクがあると評価された場合には、そのリスクがふらつき転倒リスク、つまずき転倒リスク、および、すべり転倒リスクのいずれかに該当するのかについての出力部50への出力を先の被験者300と同様におこなうことができる。
【0058】
また、それぞれの被験者300の一連のデータを記憶部20に個別の被験者300に対応させた状態で記憶させておき、後に特定の被験者300の被験者計測データHKDの計測および演算部10による一連のデータ処理を上述の内容で実行し、以前の評価結果と今回の評価結果をリスクの推移RTとして同時に出力部50に出力させる処理を実行させてもよい。このような処理を演算部10に実行させることで、特定の被験者300の歩行状態の改善状況を時系列に沿って確認することができ、継続的に被験者300に歩行時における転倒リスクが少なくなるような歩行への改善を促すことができる点で好都合である。
【0059】
以上に本実施形態における歩行時転倒リスク評価装置100について説明したが、本発明の技術的範囲は以上の実施形態に限定されるものではない。例えば、以上の実施形態においては、計測対象者200と被験者300は腰部YBと胸背部KBの2箇所にモーションセンサMSを装着して歩行時におけるベース計測データBKDを収集しているが、この形態に限定されるものではない。計測対象者200と被験者300の腰部YBと胸背部KBの他に第7頸椎(いわゆる隆椎)にモーションセンサMSを装着して歩行時におけるベース計測データBKDを収集する形態を採用することもできる。第7頸椎のように身体における位置が特定しやすい部位を選択することが重要である。
【0060】
また、以上の実施形態においては、被験者300の将来における転倒リスクの評価を正確に行うため、各転倒リスク推定モデル(転倒リスク推定モデルSM1乃至すべり転倒リスク推定モデルSM4以下同様)を生成する際においては、計測対象者200によるベース計測データBKDを計測した後の6か月間にわたって計測対象者200の転倒経験有無データTKD1、ふらつき転倒経験有無データTKD2、つまずき転倒経験有無データTKD3、および、すべり転倒経験有無データTKD4を収集しているが、これらデータの収集期間は6か月に限定されるものではなく、本実施形態とは異なる期間であってもよい。
【0061】
また、被験者300の潜在的な転倒リスクを評価するためであれば、ベース計測データBKDの計測前の所要期間にわたって計測対象者200の転倒経験有無データTKD1、ふらつき転倒経験有無データTKD2、つまずき転倒経験有無データTKD3、および、すべり転倒経験有無データTKD4を収集してもよい。このように被験者300の転倒リスクを評価するための転倒リスク推定モデルの生成にあたっては、計測対象者200の転倒経験有無データTKD1、ふらつき転倒経験有無データTKD2、つまずき転倒経験有無データTKD3、および、すべり転倒経験有無データTKD4の収集は、ベース計測データBKDの計測の前後いずれであってもよく、収集のための所定期間も特に限定されるものではない。また、計測対象者200の転倒経験有無データTKD1、ふらつき転倒経験有無データTKD2、つまずき転倒経験有無データTKD3、および、すべり転倒経験有無データTKD4の収集は、これらの計測の前後の所要期間にわたって行うようにしてもよい。
【0062】
この形態を採用した場合、かつ、被験者300の被験者計測データHKDの計測後に被験者300の転倒経験有無データTKD1、ふらつき転倒経験有無データTKD2、つまずき転倒経験有無データTKD3、および、すべり転倒経験有無データTKD4を収集し、コンピュータの記憶部20に記憶させてある計測対象者200の被験者計測データHKDの計測後に被験者300の転倒経験有無データTKD1、ふらつき転倒経験有無データTKD2、つまずき転倒経験有無データTKD3、および、すべり転倒経験有無データTKD4に統合することができる場合、当該被験者300を計測対象者200の一部に含める処理を実行し、転倒リスク推定モデルSM1、ふらつき転倒リスク推定モデルSM2、つまずき転倒リスク推定モデルSM3、および、すべり転倒リスク推定モデルSM4を生成する処理を被験者300が増える毎に繰り返し実行すれば、転倒リスク推定モデルSM1、ふらつき転倒リスク推定モデルSM2、つまずき転倒リスク推定モデルSM3、および、すべり転倒リスク推定モデルSM4の推定精度を高めることができる。
【0063】
また、以上の実施形態においては、所定累積寄与率SRKRを95%に設定し、使用主成分範囲SSH(特徴量TR)が第1主成分から第20主成分の範囲になっているが、使用主成分範囲SSH(特徴量TR)は以上の範囲に限定されるものではない。予め設定した所定累積寄与率SRKRにより、使用主成分範囲SSH(特徴量TR)の範囲は第1主成分から第20主成分の範囲ではなく、第1主成分から第18主成分までの範囲や第1主成分から第23主成分までの範囲といった他の範囲になることもある。所定累積寄与率SRKRは特に限定されるものではないが、90%以上に設定することがそれぞれの転倒リスク推定モデルの推定精度を確保するうえで好ましい。
【0064】
また、以上の実施形態においては、転倒リスク推定モデルSM1、ふらつき転倒リスク推定モデルSM2、つまずき転倒リスク推定モデルSM3、および、すべり転倒リスク推定モデルSM4を生成する際にニューラルネットワークによる機械学習の手法を用いているが、それぞれの転倒リスク推定モデルの生成手法はこの手法に限定されるものではなく、他の公知の手法を適宜採用することもできる。
【0065】
さらに、以上の実施形態においては、ベース計測データBKDの計測およびベース計測データBKDの記憶部20に記憶させる処理(B-1)乃至すべり転倒リスク推定モデルSM4の生成およびすべり転倒リスク推定モデルSM4を記憶部20へ記憶させる処理(B-17)を演算部10に実行させた後、引き続いて演算部10に被験者計測データHKDの計測および記憶部20への被験者計測データHKDを記憶させる処理(S-1)乃至被験者300のすべり転倒リスクがある旨を出力部50に出力させる処理(S-18)または被験者300に現時点では転倒リスクがない旨を出力部50に出力させる処理(S-19)を実行させているが、この形態に限定されるものではない。
【0066】
具体的には、歩行時転倒リスク評価装置100の記憶部20に予め演算部10にベース計測データBKDの計測およびベース計測データBKDの記憶部20に記憶させる処理(B-1)乃至すべり転倒リスク推定モデルSM4の生成およびすべり転倒リスク推定モデルSM4を記憶部20へ記憶させる処理(B-17)を演算部10に実行させる歩行時転倒リスク評価プログラムPGMを予め記憶させておき、演算部10に被験者計測データHKDの計測および記憶部20への被験者計測データHKDを記憶させる処理(S-1)乃至被験者300のすべり転倒リスクがある旨を出力部50に出力させる処理(S-18)または被験者300に現時点では転倒リスクがない旨を出力部50に出力させる処理(S-19)を実行させる形態を採用することもできる。また、歩行時転倒リスク評価プログラムPGMをコンピュータに読み取り可能な状態で記録した記録媒体を配布する形態や、ネットワークを通じて歩行時転倒リスク評価プログラムPGMを配信可能にした形態を採用することもできる。
【0067】
そして以上に説明した変形例の他、実施形態において説明した変形例等を適宜組み合わせた形態を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 演算部
20 記憶部
30 内部バス
40 データ入力部
50 出力部
100 歩行時転倒リスク評価装置
200 計測対象者
300 被験者
BKD ベース計測データ
GRH 該当リスク表示
GS 行列成分
HDK 平均動揺軌跡
HDKD 平均動揺軌跡データ
HDKGD 平均動揺軌跡行列データ
HHDK 被験者平均動揺軌跡
HHDKD 被験者平均動揺軌跡データ
HHDKGD 被験者平均動揺軌跡行列データ
HKD 被験者計測データ
HST 被験者平均動揺軌跡データ主成分得点
HTR 被験者特徴量
J1 転倒リスク判断値
J2 ふらつき転倒リスク判断値
J3 つまずき転倒リスク判断値
J4 すべり転倒リスク判断値
KB 胸背部
KV 固有ベクトル
KTG 歩行改善体操画像
MS モーションセンサ
PGM 歩行時転倒リスク評価プログラム
R1 転倒リスク評価値
R2 ふらつき転倒リスク評価値
R3 つまずき転倒リスク評価値
R4 すべり転倒リスク評価値
RKR 累積寄与率
RT リスクの推移
SM1 転倒リスク推定モデル
SM2 ふらつき転倒リスク推定モデル
SM3 つまずき転倒リスク推定モデル
SM4 すべり転倒リスク推定モデル
SRKR 所定累積寄与率
SSH 使用主成分範囲
ST 平均動揺軌跡データ主成分得点
TKD1 転倒経験有無データ
TKD2 ふらつき転倒経験有無データ
TKD3 つまずき転倒経験有無データ
TKD4 すべり転倒経験有無データ
TR 特徴量
YB 腰部
ΣR 総転倒リスク評価値
図1
図2
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図11
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